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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118939
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/16 20060101AFI20240826BHJP
   B23K 26/70 20140101ALI20240826BHJP
【FI】
B23K26/16
B23K26/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025557
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA56
4E168FB03
4E168FC01
(57)【要約】
【課題】 レーザ光による溶接を適切に行うことが可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 受治具に支持されるワーク1にレーザ溶接ヘッド15からレーザ光を照射するとき、第1押え治具20の不活性ガス供給孔出口からArガスをワーク1の溶接部12に向けて吐出する。第2押え治具30の二次空気取込口33から供給される空気がワーク1の上面で塵と空気の旋回流を形成し、旋回流形成後の塵と空気を外に排出する集塵ダクト39を設けている。これにより、ワークの溶接部12から発生する塵と空気の旋回流をワークの反重力方向側で形成するから、ヒューム及びプルームの発生を低減する。したがって、ワークに照射されるレーザ光の減衰を抑制する。これにより、レーザ光による溶接深さが浅くなることを防止し、レーザ溶接品の品質を安定させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射してワークを溶接するレーザ加工装置であって、
ワーク(1)を支持する受治具(9)と、
溶接用レーザ光を通す第1通孔(25)を有し、前記受治具にワークの反受治具側からワークを押える第1押え治具(20)と、
前記第1通孔に連通する第2通孔(35)を有し、前記第1押え治具の反受治具側から前記第1押え治具を前記受治具に押える第2押え治具(30)と、
前記第1通孔及び前記第2通孔に連通するレーザ光通路(41、51)、及び、前記レーザ光通路に連通し、ワークの溶接部(12)から発生する塵を外部に排出する排出口(53)を有する集塵ダクト(39、40、50)と、を備え、
前記第1押え治具は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給孔出口(231、232、233、234、235)を有し、
前記第2押え治具は、二次空気を吸い込んで前記レーザ光通路にスワール状の旋回流を生成する二次空気取込口(331、332、333、334、335、336、337、338、339)を有する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1押え治具の前記不活性ガス供給孔出口と前記溶接部との距離(L)は、冷却しすぎない程度に遠く、不活性ガス濃度が希薄にならない程度に短い距離に設定する、請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第2押え治具は、中心軸方向がワーク中央から偏心位置方向に開口する前記二次空気取込口を有する、請求項1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第2押え治具の前記二次空気取込口は、中心軸方向がワーク中心軸線に近づくに従い天方向に傾斜して開口する、請求項1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記集塵ダクトの反押え治具側にレーザ光を発射するレーザ溶接ヘッド(15)を備える請求項1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記集塵ダクトの前記排出口側に吸引装置(60)を備える請求項1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
レーザ光を上ワーク(2)の溶接部(12)に照射し、上ワークと下ワーク(3)を接合するレーザ加工方法であって、
