(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118710
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】リパーゼの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/20 20060101AFI20240826BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240826BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240826BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240826BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240826BHJP
C11D 3/386 20060101ALI20240826BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240826BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C12N9/20 ZNA
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C11D3/386
C12N15/31
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025142
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4H003
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC07
4B050DD02
4B050KK03
4B050LL04
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA15X
4B065AA26X
4B065AA41Y
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA57
4H003DA01
4H003DA05
4H003DA13
4H003DA17
4H003EC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】産業上有用なサブファミリーI.2に分類されるリパーゼに近縁で、Lifに依存せずに活性型で異種発現可能なリパーゼの製造方法の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させることを含む、リパーゼの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させることを含む、リパーゼの製造方法。
【請求項2】
前記形質転換微生物がPseudoalteromonas属細菌以外の微生物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記形質転換微生物が大腸菌又はバチルス属細菌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片を含有する形質転換微生物。
【請求項5】
Pseudoalteromonas属細菌以外の微生物である、請求項4記載の形質転換微生物。
【請求項6】
大腸菌又はバチルス属細菌である、請求項4記載の形質転換微生物。
【請求項7】
配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、脂質中のエステル結合を加水分解して脂肪酸を生成することによって油を含む汚れの除去に寄与し、洗浄用途において有用である。
【0003】
細菌由来のバクテリアリパーゼは8つのファミリーに分類される(非特許文献1)。ファミリーIのリパーゼのうち、サブファミリーI.2に分類されるBurkholderia属細菌由来のリパーゼは産業上有用なリパーゼとして広く利用されている。しかしながら、サブファミリーI.2リパーゼは活性型への折りたたみに特異的シャペロン(Lipase-specific foldase;Lif)を要することが知られており(非特許文献2)、活性型での異種発現に課題がある。Lifの共発現によって異種発現が改善することが報告されている(非特許文献3)が、その生産性は低く、異種発現には依然として課題が存在する。
【0004】
サブファミリーI.1とサブファミリーI.2は同一のpfamファミリーPF00561に属し、これらのサブファミリーのリパーゼは構造・配列上の類似性を有する。サブファミリーI.1のリパーゼの多くは、サブファミリーI.2のリパーゼと同様にLif依存性であることが報告されている(非特許文献2)一方で、サブファミリーI.1の中でもPseudomonas fragi由来リパーゼ、Proteus属細菌由来リパーゼ、Yersinia属細菌由来リパーゼ、メタゲノム由来リパーゼLipC12などが活性型への折りたたみをLifに依存しないこと、及び大腸菌にて活性型で異種発現可能であることが報告されている(非特許文献4~7)。これまで知られているサブファミリーI.1 Lif非依存性リパーゼは、単一のクレード(Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris clade)を形成し、その他にはLif非依存性のサブファミリーI.1リパーゼは見つかっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Arpigny JL, Jaeger KE. The Biochemical journal 343 Pt 1(Pt 1) (1999): 177-183.
【非特許文献2】Rosenau, Frank, Jan Tommassen, and Karl‐Erich Jaeger. Chembiochem 5.2 (2004): 152-161.
【非特許文献3】Quyen, ThiDinh, ChiHai Vu, and GiangThi Thu Le. Microbial Cell Factories 11.1 (2012): 1-12.
【非特許文献4】Alquati, Claudia, et al. European Journal of Biochemistry 269.13 (2002): 3321-3328.
【非特許文献5】Lee, Hong-Weon, et al. Biotechnology letters 22.19 (2000): 1543-1547.
【非特許文献6】Ji, Xiuling, et al. Protein expression and purification 115 (2015): 125-131.
