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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011900
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】空間判定装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240118BHJP
【FI】
G06T7/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114227
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 正善
(72)【発明者】
【氏名】徳弘 健郎
(72)【発明者】
【氏名】池内 暁紀
(72)【発明者】
【氏名】片平 悟史
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA08
5L096CA04
5L096DA02
5L096GA41
5L096HA02
5L096HA09
5L096JA11
5L096JA18
(57)【要約】
【課題】植物が配置された対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易に判定することを目的とする。
【解決手段】空間判定装置4は、対象空間の画像に含まれる植物の配置状況に応じて変化する特徴量を当該画像から抽出する特徴量抽出部7と、対象空間を複数の空間タイプの何れかに分類する分類部8と、を備え、複数の空間タイプは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプと、人の集中力を向上させる第2空間タイプと、人の活力を向上させる第3空間タイプと、を少なくとも有し、特徴量抽出部7は、特徴量として、対象空間の画像の緑視率と、対象空間の画像のフラクタル次元と、対象空間の画像のゆらぎ値と、対象空間の画像から少なくとも抽出し、分類部8は、抽出された特徴量に基づいて対象空間の画像を複数の空間タイプの何れかの画像群に分類することによって、対象空間を分類する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が配置された対象空間が人に与える影響を判定する空間判定装置であって、
前記対象空間の画像に含まれる植物の配置状況に応じて変化する特徴量を当該画像から抽出する特徴量抽出部と、
前記対象空間を、人に与える影響が異なる複数の空間タイプの何れかに分類する分類部と、を備え、
前記複数の空間タイプは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプと、人の集中力を向上させる第2空間タイプと、人の活力を向上させる第3空間タイプと、を少なくとも有し、
前記特徴量抽出部は、前記特徴量として、前記対象空間の画像の緑視率と、前記対象空間の画像のフラクタル次元と、前記対象空間の画像のゆらぎ値とを、前記対象空間の画像から少なくとも抽出し、
前記分類部は、抽出された前記特徴量に基づいて前記対象空間の画像を前記複数の空間タイプの何れかの画像群に分類することによって、前記対象空間を分類する
ことを特徴とする空間判定装置。
【請求項2】
前記対象空間の画像は、前記対象空間内の所定位置の周囲を全方位に亘って撮影することによって取得される全方位画像である
ことを特徴とする請求項1に記載の空間判定装置。
【請求項3】
前記分類部は、前記対象空間の画像に対して、抽出された前記特徴量を用いたクラスター分析又は主成分分析を行うことによって、前記対象空間を分類する
ことを特徴とする請求項1に記載の空間判定装置。
【請求項4】
前記クラスター分析又は主成分分析の結果に基づいて、前記空間タイプに対する前記対象空間の類似度又は非類似度を評価する評価部を更に備える
ことを特徴とする請求項3に記載の空間判定装置。
【請求項5】
前記対象空間の画像のゆらぎ値は、1/fゆらぎ値である
ことを特徴とする請求項1に記載の空間判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1984年にEdward Osborne Wilsonがバイオフィリア(Biophilia)仮説を提唱して以来、この仮説を設計に取り入れた、いわゆるバイオフィリックデザインが、様々な建築物や居住空間に適用されている。近年、バイオフィリックデザインが適用された空間(「バイオフィリア空間」とも称する)が、ストレス軽減、創造性向上又は作業効率向上等の好影響を人に与えることが確認されてきている。
【0003】