上ワークの溶接部にレーザ光を照射する工程と、
上ワークの溶接部に不活性ガス及び空気を供給する工程と、
上ワークの上面側の空気を外部に吸引する工程と、
上ワークの上面側の上方に塵と空気の旋回流を形成する工程と、
旋回流後の空気を外に排出する工程とを含むレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いてワークを加工するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接を行う際、ヒューム(煙)が発生する。ヒュームだまりが発生すると、レーザ光の減衰により、レーザ光の照射されるワークの溶接部の溶接深さが浅くなる。
【0003】
特許文献1には、レーザ加工時に発生するヒューム除去方法及び装置として、加工位置に向け加工ガスを供給する加工ガス供給ノズルと、加工ガスを供給しながら加工位置から発生するヒュームに対し、加工ガス雰囲気の上方にヒューム排出ガスを供給するヒューム排出ガス供給ノズルを備える。この文献には、ヒューム排出ガス供給ノズルの下流に供給ガスの流れを整流化するガスジャケットを設けたり、供給されたヒューム排出ガス流れを一定方向に導く側壁を設けたりする技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、溶接ヒューム集塵装置として、溶接ヒュームFを含む空気を吸込む吸込口と、流入した空気が通過し空気中の溶接ヒュームFを除去する金属製フィルタと、金属製フィルタを通過した空気が通過して、この空気中に残存する溶接ヒュームFを除去する電気集塵機と、電気集塵機を通過した空気を排出する排出口と、金属製フィルタを振動させるバイブレータと、電気集塵機にエアを噴射するエアノズルと、金属製フィルタおよび電気集塵機によって集塵された溶接ヒュームFが収容される溶接ヒューム収容部とを備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-1043号公報
【特許文献2】特開2011―131132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のレーザ溶接装置は、ヒューム等によるレーザ光の減衰を考慮して重力方向ではなく水平方向(横方向)から溶接することが多い。
レーザ光を横方向から照射し溶接すると、溶接対象となる横向きに並ぶ両ワークが相対的に偏心しやすく同軸度を確保し難いし、接合する両ワーク間の隙間が大きくなる傾向にあり、溶接加工品の品質が低下しやすい。
他方、ワークに対し溶接用のレーザ光を重力方向に照射すると、ヒューム(煙)だまりによるレーザ光の減衰とプルーム(火柱)の発生によるレーザ光の減衰とにより、溶接深さが浅くなる傾向にあり、溶接加工品の品質が不安定になる。
【0007】
特許文献1には、ワークの溶接位置に対しスパイラル集塵となる空気を吹き上げるように配置する複数の二次空気取込口は明示されていない。
特許文献2には、ヒュームを集塵する集塵装置が開示されているが、この装置は溶接後に発生する溶接ヒュームを除去する方法が開示され、溶接中のレーザ光の経路と溶接ヒュームとの関係については開示されない。
【0008】
本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、レーザ光による溶接を適切に行うことが可能なレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレーザ加工装置は、
レーザ光を照射してワークを溶接するレーザ加工装置であって、
ワーク(1)を支持する受治具(9)と、
溶接用レーザ光を通す第1通孔(25)を有し、前記受治具にワークの反受治具側からワークを押える第1押え治具(20)と、
前記第1通孔に連通する第2通孔(35)を有し、前記第1押え治具の反受治具側から前記第1押え治具を前記受治具に押える第2押え治具(30)と、
前記第1通孔及び前記第2通孔に連通するレーザ光通路(41、51)、及び、前記レーザ光通路に連通し、ワークの溶接部(12)から発生する塵を外部に排出する排出口(53)を有する集塵ダクト(39、40、50)と、を備え、
前記第1押え治具は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給孔出口(231、232、233、234、235)を有し、
