(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118856
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240826BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240826BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240826BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
C21D9/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025410
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】林 篤剛
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅俊
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA03
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA22
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA29
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FJ01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FM02
4K037GA08
(57)【要約】
【課題】耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】C :0.030%以下、N:0.030%以下、Si:0.01%以上、5.00%以下、Mn:0.01%以上、3.00%以下、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、Cr:8.0%以上、25.0%以下、Ni:0.001%以上、2.00%以下、Cu:0.001%以上、2.00%以下、Mo:0.001%以上、4.00%以下、Al:0.80%超、5.00%以下、V:0.01%以上、0.30%以下、B:0.0001%以上、0.0050%以下、O:0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、鋼の表面に酸化被膜があるフェライト系ステンレス鋼板を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の化学組成が、質量%で、
C :0.030%以下、
N :0.030%以下、
Si:0.01%以上、5.00%以下、
Mn:0.01%以上、3.00%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0100%以下、
Cr:8.0%以上、25.0%以下、
Ni:0.001%以上、2.00%以下、
Cu:0.001%以上、2.00%以下、
Mo:0.001%以上、4.00%以下、
Al:0.80%超、5.00%以下、
V :0.01%以上、0.30%以下、
B :0.0001%以上、0.0050%以下、
O :0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(vii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
30≦[D10*Al]≦90 ・・・式(ii)
0≦[D10*Fe]≦40 ・・・式(iii)
50≦[D40*Fe]≦92 ・・・式(iv)
0≦[D40*O]≦10 ・・・式(v)
色差a*≦2.0 ・・・式(vi)
摩擦係数μk≦0.40 ・・・式(vii)
但し、式(i)~式(v)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[D10*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、[D40*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、式(vi)の色差a*は、L*a*b*色空間における色度指数のa*であり、式(vii)の摩擦係数μkは、荷重500gにおける動摩擦係数である。
【請求項2】
鋼の化学組成が、質量%で、
C :0.020%未満、
N :0.020%未満、
Si:0.10%超、1.60%以下、
Mn:0.01%以上、0.40%未満、
P :0.050%以下、
S :0.0014%以下、
Cr:10.0%超、15.0%以下、
Ni:0.001%以上、0.60%未満、
Cu:0.001%以上、0.30%未満、
Mo:0.001%以上、2.00%以下、
Al:1.00%以上、3.00%以下、
V :0.01%以上、0.20%以下、
B :0.0001%以上、0.0050%以下、
O :0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.24%未満、Nb:0.55%以下、の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(vii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.08 ・・・式(i)
35≦[D10*Al]≦90 ・・・式(ii)
0≦[D10*Fe]≦35 ・・・式(iii)
55≦[D40*Fe]≦90 ・・・式(iv)
0≦[D40*O]≦8 ・・・式(v)
色差a*≦1.5 ・・・式(vi)
摩擦係数μk≦0.40 ・・・式(vii)
但し、式(i)~式(v)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[D10*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、[D40*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、式(vi)の色差a*は、L*a*b*色空間における色度指数のa*であり、式(vii)の摩擦係数μkは、荷重500gにおける動摩擦係数である。
【請求項3】
質量%にて、Feの一部に代えて、
W :0.001%以上、0.50%以下、
Y :0.001%以上、0.50%以下、
REM:0.001%以上、0.50%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0050%以下、
Zr:0.001%以上、0.50%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、0.05%未満、
Mg:0.0001%以上、0.0050%以下、
Co:0.001%以上、1.0%以下、
Sb:0.001%以上、1.0%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、
Ga:0.0001%以上、0.50%以下、
の1種または2種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
鋼板表面が2~15体積%の水素を含む焼鈍雰囲気での焼鈍仕上げである、請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
鋼板表面が2~15体積%の水素を含む焼鈍雰囲気での焼鈍仕上げである、請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項7】
前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項8】
前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、請求項4に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項9】