空間の自然感が人に与える影響を判定する手法は、これまでにも提案されている。例えば、特許文献1には、森林内の空間にいる際の生理反応情報と、都市部の空間にいる際の生理反応情報とを取得し、それぞれの生理反応情報の差に基づき、当該森林内の空間が森林浴に適した空間であるか否かを判定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-103309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の手法は、自然環境内の空間が森林浴に適した空間であるかを判定するに過ぎない。すなわち、特許文献1に開示の手法では、バイオフィリア空間を構築するべく対象空間に植物を様々に配置しても、対象空間がどのようなタイプの影響を人に与えることが期待できるのかを判定することができない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、植物が配置された対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易に判定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の空間判定装置は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を判定する空間判定装置であって、前記対象空間の画像に含まれる植物の配置状況に応じて変化する特徴量を当該画像から抽出する特徴量抽出部と、前記対象空間を、人に与える影響が異なる複数の空間タイプの何れかに分類する分類部と、を備え、前記複数の空間タイプは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプと、人の集中力を向上させる第2空間タイプと、人の活力を向上させる第3空間タイプと、を少なくとも有し、前記特徴量抽出部は、前記特徴量として、前記対象空間の画像の緑視率と、前記対象空間の画像のフラクタル次元と、前記対象空間の画像のゆらぎ値とを、前記対象空間の画像から少なくとも抽出し、前記分類部は、抽出された前記特徴量に基づいて前記対象空間の画像を前記複数の空間タイプの何れかの画像群に分類することによって、前記対象空間を分類する。
【0008】
空間判定装置は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を、ストレス軽減、集中力向上及び活力向上に少なくとも分け、これらの影響に応じて対象空間の空間タイプを、それぞれ、第1空間タイプ、第2空間タイプ及び第3空間タイプに少なくとも分類することができる。このとき、対象空間の画像を取得して空間判定装置に入力するだけで、空間判定装置は、上記の各特徴量を抽出し、抽出された各特徴量に基づいて、対象空間を分類することができる。したがって、空間判定装置は、植物が配置された対象空間が未知の空間であっても、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易に判定することができる。
【0009】
更に好ましい態様として、前記対象空間の画像は、前記対象空間内の所定位置の周囲を全方位に亘って撮影することによって取得される全方位画像である。
【0010】
この態様により、空間判定装置は、対象空間内の所定位置に居る人が見渡せる限りの植物の配置状況を考慮して、対象空間を分類することができる。したがって、空間判定装置は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を対象空間の分類に更に正確に反映させることができる。よって、空間判定装置は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ正確に判定することができる。
【0011】
更に好ましい態様として、前記分類部は、前記対象空間の画像に対して、抽出された前記特徴量を用いたクラスター分析又は主成分分析を行うことによって、前記対象空間を分類する。
【0012】
この態様により、空間判定装置は、クラスター分析又は主成分分析という比較的簡易な手法によって、対象空間を分類することができる。よって、空間判定装置は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを更に容易に判定することができる。
【0013】
更に好ましい態様として、前記空間判定装置は、前記クラスター分析又は主成分分析の結果に基づいて、前記空間タイプに対する前記対象空間の類似度又は非類似度を評価する評価部を更に備える。
【0014】
この態様により、空間判定装置は、対象空間が各空間タイプにどの程度近付いているのかを定量的に評価することができる。よって、空間判定装置は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ定量的に判定することができる。
【0015】
更に好ましい態様として、前記対象空間の画像のゆらぎ値は、1/fゆらぎ値である。
【0016】
この態様により、空間判定装置は、人に対して居心地の良さやリラックス効果等の影響を与える1/fゆらぎを特徴量として用いるので、対象空間を各空間タイプに確実に分類することができる。よって、空間判定装置は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ確実に判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、植物が配置された対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の空間判定装置を備えた空間判定システムの構成を示す図。
