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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118715
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】鋏
(51)【国際特許分類】
   B26B 13/26 20060101AFI20240826BHJP
   A01G 3/02 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B26B13/26
A01G3/02 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025148
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】松本 光広
【テーマコード(参考)】
3C065
【Fターム(参考)】
3C065AA02
3C065CA09
(57)【要約】
【課題】ユーザーの利便性を高めた鋏の提供を容易にする。
【解決手段】一対の持ち手部材2,2の開閉動作に連動して開閉動作する一対の刃部材3,3の刃交差位置で対象物を挟み切る鋏1であって、一対の持ち手部材と一対の刃部材とを連結する連結部材4を有し、連結部材は、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が、一対の刃部材の所定の開き範囲内で、非線形の関係となるように、一対の持ち手部材と一対の刃部材とを連動させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の持ち手部材の開閉動作に連動して開閉動作する一対の刃部材の刃交差位置で対象物を挟み切る鋏であって、
前記一対の持ち手部材と前記一対の刃部材とを連結する連結部材を有し、
前記連結部材は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の開閉変化量との関係が、該一対の刃部材の所定の開き範囲内で、非線形の関係となるように、該一対の持ち手部材と該一対の刃部材とを連動させることを特徴とする鋏。
【請求項2】
請求項1に記載の鋏において、
前記非線形の関係は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が線形になる関係であることを特徴とする鋏。
【請求項3】
請求項1に記載の鋏において、
前記非線形の関係は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、該一対の刃部材の開きが少ない時ほど、前記一対の持ち手部材の開閉変化量に対する前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量が小さくなる関係であることを特徴とする鋏。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋏において、
前記一対の刃部材は、各刃部材の基端部が移動することで互いに同じ回動軸の回りを互いに逆向きに回動して、該基端部とは該回動軸を挟んで反対側に位置する各刃部材の刃先部が開閉するものであり、
前記連結部材は、前記一対の持ち手部材と前記一対の刃部材の各基端部とを連結するリンク機構を含むことを特徴とする鋏。
【請求項5】
請求項4に記載の鋏において、
前記リンク機構は、前記一対の刃部材の各基端部に接続されている各被ジョイント部を、それぞれ、前記一対の持ち手部材における各持ち手部材に備わる2つのジョイント部に対して互いに異なる方向へスライド可能に接続するスライド機構を含むことを特徴とする鋏。
【請求項6】
請求項4に記載の鋏において、
前記一対の持ち手部材は、前記一対の刃部材における前記回動軸と同軸の回りを互いに逆向きに回動して開閉することを特徴とする鋏。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋏において、
前記所定の開き範囲は、前記一対の刃部材が閉じた時を含むことを特徴とする鋏。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋏において、
前記一対の持ち手部材は、ユーザーが片手で開閉動作可能な構成を有することを特徴とする鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の持ち手部材の開閉動作に連動して開閉動作する一対の刃部材の刃交差位置で対象物を挟み切る鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鋏としては、持ち手部材と刃部材とが一体となった一対の鋏部材を、持ち手部材と刃部材との間に配置される回動軸の回りで互いに反対方向へ回動するように連結したものが知られている。この鋏は、構成部品が少なく、簡易な構成であるが、持ち手部材と刃部材とが一体で回動軸回りを回動する。そのため、一対の刃部材の開閉可能範囲にわたって、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉位置の変化量(以下、「開閉変化量」という。)と、これに連動する一対の刃部材の開閉変化量との関係は、線形の関係となる。
【0003】
また、従来、持ち手部材と刃部材とが別部材で構成され、一対の持ち手部材の開閉動作に連動して一対の刃部材が開閉動作するように、一対の持ち手部材と一対の刃部材とを連結部材で連結した鋏も知られている(特許文献1や特許文献2)。これらの鋏も、持ち手部材と刃部材とが互いに連動して開閉動作する際、一対の刃部材の開閉可能範囲にわたって、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と、これに連動する一対の刃部材の開閉変化量との関係は、線形の関係となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-263611号公報
