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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118963
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】溶接継手
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240826BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240826BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20240826BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20240826BHJP
   B23K 9/23 20060101ALN20240826BHJP
   B23K 9/00 20060101ALN20240826BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240826BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240826BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
H01M8/0612
B23K35/30 320B
B23K9/23 B
B23K9/00 501Z
H01M8/12 101
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025585
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 優馬
(72)【発明者】
【氏名】小林 稜
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA03
4E001DD02
4E001DD04
4E001EA01
4E001EA03
4E001EA05
4E001EA08
4E081YX12
4E081YX13
4E081YX15
5H126BB06
5H127AA01
5H127AA06
5H127AA07
5H127AC06
5H127EE25
(57)【要約】
【課題】オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、耐凝固割れ性と耐酸化性とに優れる溶接継手を提供する。
【解決手段】前記母材の化学組成は、質量%で、C:0.100%以下、Si:2.00~4.00%、Mn:3.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Ni:8.00~18.00%、Cr:17.00~23.00%、Mo:3.00%以下、Cu:3.00%以下、N:0.300%以下、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、前記溶接金属の化学組成が、質量%で、Si:1.50~3.00%を含み、[[Cr]+2[Si]-50[O]≧23.50]および[1.48≦([Cr]+1.37[Mo]+1.5[Si])/([Ni]+0.31[Mn]+22[C]+14.2[N]+[Cu])]式を満足する、溶接継手。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える溶接継手であって、
前記母材の化学組成は、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:2.00~4.00%、
Mn:3.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Ni:8.00~18.00%、
Cr:17.00~23.00%、
Mo:3.00%以下、
Cu:3.00%以下、
N:0.300%以下、
V:0~0.50%、
Nb:0~0.50%、
Ti:0~0.50%、
Zr:0~0.50%、
Hf:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Co:0~1.0%、
Al:0~3.0%、
Ca:0~0.010%、
Mg:0~0.010%、
Ga:0~0.010%、
B:0~0.0050%、
REM:0~0.050%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
Si:1.50~3.00%、を含み、
下記(i)および(ii)式を満足する、溶接継手。
[Cr]+2[Si]-50[O]≧23.50 ・・・(i)
1.48≦([Cr]+1.37[Mo]+1.5[Si])/([Ni]+0.31[Mn]+22[C]+14.2[N]+[Cu]) ・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、溶接金属中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【請求項2】
650℃で200時間、時効熱処理した場合に、溶接金属におけるσ相の平均面積率が10%以下である、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記母材の化学組成が、質量%で、
V:0.01~0.50%、
Nb:0.01~0.50%、
Ti:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
Hf:0.01~0.50%、
W:0.01~0.50%、
Co:0.01~1.0%、
Al:0.001~3.0%、
Ca:0.0001~0.010%、
Mg:0.0001~0.010%、
Ga:0.0001~0.010%、
B:0.0001~0.0050%、および
REM:0.001~0.050%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記母材の化学組成が、質量%で、
V:0.01~0.50%、
Nb:0.01~0.50%、
Ti:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
Hf:0.01~0.50%、
W:0.01~0.50%、
Co:0.01~1.0%、
Al:0.001~3.0%、
Ca:0.0001~0.010%、
Mg:0.0001~0.010%、
Ga:0.0001~0.010%、
B:0.0001~0.0050%、および
REM:0.001~0.050%、
から選択される一種以上を含有する、請求項2に記載の溶接継手。
【請求項5】
燃料改質器に用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
