(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118966
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】地盤注入材及び地盤注入工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/02 20060101AFI20240826BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20240826BHJP
C09K 17/08 20060101ALI20240826BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240826BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K17/08 P
C09K3/00 S
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025588
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】礒田 英典
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040AC05
2D040CA10
2D040CB03
4H026CA01
4H026CA02
4H026CA06
4H026CB02
4H026CB06
4H026CB07
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】1種又は2種以上の重金属等に汚染された土壌に良好な浸透性とゲル化時間を有し、1種又は2種以上の重金属等の溶出量を確実に土壌環境基準未満に不溶化できる経済的かつ効率的な地盤注入材を提供すること。
【解決手段】コロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと、(a)カルシウムアルミネート、(b)硫酸アルミニウム、(c)アルカリ金属リン酸塩、(d)還元成分及び(e)消石灰を含有し、全混合物の最大粒径が10.5μm以下であり、かつ粒径2.2μm以下の粒子が50体積%以下である溶出防止剤、分散剤並びに水からなるスラリーBとを混合してなる地盤注入材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと、(a)カルシウムアルミネート、(b)硫酸アルミニウム、(c)アルカリ金属リン酸塩、(d)還元成分及び(e)消石灰を含有し、全混合物の最大粒径が10.5μm以下であり、かつ粒径2.2μm以下の粒子が50体積%以下である溶出防止剤、分散剤並びに水からなるスラリーBとを混合してなる地盤注入材。
【請求項2】
前記カルシウムアルミネートが、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=0.9~1.4の結晶質カルシウムアルミネート及び/又はCaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートである請求項1記載の地盤注入材。
【請求項3】
前記スラリーBを構成する溶出防止剤(M)と水(W2)との割合が重量比(W2/M)で2.5~10.0である請求項1記載の地盤注入材。
【請求項4】
ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量が土壌環境基準を超える地盤に、請求項1~3のいずれか1項記載の地盤注入材を注入することを特徴とする、地盤注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種又は2種以上の重金属等で汚染された土壌・地盤を効率かつ限定的に不溶化、改質するための地盤注入材及び地盤注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の汚染は自然由来に起因するもの、あるいは工場跡地の土壌汚染調査によって判明する人為由来に起因するものなど様々なケースがある。いずれにしても人の健康や周辺環境に悪影響を及ぼす可能性があり、更なる汚染の拡大や人への健康被害は避けなければならない。
【0003】
このため、土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する土壌汚染対策の実施を図ることにより、国民の健康を保護することを目的として、2013年に土壌汚染対策法が施行された。したがって、土壌からの重金属等の溶出量基準の超過や含有量の超過汚染が確認され、地下水経由の摂取や口からの直接摂取等の健康リスクが脅かされる場合は、対象となる汚染土壌の遮水工、遮断工や盛土等による原位置封じ込め、セメントや薬剤等による不溶化、あるいは掘削除去、良質な土壌への入れ替え等を行わなければならない。
