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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119091
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】車両用シール周辺構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20240827BHJP
   B62D 7/18 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F16J15/10 N
F16J15/10 D
B62D7/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025725
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】原 崇
(72)【発明者】
【氏名】平山 淳
【テーマコード(参考)】
3D034
3J040
【Fターム(参考)】
3D034BA09
3J040AA18
3J040BA03
3J040EA02
3J040EA16
3J040EA22
3J040FA05
3J040HA03
3J040HA21
(57)【要約】
【課題】シール性を向上させることができる車両用シール周辺構造を提供する。
【解決手段】本発明にかかる車両用シール周辺構造100は、車幅方向に延びる管状のステアリングナックル108と、ステアリングナックルに挿入されるアクスルハウジングハブ106とステアリングナックルとの間を封止する環状のナックルシール122とを備え、ステアリングナックルの開口124の内周には、断面矩形の環状に切り欠かれていてナックルシールが取り付けられた溝部126が形成されていて、ナックルシールは、溝部のうち径方向に平行な底面128に当接する環状の本体144と、本体から径方向外側に突出し溝部のうち車幅方向に平行な側面130に当接するリップ部146とを有し、リップ部の外径は溝部の径よりも大きく、リップ部は、ナックルシールがステアリングナックルの溝部に取り付けられた際に溝部の側面によって変形して側面に当接している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に延びる管状の管状部材と、該管状部材に挿入される所定の部材と該管状部材との間を封止する環状のシール部材とを備える車両用シール周辺構造において、
前記管状部材の開口の内周には、断面矩形の環状に切り欠かれていて前記シール部材が取り付けられた溝部が形成されていて、
前記シール部材は、
前記溝部のうち径方向に平行な底面に当接する環状の本体と、
前記本体から径方向外側に突出し前記溝部のうち車幅方向に平行な側面に当接するリップ部とを有し、
前記リップ部の外径は前記溝部の径よりも大きく、
前記リップ部は、前記シール部材が前記管状部材の溝部に取り付けられた際に前記溝部の側面によって変形して該側面に当接していることを特徴とする車両用シール周辺構造。
【請求項2】
前記リップ部には、
前記溝部の側面に向かうほど底面から遠ざかるように傾斜する第1傾斜部と、
前記第1傾斜部に連続し該第1傾斜部よりも前記溝部の側面に平行に近い方向に延びながら該側面に向かう第2傾斜部とが形成されていて、
前記第1傾斜部の外径は前記溝部の径よりも小さく、
前記第2傾斜部の外径は前記溝部の径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の車両用シール周辺構造。
【請求項3】
前記シール部材は、前記リップ部の第2傾斜部の全周にわたって該第2傾斜部から径方向外側に向かって突出していて車幅方向に離間した少なくとも2つの突起部をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の車両用シール周辺構造。
【請求項4】
前記シール部材の本体には、前記溝部の側面に向かって蛇行していて径方向に変形する蛇腹部が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用シール周辺構造。
【請求項5】
前記シール部材の本体の蛇腹部の車幅方向の厚みは、前記管状部材の溝部の車幅方向の寸法よりも大きく、
前記蛇腹部は、前記本体のうち前記溝部の底面に対面する側に設けられ該底面から離れるように窪んだ凹部と、前記本体のうち前記凹部の反対側に設けられ前記底面から離れるように膨らんだ凸部とによって形成されていて、
