(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011897
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成形体及びそれを用いた包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20240118BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240118BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B32B27/28 102
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114223
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 愛沙子
(72)【発明者】
【氏名】小沼 健太
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB23
3E086DA08
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK03C
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK69B
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA44B
4F100GB15
4F100JD03
4F100JD04
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】酸素バリア性及び水蒸気バリア性を両立し、十分なヒートシール性を有する熱可塑性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】少なくとも、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む中央層10と、中央層10の表裏に設けられ、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂樹を含む外層2とを有する熱可塑性樹脂成形体であって、中央層10は、厚み方向において、外層2それぞれに接し、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相であり且つエチレン-ビニルアルコール共重合体が分散相となる二つの領域が、エチレン-ビニルアルコール共重合体が連続相となる領域を挟み込んでいる分散形態を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む中央層と、当該中央層の表裏に設けられ、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む外層とを有する熱可塑性樹脂成形体であって、
前記中央層は、厚み方向において、前記外層それぞれに接し、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相であり且つ前記エチレン-ビニルアルコール共重合体が分散相となる二つの第1領域が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体が連続相となる第2領域を挟み込んでいる分散形態を有する、ことを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
前記第2領域は、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が分散相となることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
前記第2領域は、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相となることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項4】
前記中央層における前記分散相は、当該熱可塑性樹脂成形体の成膜流れ方向及び成膜幅方向のいずれにおいても、当該熱可塑性樹脂成形体の厚み方向を短軸とする扁平形状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項5】
前記中央層を形成する樹脂全量に対する前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が、15%以上50%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項6】
前記第1領域の厚みはそれぞれ、前記中央層の厚みに対して、5%以上25%以下の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体を用いてなることを特徴とする包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素バリア性と水蒸気バリア性とを両立する熱可塑性樹脂成形体、及びそれを用いた包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
包装材(包装フィルムや包装体、容器)には内容物保護の観点から、ガスバリア性に優れた各種の樹脂フィルムや樹脂成形体が用いられている。包装材に一般的に用いられる材料は、ポリエチレン(以下「PE」ともいう。)、ポリプロピレン(以下「PP」ともいう。)等のオレフィン系樹脂を主体とした材料構成であり、これらオレフィン系樹脂は水蒸気に対してのバリア性に優れるが、酸素に対してのバリア性に劣る。一方、例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVОH」ともいう。)等の親水性樹脂では、酸素に対するバリア性に優れており、水蒸気に対しバリア性に劣る。
