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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118868
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】電気自動車用フロントフレーム構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20240826BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20240826BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D21/00 A
B62D21/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025423
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BA02
3D203BA17
3D203BB12
3D203BB54
3D203BC14
3D203CA37
3D203CA40
3D203CA42
3D203DB05
3D203DB07
3D203DB10
(57)【要約】
【課題】前面衝突時の衝撃荷重からパワーコントロールユニット、キャビン、バッテリ室を保護する。
【解決手段】モータルームの側壁とパワーコントロールユニットの側面との間に形成された余剰空間にフロントサイドフレームを配設し、このフロントサイドフレームが後部の壁上部と前部のアーム状部とを有し、壁状部の下部に、後部から前方へ所定仰角の第1斜面部を形成し、アーム状部の下部に、第1斜面部の端部から前方へ所定俯角の第2斜面部を形成し、フロントサイドフレームとロアフレームの左右に設けられているロアサイドフレームとを接合し、フロントサイドフレームとロアサイドフレームとの前端部の結合をフロントリンフォースで補強し、両斜面部が接合する上側谷線部の側面と上側谷線部の下方に対峙するロアサイドフレームの側面とをリヤリンフォースで連結する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に設けたモータルームの車幅方向両側に配設されて該車体の前後方向へ延在する左右一対のフロントサイドフレームと、
前記両フロントサイドフレームの前端を連結するバンパビームと、
前記モータルームの下部に配設されて車幅方向両側が前記各フロントサイドフレームに支持されているロアフレームと
を備え、前記ロアフレームの後部に、電動モータを有するパワーコントロールユニットが支持される電気自動車用フロントフレーム構造において、
前記フロントサイドフレームが前記モータルームの車幅方向側壁と前記パワーコントロールユニットの側面との間に形成された余剰空間に配設されており、
前記フロントサイドフレームが、
前記モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、前記モータルームの後部領域において前記モータルームの後方向へ延在する壁状部と、
前記壁状部の前端部から前記モータルームの前部方向へ延在するアーム状部と
を有し、
前記壁状部の下部に、後部から前方へ所定仰角の第1斜面部が形成され、
前記アーム状部の底面に、前記第1斜面部の端部から前方へ所定俯角の第2斜面部が形成され、
前記フロントサイドフレームの下部に、前記ロアフレームの左右に設けられているロアサイドフレームが接合され、
前記フロントサイドフレームの前端部と前記ロアサイドフレームと前端部との結合がフロントリンフォースを介して補強され、
前記両斜面部が接合する上側谷線部の側面と該上側谷線部の下方に対峙する前記ロアサイドフレームの側面とがリヤリンフォースを介して連結されている
ことを特徴とする電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項2】
前記壁状部の上面にアッパパネルが形成され、
前記アッパパネルの後端が前記車体に設けられているフロントピラーに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項3】
前記アッパパネルがサスペンションタワーの上面に接合されている
ことを特徴とする請求項2に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項4】
前記ロアサイドフレームの前記フロントリンフォースの前縁から前記前端部へ所定仰角の第3斜面部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項5】
前記各リンフォースは、板材を溝形に曲げて形成されている
