(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118663
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】気泡安定剤
(51)【国際特許分類】
A21D 2/16 20060101AFI20240826BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240826BHJP
【FI】
A21D2/16
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025065
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一哉
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB05
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK47
4B032DL02
4B032DP02
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明は、固体脂を配合したケーキ生地中の気泡の安定性を向上させるケーキ生地用の気泡安定剤を提供することを目的とする。
【解決手段】固体脂を0.1質量%以上含有するケーキ生地、に用いられる気泡安定剤であって、プロピレングリコールステアリン酸エステル及びソルビタン飽和脂肪酸エステルを含有する気泡安定剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体脂を0.1質量%以上含有するケーキ生地、に用いられる気泡安定剤であって、プロピレングリコールステアリン酸エステル及びソルビタン飽和脂肪酸エステルを含有する気泡安定剤。
【請求項2】
さらに、グリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項1に記載の気泡安定剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポンジケーキ等のケーキ生地の製造にあたっては、原料に使用する卵の起泡力を利用した方法として、全卵を泡立てた後に小麦粉と合わせる共立て法、卵黄と卵白を別々に泡立てた後に小麦粉と合わせる別立て法等の製造方法を用いることが主流であった。しかし、これらの製造方法は、工業的な大量生産には向いておらず、近年では、食品用乳化剤等を用いた起泡剤とその他ケーキ原料を混合した後に起泡させてケーキ生地を製造するオールインミックス法が主流となっている。
一方、固体脂は液体油と比べ、消泡作用が高いため、バターやマーガリン等の固体脂を配合したケーキ生地をオールインミックス法で製造すると、起泡剤や卵等の起泡力により生成した気泡が安定せず、ケーキ生地の比重が下がり難い、焼成後のケーキのボリューム感に乏しい、といった課題を有している。また、固体脂を配合したケーキ生地の製造には、固体脂と砂糖を泡立てた後に全卵を混合、攪拌し、最後に小麦粉と合わせるシュガーバッター法を用いる方法もあるが、工業的な大量生産には必ずしも向いているとはいえないのが現状である。そのため、固体脂を配合したケーキ生地中の気泡を安定化させる技術が求められている。
【0003】
ケーキ生地の気泡の安定性に関する技術としては、例えば、油脂と食品用乳化剤を含有するショートニングであって、前記ショートニング100質量%中、(a)グリセリン乳酸飽和脂肪酸エステル及び/又はグリセリン酢酸飽和脂肪酸エステル、(b)ソルビタン飽和脂肪酸エステル、(c)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル及び(d)レシチンをそれぞれ所定量含有することを特徴とするケーキ用流動状ショートニング(特許文献1)、ゲル化性テストで200cP以上の粘度を示すペクチンを含有し、実質的に乳化剤を含有しないことを特徴とするケーキ生地用気泡安定剤(特許文献2)、(a)カゼインナトリウム及び(b)DE値が7~11である分岐デキストリンを含有する水中油型乳化組成物であることを特徴とするケーキ類用品質改良剤(特許文献3)等が開示されている。
【0004】
しかし、これらの技術は、固体脂をケーキ生地に配合した場合の課題解決に着目したものではなく、ケーキ生地の気泡安定性効果は必ずしも十分とはいえない。そのため、固体脂を配合したケーキ生地中の気泡を安定化させる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-236345号公報
【特許文献2】特開2019-208472号公報
【特許文献3】特開2021-13362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固体脂を配合したケーキ生地中の気泡の安定性を向上させるケーキ生地用の気泡安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、固体脂を配合するケーキ生地にプロピレングリコールステアリン酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステルを添加することで、前記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)固体脂を0.1質量%以上含有するケーキ生地、に用いられる気泡安定剤であって、プロピレングリコールステアリン酸エステル及びソルビタン飽和脂肪酸エステルを含有する気泡安定剤、
