(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119118
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】熱曲げ加工用多層体、および、保護フィルム付偏光シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240827BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240827BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240827BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/36 102
G02B5/30
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025782
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山口 円
(72)【発明者】
【氏名】松野 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 祐香
【テーマコード(参考)】
2H006
2H149
4F100
【Fターム(参考)】
2H006BE00
2H149AA23
2H149AB26
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA04Z
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2H149FD33
4F100AK01A
4F100AK03B
4F100AK04B
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4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】 偏光シート等の曲げ加工が行われるシートの製造に適切な熱曲げ加工用多層体、および、熱曲げ加工用多層体を用いた保護フィルム付偏光シートの提供。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下である、熱曲げ加工用多層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、
前記保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、
前記アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、
前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下である、
熱曲げ加工用多層体。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンを含む、請求項1に記載の熱曲げ加工用多層体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリエステルの少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の熱曲げ加工用多層体。
【請求項4】
前記熱曲げ加工用多層体を熱曲げしたとき、前記保護フィルム側が凸部となるように熱曲げする用途に用いる、請求項1または2に記載の熱曲げ加工用多層体。
【請求項5】
前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートの製造に用いられる、請求項1または2に記載の熱曲げ加工用多層体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、
前記保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、
前記アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、
前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下であり、
前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートの製造に用いられるものであり、前記偏光シートを、金型を用いて熱曲げ加工する際に、前記保護フィルムが偏光膜よりも金型に近い側に設けられるものである、熱曲げ加工用多層体。
【請求項7】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリエステルの少なくとも1種を含み、
前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートに用いられる、請求項1、2または6に記載の熱曲げ加工用多層体。
【請求項8】
請求項1、2または6に記載の熱曲げ加工用多層体を含む、保護フィルム付偏光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱曲げ加工用多層体、および、保護フィルム付偏光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化されている偏光シートには、典型的にはポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素または二色性有機染料を吸着もしくは含浸させた偏光膜が用いられている。この偏光膜は、通常、その片面あるいは両面にトリアセチルセルロースなどの透明樹脂を偏光膜の保護膜として用いて、取り扱いが容易で二次加工に適し、安価、軽量な偏光板とされている。
【0003】
ここで、耐衝撃性を要求される用途、例えば、サングラス用偏光レンズは、通常、二色性有機染料を用いた偏光フィルム層やこれとフォトクロミック層などの機能層を、芳香族ポリカーボネートフィルム等の熱可塑性樹脂フィルムを偏光膜基材として用いて、偏光シートとし、所望形状に打ち抜き加工し、これを、部分球面に熱曲げ加工し、適宜、表面処理などして製造される。
【0004】
上記生産工程やその後の生産メーカー、販売店等において、通常は、それぞれの工程が別々に行われ、その間、保管、保存、移送、輸送、流通等される。また、同一場所の生産においても、生産スケジュール、その他の諸々の事情により、一時保管や保存が行われる。
【0005】
そのため、上記偏光シートは、流通、加工などの取り扱いの際に、その表面をキズ、汚れや異物から保護するための保護フィルムが貼り合わされている。このような保護フィルムは、加工時には剥がれず、加工後に容易に、かつ、偏光シートに影響を与えずに綺麗に剥がれることが求められる。
このような保護フィルムとして、特に、ポリカーボネートのガラス転移温度近辺の高温環境下での熱曲げ加工に耐える保護フィルムが検討されている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネート板またはポリカーボネート板を外層に持つ積層体を、加熱下にて加圧および/または減圧しながら予め所望の形状にかたどられた型に密着させて賦形させる熱曲げ加工を施す際に前記ポリカーボネート板に装着される保護フィルムであって、その構成が少なくとも型に接する側に配置された第一フィルム層とポリカーボネート板に接する側に配置された第二フィルム層からなり、前記第一フィルム層の実質的な融点が150℃以上のポリオレフィン系フィルム層であり、前記第二フィルム層の実質的な融点が125~145℃のポリオレフィン系フィルム層であることを特徴とする保護フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、当時の技術としては極めて優れたものではあった。しかしながら、近年の技術革新に共に、さらに各種性能に優れた技術が求められる。特に、特許文献1の技術では、多層シートから保護フィルムを剥がしにくかったり、多層シート側面に残渣が生じたり、熱曲げ加工後に保護フィルムが剥がれなかったりする。
