(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118705
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
F16H25/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025136
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晃広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 靖巳
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA16
3J062CD07
3J062CD22
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】ボールの円滑な転動とコマの破損防止の両立を図ることができるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】本開示のボールねじ装置は、内周面に内周軌道面が設けられたナットと、ナットを貫通し、外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸と、外周軌道面と内周軌道面との間の軌道に配置された複数のボールと、ボールを循環させる少なくとも1つ以上のコマと、を備えている。ねじ軸の外周面には、径方向内側に窪み、コマを収容する凹部が少なくとも1つ以上設けられている。コマは、径方向外側を向く外径面と、外径面から径方向内側に窪むS字溝面と、を有している。ねじ軸の軸心と平行な軸方向から視て、コマの外径面は、軸心を中心に円弧状となっている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に内周軌道面が設けられたナットと、
前記ナットを貫通し、外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸と、
前記外周軌道面と前記内周軌道面との間の軌道に配置された複数のボールと、
前記ボールを循環させる少なくとも1つ以上のコマと、
を備え、
前記ねじ軸の外周面には、径方向内側に窪み、前記コマを収容する凹部が少なくとも1つ以上設けられ、
前記コマは、
径方向外側を向く外径面と、
前記外径面から径方向内側に窪むS字溝面と、
を有し、
前記ねじ軸の軸心と平行な軸方向から視て、前記外径面は、前記軸心を中心に円弧状となっている
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩と同径となっている
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出している
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向内側に窪んでいる
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記ねじ軸の径方向外側から視て、前記凹部及び前記コマは、前記ねじ軸と平行な軸方向の長さよりも、前記軸方向に交差する交差方向の長さの方が長い
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記外周軌道面におけるねじ山の高さ量は、前記内周軌道面におけるねじ山の高さ量よりも大きい
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記S字溝面は、
径方向内側に前記ボールが沈む中央溝面と、
前記中央溝面の両側に設けられ、前記ボールが出入りする2つの出入口溝面と、
を有している
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
前記コマの外周面には、前記S字溝面のコマ側開口が設けられ、
前記凹部の内周面には、前記コマ側開口に連続する前記外周軌道面のねじ軸側開口が設けられ、
前記コマ側開口の溝形は、前記ねじ軸側開口の溝形よりも大きい
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ナットと、ナットを貫通するねじ軸と、ナットとねじ軸との間に配置された複数のボールと、循環部品と、を備えている。ナットの内周面には、内周軌道面が形成されている。ねじ軸の外周面には、内周軌道面と対向する外周軌道面が形成されている。内周軌道面と外周軌道面との間は、螺旋状の軌道を構成している。複数のボールは、軌道に配置され、軌道に沿って螺旋方向に移動する。そして、循環部品は、軌道の一端から軌道の他端に移動したボールを軌道の一端に戻す。循環部品の一つとして、ボールを1リード戻すコマが挙げられる。
【0003】
下記特許文献のボールねじ装置では、ねじ軸の外周面に径方向内側に窪む凹部が形成されている。そして、凹部にコマが挿入され、ねじ軸にコマが取り付けられている。また、コマは、径方向外側を向く外径面と、外径面から径方内側に窪むS字溝面と、を有している。コマの外径面のうちS字溝面沿いの部分がS字溝面の溝肩を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、外周軌道面の溝肩は、軸方向から視て、円形状(円弧状)となっている。一方、上記特許文献のコマは、径方向外側を向く外径面が平面となっている。よって、S字溝面の溝肩は、軸方向から視ると直線状であり、外周軌道面の溝肩と一致しない。このように上記特許文献のコマは、S字溝面の溝肩の位置が、S字溝面の出入口からS字溝面の長さ方向の中央部に向かうにつれて径方向内側寄りとなっている。
【0006】
以下、溝肩における径方向の位置を「高さ」と称する。そして、基準となるものよりも径方向外側にある場合を「高い」と称する。また、基準となるものよりも径方向内側にある場合を「低い」と称する。
【0007】
このようなコマにおいて、S字溝面の出入口近傍で、S字溝面の溝肩の高さを外周軌道面の溝肩と同じにすると、S字溝面の出入口以外の部分で、S字溝面の溝肩が外周軌道面の溝肩よりも低い。このため、S字溝面とナットの内周軌道面との間でボールが挟まり易く、ボールの円滑な転動が確保されない。
【0008】