【0003】
包装材として求められるバリア性として、酸素バリア性と水蒸気バリア性との両立が挙げられるが、従来は酸素バリア性を有する樹脂と、水蒸気バリア性を有する樹脂とを複数積層することで、酸素及び水蒸気を両立するバリア性を得てきた。例えば、特許文献1では、積層によりバリア性の両立が得られている。
【0004】
また、特許文献2では、表層にPEやPP等のポリオレフィン樹脂層を用い、中央層にEVОH又はMXDナイロンに複合材として酸変性等の相溶化剤を添加した組成を有する層を用いた積層体により、バリア性の両立を図っている。
【0005】
さらに、特許文献3及び4では、ポリオレフィン樹脂及びポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂からなるバリア性を有する中央層を、バリア層を形成する樹脂組成以外の熱可塑性樹脂からなる層で挟んだ構成で、中央層の外層と接する領域はポリオレフィン樹脂が連続相且つPPS樹脂が分散相であり、内部領域はPPS樹脂が連続相且つポリオレフィン樹脂が分散相、またはPPS樹脂とポリオレフィン樹脂が共に連続相となる分散形態を示すことを特徴とした中空容器の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-080984号公報
【特許文献2】特開2008-150539号公報
【特許文献3】特開2003-128059号公報
【特許文献4】特開2003-127304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のように、バリア性を有する樹脂と水蒸気バリア性を有する樹脂とを複数積層する方法にあっては、バリア性又は水蒸気バリア性を有する樹脂からなる積層フィルムそれぞれの間の接着性の問題があり、また、表層にポリオレフィン樹脂層を用い、中央層に、EVОH又はMXDナイロンに相溶化剤を添加した層を用いた積層体を形成する方法にあっては、積層体を構成する各層間の接着性の問題があると共に、さらに製造工程の複雑化といった問題がある。また、ポリオレフィン樹脂及びポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂からなるバリア性を有する中央層を、バリア層を形成する樹脂組成以外の熱可塑性樹脂からなる層で挟んだ構成とする方法にあっては、PPSは前処理工程が煩雑であり、また、射出成形での形成になるため、レトルトパッケージのようなフィルム状の包装材への適用が困難であるという問題がある。
このように、酸素及び水蒸気のバリア性を両立する方法である、酸素バリア性を有する材料と水蒸気バリア性を有する材料とを混合する方法では、これらを単純に混ぜ合わせた溶融ブレンドでは、酸素バリア性が十分に得られない問題がある。
そこで、本発明は、優れた水蒸気バリア性及び酸素バリア性を有し、且つ十分なヒートシール強度を発現することの可能な熱可塑性樹脂成形体及び包装体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために、本発明の一態様は、少なくとも、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む中央層と、中央層の表裏に設けられ、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む外層とを有する熱可塑性樹脂成形体であって、中央層は、厚み方向において、外層それぞれに接し、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相であり且つエチレン-ビニルアルコール共重合体が分散相となる二つの第1領域が、エチレン-ビニルアルコール共重合体が連続相となる第2領域を挟み込んでいる分散形態を有する、熱可塑性樹脂成形体が提供される。
本発明の他の態様は、上記態様の熱可塑性樹脂成形体を用いてなる包装材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を両立し、且つ十分なヒートシール強度を有する熱可塑性樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の熱可塑性樹脂成形体の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態の熱可塑性樹脂成形体の他の例を示す断面模式図である。
【
図3】本実施形態の熱可塑性樹脂成形体の他の例を示す断面模式図である。
【
図4】本実施形態の分散相の形状を説明する断面模式図である。
【
図5】本実施形態の分散相の形状を説明する他の断面模式図である。
【
図6】本実施形態の分散相の形状を説明する他の断面模式図である。
【
図7】成膜流れ方向及び成膜幅方向での厚みの断面の位置を説明する断面模式図である。
【
図8】本実施形態の分散相の形状を説明する俯瞰模式図である。
【
図9】本実施形態の分散相の形状を説明する他の俯瞰模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面は模式的に示したものであり、各部の大きさや形状等は理解を容易にするため適宜誇張して示している。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに限定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(構成材料について)
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂成形体1は
図1及び
図2に示すように、少なくともポリオレフィン樹脂からなる一対の外層2と、この一対の外層2に挟まれた少なくともポリオレフィン樹脂及びEVOHからなる中央層10とから構成され、中央層10は、外層2のそれぞれと接し且つポリオレフィン樹脂が連続相3を形成し、且つEVOHが分散相4を形成する2つの領域(第1領域)Aに、EVOHが連続相5となる領域(第2領域)Bが挟まれている。領域Bにおけるポリオレフィン樹脂は、
