特開 2024-118681 ココアペースト、食品用生地及び食品

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024118681

(43)【公開日】2024-09-02

(54)【発明の名称】ココアペースト、食品用生地及び食品

(51)【国際特許分類】

   A23G 1/00 20060101AFI20240826BHJP

   A23D 9/00 20060101ALI20240826BHJP

   A21D 13/00 20170101ALI20240826BHJP

   A23L 5/00 20160101ALI20240826BHJP

【ＦＩ】

A23G1/00

A23D9/00 502

A21D13/00

A23L5/00 K

【審査請求】有

【請求項の数】9

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023025098

(22)【出願日】2023-02-21

(11)【特許番号】

(45)【特許公報発行日】2024-06-14

(71)【出願人】

【識別番号】391005569

【氏名又は名称】東京フード株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100112874

【弁理士】

【氏名又は名称】渡邊 薫

(72)【発明者】

【氏名】横山 典枝

(72)【発明者】

【氏名】中島 克也

【テーマコード（参考）】

4B014

4B026

4B032

4B035

【Ｆターム（参考）】

4B014GG06

4B014GG14

4B014GK05

4B014GL07

4B014GL10

4B014GP01

4B014GP12

4B026DC02

4B026DC06

4B026DG02

4B026DG04

4B026DG05

4B026DG07

4B026DK05

4B026DL03

4B026DL05

4B026DL10

4B026DP01

4B032DB01

4B032DG02

4B032DK03

4B032DK12

4B032DK18

4B032DK26

4B032DK34

4B032DK43

4B032DK45

4B032DK47

4B032DK54

4B032DK70

4B032DP08

4B032DP25

4B032DP26

4B032DP33

4B032DP40

4B032DP60

4B032DP71

4B035LC03

4B035LG12

4B035LG13

4B035LG19

4B035LG33

4B035LK02

4B035LP21

(57)【要約】

【課題】
本技術は食品に含有させたときにチョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減とを両立するココアペーストを提供することを目的とする。
【解決手段】
本技術は、ココアペースト中に特定の液体油脂を含ませ、ココアペースト中の固体油脂の割合を調整することが、チョコレートらしい濃い色調の食品の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減との両立に有用であることを見出した。本技術に従うココアペーストは、例えば食品用生地に使用されてもよく、穀粉含有食品に使用されてもよい。本技術のココアペーストを用いて、食品用生地や穀粉含有食品を製造することでチョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減とを両立し得る。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】

【請求項1】

ココアペースト中に、
ココアパウダーを４０～８０質量％と、
油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が７０％以上である液体油脂を２０～６０質量％と、を含み、
融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合が１５質量％以下である穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項2】

前記ココアパウダー中に含まれる前記固体油脂の割合が２０質量％以下である、請求項１に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項3】

前記ココアペースト中の総油分量は３０質量％以上６５質量％以下である、請求項１に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項4】

前記ココアペースト中の総油分量の油脂を構成する脂肪酸１００％に対する前記不飽和脂肪酸の割合が６８％以上である、請求項３に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項5】

前記ココアペースト中に含まれる脂肪酸中の炭素数１２以下の脂肪酸の割合が３質量％以下である、請求項１に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項6】

前記炭素数１２以下の脂肪酸がラウリン酸である、請求項５に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。

【請求項7】

請求項１から６のいずれか１項に記載の穀粉含有食品用ココアペーストと穀粉とを少なくとも含有する食品用生地。

【請求項8】

請求項７に記載の食品用生地を加熱処理した食品。

【請求項9】

請求項１から６のいずれか１項に記載の穀粉含有食品用ココアペーストを含む穀粉含有食品。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本技術は、ココアペースト、ココアペーストを含有する食品用生地及び食品に関する。

【背景技術】

【0002】

食品市場において、チョコやココア風味の食品が広く流通している。チョコやココア風味の食品においてチョコレートらしい色を再現することは商品価値の上で重要である。しかし、食品の生地にカカオマスや主にカカオマスから作られるチョコレートが練りこまれると、練りこんだ元のカカオマスやチョコレートと比べて、チョコレートらしい色が大幅に薄くなる。

