(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118758
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】正極活物質層、正極および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240826BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240826BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240826BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025223
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】久米 佑輔
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM12
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ12
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】高温状態で保存した後の容量維持率が高い全固体二次電池の正極を形成できる正極活物質層、これを備える正極および全固体二次電池を提供する。
【解決手段】粒子状の正極活物質10と、固体電解質11とを含み、正極活物質10の外面と、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙15を有する、正極活物質層1Bとする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質の外面と、前記正極活物質の周囲に配置された前記固体電解質との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙を有する、正極活物質層。
【請求項2】
前記正極活物質層の厚さ方向中心を通る断面を観察した断面観察像における前記正極活物質の全界面のうち、
前記空隙と接している界面の割合である空隙接触率C1が3%~30%であり、
前記固体電解質と接している界面の割合である固体電解質接触率C2が40%~80%であり、
前記空隙接触率C1と前記固体電解質接触率C2との合計が100%未満である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項3】
前記固体電解質が、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む、請求項1に記載の正極活物質層。
AaEbGcXd・・・(1)
(式(1)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO2、BO3、BO4、B3O6、B4O7、CO3、NO3、AlO2、SiO3、SiO4、Si2O7、Si3O9、Si4O11、Si6O18、PO3、PO4、P2O7、P3O10、O、SO、SO2、SO3、SO4、SO5、S2O3、S2O4、S2O5、S2O6、S2O7、S2O8、BF4、PF6、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【請求項4】
前記正極活物質は、下記式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる、請求項1に記載の正極活物質層。
LixMOy・・・(2)
(式(2)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
【請求項5】
前記固体電解質が、Li2ZrSO4Cl4を含む、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の正極活物質層を含む、正極。
【請求項7】
請求項6に記載の正極と、負極と、固体電解質層とを備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、正極および全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。そこで、電解質として固体電解質を用いる全固体二次電池が注目されている。
【0003】
従来、非水電解質電池の正極に利用される正極焼結体として、正極活物質の粒子を含有し、空隙率が15体積%以下で、かつ活物質粒子の粒径が10μm以上100μm以下である正極焼結体がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の全固体二次電池は、高温状態で保存した後の容量維持率が低いことが問題となっていた。
特に、固体電解質としてハライド系固体電解質を用いた全固体二次電池では、高温状態で保存した後の容量低下が顕著であった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高温状態で保存した後の容量維持率が高い全固体二次電池の正極を形成できる正極活物質層、これを備える正極および全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の一態様に係る正極活物質層は、粒子状の正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質の外面と、前記正極活物質の周囲に配置された前記固体電解質との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の正極活物質層は、粒子状の正極活物質と、固体電解質とを含み、正極活物質の外面と、正極活物質の周囲に配置された固体電解質との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙を有する。このため、本発明の正極活物質層を備える正極を有する全固体二次電池は、高温状態で保存したときの正極活物質と固体電解質との副反応に伴うイオン伝導度の低下が抑制され、高温保存した後の容量維持率が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の全固体二次電池の一例を説明するための断面模式図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの一部を拡大して示した断面模式図である。
図2(b)は、
図2(a)の一部を拡大して示した断面模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの製造工程を説明するための図面である。
図3(a)は、初回の充電を開始する前における正極活物質10aと、その周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12の状態を示した図面である。
図3(b)は、第1段階を経て第2段階を開始した時点における正極活物質10bと、その周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12の状態を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決し、高温状態で保存した後の全固体二次電池の容量維持率を向上させるべく、以下に示すように、鋭意検討を重ねた。
すなわち、本発明者らは、全固体二次電池を、例えば、60℃以上の高温状態で保存した場合に、容量が低下する原因について検討した。その結果、正極中での正極活物質と固体電解質との副反応によって、イオン伝導度が低下することが一因であることが分かった。
【0011】
そこで、本発明者らは、高温状態で保存したときの正極活物質と固体電解質との副反応に着目し、検討を重ねた。その結果、正極活物質の外面と、正極活物質の周囲に配置された固体電解質との間の少なくとも一部に形成された空隙を有する、正極活物質層を形成すればよいことを見出した。
【0012】
このような正極活物質層を含む正極を備える全固体二次電池では、正極活物質層中の空隙によって、正極活物質と固体電解質との接触が妨げられ、高温状態で保存したときの正極活物質と固体電解質との副反応が抑制される。その結果、この全固体二次電池では、高温状態で保存したときの正極活物質層中の副反応に伴うイオン伝導度の低下が抑制され、高温保存した後の容量維持率が高いものとなると推定される。
【0013】
