(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118959
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】擁壁構造及び擁壁構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20240826BHJP
E01F 7/04 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
E02D29/02 305
E01F7/04
E02D29/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025580
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000228785
【氏名又は名称】日本サミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 佐智夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 芳弘
【テーマコード(参考)】
2D001
2D048
【Fターム(参考)】
2D001PA01
2D001PA06
2D001PC03
2D001PD05
2D048AA44
(57)【要約】
【課題】複数の擁壁を直線的や曲線的に配置が可能で、連結強度が強く、施工や部分的な擁壁の交換が容易な擁壁構造及び擁壁構造の施工方法を提供する。
【解決手段】本発明の擁壁構造は、複数のL型擁壁1がワイヤー状のワイヤロープ5で連結された擁壁構造であって、L型擁壁1のたて壁3には挿通孔4が形成され、ワイヤロープ5を隣接するL型擁壁1の挿通孔4に連続して挿通することにより形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の擁壁がワイヤー状の連結具で連結された擁壁構造であって、
前記擁壁のたて壁には挿通孔が形成され、
前記連結具を隣接する前記擁壁の前記挿通孔に連続して挿通したことを特徴とする擁壁構造。
【請求項2】
前記挿通孔が前記たて壁の厚さ方向に貫通していることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造。
【請求項3】
前記連結具が前記挿通孔の開口部で鈍角をなして屈曲していることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造。
【請求項4】
前記連結具が前記挿通孔の開口部で略直角をなして屈曲していることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造。
【請求項5】
前記連結具が前記挿通孔の開口部で鋭角をなして屈曲していることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造。
【請求項6】
前記連結具の端部が前記たて壁の壁面に沿った前記連結具に固定具により固定されていることを特徴とする請求項1に記載の擁壁構造。
【請求項7】
隣接する前記擁壁の近接部分において、前記連結具が前記擁壁の山側壁面に沿っていることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の擁壁構造。
【請求項8】
隣接する前記擁壁の近接部分において、前記連結具が前記擁壁の反山側壁面に沿っていることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の擁壁構造。
【請求項9】
緩衝部材を備え、
前記緩衝部材が前記連結具に固定されていることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の擁壁構造。
【請求項10】
前記たて壁に取り付け可能な付属体を備え、
前記付属体は、前記たて壁と反対側方向に膨出する湾曲形状を有することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の擁壁構造。
【請求項11】
複数の擁壁を並べて配置する工程と、
配置した前記擁壁のたて壁に形成された挿通孔に連結具を連続して挿通する工程と、
前記連結具の端部を前記たて壁の壁面に沿った前記連結具又は前記擁壁に固定する工程と、を有することを特徴とする擁壁構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落石、雪崩、崩落土等を受け止める擁壁構造及び擁壁構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストL型擁壁、逆L型擁壁、逆T型擁壁において、土圧や地盤沈下によって段差等が生じることを防止する目的で隣接する擁壁を連結金具による連結が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の連結金具(5)については詳細な説明がなされていないが、連結部にプレートを設け、当該プレートとボルトにより隣接する擁壁を連結する方法が行われている。
【0003】
落石、雪崩、崩落土等を受け止めるコンクリート防護擁壁は、衝撃作用が衝突した少数(又は単数)の擁壁に集中しがちである。落石の場合には1つの擁壁に落石が衝突することが多く、そのような場合には、衝撃力及び衝撃エネルギーを1つの擁壁で受け止めることとなり、受け止め可能な衝撃力及び衝撃エネルギーは限られる。そのため、受け止め可能な衝撃力及び衝撃エネルギーを大きくするためには、隣接する擁壁を連結して一体化し、複数の擁壁で衝撃力及び衝撃エネルギーを受け止める必要があり、擁壁の連結は重要な要素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような方法では、プレートとボルトの位置合わせが困難な場合があり、そのような場合には施工時の連結作業が非常に煩雑になるという問題があった。また、プレートとボルトでの連結では落石等の衝撃に対して連結強度が弱いという問題があった。
【0006】
また、コンクリート防護擁壁は、山の斜面と道路等との境界付近に設置されることが多く、曲線的に複数の擁壁を並べて設置可能とする必要がある。さらに、落石等の衝突によりコンクリート防護擁壁の一部が損傷した場合には、損傷した擁壁を交換する必要があるため、容易に交換可能であることが求められる。