(2)さらに、グリセリン脂肪酸エステルを含有する、(1)に記載の気泡安定剤、
から成っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気泡安定剤は、固体脂を含有するケーキ生地中の気泡の安定性を向上させることができる。前記ケーキ生地を焼成、スチーム等の加熱処理を施して製造したケーキは、ボリュームに優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の気泡安定剤に用いられるプロピレングリコールステアリン酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸とのエステルであるプロピレングリコール脂肪酸エステルのうち、主要構成脂肪酸がステアリン酸であるものをいう。主要構成脂肪酸がステアリン酸であるものとは、プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸100質量%中に、ステアリン酸を好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上占めるプロピレングリコール脂肪酸エステルをいい、残部にその他の脂肪酸を含んでもよい。プロピレングリコールステアリン酸エステルは、プロピレングリコールとステアリン酸とのエステル化反応、プロピレングリコールと動植物油脂等とのエステル交換反応等自体公知の方法で製造される。プロピレングリコールステアリン酸エステルはモノエステル体、ジエステル体のいずれであってもよく、あるいはそれらの混合物であってもよい。
【0011】
プロピレングリコールステアリン酸エステルとしては、リケマールPS-100(商品名;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0012】
本発明の気泡安定剤に用いられるソルビタン飽和脂肪酸エステルは、ソルビタン又はソルビトールと飽和脂肪酸のエステルであり、ソルビタン又はソルビトールと飽和脂肪酸とのエステル化反応、ソルビタン又はソルビトールと動植物油脂等とのエステル交換反応等自体公知の方法により製造される。前記エステルは、モノエステル体、ジエステル体、トリエステル体等のいずれであってもよく、あるいはそれらの混合物であってもよい。
【0013】
本発明の気泡安定剤に用いられるソルビタン飽和脂肪酸エステルを構成する飽和脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする飽和脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の飽和脂肪酸を挙げることができる。炭素数6~24の飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等を挙げることができる。これらの中でも、炭素数12~22の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16~22の飽和脂肪酸がより好ましく、炭素数18~22の飽和脂肪酸がさらに好ましい。ソルビタン飽和脂肪酸エステルは、これら飽和脂肪酸の1種類のみを構成飽和脂肪酸とするものであっても、任意の2種類以上を構成飽和脂肪酸とするものであってもよい。
【0014】
ソルビタン飽和脂肪酸エステルとしては、ポエムS-65V(商品名;ソルビタントリステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムS-60V(商品名;ソルビタンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムB-150(商品名;ソルビタントリベヘン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0015】
本発明の気泡安定剤には、さらにグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。本発明の気泡安定剤に用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステル(つまり、モノグリセリン脂肪酸エステル)であり、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、グリセリンと動植物油脂等とのエステル交換反応等、自体公知の方法で製造される。前記エステルは、モノエステル体、ジエステル体のいずれであってよく、あるいはそれらの混合物であってもよいが、モノエステル体含有量が、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の気泡安定剤に用いられるグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸を挙げることができる。