前記凸部は、前記シール部材が前記管状部材の溝部に取り付けられた状態で、前記溝部からはみ出すように膨らんでいることを特徴とする請求項4に記載の車両用シール周辺構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シール周辺構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、四輪駆動車において駆動力を前輪に伝達するフロントアクスルを備える。フロントアクスルは、揺動可能にドライブシャフトを結合している。フロントアクスルは、例えばステアリングナックルと、ステアリングナックルに挿入される半割球面状のアクスルハウジングハブとを備え、アクスルハウジングハブにドライブシャフトが挿通されている。ステアリングナックルは、キングピンベアリングおよびキングピンを介してアクスルハウジングハブに対して揺動可能に配置されている。
【0003】
このフロントアクスルでは、ステアリングナックルとアクスルハウジングハブの間に位置するキングピンベアリングまで外部から水が浸入して、キングピンベアリングに錆が発生した場合、ガタが発生して走行中の異音やハンドル振動の原因となる。そこでフロントアクスルでは、ステアリングナックルとアクスルハウジングハブとの間をシールによって封止している。
【0004】
特許文献1には、自動車の駆動、操舵用ホイールエンドアセンブリーが記載されている。特許文献1では、ベアリングアセンブリーを、シールとそれに相対する摩耗スリーブとともにステアリングナックルに装着することで、ベアリングアセンブリーに水などが浸入することを防止している、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-253165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしシールは、外気に晒されているため、外気温の影響を受けやすく、また車両レイアウト上、路面からの反射熱の影響も受けやすい。このため、シールは、熱により径方向に収縮する場合があり得る。
【0007】
特許文献1では、シールをステアリングナックルに当接させているに過ぎないため、シールが熱により径方向に収縮すると、ステアリングナックルとシールの間の締め代が確保できず、ステアリングナックルとシールの間に隙間が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、シール性を向上させることができる車両用シール周辺構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用シール周辺構造の代表的な構成は、車幅方向に延びる管状の管状部材と、管状部材に挿入される所定の部材と管状部材との間を封止する環状のシール部材とを備える車両用シール周辺構造において、管状部材の開口の内周には、断面矩形の環状に切り欠かれていてシール部材が取り付けられた溝部が形成されていて、シール部材は、溝部のうち径方向に平行な底面に当接する環状の本体と、本体から径方向外側に突出し溝部のうち車幅方向に平行な側面に当接するリップ部とを有し、リップ部の外径は溝部の径よりも大きく、リップ部は、シール部材が管状部材の溝部に取り付けられた際に溝部の側面によって変形して側面に当接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シール性を向上させることができる車両用シール周辺構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る車両用シール周辺構造が適用されるフロントアクスルを概略的に示す図である。
図2図1の車両用シール周辺構造の要部を拡大して示す図である。
図3図1の車両用シール周辺構造の要部の斜視図である。
図4図2の車両用シール周辺構造のナックルシールの要部を示す図である。
図5図4のナックルシールをステアリングナックルの溝部に取り付けた状態を示す図である。
図6図5(a)のナックルシールが熱により径方向に収縮した状態を示す図である。
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両用シール周辺構造の代表的な構成は、車幅方向に延びる管状の管状部材と、管状部材に挿入される所定の部材と管状部材との間を封止する環状のシール部材とを備える車両用シール周辺構造において、管状部材の開口の内周には、断面矩形の環状に切り欠かれていてシール部材が取り付けられた溝部が形成されていて、シール部材は、溝部のうち径方向に平行な底面に当接する環状の本体と、本体から径方向外側に突出し溝部のうち車幅方向に平行な側面に当接するリップ部とを有し、リップ部の外径は溝部の径よりも大きく、リップ部は、シール部材が管状部材の溝部に取り付けられた際に溝部の側面によって変形して側面に当接していることを特徴とする。
