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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118869
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】電気自動車用フロントフレーム構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20240826BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20240826BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20240826BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240826BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D21/00 A
B62D21/15 B
F16F7/00 K
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025424
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
3J066
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BA02
3D203BA17
3D203BB12
3D203BB54
3D203BC14
3D203CA37
3D203CA40
3D203CA42
3D203DB05
3D203DB07
3D203DB10
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC01
3J066BF02
3J066BG05
(57)【要約】
【課題】前面衝突時の衝撃荷重からパワーコントロールユニット、キャビン、バッテリ室を保護する。
【解決手段】電気自動車用フロントフレーム構造は、車体の前部に設けたモータルームの車幅方向両側に配設されて該車体の前後方向へ延在する左右一対のフロントサイドフレームと、各フロントサイドフレームの前端に配設した衝撃吸収部材と、左右の衝撃吸収部材を結合するバンパビームと、モータルームの下部に配設されて車幅方向両側が各フロントサイドフレームに支持されているロアフレームとを備え、モータルームの車幅方向側壁とパワーコントロールユニットの側面との間の余剰空間にフロントサイドフレームが配設され、モータルームの前部の余剰空間に枠状剛性部材が配設され、枠状剛性部材の後面にフロントサイドフレームが結合され、該枠状剛性部材の前面に衝撃吸収部材が結合されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に設けたモータルームの車幅方向両側に配設されて該車体の前後方向へ延在する左右一対のフロントサイドフレームと、
前記各フロントサイドフレームの前端に配設した衝撃吸収部材と、
左右の前記衝撃吸収部材を結合するバンパビームと、
前記モータルームの下部に配設されて車幅方向両側が前記各フロントサイドフレームに支持されているロアフレームと
を備え、前記ロアフレームの後部に、電動モータを有するパワーコントロールユニットが支持される電気自動車用フロントフレーム構造において、
前記モータルームの車幅方向側壁と前記パワーコントロールユニットの側面との間の余剰空間に前記フロントサイドフレームが配設され、
前記モータルームの前部の余剰空間に枠状剛性部材が配設され、
前記枠状剛性部材の後面に前記フロントサイドフレームが結合され、該枠状剛性部材の前面に前記衝撃吸収部材が結合されている
ことを特徴とする電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームが前記モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、
前記フロントサイドフレームの前部に、前面衝突時における応力荷重が集中される脆弱部が形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項3】
前記枠状剛性部材が左右の縦フレームと該両縦フレームの上下を結合するクロスメンバとを有し、
前記縦フレームに前記フロントサイドフレームと前記衝撃吸収部材とが結合されている
ことを特徴とする請求項1記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項4】
前記縦フレームの車幅方向の外側が前輪の前方に迫りだされている
ことを特徴とする請求項3記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項5】
前記フロントサイドフレームの上面にアッパパネルが形成され、
