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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119075
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025683
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】織田 湧平
(72)【発明者】
【氏名】相原 研人
(72)【発明者】
【氏名】山之内 亮介
(72)【発明者】
【氏名】鵜久森 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】辻 英和
(72)【発明者】
【氏名】河村 智博
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB07
2B043BA03
2B043BA09
2B043BB01
2B043DA17
2B043DB04
2B043DB06
2B043DC03
2B043EA03
2B043EA04
2B043EA13
2B043EA15
2B043EB04
2B043EB05
2B043EB08
2B043EB09
2B043EB17
2B043EB18
2B043EB22
2B043EC12
2B043EC13
2B043EC14
2B043EC16
2B043EC19
2B043ED02
2B043ED03
2B043ED05
2B043ED12
2B043ED15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】作業車両を圃場での走行経路に沿って精度よく走行させること。
【解決手段】第1の計測手段(31)および第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、予め定められた走行経路(201)に沿って走行車体(1a)を走行させる走行制御手段(108)が、第1の計測手段(31)および第2の計測手段(41)の少なくとも一方の計測結果が予め定められた範囲を超える場合に、第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて走行車体(1a)の進行方向(D)の制御を行うことで、作業車両を圃場での走行経路に沿って精度よく走行させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(1a)と、
人工衛星との間の通信を利用して前記走行車体(1a)の位置を計測する第1の計測手段(31)と、
前記走行車体(1a)の姿勢を計測する第2の計測手段(41)と、
前記第1の計測手段(31)および前記第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、予め定められた走行経路(201)に沿って前記走行車体(1a)を走行させる走行制御手段(108)であって、前記第1の計測手段(31)および前記第2の計測手段(41)の少なくとも一方の計測結果が、予め定められた範囲を超える場合に、前記第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、前記走行車体(1a)の進行方向(D)の制御を行う前記走行制御手段(108)と、
を備えたことを特徴とする作業車両(1)。
【請求項2】
前記第2の計測手段(41)の計測結果において前記走行車体(1a)の進行方向に対する左右方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合に、前記走行車体(1a)の左右の傾斜に基づいて、前記走行車体(1a)の操舵時の制御量である操舵角を傾斜していない場合の操舵角に対して補正する前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)。
【請求項3】
前記走行車体(1a)の左右の傾斜に基づいて操舵角を補正する場合に、前記走行車体(1a)の右側の車輪と左側の車輪とで異なる操舵角にする前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の作業車両(1)。
【請求項4】
前記第2の計測手段(41)の計測結果において前記走行車体(1a)の進行方向に対する前後方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合に、前記走行車体(1a)の前後の傾斜に基づいて、前記走行車体(1a)の操舵時の制御量である操舵角を前後方向に傾斜していない場合の操舵角に対して補正する前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)。
【請求項5】
前記予め定められた走行経路(201)に沿った走行制御を開始する場合に、前記走行経路(201)の進行方向(201a)に対する前記走行車体(1a)の進行方向(D)のズレ(θ)が、予め定められた範囲を超える場合に、前記ズレ(θ)が前記予め定められた範囲内になるまで、前記走行車体(1a)の左右方向の一方の車輪のブレーキを作動させる前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)。
【請求項6】
前記第1の計測手段(31)の計測結果において前記人工衛星との通信が不通になった場合に、前記走行車体(1a)の加速度に基づいて、前記走行車体(1a)の現在位置(P)と進行方向(D)を算出して、前記走行車体(1a)を走行させる前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)。