前記第2押え治具は、二次空気を吸い込んで前記レーザ光通路にスワール状の旋回流を生成する二次空気取込口(331、332、333、334、335、336、337、338、339)を有する、構成を採用する。
本発明のレーザ加工装置によれば、レーザ光を減衰させる要因を除去する構成を採用した。
【0010】
本発明によると、受治具が支持するワークの反受治具側から第1押え治具及び第2押え治具がワークを押さえるから、溶接対象となるワークを重力方向に重ねやすい。このため、両ワークの中心軸が偏心しにくく同軸度を確保しやすい。
【0011】
本発明によると、レーザ溶接ヘッドからワークにレーザ光を照射するとき、Arガス等の不活性ガスをワークの溶接部に向けて吐出する吐出口に相当する不活性ガス供給孔出口を設け、二次空気取込口から供給される空気がワークの上面で塵と空気の旋回流を形成し、旋回流形成後の塵と空気を外に排出する集塵ダクトを設けている。
これにより、ワークの溶接部から発生する塵と空気の旋回流をワークの反重力方向側で形成するから、ヒューム及びプルームの発生を低減する。したがって、ワークに照射されるレーザ光の減衰を抑制する。これにより、レーザ光による溶接深さが浅くなることを防止する。したがって、レーザ溶接品の品質を安定させることができる。
【0012】
本発明のレーザ加工方法は、レーザ光を上ワーク(2)の溶接部(12)に照射し、前記上ワークと下ワーク(3)を接合するレーザ加工方法であって、
上ワークの溶接部にレーザ光を照射する工程と、
上ワークの溶接部に不活性ガス及び空気を供給する工程と、
上ワークの上面側の空気を外部に吸引する工程と、
上ワークの上面側の上方に塵と空気の旋回流を形成する工程と、
旋回流後の空気を外に排出する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態のレーザ加工装置を示す断面図、
図2】一実施形態のワーク及びレーザ溶接装置を示す部分断面図、
図3】一実施形態の集塵ダクトの概略斜視図、
図4図1のIV-IV線拡大断面図、
図5】一実施形態による受け治具、ワーク及び第1押え治具及び第2押え治具を示す断面図、
図6】一実施形態による第1押え治具及び第2押え治具を示す斜視図、
図7図6に示す第1押え治具及び第2押え治具の平面図、
図8図7のVIII-VIII線断面図、
図9】一実施形態の第1押え治具の斜視図、
図10】一実施形態の第1押え治具の平面図、
図11図10のXI-XI線断面図、
図12】一実施形態の第2押え治具の斜視図、
図13】一実施形態の第2押え治具の平面図、
図14図13のXIV-XIV線断面図、
図15】ワークの溶接スポットを示す図、
図16】溶接部でのプルーム発生を示す拡大断面図、
図17】溶接時の作用を示す説明図、
図18】比較例と実験例の対比図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態によるレーザ加工装置を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第一実施形態について図1から図18に基づいて説明する。
まずレーザ光を照射して溶接するワーク1について図2及び図5に基づいて説明する。
ワーク1は、有底筒状の上ワーク2と、基本形円柱状の下ワーク3とからなる。
下ワーク3は、基本形が円柱状で上部に円盤状のフランジ4が形成される。フランジ4の下面5は筒状の受治具9の端面10で支持されている。上ワーク2の内底面6は、下ワーク3のフランジ4の上面7を覆っている。
【0015】
本実施形態では、上ワーク2の内底面6と下ワーク3の上面7とを、図15に示すように、5か所の溶接部12でレーザ溶接する。溶接箇所に相当する溶接部12は、上ワーク2の外底面8で同軸心周りの周上に等間隔に5か所の位置に存在する。
上ワーク2と下ワーク3を溶接するレーザ加工装置14は、レーザ光を照射するレーザ溶接ヘッド15を備え、その重力下方位置で下ワーク3を支持する受治具9を備える。
受治具9は、上端開口している円筒状であり、上端面10が下ワーク3のフランジ4の下面5を支持している。上ワーク2は、内底面6が下ワーク3のフランジ4の上面7に当接している。受治具9の上端面10を形成するフランジ4の外周面131は、上ワーク2の筒内壁面に当接している。これにより、下ワーク3と上ワーク2の軸線を同一にし、ワーク1の溶接時の同軸度を確保している。
