(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118952
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】コイルの絶縁検査装置及びコイルの絶縁検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240826BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025572
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 伸宏
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA19
2G015BA02
2G015BA04
2G015CA01
2G015DA04
(57)【要約】
【課題】減圧を低減しつつ、コイルの電界強度も抑制する。
【解決手段】コイルから離れて配置されたプローブからのコロナ放電により、コイルの絶縁皮膜の欠陥を非接触で検出できる。その為、欠陥の位置が不明でも絶縁性能を検査することができる。また、コロナ放電により発生したイオンは、極小の隙間にも入り込む為、多層に巻かれたコイルの下層部や背面に隠れた絶縁皮膜の欠陥を検出することもできる。更に、プローブをコイルに対向して配置することにより、プローブとコイル全体とのギャップを小さくすることができる。これにより、コイル全体を包含するコロナ放電を発生させる際に必要な印加電圧を小さくすることができる。その結果、大きな減圧が不要となって、50ないし60トールより高い圧力の減圧とすることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプにより内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空チャンバと、
この真空チャンバに配置され、周方向に複数配置された回転電機のコイルを保持するワーク保持台と、
前記真空チャンバ内で前記コイルの一面側及び他面側の少なくともいずれかの面側に配置され、複数のプローブを備え、前記プローブと前記コイルとの間に所定の距離を維持するプローブホルダと、
前記コイルの電位を基準電位とすると共に、前記プローブに所定の高圧を印加して前記コイルと前記プローブとの間でコロナ放電を行う電源回路と、
この電源回路の高圧印加時の電圧を測定して前記コイルの絶縁性能を判定する判定部と、
を備えることを特徴とするコイルの絶縁検査装置。
【請求項2】
前記プローブは、前記コイルと対向する部位に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のコイルの絶縁検査装置。
【請求項3】
前記プローブは、隣接する前記コイルの周方向の間と対向する部位に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のコイルの絶縁検査装置。
【請求項4】
前記プローブの数は、前記コイルの数の自然数倍である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコイルの絶縁検査装置。
【請求項5】
前記プローブの前記コイルと対向する端部は、先細先端形状である
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のコイルの絶縁検査装置。
【請求項6】
真空ポンプにより真空チャンバの内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空引き工程と、
周方向に複数配置された回転電機のコイルを前記真空チャンバに保持するワーク保持工程と、
複数のプローブを備えるプローブホルダを、前記真空チャンバ内で前記コイルの一面側及び他面側のいずれかの面側に、前記プローブと前記コイルとの間に所定の距離を維持するように配置するプローブ配置工程と、
前記コイルの電位を基準電位とすると共に、前記プローブに所定の高圧を印加して前記コイルと前記プローブとの間でコロナ放電を行うコロナ放電工程と、
このコロナ放電工程の電圧を測定して前記コイルの絶縁性能を判定する判定工程と、
を備えることを特徴とするコイルの絶縁検査方法。
【請求項7】
前記コロナ放電工程では、前記プローブに直流電圧を印加する
