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特開2024-118726可塑性油脂組成物とそれを用いた食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118726
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物とそれを用いた食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20240826BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20240826BHJP
   A23D 7/00 20060101ALN20240826BHJP
   A21D 2/16 20060101ALN20240826BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20240826BHJP
   A21D 13/16 20170101ALN20240826BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D9/007
A23D7/00 508
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D13/00
A21D13/16
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025165
(22)【出願日】2023-02-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 光平
(72)【発明者】
【氏名】大前 智哉
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DG15
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DL04
4B026DL08
4B026DL09
4B026DX05
4B026DX06
4B032DB02
4B032DB15
4B032DK18
4B032DK41
4B032DK43
4B032DK45
4B032DK55
4B032DL03
4B032DP08
(57)【要約】
【課題】風味の良好な可塑性油脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の可塑性油脂組成物は、植物性油脂、乾燥酵母、及び乳素材を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性油脂、乾燥酵母、及び乳素材を含有する、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
前記乾燥酵母の含有量が0.01~5質量%である、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記乳素材として乳タンパク質を含有し、乳タンパク質の含有量が0.01~4質量%である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
前記植物性油脂の含有量が60質量%以上である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
油中水型乳化物又は油中水中油型乳化物である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の可塑性油脂組成物を用いた食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物とそれを用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、常温での作業性や熱耐性が悪いバターの代替として、植物性油脂を用いたマーガリンやファットスプレッドが使用されてきた。しかし、乳脂肪分の少なさから風味の面で課題が多かった。これらを直接喫食するバタークリームやスプレッドでは、特に風味の面での課題がより顕著に現れる。
【0003】
このような課題へ対処するために、従来、マーガリンに乳タンパク質を多く含むバターや発酵乳、クリーム等を配合して風味を向上させていたが、これらの原料はコストがかかり、高配合とすることは難しかった。そのため、低コストで乳風味を満足し得る可塑性油脂組成物が求められていた。
【0004】
従来、このような課題を解決するために、酵母エキスを配合することで乳風味を向上させる技術(特許文献1、2)、乳酸発酵風味素材と遊離アミノ酸を配合する技術(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-185079号公報
【特許文献2】特開2014-045699号公報
【特許文献3】特開2014-068583号公報
【特許文献4】特開2022-135934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3で用いている酵母エキス、乳酸発酵風味素材、遊離アミノ酸は水溶性であるため、油脂量の多い可塑性油脂組成物においては、効果が十分ではなく、効果を上げるために配合量を増加させると、それらの素材由来のえぐ味や調味感が強く発現されてしまうために、却って風味を低下させるといった問題があった。
特許文献4は、食品用乳化剤又は食品用乳化安定剤として使用し得る酵母細胞壁分解物含有組成物を提案しているが、風味の検討や、可塑性油脂組成物に関する検討はされていない。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、風味の良好な可塑性油脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、植物性油脂を用いた可塑性油脂組成物に、乾燥酵母及び乳素材を配合することで、可塑性油脂組成物の風味を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の可塑性油脂組成物は、植物性油脂、乾燥酵母、及び乳素材を含有することを特徴としている。