【0013】
上記構成では、シール部材の本体から径方向外側に突出するリップ部の外径が、管状部材の溝部の径よりも大きい。このため、シール部材が管状部材の溝部に取り付けられると、リップ部は、溝部の側面によって変形して側面に当接することで、溝部の側面に圧接する。したがって上記構成によれば、シール部材と管状部材との間に隙間が発生することを防止し、シール部材のシール性を向上させることができる。また、シール部材が熱により径方向に収縮しても、締め代を確保することができる。
【0014】
上記のリップ部には、溝部の側面に向かうほど底面から遠ざかるように傾斜する第1傾斜部と、第1傾斜部に連続し第1傾斜部よりも溝部の側面に平行に近い方向に延びながら側面に向かう第2傾斜部とが形成されていて、第1傾斜部の外径は溝部の径よりも小さく、第2傾斜部の外径は溝部の径よりも大きい。
【0015】
このように、リップ部の第1傾斜部の外径が溝部の径よりも小さいため、管状部材の溝部にシール部材を車幅方向内側から取り付けるとき、リップ部の第1傾斜部を、管状部材の溝部に容易に挿入することができる。また、リップ部の第1傾斜部を管状部材の溝部に挿入した後、管状部材の溝部にシール部材を車幅方向外側に向かって押し付けると、リップ部の第2傾斜部の外径が溝部の径よりも大きいため、第2傾斜部は、溝部の側面に当接して変形し確実に圧接する。このため、管状部材の溝部にシール部材を確実に取り付けることができる。なお第1傾斜部および第2傾斜部は、平面の傾斜面に限らず、曲面を含んだ傾斜面も形成する。
【0016】
またリップ部は、第2傾斜部が溝部の側面に当接して変形することでばね要素として機能する。これにより、シール部材が熱により径方向に収縮しても、リップ部が径方向外側に弾性変形するため締め代を確保することができる。
【0017】
上記のシール部材は、リップ部の第2傾斜部の全周にわたって第2傾斜部から径方向外側に向かって突出していて車幅方向に離間した少なくとも2つの突起部をさらに有する。
【0018】
これにより、管状部材の溝部にシール部材を取り付けた状態で、リップ部の第2傾斜部から径方向外側に向かって突出した少なくとも2つの突起部が溝部の側面に線接触する。このため、リップ部の第2傾斜部が管状部材の溝部の側面に圧接したときの面圧が高くなり、シール部材のシール性をさらに向上させることができる。
【0019】
上記のシール部材の本体には、溝部の側面に向かって蛇行していて径方向に変形する蛇腹部が形成されている。
【0020】
これにより、シール部材の本体は蛇腹部によって径方向に変形しやすくなり、より弾性変形するようになる。このため、管状部材の溝部にシール部材を取り付けるとき、シール部材の本体が径方向内側に圧縮して溝部に挿入しやすくなって作業性が向上し、取り付けた後は本体が径方向外側に拡大するため、シール性が確保される。また、シール部材が熱により径方向に収縮しても、本体が蛇腹部によって径方向外側に変形することでシール性の低下を抑制することができる。
【0021】
上記のシール部材の本体の蛇腹部の車幅方向の厚みは、管状部材の溝部の車幅方向の寸法よりも大きく、蛇腹部は、本体のうち溝部の底面に対面する側に設けられ底面から離れるように窪んだ凹部と、本体のうち凹部の反対側に設けられ底面から離れるように膨らんだ凸部とによって形成されていて、凸部は、シール部材が管状部材の溝部に取り付けられた状態で、溝部からはみ出すように膨らんでいる。
【0022】
これにより、管状部材の溝部にシール部材を取り付けた状態で車幅方向内側からプレートを組み付けると、本体の蛇腹部の凸部がプレートによって車幅方向外側に押し潰され、蛇腹部の凹部も車幅方向外側に変形する。このためシール部材は、本体の蛇腹部が径方向に拡大して、リップ部が溝部の側面により確実に当接する。したがって、シール部材は締め代を十分に確保することができ、シール性をより向上させることができる。
【実施例0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
図1は、本発明の実施例に係る車両用シール周辺構造100が適用されるフロントアクスル102を概略的に示す図である。以下各図において、車両前後方向をそれぞれ矢印Front、Back、車幅方向の左右をそれぞれ矢印Left、Right、車両上下方向をそれぞれ矢印Up、Downで例示する。なお以下の説明では、図1の車両左側の車両用シール周辺構造100を例示するが、車両右側に本実施例を適用してもよい。
【0025】
フロントアクスル102は、四輪駆動車において駆動力を前輪に伝達する機構であり、ドライブシャフト104を揺動可能に結合している。フロントアクスル102は、半割球面状のアクスルハウジングハブ106と、ステアリングナックル108と、スピンドル110とを備える。
