(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118771
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
A61J 3/06 20060101AFI20240826BHJP
B41J 3/407 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A61J3/06 Q
B41J3/407
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025247
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】西川 貴之
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047LL10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】レーザ方式で粒状物に印刷を行う印刷装置において、レーザ走査型の印刷装置と比べて、複雑な補正を行うことなく、高精細な印字を高い処理速度で行うことができる技術を提供する。
【解決手段】この印刷装置は、粒状物を搬送する搬送機構と、搬送方向の所定の位置において搬送経路上の幅方向の複数位置に同時にレーザ光を照射するレーザ照射部45とを有し、幅方向に延びるライン状のレーザ光を出射するレーザ出射部46,47と、レーザ出射部46,47からレーザ光が入射され、幅方向に並ぶ複数のスポット状または短いライン状のレーザ光を出射する空間光変調器48とを含む。レーザ光を走査させることなく、錠剤9の搬送経路の幅方向の広い範囲に対し、同時に、所望の位置にレーザ光を照射することができ、したがって、複雑な補正を行うことなく、高精細な印字を高い処理速度で行うことができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状物を搬送しつつ、前記粒状物の表面に印刷を行う印刷装置であって、
前記粒状物を保持しつつ、搬送経路に沿って搬送する、搬送機構と、
搬送方向の所定の位置において前記搬送経路上の幅方向の複数位置に同時にレーザ光を照射する、レーザ照射部と、
を有し、
前記レーザ照射部は、
幅方向に延びるライン状のレーザ光を出射する、レーザ出射部と、
前記レーザ出射部から前記レーザ光が入射され、幅方向に並ぶ複数のスポット状または短いライン状のレーザ光を出射する、空間光変調器と、
を含む、印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記粒状物の表面は、前記レーザ光の照射により変色する変色誘起酸化物を含む、印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記変色誘起酸化物は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、および、三二酸化鉄のいずれか1種類を含む、印刷装置。
【請求項4】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記空間光変調器は、
PLV基板と、
PLV光学系と、
を含み、
前記PLV基板は、
二次元的に配列された複数の孔を有し、平面上に広がる固定反射面と、
前記固定反射面の前記孔に配置され、前記固定反射面に対して垂直方向に移動可能な複数の駆動反射面と、
を含み、
前記PLV基板において、幅方向の所定範囲毎に、前記所定範囲内に含まれる複数の前記駆動反射面が、同時に、
前記固定反射面と同一平面上に配置されるON状態と、
前記固定反射面と垂直方向に所定距離ずれた位置に配置されるOFF状態と、
に切替可能であり、
前記PLV光学系は、
前記ON状態の前記所定範囲において、前記PLV基板への入射光に対して出射された正反射光を通過させるとともに、
前記OFF状態の前記所定範囲において、前記PLV基板への入射光に対して出射された1次回折光の通過を遮断する、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状物を搬送しつつ、その表面に印刷を行う印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、錠剤や錠菓などの粒状物の表面に印刷を行う印刷装置が知られている。従来の印刷装置については、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1の印刷装置は、複数の錠剤をコンベアで搬送しつつ、各錠剤の表面に、インクジェット方式で画像を印刷する装置である。特許文献2の印刷装置は、レーザ光を錠剤の表面に走査させることにより、錠剤表面を変色させてマークを印刷する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-000208号公報
【特許文献2】特開2012-126735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、素錠やOD錠にも精細な印字が可能なインクジェット方式が主流となっている。しかしながら、ノズル欠けやインク転写といった構造的な課題により、歩留まり(良品率)に限界がある。このため、酸化チタン等のレーザによって変色する変色誘起酸化物が錠剤表面に付されたFC錠においては、レーザ印刷方式への需要がある。
【0005】
特許文献2の印刷装置のように、従来のレーザ印刷装置は、スポットレーザを錠剤表面に走査することにより、酸化チタン等の変色誘起酸化物の結晶配列を変化させて変色を実現している。しかしながら、スポットレーザの走査方式では、多列で搬送されてくる錠剤等の粒状物に精細に印字をするためには、スポットレーザであることから一度に露光可能な面積が狭く処理量に限界があった。また、レーザを往復させる際に、正確な印字位置補正技術が必要となるという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、レーザ方式で粒状物に印刷を行う印刷装置において、レーザ走査型の印刷装置と比べて、複雑な補正を行うことなく、高精細な印字を高い処理速度で行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、粒状物を搬送しつつ、前記粒状物の表面に印刷を行う印刷装置であって、前記粒状物を保持しつつ、搬送経路に沿って搬送する、搬送機構と、搬送方向の所定の位置において前記搬送経路上の幅方向の複数位置に同時にレーザ光を照射する、レーザ照射部と、を有し、前記レーザ照射部は、幅方向に延びるライン状のレーザ光を出射する、レーザ出射部と、前記レーザ出射部から前記レーザ光が入射され、幅方向に並ぶ複数のスポット状または短いライン状のレーザ光を出射する、空間光変調器と、を含む。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の印刷装置であって、前記粒状物の表面は、前記レーザ光の照射により変色する変色誘起酸化物を含む。