【請求項7】
前記走行車体(1a)の外部の停止物の撮像結果に基づいて、前記走行車体(1a)の現在位置(P3)および進行方向(D3)を計測する第3の計測手段(51,52)と、
前記第1の計測手段(31)の計測結果において前記人工衛星との通信が不通になった場合に、前記第2の計測手段(41)の計測結果と前記第3の計測手段(51,52)の計測結果とに基づいて、前記走行車体(1a)を走行させる前記走行制御手段(108)、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載の作業車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタやコンバイン、苗移植機、野菜収穫機等の作業車両に関し、特に、圃場内の所定を走行経路に沿って走行制御される作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタやコンバイン、苗移植機、野菜収穫機等の作業車両において、傾斜センサを備え、傾斜異常を検出した場合に、機体を停車させたり、作業機を停止させたり、異常を検出した位置に応じて減速が異なるように制御したりする技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-85683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、主に、作業車両が畔を越える際の傾斜を検出して速度調整を行うものであり、作業中の圃場内での微小な傾斜による対応をするための制御ではない。すなわち、特許文献1に記載の技術を、圃場内での微小な傾斜に適用した場合、圃場内での局所的な窪みや土の硬軟等に応じて作業車両が停止したり、作業機が停止したり、走行速度が変動することとなる。よって、作業時間が長くなったり、速度変動により作業の精度が変化したりする問題がある。
【0005】
本発明は、作業車両を圃場での走行経路に沿って精度よく走行させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は次の解決手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、走行車体(1a)と、人工衛星との間の通信を利用して前記走行車体(1a)の位置を計測する第1の計測手段(31)と、前記走行車体(1a)の姿勢を計測する第2の計測手段(41)と、前記第1の計測手段(31)および前記第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、予め定められた走行経路(201)に沿って前記走行車体(1a)を走行させる走行制御手段(108)であって、前記第1の計測手段(31)および前記第2の計測手段(41)の少なくとも一方の計測結果が、予め定められた範囲を超える場合に、前記第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、前記走行車体(1a)の進行方向(D)の制御を行う前記走行制御手段(108)と、を備えたことを特徴とする作業車両(1)である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記第2の計測手段(41)の計測結果において前記走行車体(1a)の進行方向に対する左右方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合に、前記走行車体(1a)の左右の傾斜に基づいて、前記走行車体(1a)の操舵時の制御量である操舵角を傾斜していない場合の操舵角に対して補正する前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記走行車体(1a)の左右の傾斜に基づいて操舵角を補正する場合に、前記走行車体(1a)の右側の車輪と左側の車輪とで異なる操舵角にする前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項2に記載の作業車両(1)である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記第2の計測手段(41)の計測結果において前記走行車体(1a)の進行方向に対する前後方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合に、前記走行車体(1a)の前後の傾斜に基づいて、前記走行車体(1a)の操舵時の制御量である操舵角を前後方向に傾斜していない場合の操舵角に対して補正する前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記予め定められた走行経路(201)に沿った走行制御を開始する場合に、前記走行経路(201)の進行方向(201a)に対する前記走行車体(1a)の進行方向(D)のズレ(θ)が、予め定められた範囲を超える場合に、前記ズレ(θ)が前記予め定められた範囲内になるまで、前記走行車体(1a)の左右方向の一方の車輪のブレーキを作動させる前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記第1の計測手段(31)の計測結果において前記人工衛星との通信が不通になった場合に、前記走行車体(1a)の加速度に基づいて、前記走行車体(1a)の現在位置(P)と進行方向(D)を算出して、前記走行車体(1a)を走行させる前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