ことを特徴とする請求項6に記載のコイルの絶縁検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の記載はコイルの絶縁検査装置及びコイルの絶縁検査方法に関し、本開示のコイルは例えば二輪車の発電機や始動機として用いられる回転電機に使用して有用である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、複数のヘアピン状のセグメントコイルを接続した接続部に絶縁部が設けられており、その絶縁性能を検査する装置が示されている。特許文献1の検査装置では、絶縁部に対してプローブ(導電ブラシ)を押し当てて電圧を印加している。
【0003】
また、特許文献2では、ステータコアとコイルとの間で、沿面放電が起きない絶縁性の有無を検査する装置が示されている。特許文献2の検査装置では、減圧環境下でコイルにサージ電圧を印加し、ステータコアに向かってグロー放電が発生するか否かで絶縁性を試験している。即ち、サージ電圧印加によりコイル皮膜損傷部からステータコアに向かってグロー放電が生じるので、このグロー放電により変化するコイルのサージ電圧波形を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-148548号公報
【特許文献2】特開平8-65965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の検査装置は、物理的な接触を要している。その為、予め絶縁性を確認すべき箇所が正確にわかっていないと検出することができない。即ち、接触することができない物は、検出ができないという不具合がある。
【0006】
また、特許文献2に記載のコイルの絶縁検査装置では、25トール以下に大きく減圧させており、装置の大型化や試験サイクルタイムの増加を招いている。これは、グロー放電試験およびコロナ放電試験の何れにおいても、コイルに電圧を印加するが、コイルからコアに向かって放電させるために印加電圧を高くする必要があるためである。即ち、印加電圧が高いとコイルの電界強度が高くなってしまい、電界強度が高いとコイル絶縁皮膜の破壊をまねきかねない。そのため、電界強度を上げ過ぎないようにするために大きく減圧を行う必要があるからである。
【0007】
本件の開示は、減圧を低減しつつ、コイルの電界強度も抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1は、真空ポンプにより内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空チャンバと、この真空チャンバに配置され周方向に複数配置された回転電機のコイルを保持するワーク保持台と、真空チャンバ内でコイルの一面側及び他面側の少なくともいずれかの面側に配置され複数のプローブを備えプローブとコイルとの間に所定の距離を維持するプローブホルダと、コイルの電位を基準電位とすると共にプローブに所定の高圧を印加してコイルとプローブとの間でコロナ放電を行う電源回路と、この電源回路の高圧印加時の電圧を測定してコイルの絶縁性能を判定する判定部とを備えるコイルの絶縁検査装置である。
【0009】
本開示の第1では、コイルから離れて配置されたプローブからのコロナ放電により、コイルの絶縁皮膜の欠陥を非接触で検出できる。その為、欠陥の位置が不明でも絶縁性能を検査することができる。また、コロナ放電により発生したイオンは、極小の隙間にも入り込む為、多層に巻かれたコイルの下層部や背面に隠れた絶縁皮膜の欠陥を検出することもできる。更に、プローブをコイルに対向して配置することにより、プローブとコイル全体とのギャップを小さくすることができる。これにより、コイル全体を包含するコロナ放電を発生させる際に必要な印加電圧を小さくすることができる。その結果、大きな減圧が不要となって、50ないし60トール程度の減圧とすることができる。
【0010】
本開示の第2では、プローブはコイルと対向する部位に配置されている。また、本開示の第3では、プローブは隣接するコイルの周方向の間と対向する部位に配置されている。このプローブ配置により、絶縁皮膜欠陥部の位置による電圧降下量のバラツキを抑制することができる。
【0011】
本開示の第4では、プローブの数は、コイルの数の自然数倍である。コイルが径方向に長い場合は、コイルの径方向に沿って複数のプローブを配置することにより、絶縁皮膜欠陥部の位置による電圧降下量のバラツキを更に抑制することができる。
