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特開2024-118665タイミングライブラリおよびその作成装置と作成方法、および、半導体集積回路の解析装置および解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118665
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】タイミングライブラリおよびその作成装置と作成方法、および、半導体集積回路の解析装置および解析方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/3315 20200101AFI20240826BHJP
   G06F 119/12 20200101ALN20240826BHJP
【FI】
G06F30/3315
G06F119:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025067
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】中山 篤
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA22
5B146GG03
5B146GG10
(57)【要約】
【課題】電気的特性のバラツキ量の確度を向上したタイミングライブラリとその作成装置および作成方法、および、タイミングライブラリを用いた半導体集積回路の解析装置および解析方法を提供する。
【解決手段】半導体集積回路を構成する単位回路の電気的特性が定義され、半導体集積回路の回路解析に使用されるタイミングライブラリであって、単位回路の電気的特性に影響するパラメータに応じて、電気的特性の期待値と、期待値のバラツキ量と、バラツキ量から統計的信頼区間を算出するのに必要な統計処理情報とを含む。また、この特徴を有するタイミングライブラリを用いて半導体集積回路を解析する解析装置であって、電気的特性の期待値とバラツキ量と統計処理情報から期待値の統計的信頼区間を算出する機能と、さらに複数の統計的信頼区間から統計的に回帰することで電気的特性のパラメータへの依存性を算出する機能を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路を構成する単位回路の電気的特性が定義され、前記半導体集積回路の回路解析に使用されるタイミングライブラリであって、
前記単位回路の前記電気的特性に影響するパラメータの期待値と、
前記期待値のバラツキ量と、
前記バラツキ量から前記期待値の統計的信頼区間を算出するのに必要な統計処理情報と
を含むタイミングライブラリ。
【請求項2】
前記単位回路に影響する前記パラメータの数がN個であり(N:1以上の整数)、 N個の前記パラメータを項目とするN次元のテーブルによって定義されている、
請求項1に記載のタイミングライブラリ。
【請求項3】
前記電気的特性が、前記単位回路における信号伝搬時間あるいは出力信号の時間的傾きあるいは消費電力あるいは入力端子の入力容量あるいは出力信号の電圧や電流の時間的発展特性である、請求項1に記載のタイミングライブラリ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタイミングライブラリを作成するライブラリ作成装置であって、
前記単位回路のバラツキ成分を含む回路素子の電気的モデルを用いた繰り返しシミュレーションを前記統計処理情報に従って実行して、前記期待値および前記バラツキ量を算出するシミュレータと、
前記期待値、前記バラツキ量および前記統計処理情報を含むタイミングライブラリ情報を作成するライブラリ情報作成部と
を備えるライブラリ作成装置。
【請求項5】
前記統計処理情報が、前記繰り返しシミュレーションの手法と繰り返した回数である、請求項4に記載のライブラリ作成装置。
【請求項6】
前記シミュレータが、前記タイミングライブラリに定義された前記電気的特性に変曲点が存在することを検知した場合に、前記変曲点の近傍の測定点を増やすと共に前記繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を減らす、請求項5に記載のライブラリ作成装置。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタイミングライブラリを作成するライブラリ作成方法であって、
バラツキ成分を含む回路素子の電気的モデルを用いた前記単位回路の繰り返しシミュレーションを前記統計処理情報に従って実行して、前記期待値および前記バラツキ量を算出し、
前記期待値、前記バラツキ量および前記統計処理情報を含むタイミングライブラリ情報を作成する
を備えるライブラリ作成方法。
【請求項8】
バラツキ成分を含む回路素子の電気的モデルを用いた前記単位回路の繰り返しシミュレーションにより前記期待値および前記バラツキ量を算出し、
前記統計処理情報が、前記繰り返しシミュレーションの手法と繰り返した回数である、
請求項7に記載のライブラリ作成方法。
【請求項9】
前記タイミングライブラリに定義された前記電気的特性に変曲点が存在することを検知した場合に、前記変曲点の近傍の測定点を増やすと共に前記繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を減らす、請求項8に記載のライブラリ作成方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタイミングライブラリを用いて半導体集積回路を解析する解析装置であって、