【0004】
土地の所有者・利用者からは、対策工として汚染源自体の除去を希望するケースも多く、汚染土壌の掘削除去を行う場合は、良質な土壌への入れ替えが必須となることから、掘削した汚染土壌の改質・適正処理や良質な土壌の確保など、対策コストが莫大になる可能性がある。
【0005】
このため、汚染土壌に含まれる有害な重金属等をセメント系固化材や各種薬剤を用いて無害化したり、固定化することによる汚染土壌の不溶化処理の採用事例も年々増加している。一方で、既設構造物等の直下に地下水が汚染された汚染土壌が存在するケースでは、汚染土壌の掘削除去工事が行えないことから、浸透性の良い薬液や地盤注入材の土粒子間隙への注入による汚染土壌不溶化のニーズが高まっている。しかしながら、地盤注入材は水ガラス系注入材が良く知られているが、シリカ分の溶脱による耐久性が低く、不溶化効果の期待はできない。また、近年では汚染土壌への地盤注入による検討が行われており、六価クロム汚染土壌を対象として、コロイダルシリカおよびタンニン酸、アミン類、ジフェノール類の中から選ばれる少なくとも1種のキレート剤からなる重金属不溶化剤(特許文献1)、ヒ素汚染土壌への注入を対象とした注入薬液とヒ素の拡散を防止する方法(特許文献2)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-249466号公報
【特許文献2】特開2012-228685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの地盤注入技術は、予め特定された1種類の重金属等による汚染土壌を対象としている技術であり、1種又は2種以上の重金属等による汚染土壌の不溶化に対応できるものではないという課題があった。
また、粉体系の地盤注入材は、水と混合して地盤注入材スラリーとし、汚染された土壌に注入されるが、汚染土壌・地盤の間隙に十分に浸透しないことが多かったり、地盤注入材が逸走してしまい、注入後に不溶化対象の地盤に存在しないなど、期待したほどの不溶化効果が得られないという課題もあった。
したがって、本発明の課題は、1種又は2種以上の重金属等に汚染された土壌に良好な浸透性とゲル化時間を有し、1種又は2種以上の重金属等の溶出量を確実に土壌環境基準未満に不溶化できる経済的かつ効率的な地盤注入材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の溶出量が土壌環境基準を超える地盤の不溶化を行うにあたり、コロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと、カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、アルカリ金属リン酸塩、還元成分及び消石灰を含有し、これら混合物の最大粒径が10.5μm以下であり、かつ2.2μm以下の粒子が50体積%以下となるように粒度分布を制御した溶出防止剤、分散剤並びに水からなるスラリーBとを混合してなるゲルタイムを有する地盤注入材を不溶化対象地盤に注入することによって、地盤注入材が逸走することなく、確実にこれら重金属等の溶出量を土壌環境基準値以下に低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の[1]~[4]に係るものである。
[1]コロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと、(a)カルシウムアルミネート、(b)硫酸アルミニウム、(c)アルカリ金属リン酸塩、(d)還元成分及び(e)消石灰を含有し、全混合物の最大粒径が10.5μm以下であり、かつ粒径2.2μm以下の粒子が50体積%以下である溶出防止剤、分散剤並びに水からなるスラリーBとを混合してなる地盤注入材。
[2]前記カルシウムアルミネートが、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=0.9~1.4の結晶質カルシウムアルミネート及び/又はCaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートである[1]記載の地盤注入材。
[3]前記スラリーBを構成する溶出防止剤(M)と水(W2)との割合が、重量比(W2/M)で2.5~10.0である[1]又は[2]記載の地盤注入材。
