(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118741
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02D17/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025188
(22)【出願日】2023-02-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 掲載日:令和4年2月28日 ウェブサイトのアドレス:国際シンポジウム ISRSS-SENDAI2022 abstractのウェブサイト https://isrss-sendai.org/ (2) 開催日:令和4年3月18日 国際シンポジウム ISRSS-SENDAI2022、岐阜大学・東北大学 災害科学国際研究所主催「Reinforcement insertion work with a circular pile to prevent slope failure」 (3) 掲載日:令和4年6月30日 ウェブサイトのアドレス:第57回地盤工学研究発表会予稿集のウェブページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jgs57/proceedings/list (4) 開催日 :令和4年7月20日 第57回地盤工学研究発表会(新潟県朱鷺メッセ)、公益社団法人地盤工学会「パイプを併用した鉄筋挿入工に関する数値解析」 (5) 掲載日:令和4年8月1日 ウェブサイトのアドレス:令和4年度土木学会全国大会 第77回年次学術講演会 講演概要のウェブページ https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/advanced?searchType=subject&subjectTitle=&sessionTitle=&author=%E8%97%A4%E5%8E%9F%E8%A6%9A%E5%A4%AA&presenter=&aff=&eventDate=&lectureNumber=&query= (6) 開催日 :令和4年9月16日 令和4年度土木学会全国大会 第77回年次学術講演会(京都大学吉田キャンパス)、公益社団法人土木学会「パイプを併用した鉄筋挿入工に関する模型実験」 (7) 掲載日:令和4年11月24日 ウェブサイトのアドレス:第63回地盤工学シンポジウムプログラムのウェブページ https://www.jiban.or.jp/wp-content/uploads/2022/11/63symp-20221130.pdf (8) 開催日:令和4年12月2日 第63回地盤工学シンポジウム、公益社団法人地盤工学会「パイプを併用した鉄筋挿入工に関する研究」
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 覚太
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044CA01
2D044CA06
2D044EA01
(57)【要約】
【課題】深さ2m以上の崩壊に対しても簡易かつ安価に斜面対策効果を高めることができる。
【解決手段】鉄筋2を地盤Gに挿入することにより地盤Gの斜面を安定させる地盤安定化構造であって、地盤G内にすべり面Sを通過させて設けた鉄筋2と、鉄筋2よりも短い長さをなし、鉄筋2を非結合状態で囲んで地盤Gに配置される筒状部材3と、鉄筋2の地表側の端部に固定され、地盤Gの地表面Gaに定着される受圧板4と、を備え、筒状部材3の断面は鉄筋2の軸方向から見て受圧板4の断面より小さく設定され、受圧板4は筒状部材3の抜け出しを規制し、筒状部材3は、すべり面Sよりも地表面側に設けられた構成の地盤安定化構造を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋を地盤に挿入することにより地盤の斜面を安定させる地盤安定化構造であって、
前記地盤内にすべり面を通過させて設けた鉄筋と、
前記鉄筋よりも短い長さをなし、前記鉄筋を非結合状態で囲んで前記地盤に配置される筒状部材と、
前記鉄筋の地表側の端部に固定され、前記地盤の地表面に定着される受圧板と、を備え、
前記筒状部材の断面は前記鉄筋の軸方向から見て前記受圧板の断面より小さく設定され、前記受圧板は前記筒状部材の抜け出しを規制し、
