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特開2024-118807計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118807
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/9013 20210101AFI20240826BHJP
【FI】
G01N27/9013
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025322
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】今仲 大輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 友樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 穣
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA15
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA17
2G053CB25
2G053DB06
2G053DB19
2G053DB20
(57)【要約】
【課題】計測対象物のエッジ近傍における表面の物理量の計測精度を向上させることができる計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の計測用治具は、板状の計測対象物の物理量を計測する物理量計測部によって計測対象物のエッジ近傍における表面を計測する際に前記計測対象物の側面に接触する接触部材と、物理量計測部を走査させる走査方向と直交する方向におけるエッジと物理量計測部との間の距離を一定に保つように接触部材を保持する保持部材と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の計測対象物の物理量を計測する物理量計測部によって前記計測対象物のエッジ近傍における表面を計測する際に前記計測対象物の側面に接触する接触部材と、
前記物理量計測部を走査させる走査方向と直交する方向における前記エッジと前記物理量計測部との間の距離を一定に保つように前記接触部材を保持する保持部材と、
を備える計測用治具。
【請求項2】
前記接触部材は、前記側面と接触する外周面を有する円盤状の回転体であり、該回転体の回転軸を介して前記保持部材に回転可能に設けられる、請求項1に記載の計測用治具。
【請求項3】
前記接触部材は磁石を備える、請求項1に記載の計測用治具。
【請求項4】
計測対象物の物理量を計測する物理量計測部と、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の計測用治具と、
を備える計測装置。
【請求項5】
前記計測対象物における前記エッジからの距離と前記物理量との関係を示す補正式と、前記物理量計測部によって計測された際の前記エッジから前記物理量計測部までの距離と、を用いて、前記物理量計測部によって計測された前記物理量を補正する補正部を備える、請求項4に記載の計測装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の計測用治具を用いて、計測対象物の物理量を計測する物理量計測ステップを備える計測方法。
【請求項7】
前記計測対象物における前記エッジからの距離と前記物理量との関係を補正式と、
前記物理量計測ステップ時における前記エッジから前記物理量計測部までの距離と、を用いて、前記物理量計測ステップで計測された前記物理量を補正する補正ステップを備える、請求項6に記載の計測方法。
【請求項8】
板状製品を製造する製造装置と、
前記製造装置によって製造された前記板状製品の物理量を計測する請求項4に記載の計測装置と、
を備える板状製品の製造設備。
【請求項9】
請求項6に記載の計測方法によって、板状製品の物理量を計測する物理量計測ステップと、
前記物理量計測ステップによって得られた前記物理量の計測結果から前記板状製品の品質管理を行う品質管理ステップと、
を含む板状製品の品質管理方法。
【請求項10】
板状製品を製造する製造ステップと、
請求項6に記載の計測方法によって、前記製造ステップにおいて製造された前記板状製品の物理量を計測する物理量計測ステップと、
を含む板状製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラインパイプや造船、圧力容器、建設機械等に用いられる鋼板は、連続鋳造又は造塊、必要に応じて分解圧延及び鍛造を行った後、熱間圧延、熱処理、及び切断(シャーやガス切断)等を経て製造される。そして、製造された鋼板は、外観及び寸法検査、超音波探傷試験、表層の硬さ検査、及び抜き取りによる機械的特性の検査等を行った後に出荷される。ここで、最終製品で問題となる鋼板の欠陥の一つとして、鋼板の内部に発生する欠陥や、鋼板の表層が部分的に硬くなったハードスポット又は柔らくなったソフトスポットと呼ばれる欠陥がある。これらの欠陥の計測方法として、計測器が取り付けられた台車を使って計測する方法がある。例えば、非特許文献1には遠隔操作可能な台車にセンサを取り付けて計測する方法、非特許文献2には手押し型の台車にセンサを取り付けて計測する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Bernd Wolter, Yasmine Gabi and Christian Conrad, “Nondestructive Testing with 3MA - An Overview of Principles and Application”, Appl. Sci. 2019, 9, 1068
