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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011870
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20240118BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240118BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240118BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240118BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C19/18
F16C33/78 Z
F16J15/3256
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114167
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 健太郎
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042CA18
3J042CA21
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA06
3J043DA07
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC41
3J216CC43
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J216DA12
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制するとともに、泥水等の異物が密封装置内に侵入したとしても外部空間へ異物を速やかに排出可能な排出効果を向上させた密封装置を提供する。
【解決手段】外側部材2及び内側部材5間に形成された環状空間Sを密封する密封装置10であって、シール部材11と、スリンガ部材14とを備え、前記スリンガ部材は、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dよりも径方向の外側に設けられ、前記外側部材の軸方向の外側の端面2dと対向して径方向に延びるスリンガ延出円輪部15を備え、前記スリンガ延出円輪部と前記外側部材との間には、径方向の外側の端部が外部空間に向けて開口し、径方向に延びる隙間である第1ラビリンスR1が構成され、スリンガ外径側円筒部143とシール嵌合円筒部121との間には、前記第1ラビリンスと連通し、軸方向に延びる隙間である第2ラビリンスR2が構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に同軸回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間における外部空間側となる軸方向の外側の端部に装着されて前記環状空間を密封する密封装置であって、
前記外側部材の内周面に嵌合されるシール部材と、前記内側部材の外周面に嵌合されるスリンガ部材とを備え、
前記シール部材は、芯体部と、該芯体部に一体に設けられ、前記スリンガ部材に接触する弾性体からなるシールリップとを備え、
前記芯体部は、前記外側部材の内周面に嵌合されるシール嵌合円筒部と、該シール嵌合円筒部の軸方向の内側の端部から径方向の内側に延びるシール内径側円輪部とを備え、
前記スリンガ部材は、前記内側部材の前記外周面に嵌合されるスリンガ嵌合円筒部と、該スリンガ嵌合円筒部の軸方向の外側の端部から径方向の外側に延びるスリンガ円輪部と、該スリンガ円輪部の外径側の端部から軸方向の内側に延びて前記シール嵌合円筒部の内周面と対向するスリンガ外径側円筒部と、前記スリンガ円輪部の外径側の端部よりも径方向の外側に設けられ、前記外側部材の軸方向の外側の端面と対向して径方向に延びるスリンガ延出円輪部とを備え、
前記スリンガ延出円輪部と前記外側部材との間には、径方向の外側の端部が外部空間に向けて開口し、径方向に延びる隙間である第1ラビリンスが構成され、
前記スリンガ外径側円筒部と前記シール嵌合円筒部との間には、前記第1ラビリンスと連通し、軸方向に延びる隙間である第2ラビリンスが構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記芯体部は、前記シール嵌合円筒部の軸方向の外側の端部から前記外側部材の軸方向の外側の端面に対向して径方向の外側に延びるシール外径側円輪部をさらに備え、
前記第1ラビリンスは、前記シール外径側円輪部と前記スリンガ延出円輪部との間に構成されることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記シール外径側円輪部には、軸方向の外側の面に弾性体からなる覆い部が設けられ、
前記第1ラビリンスは、前記覆い部と前記スリンガ延出円輪部との間に構成されることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記覆い部の軸方向の外側の面には、軸方向の外側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部が複数設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記スリンガ延出円輪部の軸方向の内側の面には、軸方向の内側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部が複数設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記スリンガ延出円輪部に設けられた前記突出部は、軸方向の内側に向けて拡径して形成されていることを特徴とする密封装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に同軸回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間における外部空間側となる軸方向の外側の端部に装着されて環状空間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車輪の軸受装置には、外部からの泥水やダスト等の異物の侵入を抑制するために、上述のような外側部材と内側部材との間を密封する密封装置が装着されている。このような密封装置では、シール部材に設けられたシールリップがスリンガ部材に接触することで、外部から侵入してきた泥水等の異物が軸受装置の内部に侵入することを抑制している。