図1に示すように分散相6を形成してもよいし、
図2に示すように連続相6´を形成してもよいし、図示していないが、分散相6と連続相6´とが共存していてもよい。
【0013】
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる外層2、連続相3、及び分散相6または連続相6´の主材料としては、包装材料として好適に使用されるためには適度な柔軟性を持ち、並びに加工性が良い必要がある。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、オレフィン由来の構成単位を有するポリマーであれば良く、オレフィンをベースとした、低密度ポリエチレン(LDPE)、α-オレフィンとエチレンを共重合した直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等があるポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとオレフィンを共重合したシクロオレフィンコポリマー及び、上記オレフィンと酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン-酢酸ビニルコポリマーやオレフィンの側鎖を変性して得られる、エチレン-メチルアクリレート共重合(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のうち単体並びに複数を選択し適宜使用する事が可能である。
【0014】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVОH)からなる分散相4及び連続相5は、エチレン及び酢酸ビニルのラジカル重合等により得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を鹸化することにより生成され得る。EVОHの酸素バリア性は、よりエチレン含有量の少なさ、または高い加水分解度もしくは鹸化度、高い結晶性により改善され、分散相4及び連続相5は、20mol%以上50mol%以下のエチレン成分比率であり、90%以上の加水分解度を有するEVОHを使用することが好ましい。
【0015】
また、
図3は、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体1の他の実施形態を示したものである。バリア性を発現する中央層10には、水蒸気バリア性を有するポリオレフィン系熱可塑性樹脂からなる相と、酸素バリア性に特化したEVOHからなる相と、分散相を包み込むオレフィンと官能基含有単量体との共重合体から成る相溶化剤7とが存在し、熱可塑性樹脂成形体1′を形成している。
図3では、領域A、Bにおいて共に分散相を包み込むように相溶化剤7が存在するが、
図2のように中央層10の領域Bにおいてポリオレフィン樹脂が連続相6′を形成する場合には、両連続相(連続相5及び6′)の界面に相溶化剤7が存在する。
【0016】
オレフィンと官能基含有単量体との共重合体からなる相溶化剤7は、中央層10を形成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂とは異なる樹脂であって、EVОHと結合し得る反応基が付与された分子構造からなる共重合体熱可塑性樹脂であり、化学的相性が悪いオレフィン系樹脂(分散相6)とEVОH(連続相5)との親和性を向上させる役目を担う相溶化剤として機能する。相溶化剤7は、樹脂混合時に2種ポリマー間の界面張力を低下させ、相分離構造を安定化させる。相溶化剤7として機能する熱可塑性樹脂としては、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、マレイン酸変性ポリオレフィン(PO-g-MAH)等が挙げられるが、領域Bにおいてポリオレフィン樹脂を連続相6′として存在させる場合は、非反応性の相溶化剤を用いることが好ましい。
【0017】
相溶化剤7は必ずしも必要ではないが、ポリオレフィン樹脂とEVOHとを相溶させ、界面密着力を向上させたり、相溶化させることで外観や成形性を向上させたりすることができるため、一定量の添加を行う方が好ましい。
【0018】
また、外層2の主材料であるポリオレフィン樹脂は、中央層10の領域Aで使用するポリオレフィン樹脂と同種の樹脂を用いると、強度の面で有利になる。この時用いるポリオレフィン樹脂は、単独でもよいし、物性調整の為、例えばホモPPにブロックPPを混合するといったように複数種類の樹脂を混ぜて用いてもよい。
【0019】
図1~
図3に示す本発明に係る熱可塑性樹脂成形体1は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂、EVОH、オレフィンと官能基含有単量体の共重合体以外に、造核剤、補強フィラー、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、光安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等の添加材を用いても良い。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
造核剤及び補強フィラーとしては、タルク、シリカ、クレー、モンモリロナイト、炭酸カルシウム、炭酸リチウムアルミナ、酸化チタン、アルミニウム、鉄、銀、銅等の金属、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、セルロースミクロフィブリル、酢酸セルロース等のセルロース類、ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアクリレート繊維等の繊維状フィラー、カーボンナノチューブ等のカーボン類、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエラストマー等が挙げられる。