オーステナイト系ステンレス鋼を母材とした溶接継手は、耐食性、高温強度等の特性に優れるため、様々な部材に使用されている。このような溶接継手では、溶接時に発生する凝固割れが問題になることがある。そこで、例えば、特許文献1にあるように、凝固割れを抑制したオーステナイト系ステンレス鋼の溶接継手が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-167009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、環境負荷低減の観点から、燃料電池が注目されている。このような燃料電池の燃料改質器にもオーステナイト系ステンレス鋼の溶接継手を使用することが検討されている。上記燃料改質器に使用される場合、長時間、比較的高い温度に曝されることから、耐酸化性も要求される。しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接継手において、凝固割れを抑制しようとすると、耐酸化性が低下する場合があり、耐凝固割れ性と耐酸化性とを両立することは困難であるという課題がある。
【0005】
以上を踏まえ、本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、耐凝固割れ性と耐酸化性とに優れる溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の溶接継手を要旨とする。
【0007】
(1)オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える溶接継手であって、
前記母材の化学組成は、質量%で、
C:0.100%以下、
Si:2.00~4.00%、
Mn:3.00%以下、
P:0.040%以下、
S:0.0040%以下、
Ni:8.00~18.00%、
Cr:17.00~23.00%、
Mo:3.00%以下、
Cu:3.00%以下、
N:0.300%以下、
V:0~0.50%、
Nb:0~0.50%、
Ti:0~0.50%、
Zr:0~0.50%、
Hf:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Co:0~1.0%、
Al:0~3.0%、
Ca:0~0.010%、
Mg:0~0.010%、
Ga:0~0.010%、
B:0~0.0050%、
REM:0~0.050%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
Si:1.50~3.00%、を含み、
下記(i)および(ii)式を満足する、溶接継手。
[Cr]+2[Si]-50[O]≧23.50 ・・・(i)
1.48≦([Cr]+1.37[Mo]+1.5[Si])/([Ni]+0.31[Mn]+22[C]+14.2[N]+[Cu]) ・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、溶接金属中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【0008】
(2)650℃で200時間、時効熱処理した場合に、溶接金属におけるσ相の平均面積率が10%以下である、上記(1)に記載の溶接継手。
【0009】
(3)前記母材の化学組成が、質量%で、
V:0.01~0.50%、
Nb:0.01~0.50%、
Ti:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
Hf:0.01~0.50%、
W:0.01~0.50%、
Co:0.01~1.0%、
Al:0.001~3.0%、
Ca:0.0001~0.010%、
Mg:0.0001~0.010%、
Ga:0.0001~0.010%、
B:0.0001~0.0050%、および
REM:0.001~0.050%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の溶接継手。
【0010】
(4)燃料改質器に用いられる、上記(1)~(3)のいずれかに記載の溶接継手。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オーステナイト系ステンレス鋼を母材とし、耐凝固割れ性と耐酸化性とに優れる溶接継手を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、耐凝固割れ性と耐酸化性とに優れる溶接継手について検討を行い、以下の知見を得た。
【0013】
(a)溶接金属の耐酸化性は、CrおよびSi含有量の増加とともに向上する。特に、Siは、選択的に内部酸化して合金と外層酸化物界面近傍にSiOを形成し、保護性の高いCrの連続層を形成する。このため、Siは1.5%以上含有させる必要がある。一方、O含有量が高いと、CrおよびSiが酸化物を形成するため、金属中のCrおよびSi含有量が減少して耐酸化性が劣化する。このため、相互に影響しあう、Cr、SiおよびOの含有量を制御する必要がある。そこで、溶接金属の耐酸化性を向上させるためには、溶接金属の化学組成が、[Cr]+2[Si]-50[O]≧23.50を満足するのが有効である。
【0014】
(b)上述したように、耐酸化性に向上に有効な一方、Siは耐凝固割れ性を劣化させる。従って、Siを一定量含有させつつも、耐凝固割れ性を向上するためには、溶融金属が、初晶フェライト相で凝固するように、組成範囲を制御する必要がある。すなわち、溶接金属の化学組成が、1.48≦([Cr]+1.37[Mo]+1.5[Si])/([Ni]+0.31[Mn]+22[C]+14.2[N]+[Cu])を満足する必要がある。
【0015】
(c)さらに、Siは過剰に含有させると、σ相の析出を著しく促進させる。使用中(約650℃)にσ相が析出すると、その周囲にCr欠乏層が生じて局所的に耐酸化性が劣化する。このため、650℃で200時間時効した後の、溶接金属におけるσ相の面積率を10%以下にするのが好ましい。
【0016】
本発明の溶接継手の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態の溶接継手の各要件について詳しく説明する。
【0017】
1.溶接継手の構成
本実施形態の溶接継手は、オーステナイト系ステンレス鋼材からなる母材と、溶接金属とを備える。母材とは、溶接後の被溶接金属素材のことである。なお、母材には、溶接により入熱の影響を受ける溶接熱影響部を含む。従って、溶接熱影響部を除いた母材は、継手の素材となるオーステナイト系ステンレス鋼材(母鋼材)と同様の化学組成、金属組織、特性を有する。また、溶接金属とは、溶融金属が凝固し、接合部となった部分のことであり、溶接部とは、熱影響部および溶接金属を指す。
【0018】
2.母材の化学組成
上述したように、母材は、オーステナイト系ステンレス鋼材からなる。この母材の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0019】
C:0.100%以下
C(炭素)は、常温での強度を向上させる効果を有するが、Cが過剰に含有されると、延性が低下する。このため、C含有量は、0.100%以下である。C含有量は、0.080%以下であるのが好ましく、0.060%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.011%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。
