(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118976
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】プレキャスト床版及びその架設方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240826BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20240826BHJP
E04B 5/38 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
E04B5/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025616
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 統
(72)【発明者】
【氏名】末次 剛
(72)【発明者】
【氏名】福井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有希
(72)【発明者】
【氏名】聶 菁
(72)【発明者】
【氏名】木作 友亮
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA17
2D059CC03
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】上面に突出物を有する主桁上に床版を水平方向に移動させながら架設する場合でも、移動させる床版の高さ位置を低くすることのできるプレキャスト床版及びその架設方法を提供する。
【解決手段】合成床版10のコンクリート部15の下面側に、主桁上20の突出物を受容可能な凹部15cをコンクリート部15の橋軸方向一端から他端に亘って形成したので、主桁20上に設置されている一方の合成床版10に対して、主桁20上に設置しようとする他方の合成床版10の底板11が一方の合成床版10の下側の第1の鉄筋12よりも低い位置になるように、他方の合成床版10を一方の合成床版10に向かって橋軸方向に移動させる際、凹部15cの高さ分だけ他方の合成床版10の高さ位置を低くすることができる。これにより、凹部15cの高さ分だけ第1の鉄筋12の有効高さを大きくして十分な強度を確保することができる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に突出物を有する主桁上に架設されるプレキャスト床版において、
前記プレキャスト床版のコンクリートの下面側に、主桁上の前記突出物を受容可能な凹部を橋軸方向一端から他端に亘って形成した
ことを特徴とするプレキャスト床版。
【請求項2】
前記主桁上の突出物が橋軸直角方向の複数箇所に設けられ、
前記凹部は橋軸直角方向の複数の突出物を受容する大きさの幅寸法に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のプレキャスト床版。
【請求項3】
前記主桁上の突出物が橋軸直角方向の複数箇所に設けられ、
前記凹部は橋軸直角方向の突出物ごとに橋軸直角方向の複数箇所に設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のプレキャスト床版。
【請求項4】
底板上に鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより形成され、コンクリートの端面から底板の端部側及び鉄筋の端部側が橋軸方向に突出した複数のプレキャスト床版を、上面に突出物を有する主桁上に架設するプレキャスト床版の架設方法において、
前記プレキャスト床版のコンクリートの下面側に、主桁上の前記突出物を受容可能な凹部を橋軸方向一端から他端に亘って形成し、
主桁上に設置されている一方のプレキャスト床版に対して、主桁上に設置しようとする他方のプレキャスト床版の底板が一方のプレキャスト床版の鉄筋よりも低い位置になるように、他方のプレキャスト床版を一方のプレキャスト床版に向かって橋軸方向に移動させた後、
他方のプレキャスト床版の凹部内に主桁上の突出物が位置するように他方のプレキャスト床版を主桁上に降下する
ことを特徴とするプレキャスト床版の架設方法。
【請求項5】
前記主桁上の突出物が上下二つの部材に分離可能に形成されていて、
前記他方のプレキャスト床版を設置しようとする主桁の突出物が下側部材のみの状態で他方のプレキャスト床版を一方のプレキャスト床版に向かって橋軸方向に移動させるとともに、
他方のプレキャスト床版を主桁上に降下した後、
突出物の下側部材に上側部材を取り付ける