前記筒状部材は、前記すべり面よりも前記地表面側に設けられていることを特徴とする地盤安定化構造。
【請求項2】
前記筒状部材の部材は、前記地盤内で非破損状態で保持可能な強度を有する、鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製である、請求項1に記載の地盤安定化構造。
【請求項3】
前記筒状部材は、地表面側から前記すべり面側に向かうに従って漸次縮径されたテーパーが形成されている、請求項1に記載の地盤安定化構造。
【請求項4】
前記鉄筋、前記受圧板および前記筒状部材から構成される鉄筋複合構造が前記地盤に複数設けられ、
隣り合う前記筒状部材の中心間距離は、前記筒状部材の直径の8倍以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤安定化構造。
【請求項5】
前記筒状部材の内部には、前記地盤および非固化材の少なくとも一方が充填されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤安定化構造。
【請求項6】
前記筒状部材の側面には、複数の貫通穴が設けられている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤安定化構造。
【請求項7】
前記鉄筋、前記受圧板および前記筒状部材から構成される鉄筋複合構造が前記地盤に複数設けられ、
複数の前記鉄筋複合構造は、平面視してそれぞれの中心を結ぶ線が正三角形状になるように配置されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤安定化構造。
【請求項8】
鉄筋を地盤に挿入することにより地盤の斜面を安定させる地盤安定化構造の施工方法であって、
前記地盤内にすべり面を通過させて鉄筋を挿入する工程と、
前記鉄筋よりも短い長さの筒状部材を、前記鉄筋を非結合状態で囲んで前記地盤に配置する工程と、
前記鉄筋の地表側の端部に受圧板を固定し、前記受圧板を前記地盤の地表面に定着する工程と、を有し、
前記鉄筋の軸方向から見て、前記筒状部材の断面は前記受圧板の断面より小さくなるように配置し、前記筒状部材の抜け出しを規制し、
前記筒状部材を前記すべり面よりも前記地表面側に設けるようにしたことを特徴とする地盤安定化構造の施工方法。
【請求項9】
前記筒状部材は、回転圧入により施工される、請求項8に記載の地盤安定化構造の施工方法。
【請求項10】
前記地盤に挿入孔を掘削した後、前記挿入孔に前記筒状部材を挿入する、請求項8に記載の地盤安定化構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の斜面対策工として、例えば特許文献1に示されるような鉄筋挿入工や地すべり抑止杭が一般的に知られている。
鉄筋挿入工は、地盤中に削孔された削孔内に剛性の高い棒状の芯材(鉄筋コンクリート用棒鋼)を挿入し、この芯材の全長をセメント系硬化剤で地盤に固定する構造を有し、地盤の変形に伴う、芯材の引張耐力、引抜耐力、引締力などの複合的な効果により、不安定な移動層をある程度拘束して斜面の安定性を向上させる工法である。すなわち、鉄筋挿入工は、地山にプレストレスを与えない鉄筋等の補強材を配置し、地盤の変形に伴って、受動的に補強材に抵抗力を発揮させて地盤の変形を拘束することにより、土圧の支持、斜面の安定化、支持力の増加など、地山の安定性を向上させる工法である。
【0003】
地すべり抑止杭は、斜面鉛直に設けられた大径の掘削孔に、鋼管杭などを挿入し、杭周囲にグラウト注入することで地盤と密着させる工法である。杭の高い剛性により移動層のすべりに抵抗し、さらに杭間に生じるアーチ効果を発揮することで、一定以下であれば杭間距離をあけることができるため、広範囲に地すべりを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の斜面対策工の構造では、以下のような問題があった。
すなわち、従来の鉄筋挿入工は、上述したように斜面が変形しそうになったとき、補強材の鉄筋と受圧板で斜面を拘束することで、変形を抑える工法である。このような鉄筋挿入工では、主に2m程度の浅い崩壊に対しては有効とされているが、プレストレスを導入しない機構であるため深さ2m以上の崩壊に対しては充分な効果が認められていないという課題があった。そして、鉄筋挿入工では、鉄筋の本数を増やすことで、補強効果を高めることができるが、コストや施工の手間がかかる対策工になり、現実的ではない。