【0012】
本開示の第5では、プローブのコイルと対向する端部の形状を先細先端形状としている。先細先端形状とすることで、コロナ放電をしやすくしている。
【0013】
本開示の第6は、真空ポンプにより真空チャンバの内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空引き工程と、周方向に複数配置された回転電機のコイルを真空チャンバに保持するワーク保持工程と、複数のプローブを備えるプローブホルダを真空チャンバ内でコイルの一面側及び他面側の少なくともいずれかの面側にプローブとコイルとの間に所定の距離を維持するように配置するプローブ配置工程と、コイルの電位を基準電位とすると共にプローブに所定の高圧を印加してコイルとプローブとの間でコロナ放電を行うコロナ放電工程と、このコロナ放電工程の電圧を測定してコイルの絶縁性能を判定する判定工程とを備えるコイルの絶縁検査方法である。
【0014】
本開示の第1と同様、欠陥の位置が不明でも絶縁性能を検査することができる。また、コイル全体を包含するコロナ放電を発生させる際に必要な印加電圧を小さくすることができ、大きな減圧が不要となって50ないし60トール程度の減圧とすることができる。
【0015】
本開示の第7では、コロナ放電工程でプローブに直流電圧を印加している。直流電圧を用いることでコロナ放電を行うようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、クランクシャフト及びシリンダブロックに組み合わされた状態の回転電機の断面図である。
【
図2】
図2は、回転電機のロータ、コイル及びセンサケースを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、回転電機のコイルとセンサケースを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、回転電機のコイル製造工程を示す工程図である。
【
図5】
図5は、ステータを構成する鋼板を示す正面図である。
【
図9】
図9は、プローブの配置状態を示す配置図である。
【
図10】
図10は、プローブホルダの配置状態を示す配置図である。
【
図11】
図11は、絶縁検査装置の電気回路を示す回路図である。
【
図15】
図15は、コイルの軸方向長さと真空チャンバ内圧力との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の一例を図に基づいて説明する。まず、本開示の検査の対象となる回転電機の一例を説明する。
図1は、回転電機1がクランクシャフト100に組み合わされた状態の断面図である。101はシリンダブロックであり、シリンダブロック101内では図示しないピストンが図示しないシリンダ内を往復動する。そして、ピストンの動きは、図示しないコンロッドを介して、クランクシャフト100を回転させる。クランクシャフト100は、直径20ミリメートル程度の鉄材からなり、シリンダブロック101に軸受102で回転支持されている。
【0018】
クランクシャフト100には、回転電機1のロータ300が、基部301で固定されている。従って、ロータ300はクランクシャフト100と一体に回転する。ロータ300は、鉄材料製で、クランクシャフト100と係合する基部301より径方向外方に延びる円盤部302と、この円盤部302の径方向外方部に形成される円筒部303を備えている。
図2に示すように、円筒部303の内方には、永久磁石304が12個、周方向に並んで配置されている。永久磁石304の厚みは、4~5ミリメートル程度である。なお、永久磁石304の数は、12個に限らず、20個や24個等要求性能に応じて適宜設定できる。
【0019】
ロータ300の内部には、
図1や
図2に示すように、ステータ400が配置されている。
図2は、ステータ400をシリンダブロック101側から見た斜視図である。ステータ400は、複数の磁性鋼板を積層してなり、シリンダブロック101に取り付けられる基盤部401、この基盤部401より径方向外方に延びる複数のティース部402(
図1図示)を一体に形成している。ステータ400の外径は、110~130ミリメートル程度となっており、従って、ロータ300の内径は、ステータ400の外径と永久磁石304との間に微小間隙が形成される大きさとなっている。
【0020】