【0003】
上述のような密封装置では、スリンガ部材に接触するシールリップの本数が多いほど、泥水等の異物の軸受装置内への侵入の抑制効果がより高くなる傾向にある。しかしながら、このような密封装置では、スリンガ部材に接触するシールリップの本数が増えるとそれに伴いトルクが増大しやすいという問題がある。
【0004】
そのため、下記特許文献1,2では、部材間の間隙であるラビリンスを屈曲させた構造とすることで、トルクの増大を抑制しつつ、泥水等の異物の侵入を抑制させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6717524号公報
【特許文献2】特許第6805154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2では、泥水等の異物の侵入を抑制させるためにスリンガ部材が外側部材の外周面を覆う構造となっているため、泥水等の異物がスリンガ部材の内部に一度侵入してしまうと、密封装置内から異物を排出するのが困難になるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制するとともに、泥水等の異物が密封装置内に侵入したとしても外部空間へ異物を速やかに排出可能な排出効果を向上させた密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の密封装置は、相対的に同軸回転する外側部材及び内側部材間に形成された環状空間における外部空間側となる軸方向の外側の端部に装着されて前記環状空間を密封する密封装置であって、前記外側部材の内周面に嵌合されるシール部材と、前記内側部材の外周面に嵌合されるスリンガ部材とを備え、前記シール部材は、芯体部と、該芯体部に一体に設けられ、前記スリンガ部材に接触する弾性体からなるシールリップとを備え、前記芯体部は、前記外側部材の内周面に嵌合されるシール嵌合円筒部と、該シール嵌合円筒部の軸方向の内側の端部から径方向の内側に延びるシール内径側円輪部とを備え、前記スリンガ部材は、前記内側部材の前記外周面に嵌合されるスリンガ嵌合円筒部と、該スリンガ嵌合円筒部の軸方向の外側の端部から径方向の外側に延びるスリンガ円輪部と、該スリンガ円輪部の外径側の端部から軸方向の内側に延びて前記シール嵌合円筒部の内周面と対向するスリンガ外径側円筒部と、前記スリンガ円輪部の外径側の端部よりも径方向の外側に設けられ、前記外側部材の軸方向の外側の端面と対向して径方向に延びるスリンガ延出円輪部とを備え、前記スリンガ延出円輪部と前記外側部材との間には、径方向の外側の端部が外部空間に向けて開口し、径方向に延びる隙間である第1ラビリンスが構成され、前記スリンガ外径側円筒部と前記シール嵌合円筒部との間には、前記第1ラビリンスと連通し、軸方向に延びる隙間である第2ラビリンスが構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、上記密封装置において、前記芯体部は、前記シール嵌合円筒部の軸方向の外側の端部から前記外側部材の軸方向の外側の端面に対向して径方向の外側に延びるシール外径側円輪部をさらに備え、前記第1ラビリンスは、前記シール外径側円輪部と前記スリンガ延出円輪部との間に構成されてもよい。
【0010】
また、上記密封装置において、前記シール外径側円輪部は、軸方向の外側の面に弾性体からなる覆い部が設けられ、前記第1ラビリンスは、前記覆い部と前記スリンガ延出円輪部との間に構成されてもよい。
【0011】
また、上記密封装置において、前記覆い部の軸方向の外側の面には、軸方向の外側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部が複数設けられてもよい。
【0012】
また、上記密封装置において、前記スリンガ延出円輪部の軸方向の内側の面には、軸方向の内側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部が複数設けられてもよい。
【0013】
また、上記密封装置において、前記スリンガ延出円輪部に設けられた前記突出部は、軸方向の内側に向けて拡径して形成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の密封装置は上述した構成とされるため、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制するとともに、泥水等の異物が密封装置内に侵入したとしても外部空間へ異物を速やかに排出可能な排出効果を向上させている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る密封装置が装着される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
図2図1のX部の拡大図であって、同実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
図3】第2実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
図4】(a)(b)は、それぞれ同実施形態のスリンガ部材の変形例を示す概略的縦断面図である。
図5】同実施形態の変形例に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
図6図1のY部の拡大図であって、第3実施形態に係る密封装置を模式的に示す概略的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、各実施形態について図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。なお、以下において軸Lに沿って車輪に向く側(図1等において左側)を車輪側、車体に向く側(図1等において右側)を車体側とする。また、径方向の外側を外径側、径方向の内側を内径側と記述する場合がある。また、図中において、シールリップの二点鎖線で示している部分は、変形前の原形状を示している。まず、図1図2を参照しながら第1実施形態に係る密封装置10について説明する。
【0017】