図2】Genki空間を示す図。
図3】Genki空間の各席に着座した被験者へのアンケート結果を示す図。
図4図4(a)はGenki空間のTenエリアの画像を示す図、図4(b)はGenki空間のSenエリアの画像を示す図。
図5図5(a)はGenki空間のMenエリアの画像を示す図、図5(b)は植物有りの対照区の画像を示す図。
図6図4(a)~図5(b)に示す各画像のクラスター分析結果を示す図。
図7図4(a)~図5(b)に示す各画像の主成分分析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0020】
[空間判定システムの構成]
図1は、本実施形態の空間判定装置4を備えた空間判定システム1の構成を示す図である。
【0021】
空間判定システム1は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を判定するシステムである。特に、空間判定システム1は、対象空間の画像に基づいて、対象空間がどのようなタイプの好影響を人に与えることが期待できるのかを判定する。空間判定システム1は、上記のバイオフィリア空間を構築するために、対象空間の設計に活用される。空間判定システム1は、撮像装置2と、表示装置3と、空間判定装置4と、を備える。
【0022】
撮像装置2は、対象空間の画像を取得するカメラによって構成される。撮像装置2によって取得される画像は、対象空間内の所定位置において所定位置の周囲を全方位に亘って撮影することによって取得される全方位画像(360度画像)であってもよい。或いは、撮像装置2によって取得される画像は、当該所定位置から1又は複数の方位に向かって撮影することによって取得される通常の画像(正面画像)であってもよい。本実施形態の撮像装置2は、全方位画像を取得する。撮像装置2は、全方位画像を取得する全方位カメラ(360度カメラ)によって構成されてもよいし、汎用カメラ若しくはスマートフォン等に搭載されたカメラによって構成されてもよい。
【0023】
表示装置3は、撮像装置2によって取得された画像や、空間判定装置4の処理結果を表示するディスプレイによって構成される。
【0024】
空間判定装置4は、対象空間が人に与える影響を判定するコンピュータシステムによって構成される。空間判定装置4は、記憶装置5と、演算処理装置6と、を備える。記憶装置5は、SSD又はHDD等によって構成される。記憶装置5は、演算処理装置6の処理に用いられる各種データ等を記憶する。演算処理装置6は、CPU、ROM及びRAM等によって構成される。演算処理装置6は、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって、空間判定装置4の各種機能を実現する。
【0025】
演算処理装置6は、特徴量抽出部7と、分類部8と、評価部9と、を有する。
【0026】
特徴量抽出部7は、対象空間の画像に含まれる植物の配置状況に応じて変化する特徴量を当該画像から抽出する。特に、特徴量抽出部7は、対象空間の画像の特徴量として、対象空間の画像の緑視率と、対象空間の画像のフラクタル次元と、対象空間の画像のゆらぎ値とを、対象空間の画像から少なくとも抽出する。特徴量抽出部7は、緑視率解析部71と、フラクタル解析部72と、ゆらぎ解析部73と、を有する。
【0027】
緑視率解析部71は、対象空間の画像の緑視率(「緑視包囲率」とも称する)を解析する。緑視率は、視界に占める緑(植物)の割合を示す指標である。具体的には、緑視率解析部71は、撮像装置2によって取得された対象空間の画像(例えばRGB画像)を、HSV色空間に変換する。そして、緑視率解析部71は、色相40/360~130/360、彩度15/100~100/100、明度10/100~100/100の範囲となるピクセルを画像全体から計数する。緑視率解析部71は、計数されたピクセル数を、緑を示すピクセル数とする。緑視率解析部71は、画像全体のピクセル数(4096×2048)に対して、緑を示すピクセル数が占める割合を算出する。これにより、緑視率解析部71は、対象空間の画像の緑視率を算出することができる。
【0028】
フラクタル解析部72は、対象空間の画像のフラクタル次元を解析する。フラクタル図形は、細部の形状と全体の形状とが幾何学的に相似形となる自己相似性を有する図形である。フラクタル図形は、樹木の枝又は雪の結晶等のように自然環境に多数存在し、人に対して自然感や癒され感等の影響を与えることができる。フラクタル次元は、フラクタル図形の複雑さを表す指標である。ある図形全体が1/nに縮小した相似形のミニチュアm個によって構成されているとき、この図形のフラクタル次元はD=logmと定義される。
【0029】
