(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118803
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】水分バリア性積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025316
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南郷 瞬也
(72)【発明者】
【氏名】奥山 真平
(72)【発明者】
【氏名】高山 圭将
(72)【発明者】
【氏名】河西 美理
(72)【発明者】
【氏名】小沢 和美
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AA20B
4F100AH03C
4F100AH03D
4F100AK01A
4F100AK24C
4F100AK25E
4F100AK42A
4F100AK46D
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4F100GB41
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4F100JD04
4F100JD04B
4F100JD15C
4F100JD15D
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】無機バリア層と吸湿層とを備え、吸湿層の失活が有効に抑制され、水分に対して優れたバリア性が長期にわたって安定に発揮される水分バリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】プラスチック基材1上に、無機バリア層3と吸湿層5とを有しており、無機バリア層5が、吸湿層5に対して高水分雰囲気側に配置される水分バリア性積層フィルム10において、無機バリア層3と吸湿層5との間には、準吸湿層7が設けられており、準吸湿層7と吸湿層5の水の溶解度係数が、下記式(1):
0.1S2≦S1<S2 (1)
式中、
S1は、該準吸湿層における85℃での水の溶解度係数であり、
S2は、前記吸湿層における85℃での水の溶解度係数である、
で示される条件を満足していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材上に、無機バリア層と吸湿層とを有しており、該無機バリア層が、該吸湿層に対して高水分雰囲気側に配置される水分バリア性積層体において、
前記無機バリア層と吸湿層との間には、準吸湿層が設けられており、
前記吸湿層と準吸湿層の水の溶解度係数が、下記式(1):
0.1S2≦S1<S2 (1)
式中、
S1は、該準吸湿層における85℃での水の溶解度係数であり、
S2は、前記吸湿層における85℃での水の溶解度係数である、
で示される条件を満足していることを特徴とする水分バリア性積層フィルム。
【請求項2】
前記S1は、前記S2の60%以下である請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記吸湿層は、吸湿性ポリマーのマトリックス中に吸湿剤が分散されている層であり、前記準吸湿層は、吸湿剤を含んでいない樹脂から形成されている請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記吸湿性ポリマーのマトリックス中の吸湿剤が粒状吸湿剤である、請求項3に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記準吸湿層の厚みが10μm未満である請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記吸湿層と前記準吸湿層との間に、溶解度係数S3が、0.06S2(S2は、前記のとおり)よりも小さい疎水性樹脂により形成された疎水層が設けられている請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項7】
前記吸湿層と前記準吸湿層との間或いは前記無機バリア層と前記準吸湿層との間に、85℃で測定した水の拡散係数Dが5×10-8cm2/sec以上の樹脂から形成された水分拡散層が設けられている請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項8】
前記準吸湿層が、ポリアミドにより形成されている請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム。
【請求項9】
前記吸湿層よりも低水分雰囲気側に、無機バリア層を有する請求項1に記載の水分バリア性積層フィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機バリア層と吸湿層と有している水分バリア性積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種プラスチック基材の特性、特にガスバリア性を改善するための手段として、プラスチック基材の表面に、蒸着により、ケイ素酸化物などからなる無機バリア層を形成することが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、近年において広く使用されている各種の電子デバイス、例えば有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパーなどでは、電荷のリークを嫌うため、その回路基板などを形成するプラスチック基材或いは回路基板を封止するフィルムなどのプラスチック基材に対して高い水分バリア性が要求されている。上記で述べた無機バリア層の形成では、このような水分バリア性に対する高い要求に応えることができないため、水分バリア性を向上させる種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、本出願人により、特定の粒状吸湿剤がイオン性ポリマーのマトリックス中に分散された水分トラップ層がプラスチック基材上の無機バリア層の上に形成されているガスバリア性積層体が提案されている。
【0005】
このように、水分バリア性を高度に高めるために、無機バリア層と吸湿層(捕水層)とを組み合わせた層構成の種々の積層体が提案されているのであるが、何れも、吸湿層の失活が短期間で生じてしまい、優れた水分バリア性が十分に発揮されないという問題があった。
【0006】
また、特許文献4には、水分に対して優れたバリア性が長期にわたって安定に発揮される水分バリア性積層体(フィルム)が本出願人により提案され、既に特許されている。
【0007】
特許文献4の技術は、高湿度雰囲気側に配置される無機バリア層と吸湿層との間に、水分拡散性に優れた有機層を10μm以上の厚みで厚く形成することにより、吸湿層の失活を有効に抑制し、長期にわたって、優れた水分バリア性を発揮させるという技術である。即ち、無機バリア層には、少なからずクラックなどの欠陥が局部的に形成されており、これらの欠陥を通って、水分が吸湿層に集中して流れ込むことにより、吸湿層が速く消耗するが、特許文献4の技術では、無機バリア層の欠陥を通って流れた水分は、厚い厚み(10μm以上)の有機層によって、速やかに拡散されるため、局部的に集中して吸湿層に水分が流れ込むという不都合が有効に防止され、これにより、吸湿層の消耗が緩和され、優れた水分バリア性が長期にわたって発揮されるというものである。
【0008】
しかしながら、特許文献4による水分バリア性の長寿命化には限界があり、さらに、水分バリア性を長期にわたって発揮させることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2014/123197
【特許文献2】特開2014-168949号公報
【特許文献3】特開2014-168950号公報