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用フロントフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の前部に設けたモータルームには、電動モータを含むパワーユニットが搭載されている。フルラップ前面衝突やスモールオーバラップ前面衝突時において、パワーユニットは剛体であるため、衝撃エネルギを吸収させることは殆ど不可能である。又、電気自動車のパワーユニットは、レシプロエンジンのパワーユニットに比べて体格が小さいため、その上部にインバータやDC/DCコンバータ等の高電圧部材を含むコントロールユニットを搭載する場合が多い。
【0003】
前面衝突時における衝撃により剛体であるパワーユニットを後退させてしまうとキャビンを変形させてしまうことになる。又、高電圧部材であるコントロールユニットを前面衝突時における衝撃で押し潰してしまうことも好ましくない。従って、前面衝突時は、少なくともパワーユニットとコントロールユニットとが一体化されたパワーコントロールユニットの手前で前面衝突時の衝撃エネルギを吸収することが好ましい。
【0004】
又、電気自動車は、十分な航続距離を確保するために大容量のバッテリを必要とする。多くの場合、バッテリは床下のスペース全体をバッテリ室として確保し、このバッテリ室にバッテリを収容している。従って、前面衝突時においては、キャビン及びバッテリ室の変形を最小限として有効に保護する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2012-201284号公報)には、車体の車幅方向中央に、車体前後方向へ延在する1本のメインフレームを配設し、このメインフレームにバッテリを収容する電気自動車が開示されている。更に、この文献に開示されている電気自動車では、前輪よりも前方に延在するメインフレームにはバッテリを収容せずに、前面衝突時は、この前輪よりも前方に延在する部分で衝撃エネルギを吸収させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-201284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献に開示されている電気自動車は専用のフレーム構造として当初から設計されたものである。従って、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計された電気自動車のフレーム構造に比しコスト高となる不都合がある。
【0008】
又、メインフレームの前端部分で前面衝突時の衝撃エネルギを吸収させようとした場合、メインフレームのクラッシュストローク(前面衝突時に衝突方向へ塑性変形し得る量)をパワーユニットよりも前方に設定する必要がある。しかし、メインフレームのみの変形でクラッシュストロークを確保しようとした場合、パワーユニットよりも前方へのフロントオーバハング量が大きくなり、意匠性が損なわれてしまう不都合がある。
【0009】
本発明は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計することが可能で、意匠性を損なうことなく、前面衝突時における衝撃荷重からパワーコントロールユニット、及びキャビンやバッテリ室を有効に保護することのできる電気自動車用フロントフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車体の前部に設けたモータルームの車幅方向両側に配設されて該車体の前後方向へ延在する左右一対のフロントサイドフレームと、前記両フロントサイドフレームの前端を連結するバンパビームと、前記モータルームの下部に配設されて車幅方向両側が前記各フロントサイドフレームに支持されているロアフレームとを備え、前記ロアフレームの後部に、電動モータを有するパワーコントロールユニットが支持される電気自動車用フロントフレーム構造において、前記フロントサイドフレームが前記モータルームの車幅方向側壁と前記パワーコントロールユニットの側面との間に形成された余剰空間に配設されており、前記フロントサイドフレームが、前記モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、前記モータルームの後部領域において前記モータルームの後方向へ延在する壁状部と、前記壁状部の前端部から前記モータルームの前部方向へ延在するアーム状部とを有し、前記壁状部の下部に、後部から前方へ所定仰角の第1斜面部が形成され、前記アーム状部の下部に、前記第1斜面部の端部から前方へ所定俯角の第2斜面部が形成され、前記フロントサイドフレームの底面に、前記ロアフレームの左右に設けられているロアサイドフレームが接合され、前記フロントサイドフレームの前端部と前記ロアサイドフレームと前端部との結合がフロントリンフォースを介して補強され、前記両斜面部が接合する上側谷線部の側面と該上側谷線部の下方に対峙する前記ロアサイドフレームの側面とがリヤリンフォースを介して連結されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に、モータルームの車幅方向側壁とパワーコントロールユニットの側面との間に形成された余剰空間にフロントサイドフレームを配設したので、フロントフレーム構造のフレームワークを再構築することが容易となる。