炭素数6~24の飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等を挙げることができる。炭素数6~24の不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸等を挙げることができる。これらの中でも、炭素数12~22の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16~22の飽和脂肪酸がより好ましい。グリセリン脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種類のみを構成脂肪酸とするものであっても、任意の2種類以上を構成脂肪酸とするものであってもよい。
【0017】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、エマルジーP-100(商品名;主な構成脂肪酸 ステアリン酸及びパルミチン酸;モノエステル体含有量約95質量%;理研ビタミン社製)、エマルジーMH(商品名;主な構成脂肪酸 ステアリン酸及びパルミチン酸;モノエステル体含有量約95質量%;理研ビタミン社製)、ポエムB-100(商品名;主な構成脂肪酸:ベヘン酸;モノエステル体含有量約90質量%;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
本発明の気泡安定剤は、粉末状、顆粒状、液状、ペースト状、半固形状等その形態に特に制限はないが、固体脂を含有するケーキ生地への分散性の点で、液状、ペースト状、半固形状であることが好ましい。
【0019】
本発明の気泡安定剤に含有するプロピレングリコールステアリン酸エステルは、2~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明の気泡安定剤に含有するソルビタン飽和脂肪酸エステルは、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0021】
本発明の気泡安定剤に含有するグリセリン脂肪酸エステルは、0.5~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましく、3~18質量%がさらに好ましい。
【0022】
本発明の気泡安定剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の成分を含有させてもよい。このような成分としては、油脂、多価アルコール、澱粉、タンパク質、安定剤、pH調整剤、食品用乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料、水等を挙げることができる。
【0023】
油脂としては、植物油脂、動物油脂、加工油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。植物油脂としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油、コーン油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油等を挙げることができる。動物油脂としては、豚脂、牛脂、魚油、乳脂、バター等を挙げることができる。加工油脂としては、植物油脂や動物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理をしたものを挙げることができ、具体的には、パーム硬化油脂、ヤシ硬化油脂、大豆硬化油脂、菜種硬化油脂等の硬化油脂、パーム分別油脂、ヤシ分別油脂、大豆分別油脂、菜種分別油脂等の分別油脂等を挙げることができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、カプロン酸トリグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、ラウリン酸トリグリセリド等を挙げることができる。本発明の気泡安定剤に油脂が含まれる場合、油脂は、10~98質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~80質量%がさらに好ましい。
【0024】
多価アルコールとしては、1分子中に2つ以上のヒドロキシ基をもつ化合物であれば特に制限はなく、例えば、キシロース、ブドウ糖、果糖等の単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖等のオリゴ糖類、デキストリン、水飴等の澱粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖類、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等の異性化糖類、蜂蜜等の転化糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール類、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール等を挙げることができ、これらのなかでも、澱粉分解物、糖アルコール類、グリセリンが好ましく、水飴、ソルビトール、還元水飴、グリセリンがより好ましい。