【0003】

このため、チョコやココア風味の食品においてチョコレートらしい色合を再現するというのは実は難しい課題である。この課題を解決するためにココアパウダーやココアパウダーを含むココアペーストが使用されている。

【0004】

ココアパウダーは製造過程でアルカリ処理を行うことで色調が強く暗色が濃くなっていく。このため、カカオマスや主にカカオマスから作られるチョコレートよりも食品の生地に練りこんだ際にチョコレートらしい色が出やすい。また、アルカリ処理の度合いによって黒っぽい色調から茶色い色調まで調整できる。このため、ココアパウダーの選定や色調の異なるココアパウダーを組み合わせることで、食品の色調を調整できる。

【0005】

ココアパウダーは食品生地の色調を出すのに好ましい反面、添加によって焼成後の生地にパサつきなどの食感の悪化が起こることも言われている。

【0006】

ココアパウダーを用いた食品用生地練り込み用の油脂組成物の技術に関して、例えば、下記特許文献１には、「ココアパウダー４０質量％以上と油脂とを含む油脂組成物」が開示されているが、少なくとも食品の食感の改善を目的とするものではない。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0007】

【特許文献1】特開２０１３－１４３９２６号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0008】

そこで、本技術は食品に含有させたときにチョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減とを両立するココアペーストを提供することを主目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0009】

本発明者らは鋭意研究した結果、ココアペースト中に特定の液体油脂を含ませ、ココアペースト中の固体油脂の割合を調整することが、ココアペーストを食品に含有させたときのチョコレートらしい濃い色調の再現とパサつきなどの食感の悪化の軽減との両立に有用であることを見出した。

【0010】

すなわち、本技術は以下を提供する。
［１］ココアペースト中に、ココアパウダーを４０～８０質量％と、油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が７０％以上である液体油脂を２０～６０質量％と、を含み、融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合が１５質量％以下である穀粉含有食品用ココアペースト。
［２］前記ココアパウダー中に含まれる前記固体油脂の割合が２０質量％以下である、［１］に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。
［３］前記ココアペースト中の総油分量は３０質量％以上６５質量％以下である、［１］又は［２］に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。
［４］前記総油分量の油脂を構成する脂肪酸１００％に対する前記不飽和脂肪酸の割合が６８％以上である、［３］に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。
［５］前記ココアペースト中に含まれる脂肪酸中の炭素数１２以下の脂肪酸の割合が３質量％以下である、［１］から［４］のいずれか１つに記載の穀粉含有食品用ココアペースト。
［６］前記炭素数１２以下の脂肪酸がラウリン酸である、［５］に記載の穀粉含有食品用ココアペースト。
［７］［１］から［６］のいずれか１つに記載の穀粉含有食品用ココアペーストと穀粉とを少なくとも含有する食品用生地。
［８］［７］に記載の食品用生地を加熱処理した食品。
［９］［１］から［６］のいずれか１つに記載の穀粉含有食品用ココアペーストを含む穀粉含有食品。

【発明の効果】

【0011】

本技術に従う穀粉含有食品用ココアペーストは、チョコレートらしい濃い色調の穀粉含有食品の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減との両立に有用である。
本技術に従う穀粉含有食品用ココアペーストは、例えば穀粉を含有する食品用生地の原料として使用されてもよい。当該食品用生地を用いて穀粉含有食品を製造する場合、チョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減とを両立した穀粉含有食品を提供できる。
本技術に従う穀粉含有食品用ココアペーストは、例えば穀粉含有食品の原料として使用されてもよい。当該穀粉含有食品はチョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減とを両立し得る。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。

【発明を実施するための形態】

【0012】

以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができる。

【0013】

本技術の穀粉含有食品用ココアペースト（以下、本明細書においては、単に「ココアペースト」）は、ココアパウダーを４０～８０質量％含有するとともに、油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が７０％以上である液体油脂（以下、本明細書において、「不飽和脂肪酸高含有液体油脂」）を２０～６０質量％含む。