【0009】
本願の第3発明は、第2発明の印刷装置であって、前記変色誘起酸化物は、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、および、三二酸化鉄のいずれか1種類を含む。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明の印刷装置であって、前記空間光変調器は、PLV基板と、PLV光学系と、を含み、前記PLV基板は、二次元的に配列された複数の孔を有し、平面上に広がる固定反射面と、前記固定反射面の前記孔に配置され、前記固定反射面に対して垂直方向に移動可能な複数の駆動反射面と、を含み、前記PLV基板において、幅方向の所定範囲毎に、前記所定範囲内に含まれる複数の前記駆動反射面が、同時に、前記固定反射面と同一平面上に配置されるON状態と、前記固定反射面と垂直方向に所定距離ずれた位置に配置されるOFF状態と、に切替可能であり、前記PLV光学系は、前記ON状態の前記所定範囲において、前記PLV基板への入射光に対して出射された正反射光を通過させるとともに、前記OFF状態の前記所定範囲において、前記PLV基板への入射光に対して出射された1次回折光の通過を遮断する。
【発明の効果】
【0011】
本願の第1発明~第4発明によれば、空間光変調器を用いることにより、レーザ光を走査させることなく、粒状物の搬送経路の幅方向の広い範囲に対し、同時に、所望の位置にレーザ光を照射することができる。これにより、インクジェット方式と同様に、ワンパスで所望の画像を印刷することができる。すなわち、レーザ方式で粒状物に印刷を行う印刷装置において、レーザ走査型の印刷装置と比べて、複雑な補正を行うことなく、高精細な印字を高い処理速度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】レーザ印刷部の構成を概念的に示した図である。
【
図6】PLV基板の構成を概念的に示した図である。
【
図7】PLV基板の表面付近の断面を概念的に示した図である。
【
図8】錠剤印刷装置およびデータ処理装置の一部の構成を概念的に示したブロック図である。
【
図9】ベクトルデータをラスタライズ後に回転し、その後再度ラスタライズした例を示した図である。
【
図10】ベクトルデータをベクトル回転後にラスタライズした例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<1.錠剤印刷装置の全体構成>
図1は、粒状物処理装置の一例である錠剤印刷装置1の構成を示した図である。この錠剤印刷装置1は、錠剤9等の粒状物を搬送しながら、各粒状物の表裏両面に、製品名、製品コード、会社名、ロゴマーク等の画像を印刷する装置である。この錠剤印刷装置1は、インクジェット方式と、レーザ方式の2種類の方式で粒状物に対して印刷を行うことができる。本発明における「粒状物」は、医薬品としての錠剤に限らず、健康食品としての錠剤や、ラムネ等の錠菓であってもよい。以下では、印刷対象を錠剤9として説明を行う。
【0015】
印刷方式としてインクジェット方式のみを用いる場合には、印刷対象とする錠剤9は、素錠(裸錠)であってもよく、あるいは、糖衣錠、フィルムコーティング錠(FC錠)等のコーティング錠であってもよい。また、錠剤9は、硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤であってもよい。
【0016】
一方、印刷方式としてレーザ方式を用いる場合(インクジェット方式とレーザ方式とを併用する場合を含む)には、印刷対象とする錠剤9は、その表面が変色誘起酸化物を含む錠剤9である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の錠剤印刷装置1は、供給機構10、第1ドラム15、第2ドラム20、第1カメラ25、搬送コンベア30、第2カメラ35、インクジェット印刷部40、レーザ印刷部45、第3カメラ50、乾燥機構55、反転機構60、排出機構65、および制御部100を備えている。
【0018】
供給機構10は、錠剤印刷装置1に投入された複数の錠剤9を、第1ドラム15へ供給する機構である。本実施形態の供給機構10は、ボウルフィーダ11、第1シュート12、供給コンベア13、および第2シュート14を有する。
【0019】
ボウルフィーダ11は、複数の錠剤9を受ける円盤状のトラフ110を有する。ボウルフィーダ11は、トラフ110を振動させることにより、複数の錠剤9を移動させて、第1シュート12へ供給する。第1シュート12は、トラフ110と供給コンベア13との間で、円弧状に延びている。第1シュート12は、複数の供給路を有する。ボウルフィーダ11は、第1シュート12の各供給路へ錠剤9を供給する。これにより、多数の錠剤9が複数の列に整列される。すなわち、搬送方向に並ぶ錠剤9の列が、幅方向(搬送方向に対して直交する方向)に複数形成される。そして、整列後の錠剤9が、第1シュート12から供給コンベア13へ供給される。なお、
図1では、1つの列の錠剤9のみが示されている。
【0020】
供給コンベア13は、第1シュート12から第2シュート14へ、錠剤9を搬送する機構である。供給コンベア13は、2つのプーリ131と、2つのプーリ131に架け渡された環状の供給ベルト132とを有する。2つのプーリ131の一方は、モータ(図示省略)から得られる動力により回転する。これにより、供給ベルト132が、
図1中の矢印の方向に回動する。他方のプーリ131は、供給ベルト132の回動に伴い従動回転する。また、供給ベルト132の上部には、錠剤9の列の境界に沿って延びる仕切プレートが設けられている。第1シュート12から供給される錠剤9は、仕切プレートによって複数の列に整列された状態を維持しつつ、供給ベルト132の回動により、搬送方向の下流側へ搬送される。
【0021】
第2シュート14は、供給コンベア13と第1ドラム15との間で、直線状に延びている。第2シュート14は、複数の水平な供給路を有する。供給コンベア13から供給される複数の錠剤9は、第2シュート14の各供給路へ供給される。第2シュート14内の錠剤9は、供給コンベア13により搬送される後続の錠剤9に押されることによって、搬送方向の下流側へ搬送される。そして、第2シュート14の搬送方向下流側の端部から第1ドラム15へ、錠剤9が供給される。
【0022】
第1ドラム15、第2ドラム20、および搬送コンベア30は、錠剤9を保持しつつ、搬送経路に沿って搬送する搬送機構である。第1ドラム15は、第2シュート14から供給される複数の錠剤9を、搬送方向に一定の間隔をあけて保持しつつ搬送する機構である。第1ドラム15は、幅方向と平行な第1軸O1を中心とする略円筒状の外周面を有する。また、第1ドラム15には、図示を省略したモータが接続されている。モータを駆動させると、第1ドラム15は、第1軸O1を中心として、
図1中の矢印の方向へ回転する。第1ドラム15は、その上端部付近の第1受渡位置P1から、第2ドラム20に近接する第2受渡位置P2まで、錠剤9を搬送する。
【0023】
