(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011876
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/00 20060101AFI20240118BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240118BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240118BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C23F1/00 104
H05B33/14 A
H05B33/10
C23F1/00 102
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114182
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100209048
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 元嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(72)【発明者】
【氏名】古賀 修
(72)【発明者】
【氏名】新納 幹大
(72)【発明者】
【氏名】楠岡 諒
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康祐
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
4K057
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC35
3K107FF00
3K107FF15
3K107GG04
3K107GG33
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029HA02
4K029HA03
4K057WA11
4K057WB02
4K057WB03
4K057WB04
4K057WC08
4K057WE08
4K057WK01
4K057WN10
(57)【要約】
【課題】洗浄液によるエッチング液の置換の速度が低いことに起因したパターンの形状又は寸法精度の低下を生じ難くし得る技術を提供する。
【解決手段】物品の製造方法は、板状の金属素材11の少なくとも一方の面にレジストパターン12を形成することと、前記少なくとも一方の面のうち前記レジストパターン12の開口の位置で露出した領域を、エッチング液13として塩化第二鉄液を用いてエッチングすることと、その後、前記金属素材11及び前記レジストパターン12の表面を洗浄液14で洗浄することとを含み、前記洗浄液14による洗浄は、前記金属素材11にそれが含む金属のイオン化を抑制する電位が加わる条件下で行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の金属素材の少なくとも一方の面にレジストパターンを形成することと、
前記少なくとも一方の面のうち前記レジストパターンの開口の位置で露出した領域を、エッチング液として塩化第二鉄液を用いてエッチングすることと、
その後、前記金属素材及び前記レジストパターンの表面を洗浄液で洗浄することと
を含み、前記洗浄液による洗浄は、前記金属素材にそれが含む金属のイオン化を抑制する電位が加わる条件下で行う物品の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄液による洗浄は、対向電極と前記金属素材との間に前記洗浄液を介在させた状態で、前記金属素材の電位が前記対向電極の電位と比較してより低くなるようにそれらの間へ電圧を印加することを含んだ請求項1に記載の物品の製造方法。
【請求項3】
前記対向電極は、前記金属素材よりも標準酸化還元電位が高い導電材料からなる請求項2に記載の物品の製造方法。
【請求項4】
前記金属素材は、鉄、ニッケル、銅及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1つの金属から形成されている請求項1に記載の物品の製造方法。
【請求項5】