【0021】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、有機ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0022】
熱安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
【0023】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。
【0024】
帯電防止剤としては、ノニオン系化合物、カチオン系化合物、アニオン系化合物等が挙げられる。
【0025】
難燃剤としては、ハロゲン系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、無機化合物、ホウ素系化合物、シリコーン系化合物、硫黄系化合物、赤リン系化合物等が挙げられる。
【0026】
難燃助剤としては、アンチモン化合物、亜鉛化合物、ビスマス化合物、水酸化マグ
ネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂成形体は、単層で用いられるだけでなく、他種樹脂成形体との積層体として使用されても良い。
【0028】
(熱可塑性樹脂成形体1の構造)
本実施形態の
図1~
図3に示す熱可塑性樹脂成形体1は、少なくともポリオレフィン樹脂からなる外層2に挟まれた中央層10において、外層2と接する領域Aにおいては、ポリオレフィン樹脂が連続相3、且つEVOHが分散相4となる分散形態を有し、一対の領域Aに挟まれた領域Bにおいては、EVOHが連続相5を形成しており、ポリオレフィン樹脂が分散相6または連続相6′となる。この時、領域A、Bどちらにおいても、厚み方向に延びる面で切断した分散相4及び6の断面形状が厚み方向を短軸とする扁平形状を有する。この扁平形状は、
図4に示したような楕円形状であってもよく、
図5に示したような楕円ではない対称形状でもよいし、
図6に示したような非対称形状でもよい。
【0029】
図7に示すように、成膜流れ方向での厚み方向の断面8と成膜幅方向での厚み方向の断面9で見られる分散相の形状は同一である必要はなく、各種形状が混合されていてよいが、どの面においても扁平形状であることが望ましく、面方向から見ると
図8や
図9に示すように面状に広がりを持たせることで、バリア性の向上が得られる。
【0030】
(分散相4の重量割合)
各領域Aにおける、酸素バリア性樹脂であるEVОHの配合割合は、15重量%以上50重量%以下の範囲が好ましい。このEVОHの配合割合が15重量%未満であると、EVOHからなる分散相4が上面視で熱可塑性樹脂成形体1の全体に行き渡らず、厚み方向全域で酸素バリア性を有さない素材のみが存在する箇所が生じる可能性が高くなり、その結果、バリア性も不十分となる場合がある。各領域AにおけるEVОHの重量割合が50重量%を超えると、各領域AにおいてもEVOHが連続相となり、外層2との密着性が悪化したり、ポリオレフィン樹脂配合比の減少により水蒸気バリア性が低下したりする可能性がある。また、各領域AにおけるEVОHが多くなりすぎると、熱可塑性樹脂成形体1の柔軟性が損なわれ、包装材として受け入れがたい物性となる場合がある。
【0031】
(相溶化剤7の重量割合)
図3に示す相溶化剤7であるオレフィンと官能基含有単量体の共重合体の配合割合は、0.5重量%以上15重量%以下の範囲である事が好ましい。この配合割合が0.5重量%未満であると、相溶化剤7が異種樹脂界面を十分にカバーすることが困難となり、界面密着性の低下などが起こる場合がある。配合割合が15重量%を超えると、相溶化剤7が過剰となり、熱可塑性樹脂成形体1中に相溶化剤7が単独で存在する場合があり、それにより成形体の物性の低下を招く場合がある
【0032】
(製造方法)
本実施形態の熱可塑性樹脂成形体1を製作する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用することが可能である。
【0033】
熱可塑性樹脂成形体1の作製方法としては、射出成型機や、押出成形機、ならびにフィードブロックまたはマルチマニホールドを介しTダイで製膜する方法や、インフレーション法を用いた製膜方法を用いる事が可能である。
【0034】
本実施形態では、押出成形機を用いたフィルム状の成形方法を説明する。
【0035】
本実施形態では、多層押出成形機に本発明に関る熱可塑性樹脂を混合し押出すことで、本発明に係る熱可塑性樹脂成形体1が作製される。多層押出成形機にはスクリューを樹脂が通過した後に、樹脂に負荷をかけ昇圧を促すオリフィス等の圧縮機構を有する。この圧縮機構により、分散相となる樹脂の形状を、より幅広いバリエーションを持って制御できる。
【0036】
フィルムの冷却方法に関しては、上述の多層押出成形機に準じて使用する事が可能であり、例えばTダイ法では、エアーチャンバー、バキュームチャンバー、エアナイフ等の空冷方式、冷水パンへ冷却ロールをディッピングする等の水冷方式等、特に制限されることはないが、賦形による表面凹凸形状を付与する場合には、シリコーンゴム、NBRゴム、またはフッ素樹脂等を加工したニップロールと、金属を切削加工した冷却ロールとを0.1MPa以上の圧力を印加した接触部に溶融樹脂を流入し、冷却する方式が特に好ましい。
【0037】
本発明によって得られるフィルム形状の熱可塑性樹脂成形体1では、単体フィルム、または他基材と積層して包装材とすることができる。単体フィルムまたは積層体として用いる場合、スタンディングパウチの他に、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等に用いる事が可能である。また、包装袋の製袋様式は特に制限されるものではない。
【0038】