【0006】
また、従来の地すべり抑止杭は、上述したように斜面が変形しそうになったとき、杭の剛性により地盤に抵抗することで、崩壊を防ぐ工法である。大径の杭を使用するため、とくに山岳部の現場においては、資材運搬や作業性に問題がありコストもかかることから、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、深さ2m以上の崩壊に対しても簡易かつ安価に斜面対策効果を高めることができる地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
(1)本発明に係る地盤安定化構造の態様1は、鉄筋を地盤に挿入することにより地盤の斜面を安定させる地盤安定化構造であって、前記地盤内にすべり面を通過させて設けた鉄筋と、前記鉄筋よりも短い長さをなし、前記鉄筋を非結合状態で囲んで前記地盤に配置される筒状部材と、前記鉄筋の地表側の端部に固定され、前記地盤の地表面に定着される受圧板と、を備え、前記筒状部材の断面は前記鉄筋の軸方向から見て前記受圧板の断面より小さく設定され、前記受圧板は前記筒状部材の抜け出しを規制し、前記筒状部材は、前記すべり面よりも前記地表面側に設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る地盤安定化構造では、地盤のすべり面を横断して鉄筋が挿入されているので、地盤の変形に伴う、鉄筋の引張耐力、引抜耐力、引締力などの複合的な効果により、不安定な移動層を拘束して斜面の安定性を向上させる斜面拘束効果を発揮できる。さらに、すべり面よりも地表面側で鉄筋の周囲に設けられる筒状部材は、地すべりを抑制するように地盤の抵抗となる。具体的には、筒状部材同士のアーチ効果、すなわち筒状部材間に土詰まりを発生させることができ、斜面対策効果を高めることができる。このように、本発明では、筒状部材を2mよりも深く、すべり面近傍ですべり面に達しない位置まで挿入することで、深さ2m以上の崩壊に対しても、地すべり抑止杭としての機能を発揮することができる。
【0010】
また、本発明では、筒状部材はすべり面を跨いですべり面より下層の不動地盤に根入れすることなく長さ寸法が抑えられる。そのため、筒状部材の施工が簡易となり、従来の地すべり抑止杭工法に比べて資材運搬や作業性の負担を大幅に軽減できる。また、根入れしないことにより比較的大きな径の筒状部材を施工することができ、広範囲にアーチ効果が期待できることから、部材の間隔を広くとることができる。
【0011】
さらに、本発明では、上述したように鉄筋1本当りの対策効果を向上させることができるので、鉄筋および筒状部材の設置密度を小さく抑えることができる。そのため、対策工の材料にかかるコストや施工手間を低減できることから、自然斜面や盛り土等、勾配をもった土構造に対して広く適用でき、豪雨や地震による斜面災害を低減させることが期待できる。
【0012】
(2)本発明の態様2は、態様1の地盤安定化構造において、前記筒状部材の部材は、前記地盤内で非破損状態で保持可能な強度を有する、鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製であっても良い。
【0013】
この場合、筒状部材として、すべり面より上層の地盤の圧力で破損しない程度の強度を有する鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製の部材を採用することができ、安価な材料で構成できる。
【0014】
(3)本発明の態様3は、態様1の地盤安定化構造において、前記筒状部材は、地表面側から前記すべり面側に向かうに従って漸次縮径されたテーパーが形成されていることが好ましい。
【0015】
この場合、地盤に挿入される筒状部材の端部が縮径されて先細になっているので、筒状部材を地盤に打ち込みやすくなり、施工効率を向上させることができる。
【0016】
(4)本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの地盤安定化構造において、前記鉄筋、前記受圧板および前記筒状部材から構成される鉄筋複合構造が前記地盤に複数設けられ、隣り合う前記筒状部材の中心間距離は、前記筒状部材の直径の8倍以下であることが好ましい。
【0017】