基盤部401には、シリンダブロック101にステータ400を固定するためのステータボルト通し穴403が3か所形成されている。また、基盤部401には、センサケース440をステータ400に固定するためのセンサケースボルト通し穴(図示しない)も2か所形成されている。
【0021】
ティース部402はポリアミド等の絶縁樹脂からなるインシュレーター410で電気絶縁され、インシュレーター410の上に銅系の材料若しくはアルミニウム系の材料からなる導線421でコイル404が巻装されている。
図3は、
図2からロータ300を外して、ステータ400とセンサケース440を示す斜視図である。
【0022】
図3に示すように、隣接するコイル404の間には隙間405が形成され、その隙間405は径方向外側に向けて広くなっている。そして、この隙間405にセンサケース440が配置されている。センサケース440は、上述のインシュレーター410と同様ポリアミド等の樹脂でモールド成形されている。
【0023】
回転電機1は、以上の要素で構成される。回転電機を発電機として用いるときは、ロータ300の回転に伴い、永久磁石304の磁束を受けてステータ400のコイル404に起電力が発生する。その電力を三相の交流に整流して発電する。逆に、回転電機1を内燃機関のスタータとして用いるときは、図示しない直流電源からの電圧を三相交流に整流してコイル404に磁力を発生させる。この際のコイル404に発生する磁力と永久磁石304の磁力との吸引反発により、ロータ300を回転させる。
【0024】
次に、ステータ400の組付け工程を、
図4の工程図に基づいて説明する。まず、
図5に示すような基盤部401とティース部402を備える磁性鋼板を打ち抜いて成形するステータ材430を複数積層してステータ400のステータコアを製造する。このステータコアにインシュレーター410を組付けてボビン組付け工程S100を行う。かつ、コイル404の導線に電気接続するターミナル420を導電性材料の銅又は鉄製の板材から打ち抜き形成して、ターミナル洗浄工程S101で洗浄する。そして、ボビン組付け工程S100で組付けられたボビンにターミナル420を圧入する(ターミナル圧入工程S102)。
【0025】
その後、絶縁皮膜で被覆されたアルミニウム導線421を用意して、ボビンのティース部402の周りにアルミニウム導線421を巻いてコイル404を形成する(巻線工程S103)。この例では、アルミニウム系材料で導線421を形成する例を示す。この状態で、コイル404を形成するアルミニウム導線421の皮膜に欠陥が生じていないのかのコイル皮膜絶縁検査S104を行う。本開示は、この際の絶縁検査に関するものであるので、このコイル皮膜絶縁検査S104に関しては後に詳述する。
【0026】
検査が終了して絶縁性能が確認されたコイル404からアルミニウム導線421の引き出し配線を取り回し、余分となったアルミニウム導線421を切断して削除する(余線カット工程S105)。次いで、コイル404の端部となるアルミニウム導線421の絶縁皮膜を剥離する(皮膜剥離工程S106)。その後、ターミナル420の保持溝にコイル404の端部で皮膜を剥離したアルミニウム導線421を圧入して、コイル404とターミナル420とを電気接続する(電気接続工程S107)。
【0027】
次いで、保護ケース422を用意して、
図6及び
図7に示すように、保護ケース422がターミナル420とアルミニウム導線421との溶接部を覆うようにする。そして、この状態で保護ケース422をインシュレーター410に圧入して保護ケース422を固定する。その状態で、ターミナル420とアルミニウム導線421との溶接部にポッティング材424を塗布して溶接部の絶縁性を高める。
【0028】
保護ケース422を固定してポッティング材424を塗布した後、
図7に示すように、保護ケース422内のポッティング材424を硬化させる(ポッティング材塗布硬化工程S108)。なお、コイル404は三相巻線で、ターミナル420は、U相に対応するU相ターミナル4201、V相に対応するV相ターミナル4202、W相に対応するW相ターミナル4203がある。また、
図7に示すように、三相の中性点にはターミナル420として三相のアルミニウム導線421を連結するバスバー4204が配置される。その後、ポッティング材424の硬化を待って、ステータ400の組付け工程は完成する。
【0029】
次に、コイル皮膜絶縁検査S104を説明する。このコイル皮膜絶縁検査S104には、
