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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118969
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】白金族金属の固液抽出剤
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20240826BHJP
   C22B 3/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025592
(22)【出願日】2023-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「環境調和型抽出剤の創製と高効率レアメタルリサイクル技術の構築」による委託研究業務 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆文
(72)【発明者】
【氏名】神園 麻裕
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA22
4K001DB11
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】高濃度の無機酸を使用せず、自動車触媒などのPGMs含有固体物品又は固体組成物から、直接PGMsを効率よく抽出できる固液抽出剤及び当該抽出剤を用いる抽出方法を提供すること。
【解決手段】(a)疎水性深共晶溶媒を含有する白金族金属の固液抽出剤、及び当該抽出剤を用いる白金族金属の固液抽出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)疎水性深共晶溶媒を含有する白金族金属の固液抽出剤。
【請求項2】
(a)疎水性深共晶溶媒が、疎水性基を有する水素結合アクセプター及び疎水性基を有する水素結合ドナーの混合物である請求項1記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項3】
前記疎水性基を有する水素結合アクセプターが、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するホスホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するアンモニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するスルホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するイミダゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピラゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピリジニウム化合物及び炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピロリジニウム化合物から選ばれる化合物である請求項2記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項4】
前記疎水性基を有する水素結合ドナーが、炭素数6~30の炭化水素基を有する有機酸及び炭素数6~30の炭化水素基を有するアルコールから選ばれる化合物である請求項2記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項5】
さらに、(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤から選ばれる1種以上を含有する請求項1記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項6】
(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤を含有する請求項5記載の白金族金属の固液抽出剤
【請求項7】
(b)炭素数1~4の有機酸が、ギ酸、炭素数2~4の脂肪酸及び炭素数1~4のアルカンスルホン酸から選ばれる1種以上である請求項5記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項8】
(c)ハロゲン化剤が、トリハロゲノシアヌル酸、N-ハロゲノジカルボン酸イミド化合物、N,N-ジハロゲノスルホンアミド化合物、ハロゲン化チオニル、ハロゲン化スルフリル、ハロゲン化リン、酸ハロゲン化物、ジハロゲノシアヌル酸、モノハロゲノシアヌル酸、トリハロゲノイソシアヌル酸、ジハロゲノイソシアヌル酸、モノハロゲノイソシアヌル酸及びシリルハライド化合物から選ばれる1種以上である請求項5記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項9】
(b)炭素数1~4の有機酸の添加量が、白金族金属の固液抽出剤に対して5.0質量%以上である請求項5記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項10】
(c)ハロゲン化剤の添加量が、白金族金属の固液抽出剤に対して1.0質量%以上である請求項5記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項11】
さらに、(d)無極性有機溶媒を含有する請求項1記載の白金族金属の固液抽出剤。