【0014】

本技術のココアペーストは、常温において、油脂を主成分とする溶媒中にココアパウダー等に含まれる固形分が分散した状態をとっている。

【0015】

本技術のココアペーストは、該ココアペースト中の融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合は１５質量％以下である。ここで、当該固体油脂はココアパウダー中に含まれる固体油脂と前記ココアパウダーとは独立して該ココアペースト中に存在する固体油脂の両方を含む。また、穀粉含有食品用ココアペースト中の水分は４％以下であることが好ましく、３％以下であることがさらに好ましい。

【0016】

本技術はココアペーストとすることで、穀粉含有食品の製造時にココアパウダー等の粉が舞うことにより、同一空間で製造している他製品に混入してしまうリスクを低減できる。

【0017】

ここで、本技術において「液体」とは一定の体積を有するが、一定の形状を持たず流動的に変形しうる状態をいい、「液体油脂」とは、当該状態の油脂をいう。また、本技術において「固体」とは一定の形状と体積を持ち、外から力を加えても容易に該形状と体積が変形しない状態をいい、「固体油脂」とは、当該状態の油脂をいう。さらに、本技術において「融点」はＪＡＳ１４２４で定める方法に基づき測定した融点をいう。

【0018】

本技術のココアペーストは、ココアパウダーを４０質量％以上含有するため、本技術のココアペーストを穀粉含有食品に含有させた場合にチョコレートらしい濃い色調を実現し得る。

【0019】

また、不飽和脂肪酸高含有液体油脂を２０～６０質量％含むとともに、該ココアペースト中の融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合は１５質量％以下とすることで、ココアペースト中の液体油脂と固体油脂のバランスを調整し、穀粉含有食品に本技術のココアペーストを含有させたときの該穀粉含有食品のパサつきや食べたときに感じる硬さなどの食感の悪化を低減できる。

【0020】

本技術のココアペースト中の総油分量は、例えば３０質量％以上、好ましくは３５質量％以上とすることで食品用生地への混合しやすくなる。また、ココアペースト中の総油分量の上限は、例えば６５質量％以下、好ましくは６０質量％以下とすることでココアパウダーに含まれる無脂カカオ分を十分に含有させることができる。

【0021】

ここで、総油分量における「総油分」とはココアペースト中に含まれる油脂を合計したものであり、油脂として配合される油脂分の他、ココアパウダーなどに含有される油脂分も含む。

【0022】

さらに、本技術のココアペースト中の総油分量を１００質量％とした場合、当該総油分量に対し、不飽和脂肪酸高含有液体油脂を３５～１００質量％、より好ましく３８～１００質量％、さらに好ましく４０～１００質量％含み、かつ融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂が３３質量％以下、より好ましく３０質量％以下である。

【0023】

以下で、本技術についてより詳細に説明する。

【0024】

（１）穀粉含有食品
本技術のココアペーストは、穀粉含有食品を製造するために用いられる。本技術のココアペーストが用いられる穀粉含有食品は特に限定されないが、例えば、パン（食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなど）、イースト菓子（シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツなど）、ペストリー（デニッシュ、クロワッサン、パイなど）、ケーキ（バターケーキ、スポンジ、ビスケット、クッキー、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフルなど）等のベーカリー製品、和菓子（饅頭、乳菓、蒸しパン、かすてら饅頭、どら焼き、など）、麺類（うどん、そば、中華めん、パスタなど）、点心生地（餃子、焼売、饅頭、ワンタン、春巻きなど）等が挙げられる。本技術のココアペーストをこれらの食品の原料として用いることで、チョコレートらしい濃い色調を実現させた場合においても、該穀粉含有食品のパサつきや食べたときに感じる硬さなどの食感の悪化を低減することが期待できる。本技術のココアペーストは、上記食品の中でも特に、パンやペストリー等の製造で好適に用いることが期待できる。

【0025】

本技術のココアペーストが用いられる穀粉含有食品が含有する穀粉は、特に限定されないが、例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、ライ麦、そば、大豆粉等の穀粉類を１種又は２種以上を組み合わせて混合したものが挙げられる。

【0026】

本技術のココアペーストが用いられる穀粉含有食品の製造方法としては、特に限定される訳ではないが、本技術のココアペーストと穀粉とを少なくとも含有する食品用生地を加熱処理することで好適に製造することができる。