図1に示すように、第1ドラム15は、ドラム本体16と、保持リング17とを有する。ドラム本体16は、第1軸O1を中心とする円筒状の外周面を有する。ドラム本体16は、例えば、ステンレス等の金属により形成される。保持リング17は、ドラム本体16の外周面に装着される。具体的には、複数の保持リング17が、錠剤9の列のそれぞれに対応する幅方向の位置に配置される。保持リング17は、例えば、ポリアセタール等の樹脂により形成される。
【0024】
各保持リング17の外周面は、複数の凹状のポケット18を有する。複数のポケット18は、第1軸O1を中心とする周方向に、一定の間隔で設けられている。また、保持リング17は、各ポケット18の底部に、錠剤9を吸着するための吸着孔19を有する。吸着孔19は、保持リング17を貫通する貫通孔である。
【0025】
第1ドラム15は、図示を省略した吸引機構と接続されている。吸引機構を動作させると、第1受渡位置P1と第2受渡位置P2との間の角度範囲に位置する第1ドラム15の内部空間から、気体が吸い出される。これにより、当該内部空間が、大気圧よりも低い負圧となる。また、当該内部空間と連通する吸着孔19にも、負圧が生じる。第2シュート14から供給される複数の錠剤9は、この負圧によって、保持リング17の吸着孔19に、吸着保持される。
【0026】
第2シュート14から供給される錠剤9は、1つずつポケット18に収容されて、吸着孔19に吸着保持される。このとき、錠剤9は、押圧機構141に押圧されることにより、保持リング17のポケット18へ誘い込まれる。その結果、複数の錠剤9の搬送方向の間隔が、ポケット18の間隔に応じた所定の間隔となる。各錠剤9は、ポケット18内の吸着孔19に吸着保持されつつ、第1ドラム15の回転によって、第1受渡位置P1から第2受渡位置P2まで搬送される。そして、錠剤9が第2受渡位置P2を通過すると、上記の負圧に保たれた内部空間の角度範囲から外れることによって、錠剤9の吸着が解除される。これにより、第1ドラム15から第2ドラム20へ、錠剤9が受け渡される。
【0027】
第2ドラム20は、第1ドラム15から受け渡される錠剤9を、搬送コンベア30まで搬送する機構である。第2ドラム20は、幅方向と平行な第2軸O2を中心とする略円筒状の外周面を有する。本実施形態では、第1ドラム15の外径と、第2ドラム20の外径とが、略同一である。ただし、第1ドラム15の外径と、第2ドラム20の外径とは、相違していてもよい。第2ドラム20には、図示を省略したモータが接続されている。モータを駆動させると、第2ドラム20は、第2軸O2を中心として、第1ドラム15とは反対の向きに回転する。第2ドラム20は、第1ドラム15に近接する第2受渡位置P2から、搬送コンベア30に近接する第3受渡位置P3まで、錠剤9を搬送する。第3受渡位置P3の高さは、第1受渡位置P1および第2受渡位置P2の高さよりも高い。
【0028】
図1に示すように、第2ドラム20は、ドラム本体21と、保持リング22とを有する。ドラム本体21は、第2軸O2を中心とする円筒状の外周面を有する。ドラム本体21は、例えば、ステンレス等の金属により形成される。保持リング22は、ドラム本体21の外周面に装着される。具体的には、複数の保持リング22が、錠剤9の列のそれぞれに対応する幅方向の位置に配置される。保持リング22は、例えば、シリコーン等の樹脂により形成される。
【0029】
各保持リング22は、複数の吸着孔24を有する。吸着孔24は、保持リング22を貫通する貫通孔である。また、第2ドラム20は、図示を省略した吸引機構と接続されている。吸引機構を動作させると、第2受渡位置P2と第3受渡位置P3との間の角度範囲に位置する第2ドラム20の内部空間から、気体が吸い出される。これにより、当該内部空間が、大気圧よりも低い負圧となる。また、当該内部空間と連通する吸着孔24にも、負圧が生じる。第1ドラム15から受け渡される複数の錠剤9は、この負圧によって、保持リング22の吸着孔24に吸着保持される。
【0030】
吸着孔24に吸着保持された錠剤9は、第2ドラム20の回転によって、第2受渡位置P2から第3受渡位置P3まで搬送される。そして、錠剤9が第3受渡位置P3を通過すると、上記の負圧に保たれた内部空間の角度範囲から外れることによって、錠剤9の吸着が解除される。これにより、第2ドラム20から搬送コンベア30へ、錠剤9が受け渡される。
【0031】
このように、本実施形態では、供給機構10から供給される複数の錠剤9を、第1ドラム15および第2ドラム20の2つのドラムを介して、搬送コンベア30へ搬送する。第1ドラム15は、複数の錠剤9を、搬送方向に間隔をあけた状態で保持する。第2ドラム20は、その搬送方向の間隔を保ちながら、搬送コンベア30へ錠剤9を搬送する。その際、第1ドラム15と第2ドラム20とで、錠剤9の搬送の向き(回転の向き)が反転する。これにより、搬送コンベア30の動作の向きに合わせて、第2ドラム20から搬送コンベア30へ、錠剤9を送ることができる。
【0032】
第1カメラ25は、印刷前の錠剤9を撮影するための処理部である。第1カメラ25には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が幅方向に配列されたラインセンサが用いられる。第1カメラ25は、第2ドラム20の外周面に沿って搬送される錠剤9を撮影する。具体的には、第1カメラ25は、錠剤9の表裏2面のうち、最初に印刷される面(以下「第1面」と称する)とは反対側の面(以下「第2面」と称する)を撮影する。撮影により取得された画像は、第1カメラ25から後述する制御部100へ送信される。制御部100は、第1カメラ25から得られた画像に基づいて、各吸着孔24における錠剤9の有無、錠剤9の位置、および錠剤9の姿勢を検出する。また、制御部100は、第1カメラ25から得られた画像に基づいて、各錠剤9に欠け等の欠陥が無いかどうかの検査を行うも行う。また、制御部100は、第1カメラ25から得られた画像に基づいて、第2面に割線を有する錠剤9について、割線の位置(角度)を検出する。
【0033】
搬送コンベア30は、第2ドラム20から受け渡される複数の錠剤9を、吸着保持しつつ搬送する機構である。搬送コンベア30は、一対のプーリ31と、一対のプーリ31の間に架け渡された環状の搬送ベルト32とを有する。一対のプーリ31の一方は、図示を省略したモータから得られる動力により回転する。これにより、搬送ベルト32が、
図1中の矢印の方向に回動する。一対のプーリ31の他方は、搬送ベルト32の回動に伴い従動回転する。
【0034】
図2は、搬送コンベア30の部分斜視図である。
図2に示すように、搬送ベルト32には、複数の吸着孔29が形成されている。複数の吸着孔29は、搬送方向および幅方向に間隔をあけて配列されている。各吸着孔29は、搬送ベルト32を貫通する貫通孔である。また、搬送コンベア30は、搬送ベルト32の内側の空間から気体を吸い出す吸引機構(図示省略)を有する。吸引機構を動作させると、搬送ベルト32の内側の空間が、大気圧よりも低い負圧となる。複数の錠剤9は、当該負圧によって、吸着孔29に1つずつ吸着保持される。
【0035】
