(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119100
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】指向性制御装置および指向性制御方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025745
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】有山 義博
(72)【発明者】
【氏名】保田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕章
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220BA06
(57)【要約】
【課題】製造コストを抑えながら、音源から到来する音の指向性を向上させることができる指向性制御装置および指向性制御方法を得る。
【解決手段】マイクアレイ装置で収音した音データ信号を取得する取得部と、特定の方位に対してビームフォーミング処理を行うビームフォーミング部と、音源の方位を検出する方位検出部と、特定の方位にビームフォーミング処理を行うようにビームフォーミング部を制御する制御部とを備え、方位検出部は、複数の方位に対してビームフォーミング処理を行った結果から最も感度の高い方位を音源の方位として検出し、制御部は、方位検出部が検出した音源の方位にビームフォーミング処理を行うようにビームフォーミング部を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクアレイ装置で収音した音データ信号を取得する取得部と、
特定の方位に対してビームフォーミング処理を行うビームフォーミング部と、
音源の方位を検出する方位検出部と、
特定の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御する制御部と、を備え、
前記方位検出部は、複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を行った結果から最も感度の高い方位を前記音源の方位として検出し、
前記制御部は、前記方位検出部が検出した前記音源の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御する、
指向性制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
一定の周期で前記複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を前記ビームフォーミング部に実行させる、
請求項1に記載の指向性制御装置。
【請求項3】
ユーザに情報を報知する報知装置をさらに備え、
前記制御部は、前記方位検出部によって検出された前記音源の方位の情報を前記報知装置に報知させる、
請求項1または2に記載の指向性制御装置。
【請求項4】
前記マイクアレイ装置の受波方向を調整する方位調整部をさらに備え、
前記制御部は、前記マイクアレイ装置の受波感度が前記方位検出部によって検出された前記音源の方位で最大になるように前記方位調整部を制御する、
請求項1または2に記載の指向性制御装置。
【請求項5】
マイクアレイ装置で音源から収音した音データ信号を取得する取得部と、特定の方位に対してビームフォーミング処理を行うビームフォーミング部とを有する指向性制御装置による指向性制御方法であって、
複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を前記ビームフォーミング部に実行させるステップと、
前記複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を行った結果から最も感度の高い方位を前記音源の方位として検出するステップと、
検出された前記音源の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御するステップと、
を有する指向性制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収音の指向性を制御する指向性制御装置および指向性制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクアレイ装置およびカメラ装置を備え、カメラによる撮影画像から監視対象物の位置を特定し、マイクアレイ装置から特定した方向に指向性を形成する指向性制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、複数のマイクロホンを備え、複数のマイクロホンの受音信号から音声源の方位を判定し、音声源の方位以外の方位範囲から到来する音を抑圧するビームフォーミングを行う音声処理装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献2の音声処理装置は、音声源の方位以外の方位範囲から到来する音を抑圧するビームフォーミングを行う処理部を備えている。処理部は、複数のマイクロホンに対応して設けられた複数の窓関数/高速フーリエ変換処理部と、各窓関数/高速フーリエ変換処理部の出力に重みテンソルを乗算する複数の乗算器と、複数の乗算器の出力を加算する加算器とを有する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-23137号公報