それにより、前面衝突時における衝撃エネルギを段階的に吸収することのできる構造設計が可能となり、パワーコントロールユニットを損傷させることなくクラッシュストロークを確保することができる。
【0012】
その結果、意匠性を損なうことなく、前面衝突時における衝撃からコントロールユニット、及びキャビンやバッテリ室を有効に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フロントフレーム構造を示す側面図
図2】フロントフレーム構造を示す斜視図
図3】フロントフレーム構造を示す分解斜視図
図4】リヤリンフォースの斜視図
図5】フロントリンフォースの斜視図
図6A】フルラップ前面衝突初期のフロントフレームの挙動を示す側面図
図6B】フルラップ前面衝突中盤のフロントフレームの挙動を示す側面図
図6C】フルラップ前面衝突終盤のフロントフレームの挙動を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1図2に電気自動車における車体前部1のフレーム構造を示す。この車体前部1にモータルーム2が設けられている。このモータルーム2の上側開口部が開閉自在なフロントフード1aで覆われている。
【0015】
又、モータルーム2の後方にキャビン3が備えられている。このモータルーム2とキャビン3とが、車幅方向へ延在されているトーボード4を介して区画されている。尚、以下の説明において、「溶接接合」と記載されている場合、その接合方法は、特に、明記しない限りスポット溶接を代表とする溶接手段を用いた溶着によって行われるものとする。
【0016】
トーボード4の左右両側縁が対向一対のフロントピラー5に溶接接合されている。又、トーボード4の上端縁が車幅方向へ延在するバルクヘッド6に溶接接合されている。トーボード4の両側前部に、互いに対向する一対のホイールエプロン7が形成されている。トーボード4の下部がフロアパネル8の前端縁に連続されている。このフロアパネル8がキャビン3の床面に相当する。
【0017】
フロアパネル8の車幅方向の両側が一対のサイドシル9に溶接接合されている。各サイドシル9は、フロアパネル8の左右側部において、車体の前後方向にそれぞれ延在されている。このサイドシル9の前部がフロントピラー5の下端部に溶接接合されている。この左右のフロントピラー5の上部は後方へ傾斜した状態で車体の上方へ延在されて、図示しないルーフサイドレールの前端部に溶接接合されている。
【0018】
又、フロアパネル8下面のほぼ全体にバッテリ室10が設定されている。バッテリ室10は密閉型の容器である。このバッテリ室10にバッテリモジュール11が複数配設されている。各バッテリモジュール11には走行用電動モータを駆動する電気エネルギが蓄積されている。
【0019】
対向する一対のホイールエプロン7はモータルーム2の側壁を形成している。各ホイールエプロン7には、前輪(図示せず)の上方を覆うアーチ状のホイールハウス7aや、前輪を懸架するサスペンション(図示せず)のストラット上部を支持するサスペンションタワー7b等が形成されている。このサスペンションタワー7bは、モータルーム2の比較的後部に配設されていると共に、モータルーム2の車幅方向の内側に張り出されている。
【0020】
又、ホイールエプロン7の上端部がアッパサイドフレーム12に溶接接合されている。このアッパサイドフレーム12の後端がフロントピラー5に溶接接合されている。このアッパサイドフレーム12にサスペンションタワー7bの車幅方向外側が溶接接合されている。又、左右のフロントピラー5間がバルクヘッド6の両端部に溶接接合されている。更に、このバルクヘッド6の両端部が左右のホイールエプロン7に溶接接合されている。尚、サスペンションタワー7bはストラットタワーであっても良い。
【0021】
ところで、電気自動車のフロントフレーム構造は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両のフロントフレーム構造を基本に設計されている。電動モータや変速機を含むパワーコントロールユニットは、レシプロエンジンのパワーユニットに比べて体格が小さい。従って、電気自動車では、パワーユニットの上部にインバータやDC/DCコンバータ等の高電圧部材を含むコントロールユニットを搭載する構造が多く採用されている。