上述の様に、単体フィルム及び他基材と積層するどちらの場合でも、適宜、後工程適性を向上する表面改質処理を実施する事が可能である。例えば、単体フィルム使用時の印刷適性向上、積層使用時のラミネート適性向上のために他基材と接触する面に対して表面改質処理を行う事が可能である。表面改質処理はコロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させる事により官能基を発現させる手法や、易接着層のコーティング等のウェットプロセスによる改質を好適に用いる事が可能である。
【0039】
なお、熱可塑性樹脂成形体1の製造方法は上述した方法に限定されるものではなく、成形機により製膜した樹脂成形体を、インラインまたはオフラインの延伸処理を施しても構わない。その他、適宜必要な工程や添加剤を加えることは制限されるものではない。
(包装材)
本発明の一態様としての包装材は、上述した熱可塑性樹脂成形体1を用いて形成される。このように構成することで、包装材に必要な酸素バリア性を備え、また、高い耐衝撃性及びヒートシール性を有する熱可塑性樹脂成形体を包装材の形態で有効に利用できる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではないことはいうまでもない。また、以上の実施の形態を組み合わせて用いることは、任意である。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
〈実施例1〉
外層及び中央層を構成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂として、株式会社プライムポリマー製ホモポリプロピレン樹脂(hPP)F-300SPを使用した。中央層10を構成するEVОHとして三菱ケミカル株式会社製ソアノールD2908(エチレン比29mol%)を使用し、それぞれの配合割合(重量%)を、hPP:EVОH=65:35に調整し、ドライブレンドし3層押出機の中央層用ホッパーに投入した。スクリュー部以降に圧縮率65%の圧縮部を通過するよう流路を設定し、成形温度230℃でTダイキャスト法にて表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)のフィルムを製膜した。なお、スクリュー回転数、引取速度などは適宜調整を行った。
【0043】
〈実施例2〉
実施例1と同様の作製方法で、中央層の構成材料に相溶化剤として三井・ダウ・ポリケミカル株式会社製EVAEV450を加え、中央層のhPPとEVAとEVОHの配合比を62:3:35に変更し、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0044】
〈実施例3〉
実施例2と同様の作製方法で、外層を構成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂として、F-300SPと株式会社プライムポリマー製ランダムポリプロピレン樹脂(rPP)F219DAを用い、中央層を構成するポリオレフィン熱可塑性樹脂として、サンアロマー株式会社製ブロックポリプロピレン樹脂(bPP)PC480Aを用いた。外層のhPPとrPPの配合比を50:50、中央層のbPPとEVAとEVОHの配合比を75:10:15とし、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0045】
〈実施例4〉
実施例3と同様の作製方法で、中央層のbPPとEVAとEVОHの配合比を55:10:35とし、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0046】
〈実施例5〉
実施例3と同様の作製方法で、中央層のbPPとEVAとEVОHの配合比を40:10:50とし、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0047】
〈実施例6〉
実施例5と同様の作製方法で、相溶化剤として三井化学株式会社製無水マレイン酸変性ポリプロピレンのアドマーQE060を用い、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0048】
〈実施例7〉
実施例1と同様の作製方法で、中央層を構成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂をbPP PC480Aに変更し、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0049】
〈実施例8〉
実施例4と同様の作製方法で、表裏外層厚みが各3μm、中央層が54μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0050】
〈実施例9〉
実施例4と同様の作製方法で、表裏外層厚みが各15μm、中央層が30μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0051】
〈比較例1〉
実施例2と同様の作製方法で、Tダイ直前にオリフィスを挿入し、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0052】
〈比較例2〉
実施例3と同様の作製方法で、Tダイ直前にオリフィスを挿入し、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0053】
〈比較例3〉
実施例3と同様の作製方法で、中央層のbPPとEVAとEVОHの配合比を80:10:10とし、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0054】
〈比較例4〉
実施例3と同様の作製方法で、中央層のbPPとEVAとEVОHの配合比を35:10:55とし、表裏外層厚みが各6μm、中央層が48μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0055】
〈比較例5〉