本発明者らは、さらに正極活物質層の有する正極活物質の外面と固体電解質との間の空隙の厚みに着目して、検討を重ねた。その結果、上記空隙の平均厚みを0.02μm~0.1μmとすることで、充放電に伴うイオンまたは電子の授受を円滑に行うことができ、かつ放電することによって正極活物質が膨潤した状態となっても、正極活物質と固体電解質との接触を十分に抑制できることが分かった。
【0014】
さらに本発明者は、正極活物質の外面と固体電解質との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙を有する正極活物質層を含む正極を備える全固体二次電池を製造し、高温状態で保存した後の容量維持率が高いものとなることを確認し、本発明を想到した。
【0015】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 粒子状の正極活物質と、固体電解質とを含み、
前記正極活物質の外面と、前記正極活物質の周囲に配置された前記固体電解質との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙を有する、正極活物質層。
【0016】
[2] 前記正極活物質層の厚さ方向中心を通る断面を観察した断面観察像における前記正極活物質の全界面のうち、
前記空隙と接している界面の割合である空隙接触率C1が3%~30%であり、
前記固体電解質と接している界面の割合である固体電解質接触率C2が40%~80%であり、
前記空隙接触率C1と前記固体電解質接触率C2との合計が100%未満である、[1]に記載の正極活物質層。
【0017】
[3] 前記固体電解質が、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む、[1]または[2]に記載の正極活物質層。
AaEbGcXd・・・(1)
(式(1)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO2、BO3、BO4、B3O6、B4O7、CO3、NO3、AlO2、SiO3、SiO4、Si2O7、Si3O9、Si4O11、Si6O18、PO3、PO4、P2O7、P3O10、O、SO、SO2、SO3、SO4、SO5、S2O3、S2O4、S2O5、S2O6、S2O7、S2O8、BF4、PF6、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【0018】
[4] 前記正極活物質が、下記式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなる、[1]~[3]のいずれかに記載の正極活物質層。
LixMOy・・・(2)
(式(2)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
[5] 前記固体電解質が、Li2ZrSO4Cl4を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の正極活物質層。
【0019】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の正極活物質層を含む、正極。
[7] [6]に記載の正極と、負極と、固体電解質層とを備える、全固体二次電池。
【0020】
以下、本実施形態の正極活物質層、正極および全固体二次電池について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[全固体二次電池]
図1は、本発明の全固体二次電池の一例を説明するための断面模式図である。
図1に示す全固体二次電池100は、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に用いられる。
図1に示すように、全固体二次電池100は、積層体4を有する。積層体4は、正極層1(正極)と、負極層2(負極)と、正極層1と負極層2との間に挟持された固体電解質層3とを有する。積層体4に含まれる正極層1および負極層2の層数は、
図1に示すように、それぞれ1層ずつであってもよいし、2層以上であってもよい。
【0022】
図1に示す正極層1は、一端が第1外部端子(不図示)に接続されている。負極層2は、一端が第2外部端子(不図示)と接続されている。第1外部端子および第2外部端子は、導電材料で形成され、それぞれ外部と電気的に接続されている。
図1に示す全固体二次電池100は、正極層1と負極層2との間で、固体電解質層3を介したイオンの授受により充電又は放電する。
【0023】
「正極層」
図1に示すように、正極層1は、正極集電体1Aと、正極活物質層1Bとを有する。正極活物質層1Bは、
図1に示すように、正極集電体1Aの片面にのみ形成されていてもよいし、正極集電体1Aの両面に形成されていてもよい。
【0024】
(正極集電体)
正極集電体1Aは、導電率に優れる。正極集電体1Aは、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属およびそれらの合金からなる。正極集電体1Aは、例えば、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5、Li3V2(PO4)3、LiVOPO4)などの正極活物質を含んでいてもよい。
【0025】
(正極活物質層)
図2(a)は、
図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの一部を拡大して示した断面模式図である。
図2(b)は、
図2(a)の一部を拡大して示した断面模式図である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、正極活物質層1Bは、粒子状の正極活物質10と、固体電解質11とを含む。本実施形態の正極活物質層1Bは、
図2(a)および
図2(b)に示すように、正極活物質10の外面と、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に形成された、空隙15を有する。本実施形態の正極活物質層1Bは、
図2(a)および
図2(b)に示すように、導電助剤12を含んでいてもよい。
【0026】
(正極活物質)
正極活物質10は、イオン(例えば、リチウムイオン)の放出及び吸蔵、イオンの脱離及び挿入を可逆的に進行させる。
正極活物質10は、下記式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物からなるものであることが好ましい。正極活物質層1Bを含む正極層1を備える高容量の全固体二次電池100が得られるためである。
LixMOy・・・(1)
(式(2)において、Mは1種以上の遷移金属である。0.1<x<1.1、1.8<y<2.2)
【0027】
式(2)におけるMは、1種以上の遷移金属である。Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、V、Ti、Al、Nb、Ti、Cu、Crから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、Co、Ni、Mn、Alから選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。正極活物質層1Bを含む正極層1を備える、より高容量の全固体二次電池100が得られるためである。
【0028】
式(2)におけるxは、0.1<x<1.1を満たし、0.2<x<0.6を満たすことが好ましい。正極活物質10を形成している式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物が、安定した結晶構造を有するものとなるためである。
式(2)におけるyは、1.8<y<2.2を満たし、1.9<y<2.1を満たすことが好ましい。正極活物質10を形成している式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物が、安定した結晶構造を有するものとなるためである。
【0029】