前記パラメータの複数の測定点のそれぞれについて前記統計処理情報を用いて前記統計的信頼区間を算出する信頼区間算出部と、
統計的解析手法により前記複数の測定点の前記統計的信頼区間を回帰する回帰曲線を推定する回帰曲線推定部と、
前記回帰曲線を使って、前記単位回路の前記電気的特性を算出する算出部と、
前記単位回路の前記電気的特性を用いて、前記半導体集積回路の動作を解析する解析部と
を備える解析装置。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のタイミングライブラリを用いた半導体集積回路の解析方法であって、
前記パラメータの複数の測定点のそれぞれについて前記統計処理情報を用いて前記統計的信頼区間を算出し、
統計的解析手法により前記複数の測定点の前記統計的信頼区間を回帰する回帰曲線を推定し、
前記回帰曲線を使って、前記単位回路の前記電気的特性を算出し、
前記単位回路の前記電気的特性を用いて、前記半導体集積回路の動作を解析する
を備える解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体集積回路の解析に使用するタイミングライブラリおよびその作成装置と作成方法、および、半導体集積回路の解析装置および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の設計において、タイミングライブラリを使用した静的タイミング解析(Static Timing Analysis:STA)が行われている。タイミングライブラリは、半導体集積回路に含まれる論理素子のそれぞれについて、電気的特性に影響するパラメータ(以下、単に「パラメータ」と称する。)に対する、電気的特性の期待値およびそのバラツキ量を予め算出しライブラリ化したものである。例えば、スタンダードセルを用いた半導体集積回路のSTAでは、個々のスタンダードセルについて電気的特性のパラメータ依存性をテーブルとして定義したタイミングライブラリを用いる。STAにより半導体集積回路の電気的特性を正確に算出するためには、タイミングライブラリに規定された電気的特性の確度が高い必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7084688号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、作成時間を伸ばすことなく電気的特性のバラツキ量の確度を向上するタイミングライブラリおよびその作成装置と作成方法、および、同タイミングライブラリを用いたより確度の高い半導体集積回路の解析装置および解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係るタイミングライブラリは、半導体集積回路を構成する単位回路の電気的特性が定義され、半導体集積回路の回路解析に使用される。タイミングライブラリは、単位回路の電気的特性に影響するパラメータに応じた電気的特性の期待値と、期待値の偏差と、期待値と偏差の統計的信頼区間を算出するのに必要な統計処理情報を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係るタイミングライブラリの構成を示す模式図である。
図2図2は、パラメータと信号伝搬時間の関係の例を示すグラフである。
図3図3は、半導体集積回路の例を示すブロック図である。
図4図4は、Dフリップフロップにおけるデータ信号の遷移禁止期間を示す模式図である。
図5図5は、比較例のタイミングライブラリを示す模式図である。
図6図6は、偏差を反映したパラメータと信号伝搬時間の関係の例を示すグラフである。
図7図7は、パラメータと信号伝搬時間の関係の比較例を示すグラフである。
図8図8は、実施形態に係るタイミングライブラリを用いて得られるパラメータと信号伝搬時間の関係の例を示すグラフである。
図9図9は、電気的特性が信号伝搬時間であるタイミングライブラリの例を示す模式図である。
図10図10は、実施形態に係るライブラリ作成装置の構成を示す模式図である。
図11図11は、実施形態に係るタイミングライブラリの作成方法を説明するためのフローチャートである。
図12図12は、実施形態に係る解析装置の構成を示す模式図である。
図13図13は、実施形態に係る解析方法を説明するためのフローチャートである。
図14図14は、その他の実施形態に係るタイミングライブラリの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、図面を参照して、実施形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。図面は模式的なものである。また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、部品の材質、形状、構造、配置などを特定するものではない。実施形態は、種々の変更を加えることができる。
【0008】