【特許文献2】特開2016-127300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された指向性制御装置は、監視対象の位置を特定する画像を取得するためのカメラ装置が必要になる。また、特許文献2に開示された音声処理装置は、音声源の方位以外の広い方位範囲から到来する音に対して窓関数処理および高速フーリエ変換処理ならびに乗算処理を行うため、高速で演算処理を行う高価な演算装置が必要となる。そのため、従来の装置は、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、製造コストを抑えながら、音源から到来する音の指向性を向上させることができる指向性制御装置および指向性制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る指向性制御装置は、マイクアレイ装置で収音した音データ信号を取得する取得部と、特定の方位に対してビームフォーミング処理を行うビームフォーミング部と、音源の方位を検出する方位検出部と、特定の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御する制御部と、を備え、前記方位検出部は、複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を行った結果から最も感度の高い方位を前記音源の方位として検出し、前記制御部は、前記方位検出部が検出した前記音源の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御するものである。
【0008】
本発明に係る指向性制御方法は、マイクアレイ装置で音源から収音した音データ信号を取得する取得部と、特定の方位に対してビームフォーミング処理を行うビームフォーミング部とを有する指向性制御装置による指向性制御方法であって、複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を前記ビームフォーミング部に実行させるステップと、前記複数の方位に対して前記ビームフォーミング処理を行った結果から最も感度の高い方位を前記音源の方位として検出するステップと、検出された前記音源の方位に前記ビームフォーミング処理を行うように前記ビームフォーミング部を制御するステップと、を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の方位に対してビームフォーミング処理を行い、複数の方位のビームフォーミング処理の結果から最大感度の方位を音源の方位として指向性が形成される。そのため、音源の方位の特定にカメラ装置が不要であり、音源の方位に指向性が形成された後、マイクアレイ装置が受波する音データ信号に対して遅延補償処理を高速で行う高価な演算装置が不要となる。そのため、製造コストを抑えながら、音源から到来する音の指向性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示したマイクアレイ装置の一構成例を示す模式図である。
【
図3】
図1に示したBF部が形成したビーム波形による感度の一例を示す指向特性図である。
【
図4】
図1に示したBF部が形成したビーム波形による感度の別の例を示す指向特性図である。
【
図5】
図1に示した方位検出部の一構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図1に示した制御部の一構成例を示すブロック図である。
【
図7】
図1に示した信号処理部の一構成例を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態1に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図9】実施の形態2に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図10】実施の形態2に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図11】実施の形態3に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図12】