前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、請求項5に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に関し、特に、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールド、コンバーター、フロントパイプ、センターパイプ、マフラー等の排気系部材には鋳鉄や炭素鋼が使用されていたが、排ガス規制の強化、エンジン性能の向上、車体軽量化等の流れの中、耐熱性や耐食性の観点からステンレス鋼が使用されるようになった。フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼より熱膨張係数が小さく熱疲労特性に優れることや、材料コストの観点から、汎用的に使用されるようになっている。
【0003】
排気系部材に鋳鉄や炭素鋼が使用されていた時は、これらの部材は錆びていることが当然であったが、ステンレスにすることで機能面に加え美観も改善もされてきた。近年では自動車ユーザーが納車時や点検、車検時に車体下部まで目視確認する場合があり、機能的に問題のない僅かな錆までも着目されるようになった。さらには自動車の運転で加熱された排気系部材に形成されるテンパーカラーにまで言及されるようになってきた。
【0004】
テンパーカラーとは、鋼表面に形成する酸化皮膜がおおよそ1μm以下の時に、光の干渉によって生じる現象であり、酸化皮膜の厚みの増加に従い金属光沢を有しながら黄系から赤系、そして青系の見た目となっていく。自動車排気系部材においては錆と見間違う赤色系のテンパーカラーを回避することが重要である。
【0005】
また、自動車排気系部材は、路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境に曝される。そのため酸化皮膜が成長しやすく、テンパーカラーも赤色域まで進行しやすい。
【0006】
ステンレス鋼においてテンパーカラーを防止する手段はいくつかある。特許文献1には、ステンレス鋼に光輝焼鈍を施して表面にSiまたはAlを富化させて酸化皮膜を形成することで、耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながら、光輝焼鈍を行うことにより生産性が低下し、また製造コストが増大してしまう。また、特許文献1は電子レンジやガスレンジなどを対象とした技術であり、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0007】
特許文献2には、ステンレス鋼を研磨仕上げまたは研磨仕上げするとともに光輝焼鈍を施してFeに対するCr、Si、Alの比率を高めた表面酸化皮膜を形成することで、耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながら、研磨仕上げを行うことにより生産性が低下し、また製造コストが増大してしまう。また、特許文献2は調理器具や暖房器具を対象とした技術であり、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0008】
特許文献3には、高純度フェライト系ステンレス鋼にSnを添加することで、耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながら、Sn添加により合金コストの増加に繋がる。また、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0009】
一方、自動車排気系部材は、価格低減が常に求められており、生産量も多く、上記技術の適用は経済性の観点から現実的ではない。テンパーカラーに関しては、自動車排気系部材は錆に見間違う赤色系のテンパーカラーを回避するという点においては上記技術の厨房機器や暖房機器よりは許容されるテンパーカラーの程度は広いが、使用環境は高温塩害環境であり厳しい環境である。これらのことから、自動車排気系部材に適した耐テンパーカラー性を向上する技術の開発が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62-156254号公報
【特許文献2】特開平8-295999号公報
【特許文献3】特許第6106450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、焼鈍雰囲気が75~100体積%の水素と残部窒素の雰囲気で実施する光輝焼鈍ではなく、光輝焼鈍の雰囲気に比べて製造性や経済性に優れる、焼鈍雰囲気が2~15体積%の水素と残部窒素の雰囲気で仕上げたAl含有フェライト系ステンレス鋼板の耐テンパーカラー性に及ぼす鋼中の各元素の含有量や表面状態などの種々要因について鋭意検討を行った。その結果、耐テンパーカラー性には、製造工程で生じる表層におけるAl、Fe、Oの濃度が影響することを知見した。また、ステンレス鋼表面の色差a*も影響することを知見し、それが製造工程中におけるC、Sの付着に起因していると推定した。これらの知見に基づき、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を発明するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 鋼の化学組成が、質量%で、
C :0.030%以下、
N :0.030%以下、
Si:0.01%以上、5.00%以下、
Mn:0.01%以上、3.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:8.0%以上、25.0%以下、
Ni:0.001%以上、2.00%以下、
Cu:0.001%以上、2.00%以下、
Mo:0.001%以上、4.00%以下、
Al:0.80%超、5.00%以下、
V :0.01%以上、0.30%以下、
B :0.0001%以上、0.0050%以下、
O :0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(vii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
30≦[D10*Al]≦90 ・・・式(ii)
0≦[D10*Fe]≦40 ・・・式(iii)
50≦[D40*Fe]≦92 ・・・式(iv)
0≦[D40*O]≦10 ・・・式(v)
色差a*≦2.0 ・・・式(vi)
摩擦係数μk≦0.40 ・・・式(vii)
但し、式(i)~式(v)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[D10*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、[D40*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、式(vi)の色差a*は、L*a*b*色空間における色度指数のa*であり、式(vii)の摩擦係数μkは、荷重500gにおける動摩擦係数である。
[2] 鋼の化学組成が、質量%で、
C :0.020%未満、
N :0.020%未満、
Si:0.10%超、1.60%以下、
Mn:0.01%以上、0.40%未満、
P :0.050%以下、
S :0.0014%以下、
Cr:10.0%超、15.0%以下、
Ni:0.001%以上、0.60%未満、
Cu:0.001%以上、0.30%未満、
Mo:0.001%以上、2.00%以下、
Al:1.00%以上、3.00%以下、
V :0.01%以上、0.20%以下、
B :0.0001%以上、0.0050%以下、
O :0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.24%未満、Nb:0.55%以下、の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(vii)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.08 ・・・式(i)
35≦[D10*Al]≦90 ・・・式(ii)
0≦[D10*Fe]≦35 ・・・式(iii)
55≦[D40*Fe]≦90 ・・・式(iv)
0≦[D40*O]≦8 ・・・式(v)