ことを特徴とする請求項4記載のプレキャスト床版の架設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般道や高速道路等の橋梁に用いられるプレキャスト床版及びその架設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば橋梁の架設に用いられる合成床版として、工場で製作した鋼製の底板を現場で主桁上に固定し、底板上に鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより床版を構築するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような合成床版を用いた施工では、底板上に直接コンクリートを打設することができるので、型枠を用いる必要がなく、現場作業の効率化を図ることができる。しかしながら、現場で床版全体のコンクリートを打設する工法では、現場でのコンクリートの打設及び長い養生期間を必要とするため、工期の短縮を十分に図ることができなかった。
【0003】
また、予め工場でコンクリートと一体に製作したプレキャスト合成床版を用いることにより、現場施工の効率化及び工期の短縮化を図るようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。この工法では、主桁上に床版を設置するとともに、互いに隣り合う床版の端面間に間詰めコンクリートを打設するようにしているが、床版間における荷重の伝達力を確保するために、床版の端面から間詰め部内に複数の鉄筋(配力鉄筋)を突出させ、各鉄筋により床版と間詰めコンクリートとの結合強度を高めるようにしている。
【0004】
前記プレキャスト合成床版を用いた現場施工では、主桁上に設置されている一方の床版と、主桁上に設置しようとする他方の床版とを接合する際、他方の床版を上方から設置位置に降ろすと、一方の床版の端面から突出する鉄筋と他方の床版の底板が干渉してしまうため、他方の床版を設置位置まで水平方向にスライドさせた後、主桁上に降ろすようにしている。その際、主桁上にはずれ止め用のスタッドが突設されているため、他方の床版の底板が主桁のスタッドよりも上方に位置する高さを保ちながら他方の床版を水平方向にスライドさせる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4106317号公報
【特許文献2】特開2020-63617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記プレキャスト合成床版の現場施工では、鉄筋が高密度に配筋されていて床版上面側から底板連結用の高力ボルトを締結することができない場合や、床版下方に足場を設置することができず、床版下面側から高力ボルトを締結することができない場合がある。その対策として、底板にネジ付きスタッドからなるボルトを溶接しておき、床版上面側からシャーレンチ等でナットを締結する方法があるが、この場合は底板の連結強度が十分でないため、床版の上面側だけでなく下面側にも鉄筋を配置して間詰め部での接合強度を高める必要がある。
【0007】
しかしながら、底板に溶接されているボルトとの干渉を避けるために、前記スライド時における他方の床版の底板の位置を高くすると、その分だけ床版の下面側の鉄筋を上方に配置する必要がある。その結果、鉄筋の有効高(コンクリートの上面から下面側の鉄筋までの高さ)が小さくなるが、その分の強度不足を補うために鉄筋の本数を増大させなければならないという問題点があった。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上面に突出物を有する主桁上に床版を水平方向に移動させながら架設する場合でも、移動させる床版の高さ位置を低くすることのできるプレキャスト床版及びその架設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、上面に突出物を有する主桁上に架設されるプレキャスト床版において、前記プレキャスト床版のコンクリートの下面側に、主桁上の前記突出物を受容可能な凹部を橋軸方向一端から他端に亘って形成している。
【0010】
また、本発明は前記目的を達成するために、底板上に鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより形成され、コンクリートの端面から底板の端部側及び鉄筋の端部側が橋軸方向に突出した複数のプレキャスト床版を、上面に突出物を有する主桁上に架設するプレキャスト床版の架設方法において、前記プレキャスト床版のコンクリートの下面側に、主桁上の前記突出物を受容可能な凹部を橋軸方向一端から他端に亘って形成し、主桁上に設置されている一方のプレキャスト床版に対して、主桁上に設置しようとする他方のプレキャスト床版の底板が一方のプレキャスト床版の鉄筋よりも低い位置になるように、他方のプレキャスト床版を一方のプレキャスト床版に向かって橋軸方向に移動させた後、他方のプレキャスト床版の凹部内に主桁上の突出物が位置するように他方のプレキャスト床版を主桁上に降下するようにしている。