図8に示すような絶縁検査装置500を用いる。絶縁検査装置500は、ステータ400が装填される真空チャンバ501を有している。真空チャンバ501はワーク(ステータ400)が保持できる大きさで、例えば、幅が30~40センチメートル程度、高さが30センチメートル程度である。真空チャンバ501は真空ポンプ502に真空通路503を介して接続しており、真空ポンプ502によって、真空チャンバ501内の圧力は50~60トール(Torr)程度の低圧に保持される。
【0030】
真空通路503には真空計504と真空バルブ505が配置されている。真空計504によって、真空チャンバ501内の圧力が計測される。真空バルブ505は真空通路503と大気との導通を制御することで、真空チャンバ501内の圧力変動を抑える動作を行う。真空ポンプ502は絶縁検査装置500の作動中は常時運転している。そして、真空チャンバ501を開いて、真空チャンバ501内にステータ400を配置する時には真空バルブ505を閉じる。これにより、ステータ400を配置後、真空チャンバ501を閉じれば、真空チャンバ501内の圧力を早期に50~60トール程度まで低下させることができる。そして、真空チャンバ501内の圧力が50~60トール程度まで低下すると、真空バルブ505が開いて、真空チャンバ501内の圧力が低下し過ぎるのを防ぐことができる。
【0031】
真空チャンバ501内には、ステータ400を保持するワーク保持台506が設けられている。真空チャンバ501を開いた状態で、ステータ400がこのワーク保持台506の上に載置される。真空チャンバ501内には、ワーク保持台506に保持されたステータ400のコイル404に対応する位置に一対のプローブホルダが配置されている。
図8では、コイル404の下側に下部プローブホルダ510が配置され、コイル404の上側に上部プローブホルダ520が配置されている。
【0032】
図9に示すように、下部プローブホルダ510は、下部バスバー511に多数の下部プローブ512が配置されている。下部プローブ512の数はコイル404の数の2倍となっている。この例では、コイル404が18本であるので、下部プローブ512の数は36本となる。下部プローブ512の先端は高圧印加時にコロナ放電がしやすくなるよう、鋭角となって尖っている。
【0033】
上部プローブホルダ520は、下部プローブホルダ510と対称となる形状をしており、上部バスバー521に36本の上部プローブ522が配置されている。従って、下部プローブ512と上部プローブ522はコイル404を挟んで反対の位置に配置される。なお、下部プローブホルダ510と上部プローブホルダ520は、夫々
図9の左右に分かれて一対に形成されている。これは、ワーク(ステータ400)をセットしやすくするためである。左右に分離することで、ワークをセットする際に下部プローブ512や上部プローブ522と干渉しにくくしている。より具体的には、真空チャンバ501が開く際には、一対となっている下部プローブホルダ510と上部プローブホルダ520も移動して、ワークの装着や脱着が容易に行えるようにしている。ただ、下部プローブホルダ510も上部プローブホルダ520も、分離することなく一体に構成することは可能である。
【0034】
ワーク保持台506は段付き円柱形状をしており、ステータ400の基盤部401の貫通穴を貫通し、ステータ400の基盤部401を用いて、ステータ400とワーク保持台506との位置合わせが行われる。そして、ワーク保持台506にステータ400が載置された状態で、ワーク保持具507がステータ400を上方から押さえる。即ち、ワーク保持具507が押さえ蓋として働いて、ステータ400をワーク保持台506の上にしっかりと固定する。
【0035】
ステータ400がワーク保持台506に載置された状態では、コイル404のアルミニウム導線421の巻始端4210と巻終端4211とは、上部プローブホルダ520より更に上方に引き回されている。これは、巻始端4210及び巻終端4211を上部プローブ522の放電範囲の外に配置するためである。仮に、絶縁皮膜がされていない巻始端4210や巻終端4211が上部プローブ522の放電範囲内にあれば、正しく絶縁判定をすることができなくなってしまう。本例では、上方に引き回すことで誤判断を防いでいる。なお、