前記レジストパターンの厚さは5μm以上であり、前記開口は径が40μm以下のものを含んだ請求項1に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー画像を表示可能な有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置には、カラーフィルタを利用するものと、赤色、緑色及び青色に発光する有機EL素子を利用するものとがある。後者の有機EL表示装置の製造では、例えば、赤色、緑色及び青色に発光する有機物を、蒸着マスクを介した蒸着によってガラス基板上へ堆積させる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、洗浄液によるエッチング液の置換の速度が低いことに起因したパターンの形状又は寸法精度の低下を生じ難くし得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によると、板状の金属素材の少なくとも一方の面にレジストパターンを形成することと、前記少なくとも一方の面のうち前記レジストパターンの開口の位置で露出した領域を、エッチング液として塩化第二鉄液を用いてエッチングすることと、その後、前記金属素材及び前記レジストパターンの表面を洗浄液で洗浄することとを含み、前記洗浄液による洗浄は、前記金属素材にそれが含む金属のイオン化を抑制する電位が加わる条件下で行う物品の製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の側面によると、対向電極と前記金属素材との間に前記洗浄液を介在させた状態で、前記金属素材の電位が前記対向電極の電位と比較してより低くなるようにそれらの間へ電圧を印加することを含んだ上記側面に係る物品の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の更に他の側面によると、前記対向電極は、前記金属素材よりも標準酸化還元電位が高い導電材料からなる上記側面に係る物品の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の更に他の側面によると、前記金属素材は、鉄、ニッケル、銅及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1つの金属から形成されている上記側面の何れかに係る物品の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の更に他の側面によると、前記レジストパターンの厚さは5μm以上であり、前記開口は径が40μm以下のものを含んだ上記側面の何れかに係る物品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洗浄液によるエッチング液の置換の速度が低いことに起因したパターンの形状又は寸法精度の低下を生じ難くし得る技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における一工程を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における他の工程を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における更に他の工程を概略的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、エッチング及びその後の洗浄を行うことによって得られた構造の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、エッチング及びその後の洗浄を行うことによって得られた構造の他の例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0013】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における一工程を概略的に示す断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における他の工程を概略的に示す断面図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る物品の製造方法における更に他の工程を概略的に示す断面図である。
【0016】
ここで説明する方法では、物品として、蒸着マスクを製造する。ここで説明する方法は、蒸着マスク以外の物品の製造に利用することもできる。
【0017】
蒸着マスクを製造するに当たり、先ず、
図1に示す金属素材11を準備する。金属素材11は、板状である。金属素材11は、例えば、鉄、ニッケル、銅及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1つの金属から形成されている。金属素材11の厚さは、例えば、15乃至200μmの範囲内にある。
【0018】
次に、
図1に示すように、金属素材11の少なくとも一方の面にレジストパターン12を形成する。