【特許文献4】特許第6657651号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、無機バリア層と吸湿層とを備え、吸湿層の失活が有効に抑制され、水分に対して優れたバリア性がより一層長期にわたって安定に発揮される水分バリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、特許文献4の技術をさらに推し進め、無機バリア層と吸湿層との間に、吸湿層ほどではないが、吸湿層に準ずる吸湿性能を有する層(準吸湿層)を設けることにより、吸湿層の失活(消耗)を抑制し、水分バリア性をより長期にわたって発揮させ得るというものである。
【0012】
本発明によれば、プラスチック基材上に、無機バリア層と吸湿層とを有しており、該無機バリア層が、該吸湿層に対して高水分雰囲気側に配置される水分バリア性積層体において、
前記無機バリア層と吸湿層との間には、準吸湿層が設けられており、
前記吸湿層と準吸湿層の水の溶解度係数が、下記式(1):
0.1S2≦S1<S2 (1)
式中、
S1は、該準吸湿層における85℃での水の溶解度係数であり、
S2は、前記吸湿層における85℃での水の溶解度係数である、
で示される条件を満足していることを特徴とする水分バリア性積層フィルムが提供される。
【0013】
本発明の水分バリア性積層フィルムにおいては、次の態様が好適に採用される。
(1)前記S1は、前記S2の60%以下であること。
(2)前記吸湿層は、吸湿性ポリマーのマトリックス中に吸湿剤が分散されている層であり、前記準吸湿層は、吸湿剤を含んでいない樹脂から形成されていること。
(3)前記吸湿性ポリマーのマトリックス中の吸湿剤が粒状吸湿剤であること。
(4)前記準吸湿層の厚みが10μm未満であること。
(5)前記吸湿層と前記準吸湿層との間に、溶解度係数S3が、0.06S2(S2は、前記のとおり)よりも小さい疎水性樹脂(S3は、疎水性樹脂の溶解度係数である)により形成された疎水層が設けられていること。
(6)前記吸湿層と前記準吸湿層との間或いは前記無機バリア層と前記準吸湿層との間に、85℃で測定した水の拡散係数Dが5×10-8cm2/sec以上の樹脂から形成された水分拡散層が設けられていること。
(7)前記準吸湿層が、ポリアミドより形成されていること。
(8)前記吸湿層よりも低水分雰囲気側に、無機バリア層を有すること。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水分バリア性積層フィルムは、無機バリア層と吸湿層とを有するものであるが、吸湿層に対して高水分雰囲気側に無機バリア層が配置されているという基本構造を有している。即ち、この積層フィルムを有機EL等のデバイスに取り付ける場合、吸湿層に対して大気側には無機バリア層が配置されており、従って、吸湿層は、この無機バリア層に対してはデバイスの内部側に位置することとなる。このため、水分は、無機バリア層側から吸湿層側に向かって透過する構造となっている。このような基本構造は、例えば、特許文献4の水分バリア性積層体においても採用されている。
【0015】
このような基本構造を有する本発明の水分バリア性積層フィルムは、上記の無機バリア層と吸湿層との間に、下記式(1):
0.1S2≦S1<S2 (1)
好ましくは、S1≦0.6xS2
式中、
S1は、該準吸湿層における85℃での水の溶解度係数であり、
S2は、前記吸湿層における85℃での水の溶解度係数である、
で示される条件を満足している準吸湿層が設けられている点に大きな特徴を有している。この準吸湿層は、上記の水の溶解度係数についての条件式から理解されるように、吸湿層ほどではないが、ある程度の吸湿性を示す層である。
【0016】
即ち、このような準吸湿層を設けているため、本発明の水分バリア性積層フィルムは、吸湿層が示す優れた吸湿性を長期間にわたって発揮させることができ、水分バリア性を最大限に活用することができる。
本発明において、かかる準吸湿層は、極めて安価に形成することができるため、工業的な利点は極めて大きく、他の層との組み合わせにより、コスト高を回避しながら、水分バリア性をより高めることができるのが最大の利点である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の水分バリア性フィルムの層構造の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<本発明の水分バリア性積層フィルムの基本層構造>
本発明の水分バリア性積層フィルムは、水分の侵入を嫌うデバイスに装着して、所謂封止材として使用されるものである。かかる積層フィルムの層構造を示す
図1を参照して、全体として10で示す積層フィルムは、プラスチック基材1上に無機バリア層3と吸湿層5とを有しており、この無機バリア層3は、吸湿層5に対して高水分雰囲気側に位置するという基本構造を有している。即ち、封止材としてデバイスに装着されたとき、無機バリア層3は、デバイスの外部(高水分雰囲気)側に位置し、吸湿層5がデバイスの内部(低水分雰囲気)側に位置している。
【0019】
このような基本構造では、デバイス外部の高水分雰囲気側からデバイス内部の低水分雰囲気側に流れる水分は、プラスチック基材1上に設けられた無機バリア層3で堰き止められるが、この無機バリア層3をすり抜けた水分が、吸湿層5で捕捉されることとなる。かかる基本構造は、従来公知の水分バリア積層フィルムでも広く採用されている。
【0020】
ところで、吸湿層5では、吸湿できる水分量に限界があり、当然のことながら、限界量まで水分を吸湿したのちは、水分をトラップする性能が失われてしまう。即ち、このような積層フィルム10の水分バリア性は、吸湿層5が有する限界吸湿水分量に大きく依存することとなる。従って、水分バリア性を長期にわたって発揮させるためには、吸湿層5の厚みを厚くすればよいのであるが、吸湿層5の厚みの増大は、吸湿層5の膨潤による体積変化をもたらし、この体積変化によってデラミネーションを生じ易く、デラミネーションによる水分バリア性の低下を生じてしまう。また、吸湿層5は、通常の樹脂層と比較して、製造コストが高く、吸湿層5の厚みの増大は製造コストの点でも不利となってしまう。
【0021】
しかるに、本発明の水分バリア性積層フィルム10では、無機バリア層3と吸湿層5との間、即ち、吸湿層5に対して高水分雰囲気側の位置に、準吸湿層7が設けられている。この準吸湿層7は、後で詳述するが、吸湿層5ほどの吸湿性は示さないが、ある程度の吸湿性を示すため、これにより、吸湿層5の厚みを必要以上に厚くせずに、吸湿層5の吸湿量が限界水分量に達するまでの時間を長期化し、長期にわたって優れた水分バリア性を発揮させることが可能となるものである。
【0022】
しかも、この準吸湿層7は、製造コストが安価であるという利点があり、さらには、この厚みが10μm未満と薄くとも、水分バリア性の長寿命化に大きく寄与する。
例えば、吸湿層5の厚みを厚くして水分バリア性の長寿命化を図る場合と比較して、準吸湿層7を設けることは、デラミネーションの発生を防止できることができるばかりか、コストの点でもメリットがある。また、先の特許文献4は、水分拡散のための有機層を設けることにより、無機バリア層3に存在するクラックなどの欠陥からの局部的な水分の流入を緩和し、吸湿層5の短期間での性能低下を防止するという技術であるが、この場合には、有機層の厚みを10μm以上に厚く設ける必要がある。しかるに、準吸湿層7は、水分拡散機能を示すものではなく、単に補助的に水分を吸湿するというものであるため、この厚みが10μmよりも薄くてよい。このため、公知の種々の技術と組み合わせて、水分バリア性の向上を図ることができる。この点についても後述する。
【0023】
上記の準吸湿層7は、必要に応じて、接着剤層9を介して、無機バリア層3或いは吸湿層5に接着固定される。
以下、各層について、説明する。
【0024】
<プラスチック基材1>
プラスチック基材1は、無機バリア層3の下地となるものであり、通常、熱可塑性或いは熱硬化性の樹脂により、その形態に応じて、射出乃至共射出成形、押出乃至共押出成形、フィルム乃至シート成形、圧縮成形性、注型重合等により成形される。一般的には、成形性やコスト等の観点から、熱可塑性樹脂が好適である。
【0025】
このような熱可塑性樹脂の例としては、以下のものを挙げることができる。
オレフィン系樹脂:
低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、さらには、環状オレフィンコポリマーや環状オレフィンポリマー等;