【非特許文献2】Gerald Schneibel, Christoph Konig, Aschwin Gopalan, Jean-Marc Dussaulx, “Development of an Eddy Current based Inspection Technique for the Detection of Hard Spots on Heavy Plates”, 19th World Conference on Non-Destructive Testing 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の欠陥の計測方法では、例えば台車に取り付けられた計測器を、鋼板の表層に接触させて欠陥を計測する。具体的には、計測器そのものを鋼板に押し付けるように、又は、計測器表面と鋼板表面との間の間隔を一定に保つように計測器を設置する。特に、渦流探傷や電磁気計測等、計測器と計測対象となる鋼板との間隔(リフトオフとも呼ばれる)が非常に重要になる計測の場合は、前述のように計測器が設置される。また、超音波による計測の場合も、渦流探傷や電磁気計測による計測の場合と同様に計測器が設置される。さらに、鋼板全面を計測する際には、チョークなどを用いて鋼板表面に罫書き線を書き、この線に沿って台車を走行させる方法がよく利用される。また、人が操作する台車には多少の蛇行があることから、板全面を抜けなく計測するためには、各罫書き線を移動する際の計測範囲がオーバーラップするように書く必要がある。
【0005】
エッジ近傍を計測する場合でも、上記のように罫書き線に沿って計測を行うことになる。この際に、エッジの非計測範囲をなるべく減らすように罫書き線を引いてしまうと、センサや台車の車輪などが板からはみ出してしまうことによって、計測異常が発生してしまうおそれがある。エッジ近傍では鋼板中央部のようにオーバーラップを設けることが難しいため、台車蛇行分はそのまま非計測範囲となってしまい、エッジ周辺に大きな非計測範囲が生じてしまう。
【0006】
また、エッジ近傍での計測における問題として、エッジ不感帯の影響が存在する。エッジ不感帯は、エッジからの影響を受けて正しく行えない範囲である。電磁気計測の場合には、計測対象の端部に電磁界が集中するエッジ効果と呼ばれる現象により、端部では正しく計測及び評価ができないという問題がある。不感帯を減らすための方法としては、鋼板中央部とエッジ近傍とで検査の検量線や計測条件を変えるといった方法や、補正値を設けるという方法などが考えられる。しかしながら、鋼板の表面上で台車を移動させてエッジ近傍を計測する際には、台車が蛇行して台車の移動方向と直交する方向でエッジとセンサとの間の距離を一定に保つことができないと、鋼板のエッジ近傍における表面の物理量の計測精度が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、計測対象物のエッジ近傍における表面の物理量の計測精度を向上させることができる計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、
[1]本発明に係る計測用治具は、板状の計測対象物の物理量を計測する物理量計測部によって前記計測対象物のエッジ近傍における表面を計測する際に前記計測対象物の側面に接触する接触部材と、前記物理量計測部を走査させる走査方向と直交する方向における前記エッジと前記物理量計測部との間の距離を一定に保つように前記接触部材を保持する保持部材と、を備えるものである。
【0009】
[2]また、本発明に係る計測用治具は、上記[1]の発明において、前記接触部材は、前記側面と接触する外周面を有する円盤状の回転体であり、該回転体の回転軸を介して前記保持部材に回転可能に設けられるものである。
【0010】
[3]また、本発明に係る計測用治具は、上記[1]または[2]の発明において、前記接触部材に磁石を設けたものである。
【0011】
[4]本発明に係る計測装置は、計測対象物の物理量を計測する物理量計測部と、上記[1]乃至[3]のいずれか1つの発明の計測用治具と、を備えるものである。
【0012】
[5]本発明に係る計測装置は、上記[4]の発明において、前記計測対象物における前記エッジからの距離と前記物理量との関係を示す補正式と、前記物理量計測部によって計測された際の前記エッジから前記物理量計測部までの距離と、を用いて、前記物理量計測部によって計測された前記物理量を補正する補正部を備えるものである。
【0013】
[6]本発明に係る計測方法は、上記[1]乃至[3]のいずれか1つの発明の計測用治具を用いて、計測対象物の物理量を計測する物理量計測ステップを備えるものである。
【0014】
[7]本発明に係る計測方法は、上記[6]の発明の計測方法であって、前記計測対象物における前記エッジからの距離と前記物理量との関係を補正式と、前記物理量計測ステップ時における前記エッジから前記物理量計測部までの距離と、を用いて、前記物理量計測ステップで計測された前記物理量を補正する補正ステップを備えるものである。
【0015】
[8]本発明に係る板状製品の製造設備は、板状製品を製造する製造装置と、前記製造装置によって製造された前記板状製品の物理量を計測する上記[4]または[5]の発明の計測装置と、を備えるものである。
【0016】
[9]本発明に係る板状製品の品質管理方法は、上記[6]または[7]の発明の計測方法によって、板状製品の物理量を計測する物理量計測ステップと、前記物理量計測ステップによって得られた前記物理量の計測結果から前記板状製品の品質管理を行う品質管理ステップと、を含むものである。
【0017】
[10]本発明に係る板状製品の製造方法は、板状製品を製造する製造ステップと、上記[6]または[7]の発明の計測方法によって、前記製造ステップにおいて製造された前記板状製品の物理量を計測する物理量計測ステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法は、エッジ近傍での計測において計測対象物のエッジと物理量計測部との間の距離を一定に保つことができる。これにより、本発明に係る計測用治具、計測装置、計測方法、板状製品の製造設備、板状製品の品質管理方法、及び、板状製品の製造方法は、非計測範囲や不感帯を低減し、計測精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1に係る計測装置の概略構成を示す側面図である。