第1実施形態に係る密封装置10は、相対的に同軸回転する外側部材(2)及び内側部材(5)間に形成された環状空間Sにおける外部空間側となる軸方向の外側の端部に装着されて環状空間Sを密封する。密封装置10は、外側部材(2)の内周面2cに嵌合されるシール部材11と、内側部材(5)の外周面4bに嵌合されるスリンガ部材14とを備える。シール部材11は、芯体部12と、芯体部12に一体に設けられ、スリンガ部材14に接触する弾性体からなるシールリップとを備える。芯体部12は、外側部材(2)の内周面2cに嵌合されるシール嵌合円筒部121と、シール嵌合円筒部121の軸方向の内側の端部(車輪側の端部)121cから径方向の内側に延びるシール内径側円輪部122とを備える。スリンガ部材14は、スリンガ嵌合円筒部141と、スリンガ円輪部142と、スリンガ外径側円筒部143と、スリンガ延出円輪部15とを備える。スリンガ嵌合円筒部141は、内側部材(5)の外周面4bに嵌合される。スリンガ円輪部142は、スリンガ嵌合円筒部141の軸方向の外側の端部(車体側の端部)141dから径方向の外側に延びて形成される。スリンガ外径側円筒部143は、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dから軸方向の内側(車輪側)に延びてシール嵌合円筒部121の内周面121aと対向する。スリンガ延出円輪部15は、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dよりも径方向の外側に設けられ、外側部材(2)の軸方向の外側(車体側)の端面2dと対向して径方向に延びて形成される。スリンガ延出円輪部15と外側部材(2)との間には、径方向の外側の端部が外部空間に向けて開口し、径方向に延びる隙間である第1ラビリンスR1が構成される。スリンガ外径側円筒部143とシール嵌合円筒部121との間には、第1ラビリンスR1と連通し、軸方向に延びる隙間である第2ラビリンスR2が構成されている。
以下、詳しく説明する。
【0018】
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、上述の外側部材に相当する外輪2と、上述の内側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状空間Sが形成される。環状空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外方に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。
【0019】
図2は、図1のX部を拡大した部分断面図であり、図2には、第1実施形態に係る密封装置10を示している。密封装置10は、車輪側となる外輪2と内輪部材4との間の軸方向の外側の端部に装着されて、環状空間Sを密封する。次に、密封装置10を構成する各部材について説明する。なお、図2図5では、軸方向の外側を車体側、軸方向の内側を車輪側として説明する。
【0020】
シール部材11は、芯体部12とシールリップを有するシール部13とを有する。芯体部12は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図2に示すように片側の断面が略逆L字形状の円筒形とされる。芯体部12は、外輪2の内周面2cに嵌合されるシール嵌合円筒部121と、シール嵌合円筒部121の車輪側の端部121cから内径側に延びるシール内径側円輪部122とを有する。
【0021】
シール部13は、ゴム等の弾性体からなり、芯体部12に対して加硫接着されることで一体成形されている。シール部13は、シール基部130と、シール基部130から延出されたシールリップであるサイドリップ131及びラジアルリップ132と、環状突部133とを有している。シール部13において、二点鎖線部分は変形前の原形状を示している。
【0022】
シール基部130は、芯体部12におけるシール内径側円輪部122の車輪側の面122aの内径側の一部を覆ってシール内径側円輪部122の内径側の端部122cを回り込み、シール内径側円輪部122の車体側の面122bの全面を覆う。さらにシール基部130は、シール嵌合円筒部121の内周面121aの全面を覆い、車体側の端部121dを回り込んで、シール嵌合円筒部121の外周面121bの車体側に設けられた、内径側に凹んだ凹部121baに至る。この凹部121baに至った部分におけるシール基部130の外周側には、外径側に隆起する環状突部133が形成されている。
【0023】
サイドリップ131は、シール基部130から車体側に延出しながら拡径してスリンガ部材14のスリンガ円輪部142の車輪側の面142aに弾接しながら摺接する。ラジアルリップ132は、シール基部130から車輪側に延出しながら縮径してスリンガ部材14のスリンガ嵌合円筒部141の外周面141bに弾接しながら摺接する。
【0024】
スリンガ部材14は、スリンガ基部140と、スリンガ覆い部16とを備える。スリンガ基部140は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図2に示すように片側の断面が略逆C字形状の円筒形とされる。スリンガ部材14は、内側部材である内輪部材4の外周面4bに嵌合されるスリンガ嵌合円筒部141を備える。また、スリンガ部材14は、スリンガ嵌合円筒部141の車体側の端部141dから外径側に延出したスリンガ円輪部142を備える。また、スリンガ部材14は、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dから車輪側に延出したスリンガ外径側円筒部143を備える。スリンガ部材14のスリンガ嵌合円筒部141、スリンガ円輪部142、スリンガ外径側円筒部143によって、スリンガ基部140が構成される。
【0025】
さらにスリンガ基部140には、磁性ゴム製のスリンガ覆い部16が固着されている。スリンガ覆い部16は、スリンガ円輪部142の車体側の面142bの略全面を覆う車体側覆い部161と、スリンガ外径側円筒部143の外周面143bの全面及び車輪側の端部143cを覆う外径側覆い部162とを備える。このスリンガ覆い部16は、スリンガ外径側円筒部143の内周面143a及びスリンガ円輪部142の車輪側の面142aを覆わない構成になっている。
【0026】
そして、スリンガ部材14は、外側部材である外輪2の車体側の端面2dと対向して外径側に延びるスリンガ延出円輪部15を備えている。本実施形態のスリンガ延出円輪部15は、スリンガ覆い部16の車体側覆い部161の外径側の端部161dから外輪2の外周面2bよりも外径側に延びて形成された、磁性ゴム製の部材である。このように、スリンガ延出円輪部15は、外径側の端部15dがスリンガ円輪部142の外径側の端部142dよりも径方向の外側に位置するように設けられている。
【0027】