本発明の食品は、前記可塑性油脂組成物を用いたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風味の良好な可塑性油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
(可塑性油脂組成物)
本発明の可塑性油脂組成物は、植物性油脂、乾燥酵母、及び乳素材を含有する。
本発明の可塑性油脂組成物は、風味が良好である。風味は、うま味、塩味、酸味、コク、濃厚感、乳感を包含し、また乳風味の向上を包含する。乾燥酵母が風味の底上げをすることで、風味のバランスに優れ、乳素材由来の風味を十分に感じることができることを特徴としている。水溶性である酵母エキスに対して、乾燥酵母は水にも油にも難溶性ではあるが分散する特徴があり、さらに調味感も少ないため、油脂量の多い可塑性油脂組成物でも、乳素材と乾燥酵母を組み合わせることで乳素材由来の乳感や濃厚感やコク・発酵感、さらには塩味やうま味等も底上げする。特に、乳タンパク質由来のコク・風味を底上げすることを可能とする。
【0011】
植物性油脂の主要な成分はトリグリセリドであり、トリグリセリドは1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が1位、2位、3位でエステル結合した構造を有する。食用油脂の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸である。食用油脂の構成脂肪酸のうち、飽和脂肪酸としては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等がある。上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等がある。括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数である。
【0012】
植物性油脂としては、特に限定されないが、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、菜種油、ハイオレイン酸菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂等、それらの分別油、加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等を挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明の可塑性油脂組成物における植物性油脂の含有量は、特に限定されないが、可塑性油脂組成物全体に対して、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。また、95質量%以下が好ましい。植物性油脂の含有量がこの範囲内であると、本発明の効果がより発揮される。
【0014】
可塑性をより向上させるという観点から、エステル交換油脂や硬化油を用いることが好ましい。その中でも、動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念されるトランス脂肪酸量を低減する観点から、エステル交換油脂や、極度硬化油、極度硬化油のエステル交換油脂を用いることがより好ましい。
【0015】
動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念されるトランス脂肪酸量を低減する観点から、本発明の可塑性油脂組成物は、トランス脂肪酸の含有量が油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して0.1~3質量%であることが好ましい。
【0016】
油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3-2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」で測定する。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出できる。
【0017】
本発明において乾燥酵母とは、酵母をそのまま噴霧乾燥したものや酵母エキスを製造する際に余った残渣を噴霧乾燥したものをいう。乾燥酵母は、タンパク質含有量が40質量%以上であるものが好ましい。
乾燥酵母としては、食品分野に適用し得るものであれば特に限定されないが、例えば、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母、醤油酵母、味噌酵母、トルラ酵母、等が挙げられる。乾燥酵母は公知のものを使用でき、商業的にも入手可能である。
【0018】
本発明の可塑性油脂組成物における乾燥酵母の含有量としては、特に限定されないが、風味をより向上させる観点から、可塑性油脂組成物全体に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.005~8質量%がより好ましく、0.01~5質量%がさらに好ましい。
【0019】
本発明において乳素材とは、乳又は乳由来の素材であり、乳としては、牛乳等が挙げられる。乳由来の素材としては、特に限定されず、例えば、乳脂、発酵乳、脱脂粉乳、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。これらの中でも、乳タンパク質を含有する乳素材が好ましい。
【0020】
本発明の可塑性油脂組成物における乳タンパク質の含有量としては、特に限定されないが、例えば、可塑性油脂組成物全体に対して、0.01~10質量%が挙げられる。風味をより向上させる観点から、0.01~4質量%が好ましく、0.01~2質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の可塑性油脂組成物における、乾燥酵母に対する乳タンパク質の質量比(乳タンパク質/乾燥酵母)は、風味の観点から、0.1~180が好ましく、0.1~60がより好ましく、0.1~4がさらに好ましい。
【0022】
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型乳化物、油中水中油型乳化物が挙げられ、油相の含有量は、本発明の効果をより発揮させることができるという観点から、下限値は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、65質量以上が最も好ましい。また、上限値としては、99.4質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。また、水相の含有量は、0.6~40質量%が好ましく、2~35質量%がより好ましい。水相を含有する形態としては油中水型乳化物が好ましく、マーガリン類が挙げられる。ここでマーガリン類とは、日本農林規格のマーガリン又はファットスプレッドに該当するものである。