【0007】
そこで本発明は、曲線的な配置が可能で、連結強度が強く、施工や交換が容易な擁壁構造及び擁壁構造の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の擁壁構造は、複数の擁壁がワイヤー状の連結具で連結された擁壁構造であって、前記擁壁のたて壁には挿通孔が形成され、前記連結具を隣接する前記擁壁の前記挿通孔に連続して挿通したことを特徴とする。
【0009】
本発明の擁壁構造の施工方法は、複数の擁壁を並べて配置する工程と、配置した前記擁壁のたて壁に形成された挿通孔に連結具を連続して挿通する工程と、前記連結具の端部を前記たて壁の壁面に沿った前記連結具又は前記擁壁に固定する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の擁壁構造によれば、複数の擁壁を容易かつ強固に連結可能である。また、複数の擁壁を直線的や曲線的に配置した場合でも連結可能である。さらに、一部の擁壁が損傷した場合であっても、損傷した擁壁を容易に交換することができる。
【0011】
本発明の擁壁構造の施工方法によれば、直線的や曲線的に配置した複数の擁壁を連結した擁壁構造を容易に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1のプレキャストL型擁壁の山側壁面側の斜視図である。
【
図2】実施形態1のプレキャストL型擁壁の反山側壁面側の斜視図である。
【
図3】実施形態1のワイヤロープの引き廻し方法を示す、(a)反山側でワイヤロープの端部を固定した平面説明図、(b)山側でワイヤロープの端部を固定した平面説明図である。
【
図4】実施形態2のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図5】実施形態3のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図6】実施形態4のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図7】実施形態5のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図8】実施形態6のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図9】実施形態7のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図10】実施形態8のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図11】実施形態9のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図12】実施形態10のプレキャストL型擁壁を山側方向に湾曲させて配置した状態を示す平面図である。
【
図13】実施形態10のプレキャストL型擁壁を反山側方向に湾曲させて配置した状態を示す平面図である。
【
図14】実施形態11のプレキャストL型擁壁、発泡体及び蛇篭の斜視図である。
【
図15】実施形態11の蛇篭及び吊りワイヤーの斜視図である。
【
図16】実施形態12のプレキャストL型擁壁及び蛇篭の側面図である。
【
図17】実施形態12のワイヤロープと蛇篭の連結方法を示す部分側面図である。
【
図18】実施形態13のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図19】実施形態14のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【
図20】実施形態15のワイヤロープの引き廻し方法を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明における好ましい擁壁の実施形態について、添付図面を参照して説明する。以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0014】
図1~
図3は、本発明の実施形態1を示しており、
図1及び
図2に示すように、擁壁であるコンクリート製のプレキャストL型擁壁1(以下、「L型擁壁1」という。)は、地面等に載置される底版2と、底版2に対して垂直に立設したたて壁3と、を有している。たて壁3には、たて壁3の厚さ方向(前後方向)に貫通する貫通孔である挿通孔4が複数(
図2では4箇所)形成されている。この挿通孔4には金属製のワイヤロープ5が挿通される。複数のL型擁壁1がワイヤロープ5により連結されることで擁壁構造が形成される。
【0015】
底版2は、たて壁3よりも後側(山側)に突き出たかかと版6と、たて壁3よりも前側(山側の反対側)に突き出たつま先版7と、を有する。かかと版6はつま先版7よりも長く形成されている。
【0016】
たて壁3は、平面視において、左右方向に長い矩形状に形成されている。また、たて壁3は、山側に対向する山側壁面8と、山側と反対側であって道路等に対向する反山側壁面9と、一側側壁面10と、他側側壁面11(
図3等を参照)を有している。
【0017】
本実施形態では、1つのL型擁壁1のたて壁3に、4つの挿通孔4A、4B、4C、4Dが形成されている。挿通孔4Aと挿通孔4Bは同一の高さに位置し、挿通孔4Cと挿通孔4Dは同一の高さに位置している。また、挿通孔4Aの真下の位置に挿通孔4Cが位置し、挿通孔4Bの真下の位置に挿通孔4Dが位置している。挿通孔4Aと挿通孔4Cは同径、同長であり、同一形状を有し、挿通孔4Bと挿通孔4Dは同径、同長であり、同一形状を有している。なお、挿通孔4は、L型擁壁1の製造時に形成してもよく、擁壁構造を施工する現場で形成してもよい。
【0018】
挿通孔4Aは、山側壁面8から反山側壁面9までたて壁3を直線的に貫通する孔であり、山側壁面8には挿通孔4Aの山側開口部12が形成され、反山側壁面9には挿通孔4Aの反山側開口部13が形成されている。また、挿通孔4Bは、山側壁面8から反山側壁面9までたて壁3を直線的に貫通する孔であり、山側壁面8には挿通孔4Bの山側開口部14が形成され、反山側壁面9には挿通孔4Aの反山側開口部15が形成されている。
【0019】