図1に示す本発明の実施形態に係るタイミングライブラリ1は、半導体集積回路を構成する単位回路の電気的特性が定義され、半導体集積回路の回路解析に使用される。例えば、半導体集積回路の静的タイミング解析(STA)にタイミングライブラリ1は使用される。単位回路は、半導体集積回路を構成する論理素子であり、例えばスタンダードセルである。タイミングライブラリ1は、単位回路の電気的特性に影響するN個のパラメータに対するN次元のテーブルによって定義される(N:1以上の整数)。以下において、タイミングライブラリを定義したテーブルを「ライブラリテーブル」とも称する。図1に示したタイミングライブラリ1は、第1のパラメータP1と第2のパラメータP2に対応する2次元のライブラリテーブルにより定義されている。タイミングライブラリ1に含まれるパラメータの数Nは1あるいは3以上であってよい。以下において、タイミングライブラリ1に含まれるパラメータのそれぞれを限定しない場合は、パラメータPと表記する。
【0009】
図1に示すタイミングライブラリ1は、単位回路の電気的特性の期待値TDsおよび期待値TDsのバラツキ量を表す指標として偏差dTDを含む。更に、タイミングライブラリ1は、統計処理情報Sを含む。統計処理情報Sは、期待値TDsおよび偏差dTDについて統計的信頼区間を算出するために用いられる値であり、例えば後述のモンテカルロシミュレーションの回数などである。統計処理情報の詳細については後述する。電気的特性のバラツキの大きさを表す指標には偏差以外の値を用いることもできる。
【0010】
ライブラリテーブルには、各単位回路について、パラメータPで表される複数の測定点で測定された電気的特性値が定義されている。すなわち、図1のタイミングライブラリ1で定義されるライブラリテーブルには、第1のパラメータP1のA1~Arのr個の測定点と第2のパラメータP2のB1~Bmのm個の測定点で定義された(r×m)個の測定点について、それぞれ対応する電気的特性値の期待値TDsと偏差dTDが記載されている(r、m:自然数)。期待値あるいは偏差は離散的であるため、STAにおける回路解析では、ライブラリテーブルに記載された数値を内挿若しくは外挿することにより、ライブラリテーブルに記載された数値の間が補完され使用される。
【0011】
単位回路の電気的特性は、例えば信号伝搬時間や単位回路から出力する出力信号の時間的傾き、消費電力、単位回路の入力端子の入力容量、出力信号の電圧や電流の時間的発展特性などである。また、信号伝搬時間や出力信号の時間的傾きなどの電気的特性に影響するパラメータは、例えば単位回路に入力する入力信号の時間的傾き、単位回路の出力負荷の大きさなどである。「入力信号の時間的傾き」は、単位回路の入力端子に入力する信号が遷移する際の電圧レベルの時間変化を表す。「出力信号の時間的傾き」は、単位回路の出力端子から出力された信号が遷移する際の電圧レベルの時間変化を表す。以下において、時間的傾きを「傾き」とも表記する。
【0012】
以下では、単位回路がスタンダードセルの論理セルであり、電気的特性が単位回路を信号が伝搬する信号伝搬時間である場合を例示的に説明する。以下において、電気的特性が信号伝搬時間であるライブラリテーブルを、「伝搬時間テーブル」とも称する。この場合、タイミングライブラリ1は、予め算出された信号伝搬時間の期待値TDsと偏差dTD、および統計処理情報Sを含む伝搬時間テーブルにより定義される。半導体集積回路の解析において信号伝搬時間の算出には、半導体集積回路を構成する単位回路の信号伝搬時間の期待値と偏差が定義されたこの伝搬時間テーブルが使用される。単位回路は、例えばインバータ回路セル、NAND回路セル、フリップフロップセルなどである。
【0013】
例えば、図1に示したタイミングライブラリ1において、第1のパラメータP1を「入力信号の電圧の傾き(V/s)」、第2のパラメータP2を「出力負荷の大きさ(F)」としてもよい。この場合、電気的特性が信号伝搬時間である場合のパラメータPの測定点は2つのパラメータ、すなわち、論理セルの入力端子への入力信号の電圧の傾き(V/s)および出力端子に接続する出力負荷の大きさ(F)によって定義される。
【0014】
図2に、タイミングライブラリ1で定義されたパラメータPと信号伝搬時間TDの関係の例を示す。図2のグラフは簡便のために2次元であるが、実際には「パラメータの数N+1」次元であり、図2はその2次元断面図と考えることもできる。図2において、黒丸は伝搬時間テーブルに記載されたパラメータPの測定点における信号伝搬時間の期待値である。STAでは、図2に示すように測定点における信号伝搬時間の間が補完されたグラフが使用される。例えば、論理セルにおけるパラメータPの値が測定点P0に対応する場合に、論理セルの信号伝搬時間の期待値TDsとして伝搬時間TD0が使用される。
【0015】
図3に、解析対象の半導体集積回路に含まれる論理素子の例を示す。図3に示した回路例では、第1フリップフロップ301を伝搬したデータ信号DATAが、第1NAND回路300の入力端子に入力する。第1NAND回路300の出力端子から出力されたデータ信号DATAは、NOR回路302に入力する。第1NAND回路300の出力端子 の出力負荷容量Cは、配線容量とNOR回路302の入力端子容量を合算したものである。NOR回路302の出力は、回路ブロック303に入力し、回路ブロック303の出力が第2NAND回路304に入力する。第2NAND回路304の出力が、第2フリップフロップ305に入力する。第1フリップフロップ301および第2フリップフロップ305はDフリップフロップであり、クロック信号CLKにより動作が制御される。
【0016】