【0020】
Si:2.00~4.00%
Si(ケイ素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、Si含有量は、2.00%以上である。Si含有量は、2.50%以上であるのが好ましく、3.00%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Siが過剰に含有されると、σ相が析出しやすくなり、耐酸化性が、却って低下する。このため、Si含有量は、4.00%以下である。Si含有量は、3.70%以下であるのが好ましく、3.50%以下であるのがより好ましい。
【0021】
Mn:3.00%以下
Mn(マンガン)は、オーステナイト相の安定性を高め、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、延性および靭性が低下する。このため、Mn含有量は、3.00%以下である。Mn含有量は、2.00%以下であるのが好ましく、1.50%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0022】
P:0.040%以下
P(リン)は不純物として、熱間加工性および靭性を低下させる。また、溶接性を低下させる。このため、P含有量は、0.040%以下である。P含有量は極力低減することが好ましいが、極端なPの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、P含有量は、0.010%以上であるのが好ましい。
【0023】
S:0.0040%以下
S(硫黄)は不純物として、鋼中に含有され、熱間加工性および延性を低下させる。このため、S含有量は、0.0040%以下である。S含有量は極力低減することが好ましいが、極端なSの低減は、製造コストの増加に繋がる。このため、S含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0024】
Ni:8.00~18.00%
Ni(ニッケル)は、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、高温強度を向上させる効果も有する。このため、Ni含有量は、8.00%以上である。Ni含有量は、10.00%以上であるのが好ましく、12.00%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Niが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Ni含有量は、18.00%以下である。Ni含有量は、16.00%以下であるのが好ましく、14.00%以下であるのがより好ましい。
【0025】
Cr:17.00~23.00%
Cr(クロム)は、耐食性を向上させる効果を有する。また、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、17.00%以上である。Cr含有量は、18.00%以上であるのが好ましく、19.00%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Crが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。このため、Cr含有量は、23.00%以下である。Cr含有量は、22.00%以下であるのが好ましく、21.00%以下であるのがより好ましい。
【0026】
Mo:3.00%以下
Mo(モリブデン)は、耐食性、常温での強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Moが過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、製造性も低下する。このため、Mo含有量は、3.00%以下である。Mo含有量は、2.00%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.10%以上であるのが好ましい。
【0027】
Cu:3.00%以下
Cu(銅)は、オーステナイト相を安定化させ、耐食性および強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、熱間加工性および溶接性が低下する。このため、Cu含有量は、3.00%以下である。Cu含有量は、2.00%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.10%以上であるのが好ましい。
【0028】
N:0.300%以下
N(窒素)は、オーステナイト相を安定化させ、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Nが過剰に含有されると、延性が低下する。このため、N含有量は、0.300%以下である。N含有量は、0.250%以下であるのが好ましく、0.200%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は、0.013%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。
【0029】
上記の元素に加えて、さらにV、Nb、Ti、Zr、Hf、W、Co、Al、Ca、Mg、Ga、B、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0030】
V:0~0.50%
V(バナジウム)は、母材中で固溶する、または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、炭窒化物が過剰に形成し、熱間加工性が低下する。そのため、V含有量は、0.50%以下である。V含有量は、0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0031】
Nb:0~0.50%
Nb(ニオブ)は、強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Nb含有量は、0.50%以下である。Nb含有量は、0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0032】
Ti:0~0.50%
Ti(チタン)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiが過剰に含有されると、延性および靭性が低下する。このため、Ti含有量は、0.50%以下である。Ti含有量は、0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0033】
Zr:0~0.50%