受治具9の上端面10に下ワーク3及び上ワーク2を載置し、上ワーク2の上から第1押え治具20を押え、第1押え治具20の上に第2押え治具30を押え、ワーク1を仮固定する。
【0016】
第1押え治具20を、図1、2、4、5、6-11に基づいて説明する。
第1押え治具20の本体21は、上面と下面を連通する開口25を有し、本体21の下面が上ワーク2の上面に当接し、上面7の5か所の溶接部12を露出させている。溶接部12を露出する開口を有する本体21は、レーザ光を通過させる開口を形成するように、溶接部12の周辺に傾斜面221、222、223、224、225を形成している。
不活性ガス供給孔は、図5に示す一例を説明すると、第2押え治具30の本体31に形成される孔251、第1押え治具20の本体21に形成される孔252、大気孔253及び不活性ガス供給孔出口231が連通して構成されている。
5個の不活性ガス供給孔出口231、232、233、234、235と近接する各溶接部12との距離(L)は、20mmに設定されている。不活性供給孔の不活性ガス供給孔出口231、232、233、234、235から開口25に供給される不活性ガス例えばArガスは、図5に示す白抜き矢印方向に供給され、5か所の溶接部12を被覆する。なお、不活性ガス供給孔出口231、232、233、234、235は、明細書中、便宜上符号23として示すことがある。
【0017】
第2押え治具30を、図1、2、4、5、6-8、図12-14に基づいて説明する。
第2押え治具30の本体31は、上面と下面を連通する開口35を形成する内壁を有し、第1押え治具20の本体21の円錐状の凹状斜面22に嵌合する円錐状の凸状斜面32を有する外壁を有する。これにより、第1押え治具20と第2押え治具30の同軸度を確保している。
第2押え治具30の本体31に9か所で形成される二次空気取込口331、332、333、334、335、336、337、338、339は、中心軸方向がワーク中央から偏心位置方向に、かつ中心軸方向がワーク中心軸線に近づくに従い天方向に傾斜して開口する。なお、二次空気取込口331、332、333、334、335、336、337、338、339は、明細書中、便宜上、総称して二次空気取込口33と称する場合がある。図1及び図4に示すように、白抜矢印方向34に外から二次空気が供給される。
【0018】
集塵ダクト39は、第1集塵ダクト40と第2集塵ダクト50からなる。
第1集塵ダクト40は、基本形が円筒状であり、内部にレーザ光を通すとともに排ガスを流通する第1集塵室41を有する。この第1集塵室41に排ガスの旋回流を形成する。
第2集塵ダクト50は、図3に示す形状をしている。基本形が円筒状であり、レーザ溶接ヘッド15から照射されるレーザ光を通す開口54、前記の第1集塵室41に連通する第2集塵室51と、溶接時に溶接部12から発生する塵を排気口53を通して外部へ排出する分岐ダクト52を有する。
排気口53を有する分岐ダクト52は、図示しない外部の吸引装置に接続される。溶接時、吸引装置が駆動されると、溶接部12から発生する塵は、開口25、35、集塵ダクト39の第1集塵室41及び第2集塵室51内の二次空気の流れに乗って、分岐ダクト52の排気口53を通して外部に排出される。
【0019】
上記のレーザ加工装置14は、上ワーク2の反接合面側に、溶接用レーザ光を通す開口54、第2集塵室51、第1集塵室41、開口35、25を有し、上ワーク2の反接合面側から上ワーク2及び下ワーク3を受治具9に押える第1押え治具20と、
第1押え治具20の反受治具側から第1押え治具20を受治具9に押える第2押え治具30とを備える。
第2押え治具30の上面に集塵ダクト39を設けている。集塵ダクト39は、レーザ光を通す穴に相当する開口54、第2集塵室51及び第1集塵室41を有する。
【0020】
第1押え治具20は、不活性ガスに相当するArガスを通す不活性ガス供給孔24を有する。不活性ガス供給孔出口23は、レーザ光が上ワーク2に照射される位置に相当する溶接部12から離間した位置に形成する。第1押え治具20の前記不活性ガス供給孔出口と前記溶接部12との距離は、冷却しすぎない程度に遠く、不活性ガス濃度が希薄にならない程度に短い距離に設定する。