山側開口部12と山側開口部14の間隔M1は、反山側開口部13と反山側開口部15の間隔M2よりも長くなっており、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aと挿通孔4Bにより囲まれた部分が、平面視において等脚台形状を有している。以下、この部分を等脚台形状部16という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Bとたて壁3の一側側壁面10により囲まれた部分は、平面視において直角台形状を有している。以下、この部分を直角台形状部17という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aとたて壁3の他側側壁面11により囲まれた部分は、平面視において直角台形状を有している。以下、この部分を直角台形状部18という。なお、挿通孔4Cと挿通孔4Dとの関係は、挿通孔4Aと挿通孔4Bとの関係と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0020】
ワイヤー状の連結具であるワイヤロープ5は、挿通孔4A、4B、4C、4Dの直径よりも僅かに小径に形成されている。
図3(a)に示すように、本実施形態では、山側壁面8と反山側壁面9のうち、等脚台形状部16の上辺部21と、直角台形状部17の上辺部22と、直角台形状部18の上辺部23に沿うようにワイヤロープ5を挿通孔4A、4Bに挿通している。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で鈍角をなして屈曲している。なお、上辺部21は山側の反対側に対向し、上辺部22、23は山側に対向している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の上辺部21に沿ったワイヤロープ5に固定具であるワイヤクリップ25で固定する。このとき、ワイヤロープ5は、一側側壁面10と直角台形状部17の底辺部26に沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1上辺部21に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、ワイヤロープ5は、他側側壁面11と直角台形状部18の底辺部28に沿わせる。これにより、複数のL型擁壁1をワイヤロープ5により連結することができる。
【0021】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である直角台形状部18の上辺部23と直角台形状部17の上辺部22において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている。
【0022】
なお、1本のワイヤロープ5で連結するL型擁壁1の数は適宜選択可能であり、ワイヤロープ5で連結した複数のL型擁壁1を他のL型擁壁1と連結する場合には、ワイヤロープ5とワイヤクリップ25を使用して連結させればよい。
【0023】
図3(b)は、実施形態1の変形例であり、ワイヤロープ5の端部24が山側壁面8側でワイヤクリップ25により固定されている。これにより、道路等の反山側からの景観を損ない難くすることができる。本変形例では、ワイヤロープ5は、直角台形状部18の上辺部23に沿い、挿通孔4Aに挿通され、等脚台形状部16の上辺部21と、直角台形状部17の底辺部26と、一側側壁面10と、直角台形状部17の上辺部22と、等脚台形状部16の底辺部27に沿うように引き廻され、端部24が直角台形状部18の上辺部23に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定される。なお、ワイヤロープ5は、挿通孔4Bには挿通されない。
【0024】
図4は、実施形態1においてワイヤロープ5の引き廻し方法を変更した実施形態2を示している。この実施形態では、山側壁面8と反山側壁面9のうち、等脚台形状部16の底辺部27と、直角台形状部17の底辺部26と、直角台形状部18の底辺部28に沿うようにワイヤロープ5を挿通孔4A、4Bに挿通している。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で鋭角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の底辺部27に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と直角台形状部17の上辺部22にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1の底辺部27に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と直角台形状部18の上辺部23にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0025】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である直角台形状部18の底辺部28と直角台形状部17の底辺部26において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている。
【0026】
図5は、実施形態3を示している。本実施形態は、山側開口部12と山側開口部14の間隔M1が、反山側開口部13と反山側開口部15の間隔M2よりも短くなっている。そのため、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aと挿通孔4Bにより囲まれた部分が等脚台形状を有している。以下、この部分を等脚台形状部31という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Bとたて壁3の一側側壁面10により囲まれた部分は、平面視において直角台形状を有している。以下、この部分を直角台形状部32という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aとたて壁3の他側側壁面11により囲まれた部分は、平面視において直角台形状を有している。以下、この部分を直角台形状部33という。本実施形態では、等脚台形状部31の上辺部34、直角台形状部32の底辺部35、直角台形状部33の底辺部36が山側に対向している。なお、挿通孔4Cと挿通孔4Dとの関係は、挿通孔4Aと挿通孔4Bとの関係と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0027】