【特許文献2】特開2002-66168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、鋏は、ユーザーが一対の持ち手部材を閉じる操作を行うことで、これに連動して一対の刃部材が回動軸回りで回動して閉じ、一対の刃部材の刃交差位置が回動軸から離れる方向へ移動しながら、当該刃交差位置で対象物を切り進める。このとき、従来の鋏は、上述したように、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が一対の刃部材の開閉可能範囲にわたって線形の関係である。この線形の関係は、ユーザーが一対の持ち手部材を所定量だけ閉じる操作を行ったときの、一対の持つ手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係に影響する。このため、一対の持つ手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係の設計の自由度が、前記線形の関係で制限され、ユーザーの利便性を高めた鋏を提供することを困難にしていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、一対の持ち手部材の開閉動作に連動して開閉動作する一対の刃部材の刃交差位置で対象物を挟み切る鋏であって、前記一対の持ち手部材と前記一対の刃部材とを連結する連結部材を有し、前記連結部材は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の開閉変化量との関係が、該一対の刃部材の所定の開き範囲内で、非線形の関係となるように、該一対の持ち手部材と該一対の刃部材とを連動させるものである。
一般に、鋏は、一対の刃部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、一対の刃部材の開きが少なくなるほど、一対の刃部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるという関係がある。そのため、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が線形の関係である従来の鋏では、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係は、一対の刃部材の開きが少なくなるほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるという関係にならざるを得ない。そのため、一対の持つ手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係の設計の自由度が低く、ユーザーの利便性を高めた鋏の提供が困難となる。

これに対し、本態様においては、一対の持ち手部材と一対の刃部材とを連結する連結部材により、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が、一対の刃部材の所定の開き範囲内で非線形の関係となるように構成している。この非線形の関係は、連結部材の具体的な構成によって決まり、ユーザーが一対の持ち手部材を所定量だけ閉じる操作を行ったときの、一対の持つ手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係に影響する。そして、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が非線形であることは、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係について、当該関係が線形である従来の鋏よりも、設定の自由度を高めることができる。したがって、連結部材の具体的な構成により、一対の刃部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、一対の刃部材の開きが少なくなるほど、一対の刃部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるという関係であっても、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との間の関係を、従来の鋏では得られないような関係とすることが可能となる。
例えば、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との間を、線形の関係とすることも可能である。また、例えば、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との間を、一対の持ち手部材の開きが少なくなるほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が小さくなるという、上述した従来の非線形とは逆の非線形の関係を実現することも可能である。また、例えば、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との間を、上述した非線形の関係と同じく、一対の持ち手部材の開きが少なくなるほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるものであるが、従来の鋏では得られないような非線形の関係とすることも可能である。
以上のように、本態様によれば、連結部材の具体的な構成により、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が非線形の関係とすることができることで、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との間の関係を高い自由度で設定することが可能となる。その結果、従来の鋏では得られないような関係とすることが可能となり、ユーザーの利便性を高めた鋏の提供が容易になる。