Zr(ジルコニウム)は、酸化物等を形成し、母材の清浄性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、却って、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Zr含有量は、0.50%以下である。Zr含有量は、0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上であるのがより好ましい。
【0034】
Hf:0~0.50%
Hf(ハフニウム)は、高温強度および耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Hfが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Hf含有量は、0.50%以下である。Hf含有量は、0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Hf含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0035】
W:0~0.50%
W(タングステン)は、強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Wが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.50%以下である。W含有量は、0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0036】
Co:0~1.0%
Co(コバルト)は、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、高温強度および耐酸化性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Co含有量は、1.0%以下である。Co含有量は、0.5%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.1%以上であるのがより好ましい。
【0037】
Al:0~3.0%
Al(アルミニウム)は、脱酸効果を有する元素である。また、耐酸化性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Al含有量は、3.0%以下である。Al含有量は、2.0%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.5%以上であるのがより好ましい。
【0038】
Ca:0~0.010%
Ca(カルシウム)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、却って、熱間加工性が低下する。また、高温延性も低下する。このため、Ca含有量は、0.010%以下である。Ca含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0039】
Mg:0~0.010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸に有効な元素であり、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Mg含有量は、0.010%以下である。Mg含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0040】
Ga:0~0.010%
Ga(ガリウム)は、高温強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Ga含有量は、0.010%以下である。Ga含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0041】
B:0~0.0050%
B(ホウ素)は、粒界の強度を高め、高温での延性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、上記効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して、靭性等が低下しやすくなる。このため、B含有量は、0.0050%以下である。B含有量は、0.0030%以下であるのが好ましく、0.0025%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0042】
REM:0~0.050%
REM(希土類元素)は、熱間加工性および高温延性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、REM含有量は、0.050%以下である。REM含有量は、0.040%以下であるのが好ましく、0.030%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.005%以上であるのがより好ましい。
【0043】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0044】
本実施形態の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、母材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0045】
3.溶接金属の化学組成
溶接金属の化学組成において、以下の元素を含む。各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。なお、溶接金属の化学組成とは、溶接金属における平均の化学組成のことを意味する。
【0046】
Si:1.50~3.00%
Si(ケイ素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、Si含有量は、1.50%以上である。Si含有量は、1.70%以上であるのが好ましく、2.00%以上であるのがより好ましい。しかしながら、Siが過剰に含有されると、耐凝固割れ性が低下する。このため、Si含有量は、3.00%以下である。Si含有量は、2.80%以下であるのが好ましく、2.50%以下であるのがより好ましい。
【0047】
上記Si以外にも、溶接金属の化学組成において、C、Mn、Ni、Cr、Mo、Cu、N、O、PおよびS等の元素を以下の範囲で含んでもよい。
【0048】
C:0.100%以下
C(炭素)は、溶接金属の常温および高温での強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Cが過剰に含有されると、溶接金属の延性が低下する。このため、C含有量は、0.100%以下であるのが好ましい。C含有量は、0.080%以下であるのがより好ましく、0.060%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.011%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。
【0049】
Mn:3.00%以下
