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  • 特開-リザバーコンピューティング装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118904
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】リザバーコンピューティング装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/044 20230101AFI20240826BHJP
   G06N 3/067 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G06N3/044 100
G06N3/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025478
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
(72)【発明者】
【氏名】管 貴志
(57)【要約】
【課題】超短光パルス光源を使用することなく光領域でマスキング処理を行う。
【解決手段】リザバーコンピューティング装置は、複数のキャリア光を生成する生成手段と、入力信号と正弦波信号とを合成した合成信号で前記複数のキャリア光を含む光を変調することで変調光を生成する変調手段と、分散性媒質と、分散性媒質の下流側に設けられる、リザバー層を光学的に実現した光学部材と、前記変調手段が前記変調光を前記分散性媒質に入力することで前記光学部材から出力される出力光を処理する処理手段と、を備え、前記処理手段は、前記出力光をコヒーレント受信して電気信号に変換する受信手段と、前記電気信号に含まれる前記正弦波信号に対応するパイロット信号に基づき、前記電気信号に含まれる前記入力信号に対応する出力信号を補償する補償手段と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のキャリア光を生成する生成手段と、
入力信号と正弦波信号とを合成した合成信号で前記複数のキャリア光を含む光を変調することで変調光を生成する変調手段と、
分散性媒質と、
分散性媒質の下流側に設けられる、リザバー層を光学的に実現した光学部材と、
前記変調手段が前記変調光を前記分散性媒質に入力することで前記光学部材から出力される出力光を処理する処理手段と、
を備え、
前記処理手段は、
前記出力光をコヒーレント受信して電気信号に変換する受信手段と、
前記電気信号に含まれる前記正弦波信号に対応するパイロット信号に基づき、前記電気信号に含まれる前記入力信号に対応する出力信号を補償する補償手段と、
を有する、リザバーコンピューティング装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記出力光を周波数帯域に応じて複数の出力光に分離する周波数分離手段をさらに備え、
前記受信手段及び前記補償手段は、前記複数の出力光それぞれに対して設けられる、請求項1に記載のリザバーコンピューティング装置。
【請求項3】
前記補償手段は、前記電気信号に含まれる前記複数のキャリア光の内の第1キャリア光に対応する前記パイロット信号に基づき、前記電気信号に含まれる前記第1キャリア光に対応する前記出力信号を補償する、請求項1に記載のリザバーコンピューティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リザバーコンピューティング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回帰型ニューラルネットワーク(RNN)は、入力層と、リカレント層(リザバー層)と、出力層と、で構成される。一般的に、RNNの学習においては、入力層、リカレント層及び出力層それぞれの重み(係数)を更新する。リザバーコンピューティングとは、RNNの一種であるが、学習の際には出力層の重みのみを更新し、入力層及びリカレント層の重みを更新しないRNNである。リザバーコンピューティングにおいて、入力層及びリカレント層の重みは、例えば、ランダムに生成した固定値に設定される。出力層の重みしか更新しない代わりに、リザバーコンピューティングにおいては、リカレント層におけるニューロン数を膨大にする。
【0003】
このリザバーコンピューティングのリカレント層(リザバー層)をハードウェア的に実現したものは、"物理リザバーコンピューティング"と呼ばれる。非特許文献1~非特許文献3は、物理リザバーコンピューティングを開示している。物理リザバーコンピューティングにおいては、リザバー層のランダムな重みを表現するために、入力データに対してマスキング処理を行ってリザバー層に入力する。非特許文献1及び2においては、マスキング処理をデジタル領域で実装している。一方、非特許文献3は、マスキング処理を光領域で実装する構成を開示している。マスキング処理を光領域で実装することで、デジタル領域で実装するよりも高速にマスキング処理を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appeltant,L.,et.al.,Constructing optimized binary masks for reservoir computing with delay systems.Sci Rep 4,3629,2014年
【非特許文献2】Quentin Vinckier,et.al.,"High-performance photonic reservoir computer based on a coherently driven passive cavity",Optica 2,438-446,2015年
【非特許文献3】Nakajima,M.,et.al.,"Scalable reservoir computing on coherent linear photonic processor"Commun Phys4,20,2021年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献3では、超短光パルス光源といった、超高速な光源が必要となり、構成が複雑になる。
【0006】
本開示は、超短光パルス光源を使用することなく光領域でマスキング処理を行う技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によると、リザバーコンピューティング装置は、複数のキャリア光を生成する生成手段と、入力信号と正弦波信号とを合成した合成信号で前記複数のキャリア光を含む光を変調することで変調光を生成する変調手段と、分散性媒質と、分散性媒質の下流側に設けられる、リザバー層を光学的に実現した光学部材と、前記変調手段が前記変調光を前記分散性媒質に入力することで前記光学部材から出力される出力光を処理する処理手段と、を備え、前記処理手段は、前記出力光をコヒーレント受信して電気信号に変換する受信手段と、前記電気信号に含まれる前記正弦波信号に対応するパイロット信号に基づき、前記電気信号に含まれる前記入力信号に対応する出力信号を補償する補償手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、超短光パルス光源を使用することなく光領域でマスキング処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態による、リザバーコンピューティング装置の構成図。