式(2)で表されるリチウム遷移金属酸化物としては、具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2(LCO))、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物などが挙げられる。これらのリチウム遷移金属酸化物の中でも、LiCoO2(LCO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NCM)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(NCA)から選ばれるいずれかを含むことが好ましく、LiCoO2(LCO)であることが最も好ましい。正極活物質10がLiCoO2(LCO)、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NCM)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(NCA)から選ばれるいずれかであると、正極活物質層1Bを含む正極層1を備える全固体二次電池100が、高容量であって、なおかつ正極活物質10と固体電解質11との副反応が生じにくく、高温状態で保存した後の容量維持率が、より高いものとなるためである。特に、正極活物質10がLiCoO2(LCO)であると、正極活物質10の外面と固体電解質11との間の少なくとも一部に形成された空隙15によって、正極活物質10と固体電解質11との副反応を抑制することによる効果が顕著となるため、好ましい。
【0030】
正極活物質10は、
図2(a)および
図2(b)に示すように、粒子状である。正極活物質10の平均粒径は、例えば、5μm~30μmであることが好ましく、10μm~20μmであることがより好ましい。正極活物質10の平均粒径が5μm以上であると、後述する初回充電を行う方法を用いて容易に空隙15を形成できるため、好ましい。また、正極活物質10の平均粒径が30μm以下であると、放電することによって正極活物質10が膨潤しても、正極活物質10の外面と固体電解質11との間に形成された平均厚み0.02μm~0.1μmの空隙15によって、正極活物質10と固体電解質11との接触を効果的に抑制できるため、好ましい。
【0031】
正極活物質層1Bに含まれる正極活物質10は、1種のみであってもよいし、材料の異なる2種以上のものを含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態の正極活物質層1Bの有する空隙15は、
図2(b)に示すように、正極活物質10の外面と、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に形成されている。正極活物質層1Bの有する空隙15の平均厚みは、0.02μm~0.1μmであり、0.05μm~0.07μmであることが好ましい。空隙15の平均厚みが0.02μm以上であると、極活物質10の外面と固体電解質11との間の空隙15によって、正極活物質10と固体電解質11との接触を十分に抑制できる。したがって、高温状態で保存した後の容量維持率が高い全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。また、空隙15の平均厚みが0.1μm以下であると、空隙15によって充放電に伴うイオンまたは電子の授受が妨げられにくいものとなり、高容量の全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。また、空隙15の平均厚みが0.1μm以下であると、後述する初回充電を行う方法を用いて容易に空隙15を形成できるため、好ましい。
【0033】
本実施形態においては、正極活物質層1Bの厚さ方向中心を通る断面を観察した断面観察像における正極活物質10の全界面のうち、空隙15と接している界面の割合である空隙接触率C1が3%~30%であり、固体電解質11と接している界面の割合である固体電解質接触率C2が40%~80%であり、空隙接触率C1と固体電解質接触率C2との合計が100%未満(C1+C2<100(%))であることが好ましい。
【0034】
空隙接触率C1が3%以上であって固体電解質接触率C2が80%以下であると、空隙15によって、正極活物質10と固体電解質11との接触をより効果的に抑制でき、正極活物質10と固体電解質11との副反応をより効果的に抑制できる。したがって、高温状態で保存した後の容量維持率がより高い全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。この観点から、空隙接触率C1は10%以上であることがより好ましく、固体電解質接触率C2は75%以下であることがより好ましい。
【0035】
また、空隙接触率C1が30%以下であって固体電解質接触率C2が40%以上であると、空隙15によって充放電に伴うイオンまたは電子の授受が妨げられにくく、より高容量の全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。この観点から、空隙接触率C1は20%以下であることがより好ましく、固体電解質接触率C2は55%以上であることがより好ましい。
【0036】
また、空隙接触率C1と固体電解質接触率C2との合計が100%未満である場合、正極活物質層1B内には、正極活物質10の外面と導電助剤12とが接触している領域、および/または正極活物質10の外面同士が接触している領域が含まれている。このため、後述する初回充電を行う方法を用いて空隙15を形成することにより、容易に製造でき、好ましい。また、正極活物質10の外面と導電助剤12とが接触している領域を有することにより、正極活物質層1B内における充放電に伴うイオンまたは電子の授受が、より円滑に行われる正極層1を形成できるものとなる。その結果、正極活物質層1Bを含む正極層1を備えることによって、より高容量の全固体二次電池100が得られる。空隙接触率C1と固体電解質接触率C2との合計は、より容易に製造でき、より高容量の全固体二次電池100が得られる正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなるため、90%以下であることがより好ましい。
【0037】
[測定方法]
本実施形態における「正極活物質10の平均粒径」「空隙15の平均厚み」「空隙接触率C1」「固体電解質接触率C2」は、それぞれ正極活物質層1Bの厚さ方向中心を通る断面(水平断面)を観察した断面観察像(断面画像)を用いて求めることができる。上記の各項目の数値を求めるために使用する断面観察像の数は、1つであってもよいし複数であってもよい。複数の断面観察像を用いる場合、例えば、正極活物質層1Bの厚さ方向中心を通る断面(水平断面)において、平面視で中心部と、中心部からの距離が略同じであって縁部に沿って略等間隔で離間して配置された4カ所の部分とから得た合計5カ所の断面観察像を用いることができる。
【0038】
上記断面観察像は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:SU3800、日立ハイテク社製)を用いて得ることができる。上記断面観察像において、正極活物質10と、固体電解質11と、導電助剤12および空隙15とは、例えば、画像解析ソフト(imageJ)を用いて8bit(256階調)の白黒像とすることにより色分けできる。具体的には、上記断面観察像における色の薄い領域(白っぽい灰色領域(グレースケールの平均明度193~207))が正極活物質10であり、正極活物質10よりも色の少し濃い領域(黒っぽい灰色領域(グレースケールの平均明度210~229))が固体電解質11であり、黒色に近い領域(黒色領域(グレースケールの平均明度230~250))が導電助剤12および空隙15である。
【0039】
また、上記断面観察像における導電助剤12と空隙15とは、エネルギー分散型X線分光法(EDS)(商品名:SU3800、日立ハイテク社製)を用いて元素マッピング分析を行う方法により区別できる。具体的には、例えば、導電助剤12として黒鉛を用いた場合、炭素の元素マッピング分析を行うことにより区別できる。すなわち、上記白黒像の黒色に近い領域のうち、炭素が含まれる領域が導電助剤12であり、炭素が含まれない領域が空隙である。
【0040】
「正極活物質10の平均粒径」
正極活物質10の平均粒径は、以下に示す方法により求められる。上記断面観察像を、画像解析ソフト(imageJ)を用いて白黒像とすることにより色分けし、さらにimageJを用いて、正極活物質10を10個抽出して各正極活物質10の面積から円相当径を算出し、その平均を算出する。
【0041】
「空隙15の平均厚み」
空隙15の平均厚みは、以下に示す方法により求められる。上記断面観察像を、画像解析ソフト(imageJ)を用いて色分けし、さらにimageJを用いて、正極活物質10を10個抽出する。また、上記断面観察像を、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて元素マッピング分析し、抽出した10個の正極活物質10の外面それぞれについて、固体電解質11との間の導電助剤12でない領域を空隙15として抽出する。そして各空隙15について、正極活物質10の外面との接線と直交する最大寸法を測定し、その平均を算出する。