図9では、アルミニウム導線421の巻始端4210と巻終端4211が夫々1本しか記載していないが、巻始端4210と巻終端4211の数はコイル404が単相であるのか、二相若しくは三相であるのかにより異なる。また、三相であるとしても、U相、V相、W相に対応する巻始端4210と巻終端4211の数はコイル404の巻装の仕方により異なる。ただ、いずれの場合でも、巻始端4210と巻終端4211で2本以上が、上方に引き回されることとなる。
【0036】
図10に示すように、下部バスバー511及び下部プローブ512は、下部カバー513によって覆われている。また、上部プローブホルダ520でも上部プローブ522は上部カバー523により覆われている。下部カバー513及び上部カバー523により、下部プローブ512や上部プローブ522からの放電がコイル404以外の方向に向かわないようにしている。併せて、下部カバー513及び上部カバー523を配置することで、ワーク(ステータ400)が下部プローブホルダ510や上部プローブホルダ520に接触するのを防いでいる。
【0037】
図11に絶縁検査装置500の電気回路を説明する。アルミニウム導線421の巻始端4210と巻終端4211はグランド線531によりグランド530に接地している。上部バスバー521及び下部バスバー511は高圧線532により直流電源533の高圧端子に接続している。高圧線532には抵抗534とスイッチ535が配置されている。なお、グランド線531と高圧線532との間には電圧計536も配置されている。直流電源533の高圧は、アルミニウム導線421の皮膜に損傷を与えない範囲で、できる限り高圧としており、例えば、4000ボルト程度の電圧としている。また、電気的にはアルミニウム導線421のみが接続されているので、下部プローブ512及び上部プローブ522からのコロナ放電は専らコイル404(アルミニウム導線421)の皮膜の欠損部にのみ向かうこととなる。その為、コイル404以外のステータ400が高圧電圧の影響を受けることは無い。その結果、ステータ400の内、コイル404以外の部位に起因する影響を受けて、絶縁検査装置500が電圧降下等の誤判断することも無い。
【0038】
図12はスイッチ535の開閉動作に伴う、下部プローブ512及び上部プローブ522への印加電圧の変化を示す。スイッチ535がオフの場合には、上部バスバー521にも下部バスバー511にも通電されておらず。上部プローブ522及び下部プローブ512の電圧は零である。そして、上部プローブ522及び下部プローブ512からコロナ放電させる際には、4000ボルト程度の高圧を2~3秒程度印加する。
【0039】
上述のように、上部プローブ522及び下部プローブ512はステータ400のコイル404に対して同じ位置に対応して配置されている。
図13は上部プローブ522及び下部プローブ512の配置位置の一例を示している。この例では、上部プローブ522及び下部プローブ512はコイル404の周方向の中心位置に配置されている。そして、各コイル404の軸方向に離れて、軸方向内側と軸方向外側に配置されている。上述の通り、18本のコイル404に対して、上部プローブ522及び下部プローブ512はそれぞれ36本配置されている。
【0040】
4000ボルト程度の高圧を印加すると、コロナ放電が届く距離は下部プローブ512及び上部プローブ522の先端から20ミリメートル程度となる。このコロナ放電が届く距離を踏まえて、本例では上部プローブ522及び下部プローブ512の先端とコイル404との距離を7ミリメートル程度に設定している。なお、コイル404との距離とは、コイル404の内、下部プローブ512及び上部プローブ522の先端と最も近い位置までの距離である。
【0041】
コロナ放電をする際に、アルミニウム導線421の皮膜が完全に絶縁していればアルミニウム導線421の巻始端4210と巻終端4211と上部プローブ522及び下部プローブ512との間で電流は流れず、電圧計536は4000ボルトを指すこととなる。逆に、アルミニウム導線421の皮膜が不完全で絶縁がされていなければ、電圧計536は0ボルトを指すこととなる。本例では、この電圧計536の電圧低下の程度を判断して、電圧の低下量が所定の閾値以内であれば、コイル404の絶縁は保たれていると判断する。一例として、電圧の低下量が20パーセント未満であれば、コイル404の絶縁性は使用に耐えられると判断する。従って、本開示では絶縁性能の判定部はこの電圧計536を用いることとなる。
【0042】