本実施形態では、山側壁面8と反山側壁面9のうち、等脚台形状部31の上辺部34と、直角台形状部32の上辺部37と、直角台形状部33の上辺部38に沿うようにワイヤロープ5を挿通孔4A、4Bに挿通している。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で鈍角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の上辺部34に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と直角台形状部32の底辺部35にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1の上辺部34に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。
【0028】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である直角台形状部33の上辺部38と直角台形状部32の上辺部37において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている。
【0029】
図6は、実施形態3においてワイヤロープ5の引き廻し方法を変更した実施形態4を示している。この実施形態では、山側壁面8と反山側壁面9のうち、等脚台形状部31の底辺部39と、直角台形状部32の底辺部35と、直角台形状部33の底辺部36に沿うようにワイヤロープ5を挿通孔4A、4Bに挿通している。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で鋭角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の底辺部39に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と直角台形状部32の上辺部37にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1の底辺部39に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と直角台形状部33の上辺部38にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0030】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である直角台形状部33の底辺部36と直角台形状部32の底辺部35において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている。
【0031】
図7は、実施形態5を示している。本実施形態は、山側開口部12と山側開口部14の間隔M1と、反山側開口部13と反山側開口部15の間隔M2が同一の長さとなっている。そのため、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aと挿通孔4Bにより囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を大長方形状部41という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Bとたて壁3の一側側壁面10により囲まれた部分は、平面視において長方形状を有している。以下、この部分を小長方形状部42という。また、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aとたて壁3の他側側壁面11により囲まれた部分は、平面視において長方形状を有している。以下、この部分を小長方形状部43という。大長方形状部41は、小長方形状部42と小長方形状部43よりも長手方向の長さが長くなっている。なお、挿通孔4Cと挿通孔4Dとの関係は、挿通孔4Aと挿通孔4Bとの関係と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0032】
本実施形態では、ワイヤロープ5が山側壁面8と反山側壁面9に交互に沿うように挿通孔4A、4Bに挿通されている。このとき、ワイヤロープ5は、大長方形状部41の山側と反対側の長辺部44(反山側壁面9)と、小長方形状部42の山側の長辺部45(山側壁面8)と、小長方形状部43の山側の長辺部46(山側壁面8)に沿うように挿通孔4A、4Bに挿通されている。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で略直角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の長辺部44に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と小長方形状部42の山側とは反対側の長辺部47にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1の長辺部44に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と小長方形状部43の山側とは反対側の長辺部49にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0033】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である小長方形状部43の山側長辺部46と小長方形状部42の山側長辺部45において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている。
【0034】