スリンガ延出円輪部15の車体側の面15bと車体側覆い部161の車体側の面161bとは、略面一に構成されている。また、車体側覆い部161とスリンガ延出円輪部15は、N極とS極とが周方向に交互に着磁されている。そして、車体側覆い部161は、車体に設けられた磁気センサ40に対峙するように設けられており、磁気センサ40と車体側覆い部161とにより車輪の回転速度等を検出することができる。つまり、本実施形態の車体側覆い部161は、円環状の磁気エンコーダとして構成されている。
【0028】
軸受装置1に装着された密封装置10は、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aと外輪2の車体側の端面2dとの間に、径方向に延びる隙間である第1ラビリンスR1が構成される。第1ラビリンスR1は、外径側の端部が外部空間に向けて開口している。また、密封装置10は、スリンガ部材14のスリンガ外径側円筒部143とシール部材11のシール嵌合円筒部121との間に、第1ラビリンスR1と連通し、軸方向に延びる隙間である第2ラビリンスR2が構成されている。本実施形態の第2ラビリンスR2は、スリンガ外径側円筒部143の外周面143bに固着されている外径側覆い部162の外周面162bと、シール嵌合円筒部121の内周面121aに固着されているシール基部130との間に構成される。シール嵌合円筒部121の内周面121aに固着されているシール基部130の一部には、車体側に向けて外径側に傾斜した傾斜内周面130aが設けられている。傾斜内周面130aが外径側覆い部162の外周面162bと径方向に対向して、第2ラビリンスR2の一部を構成している。
【0029】
本実施形態の密封装置10は、径方向に延びた隙間である第1ラビリンスR1と、第1ラビリンスR1に連通し、軸方向に延びた第2ラビリンスR2とが構成されることにより、経路が長く曲がったラビリンスが構成される。そのため、密封装置10に多数のシールリップを設けなくても、泥水等の異物が軸受装置1の内部に侵入を抑制する構成になっている。また、第1ラビリンスR1は径方向に延びた形状であるとともに径方向の外側の端部が外部空間に向けて開口しているので、密封装置10内に泥水等の異物が侵入したとしても、軸受装置1の回転に伴い発生する遠心力により異物を外部に排出しやすくなっている。本実施形態では、第1ラビリンスR1は、片側断面形状において径方向に直線的に伸びた隙間であるため、軸受装置1の回転に伴い発生する遠心力による異物の排出効果がより高まっている。
【0030】
また、第2ラビリンスR2は、シール嵌合円筒部121の内周面121aにシール基部130の傾斜内周面130aを含んだ構成とされている。そのため、第2ラビリンスR2に泥水等の異物が侵入しても、軸受装置1の回転に伴い発生する遠心力により、傾斜内周面130aを伝って異物を第1ラビリンスR1側へ排出しやすくなっている。そして、第1ラビリンスR1内及び第2ラビリンスR2内には、他の部材に接触するシールリップが設けられていないので、トルクの増大が抑制される。
【0031】
また、スリンガ延出円輪部15は、外輪2の軸方向の外側の端面である車体側の端面2dと対向する構成になっている。そのため、外輪2の車体側の端面2dは、スリンガ延出円輪部15によって間隔をあけて覆われている構成になり、泥水等の異物が直接かかりにくくなっている。さらに、スリンガ延出円輪部15の外径側の端部15dが外輪2の外周面2bよりも外径側に位置することで、外輪2の車体側の端面2dに泥水等の異物がよりかかりにくくなっている。外輪2の車体側の端面2dに泥水等の異物がかかりにくくなっていることで、端面2dを伝って泥水等の異物が密封装置10内に侵入することが抑制される。さらに、泥水等の異物が外輪2の車体側の端面2dを伝って、密封装置10における芯体部12のシール嵌合円筒部121と外輪2の内周面2cとの間に侵入することが抑制される。
【0032】
また、密封装置10は、スリンガ外径側円筒部143の内周面143a、スリンガ円輪部142の車輪側の面142a、サイドリップ131、シール内径側円輪部122の車体側の面122bに固着されたシール基部130に囲まれた空間部17を備える。この空間部17は、第2ラビリンスR2と連通しており、泥水等の異物が第2ラビリンスR2を通過してもこの空間部17に溜まり、それ以上の侵入が抑制される。そして、空間部17に到達した異物は、軸受装置1の回転に伴い、密封装置10からの排出が促進される。
【0033】
このように、本実施形態の密封装置10は、上述のような構成とすることで、トルクの増大を抑えて泥水等の異物の侵入を抑制するとともに、泥水等の異物が密封装置10内に侵入したとしても外部空間へ異物を速やかに排出可能な排出効果を向上させている。
【0034】
<第2実施形態>
次に、図3を参照しながら第2実施形態に係る密封装置10Aについて説明する。なお、第1実施形態の密封装置10と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
第2実施形態では、芯体部12は、シール嵌合円筒部121の車体側の端部121dから外輪2の車体側の端面2dに対向して径方向の外側に延びるシール外径側円輪部123をさらに備える。シール外径側円輪部123には、車体側の面123bに弾性体からなる覆い部134が設けられる。第1ラビリンスR1は、シール外径側円輪部123に設けられた覆い部134とスリンガ延出円輪部15との間に構成される。
以下、詳しく説明する。
【0035】
シール部材11の芯体部12は、シール嵌合円筒部121及びシール内径側円輪部122を備える点は第1実施形態と同様である。さらに、本実施形態の芯体部12は、シール嵌合円筒部121の車体側の端部121dから外輪2の車体側の端面2dに対向して径方向の外側に延びるシール外径側円輪部123を備える。シール外径側円輪部123は、外径側の端部123dが外輪2の外周面2bよりも外径側に位置するように構成されている。
【0036】
シール部13は、シール基部130がシール内径側円輪部122の車輪側の面122aの内径側の一部及び内径側の端部122c、シール内径側円輪部122の車体側の面122bの全面、シール嵌合円筒部121の内周面121aの全面を覆っている。さらにシール基部130は、シール嵌合円筒部121の車体側の端部121dを回り込んでシール外径側円輪部123の車体側の面123bの全面を覆って外径側の端部123dを回り込んで車輪側の面123aの外径側の一部を覆っている。シール外径側円輪部123の車輪側の面123aの外径側の一部を覆っている部分のシール基部130は、シール外径側円輪部123の車体側の面123bと外輪2の車体側の端面2dとの間に圧縮状態で介在することで、泥水等の異物が侵入することを抑制する。