【非特許文献7】Glogauer, Arnaldo, et al. Microbial cell factories 10.1 (2011): 1-15.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、産業上有用なサブファミリーI.2に分類されるリパーゼに近縁で、Lifに依存せずに活性型で異種発現可能なリパーゼの製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1及びI.2に分類される広範なリパーゼの由来細菌ゲノムについて網羅的に解析した結果、サブファミリーI.1のリパーゼにおいて既存のLif非依存性クレードと異なる系統の新規Lif非依存性クレードが存在すること、斯かるクレードに属するリパーゼはLifに依存せずに活性型で異種発現でき、Secシグナルを有することから分泌発現可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記1)~3)に係るものである。
1)配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させることを含む、リパーゼの製造方法。
2)配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片を含有する形質転換微生物。
3)配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリパーゼの製造方法によれば、Lifに依存せずに活性型のリパーゼを異種発現させて効率よく製造することができる。また、斯かるリパーゼは、分泌発現可能で回収が容易であり、洗浄剤組成物などの産業上の応用に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1及びI.2のリパーゼの系統樹。三角マーク及び星マークはそれぞれ由来菌のゲノム中にLif様遺伝子が存在しないことを示す。
【
図2】バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1のリパーゼのPseudoalteromonas shioyasakiensis clade及びその近傍の系統樹。三角マークは由来菌のゲノム中にLif様遺伝子が存在しないことを示す。
【
図3】Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するリパーゼPliLipをLifを伴わずに異種発現させた場合のリパーゼ活性。
【
図4】Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するリパーゼPshLipをLifを伴わずに異種発現させた場合のリパーゼ活性。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本明細書において、「リパーゼ」とは、トリアシルグリセロールリパーゼ(EC3.1.1.3)を指し、脂質中のエステル結合を加水分解して脂肪酸を生成する活性を有する酵素群を意味する。リパーゼ活性は、典型的にはエステラーゼ活性であり、オクタン酸4-ニトロフェニルの加水分解による4-ニトロフェノールの遊離に伴う吸光度の増加速度を測定することによって決定することができる。リパーゼ活性の測定の具体的手順は、後述の実施例に詳述されている。
【0013】
本明細書において、「クレード」とは、共通祖先における祖先配列と共通祖先から派生したすべての子孫における配列(現存配列及び現存配列と共通祖先における祖先配列の中間的な祖先配列)とから構成される集団である(evolution.berkeley.edu/evolibrary/article/0_0_0/evo_06)。クレードは系統樹として視覚化することができる。
【0014】
本明細書において、「Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris clade」とは、タンパク質の進化を表す有根系統樹上で、バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1に分類され、Pseudomonas fragi又はProteus vulgarisに由来する既知のLipase-specific foldase(Lif)非依存性リパーゼを含むクレードを指す。ここで、Lifとはリパーゼの活性型への折りたたみの際に働く特異的シャペロンを指し、Lif依存性リパーゼとは活性型での発現にLifを要するリパーゼを、Lif非依存性リパーゼとは活性型での発現にLifを要さないリパーゼを意味する。
【0015】
本明細書において、「Pseudoalteromonas shioyasakiensis clade」とは、タンパク質の進化を表す有根系統樹上で、バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1に分類され、Pseudoalteromonas属細菌に由来するLif非依存性リパーゼを含むクレードを指す。具体的には、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号WP_062566573.1、WP_054552859.1、WP_130166163.1、WP_063702834.1、WP_167659000.1及びWP_138557990.1として登録されている6つのリパーゼを含むクレードである。
【0016】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0017】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。
あるアミノ酸配列又はヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列又はヌクレオチド配列の例としては、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列、1又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列が挙げられる。
ここで、「1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列」とは、1個以上30個以下、好ましくは1個以上20個以下、より好ましくは1個以上10個以下、さらに好ましくは1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列をいう。また、「1又は複数個のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列」とは、1個以上90個以下、好ましくは1個以上60個以下、より好ましくは1個以上30個以下、さらにより好ましくは1個以上15個以下のヌクレオチドが欠失、置換、付加、又は挿入されたヌクレオチド配列をいう。本明細書において、アミノ酸又はヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端へのアミノ酸又はヌクレオチドの付加が含まれる。
【0018】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、University College Dublinが運営するClustalのウェブサイト[www.clustal.org]、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