図11に示した方位調整部の一構成例を示す外観模式図である。
【
図13】実施の形態3に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態1の指向性制御装置の構成を説明する。
図1は、実施の形態1に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。指向性制御装置10は、マイクアレイ装置1と、マイクアレイインターフェイス(マイクアレイI/F)部2と、ビームフォーミング(BF)部3と、方位検出部4と、信号処理部5と、制御部6とを備える。指向性制御装置10は、例えば、複数の人が参加する会議において、発言する人の音声を収音する会議システムで使用されるものである。
【0012】
マイクアレイ装置1は、
図1に示すように、マイクアレイI/F部2と接続される。
図2は、
図1に示したマイクアレイ装置の一構成例を示す模式図である。
図2において、説明の便宜上、3次元空間において互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸の3つの方向の軸を示す。
【0013】
マイクアレイ装置1は、複数のマイクロホン11-1~11-n(nは2以上の整数)を有する。マイクロホン11-1~11-nの各マイクロホン11-k(kは1~nの任意の整数)は、無指向性である。無指向性は、どの方向からも同じ感度で収音するものである。マイクロホン11-1~11-nは、直線上に等間隔に配置されている。
【0014】
図2に示す構成例においては、マイクアレイ装置1の正面方向をY軸方向としている。本実施の形態1において、
図2に示す角度θをマイクアレイ装置1の正面方向を基準とした方位角とする。各マイクロホン11-kは、音源SSから到達する音を収音する。マイクアレイ装置1は、各マイクロホン11-kが収音した音データ信号を並列でマイクアレイI/F部2に送信する。
【0015】
図2に示す模式図においては、隣接するマイクロホン間の距離はdである。dは、音源SSの音の周波数fsに基づいて予め決められている。周波数fsは、人の音声の周波数であり、例えば、0.1~1[kHz]である。波長をλとすると、距離dおよび波長λの関係は、d<λ/2である。周波数fsおよび波長λは、空気中の音速をcとすると、fs=(c/λ)の関係がある。なお、
図2はマイクアレイ装置1が1次元アレイ構成として直線アレイ型の場合を示しているが、2次元アレイ構成の面アレイ型であってもよく、3次元アレイ構成の球面アレイ型であってもよい。
【0016】
次に、
図1に示したマイクアレイI/F部2の構成を説明する。マイクアレイI/F部2は、マイクアレイ装置1およびBF部3と接続される。マイクアレイI/F部2は、マイクアレイ装置1が収音した音データ信号をマイクアレイ装置1から取得する取得部としての役目を果たす。マイクアレイI/F部2は、マイクアレイ装置1の各マイクロホン11-kから受信するアナログ信号の音データをサンプリングして、デジタル信号に変換する。マイクアレイI/F部2は、マイクロホン11-1~11-nのそれぞれによって収音された音データをデジタル信号でBF部3に出力する。
【0017】
次に、
図1に示したBF部3の構成を説明する。BF部3は、方位検出部4、信号処理部5および制御部6のそれぞれと接続される。BF部3は、特定の方位に対する感度を大きくし、特定の方位以外の感度を低くするビームフォーミング(BF)処理を行う。具体的には、BF部3は、音源SSから各マイクロホン11-kへの音波伝搬がそれぞれ異なることに基づいて、遅延処理およびフィルタ処理によって音波の位相および振幅を制御した信号同士を干渉させ、特定の方位からの信号を強調し、特定の方位以外の信号を低減するBF処理を行う。例えば、
図2を参照すると、音源SSからマイクロホン11-nに伝搬した音波に対して、マイクロホン11-1に伝搬した音波に伝搬遅延{(n-1)×d×sinθ/c}が生じることがわかる。
【0018】
BF部3は、複数の方位に対してBF処理を順に行うBFスキャン処理を指示する旨の制御信号を制御部6から受信すると、BFスキャン処理を行う。BF部3は、BFスキャン処理の結果を方位検出部4および信号処理部5に送信する。また、BF部3は、音源SSの方位を示す方位角の情報を制御部6から受信すると、音源SSの方位への感度が最も高くなるビーム波形を形成するBF処理を行い、BF処理の間、出力結果を方位検出部4および信号処理部5に送信する。
【0019】
BF部3が実行するBF処理の具体例を説明する。BF部3は、各マイクロホン11-kからの出力信号S11-kを入力として、式(1)を用いて、特定の方位に対して感度の大きいビーム波形を形成する信号Sbを出力する。
Sb(t,m)=w1(m)×S11-1(t)+w2(m)×S11-2(t)+・・・wn(m)×S11-n(t) ・・・(1)
【0020】