このように、複数の錠剤9は、搬送ベルト32の表面に、搬送方向よび幅方向に整列した状態で保持される。そして、搬送コンベア30は、搬送ベルト32を回動させることによって、複数の錠剤9を、環状の搬送経路に沿って搬送する。後述するインクジェット印刷部40およびレーザ印刷部45の下方では、複数の錠剤9は、搬送ベルト32の上面に保持されつつ、水平方向に搬送される。また、後述する排出機構65の上方では、複数の錠剤9は、搬送ベルト32の下面に保持されつつ、水平方向に搬送される。
【0036】
図2に示すように、本実施形態の搬送ベルト32の表面は、反転機構60による反転前の錠剤9を保持する第1領域A1と、反転後の錠剤9を保持する第2領域A2とを有する。第1領域A1と第2領域A2とは、幅方向に隣接する。本実施形態では、第1領域A1および第2領域A2に、複数の吸着孔29が、幅方向に3列ずつ設けられる。
【0037】
上述した供給機構10、第1ドラム15、および第2ドラム20により供給される錠剤9は、第1面を外側に露出させて、第1領域A1の吸着孔29に吸着保持される。第1領域A1に保持された複数の錠剤9は、インクジェット印刷部40または/およびレーザ印刷部45によって第1面に印刷がされた後に、反転機構60により反転され、第2面を外側に露出させて、第2領域A2の吸着孔29に吸着保持される。第2領域A2に保持された複数の錠剤9は、インクジェット印刷部40または/およびレーザ印刷部45によって第2面に印刷がされた後、第2領域A2の吸着孔29から排出機構65へ排出される。
【0038】
第2カメラ35は、印刷前の錠剤9を撮影するための処理部である。第2カメラ35は、上述した第3受渡位置P3よりも搬送経路の下流側かつインクジェット印刷部40よりも搬送経路の上流側に位置する。また、第2カメラ35は、第1領域A1と第2領域A2の双方に跨がって、幅方向に延びる。第2カメラ35には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が幅方向に配列されたラインセンサが用いられる。第2カメラ35は、搬送ベルト32により搬送される複数の錠剤9を撮影する。具体的には、第2カメラ35は、第1領域A1に保持された錠剤9の第1面と、第2領域A2に保持された錠剤9の第2面とを撮影する。撮影により取得された画像は、第2カメラ35から後述する制御部100へ送信される。制御部100は、第2カメラ35から得られた画像に基づいて、各吸着孔29における錠剤9の有無、錠剤9の位置、および錠剤9の姿勢を検出する。また、制御部100は、第2カメラ35から得られた画像に基づいて、各錠剤9に欠け等の欠陥が無いかどうかの検査も行う。また、制御部100は、第1カメラ25から得られた画像に基づいて、第1領域A1に保持された錠剤9のうち、第1面に割線を有する錠剤9について、割線の位置(角度)を検出する。
【0039】
インクジェット印刷部40は、搬送ベルト32により搬送される錠剤9の表面に、インクジェット方式で画像を印刷する処理部である。
図1に示すように、本実施形態のインクジェット印刷部40は、4つのヘッド41を有する。4つのヘッド41は、搬送ベルト32の上方に位置し、錠剤9の搬送方向に沿って、一列に配置されている。各ヘッド41は、第1領域A1と第2領域A2の双方に跨がって、幅方向に延びる。4つのヘッド41は、錠剤9に向けて、互いに異なる色(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの各色)のインク滴を吐出する。すると、これらの各色により形成される単色画像の重ね合わせによって、錠剤9の表面に、多色画像が記録される。なお、各ヘッド41から吐出されるインクには、日本薬局方、食品衛生法等で認可された原料により製造された可食性インクが使用される。
【0040】
図3は、1つのヘッド41の下面図である。
図3には、搬送ベルト32と、搬送ベルト32に保持された複数の錠剤9とが、二点鎖線で示されている。
図3中に拡大して示したように、ヘッド41の下面には、インク滴を吐出可能な複数のノズル42が設けられている。本実施形態では、ヘッド41の下面に、複数のノズル42が、搬送方向および幅方向に二次元的に配列されている。各ノズル42は、幅方向に位置をずらして配列されている。このように、複数のノズル42を二次元的に配置すれば、各ノズル42の幅方向の位置を、互いに接近させることができる。ただし、複数のノズル42は、幅方向に沿って一列に配列されていてもよい。
【0041】
ノズル42からのインク滴の吐出方式には、例えば、ピエゾ素子に電圧を加えて変形させることにより、ノズル42内のインクを加圧して吐出する、いわゆるピエゾ方式が用いられる。ただし、インク滴の吐出方式は、ヒータに通電してノズル42内のインクを加熱膨張させることにより吐出する、いわゆるサーマル方式であってもよい。
【0042】
レーザ印刷部45は、搬送ベルト32により搬送される錠剤9の表面に、レーザ方式で画像を印刷する処理部である。また、レーザ印刷部45は、搬送方向の所定の位置において、搬送経路上の幅方向の複数位置に同時にレーザ光を照射するレーザ照射部である。具体的には、レーザ印刷部45は、錠剤9の変色誘起酸化物を含む表面に対してレーザ光を照射することで、錠剤9の表面を変色させることで、錠剤9の表面に画像を付す。本実施形態では、インクジェット印刷部40の下流側にレーザ印刷部45が配置されている。しかしながら、インクジェット印刷部40とレーザ印刷部45の順序は、逆であってもよい。レーザ印刷部45の詳細な構成については、後述する。
【0043】
第3カメラ50は、印刷後の錠剤9を撮影するための処理部である。第3カメラ50は、インクジェット印刷部40およびレーザ印刷部45よりも搬送経路の下流側かつ乾燥機構55よりも搬送経路の上流側に位置する。また、第3カメラ50は、第1領域A1と第2領域A2の双方に跨がって、幅方向に延びる。第3カメラ50には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が幅方向に配列されたラインセンサが用いられる。第3カメラ50は、搬送ベルト32により搬送される複数の錠剤9を撮影する。具体的には、第3カメラ50は、第1領域A1に保持された錠剤9の第1面と、第2領域A2に保持された錠剤9の第2面とを撮影する。撮影により取得された画像は、第3カメラ50から後述する制御部100へ送信される。制御部100は、第3カメラ50から得られた画像に基づいて、錠剤9に印刷された画像の良否を検査する。
【0044】
乾燥機構55は、錠剤9に付着したインクを乾燥させる機構である。乾燥機構55は、第3カメラ50よりも搬送経路の下流側かつ後述する反転機構60および排出機構65よりも搬送経路の上流側に位置する。また、乾燥機構55は、第1領域A1と第2領域A2の双方に跨がって、幅方向に延びる。乾燥機構55には、例えば、搬送ベルト32により搬送される錠剤9へ向けて、加熱された気体(熱風)を吹き付ける、熱風供給機構が用いられる。錠剤9に付着したインクは、熱風により乾燥して、錠剤9の第1面または第2面に定着する。
【0045】