図1では、金属素材11の両面にレジストパターン12を形成している。レジストパターン12は、例えば、金属素材11へドライフィルムレジストをラミネートし、その後、ドライフィルムレジストへのパターン露光及び現像処理を順次行うことにより形成することができる。
【0019】
レジストパターン12の厚さは、5μm以上であることが好ましい。レジストパターン12をドライフィルムレジストから形成する場合、その厚さを小さくすると、ラミネート工程において皺を生じ易くなるとともに、エッチング工程においてレジストパターン12の割れを生じ易くなる。
【0020】
レジストパターン12の厚さは、15μm以下であることが好ましい。小さな開口径を有する貫通孔が設けられた蒸着マスクを得るためには、レジストパターン12は、厚さが小さいことが望ましい。
【0021】
レジストパターン12の各々は、複数のレジスト開口を有している。一方のレジストパターン12に設けられたレジスト開口は、他方のレジストパターン12に設けられたレジスト開口対応して配列している。一方のレジストパターン12に設けられた各レジスト開口は、このレジスト開口に対応して他方のレジストパターン12に設けられたレジスト開口と、金属素材11の厚さ方向に対して垂直な平面への正射影の中心位置が互いに等しい。
【0022】
ここでは、金属素材11の一方の面に設けられたレジストパターン12は、金属素材11の他方の面に設けられたレジストパターン12と比較して、レジスト開口径がより小さい。金属素材11の一方の面に設けられたレジストパターン12と、金属素材11の他方の面に設けられたレジストパターン12とは、レジスト開口の開口径が等しくてもよい。
【0023】
これらレジスト開口、開口径が40μm以下のものを含んでいることが好ましい。金属素材11の両面にレジストパターン12が設けられている場合、それらレジストパターン12の一方のレジスト開口が40μm以下の開口径を有していてもよく、それらレジストパターン12の双方のレジスト開口が40μm以下の開口径を有していてもよい。なお、これらレジスト開口の開口径は、例えば、10μm以上である。
【0024】
次に、第1エッチング工程を実施する。第1エッチング工程では、
図2に示すように、レジストパターン12をエッチングマスクとして用いた金属素材11のエッチングを行って、レジストパターン12のレジスト開口の位置で金属素材11の表面に凹部を形成する。ここでは、金属素材11の一方の面の凹部と、金属素材11の他方の面の凹部とは、それらが繋がらない深さに形成する。
【0025】
上記の通り、ここでは、金属素材11の一方の面に設けられたレジストパターン12は、金属素材11の他方の面に設けられたレジストパターン12と比較して、レジスト開口の開口径がより小さい。従って、金属素材11の一方の面に形成される凹部は、金属素材11の他方の面に形成される凹部と比較して、開口径がより小さい。
【0026】
このエッチングでは、エッチング液13として、例えば、塩化第二鉄液を使用する。塩化第二鉄液は、大きな比重を有するように調製されたものであること、例えば、比重が1.54乃至1.61g/cm3の範囲内になるように調製されたものであることが好ましい。
【0027】
エッチング液13による金属素材11のエッチングは、エッチング液13を金属素材11へ接触させることにより行う。例えば、エッチング液13を金属素材11へ向けてスプレーするか、又は、金属素材11をエッチング液13に浸漬させることにより、エッチング液13を金属素材11へ接触させる。
【0028】
金属素材11には、高温のエッチング液13を接触させることが好ましい。例えば、エッチング液13の液温は、55乃至80℃の範囲内とすることが好ましい。
【0029】
次に、第1洗浄工程を実施する。第1洗浄工程では、
図3に示すように、両面に凹部が設けられた金属素材11とレジストパターン12との複合体を洗浄液14で洗浄する。洗浄液14としては、例えば、水を使用する。洗浄液14による洗浄は、例えば、上記の複合体を洗浄液14に浸漬させることにより行うか、この複合体へ向けて洗浄液14を噴霧若しくは吐出することにより行うか、又は、それらの組み合わせにより行う。
【0030】
洗浄液14による洗浄は、金属素材11にそれが含む金属のイオン化を抑制する電位が加わる条件下で行う。ここでは、洗浄槽と2つの対向電極15と電圧印加装置16とを備えた洗浄装置を使用することによって、金属素材11と対向電極15との間に、金属素材11が含む金属のイオン化を抑制する電圧を加えながら、洗浄液14による洗浄を行う。洗浄装置は、洗浄液14を吐出するノズルを更に備えていてもよい。
【0031】