【0027】

本技術のココアペーストと穀粉とを含有する食品用生地の製造方法は、例えば、前述の穀粉類を含有する食品用生地に対し、本技術のココアペーストを練り込んで混合させてもよいし、本技術のココアペーストと前記穀粉類とを混合した後に食品用生地を製造してもよい。

【0028】

本技術のココアペーストと穀粉とを含有する食品用生地は、そのまま穀粉含有食品の製造に用いてもよいが、冷蔵又は冷凍した後に穀粉含有食品の製造に用いることもできる。本技術のココアペーストと穀粉とを少なくとも含有する食品用生地を冷蔵又は冷凍した場合には、在庫としての保管が容易になると共に、該生地や該生地を用いて製造した食品を商品として市場に流通させることもできる。

【0029】

本技術のココアペーストの食品用生地への配合量としては、穀粉１００質量部に対し、例えば３～３０質量部が好ましく、５～２５質量部がさらに好ましく、５～２０質量部が特に好ましい。

【0030】

（２）ココアパウダー
本技術のココアペーストが含有するココアパウダーは、例えば、カカオ豆を焙煎・磨砕したカカオマスから、搾油によりココアバターの含有量を低減した後、微粉化したものを用いることができる。前記ココアパウダーは、後述する固体油脂であるココアバターとココアバター以外の成分である無脂カカオ分からなる。

【0031】

ココアパウダー中のココアバターの含有量は、搾油条件によって調整できる。ココアバター含有量の多いものでは２３質量％程度、少ないもので１１質量％程度である。また、ココアバター含有量の異なるココアパウダーを組み合わせることでも、ココアパウダー中のココアバター含有量を調整することができる。ココアパウダー中に含まれるココアバターの含有量が２０質量％以下、さらにこのましく１７質量％以下であると、本技術のココアペースト中の融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合を１５質量％以下に調整することが容易となる。

【0032】

ココアパウダー中のココアバターの含有量の下限値は、ココアペースト中の融点３０℃以上である２５℃で固体の固体油脂の割合を１５質量％以下に調整でき得る含有量であれば、特に限定されないが、例えば１０質量％程度であっても好適に用いることができる。

【0033】

本技術のココアペーストに用いるココアパウダーは、アルカリ処理を行ったものを用いてもよい。ココアパウダーにアルカリ処理を行うことでアルカリ処理によりココアパウダーの色調が強く暗色が濃くなるため、食品に含有させた場合に、カカオマスや主にカカオマスから作られるチョコレートを含有させる場合よりも、該食品がチョコレートらしい色合いになることが期待できる。

【0034】

また、アルカリ処理の度合いによって黒っぽい色調から茶色い色調まで調整できるため、アルカリ処理の度合いを調整したココアパウダーを選定したり、それらを組み合わせることで対象とする食品の色調を調整できる。

【0035】

アルカリ処理の方法としては、通常用いられる方法を好適に使用できる。例えば、カカオ豆の加工過程でカカオニブをアルカリ水溶液と混合して行う。 使用するアルカリ剤としては例えば、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、水酸化アンモニウム等を別々にまたは混合して使用することができる。使用するアルカリ剤とその濃度は、目的のココアパウダーの特性と目的とする色調に合わせて適宜、調整できる。

【0036】

本技術のココアペーストのｐＨは、実質的に用いるココアパウダー及びカカオマスに依存し、ココアパウダーのｐＨは前述のアルカリ処理によって調整される。例えば、ｐＨ６．２以上、好ましくは６．５以上、さらに好ましくは６．７以上と、アルカリ処理を強く調整することで、ココアペーストを含有させた食品の色調が濃くなり、チョコレートらしい色に調整しやすくなる。但し、ココアパウダーのｐＨが高すぎる場合には食感が硬くなるおそれがある。このため、例えば、ｐＨ７．９以下、好ましくはｐＨ７．７以下、さらに好ましく、ｐＨ７．５以下とすることで、ココアパウダーを含有させた食品の食感が硬くなり過ぎることを抑制できる。

【0037】

本技術のココアペーストのｐＨについては、例えば、アルカリ処理の度合い、使用するココアパウダーの選定、複数のココアパウダーのブレンドにより上記範囲に調整することができる。