反転機構60は、搬送ベルト32により搬送される錠剤9の表裏を反転させるとともに、第1領域A1から第2領域A2へ錠剤9を移動させる機構である。反転機構60は、乾燥機構55よりも搬送経路の下流側に位置する。反転機構60は、幅方向に並んだ一対の傾斜ドラム61を、複数組有する。各傾斜ドラム61は、円錐状の保持面を有する。一対の傾斜ドラム61のうち、一方の傾斜ドラム61は、第1領域A1において搬送される錠剤9を、保持面に吸着しつつ回転し、当該錠剤9を他方の傾斜ドラム61へ受け渡す。他方の傾斜ドラム61は、一方の傾斜ドラム61から受け取った錠剤9を、保持面に吸着しつつ回転し、当該錠剤9を第2領域A2へ受け渡す。これにより、錠剤9の表裏が反転するとともに、第1領域A1から第2領域A2へ錠剤9が移動する。
【0046】
供給機構10から第1ドラム15を介して第2ドラム20へ搬送された錠剤9は、第2面を外側にして第2ドラム20の表面に保持されながら搬送され、第1カメラ25によって第2面を撮影される。その後、第2ドラム20から搬送コンベア30へ搬送された錠剤9は、搬送ベルト32の第1領域A1に、第1面を外側にして保持される。そして、錠剤印刷装置1は、第1領域A1に錠剤9を保持しつつ搬送し、錠剤9の第1面に対して、第2カメラ35による撮影、インクジェット印刷部40または/およびレーザ印刷部45による印刷、第3カメラ50による撮影、および乾燥機構55による乾燥、の各処理を行う。
【0047】
続いて、反転機構60が、錠剤9の表裏を反転させるとともに、第1領域A1から第2領域A2へ錠剤9を移動させる。その後、錠剤印刷装置1は、搬送ベルト32の第2領域A2に、第2面を外側にして錠剤9を保持しつつ搬送し、錠剤9の第2面に対して、第2カメラ35による撮影、インクジェット印刷部40または/およびレーザ印刷部45による印刷、第3カメラ50による撮影、および乾燥機構55による乾燥、の各処理を行う。
【0048】
排出機構65は、両面に印刷がされた複数の錠剤9を、搬送コンベア30から排出するための機構である。排出機構65は、乾燥機構55よりも搬送経路の下流側、かつ、反転機構60よりも搬送経路の上流側に位置する。排出機構65は、搬送ベルト32の第2領域A2に保持された錠剤9の全てを、不良品と良品とに分別しつつ、排出する。
【0049】
制御部100は、錠剤印刷装置1内の各部を動作制御するための手段である。
図4は、錠剤印刷装置1の制御ブロック図である。
図4中に概念的に示したように、制御部100は、CPU等のプロセッサ101、RAM等のメモリ102、およびハードディスクドライブ等の記憶部103を有するコンピュータにより構成される。記憶部103内には、錠剤9の搬送および印刷処理を実行するためのコンピュータプログラムCPが、記憶されている。
【0050】
また、
図4に示すように、制御部100は、上述したボウルフィーダ11、供給コンベア13、第1ドラム15、第2ドラム20、第1カメラ25、搬送コンベア30、第2カメラ35、インクジェット印刷部40、レーザ印刷部45、第3カメラ50、乾燥機構55、反転機構60、および排出機構65と、それぞれ電気的に接続されている。
【0051】
制御部100は、記憶部103に記憶されたコンピュータプログラムCPやデータをメモリ102に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムCPに基づいて、プロセッサ101が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、複数の錠剤9の搬送と、各錠剤9に対する印刷処理とが進行する。
【0052】
制御部100は、
図4に示すように、データ処理装置90と電気的に接続されている。データ処理装置90は、錠剤印刷装置1へ入力する印刷データを処理するための手段である。データ処理装置90は、例えば、CPU等の演算処理部、RAM等のメモリ、および、ハードディスクドライブ等の記憶部を有するコンピュータにより構成される。そして、データ処理装置90は、記憶部に記憶されたコンピュータプログラムやデータをメモリに一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムに基づいて、演算処理部が演算処理を行うことにより、後述するデータ処理を行う。これにより、印刷データを作成するためのデータ処理が進行する。
【0053】
<2.レーザ印刷部の構成について>
続いて、レーザ印刷部45の詳細な構成について、説明する。レーザ印刷部45は、表面に変色誘起酸化物を含む錠剤9に対してレーザ光を照射し、当該変色誘起酸化物を変色させることにより、錠剤9の表面に画像を形成する。
【0054】
レーザ印刷方式に用いられる変色誘起酸化物は、金属酸化物であって、例えば、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄を用いることができる。本実施形態では、錠剤9の表面に含まれる変色誘起酸化物は、酸化チタンである。酸化チタンの具体的な種類は、特に限定されるものではなく、ルチル型、アナターゼ型またはそれらの混合物であってもよいし、シリカ等を内包する加工または改質した酸化チタンであってもよい。
【0055】
変色誘起酸化物の一種である黄色三二酸化鉄は、天然に存在する顔料であり、着色剤として使用されている。黄色三二酸化鉄は黄色から帯褐黄色の粉末であり、水にほとんど溶けない。また、変色誘起酸化物の一種である本発明に用いる三二酸化鉄は、天然に存在する顔料であり、着色剤として使用されている。三二酸化鉄は赤色から赤褐色または暗赤紫色の粉末であり、水にほとんど溶けない。
【0056】
錠剤9の表面部における変色誘起酸化物の配合量は特に限定されない。例えば、錠剤9の表面部における酸化チタンの配合量は、成形物または被覆層に対して、0.01~20質量%であることが好ましく、2~4質量%であることがより好ましい。また、例えば、錠剤9の表面部における黄色三二酸化鉄の配合量は、成形物または被覆層に対して、0.001~5質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。また、例えば、錠剤9の表面部における三二酸化鉄の配合量は、成形物または被覆層に対して、0.001~5質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。
【0057】
図5は、レーザ印刷部45の構成を概念的に示した図である。
図5に示すように、レーザ印刷部45は、レーザ光源46、照明光学系47、空間光変調器48、および投影光学系49を有する。
【0058】
レーザ光源46には例えば、光源波長200~1100nm、平均出力0.1~50Wのレーザが用いられる。レーザ光源46のパルス幅は、1nsec以下であることが好ましい。
【0059】
照明光学系47は、光学レンズを含む光学系である。照明光学系47は、レーザ光源46から入射されたスポットレーザ光をライン状(線状)に変形して出射する。このため、レーザ光源46および照明光学系47は、空間光変調器に対して幅方向に延びるライン状のレーザを出射するレーザ出射部である。