エチレン・ビニル化合物共重合体:
エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂:
ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等
ポリビニル化合物:
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド:
ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等;
熱可塑性ポリエステル:
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等;
その他:
ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、アリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸などの生分解性樹脂等;
さらに、上記樹脂のブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたもの(例えば、酸変性オレフィン樹脂など)であってもよい。
【0026】
また、このプラスチック基材1は、エチレン・ビニルアルコール共重合体の如き酸素バリア性に優れたガスバリア性樹脂などにより形成することもでき、このようなガスバリア性樹脂により形成された層を含む多層構造を有していてもよい。即ち、このようなガスバリア性樹脂を含むプラスチック基材1を下地として、無機バリア層3を形成することができる。
【0027】
本発明においては、入手のし易さ、コスト、成形性、或いは酸素や水分に対して多少なりともバリア性を示し、さらには、後述する無機バリア層3の下地として好適であるという観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂や、ポリイミド樹脂、環状オレフィンコポリマーや環状オレフィンポリマー等の環状オレフィン系樹脂のフィルムをプラスチック基材層1として使用することがより好適である。
【0028】
上述したプラスチック基材1の厚みは特に制限されないが、この厚みが過度に厚いと、水分透過率が大きくなり、前述した水分バリア性が低下するおそれがある。また、フレキシブル性が損なわり、取り扱い難くなることもある。従って、プラスチック基材1の厚みは、通常、200μm以下とし、より好ましくは125μm以下とし、この範囲で適度な水分透過率を確保することができ、さらには無機バリア層3の成膜を効果的に行い得るような厚み、例えば20μm以上とするのがよい。
【0029】
<無機バリア層3>
本発明において、高水分雰囲気側に位置している無機バリア層3は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって形成される無機質の蒸着膜、例えば各種金属乃至金属酸化物により形成される膜であるが、特に、凹凸を有する面にも均一に成膜され、水分のみならず酸素等に対しても優れたバリア性を発揮するという点で、プラズマCVDにより形成される蒸着膜であることが好ましい。このような無機バリア層3は、前述したプラスチック基材1上に形成されるわけである。
【0030】
尚、プラズマCVDによる蒸着膜(無機バリア層3)は、所定の真空度に保持されたプラズマ処理室内に無機バリア層を支持すべきプラスチック基材を配置し、膜形成する金属若しくは該金属を含む化合物のガス(反応ガス)及び酸化性ガス(通常酸素やNOxのガス)を、適宜、アルゴン、ヘリウム等のキャリアガスと共に、ガス供給管を用いて、金属壁でシールドされ且つ所定の真空度に減圧されているプラズマ処理室に供給し、この状態でマイクロ波電界や高周波電界などによってグロー放電を発生させ、その電気エネルギーによりプラズマを発生させ、上記化合物の分解反応物をプラスチック基材の表面に堆積させて成膜することにより得られる。
マイクロ波電界により成膜する場合は、導波管等を用いてマイクロ波をプラズマ処理室内に照射することにより成膜が行われ、高周波電界による場合は、プラズマ処理室内のプラスチック基材を一対の電極の間に位置するように配置し、この電極に高周波電界を印加して成膜が行われる。
【0031】
上記の反応ガスとしては、一般に、プラスチック基材表面に炭素成分を含む柔軟な領域を有し且つその上に酸化度の高いバリア性に優れた領域を有する膜を形成できるという観点から有機金属化合物、例えばトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物や、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ケイ素化合物等のガスを用いることが好ましく、特に、酸素に対するバリア性の高い無機バリア層3を比較的容易に効率良く形成できるという点で、有機ケイ素化合物が最も好ましい。
【0032】
このような有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これら以外にも、アミノシラン、シラザンなどを用いることもできる。
上述した有機金属化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。
【0033】
上記のような有機金属化合物の反応ガス及び酸化性ガスを用いてのプラズマCVDによる成膜に際しては、グロー放電出力(例えばマイクロ波或いは高周波出力)を低くし、低出力で成膜を開始した後、高出力でプラズマ反応による成膜を行うことが好適である。
【0034】
即ち、有機金属化合物の分子中に含まれる有機基(CH3やCH2など)は、通常、CO2となって揮散するが、低出力では、その一部はCO2まで分解せず、プラスチック基材の表面に堆積して膜中に含まれることとなる。一方、出力が高められるほど、有機基はCO2まで分解していくこととなる。従って、出力を高めることにより、膜中のC含量を少なくし、有機金属化合物中に含まれる金属の酸化度の高い膜を形成することが可能となる。しかるに、金属の酸化度の高い膜は、酸素等のガスに対するバリア性は極めて高いが、可撓性が乏しく、プラスチック基材との密着性が十分でないのに対して、金属の酸化度が低く、有機成分含量の多い膜は、ガスに対するバリア性は十分ではないが、可撓性に富み、プラスチック基材に対して高い密着性を示すこととなる。
【0035】
上記の説明から理解されるように、本発明では、反応ガスとして有機金属化合物を使用し且つプラズマCVDによる成膜初期に低出力で成膜を行った後に出力を増大させて成膜を行うことにより、プラスチック基材の表面に接する部分に有機成分(炭素)を多く含む密着性の高い領域が形成され、その上に、金属の酸化度が高く、ガスバリア性の高い領域が形成されることとなる。
【0036】
従って、本発明における無機バリア層3は、優れたガスバリア性を確保するために、金属(M)の酸化度をx(x=O/Mの原子比)としたとき、この酸化度xが1.5乃至2.0の高酸化度領域を含んでいることが好ましい。また、この高酸化度領域の下側(プラスチック基材の表面と接する側)には、金属(M)、酸素(O)及び炭素(C)の3元素基準で、炭素(C)濃度が20元素%以上の有機領域が形成されていることが好ましい。さらに、この金属(M)としては、ケイ素(Si)が最も好ましい。
【0037】
尚、無機バリア層3における上記高酸化度領域は、無機バリア層3の全体厚みの60%以上の割合で存在していることが好ましく、上記有機領域は、無機バリア層3の全体厚みの5乃至40%程度の厚みでプラスチック基材の表面と接触側に形成されていることが好ましい。
【0038】
上述した有機領域や高酸化度領域を有する無機バリア層3をプラズマCVDにより成膜する際のグロー放電出力は、マイクロ波による場合と高周波による場合とで多少異なっている。例えばマイクロ波の場合は、30乃至100W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、90W以上の高出力で成膜が行われる。また、高周波の場合は、20乃至80W程度の低出力で有機領域の形成が行われ、高酸化度領域では、100W以上の高出力で成膜が行われる。