【0011】
これにより、プレキャスト床版のコンクリートの下面側に、主桁上の突出物を受容可能な凹部が橋軸方向一端から他端に亘って形成されていることから、主桁上に設置されている一方のプレキャスト床版に対して、主桁上に設置しようとする他方のプレキャスト床版の底板が一方のプレキャスト床版の鉄筋よりも低い位置になるように、他方のプレキャスト床版を一方のプレキャスト床版に向かって橋軸方向に移動させる際、凹部の高さ分だけ他方のプレキャスト床版の高さ位置を低くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上面に突出物を有する主桁上にプレキャスト床版を水平方向に移動させながら架設する場合でも、移動させるプレキャスト床版の高さ位置を低くすることのできるので、鉄筋の有効高さを大きくして十分な強度を確保することができる。これにより、鉄筋の本数を増大させることがなく、プレキャスト床版の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す合成床版の平面図
【
図3】凹部の形成工程を示す合成床版の要部正面断面図
【
図5】合成床版の接合工程を示すA-A線矢視方向断面図
【
図6】合成床版の接合工程を示すA-A線矢視方向断面図
【
図7】合成床版の接合工程を示すA-A線矢視方向断面図
【
図8】合成床版の接合状態を示すA-A線矢視方向断面図
【
図9】合成床版の接合状態を示すA-A線矢視方向断面図
【
図12】本発明の第2の実施形態を示す合成床版の要部正面断面図
【
図13】本発明の第3の実施形態を示す合成床版の要部正面断面図
【
図14】本発明の第4の実施形態を示す合成床版の要部正面断面図
【
図15】上下反転状態の合成床版を示す要部正面断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図11は本発明の第1の実施形態を示すもので、例えば一般道や高速道路等の橋梁に用いられるプレキャスト合成床版(以下、「合成床版」という。)を示すものである。
【0015】
同図に示す合成床版10は、主桁20上に架設されるとともに、他の合成床版10と橋軸方向に接合される。
【0016】
合成床版10は、床版本体の底面をなす鋼製の底板11と、橋軸方向に延びる配力筋としての複数の第1の鉄筋12と、橋軸直角方向に延びる主鉄筋としての複数の第2の鉄筋13と、底板11上に固定された複数の補剛材14と、底板11上に打設されたコンクリート部15とから構成され、底板11は他の合成床版10の底板11とボルト16及び添接板17によって連結される。
【0017】
底板11は、平板状の鋼板からなり、その橋軸方向両端側の上面には各ボルト16が橋軸直角方向に間隔をおいて配置されている。また、
図2に示すように、底板11には主桁20の橋軸直角方向両側から主桁20に向かって下り傾斜をなすハンチ部11aが設けられている。主桁20の両側のハンチ部11aは主桁20の上フランジ21の幅よりもやや狭い間隔をおいて配置され、水平に形成されたハンチ部11aの端部が図示しないシールスポンジを介して上フランジ21上に載置されるようになっている。
【0018】
各第1の鉄筋12は、底板11の上方に位置するように橋軸直角方向に上下二列に配列され、その両端側はコンクリート部15の外部に延出している。各第1の鉄筋12の端部には、後述する間詰めコンクリートに定着させるための定着部12aが設けられ、定着部12aは第1の鉄筋12の径方向に拡大するように形成されている。また、各第1の鉄筋12は、隣り合う他の合成床版10の各第1の鉄筋12と橋軸直角方向に互いに位置がずれるように配置される
各第2の鉄筋13は、底板11の上方に位置するように橋軸方向に配列され、上側の第1の鉄筋12の上方に配置されている。尚、床版厚が小さい場合は、第2の鉄筋13を上側の第1の鉄筋12の下方に配置するようにしてもよい。
【0019】
各補剛材14は、橋軸直角方向に延びる鋼材(例えば、溝形鋼)からなり、互いに橋軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0020】
コンクリート部15は、工場等で型枠を用いて底板11に打設され、底板11上に底板11の全幅に亘る床版部分を形成している。コンクリート部15には、第1の鉄筋12、第2の鉄筋13、補剛材14が埋設され、底板11の端部側及び第1の鉄筋12の端部側はコンクリート部15の端面15aから外部に水平方向に延出している。この場合、各第1の鉄筋12は底板11の端部よりも長く水平方向に延出している。また、上側の第1の鉄筋12はコンクリート部15の上下方向中央よりも上方に配置され、下側の第1の鉄筋12はコンクリート部15の上下方向中央よりも下方に配置されている。また、コンクリート部15には、主桁20のずれ止め部材22を挿通する複数の孔15bが設けられている。