両(1)である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、前記走行車体(1a)の外部の停止物の撮像結果に基づいて、前記走行車体(1a)の現在位置(P3)および進行方向(D3)を計測する第3の計測手段(51,52)と、前記第1の計測手段(31)の計測結果において前記人工衛星との通信が不通になった場合に、前記第2の計測手段(41)の計測結果と前記第3の計測手段(51,52)の計測結果とに基づいて、前記走行車体(1a)を走行させる前記走行制御手段(108)を備えたことを特徴とする請求項6に記載の作業車両(1)である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、第1の計測手段(31)および前記第2の計測手段(41)の少なくとも一方の計測結果が、予め定められた範囲を超える場合に、第2の計測手段(41)の計測結果に基づいて、前記走行車体(1a)の進行方向(D)の制御を行うことで、作業車両を圃場での走行経路に沿って精度よく走行させることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行車体(1a)の左右の傾斜に基づいて、走行車体(1a)の操舵角を傾斜していない場合の操舵角に対して操舵角を補正することで、圃場内の傾斜や凹凸があっても走行経路に沿って精度よく走行させやすい。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、請求項2記載の発明の効果に加えて、右側の車輪と左側の車輪とで異なる操舵角にすることで、さらに、走行経路に沿って精度よく走行させやすい。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行車体(1a)の前後の傾斜に基づいて、走行車体(1a)の操舵角を前後方向に傾斜していない場合の操舵角に対して補正することで、圃場内の傾斜や凹凸があっても走行経路に沿って精度よく走行させやすい。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行経路(201)の進行方向(201a)に対する走行車体(1a)の進行方向(D)のズレ(θ)が予め定められた範囲内になるまで走行車体(1a)の左右方向の一方の車輪のブレーキを作動させることで、作業車両の蛇行を抑制できる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、第1の計測手段(31)と人工衛星とが不通になった場合に、第2の計測手段(41)の計測した加速度に基づいて、走行車体(1a)の現在位置(P)と進行方向(D)を算出して、走行車体(1a)を走行させることで、第1の計測手段(31)が不通になっても走行車体(1a)を停止させることなく作業を継続できる。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、請求項6記載の発明の効果に加えて、第1の計測手段(31)と人工衛星とが不通になった場合に、第2の計測手段(41)の計測結果と第3の計測手段(51,52)の計測結果とに基づいて、走行車体(1a)を走行させることで、第2の計測手段(41)のみの場合に比べて、走行の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は実施の形態の作業車両の一例としてのトラクタの説明図であり、作業機が作業を行う高さに下降した状態の説明図である。
図2図2は実施の形態の作業車両の一例としてのトラクタの説明図であり、作業機が上昇した状態の説明図である。
図3図3は実施の形態の制御部の機能ブロック図である。
図4図4は実施の形態のGNSS、IMU、停止物検知に基づく処理の流れについての機能ブロック図である。
図5図5は実施の形態のIMUにおける処理の流れについての機能ブロック図である。
図6図6は実施の形態において走行経路の進行方向と走行車体の進行方向のズレが大きい場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は実施の形態の作業車両の一例としてのトラクタの説明図であり、作業機が作業を行う高さに下降した状態の説明図である。
図2は実施の形態の作業車両の一例としてのトラクタの説明図であり、作業機が上昇した状態の説明図である。
図1図2において、本発明の作業車両の一例としての耕耘用のトラクタ1は、走行車体1aの前後部に車輪の一例としての前輪2,2および後輪3,3とを備え、走行車体前部のエンジンルーム4内に搭載したエンジン(内燃機関の一例)Eの回転動力をトランスミッションケース5内の変速装置によって適宜減速して、これらを前輪2,2と後輪3,3に伝えるように構成している。前記エンジンルーム4はボンネット6で覆う構成である。また、トラクタ1の機体後部には、トラクタ1の後方の地面(圃場)を耕耘する耕耘機18などの作業機を装着し、リアPTO軸21で動力が伝達されて作業機を駆動する構成としている。
なお、本明細書ではトラクタ1の前進方向に向かって左右をそれぞれ左側と右側といい、前進方向を前側、後進方向を後側という。
【0022】
走行車体1aの上部には、キャビン7が支持されている。キャビン7の内部では、トランスミッションケース5の上部位置に運転座席8が配置され、この運転座席8の前方には、ステアリングハンドル10や、駐車ブレーキ(図示せず)等が配置されている。また、運転座席8の前方には、速度メータ(図示せず)等の表示パネルや、操作用の各種スイッチ(図示せず)などが配置されている。運転座席8の前方下部には、ブレーキペダル12や、前進ペダルや後進ペダルを有するアクセルペダル13等の走行操作具が配置されている。