一方で、S字溝面の長さ方向の中央部で、S字溝面の溝肩の高さを外周軌道面の溝肩と同じにすると、S字溝面の中央部以外の部分で、S字溝面の溝肩が外周軌道面の溝肩よりも高い。このため、S字溝面の溝肩のうち外周軌道面の溝肩から径方向外側に突出している部分が破損し易い。このように上記特許文献のコマでは、ボールの円滑な転動と、コマ(溝肩)の破損防止と、の両立が図れない。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、ボールの円滑な転動とコマの破損防止の両立を図れるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、内周面に内周軌道面が設けられたナットと、前記ナットを貫通し、外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸と、前記外周軌道面と前記内周軌道面との間の軌道に配置された複数のボールと、前記ボールを循環させる少なくとも1つ以上のコマと、を備えている。前記ねじ軸の外周面には、径方向内側に窪み、前記コマを収容する凹部が少なくとも1つ以上設けられている。前記コマは、径方向外側を向く外径面と、前記外径面から径方向内側に窪むS字溝面と、を有している。前記ねじ軸の軸心と平行な軸方向から視て、前記外径面は、前記軸心を中心に円弧状となっている。
【0011】
本開示によれば、S字溝面の溝肩は、軸方向から視て円弧状を成し、高さが一定となっている。よって、例えば、S字溝面のS字方向の中央部で、S字溝面の溝肩を外周軌道面の溝肩と同じ高さに設定した場合、S字溝面の出入口近傍で、S字溝面の溝肩は外周軌道面の溝肩と同じ高さとなる。つまり、S字溝面のS字方向の中央部で溝肩を高くしても、S字溝面の出入口近傍で、S字溝面の溝肩が外周軌道面の溝肩から径方向外側に突出しない。よって、ボールの円滑な転動を図りつつ、コマの溝肩の破損を防止することができる。
【0012】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩と同径となっている。
【0013】
前記構成によれば、S字溝面の溝肩は、外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出していない。よって、S字溝面の溝肩が破損し難くなる。
【0014】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出している。
【0015】
前記構成によれば、S字溝面の溝肩と外周軌道面の溝肩が同径となっている場合よりも、ボールが挟まる可能性が低い。よって、ボールの転動をより円滑とすることができる。
【0016】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向内側に窪んでいる。
【0017】
ところで、凹部に収容されたコマは、径方向外側に位置ずれする可能性がある。このため、S字溝面の溝肩と外周軌道面の溝肩が同径となっているとしても、コマの位置ずれにより、一時的にS字溝面の溝肩が外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出してしまう可能性がある。一方、前記構成によれば、コマが位置ずれしても、S字溝面の溝肩が外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出する可能性が低い。以上、前記構成によれば、S字溝面の溝肩と外周軌道面の溝肩が同径となっている場合よりも、溝肩が破損する可能性を低減することができる。
【0018】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記ねじ軸の径方向外側から視て、前記凹部及び前記コマは、前記ねじ軸と平行な軸方向の長さよりも、前記軸方向に交差する交差方向の長さの方が長い。
【0019】
前記構成によれば、S字溝面における交差方向の比率が大きくなる。つまり、S字溝面曲がり具合が緩やかになる。よって、S字溝面をボールが円滑に移動する。
【0020】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記外周軌道面におけるねじ山の高さ量は、前記内周軌道面におけるねじ山の高さ量よりも大きい。
【0021】
前記構成によれば、外周軌道面のねじ山の高さ量が大きくなるため、ボールが外周軌道面の溝肩に乗り上げ難くなる。また、前記構成によれば、外周軌道面の底部が深い。よって、ボールは外周軌道面からコマのS字溝面に移動する場合、外周軌道面とコマのS字溝面との段差量(径方向の移動量)が小さい。一方、ナットにコマを設けた場合、内周軌道面の底部が浅いため、内周軌道面とコマのS字溝面との段差量(径方向の移動量)が大きい。よって、本開示によれば、ボールの径方向の移動量が小さく抑えられ、ボールがS字溝面を円滑に移動する。
【0022】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記S字溝面は、径方向内側に前記ボールが沈む中央溝面と、前記中央溝面の両側に設けられ前記ボールが出入りする2つの出入口溝面と、を有している。
【0023】
前記構成によれば、コマに径方向外側の荷重が作用した場合、出入口溝面を転動するボールがナットの内周軌道面に当接する。よって、コマの径方向外側への移動が規制され、コマが凹部から離脱することを防止できる。
【0024】
また、前記したボールねじ装置の好ましい態様として、前記コマの外周面には、前記S字溝面のコマ側開口が設けられている。前記凹部の内周面には、前記コマ側開口に連続する前記外周軌道面のねじ軸側開口が設けられている。前記コマ側開口の溝形は、前記ねじ軸側開口の溝形よりも大きい。
【0025】
前記構成によれば、コマが径方向外側に移動しても、コマ側開口の縁部はねじ軸側開口の内側に移動しない。このため、コマ側開口の縁部がボールに接触する、ということが回避される。
【発明の効果】
【0026】
本開示のボールねじ装置によれば、ボールの円滑な転動とコマの破損防止の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態1のブレーキキャリパーの断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のボールねじ装置のコマ及び凹部を斜視した斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の凹部とコマを径方向外側から視た拡大図である。
【
図4】
図4は、S字溝面の中心に沿って切った場合の断面を模式的に示した断面図である。
【
図5】
図5は、凹部の第2対向面に設けられた外周軌道面の開口(ねじ軸側開口)を凹部から視た図である。
【
図6】
図6は、
図5の状態からコマが径方向外側に移動した状態を示す図である。
【
図8】
図8は、
図3の凹部及びコマのうち左下に配置される部分を拡大した拡大図である。
【
図10】
図10は、比較例1のボールねじ装置をS字溝面の溝幅の中央部に沿って切った断面図である。
【
図12】
図12は、比較例2のボールねじ装置をS字溝面の溝幅の中央部に沿って切った断面図である。
【
図13】
図13は、比較例3のコマを抽象的に示した図面である。
【
図14】
図14は、実施形態1のコマを抽象的に示した図面である。