前記アッパパネルの後端が前記車体に設けられているフロントピラーに接合されていることを特徴とする請求項1記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用フロントフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の前部に設けたモータルームには、電動モータを含むパワーユニットが搭載されている。フルラップ前面衝突やスモールオーバラップ前面衝突時において、パワーユニットは剛体であるため、衝撃エネルギを吸収させることは殆ど不可能である。又、電気自動車のパワーユニットは、レシプロエンジンのパワーユニットに比べて体格が小さいため、その上部にインバータやDC/DCコンバータ等の高電圧部材を含むコントロールユニットを搭載する場合が多い。
【0003】
前面衝突時における衝撃により剛体であるパワーユニットを後退させてしまうとキャビンを変形させてしまうことになる。又、高電圧部材であるコントロールユニットを前面衝突時における衝撃で押し潰してしまうことも好ましくない。従って、前面衝突時は、少なくともパワーユニットとコントロールユニットとが一体化されたパワーコントロールユニットの手前で前面衝突時の衝撃エネルギを吸収することが好ましい。
【0004】
又、電気自動車は、十分な航続距離を確保するために大容量のバッテリを必要とする。多くの場合、バッテリは床下のスペース全体をバッテリ室として確保し、このバッテリ室にバッテリを収容している。従って、前面衝突時においては、キャビン及びバッテリ室の変形を最小限として有効に保護する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2012-201284号公報)には、車体の車幅方向中央に、車体前後方向へ延在する1本のメインフレームを配設し、このメインフレームにバッテリを収容する電気自動車が開示されている。更に、この文献に開示されている電気自動車では、前輪よりも前方に延在するメインフレームにはバッテリを収容せずに、前面衝突時は、この前輪よりも前方に延在する部分で衝撃エネルギを吸収させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-201284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献に開示されている電気自動車は専用のフレーム構造として当初から設計されたものである。従って、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計された電気自動車のフレーム構造に比しコスト高となる不都合がある。
【0008】
又、メインフレームの前端部分で前面衝突時の衝撃エネルギを吸収させようとした場合、メインフレームのクラッシュストローク(前面衝突時に衝突方向へ塑性変形し得る量)をパワーユニットよりも前方に設定する必要がある。しかし、メインフレームのみの変形でクラッシュストロークを確保しようとした場合、パワーユニットよりも前方へのフロントオーバハング量が大きくなり、意匠性が損なわれてしまう不都合がある。
【0009】
本発明は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計することが可能で、意匠性を損なうことなく、前面衝突時における衝撃荷重からパワーコントロールユニット、及びキャビンやバッテリ室を有効に保護することのできる電気自動車用フロントフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車体の前部に設けたモータルームの車幅方向両側に配設されて該車体の前後方向へ延在する左右一対のフロントサイドフレームと、前記各フロントサイドフレームの前端に配設した衝撃吸収部材と、左右の前記衝撃吸収部材を結合するバンパビームと、前記モータルームの下部に配設されて車幅方向両側が前記各フロントサイドフレームに支持されているロアフレームとを備え、前記ロアフレームの後部に、電動モータを有するパワーコントロールユニットが支持される電気自動車用フロントフレーム構造において、前記モータルームの車幅方向側壁と前記パワーコントロールユニットの側面との間の余剰空間に前記フロントサイドフレームが配設され、前記モータルームの前部の余剰空間に枠状剛性部材が配設され、前記枠状剛性部材の後面に前記フロントサイドフレームが結合され、該枠状剛性部材の前面に前記衝撃吸収部材が結合されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に、モータルームの車幅方向側壁とパワーコントロールユニットの側面との間の余剰空間にフロントサイドフレームを配設し、モータルームの前部の余剰空間に枠状剛性部材を配設し、この枠状剛性部材の後面にフロントサイドフレームを結合し、枠状剛性部材の前面に衝撃吸収部材を結合するようにしたので、フロントフレーム構造のフレームワークを再構築することが容易となる。余剰空間を利用してフロントサイドフレームと枠状剛性部材とを配設したので、意匠性を損なうことなく、前面衝突時における衝撃荷重からパワーコントロールユニット、及びキャビンやバッテリ室を有効に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フロントフレーム構造を示す側面図
