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特開2024-119016半導体組成物、これを含む薄膜及び該薄膜の製造方法
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  • 特開-半導体組成物、これを含む薄膜及び該薄膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119016
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】半導体組成物、これを含む薄膜及び該薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/12 20060101AFI20240826BHJP
   H01L 31/072 20120101ALN20240826BHJP
【FI】
C01G49/12
H01L31/06 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141755
(22)【出願日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2023025625
(32)【優先日】2023-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023064375
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】722004171
【氏名又は名称】株式会社QDジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】玉浦 裕
(72)【発明者】
【氏名】川本 忠
【テーマコード(参考)】
4G048
5F251
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AC06
4G048AC08
4G048AD02
4G048AE05
5F251AA07
5F251DA03
5F251DA07
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA02
(57)【要約】
【課題】 FeZnS系の半導体組成物、これを含む薄膜、及び該薄膜の製造方法の提供。
【解決手段】 半導体組成物はZnS及びFeSの固溶体からなる。半導体薄膜はZnFeからなる亜鉛フェライト層と、前記の半導体組成物からなる半導体層と、が界面で接した構造を含む。かかる半導体薄膜は、亜鉛フェライト層の表面に水素ガスを接触させて還元処理する還元処理工程、水素ガスの供給を停止して硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを表面から内部に拡散させて表面近傍にFeS及びFeSを形成させる硫化水素処理工程と、硫化水素ガスの供給を停止して保持しFeS及びFeSをZnS及びFeSの固溶体とする保持工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴とする半導体組成物。
【請求項2】
Zn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライト層の一部に、ZnS及びFeSの固溶体からなる半導体層が形成されていることを特徴とする半導体薄膜。
【請求項3】
前記半導体層は前記固溶体とは別にFeS及び/又はFeSを含むことを特徴とする請求項2記載の半導体薄膜。
【請求項4】
Zn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライト層の表面に水素ガスを接触させて還元処理しつつ、前記表面に硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを前記表面から内部に拡散させて前記表面近傍にFeS及びFeSを形成させる硫化水素処理工程と、
前記硫化水素ガスの供給を停止して保持しFeS及びFeSをZnS及びFeSの固溶体とする保持工程と、
を含むことを特徴とする半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記硫化水素処理工程は、水素ガスによる還元処理工程後に、水素ガスの供給を停止し該水素ガスを硫化水素に置換して処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項4記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛フェライト層を基板上に水溶液反応にて与える亜鉛フェライト膜形成工程を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の半導体薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記亜鉛フェライト膜形成工程、前記硫化水素処理工程、及び前記保持工程の一連の工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項6記載の半導体薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FeZnS系の半導体組成物、これを含む薄膜及び該薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化鉄は、地球上に豊富に存在する元素であるFeとSからなり、自然界でもパイライト(黄鉄鉱)として広く存在している。