【0038】

本技術におけるココアペーストのｐＨはココアペースト、ココアパウダー又はカカオマスを水で希釈して、ｐＨメーターなど一般的なｐＨを測定する方法で測定することができる。

【0039】

（３）不飽和脂肪酸高含有液体油脂
本技術のココアペーストは、不飽和脂肪酸高含有液体油脂を２０～６０質量％含有することが好ましく、２０～５５質量％含有することがさらに好ましく、２０～５０質量％含有することが特に好ましい。

【0040】

ここで、不飽和脂肪酸とは、脂肪族モノカルボン酸であって、分子中に二重結合を１つ以上有する化合物をいい、例えば、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸等のモノ不飽和脂肪酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸等のトリ不飽和脂肪酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸等のテトラ不飽和脂肪酸、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸等のペンタ不飽和脂肪酸、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸等が挙げられる。

【0041】

本技術のココアペーストが含有する不飽和脂肪酸高含有液体油脂は、該液体油脂が含有する全ての油脂（トリアシルグリセロール／脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物）を構成する全ての脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸の比率は７０％以上、好ましくは７２％以上、さらに好ましくは７４％以上である。

【0042】

本技術のココアペーストは、前記不飽和脂肪酸高含有液体油脂を前述の範囲で含み、ココアペースト中の融点３０℃以上である２５℃で固体の固体油脂の割合は１５質量％以下とすることで、本技術のココアペーストを食品に含有させた場合にチョコレートらしい濃い色調を実現するとともに、パサつきなどの食感の悪化を軽減できる。

【0043】

本技術のココアペーストが含有する不飽和脂肪酸高含有液体油脂の、該液体油脂が含有する全ての油脂を構成する全ての脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸の比率の上限は特に限定されないが、例えば、１００％以下、好ましくは９８％以下、さらに好ましくは９６％以下である。

【0044】

本技術のココアペーストが含有する不飽和脂肪酸高含有液体油脂は、油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が７０％以上であることが好ましく、当該不飽和脂肪酸高含有液体油脂が含有する油脂は単独の油脂であってもよく、複数の油脂の組み合わせであってもよい。

【0045】

なお、上記の不飽和脂肪酸高含有液体油脂が含有する油脂を構成する不飽和脂肪酸は、１種の不飽和脂肪酸であってもよく、複数の不飽和脂肪酸であってもよい。また、液体油脂が複数の油脂を含有する場合においては、該複数の油脂はそれぞれ、油脂を構成する不飽和脂肪酸が１種の不飽和脂肪酸であってもよく、複数の不飽和脂肪酸の組み合わせであってもよい。

【0046】

本技術のココアペーストが含有する不飽和脂肪酸高含有液体油脂が含有する油脂は、液体油脂として油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が７０％以上を満たすものであれば特に制限されるものではないが、「分子を構成する脂肪酸の炭素数の合計が４８～５４で、当該分子中のいずれかの脂肪酸の部位に二重結合が合計で２以上あるトリアシルグリセロール」（以下、「高不飽和TG」）を好適に用いることができる。

【0047】

ここで、上記の「分子中のいずれかの脂肪酸の部位に二重結合が合計で２以上ある」とは、トリアシルグリセロールがジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸等の一つの脂肪酸として二重結合を２以上含むものを１つ以上有する場合だけでなく、トリアシルグリセロールがモノ不飽和脂肪酸を２つ以上有することで分子内の二重結合が合計で２以上となる場合も含む。

【0048】

本技術のココアペーストが含有する不飽和脂肪酸高含有液体油脂としては、例えば、米油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、サフラワー油、落花生油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、当該不飽和脂肪酸高含有液体油脂は一種類の油脂のみからなるものを用いてもよく、複数種の油脂を混合させたものを用いてもよい。

【0049】

さらに、本技術のココアペーストにおいて、該ココアペースト中の総油分量を１００質量％とした場合、当該総油分量の油脂を構成する脂肪酸１００％に対する前記不飽和脂肪酸の割合が６８％以上、好ましくは７０％以上とすることで、本技術のココアペーストを食品に含有させた場合にチョコレートらしい濃い色調を実現するとともに、パサつきなどの食感の悪化を軽減できる。