ビーム数をMとすると、式(1)において、mは、複数の方位のうち、特定の方位に対応するビーム番号である。m=1,2,・・・,Mの整数である。w1(m)、w2(m)、・・・、wn(m)のそれぞれはマイクロホン11-1~11-nのそれぞれの出力信号に付与される重みである。重みの計算方法として、環境によらず固定した信号処理を行う固定ビームフォーミング方式と、環境に適応して処理を可変する適応ビームフォーミング方式との2つの方式があるが、いずれの方式であってもよい。BF部3は、BFスキャン処理を実行する際、複数の方位に対応して方位検出部4に出力する信号Sb(t,m)を変化させる。
【0021】
図3は、
図1に示したBF部が形成したビーム波形による感度の一例を示す指向特性図である。指向特性は、どの方向からの音波をどの程度の強さで受波できるか、方向に対する感度を示すものである。指向特性には水平面指向特性および垂直面指向特性があるが、
図3は、XY座標面を水平面とする水平面指向特性の場合であるが、垂直面指向特性であってもよい。
【0022】
図3に示す指向特性は、同心円の中心から径方向に沿って感度[dB]が高くなり、Y軸方向を基準として時計回りに周方向に沿って方位角[°]が大きくなることを示す。方位角の決め方は、
図2および
図3に示す場合に限らない。また、
図3には5つのビーム波形を示しているが、これらのビーム波形は一例であって、
図2に示したマイクアレイ装置1によって形成されるものとは限らない。
【0023】
図3は、
図2に示したX軸およびY軸を指向特性図に重ねて示している。
図3に示すY軸方向がマイクアレイ装置1の正面方向である。
図3は、方位角θ=0°の方位で感度が最も高くなるようにBF部3がBF処理した場合のビーム波形の一例を示す。
図3を参照すると、θ=300°、330°、0°、30°および60°にビーム波形が見られるが、θ=0°の場合のビーム波形が他の方位のビーム波形と比べて大きく、θ=0°の場合の感度が最も高いことがわかる。
【0024】
図3を参照して、BFスキャン処理および音源SSの方位へのBF処理の具体例を説明する。スキャンする複数の方位が、θ=300°、330°、0°、30°および60°であるとする。また、ビーム数M=5、ビーム番号mと方位角θとの組み合わせを(m,θ)と表記すると、(1,300)、(2,330)、(3,0)、(4,30)(5,60)であるものとする。
【0025】
この場合、BF部3は、BFスキャン処理を指示する旨の制御信号を制御部6から受信すると、予め決められた時間tsの間に、ビーム番号mを1~Mまで順に変化させ、ビーム番号m毎に式(1)を計算して信号Sb(t,m)を出力する。その際、式(1)におけるw
1(m)、w
2(m)、・・・、w
n(m)の各重みがビーム番号m毎に変化する。例えば、ビーム番号m=1の場合、方位角θ=300°の感度が他の方位よりも高くなるように、BF部3は、w
1(1)、w
2(1)、・・・、w
n(1)を設定する。BFスキャン処理によって、
図3のθ=0°の場合のビーム波形がθ=300°→330°→0°→30°→60°の順に時間tsの間に経時的にシフトする指向特性が得られる。
【0026】
BF部3は、BFスキャン処理の結果、音源SSの方位を示す方位角θ=0°の情報を制御部6から受信すると、次にBFスキャン処理の制御信号を受信するまで、ビーム番号m=3に設定した式(1)の信号Sb(t,3)を、方位検出部4および信号処理部5に出力する。なお、ここでは、説明を簡単にするために、
図3を参照して、スキャンする複数の方位が5つの方位角の場合で説明したが、方位の数は5つに限らない。複数の方位は、θ=0°からθ=360°までの全方位を予め決められた角度で等間隔に分割したものであってもよい。
【0027】
なお、BFスキャン処理の時間tsは、シーケンシャルな処理でビーム方向の設定および演算処理を繰り返す場合、時間軸的な差を避けるために短時間であることが望ましい。ただし、時間tsが短すぎると、瞬間的な信号の変動の影響を受け、方位毎のスキャン処理の結果の差が実際の音響状態と一致しなくなる場合がある。
【0028】
BFスキャン処理は、BF部3がマイクアレイI/F部2から一定時間分入力される信号を一時的に記憶し、記憶した信号に対して非線形にBF処理を行う方法であってもよい。マイクアレイI/F部2からBF部3に入力される信号であって、BF処理の元になる信号をマイクアレイ入力信号と称する。マイクアレイ入力信号はどの方位角に対しても同じなので、純粋にビーム方向に対する応答信号の大小で感度を比較できる。このことを利用して、例えば、BF部3は、数秒分のマイクアレイ入力信号をバッファリングし、バッファリングしたマイクアレイ入力信号を方位特定に用いる。この場合、マイクアレイI/F部2から出力される信号を信号処理部5に入力させ、またはマイクアレイI/F部2からBF部3に出力した信号をBF部3からバイパスして信号処理部5に入力させ、BF部3と信号処理部5とが互いに演算処理の結果を送受信する。そして、信号処理部5によって応答信号が最も大きいと判定されるとき、BF部3は最も感度が高い方位に特定する。