図3に示した第1NAND回路300に信号が入力されてから出力されるまでの信号伝搬時間は、第1フリップフロップ301から入力する入力信号の傾きや出力負荷容量Cなどにより決定される。例えば、第1NAND回路のタイミングライブラリ1について、第1のパラメータP1を第1NAND回路300に入力する入力信号の傾きとしてもよい。また、第2のパラメータP2を、第1NAND回路の出力負荷である出力負荷容量Cの大きさとしてもよい。
【0017】
STAでは、例えば、Dフリップフロップのタイミング制約が満たされていることを検証する。図4に示すようにDフリップフロップにデータ信号DATAの遷移禁止期間Txが存在する場合に、STAでは、データ信号DATAとクロック信号CLKの信号伝搬時間を算出し、データ信号DATAが遷移禁止期間Txにおいて遷移しないことを検証する。
【0018】
ところで、半導体集積回路の信号伝搬時間は、論理セルを構成する素子や配線の製造上の加工形状の影響などを受けて、バラツキが生じる。例えば、ゲート長およびゲート幅のバラツキなどに依存するトランジスタの遷移時間のバラツキ、配線の幅のバラツキなどに依存する配線抵抗および配線容量のバラツキにより、信号伝搬時間にバラツキが生じる。
【0019】
この信号伝搬時間のバラツキをSTAに反映させるために、素子や配線の形状のバラツキなどの影響による信号伝搬時間の偏差を算出し、信号伝搬時間の期待値と共に偏差を伝搬時間テーブルとして持つ方法が用いられている。論理セルの信号伝搬時間の期待値の偏差は、各測定点でシミュレーションを何度も繰り返す(以下、「繰り返しシミュレーション」とも称する)ことで算出できる。例えば、論理セルに使用される素子および配線のランダムなバラツキ成分を含む回路素子の電気的モデル(以下、「素子モデル」とも称する。)を用いた繰り返しシミュレーションにより、論理セルの信号伝搬時間の偏差を算出する。一方、信号伝搬時間の期待値については、バラツキを含まないシミュレーションで求めてもよいし、繰り返しシミュレーションで偏差と共に求めてもよい。このように得られた期待値と偏差を各測定点で算出してライブラリ化する。そして、タイミングライブラリとして信号伝搬時間の期待値と共に偏差を含む伝搬時間テーブルを使用して、STAが行われる。繰り返しシミュレーションとして、例えばモンテカルロシミュレーションなどを使用してもよい。
【0020】
ここで、実施形態に係るタイミングライブラリ1の詳細を説明する前に、比較例のタイミングライブラリ(以下、「比較タイミングライブラリ」とも称する。)の例について、以下に説明する。
【0021】
比較タイミングライブラリを定義する伝搬時間テーブルでは、信号伝搬時間の期待値および信号伝搬時間の偏差を反映した伝搬時間が記載される。図5に、比較タイミングライブラリ1Aの例を示す。比較タイミングライブラリ1Aは、「入力信号の傾き」と「出力の負荷容量」の2つのパラメータにより、論理セルの信号伝搬時間の期待値TDsと偏差dTDを2次元の伝搬時間テーブルで定義している。
【0022】
STAでは、まずタイミングライブラリの伝搬時間テーブルに記載の信号伝搬時間の期待値TDsと偏差dTDを元に、信号伝搬時間のバラツキの上下限が算出され、離散的な期待値と偏差が補完される。この様子を図6に示すが、図2と同様、実際には「パラメータの数N+1」次元のグラフであり、本図はその2次元断面図である。パラメータPの測定点P0における信号伝搬時間は製造上の加工形状の影響により上下限を持ち、その値は期待値TDsに対して偏差dTDに信頼係数pを乗じた値を加減して得られたTD1とTD2である。続いて、期待値とこうして得られた信号伝搬時間の上下限の値は離散的な値であるため、その間が補完され、信号伝搬時間について期待値特性曲面C0と第1偏差特性曲面C1と第2偏差特性曲面C2の3つのN次元曲面が算出される。信頼係数pは、製造上の加工形状の影響を受けた信号伝搬のバラツキによって半導体集積回路が誤動作を引き起こす確率が十分小さくなるように設定される。信頼係数pを大きく設定すれば製造上の加工形状のバラツキに対して堅牢な回路設計ができるが、動作を保証する信号伝搬時間上下限の差が大きくなるために、一般的に、半導体集積回路の性能は制限され、また回路の面積が大きくなる。そのため、単一の半導体集積回路の中においても信頼係数pは一定値とは限らない。
【0023】
図6に示した例では、解析対象の半導体集積回路に含まれる論理セルにおけるパラメータPの値が測定点P0に対応する場合に、論理セルの信号伝搬時間TDの期待値TDsとして伝搬時間TD0が使用される。また、第1偏差特性曲面C1から得られる測定点P0における第1伝搬時間TD1、および第2偏差特性曲面C2から得られる測定点P0における第2伝搬時間TD2は、それぞれ測定点P0における信号伝搬時間のバラツキの上下限を示す。図6では簡便のため、信頼係数pを1としている。第1伝搬時間TD1および第2伝搬時間TD2をそれぞれデータ信号とクロック信号の伝搬信号の解析などに使用することで、より正確なSTAができる。例えば、データ信号の伝搬速度が遅くてクロック信号の伝搬速度が速い場合に、Dフリップフロップの遷移禁止期間Txに起因したセットアップ不良が発生する。このため、セットアップ解析では、データ信号の伝搬時間に第1伝搬時間TD1を使用し、クロック信号の伝搬時間に第2伝搬時間TD2を使用することにより、製造上の加工形状の影響を加味したより正確なSTAが実現される。
【0024】
