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特開2024-118833PC鋼材位置変位装置、PC鋼材の位置変位方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118833
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】PC鋼材位置変位装置、PC鋼材の位置変位方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
E04G21/12 105Z
E04G21/12 105D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025374
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591121111
【氏名又は名称】株式会社安部日鋼工業
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】正川 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】笠原 玲
(72)【発明者】
【氏名】及川 雅司
(72)【発明者】
【氏名】鷹羽 邦治
(72)【発明者】
【氏名】足立 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 健
(72)【発明者】
【氏名】古川 正悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】國富 康志
(57)【要約】      (修正有)
【課題】緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を変位させることができるPC鋼材位置変位装置を提供する。
【解決手段】フレーム11と、位置を変位させる第1PC鋼材100を支持する支持治具12と、軸部131の第1端部13Aに支持治具12に固定する固定板132を有し、軸部131の第1端部13Aと反対に位置する第2端部13Bにねじ部133を有する引き上げ軸13と、引き上げ軸13のねじ部133と嵌合するナット14と、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定する測定装置16と、を有し、フレーム11は、第1PC鋼材100を挿入する第1貫通孔113と、第1貫通孔113と接続され、かつ第1貫通孔113の長手と直交するように設けられており、引き上げ軸13を挿入する引き上げ孔114と、引き上げ軸13に嵌めたナット14を支持する支持部11Bと、を有する、PC鋼材位置変位装置10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
位置を変位させる第1PC鋼材を支持する支持治具と、
軸部の第1端部に前記支持治具に固定する固定板を有し、前記軸部の前記第1端部と反対に位置する第2端部にねじ部を有する引き上げ軸と、
前記引き上げ軸の前記ねじ部と嵌合するナットと、
前記第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定する測定装置と、
を有し、
前記フレームは、
前記第1PC鋼材を挿入する第1貫通孔と、
前記第1貫通孔と接続され、かつ前記第1貫通孔の長手と直交するように設けられており、前記引き上げ軸を挿入する引き上げ孔と、
前記引き上げ軸に嵌めた前記ナットを支持する支持部と、を有する、PC鋼材位置変位装置。
【請求項2】
前記フレームは、第2PC鋼材を挿入する、前記第1貫通孔に沿って設けられた第2貫通孔と、
前記第1貫通孔と、前記第2貫通孔との間に配置された壁部とを有する、請求項1に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項3】
前記第2貫通孔の内周面のうち、少なくとも前記第2PC鋼材が接する部分に第1弾性部材が設けられている、請求項2に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項4】
前記ナットを回転させる回転装置を有する、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項5】
前記測定装置により測定した前記変化量に基づいて、前記回転装置による前記ナットの回転を制御する制御装置を有する、請求項4に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項6】
前記測定装置により測定した前記変化量に基づいて、警報を通知する警報装置を有する、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項7】
前記変化量が、前記第1PC鋼材の張力の変化量、前記第1PC鋼材を引き上げる力の大きさの変化量、前記第1PC鋼材の変位量、および前記ナットを締めるトルクの変化量から選択された1種類以上である、請求項1または請求項2に記載のPC鋼材位置変位装置。
【請求項8】
位置を変位させる第1PC鋼材に、前記第1PC鋼材を支持する支持治具を設置する支持治具設置工程と、
前記支持治具に、軸部の第1端部に前記支持治具に固定する固定板を有し、前記軸部の前記第1端部と反対に位置する第2端部にねじ部を有する引き上げ軸を設置する引き上げ軸設置工程と、
前記第1PC鋼材、前記支持治具、および前記引き上げ軸にフレームを設置するフレーム設置工程と、
前記引き上げ軸の前記ねじ部にナットを嵌め、前記第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定装置により測定しながら、前記ナットを締めることで、前記引き上げ軸、前記支持治具、および前記支持治具に支持された前記第1PC鋼材の位置を変位させる変位工程と、を有し、
前記フレームは、
前記第1PC鋼材を挿入する第1貫通孔と、
前記第1貫通孔と接続され、かつ前記第1貫通孔の長手と直交するように設けられており、前記引き上げ軸を挿入する引き上げ孔と、
前記引き上げ軸に嵌めた前記ナットを支持する支持部と、を有し、
前記フレーム設置工程では、前記第1貫通孔に前記第1PC鋼材が、前記引き上げ孔に前記引き上げ軸が位置するように前記フレームを設置し、
前記変位工程では、前記ナットを前記支持部に当てながら、前記ナットを締める、PC鋼材の位置変位方法。
【請求項9】
前記支持治具設置工程では、前記第1PC鋼材の長手に沿って、複数の前記支持治具を設置し、
前記引き上げ軸設置工程では、それぞれの前記支持治具に前記引き上げ軸を設置し、
前記フレーム設置工程では、前記第1PC鋼材の長手に沿って配置した複数の前記支持治具および前記引き上げ軸にそれぞれ前記フレームを設置し、
前記変位工程では、それぞれの前記引き上げ軸に前記ナットを嵌め、前記ナットを締めることで、前記第1PC鋼材の長手に沿った複数箇所で、前記第1PC鋼材の位置を変位させる、請求項8に記載のPC鋼材の位置変位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、PC鋼材位置変位装置、PC鋼材の位置変位方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長尺の磁性体の一部を囲むように配され、その磁性体を長手方向に飽和漸近磁化範囲まで直流磁化する筒状の磁化器と、前記磁性体の磁化区間の長手方向中央部の近傍に配され、磁性体表面近傍の空間磁界強度を検出する磁気センサとを備え、前記磁気センサで検出される空間磁界強度に基づいて磁性体に作用する張力を測定するようにした張力測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-265003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリート構造物は引張力に弱いという特性がある。そこで、PC鋼撚り線等のPC鋼材により、コンクリート構造物に予め圧縮力を加え、コンクリート構造物が荷重を受けた際の引張応力を制御することがなされている。
【0005】
PC鋼材は、コンクリート構造物に設置され、長年に渡って緊張力が導入された状態にある。このため、PC鋼材について、設置後に検査やメンテナンスを行うことが求められる。そして、PC鋼材に導入された緊張力を測定するために、検査の際等に特許文献1に開示された張力測定装置等を設置することが求められる場合がある。また、検査の際等にPC鋼材について、目視で状態を確認することが求められる場合もある。
【0006】
さらに、検査の結果、PC鋼材に発錆や破損等が確認された場合にはPC鋼材の交換を行う場合もある。PC鋼材を交換する場合、PC鋼材に導入された緊張力を解放させる必要がある。そして、PC鋼材に導入された緊張力を解放(除荷)するため、緊張力解放装置等の付加設備を設置することを求められる場合があった。
【0007】
しかし、PC鋼材の設置時に張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備が設置されていないか、設置を予定していない場合、PC鋼材の周囲に配置された部材と干渉し、付加設備を設置できないことがあった。
【0008】
コンクリート構造物内において、PC鋼撚り線等のPC鋼材同士が近接して配置されている場合、各PC鋼材の外観を全周に渡って目視等で確認することは困難である。また、PC鋼材がPC鋼撚り線のように複数本のPC鋼線を含む場合、PC鋼材を構成するPC鋼線についても目視で確認することを求められる場合がある。しかし、例えばPC鋼撚り線の場合、構成するPC鋼線は撚り合わされているため、該PC鋼線同士が接する部分を目視で確認することも困難である。