各対向電極15と金属素材11とは、それらの間にレジストパターン12及び洗浄液14を介在させた状態で、互いに向き合っている。対向電極15は、どのような形状を有していてもよい。例えば、対向電極15は、板状であってもよく、網状であってもよい。対向電極15は、洗浄液14と接していれば、金属素材11と向き合っていなくてもよい。洗浄装置は、ここでは一対の対向電極15を含んでいるが、洗浄装置が含む対向電極15の数は1以上であればよい。
【0032】
対向電極15は、好ましくは、金属素材11よりも標準酸化還元電位が高い導電材料からなる。例えば、対向電極15は、白金、金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1つの貴金属から形成される。
【0033】
電圧印加装置16は、金属素材11の電位が対向電極15の電位と比較してより低くなるようにそれらの間へ電圧を印加する。電圧印加装置16は、洗浄液14による洗浄を開始してから終了するまでの期間の一部で又はこの期間の全体に亘って、対向電極15と金属素材11との間へ電圧を印加する。金属素材11の電位を対向電極15の電位と比較してより低くすることにより、金属素材11が含んでいる金属のイオン化が生じ難くなる。
【0034】
次に、両面に凹部が設けられた金属素材11とレジストパターン12との複合体を乾燥させる。続いて、この複合体の一方の面に液状樹脂を塗布し、塗膜を硬化させる。これにより、金属素材11の一方の面に設けられた、より小さな開口径を有している凹部を、樹脂硬化物で埋め込む。
【0035】
次に、第2エッチング工程を実施する。第2エッチング工程では、レジストパターン12及び樹脂硬化物層をエッチングマスクとして用いた金属素材11のエッチングを行って、開口径がより大きな凹部を、開口径がより小さな凹部に繋がるまで深くする。これにより、金属素材11に貫通孔を形成する。第2エッチング工程は、エッチングすべき対象物が異なること以外は、第1エッチング工程について上述したのと同様の方法により行うことができる。
【0036】
次に、第2洗浄工程を実施する。第2洗浄工程では、貫通孔が設けられた金属素材11とレジストパターン12と樹脂硬化物層との複合体を洗浄液で洗浄する。第2洗浄工程は、洗浄すべき対象物が異なること以外は、第1洗浄工程について上述したのと同様の方法により行うことができる。
【0037】
その後、金属素材11からレジストパターン12及び樹脂硬化物層を除去する。更に、金属素材11を洗浄及び乾燥に供する。以上のようにして、貫通孔が設けられた金属素材11を蒸着マスクとして得る。
【0038】
エッチングによって凹部又は貫通孔を形成する場合、その後の洗浄工程における洗浄液によるエッチング液の置換の速度が低いと、凹部又は貫通孔からなるパターンの形状又は寸法精度が低下する。これは、凹部又は貫通孔の開口径が小さい場合に特に顕著である。上述した方法によれば、洗浄液によるエッチング液の置換の速度が低いことに起因したパターンの形状又は寸法精度の低下を生じ難くすることができる。これについて、以下に説明する。
【0039】
解像度が100PPI(pixels per inch)程度である、画素サイズが比較的大きな有機EL表示装置の製造では、蒸着マスクとして、貫通孔の開口径が85μm程度のものを使用していた。
【0040】
しかしながら、近年、スマートフォンや仮想現実(VR)装置などの多様な電子機器で、超高解像度(UHD)の表示装置が要求されてきている。これに伴って、蒸着マスクにも超高解像度(UHD級)のパターンを形成することができる微細な貫通孔が要求されるようになっている。例えば、解像度が350PPIの有機EL表示装置の製造では、貫通孔の開口径が40μm程度の蒸着マスクが要求される。
【0041】
小さな開口径を有する貫通孔が設けられた蒸着マスクを得るためには、上記の通り、レジストパターンは、厚さが小さく、貫通孔の開口径が小さいことが必要である。しかしながら、レジストパターンをドライフィルムレジストから形成する場合、その厚さを小さくすると、ラミネート工程において皺を生じ易くなるとともに、エッチング工程においてレジストパターンの割れを生じ易くなる。従って、上述した開口径を有する貫通孔が設けられた蒸着マスクを得るためには、エッチングマスクとしてのレジストパターンは、レジスト開口の開口径が20μm程度であることが必要であり、5μm以上の厚さを有していることが望ましい。
【0042】
ところで、鉄、ニッケル、銅などの単体金属又はそれらの合金からなる金属素材のエッチングは、一般に、安価なエッチング液である塩化第二鉄液をスプレーすることで行っている。高温であり且つ比重が大きな塩化第二鉄液な、例えば、液温が55乃至80℃の範囲内にあり、比重が1.54乃至1.61g/cm3の範囲内にある塩化第二鉄液をエッチングに用いると、エッチング後の表面は滑らかになる。エッチング後の表面が滑らかになるエッチングによって形成される貫通孔は、開口形状の真円度が高く、開口径の面内ばらつきが小さい。従って、上記のエッチングには、一般に、高温であり且つ比重が大きな塩化第二鉄液が用いられている。