図2】フロントフレーム構造を示す斜視図
図3】フロントフレーム構造を示す分解斜視図
図4A】フルラップ前面衝突初期から衝突中盤におけるフロントフレームの挙動を示す側面図
図4B】フルラップ前面衝突終盤のフロントフレームの挙動を示す側面図
図5A】スモールオーバラップ前面衝突初期のフロントフレームの挙動を示す側面図
図5B】スモールオーバラップ前面衝突中盤のフロントフレームの挙動を示す側面図
図5C】スモールオーバラップ前面衝突終盤のフロントフレームの挙動を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1図2に電気自動車における車体前部1のフレーム構造を示す。この車体前部1にモータルーム2が設けられている。このモータルーム2の上側開口部が開閉自在なフロントフード1aで覆われている。
【0014】
又、モータルーム2の後方にキャビン3が備えられている。このモータルーム2とキャビン3とが、車幅方向へ延在されているトーボード4を介して区画されている。尚、以下の説明において、「溶接接合」と記載されている場合、その接合方法は、特に、明記しない限りスポット溶接を代表とする溶接手段を用いた溶着によって行われるものとする。
【0015】
トーボード4の左右両側縁が対向一対のフロントピラー5に溶接接合されている。又、トーボード4の上端縁が車幅方向へ延在するバルクヘッド6に溶接接合されている。トーボード4の両側前部に、互いに対向する一対のホイールエプロン7が形成されている。トーボード4の下部がフロアパネル8の前端縁に連続されている。このフロアパネル8がキャビン3の床面に相当する。
【0016】
フロアパネル8の車幅方向の両側が一対のサイドシル9に溶接接合されている。各サイドシル9は、フロアパネル8の左右側部において、車体の前後方向にそれぞれ延在されている。このサイドシル9の前部がフロントピラー5の下端部に溶接接合されている。この左右のフロントピラー5の上部は後方へ傾斜した状態で車体の上方へ延在されて、図示しないルーフサイドレールの前端部に溶接接合されている。
【0017】
又、フロアパネル8下面のほぼ全体にバッテリ室10が設定されている。バッテリ室10は密閉型の容器である。このバッテリ室10にバッテリモジュール11が複数配設されている。各バッテリモジュール11には走行用電動モータを駆動する電気エネルギが蓄積されている。
【0018】
対向する一対のホイールエプロン7はモータルーム2の側壁を形成している。各ホイールエプロン7には、前輪Wf(図5A図5C参照)の上方を覆うアーチ状のホイールハウス7aや、前輪Wfを懸架するサスペンション(図示せず)のストラット上部を支持するサスペンションタワー7b等が形成されている。このサスペンションタワー7bは、モータルーム2の比較的後部に配設されていると共に、モータルーム2の車幅方向の内側に張り出されている。
【0019】
又、ホイールエプロン7の上端部がアッパサイドフレーム12に溶接接合されている。このアッパサイドフレーム12の後端がフロントピラー5に溶接接合されている。このアッパサイドフレーム12にサスペンションタワー7bの車幅方向外側が溶接接合されている。又、左右のフロントピラー5間がバルクヘッド6の両端部に溶接接合されている。更に、このバルクヘッド6の両端部が左右のホイールエプロン7に溶接接合されている。尚、サスペンションタワー7bはストラットタワーであっても良い。
【0020】
ところで、電気自動車のフロントフレーム構造は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両のフロントフレーム構造を基本に設計されている。電動モータや変速機を含むパワーコントロールユニットは、レシプロエンジンのパワーユニットに比べて体格が小さい。従って、電気自動車では、パワーユニット13aの上部にインバータやDC/DCコンバータ等の高電圧部材を含むコントロールユニット13bを搭載する構造が多く採用されている。尚、コントロールユニット13bはブラケット13c上に固定されており、このブラケット13cがパワーユニット13a上に固定されている。
【0021】
そのため、電気自動車では、パワーユニット13aとコントロールユニット13bとが一体化されたパワーコントロールユニット13のモータルーム2に占める体積の割合(容積占有率)が、モータルーム2と同一容積のエンジンルームに占めるレシプロエンジンを駆動源とするパワーユニットの容積占有率よりも低くなる。その結果、モータルーム2には、互いに対峙する左右側壁とパワーコントロールユニット13の側面との間に余剰空間が生じる。更に、パワーコントロールユニット13の前方にも余剰空間が生じる。
【0022】
本実施形態では、モータルーム2に生じた余剰空間を利用して、フロントフレーム構造のフレームワークを再構築している。この再構築により、フルラップ前面衝突やスモールオーバラップ前面衝突時における衝撃エネルギを、パワーコントロールユニット13の前方で効率良く吸収できるようにしている。
【0023】