第2押え治具30は、二次空気を吸い込んで開口35に螺旋気流を生成する二次空気取込口33を有する。二次空気取込口33から取り込まれる空気は、開口25、35、集塵ダクト39の第1集塵室41及び第2集塵室51内を通って排気口53から塵とともに吸引装置60に吸引される。
【0021】
上記のレーザ加工装置14は、集塵ダクト39の集塵する室の経路内径を大きな構成にしている。塵の経路となる開口25、35、集塵ダクト39の第1集塵室41及び第2集塵室51は、内径が大きく確保されている。上ワーク2の外径よりも第2押え治具30の開口35の最大内径rmaxを大きくしている。
【0022】
二次空気取込口33は、符号331、332、333、334、335、336、337、338、339に示す複数個所であって溶接部の近傍には開口していない。二次空気取込口33は、二次空気取込口として機能し、この場合9個、内側から見ると、開口する方向はいずれも中心軸方向がワーク中央から偏心位置方向に開口し、中心軸方向がワーク中心軸線に近づくに従い天方向に傾斜して開口する。開口25、35から第1集塵室41、第2集塵室51に向けて気流に乗った塵が均一に飛散するようにして吸引口に相当する排気口53から外部に排出され集塵される。
【0023】
上記のレーザ加工装置14によると、二次空気取込口331、332、333、334、335、336、337、338、339は、レーザ光の軸線に対しワーク中央の溶接個所から偏心位置方向に開口する。二次空気取込口331、332、333、334、335、336、337、338、339から開口35へ供給される二次空気は、体格の相対的に大きな集塵ダクト39内でスパイラル状に二次空気の旋回流を形成する。上昇気流に乗った塵が集中することなしに排気口53から速く排出される。したがって、ヒュームだまりの発生し難いからレーザ光の遮光が低減され、溶接深さを安定にする。
【0024】
次に、レーザ溶接時に発生するプルームについて図16に基づいて説明する。図16
プルームが発生する現象を模式的に示している。
一般に、上ワーク2を下ワーク3に溶接するとき溶接スポット45に重力方向にレーザ光を照射すると、溶接スポット45の反重力方向に火柱状のプルーム46が発生しやすい。
【0025】
本実施形態では、レーザ溶接ヘッド15からレーザ光がワークの溶接部12に照射される前、上ワーク2の溶接部12に対応する上面上方に不活性ガス供給孔出口23からArガスが供給され、上ワーク2の溶接部12の上面上方にArガス雰囲気が形成される。そして、二次空気取込口33は、不活性ガス供給孔出口23よりも反重力方向で開口し、天方向に傾斜して設けられるから、二次空気は溶接スポットに向けては導かれない。したがって、溶接スポットがArガスで覆われ、溶接スポットに不活性雰囲気が形成されるから、プルームの発生を防止する。これにより、レーザ光の減衰を防止し、レーザ溶接を適切に行え、溶接深さを浅くすることなしに安定化することができる。
【0026】
二次空気取込口33は溶接部近傍から離間した位置に形成するから、溶接部近傍に不活性ガス雰囲気を作り、プルーム(火柱)の発生を防止する。プルームは発生し難いからレーザ光は減衰し難く、溶接深さを安定にする。
溶接部12の一か所についてレーザ加工を終了すると、溶接部12の次の箇所についてレーザ加工を開始し、順次、合計5か所についてレーザ加工を終了すると、溶接を完了する。
【0027】
溶接個所(ワーク)の上方に二次空気供給による旋回流を生成させるからヒュームだまりが発生し難い構成になるため、塵を旋回流に乗せて排出し、塵のレーザ光への影響を小さくすることができ、レーザ光の減衰を抑制する。したがって、溶接深さを浅くすることなしに、溶接深さを安定させることができる。
【0028】
また、不活性ガス供給による酸化しない領域を過度に冷却することなしに形成するから、プルームの発生を抑制することができる、レーザ光の減衰を抑制し、溶接深さを浅くすることなしに、溶接深さを安定させることができる。
本実施形態によると、ダクト内に供給される二次空気に乗せて塵をスパイラル状に吸引口側に吸引することができる。ダクト内を均一にかつ早く集塵することができる。
また本実施形態によると、第1押え治具と第2押え治具に区分して構成したから、部品加工しやすく組付けしやすいという製造上の利点がある。
【0029】