図8は、実施形態5においてワイヤロープ5の引き廻し方法を変更した実施形態6を示している。この実施形態でもワイヤロープ5が山側壁面8と反山側壁面9に交互に沿うように挿通孔4A、4Bに挿通されているが、ワイヤロープ5は、大長方形状部41の山側の長辺部48(山側壁面8)と、小長方形状部42の山側とは反対側の長辺部47(反山側壁面9)と、小長方形状部43の山側とは反対側の長辺部49(反山側壁面9)に沿うように挿通孔4A、4Bに挿通されている。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14と反山側開口部13、15で略直角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4Bに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の長辺部48に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と小長方形状部42の長辺部45にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)も同様に、反対側の一番端のL型擁壁1の長辺部48に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と小長方形状部43の長辺部46にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0035】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である小長方形状部43の反山側長辺部49と小長方形状部42の反山側長辺部47において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている。
【0036】
図9は、左右方向に1箇所の挿通孔4Eを形成した実施形態7を示している。平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Eと一側側壁面10により囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を右長方形状部51という。また、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Eと他側側壁面11により囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を左長方形状部52という。
【0037】
本実施形態では、一のL型擁壁1のたて壁3において、ワイヤロープ5が右長方形状部51の山側壁面8と、左長方形状部52の反山側壁面9に沿うように挿通孔4Eに挿通されており、その隣のL型擁壁1のたて壁3においては、ワイヤロープ5が右長方形状部51の反山側壁面9と、左長方形状部52の山側壁面8に沿うように挿通孔4Eに挿通されている。さらに隣のL型擁壁1のたて壁3においては、ワイヤロープ5が右長方形状部51の山側壁面8と、左長方形状部52の反山側壁面9に沿うように挿通孔4Eに挿通されている。すなわち、隣り合うL型擁壁1のワイヤロープ5の引き廻しが交互になった状態で複数のL型擁壁1が連結されて擁壁構造が形成されている。本実施形態においては、ワイヤロープ5は挿通孔4Eの山側開口部58Aと挿通孔4Eの反山側開口部58Bで略直角をなして屈曲している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の左長方形状部52の反山側壁面9に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と右長方形状部51の反山側壁面9にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)は、反対側の一番端のL型擁壁1の右長方形状部51の山側壁面8又は反山側壁面9に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と左長方形状部52の山側壁面8又は反山側壁面9にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0038】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である左長方形状部52の反山側壁面9と右長方形状部51の反山側壁面9において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている部分と、隣接するL型擁壁1の近接部分である左長方形状部52の山側壁面8と右長方形状部51の山側壁面8において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている部分が交互になっている。
【0039】
図10は、実施形態7においてワイヤロープ5の引き廻し方法を変更した実施形態8を示している。すなわち、一のL型擁壁1のたて壁3において、ワイヤロープ5が右長方形状部51の反山側壁面9と、左長方形状部52の山側壁面8に沿うように挿通孔4Eに挿通されており、その隣のL型擁壁1のたて壁3においては、ワイヤロープ5が右長方形状部51の山側壁面8と、左長方形状部52の反山側壁面9に沿うように挿通孔4Eに挿通されている。さらに隣のL型擁壁1のたて壁3においては、ワイヤロープ5が右長方形状部51の反山側壁面9と、左長方形状部52の山側壁面8に沿うように挿通孔4Eに挿通されている。すなわち、隣り合うL型擁壁1のワイヤロープ5の引き廻しが交互になった状態で複数のL型擁壁1が連結されて擁壁構造が形成されている。本実施形態においては、ワイヤロープ5は山側開口部58Aと反山側開口部58Bで略直角をなして屈曲している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の左長方形状部52の山側壁面8に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と右長方形状部51の山側壁面8にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)は、反対側の一番端のL型擁壁1の右長方形状部51の山側壁面8又は反山側壁面9に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と左長方形状部52の山側壁面8又は反山側壁面9にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0040】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である左長方形状部52の山側壁面8と右長方形状部51の山側壁面8において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている部分と、隣接するL型擁壁1の近接部分である左長方形状部52の反山側壁面9と右長方形状部51の反山側壁面9において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている部分が交互になっている。
