(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118915
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】周波数制御支援装置、周波数制御装置および無線機
(51)【国際特許分類】
H03L 7/00 20060101AFI20240826BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H03L7/00 230
H04B1/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025499
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】北畑 雅規
(72)【発明者】
【氏名】小山 祥太
(72)【発明者】
【氏名】島本 聡太
【テーマコード(参考)】
5J106
5K061
【Fターム(参考)】
5J106AA03
5J106BB01
5J106CC15
5J106DD17
5J106DD44
5J106EE01
5J106HH08
5J106KK03
5J106QQ09
5K061BB06
5K061CC16
5K061CC53
5K061CD04
(57)【要約】
【課題】PPS信号に基づく基準信号の周波数の補正に要する時間を短縮する。
【解決手段】周波数制御支援装置(102)は、GPS信号に基づいて生成されるPPS信号の1周期内に基準発振器(7)が発生する基準信号のパルス数をカウントするカウンタ(8)と、1周期の所定数倍の期間においてカウンタ(8)によってカウントされたパルス数の総数から、1周期あたりに発生するパルス数の平均値を算出する平均化回路(9)と、基準信号が有する基準周波数の規定値と平均値との偏差を検出する偏差検出回路(10)と、偏差が目標値を下回る毎に、目標値を現在値より減少させ、平均化回路(9)が平均値を算出する期間を規定する所定数を現在値より増加させる制御ユニット(11)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS信号に基づいて生成されるPPS信号の1周期内に発振器が発生する基準信号のパルス数をカウントするカウント部と、
前記1周期の所定数倍の期間において前記カウント部によりカウントされた前記パルス数の総数から、前記1周期あたりに発生する前記パルス数の平均値を算出する平均化部と、
前記基準信号が有する基準周波数の規定値と前記平均値との偏差を検出する検出部と、
前記偏差が目標値を下回る毎に、前記目標値を現在値より減少させ、前記平均化部が前記平均値を算出する期間を規定する前記所定数を現在値より増加させる変更部と、を備える、周波数制御支援装置。
【請求項2】
前記目標値の取り得る値は、予め定められた異なる所定個あり、
前記目標値の初期値は、前記所定個のうちの最大値であり、
前記所定数の取り得る値は、前記目標値毎に定められており、
前記変更部は、前記偏差が前記目標値を下回る毎に、前記目標値を、前記所定個のうち現在値の次に小さい値に変更し、前記所定数を、変更後の前記目標値に応じた値に変更する、請求項1に記載の周波数制御支援装置。
【請求項3】
前記基準信号を発生する発振器と、
請求項1または2に記載の周波数制御支援装置により検出される前記偏差が小さくなるように前記基準周波数を制御する制御部と、を備える、周波数制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の周波数制御装置を備える、無線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS(Global Positioning System)から得られるPPS(Pulse Per Second)信号を利用して周波数を制御するための支援を行う周波数制御支援装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
無線機においては、規定の周波数を有する基準信号に基づいて送信および受信の処理が行われる。基準信号の周波数は、基準信号を発生する発振器の経年劣化等により、規定値から誤差が生じる。例えば、特許文献1には、GPS信号から得られるPPS信号に基づいて基準信号を構成することが記載されている。
【0003】