【0042】
「空隙接触率C1」
空隙接触率Cは、以下に示す方法により求められる。空隙15の平均厚みを算出する場合と同様にして抽出した10個の正極活物質10について、空隙15の平均厚みを算出する場合と同様にして空隙15を抽出し、正極活物質10の全界面の長さのうち、空隙15と接している界面の長さの割合を、以下に示す式を用いてそれぞれ算出し、その平均値を算出する。
空隙接触率C1(%)=(正極活物質10の全界面のうち空隙15と接している界面の長さ./正極活物質10の全界面の長さ)×100
【0043】
「固体電解質接触率C2」
固体電解質接触率C2は、以下に示す方法により求められる。上記断面観察像を、画像解析ソフト(imageJ)を用いて色分けし、さらにimageJを用いて、正極活物質10を10個抽出する。抽出した10個の正極活物質10について、正極活物質10の全界面の長さのうち、固体電解質11と接している界面の長さの割合を、以下に示す式を用いてそれぞれ算出し、その平均値を算出する。
固体電解質接触率C2(%)=(正極活物質10の全界面のうち固体電解質11と接している界面の長さ./正極活物質10の全界面の長さ)×100
【0044】
本実施形態の正極活物質層1Bは、正極活物質層1B中の一部の正極活物質10の外面と、その正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に空隙15が形成されていればよい。本実施形態の正極活物質層1Bは、後述する初回充電を行う方法を用いて容易に空隙15を形成でき、かつ、高温状態で保存した後の容量維持率が高い全固体二次電池の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなるため、全ての正極活物質10の外面と固体電解質11との間の少なくとも一部に空隙15が形成されていることが好ましい。
【0045】
(固体電解質)
正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、正極活物質層1B内のイオン伝導度を良好にする。
正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましい。正極活物質層1B内のイオン伝導度が良好になるため、正極活物質層1Bを含む正極層1を備える、より高容量の全固体二次電池100が得られるためである。また、固体電解質11がハライド系固体電解質を含む場合、正極活物質10と固体電解質11との副反応が生じやすく、副反応に伴うイオン伝導度の低下も生じやすい。したがって、固体電解質11がハライド系固体電解質を含む場合、正極活物質層1B中の空隙15によって、正極活物質10と固体電解質11との副反応を抑制することによる、全固体二次電池100を高温保存した後の容量低下を抑制する効果が顕著となる。
【0046】
また、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質は、電気陰性度の大きいハロゲンを含むため、原子間の結合力が強く、形状が変化しにくい。このため、固体電解質11が下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む場合、例えば、正極活物質層1Bが加圧された状態で使用されたとしても、空隙15の形状が維持されやすい。したがって、高温状態で保存した後の容量維持率が、より高い全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。また、固体電解質11が、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む場合、固体電解質11の形状が変化しにくいため、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11が、充電に伴う正極活物質10の収縮に追従しにくく、後述する初回充電を行う方法を用いて容易に空隙15を形成でき、好ましい。
【0047】
AaEbGcXd・・・(1)
(式(1)において、AはLiとCsから選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO2、BO3、BO4、B3O6、B4O7、CO3、NO3、AlO2、SiO3、SiO4、Si2O7、Si3O9、Si4O11、Si6O18、PO3、PO4、P2O7、P3O10、O、SO、SO2、SO3、SO4、SO5、S2O3、S2O4、S2O5、S2O6、S2O7、S2O8、BF4、PF6、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはF、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1)
【0048】
式(1)におけるAは、必須の成分であり、LiとCsから選択される少なくとも1種の元素であり、Li、またはLiとCsの両方であることが好ましく、Liであることがより好ましい。
【0049】
式(1)におけるaは、0.5≦a<6を満たし、好ましくは2.0≦a≦4.0を満たし、より好ましくは2.5≦a≦3.5を満たす。aが0.5≦a<6であると、式(1)で表されるハライド系固体電解質中に含まれるAの含有量が適正となり、固体電解質11のイオン伝導度が十分に高いものとなる。
【0050】
式(1)におけるEは、固体電解質11のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(1)におけるEは、Al、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。Eは、Al、Sc、Y、Zr、Hf、Laからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましく、Alおよび/またはZrを含むことがより好ましく、Zrであることが最も好ましい。
【0051】
式(1)におけるbは0<b<2である。bは、Eを含むことによる固体電解質11のイオン電導度を向上させる効果がより顕著となるため、0.6≦b≦1であることが好ましい。
【0052】
式(1)におけるGは、OH、BO2、BO3、BO4、B3O6、B4O7、CO3、NO3、AlO2、SiO3、SiO4、Si2O7、Si3O9、Si4O11、Si6O18、PO3、PO4、P2O7、P3O10、O、SO、SO2、SO3、SO4、SO5、S2O3、S2O4、S2O5、S2O6、S2O7、S2O8、BF4、PF6、BOBからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Gは、O、SO、SO2、SO3、SO4からなる群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましく、特に、Oおよび/またはSO4であることが好ましい。
【0053】
式(1)におけるcは0≦c≦6を満たす。式(1)で表されるハライド系固体電解質がGを含む(0<c)ものであると、固体電解質11の還元側の電位窓が広くなり、還元されにくくなる。cは、Gを含むことによる還元側の電位窓が広くなる効果がより顕著となるため、0.5≦cであることが好ましい。cは、Gの含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、c≦3であることが好ましい。
【0054】
式(1)におけるXは、固体電解質11のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(1)におけるXは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種であり、正極活物質層1Bが式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことによる効果が顕著となるため、Brおよび/またはClを含むことが好ましい。
【0055】
式(1)におけるdは、0<d≦6.1を満たす。dは1≦dであることが好ましい。dが1≦dであると、固体電解質11のイオン伝導度がより高くなる。また、dは、Xの含有量が多すぎることによって、固体電解質11の電位窓が狭くならないように、d≦5であることが好ましい。
【0056】