【0022】
そのため、電気自動車では、パワーユニットとコントロールユニットとが一体化されたパワーコントロールユニット13のモータルーム2に占める体積の割合(容積占有率)が、モータルーム2と同一容積のエンジンルームに占めるレシプロエンジンを駆動源とするパワーユニットの容積占有率よりも低くなる。その結果、モータルーム2には、互いに対峙する左右側壁とパワーコントロールユニット13の側面との間に余剰空間が生じる。
【0023】
本実施形態では、モータルーム2に生じた余剰空間を利用して、フロントフレーム構造のフレームワークを再構築している。これにより、フルラップ前面衝突やスモールオーバラップ前面衝突時における衝撃エネルギを、パワーコントロールユニット13の前方で効率良く吸収できるようにしている。
【0024】
先ず、フロントサイドフレーム21が再構築されている。再構築したフロントサイドフレーム21は、モータルーム2内におけるパワーコントロールユニット13の車幅方向側面とホイールエプロン7の車幅方向内面との間に形成されている余剰空間に配設されている。このフロントサイドフレーム21は車体の前後方向へ延在されている。
【0025】
このフロントサイドフレーム21の後部が、トーボード4を補強するトーボードクロスメンバ(図示せず)の車幅方向端部に溶接接合されている。又、フロントサイドフレーム21の前端がクラッシュボックス26に溶接接合されている。尚、このクラッシュボックス26は電気自動車の上下方向における重心位置に設けられている。又、フロントサイドフレーム21とクラッシュボックス26、及び後述するクレードル31に設けられているロアサイドフレーム32の正面視における幅は同じである。
【0026】
モータルーム2内におけるフロントサイドフレーム21は、後部に壁状部22が形成され、前部にアーム状部23が形成されている。この壁状部22及びアーム状部23は中空の断面矩形状に形成されている。又、壁状部22はフロントサイドフレーム21の後部領域を構成している。アーム状部23はフロントサイドフレーム21の前部領域を構成している。
【0027】
壁状部22は、例えば、モータルーム2の底部から上部までの高さ方向の寸法を有している。より詳細に説明すると、壁状部22は、車体の高さ方向において、モータルーム2の底部からアッパサイドフレーム12と同程度の高さまでの寸法を有する。壁状部22の後端がトーボード4のトーボードクロスメンバ(図示せず)の端部に溶接接合されている。又、壁状部22後部の車幅方向外側がトルクボックス24に溶接接合されている。このトルクボックス24はサイドシル9の前部車幅方向内面に溶接接合されている。
【0028】
壁状部22は、車体の前後方向において、モータルーム2の中央付近からトーボード4まで延在している。この壁状部22の上面にアッパパネル22aが形成されている。このアッパパネル22aは、壁状部22の前端から後部方向へ、その幅が車幅方向外側へ次第に拡幅されている。このアッパパネル22aがサスペンションタワー7bの上面に溶接接合されている。又、このアッパパネル22aの後部がバルクヘッド6に溶接接合されている。更に、このアッパパネル22aの後端がフロントピラー5に溶接接合されている。アッパパネル22aがサスペンションタワー7bの上面に溶接接合されているので、サスペンションタワー7bの剛性が高められる。
【0029】
左右のフロントサイドフレーム21の下部であって、壁状部22の前部に所定の仰角で前方へ傾斜する第1斜面部22bが形成されている。一方、左右のフロントサイドフレーム21の下部であって、第1斜面部22bの上端に連続して、アーム状部23の後部から、所定の俯角で前方へ傾斜する第2斜面部23aが形成されている。このアーム状部23には第2斜面部23aの下端から先端にかけて平坦面23bが形成されている。左右のフロントサイドフレーム21には、両斜面部22b,23aの上側谷線部21aを頂点とする略三角形の空間部が形成されている。
【0030】
又、左右のフロントサイドフレーム21の先端にクラッシュボックス26が結合されている。この左右のクラッシュボックス26の先端が、車幅方向へ延在するバンパビーム27を介して連結されている。
【0031】
一方、モータルーム2の底面にロアフレームとしてのクレードル31が配設されている。図3に示すように、クレードル31は、左右一対のロアサイドフレーム32と、フロントクロスメンバ33及びリヤクロスメンバ34とを有している。ロアサイドフレーム32、及び各クロスメンバ33,34は、中空の断面矩形状に形成されている。
【0032】
フロントクロスメンバ33の両端が左右のロアサイドフレーム32の前端部であって車幅方向内側に溶接接合されている。又、リヤクロスメンバ34の両端が左右のロアサイドフレーム32の後部であって車幅方向内側に溶接接合されている。この両クロスメンバ33,34によって、左右のロアサイドフレーム32の間隔が左右のフロントサイドフレーム21と同じ間隔に設定されて保持されている。