Mn(マンガン)は、オーステナイト相の安定性を高め、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、靭性が低下する。このため、Mn含有量は、3.00%以下であるのが好ましい。Mn含有量は、2.00%以下であるのがより好ましく、1.50%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0050】
Ni:18.00%以下
Ni(ニッケル)は、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、高温強度を向上させる効果も有する。しかしながら、Niが過剰に含有されると、耐凝固割れ性が低下する。このため、Ni含有量は、18.00%以下であるのが好ましい。Ni含有量は、16.00%以下であるのがより好ましく、14.00%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、8.00%以上であるのが好ましい。
【0051】
Cr:23.00%以下
Cr(クロム)は、耐食性を高める効果を有する。また、耐酸化性を向上させる効果も有する。しかしながら、Crが、過剰に含有されると、凝固割れが生じやすくなる。このため、Cr含有量は、23.00%以下であるのが好ましい。Cr含有量は、22.00%以下であるのが好ましく、21.00%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cr含有量は、18.00%以上であるのが好ましい。
【0052】
Mo:2.00%以下
Mo(モリブデン)は、耐食性および高温強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Moを過剰に含有させると、耐凝固割れ性が低下する。このため、Mo含有量は、2.00%以下であるのが好ましい。Mo含有量は、1.50%以下であるのがより好ましく、1.00%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0053】
Cu:2.00%以下
Cu(銅)は、耐食性および強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、耐凝固割れ性が低下する。このため、Cu含有量は、2.00%以下であるのが好ましい。Cu含有量は、1.50%以下であるのがより好ましく、1.00%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
【0054】
N:0.300%以下
N(窒素)は、オーステナイト相を安定化させ、強度を向上させる効果を有する。しかしながら、Nが過剰に含有されると、耐凝固割れ性が低下する。このため、N含有量は、0.300%以下であるのが好ましい。N含有量は、0.250%以下であるのがより好ましく、0.200%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、N含有量は、0.022%以上であるのが好ましく、0.030%以上であるのがより好ましい。
【0055】
O:0.0500%以下
O(酸素)は、溶接時にシールドガスから溶接金属中に含まれる不純物であり、耐酸化性の向上に有効なCrおよびSiと酸化物を形成することで、耐酸化性向上に寄与するCrおよびSiを消費させる。この結果、耐酸化性を低下させる。このため、O含有量は、0.0500%以下であるのが好ましい。Oは、極力低減することが好ましいが、例えば、MIG溶接等の場合、シールドガスから溶融金属にOが取り込まれ、溶接金属にOが混入してしまうことから、一般的には、O含有量は、0.0080%以上である。
【0056】
なお、PおよびSの含有量は、特に、限定されないが、各種機械的特性の観点から、P含有量は、0.040%以下であるのが好ましく、S含有量は、0.0040%以下であるのが好ましい。一方、これら元素の過度の低減は、製造コストを増加させるため、P含有量は、0.010%以上であるのが好ましく、S含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
【0057】
上記の元素に加えて、さらにV、Nb、Ti、Zr、Hf、W、Co、Al、Ca、Mg、Ga、B、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0058】
V:0~0.50%
V(バナジウム)は、溶接金属中で固溶する、または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、炭窒化物が過剰に形成し、靭性が低下する。そのため、V含有量は、0.50%以下とするのが好ましい。V含有量は、0.30%以下であるのがより好ましく、0.20%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0059】
Nb:0~0.50%
Nb(ニオブ)は、強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Nb含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、Nb含有量は、0.30%以下であるのがより好ましく、0.20%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0060】
Ti:0~0.50%
Ti(チタン)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiが過剰に含有されると、延性および靭性が低下する。このため、Ti含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましく、0.20%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0061】
Zr:0~0.50%
Zr(ジルコニウム)は、酸化物等を形成し、母材の清浄性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、却って、酸化物等が過剰に形成し、靭性が低下する。このため、Zr含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましく、0.10%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上であるのがより好ましい。
【0062】
Hf:0~0.50%
Hf(ハフニウム)は、高温強度および耐食性を高める効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Hfが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Hf含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのがより好ましく、0.10%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Hf含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0063】