式(1)で表されるハライド系固体電解質は、具体的には例えば、Li2ZrSO4Cl4(LZSOC)、Li2ZrOCl4(LZOC)、Li2ZrCl6(LZC)、Li2ZrBr6(LZBr)、Li2ZrBO2Cl5、Li2ZrBF4Cl5、Li3YSO4Cl4、Li3YCO3Cl4、Li3YBO2Cl5、Li3YBF4Cl5などが挙げられる。これらのハライド系固体電解質の中でも、Li2ZrSO4Cl4(LZSOC)、Li2ZrOCl4(LZOC)、Li2ZrCl6(LZC)、Li2ZrBr6(LZBr)から選ばれるいずれかであることが好ましく、Li2ZrSO4Cl4(LZSOC)であることが最も好ましい。ハライド系固体電解質が、Li2ZrSO4Cl4(LZSOC)、Li2ZrOCl4(LZOC)、Li2ZrCl6(LZC)、Li2ZrBr6(LZBr)から選ばれるいずれかであると、高温状態で保存した後の容量維持率がより高い全固体二次電池100を形成できる正極活物質層1Bとなる。
【0057】
本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、1種のみであってもよいし、組成の異なる2種以上の固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質11が組成の異なる2種以上の固体電解質を含む場合、全て式(1)で表されるハライド系固体電解質であってもよいし、式(1)で表されるハライド系固体電解質とともに、公知の全固体二次電池に用いられている固体電解質を含んでいてもよい。
本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11は、後述する固体電解質層3に含まれる固体電解質と同じものであってもよい。
【0058】
(導電助剤)
導電助剤12は、正極活物質層1B内の電子伝導性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。導電助剤12は、粉体、繊維の各形態であっても良い。導電助剤12としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料、金、白金、銀、パラジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属、ITO(酸化インジウムスズ)などの伝導性酸化物、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0059】
これらの中でも導電助剤12は、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素系材料であることが好ましい。導電助剤12が、黒鉛、カーボンナノチューブ等の炭素系材料である場合、後述する初回充電を行う方法を用いて空隙15を形成する際に、充電に伴う正極活物質10の収縮に容易に追従して導電助剤12が移動する。その結果、導電助剤12が含まれている正極活物質層1B中に、粗大な空隙15が形成されにくく、所定の平均厚みを有する空隙15が形成されやすいためである。
【0060】
正極活物質層1B中に導電助剤12が十分に含まれている場合、空隙接触率C1と固体電解質接触率C2との合計が100%未満となりやすく、正極活物質層1B内の電子伝導性が良好になる。
【0061】
「負極層」
図1に示すように、負極層2は、負極集電体2Aと、負極活物質層2Bとを有する。負極活物質層2Bは、
図1に示すように、負極集電体2Aの片面にのみ形成されていてもよいし、負極集電体2Aの両面に形成されていてもよい。
【0062】
(負極集電体)
負極集電体2Aは、正極集電体1Aと同様である。
(負極活物質層)
負極活物質層2Bは、負極活物質を含む。負極活物質層2Bは、導電助剤、固体電解質を含んでもよい。
【0063】
(負極活物質)
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物である。負極活物質は、正極活物質より卑な電位を示す化合物である。負極活物質としては、公知のものを用いることができ、正極活物質と同様の材料を用いてもよい。負極活物質の電位と正極活物質の電位とを考慮して、全固体二次電池100に用いる負極活物質及び正極活物質が決定される。
【0064】
(導電助剤)
導電助剤は、負極活物質層2Bの電子伝導性を良好にする。導電助剤としては、正極活物質層1Bに用いることができる材料と、同様の材料を用いることができる。
【0065】
(固体電解質)
負極活物質層2Bに含まれる固体電解質は、負極活物質層2B内のイオン伝導度を良好にする。固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられる。固体電解質として、上述した正極活物質層1Bに使用した固体電解質11と同様のものを用いてもよい。
【0066】
「固体電解質層」
固体電解質層3は、外部から印加された電場によって、イオンを移動させることができる。固体電解質層3を形成している固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられる。固体電解質層3は、正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11と同様に、式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましく、Li2ZrSO4Cl4を含むことが好ましい。
【0067】
後述する初回充電を行う方法を用いて空隙15を形成する場合、固体電解質層3と正極活物質層1Bとなる層の界面において、固体電解質層3と正極活物質層1Bとなる層に含まれる正極活物質10の外面との間にも空隙15が形成される。その結果、高温状態で保存した後の容量維持率がより高い全固体二次電池100を形成できる正極層1となる。
【0068】
(外装体)
本実施形態の全固体二次電池100では、正極層1と固体電解質層3と負極層2とを有する積層体4は、外装体(不図示)に収納され、密封されていることが好ましい。外装体は、外部から内部への水分などの侵入を抑止できるものであればよく、公知のものを用いることができ、特に限定されない。
例えば、外装体として、金属箔の両面を高分子フィルムでコーティングしてなる金属ラミネートフィルムを、袋状に形成したものを用いることができる。このような外装体は、開口部をヒートシールすることにより密閉される。
【0069】
金属ラミネートフィルムを形成している金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔などを用いることができる。外装体の外側に配置される高分子フィルムとしては、融点の高い高分子を用いることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドなどを用いることができる。外装体の内側に配置される高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0070】
[全固体二次電池の製造方法]
次に、本実施形態の全固体二次電池100の製造方法について説明する。
本実施形態の全固体二次電池100は、例えば、粉末成形法を用いて製造できる。
まず、中央に貫通穴を有する樹脂ホルダーと、下パンチと、上パンチとを用意する。
また、正極活物質層1Bの材料である粉末状の正極合剤と、負極活物質層2Bの材料である粉末状の負極合剤と、固体電解質層3の材料である粉末状の固体電解質とをそれぞれ用意する。
【0071】
本実施形態では、正極合剤として、正極活物質10の組成と対応する正極活物質の粉末(粒子)と、固体電解質11の組成と対応する固体電解質の粉末と、必要に応じて含有される導電助剤の粉末との混合粉末を用意する。
【0072】
そして、樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から粉末状の材料である、正極合剤と、固体電解質と、負極合剤とをこの順に投入する。次いで、投入した粉末状の材料の上に上パンチを挿入し、プレス機に載置してプレスする。プレスの圧力は、例えば20kPaとする。
樹脂ホルダーに投入した粉末状の材料は、樹脂ホルダー内で上パンチと下パンチとによってプレスされる。このことにより、正極活物質層1Bと固体電解質層3と負極活物質層2Bとが積層した成形体となる。
【0073】
次いで、公知の方法により、成形体の正極活物質層1Bの上に、正極集電体1Aを設置し、負極活物質層2Bの下に負極集電体2Aを設置する。上記手順を経て、正極集電体1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体2Aが順に積層された積層体4が得られる。
【0074】