この場合、隣り合う筒状部材の中心間距離が小さくなるので、筒状部材間に土詰まりをより効率よく発生させることができ、斜面対策効果をさらに高めることができる。
【0018】
(5)本発明の態様5は、態様1から態様3のいずれか一つの地盤安定化構造において、前記筒状部材の内部には、前記地盤および非固化材の少なくとも一方が充填されていることが好ましい。
【0019】
この場合、筒状部材の内部はモルタルやグラウト等の固化材ではなく地盤材料や非固化材であるため、これらが緩衝材としての役割を果たし、外力作用時でも筒状部材への負荷は小さく、破損しない程度に筒状部材を保持できる。また、固化材を使用しない簡易な構造となるので、施工時間の短縮や部材コストの低減を図ることができる。
【0020】
(6)本発明の態様6は、態様1から態様3のいずれか一つの地盤安定化構造において、前記筒状部材の側面には、複数の貫通穴が設けられていても良い。
【0021】
この場合、前記筒状部材の表面粗度を高めることができ、このことにより前記筒状部材間の土つまりが発生しやすくなり、地すべり抑止効果が向上する。
【0022】
(7)本発明の態様7は、態様1から態様3のいずれか一つの地盤安定化構造において、前記鉄筋、前記受圧板および前記筒状部材から構成される鉄筋複合構造が前記地盤に複数設けられ、複数の前記鉄筋複合構造は、平面視してそれぞれの中心を結ぶ線が正三角形状になるように配置されていることが好ましい。
【0023】
この場合、すべての前記鉄筋複合構造の間隔は等距離となるため、所定の領域の斜面に対して、最小個数の前記鉄筋複合構造により対策できることになる。
【0024】
(8)本発明に係る地盤安定化構造の施工方法の態様8は、鉄筋を地盤に挿入することにより地盤の斜面を安定させる地盤安定化構造の施工方法であって、前記地盤内にすべり面を通過させて前記鉄筋を挿入する工程と、前記鉄筋よりも短い長さの筒状部材を、前記鉄筋を非結合状態で囲んで前記地盤に配置する工程と、前記鉄筋の地表側の端部に受圧板を固定し、前記受圧板を前記地盤の地表面に定着する工程と、を有し、前記鉄筋の軸方向から見て、前記筒状部材の断面は前記受圧板の断面より小さくなるように配置し、前記筒状部材の抜け出しを規制し、前記筒状部材を前記すべり面よりも前記地表面側に設けるようにしたことを特徴とする。
【0025】
本発明に係る地盤安定化構造の施工方法によれば、上述した態様1と同様に、筒状部材を2mよりも深く、すべり面近傍ですべり面に達しない位置まで挿入することで、深さ2m以上の崩壊に対しても、地すべり抑止杭としての機能を発揮することができる効果を奏する。
【0026】
(9)本発明の態様9は、態様8の地盤安定化構造の施工方法において、前記筒状部材は、回転圧入により施工されていても良い。
【0027】
この場合、回転圧入により筒状部材を地盤の所定の深さまで容易に打ち込むことができる。筒状部材が鉄筋に対して非結合状態で配置されるので、地盤に鉄筋を挿入した後に筒状部材を打ち込む際に回転圧入工を採用することができる。
【0028】
(10)本発明の態様10は、態様8の地盤安定化構造の施工方法において、前記地盤に挿入孔を掘削した後、前記挿入孔に前記筒状部材を挿入するようにしても良い。
【0029】
この場合、筒状部材が鉄筋に対して非結合状態で配置されるので、地盤に鉄筋を挿入した後に筒状部材を地盤に挿入するための挿入孔を掘削し、掘削した挿入孔に筒状部材を打ち込むことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法は、深さ2m以上の崩壊に対しても簡易かつ安価に斜面対策効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態による地盤安定化構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す地盤安定化構造の縦断面図である。
【
図3】地盤安定化構造の隣り合う一対の鉄筋複合杭を示す平面図である。
【
図4】地盤安定化構造の隣り合う3つの鉄筋複合杭を示す平面図である。
【
図5】実施例による試験体の概要を示す側断面図である。
【
図7】比較例の試験による崩壊状態を示す写真であって、(a)はケース3の試験結果を示す写真、(b)はケース4の試験結果を示す写真である。
【