図2図2は、実施形態1に係る計測装置を走査方向で後方側から見た図である。
図3図3は、実施形態1に係る計測装置の構成を示すブロック図である。
図4図4(a)は、物理量計測部の構成例を示す平面図である。図4(b)は、物理量計測部の構成例を示す側面図である。
図5図5は、物理量計測部のセンサの側面図である。
図6図6は、物理量計測部のセンサの平面図である。
図7図7は、励磁コイルに印加する交流信号(交流電圧)の波形の第1例を示した図である。
図8図8は、励磁コイルに印加する交流信号(交流電圧)の波形の第2例を示した図である。
図9図9(a)は、エッジ追従部を用いずに鋼板のエッジ近傍領域における表面の物理量を計測した際の物理量のマップを示した図である。図9(b)は、エッジ追従部を用いて鋼板のエッジ近傍領域における表面の物理量を計測した際の物理量のマップを示した図である。
図10図10は、エッジ影響データの作成手順の一例を示したフローチャートである。
図11図11は、5枚の鋼板A~鋼板Eで計測されたエッジ影響データをもとに、第1電磁気特徴量の変化量とエッジ距離との関係を示した図である。
図12図12は、制御部による電磁気特徴量のエッジ影響補正の制御の一例を示したフローチャートである。
図13図13は、エッジ影響の補正前後での第1電磁気特徴量とエッジ距離との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
以下に、本発明の第1の実施形態である計測用治具及び計測装置について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、実施形態1に係る計測装置1の概略構成を示す側面図である。図2は、実施形態1に係る計測装置1を走査方向で後方側から見た図である。図3は、実施形態1に係る計測装置1の構成を示すブロック図である。
【0022】
実施形態1に係る計測装置1は、操作者により移動可能であり、鋼板300の表層の機械的特性を計測する。本実施形態の場合、鋼板300の表層の電磁気特徴量から、当該鋼板300の表層の硬さを算出する。そのため、計測対象物は鋼板300、計測される物理量は表層の電磁気特徴量となる。鋼板300としては、ラインパイプ等に用いられる鋼管の材料となる厚みのある鋼材を例示できる。図1図3に示すように、実施形態1に係る計測装置1は、物理量計測部2、制御部3、操作部4、表示部5、記憶部6、センサ着材状況監視部7、ガイダンス部8、移動部9、接続部10、及び、エッジ追従部11を備えている。
【0023】
物理量計測部2は、超音波センサや、渦流探傷や電磁気計測用のセンサを備えている。図4は、物理量計測部2の構成例を示す平面図及び側面図である。本実施形態では、図4(a)及び図4(b)に示すように、物理量計測部2は、複数(本例では、Ch.1~Ch.8の8個)のセンサ20a~20hを備えている。なお、以下の説明において、センサ20a~20hを特に区別しない場合には、単にセンサ20とも記す。物理量計測部2が備えるセンサ20を1つだけとしてもよいが、複数のセンサ20を備える方が一度に走査できる鋼板300の範囲を広くして計測効率を高めることができるので好ましい。また、各センサ20は、接続部10等を介して物理量計測部2を下方に押し付けることにより鋼板300の表面301に押し付けることが可能な構造となっている。
【0024】
図3に戻る。制御部3は、マイクロコンピュータ等の演算処理装置を備え、物理量計測部2を用いて鋼板300の表面301を計測し、計測結果を表示部5に出力する。タブレットやPC等の情報処理装置を用いることにより、制御部3、操作部4、及び、表示部5の一部又は全部を一体化してもよい。
【0025】
操作部4は、キーボードやマウスポインタ、タッチパッド等の入力装置を備えている。操作部4は、物理量計測部2や制御部3を操作する際に必要な操作量又は内容を入力するときに操作され、操作入力信号を制御部3に出力する。操作部4は、トグルスイッチ(ダイアルスイッチ)等の必要な操作量を設定できる装置であってもよい。
【0026】
表示部5は、液晶ディスプレイ等の表示装置によって構成され、制御部3から出力される鋼板300の計測結果に関する情報や物理量計測部2や制御部3の操作情報を表示する。本実施形態では、表示部5は、鋼板300のマップ上に計測結果を表示する。具体的には、表示部5は、鋼板300上の機械的特性が予め設定された値である位置を鋼板300のマップ上に表示する。表示部5は、計測時の台車の走査速度や移動量を表示してもよい。また、表示部5は、センサ着材状況監視部7から出力されるセンサ20の着材状況の監視結果を表示してもよい。また、表示部5は音声により計測結果を報知してもよい。
【0027】
物理量計測部2により鋼板300の物理量の計測が正しく行われるためには、物理量計測部2のセンサ20が鋼板300の表面301に接触するように鋼板300に押し付けられていること、又は、鋼板300表面301と物理量計測部2のセンサ20との間の間隔が一定に保たれていること、が好ましい。しかしながら、鋼板300の表面301のうねりによって物理量計測部2が正しく鋼板300の表面301に倣わないために、物理量計測部2の押し付けが弱まって物理量計測部2が鋼板300から離れる、又は、鋼板300の表面301と物理量計測部2との間の間隔を一定に保てない、ことから計測が正しく行われない箇所が発生することがある。この場合は、次に説明するセンサ着材状況監視部7を備えることが好ましい。
【0028】
センサ着材状況監視部7は、物理量計測部2のセンサ20が正しく鋼板300の表面301に着材しているか否か、及び/又は、鋼板300の表面301とセンサ表面との間の間隔が一定に保たれているか否か、を監視する装置である。本実施形態では、図4(a)及び図4(b)に示すように、センサ着材状況監視部7は、物理量計測部2を構成するセンサ20の長手方向中心位置を通る直線上に取り付けられたレーザー距離計7a~7dを用いてセンサ20と鋼板300との間の距離を計測することによりセンサ20の着材状況を監視する。レーザー距離計に限らず渦流式の距離計や接触式のタッチセンサを用いてセンサ20の着材状況を監視してもよい。