【0009】
このため、PC鋼材に付加設備を設置する際や、PC鋼材の状態を目視等で観察する際に、PC鋼材の位置を変位させることが求められる場合があった。
【0010】
しかしながら、コンクリート構造物に設置されたPC鋼材は緊張力が導入されているため、コンクリート構造物内での位置を変位させることは困難であった。
【0011】
このため、本開示は、緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を変位させることができるPC鋼材位置変位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一観点によれば、フレームと、
位置を変位させる第1PC鋼材を支持する支持治具と、
軸部の第1端部に前記支持治具に固定する固定板を有し、前記軸部の前記第1端部と反対に位置する第2端部にねじ部を有する引き上げ軸と、
前記引き上げ軸の前記ねじ部と嵌合するナットと、
前記第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定する測定装置と、
を有し、
前記フレームは、
前記第1PC鋼材を挿入する第1貫通孔と、
前記第1貫通孔と接続され、かつ前記第1貫通孔の長手と直交するように設けられており、前記引き上げ軸を挿入する引き上げ孔と、
前記引き上げ軸に嵌めた前記ナットを支持する支持部と、を有する、PC鋼材位置変位装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を変位させることができるPC鋼材位置変位装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の一態様に係るPC鋼材位置変位装置の説明図である。
図2図2は、図1のA-A´線での断面図である。
図3図3は、本開示の一態様に係るPC鋼材位置変位装置の説明図である。
図4図4は、図3のB-B´線での断面図である。
図5図5は、本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法のフローである。
図6図6は、本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法のフローである。
図7図7は、本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法において、第1PC鋼材の長手に沿って、複数のPC鋼材位置変位装置を配置する場合の説明図である。
図8図8は、隙間形成工程の説明図である。
図9図9は、隙間形成工程で好適に用いることができる工具の説明図である。
図10A図10Aは、隙間形成工程で用いることができる固定工具の説明図である。
図10B図10Bは、隙間形成工程で用いることができる固定工具の説明図である。
図10C図10Cは、隙間形成工程で用いることができる固定工具の説明図である。
図11図11は、第1PC鋼材の位置を変位させた際の張力の変化についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0016】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0017】
(1) 本開示の一態様に係るPC鋼材位置変位装置はフレームと、
位置を変位させる第1PC鋼材を支持する支持治具と、
軸部の第1端部に前記支持治具に固定する固定板を有し、前記軸部の前記第1端部と反対に位置する第2端部にねじ部を有する引き上げ軸と、
前記引き上げ軸の前記ねじ部と嵌合するナットと、
前記第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定する測定装置と、
を有し、
前記フレームは、
前記第1PC鋼材を挿入する第1貫通孔と、
前記第1貫通孔と接続され、かつ前記第1貫通孔の長手と直交するように設けられており、前記引き上げ軸を挿入する引き上げ孔と、
前記引き上げ軸に嵌めた前記ナットを支持する支持部と、を有する。
【0018】
本開示のPC鋼材位置変位装置は、位置を変位させる第1PC鋼材について、支持治具を介して引き上げ軸に接続してある。そして、ナットを引き上げ軸のねじ部に嵌め、該ナットをフレームで支持しながら締めることで、引き上げ軸や、引き上げ軸に支持治具を介して接続された第1PC鋼材の位置を容易に変位させることができる。
【0019】
また、本開示のPC鋼材位置変位装置が測定装置を有することで、第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定することができ、第1PC鋼材について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0020】
本開示のPC鋼材位置変位装置を用いることで、緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を容易に変位させることができる。このため、PC鋼材に張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備を設置する場合や、PC鋼材の状態を目視等で観察する際に、PC鋼材の位置を容易に変位させ、目的を達成することができる。
【0021】
本開示のPC鋼材位置変位装置によれば、コンクリート構造物内において、PC鋼撚り線等のPC鋼材同士が近接して配置されている場合、近接して配置された一部のPC鋼材の位置を変位させ、各PC鋼材の外観を全周に渡って目視等で確認できる。また、PC鋼材がPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体の場合に、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成する一部のPC鋼線の位置を変位させ、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成するPC鋼線同士の接触部等についても目視で確認することができる。
【0022】
(2) 上記(1)において、前記フレームは、第2PC鋼材を挿入する、前記第1貫通孔に沿って設けられた第2貫通孔と、
前記第1貫通孔と、前記第2貫通孔との間に配置された壁部とを有していてもよい。
【0023】
フレームが第2貫通孔と、壁部とを有し、第2貫通孔に第2PC鋼材を配置することで、第1PC鋼材を牽引する際にフレームに加わる反力を、第2PC鋼材により支持できる。このため、第1PC鋼材の周囲にコンクリート構造物等がない場合でも、第1PC鋼材を牽引し、位置を容易に変位させることができる。
【0024】
(3) 上記(2)において、前記第2貫通孔の内周面のうち、少なくとも前記第2PC鋼材が接する部分に第1弾性部材が設けられていてもよい。
【0025】
第2貫通孔の内周面のうち少なくとも第2PC鋼材が接する部分に第1弾性部材を設けることで、第2PC鋼材に疵が生じることを防止できる。
【0026】
(4) 上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記ナットを回転させる回転装置を有していてもよい。
【0027】
本開示の一態様に係るPC鋼材位置変位装置が、ナットを回転させる回転装置を有することで、人力によらず、自動で引き上げ軸の位置を変化させ、第1PC鋼材の位置を変位させることができる。
【0028】
(5) 上記(4)において、前記測定装置により測定した前記変化量に基づいて、前記回転装置による前記ナットの回転を制御する制御装置を有していてもよい。
【0029】
測定装置により測定した第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量に基づいて、回転装置によるナットの回転を制御することで、第1PC鋼材について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0030】
(6) 上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記測定装置により測定した前記変化量に基づいて、警報を通知する警報装置を有していてもよい。
【0031】
本開示の一態様に係るPC鋼材位置変位装置が警報装置を有することで、測定装置により測定した第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量について、特異な挙動を示した場合等に通知を行うことができる。このため、第1PC鋼材の変位が、予め設定した条件から大きく異なった条件によりなされることを防止できる。
(7) 上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記変化量が、前記第1PC鋼材の張力の変化量、前記第1PC鋼材を引き上げる力の大きさの変化量、前記第1PC鋼材の変位量、および前記ナットを締めるトルクの変化量から選択された1種類以上であってもよい。
【0032】
上記変化量は、第1PC鋼材の位置を変位させた際に第1PC鋼材の状態が反映されるパラメータであり、上記変化量を測定することで、第1PC鋼材の状態を正確に把握できる。
【0033】
(8) 本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法は、
位置を変位させる第1PC鋼材に、前記第1PC鋼材を支持する支持治具を設置する支持治具設置工程と、
前記支持治具に、軸部の第1端部に前記支持治具に固定する固定板を有し、前記軸部の前記第1端部と反対に位置する第2端部にねじ部を有する引き上げ軸を設置する引き上げ軸設置工程と、