成膜時間は、各領域の厚みが、前述した範囲内となるように設定すればよい。
【0039】
また、上述した無機バリア層3の全体厚みは、水分バリア性積層フィルム10の用途や要求されるバリア性のレベルによっても異なるが、一般的には、10-2g/m2・day/atom以下、特に10-3g/m2・day/atom以下の水蒸気透過度が確保できる程度の厚みとするのがよく、上述した高酸化度領域が占める割合によっても異なるが、一般に、4乃至500nm、特に30乃至400nm程度の厚みを有していればよい。
尚、上述した無機バリア層3は、前述したプラスチック基材1上に成膜された状態で、ガスバリアフィルムとして市販されている。
【0040】
<吸湿層5>
本発明の水分バリア性積層フィルム10中の吸湿層5は、水分トラップ層とも呼ぶことができる。バリア性能を高める観点で、例えば、85℃での水の溶解度係数S2(単位体積当たりの水の溶解量)が0.5~4.0g/cm
3・atm、特に0.6~3.5g/cm
3・atmの範囲にあることが好ましい。この値が小さいと、透過水分をトラップするための吸湿性が不足して水分バリア性が十分に発揮できない。また、値が大きすぎる場合は吸湿に伴う膨潤で膜の破壊やデラミネーションを生じやすくなる。即ち、このような吸湿層5の存在により、本発明の水分バリア性積層フィルム10は、優れた水分バリア性を示し、
図1に示す配置でデバイスに貼付することにより、デバイス内部への水分の侵入を有効に防止することができるのである。
【0041】
このような吸湿層5は、樹脂マトリックス中に吸湿剤を分散させたものであるが、特に、水分に対する高いバリア性が要求される場合には、水分捕捉性が優れ、しかも水分吸収に起因する膨潤などの変形が有効に回避されているという観点から、前述した特許文献4に記載されているように、イオン性ポリマー中に粒状吸着剤が分散されている層であることが好ましい。
【0042】
上記のイオン性ポリマーは、この吸湿層5のマトリックスを形成するものであり、イオン性基としてカチオン性基(NH2基など)を有するカチオン性ポリマーと、イオン性基としてアニオン性基(COONa基,COOH基など)を有しているアニオン性ポリマーがあり、粒状吸着剤としては、一般に、イオン性ポリマーよりも到達湿度が低いものが使用される。
【0043】
即ち、上記のイオン性ポリマーをマトリックスとする吸湿層5では、前述した無機バリア層3を通って流入した微量の水分は、このマトリックス(イオン性ポリマー)に吸収されることとなる。マトリックス自体が高い吸湿性を示し、前述した高い溶解度係数S2を示すため、水分を漏れなく捕水し、吸収するわけである。
【0044】
ところで、単に水分がマトリックスに吸収されたに過ぎない場合には、温度上昇などの環境変化により、吸収された水分は容易に放出されてしまうこととなる。また、水分の侵入により、マトリックスを形成するポリマー分子の間隔を広げ、この結果、吸湿層5は膨潤し、大きな体積増大が生じる。しかるに、マトリックス(イオン性ポリマー)よりも到達湿度が低い吸着剤が分散されている場合には、マトリックス中に吸収された水分は、このマトリックスよりも吸湿性の大きい(即ち、到達湿度が低い)吸湿剤によってさらに捕捉されることとなり、吸収された水分子による膨潤が有効に抑制されるばかりか、この水分子は、吸湿層5中に閉じ込められ、この結果、吸湿層5からの水分の放出も有効に防止されることとなる。
【0045】
このように、イオン性ポリマー中に吸着剤を分散させることにより吸湿層5を形成した場合には、高い吸湿能力と共に水分の捕捉と閉じ込めとの2重の機能を有しているため、極低湿度の雰囲気下でも水分を捕捉することができ、水分が無機バリア層を透過する速度よりも十分速い速度で捕捉して更に層全体で水分を補足するために外部へ漏らすことも無く、著しく高い水分バリア性を実現することができる。
【0046】
イオン性ポリマー(カチオン性ポリマー);
本発明において、上記のようなマトリックスの形成に使用するイオン性ポリマーの内、カチオン性ポリマーは、水中で正の電荷となり得るカチオン性基、例えば、1~3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウムなどを分子中に有しているポリマーである。このようなカチオン性ポリマーは、カチオン性基が、求核作用が強く、かつ水素結合により水を補足するため、吸湿性を有するマトリックスを形成することができる。
カチオン性ポリマー中のカチオン性基量は、一般に、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K-7209-1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%~45%となるような量であればよい。
【0047】
また、カチオン性ポリマーとしては、アリルアミン、エチレンイミン、ビニルベンジルトリメチルアミン、[4-(4-ビニルフェニル)-メチル]-トリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体;及び、それらの塩類;に代表されるカチオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に、重合乃至共重合し、さらに必要により、酸処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0048】
また、上記のカチオン性単量体を使用する代わりに、カチオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ブロモブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン等を使用し、重合後に、アミノ化、アルキル化(第4級アンモニウム塩化)などの処理を行ってカチオン性ポリマーを得ることもできる。
【0049】
本発明においては、上記のカチオン性ポリマーの中でも、特にアリルアミンが成膜性等の観点から好適である。
【0050】
上述したカチオン性ポリマーは、特許文献4にも記載されているように、一般には、重合開始剤を用いての加熱によるラジカル重合により製造される。
尚、カチオン性の官能基を導入可能な単量体が使用されて重合が行われている場合には、重合後に、アミノ化、アルキル化処理などのカチオン性基導入処理を行えばよい。
【0051】
本発明においては、前述したカチオン性ポリマーを用いて形成されるマトリックスには、架橋構造を導入しておくことが、吸湿能力を低下させることなく機械的強度を確保すると同時に、寸法安定性を向上させる上で好ましい。
即ち、吸湿性のマトリックス中に架橋構造が導入されていると、該マトリックスが水を吸収したとき、カチオン性ポリマーの分子が架橋によって互いに拘束されることとなり、膨潤(水分吸収)による体積変化を抑制し、機械的強度や寸法安定性の向上がもたらされる。
上記の架橋構造は、吸湿層5を形成するためのコーティング組成物中に架橋剤を配合しておくことにより導入することができる。
このような架橋構造は、特許文献4に記載されているように、カチオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えば、エポキシ基)と、加水分解と脱水縮合を経て架橋構造中にシロキサン構造を形成し得る官能基(例えば、アルコシシリル基)を有している化合物を使用することができ、特に、下記式(2):
X-SiR1
n(OR2)3-n (2)
式中、Xは、末端にエポキシ基を有する有機基であり、
R1及びR2は、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロピル基
であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表されるシラン化合物が好適に使用される。即ち、上記カチオン性ポリマーを含む吸湿層形成用コーティング組成物中に、上記架橋剤を配合して成膜を行うことにより架橋構造を導入することができる。
【0052】
イオン性ポリマー(アニオン性ポリマー);