【0007】
前記鋏において、前記非線形の関係は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が線形になる関係であってもよい。
従来の鋏のように、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が非線形の関係である場合、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が違えば、一対の持ち手部材を同じ量だけ閉じても(一対の持ち手部材の開閉変化量が一定でも)、一対の刃部材の刃交差位置の移動量が変わり、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が変わってくる。これでは、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握することができないので、利便性が悪い。仮に、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が一定であっても、上述した非線形の関係では、一対の持ち手部材の閉じる量(開閉変化量)に対する対象物の切れる長さ(一対の刃部材の刃交差位置の移動量)との比率が一定でないため、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握しにくく、やはり利便性が悪い。
本態様によれば、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係であるため、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が違っても、一対の持ち手部材を閉じる量が一定であれば、一対の刃部材の刃交差位置の移動量も一定であり、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が一定となる。しかも、一対の持ち手部材の閉じる量(開閉変化量)に対する対象物の切れる長さ(一対の刃部材の刃交差位置の移動量)との比率が一定であるため、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握しやすい。よって、ユーザーの利便性を向上させることができる。
【0008】
また、前記鋏において、前記非線形の関係は、前記一対の持ち手部材の開閉変化量と前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、該一対の刃部材の開きが少ない時ほど、前記一対の持ち手部材の開閉変化量に対する前記一対の刃部材の刃交差位置の移動量が小さくなる関係であってもよい。
従来の鋏のように、一対の刃部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が上述した従来の非線形の関係であると、所望の切り込み位置で正確に切り止めることが難しいという問題が生じる。詳しくは、従来の鋏では、一対の持ち手部材の開きが少なくなるほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるため、切り終わりに近づくほど当該比率が大きくなる。すなわち、一対の持ち手部材の開きが少ない切り終わりの付近では、それまでと同じ閉じ量(開閉変化量)だけ一対の持ち手部材を閉じるようにユーザーが操作しても、それまでよりも大きい移動量で一対の刃部材の刃交差位置が移動するため、それまでよりも切り進みの速度が速くなる。そのため、ユーザーは対象物を切り終わる位置あるいはタイミングを微調整することが難しく、所望の切り込み位置で正確に切り止めることが難しい。
本態様によれば、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、従来の非線形の関係とは逆の非線形の関係である。すなわち、一対の刃部材の開きが少ない時ほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量が小さくなる。そのため、一対の持ち手部材の開きが少なくなる切り終わりに近づくほど、一対の持ち手部材の開閉変化量に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が小さくなる。すなわち、一対の持ち手部材の開きが少ない切り終わりの付近では、それまでと同じ閉じ量(開閉)だけ一対の持ち手部材を閉じるようにユーザーが操作しても、それまでよりも小さい移動量で一対の刃部材の刃交差位置が移動するため、それまでよりも切り進みの速度が遅くなる。そのため、ユーザーは対象物を切り終わる位置あるいはタイミングを微調整することが容易になり、所望の切り込み位置で正確に切り止めることが容易になる。
【0009】
また、前記鋏において、前記一対の刃部材は、各刃部材の基端部が移動することで互いに同じ回動軸の回りを互いに逆向きに回動して、該基端部とは該回動軸を挟んで反対側に位置する各刃部材の刃先部が開閉するものであってもよく、前記連結部材は、前記一対の持ち手部材と前記一対の刃部材の各基端部とを連結するリンク機構を含んでもよい。
本態様では、一対の持ち手部材の開閉動作に連動して一対の刃部材の各基端部を移動させることにより、各刃部材が回動軸回りを互いに逆向きに回動して、各刃部材の刃先部が開閉するように動作する。そして、本態様では、連結部材にリンク機構を取り入れることにより、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が、一対の刃部材の所定の開き範囲内で、非線形の関係となる構成を実現する。これによれば、この構成を比較的簡易に実現することができる。
【0010】
また、前記鋏において、前記リンク機構は、前記一対の刃部材の各基端部に接続されている各被ジョイント部を、それぞれ、前記一対の持ち手部材における各持ち手部材に備わる2つのジョイント部に対して互いに異なる方向へスライド可能に接続するスライド機構を含んでもよい。