前記第1PC鋼材、前記支持治具、および前記引き上げ軸にフレームを設置するフレーム設置工程と、
前記引き上げ軸の前記ねじ部にナットを嵌め、前記第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定装置により測定しながら、前記ナットを締めることで、前記引き上げ軸、前記支持治具、および前記支持治具に支持された前記第1PC鋼材の位置を変位させる変位工程と、を有し、
前記フレームは、
前記第1PC鋼材を挿入する第1貫通孔と、
前記第1貫通孔と接続され、かつ前記第1貫通孔の長手と直交するように設けられており、前記引き上げ軸を挿入する引き上げ孔と、
前記引き上げ軸に嵌めた前記ナットを支持する支持部と、を有し、
前記フレーム設置工程では、前記第1貫通孔に前記第1PC鋼材が、前記引き上げ孔に前記引き上げ軸が位置するように前記フレームを設置し、
前記変位工程では、前記ナットを前記支持部に当てながら、前記ナットを締める。
【0034】
本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法によれば、以上の工程により、引き上げ軸や、引き上げ軸に支持治具を介して接続された第1PC鋼材の位置を容易に変位させることができる。
【0035】
また、測定装置により、第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量を測定しているため、該第1PC鋼材について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0036】
本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法によれば、上述のように緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を容易に変位させることができる。このため、PC鋼材に張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備を設置する場合や、PC鋼材の状態を目視等で観察する際に、PC鋼材の位置を容易に変位させ、目的を達成することができる。
【0037】
本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法によれば、コンクリート構造物内において、PC鋼撚り線等のPC鋼材同士が近接して配置されている場合、近接して配置された一部のPC鋼材の位置を変位させ、各PC鋼材の外観を全周に渡って目視等で確認できる。また、PC鋼材がPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体の場合に、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成する一部のPC鋼線の位置を変位させ、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成するPC鋼線同士の接触部等についても目視で確認することができる。
【0038】
(9) 上記(8)において、前記支持治具設置工程では、前記第1PC鋼材の長手に沿って、複数の前記支持治具を設置し、
前記引き上げ軸設置工程では、それぞれの前記支持治具に前記引き上げ軸を設置し、
前記フレーム設置工程では、前記第1PC鋼材の長手に沿って配置した複数の前記支持治具および前記引き上げ軸にそれぞれ前記フレームを設置し、
前記変位工程では、それぞれの前記引き上げ軸に前記ナットを嵌め、前記ナットを締めることで、前記第1PC鋼材の長手に沿った複数箇所で、前記第1PC鋼材の位置を変位させてもよい。
【0039】
第1PC鋼材の長手に沿った複数箇所で並行して本開示の一態様に係るPC鋼材の位置変位方法を実施することで、第1PC鋼材の長手に沿って広い範囲で第1PC鋼材を変位させることができる。このため、張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備の設置や、PC鋼材の状態の観察を容易、かつ効率的に実施できる。
【0040】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るPC鋼材位置変位装置、PC鋼材の位置変位方法の具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0041】
本明細書において、第1PC鋼材、第2PC鋼材、第1フレーム、第2フレーム、第1弾性部材、第2弾性部材、第1貫通孔、第2貫通孔、第1端部、第2端部、第1側面、第2側面等のように、部材や部分の名称に第1、第2等を付加して説明する場合がある。第1、第2等は、各部材、部分を識別し、説明の際に混同が生じることを防止するために記載しているに過ぎず、配置や、優先順位等を表すものではない。このため、特に混同の恐れがない場合には、単にPC鋼材、フレーム、弾性部材、貫通孔、端部、側面のように表記できる。
[PC鋼材位置変位装置]
図1に、緊張力が導入された既設のPC鋼材であり、位置を変位させるPC鋼材である第1PC鋼材100に、本実施形態のPC鋼材位置変位装置10を設置した際の構成説明図を示す。
【0042】
なお、本実施形態のPC鋼材位置変位装置は、既設の緊張力が導入されたPC鋼材について、位置を変位することができる装置、システムを意味する。
【0043】
図1は、第1PC鋼材100の長手と垂直であり、かつ引き上げ軸13の中心軸に沿った面での断面に当たる。
【0044】
図2は、図1のA-A´線での断面図である。
【0045】
図3に、本実施形態のPC鋼材位置変位装置の他の構成例を示す。図3は、図1と同様に第1PC鋼材100に、本実施形態のPC鋼材位置変位装置30を設置した際の構成説明図である。図3は、第1PC鋼材100の長手と垂直であり、かつ引き上げ軸13の中心軸に沿った面での断面に当たる。
【0046】
図4は、図3のB-B´線での断面図である。
【0047】
図1から図4におけるY軸が第1PC鋼材100の長手に沿った軸になる。このため、XZ平面は第1PC鋼材100の長手と垂直な面になる。Z軸は、第1PC鋼材100を変位させる方向に沿った軸になる。
【0048】
第1PC鋼材100は、位置を変位させるPC鋼材であり、既設の緊張力が導入されたPC鋼材になる。
【0049】
第1PC鋼材100の種類は特に限定されず、例えば複数本のPC鋼線を撚り合わせたPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体、PC鋼線が挙げられる。PC鋼線は、PC鋼撚り線等に素線として用いられる鋼線を意味する。PC鋼線集合体は、複数本のPC鋼線を撚り合わせず、束ねたPC鋼材を意味する。
【0050】
第1PC鋼材100がPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体、PC鋼線であり、例えば後述する第2PC鋼材200が近接して配置される他のPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体、PC鋼線であってもよい。
【0051】
また、第1PC鋼材100がPC鋼線の場合、例えば後述する第2PC鋼材200とで1つのPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成していてもよい。すなわち、後述する第2PC鋼材200が第1PC鋼材100であるPC鋼線を含んでいたPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体であり、第1PC鋼材が該PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体から引き離したPC鋼線であってもよい。
【0052】
第1PC鋼材100や、PC鋼撚り線、PC鋼線集合体、PC鋼線、および後述する第2PC鋼材200等の「PC」は、「Prestressed Concrete」を意味する。
【0053】
本実施形態のPC鋼材位置変位装置は、以下に説明するフレームと、支持治具と、引き上げ軸と、ナットと、測定装置と、を有することができる。
【0054】
以下、各部材について説明する。
(1)支持治具
支持治具12は、位置を変位させる第1PC鋼材100を支持する。具体的には、支持治具12は、第1PC鋼材100を変位させるために第1PC鋼材100を牽引する際、第1PC鋼材100と接し、支える部材である。
(形状)
支持治具12は、第1PC鋼材100を牽引する際に支持できればよく、その形状等は特に限定されないが、第1PC鋼材100に装着しやすい形状であることが好ましい。このため、支持治具12は、第1PC鋼材100を挿入する凹部121を有することができる。支持治具12が凹部121を有することで、第1PC鋼材100を挿入する箇所が明確になり、第1PC鋼材100に支持治具12を容易に装着できる。また、第1PC鋼材100を牽引する際に支持治具12内での第1PC鋼材100の移動を規制できる。
【0055】
凹部121は、支持治具12に後述する引き上げ軸13を接続した際に、引き上げ軸13の固定板132とで、第1PC鋼材100の外周を覆うように構成されていることが好ましい。
【0056】
支持治具12は、外形も凹部121に沿った形状を有することが好ましい。このため、支持治具12は、図1に示すように、凹部121の長手と垂直な断面、別の言い方をすると凹部121に挿入した第1PC鋼材100の長手と垂直な断面において、V字形状またはU字形状等を有することが好ましい。支持治具12の断面形状をV字形状や、U字形状とすることで、第1PC鋼材100の周囲に近接して他の部材が配置されている場合でも第1PC鋼材100に容易に支持治具12を取り付けられる。具体的には、例えば凹部121の開口部に第1PC鋼材100を配置し、支持治具12を押し込み、必要に応じて凹部121の開口部の向きを変化させることで、第1PC鋼材100に支持治具12を取り付けられる。