信号伝搬時間のバラツキの指標として用いている偏差は、モンテカルロシミュレーションなどの繰り返しシミュレーションにより推定された値であり、確定的ではなく、統計的に幅を持った信頼区間を持つ。STAを正確に実行するためには、偏差が真の値に近い、すなわち偏差の信頼区間が十分小さい必要がある。信頼区間を十分小さくするには繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を増やさざるをえない。しかし、一般に繰り返し回数に対する偏差の収束は非常に遅く、繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を10倍に増やしても統計的信頼区間の幅は数分の一のオーダーにしか改善しない。したがって、統計的信頼区間を1桁小さくするためであってもタイミングライブラリの開発期間は何倍にもなってしまう。なお信号伝搬時間の期待値については、バラツキ成分を含まない素子モデルを使用するシミュレーションにより確定的に求めることもできるが、繰り返しシミュレーションでバラツキと共に算出した場合には信頼区間を持つ。この場合には、信頼区間が十分に小さいことが求められることは偏差と同様である。
【0025】
上記のように、偏差を十分な精度で測定するには非常に時間がかかり、タイミングライブラリの作成時間が増大する。一方、繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を減らすことにより、タイミングライブラリの開発期間を短縮できる。しかし、繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を減らすと偏差の確度が低下する。偏差の確度が不足している場合には、図7に示す比較例のように、第1偏差特性曲面C1および第2偏差特性曲面C2は凹凸のある曲面になり、STAの正確性は低下する。
【0026】
これに対し、実施形態に係るタイミングライブラリ1は、信号伝搬時間の期待値TDsと偏差dTDについて、統計的信頼区間を算出するのに必要な統計処理情報Sを含んでおり、期待値と偏差が繰り返しシミュレーションを用いた推定値であることを示している。本実施形態は、タイミングライブラリに統計処理情報Sを含めることにより、繰り返しシミュレーションの回数を抑制しつつ、STA時に算出される信号伝搬時間TDの第1偏差特性曲面C1と第2偏差特性曲面C2の間隔を狭めることができる。これにより、信号伝搬時間の正確性を向上させることができる。すなわち、STAではまず、タイミングライブラリ1に記載された個々の測定点について、統計処理情報Sを用いることで期待値と偏差と信頼係数pから統計的信頼区間を算出する。続いて、複数の測定点とそれらの信頼区間から統計的解析手法によって確からしいN次元特性曲面を回帰推定する。このようにすることで、繰り返しシミュレーションの回数が少ないために個々の測定点における期待値や偏差の正確性が低くても、STAではタイミングライブラリに含まれている統計処理情報Sから信頼区間を算出することができる。さらにSTAでは離散的な期待値や偏差から、統計的な推定で確からしく回帰することができる。つまり、1つ1つの測定点の計算値が誤差を含んでも、複数の測定点と信頼区間から補正・補完されるので、誤差の影響を小さくすることができる。なお、実施形態において、期待値TDsが確定的に求められた場合にはTDsには統計処理情報Sは含まれない。また回帰推定についてはパラメトリック、あるいはノンパラメトリックな手法のどちらを用いてもよい。
【0027】
図8に、タイミングライブラリ1で定義されたパラメータPと信号伝搬時間TDの関係の例を示す。図2と同様、実際には「パラメータの数N+1」次元のグラフであり、本図はその2次元断面図である。黒丸は伝搬時間テーブルに記載されたパラメータPの測定点における信号伝搬時間の期待値と偏差を示している。それらを結んだ破線の期待値特性曲面C0、第1偏差特性曲面C1、第2偏差特性曲面C2の凹凸は、シミュレーションの回数が少ないことに起因して期待値と偏差の誤差が大きいことを示している。また図8に、タイミングライブラリ1で定義された統計処理情報Sを用いて算出された信号伝搬時間TDの期待値と偏差の統計的信頼区間をエラーバーで示した。更に、それらの統計的信頼区間から統計的解析手法で回帰推定された3つのN次元特性曲面である補正期待値特性曲面C00、第1補正偏差特性曲面C10、第2補正偏差特性曲面C20を実線で示す。図8では簡便のため、信頼係数pは1としている。
【0028】
以上に説明したように、実施形態に係るタイミングライブラリ1を使用することにより、STAにおいて統計処理情報Sを用いてN次元のライブラリテーブルの測定点それぞれが持つ信頼区間を算出し、さらに測定点を確からしく補正・補完した回帰曲面を推定することができる。例えば、論理セルの電気的特性が信号伝搬時間であるタイミングライブラリ1を使用するSTAでは、従来の期待値特性曲面C0、第1偏差特性曲面C1、第2偏差特性曲面C2よりも、より滑らかで確からしい補正期待値特性曲面C00、第1補正偏差特性曲面C10、第2補正偏差特性曲面C20を得ることができる。その結果、生産性に優れるが正確性に劣ったライブラリを用いても、正確性が高いSTAを実行することができる。
【0029】