吸湿性のマトリックスの形成に使用するアニオン性ポリマーは、水中で負の電荷となり得るアニオン性の官能基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基や、これらの基が部分的に中和された酸性塩基を分子中に有しているポリマーである。このような官能基を有するアニオン性ポリマーは、上記官能基が水素結合により水を補足するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
アニオン性ポリマー中のアニオン性官能基量は、官能基の種類によっても異なるが、前述したカチオン性ポリマーと同様、形成される吸湿性マトリックスの吸水率(JIS K-7209-1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%~45%となるような量であればよい。
【0053】
上記のような官能基を有するアニオン性ポリマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体;α-ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体;ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体;及びこれら単量体の塩類;などに代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に重合乃至共重合させ、さらに必要により、アルカリ処理により部分中和させて得られるものが使用される。
尚、共重合可能な他の単量体としては、これに限定されるものではないが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-ハロゲン化スチレン類、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等を挙げることができる。
【0054】
また、上記のアニオン性単量体を使用する代わりに、上記のアニオン性単量体のエステルや、アニオン性官能基を導入し得る官能基を有する単量体、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-ハロゲン化スチレン類等を使用し、重合後に、加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などの処理を行ってアニオン性ポリマーを得ることもできる。
【0055】
本発明において、好適なアニオン性ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル酸及びその部分中和物(例えば一部がNa塩であるもの)である。
【0056】
上述したアニオン性ポリマーは、一般には、アニオン性基を有するモノマーを、重合開始剤を用いての加熱によりラジカル重合することにより製造される。モノマーとして、アニオン性官能基を導入可能な単量体が使用されている場合には、重合後に、加水分解、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化などのアニオン性基導入処理を行えばよい。
【0057】
また、本発明においては、前述したアニオン性ポリマーを用いて形成される吸湿性マトリックスに、架橋構造を導入しておくことが特に好ましく、これにより、吸湿層5の水分トラップ能力がさらに高められ、しかも、寸法安定性のさらなる向上がもたらされる。
即ち、アニオン性ポリマーの場合、カチオン性ポリマーとは異なって、水素結合による水の補足のみなので、吸湿に適した空間の網目構造(架橋構造)をマトリックス中に導入することにより、その吸湿性を大きく高めることができる。このような架橋構造は、例えば、網目構造中に脂環構造のような疎水部位を有しているものであり、これにより、親水部位の吸湿効果がより高められる。
さらに、吸湿性マトリックス中に架橋構造を導入することにより、該マトリックスが水を吸収したとき、アニオン性ポリマーの分子が架橋によって互いに拘束され、膨潤(水分吸収)による体積変化が抑制され、寸法安定性が向上する。このような寸法安定性向上効果は、前述したカチオン性ポリマーの場合と同様である。
【0058】
上記の架橋構造は、カチオン性ポリマーの場合と同様、吸湿層3を形成するためのコーティング組成物中に架橋剤を配合しておくことにより導入される。この架橋剤は、特許文献4に記載されているように、アニオン性ポリマーが有しているイオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有している化合物であり、例えば、式(3):
G-O(C=O)-A-(C=O)O-G (3)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレン基で
ある、
で表されるジグリシジルエステルである。即ち、上記アニオン性ポリマーを含む吸湿層形成用コーティング組成物中に、上記架橋剤を配合して成膜を行うことにより架橋構造を導入することができる。
【0059】
吸湿剤;
上述したイオン性ポリマーをマトリックス(吸湿性マトリックス)とする吸湿層5中に分散される吸湿剤は、上記のマトリックスを形成するイオン性ポリマー(カチオン性或いはアニオン性ポリマー)よりも到達湿度が低く、極めて高い吸湿性能を有するものである。このようにマトリックスよりも高い吸湿性を有する吸湿剤を分散させることにより、前述したイオン性ポリマーにより形成されたマトリックスに吸収された水分が直ちに吸湿剤に捕捉され、吸収された水分のマトリックス中への閉じ込めが効果的に行われることとなり、極めて低湿度雰囲気でも水分の吸湿能力を有効に発揮することができるばかりか、水分の吸収による吸湿層5の膨潤も有効に抑制される。
【0060】
上記のような高吸湿性の吸湿剤としては、イオン性ポリマーよりも到達湿度が低いことを条件として、例えば後述する実施例で示されているように、湿度80%RH及び温度30℃の環境条件での到達湿度が6%以下のものが好適に使用される。即ち、この吸湿剤の到達湿度がイオン性ポリマーよりも高いと、マトリックスに吸収された水分の閉じ込めが十分でなく、水分の放出等を生じ易くなるため、水分バリア性の著しい向上が望めなくなってしまう。また、到達湿度がイオン性ポリマーよりも低い場合であっても、上記条件で測定される到達湿度が上記範囲よりも高いと、例えば低湿度雰囲気での水分のトラップが不十分となり、水分バリア性を十分に発揮できないおそれがある。
【0061】
上記のような吸湿剤は、一般に湿度80%RH及び温度30℃雰囲気下において50%以上の吸水率(JIS K-7209-1984)を有しており、無機系及び有機系のものがある。
無機系の吸湿剤としては、ゼオライト、アルミナ、活性炭、モンモリロナイト等の粘土鉱物、シリカゲル、酸化カルシウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができる。
有機系の吸湿剤としては、アニオン系ポリマー若しくはその部分中和物の架橋物を挙げることができる。このアニオン系ポリマーとしては、カルボン酸系単量体((メタ)アクリル酸や無水マレイン酸など)、スルホン酸系単量体(ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、ホスホン酸系単量体(ビニルリン酸など)及びこれら単量体の塩類等に代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、重合或いは他の単量体と共重合させて得られるものを挙げることができる。特に透明性が求められる用途においては、有機系の吸湿剤が有効である。例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸Naの微細粒子などが代表的な有機系吸湿剤である。
【0062】
本発明においては、比表面積が大となり、高い吸湿性を示すという観点から粒径が小さな粒状吸湿剤が好ましく(例えば、平均一次粒子径が100nm以下、特に80nm以下)、特に粒径の小さな有機系ポリマーの粒状吸湿剤が最適である。