【0029】
図3に戻る。ガイダンス部8は、鋼板300の表面301に引かれた罫書き線に対して、走査時の物理量計測部2を案内する装置である。具体的には、ガイダンス部8は、1本の罫書き線に対して、罫書き線に平行な3本のラインレーザー光を投影して物理量計測部2を案内する。本実施形態では、3本のラインレーザー光の間隔はPLの幅で配置されるようになっている。罫書き線に対して3本のラインレーザー光を投影する手段に限らず、例えば、3本のガイド部材を罫書き線に対して配置してもよいし、罫書き線の画像を撮像部によって撮影し、撮影された罫書き線の画像に3本のガイド線の画像を重ねた画像を表示部5に表示してもよい。
【0030】
移動部9は、例えば、手押し台車(トロリー)を備える。より具体的には、移動部9は、物理量計測部2、制御部3、操作部4、表示部5、記憶部6、センサ着材状況監視部7、ガイダンス部8、接続部10、及び、エッジ追従部11を載せて移動可能な台車91と、台車91の移動(例えば、移動量と移動速度と移動方向等)を操作者が制御するためのハンドル92とを備え、鋼板300の表面301に対して物理量計測部2を走査させる。台車91には、4つの車輪93a~93dが取り付けられている。操作者は移動部9を用いて物理量計測部2を鋼板300の表面301を走査させることによって、鋼板300の計測を行う。このとき、台車91は車輪93a~93dを備えているので、操作者はハンドル92を押すことにより、物理量計測部2の移動量、物理量計測部2の移動速度、及び、物理量計測部2の移動方向を制御しながら、物理量計測部2を走査させることができる。図1(a)及び図1(b)に示すように、移動部9として4つの車輪93a~93dを備える場合、走査時の直進性を高めるために各車輪は走査方向に対して内側にむかって配置されていることが好ましい。なお、移動部9としては、操作者が手で押して移動させる構成に限定されるものではなく、例えば、自動で移動する構成であってもよい。
【0031】
接続部10は、物理量計測部2と台車91内に載せられた制御部3とを接続する手段である。接続部10は、台車91の走査方向に対して前方に物理量計測部2を配置するアーム101と、物理量計測部2のセンサ20が正しく鋼板300の表面301に着材できるよう及び/又は鋼板300の表面301とセンサ表面との間の間隔が一定に保てるように物理量計測部2を保持するシリンダー102と、を備えている。接続部10は、台車91の移動に邪魔にならない位置に物理量計測部2を保持すると共に、物理量計測部2のセンサ20が正しく鋼板300の表面301に着材できるよう及び/又は鋼板300の表面301とセンサ表面との間の間隔が一定に保てるように物理量計測部2を保持することができる。さらに、接続部10は、物理量計測部2のセンサ20の出力が制御部3へ伝達されるように、制御部3に電気的に接続する機能を備えてもよい。また、接続部10は、ガイダンス部8のラインレーザー光の位置調整や制御が制御部3や操作部4で可能となるように、ガイダンス部8と制御部3とを電気的に接続する機能を備えてもよい。
【0032】
接続部10は、物理量計測部2のセンサ20が正しく鋼板300の表面301に着材する及び/又は鋼板300の表面301とセンサ表面との間の間隔が一定に保つために、駆動部(図示せず)を備えてもよい。この駆動部には、制御部3とアーム101の物理量計測部2が接続されていない方の端部とが接続されている。この駆動部により、アーム101が上下に移動する及び/又はシリンダー102が上下方向に伸びたり縮んだりすることによって、物理量計測部2のセンサ20を正しい位置に置くことができる。駆動部の制御は、制御部3が行うことが好ましい。制御部3は、操作部4からの入力及び/又はセンサ着材状況監視部7の出力を元に駆動量を設定し、その駆動量から駆動部を動作させる。
【0033】
エッジ追従部11は、鋼板300に対して移動部9を拘束して、物理量計測部2のセンサ20と鋼板300のエッジ303との距離を一定に保つための計測用治具である。エッジ追従部11は、アーム111、昇降部材112、接触部材113、昇降固定部114、及び、回転軸部材115を有する。アーム111は、移動部9の走査方向(移動方向)と直交する幅方向に長尺な支持部材である。アーム111の一端部は、前記幅方向で台車91の側面に固定されている。アーム111の他端部には、上下方向に長尺なL字状の昇降部材112がアーム111に対して上下方向に移動可能に設けられている。昇降固定部114は、昇降部材112をアーム111に対して上下方向の任意の位置で固定可能に構成されている。昇降部材112の下端部には、上下方向に軸線を有するように回転軸部材115が設けられており、回転軸部材115に接触部材113が回転可能に設けられている。接触部材113は、鋼板300の側面302と接触する外周面を有する円盤状の回転体である。これにより、接触部材113が回転しながら鋼板300の側面302に沿って移動することによって、鋼板300の表面301上で移動部9を円滑に移動させることができる。また、鋼板300が磁性体の場合には、例えば、接触部材113に磁石を設けることが好ましい。これにより、接触部材113に設けた磁石の磁力による吸着力によって、接触部材113が鋼板300の側面302から離れることを抑制することができる。ここで、接触部材113に設ける磁石は、永久磁石でも電磁石でもよい。このとき、渦流探傷に大きな影響が出ない程度の磁力のものを選択するのが好ましい。基本的には、磁場はエッジ近傍に集中し、見かけ上影響を受ける範囲が狭くなるため、渦流探傷への影響は軽微であることが期待できる。また、サイズが小さくできるため、永久磁石とする方がより好ましい。なお、本実施形態においてアーム111及び昇降部材112は、センサ20(物理量計測部2)を走査させる走査方向と直交する方向における鋼板300のエッジ303とセンサ20との間の距離を一定に保つように接触部材113を保持する保持部材を構成している。
【0034】