(実験例1)
実験例1と比較例1とを対比して説明する。
実験例1は、上記実施形態において、複数の二次空気取込口33から開口35に供給する二次空気を内径が大径の第1集塵室41及び第2集塵室51でスワール状の旋回流を生成し、塵を分散し竜巻のように吹き上げるようにして速やかに排気口53から排出する。
CADモデルの集塵状態を流れ解析すると、実験例1の改善後のシミュレーション結果によると、図18(B)に示すように、ダクト内を均一にかつ早く集塵することが判明した。図18中、矢印は集塵ダクト内の気流の方向と速度の大きさを示す。
【0030】
比較例1は、改善前のもので、ワークを上面で押さえる図示しない治具は、二次空気取込口から径内方向に二次空気を吸い込む。溶接時に発生する集塵状態を流れ解析すると、比較例1のシミュレーション結果は、図18(A)に示すように、集塵ダクト内で部分的にダクト内気流にダウンブローが発生している箇所があり、ヒュームだまりが発生しやすかった。
【0031】
(実験例2)
実験例2と比較例2とを対比して説明する。
実験例2は、上記実施形態において、複数の溶接部にArガスを均等に充てる構成にし、溶接部全体をArガスで覆う。ここに、Arガスは空気よりも比重が重いため斜め上より開口25内の溶接部に向けて供給する。レーザ溶接時にはArガスの充満する雰囲気で溶接部を覆い、非酸化領域をつくり、プルームの発生を防止した。
実験例2では、第1押え治具の不活性ガス供給孔出口から溶接部までの離間距離(L)を20mmに設定した。離間距離(L)は、溶接部を冷却しすぎない程度に遠く、不活性ガス濃度が希薄にならない程度に短い距離に設定する。Arガスを不活性ガス供給孔出口から吹き付け、溶接部の周囲にArガス充満雰囲気をつくる。これにより、スパイラル集塵により、ヒュームだまりの発生をなくし溶接深さが安定する。
【0032】
比較例2は、図示しないが、ワークの溶接部の近傍からArガスを直接溶接部に吹き付ける治具を設けた例である。治具の不活性ガス供給口からArガスを供給するが、比較例2は、Arガスの当たりが弱い箇所があった。その箇所でプルームが発生していた。ここに、プルームは、図16に示すように、溶接部の上方に円柱状に発生する符号46で示す火柱をいう。プルーム46が発生すると、溶接スポット45に照射するレーザ光を減衰させ、結果として溶接深さが浅くなる。
【0033】
(その他の実施形態)
上記実施形態に示したワークは、一例であり、ワークの形状はもちろん他の形状であってもよい。本発明において、レーザ光を照射するワークの形状は上記実施形態に示した形態に限られない。
上記実施形態では、ワークを受治具に仮固定する治具を第1押え治具と第2押え治具で構成したが、本発明は、これら第1押え治具と第2押え治具を一体にした1個の治具にしてもよいことはもちろんである。
上記実施形態では、二次空気取込口は9か所に設けたが、本発明では、二次空気取込口の個数は限られない。上記実施形態では、不活性ガス供給孔は5個設けたが、本発明では、不活性ガス供給孔の個数は限られない。
本発明の受治具の形状及び構造は、上記実施形態のものに限られない。
本発明によるスパイラル集塵機能は、図17に示すように、集塵ダクト39に相当するダクト391の内部で空気流を旋回させ、空気流に巻かれる塵を均一に集塵したい場合に応用可能である。
【0034】
以上、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ワーク、
2 上ワーク、
3 下ワーク、
9 受治具、
12 溶接部、
14 レーザ加工装置、
15 レーザ溶接ヘッド、
20 第1押え治具、
23 不活性ガス供給孔出口、
24 不活性ガス供給孔、
25 開口(第1通孔)、
30 第2押え治具、
33 二次空気取込口、
35 開口(第2通孔)、
39 集塵ダクト、
40 第1集塵ダクト、
41 第1集塵室(レーザ光通路)、
50 第2集塵ダクト、
51 第2集塵室(レーザ光通路)、
53 排気口、
54 開口(レーザ光通路)、
60 吸引装置、
251 孔(不活性ガス供給孔)、
252 孔(不活性ガス供給孔)、
253 大気孔、
231-235 不活性ガス供給孔出口、
331-339 二次空気取込口。
図1
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