[4]ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量が土壌環境基準を超える地盤に、[1]~[3]のいずれかに記載の地盤注入材を注入することを特徴とする、地盤注入工法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の地盤注入材を用いて地盤注入工法を行えば、経済的かつ効果的な処方で、汚染土壌中のほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量を土壌環境基準値以下に低減することができる。このため、本発明は土壌汚染対策技術の一例として極めて有用な技術である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の地盤注入材はコロイダルシリカを含有するスラリーAと、溶出防止剤を含有するスラリーBとからなる地盤注入材である。
スラリーAに用いられるコロイダルシリカの平均粒径は、特に限定されないが、高アルカリ質になるのを防止し、強度発現性を良好にする観点から、好ましくは3~10nmであり、より好ましくは3~8nmである。平均粒径が極めて小さいコロイダルシリカは、一般にコロイド状態で安定させるため比較的多いアルカリイオンを必要とし、SiO2 /R2O(ここで、Rはアルカリ金属を示す)のモル比が5を下回って水ガラスに近くなり、高アルカリ質となる恐れがある。また平均粒径10nmを大きく超えるようなコロイダルシリカでは溶出防止剤との反応が遅れるため、強度発現性が低くなる恐れがある。
【0012】
本発明の地盤注入材は、コロイダルシリカを含有するスラリーAと溶出防止剤を含有するスラリーBとを混合した後に適切なゲル化時間を有することによって、注入後に逸走・流出することなく汚染された対象地盤を確実に土壌環境基準未満に不溶化することができる。ゲル化時間は、スラリーAとスラリーBの混合性が低下して注入効果が低くなるのを防止し、地盤注入材の逸走や流出を防止する観点から、1秒~5分であることが好ましく、3秒~4分であることがより好ましい。
ゲル化時間を設定するために、スラリーAにゲルタイム調整剤を使用することが望ましい。ゲルタイム調整剤としては特に制限されるものではないが、例えばアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩等の無機塩を挙げることができ、アルカリ金属炭酸水素塩の使用が好ましい。
ゲルタイム調整剤の添加量は、コロイダルシリカ100質量部に対して3.0~10.0質量部とするのが好ましく、5.0~8.0質量部とするのがより好ましい。
【0013】
コロイダルシリカを含有するスラリーAを作製する際のコロイダルシリカ(H)と水(W1)との割合は、重量比(W1/H)で0.8~1.2であることが良好なゲル化性状を得る点で好ましい。
【0014】
一方、本発明の地盤注入材は、スラリーBに溶出防止剤を用いることを特徴とする。溶出防止剤は、(a)カルシウムアルミネート、(b)硫酸アルミニウム、(c)アルカリ金属リン酸塩、(d)還元成分及び(e)消石灰を含有する。溶出防止剤について次に詳細に説明する。
【0015】
溶出防止剤に用いる(a)カルシウムアルミネートは、基本的にはCaO原料とAl2O3原料を熱処理することにより得られる物質である。カルシウムアルミネートは、化学成分としてCaOとAl2O3からなる結晶質やガラス化が進んだ構造の水和活性物質であれば良く、CaOとAl2O3に加えて他の化学成分が加わった化合物、固溶体、ガラス質物質又はこれらの混合物等でもよい。前者(結晶質)としては、例えば12CaO・7Al2O3、CaO・Al2O3、3CaO・Al2O3、CaO・2Al2O3、CaO・6Al2O3等が挙げられ、後者(ガラス質)としては、例えば、4CaO・3Al2O3・SO3、12CaO・7Al2O3、11CaO・7Al2O3・CaF2、Na2O・8CaO・3Al2O3等が挙げられる。
【0016】
さらに、溶出防止剤に用いるカルシウムアルミネートとしては、結晶質カルシウムアルミネート又は非晶質カルシウムアルミネートが好ましく、双方を併用することも好ましい。汚染土壌中の前記汚染成分の十分な不溶化効果を得る点から、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=0.9~1.4の結晶質カルシウムアルミネートと、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートであることがより好ましい。また、非晶質カルシウムアルミネートのみを用いる場合は、CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.7である12CaO・7Al2O3を主成分とするものが好ましい。
【0017】
CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=0.9~1.4の結晶質カルシウムアルミネートは、CaO源とAl2O3源をそれぞれCaO換算及びAl2O3換算して当該モル比の範囲になるように混合したものを、例えば1600℃で加熱し、これを徐冷すれば得られる。また、徐冷は、加熱装置内での自然放冷が一般的に採用できるが、加熱装置の構造上急激な温度低下が起こる場合は、概ね10℃/分以下の降温速度になるよう加熱調整するのが好ましい。CaO源は特に限定されないが、例えば石灰石粉、消石灰や生石灰粉を好適に挙げることができ、Al2O3源は、例えばボーキサイト粉、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、アルミ残灰、アルミナ粉末等を好適に挙げることができる。該結晶質カルシウムアルミネートのブレーン比表面積は、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、3000~10000cm2/gが溶出防止剤の最適粒度分布に最終調整する前段階として好ましい。これと共に非結晶質カルシウムアルミネートのブレーン比表面積も概ね同じものとするのが好ましい。
【0018】
CaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートは、CaO源とAl2O3源をそれぞれCaO換算及びAl2O3換算して当該モル比の範囲に混合したものを、例えば1400~1900℃で加熱溶融し、これを急冷することによって得られる。急冷は、例えば溶融物の該加熱温度からの炉外取り出し、水中急冷、冷却ガスの吹き付け等の公知の急冷手法で行うことができる。また前記非晶質カルシウムアルミネートは、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、前記結晶質カルシウムアルミネートと同様にブレーン比表面積で3000~10000cm2/gにしたものを用いるのが好ましい。なお、CaO源及びAl2O3源は、前記結晶質カルシウムアルミネートの場合と同じものが使用できる。
【0019】
溶出防止剤に用いるカルシウムアルミネートは、前記のCaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=0.9~1.4の結晶質カルシウムアルミネートと、前記のCaOとAl2O3の含有モル比がCaO/Al2O3=1.6~2.6の非晶質カルシウムアルミネートを、それぞれ単独で使用しても良く、任意の割合のカルシウムアルミネート混合物として用いることでも、汚染土壌中の前記汚染成分の不溶化効果を良好に発揮することができる。また、溶出防止剤に用いるカルシウムアルミネートとしては、CaO・Al2O3を主成分とする結晶質カルシウムアルミネート又は12CaO・7Al2O3を主成分とする非晶質カルシウムアルミネートを単独で使用することも好ましく、特に還元成分及び/又は消石灰と併用することで汚染土壌中の前記汚染成分の優れた不溶化効果を得ることができる。
【0020】
溶出防止剤に用いる(b)硫酸アルミニウムは、化学成分としてAl2(SO4)3・nH2Oで表される水和物、あるいはAl2(SO4)3で表される無水塩の何れでも良い。好ましくは、汚染土壌中の前記汚染成分の不溶化効果に優れていることからnが14~18の水和物が良い。硫酸アルミニウムのブレーン比表面積は、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、3000~10000cm2/gが溶出防止剤の最適粒度分布に最終調整する前段階として好ましい。
【0021】
溶出防止剤に用いる(c)アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウムやリン酸カリウムなどの易溶性の塩が挙げられる。本発明では、アルカリ金属リン酸塩を配合することにより、汚染土壌中の前記汚染成分の良好な不溶化効果が得られる。アルカリ金属リン酸塩としては、下記式(1)~(3)で表されるリン酸カリウムが好ましく、前記不溶化効果に優れていることから下記式(2)で表されるリン酸二水素カリウムがより好ましい。リン酸カリウムのブレーン比表面積は、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、3000~10000cm2/gが溶出防止剤の最適粒度分布に最終調整する前段階として好ましい。
【0022】
K2HPO4 (1)
KH2PO4 (2)
K3PO4 (3)
【0023】
溶出防止剤に用いる(d)還元成分としては、有害な重金属を含まない還元成分であればよく、硫酸第一鉄、チオ硫酸ナトリウム、ギ酸、シュウ酸などが挙げられる。取扱いが容易で、比較的安価であることから硫酸第一鉄が好適に使用できる。硫酸第一鉄としては、結晶水を7つ持つ硫酸第一鉄七水和物と結晶水を1つ持つ硫酸第一鉄一水和物があるが、保存安定性が高い硫酸第一鉄一水和物を用いるのが好ましい。硫酸第一鉄一水和物のブレーン比表面積は、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、3000~10000cm2/gが溶出防止剤の最適粒度分布に最終調整する前段階として好ましい。
【0024】