本態様によれば、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が、一対の刃部材の所定の開き範囲内で、非線形の関係となる構成を、リンク機構により簡易に実現することができる。特に、スライド機構によって持ち手部材側の2つのジョイント部に対して刃部材側の被ジョイント部がそれぞれスライドする方向を適宜設定することで、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係を変更できるので、当該関係の設定の自由度が高い。
【0011】
また、前記鋏において、前記一対の持ち手部材は、前記一対の刃部材における前記回動軸と同軸の回りを互いに逆向きに回動して開閉してもよい。
これによれば、一対の持ち手部材を開閉させる回動軸と一対の刃部材を開閉させる回動軸とが同軸となり、構成の簡素化を実現することができる。
【0012】
また、前記鋏において、前記所定の開き範囲は、前記一対の刃部材が閉じた時を含んでもよい。
これによれば、刃部材の刃先部付近において、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と、対象物を切り進める一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係について、ユーザーの利便性を向上させるような関係を実現できる。したがって、刃先部の付近を使って対象物を切り進める時の利便性が向上する。
【0013】
また、前記鋏において、前記一対の持ち手部材は、ユーザーが片手で開閉動作可能な構成を有してもよい。
これによれば、いわゆる片手鋏についてのユーザーの利便性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ユーザーの利便性を高めた鋏の提供が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る鋏を閉じた状態の平面図。
図2】同鋏を開いた状態の平面図。
図3】同鋏を示す側面図。
図4】一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係について、従来の鋏と実施形態の鋏とを比較したグラフ。
図5】(a)は、一対の持ち手部材を最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの間を12段階(n=1~12)に分けたときの実施形態の鋏の状態を示す説明図。(b)は、一対の持ち手部材を最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの間を12段階(n=1~12)に分けたときの従来の鋏の状態を示す説明図。
図6】(a)は、一対の持ち手部材が完全に閉じた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す平面図。(b)は、一対の持ち手部材が中程度まで開いた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す平面図。(c)は、一対の持ち手部材が最大まで開いた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す平面図。
図7】(a)は、一対の持ち手部材が完全に閉じた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す斜視図。(b)は、一対の持ち手部材が中程度まで開いた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す斜視図。(c)は、一対の持ち手部材が最大まで開いた状態における実施形態の鋏の連結部材の構成を示す斜視図。
図8】実施形態の鋏の動きを説明するために同鋏をモデル化した説明図。
図9】同鋏のカムピンの動きを示すグラフ。
図10】変形例の鋏について、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係を示すグラフ。
図11】別の変形例の鋏について、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る鋏の一実施形態について、図面に用いて説明する。
本実施形態の鋏は、ユーザーが片手持ちする片手鋏の例であるが、これに限らず、本発明の鋏は、両手持ちする両手鋏や他の鋏にも適用可能である。また、本実施形態の鋏は、主に紙などのシート材を挟み切る用途のものを例に挙げるが、これに限らず、本発明の鋏は、植木鋏などの園芸用の鋏、金切鋏などの工作用の鋏、理美容用の鋏、料理用の鋏、医療用の鋏など、あらゆる用途の鋏に適用可能である。
【0017】
図1は、本実施形態に係る鋏を閉じた状態の平面図である。
図2は、本実施形態に係る鋏を開いた状態の平面図である。
図3は、本実施形態に係る鋏を示す側面図である。
【0018】
本実施形態に係る鋏1は、主に、一対の持ち手部材2,2と、一対の刃部材3,3と、一対の持ち手部材2,2と一対の刃部材3,3とを連結する連結部材4と、から構成されている。
【0019】
一対の持ち手部材2,2は、ユーザーの指を通すことのできる大きさの孔が開いた2つの環状部材で構成されている。一対の持ち手部材2,2は、図1に示すように、一対の刃部材3,3が完全に閉じた状態であるときに、各持ち手部材2,2が互いに接触する又は最近接する位置(閉じた位置)をとる。一方、一対の持ち手部材2,2は、図2に示すように、一対の刃部材3,3を開いた状態であるときには、各持ち手部材2,2が互いに離間した位置(開いた位置)をとる。
【0020】
一対の刃部材3,3は、紙などの薄いシート材を挟み切る一般的な文具用途のものであり、各刃部材3,3のいずれの刃も、刃の形状が刃元から刃先まで略直線状に形成されている。ただし、一対の刃部材3,3の刃は、用途等に応じて形状や材質などを適宜変更することができる。例えば、一対の刃部材3,3の刃は、ベルヌーイ刃のような形状であってもよい。また、本実施形態における一対の刃部材3,3は、互いに同一形状のものであるが、互いに異なる形状のものであってもよい。