【0023】
また、水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「実質的に含有しない」とは日本農林規格のショートニングに該当する、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下のことである。
【0024】
本発明の可塑性油脂組成物は、上記した成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の成分など、その他の成分を配合してもよい。その他の成分としては、例えば、乳脂以外の動物性油脂、乳タンパク質以外の蛋白質、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、着色成分、香料、乳化剤等が挙げられる。乳タンパク質以外の蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、多糖類等が挙げられる。抗酸化剤としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチン等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
本発明の可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、油脂を配合した油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス、ポラロン、ロノーター等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、油脂を配合した油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス、ポラロン、ロノーター等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機による急冷捏和後には、必要に応じて熟成(テンパリング)してもよい。
本発明において可塑性とは主に、低温から常温において、外からの力により変形し、もとに戻らない性質をいう。
【0026】
本発明の可塑性油脂組成物の用途としては、特に限定されないが、例えば、製菓製パン用、加熱調理用、即席調理食品用等に用いることができる。本発明の可塑性油脂組成物を製菓製パン用として用いる場合には、スプレッド用、バタークリーム用、練り込み用、ロールイン用等に好適に用いることができ、良好なパン類・菓子類を得ることができる。
【0027】
(食品)
本発明の食品は、以上に説明した可塑性油脂組成物を用いたものである。
本発明の可塑性油脂組成物を用いた食品としては、特に限定されないが、例えば、スプレッド、バタークリームや、これらを用いたパン類・菓子類等の食品、本発明の可塑性油脂組成物を生地へ練り込み、あるいは折り込むパン類・菓子類等の食品、本発明の可塑性油脂組成物を熱媒体として食品を加熱調理する、フライ食品等の加熱調理食品、ソース類、シチュー類等の加工食品に用いられる固形ルウ等の即席調理食品等が挙げられる。これらの中でも、スプレッド、バタークリーム、パン類・菓子類が好ましく、スプレッド、バタークリーム、焼成品がより好ましい。
【0028】
スプレッドやバタークリームを用いた食品は、本発明の可塑性油脂組成物を用いたスプレッドやバタークリーム塗布、サンド、又は注入した食品をいう。バタークリームとしては、本発明の可塑性油脂組成物と、所望により糖質等の呈味成分を加えて起泡させ、あるいは本発明の可塑性油脂組成物を起泡させたものに糖質等の呈味成分などを配合したものが挙げられる。
本発明の可塑性油脂組成物を生地へ練り込む食品としては、例えば、本発明の可塑性油脂組成物を、穀粉を用いた生地に練り込み、生地を焼成した焼成品等が挙げられる。
本発明の可塑性油脂組成物を生地へ折り込む食品としては、例えば、本発明の可塑性油脂組成物を、穀粉を用いた生地に層状に折り込み(ロールイン)、生地を焼成した焼成品等が挙げられる。
【0029】
パン類・菓子類のうち、パン類としては、例えば、食パン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、ベーグル、ロールパン、コッペパン、蒸しパン、揚げパン等が挙げられる。菓子類としては、例えば、パイ、ケーキ(パウンドケーキ等)、クッキー、ビスケット、クラッカー、ワッフル、スコーン、シュー、ドーナツ等が挙げられる。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、スプレッド用、バタークリーム用、練り込み用、ロールイン用の油脂は、表1に示す配合の調合油を用いた。エステル交換油脂A~Cは次のとおりである。
エステル交換油脂A:パーム核油とパーム油の極度硬化油とパーム油のエステル交換油脂
エステル交換油脂B:パーム分別軟質部のエステル交換油脂
エステル交換油脂C:パーム核油とパーム油のエステル交換油脂
【0031】
【表1】
【0032】
(スプレッド用、バタークリーム用、練り込み用ショートニングの作製)
表2Aに示す配合比にて、各原料油脂をタンク内で80℃に調温して溶解した後、同表に示す配合比にて、乳素材と乾燥酵母を添加し、混合してプロペラ撹拌機で撹拌し、均一に分散し溶解させた混合物をコンビネーターで急冷捏和して、ショートニングを得た(実施例1)。得られたショートニングを用いて、以下の評価を行った。
【0033】
(スプレッド用マーガリン、ファットスプレッドの作製)
表2A~2Cに示す配合比にて、各原料油脂に乳化剤を添加し、70℃に調温して油相とした。水を、85℃で加熱殺菌して、同表に示す乳素材、乾燥酵母、その他の成分を添加し、水相を得た。油相に水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、マーガリン又はファットスプレッドを得た。得られたマーガリン又はファットスプレッドを用いて、以下の評価を行った。