【0037】
シール基部130においてシール外径側円輪部123の車体側の面123bを覆う部分が、シール外径側円輪部123の車体側の面123bに設けられる覆い部134である。そして、覆い部134の車体側の面134bには、車体側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された環状の突出部135が複数設けられている。この突出部135は、車体側に向けて縮径した形状である。また、この突出部135は、径方向に間隔をあけて3つ形成されており、スリンガ延出円輪部15には接触しない程度に近接して構成されている。本実施形態において、シール外径側円輪部123の外径側の端部を覆うシール基部130の最外径側の端部130dは、スリンガ部材14のスリンガ延出円輪部15の外径側の端部15dよりも外径側に位置している。
【0038】
シール部13は、シールリップとしてラジアルリップ132を備えており、第1実施形態のサイドリップ131を備えていない構成になっている。ラジアルリップ132は、シール基部130から車体側に向けて縮径して、スリンガ嵌合円筒部141の外周面141bに弾接している。また、ラジアルリップ132は、車体側の先端部132dが外径側に膨らんだ形状となっている。この先端部132dの形状は、コイルバネを環状につなげた環状バネを模擬している。ラジアルリップ132の車体側の先端部132dが環状バネを模擬していることで、環状バネをラジアルリップ132の外周面に装着した場合と同様に、シール性能のさらなる向上を図っている。
【0039】
シール部13は、スリンガ部材14のスリンガ嵌合円筒部141及びスリンガ外径側円筒部143の間に位置し、シール基部130から車体側に延出したシール円筒部136を備える。シール円筒部136は、第1実施形態における空間部17内に位置する構成になっており、スリンガ部材14とは接触しない構成になっている。シール円筒部136の内周面136aは、車体側に向けて外径側に傾斜した形状となっている。また、シール円筒部136の外周面136bには、径方向の外側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成されたシール突出部137が複数設けられている。シール突出部137は、車体側に拡径してスリンガ外径側円筒部143の内周面143aと径方向に対向している。また。シール突出部137は、互いに軸方向に間隔をあけて3つ形成されている。
【0040】
スリンガ部材14は、第1実施形態と同様にSPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図3に示すように片側の断面が略逆C字形状の円筒形のスリンガ基部140と、スリンガ基部140に固着されるスリンガ覆い部16とを備える。スリンガ覆い部16は、第1実施形態と異なり、磁性ゴム製ではなく、磁性を備えない弾性体のゴム製である。そのため、本実施形態のスリンガ覆い部16は、磁気エンコーダとして機能しない構成になっている。
【0041】
スリンガ覆い部16は、車体側覆い部161の外径側の端部161dから外輪2の外周面2bよりも外径側に延びるスリンガ延出円輪部15が形成されている。スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aには、車輪側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部151が複数設けられている。この突出部151は、車輪側に向けて拡径した形状に形成されている。また、この突出部151は、径方向に間隔をあけて3つ形成されている。
【0042】
覆い部134の突出部135とスリンガ延出円輪部15の突出部151とは、互いに3つずつ形成されて、径方向において間隔をあけて交互に並んで形成されている。また、覆い部134の突出部135とスリンガ延出円輪部15の突出部151とは、互いに径方向に重なるとともに、他方の部材には接触しない程度に突出して形成されている。そして、第1ラビリンスR1は、覆い部134の車体側の面134b及び突出部135と、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15a及び突出部151との間に構成されることで、縦断面形状において蛇行状の隙間によるラビリンスとなる。本実施形態では、覆い部134における最外径側の突出部135が、スリンガ延出円輪部15における最外径側の突出部151よりも外径側に位置している。また、スリンガ延出円輪部15における最内径側の突出部151が、覆い部134における最内径側の突出部135よりも内径側に位置している。
【0043】
シール嵌合円筒部121とスリンガ外径側円筒部143との間には、軸方向に延びる第2ラビリンスR2が構成される。シール嵌合円筒部121の内周面121aに固着されている部分のシール基部130は、平坦面に形成されている。また、スリンガ外径側円筒部143の外周面143bに固着されている外径側覆い部162の外周面162bは、平坦面に形成されている。そのため、第2ラビリンスR2は、凹凸が形成されていないラビリンスとなる。
【0044】
シール円筒部136の外周面136b及びシール突出部137と、スリンガ外径側円筒部143の内周面143aとの間には、軸方向に延びる隙間による第3ラビリンスR3が構成される。第3ラビリンスR3は、第1ラビリンスR1及び第2ラビリンスR2に連通している。また、第3ラビリンスR3は、シール突出部137,137間が離隔していることにより、凹凸が形成されたラビリンスとなっている。
【0045】
最も車体側に位置するシール突出部137は、車体側の面137cがシール円筒部136の車体側の面136cと略面一に構成されている。シール突出部137の車体側の面137c及びシール円筒部136の車体側の面136cと、スリンガ円輪部142の車輪側の面142aとの間には、径方向に延びた隙間である第4ラビリンスR4が構成される。第4ラビリンスR4は、第1ラビリンスR1、第2ラビリンスR2、第3ラビリンスR3に連通している。本実施形態の密封装置10Aは、連通した第1~第4ラビリンスR1~R4による1つの長く、曲がったラビリンスが形成されている構成になっている。また、第1~第4ラビリンスR1~R4は、他の部材に接触するシールリップを備えずに非接触に構成されている。また、第2,4ラビリンスR2,R4は、第1,3ラビリンスR1,R3とは異なり、各突出部による凹凸形状が形成されていないラビリンスとなっている。
【0046】