【0041】
図11は、左右方向に4箇所の挿通孔4A、4B、4F、4Gを形成した実施形態9を示している。平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Bと一側側壁面10により囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を第一長方形状部53という。また、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Bと挿通孔4Gにより囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を第二長方形状部54という。また、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Fと挿通孔4Gにより囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を第三長方形状部55という。また、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aと挿通孔4Fにより囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を第四長方形状部56という。また、平面視において、山側壁面8と反山側壁面9と挿通孔4Aと他側側壁面11により囲まれた部分が長方形状を有している。以下、この部分を第五長方形状部57という。
【0042】
本実施形態では、L型擁壁1のたて壁3において、ワイヤロープ5が第一長方形状部53の反山側壁面9と、第二長方形状部54の山側壁面8と、第三長方形状部55の反山側壁面9と、第四長方形状部56の山側壁面8と、第五長方形状部57の反山側壁面9に沿うように引き廻され挿通孔4A、4B、4F、4Gに挿通されている。そのため、ワイヤロープ5は山側開口部12、14、挿通孔4Fの山側開口部59A、挿通孔4Gの山側開口部60Aと反山側開口部13、15、挿通孔4Fの反山側開口部59B、挿通孔4Gの反山側開口部60Bで略直角をなして屈曲している。ワイヤロープ5は、隣接するL型擁壁1の挿通孔4A、4B、4F、4Gに連続して挿通され、隣り合うL型擁壁1を連結して擁壁構造を形成している。ワイヤロープ5の端部24は、一番端のL型擁壁1の第二長方形状部54の山側壁面8に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、一側側壁面10と第一長方形状部53の山側壁面8にもワイヤロープ5を沿わせる。ワイヤロープ5の反対側の端部(図示せず)は、反対側の一番端のL型擁壁1の第四長方形状部56の山側壁面8に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25で固定する。このとき、他側側壁面11と第五長方形状部57の山側壁面8にもワイヤロープ5を沿わせる。
【0043】
本実施形態では、隣接するL型擁壁1の近接部分である第五長方形状部57の反山側壁面9と第一長方形状部53の反山側壁面9において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている。
【0044】
図12及び
図13は、湾曲するように設置した複数のL型擁壁1を連結した実施形態10を示している。なお、
図12及び
図13で示すL型擁壁1は、底版2のかかと版6がたて壁3から遠ざかるにしたがって先細りの形状となっている。また、つま先版7を図示していない。
図12に示すL型擁壁1の擁壁構造は、山側壁面8側に屈曲するようにL型擁壁1が配置されており、
図13に示すL型擁壁1の擁壁構造は、反山側壁面9側に屈曲するようにL型擁壁1が配置されている。このように、L型擁壁1は、
図12及び
図13に示すように、湾曲して並べてもよく、
図3~
図11に示すように直線的に並べてもよい。また、波線状や、不均一な形状に並べてもよい。さらに、隣り合うL型擁壁1の間には、僅かな隙間が空いていてもよい。これは、隙間がある程度狭ければ、大きな落石や多くの土砂が通過できず、山側とは反対側にある道路等への落石や土砂崩れによる被害を防ぐことができるからである。そして、僅かな隙間が許容されることで、L型擁壁1を配置する際の位置決めに、高い精度が求められないため、施工が極めて容易となるという利点がある。
【0045】
図12及び
図13では、
図3に示す実施形態1のワイヤロープ5の引き廻しを採用しているが、
図4~
図11に示す実施形態2~実施形態9の挿通孔4とワイヤロープ5の引き廻しを採用してもよい。
【0046】
図3~
図13に示す実施形態1~10における挿通孔4とワイヤロープ5の引き廻しは、上下に一段でもよく複数段設けてもよい。複数段設ける場合には、全て同一の挿通孔4とワイヤロープ5の引き廻しとしてもよく、実施形態1~9を組み合わせたものとしてもよい。また、同じ段であっても、途中から異なる引き廻しとしたり、一部の区間(範囲)を異なる引き廻しとしたりすることもできる。さらに、同一の挿通孔4に複数本のワイヤロープ5を挿通して引き廻してもよく、この場合、それぞれのワイヤロープ5を全て同一の引き廻しとしてもよく、実施形態1~9を組み合わせたものとしてもよい。
【0047】
ここで、落石等の衝突によりL型擁壁1が損傷した場合のL型擁壁1の交換方法について説明する。まず、損傷したL型擁壁1を連結するワイヤロープ5を所定の位置で切断する。そして、ワイヤロープ5を挿通孔4から引き抜き、損傷したL型擁壁1を撤去する。次に、撤去したL型擁壁1を配置していた位置に新たなL型擁壁1を配置する。この配置したL型擁壁1の挿通孔4にワイヤロープ5を挿通し、切断したワイヤロープ5の端部をワイヤロープ5の所定の位置にワイヤクリップ25で固定する。なお、ワイヤロープ5の長さが足りない場合には、新たなワイヤロープ5を使用すればよい。このように、ワイヤロープ5はワイヤクリップ25を使用することで所望の位置に固定することができるため、擁壁構造のうち一部のL型擁壁1を交換することが容易である。
【0048】
L型擁壁1は、緩衝部材と共に設置される場合がある。
図14は、L型擁壁1に緩衝体を配設した実施形態11を示している。緩衝体は、第1の緩衝体である発泡体61と、第2の緩衝体である蛇篭62の2種類を使用している。この緩衝体は、上記実施形態1~10のL型擁壁1に用いることができる。