【0026】
ステアリングナックル108は、車幅方向に延びる管状の管状部材であって、不図示のステアリングロッドを介して車体に保持される。ステアリングナックル108には、アクスルハウジングハブ106が挿入されている。またステアリングナックル108は、キングピン112およびキングピンベアリング114を介して、アクスルハウジングハブ106に揺動可能に配置される。
【0027】
ドライブシャフト104は、図示のようにアクスルハウジングハブ106に挿通されている。スピンドル110は、ステアリングナックル108に接合され、さらにドライブシャフト104を覆っている。スピンドル110には、ホイールベアリング116を介してホイールハブ118が取り付けられている。また、ドライブシャフト104と、ホイールハブ118に取り付けられるホイールとは、エア圧力によって作動するエアロッキングハブ120によってロックまたはアンロックの切換えが行われる。
【0028】
フロントアクスル102では、前輪に舵角が与えられるとき、アクスルハウジングハブ106の周りをステアリングナックル108が揺動する。このため、アクスルハウジングハブ106とステアリングナックル108との間には隙間が生じることになる。
【0029】
仮に、アクスルハウジングハブ106とステアリングナックル108との隙間を通ってキングピンベアリング114まで外部からの水が浸入すると、キングピンベアリング114に錆が発生する場合がある。そして錆が発生した状態で使用し続けると、キングピンベアリング114にガタが発生し、走行中の異音やハンドル振動の原因となる。
【0030】
そこで車両用シール周辺構造100は、樹脂製のナックルシール122を備え、これにより、アクスルハウジングハブ106とステアリングナックル108との間を封止してシール性を向上させる構成を採用した。
【0031】
図2は、図1の車両用シール周辺構造100の要部を拡大して示す図である。図3は、図1の車両用シール周辺構造100の要部の斜視図である。図3(a)は、車両用シール周辺構造100の要部の分解斜視図である。図3(b)は、図3(a)の車両用シール周辺構造100の組み付け状態を示す図である。
【0032】
ナックルシール122は、図3(a)に示すように環状のシール部材である。ステアリングナックル108は、開口124の内周に形成された溝部126を有する。溝部126は、断面矩形の環状に切り欠かれていて、図2に示すようにナックルシール122が取り付けられる。また溝部126は、径方向に平行な底面128と、車幅方向に平行な側面130とを有する(図4参照)。
【0033】
車両用シール周辺構造100では、図3(a)に示すステアリングナックル108の開口124にアクスルハウジングハブ106(図3(b)参照)を挿入した状態で、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122が取り付けられる。
【0034】
車両用シール周辺構造100はさらに、図3(a)に示すプレート132を備える。プレート132は、半月状のプレートを2枚組み合わせた構造を有し、これにより環状を形成している。ただしこれに限らず、プレート132は、1枚の環状のプレートであってもよい。プレート132は、ボルト134が通される孔部136を有する。またステアリングナックル108には、ボルト134と螺合するボルト穴138が形成されている。
【0035】
このため、ボルト134をプレート132の孔部136に通し、さらにステアリングナックル108のボルト穴138と螺合させることにより、図3(b)に示すようにプレート132が車幅方向内側からステアリングナックル108に組み付けられる。ステアリングナックル108にプレート132が組み付けられることで、ナックルシール122は、図2に示すようにステアリングナックル108の底面128とプレート132とで圧縮される。
【0036】
ナックルシール122には、径方向内側に突出した内側リップ140a、140bが形成されている。内側リップ140a、140bは、アクスルハウジングハブ106に当接している。ナックルシール122の内側リップ140a、140bとプレート132との間には、アクスルハウジングハブ106に当接するフェルト142が配置されている。このようにして車両用シール周辺構造100では、ナックルシール122の内側リップ140a、140bとフェルト142によって、アクスルハウジングハブ106との間が封止されている。
【0037】