色差a*≦1.5 ・・・式(vi)
摩擦係数μk≦0.40 ・・・式(vii)
但し、式(i)~式(v)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[D10*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、[D40*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、式(vi)の色差a*は、L*a*b*色空間における色度指数のa*であり、式(vii)の摩擦係数μkは、荷重500gにおける動摩擦係数である。
[3] 質量%にて、Feの一部に代えて、
W:0.001%以上、0.50%以下、
Y:0.001%以上、0.50%以下、
REM:0.001%以上、0.50%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0050%以下、
Zr:0.001%以上、0.50%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、0.05%未満、
Mg:0.0001%以上、0.0050%以下、
Co:0.001%以上、1.0%以下、
Sb:0.001%以上、1.0%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、
Ga:0.0001%以上、0.50%以下、
の1種または2種以上を含有する、[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4] 鋼板表面が2~15体積%の水素を含む焼鈍雰囲気での焼鈍仕上げである、[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5] 鋼板表面が2~15体積%の水素を含む焼鈍雰囲気での焼鈍仕上げである、[3]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[6] 前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[7] 前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、[3]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[8] 前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、[4]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[9] 前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下である、[5]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供できる。本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板は、自動車や二輪車などの輸送機器の車体下部で露出する排気系部材およびその付属部品材に使用することに最適な耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板であり、特に、路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境であっても、耐テンパーカラー性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の鋼の化学組成の限定理由について説明する。ここで、鋼の化学組成についての「%」は質量%を意味する。
【0017】
(C:0.030%以下)
Cは、耐酸化性を低下させる元素で耐テンパーカラー性を低下させるため、C含有量は0.030%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、C含有量は0.020%未満とすることが好ましい。成形性、耐食性を考慮すると、0.015%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.010%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、C含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010%以上であり、さらに好ましくは、0.0020%以上である。
【0018】
(N:0.030%以下)
Nは、Cと同様、耐酸化性を低下させる元素で耐テンパーカラー性を低下させるため、N含有量は0.030%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、N含有量は0.020%未満とすることが好ましい。成形性、耐食性を考慮すると、0.015%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.010%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、N含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010%以上であり、さらに好ましくは、0.0020%以上である。
【0019】
(Si:0.01%以上、5.00%以下)
Siは、脱酸剤として含有される元素であるとともに、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、Si含有量は0.01%以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、Si含有量は0.10%超とすることが好ましく、0.30%以上とすることがより好ましい。耐食性を考慮すると、0.50%以上とすることがより好ましい。しかし、過度なSiの含有は、加工性の低下を招くため、Si含有量は5.00%以下とする。原料コストや製造コストの観点から経済性を考慮すると、Si含有量は1.60%以下とすることが好ましい。製造性を考慮すると、Si含有量は1.40%以下とすることが好ましい。より好ましくは、1.20%以下であり、さらに好ましくは、0.80%以下である。
【0020】
(Mn:0.01%以上、3.00%以下)
Mnは、脱酸剤として含有される元素であり、Mn含有量は、0.01%以上とする。精錬コストを考慮すると、Mn含有量は0.05%以上が好ましい。より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。しかし、過度なMnの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性の低下させるため、Mn含有量は、3.00%以下とする。耐食性を考慮すると、Mn含有量を1.10%以下とすることが好ましい。耐テンパーカラー性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Mn含有量を0.40%未満とすることがより好ましい。
【0021】
(P:0.050%以下)
Pは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、その含有量が高くなると、靭性や溶接性が低下するため、その含有量は少ないほど良い。そのため、P含有量は0.050%以下とする。また、製造性および製造コストを考慮すると、P含有量は0.040%以下とすることが好ましい。加工性を考慮すると、P含有量は0.035%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.030%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.005%以上であり、さらに好ましくは、0.010%以上である。
【0022】
(S:0.0100%以下)