【請求項12】
白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に請求項1~11のいずれか1項記載の白金族金属の固液抽出剤を添加して白金族金属を当該抽出剤中に浸出させることを特徴とする白金族金属の固液抽出方法。
【請求項13】
白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に請求項1~11のいずれか1項記載の白金族金属の固液抽出剤を添加して白金族金属を当該抽出剤中に浸出させる工程、及び得られた浸出液から各白金族金属をそれぞれ抽出する工程、を有する白金族金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属の固液抽出剤及び白金族金属の固液抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属(Platinum Group Metals=PGMs)は資源量が限られており、かつ産出地が偏在しているため、自動車触媒などの2次資源からPGMsをリサイクルすることが求められている。自動車触媒とは自動車の排気ガスを無害化する装置のことであり、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などのPGMsを含む(非特許文献1)。さらに、天然の鉱石には1kgあたりわずか0.005gのPGMsが含まれる一方で、自動車触媒には1kgあたり5gものPGMsが含まれているため、自動車触媒は鉱石と比べて1000倍の品位を有する極めて有用な資源とみなすことができる。
【0003】
PGMsのリサイクル手段としては、従来、湿式製錬法が採用されている。湿式製錬法では、高濃度の無機酸によって自動車触媒に含まれる金属を固相から水相中に溶かし出し、その後、有機溶媒を使った溶媒抽出などにより目的金属をそれぞれ個別に回収する。この方法では高純度のPGMsが得られるが、重金属を含む大量の酸廃水や、溶媒抽出の際に使用される揮発性の高い有機溶媒の環境負荷が大きい(非特許文献2)。また、抽出剤の再利用は困難である。このような背景から、大量の酸廃液を排出せず、揮発性有機溶媒を使わない、新たなPGMsのリサイクル方法が求められている。
【0004】
高濃度の無機酸を使用しないPGMsの浸出手段として、イオン液体を採用することが報告されている(非特許文献3、4)。また、最近、塩化コリンを含む深共晶溶媒と硝酸、過酸化水素など無機酸化剤とを用いて使用済み自動車触媒からPGMsを回収する技術(非特許文献5)、PGMsを含有する塩酸溶液から、第4級アンモニウム塩とカルボン酸からなる深共晶溶媒を用いてPGMsを抽出する技術(非特許文献6)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sun S,et al.,Journal of Environmental Management(2022),305
【特許文献2】Karim S,et al.,Resources,Conservation and Recycling,(2021),170
【非特許文献3】Binnemans et al.,Green Chem.,2018,20,3327-3338
【非特許文献4】Binnemans et al.,RSC Adv.,2021,11,10110-10120
【非特許文献5】Bica-Schroder.,Green Chemistry Letters and Reviews,Vol.15,2022(2),405-415
【非特許文献6】O.Mokhodoeva et al,Separation and Purification Technology 305(2023)122427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記イオン液体によるPGMsの浸出手段では、種々のイオン液体に気体の塩素、ヨウ素、臭素等を吹き込んで溶解させた浸出溶媒を使用しており、Pdは溶解できたがPtなどが溶解できないなどPGMsの浸出は十分にできていない。また、非特許文献5の塩化コリンを含む深共晶溶媒と無機酸化剤を使用する手段では、PGMsの抽出効率はそれほど高くなく、特にRhの抽出効率は低いものであり、さらにPGMs以外の金属も抽出されてしまうという欠点がある。また、非特許文献6の技術は、予め塩酸水溶液に溶解されたPGMsを深共晶溶媒で抽出しており、PGMsを含む固体から直接抽出している技術ではない。
従って、本発明の課題は、高濃度の無機酸を使用せず、自動車触媒などのPGMs含有固体物品又は固体組成物から、直接PGMsを効率よく抽出できる固液抽出剤及び当該抽出剤を用いる抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、種々の深共晶溶媒を用いてPGMsの選択的抽出効果を検討してきたところ、全く以外にも、塩化コリンのような親水性水素結合アクセプターでなく、長鎖アルキル基に代表される疎水性基を有する水素結合アクセプターと疎水性水素結合ドナーとを組み合わせた疎水性深部共晶溶媒を用いれば、自動車触媒などのPGMs含有固体物品又は固体組成物から、直接PGMsを効率よくかつ選択的に抽出できること、さらには当該疎水性深部共晶溶媒に炭素数1~4の有機酸及び/又はハロゲン化剤を組み合わせれば、さらにPGMsの抽出効率及び選択性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[13]を提供するものである。