図8】実施例の試験による崩壊状態を示す写真であって、(a)はケース1の試験結果を示す写真、(b)はケース2の試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態による地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法について、図面に基づいて説明する。
【0033】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の地盤安定化構造1は、鉄筋2を地盤Gに挿入することにより地盤Gの斜面を安定させるために適用される。
【0034】
図1及び
図2において、符号Sは、地盤Gにおけるすべり面を示している。
地盤安定化構造1が適用される地盤Gにおいて、地表面Gaからすべり面Sに到達しない地盤(すべり面Sより浅い地盤)を表層地盤G1、すべり面Sより深い地盤を不動地盤G2という。
【0035】
地盤安定化構造1は、地盤G内にすべり面を通過させて設けた鉄筋2と、鉄筋2よりも短い長さをなし、鉄筋2を非結合状態で囲んで地盤Gに配置される筒状部材3と、鉄筋2の地表側の端部2aに固定され、地盤Gの地表面Gaに定着される受圧板4と、を備えている。
【0036】
ここで、以下の説明では、鉄筋2、受圧板4および筒状部材3から構成されるものを鉄筋複合杭10(鉄筋複合構造)という。鉄筋複合杭10は、地盤Gに複数設けられている。
【0037】
鉄筋2は、すべり面Sを跨ぐように地盤Gに配置され、筒状部材3の内側に挿入された状態で配置される。
【0038】
受圧板4は、鉄筋2の端部2aを挿通させて、その端部2aにナット23が締め付けられることで地表面Gaに押し付けられる。受圧板4は、鉄筋2の軸方向から見て、筒状部材3の断面より大きい角形であり、筒状部材3の地盤外への抜け出しを規制している。
【0039】
図2に示すように、筒状部材3は、断面円形の円筒部材が使用され、すべり面Sよりも地表面側に設けられている。筒状部材3の中心軸は、鉄筋2と同軸であることに限定されず、ずれていてもよい。筒状部材3の軸方向の長さは、上述したように鉄筋2の長さより短く、さらには地表面Gaから垂直方向ですべり面Sまでの距離より短い長さに設定されている。筒状部材3は、すべり面Sに到達しない表層地盤G1に設けられていればよく、鉄筋2の長さ方向の位置は適宜設定される。
【0040】
筒状部材3の部材は、地盤G内で非破損状態で保持可能な強度を有する、鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製である。
なお、筒状部材3は、地表面側からすべり面S側に向かうに従って漸次縮径されたテーパー(図示省略)が形成されていてもよい。
【0041】
筒状部材3の内部には、地盤Gおよび非固化材の少なくとも一方が充填されている。
筒状部材3の側面3cには、複数の貫通穴が(図示省略)設けられていてもよい。
【0042】
図3に示すように、隣り合う筒状部材3、3の中心O同士を結ぶ中心間距離D1は、筒状部材3の直径D2の8倍以下である。
図3に示す符号T1は、隣り合う筒状部材3、3同士の間の地盤領域であって、土が詰まる領域になる。
【0043】
また、
図4に示すように、複数の鉄筋複合杭10は、平面視してそれぞれの中心Oを結ぶ線Kが正三角形状になるように配置されている。
図4に示す符号T2は、3つの筒状部材3同士の間の地盤領域であって、土が詰まる領域になる。
【0044】
次に、地盤Gの斜面を安定させる上述した地盤安定化構造1の施工方法について、図面に基づいて具体的に説明する。
先ず、
図1及び
図2に示すように、鉄筋2を挿入する。
【0045】
次に、鉄筋2よりも短い長さの筒状部材3を、鉄筋2を非結合状態で囲んで地盤Gに配置する。このとき、筒状部材3は、回転圧入により施工されてもよいし、地盤Gに挿入孔(図示省略)を掘削した後、その挿入孔に筒状部材3を挿入するようにしてもよいし、他の打ち込み方法を採用することも可能である。そして、地盤Gに設けられる筒状部材3は、すべり面Sよりも地表面側に設けられる。
【0046】
次に、鉄筋2の地表側の端部2aに受圧板4を固定し、受圧板4を地盤Gの地表面Gaに定着する。つまり、鉄筋2の端部2aに受圧板4を設置し、ナット23を用いて緩みがないように受圧板4を締め付けることで施工が終了する。
【0047】
次に、上述した地盤安定化構造1および地盤安定化構造1の施工方法の作用について、
図1~