実施例4と同様の作製方法で、表裏外層厚みが各2.4μm、中央層が55.2μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0056】
〈比較例6〉
実施例4と同様の作製方法で、表裏外層厚みが各18μm、中央層が24μm(総厚60μm)となるよう、スクリュー回転、成形温度を調整した。
【0057】
〈評価方法〉
(層厚及び分散状態確認)
得られたサンプルの成膜流れ方向及び成膜幅方向の厚み断面観察は、2mm×5mm(観察部が2mm)になるようにサンプルを切り出し、日本電子株式会社製 可視光硬化性包埋樹脂D-800で包埋したものを、ライカマイクロシステムズ株式会社製 ウルトラミクロトームEM UC7iを用いて、ガラスナイフ及びダイヤモンドナイフで断面出しすることで実施した。観察試験片切り出し個所は、各サンプルの成膜流れ方向、成膜幅方向共に無作為に選んだ10箇所とした。観察には株式会社日立ハイテクノロジーズ製 走査電子顕微鏡(SEM)SU8020を用い、1000倍観察にて比較を行った。
そして、中央相の厚みと、中央相に含まれる2つの領域Aのうちの一方の厚みとを測定し、中央相の厚みに対する領域Aの厚みの比を算出した。
(バリア性評価)
各サンプルのバリア性評価は、GTRテック株式会社製 高感度水蒸気透過度測定装置 GTR-3000を用いて、水蒸気透湿度測定は40℃90%RH環境で、酸素透過度測定は30℃ドライ環境で実施した。この時、水蒸気透湿度が10g/m2・day以下であれば「〇」、10g/m2・dayより大きければ「×」、酸素透過度が20cc/mcc/m2・day・atm以下であれば「〇」、20cc/m2・day・atmより大きければ「×」と評価した。
【0058】
(ヒートシール強度評価)
ヒートシール強度は、株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能試験機RTG-1310を用いて実施し、端部10mmを残してヒートシールした10mm幅の試験片を用い、シールしなかった10mm部分を各々上下チャックに取り付けて100mm/分で引っ張った際に、ヒートシール温度を問わず、サンプルシートの破断が生じれば「〇」、界面剥離や凝集破壊が生じれば「×」と評価した。この評価の為の試験片は、製膜したシート同士を重ね、20mm幅でヒートシールし、両長辺端部を5mmずつ切り落とすことで作製した。ヒートシール温度は、120℃以上180℃以下の範囲で10℃ずつ変えた。
【0059】
上記各実施例及び比較例における評価結果を表1に記載する。
【0060】
【0061】
(評価結果)
表1に示したように、本発明に基づく実施例1~9では、水蒸気バリア性及び酸素バリア性ともに良好で、十分なヒートシール強度を有する優れたバリア樹脂成形体として提供できることが確認された。
【0062】
一方、比較例1~3では、中央層を構成するEVOHが全て分散相を形成しており、酸素バリア性が不十分となっている。
【0063】
比較例4では、EVOH比率が50%を超えることで、領域Aでポリオレフィン系熱可塑性樹脂相が連続相を形成できなくなり、外層との密着性が低下する為、ヒートシール強度が不足となった。
【0064】
比較例5では、外層が薄すぎて脆くなった為、ヒートシール強度が不足となった。
【0065】
比較例6では、外層が厚すぎて中央層の厚みが不足となり、ヒートシール強度の不足につながった。
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
少なくとも、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む中央層と、当該中央層の表裏に設けられ、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む外層とを有する熱可塑性樹脂成形体であって、
前記中央層は、厚み方向において、前記外層それぞれに接し、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相であり且つ前記エチレン-ビニルアルコール共重合体が分散相となる二つの第1領域が、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体が連続相となる第2領域を挟み込んでいる分散形態を有する、ことを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
(2)
前記第2領域は、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が分散相となることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂成形体。
(3)
前記第2領域は、前記ポリオレフィン系熱可塑性樹脂が連続相となることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂成形体。
(4)
前記中央層における前記分散相は、当該熱可塑性樹脂成形体の成膜流れ方向及び成膜幅方向のいずれにおいても、当該熱可塑性樹脂成形体の厚み方向を短軸とする扁平形状であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
(5)
前記中央層を形成する樹脂全量に対する前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の重量割合が、15%以上50%以下であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
(6)
前記第1領域の厚みはそれぞれ、前記中央層の厚みに対して、5%以上25%以下の範囲であることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体。
(7)
上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂成形体を用いてなることを特徴とする包装材。