【0021】
コンクリート部15の下面側には、コンクリート部15の橋軸方向一端から他端に亘って延びる凹部15cが設けられ、凹部15cは主桁20上の突出物(後述するずれ止め部材22の下側部材22a)を受容可能な大きさに形成されている。即ち、凹部15cは断面が横長の長方形状に形成され、橋軸直角方向に配列される突出物の列よりも大きい幅寸法と、各突出物よりも高い高さ寸法を有するように形成されている。この場合、凹部15cは、
図3に示すようにコンクリート部15を打設する際に凹部15cに対応する専用の型枠30を用いることによって形成される。また、凹部15cにはコンクリート部15の各孔15bが連通している。
【0022】
ボルト16は、外周面に雄ネジが形成されたシャフト状の部材からなり、底板11に上方に向かって突出するように溶接されている。尚、本実施形態では、底板11に溶接されたボルト16によって添接板17を底板11に締結するようにしたものを示したが、高力ボルトを用いて締結するようにしてもよい。
【0023】
添接板17は、橋軸直角方向に延びる鋼板からなり、互いに隣り合う合成床版10の底板11に亘って各底板11の端部側の上面に載置されるように形成されている。また、添接板17にはボルト16を挿通する複数のボルト挿通孔17aが設けられている。
【0024】
主桁20の上フランジ21上には、上下二つの部材に分離可能な複数のずれ止め部材22が設けられ、各ずれ止め部材22は橋軸直角方向複数箇所に配置されるとともに、橋軸方向複数箇所に間隔をおいて配置されている。ずれ止め部材22は、上フランジ21上に配置される下側部材22aと、下側部材22aの上方に配置される上側部材22bと、下側部材22aと上側部材22bとを連結する連結部材22cとからなる。下側部材22aは、雄ネジが形成されたシャフト状の部材からなり、下端を上フランジ21の上面に溶接により固定されている。上側部材22bは、雄ネジが形成されたシャフト状の部材からなり、その上端には拡径した頭部が形成されている。連結部材22cは高ナットからなり、下端側を下側部材22aに螺合し、他端側を上側部材22bに螺合することにより、下側部材22aと上側部材22bとを連結するようになっている。
【0025】
以上のように構成された合成床版10は、工場等で製作された後、施工現場に搬送される。尚、合成床版10の設置工程においては、主桁20上のずれ止め部材22を上側部材22bが装着されていない下側部材22aのみの状態にしておく。
【0026】
以下、
図4乃至
図11を参照して合成床版10の架設工程を説明する。
【0027】
まず、
図4に示すように、主桁20上に先行して設置されている一方の合成床版10に対し、図示しないクレーンによって吊り下げられた他方の合成床版10を一方の合成床版10よりも高さHだけ高い位置から一方の合成床版10に向かって橋軸方向にスライドさせる。
【0028】
この場合、合成床版10の第1の鉄筋12が底板11の先端よりも長く延出していることから、仮に他方の合成床版10をその設置位置の真上から下降させようとすると、一方の合成床版10の第1の鉄筋12に他方の合成床版10の底板11が干渉してしまうため、他方の合成床版10の底板11が一方の合成床版10の下側の第1の鉄筋12よりも低い位置となるように水平方向にスライドさせることにより、他方の合成床版10の底板11と干渉することなく他方の合成床版10が設置される。
【0029】
その際、主桁20上に突出するずれ止め部材22の下側部材22aの上方には他方の合成床版10の凹部15cが位置することから、凹部15cの高さ分だけスライド時の他方の合成床版10の高さHを低くすることが可能となる。
【0030】
即ち、スライド時の他方の合成床版10の高さHは、主桁20上のずれ止め部材22の下側部材22aの高さH1 と、施工時の余裕分の高さH2 と、一方の合成床版10の下側の第1の鉄筋12と他方の合成床版10の底板11との干渉を回避する高さH3 とを合計した高さから凹部15cの高さH4 を減じた高さとなる。これにより、第1の鉄筋12の有効高さH5 (コンクリート部15の上面から下側の第1の鉄筋12までの高さ)を凹部15cの高さH4 だけ大きくすることが可能となる。
【0031】
続いて、
図5、
図6、
図10及び
図11に示すように、他方の合成床版10を主桁20上に下降させる。この後、
図7に示すように添接板17を底板11上に配置するとともに、各合成床版10の底板11のボルト16を添接板17のボルト挿通孔17aに挿通し、ボルト16にナット16aを螺合して仮締めする。
【0032】
次に、