【0033】
又、このリヤクロスメンバ34は前後方向がやや幅広に形成されている。このリヤクロスメンバ34上に、パワーコントロールユニット13がモータマウント(図示せず)を介して支持されている。又、パワーコントロールユニット13に設けられている変速機から車幅方向両側にアクスル軸13aが延出されている。
【0034】
各ロアサイドフレーム32の車幅方向の幅は、フロントサイドフレーム21の車幅方向の幅と同じである。又、フロアサイドフレーム32の先端側に、車体後方から前方へ所定の仰角で傾斜する第3斜面部32aが形成されている。更に、左右のロアサイドフレーム32には第3斜面部32aの上端から先端にかけて平坦面32bが形成されている。
【0035】
クレードル31は、平坦面23b,31b同士がボルト等の締結部材を介して結合されている。両平坦面23b,32bが結合された状態では、フロントサイドフレーム21とロアサイドフレーム32との先端面が同一面となる。
【0036】
又、左右のロアサイドフレーム32の後端側の上面が壁状部22の底面に、ボルト等の締結部材を介して結合されている。更に、この左右のロアサイドフレーム32の後端部であって車幅方向外側がトルクボックス24にボルト等の締結部材を介して結合されている。更に、左右のロアサイドフレーム32の後端がフロアクロスメンバ(図示せず)に結合されている。このフロアクロスメンバはトーボード4に溶接接合されている。
【0037】
図1に示すように、左右のフロントサイドフレーム21の底面に、クレードル31に設けられている左右のロアサイドフレーム32が結合された状態では、フロントサイドフレーム21の両斜面部22b,23aと、左右のロアサイドフレーム32及び、先端側の第3斜面部32aとで菱形の空間部35が形成されている。
【0038】
又、ロアサイドフレーム32の第3斜面部32aの立ち上がり部に形成された下側谷線部32cが、フロントサイドフレーム21に形成された両斜面部22b,23aの上側谷線部21aよりもやや前方の位置に設定されている。
【0039】
図1に示すように、パワーコントロールユニット13の前部とフロントサイドフレーム21の先端部との間には、クラッシュストローク分の領域が設定されている。又、パワーコントロールユニット13から車幅方向両側へ延在するアクスル軸13aは、空間部35を貫通して車幅方向外側へ突出される。ロアサイドフレーム32の車幅方向の外側にサスペンションアーム(ロアアーム)36が、上下方向へ揺動自在にされた状態で支持されている。このサスペンションアーム36は、アクスル軸13aに連設する前輪をアッパアーム(図示せず)と協働で懸架する。
【0040】
又、フロントサイドフレーム21の上側谷線部21aが位置する部位に、所定幅のリヤリンフォース41が溶接接合されている。このリヤリンフォース41は、溝形に曲げ形成された板材である。図4に示すように、リヤリンフォース41は、上面41aとこの上面41aの両側から立ち下げられた側面部41bとを有している。このリヤリンフォース41の上面41aがフロントサイドフレーム21の上側谷線部21aに位置する上面に溶接接合されている。このリヤリンフォース41の側面部41bがフロントサイドフレーム21の上側谷線部21aに位置する両側面に溶接接合されている。尚、図4に示すリヤリンフォース41は板厚を省略して記載している。
【0041】
更に、このリヤリンフォース41の両側面部41bの下端部が、ロアサイドフレーム32の両側面に溶接接合されている。このリヤリンフォース41によりフロントサイドフレーム21とロアサイドフレーム32とが空間部35を挟んで連設されている。
【0042】
図1に示す側面視において、ロアサイドフレーム32の下側谷線部32cとリヤリンフォース41の両側面部41bの前側エッジとがほぼ一致した位置に配設されている。
【0043】
図1に示すように、空間部35の後部には、リヤリンフォース41と第1斜面部22bとロアサイドフレーム32とでリヤトラス構造体が形成されている。又、空間部35の前部には、リヤリンフォース41の側面部41bと第2斜面部23aとロアサイドフレーム32の第3斜面部32aとでフロントトラス構造体が形成されている。
【0044】
又、クラッシュボックス26、フロントサイドフレーム21のアーム状部23及び壁状部22の上下方向の高さは、クラッシュボックス26<アーム状部23<壁状部22に設定されている。又、クラッシュボックス26、フロントサイドフレーム21、ロアサイドフレーム32の正面視での幅は同じである。従って、クラッシュボックス26、フロントトラス構造体、リヤトラス構造体の剛性は、クラッシュボックス26<フロントトラス構造体<リヤトラス構造体となる。以上のことから、電気自動車がフルラップ前面衝突した場合、クラッシュボックス26→フロントトラス構造体→リヤトラス構造体の順に軸圧潰される。