【0025】
澱粉としては、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の他、これらの澱粉に酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、リン酸化処理、架橋処理、加熱処理、α化処理、粉砕処理、酵素処理等を施した加工澱粉等を挙げることができる。タンパク質としては、カゼインナトリウム等の乳タンパク質、大豆タンパク質、えんどうタンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質等を挙げることができる。
【0026】
安定剤としては、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギナン、カードラン、マンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、多糖類、大豆多糖類、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、トラガントガム、ジェランガム、アラビアガム等を挙げることができる。pH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を挙げることができる。
【0027】
食品用乳化剤としては、本発明に用いられるプロピレングリコールステアリン酸エステル以外のプロピレングリコール脂肪酸エステル、本発明に用いられるソルビタン飽和脂肪酸エステル以外のソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0028】
酸化防止剤としては、トコフェロール、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸塩、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル、茶抽出物、ヤマモモ抽出物、ローズマリー抽出物、リン酸塩等を挙げることができる。着色料としては、β-カロテン、クチナシ色素、ベニバナ色素等を挙げることができる。
【0029】
本発明の気泡安定剤の製造方法は、特に制限はなく、自体公知の方法を用いることができるが、例えば、プロピレングリコールステアリン酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステル、所望によりグリセリン脂肪酸エステルを混合し粉末製剤にする方法、プロピレングリコールステアリン酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステル、所望によりグリセリン脂肪酸エステルを油脂に溶解させ液状、ペースト状あるいは半固形状製剤にする方法、プロピレングリコールステアリン酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステル、所望によりグリセリン脂肪酸エステルを油脂に溶解させた後、さらに水、多価アルコール等の水相を添加した混合液を乳化し乳化製剤とする方法、この乳化製剤をさらに粉末化する方法等を挙げることができる。これらのなかでも、プロピレングリコールステアリン酸エステル、ソルビタン飽和脂肪酸エステル、所望によりグリセリン脂肪酸エステルを油脂に溶解させ液状、ペースト状あるいは半固形状製剤にする方法が好ましい。
【0030】
本発明の気泡安定剤は、固体脂を0.1質量%以上含有するケーキ生地に含有させることでケーキ生地中の気泡の安定性を向上させる効果を発揮する。
【0031】
本発明の気泡安定剤の使用対象であるケーキ生地に含まれる固体脂とは、常温(15~25℃)以下でペースト状、半固形状の比較的柔らかい性状を呈する脂から、固形状の比較的硬い性状を呈する脂、又はこれらの性状を呈する油脂組成物をいい、例えば、豚脂、牛脂、乳脂、バター、ヤシ油、パーム油、マーガリン、ココアバター、加工油脂等を挙げることができる。加工油脂としては、植物油脂や動物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理をしたものを挙げることができ、具体的には、パーム硬化油脂、ヤシ硬化油脂、大豆硬化油脂、菜種硬化油脂等の硬化油脂、パーム分別油脂、ヤシ分別油脂、大豆分別油脂、菜種分別油脂等の分別油脂等を挙げることができる。固体脂は、1種のみを用いてもよく、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の気泡安定剤の使用対象であるケーキ生地に含まれる固体脂の20℃におけるSFC(固体脂含量)は、通常5%以上であり、5~50%が好ましく、10~40%がより好ましく、10~30%がさらに好ましく、10~20%が特に好ましい。
なお、固体脂の20℃におけるSFCは、基準油脂分析試験法(日本油化学会)で測定することができる。
【0033】
本発明の気泡安定剤の使用対象であるケーキ生地に含まれる固体脂の含有量は、0.1質量%以上であれば、特に制限はないが、0.1~20質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましく、0.5~10質量%がさらに好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。