即ち、有機系ポリマーの粒状吸湿剤は、イオン性ポリマーのマトリックスに対する分散性が極めて良好であり、均一に分散させることができるばかりか、これを製造するための重合法として乳化重合や懸濁重合などを採用することにより、その粒子形状を微細で且つ揃った球形状とすることができ、これをある程度以上配合することにより、極めて高い透明性を確保することが可能となる。
また、有機系の微細な吸湿剤では、前述した到達湿度が著しく低く、高い吸湿性を示すばかりか、架橋によって膨潤による体積変化も極めて少なくすることができ、従って、体積変化を抑制しながら、環境雰囲気を絶乾状態もしくは絶乾状態に近いところまで湿度を低下させる上で最適である。
このような有機系の吸湿剤の微粒子としては、例えば架橋ポリアクリル酸Na微粒子(平均粒子径約70nm)がコロイド分散液(pH=10.4)の形で東洋紡株式会社よりタフチックHU-820Eの商品名で市販されている。
【0063】
本発明において、上記のような吸湿剤の量は、その特性を十分に発揮させ、水分バリア性の著しい向上及び膨潤による寸法変化を有効に抑制させると同時に、無機バリア層1が示すバリア性よりも高い水分バリア性を長期間にわたって確保するという観点から、イオン性ポリマーの種類に応じて設定される。
例えば、上述したイオン性ポリマーをマトリックスとし、このマトリックス中に吸着剤が分散されている吸湿層5は、マトリックスがカチオン性ポリマーにより形成されている場合には、吸湿層5中のイオン性ポリマー100重量部当り、50重量部以上、特に100乃至900重量部の量で存在することが好ましく、更には200乃至600重量部の量であることがより好ましい。また、マトリックスがアニオン性ポリマーにより形成されている場合には、吸湿層5中のアニオン性ポリマー100重量部当り、50重量部以上、特に100乃至1300重量部の量で存在することが好ましく、更には150乃至1200重量部の量であることがより好ましい。
【0064】
上述した吸湿層5の厚みは、水分バリア性積層フィルム10の用途や要求されるバリア性のレベルによっても異なるが、10-2g/m2・day/atom以下、特に10-3g/m2・day/atom以下の水蒸気透過度を確保する場合には、1乃至20μm、特に1乃至15μm程度の厚みに設定されていればよい。この厚みが薄いと、短期間で吸湿水分量が上限に達してしまい、水分バリア性が損なわれてしまう。また、過度に厚くすると、吸湿し得る水分量は多くなるが、その増大に伴い、膨潤による体積変化が大きくなり、この結果、デラミネーションを生じ易くなってしまう。
【0065】
<準吸湿層7>
本発明において、準吸湿層7は、吸湿層5ほどではないが、ある程度の吸湿性を示す層であり、具体的には、下記式(1):
0.1S2≦S1<S2 (1)
式中、
S1は、該準吸湿層7における85℃での水の溶解度係数であり、
S2は、前記吸湿層5における85℃での水の溶解度係数である、
で表される条件を満足する層である。即ち、このような準吸湿層7を、無機バリア層3と吸湿層5との間に設けて補助的な吸湿を行うことにより、無機バリア層3を通過した水分は、一旦、準吸湿層7で捕捉され、そのような水分の全てが吸湿層5に流入することが防止されるため、吸湿層5の優れた特性を失活させず、吸湿層5の性能を長期間にわたって発揮させることができることとなる。
【0066】
従って、上記式(1)に示されているように、このような準吸湿層7における前記溶解度係数S1は、吸湿層5の溶解度係数S2よりも小さければよいが、この溶解度係数S2に近い値を示すと、層を形成する使用材料が吸湿層5とほとんど同じなってしまい、準吸湿層7を設けたメリット(膨潤抑制やコストの低減)が損なわれてしまう。このため、準吸湿層7の溶解度係数S1は、溶解度係数S2の60%以下であることが好ましい。また、溶解度係数S1が、溶解度係数S2の10%よりも低い場合には(S1<0.1S2)、吸湿性が低すぎるため、吸湿層5の吸湿性寿命を長期化する機能が不満足となってしまう。
【0067】
本発明において、上記の条件を満たす準吸湿層7は、例えば、吸湿剤を配合せず、前記式(1)の条件を満足する樹脂のみから形成される。このような準吸湿層7は、吸湿剤が配合されたいない分、吸湿層5よりも低コストで形成することができる。
【0068】
準吸湿層7の形成に使用される前記式(1)の条件を満足する樹脂としては、例えば、吸湿層5の形成に使用されるイオン性ポリマーに比して、カチオン性基或いはアニオン性基の濃度が低いイオン性ポリマーを例示することができるが、特に、イオン性ポリマーに比して安価であるという点で、ポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合体、アミノ樹脂、ポリ乳酸などが好適であり、ポリアミドが最も好適である。
かかるポリアミドは、前述した無機バリア層3の下地となるプラスチック基材1としても使用できるものであり、例えば、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等が代表的である。
【0069】
上述した準吸湿層7の厚みは、10μm未満、特に2~8μmの範囲にあるのがよい。この厚みが必要以上に厚いと、吸湿層5と合わせての膨潤による体積変化が大きくなり、デラミネーションを生じ易くなる。また、この厚みが薄すぎると、補助的な吸湿により、吸湿層5の長寿命化を図ることが困難となってしまうからである。
【0070】
<その他の樹脂層>
本発明においては、無機バリア層3と吸湿層5との間に、準吸湿層7以外の層を設けることができる。
例えば、
図1の例では、無機バリア層3上に、準吸湿層7と吸湿層5が連続して設けられているが、準吸湿層7を無機バリア層3及び吸湿層5にしっかりと固定するために、接着剤層9を設けることもできる。このような接着剤層9は、かなり薄いものであり、例えば、1~6μm程度の厚みを有している。
【0071】
上記の接着剤層9の形成に使用される接着剤としては、ドライラミネート接着剤として知られているエポキシ系接着剤やウレタン系接着剤が好適である。
【0072】
エポキシ系接着剤;
上記のエポキシ系接着剤は、液状のエポキシ樹脂をエポキシ硬化剤により硬化させて接着するものである。
かかるエポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を有する液状樹脂であり、エピクロルヒドリンとフェノール化合物やアミン化合物、カルボン酸などとの反応に得られるもの、ブタジエンなどの不飽和化合物を有機過酸化物などにより酸化することによって得られるものなどが代表的であり、何れのタイプのものも使用することができる。
【0073】
エポキシ系接着剤の具体例としては、これに限定されるものではないが、ビスフェノールA型或いはビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
本発明においては、特にグリシジルアミン型エポキシ樹脂が、弾性率の高い接着剤層を形成できるという点で好適である。
【0074】
さらに、エポキシ硬化剤としては、アミン系、酸無水物、ポリアミドなど、公知のものを使用することができるが、特に弾性率が高く、熱収縮に追随しやすい塗膜(接着剤層)を形成できるという観点から、アミン系硬化剤、中でもメタフェニレンジアミンに代表される芳香族ポリアミンが好適に使用される。
【0075】
エポキシ樹脂と硬化剤との量比は、エポキシ樹脂が有するエポキシ当量に応じて、十分な硬化膜が形成されるように設定すればよい。
【0076】
ウレタン系接着剤;
ウレタン系接着剤は、イソシアネートと(メタ)アクリル化合物やポリエステルポリオールとの反応物からなる。この接着剤は、通常、アミン系触媒や金属触媒或いはリン酸変性化合物などの公知の硬化触媒を含んでいる。硬化触媒の量は、下地の樹脂の熱変形を伴わないような温度及び時間で緻密な硬化膜(接着層)が形成し得るように硬化触媒の種類に応じて設定される。
【0077】
ポリウレタン接着剤の形成に使用されるポリオールは、一分子中にOH基を2つ以上有している化合物であり、例えば、以下の化合物が代表的である。
ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、ヘキサ-ヒドロキシ化合物;
1分子中に2個以上のOH基を含有するポリエステル(ポリエステルポリオール);
1分子中に2個以上のOH基を含有するポリエーテル(ポリエーテルポリオール);