図8に示すように締め付け工具40(例えば、ロングソケット付きシャーレンチ)を用いてナット16aをボルト16に本締めするとともに、合成床版10の孔15b内に位置するずれ止め部材22の下側部材22aに連結部材22cによって上側部材22bを取り付ける。
【0033】
この後、
図9に示すように、各合成床版10間の間詰め領域に位置する上側の第1の鉄筋12上に橋軸直角方向に延びる複数の補強鉄筋18を互いに橋軸方向に間隔をおいて配置し、間詰め領域に間詰めコンクリート19を打設する。これにより、間詰め領域の各第1の鉄筋12が間詰めコンクリート19と一体化する。
【0034】
また、コンクリート部15の孔15b内にコンクリートやモルタル等の充填材15dを充填することにより、主桁20のずれ止め部材22とコンクリート部15が一体化される。その際、コンクリート部15の凹部15c内にも充填材15dが充填される。
【0035】
このように、本実施形態によれば、合成床版10のコンクリート部15の下面側に、主桁上20の突出物を受容可能な凹部15cをコンクリート部15の橋軸方向一端から他端に亘って形成したので、主桁20上に設置されている一方の合成床版10に対して、主桁20上に設置しようとする他方の合成床版10の底板11が一方の合成床版10の下側の第1の鉄筋12よりも低い位置になるように、他方の合成床版10を一方の合成床版10に向かって橋軸方向に移動させる際、凹部15cの高さ分だけ他方の合成床版10の高さ位置を低くすることができる。これにより、凹部15cの高さ分だけ第1の鉄筋12の有効高さを大きくして十分な強度を確保することができるので、鉄筋の本数を増大させることがなく、合成床版10の低コスト化を図ることができる。
【0036】
また、主桁20の上面から上方に突出するずれ止め部材22が上下二つの下側部材22a及び上側部材22bに分離可能に形成されていて、他方の合成床版10を設置しようとする主桁20のずれ止め部材22が下側部材22aのみの状態で他方の合成床版10を一方の合成床版10に向かって橋軸方向にスライドさせ、他方の合成床版10を主桁20上に降下した後、ずれ止め部材22に上側部材22bを取り付けるようにしたので、スライド時の主桁20上の突出物(下側部材22a)の高さを小さくすることができる。これにより、スライド時の他方の合成床版10の高さ位置をより一層低くすることができ、第1の鉄筋12の有効高さの確保に極めて有利である。
【0037】
この場合、凹部15cを橋軸直角方向の複数の突出物を受容する大きさの幅寸法に形成したので、凹部15cの幅方向全ての突出物を受容することができ、凹部15cの形状を簡素化することができる。
【0038】
尚、前記実施形態では、凹部15cを断面長方形状に形成するようにしたものを示したが、
図12の第2の実施形態に示す凹部15eのように上側の角部を面取りした断面形状にしてもよい。
【0039】
また、前記実施形態では、凹部15cを橋軸直角方向の複数の突出物を受容する大きさの幅寸法に形成したものを示したが、
図13の第3の実施形態に示すように突出物ごとに複数の凹部15fを橋軸直角方向複数箇所にそれぞれ設けるようにすれば、各凹部15fに充填される充填材の量を少なくすることができる。
【0040】
更に、前記実施形態では、専用の型枠を用いて凹部15cを形成するようにしたものを示したが、
図14に示す第4の実施形態のように、
図15に示すように工場製作時に底板11を上下反転してコンクリート部15の打設を行い、ハンチ部11aにコンクリートが充填されない空間を残してコンクリートを硬化させることにより、この空間によって凹部15gを形成するようにしてもよい。これにより、専用の型枠を必要としないので、凹部15gを有する合成床版10を容易に製造することができる。
【0041】
また、前記各実施形態では、第1の鉄筋12を上下二列に配置したものを示したが、一定の高さに一列に配置したり、上下三列以上に配置するようにしてもよい。
【0042】
更に、前記各実施形態では、プレキャスト床版として、底板11を有するプレキャスト合成床版10を示したが、緊張材を用いて予めプレストレスが導入されたプレキャストコンクリート製のプレキャストPC床版であってもよい。この場合、プレキャストPC床版は底板を有しないが、コンクリート端面の下部側が顎状に突出するように形成されたプレキャストPC床版では、この顎部と鉄筋との干渉を避けるために本発明を適用することができる。
【0043】
尚、前記各実施形態は本発明の一実施例であり、本発明は前記各実施形態に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0044】
10…合成床版、11…底板、12…第1の鉄筋、15…コンクリート部、15c,15e,15f,15g…凹部、16…ボルト、16a…ナット、17…添接板、19…間詰めコンクリート、20…主桁、22…ずれ止め部材、22a…下側部材、22b…上側部材、22c…連結部材。