【0060】
空間光変調器48は、入射された光の空間的な分布を電気的に制御することにより、光を変調させるデバイスである。本実施形態では、空間光変調器48として、PLV(Planer Light Valve)と呼ばれる空間光変調器が用いられる。照明光学系47からライン状のレーザ光が入射されると、空間光変調器48は、幅方向に並ぶ複数のスポット光を出射する。空間光変調器48は、照明光学系47からライン状のレーザが入射され、幅方向に並ぶ複数のスポット状または短いライン状のレーザ光を出射する。
【0061】
投影光学系49は、空間光変調器48から入射された複数のスポット光を適宜拡大/縮小させて、搬送ベルト32上を搬送される錠剤9の表面に照射する。
【0062】
図5に示すように、空間光変調器48は、PLV基板481と、PLV光学系482とを含む。
図6は、PLV基板481の構成を概念的に示した図である。
図7は、PLV基板481の表面付近の断面を概念的に示した図である。
【0063】
図6に示すように、PLV基板481は、固定面711を有する本体部71と、駆動面721を有する複数のピストン72とを有する。本体部71は、固定面711から裏面へ向かって凹む穴712を複数有している。ピストン72はそれぞれ、本体部71の穴712の内部に配置されている。ピストン72は、幅方向、および、幅方向に直交する太さ方向に、それぞれ間隔を空けて2次元的に配置されている。ピストン72は、固定面711に対して垂直方向に移動可能である。なお、以下では、固定面711に対して垂直方向の位置を「高さ」と称する。
【0064】
図7に示すように、ピストン72がON状態である場合には、ピストン72の駆動面721は固定面711と同じ平面上に配置される。すなわち、固定面711と駆動面721とが同じ高さに配置される。また、ピストン72がOFF状態である場合には、ピストン72の駆動面721が、固定面711よりも距離d、PLV基板481の内方に配置される。すなわち、駆動面721と固定面711との高さが、距離dだけ異なる。なお、距離dは、PLV基板481へ照射するレーザ光の波長λに対して、d=λ/4となるように設定される。
【0065】
図6において、PLV基板481の有するピストン72は幅方向に10列、太さ方向に6列表示されているが、これは実際のPLV基板481のピストン72の数を限定するものではない。ピストン72が、幅方向にn列、太さ方向にm列配置されているとして、ピストン72は、幅方向の複数列(k列とする)ずつを1チャンネルとして駆動される。すなわち、幅方向k列×太さ方向m列の合計(k×m)個のピストンが、1チャンネルとして同時にON/OFFされる。
【0066】
なお、実際に用いられるPLV基板481の一例では、幅方向27mm、太さ方向1mmの受光エリアにおいて、幅方向にn=1088列、太さ方向にm=40列のピストン72が配置されたものが用いられる。この場合、例えば、幅方向k=4列、太さ方向m=40列の合計140個のピストン72を含む領域を1チャンネルとして用いる。
【0067】
図6には、幅方向2列ずつ、計12個のピストン72を1チャンネルとして、左側から順にOFF状態の第1チャンネルch1、ON状態の第2チャンネルch2、ON状態の第3チャンネルch3、OFF状態の第4チャンネルch4、および、ON状態の第5チャンネルch5が図示されている。
【0068】
図7に示すように、ON状態のチャンネルにおいては、交互に配置される固定面711と駆動面721とが同じ高さに配置されため、ON状態のチャンネルへの入射光は、固定面711と駆動面721とによって形成される平坦な面で反射される。すなわち、PLV基板481における反射によって回折は生じない。すなわち、ON状態のチャンネルにおいては、正反射光(0次回折光)が出射される。
【0069】
一方、OFF状態のチャンネルにおいては、交互に配置される固定面711と駆動面721との高さが距離d=λ/4だけ異なる。このため、OFF状態のチャンネルへの入射光は、異なる高さの固定面711と駆動面721とによって反射される。このとき、固定面711で反射された光(
図7中黒矢印で表示)と、駆動面721で反射された光(
図7中白抜き矢印)との位相は、λ/2となる。その結果、OFF状態のチャンネルにおいては、1次回折光(±1次回折光)が出射される。
【0070】
このように、PLV基板481において反射された光は、ON状態のチャンネルで反射された正反射光(0次回折光)と、OFF状態のチャンネルで反射された1次回折光(±1次回折光)とを含む。
図5中には、正反射光(0次回折光)が濃いグレー、1次回折光(±1次回折光)が薄いグレーで示されている。そして、PLV基板481において反射された光は、PLV光学系482に入射される。
【0071】
PLV光学系482は、フーリエ変換レンズと、逆フーリエ変換レンズと、空間フィルター(アパーチャー)とを有する。フーリエ変換レンズは、PLV基板481がフーリエ変換レンズの前側焦点位置に配置されるように位置決めされる。空間フィルターは、フーリエ変換レンズと逆フーリエ変換レンズとの間のフーリエ面に配置される。フーリエ面において、正反射光(0次回折光)は光軸上に集まり、1次回折光は光軸外に集まる。このため、PLV光学系482は、空間フィルターには、光軸上の光線のみを通過させるフィルターを用いる。これにより、PLV光学系482は、ON状態のチャンネルから出射された正反射光(0次回折光)のみを通過させるとともに、OFF状態のチャンネルから出射された1次回折光の通過を遮断する。すなわち、PLV光学系482は、ON状態のチャンネルから出射された正反射光(0次回折光)のみを出射することができる。
【0072】
これにより、ライン状(帯状)のレーザ光が入射された空間光変調器48から出射される光は、ON状態のチャンネルの幅方向位置に対応する幅方向位置のみに部分的に照射される複数のスポット状レーザ光となる。なお、照射位置が連続する場合、短いライン状のレーザ光となる場合もある。
【0073】
このような構成のレーザ印刷部45によって、搬送ベルト32により搬送される錠剤9の表面に対して、幅方向の所望の位置にレーザを照射することができる。これにより、インクジェット方式のインクジェット印刷部40においてインクの吐出位置を決めるのと同様に、レーザ印刷部45においてレーザの照射位置を決めることができる。
【0074】
上記のように、空間光変調器48を用いることにより、レーザ光を走査させることなく、錠剤9の搬送経路の幅方向の広い範囲に対し、同時に、所望の位置にレーザ光を照射することができる。これにより、インクジェット方式と同様に、ワンパスで所望の画像を印刷することができる。すなわち、レーザ方式で粒状物に印刷を行う印刷装置において、レーザ走査型の印刷装置と比べて、複雑な補正を行うことなく、高精細な印字を高い処理速度で行うことができる。
【0075】
なお、本実施形態では、空間光変調器48にPLVを用いたが、本発明はこの限りではない。空間光変調器48には、DMD(Digital micro mirror device)やGLV(Grating Light Valve)等の、その他の空間光変調器を用いてもよい。