Sは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、S含有量は0.0100%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、S含有量は、0.0014%以下とすることが好ましい。製造性や耐食性を考慮すると、S含有量は0.0010%以下とすることがより好ましい。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは、0.0003%以上である。
【0023】
(Cr:8.0%以上、25.0%以下)
Crは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、Cr含有量は、8.0%以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、Cr含有量を10.0%超とすることが好ましい。耐食性を考慮すると、Cr含有量は10.5%以上とすることがより好ましい。さらに好ましくは、12.0%以上である。しかし、過度なCrの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Cr含有量は25.0%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Cr含有量は15.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、13.0%未満である。
【0024】
(Ni:0.001%以上、2.00%以下)
Niは、耐食性を向上する元素であり、Ni含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは、0.05%以上である。しかし、過度なNiの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Ni含有量は2.00%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Ni含有量は0.60%未満とすることが好ましい。原料コストや製造性を考慮すると、Ni含有量は0.50%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは0.40%以下である。
【0025】
(Cu:0.001%以上、2.00%以下)
Cuは、耐食性や高温強度を向上する元素であり、Cu含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なCuの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Cu含有量は2.00%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Cu含有量は0.30%未満とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下である。
【0026】
(Mo:0.001%以上、4.00%以下)
Moは、耐食性や高温強度を向上する元素であり、Mo含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なMoの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Mo含有量は4.00%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Mo含有量は2.00%以下とすることが好ましい。より好ましくは、1.20%以下であり、さらに好ましくは0.20%未満である。
【0027】
(Al:0.80%超、5.00%以下)
Alは、脱酸剤として含有される元素であるとともに、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、Al含有量は、0.80%超とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、Al含有量を1.00%以上とすることが好ましい。より好ましくは、1.05%超であり、さらに好ましくは、1.55%超である。しかし、過度なAlの含有は、製造性の低下を招くため、Al含有量は5.00%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Al含有量は3.00%以下とすることが好ましい。加工性や溶接性を考慮すると、より好ましくは、2.50%以下であり、さらに好ましくは2.30%以下である。
【0028】
(V:0.01%以上、0.30%以下)
Vは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、V含有量は0.01%以上とする。耐食性や高温強度を考慮すると、V含有量は0.02%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なVの含有は析出物の粗大化による高温強度の低下を招くため、V含有量は0.30%以下とする。原料コストや製造コストの観点から経済性を考慮すると、V含有量は0.20%以下とすることが好ましい。鋼の表面性状、製造性を考慮すると、より好ましくは、0.15%未満であり、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0029】
(B:0.0001%以上、0.0050%以下)
Bは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、B含有量は0.0001%以上とする。製造性や高温強度を考慮すると、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、更に好ましくは0.0010%以上である。しかし、過度なBの含有は熱間加工性の低下や鋼表面の表面性状の低下を招く。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。また、製造性や成型性を考慮すると、B含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0015%以下である。
【0030】
(O:0.0001%以上、0.0050%以下)
Oは、不可避的に含まれる不純物であり、気泡や介在物による表面疵の原因となる。また、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、O含有量は、0.0050%以下とする。また、製造性を考慮すると、O含有量は0.0040%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0035%以下である。但し、過度なOの低減は精錬コストの増加に繋がる。また、鋼の表層部には酸化被膜以外にもSi、Alの内部酸化物があり、耐テンパーカラー性の向上に寄与していると考えている。そのため、O含有量は0.0001%以上とする。好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.0005%以上である。ここで、O含有量は、鋼に固溶している酸素および鋼中に介在する酸化物の酸素を含む合計の含有量を意味する。
【0031】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、耐テンパーカラー性を向上するため、Ti、Nbのいずれか一方または両方を含有する。Ti,Nbは、耐テンパーカラー性を向上させる点で効果が重複するので、少なくとも一方を含有すればよい。式(i)の説明で述べるように、TiとNbの合計含有量は0.03%以上とする。
【0032】
(Ti:0.40%以下)
Tiは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、また、耐テンパーカラー性を向上する元素である。耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を考慮すると、Ti含有量は0.09%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.12%以上である。しかし、過度なTiの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Ti含有量は0.40%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Ti含有量は0.24%未満とすることが好ましい。原料コストの低減や均一伸び、穴広げ加工性、製造性を考慮すると、Ti含有量は0.23%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.22%以下である。Tiを含有しない場合の下限は0%でもよい。