図4に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による地盤安定化構造1では、鉄筋2を地盤Gに挿入することにより地盤Gの斜面を安定させる構造である。地盤安定化構造1は、地盤Gに挿入される鉄筋2と、鉄筋2よりも短い長さをなし、鉄筋2を非結合状態で囲んで地盤Gに配置される筒状部材3と、鉄筋2の地表側の端部に固定され、地盤Gの地表面Gaに定着される受圧板4と、を備える。筒状部材3の断面は鉄筋2の軸方向から見て受圧板4の断面より小さく設定され、受圧板4は筒状部材3の抜け出しを規制し、筒状部材3は、すべり面Sよりも地表面側に設けられている。
【0048】
本実施形態では、地盤Gのすべり面Sを横断して鉄筋2が挿入されているので、地盤Gの変形に伴う、鉄筋2の引張耐力、引抜耐力、引締力などの複合的な効果により、不安定な移動層を拘束して斜面の安定性を向上させる斜面拘束効果を発揮できる。さらに、すべり面Sよりも地表面側で鉄筋2の周囲に設けられる筒状部材3は、地すべりを抑制するように地盤Gの抵抗となる。すなわち、筒状部材3同士のアーチ効果、すなわち筒状部材3同士の間(
図3の符号T1の部分)に土詰まりを発生させることができ、斜面対策効果を高めることができる。このように、本実施形態では、筒状部材3を2mよりも深く、すべり面S近傍ですべり面Sに達しない位置まで挿入することで、深さ2m以上の崩壊に対しても、地すべり抑止杭としての機能を発揮することができる。
【0049】
また、本実施形態では、筒状部材3をすべり面Sを跨いですべり面Sより下層の不動地盤G2に根入れすることなく長さ寸法が抑えられる。そのため、筒状部材3の施工が簡易となり、従来の地すべり抑止杭工法に比べて資材運搬や作業性の負担を大幅に軽減できる。また、根入れしないことにより比較的大きな径の筒状部材3を施工することができ、広範囲にアーチ効果が期待できることから、部材の間隔を広くとることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、上述したように鉄筋2が1本当りの対策効果を向上させることができるので、鉄筋2および筒状部材3の設置密度を小さく抑えることができる。そのため、対策工の材料にかかるコストや施工手間を低減できることから、自然斜面や盛り土等、勾配をもった土構造に対して広く適用でき、豪雨や地震による斜面災害を低減させることが期待できる。
【0051】
また、本実施形態では、筒状部材3の部材は、地盤G内で非破損状態で保持可能な強度を有する、鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製であっても良い。この場合、筒状部材3として、すべり面Sより上層の表層地盤G1の圧力で破損しない程度の強度を有する鋼製、コンクリート製、塩ビ製、またはアクリル製の部材を採用することができ、安価な材料で構成できる。
【0052】
また、本実施形態では、筒状部材3は、地表面側からすべり面S側に向かうに従って漸次縮径されたテーパーが形成されている。そのため、地盤Gに挿入される筒状部材3の端部が縮径されて先細になっているので、筒状部材3を地盤Gに打ち込みやすくなり、施工効率を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、鉄筋2、受圧板4および筒状部材3から構成される鉄筋複合杭10が地盤Gに複数設けられ、隣り合う筒状部材3の中心間距離D1は、筒状部材3の直径D2の8倍以下である。そのため、隣り合う筒状部材3の中心間距離D1が小さくなるので、筒状部材3同士の間(
図3の符号T1の部分)に土詰まりをより効率よく発生させることができ、斜面対策効果をさらに高めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、筒状部材3の内部はモルタルやグラウト等の固化材ではなく地盤材料や非固化材であるため、これらが緩衝材としての役割を果たし、外力作用時でも筒状部材への負荷は小さく、破損しない程度に筒状部材3を保持できる。また、固化材を使用しない簡易な構造となるので、施工時間の短縮や部材コストの低減を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、筒状部材3の側面3cには、複数の貫通穴(図示省略)が設けられていてもよい。このような構成とすることで、筒状部材3の表面粗度を高めることができ、このことにより前記筒状部材間の土つまりが発生しやすくなり、地すべり抑止効果が向上する。
【0056】