かかる硫化鉄を化学量論組成からSを多く又は少なく調整すると、それぞれp型及びn型の導電性を示す固形半導体として機能することが知られている。また、硫化鉄に不純物を添加し導電性が得られることも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、パイライト型の結晶構造を有する二硫化鉄(FeS)を含む硫化鉄にAl、Ga、InなどのIIIb族元素を混ぜたn型半導体を開示している。かかるn型半導体は、塩化鉄(FeCl)とチオ尿素(NHCSNH)とを用いたスプレー熱分解法、及び500℃程度の硫黄蒸気雰囲気で焼成する硫化法を併用して得られるとしている。ここでは、二価の鉄を三価の元素で置き換えるとn型の導電性を示すが、天然で産出されるパイライト(FeS)に不純物として含まれるMn、Ni、Co等の遷移金属の如きではドーパントとして用いたとしても三価だけでなく二価にもなり易いため、安定したn型の導電性を示さないとしている。一方、Fe2+とのイオン半径の差が比較的小さいIIIb族元素をドーパントとして用いれば、導電型をn型に良好に制御でき、しかも再現性を格段に向上させ得ると述べている。
【0004】
ここまで半導体としての二硫化鉄(FeS)の合成方法はいくつか提案されている。例えば、特許文献2では、硫黄(S)の融点よりも高い温度で、酸化第二鉄(Fe)、硫化水素(HS)及びSを反応させるFeSの製造方法が開示されている。また、特許文献3では、硫酸鉄(FeSO)の水和物と、チオ硫酸ナトリウム(Na)と、Sとを混合し、pHを1.0~7.0の範囲に調整して水熱処理するFeSの製造方法が開示されている。
【0005】
更に、FeSのFeの一部をZnで置き換えたFe1-xZn(X=0~1)において、Fe:Zn比を2:1とするとき、0.5eV程度のバンドギャップを有することが知られており(例えば、非特許文献1の理論計算を参照)、かかるFeZnS系の半導体組成物が太陽電池をはじめとした各種光学機器の光吸収材の用途に好適であると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-189128号公報
【特許文献2】特表2010-540387号公報
【特許文献3】特開2011-256090号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jun Hu, Yanning Zhang, Matt Law, and Ruqian Wu;"Increasing the Band Gap of Iron Pyrite by Alloying with Oxygen"; Journal of the American Chemical Society 2012, 134, 32, 13216-13219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、FeZnS系の半導体組成物については、上記した非特許文献1に示すような理論計算が行われてはいるものの、具体的な製造方法については未だ確立されておらず、結果として、具体的なFeZnS系の半導体組成物も提供されていない。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、FeZnS系の半導体組成物、これを含む薄膜、及び該薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、FeZnS系の半導体組成物の製造方法において、亜鉛フェライト(ZnFe)を用いることに着目した。ところが、上記したFeS系のように、ZnFeをHSと反応させようとしても、反応は進行し得ず、FeZnS系の半導体組成物は得られなかった。そして鋭意研究の結果、Zn1-xFe2+ Fe3+ (0<x=<1)金属酸化物を金属イオンの還元体とする前処理を行った上でHSと反応させることに想到し、本発明を完成させたものである。更に、亜鉛フェライトの形成に水溶液法を用いることで、高温環境に曝す必要がなく基板の融通性に富むことや、真空プロセスを経ないため製造性に優れるといった利点もある。
【0011】
すなわち、本発明による半導体組成物は、ZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴とする。
【0012】
かかる特徴によれば、ZnS及びFeSの固溶体による高い安定性を得られ、例えば、光吸収材の用途に好適に用い得るのである。
【0013】
また、本発明による半導体薄膜は、Zn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライト層の一部に、ZnS及びFeSの固溶体からなる半導体層が形成されていることを特徴とする。また、前記半導体層は前記固溶体とは別にFeS及び/又はFeSを含むことを特徴としてもよい。
【0014】
かかる特徴によれば、ZnS及びFeSの固溶体による高い安定性を得られ、光吸収材の用途に好適に用い得るのである。
【0015】
更に、本発明による半導体薄膜の製造方法は、Zn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライト層の表面に水素ガスを接触させて還元処理しつつ、前記表面に硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを前記表面から内部に拡散させて前記表面近傍にFeS及びFeSを形成させる硫化水素処理工程と、前記硫化水素ガスの供給を停止して保持しFeS及びFeSをZnS及びFeSの固溶体とする保持工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
かかる特徴によれば、ZnS及びFeSの固溶体による高い安定性を得られ、光吸収材の用途に好適に用い得るZn1-xFe2+ Fe3+ 系の半導体組成物を含む薄膜を制御性よく得られるのである。
【0017】
上記した発明において、前記硫化水素処理工程は、水素ガスによる還元処理工程後に、水素ガスの供給を停止し該水素ガスを硫化水素に置換して処理を行う工程を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、制御性よく半導体薄膜を得ることが出来るのである。
【0018】
上記した発明において、前記亜鉛フェライト層を基板上に水溶液反応にて与える亜鉛フェライト膜形成工程を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、高温環境に曝す必要がなく、基板の融通性に富むことや、真空プロセスを経ないため製造性に優れ、半導体薄膜をより簡便に得ることが出来るのである。
【0019】
上記した発明において、前記亜鉛フェライト層形成工程、前記硫化水素処理工程、及び前記保持工程の一連の工程を複数回繰り返すことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、バンドギャップ値の異なる半導体層の多層膜を制御性よく得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による半導体薄膜の製造工程を示すフロー図である。
図2】本発明による半導体薄膜の製造工程における膜の断面図である。
図3】本発明による半導体組成物のXRDプロファイルである。
図4】本発明による半導体薄膜の断面SEM画像である。
図5】本発明による半導体薄膜をp型半導体薄膜として利用したヘテロ接合型太陽電池の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例である半導体組成物、これを含む半導体薄膜、及びその製造方法について説明する。
【0022】
本実施例による半導体組成物は、後述するように、ZnS及びFeSの固溶体からなる。このような半導体組成物からなる半導体薄膜は、例えば、太陽電池としての利用が可能であり、半導体として顕著な特性変化を示す。以下、図1に沿って、半導体薄膜の製造方法についてその詳細を説明する。
【0023】
まず、図2(a)に示すように、Zn1-xFe2+ Fe3+ (0<x<1)の亜鉛フェライト層12を基板10上に水溶液反応(水溶液フェライト反応)によって形成する(S1:亜鉛フェライト膜形成工程)。基板10は、亜鉛フェライト層12の形成及び後述する工程において化学的に安定であることが好まく、アルミニウムなどの金属基板を用い得る。また、水溶液反応は一種の無電解めっきであるため、絶縁体である有機物からなる基板、例えば、PETフィルムのような可撓性を有する基板を表面処理して用いることも可能である。更に、有機物からなる基板に金属被膜を与えて用いることも出来る。
【0024】
亜鉛フェライト層12は、水溶液反応を用いた公知の方法を用いることが出来る。例えば、加熱されて回転するステージ上に基板を固定し、FeCl+MCl(Mは金属元素、ここではZn)反応液をノズルから噴出させたスプレーゾーンと、NaNO酸化液をノズルから噴出させたスプレーゾーンと、を交互に通過させていくスピンスプレー法などを用い得る。かかる方法によれば、真空プロセスを用いず且つ低温プロセスであるため、基板の選択性に富む、例えば、樹脂のような低融点の材料からなる基板を用い得るとともに、上記したx値を制御できてバンドギャップ調整が容易になるといった利点がある。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、亜鉛フェライト層12の表面に水素ガスを接触させて還元処理する(S2:還元処理工程)。亜鉛フェライト層12を処理して得られる第1中間被膜12aは、酸素欠損亜鉛フェライトからなる。