[1](a)疎水性深共晶溶媒を含有する白金族金属の固液抽出剤。
[2](a)疎水性深共晶溶媒が、疎水性基を有する水素結合アクセプター及び疎水性基を有する水素結合ドナーの混合物である[1]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[3]前記疎水性基を有する水素結合アクセプターが、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するホスホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するアンモニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するスルホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するイミダゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピラゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピリジニウム化合物及び炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピロリジニウム化合物から選ばれる化合物である[1]又は[2]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[4]前記疎水性基を有する水素結合ドナーが、炭素数6~30の炭化水素基を有する有機酸及び炭素数6~30の炭化水素基を有するアルコールから選ばれる化合物である[3]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[5]さらに、(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤から選ばれる1種以上を含有する[1]~[4]のいずれかに記載の白金族金属の固液抽出剤。
[6](b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤を含有する[5]記載の白金族金属の固液抽出剤
[7](b)炭素数1~4の有機酸が、ギ酸、炭素数2~4の脂肪酸及び炭素数1~4のアルカンスルホン酸から選ばれる1種以上である[5]又は[6]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[8](c)ハロゲン化剤が、トリハロゲノシアヌル酸、N-ハロゲノジカルボン酸イミド化合物、N,N-ジハロゲノスルホンアミド化合物、ハロゲン化チオニル、ハロゲン化スルフリル、ハロゲン化リン、酸ハロゲン化物、ジハロゲノシアヌル酸、モノハロゲノシアヌル酸、トリハロゲノイソシアヌル酸、ジハロゲノイソシアヌル酸、モノハロゲノイソシアヌル酸及びシリルハライド化合物から選ばれる1種以上である[5]~[7]のいずれかに記載の白金族金属の固液抽出剤。
[9](b)炭素数1~4の有機酸の添加量が、白金族金属の固液抽出剤に対して5.0質量%以上である[5]~[8]のいずれかに記載の白金族金属の固液抽出剤。
[10](c)ハロゲン化剤の添加量が、白金族金属の固液抽出剤に対して1.0質量%以上である[5]~[9]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[11]さらに、(d)無極性有機溶媒を含有する[1]記載の白金族金属の固液抽出剤。
[12]白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に[1]~[11]のいずれかに記載の白金族金属の固液抽出剤を添加して白金族金属を当該抽出剤中に浸出させることを特徴とする白金族金属の固液抽出方法。
[13]白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に[1]~[11]のいずれかに記載の白金族金属の固液抽出剤を添加して白金族金属を当該抽出剤中に浸出させる工程、及び得られた浸出液から各白金族金属をそれぞれ抽出する工程、を有する白金族金属の回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPGMsの固液抽出剤を用いれば、高濃度の無機酸を使用せず、自動車触媒などのPGMs含有固体物品又は固体組成物から、直接PGMsを効率よく抽出できる。特に、(a)疎水性深共晶溶媒、(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤を含有するPGMsの固液抽出剤を用いれば、直接PGMsを選択的かつ効率よく抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】自動車触媒を粉砕した状態を示す図である。
図2】Pt粉末から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(5.3質量%)及び/又はMSA(13.8質量%)を添加した固液抽出剤(0.5g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図3】自動車触媒粉砕物から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(5.3質量%又は0質量%)及び/又はMSA(13.8質量%又は0質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図4】従来法[5M HCl+5%H22]と本発明方法[疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(5.3質量%)及び/又はMSA(13.8質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)]による、自動車触媒からPGMsの抽出結果の比較を示す図である。