【
図15】
図15は、実施形態2のボールねじ装置のコマを軸方向に切った断面図である。
【
図16】
図16は、実施形態3のボールねじ装置のコマを軸方向に切った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のブレーキキャリパーの断面図である。
図1に示すように、ブレーキキャリパー100は、図示しない車輪と供回りするブレーキディスク101を2つのブレーキパッド102、103で挟み、車輪の回転運動を抑制するための装置である。ブレーキキャリパー100は、ブレーキディスク101と、2つのブレーキパッド102、103と、ブレーキパッド102を作動させる電動アクチュエータ104と、ハウジング120と、を備えている。
【0030】
電動アクチュエータ104は、回転運動を生成するモータ(不図示)と、回転運動を減速させる減速装置110と、回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置1と、を備えている。以下の説明において、ボールねじ装置1のねじ軸2の軸心O1と平行な方向を軸方向と称する。また、軸方向のうち、ボールねじ装置1から視てブレーキディスク101が配置される方を第1方向X1と称し、第1方向X1と反対方向を第2方向X2と称する。
【0031】
減速装置110は、遊星歯車機構である。減速装置110は、入力軸111と、サンギヤ112と、リングギヤ113と、複数のプラネタリギヤ114と、複数の伝達軸115と、キャリア116と、を備えている。
【0032】
入力軸111には、モータの回転運動が入力される。入力軸111は、軸方向に延在している。また、入力軸111の軸心O2は、軸心O1の延長線上に位置している。サンギヤ112は、入力軸111に貫通され、入力軸111に回転不能に固定している。リングギヤ113は、軸心O2を中心とする内歯車である。リングギヤ113の外周面がハウジング120に嵌合している。
【0033】
プラネタリギヤ114は、サンギヤ112とリングギヤ113の間に配置され、サンギヤ112及びリングギヤ113に歯合している。プラネタリギヤ114は、伝達軸115に貫通されている。また、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転自在に支持されている。
【0034】
キャリア116は、軸心O1を中心とする環状部品である。キャリア116の外周面が軸受117に嵌合している。よって、キャリア116は、回転自在にハウジング120に支持されている。キャリア116の中央部に、ねじ軸2の連結部10が挿入されている。また、キャリア116と連結部10は、スプライン嵌合している。よって、キャリア116と連結部10とは、相対回転しないように連結している。また、伝達軸115は、キャリア116の中央部から径方向外側に偏心した位置を貫通している。
【0035】
以上から、モータ(不図示)から入力軸111に回転運動が伝達されると、サンギヤ112が軸心O2を中心に回転する。そして、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転(自転)しながら、軸心O2を中心に回転(公転)する。これにより、キャリア116及びねじ軸2が軸心O1を中心に回転する。また、ねじ軸2の回転速度は、入力軸111の回転速度よりも減速する。
【0036】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、ボール4(
図1で不図示。
図4参照)と、複数のコマ5(
図1で1つのみ図示)と、を備えている。ねじ軸2は、キャリア116と連結する連結部10と、連結部10に対し第1方向X1に配置されたねじ軸本体11と、を備えている。ねじ軸本体11の外周面には、螺旋方向に延在する外周軌道面13と、径方向内側に窪む複数の凹部14(
図1で1つのみ図示)と、が設けられている。
【0037】
ナット3は、有底筒状に形成されている。よって、ナット3は、筒状のナット本体6と、ナット本体6の開口を閉塞する蓋部7と、を有している。ナット本体6の内周面には、外周軌道面13に対向する内周軌道面6aが設けられている。外周軌道面13と内周軌道面6aとの間は、螺旋状の軌道8を構成している。この軌道8には、複数のボール4が配置されている。
【0038】
ナット本体6の外周面6bは、ハウジング120の支持面121に当接している。ナット本体6の外周面6bと支持面121は、それぞれ軸心O1を中心に円形状を成している。支持面121とナット本体6の外周面6bとの間には、ナット3が摺動自在となるように微小の隙間が設けられている。つまり、支持面121は、ナット3が軸方向に摺動自在となるように支持している。また、ナット本体6の外周面6bには、図示しない回り止め部材が設けられている。この回り止め部材により、ナット3は、軸心O1を中心に回転しないように規制されている。
【0039】
蓋部7は、ナット本体6の第1方向X1の開口を閉塞している。また、蓋部7の第1方向X1を向く面7aは、ブレーキパッド102に接している。
【0040】
以上から、ねじ軸2の回転によりナット3が第1方向X1に移動すると、ブレーキパッド102が第1方向X1に移動する。ブレーキパッド102は、ブレーキディスク101を第1方向X1に押圧し、ブレーキディスク101がブレーキパッド103に接触する。これにより、ブレーキディスク101は、ブレーキパッド102、103に挟持され、図示しない車輪の回転が規制される。
【0041】
コマ5は、軌道8のうち1リード分を移動したボール4を、1リード分戻す循環装置である。また、1つの凹部14に対し、1つのコマ5が取り付けられている。なお、本開示において、凹部14へのコマ5の固定方法について特に問わない。言い換えると、凹部14にコマ5を固定してもよいし、固定しなくてもよい。よって、本開示では、凹部14にコマ5を遊嵌させてもよい。または、コマ5に締め代を設けて凹部14に嵌合してもよい。若しくは、コマ5を凹部14に接着してもよい。そのほか、加締めによりコマ5を凹部14に固定してもよい。このようにコマ5の固定の有無については特に問わない。
【0042】
また、軸方向から視た場合、複数のコマ5(複数の凹部14)は、それぞれ、軸心O1からそれぞれ異なる方向に配置されている。これにより、ボール4を介してナット3からねじ軸2に作用する荷重は、周方向に均等に分散される。なお、複数のコマ5は、周方向に等間隔で配置されている方がより好ましい。
【0043】
図2は、実施形態1のボールねじ装置のコマ及び凹部を斜視した斜視図である。
図2に示すように、コマ5は、径方向外側を向く外径面20を有している。この外径面20は、ナット3の内周軌道面6a(