本来、PPS信号は、UTC(Coordinated Universal Time)に同期した1秒周期の正確な信号である。しかしながら、PPS信号は、GPS信号を受信してPPS信号を発生するGPS受信機の精度、マルチパスのようなGPS信号の受信環境の悪化などに応じた誤差が生じると、正確な1秒周期の信号となっていないことがある。このような誤差を有するPPS信号を用いると、基準信号の周波数を正しく補正することができない。
【0004】
このような誤差を含むPPS信号を用いて基準信号の周波数を補正するには、例えば、PPS信号をある程度の時間範囲で平均して誤差を平準化することが行われる。具体的には、無線機の発振器から出力される基準信号のパルスを、PPS信号の1周期でカウントし、そのカウント値の複数周期分の平均値と、周波数の規定値との偏差をなくすように周波数を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、無線機において10GHzというような高い周波数を取り扱う場合、基準信号の周波数の誤差が大きくなると、取り扱う周波数は、高くなるほど当該誤差によるずれが大きくなる。このため、周波数の補正精度を、誤差が1ppb~3ppb程度に収まるように高める必要がある。
【0007】
一方、PPS信号の理論誤差Ef[ppb]は、実測により、Ef=150/Tgの式により表されることが判明した。当該式におけるTgは、ゲートタイム(秒)であり、カウンタがPPS信号の1周期を基本単位として基準信号のパルスをカウントするカウント時間である。また、上式における「150」という値は実測により得られた値である。
【0008】
このため、理論誤差Efが1ppbとなるには、ゲートタイムが少なくとも150秒であることが必要となる。また、実際には、このようなゲートタイムで得られた上記のカウント値の平均値に基づいて周波数を補正しても、誤差が実用上で問題のない範囲に収まるように周波数を補正できないことが多い。具体的には、目標値との偏差がなくなるように周波数を補正するが、機器毎の制御精度のばらつきや温度状態による誤差も含まれるので、1回の補正により目標値に周波数を合せることが困難である。このため、所望の誤差となるまで150秒のゲートタイムによる上記のような周波数の補正と誤差測定とを含むフィードバック制御を複数回繰り返す必要があることから、このような処理に長時間を要するという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、PPS信号に基づく基準信号の周波数の補正に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る周波数制御支援装置は、GPS信号に基づいて生成されるPPS信号の1周期内に発振器が発生する基準信号のパルス数をカウントするカウント部と、前記1周期の所定数倍の期間において前記カウント部によってカウントされた前記パルス数の総数から、前記1周期あたりに発生する前記パルス数の平均値を算出する平均化部と、前記基準信号が有する基準周波数の規定値と前記平均値との偏差を検出する検出部と、前記偏差が目標値を下回る毎に、前記目標値を現在値より減少させ、前記平均化部が前記平均値を算出する期間を規定する前記所定数を現在値より増加させる変更部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、PPS信号に基づく基準信号の周波数の補正に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線機のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】上記無線機におけるGPS受信機から出力されるPPS信号と上記無線機における基準発振器から出力される基準信号との関係を示す波形図である。
【
図3】上記無線機における周波数制御支援装置の要部のシステム構成を示すブロック図である。
【
図4】上記無線機において上記基準信号の基準周波数を補正する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態の上記無線機において上記基準周波数が所定値に補正されるまでの変化と、比較例の無線機において上記基準周波数が所定値に補正されるまでの変化とを併せて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0014】
〈無線機のハードウェア構成〉