【0029】
BF部3が形成するビーム波形による指向特性は、
図3を参照して説明した場合に限らない。BF部3が形成するビーム波形による指向特性の別の例を説明する。
図4は、
図1に示したBF部が形成したビーム波形による感度の別の例を示す指向特性図である。
図4においてはマイクアレイ装置1を図に示すことを省略している。
図4に示す実線は、BF部3が形成したビーム波形の指向特性の理論値を示す波形である。
図4に示す破線は、実線で示した理論値のビーム波形を形成する試作機の実測値の指向特性を示す波形である。
図4に示す2点鎖線は、市販されている指向性マイクの指向特性の一例を示す波形である。
図4に示すように、理論値の特性は方位角θ=0°および180°において感度が高くなっているが、実測値の特性では、方位角θ=0°の感度が最も高くなっている。
【0030】
次に、
図1に示した方位検出部4の構成を説明する。
図5は、
図1に示した方位検出部の一構成例を示すブロック図である。方位検出部4は、複数の方位に対してBF処理を行うBFスキャン処理の結果から最も感度の高い方位を音源SSの方位として検出する。方位検出部4は、
図5に示すように、感度記憶部13と、方位決定部14とを有する。
【0031】
感度記憶部13は、複数の方位について方位毎に方位および感度の情報をBF部3から受信すると、各方位に対応して、方位と感度とを組み合わせて記憶する。方位決定部14は、感度記憶部13が記憶する方位と感度との組み合わせの情報を参照し、最も感度が高い方位を判定する。方位決定部14は、音源SSの方位として、最も感度の高い方位を示す方位角θの情報を制御部6に送信する。
【0032】
次に、
図1に示した制御部6の構成を説明する。
図6は、
図1に示した制御部の一構成例を示すブロック図である。制御部6は、特定の方位にBFを行うようにBF部3を制御する。
図1に示したように、制御部6は、BF部3および方位検出部4のそれぞれと接続される。
図6に示すように、制御部6は、ビーム方位変更部15と、時間を計測するタイマー16とを有する。
【0033】
ビーム方位変更部15は、タイマー16が計測する時間を参照し、予め決められた一定の周期Tsで、BFスキャン処理を指示する旨の制御信号をBF部3に送信する。また、ビーム方位変更部15は、音源SSの方位として、最も感度の高い方位を示す方位角θの情報を方位検出部4から受信すると、音源SSの方位を示す方位角θの情報をBF部3に送信する。
【0034】
次に、
図1に示した信号処理部5の構成を説明する。
図7は、
図1に示した信号処理部の一構成例を示すブロック図である。信号処理部5は、音源SSから送波された音声を再生する信号処理を行う。信号処理部5は、BF部3から入力される信号を選択する信号選択部21と、信号選択部21から受信する信号Sbを増幅する増幅部22とを有する。
図7に示していないが、増幅部22にスピーカ(図示せず)が接続されていてもよい。この場合、増幅部22は、信号選択部21から受信する信号Sbを増幅してスピーカに出力する。
【0035】
信号選択部21は、BF部3がBFスキャン処理を行う間、BF部3から受信する信号Sbを増幅部22に送信しない。BFスキャン処理中に信号選択部21がBF部3から受信する信号Sbを増幅部22に送信すると、音源SSから出力される音の音圧が一定の場合であっても、時間tsの間に感度が大きく変化する信号Sbを増幅してしまうことになるからである。以下に、BF部3がBFスキャン処理中であるか否かを信号選択部21が判定する方法の具体例を説明する。
【0036】
信号選択部21は、時間ts毎にBF部3から受信する信号Sbの最大値と最小値との差であるレベル差ΔSbと予め決められた閾値thsとを比較する。レベル差ΔSbが閾値thsより大きい場合、信号選択部21は、BF部3がBFスキャン処理を行っていると判定し、BF部3から受信する信号Sbを増幅部22に送信しない。一方、レベル差ΔSbが閾値ths以下である場合、BF部3が音源SSの方位にBF処理を行っていると判定し、BF部3から受信する信号Sbを増幅部22に送信する。
【0037】
本実施の形態1においては、信号処理部5の前処理を行うBF部3において、音源SSの方位に感度の高いビーム波形が形成されるため、感度の高い音データ信号がBF部3から信号処理部5に入力される。そのため、信号処理部5においては、各マイクロホン11-kが受波する音波の位相差に対応して遅延補償を行う遅延部と、遅延補償後の複数の信号を合算する合算部とを設ける必要がない。さらに、
図7は信号処理部5が増幅部22を備える場合の構成を示しているが、信号処理部5に増幅部22が設けられていなくてもよい。
【0038】
次に、