次に、積層体4を形成している正極層1の正極集電体1Aおよび負極層2の負極集電体2Aに、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体1Aまたは負極集電体2Aと外部端子とを電気的に接続する。その後、外部端子と接続された積層体4を外装体に収納する。そして、外装体の開口部をヒートシールすることにより密封し、全固体二次電池構造とする。
【0075】
次に、本実施形態では、このようにして形成した全固体二次電池構造に対して、圧力を加えた状態で初回の充電を開始し、徐々に圧力を低くしながら満充電まで充電を行い、充電終了後に圧力を常圧とする。このことにより、
図2(a)および
図2(b)に示すように、正極活物質10の外面と、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に形成された空隙15を有する正極活物質層1Bが形成される。
【0076】
具体的には、初回の充電時に全固体二次電池構造に加える圧力は、充電開始時が高圧力、充電中盤が中圧力、充電終盤が低圧力となるように、段階的に低くしてもよいし、連続的に低くしてもよい。初回の充電時に全固体二次電池構造に加える圧力を、段階的に低くしていく場合、3段階以上の段階に分けて徐々に低くすればよく、段階の数は特に限定されない。
【0077】
本実施形態では、初回の充電時に全固体二次電池構造に加える圧力を、第1段階から第3段階の3つの段階に分けて徐々に低くしていく場合を例に挙げて、図面を参照して説明する。
図3は、
図1に示す全固体二次電池100の正極活物質層1Bの製造工程を説明するための図面である。
図3(a)は、初回の充電を開始する前における正極活物質10aと、その周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12の状態を示した図面である。
図3(b)は、第1段階を経て第2段階を開始した時点における正極活物質10bと、その周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12の状態を示した図面である。
【0078】
本実施形態では、まず、全固体二次電池構造をプレス機に設置して、厚み方向(上下方向)に第1圧力範囲の圧力を加えた状態で、初回の充電を開始する。そして、第1圧力範囲の圧力を加えた状態で、理論容量の30%となるまで充電する(第1段階)。続いて、本実施形態では、圧力を第1圧力範囲よりも低い第2圧力範囲にして、理論容量の30%超~70%となるまで充電する(第2段階)。次いで、本実施形態では、圧力を第2圧力範囲よりも低い第3圧力範囲にして満充電となるまで充電を行う(第3段階)。そして、充電終了後に圧力を常圧とする。
【0079】
初回の充電を開始する前における正極活物質10aは、最もイオン(例えば、リチウムイオン)を多く含む膨張した状態である。
図3(a)に示すように、初回の充電を開始する前の正極活物質10aと、その周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12とは、全固体二次電池構造に加えられる第1圧力範囲の圧力によって、隙間なく接し、密着している。初回の充電を開始(第1段階を開始)すると、正極活物質10aはイオンを放出し、徐々に収縮する。
【0080】
その結果、第1段階を経て第2段階を開始した時点における正極活物質10bは、
図3(b)に示すように、初回の充電を開始する前の正極活物質10aよりも体積が小さい状態とされている。
図3(b)における点線は、初回の充電を開始する前の正極活物質10aの外面形状を示す。一方、正極活物質10bの周囲に配置された固体電解質11および導電助剤12は、充電によって収縮しない。
【0081】
ここで、固体電解質11は、充電によって収縮せず、形状が変化しにくいものである。このため、第1段階において収縮する正極活物質10aに追従して移動しにくく、
図3(b)に示すように、第2段階を開始した時点においても、初回の充電を開始する前の位置に留まろうとする傾向がある。このことから、第1段階を経て第2段階を開始した時点における正極活物質10bと、その周囲に配置された固体電解質11との間には、空隙15が形成されている。特に、固体電解質11が、式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む場合、固体電解質11の形状が変化しにくいため、十分な体積を有する空隙15が形成されやすく、好ましい。
【0082】
また、導電助剤12は、固体電解質11と比較して形状が変化しやすい。このため、第1段階での正極活物質10aの収縮と、第1段階で全固体二次電池構造に加えられている第1圧力範囲の圧力とによって、容易に形状が変化し、収縮する正極活物質10aに追従して移動する。その結果、
図3(b)に示すように、第2段階を開始した時点における正極活物質10bと、その周囲に配置された導電助剤12とは、初回の充電を開始する前と同様に、隙間なく密着した状態となりやすい。
【0083】
本実施形態では、第1段階における第1圧力範囲を制御することにより、空隙接触率C1を制御する。第1段階における第1圧力範囲は、例えば、110kN/cm2~130kN/cm2とすることができ、125kN/cm2~130kN/cm2であることが好ましい。
【0084】
第1段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が110kN/cm2以上であると、初回の充電を開始する前に正極活物質10aと密着した状態とされていた固体電解質11が、全固体二次電池構造に加えられた圧力によって、収縮する正極活物質10aに追従して導電助剤12とともに適度に移動する。したがって、第2段階を開始する前に、正極活物質10aと、その周囲に配置された固体電解質11との間に形成される空間15が過剰に大きくなることがない。このため、初回充電終了後に空隙接触率C1が30%以下である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0085】
また、第1段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が130kN/cm2以下であると、全固体二次電池構造に加えられた圧力が過剰であることによって、全固体二次電池構造の有する積層体4に割れが生じることを防止できる。また、上記圧力が130kN/cm2以下であると、正極活物質10bの周囲に配置された固体電解質11が、収縮する正極活物質10aに追従して移動することが適度に抑制される。よって、第2段階を開始する前に、正極活物質10aと、その周囲に配置された固体電解質11との間に、十分な体積を有する空間15が形成される。このため、初回充電終了後に、空隙接触率C1が3%以上である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0086】
第1段階を経て第2段階を開始すると、正極活物質10bがさらに収縮し、体積が小さくなる。しかし、第2段階において全固体二次電池構造に加えられる第2圧力範囲の圧力は、第1圧力範囲よりも低い。このため、収縮する正極活物質10bに追従する固体電解質11の移動は、第1段階よりも生じにくくなる。よって、第1段階を経て形成された空隙15は、第2段階において消滅することなく維持される。一方、導電助剤12は、形状が変化しやすいものであるため、第1段階と同様に、正極活物質10bの収縮と、全固体二次電池構造に加えられている第2圧力範囲の圧力とによって、収縮する正極活物質10bに追従して移動する。
【0087】
本実施形態では、第2段階における第2圧力範囲を制御することにより、固体電解質接触率C2を制御する。第2段階における第2圧力範囲は、例えば、50kN/cm2~70kN/cm2とすることができ、65kN/cm2~70kN/cm2であることが好ましい。
【0088】
第2段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が50kN/cm2以上であると、第1段階を経ても正極活物質10aに接触または近接して配置されている固体電解質11が、収縮していく正極活物質10aの形状変化に追従して導電助剤12とともに適度に移動しやすくなる。このため、初回充電終了後に、固体電解質接触率C2が40%以上である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0089】