実施形態1に係る計測装置1によって、鋼板300のエッジ303近傍の物理量を計測する際には、アーム111に対して昇降部材112を上下方向に移動させることによって、接触部材113の外周面が鋼板300の側面302に当たるように高さを調整する。なお、エッジ近傍としては、例えば、鋼板幅方向で端(エッジ)から120[mm]までの範囲であり、実際に物理量計測部2で計測した物理量が、鋼板幅方向の中央部分と比較して変化している範囲をエッジ近傍とすることができる。そして、実施形態1に係る計測装置1においては、鋼板300の側面302に接触部材113の外周面を接触させてエッジ303に追従させながら、移動部9を走査方向に移動させる。これにより、移動部9と鋼板300のエッジ303との距離、ひいては、物理量計測部2のセンサ20と鋼板300のエッジ303との距離を一定に保ったまま、移動部9を移動させることができる。よって、実施形態1に係る計測装置1においては、鋼板300のエッジ303(側面302)に倣って、センサ20とエッジ303との距離を一定に保ったまま、鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の物理量を物理量計測部2によって計測することができる。
【0035】
また、物理量計測部2によって鋼板300のエッジ303近傍以外の物理量を計測する際に、鋼板300の表面301と接触部材113とが干渉してしまう場合には、昇降部材112を上に移動させることによって接触部材113を鋼板300の上方に退避させる。
【0036】
また、計測対象の鋼板300に応じて、鋼板300の表面301上で計測したい範囲、つまりは、鋼板幅方向でエッジ303とセンサ20(物理量計測部2)との距離が変わる場合がある。そのため、エッジ追従部11は、例えば、スライド機構によってアーム111に対して昇降部材112をアーム長手方向(鋼板幅方向)に移動可能に構成してもよい。なお、この際、例えば、昇降固定部114としては、昇降部材112をアーム111に対してアーム長手方向の任意の位置でも固定可能なように構成すればよい。そして、アーム111に対して昇降部材112をアーム長手方向にスライド移動させて、アーム長手方向における台車91と接触部材113との間の距離を変更することにより、鋼板幅方向でエッジ303とセンサ20(物理量計測部2)との距離を調整することができる。
【0037】
また、実施形態1に係る計測装置1によって鋼板300の全面を計測する場合には、一般に鋼板300の表面301上において走査方向(進行方向)で端まで到達したら、走査方向(移動方向)の向きを反転させて移動部9を走行させる必要がある。そのため、エッジ追従部11は、移動部9の走査方向(進行方向)に対して左右にそれぞれ設けることが望ましい。また、鋼板300の側面302にエッジ追従部11の接触部材113を1つだけ接触させる構成では、鋼板300の側面302とエッジ追従部11の接触部材113との接触部分を回転の中心として、鋼板300の表面301上で移動部9が回転して移動部9の向きが変わるおそれがある。そのため、移動部9の走査方向(進行方向)で前後に少なくとも2つのエッジ追従部11を設けることが望ましい。
【0038】
図5は、物理量計測部2のセンサ20の側面図である。図6は、物理量計測部2のセンサ20の平面図である。物理量計測部2のセンサ20は、励磁コイル201と磁化ヨーク202とによって構成されている。図5に示した例では、磁化ヨーク202に2つの足部202a,202bがあり、足部202aと足部202bとの間のヨーク部202cに励磁コイル201が巻かれている。センサ20の励磁コイル201は、物理量計測部2に設けられた励磁部21に接続されている。そして、励磁部21によって励磁コイル201に交流電圧(交流信号)を印加して励磁コイル201を励磁すると、磁化ヨーク202を介して鋼板300に磁界が生成され、鋼板300の電磁気特徴量を励磁コイル201の出力信号の変化として得ることができる。なお、電磁気特徴量は、例えば、磁化量、微分透磁率、渦流信号(渦流インピーダンス)、高調波成分、及び、保磁力などに直接または間接的に関係する物理量である。本実施形態では、1種類の励磁コイル201を用いた例で説明するが、励磁コイル201とは別に検出用コイルを設けてもよい。また、前記検出用コイルは、励磁コイル201と同様に磁化ヨーク202に巻いて用いることに限定されるものではなく、例えば、励磁コイル201が巻かれる磁化ヨーク202とは別の磁化ヨークに巻いて用いたり、磁化ヨークに巻かずに用いたりしてもよい。
【0039】
ここで、本実施形態においては、図5及び図6に示すように、足部202aと足部202bとが鋼板幅方向に並んで配置された状態で、鋼板幅方向におけるセンサ20の中心線L1と鋼板300のエッジ303との間の距離をエッジ距離dと定義する。
【0040】
実施形態1に係る計測装置1では、物理量計測部2の複数のセンサ20a~20hをそれぞれ構成する各励磁コイル201を励磁部21によって同時に励磁することによって、同時に鋼板300の複数箇所での局所的な電磁気特徴量を計測することができる。
【0041】
励磁部21は、鋼板300に近接したセンサ20の励磁コイル201に交流信号(交流電圧)を印加することによって、鋼板300の電磁気特徴量を含んだ信号を取得する。本実施形態においては、このような励磁部21とセンサ20とを用いて、渦流探傷法や3MA(Micromagnetic Multiparameter Microstructure and Stress Analysis)技術で電磁気特徴量を計測することが好ましい。例えば、励磁部21が、図7に示すような2つの周波数を重畳させた交流信号(交流電圧)と、図8に示すような1つの周波数の交流信号(交流電圧)とを、2回に分けて励磁コイル201に印加することによって電磁気特徴量が計測される。図5に示すような1つの周波数を用いた交流信号(交流電圧)の印加によって得られる信号は、一般に渦流信号と呼ばれ、鋼板300の表層部の探傷に特に適している。渦流探傷法では、励磁コイル201に交流信号(交流電圧)を印加することで励起される鋼板300の表面301の渦電流が、表面欠陥の有無で変化する現象を利用して、鋼板300の表面欠陥の検出にあたり渦流信号の振幅や位相が用いられる。
【0042】