図1参照)と対向している。コマ5の外径面20には、径方内側に窪むS字溝面21が設けられている。S字溝面21は、ボール4を1リード戻す溝面であり、径方向外側から視てS字状を成している。また、コマ5は、タングを有していない。以下、凹部14とコマ5の詳細を説明する。
【0044】
図3は、実施形態1の凹部とコマを径方向外側から視た拡大図である。以下、
図3に示すように径方向外側から視て、軸心O1と直交する方向を交差方向Yと称する。また、軌道8に沿って延在する仮想線Zと平行な方向を螺旋方向という。
図3に示すように、凹部14は、内周面14bを有している。内周面14bは、一対の第1対向面15、15と、一対の第2対向面16、16と、を有している。
【0045】
第1対向面15は、径方向外側から視て、交差方向Yに延在する面である。一対の第1対向面15、15は、軸方向に互いに対向している。第1対向面15は、径方向外側から視て、直線状に延在している。
【0046】
第2対向面16は、軸方向に延在する面である。一対の第2対向面16、16は、交差方向Yに互いに対向している。一対の第2対向面16は、軸方向(軸心O1参照)と平行となっている。第1対向面15の交差方向Yの一端から他端までの長さは、第2対向面16の軸方向の一端から他端までの長さよりも大きい。
【0047】
コマ5は、中心C(
図3参照)を点対称に形成されている。コマ5は、中心Cを中心に環状を成す外周面24を有している。外周面24は、一対の第1対向面15、15と対向する一対の第1側面25、25と、一対の第2対向面16、16と対向する一対の第2側面26、26と、を有している。
【0048】
コマ5の外形(外周面24)は、凹部14の内形(内周面14b)と同一形状となっている。よって、第1側面25は、第1対向面15と同じように、交差方向Yに直線状に延在している。第2側面26は、第2対向面16と同じように、軸方向に直線状に延在している。第1側面25の交差方向Yの一端から他端までの長さは、第2側面26の軸方向の一端から他端までの長さよりも大きい。また、コマ5の底面5aは、凹部14の底面14aに当接している(
図4参照)。なお、底面5a及び底面14aは平坦面となっている。
【0049】
以上から、径方向外側から視ると、凹部14及びコマ5は四角形となっている。また、凹部14及びコマ5は、軸方向の長さよりも交差方向Yの長さの方が長い。
【0050】
凹部14及びコマ5の形状に関し、さらに詳細に説明すると、凹部14の第1対向面15は、交差方向Yに対して傾斜し、螺旋方向(仮想線Z参照)と平行となっている。同様にコマ5の第1側面25も螺旋方向と平行となっている。つまり、第1対向面15及び第1側面25は、ねじ山13aと平行となっている。そして、径方向外側から視ると、凹部14及びコマ5は平行四辺形となっている。
【0051】
また、ねじ軸2の外周軌道面13のねじ山13aは、凹部14と重なる範囲で切り欠かれている。よって、ねじ山13aの一部は、厚みHが小さい肉薄部18を構成している。なお、厚みHとは、螺旋方向に対し直交する直交方向の厚みである。
【0052】
ここで、仮に第1対向面15が交差方向Yに延在すると、肉薄部18には、厚みHが大きい部分と、厚みHが小さい部分と、が発生する。そして、厚みHが小さい部分は、強度が比較的小さく、ねじ山13aが変形し易い。一方、本実施形態によれば、第1対向面15及び第1側面25がねじ山13aと平行となっている。つまり、肉薄部18の厚みHは、肉薄部18が延在する方向の全体に亘って均一となっている。よって、本実施形態の肉薄部18は、強度が比較的弱い部分がなく、ねじ山13a(肉薄部18)の変形が抑制される。そのほか、本実施形態の第2対向面16及び第2側面26は、軸方向に対し傾斜し、螺旋方向(仮想線Z参照)に直交する直交方向と平行となっている。
【0053】
次にS字溝面21について説明するが、S字溝面21が延在する方向(
図3においてS字溝面21の溝幅の中央部を通る仮想線Wに沿った方向)をS字方向と称する。S字溝面21は、S字溝面21のS字方向の中央部に配置された中央溝面30と、S字溝面21のS字方向の両端部に配置された2つの出入口溝面31と、を有している。
【0054】
図4は、S字溝面の中心に沿って切った場合の断面を模式的に示した断面図である。
図4に示す仮想線K1は、ねじ軸2の外周軌道面13を周方向に延長させた線である。また、
図4においては、S字溝面21を見易くするため、複数のボール4のうち一部のみを図示している。
【0055】
図4に示すように、中央溝面30は、仮想線K1よりも径方向内側に配置されている。中央溝面30は、S字方向の両端(2つの出入口溝面31と接続している部分)からS字方向の中央部に向かって、次第に径方向内側に位置するように傾斜している。つまり、中央溝面30をS字方向に沿って切った断面形状は、凹状となっている。
【0056】
このため、ボール4は、中央溝面30のS字方向の一端からS字方向の中央部に転動すると、径方向内側に移動する(
図4に示すボール4のうちボール4Aを参照)。また、ボール4Aは、中央溝面30のS字方向の中央部からS字方向の他端に転動すると、径方向外側に移動する。これにより、ボール4は、内周軌道面6aのねじ山6cを乗り越えることができる。
【0057】
なお、本実施形態において、ボール4がS字溝面21(中央溝面30)を転動する場合の径方向の移動量をR1とする。また、ボール4が径方向内側に移動する仕組みについては後述する。
【0058】
本実施形態のナット3は、内周軌道面6aのねじ山6cの高さ量がL1となっている。外周軌道面13のねじ山13aの高さ量がL2となっている。外周軌道面13のねじ山13aの高さ量L2は、ねじ山6cの高さ量L1よりも大きい(L2>L1)。よって、ボール4は、外周軌道面13の溝肩13cに乗り上げ難い。なお、高さ量とは、溝底から溝肩までの距離(深さ)である。
【0059】
そのほか、外周軌道面13のねじ山13aの高さ量L2は、ねじ山6cの高さ量L1よりも大きいため、外周軌道面13の溝肩13cからボール4の中心Dまでの径方向の距離T1は、内周軌道面6aの溝肩6eからボール4の中心Dまでの径方向の距離T2よりも小さい。
【0060】
そのほか、
図3に示すように、コマ5は、軸方向の長さよりも交差方向Yの長さの方が大きい。このため、中央溝面30も交差方向Yの長さが比較的長い。この結果、径方向外側から視た中央溝面30のS字状の曲がり具合(
図3の仮想線Wのうち仮想線W1の部分を参照)は、緩やかに(曲率が小さく)なっている。よって、中央溝面30におけるボール4の転動が円滑となる。
【0061】
図3に示すように、コマ5の第2側面26には、出入口溝面31を交差方向に開口するコマ側開口32が設けられている。よって、出入口溝面31は、コマ側開口32を介して、ねじ軸2の外周軌道面13と連続している。また、出入口溝面31のうちコマ側開口32寄りの部分(
図3の仮想線WのうちW2の部分を参照)は、螺旋方向に延在し、外周軌道面13と平行となっている。これにより、ボール4は、外周軌道面13から出入口溝面31への進入が円滑となる。