【0045】
又、フロントサイドフレーム21とクレードル31のロアサイドフレーム32とに形成した平坦面23b,32bが結合されている先端部に、所定幅のフロントリンフォース42が溶接接合されている。このフロントリンフォース42は、溝形に曲げ形成された板材である。図5に示すように、フロントリンフォース42は、上面42aと、この上面42aの両側から立ち下げられた側面部42bとを有している。
【0046】
このフロントリンフォース42の上面41aがフロントサイドフレーム21の先端部の上面側に溶接接合されている。このフロントリンフォース42の側面部42bがフロントサイドフレーム21の先端部の両側面に溶接接合されている。尚、図5に示すフロントリンフォース42は板厚を省略して記載している。
【0047】
更に、このフロントリンフォース42の両側面部42bの下端部が、ロアサイドフレーム32の先端部側の両側面に溶接接合されている。
【0048】
ところで、フロントサイドフレーム21の上側谷線部21aは、車両が前面衝突した際の衝撃荷重を集中させて軸圧潰のきっかけを与える部位である。従って、車両が前面衝突した際の衝撃エネルギをフロントサイドフレーム21の軸圧潰で吸収しようとする場合、この上側谷線部21aの変形を正しくコントロールする必要がある。一方、フロントサイドフレーム21の上側谷線部21aが衝撃荷重を受けて変形するに際し、クレードル31をフロントサイドフレーム21の軸圧潰を阻害させないように変形させる必要がある。クレードル31のロアサイドフレーム32に形成されている下側谷線部32cは、この変形のきっかけを与える部位である。
【0049】
リヤリンフォース41は、車両が前面衝突した際に、フロントサイドフレーム21の軸圧潰を正しくコントロールするために溶接接合されている。すなわち、上側谷線部21aを境界とするアーム状部23の後端から壁状部22にかけては、フロントサイドフレーム21の高さ方向が増加している。従って、フルラップ前面衝突時の衝撃荷重をフロントサイドフレーム21が受けると、このフロントサイドフレーム21はアーム状部23の後端から壁状部22にかけて、車幅方向へ膨らんで変形しようとする。フロントサイドフレーム21が車幅方向へ膨らんで変形してしまうと、衝撃エネルギを有効に吸収することが困難になる。
【0050】
そのため、上側谷線部21aに位置するフロントサイドフレーム21の側面及び上面をリヤリンフォース41で補強することで、アーム状部23の後端から壁状部22にかけての車幅方向への膨らみを防止する。又、このリヤリンフォース41の幅や板厚を適正に設定することで、軸圧潰を正しくコントロールすることができる。
【0051】
又、このリヤリンフォース41の前側エッジ直前に下側谷線部32cを設定することで、フロントサイドフレーム21の軸圧潰を阻害させない状態で、クレードル31のロアサイドフレーム32を座屈変形させることができる。
【0052】
一方、フロントサイドフレーム21の平坦面23bとロアサイドフレーム32の平坦面32bとの結合部位が、前面衝突時の初期に変形してしまうと衝突荷重を後方へ正しく伝達させることが困難になる。その結果、フロントサイドフレーム21の軸圧潰による安定荷重の伝達が阻害される。
【0053】
そのため、フロントサイドフレーム21の平坦面23bとロアサイドフレーム32の平坦面32bとが結合されている先端部をフロントリンフォース42で補強することで、衝突初期における先端部の変形を防止する。尚、図6A図6Cにしめす符号Eは、車両、外壁などの立体障害物である。
【0054】
次に、このようなフロントフレーム構造を備える電気自動車が立体障害物Eに前面衝突した際の作用について説明する。
【0055】
本実施形態によるフロントフレーム構造では、モータルーム2内における左右の余剰空間に、再構築したフロントサイドフレーム21を配設し、このフロントサイドフレーム21の下部にクレードル31が結合されている。
【0056】
又、フロントサイドフレーム21とクレードル31とで形成された空間部35の上部に上側谷線部21aが形成されている。この空間部35は菱形に形成されており、上下の谷線部21a,32cに位置する、フロントサイドフレーム21とロアサイドフレーム32との側面がリヤリンフォース41で補強されている。又、リヤリンフォース41により空間部35の前部にフロントトラス構造体が形成され、後部にリヤトラス構造体が形成されている。又、フロントサイドフレーム21の先端部とロアサイドフレーム32の先端部との結合が、フロントリンフォース42によって補強されている。
【0057】