また、第2段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が70kN/cm2以下であると、第1段階を経ても正極活物質10aに接触または近接して配置されている固体電解質11が、収縮していく正極活物質10aの形状変化に追従して過剰に移動することが抑制される。このため、初回充電終了後に、固体電解質接触率C2が80%以下である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0090】
第1段階および第2段階を経て、第3段階を開始すると、正極活物質10bはさらに収縮して、体積が小さくなる。しかし、第3段階において全固体二次電池構造に加えられる第3圧力範囲の圧力は、第3圧力範囲よりも低い。このため、収縮する正極活物質10bに追従する固体電解質11の移動は、第1段階および第2段階よりも生じにくくなる。よって、第1段階および第2段階を経て形成された空隙15は、第3段階において消滅することなく維持される。一方、導電助剤12は、形状が変化しやすいものであるため、第1段階および第2段階と同様に、正極活物質10bの収縮と、全固体二次電池構造に加えられている圧力とによって、収縮する正極活物質10bに追従して移動する。
【0091】
本実施形態では、第3段階における第3圧力範囲を制御することにより、空隙15の平均厚みを制御する。第3段階における第3圧力範囲は、例えば、5kN/cm2~10kN/cm2とすることができ、8kN/cm2~10kN/cm2であることが好ましい。
【0092】
第3段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が5kN/cm2以上であると、第1段階および第2段階を経ても、正極活物質10aに接触または近接して配置されている固体電解質11が、収縮していく正極活物質10aの形状変化に追従して導電助剤12とともに適度に移動しやすくなる。このため、空隙15の平均厚みが0.1μm以下である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0093】
また、第3段階において、全固体二次電池構造に加える圧力が10kN/cm2以下であると、第1段階および第2段階を経ても、正極活物質10aに接触または近接して配置されている固体電解質11が、収縮していく正極活物質10aの形状変化に追従して過剰に移動することが抑制される。このため、空隙15の平均厚みが0.02μ以上である正極活物質層1Bが得られやすくなる。
【0094】
なお、従来、全固体二次電池構造に対する初回の充電は、一般に、全固体二次電池中に空隙が生じないように、充電を開始してから終了するまで、一定の圧力を加えた状態で行われていた。すなわち、従来の製造方法では、全固体二次電池構造に対して、圧力を加えた状態で初回の充電を開始し、徐々に圧力を低くしながら満充電まで充電を行う操作は行われていなかった。
【0095】
全固体二次電池構造に対する初回の充電における電流電圧などの圧力以外の条件は、公知の条件とすることができ、製造する全固体二次電池100の用途などに応じて適宜決定できる。
【0096】
全固体二次電池構造に対する初回の充放電としては、具体的には、以下に示す方法を用いることができる。
全固体二次電池構造に対し、0.01C~2.00Cで電池電圧が2.75V~2.85Vになるまで定電流充電を行う。次いで、その電池電圧で定電圧充電を0.5時間~8.0時間(満充電になるまで)行う。その後、0.05Cにて電池電圧が1.3Vになるまで定電流放電を行う。
【0097】
以上の工程を経ることによって、
図2(a)および
図2(b)に示す正極活物質層1Bを含む正極層1を備える本実施形態の全固体二次電池100を製造できる。
【0098】
本実施形態の正極活物質層1Bは、粒子状の正極活物質10と、固体電解質11とを含み、正極活物質10の外面と、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11との間の少なくとも一部に形成された、平均厚みが0.02μm~0.1μmの空隙15を有する。このため、本実施形態の正極活物質層1Bを備える正極層1を有する全固体二次電池100は、高温状態で保存したときの正極活物質10と固体電解質11との副反応に伴うイオン伝導度の低下が抑制され、例えば、60℃以上の高温状態で保存した後の容量維持率が高いものとなる。本実施形態の全固体二次電池100は、例えば、80℃以上または85℃以上の高温で保存した場合であっても、高温保存後の容量維持率が高いものとなる。
【0099】
さらに、本実施形態の正極活物質層1Bに含まれる固体電解質11が式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む場合、正極活物質層1Bが加圧された状態で使用されたとしても、正極活物質10の周囲に配置された固体電解質11の形状が変化しにくく、空隙15の形状が維持されやすい。したがって、高温状態で保存した後の容量維持率が、より高い全固体二次電池100の正極層1を形成できる正極活物質層1Bとなる。
【0100】
本実施形態において、全固体二次電池100を60℃以上の高温状態で保存する場合としては、例えば、本実施形態の全固体二次電池100が搭載されている電子機器を、炎天下の自動車などの車内で保存する場合、空調を使用せずに室内環境下で保存する場合などが想定される。
【0101】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0102】
「実施例1」
(正極合剤の作製)
正極合剤として、表1に示す正極活物質の粉末(粒子)と、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを用意し、それぞれ50質量%:40質量%:10質量%(リチウム遷移金属酸化物:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、混合した。
【0103】
(負極合剤の作製)
負極合剤として、負極活物質であるチタン酸リチウムの粉末と、表1に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを用意し、それぞれ40質量%:50質量%:10質量%(負極活物質:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、混合した。
【0104】
(成形体の作製)
中央に直径12mmの貫通穴を有する樹脂ホルダーと、SKD11材製の直径11.99mmの下パンチおよび上パンチを用意した。樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から粉末状の材料である、正極合剤と、固体電解質であるLi2ZrSO4Cl4(LZSOC)と、負極合剤とをこの順に投入した。
【0105】
次いで、投入した粉末状の材料の上に上パンチを挿入し、上パンチと粉末状の材料を収容する樹脂ホルダーと下パンチとを有するユニットを、プレス機に静置し、圧力20kPaでプレスし、成形体を作製した。
次いで、正極活物質の上に、アルミニウム箔からなる直径12mm、厚さ15μmの正極集電体を設置した。また、負極活物質層の下に、銅箔からなる直径12mm、厚さ9μmの負極集電体を設置した。上記手順を経て、正極集電体1A/正極活物質層1B/固体電解質層3/負極活物質層2B/負極集電体2Aが順に積層された積層体4を得た。
【0106】
次に、積層体4を形成している正極層1の正極集電体1Aおよび負極層2の負極集電体2Aに、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体1Aまたは負極集電体2Aと外部端子とを電気的に接続した。その後、外部端子と接続された積層体4を、アルミニウムラミネート材からなる外装体に収納した。そして、外装体の開口部をヒートシールすることにより密封し、全固体二次電池構造とした。
【0107】
次に、このようにして形成した全固体二次電池構造に対して、以下に示す方法により、初回の充電を行った。
全固体二次電池構造をプレス機に設置して、厚み方向(上下方向)に125kN/cm2の圧力を加えた状態で、初回の充電を開始した。そして、上記の圧力を加えた状態で、充放電機SD8(北斗電工株式会社製)を用いて、0.05Cで理論容量の30%となるまで充電した(第1段階)。続いて、圧力を65kN/cm2として、0.05Cで理論容量の70%となるまで充電した(第2段階)。次いで、圧力を10kN/cm2として、0.05Cで満充電となるまで充電を行った(第3段階)。充電終了後、圧力を常圧とした。
以上の工程を経ることによって、実施例1の全固体二次電池100を得た。
【0108】
「実施例2~実施例4」