【0062】
図4に示すように、出入口溝面31は、中央溝面30と異なり、S字方向の中央部に向かうにつれて径方向内側に位置するように傾斜していない。つまり、出入口溝面31の溝底は、軸心O1からの距離が一定となっている。よって、出入口溝面31を転動するボール4は、径方向内側に移動しない(
図4に示すボール4のうちボール4B、4Cを参照)。また、コマ5に径方向外側の荷重が作用した場合、出入口溝面31を転動するボール4B、4Cが、ナット3の内周軌道面6aに当接する。よって、コマ5の径方向外側への移動が規制され、コマ5が凹部14から離脱しない。
【0063】
なお、本実施形態では、出入口溝面31の溝底は、仮想線K1よりも径方向内側に配置されている。よって、コマ5に径方向外側の荷重が作用すると、コマ5が少し径方向外側に移動する。そして、出入口溝面31を転動するボール4B、4Cも少し径方向外側に移動し、ナット3の内周軌道面6aに当接する。よって、コマ5の径方向外側への移動量が小さく規制され、コマ5が凹部14から離脱しない。
【0064】
図5は、凹部の第2対向面に設けられた外周軌道面の開口(ねじ軸側開口)を凹部から視た図である。
図5に示すように、凹部14の内周面14bの第2対向面16には、外周軌道面13のねじ軸側開口13bが設けられている。このねじ軸側開口13bは、コマ5のコマ側開口32(
図2から
図4を参照)に対し、ボール4の転動方向(S字方向)に隣り合っている。
【0065】
図5に示すように、ボール4の転動方向から視ると、S字溝面21の出入口溝面31の溝形は、外周軌道面13の溝形よりも大きい。言い換えると、ボール4の転動方向から視て、コマ側開口32の溝形も、ねじ軸側開口13bの溝形より大きい。つまり、ねじ軸側開口13bは、コマ側開口32の内側に配置される。よって、コマ側開口32は、ねじ軸側開口13bよりも深く、かつ溝幅も大きい。
【0066】
このような理由から、
図4に示すように、出入口溝面31は、仮想線K1(外周軌道面13)よりも径方向内側に配置されている。そして、出入口溝面31が仮想線K1よりも径方向内側に配置されていることにより、ボール4を介して出入口溝面31に作用するナット3からの荷重が低減し、コマ5の変形が抑制される。
【0067】
図6は、
図5の状態からコマが径方向外側に移動した状態を示す図である。また、
図6に示すように、コマ側開口32の溝形がねじ軸側開口13bの溝形より大きいため、コマ5が径方向外側に位置ずれしても、コマ側開口32は、ねじ軸側開口13bの内側に移動しない。つまり、外周軌道面13から出入口溝面31に移動するボール4がコマ側開口32の縁部に接触する、ということが回避される。
【0068】
次にコマ5の外径面20の詳細を説明する。
図2に示すように、外径面20は、S字溝面21の溝肩27となっている。つまり、溝肩27の軸方向の幅Jは、コマ側開口32に近づくにつれて小さい。よって、溝肩27のうちコマ側開口32寄りに配置された狭小幅部27aが最も強度が低い。また、
図4に示すように、コマ5の外径面20は、軸心O1(
図1、
図3参照)を中心に円弧状となっている。コマの外径面20は、ねじ山13aの溝肩13cと同径となっている。つまり、軸方向から視ると、S字溝面21の溝肩27と外周軌道面13の溝肩13cとが重なっている(一致している)。よって、本実施形態では、コマ5の溝肩27がねじ軸2の溝肩13cよりも径方向外側に突出していない。
【0069】
図7は、
図3のVII-VII線矢視断面図である。これによれば、
図7に示すように、コマ5の第1側面25は、凹部14の第1対向面15に支持される。これにより、ボール4からの荷重がS字溝面21の溝肩27の近傍に作用しても、溝肩27(コマ5)が破損し難い。
【0070】
次に、S字溝面21でボール4が径方向内側に移動する仕組みについて説明する。なお、本説明においては、
図3のうち左下に配置されるねじ軸側開口13bからコマ側開口32にボール4が進入した場合を例に挙げて説明する。
【0071】
図8は、
図3の凹部及びコマのうち左下に配置される部分を拡大した拡大図である。
図9は、
図8のIX-IX線矢視断面図である。なお、
図9に示す仮想線M1は、ボール4の中心Dを通過し、かつ軸方向に延在する仮想上の線である。
図9に示す仮想線M2は、ボール4の中心Dを通過し、かつ径方向に延在する仮想上の線である。
【0072】
図8に示すように、S字溝面21の溝幅方向の中央部(仮想線W参照)は、出入口溝面31のうちコマ側開口32寄りの部分で、螺旋方向に延在している(
図8のW2参照)。そして、S字溝面21の所定の位置(
図8の仮想線WのうちW3を参照)あたりから、第2方向X2に曲がり始める。また、中央溝面30において、S字方向の端部と、S字方向の中央部と、の中間地点(
図8の仮想線WのうちW1を参照)で、さらに第2方向X2に曲がり始める。このように、ボール4は、出入口溝面31のS字方向の中央部あたりから第2方向X2に押圧され(
図8、
図9の矢印Aを参照)、仮想線Zから外れる。以下、ボール4が仮想線Zから外れ始める個所を変曲点W3と称する。
【0073】
このように変曲点W3では、ボール4が第2方向X2に押圧されるが、S字溝面21のうちボール4と当接する部分は、仮想線Wよりも第1方向X1に配置される片側溝面(以下、「案内面28」と称する)である。詳細には、
図9に示すように、案内面28のうちS字溝面21の溝肩27に近い部分(以下、「案内側当接部29」と称する)がボール4と当接する。よって、変曲点W3において、案内側当接部29がボール4を第2方向X2に押圧している(
図8、
図9の矢印A参照)。
【0074】
一方で、変曲点W3において、ボール4の一部は、ナット3の内周軌道面6aの内部に配置され、内周軌道面6aと当接している。また、ボール4は第2方向X2に押圧されているため、内周軌道面6aのうちボール4と接触している部分は、内周軌道面6aの溝幅の中央部よりも第2方向X2にある片側溝面(以下、対向面6dと称する)と当接する。より詳細には、対向面6dのうち溝肩6eに近い部分(対向側当接部6f)がボールと当接する。これにより、ボール4は、対向側当接部6fから第1方向X1に押圧される(
図9の矢印B参照)。
【0075】
ここで、上記したように、外周軌道面13の溝肩13cからボール4の中心Dまでの径方向の距離T1は、内周軌道面6aの溝肩6eからボール4の中心Dまでの径方向の距離T2よりも小さい(
図4参照)。また、S字溝面21の溝肩27の高さは、外周軌道面13の溝肩13c(
図4参照)と同じとなっている。よって、S字溝面21の溝肩27からボール4の中心D(仮想線M1)までの径方向の距離T3は、距離T1と同一であり、距離T2よりも小さい。このため、案内側当接部29とボール4との接触角度θ1は、対向側当接部6fとボールとの接触角度θ2よりも大きい。