統計的信頼区間を表す統計処理情報には、例えば繰り返しシミュレーションの手法や繰り返し回数を用いてもよい。図9に、繰り返しシミュレーションとしてモンテカルロ法(「MC法」と表記。)を用い、その繰り返し回数は1024回であり、dTDについて標準偏差(「StdDeV」と表記。)を採用したことを統計処理情報として定義した例を示す。このように繰り返しシミュレーションの種類やその回数を示すことにより、STAでは信頼区間を算出することができる。
【0030】
タイミングライブラリ1は、例えば図10に示したライブラリ作成装置10を用いて作成される。ライブラリ作成装置10は、ライブラリ作成用演算装置11、ライブラリ作成用記憶装置12を備える。例えば、単位回路が論理セルであり、電気的特性が信号伝搬時間である。
【0031】
ライブラリ作成用演算装置11は、シミュレータ111、ライブラリ情報作成部112を含む。
【0032】
シミュレータ111は、タイミングライブラリを作成する対象の論理セル(以下、「対象論理セル」とも称する。)のバラツキ成分を含む素子モデルを用いた繰り返しシミュレーションを実行する。繰り返しシミュレーションは、例えばモンテカルロシミュレーションであってもよい。シミュレータ111は、統計処理情報に従って繰り返しシミュレーションを実行して、対象論理セルの電気的特性の期待値およびその偏差を算出する。
【0033】
ライブラリ情報作成部112は、繰り返しシミュレーションにより算出されたシミュレーション結果から、タイミングライブラリ1に格納するタイミングライブラリ情報を作成する。例えば、ライブラリ情報作成部112は、素子モデルを用いた繰り返しシミュレーションにより算出された対象論理セルの信号伝搬時間の期待値およびその偏差を、統計処理情報と共にライブラリ化する。
【0034】
ライブラリ作成用記憶装置12は、素子モデル記憶領域121、シミュレーション条件記憶領域122、シミュレーション結果記憶領域123、ライブラリ情報記憶領域124を含む。
【0035】
素子モデル記憶領域121に、対象論理セルのバラツキ成分を含む素子モデルが格納される。シミュレーション条件記憶領域122に、素子モデルを用いた繰り返しシミュレーションで使用されるシミュレーション条件が格納される。シミュレーション条件は、パラメータPの測定点の情報や、電気的特性の偏差の統計的信頼区間を表す統計処理情報を含む。統計処理情報は、例えば繰り返しシミュレーションの種類と繰り返し回数である。シミュレーション結果記憶領域123は、シミュレータ111が算出したシミュレーション結果が記憶される。シミュレーション結果は、パラメータPの複数の測定点それぞれの対象論理セルの電気的特性の期待値および偏差を含む。ライブラリ情報記憶領域124に、ライブラリ情報作成部112が作成したタイミングライブラリ情報が格納される。
【0036】
タイミングライブラリ作成者は、ライブラリ作成装置10の入力装置13より入出力データを指定できる。例えば、タイミングライブラリ作成者は、対象論理セルおよびパラメータPの測定点、シミュレーション条件などを指定できる。更に、入力装置13より出力データの形態などを設定することも可能で、また、タイミングライブラリ作成の実行や中止などの指示の入力も可能である。入力装置13はキーボード、マウス、ライトペンまたはフレキシブルディスク装置などで構成される。
【0037】
作成されたタイミングライブラリ情報は、ライブラリ作成装置10の出力装置14から出力可能である。出力装置14としては、タイミングライブラリ1を格納する記憶装置との間でデータ転送が可能なインターフェース、或いはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体にタイミングライブラリ情報を保存する記憶装置などが使用可能である。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、例えばコンピュータの外部メモリ装置、半導体メモリなどの電子データを記憶することができるような媒体などを意味する。
【0038】
ライブラリ作成装置10を用いたタイミングライブラリ1の作成方法の例を、図11を参照して説明する。
【0039】
まず、ステップS11において、シミュレータ111が、対象論理セルのバラツキ成分を含む素子モデルを素子モデル記憶領域121から読み出す。更に、シミュレータ111が、繰り返しシミュレーションで使用されるシミュレーション条件をシミュレーション条件記憶領域122から読み出す。そして、シミュレータ111が、読み出した素子モデルを使用する繰り返しシミュレーションをシミュレーション条件に従って実行し、対象論理セルのパラメータPの測定点における電気的特性の期待値TDsおよび期待値TDsの偏差dTDを算出する。例えば、シミュレータ111は、パラメータPの複数の測定点における信号伝搬時間の期待値TDsと偏差dTDをそれぞれ算出する。パラメータPごとに算出された対象論理セルの電気的特性の期待値TDsおよび偏差dTDは、シミュレーション結果記憶領域123に格納される。更に、シミュレータ111は、繰り返しシミュレーションに適用したシミュレーション条件に関する統計処理情報を、シミュレーション結果記憶領域123に格納する。
【0040】