【0023】
図1図2において、トランスミッションケース5の後部上方には油圧シリンダケース14が設けられ、この油圧シリンダケース14の左右両側にはリフトアーム15,15が回動自在に枢着されている。リフトアーム15,15とロワーリンク16,16との間にはリフトロッド17,17が介装連結され、ロワーリンク16,16の後部には作業機の一例としての耕耘機18が連結されている。
【0024】
油圧シリンダケース14内に収容されている油圧シリンダ14aに作動油が供給されるとリフトアーム15,15が上昇側に回動され、リフトロッド17、ロワーリンク16等を介して作業機(耕耘機)18が上昇する。反対に油圧シリンダ14a内の作動油が油圧タンクを兼ねるトランスミッションケース5内に排出されると、リフトアーム15,15は下降する。
なお、走行車体1aの後部に装着される作業機、すなわち、リアPTO軸21から駆動が伝達される作業機としては、農作業用のロータリ耕耘装置に限定されず、プラウや播種機、苗移植機、肥料散布機、薬剤散布機等の作業機がある。
【0025】
キャビン7の上面には、第1の計測手段の一例としてのGNSSアンテナ31が支持されている。GNSSアンテナ31は、複数の人工衛星との間の通信により、現在位置を計測することが可能である。すなわち、GNSSアンテナ31や人工衛星等により、第1の計測システムの一例としての衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)が構成されている。
なお、GNSSアンテナ31は、人工衛星からの信号を受信する受信部(図示せず)を複数内蔵しており、受信部どうしの間隔と、信号を受信するタイミングのズレからトラクタ1の進行方向を計測することも可能である。
また、実施の形態では、GNSSアンテナ31をキャビン7の上面に設置する構成を例示したが、設置する場所はこれに限定されない。ボンネット6の上面や車輪2,3のフェンダの上面等、人工衛星との通信が可能な任意の位置に設置可能である。
【0026】
また、実施の形態のトラクタ1は、キャビン7の上面に、第2の計測手段の一例としてのIMU(Inertial Measurement Unit:慣性測位ユニット)41が支持されている。なお、実施の形態では、IMU41とGNSSアンテナ31とは、1つの筐体の中に収容されているが、別個の筐体に収容する構成とすることも可能である。
IMU41は、内部に図示しない3軸加速度センサや3軸角速度センサ(ジャイロセンサ)が内蔵されており、加速度や角速度の計測結果から、走行車体の姿勢(左右の傾斜や前後の傾斜、進行方向)を計測可能である。
なお、実施の形態では、3軸加速度センサや3軸角速度センサが一体化(ユニット化)された構成を例示したが、これに限定されない。3軸加速度センサや3軸角速度センサを個別に設置することも可能である。また、設置位置もキャビン7の上面に限定されず、走行車体1aの任意の位置に設置可能である。
【0027】
さらに、実施の形態のトラクタ1は、キャビン7の上面の左右両側部に、第3の計測装置の一例としてのカメラ51が配置されている。カメラ51は、撮影画像に基づいて、圃場内の障害物を検出したり、圃場外の停止物の一例としての電柱を検出することが可能である。圃場内の障害物に応じてトラクタ1を停止させたり、回避させたりすることも可能であるし、予め位置が既知の電柱に基づいて、トラクタ1の現在位置や進行方向の検出、推定も可能である。
なお、停止物の一例として円柱状の電柱を例示したがこれに限定されない。例えば、柵やコーン、ガードレール等の固定の物体のように、移動するトラクタ1に対して停止した物体をトラクタ1の現在位置や進行方向の推定に利用可能である。他にも、作業者が位置検出用のマーカを付した物体(看板や旗等)を停止物として一時的に圃場外の農道や畔等に設置する形態とすることも可能である。
【0028】
また、実施の形態のトラクタ1は、カメラ51に加えて、第3の計測手段の一例としての3Dライダー(LIDAR:Light Detection And Ranging、または、Laser Imaging Detection And Ranging)52も有する。3Dライダー52は、レーザー光等の光の反射を利用して障害物や停止物、畔等の検知および停止物等との距離を計測可能な公知の計測機器を使用可能である。3Dライダー52は、キャビン7の上面の前端部と後端部に設置されており、トラクタ1の前方または後方の停止物等を検出可能である。3Dライダー52の検知結果から、停止物までの距離や角度を検出可能であり、位置が既知の停止物を基準にしてトラクタ1の現在位置や進行方向を算出可能である。
【0029】
なお、前記カメラ51や3Dライダー52の設置位置は障害物や停止物等を検出可能な任意の位置に変更可能である。このとき、カメラ51や3Dライダー52は、走行車体1aの一部、特に、最外周の四隅を視野内に含ませることで、走行車体1aの一部との距離から障害物との接近や距離を推定しやすくなるため好ましい。また、四隅が含まれる場合、GNSSの位置情報と四隅の通過軌跡から、走行車体1aの挙動(走行経路、傾斜姿勢等)を判別しやすく、制御に使用しやすい。なお、四隅に限定されず、5点以上の場所を挙動の検出用に使用することも可能である。
【0030】
実施の形態のトラクタ1は、端末の一例としてのタブレット61との間で無線通信可能に構成されており、タブレット61を使用して、自律走行や自動作業の操作を行ったり、タブレット61にトラクタ1の作動状況や、自律走行の走行経路、作業の進捗等を表示することが可能に構成されている。