【0076】
そして、案内側当接部29からボール4に作用する荷重Aは、径方向外側に向かう成分(分力)を含んでいる。また、対向側当接部6fからボール4に作用する荷重Bは、径方向内側に向かう成分(分力)を含んでいる。そして、荷重Bに含まれる径方向内側に向かう成分(分力)は、荷重Aに含まれる径方向外側に向かう成分(分力)よりも大きい。従って、案内側当接部29と対向側当接部6fに挟まれたボール4は、径方向内側に移動する。
【0077】
次に実施形態1のボールねじ装置1の効果について説明する。ボールねじ装置1の効果として、第1効果、第2効果、及び第3効果を挙げられる。また、各効果を説明するため、それぞれ比較例を用いて説明する。
【0078】
図10は、比較例1のボールねじ装置をS字溝面の溝幅の中央部に沿って切った断面図である。
図11は、
図10のXI-XI線矢視断面図である。なお、
図11に示す仮想線M11は、ボール4の中心Dを通過し、かつ軸方向に延在する仮想上の線である。
図9に示す仮想線M12は、ボール4の中心Dを通過し、かつ径方向に延在する仮想上の線である。比較例1のボールねじ装置500は、コマ505の外径面520が平坦となっている点で、実施形態1と相違する。つまり、外径面520(S字溝面521の溝肩527)は、ねじ軸502の軸方向から視て直線状となっている。
【0079】
また、S字溝面521の溝肩527の高さに関し、S字方向の端部(コマ側開口532が配置される部分)527aの高さが、外周軌道面513の溝肩513cと同じとなっている。よって、S字溝面521の溝肩527は、ねじ軸502の溝肩513cよりも径方向外側に突出していない。つまり、比較例1によれば溝肩527の端部527aが破損し難い。一方、S字溝面521の溝肩527は、S字方向の中央部(中央溝面530が配置される部分)に近づくにつれて径方向内側寄りとなっている。
【0080】
比較例1によれば、
図11に示すように、溝肩527からボール504の中心D1(仮想線M11)までの径方向の距離T4が大きくなる。つまり、案内側当接部529とボール504との接触角度θ3は、実施形態1の接触角度θ1(
図9参照)よりも小さい。なお、比較例1の接触角度θ3は、対向側当接部506fとボール504の接触角度θ4と同じとなっているとして、以下の説明を行う。
【0081】
この結果、ナット503の対向側当接部506fからボール504に作用する荷重B1は、径方向内側に向かう成分(分力)を含んでいるものの、案内側当接部529からボール504に作用する荷重A1に含まれる径方向外側に向かう成分(分力)によって相殺される。よって、ボール504は、径方向内側に移動せず、S字溝面521とナット503の内周軌道面506aとの間で挟まる。このため、比較例1では、S字溝面521でボール504が円滑に転動しない。
【0082】
一方で、比較例1のボールねじ装置500において、ボール504の円滑な転動を図ろうとすると、外径面520(S字溝面521の溝肩527)の位置を径方向外側に配置するように変更する必要がある。しかしながら、このような設計変更を行うと、溝肩527の端部527aが外周軌道面513の溝肩513cよりも径方向外側に突出する。よって、溝肩527の端部527aが破損し易い。
【0083】
このように比較例1では、外径面520が平坦となってため、ボール504の円滑な転動と、溝肩527の破損防止と、の両立が図れない。一方、実施形態1のボールねじ装置1によれば、溝肩27の高さが一定であり、外周軌道面13の溝肩13cに沿った形状となっている。つまり、S字溝面21の溝肩を、S字溝面21のS字方向の中央部で高く設定しても、コマ側開口32近傍でS字溝面21の溝肩27が外周軌道面13の溝肩13cから径方向外側に突出しないようになっている。つまり、ボール4の円滑な転動と溝肩27の破損防止とが両立する。以上が実施形態1の第1効果である。なお、本実施形態では、S字溝面21の溝肩27とねじ軸2の溝肩13cとが同じ高さであり、溝肩27が破損する可能性は低い。
【0084】
第2効果は、コマ5がねじ軸2に設けられていることに起因する。よって、比較例2では、コマ5がナット3に設けられているものを挙げる。
【0085】
図12は、比較例2のボールねじ装置をS字溝面の溝幅の中央部に沿って切った断面図である。
図12に示すように、比較例2のボールねじ装置1001は、ねじ軸1002とナット1003とを備えている。このボールねじ装置1001において、コマ1005がナット1003に設けられている点で、実施形態1と相違する。
【0086】
そのほか、ナット1003の内周軌道面1006aのねじ山1006cの高さ量L11は、実施形態1と同じL1となっている。ねじ軸1002の外周軌道面1013のねじ山1013aの高さ量L12は、実施形態1と同じL2である。なお、
図12の仮想線K2は、内周軌道面1006aを周方向に延長した線である。
【0087】
ボール1004がコマ1005のS字溝面1021を移動する場合、ボール1004の径方向の移動量はR2となる。この径方向の移動量R2は、ねじ山1013aとの接触を回避するため、ボール1004が外周軌道面1013のねじ山1013aの高さ量L12を超える移動量となる。また、比較例2の内周軌道面1006aにおいて、ねじ山1006cは、高さ量がL11であり小さい。よって、内周軌道面1006aの底部は浅く、内周軌道面1006aの底部とS字溝面1021のうち最も深い部分との段差量が大きい。つまり、比較例2によれば、ボール1004が径方向に移動する移動量R2が大きい。
【0088】
一方、
図4に示すように、実施形態1の外周軌道面13において、ねじ山13aは、高さ量がL2であり大きい。よって、外周軌道面13の底部は深く、外周軌道面13の底部とS字溝面21のうち最も深い部分との段差量が小さい。つまり、実施形態1によれば、ボール4が径方向に移動する移動量R1は、比較例1の移動量R2よりも小さい。
【0089】
以上から、比較例2のS字溝面1021の段差量(径方向の移動量)が大きい。一方で、実施形態1のS字溝面21の段差量が小さい。よって、実施形態1によれば、S字溝面21における深さ方向(径方向)の傾斜が緩やかとなり、平坦性が確保される。つまり、実施形態1は、S字溝面21を転動するボール4が円滑に移動する、という第2効果を奏する。
【0090】
第3効果は、コマ5(凹部14)の交差方向Yの長さが軸方向の長さよりも大きいことに起因する。よって、比較例3では、交差方向Yと軸方向の長さが等しい円形状のコマを挙げる。
【0091】
図13は、比較例3のコマを抽象的に示した図面である。
図14は、実施形態1のコマを抽象的に示した図面である。
図13に示すように、比較例3のコマ2005は、外形が円形状を成している。比較例3のコマ2005によれば、ボールがS字溝面2021に沿って軸方向に曲がる角度がθ11であり、比較的大きい。また、比較例3のコマ2005によれば、ボールがS字溝面2021に沿って径方向に曲がる角度がθ12であり、比較的大きい。