図1に示したBF部3、方位検出部4、信号処理部5および制御部6のハードウェア構成例を説明する。指向性制御装置10は、プログラムを記憶するメモリ(図示せず)と、プログラムにしたがって処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ(図示せず)とを有する。プロセッサ(図示せず)がプログラムを実行することで、BF部3、方位検出部4、信号処理部5および制御部6の一部または全部が構成される。また、別の構成例として、BF部3、方位検出部4、信号処理部5および制御部6の一部または全部は、各機能を実行するASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路で構成されてもよい。
【0039】
なお、本実施の形態1においては、マイクアレイI/F部2がアナログ信号をデジタル信号に変換する機能を有する場合で説明したが、BF部3がアナログ信号をデジタル信号に変換する機能を有していてもよい。本実施の形態1においては、マイクアレイ装置1の感度が最も高くなる方位を求める際、音データをアナログ信号からデジタル信号に変換する場合で説明したが、アナログ信号のままであってもよい。
【0040】
また、本実施の形態1においては、収音する音が人の音声の場合で説明したが、収音する音は人の音声に限らない。音源SSから送波される音の周波数fsは、1[kHz]より大きくてもよい。さらに、本実施の形態1において、
図7を参照して増幅部22にスピーカ(図示せず)が接続される場合で説明したが、増幅部22に接続される機器はスピーカに限らない。
【0041】
次に、本実施の形態1の指向性制御装置10の動作を説明する。
図8は、実施の形態1に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。制御部6は
図8に示すフローを、一定の周期Tsで実行する。
【0042】
ステップS1において、制御部6は、複数の方位に対してBF処理を行うBFスキャン処理をBF部3に実行させる。BF部3は、式(1)において、ビーム番号mについてm=1からMまで順に変化させる。マイクアレイ装置1の各マイクロホン11-kは、音声等の音データ信号を受波すると、受波した音声データ信号をマイクアレイI/F部2に送信する。マイクアレイI/F部2は、各マイクロホン11-kから音声データ信号を受信すると、音声データをアナログ信号からデジタル信号に変換してBF部3に出力する。BF部3は、時間tsの間に、各マイクロホン11-kに対応する音声データ信号に対して、ビーム番号m毎に式(1)を計算し、求めた信号Sbを方位検出部4に送信する。
【0043】
ステップS2において、方位検出部4は、BF部3から受信する各方位の信号Sbの感度の変化を監視し、複数の方位に対してBF処理を行った結果から最も感度の高い方位を音源SSの方位として検出する。
【0044】
ステップS3において、制御部6は、方位検出部4によって検出された音源SSの方位にBF処理を行うようにBF部3を制御する。これにより、マイクアレイ装置1のビーム波形が音源SSの方位に対して最大感度になるように設定される。信号処理部5は、最大感度の方位に指向性が設定された後、BF部3から受信する信号を用いて音声再生の信号処理を行う。
【0045】
本実施の形態1の指向性制御装置10は、マイクアレイ装置1で収音した音データ信号を取得するマイクアレイI/F部2と、特定の方位に対してBF処理を行うBF部3と、音源SSの方位を検出する方位検出部4と、特定の方位にBF処理を行うようにBF部3を制御する制御部6とを備える。方位検出部4は、複数の方位に対してBF処理を行った結果から最も感度の高い方位を音源SSの方位として検出する。制御部6は、方位検出部4が検出した音源SSの方位にBF処理を行うようにBF部3を制御する。
【0046】
本実施の形態1の効果を説明する。本実施の形態1によれば、複数の方位に対してビームフォーミング処理を行い、複数の方位のビームフォーミング処理の結果から最大感度の方位を音源SSの方位として指向性が形成される。そのため、音源の方位の特定にカメラ装置が不要である。また、音源SSの方位に指向性が形成された後、マイクアレイ装置1が受波する音データ信号に対して遅延補償処理を行う必要がないので、高速な演算処理を行う高価な演算装置が不要となる。その結果、製造コストを抑えながら、音源SSから到来する音の指向性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施の形態1において、制御部6は、一定の周期TsでBFスキャン処理をBF部3に実行させてもよい。この場合、方位検出部4によってマイクアレイ装置1が複数の方位に対して最大感度となる方位の検出が繰り返される。この場合、音源SSが移動しても、方位検出部4が音源SSの方位の変化を捕捉することができ、音の指向性が音源SSの移動に追従し、最大感度を維持することができる。
【0048】
実施の形態2.