本実施形態の密封装置10Aは、シール嵌合円筒部121の車体側の端部121dから外輪2の車体側の端面2dに対向して径方向の外側に延びるシール外径側円輪部123を備えている。そのため、シール外径側円輪部123の車体側の面123bと外輪2の車体側の端面2dとの間を通って、シール嵌合円筒部121の内周面121aと外輪2の内周面2cとの間への異物の侵入が抑制される。また、シール外径側円輪部123とスリンガ延出円輪部15との間に設けられている第1ラビリンスR1によって、異物を外部空間側に排出しやすくなっている。
【0047】
覆い部134の車体側の面134bには、車体側に向けて突出し、周方向に沿って環状に設けられた突出部135が複数形成されている。そのため、第1ラビリンスR1の表面積が増えて異物の吐き出し効果が増えるので、シールリップ(ラジアルリップ132)まで到達する異物の量が減り、軸受装置1への泥水等の異物の侵入が抑制される。
【0048】
スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aには、車輪側に向けて突出し、周方向に沿って環状に形成された突出部151が複数設けられている。そのため、第1ラビリンスR1の表面積が増えて異物の吐き出し効果が向上し、シールリップ(ラジアルリップ132)まで到達する異物の量が減り、軸受装置1への泥水等の異物の侵入が抑制される。また、スリンガ延出円輪部15に設けられた突出部151は、車輪側に向けて拡径して形成されているので、異物は突出部151の形状に逆らって侵入しないとならないため異物の侵入が抑制される。また、軸受装置1の回転によって発生する遠心力により、突出部151の形状に沿って異物は外部空間に排出されやすくなる。
【0049】
密封装置10Aは、覆い部134の車体側の面134b及び突出部135と、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15a及び突出部151との間に構成された、縦断面形状において蛇行状の隙間による第1ラビリンスR1を備えている。第1ラビリンスR1は、縦断面形状が蛇行状の複雑な経路によるラビリンスによって泥水等の異物の侵入が抑制されるとともに、第1ラビリンスR1の表面積が増えることで、軸受装置1の回転に伴い発生する遠心力による異物の吐き出し効果が向上している。
【0050】
また、第2ラビリンスR2は、蛇行形状の第1ラビリンスR1とは異なり、軸方向に直線的に伸びた凹凸のないラビリンスである。第2ラビリンスR2に至った泥水等の異物は、軸受装置1の回転に伴い、第2ラビリンスを構成する部分のシール基部130や、外径側覆い部162の外周面162aを伝って第1ラビリンスR1側に押し出される。
【0051】
さらに、密封装置10Aは、第1ラビリンスR1及び第2ラビリンスR2に連通し、シール円筒部136の外周面136b及びシール突出部137と、スリンガ外径側円筒部143の内周面143aとの間に軸方向に延びる隙間による第3ラビリンスR3を備える。第3ラビリンスR3によって、シールリップであるラジアルリップ132に到達する泥水等の異物の侵入がより抑制される。また、互いに軸方向に間隔をあけてシール突出部137を複数備えることによって、泥水等の異物がシール突出部137を伝うことが抑制されるので、ラジアルリップ132に到達する異物の量がより抑制される。
【0052】
また、第3ラビリンスR3に連通する第4ラビリンスR4が構成されているので、泥水等の異物の侵入がより抑制される。また、第4ラビリンスR4を通過しても、シール円筒部136の内周面136aは、車体側に向けて外径側に傾斜した形状となっている。そのため、第4ラビリンスR4を通過した泥水等の異物は、シール円筒部136の内周面136aを伝って第4ラビリンスR4を通って外部空間側に排出されやすくなる。
【0053】
<スリンガ部材の変形例>
次に、図4(a)(b)を参照しながら、第2実施形態のスリンガ部材14の変形例であるスリンガ部材14’,14’’について説明する。
図4(a)に示すスリンガ部材14’は、スリンガ外径側円筒部143の構成が、第2実施形態のものと異なっている。図3のスリンガ部材14では、スリンガ外径側円筒部143は、スリンガ基部140によって構成されている。一方、図4(a)に示す本変形例のスリンガ部材14’は、スリンガ覆い部16から延出したスリンガ外径側円筒部143Aを備えている。
【0054】
スリンガ基部140は、片側の断面が略逆L字形状の円筒形に構成されている。スリンガ部材14は、内側部材である内輪部材4の外周面4bに嵌合されるスリンガ嵌合円筒部141と、スリンガ嵌合円筒部141の車体側の端部141dから外径側に延出したスリンガ円輪部142とを備える。スリンガ基部140は、スリンガ嵌合円筒部141とスリンガ円輪部142とによって構成される。そして、スリンガ覆い部16は、スリンガ円輪部142の車体側の面142bの略全面を覆う車体側覆い部161を備える。スリンガ外径側円筒部143Aは、スリンガ覆い部16と一体に構成された弾性体製の部材である。スリンガ外径側円筒部143Aは、車体側覆い部161の外径側の端部161dから車輪側に延びて形成されることで、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dから車輪側に延びた構成となっている。また、スリンガ外径側円筒部143Aは、スリンガ円輪部142の外径側の端部142d及び車輪側の面142aの外径側の一部を覆っている。このように、スリンガ外径側円筒部143Aは、スリンガ基部140とは別体として構成されてよい。
【0055】
次に、図4(b)に示すスリンガ部材14’’について説明する。図4(b)では、スリンガ部材14’’は、スリンガ覆い部16が固着されていないスリンガ外径側円筒部143Bを備える。スリンガ外径側円筒部143Bは、スリンガ基部140の一部として構成されている点は第1実施形態のスリンガ外径側円筒部143と同様であるが、第1円筒部144と第2円筒部145とによって構成されている点が異なる。
【0056】
スリンガ外径側円筒部143Bは、スリンガ円輪部142の外径側の端部142dから車輪側に延びた第1円筒部144と、第1円筒部144の車輪側の端部144cから折り返して車体側に延びた第2円筒部145とによって構成される。第2円筒部145の車体側の端部145dは、スリンガ円輪部142よりも車体側に位置している。また、第1円筒部144の外周面144bと、第2円筒部145の内周面145aとは、互いに当接した状態となっている。第1円筒部144の内周面144aが、スリンガ外径側円筒部143Bの内周面143aである。また、第2円筒部145の外周面145bが、スリンガ外径側円筒部143Bの外周面143bである。
【0057】