具体的には、フラクタル解析部72は、撮像装置2によって取得された対象空間の画像をグレースケールに変換する。例えば、フラクタル解析部72は、YCbCrの輝度、HSV色空間から得られる明度、HSV色空間から得られる彩度、HLS色空間から得られる明度、HLS色空間から得られる彩度等を用いて、対象空間の画像をグレースケールに変換する。フラクタル解析部72は、グレースケールに変換された画像から、立体法又はFBM(Fractal Brown Motion)法等を用いて、フラクタル次元を解析する。なお、フラクタル解析部72は、対象空間の画像をグレースケールに変換せずに、スケール次元分析又はパワースペクトル解析を行うことによってフラクタル次元を解析してもよい。或いは、フラクタル解析部72は、グレースケールに変換された画像を更に二値化し、二値化された画像から、ボックスカウント法を用いてフラクタル次元を解析してもよい。二値化する手法は、特に限定されない。例えば、フラクタル解析部72は、閾値を固定して二値化したり、様々なフィルターを使って二値化したり、画像のエッジを抽出した後に二値化したりてもよい。フラクタル解析部72は、これらの手法を組み合わせて、フラクタル次元を解析してもよい。本実施形態のフラクタル解析部72は、FBM法を用いてフラクタル次元を解析する。
【0030】
ゆらぎ解析部73は、対象空間の画像のゆらぎ値を解析する。画像のゆらぎとしては、DFA(detrended fluctuation analysis)や1/fゆらぎ等がある。特に、1/fゆらぎは、パワースペクトルが周波数に反比例するゆらぎのことであり、規則性と不規則性とが適度に組み合わさったゆらぎである。1/fゆらぎは、人に対して居心地の良さやリラックス効果等の影響を与えることができる。本実施形態のゆらぎ解析部73は、対象空間の画像の1/fゆらぎ値を解析する。具体的には、ゆらぎ解析部73は、対象空間の画像をグレースケールに変換する。ゆらぎ解析部73は、グレースケールに変換された画像の縦方向及び横方向における濃淡変化(明度の変化)を波(ゆらぎ)と捉えて、それぞれにフーリエ変換を行う。そして、ゆらぎ解析部73は、フーリエ変換された波から、パワースペクトルの対数値と周波数の対数値とを算出する。ゆらぎ解析部73は、パワースペクトルの対数値と周波数の対数値を2次元マップにプロットした線の傾きを、1/fゆらぎ値として算出する。
【0031】
分類部8は、対象空間を、人に与える影響が異なる複数の空間タイプの何れかに分類する。分類部8は、特徴量抽出部7により抽出された特徴量に基づいて対象空間の画像を複数の空間タイプの何れかの画像群に分類することによって、対象空間を分類する。複数の空間タイプは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプと、人の集中力を向上させる第2空間タイプと、人の活力を向上させる第3空間タイプと、を少なくとも有する。具体的には、分類部8は、対象空間の画像に対して、抽出された特徴量を用いたクラスター分析又は主成分分析を行うことによって、対象空間を分類する。
【0032】
分類部8は、対象空間の画像の緑視率、対象空間の画像のフラクタル次元、及び、対象空間の画像のゆらぎ値を少なくとも含む系列を、当該画像の特徴量ベクトルとする。そして、分類部8は、複数の特徴量ベクトルに対して階層型クラスター分析等を行うことによって、対象空間の画像を、複数の空間タイプの何れかの画像群(クラスター)に分類する。本実施形態の分類部8のクラスター分析は、分類に用いられる画像間の距離として平方ユークリッド距離が用いられ、クラスター間の距離の測定方法として群平均法が用いられる。但し、分類部8のクラスター分析は、平方ユークリッド距離以外の距離、及び、群平均法以外の測定方法が用いられてもよい。例えば、分類に用いられる画像間の距離として、平均ユークリッド距離、マハラノビス距離、相関係数、コサイン係数、ブレイカーティス係数又はキャンベラ距離係数等が用いられてもよい。クラスター間の距離の測定方法として、ウォード法、可変法、最短距離法又は最長距離法等が用いられてもよい。また、本実施形態の分類部8の主成分分析は、相関係数行列又は分散共分散行列等を用いて行われる。なお、分類部8は、クラスター分析及び主成分分析以外の手法を用いて分類してもよい。
【0033】
評価部9は、分類部8によって行われたクラスター分析又は主成分分析の結果に基づいて、各空間タイプに対する対象空間の類似度又は非類似度を評価する。例えば、評価部9は、各空間タイプに対する対象空間の類似度又は非類似度を、上記の平方ユークリッド距離を用いて評価する。
【0034】
[対象空間の分類の具体例]
図2図7を用いて、対象空間の空間タイプを分類することの具体例について説明する。本実施形態では、バイオフィリア空間を構築するために設計されたGenki空間(登録商標)を例に挙げて説明する。
【0035】
図2は、Genki空間を示す図である。
【0036】
Genki空間は、愛知県豊田市に存在する試験室(幅9.40m、奥行11.45m、高さ2.8m)内に設計された、植物と共生しながら長期滞在できるオフィス空間である。Genki空間には、プランツコーディネーター(植物空間デザインの専門家)の印象評価によって分類された複数の植物が導入されている。Genki空間には、これら複数の植物の他、内装及び什器が導入されている。植物を導入する前の上記試験室は、植物無しの対照区として用いられる。