【0033】
(Nb:0.80%以下)
Nbは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、耐テンパーカラー性を向上する元素である。耐食性、耐粒界腐食性、高温強度を考慮すると、Nb含有量は0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.05%以上であり、さらに好ましくは、0.05%超である。しかし、過度なNbの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Nb含有量は0.80%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Nb含有量は0.55%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.35%未満であり、さらに好ましくは0.25%以下である。Nbを含有しない場合の下限は0%でもよい。
【0034】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板では、上述した元素および後述する選択的に含有する元素以外の残部は、Feおよび不純物である。しかしながら、上述した各元素以外の他の元素も、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。なお、ここで言う不純物とは、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0035】
次に、式(i)~式(vii)について説明する。
【0036】
上述のように、TiおよびNbは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、また、耐テンパーカラー性を向上する元素であるため、Ti、Nbの1種または2種を含有し、合計で0.03質量%以上とする。すなわち、式(i)を満たすこととする。耐食性や加工性を考慮すると、式(i)の左辺の値は0.08質量%とすることが好ましい。
【0037】
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
【0038】
但し、式(i)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)である。
【0039】
また、本発明者らは耐テンパーカラー性に及ぼす各種影響を検討する中で、耐テンパーカラー性は、製造工程で生じる表層におけるAl、Fe、Oの濃度の影響を受けることを知見した。そして、式(ii)~式(v)を満たすことが耐テンパーカラー性を向上させるために必要であることを見出した。
【0040】
30≦[D10*Al]≦90 ・・・式(ii)
【0041】
0≦[D10*Fe]≦40 ・・・式(iii)
【0042】
50≦[D40*Fe]≦92 ・・・式(iv)
【0043】
0≦[D40*O]≦10 ・・・式(v)
【0044】
但し、式(ii)~式(v)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[D10*元素記号]は、酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)であり、[D40*元素記号]は、酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)である。
【0045】
[D10*元素記号]で表される、酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における当該元素の含有量(質量%)および、[D40*元素記号]で表される、酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における当該元素の含有量(質量%)は、グロー放電発光分析(GDS)にて測定を行う。具体的には、アルゴンプラズマによって酸化被膜の表面から深さ40nmを超えるまでスパッタリングし、スパッタされた元素のアルゴンプラズマ内における発光線を連続的に分光して深さ40nmまでの発光強度を測定する。深さ10nmの位置における発光強度から[D10*元素記号]を求め、深さ40nmの位置における発光強度から[D40*元素記号]を求める。
【0046】
すなわち、[D10*Al]および[D10*Fe]は、酸化被膜の表面から深さ10nmの位置における発光強度を測定し、検出された全元素の合計を100質量%とした場合のAl含有量としての[D10*Al]、Fe含有量としての[D10*Fe]をそれぞれ求める。
【0047】
[D40*Fe]および[D40*O]は、酸化被膜の表面から深さ40nmの位置における発光強度を測定し、検出された全元素の合計を100質量%とした場合のFe含有量としての[D40*Fe]、O含有量としての[D40*O]をそれぞれ求める。
【0048】
酸化被膜の表面から深さ10nmの位置におけるAl量は、極薄い酸化被膜を形成することで耐酸化性を向上し、耐テンパーカラー性が向上することを考慮すると高い方がよい。
【0049】
式(ii)の中辺([D10*Al])の値が30未満であると、耐テンパーカラー性が低下するため、式(ii)の中辺の値を30以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(ii)の中辺の値を35以上とすることが好ましい。また、鋼の表面に酸化被膜が形成されていればOも含むため、式(ii)の中辺の値は90以下とする。
【0050】
次に、酸化被膜の表面から深さ10nmの位置におけるFe量は、表層に耐テンパーカラー性を向上させるAlの酸化被膜を形成していることを考慮すると、低い方がよい。
【0051】
すなわち、式(iii)の中辺([D10*Fe])の値が40超であると、酸化被膜が形成していない、または酸化被膜中に過度にFeが含まれており保護性が低くなり、耐テンパーカラー性が低下するため、式(iii)の中辺の値を40以下とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(iii)の中辺の値を35以下とすることが好ましい。式(iii)の中辺の値は0未満となることはないため、下限は0以上とする。
【0052】
また、酸化被膜の表面から深さ40nmの位置におけるFe量は、表層のAlの酸化被膜が薄いことを考慮すると、この位置においては母材に近い値になっているから、高い方がよい。
【0053】
すなわち、式(iv)の中辺([D40*Fe])の値が50未満であると、酸化被膜が厚く、保護性が低くなり、耐テンパーカラー性が低下するため、式(iv)の中辺の値を50以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(iv)の中辺の値を55以上とすることが好ましい。また、式(iv)の中辺の値は母材のFe含有量以下であるため、92以下である。好ましくは、式(iv)の中辺の値は90以下である。
【0054】
また、酸化被膜の表面から深さ40nmの位置におけるO量は、表層のAlの酸化被膜が薄いことを考慮すると、この位置においては低い方がよい。
【0055】
すなわち、式(v)の中辺([D40*O])の値が10超であると、酸化被膜が厚く、保護性が低くなり、耐テンパーカラー性が低下するため、式(v)の中辺の値を10以下とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(v)の中辺の値を8以下とすることが好ましい。式(v)の中辺の値は0未満となることはないため、下限を0以上とする。
【0056】
また、本発明者らは、ステンレス鋼表面の色差も影響することを知見し、式(vi)を満たすことが耐テンパーカラー性を向上させるために必要であることを見出した。
【0057】
色差a*≦2.0 ・・・式(vi)