【0034】
本発明の気泡安定剤の使用対象であるケーキ生地は、各種ケーキ原料を混合し、起泡させた加熱処理前の生地をいい、ケーキ生地を焼成、スチーム等の加熱処理を施すことで、ケーキを得ることができる。ケーキ生地に用いられるケーキ原料としては、前記固体脂以外に、小麦粉、大麦粉、そば粉、米粉等の穀粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、とうもろこし澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の澱粉、これら澱粉に酸処理、アルカリ処理、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、リン酸化処理、架橋処理、加熱処理、α化処理、粉砕処理、酵素処理等を施した加工澱粉、上白糖、グラニュー糖、黒糖等の糖類、牛乳、濃縮乳、生クリーム、全粉乳、脱脂粉乳、練乳、チーズ等の乳製品、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油、コーン油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油等の油脂、全卵、果実類、果実加工品、種実類、ココアパウダー、食塩、洋酒類、起泡剤、ベーキングパウダー等の膨張剤、甘味料、酸味料、香料、着色料、水等の一般的にケーキ原材として使用されるものを挙げることができる。
【0035】
本発明の気泡安定剤の使用方法は、ケーキ生地に添加し得る方法であれば、特に制限はないが、ケーキ生地の製造工程で直接添加する方法、他のケーキ原料にあらかじめ添加する方法等を挙げることができる。
なお、本発明の気泡安定剤は、ケーキ原料として用いられる起泡剤と併用して用いることが好ましいが、ケーキ生地中の卵等の起泡力により発生した気泡を安定する効果を有するため、起泡剤の存在の有無にかかわらず、使用することもできる。
【0036】
本発明の気泡安定剤の使用対象であるケーキ生地の製造方法は、特に制限はないが、ケーキ原料全てを混合した後に起泡させてケーキ生地を製造するオールインミックス法が好ましい。本発明の気泡安定剤を含有させたケーキ生地は、固体脂を含有していながら、気泡の安定性に優れているため、オールインミックス法によるケーキ生地の製造においても、優れた気泡安定性を発揮することができる。
【0037】
具体的には、例えば、固体脂以外のケーキ原料をミキサーに投入し、均質になるまで混合する。次に、固体脂を好ましくは50~80℃に加温保持し、得られた液状の固体脂と本発明の気泡安定剤をミキサーに投入し、さらに攪拌の上、好ましくはケーキ生地の比重が0.5g/ml未満となるまで起泡させる。この際、液状の固体脂と本発明の気泡安定剤を予め混合、溶解した上で、ミキサーに投入することが好ましい。得られたケーキ生地は、焼成、スチーム等の加熱処理を施すことでケーキを得る。
【0038】
本発明の気泡安定剤の使用量は、ケーキ生地に含まれる小麦粉等の穀粉100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
【0039】
本発明の気泡安定剤を使用できるケーキは、特に制限はないが、例えば、スポンジケーキ、ロールケーキ、バタースポンジケーキ、パウンドケーキ、シフォンケーキ、マドレーヌ、マフィン、パンケーキ、バウムクーヘン、カステラ、どら焼き、蒸しケーキ、蒸しパン等を挙げることができる。
【0040】
本発明の気泡安定剤について、気泡の安定性評価方法としては、例えば、一定時間おきに起泡させたケーキ生地の比重(g/ml)の測定を続け、比重(g/ml)の変動を評価する方法を挙げることができる。直近の測定結果よりも比重(g/ml)が上昇しない状態が続けば、気泡の安定性が良好であることを示す。また、測定される比重(g/ml)が低ければ、さらに気泡の安定性が良好であることを示す。
【0041】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例0042】
[気泡安定剤の作製1]
(1)原料
1)プロピレングリコールステアリン酸エステル(商品名:リケマールPS-100;理研ビタミン社製)
2)プロピレングリコールパルミチン酸エステル(商品名:リケマールPP-100;理研ビタミン社製)
3)プロピレングリコールオレイン酸エステル(商品名:リケマールPO-100V;理研ビタミン社製)
4)ソルビタン飽和脂肪酸エステルA(商品名:ポエムS-65V;ソルビタントリステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)
5)ソルビタン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムO-80V;ソルビタンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)
6)グリセリン脂肪酸エステルA(商品名:ポエムB-100;主な構成脂肪酸:ベヘン酸;モノエステル体含有量約90質量%;理研ビタミン社製)