【0049】
発泡体61は、直方体形状を有し、上下重ねて複数段(
図14では3段)で使用される。なお、上下に積層する数は、たて壁3の高さや発泡体61の大きさ等を考慮して決定することができ、1段としてもよい。発泡体61の幅(左右方向の長さ)は、L型擁壁1の幅(左右方向の長さ)と略同一に形成されている。発泡体61は、発泡性合成樹脂ブロックからなり、その発泡性合成樹脂としては、発泡スチロール、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ウレタン等が例示される。
【0050】
蛇篭62は、中空の直方体形状に形成された金属製の篭体63に中詰め材64を収容したものである。篭体63は、所定以上の強度を有する合成樹脂等の他の素材により形成してもよい。中詰め材64としては、石、土砂や石と土砂の混合物が例示される。中詰め材64に土砂を用いる場合は、可撓性を有する布製の袋などに土砂を入れ、その複数の土砂入り袋を篭体63内に詰めるようにすればよい。また、石と土砂入り袋を混合して詰めるようにしてもよい。さらに、土砂流出防止マット(図示せず)により篭体63の網目を塞いで土砂や石と土砂の混合物を詰めるようにしてもよい。
【0051】
本実施形態では、蛇篭62を上下6段に重ねているが、上下に積層する数は、たて壁3の高さや蛇篭62の大きさ等を考慮して決定することができ、1段としてもよい。後述するように、上下の蛇篭62は、例えば、番線やクリップ等の連結部材65により連結されている。
【0052】
図15に示すように、篭体63には吊りロープ66が設けられている。吊りロープ66は、金属製のワイヤーにより形成されており、上端部分に環状の環状部67が形成されている。そのため、蛇篭62を移動させる際に、吊りワイヤー68を引っ掛け、クレーン等の重機で容易に持ち上げることができる。
【0053】
発泡体61は、たて壁3の山側壁面8に当接するように底版2のかかと版6に載置され、発泡体61よりも山側に蛇篭62が配置される。発泡体61は、たて壁3と蛇篭62に挟持されることで保持され、蛇篭62は自重で保持される。なお、発泡体61と蛇篭62は、例えば、棒状の連結部材等(図示せず)を使用してたて壁3に連結固定してもよい。
【0054】
図16及び
図17は、緩衝体として、発泡体61を使用せず、蛇篭62のみを使用した実施形態12を示している。なお、本実施形態では、L型擁壁1の底版2につま先版7が形成されていない。また、挿通孔4が上下4段構成となっている。本実施形態においても上記実施形態1~9又はそれらを組み合わせたワイヤロープ5の引き廻しを採用することができる。
【0055】
蛇篭62は上下4段の構成であり、隣り合う蛇篭62同士は連結部材65により連結されており、各蛇篭62は、連結部材65によりワイヤロープ5に連結されている。そのため、L型擁壁1と蛇篭62が一体化し、より広い範囲で衝撃エネルギーを吸収することができ、落石等に対する対応可能なエネルギー量を大きくすることができる。また、篭体63の経年変化等による過大な変形を防ぐ効果がある。
【0056】
図16では、ワイヤロープ5と蛇篭62を連結部材65で略水平に連結しているが、ワイヤー状の連結部材65を使用することで、
図17に示すように、ワイヤロープ5と蛇篭62が多少離れている場合には、連結部材65が水平ではなく斜めとなるように連結することもできる。
【0057】
図18は、たて壁3に着脱自在に取り付けられる付属体71を使用した実施形態13を示している。付属体71は、略半球形状を有しており、たて壁3の一側側壁面10や他側側壁面11に取り付けられる取付面部72と、取付面部72と反対側に形成された受面部73を有している。付属体71は、複数並べて配置されたL型擁壁1のうち、最両端のL型擁壁1の一側側壁面10と他側側壁面11に取り付けられる。付属体71は、取付面部72が一側側壁面10と他側側壁面11に当接するように取付金具等(図示せず)によりたて壁3に取り付けられることで、たて壁3と反対側方向に膨出する湾曲形状を有する。
【0058】
付属体71を使用しない場合には、たて壁3の角部74(
図18参照)付近でワイヤロープ5が略直角をなして屈曲する。そのため、ワイヤロープ5の屈曲する部分が僅かに損傷し易くなる。しかしながら、付属体71を使用し、湾曲形状を有する受面部73にワイヤロープ5を沿わせることで、ワイヤロープ5が略直角に屈曲することを回避できる。そのため、ワイヤロープ5の屈曲による損傷のリスクを低減することができる。なお、本実施形態の付属体71は略半球形状であるが、ワイヤロープ5の屈曲による損傷のリスクを低減することができる形状であれば、他の形状であってもよい。
【0059】
図19は、たて壁3に着脱自在に取り付けられる付属体76を使用した実施形態14を示している。付属体76は、湾曲した板状部材であり、たて壁3に取り付けると、たて壁3と反対側方向に膨出する湾曲形状を有する。付属体76は、たて壁3の山側壁面8と反山側壁面9にボルト等の取付部材77により取り付けられる。ワイヤロープ5を付属体76に沿わせることにより、ワイヤロープ5が略直角に屈曲することを回避できる。そのため、ワイヤロープ5の屈曲による損傷のリスクを低減することができる。
【0060】
付属体76の上下方向の長さは適宜決定することができ、上下方向に短く形成し、ワイヤロープ5を添わせる部分にのみ設けてもよく、上下方向に長く形成し、複数のワイヤロープ5を添わせてもよい。
【0061】
図20は、たて壁3に着脱自在に取り付けられる付属体81を使用した実施形態15を示している。付属体81は、鋼板82に2本の鋼管83を溶接等により接続したものである。鋼板82を最両端のL型擁壁1のたて壁3の一側側壁面10や他側側壁面11にボルト等の取付部材84で取り付けることで、鋼管83の外面がたて壁3と反対側方向に膨出する湾曲形状を有する。
【0062】
ワイヤロープ5を付属体81の鋼管83に沿わせることにより、ワイヤロープ5が略直角に屈曲することを回避できる。そのため、ワイヤロープ5の屈曲による損傷のリスクを低減することができる。付属体81の上下方向の長さは適宜決定することができ、上下方向に短く形成し、ワイヤロープ5を添わせる部分にのみ設けてもよく、上下方向に長く形成し、複数のワイヤロープ5を添わせてもよい。なお、鋼管83に換えて丸鋼を用いてもよい。
【0063】