【0019】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとスレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0021】
本明細書において、プロモーターなどの制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0022】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0023】
従来知られているバクテリアリパーゼのサブファミリーI.1に属するLif非依存性リパーゼは、単一のクレード(Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris clade)を形成し、その他にはバクテリアリパーゼのサブファミリーI.1に属するLif非依存性リパーゼは見つかっていなかった。しかるところ、後記実施例に示すように、バクテリアリパーゼのサブファミリーI.1及びI.2に分類されるリパーゼの由来細菌ゲノムについて、リパーゼ遺伝子とLif様遺伝子の共存性に基づいてリパーゼのLif依存性を網羅的に解析した結果、新たにLif非依存性リパーゼからなるクレード(Pseudoalteromonas shioyasakiensis clade)が見出された。Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeは、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号WP_062566573.1、WP_054552859.1、WP_130166163.1、WP_063702834.1、WP_167659000.1及びWP_138557990.1(それぞれ成熟領域は配列番号2、配列番号4、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び配列番号17のアミノ酸配列)として登録されている6つのリパーゼを含むクレードである。Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris cladeのリパーゼは、明確な分泌シグナルを持たない一方、Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeのリパーゼはSecシグナルを有する。よって、Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeのリパーゼは、Lif非依存性であることが新たに見出されたリパーゼであるのみならず、既知のLif非依存性リパーゼとは異なる様式で細胞外に効率的に分泌され、異種微生物での発現に好適である。よって、配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させれば、Lifに依存せずに、すなわちLifの共発現なしに、活性型のリパーゼを効率よく製造することができる。
【0024】
したがって、本発明は、配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させることを含む、リパーゼの製造方法を提供する。
【0025】
配列番号2のアミノ酸配列は、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号WP_062566573.1として登録されているPseudoalteromonas shioyasakiensis由来のリパーゼ(PshLip)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。配列番号4のアミノ酸配列は、WP_054552859.1として登録されているPseudoalteromonas lipolytica由来のリパーゼ(PliLip)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。配列番号14のアミノ酸配列は、WP_130166163.1として登録されているPseudoalteromonas sp.由来のリパーゼ(PspLip1)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。配列番号15のアミノ酸配列は、WP_063702834.1として登録されているPseudoalteromonas sp.由来のリパーゼ(PspLip2)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。配列番号16のアミノ酸配列は、WP_167659000.1として登録されているPseudoalteromonas sp.由来のリパーゼ(PspLip3)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。配列番号17のアミノ酸配列は、WP_138557990.1として登録されているPseudoalteromonas sp.由来のリパーゼ(PspLip4)の成熟領域のアミノ酸配列を示す。PshLip、PliLip及びPspLip1~4は、それぞれ、Lif非依存性であることが本発明者らにより初めて見出されたリパーゼであり、N末端にSecシグナルを有している。
【0026】
配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列としては、製造されたリパーゼの回収の容易さの点から、好ましくは配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有しかつSecシグナルを含むアミノ酸配列が好ましい。
【0027】
配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチド(以下、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドとも称する)は、一本鎖若しくは二本鎖DNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
【0028】
目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、常法に従って調製することができる。例えば、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、上述したリパーゼを産生する微生物から、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。
【0029】
上記の手順で得られたポリヌクレオチドに対して、さらに部位特異的変異導入を行うことにより、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを調製してもよい。
【0030】