図1は、本実施形態に係る無線機1のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2は、無線機1におけるGPS(Global Positioning System)受信機6から出力されるPPS信号と無線機1における基準発振器7から出力される基準信号との関係を示す波形図である。
【0015】
無線機1は、例えば、アマチュア無線で音声信号の送受信に使用できる周波数帯の周波数が設定可能であり、アマチュア無線機として使用することができる。
図1に示すように、無線機1は、送信部2と、受信部3と、送受信切替回路4と、アンテナ5と、GPS受信機6と、周波数制御装置101とを備える。
【0016】
送信部2は、入力された音声を送信信号に変換する送信処理を行う。送信部2は、送信処理を行うために、マイク21と、A/D変換器22と、変調部23と、D/A変換器24と、BPF(Band Pass Filter)25と、ALC(Automatic Level Control)回路26と、電力増幅器27とを有している。
図1において、マイク21はMICと示され、A/D変換器22はA/Dと示され、D/A変換器24はD/Aと示され、ALC回路26はALCと示され、電力増幅器27はPAと示される。
【0017】
送信部2において、マイク21から出力される音声信号は、A/D変換器22によってデジタル信号に変換された後、変調部23によって所定の変調方式で変調信号に変調される。変調信号は、D/A変換器24によってアナログ信号に変換された後、BPF25によって所定の帯域のみが通過する。BPF25を経た変調信号は、ALC回路26によって、電力増幅器27への入力レベルが制限される。ALC回路26を経た変調信号の電力は、電力増幅器27によって通信に必要な大きさの電力に増幅される。
【0018】
送信部2から出力された送信信号は、送受信切替回路4を介してアンテナ5に出力される。アンテナ5は、入力された送信信号を電波として放射する。一方、アンテナ5は、電波として受信した受信信号を送受信切替回路4に出力する。この受信信号は、送受信切替回路4を介して受信部3に入力される。
【0019】
送受信切替回路4は、送信部2およびアンテナ5の接続と、受信部3およびアンテナ5との接続を切り替える回路である。送受信切替回路4は、半導体スイッチ、リレーなどを含んで構成されている。
【0020】
受信部3は、受信された受信信号を音声に変換する受信処理を行う。受信部3は、受信処理を行うために、BPF(Band Pass Filter)31と、A/D変換器32と、復調部33と、D/A変換器34と、スピーカ35とを有している。
図1において、A/D変換器32はA/Dと示され、D/A変換器34はD/Aと示され、スピーカ35はSPと示される。
【0021】
受信部3において、入力された受信信号は、BPF31によって帯域が制限されて、A/D変換器32によってデジタル信号に変換された後、復調部33によって所定の復調方式で音声信号に復調される。復調部33からの音声信号は、D/A変換器34によってアナログ信号に変換され、スピーカ35に入力される。スピーカ35からは、入力信号に応じた音声が出力される。
【0022】
GPS受信機6は、複数の人工衛星から発されて図示しないGPSアンテナに入力される測距電波(GPS信号)に基づいて、上述したUTCに同期したPPS(Pulse Per Second)信号を生成して出力する。PPS信号は、1秒間隔に1つのパルスを有する1秒周期の、いわゆる1秒信号であるが、上述したように、GPS受信機6の精度、マルチパスのようなGPS信号の受信環境の悪化などに応じた誤差を含んでいる。
【0023】
続いて、周波数制御装置101について説明する。周波数制御装置101は、基準発振器7が発生する基準信号の周波数を制御する装置である。周波数制御装置101は、基準発振器7(発振器)と、周波数制御支援装置102とを備える。
【0024】
基準発振器7は、基準周波数を有する基準信号を発生して、無線機1における所要各部へ出力する発振器である。基準信号は、供給先に応じた周波数にまで分周されて供給先に供給される。基準周波数は、本来、規定値であるが、温度などの要因によって規定値に対する誤差を有している。基準発振器7は、偏差検出回路10から出力される後述の偏差を電圧値として、当該偏差が小さくなるように基準周波数を制御する周波数制御部71(制御部)を有している。このような基準発振器7は、例えば、OCXO(Oven Controlled Crystal Oscillator)やVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)によって構成されている。