ナックルシール122はさらに、図2に示す本体144とリップ部146とを有する。本体144は、環状に形成されていて、ステアリングナックル108の溝部126の底面128に当接する。リップ部146は、本体144から径方向外側に突出し溝部126のうち側面130に当接する。
【0038】
図4は、図2の車両用シール周辺構造100のシール122の要部を示す図である。図4(a)は、ステアリングナックル108の溝部126に取り付けられる前のシール122の状態を示す図である。図4(b)は、図4(a)のナックルシール122をステアリングナックル108の溝部126に取り付ける様子を示す図である。
【0039】
ナックルシール122のリップ部146は、図4(a)の鎖線Aに示すように溝部126の側面130よりも径方向外側まで突出している。つまりリップ部146の外径は、溝部126の径よりも大きくなっている。またリップ部146は、車幅方向内側に向かうほど、本体144から遠ざかるように径方向外側に傾斜している。
【0040】
このため、図4(b)の矢印Bに示すようにナックルシール122を車幅方向内側から溝部126に取り付けるとき、リップ部146は、溝部126の側面130にぶつかって矢印Cのように径方向内側に折り畳まれて本体144に近づくように曲げられる。リップ部146が溝部126の側面130によって曲げられることで、リップ部146には、第1傾斜部148と第2傾斜部150とが形成される。
【0041】
図5は、図4のナックルシール122をステアリングナックル108の溝部126に取り付けた状態を示す図である。図5(a)、図5(b)は、ステアリングナックル108にプレート132が組み付けられる前の状態、組み付けられた後の状態をそれぞれ示す図である。
【0042】
ナックルシール122のリップ部146の第1傾斜部148は、図5(a)に示すように溝部126の側面130に向かうほど底面128から遠ざかるように傾斜している。なお第1傾斜部148は、図中では平面の傾斜面を形成しているが、これに限らず、曲面を含んだ傾斜面を形成する場合もある。また第1傾斜部148の外径は、図4(b)に示すように溝部126の径よりも小さい。
【0043】
このため車両用シール周辺構造100では、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を車幅方向内側から取り付けるとき、リップ部146の第1傾斜部148を、溝部126に容易に挿入することができる。
【0044】
リップ部146の第2傾斜部150は、図5(a)に示すように第1傾斜部148に連続していて、第1傾斜部148よりも溝部126の側面130に平行に近い方向に延びながら側面130に向かうように傾斜している。なお第2傾斜部150は、図中では平面の傾斜面を形成しているが、これに限らず、曲面を含んだ傾斜面を形成する場合もある。また図4(b)に示すように溝部126の側面130に第2傾斜部150がぶつかることから、第2傾斜部150の外径は、溝部126の径よりも大きくなっている。
【0045】
このため、リップ部146の第1傾斜部148を溝部126に挿入した後、さらにナックルシール122を車幅方向外側に向かって押し付けると、第2傾斜部150は、図5(a)に示すように溝部126の側面130に当接して変形し確実に圧接する。
【0046】
したがって車両用シール周辺構造100では、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を確実に取り付けることができる。またナックルシール122は、リップ部146が溝部126の側面130によって変形して側面130に当接することで、溝部126の側面130に圧接するため、ステアリングナックル108との間に隙間が発生することを防止し、シール性を向上させることができる。
【0047】
ナックルシール122はさらに、図5(a)に示すように車幅方向に離間した2つの突起部152、154を有する。突起部152、154は、リップ部146の第2傾斜部150の全周にわたって第2傾斜部150から径方向外側に向かって突出している。
【0048】
これにより、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を取り付けた状態で、リップ部146の第2傾斜部150から突出する突起部152、154が溝部126の側面130に線接触する。
【0049】
このため車両用シール周辺構造100では、リップ部146の第2傾斜部150が溝部126の側面130に圧接したときの面圧が高くなり、ナックルシール122のシール性をさらに向上させることができる。なお第2傾斜部150の突起部152、154は2つに限らず、3つ以上形成してもよい。
【0050】
またナックルシール122の本体144には、蛇腹部156が形成されている。蛇腹部156は、凹部158と凸部160とによって形成され、溝部126の側面130に向かって蛇行していて径方向に変形する。