【0021】
本実施形態における一対の刃部材3,3は、回動軸5の回りを互いに逆向きに回動することで、刃先部3a,3aが開閉するように動作する。各刃部材3,3の基端部3b,3bは、それぞれの刃先部3a,3aとは回動軸5を挟んで反対側に位置する。ユーザーが一対の持ち手部材2,2を持って開閉動作させると、連結部材4を介して、各刃部材3,3の基端部3b,3bが回動軸5の回りを互いに逆向きに移動し、これにより刃先部3a,3aが開閉動作する。
【0022】
連結部材4は、一対の持ち手部材2,2の開閉動作に連動して一対の刃部材3,3が開閉動作するように、一対の持ち手部材2,2と一対の刃部材3,3の基端部3b,3bとを連結している。ただし、本実施形態の連結部材4は、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との関係が、一対の刃部材3,3の所定の開き範囲内で、非線形の関係となるように、構成されている。すなわち、本実施形態の連結部材4は、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との関係が、一対の刃部材3,3の所定の開き範囲内で、比例の関係にならないように、構成されている。
【0023】
具体的には、本実施形態における一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との間の非線形の関係は、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となるように設定されている。
【0024】
図4は、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係について、従来の鋏と本実施形態の鋏1とを比較したグラフである。
図4のグラフは、一対の持ち手部材を最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの間を、図5(a)及び(b)に示すように12段階(n=1~12)に分け、各段階nでの一対の持ち手部材の開閉位置pn[mm](一対の持ち手部材を最大まで開いた状態からの閉じ量)と、一対の刃部材の刃交差位置cn[mm](一対の持ち手部材を最大まで開いた状態からの当該刃交差位置の移動量)とを測定したものである。
【0025】
一般に、鋏は、一対の刃部材の閉じる量(開閉変化量)が同じであっても、一対の刃部材が閉じるほど(一対の刃部材の開きが少なくなるほど)、一対の刃部材における刃交差位置cnが回動軸から遠ざかるため、当該刃交差位置の回動方向への移動量は徐々に大きくなる。そして、従来の鋏は、図5(b)に示すように、一対の持ち手部材と一対の刃部材とが一体で形成されていることから、一対の持ち手部材の閉じる量(開閉変化量)と一対の刃部材の閉じる量(開閉変化量)との関係は線形の関係である。そのため、ユーザーが一対の持ち手部材を同じ量だけ閉じる操作を行ったとしても、一対の持ち手部材を閉じるほど(一対の刃部材の開きが少なくなるほど)、一対の刃部材の刃交差位置の移動量(対象物を切り進める量)が大きくなっていく。その結果、従来の鋏は、図4の三角プロットのグラフに示すように、ユーザーが操作する一対の持ち手部材の開閉変化量と、対象物を切り進む一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係が、一対の刃部材の開きが少なくなるほど、一対の持ち手部材の閉じ量(開閉変化量)に対する一対の刃部材の刃交差位置の移動量の比率が大きくなるという非線形の関係をもつ。
【0026】
なお、従来の鋏の中には、一対の持ち手部材と一対の刃部材とが別部材で構成されていて両者を連結部材で連結した構成のものが存在するが、この構成の鋏であっても、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係は線形の関係であったため、図4に示した従来の鋏と同様の結果を招く。
【0027】
図4に示した従来の鋏のような動きだと、例えば、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が違えば、一対の持ち手部材を同じ量だけ閉じても(一対の持ち手部材の開閉変化量が同じでも)、一対の刃部材の刃交差位置の移動量が変わってしまい、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が変わってしまう。図4の例で説明すると、一対の持ち手部材の開き度合がn=1である状態から一対の持ち手部材を20[mm]だけ閉じる場合(開閉変化量=20[mm])には、一対の刃部材の刃交差位置の移動量は約5[mm]である。これに対し、一対の持ち手部材の開き度合がn=2である状態から一対の持ち手部材を20[mm]だけ閉じる場合(開閉変化量=20[mm])には、一対の刃部材の刃交差位置の移動量は約15[mm]となる。
【0028】
このように、従来の鋏では、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が僅かに異なるだけで、一対の持ち手部材を同じ量だけ閉じても、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が変わってしまう。そのため、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握することが難しく、この点で利便性が悪いものである。
【0029】
また、仮に対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合を毎回同じにできたとしても、対象物を切る長さが違えば、対象物を切る長さの違い分に比例した量だけ一対の持ち手部材の閉じ量を変えても、一対の刃部材の刃交差位置の移動量は比例しない。この点でも、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から対象物の切れる長さを直感的に把握しにくく、利便性が悪いものである。