【0034】
(バタークリーム用マーガリン、ファットスプレッドの作製)
表2A~2Cに示す配合比にて、各原料油脂に乳化剤を添加し、70℃に調温して油相とした。水を、85℃で加熱殺菌して、同表に示す乳素材、乾燥酵母、その他の成分を添加し、水相を得た。油相に水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、マーガリン又はファットスプレッドを得た。得られたマーガリン又はファットスプレッドを用いて、以下の評価を行った。
【0035】
(練り込み用マーガリン、ファットスプレッドの作製)
表2A~2Cに示す配合比にて、各原料油脂に乳化剤を添加し、70℃に調温して油相とした。水を、85℃で加熱殺菌して、同表に示す乳素材、乾燥酵母、その他の成分を添加し、水相を得た。油相に水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、マーガリン又はファットスプレッドを得た。得られたマーガリン又はファットスプレッドを用いて、以下の評価を行った。
【0036】
(ロールイン用マーガリン、ファットスプレッドの作製)
表2A~2Cに示す配合比にて、各原料油脂に乳化剤を添加し、70℃に調温して油相とした。水を、85℃で加熱殺菌して、同表に示す乳素材、乾燥酵母、その他の成分を添加し、水相を得た。油相に水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、25cm×21cm×1cmのシート状に成型し、マーガリン又はファットスプレッドを得た。得られたマーガリン又はファットスプレッドを用いて、以下の評価を行った。
【0037】
以下の各官能評価において、パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テスト、日本電色工業製SE6000等の色差測定装置による色差ΔE=0.8の識別テストを実施し、その
各々のテストで適合と判断された20~50代の男性6名、女性9名を選抜した。
【0038】
[スプレッドの風味]
上記で得たスプレッド用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッドを25℃に調温した恒温器内にて1日保管し、10gをサンド用のパンに塗布し、風味(うま味、塩味、酸味、コク、濃厚感、乳感)をパネル15名により以下の基準で評価した。
(うま味)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、うま味が良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、うま味が良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、うま味が良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、うま味が良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、うま味が良好と評価した。
(塩味)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、塩味が良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、塩味が良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、塩味が良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、塩味が良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、塩味が良好と評価した。
(酸味)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、酸味が良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、酸味が良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、酸味が良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、酸味が良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、酸味が良好と評価した。
(コク)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、コクが良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、コクが良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、コクが良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、コクが良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、コクが良好と評価した。
(濃厚感)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、濃厚感が良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、濃厚感が良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、濃厚感が良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、濃厚感が良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、濃厚感が良好と評価した。
(乳感)
評価基準
◎+:パネル15名中14名以上が、乳感が良好と評価した。
◎:パネル15名中11~13名が、乳感が良好と評価した。
○:パネル15名中8~10名が、乳感が良好と評価した。
△:パネル15名中5~7名が、乳感が良好と評価した。
×:パネル15名中4名以下が、乳感が良好と評価した。
【0039】
(バタークリームの作製)