【0058】
式(vi)の色差a*は、色度指数のa*である。色度指数のa*は、JIS Z 8781-4:2013に規定されるL*a*b*表色系におけるa*である。
【0059】
色差a*は、大きいほど黄色から赤みが高いことを表わす。a*が小さく鋼板表面が無色から若干黄色くなっている範囲にいても、a*が大きいほど酸化被膜が厚く、保護性が低いことを表わしている可能性がある。また、酸化被膜の屈折率が高く光学的に赤みを帯びやすい酸化被膜となっている可能性がある。そのため、式(vi)の中辺の値を2.0以下とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(vi)の中辺の値を1.5以下とすることが好ましい。
【0060】
また、ステンレス鋼表面に過度に厚い酸化被膜を形成すると、加工時に硬質な酸化物が、かじりを生じさせ、摩擦係数が高くなり、加工性が低下する。そのため式(vii)を満たす必要がある。
【0061】
摩擦係数μk≦0.40 ・・・式(vii)
【0062】
式(vii)の摩擦係数μkは、荷重500gにおける動摩擦係数である。動摩擦係数の測定は、先端の曲率半径が1.5mmのアルミナ製のピンをステンレス鋼板に垂直に押し当て、垂直荷重としてピンに500gの荷重を与え、そのピンをステンレス鋼板と水平方向に速度5mm/secで30mm以上動かし、ピンが動いている状態の時にピンを動かすことにかかる力を動摩擦力とし、動摩擦力を垂直荷重で除した値を動摩擦係数として測定する。
【0063】
次に、鋼板の表面状態と製造条件との関係について述べる。
ステンレス鋼板の製造において、最終焼鈍前の脱脂工程が省略されると、冷間圧延時に鋼板表面に付着した圧延油などが付着したままとなる。圧延油等が鋼板表面に付着したまま最終焼鈍を行うと、圧延油等に含まれる炭素分が、焼鈍時に、鋼の粒界において鋼中のCrと反応してCr炭化物を形成してしまう。Crは、Alの酸化被膜形成を促進する元素であり、Crが欠乏すると焼鈍時にその箇所の酸化が促進され、保護性の低い酸化被膜が形成して、a*が上昇することや、酸化被膜に凹凸が形成されることで摩擦係数μkが上昇することが考えられる。よって、上記式(vi)および式(vii)を満たすためには、鋼板を製造する際に、焼鈍工程前に脱脂工程を行うとよい。
【0064】
このため、本実施形態の鋼板は、酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量が6質量%以下であることが好ましい。これにより、鋼板の色差a*や摩擦係数μkを小さくすることができる。
【0065】
酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量は、グロー放電発光分析(GDS)にて測定を行う。具体的には、アルゴンプラズマによって酸化被膜の表面から深さ40nmを超えるまでスパッタリングし、スパッタされた元素のアルゴンプラズマ内における発光線を連続的に分光して深さ40nmまでの全ての発光強度を積算する。そして、検出された全元素の合計を100質量%とした場合の、Cの含有率を求め、これをCの平均含有量とする。
【0066】
さらに、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、必要に応じて選択的に、W、Y、REM、Ca、Zr、Hf、Sn、Mg、Co、Sb、Bi、Ta、Gaの1種または2種以上を含有することにより、特性を更に向上させることができる。以下に、これらの元素について説明する。なお、これらの元素は、含有されなくてもよいため、これらの元素それぞれの含有量の下限は0%である。
【0067】
(W:0.001%以上、0.50%以下)
Wは、高温強度、耐食性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.05%以上である。しかし、過度のWの含有は、原料コストの上昇、加工性、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、W含有量は0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.40%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0068】
(Y:0.001%以上、0.50%以下)
Yは、耐銹性、熱間加工性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは0.01%以上である。しかし、過度のYの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Y含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下であり、さらに好ましくは、0.10%以下である。
【0069】
(REM:0.001%以上、0.50%以下)
REM(Rare earth metal;希土類元素)は、耐銹性、熱間加工性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なREMの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、REM含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下であり、さらに好ましくは、0.10%以下である。REMは、スカンジウム(Sc)とランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。REMとして、上記元素のうちの1種を単独で含有しても良いし、2種以上を含有しても良い。REMとして上記元素のうち2種以上を含有する場合、REM含有量は、それらの元素の合計含有量である。
【0070】
(Ca:0.0001%以上、0.0050%以下)
Caは、耐食性、耐酸化性、製造性を改善する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0002%以上であり、さらに好ましくは0.0003%以上である。しかし、過度なCaの含有も耐食性、製造性の低下を招く場合があるため、Ca含有量を0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0030%以下であり、さらに好ましくは、0.0020%以下である。
【0071】
(Zr:0.001%以上、0.50%以下)
Zrは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なZrの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Zr含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは、0.20%以下である。
【0072】
(Hf:0.001%以上、1.0%以下)
Hfは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なHfの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Hf含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0073】
(Sn:0.001%以上、0.05%未満)
Snは、耐食性、高温強度を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度のSnの含有は、原料コストの上昇、靭性、製造性の低下による製造コストの上昇を招く場合があるため、Sn含有量を0.05%未満とすることが好ましい。より好ましくは、0.04%未満である。
【0074】
(Mg:0.0001%以上、0.0050%以下)
Mgは、脱酸元素として含有させる場合がある他、成型性、耐酸化性を改善する元素でもあり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.0005%以上である。しかし、過度なMgの含有は、耐食性、溶接性、表面品質の低下を招く場合があるため、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0030%以下であり、さらに好ましくは、0.0020%以下である。