【0030】
本実施形態においては、上述したとおり、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となるように構成される。そのため、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材2,2の開き度合が違っても、一対の持ち手部材2,2を閉じる量(開閉変化量)が一定であれば、一対の刃部材の刃交差位置の移動量も一定となり、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が一定となる。よって、ユーザーは、この点で利便性が向上する。
【0031】
しかも、本実施形態においては、一対の持ち手部材2,2の閉じる量(開閉変化量)に対する対象物の切れる長さ(一対の刃部材の刃交差位置の移動量)との比率が一定である。そのため、対象物を切る長さが違っても、対象物を切る長さの違い分に比例した量だけ一対の持ち手部材の閉じ量を変えれば、一対の刃部材の刃交差位置の移動量もこれに比例して変わる。したがって、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握しやすく、この点でもユーザーの利便性が向上する。
【0032】
図6(a)~(c)は、本実施形態における連結部材4の構成を示す平面図である。
図7(a)~(c)は、本実施形態における連結部材4の構成を示す斜視図である。
なお、図6(a)及び図7(a)は、一対の持ち手部材2,2が完全に閉じた状態であり(n=12)、図6(b)及び図7(b)は、一対の持ち手部材2,2が中程度まで開いた状態であり(n=6)、図6(c)及び図7(c)は、一対の持ち手部材2,2が最大まで開いた状態である(n=1)。
【0033】
本実施形態では、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となる構成を実現するために、連結部材4の構成として、一対の持ち手部材2,2と一対の刃部材3,3の各基端部3b,3bとを連結するリンク機構を採用している。すなわち、このリンク機構により、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との関係が非線形の関係となるようにし、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となるようにしている。
【0034】
本実施形態の連結部材4は、一対の第一リンクプレート41,41と、一対の第二リンクプレート42,42と、一対の第一リンクジョイント43,43と、一対の第二リンクジョイント44,44とを備えている。これらの一対の部材は、それぞれ、対をなす各部材が、図7(a)~(c)に示すように、一対の持ち手部材2,2と一対の刃部材3,3を回動軸5の軸方向から挟み込むようにして、お互いに対向して配置される。
【0035】
一対の第一リンクプレート41,41は、一対の第二リンクプレート42,42に対して回動軸5の軸方向外側に配置され、一方の持ち手部材2に固定ピン41aによって固定されている。一対の第一リンクプレート41,41には、比較的短い直線状の第一長孔41bと、比較的長い湾曲した第二長孔41cが、それぞれに形成されている。一対の第一リンクプレート41,41は、各第一リンクプレート41,41の第一長孔41b同士、第二長孔41c同士が互いに対向するように、配置される。
【0036】
一対の第二リンクプレート42,42は、一対の第一リンクプレート41,41が固定されていない他方の持ち手部材2に、固定ピン42aによって固定されている。一対の第二リンクプレート42,42にも、一対の第一リンクプレート41,41と同じく、比較的短い直線状の第一長孔42bと、比較的長い湾曲した第二長孔42cとが、それぞれに形成され、第一長孔41b同士、第二長孔41c同士が互いに対向するように配置される。
【0037】
一対の第一リンクプレート41,41と一対の第二リンクプレート42,42は、いずれも回動軸5に対して回動自在に取り付けられている。これにより、一対の第一リンクプレート41,41に固定されている一方の持ち手部材2と、一対の第二リンクプレート42,42に固定されている他方の持ち手部材2は、回動軸5の回りを互いに逆向きに回動して開閉動作することができる。なお、この回動軸5は、一対の刃部材3,3が回動自在に取り付けられた回動軸5と同軸であるが、これとは異なる軸であってもよい。
【0038】
一対の第一リンクジョイント43,43は、それぞれ、長尺な板状部材で構成され、一方の刃部材3の基端部3bが取り付けられる刃取付部47を、各第一リンクジョイント43,43で挟み込むように配置される。各第一リンクジョイント43,43の一端側は、刃取付部47に対して接続ピン46により取り付けられ、接続ピン46の軸回りで回転可能に構成されている。各第一リンクジョイント43,43の他端側は、それぞれ、各第一リンクプレート41,41の第一長孔41bと各第二リンクプレート42,42の第二長孔42cとを通るように配置されるカムピン45に取り付けられている。各第一リンクジョイント43,43の他端側は、カムピン45の軸回りで回転可能に構成される。
【0039】
第一リンクジョイント43,43が取り付けられるカムピン45は、各第一リンクプレート41,41の第一長孔41bと各第二リンクプレート42,42の第二長孔42cに沿ってスライド移動可能である。すなわち、第一リンクジョイント43の他端側が取り付けられる被ジョイント部としてのカムピン45は、一方の持ち手部材2に備わるジョイント部としての第一リンクプレート41の第一長孔41bと、他方の持ち手部材2に備わるジョイント部としての第二リンクプレート42の第二長孔42cに沿って、互いに異なる方向へスライド可能に構成されている。