あるいは、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、目的のリパーゼのアミノ酸配列に基づいて、化学的又は遺伝子工学的に合成してもよい。例えば、該ポリヌクレオチドは、配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列に基づいて、化学的に合成することができる。ポリヌクレオチドの化学合成には、核酸合成受託サービス(例えば、株式会社医学生物学研究所、Genscript社などより提供されている)を利用することができる。さらに、合成したポリヌクレオチドをPCR、クローニングなどにより増幅することもできる。
【0031】
目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドが導入される微生物の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0032】
目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドはベクターに組み込むことができる。当該ポリヌクレオチドを含有するベクターの種類としては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクターなどの任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、好ましくはバチルス属細菌(例えば枯草菌又はその変異株)内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明のリパーゼを組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)などのシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)などのバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミドベクター、などが挙げられる。また大腸菌由来のプラスミドベクター(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescriptなど)を用いることもできる。
【0033】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチド(すなわちリパーゼ遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナル領域などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。
【0034】
上記プロモーター領域、ターミネーター領域、分泌シグナル領域などの制御配列の種類は、特に限定されず、導入する微生物に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、ベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Bacllus sp.KSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター、分泌シグナル配列などが挙げられる。
【0035】
あるいは、上記本発明のベクターには、該ベクターが適切に導入された微生物を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主としての微生物に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
【0036】
上記目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
【0037】
目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主としての微生物に導入するか、又は目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主としての微生物に導入し、該微生物のゲノムに該ポリヌクレオチドを組み込むことにより、本発明の形質転換微生物を得ることができる。
【0038】
微生物としては、目的のリパーゼが由来する微生物以外の細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。具体的には、Pseudoalteromonas属細菌以外の微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌が好ましく、バチルス属細菌がより好ましく、枯草菌(例えば、枯草菌Bacillus subtilis Marburg No.168(枯草菌168株)又はその変異株)がさらに好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135-143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、Microbial cell factories 20.1,2021,1-13に記載のプロテアーゼ9重欠損株Dpr9、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847-1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rhizopus)などが挙げられる。
【0039】
微生物へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換微生物を得ることができる。
【0040】
あるいは、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を連結した断片を、微生物のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE-PCR法などにより、上記連結断片の両端に微生物のゲノムと相補的な配列を付加したDNA断片を構築し、これを微生物に導入して、微生物ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドが微生物のゲノムに導入される。
【0041】
本発明の方法においては、上記のような手順で得られた、目的のリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養する。形質転換微生物は、該形質転換微生物の種類に応じた一般的な培養方法に従って培養すればよく、培養に使用する培地も、該形質転換微生物の種類にあわせて当業者が適宜選択することができる。例えば、バチルス属菌の培養のための培地は、菌の生育に必要な炭素源及び窒素源を含む。炭素源としては、例えばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが挙げられる。窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが挙げられる。必要に応じて、該培地は、他の栄養素、例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、カナマイシン、スペクチノマイシン、エリスロマイシン等)などを含んでいてもよい。培養条件、例えば温度、通気撹拌条件、培地のpH及び培養時間等は、菌種や形質、培養スケール等に応じて適宜選択され得る。
【0042】