【0031】
(制御部の説明)
図3は実施の形態の制御部の機能ブロック図である。
なお、図3のブロック図において、本発明の実施の形態の説明とは関係のない要素に関しては図示および説明を省略している。
【0032】
(トラクタの制御部の説明)
実施の形態のトラクタ1は、各機能を制御する制御部100を有する。制御部100は、外部との信号の入出力等を行う入出力インターフェースI/Oを有する。また、制御部100は、必要な処理を行うためのプログラムおよび情報等が記憶されたROM:リードオンリーメモリを有する。また、制御部100は、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM:ランダムアクセスメモリを有する。また、制御部100は、ROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU:中央演算処理装置を有する。したがって、実施の形態の制御部100は、小型の情報処理装置、いわゆるマイクロコンピュータにより構成されている。よって、制御部100は、ROM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0033】
制御部100には、GNSSアンテナ31、IMU41、カメラ51、3Dライダー52、その他の図示しない各種センサや入力ボタン等の信号入力要素からの信号が入力される。
【0034】
また、制御部100は、被制御要素の一例としてのステアリングハンドル10を駆動するモータ(図示せず)や、エンジン、クラッチ、その他の被制御装置に制御信号を送信して、トラクタ1の走行や耕耘機18の作動、停止を制御可能である。
【0035】
図3において、実施の形態の制御部100は、以下の機能手段(プログラムモジュール)を有する。
GNSS情報取得手段101は、GNSSアンテナ31の人工衛星との通信結果に基づいて、トラクタ1の現在位置に関する情報を取得する。
姿勢情報取得手段102は、IMU41からの信号に基づいて、トラクタ1の姿勢に関する3軸の加速度の情報と、3軸の角速度の情報とを取得する。
停止物情報取得手段103は、カメラ51からの信号に基づいて、トラクタ1の周囲の停止物や障害物の画像を取得する。また、実施の形態の停止物情報取得手段103は、3Dライダー52からの信号に基づいて、トラクタ1の周囲の停止物や障害物の検知結果や距離の情報を取得する。
【0036】
図4は実施の形態のGNSS、IMU、停止物検知に基づく処理の流れについての機能ブロック図である。
図5は実施の形態のIMUにおける処理の流れについての機能ブロック図である。
図3の走行速度算出手段104は、GNSSアンテナ31やIMU41、カメラ51、3Dライダー52の検知結果に基づいて、トラクタ1の走行速度Vを算出する。実施の形態の走行速度算出手段104は、GNSSアンテナ31での検知結果に基づき、最新の位置情報とその直前の位置情報との間の距離と、各位置情報の測定間隔(サンプリング時間)と、から走行速度V1を算出する。なお、直前の位置情報に限定されず、所定期間の位置情報の履歴に基づいて平均的な走行速度V1を算出する構成とすることも可能である。
【0037】
また、図5において、実施の形態の走行速度算出手段104は、IMU41での3軸の加速度の情報から、座標変換を行って水平方向や重力方向を特定し、加速度を積分し、コリオリ補正や重力補正を行って、トラクタ1の走行速度V2を算出する。
さらに、実施の形態の走行速度算出手段104は、カメラ51等の停止物の検知結果から、トラクタ1の現在位置を導出し、現在位置の時間的な遷移から走行速度V3を算出する。
【0038】
そして、実施の形態では、GNSSアンテナ31の検知結果に基づく走行速度V1と、IMU41での検知結果に基づく走行速度V2と、停止物に基づく走行速度V3とに基づいて、3つの走行速度V1~V3の平均値をトラクタ1の走行速度Vとして算出する。なお、実施の形態では平均値を採用する構成としたが、これに限定されない。例えば、3つの走行速度V1~V3の中で採用する優先順位を予め設定しておき、優先順位に沿って走行速度Vを決定する構成とすることも可能である。この場合、各計測手法の精度にもよるが、受信感度条件ではGNSSよりもIMU41に基づく走行速度V2の方が、精度が高い場合が多いため、IMU41に基づく走行速度V2を採用することもある。また、他にも、例えば、3つの中で最大値と最小値を採用しない形態とする等、設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0039】
なお、走行速度算出手段104は、GNSSアンテナ31で人工衛星との通信が一時的に不通になる等で位置情報を取得できなくなった場合や、カメラ51等の視野や停止物の前を人や車が通過した等の関係で停止物を一時的に検出できなくなった場合は、検出できなかった走行速度を除く、検出された走行速度に基づいて、走行速度Vを算出する。したがって、例えば、GNSSアンテナ31が不通且つカメラ51等で停止物を検出できない場合は、IMU41での算出結果のみに基づいて、走行速度Vが算出される。また、例えば、GNSSアンテナ31が不通の場合は、IMU41の計測結果と、カメラ51等での停止物の検知結果に基づいて走行速度Vが算出される場合もある。
【0040】
現在位置算出手段105は、GNSSアンテナ31やIMU41、カメラ51、3Dライダー52の検知結果に基づいて、トラクタ1の現在位置Pを算出する。実施の形態の現在位置算出手段105は、GNSSアンテナ31での検知結果から、最新の位置情報をトラクタ1の現在位置P1として算出する。