【0040】
一対の第二リンクジョイント44,44も、一対の第一リンクジョイント43,43と同じく、それぞれ、長尺な板状部材で構成され、他方の刃部材3の基端部3bが取り付けられる刃取付部47を、各第二リンクジョイント44,44で挟み込むように配置される。各第二リンクジョイント44,44の一端側は、一対の第一リンクジョイント43,43と同じく、刃取付部47に対して接続ピン46により取り付けられ、接続ピン46の軸回りで回転可能に構成されている。各第二リンクジョイント44,44の他端側は、それぞれ、各第一リンクプレート41,41の第二長孔41cと各第二リンクプレート42,42の第一長孔42bとを通るように配置されるカムピン45に取り付けられている。各第二リンクジョイント44,44の他端側は、カムピン45の軸回りで回転可能に構成される。
【0041】
第二リンクジョイント44,44が取り付けられるカムピン45は、各第一リンクプレート41,41の第二長孔41cと各第二リンクプレート42,42の第一長孔42bに沿ってスライド移動可能である。すなわち、第二リンクジョイント44の他端側が取り付けられる被ジョイント部としてのカムピン45は、一方の持ち手部材2に備わるジョイント部としての第一リンクプレート41の第二長孔41cと、他方の持ち手部材2に備わるジョイント部としての第二リンクプレート42の第一長孔42bに沿って、互いに異なる方向へスライド可能に構成されている。
【0042】
本実施形態の連結部材4は、ユーザーが持ち手部材2,2を開閉して回動軸5の回りで回動させると、これに連動して、図6(a)~図6(c)に示すように、一対の第一リンクプレート41,41の第一長孔41b及び第二長孔41cと、一対の第二リンクプレート42,42の第一長孔42b及び第二長孔42cとに沿って、カムピン45がスライド移動する。そして、このカムピン45のスライド移動に伴い、カムピン45に接続されている一対の第一リンクジョイント43,43及び一対の第二リンクジョイント44,44が移動し、これらに取り付けられている刃取付部47,47も移動する。これらの刃取付部47,47には、回動軸5に回動自在に取り付けられた各刃部材3,3の基端部3b,3bがそれぞれ取り付けられている。したがって、ユーザーによる持ち手部材2,2の開閉動作によりカムピン45がスライド移動して、一対の第一リンクジョイント43,43及び一対の第二リンクジョイント44,44が移動することで、各刃部材3,3の基端部3b,3bが回動軸5の回りを回動し、各刃部材3,3の刃先部3aが開閉動作する。
【0043】
図8は、本実施形態の鋏1の動きを説明するために鋏1をモデル化した説明図である。
図9は、本実施形態の鋏1のカムピン45の動きを示すグラフである。
上述したように、一対の持ち手部材2,2を最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの間を12段階(n=1~12)で開閉する場合、本実施形態の鋏1は、図4に示したように、一対の持ち手部材2,2の開閉位置の移動量(開閉変化量)と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となる。この関係を実現するため、本実施形態では、一対の第一リンクプレート41,41の第一長孔41b及び第二長孔41cと一対の第二リンクプレート42,42の第一長孔42b及び第二長孔42cとに沿ってスライド移動するカムピン45の動きが、図9に示すような動きをとるように、連結部材4の構成が設計されている。
【0044】
カムピン45が図9に示すような動きをとることで、一対の持ち手部材2,2を最大まで開いた状態から閉じ始めた初期段階(nが小さい段階)では、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量に対する一対の刃部材3,3の基端部3b,3bの回動量(すなわち一対の刃部材3,3の開閉変化量)の比率は比較的大きなものとなる。そして、一対の持ち手部材2,2の閉じる量が多くなるにつれて(nが大きくなるにつれて)、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量に対する一対の刃部材3,3の基端部3b,3bの回動量(一対の刃部材3,3の開閉変化量)の比率が徐々に小さいものとなる。一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との間でこのような非線形の関係が成り立つことで、図4に示したように、一対の持ち手部材2,2の開閉位置の移動量(開閉変化量)と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となるようにすることができる。
【0045】
本実施形態によれば、上述した連結部材4により、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との関係を、一対の刃部材3,3の所定の開き範囲内で、非線形の関係とすることができる。そして、連結部材4の設計を適宜変更することにより、この非線形の内容(非線形の特性を示すグラフの概形)を適宜変更することができる。よって、一対の刃部材3,3の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が非線形の関係である鋏において、ユーザーが操作する一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との間の関係を、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の開閉変化量との関係が線形の関係である従来の鋏では得られないような関係とすることが可能となる。
【0046】