【0050】

この場合、前記総油分量の油脂を構成する脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸の割合の上限は特に制限されるものでは無いが、例えば、１００％以下、好ましくは９８％以下、さらに好ましくは９５％以下である。

【0051】

本技術において油脂中の不飽和脂肪酸および飽和脂肪酸の割合は、例えば、基準油脂分析試験法（社団法人日本油化学会）の「２．４．２．３－２０１３ 脂肪酸組成（キャピラリーガスクロマトグラフ法）」に準じて好適に測定することができる。

【0052】

測定された不飽和脂肪酸および飽和脂肪酸の合計を、油脂を構成する脂肪酸とし、該脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸の割合を算出することができる。

【0053】

（４）固体油脂
本技術のココアペーストは、ココアペースト中に含まれる融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合が１５質量％以下とすることが好ましく、１３質量％以下とすることがさらに好ましく、１１質量％以下とすることが特に好ましい。

【0054】

ココアペースト中に含まれる融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合が上記となることで、不飽和脂肪酸高含有液体油脂により、本技術のココアペーストを含有させた食品の食感の悪化を効果的に軽減できる。

【0055】

ココアペースト中に含まれる融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂の割合が１５質量％以下とする方法としては、ココアパウダーと独立してココアペースト中に存在する固体油脂の割合を調整すること、又は、ココアパウダーのココアバター含有量を考慮してココアパウダーの選定・組み合わせを行い調整することが挙げられる。

【0056】

融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂としては、前記ココアバターの他に、例えば、パーム核硬化油、パーム硬化油、パームステアリン、ココアバター代用脂等が挙げられる。

【0057】

本技術のココアペーストにおいては、融点３０℃以上である、２５℃で固体の固体油脂としては、パーム核硬化油等の炭素数１２以下の脂肪酸を一定割合含有する油脂を用いることもできるが、ココアペースト中に含まれる脂肪酸中の炭素数１２以下の脂肪酸の割合は、３質量％以下が好ましく、２質量％以下とすることがさらに好ましい。

【0058】

本技術のココアペーストにおいては、ココアペースト中の炭素数１２以下の脂肪酸を上記割合以下に調整することで、炭素数１２以下の脂肪酸の加水分解による異臭の発生を低減することが期待できる。炭素数１２以下の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸等が挙げられる。

【0059】

本技術のココアペーストは、本技術の効果を損なわない限りにおいて、通常、ココアペーストに用いられる他の成分を任意に配合することができる。かかる任意成分としては例えば、カカオマス、他の油脂、乳化剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、糖類、糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β－カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物（カテキン等）、ルチン等の酸化防止剤、小麦蛋白又は大豆蛋白等の植物蛋白、卵、卵加工品、香料、乳脂、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清蛋白等の乳製品、調味料、食品保存料、フルーツパウダー、コーヒーパウダー、茶葉、ナッツペースト、香辛料、穀類、豆類、野菜類、等の食品素材や食品添加物等の各種有効成分等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、パン等に好適な影響を与えると言われるアンモニウム塩、カルシウム塩、酸化剤、還元剤、酵素などを任意に配合することもできる。

【0060】

本技術のココアペーストには、パームオレイン、ヤシ油、パーム核油、乳脂等の油脂を構成する脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸７０％以下かつ融点が３０℃以下である油脂を含有させることもできる。なお、油脂を構成する脂肪酸１００％に対する不飽和脂肪酸が７０％以下かつ融点が３０℃以下である油脂としてヤシ油、パーム核油等の炭素数１２以下の脂肪酸を一定割合含有する油脂を用いることもできるが、ココアペースト中に含まれる脂肪酸中の炭素数１２以下の脂肪酸の割合を本明細書で記載の範囲に調整することで炭素数１２以下の脂肪酸の加水分解による異臭の発生を低減することが期待できる。

【0061】

本技術のココアペーストに用いる乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の合成乳化剤や、レシチン（大豆レシチン、卵黄レシチン等）、リゾレシチン（大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン等）、サポニン、植物ステロール類等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられ、これらの２種以上を併用して用いることもできる。