走行中の電気自動車の前面が立体障害物Eにフルラップ前面衝突すると、そのときの衝撃荷重が、車幅方向に横設されているバンパビーム27を介して左右のクラッシュボックス26に伝達される。上述したように、クラッシュボックス26とフロントトラス構造体とリヤトラス構造体との剛性は、クラッシュボックス26<フロントトラス構造体<リヤトラス構造体に設定されている。
【0058】
又、フロントサイドフレーム21の先端部とロアサイドフレーム32の先端部との結合がフロントリンフォース42で補強されている。従って、フロントサイドフレーム21に衝突荷重が伝達されても、衝突初期においては、フロントサイドフレーム21の先端部とロアサイドフレーム32の先端部とが乖離せずクラッシュボックス26に対して抗力が生じる。その結果、図6Aに示すように、衝突初期では、バンパビーム27が圧力変形し、クラッシュボックス26が軸圧潰されて衝撃エネルギが吸収される。
【0059】
続く、衝突中盤においては、図6Bに示すように、リヤトラス構造体が抗力となり、フロントトラス構造体をなすアーム状部23が軸圧潰されて、衝撃エネルギが吸収される。その際、上側谷線部21aを境界とするアーム状部23の後端から壁状部22にかけてはリヤリンフォース41で補強されているため、アーム状部23のみを軸圧潰させることができる。
【0060】
一方、クレードル31のロアサイドフレーム32に形成されている下側谷線部32cは、リヤリンフォース41の前側エッジ直前に形成されている。そのため、衝突荷重がフロントトラス構造体に印加されると、ロアサイドフレーム32は下側谷線部32cがアーム状部23の軸圧潰を阻害しない方向へ座屈する。これにより、アーム状部23を効率良く軸圧潰させることができる。
【0061】
図6Cに示すように、フロントトラス構造体が潰れきった衝突終盤では、リヤトラス構造体をなす壁状部22の第1斜面部22bが、フロントトラス構造の抗力を受けてやや軸圧潰される。その結果、図6Cに示すように、リヤクロスメンバ34に支持されているパワーコントロールユニット13の前部とフロントサイドフレーム21の先端部との間に設定されているクラッシュストローク分の領域の圧潰により衝撃エネルギが吸収される。そのため、前面衝突時における衝撃からパワーコントロールユニット13やキャビン3及びバッテリ室10を有効に保護することができる。
【0062】
更に、フロントピラー5に溶接接合されているアッパパネル22aがサスペンションタワー7bの上面に溶接接合されているので、前面衝突時においても、サスペンションタワー7bがサスペンションの上部を強固に保持している。
【0063】
又、本実施形態によるフロントフレーム構造は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に、モータルーム2内における左右の余剰空間を利用してフロントサイドフレーム21を再構築した。
【0064】
その結果、余剰空間内で、衝撃エネルギを段階的に吸収させる構造設計が容易となり、従来のエンジンルームと同等の容積内で、パワーコントロールユニット13を損傷させることなくクラッシュストロークを確保することが可能となる。更に、クラッシュストロークが従来のレシプロエンジンを搭載する車両のエンジンルームと同等の容積で確保できるため、意匠性を損なうこともない。
【0065】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えばリヤリンフォース41を衝突終盤において破断させることで壁状部22の軸圧潰をコントロールするようにしても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…車体前部、
1a…フロントフード、
2…モータルーム、
3…キャビン、
4…トーボード、
5…フロントピラー、
6…バルクヘッド、
7…ホイールエプロン、
7a…ホイールハウス、
7b…サスペンションタワー、
8…フロアパネル、
9…サイドシル、
10…バッテリ室、
11…バッテリモジュール、
12…アッパサイドフレーム、
13…パワーコントロールユニット、
13a…アクスル軸、
21…フロントサイドフレーム、
21a…上側谷線部、
22…壁状部、
22a…アッパパネル、
22b…第1斜面部、
23…アーム状部、
23a…第2斜面部、
23b…平坦面、
24…トルクボックス、
26…クラッシュボックス、
27…バンパビーム、
31…クレードル、
32…ロアサイドフレーム、
32a…第3斜面部、
32b…平坦面、
32c…下側谷線部、
33…フロントクロスメンバ、
34…リヤクロスメンバ、
35…空間部、
36…サスペンションアーム、
41…リヤリンフォース、
41a…上面、
41b…側面部、
42…フロントリンフォース、
42a…上面、
42b…側面部、
E…立体障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C