【0026】
つまり、水素ガスによる還元処理工程(S2)では、
Fe3+(δ‘)+O2-(1/2δ’)+H(δ‘)
=Fe2+(δ’)+V(O2-)(1/2δ‘)+δ’HO (式1)
の反応が進行する。ここで、δ’はFe3+の還元された成分比、V(O2-)はO2-を脱離させて生じた欠損サイトである。なお、後述するように、還元処理工程(S2)後の硫化水素処理工程(S3)、保持工程(S4)について、亜鉛フェライト層12の表面安定性を確保すべく、同一のチャンバ又は一連の空間内で処理されることが好ましい。
【0027】
続いて、図2(c)に示すように、水素ガスの供給を停止した後、該水素ガスを硫化水素ガスに置換して、亜鉛フェライト層の表面に硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを同表面から内部に拡散させて表面近傍にFeS及びFeSを形成させる(S3:硫化水素処理工程)。第2中間被膜12bは、酸素欠損亜鉛フェライトからなるが、これについては後述する。
【0028】
ここで、上記式1の水素ガスによる還元処理で形成される酸素欠損化合物に硫化水素を反応させたときの反応式は、次の式2及び式3(2つの反応が2eを介して進行する)で表される。
Fe2+(δ)+V(O2-)(1/2δ)+δHS+2e(δ)
=δFeS+δH (式2)
Fe2+(2δ)=Fe3+(2δ)+2e(δ) (式3)
【0029】
硫化水素処理工程(S3)の反応初期には、亜鉛フェライト層の表面近傍に黒色のFeSが形成され(式2)、同時に表面近傍では水素ガスによる還元処理によって形成されたFe2+がFe3+に酸化される(式3)。かかる反応については、FeSの黒色の発色が反応途中に観測されることからも確認できる。
【0030】
そして、図2(d)に示すように、硫化水素ガスの供給を停止して保持し、FeS及びFeSをZnS及びFeSの固溶体とする(S4:保持工程)。第2中間被膜12bは、時間とともにZnFe皮膜14へと変化する。つまり、最初に成膜した亜鉛フェライト層の一部に、ZnS及びFeSの固溶体からなる半導体層が形成された半導体薄膜となるのである。なお、水素ガスと硫化水素ガスの混合ガスを供給することで、ZnS及びFeSの固溶体を一工程で形成させるようにもし得る。同一のチャンバ又は一連の空間内で処理した場合、水素ガスを硫化水素ガスに置換する工程をも省略できるのである。
【0031】
ここで、反応の自由エネルギーΔGは、酸化物から硫化物へと変化する方向を示すが、反応の進行中、表面側を硫化物、内部側を酸化物とするような界面において、表面反応の自由エネルギーに依存するO2-とS2-の交換反応が進行する。ここで水素ガスによる還元処理(式1)を行っておくと、表面では水素ガスによってO2-イオンが脱離し内部との間に濃度勾配が生じ、O2-は内部から表面近傍へと移動する。また、界面(表面)ではO2-/S2-交換反応によってS2-が消費されるので、S2-は表面から内部方向へと移動するように拡散する。
【0032】
上記したO2-/S2-交換反応においては、もとのZn1-xFe2+ Fe3+ 亜鉛フェライト相のスピネル構造中の金属イオンは、そのサイトを移動しなくても、S2-イオンによる結晶の配位構造がそのまま維持され、ZnSおよびFeSが混晶として一つの結晶構造が形成される。
【0033】
また、上記したように硫化水素処理工程(S3)では、式2および式3の反応がカップルして進行するが、さらに、この反応に並行して次の反応が進行する。
FeS+HS=FeS+H (式4)
【0034】
式4の反応自由エネルギーは25~250℃の温度範囲においてマイナス(例えば、25℃で-41kJ/mol)である。故に、反応条件をこの温度範囲にすることにより、上記した式1~3の反応式で形成されるFeS相から熱力学的かつ化学量論的な安定相となるx値を有するFeS相を合成することができる。
【0035】
なお、上記した亜鉛フェライト膜形成工程(S1)~保持工程(S4)の一連の工程を複数回繰り返すことで、xの値を変化させたZnFe2-xからなる多層薄膜14’、14’’・・を得ることが可能である(図2(e)参照)。
【0036】