以上のように、実施形態1~15の擁壁構造は、複数のL型擁壁1がワイヤー状のワイヤロープ5で連結された擁壁構造であって、L型擁壁1のたて壁3には挿通孔4が形成され、ワイヤロープ5を隣接するL型擁壁1の挿通孔4に連続して挿通したことにより、複数のL型擁壁1を容易に連結して擁壁構造を形成することができる。また、連結具としてワイヤロープ5を使用するため、L型擁壁1が直線的、湾曲的、波線状、不均一の何れの配置であってもワイヤロープ5の挿通孔4への挿通が容易であり、擁壁構造の施工が容易である。また、擁壁構造のうち、一部のL型擁壁1の交換も容易に行うことができる。
【0064】
また、実施形態1~15の擁壁構造は、挿通孔4がたて壁3の厚さ方向に貫通していることにより、例えば、挿通孔4がたて壁3の幅方向(左右方向)に貫通している場合と比較して、1つの挿通孔4に挿通するワイヤロープ5の長さが短く、挿通作業が非常に容易となる。
【0065】
また、主に実施形態1、3、10、13~15の擁壁構造は、ワイヤロープ5が挿通孔4の山側開口部12、14及び反山側開口部13、15で鈍角をなして屈曲している。そのため、擁壁構造に衝突した落石等によるエネルギーにより、ワイヤロープ5が直線状になり易く、衝突部から遠い位置のワイヤロープ5まで衝突のエネルギーが伝達し、より大きな衝突エネルギーを吸収することができる。また、ワイヤロープ5が挿通孔4の山側開口部12、14及び反山側開口部13、15で鈍角をなすような向きに挿通孔4が形成されているため、ワイヤロープ5を挿通孔4に挿通し易く、施工効率が高くなる。
【0066】
また、主に実施形態5~9、13~15の擁壁構造は、ワイヤロープ5が挿通孔4の山側開口部12、14、58A、59A、60A及び反山側開口部13、15、58B、59B、60Bで略直角をなして屈曲している。すなわち、挿通孔4が山側壁面8及び反山側壁面9に対して略直角に延びているため、挿通孔4がたて壁3内の鉄筋の位置に形成されないようにする配筋が容易である。または、鉄筋の位置を避けて挿通孔4を形成することが容易である。複数のL型擁壁1の連結強度は、ワイヤロープ5が鈍角をなして屈曲した場合と鋭角をなして屈曲した場合の中間となる。
【0067】
また、主に実施形態2、4、13~15の擁壁構造は、ワイヤロープ5が挿通孔4の山側開口部12、14及び反山側開口部13、15で鋭角をなして屈曲している。そのため、L型擁壁1とワイヤロープ5との摩擦により、連結した複数のL型擁壁1を強固に一体化することができる。
【0068】
また、実施形態1~13~15の擁壁構造は、ワイヤロープ5の端部24がたて壁3の壁面に沿ったワイヤロープ5にワイヤクリップ25により固定されていることにより、複数のL型擁壁1をワイヤロープ5で容易に一体化することができる。
【0069】
また、主に実施形態1、4、5、7、8,10、13~15の擁壁構造は、隣接するL型擁壁1の近接部分において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の山側壁面8に沿っている。そのため、たて壁3の中央部付近に落石等が衝突した場合に、L型擁壁1が大きく変位しなくとも、衝撃力や衝撃エネルギーを隣接するL型擁壁1に伝えることができる。また、隣接するL型擁壁1の近接部分に落石等が衝突した場合でも、衝突部以外ではL型擁壁1が大きく変位しなくとも、衝撃力や衝撃エネルギーを隣接するL型擁壁1に伝えることができる。
【0070】
また、主に実施形態2、3、6、7、8、9、13~15の擁壁構造は、隣接するL型擁壁1の近接部分において、ワイヤロープ5がL型擁壁1の反山側壁面9に沿っている。そのため、隣接するL型擁壁1の近接部分に落石等が衝突した場合であっても、L型擁壁1が大きく移動することなく落石等を強固に受け止めることができる。
【0071】
また、主に実施形態12の擁壁構造は、蛇篭62を備え、蛇篭62がワイヤロープ5に固定されている。そのため、ワイヤロープ5をL型擁壁1の連結だけでなく、蛇篭62をL型擁壁1に連結させるためにも使用することができる。
【0072】
また、実施形態13~15の擁壁構造は、たて壁3に取り付け可能な付属体71、76、81を備え、付属体71、76、81は、たて壁3と反対側方向に膨出する湾曲形状を有する。そのため、ワイヤロープ5が略直角に屈曲することを回避でき、ワイヤロープ5の屈曲による損傷のリスクを低減することができる。
【0073】
また、実施形態1~15の擁壁構造の施工方法は、複数のL型擁壁1を並べて配置する工程と、配置したL型擁壁1のたて壁3に形成された挿通孔4にワイヤロープ5を連続して挿通する工程と、ワイヤロープ5の端部24をたて壁3の壁面(山側側壁面8、反山側側壁面9)に沿ったワイヤロープ5又はL型擁壁1に固定する工程と、を有することにより、直線的、湾曲的、波線状又は不均一に配置された複数のL型擁壁1をワイヤロープ5で連結して擁壁構造を容易に施工することができる。
【0074】
本発明において、「擁壁」とは、防護擁壁、コンクリート擁壁、プレキャストコンクリート擁壁、L型擁壁、逆L型擁壁、逆T型擁壁を含むものとする。また、「ワイヤー状の連結具」とは、ワイヤロープ、繊維ロープ、針金、チェーン(鎖)を含むものとし、針金は複数本を使用する場合もある。
【0075】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、上記各実施形態では、ワイヤロープ5の端部24をワイヤクリップ25でワイヤロープ5に固定しているが、ワイヤロープ5の端部24は、他の固定具を使用して直接L型擁壁1(たて壁3)に固定してもよい。すなわち、挿通孔4に挿通されたワイヤロープ5がL型擁壁1に取り付けられた状態で保持されればよい。
【符号の説明】
【0076】
1 プレキャストL型擁壁(擁壁)
3 たて壁
4 挿通孔
4A 挿通孔
4B 挿通孔
4C 挿通孔
4D 挿通孔
4E 挿通孔
4F 挿通孔
4G 挿通孔
5 ワイヤロープ(連結具)
8 山側壁面(壁面)
9 反山側壁面(壁面)
12 山側開口部(開口部)
13 反山側開口部(開口部)
14 山側開口部(開口部)
15 反山側開口部(開口部)
24 端部
25 ワイヤクリップ(固定具)
58A 山側開口部(開口部)
58B 反山側開口部(開口部)
59A 山側開口部(開口部)
59B 反山側開口部(開口部)
60A 山側開口部(開口部)
60B 反山側開口部(開口部)
61 発泡体(緩衝部材)
62 蛇篭(緩衝部材)
71 付属体
72 取付面部
73 受面部