【0062】

この場合において、乳化剤の含有量は、０．１～２．５質量％であることが好ましく、０．２～２．０質量％であることがより好ましく、０．３～１．５質量％であることがさらに好ましい。

【0063】

本技術のココアペーストにおいて、該ココアペースト中の油脂１００質量％に対する液体油脂中の高不飽和TGの割合である「高不飽和TG含有率」は、チョコレートらしい濃い色調の実現とパサつきなどの食感の悪化の軽減の両立の観点からは、６７質量％以上が好ましく、６９質量％以上がさらに好ましく、７０質量％以上が特に好ましい。

【0064】

本技術のココアペーストの製造方法としては、例えば、チョコレート製造の常法にのっとり、原料の混合工程、原料微粒化工程、精錬工程、冷却工程を経ることで好適に製造することができる。

【0065】

前記原料微粒化工程は、使用するココアパウダーの粒径が例えば３０μｍ以下等、十分に小さい場合には省略することもできる。また、粒子が大きい粉体原料のみ微粒化工程を行った後、粒子の細かいココアパウダーや油脂を精錬工程で加えることもできる。また、冷却工程の前に温調工程を取ることもできる。

【実施例0066】

以下、具体的な実施例に基づいて、本技術について詳しく説明する。なお、本技術は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。

【0067】

＜ココアペースト原料＞
（ココアパウダー）
ココアパウダーＡ ： 油脂分約１１％ココアパウダー（Ｏｌａｍ社製）
ココアパウダーＢ ： 油脂分約２３％ココアパウダー（森永製菓社製）
（液体油脂）
米油：（月島食品工業） 不飽和脂肪酸量７７．５質量％
菜種油：（月島食品工業） 不飽和脂肪酸量９１．４質量％
大豆油：（月島食品工業） 不飽和脂肪酸量８３．９質量％
パームオレイン：（月島食品工業） 不飽和脂肪酸量５３．１質量％
（固体油脂）
ココアバター：（カーギル社製）融点３４℃
植物油脂（ハードバター１）：（不二製油社製）テンパリングタイプハードバター。ココアバター同等タイプ。融点３４℃
植物油脂（ハードバター２）：（不二製油社製）非ラウリン低トランス型ノンテンパリングハードバター。融点４０℃
パーム核硬化油（３４℃） （月島食品社製）不飽和脂肪酸量８．９質量％
（乳化剤）
レシチン（ＡＤＭ社製）
（その他成分）
カカオマス：油脂分約５５％（Ｏｌａｍ社製）
チョコレート香料（理研香料社製）

【0068】

表１および２に示すココアペースト中の油脂成分は、基準油脂分析試験法（社団法人日本油化学会）の「参２．１．１－２０１３ ジエチルエーテル抽出法」に基づく油脂抽出を行った油脂を分析した。また、前述の原料油脂の油脂成分の分析は油脂をそのまま用いて、当該試験方法を用いて分析した。

【0069】

また、表１および２に記載の不飽和脂肪酸量並びに前述の原料中の不飽和脂肪酸量は、基準油脂分析試験法（社団法人日本油化学会）の「２．４．２．３－２０１３ 脂肪酸組成（キャピラリーガスクロマトグラフ法）」に準じて測定した。

【0070】

さらには、基準油脂分析試験法（社団法人日本油化学会）の「２．４．６．１ トリアシルグリセリン組成（ガスクロマトグラフ法）」に準じた測定により、表１および２に示すココアペースト中に含まれるトリアシルグリセロールを測定した。

【0071】

上記のトリアシルグリセロールの測定結果を基に、ココアペースト中の油脂１００質量％に対する当該液体油脂中の高不飽和TGの割合である「高不飽和TG含有率」を算出した。

【0072】

＜ココアペーストの製造＞
ココアペーストは表１～２に示す配合に従い、原料を混合し原料微粒化工程、精錬工程を経て、冷却を行い、実施例１～５及び比較例１～８にかかるココアペーストを作成した。