【0092】
図14に示すように、実施形態1のコマ5は、軸方向よりも交差方向に長い。よって、ボールがS字溝面21に沿って軸方向に曲がる角度θ13は小さく、比較例3よりも傾斜が緩やかである。また、ボールがS字溝面21に沿って径方向に曲がる角度θ14も小さく、比較例3よりも傾斜が緩やかである。よって、実施形態1によれば、ボール4がS字溝面21をより円滑に転動する、という第3効果を奏する。
【0093】
そのほか、
図13に示す比較例3のコマ2005によれば、凹部に組み付けた後、コマを回転させて、S字溝面2021と外周軌道面(不図示)を連続させる必要がある。一方で、実施形態1の凹部14及びコマ5は、径方向外側から視て、平行四辺形(四角形)となっている。つまり、凹部14及びコマ5は、非円形状となっている。よって、凹部14にコマ5を挿入するだけで、S字溝面21と外周軌道面13とが連続する。よって、凹部14にコマ5を組み付けた後、コマ5を回転させてコマ5の向きを設定する、という作業が不要となる。また、比較例3によれば、ボール4からの荷重を受けてコマ2005が凹部内で回転(位置ずれ)する可能性があるが、本実施形態によれば、コマ5が凹部14内で回転(位置ずれ)しない。また、本実施形態のコマ5は、比較例3のコマ2005よりも周方向の長さが長い。つまり、本実施形態のコマ5は、比較例3のコマ2005よりも周方向の強度が高く、S字溝面21を転動するボール4から周方向の荷重を受けても破損し難い。
【0094】
以上、実施形態1のボールねじ装置1は、内周面に内周軌道面6aが設けられたナット3と、ナット3を貫通し、外周面に外周軌道面13が設けられたねじ軸2と、外周軌道面13と内周軌道面6aとの間の軌道8に配置された複数のボール4と、ボール4を循環させる少なくとも1つ以上のコマ5と、を備えている。ねじ軸2の外周面には、径方向内側に窪み、コマ5を収容する凹部14が少なくとも1つ以上設けられている。コマ5は、径方向外側を向く外径面20と、外径面20から径方向内側に窪むS字溝面21と、を有している。ねじ軸2の軸心O1と平行な軸方向から視て、コマ5の外径面20は、軸心O1を中心に円弧状となっている。
【0095】
上記したボールねじ装置1によれば、ボール4の円滑な転動と、コマ5の破損防止と、の両立が図れる。
【0096】
また、実施形態1のボールねじ装置1は、S字溝面21の溝肩27が外周軌道面13の溝肩13cと同径となっている。
【0097】
これによれば、S字溝面21の溝肩27が破損し難くなっている。
【0098】
また、実施形態1では、ねじ軸2の径方向外側から視た場合、凹部14及びコマ5は、ねじ軸2と平行な軸方向の長さよりも、軸方向に交差する交差方向Yの長さの方が長い。
【0099】
これによれば、S字溝面21における交差方向Yの比率が大きくなり、S字溝面21でのボール4の移動が円滑となる。
【0100】
また、実施形態1では、外周軌道面13におけるねじ山13aの高さ量L2は、内周軌道面6aにおけるねじ山6cの高さ量L1よりも大きい。
【0101】
これによれば、ボール4が外周軌道面13の溝肩13cに乗り上げ難い。また、S字溝面21における径方向の傾斜が緩やかとなり、S字溝面21でのボール4の移動が円滑となる。
【0102】
また、実施形態1のS字溝面21は、径方向内側にボール4が沈む中央溝面30と、中央溝面30の両側に設けられボール4が出入りする2つの出入口溝面31と、を有している。
【0103】
これによれば、コマ5に径方向外側の荷重が作用しても、出入口溝面31を転動するボール4が内周軌道面6aに当接する。よって、コマ5は、径方向外側への移動が規制され、凹部14から離脱しない。
【0104】
また、実施形態1において、コマ5の外周面24には、S字溝面21のコマ側開口32が設けられている。凹部14の内周面14bには、コマ側開口32に連続する外周軌道面13のねじ軸側開口13bが設けられている。コマ側開口32の溝形は、ねじ軸側開口13bの溝形よりも大きい。
【0105】
コマ5が径方向外側に移動しても、コマ側開口32の縁部は、ねじ軸側開口13bの内側に入り込まない。よって、コマ側開口32の縁部は、ボール4と接触しない。
【0106】
次に他の実施形態について説明する。なお、他の実施形態は、実施形態1との相違点に絞って説明する。
【0107】
(実施形態2)
図15は、実施形態2のボールねじ装置のコマを軸方向に切った断面図である。
図15に示すように、実施形態2のコマ205は、外径面220が外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向外側に突出している点で、実施形態1のコマ5と相違する。つまり、実施形態2において、S字溝面221の溝肩227は、外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向外側に配置されている。
【0108】
これによれば、ボール4との接触する案内側当接部229がより径方向外側に配置される。つまり、ボール4との接触角度θ1(
図9参照)を大きくすることができる。よって、案内側当接部229からボール4に作用する荷重には、径方向外側に向かう成分が少なく、ボールがS字溝面221と内周軌道面6a(
図9参照)とに挟まれ難くなる。従って、実施形態1よりもボールの転動が円滑となる。ただし、S字溝面221の溝肩227が外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向外側に突出しているため、実施形態1よりも溝肩227が破損する可能性が高い。
【0109】
(実施形態3)
図16は、実施形態3のボールねじ装置のコマを軸方向に切った断面図である。
図16に示すように、実施形態2のコマ305は、外径面320が外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向内側に窪んでいる点で、実施形態1のコマ5と相違する。つまり、実施形態3において、S字溝面321の溝肩327は、外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向内側に配置されている。
【0110】
なお、実施形態1によれば、コマ5が径方向外側に位置ずれすると、一時的にS字溝面21の溝肩27が外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向外側に突出してしまう可能性がある。一方で、実施形態3では、コマ305が径方向外側に位置ずれしても、溝肩327が外周軌道面13の溝肩13cよりも径方向外側に突出する可能性が低い。よって、実施形態1よりもコマ5(溝肩327)が破損する可能性を低減できる。ただし、実施形態3によれば、案内側当接部329が径方向内側に配置され、ボール4との接触角度θ1(