【0025】
周波数制御支援装置102は、周波数制御装置101による周波数の制御を支援する装置である。周波数制御支援装置102は、カウンタ8(カウント部)と、平均化回路9(平均化部)と、偏差検出回路10(検出部)と、制御ユニット11とを備える。
【0026】
カウンタ8は、
図2に示すように、PPS信号の1周期内に基準発振器7が発生する基準信号のパルスをカウントする。具体的には、カウンタ8は、PPS信号の立ち上がりエッジに同期してパルスのカウントを開始し、PPS信号の次の立ち上がりエッジに同期してパルスのカウントを停止して、パルスのカウント値(パルス数)を出力する。カウンタ8は、パルスを複数回連続してカウントする場合、PPS信号の立ち上がりエッジに同期してパルスのカウントを停止するとともに、次回のカウントを開始する。あるいは、カウンタ8は、PPS信号の立ち下がりエッジに同期してパルスのカウントを開始および停止してもよい。
【0027】
平均化回路9は、PPS信号の1周期の所定数N倍(Nは自然数)の期間においてカウンタ8によってカウントされたパルス数の総数から、1周期あたりに発生するパルス数の平均値を算出する。平均値は、PPS信号の1周期、すなわち1秒当たりのパルス数として出力されるものとすることから、周波数として扱うことができる。上記の所定数は、制御ユニット11によって変更される。
【0028】
偏差検出回路10は、基準周波数の規定値と、平均化回路9によって出力される平均値との偏差を検出する。具体的には、偏差検出回路10は、規定値から平均値を減算することにより、周波数の偏差を算出して、当該偏差を電圧として出力する。偏差が正の値である場合、平均値が規定値よりも小さい。一方、偏差が負の値である場合、平均値が規定値よりも大きい。基準発振器7の周波数制御部71は、正の偏差に対して基準周波数を上昇させるように制御し、負の偏差に対して基準周波数を低下させるように制御する。
【0029】
上記のように、無線機1においては、基準周波数を規定値に近づけるように制御するために、PPS信号を利用する。基準周波数およびPPS信号の双方は誤差を含む。PPS信号は、1秒のパルス長で見る場合のような短期的な誤差は大きいが、所定数のパルスで平均する場合のような長期的な誤差は小さくなる。したがって、PPS信号のパルス数の平均値を用いて検出された偏差に基づいて基準周波数を補正することにより、基準周波数を精度よく規定値に近付けることができる。
【0030】
制御ユニット11は、図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、メインメモリ、記憶メモリ等を有しており、無線機1における制御対象を制御する。メインメモリは、演算等の各種の作業を行うために用いられるメモリであり、例えばRAM(Random Access Memory)によって構成されている。記憶メモリは、演算結果、ファームウェア、各種データ等の記憶すべきデータを記憶するメモリであり、読み書き可能な不揮発性のメモリ、例えば、EEPROM(登録商標)(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)によって構成されている。
【0031】
CPUは、上記のファームウェアにしたがって無線機1における制御対象の制御を行う。具体的には、CPUは、無線機1が備えるPTTスイッチ(図示せず)からの操作信号に基づいて送受信切替回路4の切り替え動作を制御すること、無線機1が備える表示部(図示せず)の表示を制御することなどを行う。また、CPUは、カウンタ8が基準信号のパルスをカウントする上述した所定数Nを偏差検出回路10によって検出された偏差に基づいて変更する処理を行う。この処理については、後に詳しく説明する。
【0032】
〈無線機のシステム構成〉
図3は、周波数制御装置101の要部のシステム構成を示すブロック図である。
【0033】
図3に示すように、制御ユニット11は、変更部12(変更部)と、記憶部13とを有している。
【0034】
変更部12は、偏差検出回路10によって検出された偏差が目標値Gを下回る毎に、目標値Gを現在値より減少させるように変更する。また、変更部12は、平均化回路9が平均値を算出する期間を規定する所定数Nを現在値より増加させるように変更する。また、変更部12は、偏差が、現在の目標値Gを下回るごとに所定数Nを増加させるように変更する。