上記で得たバタークリーム用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッドを15℃に調温した後、卓上ミキサー(Kitchen Aid社)を用いて、調温したショートニング、マーガリン又はファットスプレッド250gを多羽ホイッパーで速度1にて30秒クリーミングした後、比重0.5まで含気させ、さらに液糖(BRIX67)250gを添加し、比重0.65となるまで含気させ、バタークリームを得た。
【0040】
〈バタークリームの配合〉
バタークリーム用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッド
250質量部
液糖 250質量部
【0041】
[バタークリームの風味]
バタークリームを25℃に調温した恒温器内に保管し、24時間後の風味(うま味、塩味、酸味、コク、濃厚感、乳感)をパネル15名により上記と同様の評価基準で評価した。
【0042】
(食パンの作製)
【0043】
上記で得た練り込み用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッドを用いて、下記配合で食パンを作製した。まず、イーストを分散させた水、イーストフード、及び強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用し、低速4分、中低速1分でミキシングを行った。捏上げ温度は24℃であった。その後、27℃、湿度75%の条件で4時間発酵を行った。発酵の終点温度は29℃であり、発酵後、中種生地を得た。その後、上記で製造したマーガリン以外の材料及び中種生地を、低速3分、中高速3分でミキシングした後、上記で得た練り込み用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッドをそれぞれ投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングし、パン生地を得た。この際の捏上温度は28℃であった。その後、室温で20分フロアタイムをとった後、パン生地を成型して、38℃、湿度80%のホイロで45分発酵させた後、200℃で40分間焼成して、食パンを得た。焼成した食パンは、室温で放冷させた後、ポリプロピレン製袋に入れ、20℃の恒温槽にて1日保管した後、風味(塩味、酸味、コク、乳感)をパネル15名により上記と同様の評価基準で評価した。
【0044】
〈食パンの配合〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
練り込み用ショートニング、マーガリン又はファットスプレッド
5質量部
水 25質量部
【0045】
(デニッシュの作製)
上記で得たロールイン用マーガリン又はファットスプレッドを用いて、下記配合でデニッシュを作製した。具体的には実施例及び比較例のロールイン用マーガリン又はファットスプレッド、及びショートニングZ(ミヨシ油脂株式会社製)以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、ショートニングZを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、室温で30分、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地にロールイン用マーガリン又はファットスプレッドを折り込み、3つ折り2回を加え-10℃にて30分リタードし、3つ折り1回を加え-10℃にて60分リタードさせた。その後シーターゲージ厚3mmまで延ばし、10cm角(10cm×10cm)にカットし、35℃、湿度75%のホイロで60分発酵させた後、200℃で14分焼成して、デニッシュを得た。焼成したデニッシュを室温で放冷させた後、ポリプロピレン製袋に入れ、20℃の恒温槽にて1日保管した後、風味(塩味、酸味、コク、乳感)をパネル15名により上記と同様の評価基準で評価した。
【0046】
〈デニッシュの配合〉
強力粉 90質量部
薄力粉 10質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
ショートニングZ 8質量部
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
ロールイン用マーガリン又はファットスプレッド
生地100質量部に対して21質量部
【0047】
(味覚センサー)
上記で得た実施例及び比較例のマーガリン又はファットスプレッド(油中水型可塑性油脂組成物)の水相部の酸味・うま味・複雑さ(コク、濃厚感)に関して味覚センサーにより下記の手順で測定した。
1.ビーカーに油脂サンプル30gを秤量する。
2.60℃の純水を270g入れ(10倍希釈)、スターラーで5分間撹拌する。
3.冷蔵で1時間静置し、上層の油脂分を固める。
4.上層の油脂を取り除き、水相部分を茶こしで濾して回収する。
5.濾液を専用カップに取り(約30mL)、味覚センサー測定用のサンプルとした。
6.味覚センサー(Insent社製 TS5000Z)により酸味・うま味・複雑さの測定を行った。
【0048】
上記評価の結果を表2A~表2Cに示す。なお、表2A~表2Cにおいて、官能評価において評価△以下が一つ以上あるものは発明の課題を解決しないと判断した。
【0049】
【表2A】
【0050】
【表2B】
【0051】
【表2C】
【手続補正書】
【提出日】2023-05-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性油脂、乾燥酵母、及び乳素材を含有し、前記植物性油脂の含有量が40質量%以上であり、前記乾燥酵母の含有量が0.001~10質量%である、可塑性油脂組成物。
【請求項2】
前記乾燥酵母の含有量が0.01~5質量%である、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記乳素材として乳タンパク質を含有し、乳タンパク質の含有量が0.01~10質量%である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
前記植物性油脂の含有量が60質量%以上である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
油中水型乳化物又は油中水中油型乳化物である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の可塑性油脂組成物を用いた食品。