また、本実施形態では、鉄筋2、受圧板4および筒状部材3から構成される鉄筋複合杭10が地盤Gに複数設けられている。複数の鉄筋複合杭10は、平面視してそれぞれの中心を結ぶ線Kが正三角形状になるように配置されている。そのため、地盤G内で正三角形状の頂点を中心にして配置される鉄筋複合杭10同士の間(
図4の符号T2の部分)で土詰まりをより効率よく発生させることができ、斜面対策効果をさらに高めることができる。
【0057】
また、本実施形態では、鉄筋2を地盤Gに挿入することにより地盤Gの斜面を安定させる地盤安定化構造1の施工方法であって、地盤G内にすべり面Sを通過させて鉄筋2を挿入する工程と、鉄筋2よりも短い長さの筒状部材3を、鉄筋2を非結合状態で囲んで地盤Gに配置する工程と、鉄筋2の地表側の端部に受圧板4を固定し、受圧板4を地盤Gの地表面Gaに定着する工程と、を有する。鉄筋2の軸方向から見て、筒状部材3の断面は受圧板4の断面より小さくなるように配置し、筒状部材3の抜け出しを規制し、筒状部材3をすべり面Sよりも地表面側に設けるようにした。
そして、本実施形態では、筒状部材3は、回転圧入により施工されている。そのため、回転圧入により筒状部材3を地盤Gの所定の深さまで容易に打ち込むことができる。筒状部材3が鉄筋2に対して非結合状態で配置されるので、地盤Gに鉄筋2を挿入した後に筒状部材3を打ち込む際に回転圧入工を採用することができる。
【0058】
また、本実施形態では、地盤Gに挿入孔を掘削した後、挿入孔に筒状部材3を挿入する。そのため、筒状部材3が鉄筋2に対して非結合状態で配置されるので、地盤Gに鉄筋2を挿入した後に筒状部材3を地盤Gに挿入するための挿入孔を掘削し、掘削した挿入孔に筒状部材3を打ち込むことができる。
【0059】
上述のように本実施形態による地盤安定化構造1および地盤安定化構造1の施工方法では、深さ2m以上の崩壊に対しても簡易かつ安価に斜面対策効果を高めることができる。
【0060】
次に、上述した実施形態による地盤安定化構造の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0061】
(実施例)
実施例では、
図5及び
図6に示すように、上述した実施形態の地盤安定化構造1(
図1参照)を模擬した模型の試験体5を使用して模擬試験を行うことにより、本構造の地山安定性の効果を確認した。すなわち、試験体5は、斜面崩壊を引き起こすことが可能な模型である。この試験体5を用いて、傾斜角度θによる砂の崩壊の状態を確認して本発明の地盤安定化構造の効果を検証した。
【0062】
本試験に使用した
図5及び
図6に示す試験体5は、一側面(前端51b)が開放された木箱51を使用し、木箱51を床面5aに所定の傾斜角度θで吊るし木箱51の内部に自立するように地盤材料52を入れ、地盤材料52に対策工50を設けた。
木箱51は、長さL1が2000mm、高さHが450mm、奥行きL2が500mmである。木箱51の側面は、透明なアクリル板で形成し、木箱51の内部の状況が観察できるように構成されている。木箱51の底面51aは、摩擦を切るためのビニールシートを貼り付けている。地盤材料52には、ケイ砂7号(含水比11%)を使用した。地盤材料52の物性値は、事前の物性試験により、土粒子密度2.63g/cm
3、均等係数Uc=2.1、内部摩擦角42度、粘着力0kN/m
2が得られている。木箱51には、後述する4つの試験ケースの対策工50を固定した後、地盤材料52である砂を底面51aから厚さhが300mmになるまで詰めた。
【0063】
対策工50は、芯材53(上記実施形態の鉄筋2に相当)および受圧板54と、パイプ55(上記実施形態の筒状部材3に相当)を設けたケース(後述するケース1、2)と設けないケース(後述するケース3、4)とした。このときの芯材53から木箱51の前端51bまでの距離L3は、750mmである。受圧板54の寸法、パイプ55の外径、パイプ55間距離、パイプ55と木箱51の側面との距離は、
図6に示す通りである。
【0064】
図5及び
図6は、後述するケース2を示している。試験は、対策工50を変えた4つのケース(ケース1~4)で行った。ケース1、2は、上述した実施形態の地盤安定化構造1の実施例であり、ケース3、4はパイプ55を設けない比較例である。すなわち、ケース1は、芯材53、受圧板54、パイプ55からなる対策工を木箱51の幅方向中央に1本配置したものである。ケース2は、芯材53、受圧板54、パイプ55を幅方向に所定間隔をあけて3本配列したものである。ケース3は、芯材53、受圧板54のみ(パイプ無し)を幅方向中央に1本配置したものである。ケース4は、芯材53、受圧板54のみ(パイプ無し)を幅方向に所定間隔をあけて3本配列したものである。