(材質)
支持治具12は、上述のように第1PC鋼材100を牽引する際に、第1PC鋼材を直接支持する部材である。このため、支持治具12は、牽引する力を第1PC鋼材100に伝達し、第1PC鋼材100の張力に対抗できる硬度を有する材質で形成されていることが好ましい。このため、支持治具12は、例えば金属製であることが好ましい。支持治具12の材料は、ダクタイル鋳鉄(FCD材)や、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、クロムモリブデン鋼(SCM材)等から選択された1種類以上であることがより好ましい。
【0057】
ただし、第1PC鋼材100を牽引する際に第1PC鋼材100の表面に疵等を生じさせないように、支持治具12の第1PC鋼材100と接する面12Aに第2弾性部材122が配置されていることが好ましい。支持治具12が、第2弾性部材122を有することで、第1PC鋼材100を牽引する際に、第1PC鋼材に疵等が生じることを防止できる。
【0058】
第2弾性部材122の材料としては特に限定されない。第1PC鋼材100の表面に被覆が設けられている場合、第2弾性部材122は、第1PC鋼材100の表面に設けられた被覆よりも鉛筆硬度が低いことが好ましく、例えば6B以上4H以下であることが好ましい。本明細書において鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4(1999)に従って測定できる。第2弾性部材122の材料としては、例えばポリエチレン、ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
(2)引き上げ軸
引き上げ軸13は、軸部131を有する。また、引き上げ軸13は、軸部131の第1端部13Aに支持治具12に固定する固定板132を有する。引き上げ軸13は、固定板132を介して、支持治具12に接続、固定できる。
【0059】
また、引き上げ軸13は、軸部131の第1端部13Aと反対に位置する第2端部13Bに、ねじ部133を有し、該ねじ部133に後述するナット14を嵌められる。ねじ部133は、後述するナット14を嵌めるために設けるため、引き上げ軸13の側面に設けられる。
【0060】
引き上げ軸13は、第1PC鋼材100を牽引する際に、第1PC鋼材100を支持する部材である。このため、引き上げ軸13は、第1PC鋼材100の張力に対抗できる硬度を有する材質で形成されていることが好ましい。このため、引き上げ軸13は、例えば金属製であることが好ましい。引き上げ軸13の材料は、ダクタイル鋳鉄(FCD材)や、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、クロムモリブデン鋼(SCM材)等から選択された1種類以上であることがより好ましい。なお、以下に説明する軸部131と、固定板132とで材料は同じであっても良く、異なっていてもよい。
(軸部)
軸部131は、第1端部13Aに固定板132を有し、第2端部13Bにねじ部133を有する。軸部131の形状は特に限定されないが、棒状体とすることができ、例えば柱状形状を有することができ、円柱形状等を有することができる。ただし、上述のようにねじ部133が設けられるため、軸部131は幾何学的に厳密な意味での柱状形状である必要は無い。
(固定板)
上述のように、引き上げ軸13は、軸部131の第1端部13Aに、支持治具12に固定する固定板132を有する。固定板132は、ボルト123等により、既述の支持治具12に固定できるように構成される。支持治具12が、既述の凹部121を有する場合、固定板132は凹部121の開口部を覆う形状を有することができ、上記ボルト123を挿入するための孔を有することができる。
(ねじ部)
引き上げ軸13のうち、軸部131の第1端部13Aと反対に位置する第2端部13Bには、ねじ部133が設けられている。
【0061】
ねじ部133のZ軸に沿った長さ、すなわち引き上げ軸13の長手に沿った長さは特に限定されない。ねじ部133は、第1PC鋼材100を牽引し、変位させる際の引き上げ軸13の長さに対応する。このため、ねじ部133のZ軸に沿った長さは、第1PC鋼材100について要求される変位量に応じて選択できる。
【0062】
ねじ部133は、後述するナット14を嵌め、ナット14を締めることで、引き上げ軸13の位置を変位できるように構成できる。このため、ねじ部133のねじは、ナット14のねじと嵌合するようにそのピッチ等を選択できる。
(3)ナット
ナット14は、引き上げ軸13のねじ部133に嵌合する部材である。ナット14は、引き上げ軸13のねじ部133に嵌め、締めることで引き上げ軸13を図中のZ軸に沿って移動させることができる。この際、ナット14は、後述するフレーム11の支持部11Bに接し、支持される。
【0063】
ナット14は、引き上げ軸13のねじ部133に嵌め、締めることで、引き上げ軸13や、支持治具12を介して引き上げ軸13に支持された第1PC鋼材100を牽引する。このため、第1PC鋼材100に加えられた緊張力に対抗し、引き上げ軸13を支持できるように、内周面に設けたねじの形状や、ナット14の材質を選択することが好ましい。
【0064】
ナット14の材質は特に限定されないが、金属製であることが好ましい。ナット14の材料は、ダクタイル鋳鉄(FCD材)や、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、クロムモリブデン鋼(SCM材)等から選択された1種類以上であることがより好ましい。
(4)フレーム
フレーム11は、第1PC鋼材100の変位させる部分を覆うように配置でき、支持治具12、引き上げ軸13の一部を内部に収容し、ナット14を支持するための部材である。
【0065】
フレーム11は、第1PC鋼材100を挿入する第1貫通孔113と、第1貫通孔113と接続され、かつ第1貫通孔113の長手と直交するように設けられており、引き上げ軸13を挿入する引き上げ孔114と、を有する。
【0066】
フレーム11は、ナット14を介して、引き上げ軸13を支持し、第1PC鋼材100を牽引するため、十分な強度を有することが好ましい。このため、フレーム11は金属製であることが好ましい。フレーム11の材料は、ダクタイル鋳鉄(FCD材)や、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、クロムモリブデン鋼(SCM材)等から選択された1種類以上であることがより好ましい。
(第1貫通孔)
第1貫通孔113は、図2に示すように、第1PC鋼材100を内部に挿入できるように、フレーム11の第1側面11Cと、第2側面11Dとの間を接続するように設けられる。なお、第1貫通孔113には、第1PC鋼材100のうち変位する部分を含む領域を挿入、収容できる。第1貫通孔113は、第1PC鋼材100を挿入できるように、その形状やサイズを選択できる。なお、第1貫通孔113の内周面は第1PC鋼材100と接触する可能性があるため、表面に図示しない弾性部材を配置しておくこともできる。弾性部材としては、後述する第2貫通孔21に好適に配置できる第1弾性部材23と同じ材料を用いることができるため、説明を省略する。
(引き上げ孔)
引き上げ孔114は、引き上げ軸13を挿入し、引き上げ軸13に嵌めたナット14を締めることで、引き上げ軸13が移動する孔である。引き上げ孔114は、引き上げ軸13の長手に沿って設けられる。
【0067】
引き上げ孔114は、引き上げ軸13を挿入できるように、また、変位させた第1PC鋼材100と干渉しないように、そのサイズや、形状を選択できる。
【0068】
引き上げ孔114は、第1貫通孔113と接続して設けられているため、第1貫通孔113と、引き上げ孔114とは明確に区別できる必要は無い。例えば第1貫通孔113をフレーム11の上部に当たる支持部11B近傍まで設け、第1貫通孔113と、引き上げ孔114とが一体となった構成とすることもできる。
(支持部)
フレーム11は、引き上げ軸13に嵌めたナット14を支持する支持部11Bを有することができる。
【0069】
支持部11Bは、引き上げ軸13を引き上げ孔114から、フレーム11の外部に引き出す開口部の周辺であり、引き上げ軸13に嵌めたナット14が接する部分である。このため、支持部11Bは、フレーム11の外表面により構成できるが、ナット14を介して第1PC鋼材100に加えられた緊張力に対抗し、引き上げ軸13を支持できるように、他の部分よりも補強していてもよい。また、フレーム11の外表面で十分にナット14を支持できる場合には、支持部11Bについてもフレーム11の他の領域の外表面と同じ構成としてもよい。
(第1フレーム、第2フレーム)
フレーム11は、第1貫通孔113を通る面で、第1フレーム111と、第2フレーム112とに分割できるように構成されていることが好ましい。フレーム11が第1フレーム111と第2フレーム112とに分割可能に構成されていることで、既設の第1PC鋼材100にフレーム11を容易に設置できる。
【0070】
第1フレーム111と、第2フレーム112とは、固定ボルト151と、固定ナット152等により固定できるように構成されていることが好ましい。第1フレーム111と第2フレーム112を固定する固定ボルト151、固定ナット152の数は特に限定されず、フレーム11に要求される強度や操作性等に応じて選択できる。
【0071】