本実施の形態2は、実施の形態1で説明したBFスキャン処理によって推定された音源SSの方位の情報をユーザに報知するものである。本実施の形態2においては、実施の形態1で説明した構成と同一の構成に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0049】
本実施の形態2の指向性制御装置の構成を説明する。
図9は、実施の形態2に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。本実施の形態2の指向性制御装置10aは、実施の形態1で説明した構成の他に、ユーザに情報を報知する報知装置7を有する。報知装置7は、ディスプレイまたはスピーカである。本実施の形態2においては、報知装置7がディスプレイの場合で説明する。報知装置7は制御部6と接続される。制御部6は、方位検出部4によって検出された音源SSの方位の情報を報知装置に報知させる。
【0050】
また、本実施の形態2においては、マイクアレイ装置1aは、回転軸axsを中心に回転できる構成である。回転軸axsは、例えば、
図2に示したZ軸に平行な軸である。
【0051】
次に、本実施の形態2の指向性制御装置10aの動作を説明する。
図10は、実施の形態2に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。なお、
図10に示すステップS11~S13は、
図8を参照して説明したステップS1~S3の処理と同様になるため、その詳細な説明を省略する。
【0052】
ステップS13において、実施の形態1と同様に、制御部6は、方位検出部4によって検出された音源SSの方位にBF処理を行うようにBF部3を制御する。ステップS14において、制御部6は、音源SSの方位の情報を報知装置7に報知させる。本実施の形態2では、報知装置7は、音源SSの方位の情報を表示する。
【0053】
そのため、ユーザは、報知装置7が表示する情報を参照し、マイクアレイ装置1aの受波感度が音源SSの方位で最大になるように、回転軸axsを中心にマイクアレイ装置1aを回転させることができる。BF処理を行わない状態で、マイクアレイ装置1aの物理的な構造によって、受波感度が最大になる方向を受波方向と定義する。例えば、
図2に示したY軸方向がマイクアレイ装置1aの受波方向である場合を考える。この場合、ユーザはマイクアレイ装置1aの受波方向が音源SSの方位に向くように、回転軸axsを中心にマイクアレイ装置1aを回転させればよい。
【0054】
本実施の形態2の効果を説明する。本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様な効果が得られる。また、本実施の形態2によれば、実施の形態1で説明したBFスキャン処理によって推定された音源SSの方位の情報が報知装置7によってユーザに報知される。そのため、マイクアレイ装置1aの受波方向が音源SSの方位に向くようにマイクアレイ装置1aの向きを変えることをユーザに促すことができる。
【0055】
ユーザが、マイクアレイ装置1aの受波方向が音源SSの方位に対して最大感度になるように調整すれば、BFスキャン処理による音源方位の推定に、マイクアレイ装置1aの受波方向の調整が組み合わされる。これにより、音源方位の推定精度が向上し、階層的に指向特性を向上させることができる。つまり、マイクアレイ装置1aの受波方向と音源SSの方位との角度のズレをゼロに近づけることで、指向性がさらに向上する。
【0056】
実施の形態3.
本実施の形態3は、実施の形態1で説明したBFスキャン処理によって推定された音源SSの方位に自動的にマイクアレイ装置1の受波方向が向くように制御するものである。本実施の形態3においては、実施の形態1で説明した構成と同一の構成に同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施の形態3の指向性制御装置の構成を説明する。
図11は、実施の形態3に係る指向性制御装置の一構成例を示すブロック図である。本実施の形態3の指向性制御装置10bは、実施の形態1で説明した構成の他に、方位調整部8を有する。方位調整部8は、制御部6の制御にしたがって、基準方向に対してマイクアレイ装置1bの受波方向を調整する。基準方向は、例えば、
図2に示したY軸方向である。
【0058】
図12は、