7)グリセリン脂肪酸エステルB(商品名:エマルジーMH;主な構成脂肪酸 ステアリン酸及びパルミチン酸;モノエステル体含有量約95質量%;理研ビタミン社製)
8)菜種油(商品名:なたねサラダ油;ボーソー油脂社製)
【0043】
(2)作製方法
各試験区において、得られる気泡安定剤が500gとなるよう、表1に記載の含有量(質量%)に従って全ての原料を1Lステンレスビーカーに投入し、80℃で約10分間加熱混合した。その後、静置放冷し、気泡安定剤1~7を得た。気泡安定剤1~7に含まれる各原料の含有量(質量%)を表1に示す。なお、気泡安定剤1~3が実施例であり、気泡安定剤4~7が比較例である。
【0044】
【0045】
[ケーキ生地の作製及び評価1]
(1)原料
1)液卵(商品名:エクセルエッグHV;キユーピータマゴ社製)
2)上白糖(商品名:上白糖ST;フジ日本精糖社製)
3)小麦粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)
4)ベーキングパウダー(商品名:ベーキングパウダーO#1;オリエンタル酵母工業社製)
5)起泡剤(商品名:パティグラース-1A;理研ビタミン社製)
6)水
7)固体脂(バター)(商品名:森永バター;20℃におけるSFC16.5%;森永乳業社製)
8)菜種油(商品名:なたねサラダ油;ボーソー油脂社製)
9)気泡安定剤1~7
【0046】
(2)ケーキ生地の作製及び気泡の安定性評価
各試験区において、表2に記載の固体脂(バター)20gを70℃に加温し、液状とする。次に、各試験区において、表2に記載の原料について、液卵300g、上白糖220g、小麦粉200g、ベーキングパウダー2g、起泡剤13g、水20gを5クォートミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社製)に投入し、ワイヤーホイッパーで低速1分間、均質に混合する。次に、菜種油又は気泡安定剤1~7のいずれか10gと液状とした固体脂を投入後、ワイヤーホイッパーで高速で起泡させながら、1分おきにケーキ生地の比重を計6回測定した。1分後から6分後のケーキ生地の比重のうち、最小値となったケーキ生地の比重を「最小生地比重(g/ml)」、6分後のケーキ生地の比重を「6分後生地比重(g/ml)」とし、6分後生地比重から最小生地比重を差し引いた値(6分後生地比重-最小生地比重)を算出した。この差し引いた値が大きいと、一度低下した比重が、上昇に転じていることを示すため、ケーキ生地中の気泡の安定性が不安定であることを意味する。一方、この差し引いた値が「0」であると、一度低下した比重が上昇していないため、ケーキ生地中の気泡の安定性が良好であることを意味する。
ケーキ生地1~7、及びケーキ生地(対照)に含まれる各原料の質量部とケーキ生地に含まれる固体脂の含有量(質量%)を表2に示す。また、ケーキ生地1~7、及びケーキ生地(対照)の6分後生地比重(g/ml)、最小生地比重(g/ml)、及びこれらの差を表3に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表3のとおり、気泡安定剤を含有しないケーキ生地(対照)、及び比較例である気泡安定剤4~7を含有するケーキ生地4~7は、いずれも一度最小となった比重が6分後に上昇に転じたため、6分後生地比重-最小生地比重の値が「0」を超えた。つまり、ケーキ生地中の気泡が不安定であることがわかった。
一方、実施例である気泡安定剤1~3を含有するケーキ生地1~3は、いずれも一度最小となった比重が6分後においても上昇しなかったため、6分後生地比重-最小生地比重の値が「0」となった。つまり、ケーキ生地中の気泡が安定であることがわかった。また、実施例である気泡安定剤1~3を含有するケーキ生地1~3はいずれも、比較例である気泡安定剤4~7を含有するケーキ生地4~7よりも、比重が低下し、特に、グリセリン脂肪酸エステルを併用した気泡安定剤2~3を含有するケーキ生地2~3は、比重の低下が顕著であった。
よって、実施例である気泡安定剤1~3は、固体脂を含有するケーキ生地において、優れた気泡安定性を示すことがわかった。
【0050】
(3)ケーキの評価
前記(2)において、6分後生地比重に達したケーキ生地1~7、及びケーキ生地(対照)を、それぞれ6号型に320g充填し、上火180℃、下火160℃の電気オーブン(型式:南蛮バッケンBKS-622TFSOND;七洋製作所社製)で33分間焼成したものを放冷し、ケーキ1~7、及びケーキ(対照)を得た。放冷後のケーキ1~7、及びケーキ(対照)について、それぞれ体積計(型式:Selnac-WinVM2100;アステックス社製)を用いて体積(ml)を測定し、下記の基準によりケーキのボリュームを評価した。「◎」及び「○」を本発明の効果を満足するものとした。結果を表4に示す。
<基準>
◎:1300ml以上
○:1200ml以上1300ml未満
△:1100ml以上1200ml未満
×:1100ml未満
【0051】
【0052】
表4のとおり、固体脂を含有する場合、実施例である気泡安定剤1~3を含有するケーキ1~3は、いずれもボリュームが良好であった。
一方、気泡安定剤を含有しないケーキ(対照)、及び比較例である気泡安定剤4~7を含有するケーキ4~7は、ボリュームに乏しかった。