フレーム11について、図1図2では外形が直方体となる例を示しているが、係る形態に限定されず、例えば第1貫通孔113、引き上げ孔114に沿った形状等、任意の形状とすることができる。
(第2貫通孔)
上述のように、引き上げ軸13のねじ部133にナット14を嵌め、ナット14を締めることで、引き上げ軸13の位置を変位させることができる。そして、引き上げ軸13の位置を変位させることで、併せて引き上げ軸13に接続された支持治具12や、第1PC鋼材100を変位させることができる。
【0072】
ただし、第1PC鋼材100を変位する際に、支持治具12、引き上げ軸13、ナット14を介して、フレーム11に加わる反力を支持する必要がある。そこで、図1図2に示すように、例えばフレーム11の底面11Aをコンクリート構造物101等に接するように配置できる。係る配置とすることで、上記フレーム11に加わる反力を、コンクリート構造物101で支持し、引き上げ軸13や、第1PC鋼材100を変位させることができる。
【0073】
しかしながら、第1PC鋼材100の配置や、第1PC鋼材100の周辺の部材の配置によっては、コンクリート構造物101に接するようにフレーム11を設置できない場合がある。
【0074】
そこで、本実施形態のPC鋼材用変位装置が有するフレーム11は、図3図4に示すように、第2PC鋼材200を挿入する、第1貫通孔113に沿って設けられた第2貫通孔21を有することもできる。そして、第1貫通孔113と、第2貫通孔21との間には、壁部22を有することができる。
【0075】
第2PC鋼材200は、引き上げ軸13のねじ部133に嵌めたナット14を締めた際に、フレーム11に加わる反力を支持することができる。
(壁部、第1弾性部材)
第2貫通孔21に第2PC鋼材200を挿入し、第1貫通孔113と、第2貫通孔21との間に設けられた壁部22に第2PC鋼材200が接することで、壁部22を介して、第2PC鋼材200がフレーム11に加わる反力を支持できる。
【0076】
壁部22は、第1貫通孔113と、第2貫通孔21とを仕切るように設けられているが、例えば第1PC鋼材100を通過できる程度の開口部221を有することもできる。開口部221は、第1貫通孔113に挿入する第1PC鋼材100の長手に沿って設けることができる。
【0077】
図3に点線で示すように、壁部22は開口部221を有さず、第1貫通孔113と、第2貫通孔21とを完全に分離するように設けても良い。壁部22について、開口部221を有しない構成とすることで、第1PC鋼材100の検査等を終えた後、支持治具12を取り外す際などに、第1PC鋼材100を壁部22で容易に保持し、第1PC鋼材100の位置が急激に変位することを防止できる。
【0078】
なお、第1貫通孔113の幅を、第2貫通孔21の幅よりも小さくすることで、上記壁部22を構成することもできる。上記第1貫通孔113の幅、第2貫通孔21の幅は、図中のX軸に沿った長さを意味する。
【0079】
壁部22は、第2PC鋼材200と接することで、フレーム11を支持する機能を有するため、金属製であることが好ましい。壁部22の材料は、ダクタイル鋳鉄(FCD材)や、一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、クロムモリブデン鋼(SCM材)等から選択された1種類以上であることがより好ましい。
【0080】
ただし、壁部22が金属等の硬度の高い材料で形成されている場合、壁部22と、第2PC鋼材200とが接することで、第2PC鋼材200に疵が生じる恐れがある。
【0081】
そこで、第2貫通孔21の内周面21Aのうち、少なくとも第2PC鋼材200が接する部分に第1弾性部材23が設けられていることが好ましい。第2貫通孔21の内周面21Aのうち少なくとも第2PC鋼材200が接する部分に第1弾性部材23を設けることで、第2PC鋼材200に疵が生じることを防止できる。
【0082】
通常、第2PC鋼材200は、壁部22の下面22Aに接することになる。このため、図3図4に示した様に、少なくとも壁部22の下面22Aに第1弾性部材23を配置しておくことが好ましい。ただし、図3図4に示すように、第2貫通孔21の内周面21A全体に第1弾性部材23を配置することもできる。
【0083】
なお、第1貫通孔113や、引き上げ孔114の内周面の一部または全部にも第1PC鋼材100に疵等が生じることを防ぐために同様に第1弾性部材23を配置することもできる。図3では開口部221部分について第1弾性部材23を配置していないが、壁部22に開口部221を設けない構成とする場合、開口部221となっている部分についても第1弾性部材23を配置することが好ましい。
【0084】
第1弾性部材23の材料としては特に限定されない。第2PC鋼材200の表面に被覆が設けられている場合、第1弾性部材23は、第2PC鋼材200の表面に設けられた被覆よりも鉛筆硬度が低いことが好ましく、例えば6B以上4H以下であることが好ましい。第1弾性部材23の材料としては、例えばポリエチレン、ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
(第2PC鋼材)
第2PC鋼材200は、上記反力を支持するPC鋼材である。このため、第2PC鋼材200は、上記反力を支持できるように、緊張力が導入されているPC鋼材であることが好ましい。第2PC鋼材200は、既設のPC鋼材であってもよく、必要に応じて新設したPC鋼材であってもよい。
【0085】
第2PC鋼材200の種類は特に限定されず、例えば複数本のPC鋼線を撚り合わせたPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体、PC鋼線が挙げられる。なお、第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200とは構成が同じであっても、異なっていてもよい。
【0086】
例えば、第1PC鋼材100および第2PC鋼材200のいずれもがPC鋼撚り線であり、第2PC鋼材200が、第1PC鋼材100に隣接して配置されたPC鋼撚り線であってもよい。なお、この場合に第1PC鋼材100および第2PC鋼材200のいずれか一方、もしくは両方をPC鋼撚り線に変えて、PC鋼線集合体やPC鋼線とすることもできる。
【0087】
また、第1PC鋼材100がPC鋼線の場合、第2PC鋼材200が該PC鋼線を含んでいたPC鋼撚り線またはPC鋼線集合体であり、第1PC鋼材が、PC鋼撚り線またはPC鋼線集合体から引き離したPC鋼線であってもよい。
【0088】
図3図4に示したように、フレーム11が第2貫通孔21と、壁部22とを有し、第2貫通孔21に第2PC鋼材200を配置することで、第1PC鋼材100を牽引する際にフレーム11に加わる反力を、第2PC鋼材200により支持できる。このため、第1PC鋼材100の周囲にコンクリート構造物101等がない場合でも、第1PC鋼材100を牽引し、位置を容易に変位させることができる。
【0089】
図3図4に示したPC鋼材位置変位装置30は、上記第2貫通孔21、壁部22、第1弾性部材23を有する点以外は、図1図2に示したPC鋼材位置変位装置10と同じ構成にできるため、その他の点は説明を省略する。
【0090】
(5)測定装置
本実施形態のPC鋼材位置変位装置10は、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定する測定装置16を有することができる。
【0091】
測定装置16により測定する第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量は特に限定されない。該変化量は、第1PC鋼材100に現れる変化量であってもよく、PC鋼材位置変位装置10に現れる変化量であってもよい。
【0092】
該変化量として、第1PC鋼材100の張力の変化量、第1PC鋼材100を引き上げる力の大きさの変化量、第1PC鋼材100の変位量、ナット14の締結力の変化量、第1PC鋼材100の外観等から選択された1種類以上が挙げられる。ナット14の締結力の変化量は、ナット14を締めるトルクの変化量と言い換えることもできる。
【0093】
特に、測定装置16が測定する変化量は、第1PC鋼材100の張力の変化量、第1PC鋼材100を引き上げる力の大きさの変化量、第1PC鋼材100の変位量、およびナットを締めるトルクの変化量から選択された1種類以上であることが好ましい。上記変化量は、第1PC鋼材の位置を変位させた際に第1PC鋼材100の状態が反映されるパラメータであり、上記変化量を測定することで、第1PC鋼材100の状態を正確に把握できるからである。
【0094】
測定装置16としては、変位計161、トルク計162、ロードセル163、外観観察用カメラ164、張力測定装置165等から選択された1種類以上が挙げられる。張力測定装置165としては、例えば特許文献1に開示された張力測定装置を用いることができる。
【0095】
本実施形態のPC鋼材位置変位装置が上記測定装置を有することで、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定することができ、第1PC鋼材100について予め設定した条件等に基づいて正確に変位させることができる。
【0096】
図1では、測定装置16を配置した例を示しているが、測定装置16の配置は図1の例に限定されず、測定対象や測定装置のサイズ等に応じて任意の場所に配置できる。例えば図1ではロードセル163を引き上げ軸13の軸部131に設けた例を示しているが、例えばナット14と支持部11Bとの間に設ける等、他の場所に設置しても良い。
【0097】
(6)回転装置