先ず、フロントサイドフレーム21が再構築されている。再構築したフロントサイドフレーム21は、モータルーム2内におけるパワーコントロールユニット13の車幅方向側面とホイールエプロン7の車幅方向内面との間に形成されている余剰空間に配設されている。このフロントサイドフレーム21は車体の前後方向に延在されている。このフロントサイドフレーム21の後部が、トーボード4を補強するトーボードクロスメンバ(図示せず)の車幅方向両部に溶接接合されている。又、フロントサイドフレーム21の前面がフロント剛性フレーム35に設けられている縦フレーム35aに結合されている。尚、フロント剛性フレーム35の構成については後述する。
【0024】
このフロントサイドフレーム21は、モータルーム2の底部から上部までの高さ方向の寸法をほぼ有する壁状に形成されている。このフロントサイドフレーム21は断面が中空である。より詳細に説明すると、フロントサイドフレーム21は、車体の高さ方向において、モータルーム2の底部からアッパサイドフレーム12と同程度の高さまでの寸法を有する。フロントサイドフレーム21の後端がトーボード4のトーボートクロスメンバ(図示せず)の両端に溶接接合されている。又、フロントサイドフレーム21後部の車幅方向外側がトルクボックス24に溶接接合されている。このトルクボックス24はサイドシル9の前部車幅方向内面に溶接接合されている。
【0025】
フロントサイドフレーム21の上面にアッパパネル21cが形成されている。このアッパパネル21cは、車体前後方向の中程から後部方向へ、その幅が車幅方向外側へ次第に拡幅されている。このアッパパネル21cがサスペンションタワー7bの上面に溶接接合されている。又、このアッパパネル21cの後部がバルクヘッド6に溶接接合されている。更に、このアッパパネル21cの後端がフロントピラー5に溶接接合されている。アッパパネル21cがサスペンションタワー7bの上面に溶接接合されているので、サスペンションタワー7bの剛性が高められる。
【0026】
左右のフロントサイドフレーム21の前端下部21aは、下端が後述するロアサイドフレーム32から離間している。前端下部21aの後に空間部21bが形成されており、前端下部21aの下方に形成されている空間が空間部21bに連通している。この空間部21bは下方が開口する矩形状をなしている。又、フロントサイドフレーム21の前面が縦フレーム35aの後面に結合されている。更に、この縦フレーム35aの前面であって、フロントサイドフレーム21の前端下部21aとほぼ正対する位置、すなわち、縦フレーム35aの上下方向の中央よりも下側に、衝撃吸収部材としてのクラッシュボックス26の後端が結合されている。この左右のクラッシュボックス26の先端が、車幅方向へ延在するバンパビーム27を介して結合されている。尚、このクラッシュボックス26は、電気自動車の上下方向における重心位置に設けられている。又、クラッシュボックス26の車幅方向の幅と前端下部21aの車幅方向の幅は同じである。
【0027】
一方、モータルーム2の底面にロアフレームとしてのクレードル31が配設されている。図3に示すように、クレードル31は、左右一対のロアサイドフレーム32とリヤクロスメンバ34と後述するフロント剛性フレーム35の構成部品を兼用するフロントクロスメンバ35cとを有している。ロアサイドフレーム32、及び各クロスメンバ34,35cは、中空の断面矩形状に形成されている。
【0028】
左右のロアサイドフレーム32の間隔が左右のフロントサイドフレーム21と同じ間隔に設定されている。左右のロアサイドフレーム32の前端にフロントクロスメンバ35cが溶接接合されている。又、リヤクロスメンバ34の両端が左右のロアサイドフレーム32の後部であって車幅方向内側に溶接接合されている。
【0029】
このリヤクロスメンバ34は前後方向がやや幅広に形成されている。このリヤクロスメンバ34上に、パワーコントロールユニット13がモータマウント(図示せず)を介して支持されている。又、パワーコントロールユニット13に設けられている変速機から車幅方向両側にアクスル軸13dが延出されている。各ロアサイドフレーム32の車幅方向の幅は、フロントサイドフレーム21の車幅方向の幅と同じである。
【0030】
左右のロアサイドフレーム32上にフロントサイドフレーム21の下面が結合されており、前端下部21aの下端がフロントサイドフレーム21から離間している。又、パワーコントロールユニット13に設けられているパワーユニット13aのアクスル軸13dが空間部21bを貫通して車幅方向外側へ突出されている。又、空間部21bの上面はクラッシュボックス26の上面と高さがほぼ一致している。
【0031】
フロントサイドフレーム21の前面とクレードル31に設けたロアサイドフレーム32との前端に、枠状剛性部材としてのフロント剛性フレーム35が溶接接合されている。このフロント剛性フレーム35は、モータルーム2に配設されたパワーコントロールユニット13前方に形成された余剰空間に配設されている。フロント剛性フレーム35は、左右一対の縦フレーム35a、アッパクロスメンバ35b、及びフロントクロスメンバ35cを有している。
【0032】
フロントクロスメンバ35cは上述したクレードル31に設けたロアサイドフレーム32の前端に溶接接合されて、クレードル31の構成部品を兼用している。フロントクロスメンバ35cの両端部は、ロアサイドフレーム32よりも車幅方向外側へ車体幅を超えない範囲で突出されている。