なお、図7及び図8のに示した2種類の交流信号(交流電圧)のいずれかの交流信号(交流電圧)のみを励磁コイル201に印加して電磁気特徴量を計測してもよいが、図7及び図8に示した2種類の交流信号(交流電圧)の両方を用いることによって、特性の異なる電磁気特徴量を多数計測することができる。そのため、図7及び図8に示した2種類の交流信号(交流電圧)の両方を用い、この2種類の交流信号(交流電圧)を2回に分けて励磁コイル201に印加する方が、エッジ影響の補正及び機械的特性の推定を行う上で好ましい。
【0043】
また、センサ20(励磁コイル201及び磁化ヨーク202)の大きさや、励磁コイル201に印加される交流信号(交流電圧)の周波数に応じて、鋼板300の表面301上において電磁気特徴量が計測される範囲は変化する。交流信号(交流電圧)を印加する場合には、表皮効果により磁場は鋼板300の表層に集中し、結果として表層の電磁気特徴量が計測される。電磁気特徴量が計測される範囲は、磁場が分布する範囲で平均化される。そのため、局所的に電磁気特徴量を計測する場合には、センサ20(励磁コイル201及び磁化ヨーク202)を小さくし、表皮深さが計測したい深さ範囲に対応するように励磁コイル201に印加する交流信号(交流電圧)の周波数を選定することが好ましい。
【0044】
また、実施形態1に係る計測装置1においては、鋼板300を移動させずに、鋼板300の表面301上で移動部9を走査方向に走行させて物理量計測部2を移動させながら、鋼板300の全面の物理量(電磁気特徴量)を物理量計測部2によって計測する。なお、物理量計測部2を移動させずに、鋼板300を移動させることによって、鋼板300の全面の物理量(電磁気特徴量)を物理量計測部2によって計測するようにしてもよい。
【0045】
また、実施形態1に係る計測装置1は、鋼板300の表面301上における物理量計測部2の移動距離を取得する移動距離取得部として、例えば、ロータリーエンコーダを備えてもよい。また、実施形態1に係る計測装置1は、鋼板300のエッジ位置を検知するエッジ位置検知部として、例えば、渦流式やレーザー式のエッジ位置検知センサなどを備えてもよい。そして、ロータリーエンコーダと、エッジ位置検知センサとを組み合わせて用いることによって、鋼板300のエッジ近傍における表面301の物理量(電磁気特徴量)の計測時におけるエッジ距離dを導出するようにしてもよい。
【0046】
図9(a)は、エッジ追従部11を用いずに鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の物理量を計測した際の物理量のマップを示した図である。なお、ここでは、エッジ距離dが10[mm]となるように鋼板300の表面301上に罫書きを行い、罫書き線に沿って電磁気的特徴量の計測を行った。図9(a)に示すように、鋼板300のエッジ近傍領域では明暗のばらつきが大きく、電磁気特徴量の計測値の変動が大きいことが確認できる。これは、計測装置1によって鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の物理量を計測する際には、鋼板300から台車91が落車するおそれがあるために鋼板幅方向の中央部分と比べて台車91の直進性が落ち、エッジ距離dが一定に保たれておらず大きく変動していることが原因であると考えられる。
【0047】
図9(b)は、エッジ追従部11を用いて鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の物理量を計測した際の物理量のマップを示した図である。なお、ここでは、エッジ距離dが10[mm]となるようにエッジ追従部11を調整して電磁気特徴量の計測を行った。図9(b)に示すように、図9(a)と比べて、鋼板300のエッジ近傍領域では明暗のばらつきが小さく、エッジ近傍領域における電磁気特徴量の計測値の変動が小さくなっていることが確認できる。これは、エッジ追従部11によってエッジ距離dが一定に保たれていることが理由であると考えられる。
【0048】
以上のように、実施形態1に係る計測装置1においては、エッジ追従部11を用いてエッジ距離dを一定に保って、鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の物理量(電磁気特徴量)の計測精度を向上させることができる。
【0049】
(実施形態2)
以下に、本発明の第2の実施形態である計測装置及び計測方法について説明する。なお、実施形態2に係る計測装置の構成は、実施形態1に係る計測装置1と同様のため、その説明は適宜省略する。
【0050】
実施形態2に係る計測装置1を用いて物理量計測部2により、鋼板300の表面の渦流計測のような電磁気的な計測を行う場合には、鋼板300の端部に電磁界が集中するエッジ効果と呼ばれる現象によって、計測結果を正しく評価ができないという課題がある。この課題を解決するために、本願発明者らは、鋭意研究を重ねて、複数の電磁気特徴量とエッジ距離dとの関係について調べた。その結果、本願発明者らは、各電磁気特徴量によってその変化の仕方は異なるものの、材質や機械的特性の異なる複数の鋼板においてエッジ近傍では共通の変化傾向をもっており、エッジ影響の補正が可能であることを見出した。また、本願発明者らは、材質や機械的特性による変化に比べてエッジ効果による変化が大きい電磁気特徴量を用いることによって、エッジ距離dの推定または他の電磁気特徴量のエッジ効果による変動量を推定可能であることを見出した。これにより、本願発明者らは、例えば、鋼板の端部形状が複雑なためにエッジ距離dが直接計測できない場合においても、エッジ影響の補正が可能であることを見出した。
【0051】