図5】自動車触媒粉砕物から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(0質量%~10.1質量%)及びMSA(2.9質量%~26.7質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図6】自動車触媒粉砕物から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)に種々の塩素化剤(TCCA、N-クロロフタルイミド(NCl)又はジクロラミンB(GB)1.4質量%)及びMSA(7.1質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図7】自動車触媒粉砕物から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(1.4質量%)及び種々の脂肪酸(MSA又はギ酸)7.1質量%を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図8】自動車触媒粉砕物から、P6Cl/decAの比を変化させた疎水性DESにTCCA(1.4質量%)及びMSA(7.1質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図9】自動車触媒粉砕物から、疎水性DESの水素結合ドナーを変化させたDES(オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ドデカノール(C10(OH))にTCCA(1.4質量%)及びMSA(7.1質量%)を添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図10】自動車触媒粉砕物から、疎水性DES(P6Cl/decA=1/2)にTCCA(1.4質量%)及びMSA(7.1質量%)に加えて、有機溶媒(トルエン又はドデカン)をDES1質量部に対して2質量部添加した固液抽出剤(50g/L)を用いて抽出した(80℃、400rpm、24h)結果を示す図である。
図11】本発明方法により得られた自動車触媒浸出液から、各PGMsを回収する手順を示す図である。
図12】自動車触媒浸出液からAl及びLaの水相への回収率を示す図である。
図13】自動車触媒浸出液からAl及びLaを除去した後の浸出液から、5M NH4Cl水溶液相へのRhの回収率を示す図である。
図14】自動車触媒浸出液からAl、La及びRhを除去した後の浸出液から、0.005M チオ尿素水溶液相へのPdの回収率を示す図である。
図15】自動車触媒浸出液からAl、La、Rh及びPdを除去した後の浸出液から、10M NH4NO3水溶液相へのPdの回収率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、(a)疎水性深共晶溶媒を含有するPGMsの固液抽出剤である。
ここで、深共晶溶媒とは、2種類以上の化合物を混合することにより融点低下して、25℃で液体として調製される溶媒のことを言う。具体的には、水素結合アクセプターと水素結合ドナーの混合物であって、25℃で液体となる溶媒である。
本発明で用いられる深共晶溶媒は、前述のように疎水性深共晶溶媒であるのが好ましい。疎水性深共晶溶媒は、水と混和しない深共晶溶媒であればよいが、25℃の水に対する溶解度として1g/100mL以下である深共晶溶媒が好ましく、0.1g/100mL以下である深共晶溶媒がより好ましく、0.01g/100mL以下である深共晶溶媒が特に好ましい。
【0012】
疎水性深共晶溶媒としては、疎水性基を有する水素結合アクセプター及び疎水性基を有する水素結合ドナーの混合物であるのが好ましい。
水素結合アクセプターとしては、ホスホニウム化合物(第4級ホスホニウム塩)、アンモニウム化合物(第4級アンモニウム塩)、スルホニウム化合物(第3級スルホニウム塩)、イミダゾリウム化合物、ピラゾリウム化合物、ピリジニウム化合物、ピロリジニウム化合物などが挙げられる。また、疎水性基としては、炭素数6~30の炭化水素基が好ましい。すなわち、疎水性基を有する水素結合アクセプターの例としては、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するホスホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するアンモニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するスルホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するイミダゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピラゾリウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピリジニウム化合物及び炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するピロリジニウム化合物から選ばれる化合物が好ましい。ここで、炭素数6~30の炭化水素基は、1個~4個有するのが好ましい。