本発明の方法において、該形質転換微生物の培養により、目的のリパーゼが発現される。発現したリパーゼは、好ましくは細胞外に分泌又は放出され、培養物の細胞外成分中に蓄積する。斯くして製造されたリパーゼは、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。
【0043】
本発明のリパーゼの製造方法によれば、Lifに依存せずに活性型のリパーゼを効率よく製造することができ、該リパーゼの大量生産が可能となる。製造された配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼは、各種洗浄剤組成物配合用酵素として有用であり、特に低温洗浄に適した洗浄剤組成物配合用酵素として有用である。
ここで、「低温」としては、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下が挙げられ、また5℃以上、10℃以上、15℃以上が挙げられる。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃が挙げられる。
【0044】
洗浄剤組成物中へのリパーゼの配合量は、当該リパーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、例えば、洗浄剤組成物1kg当たり好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上であり、且つ好ましくは5000mg以下、より好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。また0.1~5000mgであるのが好ましく、1~1000mgであるのがより好ましく、5~500mgであるのがより好ましい。
【0045】
洗浄剤組成物は、上記リパーゼ以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼなどである。このうち、上記リパーゼとは異なるリパーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼなどが好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。
プロテアーゼとしては市販のAlcalase、Esperase、Everlase、Savinase、Kannase、Progress Uno(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ、EXCELLENZ(登録商標;デュポン社)、Lavergy(登録商標;BASF社)、またKAP(花王)、などが挙げられる。
セルラーゼとしてはCelluclean、Carezyme(登録商標;ノボザイムズ社)、またKAC、特開平10-313859号公報記載のバチルス・エスピーKSM-S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ(以上、花王)などが挙げられる。
アミラーゼとしてはTermamyl、Duramyl、Stainzyme、Stainzyme Plus、Amplify Prime(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ(登録商標;デュポン社)、またKAM(花王)、などが挙げられる。
リパーゼとしてはLipolase、Lipex(登録商標;ノボザイムズ社)などが挙げられる。
【0046】
洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0047】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗浄剤組成物中0.5~60質量%配合され、特に粉末状洗浄剤組成物については10~45質量%、液体洗浄剤組成物については20~90質量%配合することが好ましい。また洗浄剤組成物がランドリー用衣料洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤である場合、界面活性剤は一般に1~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。
【0048】
洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種又は組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤である。
【0049】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01~50質量%、好ましくは5~40質量%配合される。洗浄剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1~10μm、特に0.1~5μmのものが好適に使用される。
【0050】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01~80質量%、好ましくは1~40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0051】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。洗浄剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千~10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0052】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1~10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6-316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01~10質量%配合することができる。
【0053】
(6)蛍光剤
洗浄剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS-Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001~2質量%配合するのが好ましい。
【0054】
(7)その他の成分
洗浄剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、防菌防カビ剤(プロキセル[商品名]、安息香酸など)、その他の添加剤を含有させることができる。
【0055】
洗浄剤組成物は、上記リパーゼ及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0056】
斯くして得られる洗浄剤組成物は、衣料洗浄剤、食器洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができるが、好ましくは衣料洗浄剤、食器洗浄剤が挙げられ、より好ましくはランドリー用衣料洗浄剤(ランドリー用洗濯洗剤)、手洗いによる食器洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤が挙げられる。