1分子中に2個以上のOH基を含有するポリカーボネート(ポリカーボネートポリオール);
1分子中に2個以上のOH基を含有するポリカプロラクトン(ポリカプロラクトンポリオール);
1分子中に2個以上のOH基を含有するアクリル系重合体(ポリアクリルポリオール);
本発明において最も好適なポリオールは、ポリエステルポリオールである。
【0078】
上記のポリエステルポリオールは、アジピン酸やフタル酸などの多塩基酸とポリオールとの縮合反応により得られポリマーである。多塩基酸と反応させるポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール等の脂肪族ポリオール;ジヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシナフタレン、ビスフェノールA等の芳香族アルコール;ビス-〔4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル〕スルフィド等の含硫黄ポリオール;などを例示することができる。
【0079】
また、ポリオールと反応させるポリイソシアネートは、一分子中にNCO基を2つ以上有している化合物である。その具体例としては、これに限定されるものではないが、以下の化合物を例示することができる。
エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;
イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、2-イソシアネートメチル-3-(3-イソシアネートプロピル)-5-イソシアネートメチル-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン等の脂環族イソシアネート;
キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアネートエチル)ベンゼン、ビス(イソシアネートメチル)ナフタリン、ビス(イソシアネートメチル)ジフェニルエーテル等の芳香族イソシアネート;
チオジエチルジイソシアネート等の含イオウ脂肪族イソシアネート;
ビス[2-(イソシアナートメチルチオ)エチル]スルフィド等の脂肪族スルフィド系イソシアネート;
ジフェニルスルフィド-2,4’-ジイソシアネート等の芳香族スルフィド系イソシアネート;
ジフェニルジスルフィド-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族ジスルフィド系イソシアネート;
ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート等の芳香族スルホン系イソシアネート;
4-メチル-3-イソシアネートベンゼンスルホニル-4’-イソシアネートフェノールエステル等のスルホン酸エステル系イソシアネート;
4-メチル-3-イソシアネートベンゼンスルホニルアニリド-3’-メチル-4’-イソシアネート等の芳香族スルホン酸アミド系イソシアネート;
チオフェン-2,5-ジイソシアネート等の含イオウ複素環イソシアネート;
【0080】
上記のポリイソシアネートは、通常、前述したポリオールが有している水酸基1モル当り、イソシアネート基(NCO基)が0.8~1.2モル程度となる量で使用される。
【0081】
上述したエポキシ系接着剤及びウレタン系接着剤は、炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系等の揮発性有機溶剤を用いて、所定の部位(例えば無機バリア層3や吸湿層5の表面)に塗布し、乾燥することにより、接着剤層9を形成する。このようにして形成されている接着剤層9は、通常、30~50℃程度の温度で24時間以上保持することにより硬化する。
【0082】
また、本発明では、準吸湿剤層7が10μmよりも薄い厚みでよいため、水分バリア性を向上するための層を設けることができる。準吸湿剤層7が薄くてよいため、フィルム10全体の厚みが必要以上に厚肉となることを回避できるからである。
【0083】
例えば、吸湿層5と準吸湿層7との間に、溶解度係数S3が、0.06S2(S2は、前記のとおり)よりも小さい疎水性樹脂により形成された疎水層を設けることができる。このような疎水層は、無機バリア層3と同様、水分を堰き止める機能を有しているため、吸湿層5への過剰な水分の流入を防止し、吸湿層5の消耗を抑制することができる。
このような疎水層としては、これに限定されるものではないが、プラスチック基材1としても使用し得るオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレートなど)が代表的である。また、前述したエポキシ系接着剤も疎水性樹脂として機能する。
このような疎水層は、1~4μm程度の厚みを有していればよい。
【0084】
さらに、水分バリア性積層フィルム10の厚肉化を許容できるのであれば、吸湿層5と準吸湿層7との間或いは無機バリア層3と準吸湿層7との間に、85℃で測定した水の拡散係数Dが5×10-8cm2/sec以上の樹脂(水分拡散性樹脂)から形成された水分拡散層を設けることもできる。この拡散係数Dは、後述する実施例に記載されている方法で測定される。
即ち、このような水分拡散層は、無機バリア層3が有するクラック等の欠陥を通過した水分を拡散し、局所的に水分が集中して吸湿層5に流入することを防止するものであり、これにより、吸湿層5の部分的な消耗を抑制することができる。このような水分拡散性の樹脂としては、例えばオレフィン系樹脂が好適である。このオレフィン系樹脂は、上記の疎水層の形成に使用することもできるが、水分拡散層として機能させる場合には、10μm以上、特に20μm以上の厚みが必要であり、最も好適には、吸湿層5の3倍以上の厚みを有しているのがよい。
【0085】
本発明において、上述した疎水層や水分拡散層を形成する場合には、必要に応じて、前述したエポキシ系接着剤やウレタン系接着剤を使用することができる。
【0086】
さらに、
図1の例では、高水分雰囲気側に無機バリア層3が設けられているが、このような無機バリア層3を、低水分雰囲気側にも設けることができる。即ち、一対の無機バリア層3,3の間に、準吸湿層7、吸湿層5及び必要に応じて設けられる他の層を配置した構造とすることができる。このような層構造では、吸湿層5の吸湿量が上限を超えてしまい、水分が吸湿層5でトラップされずに透過してしまうような状態になったとき、このような水分を低水分雰囲気側の無機バリア層3により堰き止めることができる。
【0087】
<用途>
本発明の水分バリア性積層フィルムは、準吸湿層7の形成により、吸湿層5の優れた水分トラップ能力を長期間にわたって発揮させることができ、しかも、コストの点でも有利である。
しかも、この準吸湿層7は、極めて厚みが薄いものでよいため、それ自体公知の種々の層構造を併用し、これにより、フィルムの厚みを極端に厚くすることなく、水蒸気透過度が10-5g/m2/day以下という水分に対する超バリア性を実現することができる。
【0088】
このような本発明の水分バリア性積層フィルム10は、各種の電子デバイス、例えば有機EL素子、太陽電池、電子ペーパーなどの電子回路を封止するためのフィルムとして好適に使用することができる。
【実施例0089】
本発明の水分バリア性積層フィルム10の優れた性能を、以下の実験例により説明する。
【0090】
<水の溶解度係数Sと拡散係数Dの測定>
高感度水蒸気透過度測定装置(technolox社製「デルタパーム」)を用い、評価サンプルを測定セルにセットし、85℃85%RH相当の水蒸気による圧力をサンプルの両側で形成して、水蒸気透過率を測定するとともに、定常状態に至るまでの遅れ時間(Δt)を算出した。下記式(1)及び(2)より、各サンプルの水の溶解度係数Sと拡散係数Dを算出した。尚、下記式中、Saはサンプルの厚みである。
拡散係数D=(Sa)2/(6×Δt) (1)
溶解度係数S=水蒸気透過率/拡散係数D (2)
【0091】
<透湿度(g/m2/day)の測定>