炭素数6~30の炭化水素基としては、炭素数6~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素数6~30の脂肪族炭化水素基には、炭素数6~30の鎖式炭化水素基及び炭素数6~30の脂環式炭化水素が挙げられる。具体的には、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルキニル基、炭素数6~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基の炭素数は、6~30が好ましく、入手容易性の観点から6~24がより好ましく、6~22がさらに好ましい。
より好ましい疎水性基を有する水素結合アクセプターの例としては、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するホスホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するアンモニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するスルホニウム化合物、炭素数6~30の炭化水素基を少なくとも1個有するイミダゾリウム化合物が挙げられる。
疎水性基を有する水素結合アクセプターの市販品としては、トリブチル(テトラデシル)ホスホニウム塩、トリエチル(オクチル)ホスホニウム塩、テトラエチルペンチルホスホニウム塩、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム塩などが挙げられる。
また、これらのカチオン部の対イオンであるアニオンとしては、ハロゲンイオンなどが挙げられる。
【0013】
水素結合ドナーとしては、炭素数6~30の炭化水素基を有する有機酸及び炭素数6~30の炭化水素基を有するアルコールから選ばれる化合物が挙げられる。ここで、有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、フェノール類が挙げられる。
また、炭素数6~30の炭化水素基としては、炭素数6~30の脂肪族炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素数6~30の脂肪族炭化水素基には、炭素数6~30の鎖式炭化水素基及び炭素数6~30の脂環式炭化水素が挙げられる。具体的には、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基、炭素数6~30の直鎖又は分岐鎖のアルキニル基、炭素数6~30のシクロアルキル基、炭素数6~30のシクロアルケニル基などが挙げられる。また、これらの炭化水素基の炭素数は、6~30が好ましく、入手容易性の観点から6~24がより好ましく、6~22がさらに好ましい。
疎水性基を有する水素結合ドナーの具体例としては、炭素数6~30の脂肪酸、炭素数6~30の芳香族カルボン酸、炭素数6~30の脂肪族スルホン酸、炭素数6~30の芳香族スルホン酸、炭素数6~30のフェノール類、炭素数6~30のアルコールが挙げられる。より好ましい具体例としては、炭素数6~24の脂肪酸、炭素数炭素数6~24の芳香族カルボン酸、炭素数6~24の脂肪族スルホン酸、炭素数6~24の芳香族スルホン酸、炭素数6~24のフェノール類が挙げられる。
【0014】
疎水性深共晶溶媒における水素結合アクセプター(A)と水素結合ドナー(B)の混合比率は、25℃で液体になるかぎり特に限定されないが、PGMsの固液抽出効率の観点から、モル比((A)/(B))として0.2~1が好ましく、0.2~0.75がより好ましく、0.25~0.5がさらに好ましい。
【0015】
本発明のPGMsの固液抽出剤は、前記疎水性深共晶溶媒以外に、(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤から選ばれる1種以上を含有するのが、PGMsの固液抽出効率及び選択性の観点から好ましく、(b)炭素数1~4の有機酸及び(c)ハロゲン化剤を含有するのがさらに好ましい。
(b)炭素数1~4の有機酸としては、ギ酸、炭素数2~4の脂肪酸及び炭素数1~4のアルカンスルホン酸から選ばれる1種以上が挙げられる。具体的には、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などが挙げられる。
(b)炭素数1~4の有機酸の添加量は、PGMsの固液抽出効率及び選択性の観点から、固液抽出剤に対して5.0質量%以上であるのが好ましく、6.0質量%以上がより好ましい。また、添加量の上限は、30質量%以下が好ましい。
【0016】
(c)ハロゲン化剤としては、トリハロゲノシアヌル酸、N-ハロゲノジカルボン酸イミド化合物、N,N-ジハロゲノスルホンアミド化合物、ハロゲン化チオニル、ハロゲン化スルフリル、ハロゲン化リン、酸ハロゲン化物、ジハロゲノシアヌル酸、モノハロゲノシアヌル酸、トリハロゲノイソシアヌル酸、ジハロゲノイソシアヌル酸、モノハロゲノイソシアヌル酸及びシリルハライド化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。
ここでハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
具体的には、トリハロゲノシアヌル酸、N-ハロゲノフタル酸イミド、N-ハロゲノコハク酸イミド、N,N-ジハロゲノベンゼンスルホンアミド、N,N-ジハロゲノ-p-トルエンスルホンアミドなどが挙げられる。より具体的には、トリクロロシアヌル酸、N-クロロフタル酸イミド、N-クロロコハク酸イミド、N,N-ジクロロベンゼンスルホンアミド(ジクロラミンB)、N,N-ジクロロ-p-トルエンスルホンアミドなどが挙げられる。