実施形態2に係る計測装置1において、制御部3は、物理量計測部2のセンサ20に設けられた励磁部21で取得された受信信号に対して所定の処理を施すことにより、鋼板300の材質によって変化する複数の電磁気特徴量を取得する。記憶部6には、エッジ影響データや材質データが保存されており、制御部3においてエッジ影響の補正や材質予測を行う際にこれらのデータが読み出される。また、エッジ影響データや材質データに基づいては、制御部3で予め計算されたエッジ影響補正式や材質予測式を記憶部6に保存してもよい。制御部3は、記憶部6に保存されたエッジ影響データを用いることにより、エッジ影響によって変動した電磁気特徴量を補正する。エッジ影響データは、事前に材質の異なる複数の鋼板300に対してエッジ距離dを変化させながら電磁気特徴量を計測したものであり、エッジ距離dと各電磁気特徴量との関係を表す計測データである。本実施形態において制御部3は、鋼板300におけるエッジ距離dと電磁気特徴量(物理量)との関係を示すエッジ影響補正式と、物理量計測部2により計測された際のエッジ距離dとを用いて、物理量計測部2によって計測された電磁気特徴量(物理量)を補正する補正部としての機能を有する。また、エッジ影響補正式は、エッジ影響データをもとに算出されたエッジ影響を補正する式であって、エッジ距離d(計測位置の距離)に応じて各電磁気特徴量にオフセットを加える式である。
【0052】
制御部3は、取得した電磁気特徴量またはエッジ影響が補正された電磁気特徴量を表示部5に出力する。さらには、電磁気特徴量をもとに計測対象の鋼板300の機械的特性の予測値を算出し、この予測値を表示部5に出力するようにしてもよい。機械的特性の予測値の算出には、各材質で電磁気特徴量の計測を行い、事前に記憶部6で保存された材質データに基づいて行われる。表示部5では、制御部3から出力された電磁気特徴量または機械的特性の予測値を適切な形式で表示する。
【0053】
図10は、エッジ影響データの作成手順の一例を示したフローチャートである。まず、エッジ影響データの計測にあたり、励磁部21に印加する交流信号の周波数や電圧などの計測条件を設定する(ステップS1)。なお、エッジ距離dを除く計測条件及び物理量計測部2の構成は、実際に計測対象の鋼板300を計測するときと全く同じにすることが好ましい。次に、設定された計測条件を用いて、物理量計測部2で計測対象の鋼板300のエッジ近傍領域における表面301の電磁気特徴量の計測を行う物理量計測ステップを実行する(ステップS2)。次に、計測された電磁気特徴量を記憶部6に保存する(ステップS3)。次に、必要なエッジ距離条件数で電磁気特徴量が記憶部6に保存されるまで、エッジ距離dを変更するか否かを判断する(ステップS4)。エッジ距離dを変更すると判断した場合(ステップS4にてYes)、エッジ距離dの変更を実施する(ステップS5)。そして、必要なエッジ距離条件数で電磁気特徴量が記憶部6に保存されるまで、ステップS2~ステップS5の処理を繰り返し実行して、異なるエッジ距離dでの電磁気特徴量の計測及び保存を繰り返す。なお、必要なエッジ距離条件数は、なるべく多くし、エッジ距離dの間隔を細かく設定することが好ましい。また、励磁信号の周波数によっても異なるが、計測はエッジ近傍から、エッジ影響が十分なくなる範囲まで網羅して行うことが好ましい。これにより、精度よくエッジ影響を補正することが可能となる。また、スキャナやエンコーダなどを用いることによって、エッジ距離dを細かく変化させながら計測を行うことができる。
【0054】
必要なエッジ距離条件数で電磁気特徴量の計測が完了し、エッジ距離dを変更しないと判断した場合(ステップS4にてNo)には、計測サンプルを変更するか否かを判断する(ステップS6)。計測サンプルを変更すると判断した場合(ステップS6にてYes)には、計測サンプルの変更を実施する(ステップS7)。そして、必要なエッジ距離条件数で電磁気特徴量が記憶部6に保存されるまで、ステップS2~ステップS5の処理を繰り返し実行して、異なるエッジ距離dでの電磁気特徴量の計測及び保存を繰り返す。
【0055】
なお、計測サンプルは、実際の計測対象の鋼板300と近い製造条件及び機械的特性を有するものを用いることが好ましい。また、製造された鋼板のばらつきを考慮して、例えば、製造条件が同じ複数の計測サンプルで計測を行い、エッジ影響データを作成することが好ましい。また、鋼種や製造条件が全く異なる複数のサンプルを用いて、電磁気特徴量の計測及び保存を行うことが好ましい。これにより、鋼種や製造条件について、できるだけ広範囲な条件でエッジ影響データを取得して作成したデータベースを用いて、実際に電磁気特徴量を補正する場合に、計測対象の鋼板300の条件に近いエッジ影響データを選択することが可能となる。
【0056】
図11は、5枚の鋼板A~鋼板Eで計測されたエッジ影響データをもとに、第1電磁気特徴量の変化量とエッジ距離dとの関係を示した図である。
【0057】
第1電磁気特徴量の変化量は、エッジ影響を受けていない範囲において計測された値の平均値を各計測値から除算することで計算される。これにより、材質によるセンサ20の出力差を取り除き、エッジ影響による変化量のみを導出することができる。一般にいずれの鋼板においても、エッジ近傍での第1電磁気特徴量の変化は同一の傾向を持っており、各近似曲線を平均することによって、エッジ近傍での平均的な変化を表す曲線を補正曲線として取得することができる。
【0058】
図11では、複数の電磁気特徴量のうちの1つである第1電磁気特徴量とエッジ距離dとの関係を図示しているが、実際のエッジ影響データには第1電磁気特徴量とは異なる他の複数の電磁気特徴量も含まれている。補正曲線は、電磁気特徴量によって異なる場合があるため、各電磁気特徴量について個別に取得することが好ましい。また、物理量計測部2のセンサ20が近接して複数並ぶ構成では、センサ20同士が相互に影響を与えているおそれがあるため、各センサ20について補正曲線を導出することが好ましい。
【0059】
次に、制御部3による電磁気特徴量のエッジ影響の補正方法について説明する。図12は、制御部3による電磁気特徴量のエッジ影響補正の制御の一例を示したフローチャートである。まず、制御部3は、記憶部6に保存されたエッジ影響データを読み込む(ステップS11)。次に、読み込まれたエッジ影響データを用いて、エッジ距離dと電磁気特徴量との関係から、電磁気特徴量毎にエッジ影響補正式を算出する(ステップS12)。次に、制御部3は、物理量計測部2のセンサ20によって計測された電磁気特徴量を取得し、算出したエッジ影響補正式と、予め取得したエッジ距離dとを用いることによって、電磁気特徴量の補正を行う補正ステップを実行する(ステップS13)。最後に、制御部3は、補正された電磁気特徴量を表示部5に出力する(ステップS14)。