【0035】
目標値Gの取り得る値は、予め定められた異なる所定個あり、目標値Gの初期値は、前記所定個のうちの最大値である。所定数Nの取り得る値は、目標値G毎に定められている。具体的には、所定数Nは、目標値Gが大きいほど小さい値となるように定められている。変更部12は、偏差が目標値Gを下回る毎に、目標値Gを、所定個のうち現在値の次に小さい値に変更し、所定数Nを、変更後の目標値Gに応じた値に変更する。
【0036】
一例として3段階で目標値Gおよび所定数Nを変更する場合について説明する。この場合、目標値Gの取り得る値は、第1目標値、第2目標値、および第3目標値の3個である。当該3個の中で、第1目標値は最大値であり、第2目標値は第1目標値の次に小さい値であり、第3目標値は最小値であるものとする。この場合において、変更部12は、目標値Gの初期値として、第1目標値を設定する。その後、変更部12は、偏差が第1目標値を下回ると、目標値Gを第1目標値の次に小さい第2目標値に変更する。その後、変更部12は、偏差が第2目標値を下回ると、目標値Gを第2目標値の次に小さい第3目標値に変更する。
【0037】
また、所定数Nの取り得る値は、第1所定数、第2所定数、および第3所定数の3個であり、それぞれ、第1目標値、第2目標値、および第3目標値に対応付けられている。当該3個の中で、第1所定数は最小値であり、第2所定数は第1所定数の次に大きい値であり、第3所定数は最大値である。変更部12は、目標値Gを第1目標値に設定したとき、所定数Nを第1所定数に設定する。また、変更部12は、目標値Gを第2目標値に変更したとき、所定数Nを第2所定数に変更する。また、変更部12は、目標値Gを第3目標値に変更したとき、所定数Nを第3所定数に変更する。
【0038】
変更部12は、例えば、無線機1の電源がオンする初期状態に第1目標値および第1所定数を設定し、偏差が第1目標値を下回ると第2目標値および第2所定数を設定し、この状態から偏差が第2目標値を下回ると第3目標値および第3所定数を設定する。
【0039】
なお、目標値Gおよび所定数Nを変更する段階が3段階であることに限定されないことは勿論である。
【0040】
記憶部13は、目標値Gの取り得る値(例えば、上記の第1目標値、第2目標値および第3目標値)と、所定数Nの取り得る値(例えば、上述の第1所定数、第2所定数および第3所定数)とを記憶している。記憶部13は、例えば、上述したEEPROM(登録商標)によって構成される。
【0041】
〈制御ユニットによる周波数制御処理〉
図4は、無線機1において基準信号の基準周波数を補正する処理の手順を示すフローチャートである。以降の説明では、上述した3段階で目標値および所定数を変更する場合の周波数制御処理について説明する。
【0042】
まず、周波数の誤差について説明する。無線機1は、10GHzというような高い周波数を取り扱う。10GHzに対する1ppbの誤差は10Hzとなる。アマチュア無線のFM(Frequency Modulation)モードでは、PPS信号の揺らぎのために周波数に10Hz程度の誤差が生じても影響は少ない。また、アマチュア無線のSSB(Single Side Band)モードでは、周波数の誤差がそのまま音の高低に反映されるが、10Hz程度の誤差による影響は少ない。しかしながら、誤差が100Hz程度に大きくなると、影響は大きくなる。例えば、アマチュア無線のFT8通信では、周波数が100Hzもずれると全く異なるチャンネルの信号を受信してしまう。このため、周波数の誤差は、少なくとも2,3ppbの範囲内、望ましくは1ppbの範囲内に収める必要がある。
【0043】
図4に示すように、まず、無線機1の電源がオンすることにより制御ユニット11が起動すると、変更部12は、記憶部13から第1目標値および第1所定数を読み出して、第1目標値および第1所定数を設定する(ステップS1)。ここで、第1所定数として、例えば5(ゲートタイムでは5秒)が設定される。
【0044】
次いで、偏差検出回路10は、基準周波数の規定値と平均化回路9によって算出された平均値との偏差を検出する(ステップS2)。偏差の検出に先立って、カウンタ8が、基準発振器7からの基準信号のパルス数をカウントすると、平均化回路9が、1周期の第1所定数N倍の期間におけるパルス数を第1所定数で除することにより、1周期あたりに発生するパルス数の平均値を算出する。
【0045】
偏差の検出後、変更部12は、偏差が第1目標値を下回ったか否かを判定する(ステップS3)。ここで、第1目標値を例えば60ppbとする。また、PPS信号の理論誤差Ef[ppb]は、上述したように次式により表される。