(c)ハロゲン化剤の添加量は、PGMsの固液抽出効率及び選択性の観点から、固液抽出剤に対して1.0質量%以上であるのが好ましく、1.2質量%以上がより好ましい。また、含有量の上限は、10質量%以下が好ましい。
【0017】
本発明のPGMsの固液抽出剤には、前記成分以外に、前記成分と反応しない無極性有機溶媒を含有していてもよい。
無極性有機溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。脂肪族炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
これらの無極性有機溶媒は、特に限定されないが、疎水性深共晶溶媒1質量部に対し0.2質量部以上10質量部以下含有させることができる。
【0018】
本発明の固液抽出剤の抽出対象は、PGMsである。すなわち、本発明の固液抽出剤を用いれば、白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物からPGMsを、直接、選択的かつ効率的に抽出することができる。
PGMsとしては、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Osが挙げられるが、本発明の固液抽出剤は、Pt、Pd、Rh、Ru、Irの固液抽出に用いるのが好ましく、Pt、Pd、Rh、Irの固液抽出に用いるのがより好ましい。
【0019】
固液抽出とは、固体から目的成分を抽出することを言う。一方、抽出対象であるPGMsは、前記のように自動車触媒などの固体に含まれており、自動車触媒には目的とするPGMs以外にAl、Mg、La、Feなどの数多くの金属が含まれているから、これらの固体から直接PGMsを効率よく固液抽出することが切望されている。本発明の固液抽出剤を用いれば、白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物から、直接PGMsを選択的かつ効率よく抽出することができる。
すなわち、本発明の他の一態様は、白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に、前記のPGMsの固液抽出剤を添加してPGMsを当該抽出剤中に浸出させることを特徴とするPGMsの固液抽出方法である。
【0020】
PGMsは、水素化反応の触媒、自動車排ガスの浄化触媒(自動車触媒)、石油精製、アンモニアの酸化による硝酸製造用の触媒、電気・電子部品(コンデンサの材料)、耐熱性・耐摩耗性材料などとして広く利用されている。そして、これらの材料や部品には、他の多くの金属が含まれている。例えば、自動車触媒には、Al、Mg、La、Feなどの数多くの金属が含まれている。従って、本発明の固液抽出方法に用いられる白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物としては、PGMsを含む前記触媒、電気・電子部品、耐熱性・耐摩耗性材料などが挙げられる。
前記固体物品又は固体組成物は、粉砕して固液抽出に付すのが、抽出効率の点から望ましい。粉砕物の粒子径は、材料の形態によって異なるが、500μm以下であるのが好ましく、300μm以下であるのがより好ましく、200μm以下であるのがさらに好ましい。
前記固体物品又は固体組成物の粉砕物に対する前記固液抽出剤の添加量は、粉砕物の粒子径、材料の形態などによって異なるが、粉砕物1質量部に対し100質量部以下であるのが好ましく、21質量部以上99質量部以下がより好ましく、5質量部以上20質量部以下がさらに好ましい。
浸出工程は、浸出効率の観点から、40℃以上で3時間以上行うのが好ましく、50℃以上で6時間以上行うのがより好ましく、60℃以上で12時間以上行うのがさらに好ましい。なお、温度の上限は、100℃以下が好ましく、時間は48時間以下が好ましい。また、浸出工程においては、撹拌するのが好ましい。
この浸出工程により、前記固体物品又は固体組成物から前記固液抽出剤中に、高効率及び選択的にPGMsが抽出される。
【0021】
前記浸出工程により、固液抽出剤中には、PGMsが含まれている。従って、得られた浸出液から各PGMsをそれぞれ抽出すれば、各PGMsが回収できる。
すなわち、本発明の別の一態様は、白金族金属化合物及び他の金属化合物を含有する固体物品又は固体組成物の粉砕物に前記PGMsの固液抽出剤を添加してPGMsを当該抽出剤中に浸出させる工程、及び得られた浸出液から各PGMsをそれぞれ抽出する工程、を有するPGMsの回収方法である。
ここで、浸出工程は、前記の通りに行うことができる。
得られた浸出液から各PGMsをそれぞれ抽出する手段は、有機溶媒相から水相へのPGMsの液液抽出工程であり、それ自体既に知られている手段を採用することができる。例えば、Firmansyah,M.L.,Kubota,F.,&Goto,M.(2018).Solvent extraction of Pt(IV),Pd(II),and Rh(III) with the ionic liquid trioctyl(dodecyl)phosphonium chloride.Journal of Chemical Technology and Biotechnology,93(6),1714-1721.https://doi.org/10.1002/jctb.5544、及びFirmansyah,M.L.,Kubota,F.,Yoshida,W.,&Goto,M.(2019).Application of a Novel Phosphonium-Based Ionic Liquid to the Separation of Platinum Group Metals from Automobile Catalyst Leach Liquor.Industrial and Engineering Chemistry Research,58(9),3845-3852.https://doi.org/10.1021/acs.iecr.8b05848に記載の手段が挙げられる。