高感度水蒸気透過度測定装置(technolox社製「デルタパーム」)を用い、水分バリア性積層体の準吸湿層7が吸湿層5よりも高水分雰囲気側に位置するように測定セルにセットし、85℃85%RH相当の水蒸気による圧力を水分バリア性積層体の両側で形成して、水蒸気透過率を測定した。
【0092】
<トラップ性能の維持時間>
上記の評価において、トラップ性能が失活するまでの時間を評価した。
5℃85%の雰囲気環境下において、下記の基準で評価した。
X:トラップ層が失活し、バリア性が初期から一桁悪くなるまでの時間が50時間未満である。
〇:上記時間が50時間以上である。
◎:上記時間が200時間以上である。
【0093】
<吸湿後のデラミネーション評価>
水分バリア積層体を85℃85%の雰囲気環境下で200時間保管して吸湿させた後、吸湿層5と準吸湿層7または無機バリア層3の間の密着性をT型剥離試験で確認した。
評価基準は、次のとおりである。
〇:吸湿前の初期密着性の50%以上の密着性を保持している。
△:初期密着性の50%未満となった。
X:初期密着性の50%未満となり、更に吸湿層が凝集破壊した。
【0094】
<無機バリア層被覆ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの作製>
厚み100μmの2軸延伸PETフィルムの片面に、プラズマCVD装置を用いて、酸化ケイ素の無機バリア層3を形成した。以下に、製膜条件を示す。
周波数27.12MHz、最大出力2kWの高周波出力電源、マッチングボックス、直径300mm、高さ450mmの金属型円筒形プラズマ処理室、処理室を真空にする油回転真空式ポンプを有するCVD装置を用いた。
処理室内の並行平板にプラスチック基材を設置し、ヘキサメチルジシロキサンを3sccm、酸素を45sccm導入後、高周波発振器により50Wの出力で高周波を発振させ、2秒間の製膜を行い、密着層を形成した。
次に、高周波発振器により200Wの出力で高周波を発振させ、100秒間の製膜を行い、酸化ケイ素の無機バリア層3を形成し、無機バリア層被覆PETフィルムA1を得た。得られた上記無機バリア層被覆PETフィルムA1は、40℃90%RH雰囲気下で測定した水蒸気透過率が、1×10-2g/m2/dayであった。
【0095】
<吸湿性コーティング液Aの調整>
イオン性ポリマーとしてポリアリルアミン(ニットーボーメディカル社製、PAA-15C、水溶液品、固形分15%)を、固形分4重量%になるように水で希釈し、ポリマー溶液を得た。
一方、架橋剤として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用い、4重量%になるように水に溶かして架橋剤溶液を調製した。
次いで、ポリアリルアミン100重量部に対してγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが15重量部になるように、ポリマー溶液と架橋剤溶液とを混合し、吸湿層性のコーティング液Aを調製した。
【0096】
<吸湿性コーティング液Bの調整>
イオン性ポリマーとしてポリアリルアミン(ニットーボーメディカル社製、PAA-15C、水溶液品、固形分15%)を、固形分5重量%になるように水で希釈し、ポリマー溶液を得た。
一方、架橋剤として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用い、5重量%になるように水に溶かして架橋剤溶液を調製した。
次いで、ポリアリルアミン100重量部に対してγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが15重量部になるように、ポリマー溶液と架橋剤溶液とを混合し、さらに、この混合溶液に、吸湿剤として、ポリアクリル酸Naの架橋物(東洋紡製、タフチックHU-820E、水分散品、固形分13%)を、ポリアリルアミンに対して400重量部になるように加え、更に固形分が5%になるよう水で調整した上で良く撹拌し、吸湿層性のコーティング液Bを調製した。
【0097】
<実施例1>
前記で得られた吸湿性コーティング液Aを、バーコーターにより、上記無機バリアフィルムA1の、無機バリア層3が成膜された側に塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間6秒の条件で熱処理し、厚み1μmの準吸湿層7を形成し、コーティングフィルムB1を得た。
次いで、前記で得られた吸湿性コーティング液Bを、バーコーターにより、準吸湿層7上に塗布した。塗布後の上記フィルムをボックス型の電気オーブンにより、ピーク温度120℃、ピーク温度保持時間10秒の条件で熱処理を行い、厚み3μmの吸湿層5が形成されたコーティングフィルムB2を得た。
【0098】
次いで、窒素濃度99.95%以上に調整したグローブボックス内にて、前記コーティングフィルムB2の、吸湿層5が形成された面に、厚さ1.8μmのウレタン系接着剤を介して、前記無機バリア層被覆PETフィルムA1の無機バリア層3が形成された面をドライラミネートし、水分バリア性積層体1を得た。
【0099】
<実施例2>
実施例1において、準吸湿層7を形成するための吸湿性コーティング液Bの代わりに、水分散系ウレタン系樹脂粒子(Mw=1,000,000、ガラス転移点=68℃、平均粒径55nm)を含む主ポリマー溶液(三井化学「wpb-341」、固形分30%)と、この主ポリマー溶液に、硬化剤としてブロックイソシアネート(三井化学「XWB-F206MEDG」)を主剤固形分100重量部に対して硬化剤固形分が10重量部になるように配合し、水と2-プロパノールの混合溶媒で希釈して固形分15%としたコーティング液Cを用い、厚み3μmの準吸湿層7を形成する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体2を得た。
【0100】
<実施例3>
実施例2において、吸湿層5を形成するための吸湿性コーティング液Aの代わりに、吸湿性コーティング液Bを用いて、厚み3μmの吸湿層5を形成する以外は、実施例2と同様の方法で水分バリア性積層体3を得た。
【0101】
<実施例4>
実施例1において、準吸湿層7を形成するための吸湿性コーティング液Bの代わりに、25μmの吸湿性ポリアミドフィルムを、厚さ1.8μmの上記ウレタン系接着剤でラミネートして準吸湿層7を形成する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体4を得た。
【0102】
<実施例5>
実施例2において、準吸湿層7上に、アクリル系樹脂を含む主ポリマー溶液(荒川化学工業株式会社「アラコートDA-105」、固形分30%)に、硬化剤としてポリイソシアネート(三井化学「D-110N」)を主ポリマー溶液の固形分100重量部に対して30重量部になるように配合し、メチルエチルケトンで希釈して固形分20%としたコーティング液Dを用い、厚み1μmの疎水層6を形成する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体5を得た。
【0103】
<実施例6>
実施例2において、無機バリア層3と準吸湿層7の間に、12μmの二軸延伸PETフィルムを、厚さ1.8μmの上記ウレタン系接着剤でラミネートして、水分拡散層8を形成する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体6を得た。
【0104】
<比較例1>
実施例1において、準吸湿層7を形成せずに吸湿性コーティング液Aを、バーコーターにより、上記無機バリアフィルムA1の、無機バリア層3が成膜された側に塗布する以外は、実施例1と同様の方法で水分バリア性積層体7を得た。
【0105】
<比較例2>
実施例6において、準吸湿層7を形成せずに吸湿性コーティング液Aを、バーコーターにより、上記水分拡散層8に塗布する以外は、実施例6と同様の方法で水分バリア性積層体7を得た。
【0106】
<比較例3>
実施例1において、準吸湿層7を形成するための吸湿性コーティング液Bの代わりに、コーティング液Dを用い、厚み3μmの準吸湿層7を形成する以外は、実施例6と同様の方法で水分バリア性積層体8を得た。
【0107】
<評価試験>
上記で作製された水分バリア性積層フィルムについて、前述した方法で各種特性を測定し、その結果を表1に示した。
【0108】