本発明は、かかる状況のもと、偏光シート等の曲げ加工が行われるシートの製造に適切な熱曲げ加工用多層体、および、熱曲げ加工用多層体を用いた保護フィルム付偏光シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、偏光シートの保護フィルムとして、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有するフィルムを用い、かつ、その熱曲げ加工後の剥離強度を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、前記保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、前記アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下である、熱曲げ加工用多層体。
<2>前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンを含む、<1>に記載の熱曲げ加工用多層体。
<3>前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリエステルの少なくとも1種を含む、<1>または<2>に記載の熱曲げ加工用多層体。
<4>前記熱曲げ加工用多層体を熱曲げしたとき、前記保護フィルム側が凸部となるように熱曲げする用途に用いる、<1>~<3>のいずれか1つに記載の熱曲げ加工用多層体。
<5>前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートの製造に用いられる、<1>~<4>のいずれか1つに記載の熱曲げ加工用多層体。
<6>熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、前記保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、前記アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下であり、前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートの製造に用いられるものであり、前記偏光シートを、金型を用いて熱曲げ加工する際に、前記保護フィルムが偏光膜よりも金型に近い側に設けられるものである、熱曲げ加工用多層体。
<7>前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンを含み、前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリエステルの少なくとも1種を含み、前記熱曲げ加工用多層体が偏光シートに用いられる、<6>に記載の熱曲げ加工用多層体。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の熱曲げ加工用多層体を含む、保護フィルム付偏光シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、偏光シート等の曲げ加工が行われるシートの製造に適切な熱曲げ加工用多層体、および、熱曲げ加工用多層体を用いた保護フィルム付偏光シートを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の熱曲げ加工用多層体の一例の概略図である。
【
図2】本実施形態の熱曲げ加工用多層体を用いて偏光シートを製造する工程を示す一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの双方、または、いずれかを表す。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、東ソー社製HLC-8320GPC EcoSECを使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてShodex KF-G,KF-805L,KF-800Dを使用し、カラム温度40℃で流量1.2mL/minでGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定し、RI検出器、検出波長254nmにて検出したポリスチレン換算値である。
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書における多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。ただし、熱曲げ加工後はこの限りではない。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2023年1月1日時点における規格に基づくものとする。
図1および
図2は模式図であり、縮尺度などは実際と整合していないこともある。
【0013】
本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、アクリル系粘着層が熱可塑性樹脂を含む層に接しており、熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下であることを特徴とする。このような構成とすることにより、保護フィルム付偏光シート等の曲げ加工が行われるシートの製造に適切な熱曲げ加工用多層体が得られる。
より具体的には、本実施形態の熱曲げ用多層体と偏光膜を有する保護フィルム付偏光シートは、熱曲げ加工前後において、保護フィルムとなる部分と偏光シートとなる部分が程よく密着している。特に、熱曲げ加工した後にも保護フィルムが剥がれず、さらに、熱曲げ加工用多層体と偏光膜を積層した多層シートに対して、熱曲げ加工を施し、保護シートを剥がしたときに、綺麗にはがすことができる。さらに、多層シートの側面に残渣も認められないものとすることができる。
【0014】
<層構成>
最初に、本実施形態の熱曲げ加工用多層体の層構成について説明する。
図1は、本実施形態の熱曲げ加工用多層体の一例の概略図を示したものであって、1は熱曲げ加工用多層体を、2は熱可塑性樹脂を含む層(以下、「熱可塑性樹脂層」ということがある)、3はアクリル系粘着層を、4は融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層(以下、「ポリオレフィン層」ということがある)、5は保護フィルムである。ここで、保護フィルム5は、アクリル系粘着層3とポリオレフィン層4を含み、熱曲げ加工後、所望のタイミングで、熱可塑性樹脂層2から剥がして使用されるものである。すなわち、アクリル系粘着層3と熱可塑性樹脂層2との間は、熱曲げ加工前後において、密着性を有しつつ、かつ、所望の際に綺麗に剥離できる剥離性を備えていることが求められる。また、保護フィルム5は、成形体に貼り合わされた状態で成形体を保護している。成形体は、熱可塑性樹脂層を含むものであり、偏光シートが一例として挙げられる。また、本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、熱曲げしたとき、保護フィルム側が凸部となるように熱曲げする用途に用いることが好ましい。偏光シートおよび熱曲げ加工の詳細は後述する。
【0015】
熱可塑性樹脂層2、アクリル系粘着層3、ポリオレフィン層4は、それぞれ、1層のみであってもよいし、2層以上であってもよいが、通常は、それぞれ1層(単層)である。
また、上述の通り、保護フィルム5は、熱可塑性樹脂層2の表面に設けられており、かつ、保護フィルム5のアクリル系粘着層3が熱可塑性樹脂層2に接している。アクリル系粘着層3およびポリオレフィン層4は、通常接しているが、本発明の効果を逸脱しない範囲で他の層(中間層)を有していてもよい。また、保護フィルム5の熱可塑性樹脂層2と反対側の背面層(ポリオレフィン層4)の上には、本発明の効果を逸脱しない範囲で他の層を有していてもよい。