【0043】
しかしながら、比重が大きな塩化第二鉄液には、粘性が高いため、エッチング後の洗浄工程における洗浄液との置換性が劣るという問題がある。この置換性の問題は、レジストパターンに設けられるレジスト開口の開口径が小さくなるほどより顕著になる。
【0044】
この置換性が劣っている場合、例えば、レジストパターンのレジスト開口間で、洗浄液によるエッチング液の置換の速度に相違を生じる。それ故、これらレジスト開口の位置で、エッチングの進行度に相違を生じる。その結果、金属素材に形成された凹部は開口径に大きなばらつきを有することになるか、又は、この金属素材から得られる蒸着マスクは貫通孔の開口径に大きなばらつきを有することになる。
【0045】
或いは、上記の置換性が劣っている場合、レジストパターンの1以上のレジスト開口内に、洗浄液によるエッチング液の置換の速度が異なる領域を生じる。置換の速度が異なる領域を1つのレジスト開口内に生じると、そのレジスト開口の位置で、エッチングの進行度が異なる部分を生じることになる。その結果、金属素材に形成された凹部、又は、この金属素材から得られる蒸着マスクの貫通孔は、開口の形状精度が低いものとなる。
【0046】
図4は、エッチング及びその後の洗浄を行うことによって得られた構造の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
図5は、エッチング及びその後の洗浄を行うことによって得られた構造の他の例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0047】
図4及び
図5に示す構造は、
図2を参照しながら説明した第1エッチング工程を実施し、次いで、対向電極15及び電圧印加装置16を省略したこと以外は第1洗浄工程と同様の洗浄工程を実施し、その後、金属素材11からのレジストパターン12の除去、金属素材11の洗浄、及びその乾燥を順次行うことによって得られたものである。ここでは、レジストパターン12の厚さは10μmとし、そのレジスト開口の開口は略正方形状としている。
【0048】
このように、洗浄工程において、対向電極15及び電圧印加装置16を利用した電圧印加を行わない場合、形状及び寸法精度に優れたパターンだけでなく、形状又は寸法精度に劣るパターンも生じる。それ故、パターンの形状及び寸法精度に優れた蒸着マスクを製造することができない。
【0049】
これに対し、
図1乃至
図3を参照しながら説明した方法では、洗浄工程において、対向電極15及び電圧印加装置16を利用した電圧印加を行う。この電圧印加により、洗浄工程において、金属素材11が含んでいる金属のイオン化は生じ難くなる。それ故、エッチングの進行度のばらつきを小さくすることができ、従って、パターンの形状及び寸法精度に優れた蒸着マスクを製造することが可能となる。
【実施例0050】
以下に、本発明に関連して行った試験を記載する。
【0051】
(実施例)
本例では、蒸着マスクを、
図1乃至
図3を参照しながら説明した方法により製造した。
【0052】
具体的には、金属素材11として、巻取りロールから供給された長尺巻き物の金属箔であって、厚さが0.025mmの低熱膨張性のインバー材を用いた。この金属素材11の両面に、脱脂処理、整面処理、及び洗浄処理を順次施した。次に、金属素材11の両面に、10μm厚のドライフィルムレジストをラミネートした。次いで、露光マスクを介して、金属素材11にラミネートしたドライフィルムレジストの各々をパターン露光した。その後、35℃の1%炭酸ナトリウム溶液を用いた現像処理によって、これらドライフィルムレジストから未露光部を除去した。以上のようにして、
図1に示すように、金属素材11と、その一方の面に設けられたレジストパターンと、その他方の面に設けられたレジストパターン12とからなる複合体を得た。ここでは、一方のレジストパターン12に設けたレジスト開口の開口径は10μmとし、他方のレジストパターン12に設けたレジスト開口の開口径はより大きくした。
【0053】
次に、第1エッチング工程を実施することにより、
図2に示すように、金属素材11の両面に凹部を形成した。このエッチングは、エッチング槽内でスプレーノズルからエッチング液13を上記の複合体へ向けて噴霧することにより行った。エッチング液13としては、比重が1.525g/cm
3の塩化第二鉄液を使用した。エッチング液13の温度は65℃とした。