また、本実施形態のPC鋼材位置変位装置は、ナット14を回転させ、引き上げ軸13の位置を変化させる回転装置を有することもできる。本実施形態のPC鋼材位置変位装置がナットを回転させる上記回転装置17を有することで、人力によらず、自動で引き上げ軸13の位置を変化させ、第1PC鋼材100の位置を変位させることができる。
【0098】
回転装置17の構成は特に限定されず、モーターと、該モーターに接続され、ナットを回転させるために伝達部材とを有することができる。
【0099】
(7)制御装置
本実施形態のPC鋼材位置変位装置は上記測定装置16により測定した変化量に基づいて、回転装置17によるナット14の回転を制御する制御装置18を有することもできる。
【0100】
上記制御装置18を用いて、測定装置16により測定した上記変化量に基づいて、回転装置17によるナット14の回転を制御することで、第1PC鋼材100について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0101】
制御装置18の構成は特に限定されないが、測定装置16からの測定データに関するデータ処理を行えるように、また測定装置16や回転装置17、警報装置19との間で通信が行えるように構成されていることが好ましい。このため、制御装置18は、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶装置、補助記憶装置、入出力インターフェース等を有することができる。主記憶装置としてはRAM(Random Access Memory)や、ROM(Read Only Memory)等が挙げられる。補助記憶装置としてはSSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等が挙げられる。入出力インターフェースとしては、測定装置16や回転装置17、警報装置19等との間で制御信号や、データをやり取りするための通信インターフェースが挙げられる。通信インターフェースの種類は特に限定されず、有線、無線のいずれの通信方法も用いることができ、例えば有線LAN(Local Area Network)や、無線LAN等が挙げられる。
【0102】
制御装置18は、入出力インターフェースとして必要に応じてタッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースを有することもできる。
【0103】
制御装置18による具体的な制御内容は特に限定されないが、回転装置17によるナット14の回転速度や、回転数等を、測定装置16により測定した変化量に基づいて制御できる。
【0104】
制御装置18の補助記憶装置等に、第1PC鋼材100の目標とする変位量等に応じた、回転装置17によるナット14の回転速度の変化や、合計の回転数等についてのパターンを保存しておくこともできる。そして、制御装置18は、例えば入出力インターフェースから入力された、第1PC鋼材100の目標とする変位量に対応したパターンを読み出し、読み出したパターンに基づいて、回転装置17によるナット14の回転を制御しても良い。この際、測定装置16により測定した変化量の、読み出したパターンとの差分(ズレ)等に応じて、回転装置17によるナット14の回転の制御を補正することもできる。また、測定装置16により測定した変化量と、読み出したパターンとの間の差分が大きくなった場合に、警報装置19から警報を通知するように構成しても良い。
【0105】
また、制御装置18は、入出力インターフェースから入力された制御指令に応じて、回転装置17によるナット14の回転を制御しても良い。
(8)警報装置
本実施形態のPC鋼材位置変位装置は上記測定装置16により測定した変化量に基づいて、警報を通知する警報装置19を有することもできる。
【0106】
本実施形態のPC鋼材位置変位装置が警報装置19を有することで、測定装置16により測定した第1PC鋼材100の位置を変化させた際の変化量について、特異な挙動を示した場合等に通知を行うことができる。このため、第1PC鋼材100の変位が、予め設定した条件から大きく異なった条件によりなされることを防止できる。
【0107】
警報装置19が警報を通知する基準は特に限定されず、任意に選択できる。
【0108】
第1PC鋼材100の位置を変位させた際の、第1PC鋼材100に加わる張力の変化について図11を用いて説明する。
【0109】
図11中に点線で示した第1PC鋼材100の中央を牽引し、第1PC鋼材100´にまで位置を変位させたとする。この場合の引き上げ力をP、引き上げ量をH、第1PC鋼材100の長さを2L、第1PC鋼材100の位置を変位する前に、第1PC鋼材100に加えられていた張力をTxとする。また、位置を変位させた後の第1PC鋼材100´の長手に沿った張力をTとする。
【0110】
上記引き上げ力Pは、P=2Tyの関係にある。張力Tyは、第1PC鋼材100´に、図11中の下方向に加わる張力となる。そして、上記位置を変位させた第1PC鋼材100´の長手に沿った張力Tは、T=(Tx+Ty0.5で表すことができる。
【0111】
すなわち、第1PC鋼材100´の長手に沿って加えられる張力Tは、変位する前の張力Txよりも増大する。このため、上記測定装置16による測定値から、例えば張力Tyや、張力Tを算出し、予め定めた基準値を超えた場合に警報を通知するように構成することもできる。上記張力Tは、張力測定装置165により直接測定できるため、該測定値に基づいて警報を通知するように構成することもできる。
【0112】
また、上記引き上げ量Hや、引き上げ力Pについても、変位計161や、ロードセル163、外観観察用カメラ164等により測定、算出できるため、該測定値に基づいて、予め定めた基準値を超えた場合に警報を通知するように構成することもできる。
【0113】
なお、警報装置19は、制御装置18と別に設けず、制御装置18により機能させることもできる。
【0114】
以上に説明した本実施形態のPC鋼材位置変位装置によれば、位置を変位する第1PC鋼材100について、支持治具12を介して引き上げ軸13に接続してある。そして、ナット14を引き上げ軸13のねじ部133に嵌め、該ナット14をフレーム11で支持しながら締めることで、引き上げ軸13や、引き上げ軸13に支持治具12を介して接続された第1PC鋼材100の位置を容易に変位させることができる。
【0115】
本実施形態のPC鋼材位置変位装置を用いることで、緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を容易に変位させることができる。このため、PC鋼材に張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備を設置する場合や、PC鋼材の状態を目視等で観察する際に、PC鋼材の位置を容易に変位させ、目的を達成することができる。
【0116】
本実施形態のPC鋼材位置変位装置によれば、コンクリート構造物内において、PC鋼撚り線等のPC鋼材同士が近接して配置されている場合、近接して配置された一部のPC鋼材の位置を変位させ、各PC鋼材の外観を全周に渡って目視等で確認できる。また、PC鋼材がPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体の場合に、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成する一部のPC鋼線の位置を変位させ、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成するPC鋼線同士の接触部等についても目視で確認することができる。
[PC鋼材の位置変位方法]
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法について説明する。本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、既述のPC鋼材位置変位装置を用いて実施できる。このため、既に説明した事項については説明を省略する場合がある。
【0117】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、図5に示したフロー50に従って実施できる。すなわち、本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、支持治具設置工程(S1)、引き上げ軸設置工程(S2)、フレーム設置工程(S3)、および変位工程(S4)を有することができる。
【0118】
工程ごとに以下に説明する。
(1)支持治具設置工程(S1)
支持治具設置工程S1では、位置を変位させる第1PC鋼材100に、第1PC鋼材を支持する支持治具12を設置できる。第1PC鋼材100、支持治具12については既に説明したので、説明を省略する。
(2)引き上げ軸設置工程(S2)
引き上げ軸設置工程(S2)では、支持治具12に、軸部131の第1端部13Aに支持治具12に固定する固定板132を有し、軸部131の第1端部13Aと反対に位置する第2端部13Bにねじ部133を有する引き上げ軸13を設置できる。
(3)フレーム設置工程(S3)
フレーム設置工程(S3)では、第1PC鋼材100、支持治具12、引き上げ軸13にフレーム11を設置できる。
【0119】
フレーム11は、既述のように第1PC鋼材100を挿入する第1貫通孔113と、第1貫通孔113と接続され、かつ第1貫通孔113の長手と直交するように設けられており、引き上げ軸13を挿入する引き上げ孔114とを有する。また、フレーム11は、引き上げ軸13に嵌めたナット14を支持する支持部11Bを有する。
【0120】
このため、フレーム設置工程(S3)では、第1貫通孔113に第1PC鋼材100が、引き上げ孔114に引き上げ軸13が位置するようにフレーム11を設置できる。