W:0~0.50%
W(タングステン)は、強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Wが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましく、0.20%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.05%以上であるのがより好ましい。
【0064】
Co:0~1.0%
Co(コバルト)は、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。また、高温強度および耐酸化性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Co含有量は、1.0%以下であるのが好ましく、0.5%以下であるのがより好ましく、0.3%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上であるのが好ましく、0.1%以上であるのがより好ましい。
【0065】
Al:0~3.0%
Al(アルミニウム)は、脱酸効果を有する元素である。また、耐酸化性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alが過剰に含有されると、溶接性が低下する。このため、Al含有量は、3.0%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましく、1.0%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.5%以上であるのがより好ましい。
【0066】
Ca:0~0.010%
Ca(カルシウム)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、高温延性も低下する。このため、Ca含有量は、0.010%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましく、0.003%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0067】
Mg:0~0.010%
Mg(マグネシウム)は、脱酸に有効な元素であり、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、酸化物等が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Mg含有量は、0.010%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましく、0.003%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0068】
Ga:0~0.010%
Ga(ガリウム)は、高温強度および耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、溶接性も低下する。このため、Ga含有量は、0.010%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましく、0.003%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0069】
B:0~0.0050%
B(ホウ素)は、粒界の強度を高め、高温での延性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、上記効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して、靭性等が低下しやすくなる。このため、B含有量は、0.0050%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0025%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上であるのが好ましく、0.0005%以上であるのがより好ましい。
【0070】
REM:0~0.050%
REM(希土類元素)は、高温延性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、REM含有量は、0.050%以下であるのが好ましく、0.040%以下であるのがより好ましく、0.030%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.005%以上であるのがより好ましい。
【0071】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0072】
溶接金属の化学組成において、残部はFeおよび不純物であるのが好ましい。ここで「不純物」とは、溶接継手を工業的に製造する際に、原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0073】
(i)式
(i)式を構成するCrおよびSiは、耐酸化性の向上に寄与する。その一方、同様に(i)式を構成するOは、CrおよびSiと酸化物を形成することで、溶接金属中で、耐酸化性の向上に寄与するCrおよびSiを消費し、耐酸化性を低下させる。以上を踏まえ、溶接金属の化学組成は、下記(i)式を満足する必要がある。
【0074】
[Cr]+2[Si]-50[O]≧23.50 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、溶接金属中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【0075】
(i)式左辺値が23.50未満であると、耐酸化性の向上に寄与するCrおよびSiを十分確保できない。このため、(i)式左辺値は、23.50以上である。(i)式左辺値は、23.70以上であるのが好ましく、24.00以上であるのがより好ましい。なお、(i)式左辺値の上限は、特に、限定されないが、通常、27.00程度となる。
【0076】
(ii)式
耐酸化性を確保するために、溶接金属の化学組成において、Siを一定量含有させる必要があるが、Siは、耐凝固割れ性を低下させる。このため、溶接時に生成される溶融金属が、初晶フェライト相で凝固するような成分範囲とするのが好ましい。従って、溶接金属の化学組成は、下記(ii)式を満足する必要がある。
【0077】
1.48≦([Cr]+1.37[Mo]+1.5[Si])/([Ni]+0.31[Mn]+22[C]+14.2[N]+[Cu]) ・・・(ii)
但し、上記式中の各元素記号は、溶接金属中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【0078】
(ii)式右辺値が、1.48未満であると、初晶フェライト相で凝固しにくくなる結果、耐凝固割れ性が低下する。このため、(ii)式右辺値は、1.48以上である。(ii)式右辺値は、1.50以上であるのが好ましく、1.54以上であるのがより好ましい。なお、(ii)式右辺値の上限は、特に、限定されないが、通常、1.95程度となる。