次に、ステップS12において、ライブラリ情報作成部112が、シミュレーション結果記憶領域123から対象論理セルについて算出された電気的特性の期待値TDsおよび偏差dTDを読み出す。更に、ライブラリ情報作成部112は、シミュレーション結果記憶領域123から統計処理情報を読み出す。そして、ライブラリ情報作成部112は、対象論理セルのパラメータPに対する電気的特性の期待値TDsと偏差dTD、および統計処理情報を含むタイミングライブラリ情報を作成する。例えば、ライブラリ情報作成部112は、図1に示すタイミングライブラリ1を定義するライブラリテーブルを作成する。対象論理セルに影響するパラメータPの数がN個である場合には、例えばN個のパラメータPを項目とするN次元のライブラリテーブルが作成される。作成されたタイミングライブラリ情報は、ライブラリ情報記憶領域124に格納される。
【0041】
図11に示した一連のタイミングライブラリ1の作成方法は、図11と等価なアルゴリズムの制御プログラムにより、図10に示したライブラリ作成装置10を制御して実行できる。ライブラリ作成装置10を制御する命令を実行させる制御プログラムは、ライブラリ作成装置10を構成するライブラリ作成用記憶装置12に記憶させればよい。ライブラリ作成用記憶装置12は、非一時的なコンピュータ可読媒体として使用可能である。
【0042】
上記では、バラツキ成分を含む素子モデルにより電気的特性の期待値と偏差を算出する場合を説明したが、電気的特性の期待値は、バラツキ成分を含まない素子モデルにより確定的に算出してもよい。
【0043】
なお、信号伝搬時間などの電気的特性に変曲点を持つ論理セルの場合には、STAで測定点の間を補完や推定するため、変曲点の近傍の測定点を多くすることが好ましい。このため、タイミングライブラリ1に定義された論理セルの電気的特性に変曲点が存在することをシミュレータ111が検知した場合には、変曲点の近傍の測定点を増やしてもよい。また、測定点を増やすと共に繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を減らしてもよい。これにより、論理セルの電気的特性に変曲点がある場合のタイミングライブラリ1の作成時間の増大を抑制することができる。
【0044】
以上に説明したタイミングライブラリ1の作成方法によれば、繰り返しシミュレーションの繰り返し回数などの、統計的信頼区間を表す統計処理情報が含まれるタイミングライブラリ1が作成される。このタイミングライブラリ1の特徴は、ライブラリに適宜された電気的特性について統計的信頼区間を算出する手段をSTAなどの解析装置や解析方法に与えることである。
【0045】
以下に、タイミングライブラリ1を使用したSTAについて説明する。例えば、単位回路は論理セルであり、電気的特性は信号伝搬時間である。STAは、例えば図12に示した解析装置20によって実行される。解析装置20は、解析用演算装置21、解析用記憶装置22を備える。タイミングライブラリ1には、解析対象の半導体集積回路(以下、「解析対象回路」とも称する。)に含まれる論理セルの電気的特性の期待値TDsとその偏差dTD、および統計処理情報を含むタイミングライブラリ情報が含まれる。
【0046】
解析用演算装置21は、信頼区間算出部211、回帰曲線推定部212、算出部213、解析部214を備える。
【0047】
信頼区間算出部211は、タイミングライブラリ1に定義された統計処理情報と、STAにおいて要求される確度(以下、「要求確度」とも称する。)を用いて、パラメータPの複数の測定点のそれぞれについて統計的信頼区間を算出する。例えば、統計処理情報は、タイミングライブラリ1の作成のために実行した繰り返しシミュレーションの種類と繰り返し回数である。要求確度は、例えば3σである。
【0048】
回帰曲線推定部212は、要求確度を満たすように、統計的手法を用いて複数の測定点の統計的信頼区間を回帰する回帰曲線を推定する。簡便のため回帰曲線と呼称するが、実際には、パラメータPの個数がNであればN次元の曲面である。例えば、回帰曲線推定部212は、信号伝搬時間の期待値TDs、偏差dTDおよび統計的信頼区間から、期待値TDsより伝搬時間が長い偏差と短い偏差の回帰曲線をそれぞれ回帰・推定する。つまり回帰曲線推定部212は、例えば図8に示すように、ジグザグな曲線の第1偏差特性曲面C1および第2偏差特性曲面C2を、統計的解析手法により滑らかな曲線の第1補正偏差特性曲面C10および第2補正偏差特性曲面C20に確からしく補正する。
【0049】
算出部213は、解析対象回路の回路情報を用いて論理セルのパラメータPの値を設定する。そして、算出部213は、回帰曲線推定部212によって推定された回帰曲線を使って、論理セルのそれぞれの電気的特性を算出する。例えば、算出部213は、回帰曲線を使って解析対象回路の信号伝搬時間を算出する。
【0050】
解析部214は、算出部213によって算出された電気的特性を用いて、解析対象回路の動作を解析する。解析部214により、解析対象回路が正常に動作するか否かが検証される。例えば、解析部214は、算出部213によって算出された信号伝搬時間を用いて、解析対象回路のフリップフロップの動作がタイミング制約に違反しているか否かを検証する。
【0051】
解析用記憶装置22は、回路情報記録領域221、解析条件記憶領域222、信頼区間記憶領域223、回帰曲線記憶領域224、算出結果記憶領域225、解析結果記憶領域226を備える。
【0052】
回路情報記録領域221に、解析対象回路の回路情報が格納される。回路情報には、半導体集積回路に含まれる論理セルの種類やレイアウト情報、論理セル間の電気的な接続情報、論理セルと外部端子の間の電気的な接続情報などの、STAで使用する情報が含まれる。
【0053】