また、当該洗浄剤組成物は、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上での使用に適する。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃での使用に適する。好ましい使用態様としては、ランドリーでの低温(15~30℃)洗浄における使用、自動食器洗浄機による低温(15~30℃)洗浄における使用が挙げられる。
【0057】
本発明の洗浄剤組成物を用いることで、汚れの除去を必要とする被洗浄物(例えば、衣類、食器、硬質表面、排水管、義歯、医療器具など)を洗浄すること、すなわち汚れを除去することができる。斯かる洗浄方法は、汚れの除去を必要とする被洗浄物と本発明の洗浄剤組成物とを接触させる工程を含む。好ましくは、汚れとは油汚れである。
【0058】
本発明の洗浄方法において、被洗浄物と洗浄剤組成物とを接触させるには、該洗浄剤組成物を溶かした水に、該被洗浄物を漬け置きしてもよく、また該洗浄剤組成物を、該被洗浄物に直接塗布してもよい。本発明の方法においては、該漬け置き又は洗剤組成物の塗布後の被洗浄物をさらに手洗い、スポンジによる擦り洗い、洗濯機などで洗ってもよいが、必ずしもその必要はない。
【0059】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換微生物を培養し、該リパーゼを発現させることを含む、リパーゼの製造方法。
<2>前記リパーゼが配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列からなるものである、<1>記載の方法。
<3>前記形質転換微生物がPseudoalteromonas属細菌以外の微生物である、<1>又は<2>記載の方法。
<4>前記形質転換微生物が大腸菌又はバチルス属細菌である、<1>又は<2>記載の方法。
<5>配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片を含有する形質転換微生物。
<6>前記ベクター又はDNA断片が配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列からなるリパーゼをコードするポリヌクレオチドを含む、<5>記載の形質転換微生物。
<7>Pseudoalteromonas属細菌以外の微生物である、<5>又は<6>記載の形質転換微生物。
<8>大腸菌又はバチルス属細菌である、<5>又は<6>記載の形質転換微生物。
【0060】
<9>配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼを含有する洗浄剤組成物。
<10>低温で使用される、<9>記載の洗浄剤組成物。
<11>40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上で使用されるか、又は5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃で使用される、<10>記載の洗浄剤組成物。
<12><9>~<11>のいずれか1項に記載の洗浄剤組成物を用いる、汚れの洗浄方法。
<13>洗浄剤組成物の製造のための配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼの使用。
<14>汚れの洗浄のための配列番号2、4及び14~17のいずれかのアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるリパーゼの使用。
【実施例0061】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
(1)サブファミリーI.1及びI.2に属するリパーゼのシャペロン依存性の網羅的推定
Lif依存性リパーゼはゲノム上でLifとクラスターを形成することが報告されていることから(El Khattabi, Mohamed, et al. “Role of the lipase-specific foldase of Burkholderia glumae as a steric chaperone.” Journal of Biological Chemistry 275.35 (2000): 26885-26891.)、ゲノム上のリパーゼ遺伝子近傍におけるLif様遺伝子の有無によってLif依存性を推定できると考え、公共データベースに含まれるリパーゼ配列のLif依存性の網羅的推定を行った。
細菌リパーゼのサブファミリー分類を提案したArpignyらの文献(Arpigny, Jean Louis, and Karl-Erich JAEGER. “Bacterial lipolytic enzymes: classification and properties.” Biochemical journal 343.1 (1999): 177-183.)においてサブファミリーI.1又はI.2に分類されたリパーゼ9配列(D50587、AF031226、X16945、X80800、X14033、U88907、U33845、X70354、M58494)をクエリ配列とし、BLAST検索(e-value=1e-20)によってNCBIのnrデータベースからホモログ配列を収集した。Entrezを用いて各リパーゼ遺伝子の上流下流各5000bpが取得可能かどうかを判別し、近傍ゲノム配列が取得可能な配列のみを抽出した。cd-hitを用いて配列同一性70%でクラスタリングし、MAFFT-DASHによりマルチプルシーケンスアライメントを作成してIqtreeにて系統解析を行った。
Entrezを用いて各リパーゼ遺伝子の上流下流各5000bpの範囲に含まれるORFのアミノ酸配列を取得した。Lif様遺伝子の探索にはHMMERを用いた。pfamファミリーPF03280(Proteobacterial lipase chaperone protein)のHMMを用いて相同性検索を行い、各リパーゼ遺伝子の上流下流各5000bpの範囲にLif様遺伝子が含まれるかどうかを調べた。近傍にLif様遺伝子が含まれなかったリパーゼ遺伝子については、各由来菌のプロテオーム全体にLif様遺伝子が含まれるかどうかを同様に調べた。
【0063】
解析結果を
図1に示した。Lif非依存性の既知リパーゼはすべて同一のクレード(Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris clade)に含まれていた。Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris cladeのリパーゼの大部分は由来菌ゲノム中にLif様遺伝子が検出されなかったことから、本解析の妥当性が支持された。Pseudomonas fragi/Proteus vulgaris cladeとは異なるクレードにおいて唯一、Pseudoalteromonas shioyasakiensis由来のリパーゼWP_062566573.1は由来菌ゲノム中にLif様遺伝子が検出されなかった(
図1星マーク)。cd-hitによるクラスタリングを70%から95%に変更してこの周辺配列の解析を再度行った。その結果、WP_062566573.1を含む6配列(WP_062566573.1、WP_054552859.1、WP_130166163.1、WP_063702834.1、WP_167659000.1及びWP_138557990.1、それぞれ成熟領域は配列番号2、配列番号4、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び配列番号17のアミノ酸配列)から成るクレード(Pseudoalteromonas shioyasakiensis clade)はいずれも由来菌ゲノム中にLif様遺伝子が検出されなかった(