【0041】
また、図5において、実施の形態の現在位置算出手段105は、IMU41での3軸の加速度の情報から算出された走行速度V2に基づいて、走行速度V2の積分から、直近のGNSSで計測された位置からの移動距離を算出し、直近のGNSSで計測された位置と移動距離からトラクタ1の現在位置P2を算出する。なお、実施の形態では、移動距離を計算する際に、図5に示すように、走行速度V2を角速度に変換(相対角速度を計算)して、慣性航法位置を算出した後、地球やトラクタ1の自転角速度で慣性航法位置を補正して、現在位置P2を導出する。なお、平坦な路上を走行する場合は自転角速度での補正は不要な場合があるが、トラクタ1のような作業車両では、凹凸のある圃場を比較的低速で走行しながら作業する場合は、出力の都度、自転角速度で補正したほうが、走行車体1aの位置や姿勢をより正確に導出可能である。
【0042】
さらに、実施の形態の現在位置算出手段105は、カメラ51等の停止物の検知結果から、停止物の位置(固定位置)と停止物までの距離からトラクタ1の現在位置P3を算出する。
そして、実施の形態では、GNSSアンテナ31の検知結果に基づく現在位置P1と、IMU41での検知結果に基づく現在位置P2と、停止物に基づく現在位置P3とに基づいて、3つの現在位置P1~P3の中間位置をトラクタ1の現在位置Pとして算出する。なお、現在位置P1~P3の中間位置を採用する形態に限定されず、走行速度V1~V3の場合と同様に設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0043】
なお、現在位置算出手段105は、GNSSアンテナ31で人工衛星との通信が一時的に不通になる等で位置情報を取得できなくなった場合や、カメラ51等の視野や盲点等の関係で停止物を一時的に検出できなくなった場合は、検出できなかった現在位置を除いて、検出された現在位置に基づいて、現在位置Pを算出する。したがって、例えば、GNSSアンテナ31が不通且つカメラ51等で停止物を検出できない場合は、IMU41での算出結果のみに基づいて、現在位置Pが算出される。また、例えば、GNSSアンテナ31が不通で、IMU41が故障等している場合は、カメラ51等での停止物の検知のみに基づいて現在位置Pが算出される場合もある。
【0044】
GNSSアンテナ31との通信が不通から再開されると、GNSSアンテナ31からの情報も利用して現在位置Pの算出を再開する。再開後に、現在位置Pのズレが発生している場合は、後述する走行制御手段108が車速を増減速したり、操舵したりしてズレを修正することとなる。このとき、高速でズレを修正すると耕耘等の作業に悪影響を及ぼす恐れがあるため、一度に変速したり操舵したりせず、段階的に変速や操舵をして徐々にズレを修正することが望ましい。そして、ズレが少なくなった場合またはなくなった場合も、一気に所定の速度や進行方向に戻すよりも徐々に戻すほうが好ましい。
【0045】
進行方向算出手段106は、GNSSアンテナ31やIMU41、カメラ51、3Dライダー52の検知結果に基づいて、トラクタ1の進行方向Dを算出する。なお、実施の形態では進行方向Dは、3次元の進行方向を算出している。すなわち、3次元の進行方向Dには、前後方向の傾斜や左右方向の傾斜も含まれるため、水平面に対するトラクタ1の進行方向Dだけでなく、走行車体1aの傾斜も算出されることとなる。
実施の形態の進行方向算出手段106は、GNSSアンテナ31での検知結果から、最新の位置情報をトラクタ1の進行方向D1として算出する。
【0046】
また、図5において、実施の形態の進行方向算出手段106は、IMU41での3軸の加速度の情報に基づいて、前述の現在位置P2の計算後に、相対角速度と自転角速度からトラクタ1自体の角速度(補正角速度)を計算する。そして、計算された補正角速度と、3軸角速度センサで検出された角速度の検出結果と、の平均を、クオータニオン(四元数)を使用して、回転行列(方向余弦)の形で計算し、GNSSアンテナ31から取得された直近のトラクタ1の進行方向D1を基準として、トラクタ1の進行方向D2を計算する。なお、導出された方向余弦や走行速度V2、現在位置P2は、次回の走行速度V2や現在位置P2、進行方向D2の演算の際に、前回の値として使用される。
【0047】
さらに、実施の形態の進行方向算出手段106は、カメラ51等の停止物の検知結果から、停止物の位置(固定位置)とトラクタ1の現在位置P3とを結んだ方向と走行車体1aの向きとの成す角から、トラクタ1の進行方向D3を算出する。
そして、実施の形態では、GNSSアンテナ31の検知結果に基づく進行方向D1と、IMU41での検知結果に基づく進行方向D2と、停止物に基づく進行方向D3とに基づいて、3つの進行方向D1~D3の平均である合成ベクトル方向をトラクタ1の進行方向Dとして算出する。なお、進行方向D1~D3の平均を採用する形態に限定されず、走行速度V1~V3の場合と同様に設計や仕様等に応じて適宜変更可能である。
【0048】
なお、進行方向算出手段106は、GNSSアンテナ31で人工衛星との通信が一時的に不通になる等で位置情報を取得できなくなった場合や、カメラ51等の視野や盲点等の関係で停止物を一時的に検出できなくなった場合は、検出できなかった進行方向を除いて、検出された進行方向に基づいて、進行方向Dを算出する。したがって、例えば、GNSSアンテナ31が不通且つカメラ51等で停止物を検出できない場合は、IMU41での算出結果のみに基づいて、進行方向Dが算出される。また、例えば、GNSSアンテナ31が不通で、IMU41が故障等している場合は、カメラ51等での停止物の検知のみに基づいて進行方向Dが算出される場合もある。