また、スリンガ基部140は、第2円筒部145の車体側の端部145dから外径側に延びる外径側円輪部146を備える。外径側円輪部146は、スリンガ円輪部142よりも車体側に位置しており、外径側の端部146dがスリンガ延出円輪部15の最内径側の突出部151の一部と軸方向に重なる位置まで延びている。スリンガ延出円輪部15は、内径側の一部がスリンガ基部140の外径側円輪部146の車体側の面146bを覆う構成となっている。
【0058】
<第2実施形態の変形例>
次に、図5を参照しながら、図4の密封装置10Aの変形例である密封装置10A’について説明する。なお、第2実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0059】
図5の密封装置10A’は、図4の密封装置10Aと比べて、シール外径側円輪部123の突出部135の構成と、スリンガ延出円輪部15の構成が異なり、その他の構成は図4の密封装置10Aと略同一である。
シール部13のシール外径側円輪部123に固着された突出部135は、車体側に拡径して形成されている。また、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aは、車輪側に突出する突出部を備えない平面形状となっている。スリンガ延出円輪部15は、シール部材11よりも外径側に延びて形成されている。本変形例では、第1ラビリンスR1は、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aと、シール外径側円輪部123の車体側の面123b及びシール外径側円輪部123に固着された突出部135との間に構成される。
【0060】
密封装置10A’は、第1ラビリンスR1によって、泥水等の異物の侵入を抑制するとともに、軸受装置1の回転に伴う遠心力により、異物を外部に排出することができる。第1ラビリンスR1内に侵入した異物は、遠心力によって覆い部134の突出部135の形状に沿って外部空間側へ排出される。また、スリンガ延出円輪部15の車輪側の面15aに付着した異物は、車輪側の面15aに沿って外部空間側に排出される。
【0061】
<第3実施形態>
次に図1のY部の拡大図である図6を参照しながら、環状空間Sの車輪側の端部に装着される密封装置20について説明する。なお、図6に示す密封装置20では、軸方向の外側を車輪側、軸方向の内側を車体側として説明する。また、上述の図3の密封装置10Aと共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。
【0062】
図6の密封装置20を簡単に説明すると、図3に示す第2実施形態の密封装置10Aを左右反転したうえで、シール外径側円輪部123に設けられた覆い部134の突出部135及びスリンガ延出円輪部15の突出部151と、シール円筒部136とを備えない構成になっている。
【0063】
図6の密封装置20は、シール部材21と、スリンガ部材24とを備える。シール部材21は、芯体部22とシール部23とを有する。芯体部22は、シール嵌合円筒部221と、シール内径側円輪部222と、シール外径側円輪部223とを有する。シール嵌合円筒部221は、外輪2の内周面2cに嵌合される。シール内径側円輪部222は、シール嵌合円筒部221の車体側の端部221dから内径側に延びて形成される。シール外径側円輪部223は、シール嵌合円筒部221の車輪側の端部221cから外径側に延びて形成される。シール外径側円輪部223は、外輪2の車輪側の端面2eと対向しており、第2実施形態と異なり外輪2の外周面2bよりも外径側に突出しない寸法で形成されている。
【0064】
シール部23は、ゴム等の弾性体からなり、芯体部22に対して加硫接着されることで一体成形されている。シール部23は、芯体部22の各部位の車輪側の全面を覆うシール基部230と、スリンガ部材24のスリンガ嵌合円筒部241の外周面241bに接触するシールリップであるラジアルリップ232とを備える。シール基部230は、シール内径側円輪部222の車体側の面222bの内径側の一部から内径側の端部222cを回り込んで車輪側の面222aの全面を覆う。さらにシール基部230は、シール嵌合円筒部221の内周面221aの全面を覆う。そして、シール基部230は、シール外径側円輪部223の車輪側の面223aを覆って外径側の端部223dを回り込み、車体側の面223bの外径側の一部に至る。シール基部230においてシール外径側円輪部223の車輪側の面223aを覆う部分が、シール外径側円輪部223の車輪側の面223aに設けられる覆い部234である。ラジアルリップ232は、シール基部230から車輪側に延出しながら縮径してスリンガ部材24のスリンガ嵌合円筒部241の外周面241bに摺接する。ラジアルリップ232の車輪側の先端部232cは、外径側に膨らんだ形状となっている。
【0065】
スリンガ部材24は、スリンガ基部240と、スリンガ覆い部26とを備える。本実施形態のスリンガ部材24は、内輪部材4ではなく、ハブ輪3の外周面3bに嵌合される。スリンガ基部240は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、図6に示すように片側の断面が略C字形状の円筒形とされる。スリンガ部材24は、内側部材であるハブ輪3の外周面3bに嵌合されるスリンガ嵌合円筒部241を備える。また、スリンガ部材24は、スリンガ嵌合円筒部241の車輪側の端部241cから外径側に延出したスリンガ円輪部242を備える。また、スリンガ部材24は、スリンガ円輪部242の外径側の端部242dから車体側に延出したスリンガ外径側円筒部243を備える。スリンガ基部240は、スリンガ嵌合円筒部241、スリンガ円輪部242、スリンガ外径側円筒部243によって構成される。
【0066】
スリンガ覆い部26は、スリンガ基部240に固着されている。スリンガ覆い部26は、スリンガ円輪部242の車輪側の面242aの全面を覆う車輪側覆い部261と、スリンガ外径側円筒部243の外周面243bの全面及び車体側の端部243dを覆う外径側覆い部262とを備える。このスリンガ覆い部26は、スリンガ外径側円筒部243の内周面243a及びスリンガ円輪部242の車体側の面242bを覆わない構成になっている。また、スリンガ覆い部26は、車輪側覆い部261から外径側に延びたスリンガ延出円輪部25を備える。これにより、スリンガ部材24は、スリンガ円輪部242の外径側の端部242dよりも外径側に位置するスリンガ延出円輪部25を備える。
【0067】