【0033】
縦フレーム35aは、中空の直方体であり、車幅方向の幅が比較的広く形成されている。又、この縦フレーム35aの車幅方向の外側端部がフロントクロスメンバ35cの端部にほぼ一致されている。更に、縦フレーム35aの車幅方向の内側端部がフロントサイドフレーム21の内側面にほぼ一致している。フロントサイドフレーム21の端部と縦フレーム35aの車幅方向の外側端部とが前輪Wfの前方に迫りだしている。
【0034】
この縦フレーム35aはフロントサイドフレーム21に上方が車体後方へ傾斜された状態で溶接接合されている。フロントサイドフレーム21の前端下部21aは、縦フレーム35aの傾斜により、空間部21bの上端とで形成された稜部の前後幅が下端よりも狭くなっている。前面衝突時において、前端下部21aに形成されている稜部に衝撃荷重が集中し、変形のきっかけが与えられる。従って、この前端下部21aが脆弱部として機能する。
【0035】
又、左右の縦フレーム35aの上端がアッパクロスメンバ35bの両端に溶接接合されている。モータルーム2の前部は、フロント剛性フレーム35にて枠状構造が形成されている。又、アッパクロスメンバ35bに、コントロールユニット13bを固定するブラケット13cの前部が固定されている。
【0036】
又、左右のロアサイドフレーム32の上面に、左右のフロントサイドフレーム21の底面が、ボルト等の締結部材を介して結合されている。更に、この左右のロアサイドフレーム32の後端部であって車幅方向外側がトルクボックス24にボルト等の締結部材を介して結合されている。更に、左右のロアサイドフレーム32の後端がフロアクロスメンバ(図示せず)に結合されている。このフロアクロスメンバはトーボード4に溶接接合されている。
【0037】
図4A図4Bに示すように、パワーコントロールユニット13の前部にフロント剛性フレーム35が対峙されている。このフロント剛性フレーム35は剛体である。そのため、前面衝突時にフロント剛性フレーム35が受ける衝撃荷重は、左右の縦フレーム35aが面圧として受ける。そして、この縦フレーム35a全体でフロントサイドフレーム21を押圧し、前端下部21aを屈曲させ、空間部21bを変形させる。フロントサイドフレーム21は壁状に形成されているため、フロントサイドフレーム21の後部は圧潰され難い。このフロントサイドフレーム21の後部にて、前面衝突時の衝撃荷重からパワーコントロールユニット13を保護することができる。
【0038】
又、ロアサイドフレーム32の車幅方向の外側にサスペンションアーム(ロアアーム)36が、上下方向へ揺動自在にされた状態で支持されている。このサスペンションアーム36は、アクスル軸13dに連設する前輪Wfをアッパアーム(図示せず)と協働で懸架する。尚、クラッシュボックス26、フロントサイドフレーム21、ロアサイドフレーム32の車幅方向の幅は同じである。
【0039】
次に、このようなフロントフレーム構造を備える電気自動車が立体障害物Eaにフルラップ前面衝突した際の作用について、図4A図4Bを参照して説明する。
【0040】
本実施形態によるフロントフレーム構造では、モータルーム2内における左右の余剰空間に、再構築したフロントサイドフレーム21が配設されている。更に、モータルーム2前部の余剰空間にフロント剛性フレーム35が配設されている。フロントサイドフレーム21は、下面がクレードル31のロアサイドフレーム32に結合され、前面がフロント剛性フレーム35の縦フレーム35aに結合されている。
【0041】
走行中の電気自動車の前面が立体障害物Eaにフルラップ前面衝突すると、そのときの衝撃荷重が、車幅方向へ横設されているバンパビーム27を介して左右のクラッシュボックス26に伝達される。
【0042】
すると、衝突初期から中盤にかけては、図4Aに示すように、バンパビーム27とクラッシュボックス26とがフロント剛性フレーム35からの反力を受けて、バンパビーム27は圧縮変形し、クラッシュボックス26が軸圧潰されて衝撃エネルギが吸収される。
【0043】
そして、クラッシュボックス26が潰れきった後の衝突終盤においては、衝撃荷重が縦フレーム35aに伝達される。クラッシュボックス26は縦フレーム35aの上下方向の中央よりも下側に結合されている。又、縦フレーム35aは上方が車体後方へ傾斜されている。
【0044】
そのため、クラッシュボックス26からの衝撃荷重を受けた縦フレーム35aは、その下部側がクレードル31のフロントクロスメンバ35cを押圧する。縦フレーム35aからの衝突荷重受けたフロントクロスメンバ35cは、空間部21bに露呈している部位が座屈する。縦フレーム35aからの衝突荷重受けたフロントクロスメンバ35cは、空間部21bに露呈している部位が座屈する。
【0045】
又、クラッシュボックス26に対峙するフロントサイドフレーム21の前端下部21aは、空間部21bの上部とで形成された稜部に荷重が集中されて変形のきっかけが与えられる。すると、前端下部21aは下部側が後方へ押圧されて変形する。その後、縦フレーム35aは、フロントサイドフレーム21の前面を全体で押圧して、空間部21bを変形させて、最後の衝撃荷重エネルギを吸収する。フロントサイドフレーム21は、前部に設けた空間部21bの変形により衝撃エネルギを吸収している。フロントサイドフレーム21の後部は壁状に形成されているため、衝撃荷重を受けても圧潰され難い。