溶出防止剤に用いる(e)消石灰は、化学式Ca(OH)2で表されるカルシウムの水酸化物を主成分とするものであれば好適に使用できる。汚染土壌中の前記汚染成分の不溶化効果を良好に発揮させるためには、消石灰のブレーン比表面積は、粉砕・分級・篩い分け等を適宜行うことによって粒度を調整し、3000~10000cm2/gが溶出防止剤の最適粒度分布に最終調整する前段階として好ましい。
【0025】
本発明の溶出防止剤において、硫酸アルミニウム、アルカリ金属リン酸塩、還元成分及び消石灰の配合割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対して硫酸アルミニウム5~50質量部、アルカリ金属リン酸塩0.5~10質量部、還元成分20~200質量部及び消石灰100~1000質量部となるように配合すると、汚染土壌中の前記汚染成分の良好な不溶化効果が得られるため好ましい。また、前記各成分の配合割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対して硫酸アルミニウム5~50質量部、アルカリ金属リン酸塩0.5~10質量部、還元成分20~100質量部及び消石灰500~1000質量部となるように配合するのが、より好ましい。
【0026】
本発明の溶出防止剤には、地盤への浸透性及び前記不溶化効果を損なわない限り、セメント等の固化材、炭酸カルシウム粉末等の増量材、クエン酸等の凝結調整剤などを配合しても良い。
【0027】
本発明の溶出防止剤は、前記成分(a)~(e)の全混合物の最大粒径が10.5μm以下であり、かつ2.2μm以下の粒子が50体積%以下であるのが好ましい。このような粒度分布に調整することによって、本発明の溶出防止剤、分散剤及び水からなるスラリーBとコロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAを混合して対象地盤(汚染土壌)に注入を行うことにより、当該地盤への良好な浸透性が得られ、かつ汚染土壌中の前記汚染成分の良好な不溶化効果が得られる。
このような粒度分布の調整は、通常の粉末の分級手段、例えば、前記の各成分を配合した後、分級装置等による遠心分離などの操作により行うことができる。
【0028】
前記溶出防止剤のスラリーB作製時には、前記溶出防止剤以外に分散剤を添加するのが、地盤への浸透性を向上させる点から好ましい。用いられる分散剤は特に限定されず、モルタルやコンクリートに使用される減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤と称されるものでよい。具体的にはメラミンスルホン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤などが挙げられる。このうち、ナフタレンスルホン酸系減水剤を用いるのがより好ましい。
溶出防止剤に対する分散剤の添加量は、溶出防止剤100質量部に対して0.5~3.0質量部とするのが好ましく、地盤への浸透性ならびに経済性の両面から1.0~2.0質量部とするのがより好ましい。
分散剤を使用する場合には、予め所定量の水に分散剤を加えた練り混ぜ水に本発明の溶出防止剤を添加してスラリーBを作液し、コロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと混合して対象地盤に注入すればよい。
【0029】
また、溶出防止剤のスラリーBを作製する際の溶出防止剤(M)と水(W2)との割合は、注入対象となる汚染土壌・地盤の土質性状や透水係数にもよるが、重量比(W2/M)で2.5~10.0であることが対象地盤への浸透性などの点で好ましい。
【0030】
本発明の地盤注入材は、通常の地盤注入工法により対象地盤に注入することにより使用することができる。具体的には、本地盤注入工法は、本発明のスラリーA及びスラリーBをそれぞれ2台の注入ポンプで圧送し注入管の手前で混合して、対象地盤(汚染土壌)に注入する1.5ショット、あるいはスラリーA及びスラリーBを個別に圧送し、対象地盤に注入される直前や対象地盤内で混合させる2ショットで行う注入工法である。
【0031】
本発明の地盤注入材の作液方法は特に制限されず、地盤注入工事で使用される一般的なグラウトミキサーを用いて作液できる。個別にスラリーA及びスラリーBを作製して、注入ポンプにより注入ホースで個別に圧送して注入管の手前で混合して地盤に注入(1.5ショット)、あるいは地盤に注入する直前や地盤内で混合し(2ショット)、汚染土壌・地盤の間隙に注入して不溶化処理を行うことができる。
【0032】
本発明の地盤注入材の注入を対象とする地盤は、1種又は2種以上の重金属等で汚染された自然由来に起因するもの、あるいは工場跡地等の汚染土壌・地盤である。具体的には、ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量が土壌環境基準を超える地盤であるのが好ましい。
ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量が土壌環境基準を超える地盤に、本発明の地盤注入材を注入すれば、汚染土壌中のほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の汚染成分の溶出量を土壌環境基準値以下に低減することができる。
【実施例0033】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
CaO源に石灰石(CaO含有量;56質量%)、Al2O3源にバン土頁岩(Al2O3含有量;88質量%)のそれぞれ粗砕粒(粒径約1mm以下)を用い、以下のa1、a2で表すカルシウムアルミネートの粉末を作製した。その作製方法は、CaO源とAl2O3源を所定のモル比に配合したものを、電気炉で1800℃(±50℃)に加熱し、60分間保持した後、加熱を停止して炉内で自然放冷して得た(a1)。同様に1800℃(±50℃)に加熱し、60分間保持した後、温度1800℃の電気炉から加熱物を常温下に取り出し、取り出し後は直ちに加熱物表面に流量約100cc/秒で窒素ガスを吹き付けて急冷して得た(a2)。得られた冷却物はボールミルで粉砕し、ブレーン比表面積が7000±500cm2/gとなるよう粉砕時間を変えて粉末度を調整した。
a1;CaO/Al2O3=モル比1.0の結晶質カルシウムアルミネート
a2;CaO/Al2O3=モル比1.7の非晶質カルシウムアルミネート
【0035】
a1~a2のカルシウムアルミネートと次に示すb~eから選定される材料をブレーン比表面積が7000±500cm2/gとなるように粉末度を調整し、表1に示す配合割合でヘンシェル型ミキサーを用いて3分間乾式混合した後、分級装置による遠心分離により所定の粒度分布に調整し、溶出防止剤を作製した。
b;硫酸アルミニウム14-18水和物:関東化学株式会社製 試薬
c;リン酸二水素カリウム:関東化学株式会社製 試薬
d;硫酸第一鉄1水和物:富士チタン工業株式会社製
e;消石灰:関東化学株式会社製 試薬
f;分散剤(ナフタレンスルホン酸系減水剤):MCヘルパー(太平洋マテリアル株式会社製)
g;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
h;コロイダルシリカ 平均粒径5nm シリカ濃度20% NaO濃度0.8%
i;ゲルタイム調整剤:炭酸水素ナトリウム 関東化学株式会社製 試薬
W1、W2;水(上水道水)
【0036】
【0037】
表1の溶出防止剤(M)を用いて、表2の配当割合となるようにスラリーA及びスラリーBを作液した。即ち、本発明の地盤注入材はコロイダルシリカ、ゲルタイム調整剤及び水からなるスラリーAと、溶出防止剤、分散剤及び水からなるスラリーBを表2に示す質量比で作液した。作液したスラリーAとスラリーBを体積比1:1としてカップ倒立法により混合し、ゲル化時間と模擬地盤への浸透性及び模擬汚染間隙水を用いた不溶化性能を評価した。
【0038】
<試験方法>
[ゲル化時間]
スラリーA及びスラリーBの両液を作製したものをそれぞれカップに移し、体積比1:1としてカップ倒立法により両液を混合してからカップを傾倒しても流れなくなるまでの経過時間をゲル化時間とした。
[浸透性評価試験]
浸透性の評価は、内径50mmのアクリル製モールド内に高さ100mmとなるように珪砂6号(土粒子密度ρ;2.61g/cm3)を間隙率45%で充填し模擬地盤とした。この模擬地盤に対して、本発明の地盤注入材(200mL)を上端より流し込み、模擬地盤への浸透が確認されたものを〇、模擬地盤の砂層に浸透しないものを×、として目視で判定し、評価を行った。表3に本発明の地盤注入材の浸透性評価試験結果を示す。
【0039】
【0040】
【0041】
表3の結果より、本発明の地盤注入材(実施例1~13)は適切なゲル化時間を有するとともに、模擬地盤への浸透性も良好であることが判る。一方、比較例1~5は地盤注入材が瞬結となり、ゲル化時間を確保できなかったり、ゲル化時間が5分を超えたり、浸透性が劣る結果となった。
【0042】
[不溶化性能確認試験]
表4に各重金属等の濃度を設定した模擬汚染間隙水の一覧表を示す。不溶化性能確認試験は、模擬汚染間隙水を本発明の地盤注入材のスラリーAとスラリーBに配合される練り混ぜ水として使用し、表2の地盤注入材配合に調整して、間隙率を40%と設定した豊浦砂(土粒子密度ρ;2.63g/cm3)と混合して、20℃の恒温室で7日間の養生後に溶出試験(環境庁告示第46号)を行った。
表5に不溶化性能確認試験結果を示す。
本発明の地盤注入材を用いた場合は、いずれも土壌環境基準値未満となっており、不溶化性能が発揮されることが確認された。また、ほう素、ふっ素、砒素、セレン及び六価クロムから選ばれる1種又は2種以上の重金属等による複合汚染土壌の不溶化に対応できることが判った。
【0043】
【0044】