【0073】

＜パン生地の製造＞
以下の製造手順に従って、実施例１～５及び比較例１～８のココアペーストを使用したパンを製造した。

【0074】

製造手順
１．強力粉（１００質量部）、パン酵母（３質量部）、食塩（１質量部）、上白糖（２０質量部）、脱脂粉乳（３質量部）、全卵（６質量部）、水（６０質量部）を配合し、ミキサー（ＨＰＳ－２０Ｍ、関東混合機社製）を用いて低速3分、中速5分でミキシングを行った。
２．強力粉１００質量部に対し、上記のココアペースト（２０質量部）とバター（１０質量部）と同じタイミングで投入した後、低速3分、中速６分でミキシングを行い、パン生地を作成した。捏上温度は２７℃とした。
３．２の生地を２７℃、湿度７５％にて６０分発酵させた。
４．３の生地を４０ｇ毎に分割し、２０分生地を休ませた後、丸めて成形した。
５．４の生地を３８℃、湿度８０％にて６０分発酵させた。
６．５の生地を固定窯（三幸機械社製）にて上火２００℃、下火１９０℃にて８分間焼成を行った。

【0075】

＜パン生地の食感評価＞
パンを作成して冷ましたのち、袋詰めして２日間保管後、食感の評価を行った。
評価は５名の熟練した研究員が行い、パサつき、固さ、色調の評価を行った。パサつき、固さについては下記の評価基準を基にした５名の点数の平均点を評価点とした。なお、評価は５点満点とし、０．５単位の評価も可とした。

【0076】

（食感（ぱさつき）について）
５名の熟練した研究員がパンを食べた際の口中で感じるパサつき、しっとりの度合いを下記の基準に基づいて評価した。結果を表３～６に示した。

【0077】

評価基準
５． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと同じ。
４． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べ、やや劣るが十分しっとりしている。
３． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べるとパサつきを感じるが、製品として許容範囲。
２． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べてパサつきを感じ、しっとり感が足りない。
１． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べ著しくパサつきが強い。

【0078】

（食感（硬さ）について）
５名の熟練した研究員が、パンを噛んで食べた際に感じる硬さを下記の基準に基づいて評価した。結果を表３～６に示した。

【0079】

評価基準
５． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと同じ。
４． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べ、やや劣るが十分やわらかい。
３． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べると硬さを感じるが、製品として許容範囲。
２． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べて硬い。
１． ココアペースト（もしくはココア）の練りこみがないパンと比べ著しく硬い。

【0080】

（色調について）
５名の熟練した研究員が、パンの色調を下記基準に基づいて評価した。色調については研究員間の判断結果に相違が無かったため、表３及び４に記載の色調の評価結果を研究員全員一致の判断結果として記載した。

【0081】

評価基準
○： チョコレートパン生地らしい濃い色合いをしている。
△： やや色調が薄いが、チョコレートパン生地と思える色調をしている。
×： 色調が薄く、チョコレートパン生地らしさが足りない。

【0082】

（練りこみ適性）
１名の熟練した研究員がパンの製造を行った際の練り込み適性を下記基準に基づいて評価した。

【0083】

評価基準
○： 問題なくパン生地練りこむことができる。
△： 少し時間はかかるが、問題なくパン生地に練りこむことができる。
×： 均一に練りこみにくく、練りこみに時間がかかる。

【0084】

比較例１、２および５は不飽和脂肪酸高含有液体油脂がココアペースト中に２０質量部以下の例である。
比較例３および４はココアペースト中の融点３０℃以上である２５℃で固体の固体油脂が１５質量％以上となる例である。
比較例６および７は、不飽和脂肪酸高含有液体油脂がココアペースト中に多く含むものの、ココアパウダー分に加えて、ココアパウダーの原料であるカカオマスを多く含むものの例である。
比較例８は、ココアペースト中に不飽和脂肪酸高含有液体油脂の代わりに油脂を構成する脂肪酸１００％に対し不飽和脂肪酸が４０％以下である液体油脂を２０質量％含んだ例である。

【0085】

実施例１～５のココアペーストを使用したパンではチョコレートらしい濃い色調を実現しつつ、パンを食べた際の十分なしっとり感と柔らかさを維持できることが確認できる。
一方で、比較例１～８のココアペーストを使用したパンではチョコレートらしい濃い色調を実現できるものの、ココアペーストの添加によりパンを食べた際のしっとり感や柔らかさが悪化した。

【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】