【0046】
その結果、このフロントサイドフレーム21の後部にて、パワーコントロールユニット13を衝突時の衝撃荷重から保護することができる。更に、フロントサイドフレーム21の前部に設けた空間部21bの変形により最後の衝撃エネルギが吸収されるため、キャビン3及びバッテリ室10を衝突時の衝撃から有効に保護することができる。
【0047】
次に、電気自動車が電柱等の柱状障害物Ebにスモールオーバラップ前面衝突した際の作用について、図5A図5Cを参照して説明する。尚、以下においては、車体前部の左端部が衝突した場合を例示して説明する。
【0048】
クレードル31のフロントクロスメンバ35cの両端部は車幅方向へ車体幅を超えない範囲で突出されている。又、このフロントクロスメンバ35cの端部にフロント剛性フレーム35の縦フレーム35aが接合されている。この縦フレーム35aは比較的広い幅で形成されている。
【0049】
電気自動車に設けられているバンパビーム27の左端部が柱状障害物Ebにスモールオーバラップ前面衝突すると、衝突初期においては、図5Aに示すように、先ず、バンパビーム27の端部が柱状障害物Ebから受ける反力で曲げられる。そして、電気自動車が、自車の推力で更に前進すると、柱状障害物Ebにフロントクロスメンバ35cの端部とフロント剛性フレーム35の縦フレーム35aの端部とが衝突する。
【0050】
縦フレーム35a及びフロントクロスメンバ35cは剛体である。そのため、衝突中盤では、図5Bに矢印で示すように、電気自動車の縦フレーム35a及びフロントクロスメンバ35cが受けた柱状障害物Ebからの衝撃荷重は、フロントクロスメンバ35c及びアッパクロスメンバ35bを伝搬して横方向へ分散される。
【0051】
更に、縦フレーム35aは比較的幅が広く、車幅方向の外側端部が前輪Wfの前方に迫りだしている。そのため、縦フレーム35aの端部が柱状障害物Ebに衝突すると、図5Cに矢印で示すように、車体に右回転のヨーイングが発生する。このヨーイングにより衝突エネルギが運動エネルギに変換されて、減衰される。これにより、衝突した側の前輪Wfの脱落が防止されるばかりでなく、乗員を衝撃荷重から保護することができる。
【0052】
このように、本実施形態によるフロントフレーム構造は、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に、モータルーム2内における左右の余剰空間にフロントサイドフレーム21を再構築した。
【0053】
その結果、余剰空間内で、衝撃エネルギを効率良く吸収させる構造設計が容易となり、従来のエンジンルームと同等の容積内で、パワーコントロールユニット13を保護することができる。又、従来のレシプロエンジンを搭載する車両のエンジンルームと同等の容積で確保できるため、意匠性を損なうこともない。
【0054】
又、モータルーム2の前部にフロント剛性フレーム35を配設し、この下端端をクレードル31のフロントクロスメンバ35cに接合して枠状構造とした。更に、縦フレーム35aの車幅方向外側を前輪Wfの前方に迫りださせた。これにより、スモールオーバラップ衝突時の衝撃エネルギを前輪Wfよりも前で効率良く吸収することができる。
【0055】
又、スモールオーバラップ衝突時の衝撃荷重を受けた車体にヨーイングを発生させることで、衝突エネルギを運動エネルギに変換して減衰せることができる。
【0056】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えばフルラップ前面衝突とスモールオーバラップ前面衝突との間にあるオフセット前面衝突に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…車体前部
1a…フロントフード、
2…モータルーム、
3…キャビン、
4…トーボード、
5…フロントピラー、
6…バルクヘッド、
7…ホイールエプロン、
7a…ホイールハウス、
7b…サスペンションタワー、
8…フロアパネル、
9…サイドシル、
10…バッテリ室、
11…バッテリモジュール、
12…アッパサイドフレーム、
13…パワーコントロールユニット、
13a…パワーユニット、
13b…コントロールユニット、
13c…ブラケット、
13d…アクスル軸、
21…フロントサイドフレーム、
21a…前端下部、
21b…空間部、
21c…アッパパネル、
24…トルクボックス、
26…クラッシュボックス、
27…バンパビーム、
31…クレードル、
32…ロアサイドフレーム、
34…リヤクロスメンバ、
35…フロント剛性フレーム、
35a…縦フレーム、
35b…アッパクロスメンバ、
35c…フロントクロスメンバ、
36…サスペンションアーム、
Ea…立体障害物、
Eb…柱状障害物、
Wf…前輪
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C