絶縁検査装置500を用いたコイル404の絶縁検査方法の工程は以上の繰り返しである。簡潔に繰り返すと、まず、真空チャンバ501を開いてワーク保持台506にステータ400を載置し、ステータ400をワーク保持具507で保持する。次いで、真空チャンバ501を閉じ、真空ポンプ502で真空チャンバ501内の圧力を低下させ、50~60トール程度に真空引きできると、上部バスバー521及び下部バスバー511に4000ボルト程度の高圧を2~3秒程度印加する。この高圧の直流電流印加時の電圧降下を電圧計536で測定して、コイル404の絶縁性能の良否を判断する。その後、真空チャンバ501からステータ400を取り出す。このステータ400の載置から取出し迄の一連の工程は、20~30秒程度のサイクルで行う。
【0043】
なお、上述の例では、真空チャンバ501内の圧力を50~60トールとしていたが、真空引きの程度は、ステータ400の大きさに応じて変更する。何故なら、上記のように、コロナ放電が届く距離は下部プローブ512及び上部プローブ522の先端から20ミリメートル程度であるからである。かつ、上記のように、下部プローブ512及び上部プローブ522の先端とコイル404との距離を所定距離(7ミリメートル程度)に設定しているからである。その為、コイル404の軸方向厚さが薄くなれば、真空引きの程度が少なくても、換言すれば、真空チャンバ501内の圧力が50~60トールより高くても、コロナ放電を利用した絶縁検査は可能となる。
【0044】
図15に、良好な絶縁検査を行うことができるコイル404の軸方向厚さと、真空チャンバ501内の圧力との関係を示す。縦軸がコイル404の軸方向厚さ(ミリメートル)で、横軸は真空チャンバ501内の圧力(トール)である。なお、コイル404の軸方向厚さとは、コイル404の内、下部プローブ512の先端と最も近い位置から上部プローブ522の先端と最も近い位置までの距離である。
【0045】
図15に示すように、コイル404の軸方向厚さが15ミリメートル程度であれば、真空チャンバ501内の圧力は100トール程度まで高くすることができる。逆に、コイル404の軸方向厚さが30ミリメートル程度と厚くなれば、真空チャンバ501内の圧力は50トールより更に低くすることが求められる。本件の開示は、下部プローブ512や上部プローブ522の数を増やしたり、下部プローブ512及び上部プローブ522の先端とコイル404との距離を短くしたりして、真空チャンバ501内の圧力を50トールより低くしないようにしている。
【0046】
また、上述したのは本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。例えば、コイル404の数を18としたのは一例であり、コイル404の数は他に変更できる。また、上述の例では、コイル404の巻装を説明していないが、コイル404は集中巻としても分布巻としても、また、軸巻としてもよい。
【0047】
更に、導線421を巻装しないでコイル404を形成することも可能である。例えば、ヘアピン形状をしたセグメント線を多数用意して、隣接するセグメント線同士を溶接することで、コイル404を形成することも可能である。この場合、隣接するセグメント線の溶接時に絶縁皮膜が除去されることとなるので、溶接後に改めて絶縁塗装を行う。従って、セグメント線の溶接後であっても、更に絶縁塗装を施した後であれば、本開示の絶縁検査装置500を用いて検査することができる。
【0048】
また、上述の例では導線421をアルミニウム系材料で説明したが、銅系材料でも良いのは既述の通りである。上部プローブ522及び下部プローブ512をコイル404の周方向の略中心の部位と対向させたが、コイル404と対向する場合必ずしも周方向の中心である必要がない。また、
図14に示すように、上部プローブ522及び下部プローブ512の先端を隣接するコイル404の間に配置するようにしても良い。この場合でも、上部プローブ522及び下部プローブ512の先端とコイル404との間には所定の距離を保つようにしている。この所定の距離も、7ミリメートル程度は一例であり、要求される絶縁性能等に応じて適時設定する。複数の上部プローブ522及び下部プローブ512により形成されるコロナ放電の範囲内に、コイル404の全体が入っていれば良い。
【0049】