図2】一実施形態による、リザバーコンピューティング装置の内部信号の説明図。
図3】一実施形態による、処理部の構成図。
図4】一実施形態による、処理部の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうちの二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1は、本実施形態によるリザバーコンピューティング装置の構成図である。多波長光源1は、異なる複数の周波数の連続光(キャリア光)を生成して出力する。図2(A)は、多波長光源1が出力する光の周波数成分を示している。図2(A)において、参照符号90は、キャリア光である。各キャリア光90は、多波長光源1に含まれる独立した光源それぞれが個別に生成する構成であって良い。また、複数のキャリア光90の幾つかについては、1つの光源により位相が同期した状態で生成する構成であっても良い。複数のキャリア光90の周波数間隔は、例えば、テラヘルツ(THz)のオーダーとされ得る。例えば、複数のキャリア光90の総てがモード同期条件を満たしていると、複数のキャリア光を含む光の時間波形は、超短パルス状となる。しかしながら、上記の通り、本実施形態においては、モード同期条件を満たす必要はない。多波長光源1が生成した複数のキャリア光90は、変調器2に入力される。
【0012】
合成部6には、リザバーコンピューティング装置に入力するデータを示す入力信号が入力される。発振器7は、所定周波数の正弦波信号を生成して合成部6に出力する。正弦波信号の周波数は、入力信号の帯域外とする。合成部6は、入力信号と正弦波信号とを合成した合成信号を変調器2に出力する。
【0013】
変調器2は、多波長光源1からの複数のキャリア光90を、合成信号で一括して変調する。図2(B)は、変調器2が出力する変調光の周波数成分を示している。参照符号80は、入力信号に対応する成分(入力信号成分80)であり、参照符号81は、正弦波信号に対応する成分(正弦波信号成分81)である。入力信号成分80と正弦波信号成分81のセット82は、各キャリア光90について生成される。つまり、変調光は、複数のキャリア光90それぞれに対応する入力信号成分80及び正弦波信号成分81のセット82を含む。
【0014】
変調器2からの出力光は、分散性媒質3に入力される。分散性媒質3は、変調器2からの変調光に対し、周波数に応じた分散を与える。これにより、変調光の各成分に対して、分散性媒質3が与える分散に応じたマスキングが行われる。本実施形態では、周波数間隔の広い複数のキャリア光90を使用しているため、高速なマスキングが分散性媒質3で行われる。分散性媒質3の下流側にはリザバー部4が設けられる。リザバー部4は、リザバー層を光学的に実現する光学的回路(光学部材)を含む。一例として、リザバー部4は、遅延ループ構成を有する。リザバー部4において、ニューロン間の結合に対応する処理が行われる。分散性媒質3に入力された変調光は、分散性媒質3及びリザバー部4を通過し、出力光として処理部5に入力される。
【0015】
図3は、処理部5の構成図である。処理部5のコヒーレント受信器51は、局所光源を有し、リザバー部4からの出力光をコヒーレント受信して電気信号を生成し、生成した電気信号を補償部52に出力する。電気信号は、図2(B)の入力信号成分80に対応する出力信号成分及び正弦波信号成分81に対応するパイロット信号成分のセットを含む。なお、出力信号成分及びパイロット信号成分のセットは、それぞれ、キャリア光90に対応する。
【0016】
本実施形態において、複数のキャリア光90はモード同期していないため、相対的な位相雑音等を有する。このため、分散性媒質3を通過した出力光も位相雑音等に応じて変動する。これは、分散性媒質3におけるマスキング処理の内容が時間の経過と共に変化することに対応する。マスキング処理の内容は時間の経過によらず一定である必要があるため、位相雑音等による影響を補償してマスキング処理の内容を一定にする必要がある。さらに、補償部52の局所光源も位相雑音等を含む。つまり、出力信号成分は、キャリア光90の位相雑音等による影響に加えて局所光源の位相雑音等の影響も受けている。このため、補償部52は、パイロット信号成分に基づき出力信号成分を補償し、出力信号成分に含まれる位相雑音等の影響を補償する。具体的には、補償部52は、パイロット信号成分の複素共役成分を、対応する出力信号成分、つまり、対応するキャリア光90が同じである出力信号成分に乗ずる。これにより、出力信号成分に含まれる位相雑音等の影響を補償することができる。補償部52で補償された各出力信号成分は、マスキング処理の内容が時間の経過と共に変化することも補償されている。
【0017】
なお、例えば、複数のキャリア光90の内の一部の複数の第1キャリア光がモード同期条件を満たす様に生成されている場合、複数の第1キャリア光の内の1つの第1キャリア光に対応するパイロット信号成分に基づき、複数の第1キャリア光それぞれに対応する出力信号成分を一括して補償する構成とすることができる。
【0018】
補償部52で補償された各出力信号成分は後処理部53に入力される。後処理部53は、リザバーコンピューティング装置のアプリケーションに応じた処理を各出力信号成分に対して行う。
【0019】
なお、処理部5を図4の様に構成することもできる。図4の周波数分離部54は、リザバー部4からの出力光を周波数帯域に応じて、第1出力光から第3出力光に分離する。なお、分離数は3に限定されず、2以上の任意の値とすることができる。第1出力光から第3出力光は、それぞれ、出力信号成分及びパイロット信号成分のセットを1つ以上含む。周波数分離部54は、第1出力光を第1パスに出力し、第2出力光を第2パスに出力し、第3出力光を第3パスに出力する。第1パス~第3パスにはそれぞれ、コヒーレント受信器51及び補償部52が設けられる。リザバー部4からの出力光を周波数帯域に応じて分離することで、補償部52が処理すべき帯域幅を狭くすることができる。
【0020】
以上、本実施形態によると、超短光パルス光源を使用することなく光領域でマスキング処理を行うことができる。
【0021】
以上の構成により、超短光パルス光源を使用することなく光領域でマスキング処理を行うことが可能になる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1:多波長光源、2:変調器、3:分散性媒質、4:リザバー部、5:処理部、51:コヒーレント受信器、52:補償部
図1
図2
図3
図4