【0121】
既述のように、フレーム11が、第1フレーム111と第2フレーム112とを有する場合、第1PC鋼材100を挟むように第1フレーム111、第2フレーム112を配置できる。そして、固定ボルト151と固定ナット152等により第1フレーム111と、第2フレーム112とを一体化し、フレーム11とすることができる。
【0122】
フレーム11が第2貫通孔21、壁部22を有しない場合には、フレーム11は、コンクリート構造物101(図1図2を参照)等の反力を支持できる構造物と接するように設置することが好ましい。
【0123】
フレーム11が第2貫通孔21、および壁部22を有する場合には、第2貫通孔21に第2PC鋼材200が位置するように、フレーム11を設置できる。
(4)変位工程(S4)
フレーム設置工程(S3)まで実施することで、第1PC鋼材100に支持治具12を介して引き上げ軸13を設置している。そして、第1PC鋼材100の変位させる部分、支持治具12、引き上げ軸13を覆うようにフレーム11が配置されている。
【0124】
そこで、変位工程(S4)では、引き上げ軸13のねじ部133にナット14を嵌め、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定装置16により測定しながら、ナット14を締めることができる。これにより、引き上げ軸13、支持治具12、支持治具12に支持された第1PC鋼材100の位置を変位させることができる。変位工程では、ナット14は、フレーム11の支持部11Bに当てながら、締めることができる。
【0125】
なお、変位工程(S4)におけるナット14を締めるとは、ナット14を引き上げ軸13のねじ部133に嵌め、回転させることを意味する。このため、変位工程(S4)では、必要に応じてナット14を逆回転させて緩めることで、第1PC鋼材100の位置を調整することもできる。
【0126】
上記測定装置16は、測定装置16の種類により任意のタイミングで設置できる。例えば引き上げ軸設置工程(S2)で設置してもよい。また、張力測定装置165の場合であれば、変位工程(S4)を開始後に設置することもできる。
【0127】
変位工程(S4)では、スパナ等によりナット14を回転させることもできるが、回転装置17によりナット14を回転させることでナット14を締めることもできる。回転装置17を用いることで、人力によらず、自動で引き上げ軸13の位置を変化させ、第1PC鋼材100の位置を変位させることができる。
【0128】
また、変位工程(S4)では、制御装置18が、測定装置16により測定した第1PC鋼材100を変位させた際の変化量に基づいて、回転装置17によるナット14の回転を制御することもできる。
【0129】
制御装置18が、測定装置16により測定した第1PC鋼材の位置を変位させた際の変化量に基づいて、回転装置17によるナット14の回転を制御することで、第1PC鋼材100について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0130】
変位工程(S4)の間、必要に応じて測定装置16により測定した第1PC鋼材100を変位させた際の変化量に基づいて、警報装置19により警報を通知するように構成することもできる。
【0131】
測定装置16により測定した第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量について特異な挙動を示した場合等に警報を通知するように構成することで、第1PC鋼材100の変位が、予め設定した条件から大きく異なった条件によりなされることを防止できる。
【0132】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法によれば、以上の工程により、引き上げ軸13や、引き上げ軸13に支持治具12を介して接続された第1PC鋼材100の位置を容易に変位させることができる。
【0133】
また、測定装置16により、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定しているため、該第1PC鋼材について予め設定した条件等に基づいて、正確に変位させることができる。
【0134】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法によれば、上述のように緊張力が導入された既設のPC鋼材の位置を容易に変位させることができる。このため、PC鋼材に張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備を設置する場合や、PC鋼材の状態を目視等で観察する際に、PC鋼材の位置を容易に変位させ、目的を達成することができる。
【0135】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法によれば、コンクリート構造物内において、PC鋼撚り線等のPC鋼材同士が近接して配置されている場合、近接して配置された一部のPC鋼材の位置を変位させ、各PC鋼材の外観を全周に渡って目視等で確認できる。また、PC鋼材がPC鋼撚り線や、PC鋼線集合体の場合に、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成する一部のPC鋼線の位置を変位させ、PC鋼撚り線や、PC鋼線集合体を構成するPC鋼線同士の接触部等についても目視で確認することができる。
【0136】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、必要に応じてさらに任意の工程を有することもできる。
(5)隙間形成工程(S11)
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、図6に示したフロー60のように、既述の支持治具設置工程(S1)の前に、隙間形成工程(S11)をさらに有することもできる。
【0137】
隙間形成工程(S11)では、第1PC鋼材100と、他の部材との間に工具を挿入し、第1PC鋼材100と、他の部材との間に隙間を形成できる。
【0138】
第1PC鋼材100の設置場所によっては、第1PC鋼材100に支持治具12を設置するための隙間が十分に確保できない場合がある。
【0139】
また、例えば既述のように第2PC鋼材200により反力を支持する場合において、第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200とが近接して設置されている場合もある。
【0140】
具体例として、第1PC鋼材100および第2PC鋼材200が、それぞれPC鋼撚り線、PC鋼線集合体、およびPC鋼線のいずれかであり、第1PC鋼材100と第2PC鋼材200とが近接して設置されている場合が挙げられる。
【0141】
また、第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200とが1つのPC鋼撚り線またはPC鋼線集合体を構成している場合が挙げられる。この場合、第1PC鋼材100が該PC鋼撚り線またはPC鋼線集合体を構成する素線であるPC鋼線であり、第2PC鋼材200が該第1PC鋼材100を除いた残部になる。
【0142】
上記のように第1PC鋼材100が他の部材と近接している場合、第1PC鋼材100に支持治具12を設置する前に、第1PC鋼材100と、第1PC鋼材100周辺の構造物や、第2PC鋼材200等の他の部材との間に隙間を形成する必要がある。
【0143】
そこで、本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、上記のように第1PC鋼材100と、他の部材との間に隙間を形成する隙間形成工程(S11)を有することもできる。
【0144】
具体的には例えば、図8に示すように、第1PC鋼材100と、他の部材である第2PC鋼材200との間に、工具81を挿入し、隙間82を形成できる。なお、他の部材は上述のように各種構造物であっても良く、第2PC鋼材200に限定されるものではない。
【0145】
上記工具81の挿入は多段階で実施することもできる。例えば、第1PC鋼材100と、他の部材との間に第1工具を挿入し、第1隙間を形成する第1隙間形成工程と、第1隙間にさらに第2工具を挿入し、第1PC鋼材100と、他の部材との間の隙間を拡げる第2隙間形成工程と、を有することもできる。第1工具と第2工具は同じ工具であっても良く、異なる工具であっても良い。ただし、第2隙間形成工程では、第1PC鋼材100と、他の部材との間の隙間を拡げるため、第2工具は、第1工具を用いた場合よりも隙間を拡げられるように構成されていることが好ましい。このため、第2工具は、例えば第1PC鋼材100と、他の部材との間に挿入する部分の厚さが第1工具よりも厚いことが好ましい。隙間形成工程は3段階以上で実施することもでき第n隙間形成工程まで実施しても良い。この場合、nは3以上の整数である。
【0146】
工具81は、第1PC鋼材100と、他の部材との間に挿入できる工具であればよく、バールや、板状のスペーサー、後述する固定工具等から選択された1種類以上が挙げられる。工具81は、第1PC鋼材100の位置を微小に変位させるものであるが、第1PC鋼材100には緊張力が導入されているため、少なくとも一部が金属製であることが好ましい。
【0147】
ただし、工具81が金属製の場合、第1PC鋼材100や他の部材と接する部分で、第1PC鋼材100や他の部材の表面に疵等が生じる場合がある。このため、工具81は、図9に示すように、金属製の本体部811と、本体部811の表面の少なくとも一部に配置された樹脂膜812とを有することが好ましい。すなわち、工具81は、第1PC鋼材100や他の部材と接する部分に樹脂膜812を有することが好ましい。工具81が、第1PC鋼材100や他の部材と接する部分に樹脂膜812を有することで、隙間形成工程(S11)において、第1PC鋼材100と他の部材との間に工具81を挿入した際に、第1PC鋼材100や他の部材の表面に疵が生じることを防止できる。