【0079】
4.σ相の平均面積率
燃料改質器の使用環境は、650℃程度の高温である。このような温度で長時間に曝されると、溶接金属において、σ相が析出する場合がある。σ相が析出すると、その周囲にCr欠乏層が生じて局所的に耐酸化性が劣化する。σ相の形成は、極力低減されることが望ましい。このため、本実施形態の溶接継手では、650℃で200時間、時効熱処理した場合に、溶接金属におけるσ相の平均面積率が10%以下であるのが好ましい。
【0080】
650℃で200時間、時効熱処理した場合の、溶接金属におけるσ相の平均面積率が10%以下であると、耐酸化性の低下を抑制できる。650℃で200時間、時効熱処理した場合の、溶接金属におけるσ相の平均面積率は、極力低減されるのが好ましいが、通常、上記平均面積率の下限は、1%程度となる。
【0081】
650℃で200時間、時効熱処理した場合の、溶接金属におけるσ相の平均面積率は、以下の手順で測定される。最初に、表ビード表面が観察面とするような試料を採取する。採取された試料を650℃で、200時間、時効熱処理を行う。その後、試料の観察面を、KOH水溶液で電解エッチングし、光学顕微鏡で組織観察し、画像解析を行い、溶接金属におけるσ相の面積を算出する。これを、倍率400倍で10視野行い、溶接金属におけるσ相の面積を、総観察視野の面積で除して、百分率で表記したものを、σ相の平均面積率とする。
【0082】
5.用途
本実施形態の溶接継手は、燃料電池中で、水素製造を行う燃料改質器に用いられるのが好ましい。なお、燃料改質器中の種類は、特に、限定されず、SOFCであっても、PEFCであってもよい。
【0083】
6.製造方法
本実施形態の溶接継手は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0084】
最初に、溶接継手の素材となる母鋼材を用意する。母鋼材は、母材の化学組成と同様、その化学組成が、質量%で、C:0.100%以下、Si:2.00~4.00%、Mn:3.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Ni:8.00~18.00%、Cr:17.00~23.00%、Mo:3.00%以下、Cu:3.00%以下、N:0.300%以下、V:0~0.50%、Nb:0~0.50%、Ti:0~0.50%、Zr:0~0.50%、Hf:0~0.50%、W:0~0.50%、Co:0~1.0%、Al:0~3.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.010%、Ga:0~0.010%、B:0~0.0050%、REM:0~0.050%、残部:Feおよび不純物であり、オーステナイト系ステンレス鋼材であるのが好ましい。なお、オーステナイト系ステンレス鋼材の形状は、特に、限定されない。鋼板であっても、棒鋼であってもよい。
【0085】
また、溶接のために、母鋼材を加工し、母鋼材に開先を設けてもよい。開先形状は、特に限定されないが、例えば、I形、Y形、V形、U形などの形状がある。母鋼材の厚さについても特に限定されないが、通常、0.5~3.0mmの範囲であるのが好ましい。
【0086】
上記母鋼材に対し、溶接し、溶接継手を製造する。必要に応じて、溶接材料を用いてもよい。この際の溶接方法は、特に限定されないが、品質および生産性の観点からMIG溶接を用いるのが好ましい。その他の溶接法としては、TIG溶接法、被覆アーク溶接(SMAW)、フラックス入りワイヤアーク溶接(FCAW)、MAG溶接等が挙げられる。溶接材料の化学組成は、質量%で、C:0.100%以下、Si:0.50~2.00%、Mn:3.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0040%以下、Ni:5.00~25.00%、Cr:18.00~28.00%、Mo:2.00%以下、Cu:2.00%以下、N:0.250%以下を含有するのが好ましい。溶接の際の条件は、特に限定しない。常法に従えばよい。
【0087】
以下、実施例によって本発明に係る溶接継手をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0088】
表1に示す化学組成の母鋼材(オーステナイト系ステンレス鋼材)を用意し、表2に示す溶接材料を用いて、溶接継手を製造した。母鋼材は、板厚0.8mmのオーステナイト系ステンレス鋼板とした。溶接方法はMIG溶接とし、溶接条件は電流値90~130A、電圧値13~17V、溶接速度150cm/minとした。シールドガスにはAr+5%COガスを使用した。なお、母鋼材の化学組成は、母材の化学組成と同様である。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
得られた溶接継手において、650℃で200時間時効熱処理した場合の溶接金属のσ相の平均面積率、耐凝固割れ性、および耐酸化性を調べた。
【0092】
650℃で200時間、時効熱処理した場合の溶接金属のσ相の平均面積率は、以下の手順で測定された。最初に、表ビード表面が観察面とするような試料を採取した。採取された試料を650℃で、200時間、時効熱処理を行った。その後、試料の観察面を、KOH水溶液で電解エッチングし、光学顕微鏡で組織観察し、画像解析を行い、溶接金属におけるσ相の面積を算出した。これを、倍率400倍で10視野行い、溶接金属におけるσ相の面積を、総観察視野の面積で除して、百分率で表記したものを、σ相の平均面積率とした。
【0093】
耐凝固割れ性は、凝固割れが生じているか否かを目視で観察することで評価した。凝固割れが生じているものは、表中の耐凝固割れ性の項目を×と記載し、凝固割れが生じなかったものは、表中の耐凝固割れ性の項目を○と記載した。
【0094】
耐酸化性は、以下の手順で評価された。各溶接継手の溶接部から幅20mm、長さ30mmの酸化試験片を切り出した。このとき、酸化試験片の幅中央に溶接線が配置されるよう、すなわち試験片長手方向とビード方向が平行となるよう切り出した。酸化試験の雰囲気は、30%HO―10%CO-10%CO-bal.Nの雰囲気とした。当該雰囲気において、酸化試験片を650℃に加熱し、200時間保持した後に室温まで冷却し、外観観察を行った。耐酸化性は、異常酸化に起因する斑点(ノジュール)状の不均一な酸化物の発生数により判定した。すなわち、表面に清浄な酸化スケールが均一に形成し、斑点(ノジュール)状の酸化物が発生しない場合には表中の耐酸化性の項目を〇、斑点(ノジュール)状の酸化物が1個以下の場合には表中の耐酸化性の項目を△、斑点(ノジュール)状の酸化物が2個以上の場合には表中の耐酸化性の項目を×と記載した。本願では、〇および△の場合を合格と判断した。以下、結果を纏めて、表3に記載する。
【0095】
【表3】
【0096】
本実施形態の要件を満足するNo.1~7は、良好な耐凝固割れ性および耐酸化性が良好であった。一方、本実施形態の要件を満足しないNo.8~15は、耐凝固割れ性、および耐酸化性のうち、少なくとも一方が、不良であった。