【0037】
Genki空間は、異なる植物の配置状況に応じた異なる3タイプのエリアを有する。具体的には、Genki空間は、人のストレスを軽減させる植物が配置されたTenエリアと、人の集中力を向上させる植物が配置されたSenエリアと、人の活力を向上させる植物が配置されたMenエリアと、を有する。Ten、Men、Senの各エリアには、人に与える影響に寄与する植物を、プランツコーディネーターが選定して配置している。これらの植物の選定は、例えば、特開2022-019372号公報に開示された選定手法を援用することも可能である。Ten、Men、Senの各エリアには、6つの席が設置されている。窓にはブラインドが設置されており、遠景の影響が排除されている。
【0038】
図3は、Genki空間の各席に着座した被験者へのアンケート結果を示す図である。
【0039】
正面を向いて被験者が着座した際にタイプが異なるエリアの視覚情報が入らない席として、Ten2、Ten6、Sen2、Sen4、Men1及びMen2の各席を選択した。これらの席に8人の被験者に数分間着座された後、どのような印象を受けるのかアンケートを実施した。その結果、図3に示すように、これら3つのタイプから受ける印象は異なることが分かった。Tenエリアでは、「ややゆったりした気持ちになる」との回答が多い。Senエリアでは、「精神が集中した気持ちになる」との回答が多い。Menエリアでは、「気力に満ちた気持ちになる」、「何かを決めるための議論がし易い」、「ややゆったりした気持ちになる」との回答が多い。
【0040】
Tenエリアの回答は、「気力に満ちた気持ちになる」及び「何かを決めるための議論がし易い」との回答よりも、「ややゆったりした気持ちになる」との回答の方が多い。したがって、Tenエリアは、独りでリラックスしてストレスが軽減するような静的な気持ちにさせることが分かる。すなわち、Tenエリアは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプとして期待できることが分かる。
【0041】
Senエリアの回答は、「精神が集中した気持ちになる」との回答が多い。したがって、Senエリアは、人の集中力を向上させる第2空間タイプとして期待できることが分かる。
【0042】
Menエリアの回答は、「ややゆったりした気持ちになる」との回答よりも、「気力に満ちた気持ちになる」及び「何かを決めるための議論がし易い」との回答の方が多い。したがって、Menエリアは、人を活力が満ちた気持ちにさせて、他人と議論するためのパワーが充填するような動的な気持ちにさせることが分かる。すなわち、Menエリアは、人の活力を向上させる第3空間タイプとして期待できることが分かる。
【0043】
このように、Genki空間に設けられたTen、Sen、Menの各エリアは、異なる植物の配置状況に応じて人に異なる影響を与える空間タイプとして機能すること分かる。
【0044】
図4(a)は、Genki空間のTenエリアの画像を示す図である。図4(b)は、Genki空間のSenエリアの画像を示す図である。図5(a)は、Genki空間のMenエリアの画像を示す図である。図5(b)は、植物有りの対照区の画像を示す図である。
【0045】
図4(a)~図5(a)に示す各画像を、次のようにして取得した。撮像装置2として、Insta360 Pro2を使用し、Genki空間の各席の着座位置目線である床上120cmに三脚で設置して全方位画像を取得した。取得された全方位画像には、次のような加工を施した。すなわち、取得された全方位画像を、画像スティッチングソフトHuginを使用して、正距円筒図法からランベルト正積円筒図法に変換した後、座席前方が画像中心と合うように修正した。この画像(7680×3840ピクセル、アスペクト比1:2)を、画像編集ソフトAdobe Photoshop)を使用して縮小(4096×2048ピクセル、アスペクト比1:2)し、Camera Rawフィルターを用い色調を整えた。
【0046】
図4(a)に示すTen1~Ten6の各画像は、Genki空間のTenエリアのTen1~Ten6の各席において撮影され、上記の加工が施された画像である。図4(a)に示すnTen1~nTen6の各画像は、植物無しの対照区の画像であり、Ten1~Ten6の各席において植物が導入される前に撮影され、上記の加工が施された画像である。図4(b)に示すSen1~Sen6の各画像、図4(b)に示すnSen1~nSen6の各画像、図5(a)に示すMen1~Men6の各画像、及び、図5(a)に示すnMen1~nMen6の各画像についても同様である。
【0047】
図5(b)に示すForest1~Forest6の各画像は、植物有りの対照区の画像である。図5(b)に示すForest1~Forest6の各画像は、宮崎県東諸県郡綾町に存在する綾の森の森林セラピーロードにおいて、撮像装置2を使用して撮影され、上記の加工が施された画像である。この綾の森は、森林浴をした被験者の心拍及び脈波等の生理反応を計測した結果から、ストレス軽減効果が認められている場所である。