スリンガ延出円輪部25は、シール外径側円輪部223を介して外輪2の車輪側の端面2eと対向しており、外径側の端部25dが第2実施形態と異なり外輪2の外周面2bよりも外径側に突出しない寸法で形成されている。本実施形態のスリンガ延出円輪部25は、車輪側の面25aと車輪側覆い部261の車輪側の面261aとが略面一に構成されている。
【0068】
密封装置20において、第1ラビリンスR1は、覆い部234の車輪側の面234aとスリンガ延出円輪部25の車体側の面25bとの間に形成された、径方向に延びる隙間である。また、第2ラビリンスR2は、スリンガ外径側円筒部243の外周面243bに固着されているスリンガ覆い部26の外径側覆い部262の外周面262bと、シール嵌合円筒部221の内周面221aに固着されているシール基部230との間に構成される。
【0069】
密封装置20は、径方向に延びる第1ラビリンスR1と、第1ラビリンスR1に連通する軸方向に延びる第2ラビリンスR2とにより、泥水等の異物の侵入を抑制しつつ、異物が侵入しても外部空間側に排出しやすくなっている。また、密封装置20は、スリンガ外径側円筒部243の内周面243a、スリンガ円輪部242の車体側の面242b、スリンガ嵌合円筒部241の外周面241b、ラジアルリップ232、シール内径側円輪部222の車輪側の面222aに固着されたシール基部230に囲まれた空間部27を備える。この空間部27は、第2ラビリンスR2と連通しており、泥水等の異物が第2ラビリンスR2を通過してもこの空間部27に留まり、それ以上の侵入が抑制される。そして、空間部27に到達した異物は、軸受装置1の回転に伴い、密封装置20からの排出が促進される。
【0070】
さらに、密封装置20が環状空間Sの車輪側の端部に装着されることで、密封装置20よりも車輪側に位置する立上基部31とスリンガ部材24のスリンガ円輪部242及びスリンガ延出円輪部25との間に、溝状の空間300が構成される。外部空間から侵入してきた泥水等の異物は、この空間300に溜まりやすくなる。空間300に至った泥水等の異物は、ハブ輪3の外周面3bを伝って環状空間S側に移動しようとしても、密封装置20のスリンガ部材24によってそれ以上の環状空間S側への侵入が抑制される。そして、空間300内に留まった泥水等の異物は内輪5の回転に伴う遠心力によって空間300から外部空間に排出される。さらに、スリンガ覆い部26における車輪側覆い部261の内径側の端部261cは、ハブ輪3の外周面3bに弾性変形しながら密着している(二点鎖線の部分は変形前の原形状を示している)。これにより、スリンガ部材24のスリンガ嵌合円筒部241の内周面241aとハブ輪3の外周面3bとの間に泥水等の異物が侵入することが抑制される。
【0071】
密封装置10,10A,10A’,20の構成は、他の密封装置が有する構成を備えるものでもよく、上述した構成や図示したものに限定されることはない。例えば、上述した各種シールリップの形状は、上述したものや図示したものに限定されることはなく、本数や設けられる箇所も同様である。また、密封装置10A,10A’のスリンガ覆い部16は、磁性ゴム等の磁性材料によって形成されてN極とS極とが周方向に交互に着磁されることで、磁気エンコーダとして構成されてもよい。また、スリンガ覆い部16,26は、ゴム等の弾性体ではなく、合成樹脂等の硬質な樹脂材料で形成されてもよい。その場合は、スリンガ延出円輪部15,25も、弾性体ではなく合成樹脂等の硬質な樹脂材料で形成されてもよい。また、スリンガ延出円輪部15,25は、スリンガ覆い部16,26の車体側覆い部161、車輪側覆い部261と略面一に構成されることに限定されない。スリンガ延出円輪部15,25は、車体側覆い部161、車輪側覆い部261よりも軸方向の外側に突出して設けられてもよい。
【0072】
また、密封装置10A,10A’、20では、覆い部134,234を備えない構成であってもよい。その場合は、シール外径側円輪部123,223が、外輪2の軸方向の外側の端面2d,2eに当接する構成が望ましい。
【0073】
また、密封装置10Aでは、覆い部134における最外径側の突出部135が、スリンガ延出円輪部15における最外径側の突出部151よりも外径側に位置しているが、これに限定されることはない。また、スリンガ延出円輪部15における最内径側の突出部151が、覆い部134における最内径側の突出部135よりも内径側に位置しているが、同様にこれに限定されることはない。スリンガ延出円輪部15の突出部151、覆い部134の突出部135の構成は、設けられている本数や断面形状等、上述の構成や図示した構成に限定されることはない。また、スリンガ延出円輪部15の突出部151及び覆い部134の突出部135は、互いに異なる本数が構成されてもよい。
【0074】
また、図4(b)のスリンガ部材14では、図4(b)に図示するものよりも外径側に延出してスリンガ基部140の外径側円輪部146が形成されてもよい。また、スリンガ延出円輪部15は、外輪2の車体側の端面2dと対向するよう外径側に延出したスリンガ基部140の外径側円輪部146によって構成されてもよい。スリンガ延出円輪部15がスリンガ基部140の外径側円輪部146のみで形成された場合でも、外径側円輪部146の車輪側の面に弾性体や合成樹脂等で形成された突出部151や、外径側円輪部146に一体の突出部151が設けられてもよい。また、スリンガ外径側円筒部143を構成する第1円筒部144と第2円筒部145との間が離隔して、スリンガ覆い部16の一部が介在する構成であってもよい。
【0075】
また、図6に示す密封装置20は、図2図5の密封装置10,10A,10A’が備えるサイドリップや突出部、シール円筒部等を有する構成であってもよい。また、上述した図2図5の密封装置10,10A,10A’が、環状空間Sの車輪側の端部に装着されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 軸受装置
2 外輪(外側部材)
2c 内周面
3 ハブ輪(内側部材)
3b 外周面
4 内輪部材(内側部材)
4b 外周面
5 内輪
10,20 密封装置
11,21 シール部材
12,22 芯体部
121,221 シール嵌合円筒部
122,222 シール内径側円輪部
131 サイドリップ(シールリップ)
132,232 ラジアルリップ(シールリップ)
14,24 スリンガ部材
141,241 スリンガ嵌合円筒部
141d 車体側(軸方向の外側)の端部
241d 車輪側(軸方向の外側)の端部
142,242 スリンガ円輪部
142d,242d 外径側の端部
143,243 スリンガ外径側円筒部
15,25 スリンガ延出円輪部
R1 第1ラビリンス
R2 第2ラビリンス
S 環状空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6