【0051】
このためナックルシール122の本体144は、蛇腹部156によって径方向に変形しやすくなり、より弾性変形するようになる。したがって車両用シール周辺構造100では、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を取り付けるとき、本体144が径方向内側に圧縮して溝部126に挿入しやすくなって作業性が向上する。また、ナックルシール112を取り付けた後には本体144が径方向外側に拡大するため、シール性が確保される。
【0052】
蛇腹部156の凹部158は、本体144のうち溝部126の底面128に対面する側すなわち車幅方向外側に設けられ、底面128から離れるように窪んだ部位である。凸部160は、本体144のうち凹部158の反対側すなわち車幅方向内側に設けられ、底面128から離れるように膨らんだ部位である。
【0053】
また蛇腹部156の凸部160は、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を取り付けた状態で、図5(a)の鎖線Dに示すように溝部126から車幅方向内側にはみ出すように膨らんでいる。つまり本体144の蛇腹部156の車幅方向の厚みは、ステアリングナックル108の溝部126の車幅方向の寸法よりも大きい。
【0054】
ここで図5(b)に示すように、ステアリングナックル108の溝部126にナックルシール122を取り付けた状態でさらに車幅方向内側からプレート132を組み付けた場合について説明する。ナックルシール122は、プレート132が組み付けられると、蛇腹部156の凸部160がプレート132によって矢印Eに示すように車幅方向外側に押し潰されて、蛇腹部156の凹部158も矢印Fに示すように車幅方向外側に変形する。
【0055】
これによりナックルシール122は、本体144の蛇腹部156が径方向に拡大して、矢印Gに示すようにリップ部146の第2傾斜部150が溝部126の側面130により確実に当接する。
【0056】
したがって車両用シール周辺構造100では、ナックルシール122が締め代を十分に確保することができ、シール性をより向上させることができる。またナックルシール122の本体144が蛇腹部156によって径方向に拡大して締め代を確保できるため、ステアリングナックル108の溝部126には高い加工精度が不要となる。
【0057】
図6は、図5(a)のナックルシール122が熱により径方向に収縮した状態を示す図である。ナックルシール122では、リップ部146の第2傾斜部150が溝部126の側面130に当接して変形することで、リップ部146がばね要素として機能する。
【0058】
このため図中左側に示すナックルシール122が、図中右側に示すように熱によって寸法Laだけ径方向に収縮した場合であっても、ナックルシール122は、リップ部146が矢印Hに示すように径方向外側に弾性変形するため、締め代を確保することができる。また、ナックルシール122が熱により径方向に収縮しても、本体144が蛇腹部156によって径方向外側に変形することでシール性の低下を抑制することができる。
【0059】
なお車両用シール周辺構造100では、ナックルシール122のシール性を向上させることができるため、図1に示すナックルシール122の内側リップ140a、140bとプレート132との間に配置されたフェルト142を取り付けず、構造をより簡素化することもできる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、車両用シール周辺構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100…車両用シール周辺構造、102…フロントアクスル、104…ドライブシャフト、106…アクスルハウジングハブ、108…ステアリングナックル、110…スピンドル、112…キングピン、114…キングピンベアリング、116…ホイールベアリング、118…ホイールハブ、120…エアロッキングハブ、122…ナックルシール、124…ステアリングナックルの開口、126…溝部、128…溝部の底面、130…溝部の側面、132…プレート、134…ボルト、136…プレートの孔部、138…ステアリングナックルのボルト穴、140a、140b…内側リップ、142…フェルト、144…本体、146…リップ部、148…第1傾斜部、150…第2傾斜部、152、154…突起部、156…蛇腹部、158…蛇腹部の凹部、160…蛇腹部の凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6