更に、上述の例では、上部プローブ522及び下部プローブ512を1つのコイル404に対して2つ用いていた。コイル404の径方向内側の小径部分と、径方向外側の大径部分に対応させることができて、望ましい配置である。但し、1つのコイル404に対して上部プローブ522及び下部プローブ512を2つ設けることは必須ではない。1つのコイル404に対して上部プローブ522及び下部プローブ512を1つとすることも可能である。逆に、1つのコイル404に対して上部プローブ522及び下部プローブ512を3つ以上設けても良い。但し、1つのコイル404に対して設ける上部プローブ522及び下部プローブ512の数は、全てのコイル404で同じとするのが望ましい。従って、上部プローブ522及び下部プローブ512の数は、コイル404の数の自然数倍となるのが望ましい。
【0050】
また、上述の例では、上部プローブ522と下部プローブ512とを用いて、コイル404の両側に配置していた。両側に配置することで、電解強度を大きくする必要がなくなっている。合わせて、真空チャンバ501内の圧力も大きく減圧する必要がなくなっている。ただ、コイル404の大きさや、形状、若しくは、要求される絶縁強度によっては、上部プローブ522と下部プローブ512のいずれかのみとすることは可能である。例えば、軸方向厚さが短いコイル404では、片側のみの配置も可能である。
【0051】
また、上述の例では回転電機1を二輪車の発電機や始動機に用いる例を示したが、スノーモービル等、二輪車以外の車両にも利用可能である。更に、乗り物以外に用いる各種モータとしても利用可能である。本開示の絶縁検査装置や絶縁検査方法は、各種の回転電機のコイルに用いることが可能で、利用範囲は限定されない。
【0052】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0053】
(技術的思想1)
真空ポンプにより内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空チャンバと、
この真空チャンバに配置され、周方向に複数配置された回転電機のコイルを保持するワーク保持台と、
前記真空チャンバ内で前記コイルの一面側及び他面側の少なくともいずれかの面側に配置され、複数のプローブを備え、前記プローブと前記コイルとの間に所定の距離を維持するプローブホルダと、
前記コイルの電位を基準電位とすると共に、前記プローブに所定の高圧を印加して前記コイルと前記プローブとの間でコロナ放電を行う電源回路と、
この電源回路の高圧印加時の電圧を測定して前記コイルの絶縁性能を判定する判定部と、
を備えることを特徴とするコイルの絶縁検査装置。
【0054】
(技術的思想2)
前記プローブは、前記コイルと対向する部位に配置される
ことを特徴とする技術的思想1に記載のコイルの絶縁検査装置。
【0055】
(技術的思想3)
前記プローブは、隣接する前記コイルの周方向の間と対向する部位に配置される
ことを特徴とする技術的思想1に記載のコイルの絶縁検査装置。
【0056】
(技術的思想4)
前記プローブの数は、前記コイルの数の自然数倍である
ことを特徴とする技術的思想1乃至3のいずれかに記載のコイルの絶縁検査装置。
【0057】
(技術的思想5)
前記プローブの前記コイルと対向する端部は、先細先端形状である
ことを特徴とする技術的思想1乃至4のいずれかに記載のコイルの絶縁検査装置。
【0058】
(技術的思想6)
真空ポンプにより真空チャンバの内部の圧力を50乃至60トールより高い圧力に保持する真空引き工程と、
周方向に複数配置された回転電機のコイルを前記真空チャンバに保持するワーク保持工程と、
複数のプローブを備えるプローブホルダを、前記真空チャンバ内で前記コイルの一面側及び他面側の少なくともいずれかの面側に、前記プローブと前記コイルとの間に所定の距離を維持するように配置するプローブ配置工程と、
前記コイルの電位を基準電位とすると共に、前記プローブに所定の高圧を印加して前記コイルと前記プローブとの間でコロナ放電を行うコロナ放電工程と、
このコロナ放電工程の電圧を測定して前記コイルの絶縁性能を判定する判定工程と、
を備えることを特徴とするコイルの絶縁検査方法。
【0059】
(技術的思想7)
前記コロナ放電工程では、前記プローブに直流電圧を印加する
ことを特徴とする技術的思想6に記載のコイルの絶縁検査方法。
【符号の説明】
【0060】
1 回転電機
400 ステータ
404 コイル
500 絶縁検査装置
501 真空チャンバ
502 真空ポンプ
506 ワーク保持台
512 下部プローブ
522 上部プローブ