例えば、Rhの回収は、有機溶媒相に塩化アンモニウム水溶液などを接触させることにより行うことができる。また、Pdの回収は、有機溶媒相にチオ尿素水溶液などを接触させることにより行うことができる。また、Ptの回収は、有機溶媒相に硝酸アンモニウム水溶液などを接触させることにより行うことができる。
なお、前記浸出液中に、PGMs以外の金属が含まれている場合は、それらの金属も自体公知の手段により除去することができる。例えば、La、Alなどは、前記浸出液に水を接触させるだけで容易に除去できる。
【実施例0022】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例1(金属粉末又は自動車触媒の浸出)
非特許文献1において、トリクロロイソシアヌル酸(TCCA)を添加した4級アンモニウム塩を含むアセトン溶液にAu粉末の浸出が可能であることが報告されている。また、メタンスルホン酸(MSA)は揮発性が少なく、生分解性があるという点から環境に優しい酸であると報告されている。そこで、非常に安定で溶けにくい金属であるPGMsを溶かすために、疎水性深共晶溶媒(疎水性DES)にTCCAとMSAを加え、浸出性能を検証した。この時、浸出対象としては、単体の金属粉末と、使用済み自動車触媒の粉末を用いた。
【0024】
(1)実験操作
(DESの作成)
水素結合アクセプターとしてのトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリド(P66614C:P6Cl)と水素結合ドナーとしてのデカン酸を1:2のモル比となるように秤量した。これらを混合したもの80℃、400rpm、1h又は2hの条件下で加熱撹拌することにより、水を飛ばしながら疎水性DESを調製した。
【0025】
(自動車触媒の分析)
自動車触媒を粉砕し(図1)、ギ酸によって還元処理を行った後、二口フラスコに粉砕した触媒と王水を入れ、80℃、24時間、500rpmの条件で加熱撹拌することでPGMsを完全に溶解させた。反応後、濾紙を用いてろ過をおこなったところ、わずかに残渣が生じた。回収した溶液を40倍に希釈した後、誘導結合プラズマ発光分光測定装置(ICP-OES,Optima 8300,Parkin-Elmer)によって金属の濃度を測定した。
【0026】
(自動車触媒又は金属粉末の浸出)
金属粉末又は粉砕した触媒と溶媒を混合し、ボルテックスで1分間溶液を撹拌した後、閉鎖系で80℃、400rpmで24時間加熱撹拌を行った。加熱撹拌後、遠心分離(20,000G、10min、35℃)によって残渣とDES相の分離を行った。回収した溶液を20倍に希釈した後、誘導結合プラズマ発光分光測定装置(ICP-OES,Optima 8300,Parkin-Elmer)によって金属の濃度を測定した。浸出率の測定は、同様の操作で行った。
【0027】
【数1】
【0028】
(2)実験結果
(金属粉末の浸出)
それぞれの条件における結果を図2に示す。この結果から、2種類の添加剤を加えることにより、高い効率でPtを浸出できるということが分かった。TCCAとMSAを疎水性DES中で混合させることにより塩素が発生し、塩素が金属を酸化する役割を担っているのではないかと考察する。
【0029】
(自動車触媒の組成)
王水浸出による触媒の分析結果を表1に示す。この結果より、今回使用する触媒にPt、Pd、Rhがそれぞれ含まれており、ほかにAlやMgなどの多量の不純物金属が含まれているということが分かった。
【0030】
【表1】
【0031】
(自動車触媒の浸出)
1)添加剤が浸出選択性に及ぼす影響
添加剤が浸出選択性に及ぼす影響を調べた結果を図3に示す。この結果から、疎水性DESに加えて、塩素化剤TCCAと有機酸MSAを両方加える系において、PGMの浸出率が向上するということが分かった。
【0032】
2)従来の浸出方法(塩酸-過酸化水素抽出法)と疎水性DESを使用した浸出方法の比較
従来法と本発明方法の浸出率の比較を図4に示す。
従来法と比較すると、本発明方法において、PGM三金属を高効率に浸出することができ、不要金属の浸出を大幅に抑えることができた。この選択性が生じた理由は、疎水性DES中でPGMのみが安定して存在できるためであると考える。添加剤2種類とDESで構成される溶媒にはたくさんの塩化物イオンが存在しており、白金族金属は塩化物イオンを配位子として持つアニオン錯体として存在していると考えられる。このアニオン錯体はP6Clイオン液体のカチオンと相互作用し、安定なイオン対を形成すると報告されている。よって、本系において、PGMのアニオン錯体はP6Clイオン液体を構成要素とするDESで安定して存在できる。一方で、浸出を抑制できたMg2+、Al3+やLa3+不純物金属は、カチオンの状態で存在するためDES中で安定化できず、溶けだすことができないと考えられる。
【0033】
3)添加剤の添加量検討
浸出率に及ぼすTCCAとMSAの添加量の影響を図5に示す。