Ef=150/Tg
したがって、Tg=5[秒]の場合、Ef=±30ppbとなる。
【0046】
変更部12は、ステップS3において、偏差が第1目標値を下回ったと判定した場合(YES)、記憶部13から第2目標値および第2所定数を読み出して、第2目標値および第2所定数を設定する(ステップS4)。これにより、変更部12は、第1目標値を第2目標値に変更し、第1所定数を第2所定数に変更する。ここで、第2所定数として、例えば80(ゲートタイムでは80秒)が設定される。
【0047】
変更部12が、ステップS3において、偏差が第1目標値を下回っていないと判定した場合(NO)、処理がステップS2に戻される。
【0048】
次いで、偏差検出回路10は、基準周波数の規定値と平均化回路9によって算出された平均値との偏差を検出する(ステップS5)。ステップS5において、偏差検出回路10は、平均化回路9によって算出された、1周期の第2所定数N倍の期間における1周期あたりに発生するパルス数の平均値と、規定値との偏差を算出する。
【0049】
偏差の検出後、変更部12は、偏差が第2目標値を下回ったか否かを判定する(ステップS6)。ここで、第2目標値を例えば4ppbとする。また、Tg=80[秒]の場合、Ef=±2ppbとなる。
【0050】
変更部12は、ステップS6において、偏差が第2目標を下回ったと判定した場合(YES)、記憶部13から第3目標値および第3所定数を読み出して、第3目標値および第3所定数を設定する(ステップS7)。これにより、変更部12は、第2目標値を第3目標値に変更し、第2所定数を第3所定数に変更する。ここで、第3所定数として、例えば150(ゲートタイムでは150秒)が設定される。
【0051】
変更部12が、ステップS6において、偏差が第2目標を下回っていない判定した場合(NO)、処理がステップS5に戻される。
【0052】
次いで、偏差検出回路10は、基準周波数の規定値と平均化回路9によって算出された平均値との偏差を検出する(ステップS8)。ステップS8において、偏差検出回路10は、平均化回路9によって算出された、1周期の第3所定数N倍の期間における1周期あたりに発生するパルス数の平均値と、規定値との偏差を算出する。
【0053】
偏差の検出後、変更部12は、偏差が第3目標値を下回ったか否かを判定する(ステップS9)。ここで、第3目標値を例えば2ppbとする。また、Tg=150[秒]の場合、Ef=±1ppbとなる。
【0054】
変更部12が、ステップS9において、偏差が第3目標値を下回ったと判定した場合(YES)、処理が終了する。また、変更部12が、ステップS6において、偏差が第2目標値を下回っていない判定した場合(NO)、処理がステップS8に戻される。
【0055】
以上のような処理により、基準信号の基準周波数が所定の誤差の範囲内に制御される。
【0056】
上記の処理が終了した後は、カウンタ8、平均化回路9、偏差検出回路10および周波数制御部71による一連の周波数制御処理を、所定数Nを第3所定数に設定した状態で繰り返し行ってもよい。これにより、PPS信号の理論誤差Efは、繰り返しの実行回数が除された値に低減する。したがって、基準周波数の精度をより高めることができる。
【0057】
〈周波数制御時間の短縮効果〉
図5は、本実施形態の無線機1において基準信号の基準周波数が所定値に補正されるまでの変化と、比較例の無線機において基準周波数が所定値に補正されるまでの変化とを併せて示すグラフである。
図5は、無線機1の電源がオンした時刻T0からの時間に応じた基準周波数の変化を表している。
【0058】
ここで、無線機1は、変更部12が、上述したように、目標値Gを第1目標値、第2目標値および第3目標値の順に変更するとともに、所定数Nを第1所定数、第2所定数および第3所定数の順に変更するものとする。また、比較例の無線機は、変更部12を備えず、目標値Gおよび所定数Nが、それぞれ上述した最大の第3目標値および第3所定数に設定されているものとする。
【0059】