【0076】
また、本実施形態の錠剤印刷装置1は、インクジェット印刷部40とレーザ印刷部45との、印刷方式の異なる2つの印刷部を有する。このため、表面に変色誘起酸化物を含まない錠剤に対しては、インクジェット方式のみで印刷を行うことができる。また、表面に変色誘起酸化物を含む錠剤に対しては、インクジェット方式のみ、レーザ方式のみ、および、インクジェット方式およびレーザ方式を併用、の3種類の方法を用いて印刷を行うことができる。
【0077】
インクジェット方式およびレーザ方式を併用する場合、第1面と第2面の両面に、インクジェット方式で印刷する箇所と、レーザ方式で印刷する箇所とを設けてもよい。また、第1面はインクジェット方式で印刷し、第2面はレーザ方式で印刷するといったように、表裏で異なる印刷方法を採用してもよい。あるいは、インクジェット印刷部40とレーザ印刷部45との間に検査用カメラを配置し(例えば第3カメラ50の位置を変更する)、インクジェット方式での印刷に不備がある場合に、レーザ印刷部45による印刷を行ってもよい。
【0078】
<3.割線検出および印刷ジョブ生成方法について>
続いて、錠剤9の割線の検出と、印刷ジョブの生成方法について、説明する。
図8は、錠剤印刷装置1およびデータ処理装置90の回転角度に応じた印刷処理に関わる構成を、概念的に示したブロック図である。
【0079】
図8に示すように、本実施形態のデータ処理装置90は、ベクトル回転処理部91、画像変換処理部92および間引き処理部93を有する。ベクトル回転処理部91、画像変換処理部92および間引き処理部93の各機能は、上述したデータ処理装置90の記憶部に記憶されたコンピュータプログラムに従って、データ処理装置90としてのコンピュータが動作することによって実現される。
【0080】
ベクトル回転処理部91には、外部から、印刷すべき画像を表すベクトルデータである入力データD1が入力される。ベクトル回転処理部91は、入力データD1を所定の複数の回転角度にベクトル回転させる。これにより、ベクトル回転処理部91は、複数の回転角度に応じた複数のベクトル回転データD2を生成する。
【0081】
本実施形態のベクトル回転処理部91では、2°毎に入力データD1をベクトル回転させてベクトル回転データD2を生成する。すなわち、ベクトル回転処理部91は、回転角度が0°(無回転)、2°、4°、6°、…、358°までの180個のベクトル回転データD2を生成する。なお、ベクトル回転データD2を生成する回転角度は2°毎に限られない。ベクトル回転データD2を生成する回転角度は1°毎であってもよいし、1.5°毎、3°毎、あるいは、他の角度毎であってもよい。
【0082】
画像変換処理部92は、ベクトル回転処理部91の生成した複数のベクトル回転データD2のそれぞれをラスタライズし、ラスターデータD3に変換する。これにより、複数の回転角度に応じた複数のラスターデータD3が生成される。ラスターデータD3は、格子状に配列された領域ごとに印刷の有無と、インクジェット方式の場合にはインク吐出量が定められたデータである。
【0083】
間引き処理部93は、画像変換処理部92の生成した複数のラスターデータD3のそれぞれを間引きデータD4に変換する。これにより、複数の回転角度に応じた複数の間引きデータD4が生成される。間引きデータD4は、ラスターデータD3よりも印刷すべき画素数(以下「印刷画素数」と称する)の少ないラスターデータである。すなわち、間引きデータD4における印刷すべき領域(以下「印刷領域」と称する)は、ラスターデータD3における印刷領域よりも小さい。
【0084】
本実施形態のデータ処理装置90は、間引き処理部93の生成した間引きデータD4を、インクジェット方式の印刷データとして錠剤印刷装置1の制御部100へと出力する。また、画像変換処理部92の生成したラスターデータD3を、レーザ方式の印刷データとして錠剤印刷装置1の制御部100へと出力する。
【0085】
しかしながら、本発明はこれに限られない。本発明のデータ処理装置は、間引き処理部を有していなくてもよい。その場合、データ処理装置90は、画像変換処理部92の生成したラスターデータD3を、インクジェット方式の印刷データとして錠剤印刷装置1の制御部100へと出力する。また、レーザ方式の印刷データとして、間引き処理部93の生成した間引きデータD4を用いてもよい。
【0086】
なお、本実施形態の錠剤印刷装置1のように、錠剤9の表面と裏面の両方に対して印刷処理を行う場合、データ処理装置90において表面用の印刷データと、裏面用の印刷データとの双方を生成しておく必要がある。
【0087】
また、本実施形態の制御部100は、印刷データ保持部111、回転角度検出部112、印刷データ選択部113および印刷制御部114を有する。印刷データ保持部111の機能は、上述した記憶部103により実現される。回転角度検出部112、印刷データ選択部113および印刷制御部114の各機能は、上述したコンピュータプログラムCPに従って、制御部100としてのコンピュータが動作することによって実現される。
【0088】
印刷データ保持部111は、データ処理装置90から入力された間引きデータD4を印刷データとして記憶する。
【0089】
回転角度検出部112は、第1カメラ25から入力される錠剤9の画像データC1と、第2カメラ35から入力される錠剤9の画像データC2とに基づいて、搬送ベルト32により搬送される複数の錠剤9の表裏および割線の位置(回転角度)を検出する。そして、回転角度検出部112は、各錠剤9の表裏および回転角度の情報を含む検出結果D5を、印刷データ選択部113へと出力する。
【0090】
具体的には、搬送ベルト32の第1領域A1に保持された錠剤9については、第1カメラ25から入力される画像データC1と、第2カメラ35から入力される錠剤9の画像データC2とに基づいて、各錠剤9の表裏および回転角度を検出する。一方、搬送ベルト32の第2領域A2に保持された錠剤9については、第2カメラ35から入力される錠剤9の第1面を撮影した画像データC2と、第2カメラ35から入力される錠剤9の第2面を撮影した画像データC2とに基づいて、各錠剤9の表裏および回転角度を検出する。
【0091】
印刷データ選択部113は、回転角度検出部112の検出結果D5に基づいて、各錠剤9に印刷すべき印刷データD3,D4を印刷データ保持部111から選択し、印刷制御部114へと引き渡す。具体的には、印刷データ選択部113は、インクジェット方式で印刷を行う場合には、各錠剤9の回転角度に応じた間引きデータD4を選択し、レーザ方式で印刷を行う場合には、各錠剤9の回転角度に応じたラスターデータD3を選択する。
【0092】
印刷制御部114は、印刷データ選択部113から受け取った印刷データD3,D4に基づいてインクジェット印刷部40またはレーザ印刷部45を制御し、各錠剤9の表面に印刷処理を行う。
【0093】
以下では、データ処理装置90で行う回転処理、ラスタライズ処理、および間引き処理について説明する。まず、ベクトルデータの回転とラスタライズとの順番について、
図9~
図10の例を参照しつつ説明する。