【0048】
図4(a)~図5(b)に示す各画像における緑視率は、緑視率解析部71によって表1のように算出される。Genki空間の各エリアにおける緑視率は、Menエリア、Tenエリア、Senエリアの順に高くなった。Genki空間の各エリアにおける緑視率は、植物有りの対照区である綾の森の緑視率と比べて顕著に低く、互いに近い値となった。実際にGenki空間に滞在すると、Menエリアの植物量は他と比べて非常に多いと感じられ感覚的に明らかに区別できるが、緑視率としては大きな差は無かった。特徴量として緑視率だけを用いて各エリアを分類することは難しい。人の印象と特徴量との関係を考える上で、緑視率以外の指標が必要であることを意味する。
【0049】
【表1】
【0050】
そこで、発明者は、図4(a)~図5(b)に示す各画像から様々な特徴量を抽出して、Genki空間に設けられたTen、Sen、Menの各エリアを、第1空間タイプ、第2空間タイプ、第3空間タイプの各空間タイプにそれぞれ分類することができるか検討した。その結果、発明者は、各画像の緑視率、フラクタル次元及びゆらぎ値を少なくとも抽出することによって、Genki空間の各エリアを各空間タイプにそれぞれ分類できることを見出した。
【0051】
図6は、図4(a)~図5(b)に示す各画像のクラスター分析結果を示す図である。
【0052】
空間判定装置4の特徴量抽出部7は、図4(a)~図5(b)に示す各画像から、緑視率解析部71によって算出される緑視率と、フラクタル解析部72によりFBM法を用いて解析されるフラクタル次元と、ゆらぎ解析部73によって算出される1/fゆらぎ値とを特徴量として抽出した。そして、空間判定装置4の分類部8は、平方ユークリッド距離及び群平均法を用いて、階層型クラスター分析を行った。分類部8は、例えば、統計解析ソフト(JUSE-StatWorks V5)を用いてクラスター分析及び主成分分析を行うことができる。
【0053】
図6は、クラスター分析の結果を樹形図で表現したデンドログラムを示す。図6に示すように、植物有りの対照区(Forest)の画像群と、Genki空間の画像群とでは、異なるクラスターに分類されている。更に、Genki空間の植物有りのエリア(Ten、Sen、Men)の画像群と、植物無しの対照区(nTen、nSen、nMen)の画像群とでは、異なるクラスターに分類されている。更に、Genki空間において、Tenエリアの画像群と、Senエリアの画像群と、Menエリアの画像群とは、異なるクラスターに分類されている。すなわち、本実施形態の空間判定装置4は、人のストレスを軽減させる第1空間タイプを示すTenエリアの画像群と、人の集中力を向上させる第2空間タイプを示すSenエリアの画像群と、人の活力を向上させる第3空間タイプを示すMenエリアの画像群とを、異なるクラスターに分類可能であることが分かる。なお、Men6の画像とTen3及びTen4の画像とが同じクラスターに分類されたのは、Men6の画像の両側にTenエリアの植物が写り込んでいるからと考えられる。
【0054】
また、図6の縦軸は、クラスター同士の非類似度を示し、数値が大きいほどクラスター同士が似ていないことを示し、数値が小さいほどクラスター同士が似ていることを示す。類似度又は非類似度は、クラスター間の平方ユークリッド距離に応じて評価される。すなわち、類似度又は非類似度を評価することにより、クラスターに属する画像が示す空間同士がどの程度に似ているのかを定量的に評価することができる。
【0055】
ここで、Genki空間の特定のエリアにおいて植物の配置状況を図4(a)~図5(a)に示す配置から変更して画像を取得し、空間判定装置4に入力した場合、空間判定装置4は、当該画像から上記の特徴量を抽出してクラスター分析を行う。この分析結果としては、植物の配置状況が変更されたエリアの画像が、図6に示すGenki空間の植物有りの何れかのエリアのクラスターに属するか、或いは、新たなクラスターに属することとなる。この場合、空間判定装置4は、植物の配置状況が変更されたエリアの画像が属するクラスターと、所望の空間タイプを示すクラスターとの類似度又は非類似度を評価することができる。これにより、空間判定装置4は、植物の配置状況が変更されたエリアが、所望の空間タイプにどの程度近付いているのかを定量的に評価することができる。
【0056】
図7は、図4(a)~図5(b)に示す各画像の主成分分析結果を示す図である。
【0057】