【0075】
(Co:0.001%以上、1.0%以下)
Coは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。よりより好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なCoの含有は、原料コストの上昇、加工性、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Co含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%未満である。
【0076】
(Sb:0.001%以上、1.0%以下)
Sbは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.005%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なSbの含有は、溶接性、靭性の低下を招く場合があるため、Sb含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.40%以下である。
【0077】
(Bi:0.001%以上、1.0%以下)
Biは、冷間圧延時に発生するローピングを抑制し、製造性を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なBiの含有は、原料コストの上昇、加工性、熱間加工性の低下を招く場合があるため、Bi含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0078】
(Ta:0.001%以上、1.0%以下)
Taは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なTaの含有は、原料コストの上昇、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Ta含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0079】
(Ga:0.0001%以上、0.50%以下)
Gaは、耐食性、耐水素脆化特性を向上する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.001%以上である。しかし、過度なGaの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Ga含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは、0.20%以下である。
【0080】
次に、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板の製造方法について説明する。本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、いかなる方法で製造されてもよいが、例えば、以下の製造方法で製造することができる。
【0081】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法については、フェライト系ステンレス鋼を製造する一般的な工程を採用できる。一般に、転炉または電気炉で溶鋼とし、AOD炉やVOD炉等で精練して、連続鋳造法または造塊法で鋼片とした後、熱間圧延-熱延板の焼鈍-酸洗-冷間圧延-仕上げ焼鈍の工程を経て製造される。必要に応じて、熱延板の焼鈍を省略してもよいし、最後は仕上げ焼鈍とすれば途中工程において冷間圧延-焼鈍-酸洗を繰り返し行ってもよい。
【0082】
これら各工程の条件は一般的条件で良く、例えば熱間圧延の際の加熱温度:1000~1300℃、熱延板焼鈍温度:900~1200℃、冷延板焼鈍温度:800~1200℃等で行うことができる。熱延条件、熱延板焼鈍の有無、冷延条件等は適宜選択することができる。
【0083】
また、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。また、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接等の通常の排気系部材用ステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造しても良い。
【0084】
ただし、本実施形態の製造方法は、最終焼鈍前の脱脂工程と、脱脂工程後の最終焼鈍工程を少なくとも備える必要がある。
【0085】
最終焼鈍前に脱脂工程が省略されると、鋼板の表面へのC分の付着に起因する耐テンパーカラー性や加工性の低下を招くため、最終焼鈍前に脱脂工程を行う必要がある。脱脂工程を行うことによって、脱脂工程前の冷間圧延等において付着した圧延油等を除去され、これにより焼鈍時に鋼の結晶粒界にCr炭化物が形成されることが抑制され、鋼板の色差a*や摩擦係数μkの上昇が抑制される。脱脂工程の条件は特に制限はない。
【0086】
最終焼鈍工程は、焼鈍雰囲気が2~15体積%の水素と残部不活性ガスの雰囲気とし、雰囲気の露点は-40℃以下とする。鋼板と雰囲気との間における雰囲気の相対的な流速は0.08m/s以上とする。また、焼鈍温度は800~1200℃とし、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間は5秒以上、200秒以下とし、800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間は20秒以上、200秒以下とし、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間は800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間よりも短い条件とする。
【0087】
鋼の表層部にAlの酸化被膜を形成して耐テンパーカラー性を得るため、焼鈍雰囲気中の水素濃度は2体積%以上とする。好ましくは、3体積%以上である。水素濃度の上限は製造性や経済性を考慮して15体積%以下とする。好ましくは、水素濃度を10体積%以下とする。
【0088】
焼鈍雰囲気の残部は不活性ガスとし、経済性を考慮して窒素とすることが好ましい。これにより、焼鈍雰囲気を酸化性が低く、還元性の高い雰囲気とすることができ、焼鈍時の鋼板表面の酸化を抑制できる。特にAlよりFeやCrの酸化が抑制され、Alは相対的に優先酸化される。また、酸化性が低く、還元性の高い雰囲気とするには露点も重要であり、焼鈍雰囲気の露点は-40℃以下とする。好ましくは、-45℃以下である。焼鈍雰囲気の露点の下限は、製造性や経済性を考慮して-80℃以上とすることが好ましい。より好ましくは、-70℃以上である。また上述した焼鈍雰囲気において、本実施形態の効果を損なわない範囲で、他の不活性ガスや還元性ガスを含有してもよい。不活性ガスとしてはアルゴン等、還元性ガスとしては一酸化炭素、硫化水素、炭化水素、アンモニア等がある。また、不純物として微量の水蒸気、酸素、二酸化炭素が含まれる場合があるが、水蒸気は露点として管理され、酸素、二酸化炭素も水素と反応して水蒸気となるので露点として管理される。
【0089】
また、最終焼鈍の焼鈍雰囲気が、酸化性が低く還元性の高い雰囲気である水素と窒素からなる雰囲気であっても、昇温過程を踏まえるとある温度までの低温域では鋼板表面は酸化し得る。特に、Feは酸化速度が大きいので、低温域での酸化量も大きいと考えられる。また、最終焼鈍温度に近い高温域では、鋼板表面の酸化が抑制されるが、それに加えて低温域で酸化したFeは還元され、Alは優先的に酸化する。このような酸化還元反応は、鋼板と雰囲気との間における雰囲気の相対的な流速が大きいほど促進され、高温域におけるFeの還元とAlの酸化とを促進することになる。そのため、鋼板と雰囲気との間における雰囲気の相対的な流速は0.08m/s以上とする。好ましくは、0.20m/s以上である。鋼板と雰囲気との間における雰囲気の相対的な流速の上限は製造性と経済性を考慮して、10m/s以下とすることが好ましい。より好ましくは、5m/s以下である。なお、鋼板と雰囲気との間における雰囲気の相対的な流速は、バッチ焼鈍の場合は、雰囲気ガスの流速であり、連続焼鈍ラインの場合、通板速度と雰囲気ガスの流速の差となる。