解析条件記憶領域222に、STAを実行する際の解析条件が格納される。解析条件には、解析対象回路を動作させる際のクロック信号の設定、信号の電圧レベルや電源電圧、周囲温度、解析対象回路が正常に動作するためのタイミング制約などが含まれる。また、解析条件は、STAにおいて要求される要求確度を含む。
【0054】
信頼区間記憶領域223に、信頼区間算出部211が算出した統計的信頼区間が格納される。回帰曲線記憶領域224に、回帰曲線推定部212が推定した回帰曲線が格納される。算出結果記憶領域225に、算出部213による算出結果が格納される。解析結果記憶領域226に、解析部214による解析結果が格納される。
【0055】
解析装置20で使用されるデータは、解析装置20の入力装置23から入力される。STAを実行する解析者は、入力装置23より入出力データを指定できる。例えば、解析者は、解析対象回路の回路情報などを指定できる。更に、入力装置23より出力データの形態などを設定することも可能で、また、解析の実行や中止などの指示の入力も可能である。入力装置23はキーボード、マウス、ライトペンまたはフレキシブルディスク装置などで構成される。
【0056】
出力装置24は、STAの結果を出力する。出力装置24としては、ディスプレイやプリンタ、或いはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に解析の結果を保存する記憶装置などが使用可能である。
【0057】
解析装置20を用いたSTAの例を、図13を参照して以下に説明する。
【0058】
まず、ステップS21において、信頼区間算出部211が、解析対象回路の回路情報を回路情報記録領域221から読み出す。更に、信頼区間算出部211は、要求確度を解析条件記憶領域222から読み出す。そして、信頼区間算出部211は、解析対象回路に含まれる論理セルのそれぞれについて、タイミングライブラリ1を参照して得られる統計処理情報とSTAの要求確度から、パラメータPの複数の測定点のそれぞれについて統計的信頼区間を算出する。算出された統計的信頼区間は、信頼区間記憶領域223に格納される。
【0059】
ステップS22において、回帰曲線推定部212が、信頼区間記憶領域223から統計的信頼区間を読み出し、解析条件記憶領域222から要求確度を読み出す。回帰曲線推定部212は、要求確度を満たすように、統計的手法を用いて複数の測定点の統計的信頼区間を回帰する回帰曲線を論理セルのパラメータPごとに推定する。推定された回帰曲線は、回帰曲線記憶領域224に格納される。STAにおける統計的解析手法として、例えばノンパラメトリック推定法やパラメトリック推定などを使用してもよい。
【0060】
ステップS23において、算出部213が、解析対象回路の回路情報を回路情報記録領域221から読み出し、論理セルの回帰曲線を回帰曲線記憶領域224から読み出す。算出部213は、解析対象回路の回路情報を用いて論理セルのパラメータPの値を設定し、解析対象回路を構成する論理セルのそれぞれについて、期待値と回帰曲線を使って論理セルの電気的特性を算出する。算出された電気的特性は、算出結果記憶領域225に格納される。例えば、算出部213により算出された信号伝搬時間が算出結果記憶領域225に格納される。
【0061】
ステップS24において、解析部214が、電気的特性を算出結果記憶領域225から読み出し、解析条件を解析条件記憶領域222から読み出す。解析部214は、解析条件を参照して解析対象回路の動作を解析する。解析結果は、解析結果記憶領域226に格納される。解析者は、出力装置24を介して解析結果を確認できる。
【0062】
図13に示した一連の半導体集積回路の解析方法は、図13と等価なアルゴリズムの制御プログラムにより、図12に示した解析装置20を制御して実行できる。解析装置20を制御する命令を実行させる制御プログラムは、解析装置20を構成する解析用記憶装置22に記憶させればよい。解析用記憶装置22は、非一時的なコンピュータ可読媒体として使用可能である。
【0063】
以上に説明したように、実施形態に係る解析方法では、半導体集積回路を構成する個々の単位回路の電気的特性の算出に、タイミングライブラリ1に定義された期待値と偏差を用いて推定される回帰曲線を使用する。このため、繰り返しシミュレーションの繰り返し回数を増やしてタイミングライブラリの開発期間を増大することなく、STAの正確性を向上させることができる。つまり、STAの正確性を低下させることなく、繰り返し回数を減らしてタイミングライブラリの開発期間を短縮できる。
【0064】
(その他の実施形態)
電気的特性の期待値TDsは、バラツキ成分を含まない素子モデルにより確定的に算出してもよい。例えば図14に示すように、シミュレーションの繰り返しがないことを意味する「NA」が統計処理情報に定義されていることにより、期待値は繰り返しシミュレーションによらず、確定的に求めたことが表される。
【0065】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1…タイミングライブラリ
10…ライブラリ作成装置
11…ライブラリ作成用演算装置
12…ライブラリ作成用記憶装置
20…解析装置
21…解析用演算装置
22…解析用記憶装置
111…シミュレータ
112…ライブラリ情報作成部
211…信頼区間算出部
212…回帰曲線推定部
213…算出部
214…解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14