【0053】
[気泡安定剤の作製2]
(1)原料
1)プロピレングリコールステアリン酸エステル(商品名:リケマールPS-100;理研ビタミン社製)
2)プロピレングリコールオレイン酸エステル(商品名:リケマールPO-100V;理研ビタミン社製)
3)ソルビタン飽和脂肪酸エステルA(商品名:ポエムS-65V;ソルビタントリステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)
4)ソルビタン飽和脂肪酸エステルB(商品名:ポエムB-150;ソルビタントリベヘン酸エステル;理研ビタミン社製)
5)グリセリン脂肪酸エステルA(商品名:ポエムB-100;主な構成脂肪酸:ベヘン酸;モノエステル体含有量約90質量%;理研ビタミン社製)
6)菜種油(商品名:なたねサラダ油;ボーソー油脂社製)
【0054】
(2)作製方法
各試験区において、得られる気泡安定剤が500gとなるよう、表5に記載の含有量(質量%)に従って全ての原料を1Lステンレスビーカーに投入し、80℃で約10分間加熱混合した。その後、静置放冷し、気泡安定剤8~11を得た。気泡安定剤8~11に含まれる各原料の含有量(質量%)を表5に示す。なお、気泡安定剤8~10が実施例であり、気泡安定剤11が比較例である。
【0055】
【0056】
[ケーキ生地の作製及び評価2]
(1)原料
1)液卵(商品名:エクセルエッグHV;キユーピータマゴ社製)
2)上白糖(商品名:上白糖ST;フジ日本精糖社製)
3)小麦粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)
4)ベーキングパウダー(商品名:ベーキングパウダーO#1;オリエンタル酵母工業社製)
5)起泡剤(商品名:パティグラース-1A;理研ビタミン社製)
6)水
7)固体脂(マーガリン)(商品名:パンテオンデラックス;20℃におけるSFC13.4%;ミヨシ油脂社製)
8)菜種油(商品名:なたねサラダ油;ボーソー油脂社製)
9)気泡安定剤8~11
【0057】
(2)ケーキ生地の作製及び気泡の安定性評価
各試験区において、表6に記載の固体脂(マーガリン)6gを70℃に加温し、液状とする。次に、各試験区において、表6に記載の原料について、液卵300g、上白糖220g、小麦粉200g、ベーキングパウダー2g、起泡剤13g、水20gを5クォートミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社製)に投入し、ワイヤーホイッパーで低速1分間、均質に混合する。次に、気泡安定剤8~11のいずれか3gと液状とした固体脂を投入後、ワイヤーホイッパーで高速で起泡させながら、1分おきにケーキ生地の比重を計6回測定した。1分後から6分後のケーキ生地の比重のうち、最小値となったケーキ生地の比重を「最小生地比重(g/ml)」、6分後のケーキ生地の比重を「6分後生地比重(g/ml)」とし、6分後生地比重から最小生地比重を差し引いた値(6分後生地比重-最小生地比重)を算出した。
ケーキ生地8~11に含まれる各原料の質量部とケーキ生地に含まれる固体脂の含有量(質量%)を表6に示す。また、ケーキ生地8~11の6分後生地比重(g/ml)、最小生地比重(g/ml)、及びこれらの差を表7に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表7のとおり、比較例である気泡安定剤11を含有するケーキ生地11は、一度最小となった比重が6分後に上昇に転じたため、6分後生地比重-最小生地比重の値が「0」を超えた。つまり、ケーキ生地中の気泡が不安定であることがわかった。
一方、実施例である気泡安定剤8~10を含有するケーキ生地8~10は、いずれも一度最小となった比重が6分後においても上昇しなかったため、6分後生地比重-最小生地比重の値が「0」となった。つまり、ケーキ生地中の気泡が安定であることがわかった。また、実施例である気泡安定剤8~10を含有するケーキ生地8~10は、比較例である気泡安定剤11を含有するケーキ生地11よりも比重が低下した。
よって、実施例である気泡安定剤8~10は、固体脂を含有するケーキ生地において、優れた気泡安定性を示すことがわかった。
【0061】
(3)ケーキの評価
前記(2)において、6分後生地比重に達したケーキ生地8~11を、それぞれ6号型に320g充填し、上火180℃、下火160℃の電気オーブン(型式:南蛮バッケンBKS-622TFSOND;七洋製作所社製)で33分間焼成したものを放冷し、ケーキ8~11を得た。放冷後のケーキ8~11について、それぞれ体積計(型式:Selnac-WinVM2100;アステックス社製)を用いて体積(ml)を測定し、下記の基準によりケーキのボリュームを評価した。「◎」及び「○」を本発明の効果を満足するものとした。結果を表8に示す。
<基準>
◎:1300ml以上
○:1200ml以上1300ml未満
△:1100ml以上1200ml未満
×:1100ml未満
【0062】
【0063】
表8のとおり、固体脂を含有する場合、実施例である気泡安定剤8~10を含有するケーキ8~10は、いずれもボリュームが良好であった。
一方、比較例である気泡安定剤11を含有するケーキ11は、ボリュームに乏しかった。