MSAの添加量を14質量%に固定し、TCCAの量を変化させたところ、Pt、Pd、RhすべてがTCCAの量が1.4質量%のときに最大となった。また、TCCAの量は1.4質量%に固定し、MSAの量を変化させところ、MSAの添加量によってPGMsの浸出量は変化しなった。一方で、MSAの添加量が1.4質量%未満の際はAlやLaなどの不純物金属の浸出を促進してしまうことが分かった。よって、TCCAは1.4質量%、MSAは7.1質量%の添加量が最適化であるということが分かった。
【0034】
4)添加剤(塩素化剤)の種類の検討
浸出率に及ぼす塩素化剤の影響について検討した結果を図6に示す。MSAと、3種類の塩素化剤(TCCA、N-クロロフタルイミド(NCl)又はジクロラミンB(GB))を添加したところ、PGMの浸出効率が一番大きいものはTCCAであり、MSAに塩素化剤を添加するとPGMを浸出可能であるということが分かった。
【0035】
5)添加剤(有機酸)の種類の検討
浸出率に及ぼす塩素化剤と有機酸の影響について検討した結果を図7に示す。TCCAと、2種類の酸(MSA又はギ酸)を添加したところ、PGMの浸出効率が大きいものはMSAであり、TCCAに酸を添加するとPGMを浸出可能であるということが分かった。
【0036】
6)DESの混合比率(P6Cl:decA)の種類の検討
浸出率に及ぼすDESの混合比率の影響について検討した結果を図8に示す。 P6Cl:decA=1:2、1:3、1:4の際にPGMの浸出率が最大になるということが分かった。また、溶媒としてデカン酸のみを用いた際PGMはほとんど浸出せず、溶媒の構成要素としてP6Clが重要であることがわかった。
【0037】
7)DESの組成の検討(水素結合ドナー)の影響
浸出率に及ぼすDESの構成要素であるHBDの種類(オクタン酸(C8)、デカン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ドデカノール(C10(OH))の影響について検討した結果を図9に示す。水素結合ドナーである脂肪酸の脂肪族部分の鎖の長さを変えて実験を行ったところ、どの長さにおいてもPGMを高効率に浸出できるということが分かった。また、脂肪酸を長鎖アルコールに変更した場合においても、PGMの浸出が可能であるということが分かった。
【0038】
8)固液抽出剤の有機溶媒希釈の検討
浸出率に及ぼす溶媒の影響について検討した結果を図10に示す。
6Clと有機溶媒(トルエン、ドデカン)である分子のモル比が1:2になるように溶媒を調整した。この結果から、無極性有機溶媒にP6Clを溶かした系においてもPGMの浸出が可能であるということが分かった。
【0039】
実施例2
(浸出液からの金属分離)
(1)実験操作
逆抽出操作
実施例1に示す方法で、自動車触媒浸出液を作成した。この時、TCCAとMSAについては、それぞれ最適化された値である1.4質量%、7質量%の量で添加した。この浸出液の中には回収したいPGMsであるPt、Pd、Rhと、除去したいAl、Laが含まれていた。
予備実験の結果、水によりAl、La、5MのNH4ClによりRh、0.005Mのチオ尿素によりPd、10MのNH4NO3によりPtを回収できる可能性が示唆された。よって、水、5M NH4Cl、0.005M チオ尿素、10M NH4NO3を浸出液と順番に接触させた。図11に各実験条件を記載した逆抽出操作のフローを示す。
【0040】
逆抽出率の測定
逆抽出後の疎水性DES相を100μLとり、1ppm Y検量線溶液20%とEtOH 80%と混ぜ合わせて20倍に希釈した後、誘導結合プラズマ発光分光測定装置(ICP-OES,Optima 8300,Parkin-Elmer)によって金属の濃度を測定した。逆抽出率は以下の式により求めた。
【0041】
【数2】
【0042】
(2)実験結果
逆抽出1:AlとLa
浸出液と水を水相(A):油相(O)=1:10、1h、25℃の条件で接触させたのち、水相側に回収できた金属の量を図12に示す。不要金属であるLaを96%、Alを97%水相に回収することができた一方で、Rhも10%ほど水相に漏出してしまった。LaとAlは水和されたため、水相側に高効率に回収できたと考える。また、Rhが多少水相側に漏れ出てしまう理由は、一部のRhが配位子に水をとり、親水性になるためであると考える。
【0043】
逆抽出2:Rh
AlとLaを取り除いた浸出液と5MのNH4ClをA:O=2:1、24h、25℃の条件で接触させたのち、水相側に回収できた金属の量を図13に示す。
Pt、PdはDES相に残したままで、Rhだけを73%水相側に回収することに成功した。この理由は、水溶液と接触させることでロジウムの配位構造が変わり、親水性になったロジウムの錯体が水相中へ移動したのではないかと考える。
【0044】
逆抽出3:Pd
AlとLa、Ptを取り除いた浸出液と0.005Mのチオ尿素をA:O=2:1、15min、25℃の条件で接触させたのち、水相側に回収できた金属の量を図14に示す。
PtはDES相に残したままで、Pdだけを95%水相に回収することに成功した。チオ尿素は容易にPdに配位することが要因であると考える。
【0045】
逆抽出4:Pt
AlとLa、Pt、Pdを取り除いた浸出液と10MのNH4NO3をA:O=2:1、24h、25℃の条件で接触させたのち、水相側に回収できた金属の量を図15に示す。疎水性DES相のUV測定を行ったところ、硝酸イオンのピークが大きく出ていたため、Ptのアニオン錯体と硝酸イオンがアニオン交換したと考察する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15