【0090】
焼鈍温度は、生産性を考慮して、800~1200℃の範囲とすることが好ましい。また、生産コストを重視する場合は、焼鈍温度は800~980℃にしてもよい。
【0091】
また、上述のように、Feは低温域で酸化し、高温域で還元され、Alは高温域で優先的に酸化される。そのため、低温域は短時間、高温域で長時間とすることが良い。一方で各温度における時間を過度に短時間や長時間とすることは製造性を損なう。これらを考慮して、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間は5秒以上、200秒以下とし、800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間は20秒以上、200秒以下とし、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間は800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間よりも短くする。製造コストの観点から経済性を考慮して最終焼鈍温度を980℃以下とする場合は、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間を、800℃以上980℃以下の範囲の保持時間より短くすることが好ましい。
【0092】
また、最終焼鈍後に、表面状態に影響のない範囲で汚れ等を除去するために水洗や硝酸浸漬処理を行ってもよい。
【0093】
上記の製造方法によれば、製造コストの高い光輝焼鈍仕上げや研磨仕上げを必要としない、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を製造可能になる。
【0094】
以上のことから、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、鋼板表面が2~15体積%の水素を含む焼鈍雰囲気での焼鈍仕上げとされていることが好ましい。
【0095】
以上説明したように、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板によれば、耐テンパーカラー性を向上することができる。これにより、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、自動車排気系部材の素材として好適に用いることができる。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0097】
表1A、表1Bに示す成分組成および式(i)の左辺の値を有する鋼(本発明例A~Q、比較例a~s)を、真空溶解炉で溶製して150kgインゴットに鋳造して鋼片とし、鋼片を熱間圧延して4.0mm厚の鋼板とした。熱間圧延の際の加熱温度は1000~1300℃とした。次いで、熱間圧延後の鋼板を酸洗し、1.0mm厚になるまで冷間圧延し、水素および窒素の混合雰囲気中で最終焼鈍をしてフェライト系ステンレス鋼板(製品板)とした。なお、表1A、表1Bにおける化学組成の残部はFeおよび不純物である。
【0098】
脱脂工程を行う場合は、最終冷間圧延後の最終焼鈍前の段階で行った。最終焼鈍温度は800~1200℃の範囲とした。製品板の製造工程においては、最終焼鈍前の脱脂工程の有無、最終焼鈍の雰囲気、露点、流速、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間、800℃以上1200℃以下の範囲における保持時間は表2A、表2Bに示す条件にて実施した。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
上記で得られた製品板の色差a*、摩擦係数μkを測定した。また、製品板の酸化被膜の表面から深さ10nmの位置におけるAl、Feの含有量(質量%)を順に[D10*Al]、[D10*Fe]として、表面から深さ40nmの位置におけるFe、Oの含有量(質量%)を[D40*Fe]、[D40*O]として、表面から深さ40nmまでの間におけるCの平均含有量(質量%)を[A40*C]としてグロー放電発光分析(GDS)で測定した。
【0104】
耐テンパーカラー性は、高温塩害環境にて熱処理を行う高温塩害試験を行い、高温塩害試験後の鋼板表面の色差a*およびb*を測定して評価した。a*およびb*は、JIS Z 8781-4:2013に規定されるL*a*b*表色系におけるa*およびb*である。
【0105】
高温塩害試験には、製品板から採取した幅20mm×長さ50mmの試験片を用いた。高温塩害試験は、試験片を加熱し、冷却、塩水浸漬、乾燥のサイクルを4サイクル実施した。加熱条件は、温度を350℃、保持時間を150分とした。冷却条件は、温度を25℃、保持時間を30分とした。塩水浸漬条件は、塩水として飽和NaCl水溶液を用い、水溶液温度を25℃、浸漬時間を30分とした。すなわち、塩水には、26質量%NaCl水溶液を用いた。乾燥条件は、塩水から取り出した後、温度を50℃、保持時間を30分とした。加熱、冷却、乾燥の空気とした。
【0106】
耐テンパーカラー性は、高温塩害試験後の色差測定を行い、a*値およびb*値を評価した。テンパーカラーを示している酸化被膜は、その厚みが増すにつれてa*値が増大し、無色から黄色系へ、黄色系から赤系へ変化する。さらに酸化被膜が厚くなると赤系から青系に転じ、a*値が急激に低下して同時にb*値も低下する。本評価では、a*値が10超またはb*値が5.0未満のものを「×(不良)」とし、b*値が5.0以上において、a*値が8超10以下のものを「●(可)」、6超8以下のものを「○(良好)」、6以下のものを「◎(更に良好)」とした。
【0107】
表3A、表3Bに、本発明例A~Q、比較例a~sの製品板の[D10*Al]、[D10*Fe]、[D40*Fe]、[D40*O]、式(ii)~式(v)の中辺の値、式(vi)の左辺の値になる製品板の色差a*、式(vii)の左辺の値となる摩擦係数μk、耐テンパーカラー性の評価結果を示す。
【0108】
【0109】
【0110】
表1A~表3Bから明らかなように、鋼成分が本発明で規定する成分組成であり、式(i)~式(vii)を満足する鋼板(本発明例A~Q)は、比較例の鋼板(比較例a~s)に比べて、耐テンパーカラー性が優れていることがわかる。特に、鋼成分がより好ましい成分組成であり、式(i)~式(vii)がより好ましい範囲を満足する鋼板(本発明例M~P)は、耐テンパーカラー性がより優れていることがわかる。また、好ましい製造条件を満足すれば、式(ii)~式(vii)を満足することが分かる。また、本発明例の鋼板は、表面から40nm深さまでのCの平均含有量が6%以下であった。
【0111】
なお、高温塩害試験ではなく、塩水浸漬を行わない大気連続酸化試験を行った場合、加熱温度を200~500℃に変えた場合、トータルの加熱時間を1~100時間に変えた場合の試験も複数実施した。その結果、酸化皮膜がおおよそ1μm以下でテンパーカラーを生じる条件においては、a*値、b*値の値は変わるものの、本発明鋼のテンパーカラーが赤系、青系から薄くなる側にあり、本発明鋼は耐テンパーカラー性が優位であった。これより、本発明例は様々な環境でも優れた耐テンパーカラー性を示すと考えられる。
【0112】
以上より、本発明で規定する化学組成を有し、式(i)~式(vii)を満足する鋼板は、耐テンパーカラー性に優れていることがわかる。
本発明によれば、製造コストの高い光輝焼鈍仕上げや研磨仕上げとすることなく、酸洗仕上げで耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板であって、特に自動車や二輪車などの輸送機器における排気系部品用として路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境で耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。具体的な用途としては、エキゾーストマニホールド、コンバーター、フロントパイプ、センターパイプ、マフラー、インシュレーター、EGR、EGRクーラー、ターボ部品、自動車排気系の締結部品などを例示できる。