【0060】
なお、エッジ影響補正式の算出は、電磁気特徴量の取得前に予め完了しておくことが好ましいが、電磁気特徴量の取得と同時に行っても良い。また、一度算出されたエッジ影響補正式を記憶部6に保存し、電磁気特徴量の補正を行う前に記憶部6に保存したエッジ影響補正式を制御部3で読み出すようにしてもよい。また、計測対象の鋼板300の種類に応じて、制御部3で読み込むエッジ影響データやエッジ影響補正式を変更するのが好ましい。
【0061】
図11を用いてエッジ影響の補正方法について説明する。前述した手順により、エッジ近傍での平均的な変化を表す曲線を補正曲線として導出することができる。エッジ距離dとすると、図11に示した補正曲線を表す式として、エッジ影響による第1電磁気特徴量の変化量Pは、下記数式(1)のように表すことができる。
【0062】
【数1】
【0063】
ここで、計測された第1電磁気特徴量の値をX1、エッジ距離をd1とすると、この位置における第1電磁気特徴量の変化量P1は、下記数式(2)のように表すことができる。
【0064】
【数2】
【0065】
そして、エッジ影響を取り除いた第1電磁気特徴量の値X1’は、下記数式(3)のように表すことができる。
【0066】
【数3】
【0067】
図13は、エッジ影響の補正前後での第1電磁気特徴量とエッジ距離dとの関係を示した図である。図13に示すように、エッジ影響の補正前は、エッジ距離100[mm]以内の位置において、エッジ影響により第1電磁気特徴量の値が大きく変動していることが確認できる。一方で、エッジ影響の補正後は、エッジ距離100[mm]以内の位置において、エッジ影響が取り除かれて(エッジ影響が低減されて)、第1電磁気特徴量の値がほぼ均一になっていることが確認できる。これにより、エッジ影響の補正を行うことによって、エッジ近傍においても正確な電磁気特徴量の導出及び機械的特性の予測が可能となる。また、機械的特性の予測に、複数の電磁気特徴量を用いた一般化線形回帰のような予測モデルを用いる場合には、予測モデルの入力となる全ての電磁気特徴量に対してエッジ影響の補正を行うことによって、機械的特性を正確に予測することができる。
【0068】
ここで、上記のエッジ影響の補正方法では、計測対象の鋼板の材質や板厚などが変化した場合でも、エッジ影響による電磁気特徴量の変化が一定であることを利用している。一方で、材質やエッジ形状(板端部の形状)がエッジ影響データの計測に用いた鋼板と大きく異なる場合には、エッジ影響による電磁気特徴量の変化が一定とならない場合がある。
【0069】
そこで、計測対象の鋼板300における2つ以上の電磁気特徴量、例えば、第1電磁気特徴量及び第2電磁気特徴量を計測する。なお、第1電磁気特徴量と第2電磁気特徴量とは異なる電磁気特徴量であって、第1電磁気特徴量及び第2電磁気特徴量とエッジ距離dとが相関を有し、エッジ距離dを介して第1電磁気特徴量と第2電磁気特徴量とが相関を有している。そして、第1電磁気特徴量及び第2電磁気特徴量のそれぞれのエッジ影響データを用いて、エッジ影響による第1電磁気特徴量の変動量を導出する。ここで、第2電磁気特徴量は、材質や機械特性の違いによる変化と比べ、エッジ影響による変化が大きく、支配的となるような電磁気特徴量を用いることが好ましい。
【0070】
エッジ近傍における電磁気特徴量の変化の仕方は、材質や機械的特性の異なる鋼板でも共通の傾向を持っており、エッジ影響データ及びエッジ距離dを用いることによってエッジ影響の補正が可能となる。また、エッジ距離dが既知でない場合には、材質や機械的特性による変化に比べ、エッジ影響による変化が大きい電磁気特徴量からエッジ距離を推定し、他の電磁気特徴量の補正に用いることができる。エッジ形状が複雑である場合やエッジ形状が鋼板によって大きく異なる場合には、エッジ近傍での電磁気特徴量の変化が同一にならない場合がある。その際には、エッジ効果の影響を強く受ける電磁気特徴量から、補正したい電磁気特徴量のエッジ影響による変動量を直接推定することによって、エッジ影響が取り除かれた電磁気特徴量を導出することが可能となる。
【0071】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本発明を板状製品の製造設備を構成する計測装置として適用し、本発明に係る計測装置によって製造装置で製造された板状製品の物理量を計測するようにしてもよい。また、本発明を板状製品の製造方法に含まれる物理量計測ステップとして適用し、製造ステップにおいて製造された板状製品の物理量を計測するようにしてもよい。このような板状製品の製造設備及び板状製品の製造方法によれば、板状製品を歩留まりよく製造することができる。
【0072】
さらに、本発明を板状製品の品質管理方法に含まれる計測方法に適用し、本発明に係る計測方法によって板状製品の物理量を計測することにより板状製品の品質管理を行うようにしてもよい。具体的には、本発明に係る計測方法に含まれる物理量計測ステップで板状製品の物理量を計測し、物理量計測ステップによって得られた物理量の計測結果から板状製品の品質管理を行うことができる。このような板状製品の品質管理方法によれば、高品質の板状製品を提供することができる。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 計測装置
2 物理量計測部
3 制御部
4 操作部
5 表示部
6 記憶部
7 センサ着材状況監視部
7a~7d レーザー距離計
8 ガイダンス部
9 移動部
10 接続部
11 エッジ追従部
20a~20d センサ
21 励磁部
91 台車
92 ハンドル
93a~93d 車輪
101 アーム
102 シリンダー
111 アーム
112 昇降部材
113 接触部材
114 昇降固定部
115 回転軸部材
201 励磁コイル
202 磁化ヨーク
300 鋼板
301 表面
302 側面
303 エッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13