図9は、ベクトルデータをラスタライズ後に回転し、その後再度ラスタライズした例を示した図である。
図10は、ベクトルデータをベクトル回転後にラスタライズした例を示した図である。なお、
図9~
図10では、2値データにラスタライズしている。
【0094】
錠剤印刷装置1では、インクジェット印刷部40においては、縦横の格子状に並んだインク吐出領域ごとにインクジェット式のヘッド41からインク滴を吐出する。これにより、インク吐出領域ごとに1つのインク滴が吐出される。また、錠剤印刷装置1では、レーザ印刷部45において、縦横の格子状に並んだレーザ照射領域ごとにレーザ光を照射する。
【0095】
このため、インクジェット印刷部40における印刷処理には、インク吐出領域ごとにインク滴の有無およびインク滴のサイズを規定した印刷データを用意する必要がある。また、レーザ印刷部45における印刷処理には、レーザ照射領域ごとにレーザ照射の有無を規定した印刷データを用意する必要がある。したがって、入力されたベクトルデータを縦横の格子状に並んだピクセル毎に表現されたラスターデータへ変換する必要がある。
【0096】
回転角度が0°(無回転)の場合、
図9の第1ラスターデータに示すように、画像データを回転させる必要がないため、ベクトルデータを単にラスタライズしたラスターデータを印刷用データとして用いることができる。
【0097】
回転角度が0°以外である場合、いずれかのタイミングで画像データを回転させることと、最終的な印刷用データとして所定の方向にラスタライズされたラスターデータを用意する必要がある。
【0098】
図9に示すように、ベクトルデータをラスタライズして得た第1ラスターデータを回転してラスター回転データを生成する場合、ラスター回転データの各ピクセルは、縦横方向に対して傾斜した格子状に配置される。このため、ラスター回転データは印刷用データとして用いることができない。したがって、ラスター回転データを縦横方向のピクセルデータへ変換するために、再度ラスタライズする必要がある。再ラスタライズにより得られた第2ラスターデータは、回転角度が0°(無回転)の場合のラスターデータと比べてがたつきが大きく、印刷品質が低下する虞がある。
【0099】
そこで、本実施形態のデータ処理装置90では、
図10に示すように、ベクトルデータをベクトル回転して得たベクトル回転データをラスタライズすることにより、ラスターデータを生成する。このようにすれば、回転角度が0°(無回転)の場合と同等の品質のラスターデータを得ることができる。したがって、印刷品質が低下するのが抑制される。
【0100】
この錠剤印刷装置1では、画像変換処理部92が複数のラスターデータD3を生成した後、間引き処理部93が、複数のラスターデータD3のそれぞれを変換し、複数の間引きデータD4を生成する。
【0101】
図11は、印刷データ保持部111に記憶される間引きデータD4の一例を示した図である。
図11に示すように、印刷データ保持部111には、回転角度と、各間引きデータD4とを対応させたテーブルデータが保存される。また、同様に、印刷データ保持部111には、回転角度と、各ラスターデータD3とを対応させたテーブルデータが保存される。
【0102】
ここで、間引き処理部93による変換処理について、
図12を参照しつつ説明する。
図12は、間引きパターンの例を示した図である。インクジェット方式で印刷を行う際、錠剤9が糖衣錠等の表面に光沢を有する錠剤である場合、吐出されたインク滴が錠剤9の表面上を移動しやすい。このため、インク滴が流れて隣り合うインク滴と繋がるモットリングと呼ばれる現象が起りやすい。モットリングは、錠剤9の搬送速度が大きくなるにつれて生じやすくなる。
【0103】
モットリングの発生を低減するためには、
図12に示すように、インク吐出領域が連続しないように、連続するインク吐出領域を間引く方法が有効である。
図12には、(a)間引きを行う前のベタパターン、(b)市松パターン(50%間引き)、(c)62.5%間引きパターン、(d)37.5%間引きパターンの4種類について、左列には各パターンのパターン拡大図、右列には各パターンを用いた間引きデータの例が示されている。
【0104】
(b)市松パターン(50%間引き)は、1つのインク吐出領域と1つの非吐出領域とを、縦方向および横方向に交互に配置した、いわゆる市松模様状のパターンである。このようなパターンを用いた場合、間引きデータD4におけるインク吐出画素数は、ラスターデータD3におけるインク吐出画素数の約50%となる。
【0105】
(c)62.5%間引きパターンは、十字状に並んだ5つのインク吐出領域と、1つずつの非吐出領域とを、縦方向および横方向に交互に配置したものである。このようなパターンを用いた場合、間引きデータD4におけるインク吐出画素数は、ラスターデータD3におけるインク吐出画素数の約62.5%となる。62.5%間引きパターンを用いれば、市松パターン(50%間引きパターン)よりも濃く印刷できる。
【0106】
(d)37.5%間引きパターンは、1つずつのインク吐出領域と、十字状に並んだ5つの非吐出領域とを、縦方向および横方向に交互に配置したものである。このようなパターンを用いた場合、間引きデータD4におけるインク吐出画素数は、ラスターデータD3におけるインク吐出画素数の約37.5%となる。37.5%間引きパターンを用いれば、市松パターン(50%間引きパターン)よりもモットリングをさらに抑制できる。
【0107】
また、間引きデータD4は、
図12に例示したパターン以外のパターンにより構成されてもよい。例えば、間引きデータD4に使用されるパターンにおいて、隣り合うインク吐出領域で構成されるインク吐出グループの形状が複数あってもよいし、隣り合う非吐出領域で構成される非吐出グループの形状が複数あってもよい。
【0108】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0109】
上記の実施形態では、インクジェット印刷部40に、4つのヘッド41が設けられていた。しかしながら、インクジェット印刷部40に含まれるヘッド41の数は、1~3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0110】
また、上記の実施形態では、錠剤9に対して印刷を行う錠剤印刷装置1について説明した。しかしながら、本発明は、錠剤等の粒状物に対して、印刷を行う装置であってもよい。
【0111】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に取捨選択してもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 錠剤印刷装置
9 錠剤
15 第1ドラム
20 第2ドラム
25 第1カメラ
30 搬送コンベア
35 第2カメラ
40 インクジェット印刷部
45 レーザ印刷部
46 レーザ光源
47 照明光学系
48 空間光変調器
49 投影光学系
50 第3カメラ
71 本体部
72 ピストン
481 PLV基板
482 PLV光学系
711 固定面
712 穴
721 駆動面