【0148】
工具81の本体部811の金属としては、例えば鉄や、ステンレス鋼が挙げられる。また、樹脂膜812の材料は特に限定されない。第1PC鋼材100や他の部材の表面に被覆が設けられている場合、樹脂膜812は、第1PC鋼材100や他の部材の表面に設けられた被覆よりも鉛筆硬度が低いことが好ましく、例えば6B以上4H以下であることが好ましい。樹脂膜812の材料としては、例えばポリエチレン、ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0149】
また、隙間形成工程で用いる工具は、固定工具を含むこともできる。固定工具は、固定工具を通る断面において、第1PC鋼材100または他の部材を囲むように配置できる工具であり、固定工具は、第1PC鋼材100または他の部材に固定できるように構成されていることがより好ましい。
【0150】
固定工具は、第1PC鋼材100または他の部材を囲むように配置されているため、隙間形成工程において、作業中に工具が脱離し、第1PC鋼材と他の部材との間に形成した隙間が縮小、もしくは無くなることを防止し、作業性を高められる。
【0151】
固定工具の構成例を図10A図10Cに示す。
【0152】
例えば図10Aに示すように、固定工具900は、板状のスペーサー901と、板状のスペーサー901に挿入するボルト902と、板状体903と、ナット904とを有することができる。図10Aに示した固定工具900の場合、第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200との間に板状のスペーサー901を挿入後、板状のスペーサー901に設けられたボルト孔にボルト902を挿入できる。次いで、板状体903をボルト902に挿入後、ナット904を締めることで、固定工具900を他の部材である第2PC鋼材200に固定できる。
【0153】
また、図10Bに示すように、固定工具910は、開口部911Aを有するスペーサー911と、ボルト912と、ナット913とを有することもできる。第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200との間に隙間を形成後、隙間にスペーサー911を挿入し、スペーサー911にボルト912およびナット913を装着することで、他の部材である第2PC鋼材200にスペーサー911を固定できる。スペーサー911を他の部材である第2PC鋼材200に密着させることができるように、スペーサー911の側面911Bに、図10B中のZ軸に沿って複数のボルト孔を設けることもできる。そして、他の部材である第2PC鋼材200のサイズに応じて適切なボルト孔にボルト912を挿入できるように構成しても良い。また、スペーサー911の側面911Bを変形可能な材料で構成し、ボルト912、ナット913を締めることで、スペーサー911の側面911Bが変形して第2PC鋼材200に接するように構成しても良い。
【0154】
図10Cに示すように固定工具920は、ベルト状のスペーサー921を有することもできる。ベルト状のスペーサー921の長手に沿った第1端部に凸部922を、第1端部と反対に位置する第2端部に凸部922を挿入可能な貫通孔923を設けておき、凸部922を貫通孔923に挿入することで、固定工具920を第2PC鋼材200に固定できる。ベルト状のスペーサー921には複数の貫通孔923を設けておき、第2PC鋼材200のサイズによらず適用できるように構成しても良い。ベルト状のスペーサー921を他の部材である第2PC鋼材200に固定する方法は上記凸部922と、貫通孔923とによる方法に限定されず、任意の方法を用いることができる。
【0155】
ベルト状のスペーサー921は他の部材である第2PC鋼材200の外形に沿って変形できる材料であることが好ましい。ただし、例えば第1PC鋼材100と他の部材である第2PC鋼材200との間に位置する領域921Aについては、金属等硬度の高い材料で構成しても良い。図10Cに示した固定工具920によれば、第2PC鋼材200を締め付け、束ねることもできる。このため、第2PC鋼材200がPC鋼線集合体等の場合に、構成するPC鋼線を束ね、作業性を高めることもできる。
【0156】
図10A図10Cでは、他の部材である第2PC鋼材200に固定工具を設置した例を示したが、係る形態に限定されず、第1PC鋼材100に固定工具を設置しても良く、第1PC鋼材100と、第2PC鋼材200との両方に固定工具を設置しても良い。
【0157】
また、図10A図10Cでは他の部材が、PC鋼撚り線から、第1PC鋼材100である1本のPC鋼線を変位させた、第2PC鋼材200の場合を例に示しているが、係る形態に限定されない。
【0158】
固定工具の材料は特に限定されず、金属、および樹脂から選択された1種類以上の材料を用いることができる。工具81の場合と同様に、第1PC鋼材100や、他の部材と接する部分に樹脂膜を設けておくことが好ましい。また、固定工具について、第1PC鋼材100や他の部材と接する部分を樹脂製の材料から構成することもできる。
【0159】
上記のように隙間形成工程(S11)を実施する場合、図6に示したフロー60の様に、隙間形成工程(S11)を実施した後に、既述の支持治具設置工程(S1)等を実施できる。そして、支持治具設置工程(S1)では、隙間形成工程(S11)で形成した隙間82に支持治具12を挿入できる。
【0160】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法が上記隙間形成工程(S11)を有することで、第1PC鋼材100の配置によっては、支持治具12を設置することが困難な場合でも、本実施形態のPC鋼材の位置変位方法を容易に適用できる。
【0161】
本実施形態のPC鋼材の位置変位方法は、第1PC鋼材100の長手に沿った複数箇所で並行して実施することもできる。
【0162】
上記のように、第1PC鋼材100の長手に沿った複数箇所で本実施形態のPC鋼材の位置変位方法を実施する場合、図7に示すように、第1PC鋼材100の長手に沿って、複数の支持治具12、引き上げ軸13、フレーム11、ナット14を設置できる。
【0163】
このため、支持治具設置工程(S1)では、第1PC鋼材100の長手に沿って、複数の支持治具12を設置できる。
【0164】
引き上げ軸設置工程(S2)では、それぞれの支持治具12に引き上げ軸13を設置できる。
【0165】
フレーム設置工程(S3)では、第1PC鋼材100の長手に沿って配置した複数の支持治具12、および引き上げ軸13にそれぞれフレーム11を設置できる。
【0166】
そして、変位工程(S4)では、それぞれの引き上げ軸13にナット14を嵌め、ナット14を締めることで第1PC鋼材100の長手に沿った複数箇所で、第1PC鋼材100の位置を変位させることができる。
【0167】
上述のように、第1PC鋼材100の長手に沿った複数箇所で並行して本実施形態のPC鋼材の位置変位方法を実施することで、第1PC鋼材100の長手に沿って広い範囲で第1PC鋼材100を変位させることができる。このため、張力測定装置や緊張力解放装置等の付加設備の設置や、PC鋼材の状態の観察を容易、かつ効率的に実施できる。
図7では記載を省略しているが、測定装置16等も設置でき、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の変化量を測定装置16により測定しながら、ナット14を締めることができる。第1PC鋼材100の長手に沿った複数箇所で、第1PC鋼材100の位置を変位させる場合、第1PC鋼材100の位置を変位させた際の、測定装置16による変化量の測定を、複数箇所のうち、一部のみで実施しても良く、全ての箇所で実施しても良い。
【符号の説明】
【0168】
10、30 PC鋼材位置変位装置
100、100´ 第1PC鋼材
101 コンクリート構造物
11 フレーム
111 第1フレーム
112 第2フレーム
11A 底面
11B 支持部
11C 第1側面
11D 第2側面
113 第1貫通孔
114 引き上げ孔
12 支持治具
121 凹部
122 第2弾性部材
123 ボルト
12A 第1PC鋼材と接する面
13 引き上げ軸
131 軸部
13A 第1端部
13B 第2端部
132 固定板
133 ねじ部
14 ナット
151 固定ボルト
152 固定ナット
16 測定装置
161 変位計
162 トルク計
163 ロードセル
164 外観観察用カメラ
165 張力測定装置
17 回転装置
18 制御装置
19 警報装置
200 第2PC鋼材
21 第2貫通孔
21A 内周面
22 壁部
221 開口部
22A 下面
23 第1弾性部材
50、60 フロー
S1 支持治具設置工程
S2 引き上げ軸設置工程
S3 フレーム設置工程
S4 変位工程
S11 隙間形成工程
81 工具
811 本体部
812 樹脂膜
82 隙間
900、910、920 固定工具
901 板状のスペーサー
902 ボルト
903 板状体
904 ナット
911 スペーサー
911A 開口部
911B 側面
912 ボルト
913 ナット
921 ベルト状のスペーサー
921A 領域
922 凸部
923 貫通孔
X X軸
Y Y軸
Z Z軸
P 引き上げ力
H 引き上げ量
T、Tx、Ty 張力
L 長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11