【0049】
走行経路記憶手段107は、圃場におけるトラクタ1の走行経路を記憶する。実施の形態のトラクタ1は、自律走行が可能な構成であり、自律走行時にトラクタ1が走行する走行経路を記憶する。なお、作業者が手動で運転を行う際に、走行を案内(ナビゲーション)するための走行経路に適用することも可能である。また、走行経路は、圃場の形状やトラクタ1の耕耘機(作業機)18の幅や旋回半径等から自動的に生成する構成とすることも可能であるし、作業者が手動で経路を作成するものでも可能である。
【0050】
走行制御手段108は、操舵量設定手段108aを有し、自律走行時の制御を行う。すなわち、走行経路に沿って走行する際の走行速度の制御や、走行経路に沿って右旋回または左旋回を行う際のステアリングハンドル10の制御、走行経路から外れそうになった場合(走行経路と現在位置との距離が所定距離以上になった場合)に走行経路に近づける(走行経路と現在位置との距離を少なくする)ステアリングハンドル10の制御、耕耘機(作業機)18の作動/停止や上昇/下降の制御等を行う。
【0051】
操舵量設定手段108aは、旋回を行う際にステアリングハンドル10の操舵角(操舵量、制御量)を設定する。実施の形態の操舵量設定手段108aは、走行車体1aの左右方向の傾斜が予め定められた範囲(例えば、3°)を超える場合、左右方向の傾斜が予め定められた範囲を超えない場合に対して、補正を行う。なお、実施の形態では、3°を超えるか否かの2段階で補正の有無を行ったが、これに限定されない。3段階以上で補正の有無や補正の大きさを変える構成とすることも可能である。
【0052】
一例として、左旋回時に、左方向に傾斜している(左側が右側に対して下方に傾いている)場合には、傾斜していない場合の操舵角(操舵量)で制御すると旋回しすぎてしまい(旋回半径が小さくなり)、走行経路から外れやすくなるため、実施の形態では、操舵角が小さくなるように(旋回半径が大きくなるように)、傾斜角に応じて操舵角を補正する。この時、傾斜角が大きいほど操舵角の補正量も大きくなる。一方、左旋回時に、右方向に傾斜している(右側が左側に対して下方に傾いている)場合には、傾斜していない場合の操舵角で制御すると旋回が不足して(旋回半径が大きくなり)、走行経路から外れやすくなるため、実施の形態では、操舵角が大きくなるように(旋回半径が小さくなるように)、傾斜角に応じて操舵角を補正する。よって、圃場全体が左方向に傾斜している場合には、左旋回時は、操舵角が小さくなるように補正され、右旋回時は操舵角が大きくなるように補正され、右旋回と左旋回とで操舵角が異なる。
【0053】
なお、操舵角(操舵量)の制御は、PID(Proportional Integral Differential)制御、すなわち、比例ゲインを有する比例項と、積分ゲインを有する積分項と、微分ゲインを有する微分項と、が加算されて導出される(目標)操舵量に基づく制御で行うことが可能である。そして、右の操舵角と左の操舵角が異なる場合、比例ゲインや積分ゲイン、微分ゲインを、右操舵時と左操舵時で異なる値とすることで対応することも可能である。なお、各ゲインは制御時に収束する範囲(発散しない範囲)で値を選択可能である。
【0054】
操舵角の補正を行う場合に、トラクタ1の右側の車輪と左側の車輪とで、個別に操舵角を制御可能な構成の場合は、操舵角の補正量を左右の車輪で異ならせることも可能である。すなわち、走行経路に沿ってトラクタ1を走行させるために、傾斜時の操舵角の補正量を、内輪側と外輪側とで異なる制御量とすることで、より精度よく走行経路に沿って走行させることが可能である。
また、トラクタ1の左右のブレーキを個別に制御可能な構成の場合は、旋回時に内輪側のブレーキを作動させて操舵量を補うように、走行制御手段108が制御を行う構成とすることで、旋回不足が抑制されやすく、走行経路に沿って精度よく移動しやすいため、望ましい。ブレーキを作動させる場合は、旋回中の全期間にわたって行うことも可能であるが、旋回中の短時間だけ行う構成とすることも可能である。旋回開始時の短時間とした場合、走行車体1aの向きが旋回開始とともに大きく瞬時に変化する補助となり、旋回が短時間で終了しやすく、操舵量自体も少なくできる。
なお、操舵角の補正は、旋回時に限定されず、直進走行時でも傾斜に応じて、走行経路からのズレを戻す操舵制御の際に、適用可能である。
【0055】
また、操舵角の補正を行う場合、傾斜角に対する補正量を実験等で予め導出、登録しておいて、予め登録された補正量を使用することが可能である。このとき、例えば、IMU41で検出、算出された傾斜の瞬時値(瞬時傾斜量)の履歴から、移動平均を使用して、補正量をその都度計算する構成とすることも可能である。IMU41で算出した傾斜の瞬時値は、GNSS測位位置情報を使用して現在位置Pの推定を行う際に補正値として必要である。この瞬時値は、平たん路走行時の凹凸等に対する位置補正で必須あり、測位位置の精度を向上させることが可能である。走行中の傾斜量については、等高線をどのように走行しているかにより操舵量による走行車体1aが受ける影響が異なるため、走行している平均的な傾斜具合を踏まえた制御量(操舵量)の決定が望ましい。したがって、実施の形態のように、傾斜量の移動平均を使用する方が、適正な操舵量に繋がりやすい。
【0056】