初回充電時の第3段階の圧力を、実施例2は8kN/cm2、実施例3は7kN/cm2、実施例4は5kN/cm2としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例4の全固体二次電池100を得た。
【0109】
「実施例5~実施例8」
初回充電時の第1段階の圧力を、実施例5は130kN/cm2、実施例6は125kN/cm2、実施例7は120kN/cm2、実施例8は110kN/cm2としたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例5~実施例8の全固体二次電池100を得た。
【0110】
「実施例9~実施例13」
初回充電時の第2段階の圧力を、実施例9は50kN/cm2、実施例10は57kN/cm2、実施例11は62kN/cm2、実施例12は67kN/cm2、実施例13は70kN/cm2としたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例9~実施例13の全固体二次電池100を得た。
【0111】
「実施例14~実施例16」
表2に示す固体電解質の粉末を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例14~実施例16の全固体二次電池100を得た。
「実施例17、実施例18」
表2に示す正極活物質の粉末(粒子)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例17、実施例18の全固体二次電池100を得た。
【0112】
「実施例19、実施例20」
表2に示す固体電解質の粉末(粒子)を用い、初回充電時の第3段階の圧力を、実施例19は8kN/cm2、実施例20は5kN/cm2としたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例19、実施例20の全固体二次電池100を得た。
【0113】
「実施例21、実施例25、実施例26」
初回充電時の第1段階の圧力を、実施例21は120kN/cm2、実施例25は150kN/cm2、実施例26は100kN/cm2としたこと以外は、実施例19と同様にして、実施例21、実施例25、実施例26の全固体二次電池100を得た。
「実施例22、実施例27、実施例28」
初回充電時の第2段階の圧力を、実施例22は57kN/cm2、実施例27は48kN/cm2、実施例28は73kN/cm2としたこと以外は、実施例19と同様にして、実施例22、実施例27、実施例28の全固体二次電池100を得た。
【0114】
「実施例23、実施例24」
表2に示す正極活物質の粉末(粒子)を用いたこと以外は、実施例19と同様にして、実施例23、実施例24の全固体二次電池100を得た。
【0115】
「実施例29、実施例30」
初回充電時の第2段階の圧力を、実施例29は48kN/cm2、実施例30は73kN/cm2としたこと以外は、実施例25と同様にして、実施例29、実施例30の全固体二次電池100を得た。
「実施例31」
初回充電時の第2段階の圧力を、実施例31は48kN/cm2としたこと以外は、実施例26と同様にして、実施例31の全固体二次電池100を得た。
【0116】
「比較例1」
(正極合剤の作製)
正極合剤として、表3に示す正極活物質の粉末(粒子)と、表3に示す固体電解質の粉末と、導電助剤である黒鉛の粉末とを用意した。そして、正極活物質の粉末(粒子)と固体電解質の粉末とを、それぞれ50質量%:40質量%(リチウム遷移金属酸化物:固体電解質)となるように秤量し、混合した。得られた混合物と導電助剤である黒鉛の粉末とを、それぞれ90質量%:10質量%(混合物:導電助剤)となるように秤量し、混合した。
このようにして得られた正極合剤を用いたことと、初回充電時に全固体二次電池構造に加える圧力を、第1段階から第3段階まで50kN/cm2で一定としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の全固体二次電池100を得た。
【0117】
「比較例2」
表1に示す固体電解質の粉末を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2の全固体二次電池100を得た。
【0118】
このようにして得られた実施例1~実施例31、比較例1、比較例2の全固体二次電池について、それぞれ製造に使用した固体電解質および正極活物質を表1~表3に示す。
また、実施例1~実施例31、比較例1、比較例2の全固体二次電池について、それぞれ上述した方法を用いて、正極活物質層1Bの厚さ方向中心を通る断面(水平断面)を観察した断面観察像(断面画像)を用いて空隙位置を確認し、「正極活物質10の平均粒径」「空隙15の平均厚み」「空隙接触率C1」「固体電解質接触率C2」を求めた。その結果を表1~表3に示す。
【0119】
比較例1、比較例2の全固体二次電池において、それぞれ上述した方法を用いて、正極活物質層1Bの厚さ方向中心を通る断面(水平断面)を観察した断面観察像(断面画像)を用いて空隙位置を確認した。その結果、正極活物質層1Bの正極活物質と固体電解質との間に空隙は形成されていなかった。一方、比較例1および比較例2の正極活物質層1Bには、正極活物質と導電助剤との間に多くの空隙が形成されていた。
これは、比較例1および比較例2では、正極活物質と固体電解質との混合物と、導電助剤とを混合して得た正極合剤を用いたためであると推定される。具体的には、比較例1および比較例2では、初回の充電によって収縮していく正極活物質の周囲に、固体電解質が多く存在しているため、固体電解質によって導電助剤の移動が妨げられて、微細な空隙が形成されたものと推定される。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
表1~表3に示すリチウム遷移金属酸化物は、以下に示すものである。
(LCO);LiCoO2
(NCM);LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2
(NCA);LiNi0.85Co0.10Al0.05O2
【0124】
表1~表3に示す固体電解質は、以下に示すものである。
(LZSOC);Li2ZrSO4Cl4
(LZOC);Li2ZrOCl4
(LZC);Li2ZrCl6
(LZBr);Li2ZrBr6
(LGPS);Li10GeP2S12
【0125】
実施例1~実施例31、比較例1、比較例2の全固体二次電池について、それぞれ以下に示す方法を用いて高温保存後の容量維持率を測定した。その結果を表1~表3に示す。
[高温保存後の容量維持率]
二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の温度条件下で充電レート0.1C(25℃で定電流充電を行ったときに10時間で充電終了となる電流値)の定電流充電を行い、電池電圧が2.8Vとなるまで充電を行った。次いで、電池電圧2.8Vの定電圧充電を電流値が0.01C相当の値になるまで(満充電となるまで)行った。その後、放電レート0.1Cの定電流放電を電池電圧が1.3Vになるまで行い、高温保存前の放電容量Aを求めた。
【0126】
その後、再び、25℃の温度条件下で充電レート0.1Cの定電流充電を行って、電池電圧が2.8Vとなるまで充電を行い、さらに、電池電圧2.8Vの定電圧充電を電流値が0.01C相当の値になるまで(満充電となるまで)行った。
そして、二次電池充放電試験装置から全固体二次電池を取り外し、開回路状態で60℃に設定された恒温槽内に入れて、1か月間静置した。
次いで、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて、25℃の温度条件下で放電レート0.1Cの定電流放電を電池電圧が1.3Vとなるまで行った。
【0127】
次に、高温保存前の放電容量Aを求めた方法と同様にして、充電および放電を行い、高温保存後の放電容量Bを求めた。
得られた放電容量Aおよび放電容量Bの値を用いて、以下の式(I)を用いて高温保存後の容量維持率を求めた。
高温保存後の容量維持率(%)=(放電容量B/放電容量A)×100
【0128】
表1~表3に示すように、実施例1~実施例31の全固体二次電池は、比較例1、比較例2の全固体二次電池と比較して、高温保存後の容量維持率が高いものであった。
1…正極層、1A…正極集電体、1B…正極活物質層、2…負極層、2A…負極集電体、2B…負極活物質層、3…固体電解質層、4…積層体、10…正極活物質、11…固体電解質、12…導電助剤、15…空隙、100…全固体二次電池。