図9参照)が小さくなる。つまり、ボールがS字溝面321と内周軌道面6a(
図9参照)とに挟まれる可能性が高い。よって、ボールの円滑な転動に関しては、実施形態1の方が優れている。
【0111】
以上、各実施形態のボールねじ装置を説明したが、本開示は、実施形態で例示したボールねじ装置に限定されない。例えば、本開示のボールねじ装置は、電動アクチュエータ104やブレーキキャリパー100以外の装置に適用してよい。
【0112】
また、実施形態において、凹部14の内周面14bとコマ5の外周面24は、平行四辺形となっているが、本開示は、平行四辺形以外の形状であってもよい。よって、本開示は、凹部14の内周面14bとコマ5の外周面24は、例えば四角形状や楕円形状であってもよい。また、一対の第1対向面15、15及び一対の第1側面25、25は、螺旋方向に延在しているが、交差方向Yに延在してよい。また、第2対向面16及び第2側面26は、螺旋方向(仮想線Z参照)に対し直交方向に延在しているが軸方向に延在していてもよい。また、上記した凹部14とコマ5が四角形状の場合には、長方形、正方形、平行四辺形、ひし形、台形などが含まれる。また、四角形状の角部がR部になっていてもよく、特に限定されない。
【0113】
また、本開示のS字溝面21は、中央溝面30のみを備え、2つの出入口溝面31を有していなくてもよい。
【0114】
また、本開示は、内周軌道面6aのねじ山6cの高さ量L1は、外周軌道面13のねじ山13aの高さ量L2と同じにしてもよいし、若しくは大きくしてもよい。また、実施形態1のコマ5は、軸方向の長さよりも交差方向Yに長いが、本開示は、軸方向の長さの方が長いコマ5であってもよい。
【0115】
また、本実施形態において、ボール4と案内側当接部29との接触角度θ1を、ボール4と対向側当接部6fの接触角度θ2よりも大きくするため、ねじ山13aの高さ量L2をねじ山6cの高さ量L1よりも大きくしているが、本開示は、これに限定されない。例えば、S字溝面21と内周軌道面6aの溝形を変えることで、接触角度θ1が接触角度θ2よりも大きくなるようにしてもよい。または、コマ5の溝肩27を高くすることで、接触角度θ1が接触角度θ2よりも大きくなるようにしてもよい。
【0116】
また、本開示において、コマの材質や製造方法についても特に限定はない。例えば、ナイロン66樹脂など、樹脂材料によりコマを製造してもよい。また、金属粉末射出成形法によりコマを製造してもよい。若しくは、例えば鉄などを削ることでコマを製造してもよい。
【0117】
また、本開示のコマは、タングを有していてもよい。このようなコマによれば、ボールがタングに到達するまでの間、案内側当接部29と対向側当接部6fとの間で挟まれる、ということがない。そして、ボールは、タングにより径方向内側に円滑に案内されるようになる。つまり、本開示は、ボールが案内側当接部29と対向側当接部6fとの間に挟まれる、ということを防止できればよく、案内側当接部29と対向側当接部6fとがボール4を径方向に案内する機能まで有している必要はない。
【0118】
以上説明したが、本明細書における表現である「同径」、「等しい」には、「完全に同径」、「完全に等しい」だけでなく、一定の誤差範囲内での「実質的に同径」、「実質的に等しい」も含まれる。
【0119】
なお、本開示は、以下のような構成の組み合わせであってもよい。
(1)
内周面に内周軌道面が設けられたナットと、
前記ナットを貫通し、外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸と、
前記外周軌道面と前記内周軌道面との間の軌道に配置された複数のボールと、
前記ボールを循環させる少なくとも1つ以上のコマと、
を備え、
前記ねじ軸の外周面には、径方向内側に窪み、前記コマを収容する凹部が少なくとも1つ以上設けられ、
前記コマは、
径方向外側を向く外径面と、
前記外径面から径方向内側に窪むS字溝面と、
を有し、
前記ねじ軸の軸心と平行な軸方向から視て、前記外径面は、前記軸心を中心に円弧状となっている
ボールねじ装置。
(2)
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩と同径となっている
(1)に記載のボールねじ装置。
(3)
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向外側に突出している
(1)に記載のボールねじ装置。
(4)
前記S字溝面の溝肩は、前記外周軌道面の溝肩よりも径方向内側に窪んでいる
(1)に記載のボールねじ装置。
(5)
前記ねじ軸の径方向外側から視て、前記凹部及び前記コマは、前記ねじ軸と平行な軸方向の長さよりも、前記軸方向に交差する交差方向の長さの方が長い
(1)から(4)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(6)
前記外周軌道面におけるねじ山の高さ量は、前記内周軌道面におけるねじ山の高さ量よりも大きい
(1)から(5)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(7)
前記S字溝面は、
径方向内側に前記ボールが沈む中央溝面と、
前記中央溝面の両側に設けられ、前記ボールが出入りする2つの出入口溝面と、
を有している
(1)から(6)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
(8)
前記コマの外周面には、前記S字溝面のコマ側開口が設けられ、
前記凹部の内周面には、前記コマ側開口に連続する前記外周軌道面のねじ軸側開口が設けられ、
前記コマ側開口の溝形は、前記ねじ軸側開口の溝形よりも大きい
(1)から(7)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
【符号の説明】
【0120】
1、500、1001 ボールねじ装置
2、502、1002 ねじ軸
3、1003 ナット
4、504、1004 ボール
5、205、305、505、1005、2005 コマ
6 ナット本体
6a、1006a 内周軌道面
6c、1006c ねじ山
6e 溝肩
6f、506f 対向側当接部
8 軌道
11 ねじ軸本体
13、513 外周軌道面
13a ねじ山
13b ねじ軸側開口
13c、513c 溝肩
14 凹部
15 第1対向面
16 第2対向面
18 肉薄部
20、220、320、520 外径面
21、221、321、521、1021、2021 S字溝面
25 第1側面
26 第2側面
27、527 溝肩
29、229、329、529 案内側当接部
30 中央溝面
31 出入口溝面
32 コマ側開口
100 ブレーキキャリパー
104 電動アクチュエータ
120 ハウジング