ここで、上記したZnFe固溶体からなる半導体組成物は、ZnS及びFeSの固溶体からなる。これについては、以下のように考えられる。亜鉛フェライト(ZnFe)の正スピネル構造中のZnOはAサイト(4配位)であるが、ZnSは4配位ウルツ鋼型である。つまり、ZnのO2-がS2-に交換するだけであり、結晶構造は維持される。また、正スピネル中の2個のFe3+はBサイト6配位であり、FeS(pyrite)のNaCl型と同じ面心立方であるから、これもO2-がS2-に交換するだけである。つまり、結晶の配位が変化する必要はない。さらに、ZnS(硫化亜鉛)の格子定数aはa=0.542nmである一方、FeSの格子定数aもa=0.542nmで全く同一である。つまり、Zn2+とFe2+とは、ZnSとFeSの構造で結晶固体中に固溶しており、ZnFeからなる半導体組成物は、ZnS及びFeSの固溶体からなるのである。
【0037】
以上述べてきた半導体薄膜は、遠赤外領域の波長を利用できるオプトエレクトロニクス半導体であるPbSに代替できるもので、鉛のような環境と健康被害が一切ないという優れた特性を有する。また、PbSでは組成変化によるバンドギャップを変化させることはできないが、本実施例のZnFe固溶体からなる半導体組成物では、ZnとFeの組成を変化させて、すなわちZnFe2-xのx(0<x<1)を変化させることでバンドギャップ範囲を操作する、バンドエンジニアリングが可能である。つまり、PbS代替半導体素材として、産業上の利用性が大きい。
【実施例0038】
以下に、上記した図1に示した方法で作成したZnFe固溶体からなる半導体薄膜についての実施例を説明する。
【0039】
まず、亜鉛フェライト膜形成工程(S1)において、x=0.1,0.3,0.5となるように水溶液を調整して、x値の異なる3種類のZn1-xFe2+ Fe3+ 膜を用意した。なお、ZnFe2-x薄膜は約40nmの厚さであった。これら半導体薄膜について、可視遠赤外吸収よりバンドギャップを測定すると、それぞれ、0.8、0.6、0.4eVであった。つまり、ZnS及びFeSの固溶体中のx値を変化させることにより可視から遠赤外領域の範囲でバンドギャップを変化させる(決定する)ことが可能である。また、吸光度測定では、pyrite相の単一組成であるFeSと同様の吸収特性を示した。
【0040】
図3には、x=0.4としたZn0.6Fe2+ 0.4Fe3+ をPETフィルム上に水溶液フェライト反応によって65nmの厚さに成膜した後、上記したS2~S3の処理を行って得られたZnFe膜のXRDプロファイルを示した。なお、硫化水素処理工程(S3)では、120~150℃の温度範囲となるようして反応させた。このXRDプロファイルから判るように、硫化水素処理工程(S3)の段階では、未反応のフェライト相とともに、反応により形成されたZnS相、FeS相、FeS相(pyrite、最終生成物)が存在していることが判る。
【0041】
ここで、水素ガスによる還元処理工程(S2)を省略した場合、硫化水素処理工程(S3)において、少なくとも、120~150℃の温度範囲では、上記した反応は進行しない。また、硫化水素処理工程(S3)の最終段階では、いくつか観察された化合物は、FeS相(pyrite)の一相となる。この一相は、Fe:Zn:S=0.4:2.6:2であったことから、化学量論的組成(Zn0.2Fe2.62.0)のFeS相(pyrite)である。
【0042】
図4には、後述する半導体太陽電池の一部として多層構造体の断面SEM写真を示した。ここでは、基板且つ電極としての2μmの厚さのアルミニウムフィルム上に、x=0.5と0.2とした亜鉛フェライト薄膜をそれぞれ成膜及び各処理(S2~S4)を行って、Zn0.5Fe2.5およびZn0.2Fe2.82.0のp型半導体薄膜を2層積層させた多層構造体としている。
【0043】
図5には、半導体太陽電池の構造の一例を示した。例えば、図4に示したp型半導体面上に水溶液反応によってn型ZnOを積層させてpnヘテロ接合させ、さらに、ZnOの積層面にITO-PETフィルムによるITO層をZnOナノ粒子バインダーで接合して、太陽電池(ZnFe半導体太陽電池)とできる。なお、アルミニウムフィルム上にはHTL層(正孔輸送層:Hole Transport Layer)を設けることが好ましい。
【0044】
このZnFe半導体太陽電池では、ITOと金属アルミニウムの仕事関数(work function)が-4.8eVと-4.08~-4.3eVとなり、その差は0.72~0.4eVである。つまり、銀の仕事関数の-4.2eVにおける差0.6eVに対して低くなる場合もあるが、逆に高くできることもある。そのため、コスト的にはアルミニウムを用いることが好適である。また、本発明のZnFe半導体の光吸収係数は、6x10cm-1であって、50~60nmの薄膜で十分に太陽光を吸収できることになる。故に、薄膜太陽電池として高い変換効率が得られる。そこで、モジュール化して計測したところ、変換効率は12.5%といった高い値を得られた。
【0045】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0046】
10 基板
12a 第1中間皮膜
12b 第2中間皮膜
14、14’、14’’ ZnFe皮膜
図1
図2
図3
図4
図5