図2)。このことから、Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeのリパーゼは新規のLif非依存性リパーゼ群である可能性が示唆された。Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeのリパーゼはいずれもN末端にSecシグナルを有しており、明確なシグナル配列を持たないPseudomonas fragi/Proteus vulgaris cladeとは異なる様式で細胞外に分泌されることが示唆された。
【0064】
(2)リパーゼの異種発現プラスミドの構築
Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するリパーゼであるPshLip及びPliLipの大腸菌用発現プラスミドを次のように構築した。人工遺伝子合成したリパーゼ遺伝子PshLip及びPliLip(それぞれ配列番号1及び3のポリヌクレオチド、それぞれ配列番号2及び4のアミノ酸配列をコードする)を、pET-22b(+)(Merck)のpelBシグナル配列直下にIn-Fusion反応によって挿入し、それぞれプラスミドpET-PshLip及びpET-PliLipを構築した。
Pseudomonas aeruginosa由来のリパーゼ(PaeLip)の活性型での発現にはLif(PaeLif)が必要であることが知られている(Wohlfarth, Sussanne, et al. “Molecular genetics of the extracellular lipase of Pseudomonas aeruginosa PAO1.” Microbiology 138.7 (1992): 1325-1335.)。PaeLip及びPaeLifの大腸菌用発現プラスミドを次のように構築した。N末端にpelBシグナル配列(配列番号5のポリヌクレオチド、配列番号6のアミノ酸配列をコードする)を付加したPaeLip遺伝子(配列番号7のポリヌクレオチド、配列番号8のアミノ酸配列をコードする)を人工遺伝子合成し、pETDuetTM-1(Merck)のMCS1にIn-Fusion反応によって挿入して、プラスミドpETDuet-PaeLipを構築した。人工遺伝子合成したPaeLif遺伝子(配列番号9のポリヌクレオチド、配列番号10のアミノ酸配列をコードする)を、pETDuet-1及びpETDuet-PaeLipのMCS2にIn-Fusion反応によって挿入して、それぞれプラスミドpETDuet-PaeLif及びpETDuet-PaeLip-PaeLifを構築した。
PshLipの枯草菌用発現プラスミドを次のように構築した。WO2021/153129に記載の枯草菌spoVG遺伝子由来プロモーターを含む配列番号26のVHHの発現用プラスミドの、VHH遺伝子を含むORF全長に、N末端側に枯草菌amyE由来シグナル配列(配列番号11のポリヌクレオチド、配列番号12のアミノ酸配列をコードする)が連結されたリパーゼPshLip遺伝子(配列番号13のポリヌクレオチド、配列番号2のアミノ酸配列をコードする)の人工合成遺伝子をIn-Fusion反応によって載せ替えることでプラスミドpHY-amyEsig-PshLipを構築した。
【0065】
(3)ハロアッセイ
(2)で構築した各発現プラスミドを大腸菌BL21(DE3)株に形質転換し、得られたコロニーをオリーブオイル寒天培地(LB(2% LB premix(SERVA)、1.5%(w/v)アラビアガム、80mg/L ブリリアントグリーン、1.5%(v/v)オリーブ油、50μM IPTG、100mg/L アンピシリン、1.5%(w/v)寒天)に植えついで10℃、20℃で2日間インキュベートした後のハロ形成を観察した(表1)。Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するPshLip及びPliLipは、Lifを伴わない異種発現においてもオリーブオイル分解性を示した。一方で、Lif依存性であるPaeLipは単独ではオリーブオイル分解性を示さず、Lifとの共発現によってのみオリーブオイル分解性を示した。
【0066】
【0067】
(4)大腸菌の液体培養
プラスミドpET-22b(+)及びpET-PliLipを大腸菌BL21(DE3)株にそれぞれ形質転換し、得られたコロニーを100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地1mLに植菌して37℃で一晩振盪培養した。この培養液150μLを、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地1mLに植菌して37℃で2時間培養した。終濃度0または50μMのIPTGを添加し、20℃で約19時間培養した後に培養液を500μLずつ回収して遠心上清を回収した。菌体を氷冷PBS1mLで1回洗浄し、200mg/Lリゾチームを含むPBS250μLに懸濁して表情で30分間静置した後に超音波破砕を行い、遠心上清を細胞破砕液として回収した。
酪酸4-ニトロフェニル(SIGMA)を1/15M リン酸バッファー(pH7.4)に終濃度2mMで添加し混合したものを基質溶液として用いた。リパーゼの作用による4-ニトロフェノールの遊離に伴う吸光度の増加速度を測定することでリパーゼの活性を求めることができる。サンプル(培養上清または細胞破砕液)20μLと基質溶液100μLを96穴アッセイプレートの各ウェルで混合し、25℃で405nmの吸光度変化(OD/min)を測定した(
図3)。Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するPliLipは、Lifを伴わない異種発現においても培養上清及び細胞破砕液中にリパーゼ活性を示した。
【0068】
(5)枯草菌の液体培養
空ベクターpHY300PLK(TaKaRa)及びリパーゼ発現プラスミドpHY-amyEsig-PshLipをそれぞれ枯草菌Dpr9株(Microbial cell factories 20.1(2021):1-13.参照)にプロトプラスト法によって導入し、2×L-マルトース培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン五水和物、0.04%塩化カルシウム二水和物、10ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%)中で、30℃、3日間培養した後、培養上清を遠心分離により回収した。
酪酸4-ニトロフェニル(SIGMA)を20mM Tris-HCl(pH7.5)に終濃度2mMで添加し混合したものを基質溶液として用いた。20mM Tris-HCl(pH7.5)で100倍希釈した培養上清2μLと基質溶液100μLを96穴アッセイプレートの各ウェルで混合し、30℃で405nmの吸光度変化(OD/min)を測定した(
図4)。Pseudoalteromonas shioyasakiensis cladeに属するPshLipは、Lifを伴わない枯草菌の分泌発現において、培養上清中にリパーゼ活性を示した。