特に、本実施形態のように、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が線形の関係となるようにすれば、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合が違っても、一対の持ち手部材を閉じる量が一定であれば、一対の刃部材の刃交差位置の移動量も一定であり、対象物を切り進む量(対象物を切る長さ)が一定となる。したがって、対象物の切り始め時における一対の持ち手部材の開き度合に気を遣う必要がなくなり、ユーザーの利便性が向上する。
【0047】
更に、一対の持ち手部材2,2の閉じる量(開閉変化量)に対する対象物の切れる長さ(一対の刃部材の刃交差位置の移動量)との比率が一定となるため、ユーザーは、自分が操作する一対の持ち手部材2,2の開閉変化量から、対象物の切れる長さを直感的に把握しやすくなり、この点でもユーザーの利便性が向上する。
【0048】
〔変形例〕
次に、上述した実施形態の鋏1における変形例について説明する。
図10は、本変形例の鋏1について、一対の持ち手部材の開閉変化量と一対の刃部材の刃交差位置の移動量との関係を示すグラフである。
図10のグラフも、図4のグラフと同様、一対の持ち手部材を最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの間を12段階(n=1~12)に分け、各段階nでの一対の持ち手部材の開閉位置pn[mm]と、一対の刃部材の刃交差位置cn[mm]とを測定したものである。
【0049】
従来の鋏は、一対の持ち手部材2,2を閉じるほど(一対の刃部材の開きが少なくなるほど)、一対の持ち手部材2,2の閉じ量(開閉変化量)に対する一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量の比率が大きくなる。この場合、一対の持ち手部材2,2の開きが少ない切り終わりの付近では、それまでと同じ閉じ量(開閉変化量)だけ一対の持ち手部材2,2を閉じるようにユーザーが操作しても、それまでよりも大きい移動量で一対の刃部材の刃交差位置が移動するため、それまでよりも切り進みの速度が速くなる。そのため、ユーザーは対象物を切り終わる位置あるいはタイミングを微調整することが難しく、所望の切り込み位置で正確に切り止めることが難しい。
【0050】
本変形例においては、図10に示すように、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が、図4に示した従来の鋏における非線形の関係とは逆の非線形の関係である。具体的には、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係が、一対の刃部材3,3の開きが少ない時ほど、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量に対する一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量が小さくなるという非線形の関係である。
【0051】
本変形例のような関係は、例えば、このような関係を実現させる連結部材4のカムピン45の動きを計算し、カムピン45が計算した動きとなるように、一対の第一リンクプレート41,41及び一対の第二リンクプレート42,42に形成する第一長孔41b,42b及び第二長孔41c,42cの形状を設計することで、実現することができる。
【0052】
本変形例によれば、一対の持ち手部材2,2の開きが少なくなる切り終わりに近づくほど、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量に対する一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量の比率が小さくなる。すなわち、一対の持ち手部材2,2の開きが少ない切り終わりの付近では、それまでと同じ閉じ量(開閉)だけ一対の持ち手部材2,2を閉じるようにユーザーが操作しても、それまでよりも小さい移動量で一対の刃部材の刃交差位置が移動するため、それまでよりも切り進みの速度が遅くなる。そのため、ユーザーは対象物を切り終わる位置あるいはタイミングを微調整することが容易になり、所望の切り込み位置で正確に切り止めることが容易になる。
【0053】
上述した実施形態や変形例では、一対の刃部材3,3が最大まで開いた状態から完全に閉じた状態になるまでの範囲にわたって、一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と一対の刃部材3,3の開閉変化量との関係が、実施形態のような線形の関係又は変形例のような非線形の関係となる例であったが、一部の開き範囲だけ当該関係となるようにしてもよい。例えば、図11に示すように、一対の刃部材3,3が最大まで開いた状態から中程度まで閉じた状態になるまでの範囲は上述した実施形態のような線形の関係になるようにし、中程度まで閉じた状態から完全に閉じた状態になるまでの範囲は上述した変形例のような非線形の関係になるようにしてもよい。
【0054】
なお、当該一部の開き範囲には、一対の刃部材3,3が完全に閉じた状態が含まれるようにすることが好ましい。これによれば、刃部材3の刃先部3aの付近において、ユーザーが操作する一対の持ち手部材2,2の開閉変化量と、対象物を切り進める一対の刃部材3,3の刃交差位置の移動量との関係を、ユーザーの利便性が向上するような関係にすることができるので、刃先部3aの付近を使って対象物を切り進める時の利便性が向上する。
【符号の説明】
【0055】
1 :鋏
2 :持ち手部材
3 :刃部材
3a :刃先部
3b :基端部
4 :連結部材
5 :回動軸
41 :第一リンクプレート
42 :第二リンクプレート
41a,42a:固定ピン
41b,42b:第一長孔
41c,42c:第二長孔
43 :第一リンクジョイント
44 :第二リンクジョイント
45 :カムピン
46 :接続ピン
47 :刃取付部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11