図11に示した方位調整部の一構成例を示す外観模式図である。方位調整部8は、マイクアレイ装置1bと接続される回転軸axsと、回転軸axsを介してマイクアレイ装置1bと接続されるステッピングモータ30と、マイクアレイ装置1bおよびステッピングモータ30を支持するベース部31とを有する。回転軸axsは、Z軸に平行な軸である。マイクアレイ装置1bは、回転軸axsを中心に回転できる構成である。なお、
図12は、マイクアレイ装置1bが円筒容器内に収納され、円筒容器の底面に回転軸axsが取り付けられている場合の構成を示しているが、回転軸axsが直接にマイクアレイ装置1bに取り付けられていてもよい。
【0059】
ステッピングモータ30は制御部6と接続される。ステッピングモータ30は図に示さないケーブルを介して電力が供給される。制御部6は、マイクアレイ装置1bの受波感度が方位検出部4によって検出された音源SSの方位で最大になるように方位調整部8を制御する。
【0060】
例えば、制御部6は、マイクアレイ装置1bの受波方向を音源SSの方位に近づける回転角の情報を含む制御信号をステッピングモータ30に送信する。ステッピングモータ30は、制御部6から受信する制御信号に含まれる回転角の情報に対応して回転軸axsを中心にマイクアレイ装置1bを回転させる。回転角は、例えば、方位角θ=0であるY軸方向を基準として、時計回りの角度の符号をプラスとし、反時計回りの角度の符号をマイナスとする角度である。本実施の形態3においても、実施の形態2と同様に、BF処理を行わない状態において、マイクアレイ装置1bの受波方向が
図12に示したY軸方向の場合に受波感度が最大になるとする。
【0061】
次に、本実施の形態3の指向性制御装置10bの動作を説明する。
図13は、実施の形態3に係る指向性制御装置が実行する指向性制御方法の手順の一例を示すフロー図である。なお、
図13に示すステップS21~S23は、
図8を参照して説明したステップS1~S3の処理と同様になるため、その詳細な説明を省略する。
【0062】
ステップS23において、実施の形態1と同様に、制御部6は、方位検出部4によって検出された音源SSの方位にBF処理を行うようにBF部3を制御する。ステップS24において、制御部6は、音源SSの方位でマイクアレイ装置1bの受波感度が最大になるように方位調整部8を制御する。これにより、ユーザがマイクアレイ装置1bの受波方向の向きを変えなくても、マイクアレイ装置1bの受波感度が音源SSの方位で最大になるように、回転軸axsを中心にマイクアレイ装置1bを回転させることができる。
【0063】
本実施の形態3の効果を説明する。本実施の形態3によれば、実施の形態1と同様な効果が得られる。また、本実施の形態3によれば、ユーザがマイクアレイ装置1bの受波方向の向きを変えなくても、マイクアレイ装置1bの受波感度が音源SSの方位で最大になるように、マイクアレイ装置1bの受波方向の向きを自動的に調整することができる。これにより、音源方位の推定精度が向上し、階層的に指向特性を向上させることができる。つまり、マイクアレイ装置1bの受波方向と音源SSの方位との角度のズレを自動的にゼロに近づけることで、指向性がさらに向上する。
【0064】
なお、本実施の形態3においては、実施の形態1をベースに説明したが、本実施の形態3を実施の形態2と組み合わせてもよい。また、実施の形態3においては、
図12を参照して、マイクアレイ装置1bのBF処理の方位が水平面に平行な方位の場合で説明したが、マイクアレイ装置1bのBF処理の方位は水平面に平行な方位に限らない。制御部6がマイクアレイ装置1bを制御して、BF処理の方位を、方位角θに限らず、俯仰方位も調整できるようにしてもよい。さらに、
図12はマイクアレイ装置1bが1次元アレイ構成の場合を示しているが、マイクアレイ装置1bは2次元アレイ構成または3次元アレイ構成であってもよい。この場合においても、制御部6がマイクアレイ装置1bを制御して、BF処理の方位を方位角θおよび俯仰方位に調整できるようにしてもよい。実施の形態2で説明したマイクアレイ装置1aについても、マイクアレイ装置1bと同様に、BF処理の方位をユーザが方位角θおよび俯仰方位に自由に調整できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1、1a、1b マイクアレイ装置
2 マイクアレイI/F部
3 ビームフォーミング部
4 方位検出部
5 信号処理部
6 制御部
7 報知装置
8 方位調整部
10、10a、10b 指向性制御装置
11-1~11-n マイクロホン
13 感度記憶部
14 方位決定部
15 ビーム方位変更部
16 タイマー
21 信号選択部
22 増幅部
30 ステッピングモータ
31 ベース部
axs 回転軸
SS 音源