【0065】
芯材53は、直径が10mm、長さが300mmの鋼材である。受圧板54は、厚さが2mm、縦長さが150mm、横長さが150mmである。パイプ55は、透明アクリル製であり、直径が80mm、長さが280mmである。パイプ55は、芯材53や木箱51の底面51aとは結合せず、芯材53を囲むように配置する。パイプ55の内部に地盤材料52の砂を充填した。
【0066】
試験方法は、ケース1~4毎の試験体5を作成後、木箱51の後端51cを傾斜計付きの吊り治具56で吊り上げ木箱51の傾斜角度θを60度になるまで上昇させた。そして、木箱51内に詰めた砂(地盤材料52)の崩壊状態を観察し、崩落状態を目視により確認して評価した。具体的な崩壊状態の評価基準としては、対策工50の背面の砂が対策工50により保持されている状態を「斜面崩壊あり」とし、対策工50の背面の砂の大部分が下流に崩れ落ちた状態を「斜面崩壊なし」と評価した。
【0067】
図7は、比較例の試験による崩壊状態を示す写真であって、(a)はケース3の試験結果を示す写真、(b)はケース4の試験結果を示す写真である。
図8は、実施例の試験による崩壊状態を示す写真であって、(a)はケース1の試験結果を示す写真、(b)はケース2の試験結果を示す写真である。
比較例による試験の結果、ケース3では、
図7(a)に示すように、傾斜角度θが50度で崩壊を開始し、60度で完全に斜面崩壊したことが確認された。ケース4では、
図7(b)に示すように、傾斜角度θが60度でも斜面崩壊は確認されなかった。
一方、
図8(a)、(b)に示す実施例による試験の結果、ケース1、2でパイプ55が設けられているものでは、いずれも傾斜角度θが60度になっても地盤材料52が崩壊しなかった。
【0068】
このように、パイプ55が無い対策工のケース3、4の場合には、パイプ55を有する対策工のケース1、2に比べて、小さい傾斜角度θで崩壊が認められた。なお、パイプ55が無い場合であっても、ケース4の対策工のように一定以上の密度で芯材53を設置すれば、複数の芯材53によって土塊(地盤材料52)を受け止めることが可能であることが確認できた。
また、パイプ55を使用した対策工のケース1、2では、パイプ55を芯材53に併用することでより広範にわたり斜面上部の崩壊を抑止することができることがわかった。このことから、パイプ55に一体化した土塊(地盤材料52)に対して対策工50が抵抗するように挙動することがわかった。
【0069】
以上、本発明による地盤安定化構造および地盤安定化構造の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0070】
例えば、本実施形態では、筒状部材3として断面円形の円筒部材を採用しているが、円筒であることに限定さることはなく、例えば断面四角形の角筒であってもよい。また、本実施形態では、筒状部材3が地表面Ga側からすべり面S側に向かうに従って漸次縮径されたテーパーが形成されてもよいとしているが、このテーパー形状に限定されず、すべり面S側から地表面Ga側に向かうに従って漸次縮径された逆テーパーに形成されていてもよい。このように逆テーパーの筒状部材の場合には、地盤への打ち込みのし易さでは劣るものの、筒状部材の地盤からの抜け出しを抑制できる。すなわち、地盤Gの土圧によって地表面Gaから深さ方向に向かう力を作用させることができる。
【0071】
また、上記実施形態では、隣り合う筒状部材3の中心間距離D1が筒状部材3の直径D2の8倍以下としているが、中心間距離D1が直径D2の8倍を超えるように設置されていてもかまわない。
【0072】
また、筒状部材3の内部に地盤Gおよび非固化材の少なくとも一方が充填された構成となっているが、筒状部材3内がこれら地盤Gおよび非固化材によって充填されていることに限定されることはなく、筒状部材3内が中空の状態であってもよい。
【0073】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 地盤安定化構造
2 鉄筋
3 筒状部材
4 受圧板
10 鉄筋複合杭(鉄筋複合構造)
G 地盤
Ga 地表面
G1 表層地盤
G2 不動地盤
S すべり面