図7に示すように、植物有りの対照区(Forest)の画像群と、Genki空間の画像群とでは、異なる範囲に分布している。更に、Genki空間の植物有りのエリア(Ten、Sen、Men)の画像群と、植物無しの対照区(nTen、nSen、nMen)の画像群とでは、異なる範囲に分布している。更に、Genki空間において、Tenエリアの画像群と、Senエリアの画像群と、Menエリアの画像群とは、異なる範囲に分布している。すなわち、本実施形態の空間判定装置4は、図4(a)~図5(b)に示す各画像の特徴量として、緑視率、フラクタル次元及び1/fゆらぎ値を用いることにより、図4(a)~図5(b)に示す各画像を、異なる空間タイプの画像群として分類可能であることが分かる。なお、植物有りの対照区(Forest)の画像群が、Genki空間の画像群から離れた位置に分布している。これは、植物有りの対照区(Forest)の画像群の平均緑視率が、Genki空間の植物有りのエリア(Ten、Sen、Men)の画像群の各平均緑視率と比べて2~3倍高いことによる。
【0058】
以上のように、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が人に与える影響を判定する装置である。空間判定装置4は、対象空間の画像に含まれる植物の配置状況に応じて変化する特徴量を当該画像から抽出する特徴量抽出部7と、対象空間を、人に与える影響が異なる複数の空間タイプの何れかに分類する分類部8と、を備える。複数の空間タイプは、人のストレスを軽減させる第1空間タイプと、人の集中力を向上させる第2空間タイプと、人の活力を向上させる第3空間タイプと、を少なくとも有する。特徴量抽出部7は、特徴量として、対象空間の画像の緑視率と、対象空間の画像のフラクタル次元と、対象空間の画像のゆらぎ値とを、対象空間の画像から少なくとも抽出する。分類部8は、抽出された特徴量に基づいて対象空間の画像を複数の空間タイプの何れかの画像群に分類することによって、対象空間を分類する。
【0059】
空間判定装置4は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を、ストレス軽減、集中力向上及び活力向上に少なくとも分け、これらの影響に応じて対象空間の空間タイプを、それぞれ、第1空間タイプ、第2空間タイプ及び第3空間タイプに少なくとも分類することができる。このとき、対象空間の画像を取得して空間判定装置4に入力するだけで、空間判定装置4は、上記の各特徴量を抽出し、抽出された各特徴量に基づいて、対象空間を分類することができる。したがって、本実施形態の空間判定装置4は、植物が配置された対象空間が未知の空間であっても、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易に判定することができる。
【0060】
更に、本実施形態の空間判定装置4において、対象空間の画像は、対象空間内の所定位置の周囲を全方位に亘って撮影することによって取得される全方位画像である。
【0061】
これにより、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間内の所定位置に居る人が見渡せる限りの植物の配置状況を考慮して、対象空間を分類することができる。したがって、本実施形態の空間判定装置4は、植物が配置された対象空間が人に与える影響を対象空間の分類に更に正確に反映させることができる。よって、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ正確に判定することができる。
【0062】
更に、本実施形態の空間判定装置4において、分類部8は、対象空間の画像に対して、抽出された特徴量を用いたクラスター分析又は主成分分析を行うことによって、対象空間を分類する。
【0063】
これにより、本実施形態の空間判定装置4は、クラスター分析又は主成分分析という比較的簡易な手法によって、対象空間を分類することができる。よって、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを更に容易に判定することができる。
【0064】
更に、本実施形態の空間判定装置4は、クラスター分析又は主成分分析の結果に基づいて、空間タイプに対する対象空間の類似度又は非類似度を評価する評価部9を更に備える。
【0065】
これにより、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が各空間タイプにどの度近付いているのかを定量的に評価することができる。よって、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ定量的に判定することができる。
【0066】
更に、本実施形態の空間判定装置4において、対象空間の画像のゆらぎ値は1/fゆらぎ値である。
【0067】
これにより、本実施形態の空間判定装置4は、人に対して居心地の良さやリラックス効果等の影響を与える1/fゆらぎを特徴量として用いるので、対象空間を各空間タイプに確実に分類することができる。よって、本実施形態の空間判定装置4は、対象空間が人にどのようなタイプの影響を与えるのかを容易且つ確実に判定することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0069】
4…空間判定装置、7…特徴量抽出部、8…分類部、9…評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7