【0054】
次に、第1洗浄工程を実施した。第1洗浄工程では、金属素材11の両面に凹部を形成した上記複合体を、
図3に示すように洗浄液14中に浸漬させるとともに、この複合体へ向けてノズルから洗浄液14を吐出させた。洗浄液14としては、水を使用した。対向電極15としては、白金製の電極を使用した。
【0055】
次に、両面に凹部が設けられた金属素材11とレジストパターン12との複合体を乾燥させた。続いて、この複合体の一方の面に液状樹脂を塗布し、塗膜を硬化させた。これにより、金属素材11の一方の面に設けられた、より小さな開口径を有している凹部を、樹脂硬化物で埋め込んだ。
【0056】
次に、第2エッチング工程を実施した。第2エッチング工程では、レジストパターン12及び樹脂硬化物層をエッチングマスクとして用いた金属素材11のエッチングを行って、開口径がより大きな凹部を、開口径がより小さな凹部に繋がるまで深くした。これにより、金属素材11に貫通孔を形成した。第2エッチング工程は、エッチングすべき対象物が異なること以外は、第1エッチング工程と同様の方法により行った。
【0057】
次に、第2洗浄工程を実施した。第2洗浄工程では、貫通孔が設けられた金属素材11とレジストパターン12と樹脂硬化物層との複合体を洗浄液で洗浄した。第2洗浄工程は、洗浄すべき対象物が異なること以外は、第1洗浄工程と同様の方法により行った。
【0058】
次いで、金属素材11からレジストパターン12及び樹脂硬化物層を除去した。具体的には、50℃の5%の水酸化ナトリウム溶液を上記の複合体へ噴霧して、レジストパターン12及び樹脂硬化物層を溶解剥離した。
【0059】
その後、金属素材11を洗浄及び乾燥に供した。以上のようにして、貫通孔が設けられた金属素材11を蒸着マスクとして得た。
【0060】
また、レジストパターン12の厚さ、及び、上記一方のレジストパターン12に設けるレジスト開口の開口径の少なくとも一方を変化させたこと以外は、上述したのと同様の方法により、複数の蒸着マスクを製造した。なお、厚さが15μm又は20μmのドライフィルムレジストを使用して、開口径が10μmのレジスト開口を有するレジストパターンを形成するべくパターン露光を行った場合、ドライフィルムレジストにレジスト開口を形成することはできなかったため、その後のエッチング等は行わなかった。
【0061】
(比較例)
本例では、対向電極15及び電圧印加装置16を省略して、第1及び第2洗浄工程における電圧印加を行わなかったこと以外は、上記実施例と同様の方法により、複数の蒸着マスクを製造した。なお、本例でも、厚さが15μm又は20μmのドライフィルムレジストを使用して、開口径が10μmのレジスト開口を有するレジストパターンを形成するべくパターン露光を行った場合、ドライフィルムレジストにレジスト開口を形成することはできなかったため、その後のエッチング等は行わなかった。
【0062】
(評価)
実施例及び比較例に係る蒸着マスクについて、貫通孔の開口径及び開口形状を調べた。そして、開口径の面内ばらつきが十分に小さく且つ開口径の形状精度に優れていたものについては、「A」と評価した。開口径の面内ばらつきがやや大きいか又は開口径の形状精度にやや劣るものについては、「B」と評価した。また、開口径の面内ばらつきが大きいか又は開口径の形状精度に劣るものについては、「C」と評価した。
【0063】
実施例に係る蒸着マスクについて得られた評価結果を、以下の表1に示す。また、比較例に係る蒸着マスクについて得られた評価結果を、以下の表2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
表1に示すように、実施例の方法では、レジストパターン12の厚さ、及び、上記一方のレジストパターン12に設けるレジスト開口の開口径が如何様であろうと、開口径の面内ばらつきが十分に小さく且つ開口径の形状精度に優れた貫通孔を金属素材11に形成することができた。
【0067】
他方、比較例の方法では、表2に示すように、上記一方のレジストパターン12に設けるレジスト開口の開口径が40μmである場合には、レジストパターン12の厚さが如何様であろうと、開口径の面内ばらつきが十分に小さく且つ開口径の形状精度に優れた貫通孔を金属素材11に形成することができた。しかしながら、比較例の方法では、上記一方のレジストパターン12に設けるレジスト開口の開口径を小さくすると、開口径の面内ばらつきが大きくなるか又は開口径の形状精度が低下した。また、比較例の方法では、上記一方のレジストパターン12に設けるレジスト開口の開口径が小さい場合、レジストパターン12の厚さを大きくするほど、開口径の面内ばらつきが大きくなるか又は開口径の形状精度が低下するという傾向が見られた。