また、実施の形態の操舵量設定手段108aは、走行車体1aの進行方向に対する前後方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合に、走行車体1aの前後の傾斜に基づいて、走行車体1aの操舵時の制御量である操舵角を前後方向に傾斜していない場合の操舵角に対して補正する。一例として、旋回時に、下方向に傾斜している(前側が後側に対して下方に傾いている)場合には、傾斜していない場合の操舵角(操舵量)で制御すると、下り坂のために重力で直進方向に進みやすく、旋回が不足して(旋回半径が大きくなり)、走行経路から外れやすくなる。したがって、実施の形態では、操舵角が大きくなるように(旋回半径が小さくなるように)、傾斜角に応じて操舵角を補正する。一方、旋回時に、上方向に傾斜している(前側が後側に対して上方に傾いている)場合には、傾斜していない場合の操舵角では、上り坂で直進方向に進みにくく、旋回しすぎになり(旋回半径が小さくくなり)、走行経路から外れやすくなるため、実施の形態では、操舵角が小さくなるように(旋回半径が大きくなるように)、傾斜角に応じて操舵角を補正する。
【0057】
なお、例えば、走行車体1aの前後の傾斜が所定期間継続する場合(すなわち、上り坂または下り坂が続く場合)は、トラクタ1の走行速度が増減しやすいため、走行制御手段108が、走行速度が一定になるように調整(増速または減速)することが望ましい。特に、作業機として、ロータリ耕耘機18を使用する場合は、ロータリ耕耘機内に抱えられる土の量が、上り坂では平坦の場合に比べて多くなりやすく、下り坂では平坦の場合に比べて少なくなりやすい。したがって、車重が変動して車速が変動しやすい。したがって、作業機としてロータリ耕耘機18が使用される場合には、車速を制御して、作業の仕上げの精度を圃場内の上り坂部分と下り坂部分とで近づけることが可能である。
【0058】
また、前後の傾斜や左右の傾斜の継続期間が長くなると、増速や減速、旋回不足や旋回過剰が累積しやすいため、操舵量の補正について、継続期間が長くなるにつれて、補正量が大きくなるようにすることも可能である。
さらに、傾斜の判別や、補正量の大きさ、速度の増減等の制御について、作業者がボタンやダイヤル等で、設定や感度を変更するように構成することが望ましい。
また、実施の形態では、走行車体1aが上方向への傾斜の場合も下方向への傾斜の場合も両方補正する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、上方向への傾斜の場合は補正を行わず、下方向への傾斜の場合のみ補正を行うような構成とすることが可能である。例えば、下り傾斜且つ右傾斜の圃場を直進走行する場合は、右方向に横滑りしやすいため補正を行うが、逆向きに直進走行する場合は上り傾斜且つ左傾斜であり、上りのため横滑りの影響が少なく、補正を行わない、といった制御とすることも可能である。
【0059】
図6は実施の形態において走行経路の進行方向と走行車体の進行方向のズレが大きい場合の説明図である。
さらに、実施の形態の走行制御手段108は、図6に示すように、走行経路201に沿った走行制御を開始する場合に、走行経路201の進行方向201aに対する走行車体1aの進行方向Dのズレ(傾斜角θ)が、予め定められた範囲(例えば、30°)を超える場合に、ズレ(傾斜角θ)が予め定められた範囲内になるまで、走行車体1aの左右方向の一方の車輪2,3のブレーキを作動させる。すなわち、傾斜角θが大きい場合は、いわゆる、片側ブレーキ(片ブレーキ)制御を行って、片ブレーキ制御を行わない場合に比べて、旋回半径を小さくして、速やかに走行経路201に沿うように制御を行う。このとき、片ブレーキ制御中は、走行速度を低速にすることで、旋回で走行経路201をオーバーシュートしにくく、オーバーシュートの修正のために蛇行することが抑制され、結果として走行経路201に沿うまでの移動距離や時間を短縮しやすい。なお、走行速度を低速にした場合、傾斜角θが所定の範囲内になると、目的の走行速度(作業速度)まで増速させる。このとき、走行速度を一度に増速するよりも、傾斜角θが小さくなるにつれて徐々に走行速度を増速するほうが、ズレの修正が精度よく行われやすく、蛇行の発生も抑制されやすく好ましい。
【0060】
前記構成を備えた実施の形態のトラクタ1では、GNSSアンテナ31やIMU41、カメラ51等を使用して、圃場内でのトラクタ1の傾斜を検出して、操舵制御、すなわち、走行車体1aの進行方向の制御を行っている。したがって、特許文献1に記載されているような技術に比べて、圃場内での走行経路に沿って精度よくトラクタ1を走行させることが可能である。
特に、実施の形態では、第1の計測手段の一例としてのGNSSアンテナ31の計測結果が不通の場合、すなわち、位置情報が取得できず、予め定められた範囲内の計測結果が得られない場合は、IMU41やカメラ51等の計測結果に基づいて操舵制御が行われる。また、実施の形態では、第2の計測手段の一例としてのIMU41等の計測結果から、走行車体1aの左右方向または上下方向の傾斜が予め定められた範囲を超える場合には、IMU41等の計測結果から算出された傾斜に応じて補正された操舵角で制御が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の作業車両は、トラクタに限定されず、田植え機等の苗移植機、米や麦を収穫するコンバイン、人参や大根等の根菜類を収穫する野菜収穫機等、各種作業用車両にも適用できる。
【符号の説明】
【0062】
1…作業車両、
1a…走行車体、
31…第1の計測手段、
41…第2の計測手段、
51,52…第3の計測手段、
108…走行制御手段、
201…走行経路、
201a…走行経路の進行方向、
D…進行方向、
P…現在位置、
θ…進行方向のズレ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6