図5に実線にて示すように、無線機1では、所定数Nが第1所定数に設定された状態で上述したステップS2,S3の処理が複数回繰り返されることにより、電源オンから時間T1後に、規定値の60ppb以内の誤差を有する第1周波数F1に達する。その後、所定数Nが第2所定数に変更された状態で上述したステップS5,S6の処理が複数回繰り返されることで、基準周波数は、電源オンから時間T2後に、規定値の4ppb以内の誤差を有する第2周波数F2に達する。ここまで、速ければ5分程度(T2は5分程度)となる。そして、所定数Nが第3所定数に変更された状態で上述したステップS8,S9の処理が複数回繰り返されることで、基準周波数は、電源オンから時間T3後に、規定値の2ppb以内の誤差を有する所定値の第3周波数F3に達する。ここまで、10~15分程度となる(T3は10~15分程度)。
【0060】
一方、比較例の無線機によれば、無線機の電源オン時から、第3目標値および第3所定数に設定された状態で上述したステップS8,S9の処理が複数回繰り返されることと同等の処理が行われる。これにより、
図5に破線にて示すように、基準周波数は、緩やかに上昇していき、時間T4で第3周波数F3に達する。時間T4は時間T3に比べて大幅に長い。
【0061】
このように、無線機1によれば、基準周波数を目標の誤差範囲にまで制御する時間を比較例の無線機に比べて大幅に短縮することができる。
【0062】
〈実施形態の効果〉
本実施形態に係る周波数制御装置101は、カウンタ8と、平均化回路9、偏差検出回路10および変更部12を備えている。変更部12は、偏差検出回路10によって検出された偏差が目標値Gを下回る毎に、目標値Gを現在値より減少させ、平均化回路9が平均値を算出する範囲を規定する所定数Nを現在値より増加させる。
【0063】
上記の構成によれば、最初は少ない所定数Nを設定しておくことで基準周波数が粗く制御され、目標値Gが小さく変更されることに伴い、偏差が目標値Gを下回るごとに所定数Nを増加させることで基準周波数がより細かく制御される。これにより、最初から最多の所定数Nに基づいて基準周波数を制御する場合と比べて、基準周波数を目標の誤差範囲にまで制御する時間を大幅に短縮することができる。
【0064】
目標値Gの取り得る値は、予め定められた異なる所定個あり、目標値Gの初期値は、所定個のうちの最大値である。所定数Nの取り得る値は、目標値G毎に定められている。変更部12は、偏差が目標値Gを下回る毎に、目標値Gを、所定個のうち現在値の次に小さい値に変更し、所定数Nを、変更後の目標値Gに応じた値に変更することが好ましい。
【0065】
上記の構成によれば、目標値Gの所定個を適宜設定することで、基準周波数の制御に要する時間を短縮する効果を高めることができる。
【0066】
周波数制御装置101は、基準発振器7を備える。基準発振器7は、周波数制御支援装置の偏差検出回路10により検出される偏差が小さくなるように基準周波数を制御する周波数制御部71を有する。
【0067】
無線機1は、周波数制御装置101を備える。これにより、高周波数に対応したアマチュア無線機を含む無線機は勿論、高周波数の基準信号を扱う各種の機器における基準周波数の調整を効率的に行うことができる。したがって、本発明は、アマチュア無線に限らず、高い周波数の基準信号を用いる無線通信技術等に適用することができる。
【0068】
〔ソフトウェアによる実現例〕
周波数制御支援装置102(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の制御ブロック(特に制御ユニット11に含まれる変更部12)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0069】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、上述したCPUおよびメインメモリをそれぞれ少なくとも1つ備えている。このCPUおよびメインメモリにより上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0070】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0071】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0072】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。また、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1 無線機
7 基準発振器(発振器)
8 カウンタ(カウント部)
9 平均化回路(平均化部)
10 偏差検出回路(検出部)
12 変更部
71 周波数制御部(制御部)
101 周波数制御装置
102 周波数制御支援装置