【0016】
本実施形態においては、熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下である。このような構成とすることにより、熱曲げ加工後の所望の時期に、保護フィルム5を成形体から適切に剥離することができる。このような密着性は、アクリル系粘着層3に含まれるアクリル系粘着剤の種類や組成等によって調整することができる。アクリル系粘着層の詳細は後述する。
特に、本実施形態においては、前記平均剥離強度は、後述する実施例の記載に従って測定された値とする。
【0017】
前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度は、0.45N/10mm以下であることが好ましく、0.40N/10mm以下であることがより好ましく、0.35N/10mm以下であることがさらに好ましく、0.28N/10mm以下であることが一層好ましく、0.25N/10mm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ加工後に保護フィルムを剥離しやすくなる傾向にある。前記熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度は、また、0.01N/10mm以上であることが好ましく、0.03N/10mm以上であることがより好ましく、0.05N/10mm以上であることがさらに好ましく、0.07N/10mm以上であることが一層好ましく、0.1N/10mm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ加工前の時点で不必要に前記熱可塑性樹脂から剥がれにくくできる傾向にある。
【0018】
また、熱曲げ加工用多層体の加熱をしていない状態での、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度(初期密着力)は、0.40N/10mm以下であることが好ましく、0.35N/10mm以下であることがより好ましく、0.25N/10mm以下であることがさらに好ましく、0.17N/10mm以下であることが一層好ましく、0.15N/10mm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ加工後に保護フィルムを剥離しやすくなる傾向にある。前記熱曲げ加工用多層体の加熱をしていない状態での、前記保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度は、また、0.02N/10mm以上であることが好ましく、0.04N/10mm以上であることがより好ましく、0.06N/10mm以上であることがさらに好ましく、0.08N/10mm以上であることが一層好ましく、0.1N/10mm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ加工前の時点で、不必要に前記熱可塑性樹脂から剥がれにくくなる傾向にある。
【0019】
本実施形態の熱曲げ加工用多層体の総厚みは、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることがさらに好ましく、300μm以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、偏光シート等の成形体の剛性が担保される傾向にある。また、本実施形態の熱曲げ加工用多層体の総厚みは、3000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることがさらに好ましく、800μm以下であることが一層好ましく、600μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱成形性がより向上する傾向にある。
【0020】
また、前記保護フィルムの総厚みは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが一層好ましく、40μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時の吸盤痕の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記保護フィルムの総厚みは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、125μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが一層好ましく、80μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱成形時の成形品への追従性がより向上する傾向にある。
【0021】
<熱可塑性樹脂を含む層(熱可塑性樹脂層)>
本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、熱可塑性樹脂を含む層(熱可塑性樹脂層)を含む。熱可塑性樹脂層は、熱曲げ加工された後の成形体(例えば、偏光シート)に残るものである。従って、得られる成形体の用途に応じて、熱可塑性樹脂層の種類を適宜設定することができる。特に、熱可塑性樹脂層は表面が鏡面層であることが好ましい。
熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂は、上述のとおり、用途に応じて適宜設定することができるが、ポリカーボネート、ポリアミド、および、ポリエステルの少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリカーボネートを含むことがより好ましい。
【0022】
本実施形態においては、ポリカーボネートはビスフェノール型ポリカーボネートを含むことが好ましい。ビスフェノール型ポリカーボネートとは、ポリカーボネートを構成する構成単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、より好ましくは95モル%以上がビスフェノール(好ましくはビスフェノールA)および/またはその誘導体由来のカーボネート構成単位であることをいう。
ビスフェノール型ポリカーボネートは、ビスフェノールA型ポリカーボネートであることが好ましい。
【0023】
ポリカーボネートの分子量は、特に定めるものではないが、重量平均分子量で、20,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましい。また、前記重量平均分子量は、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下である。前記重量平均分子量を下限値以上とすることにより、得られる熱曲げ加工用多層体の強度を高くすることができる。また、前記重量平均分子量を上記上限値以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態においては、重量平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネートを混合して用いてもよく、この場合には、混合物の粘度平均分子量とする。
【0024】
本実施形態で用いるポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)は、160℃以下であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましく、154℃以下であることがさらに好ましく、153℃以下であることが一層好ましく、152℃以下であることがより一層好ましく、151℃以下であることがさらに一層好ましい。また、本実施形態で用いるポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)は、例えば、140℃以上であり、さらには、143℃以上、145℃以上、147℃以上、148℃以上であってもよい。
ガラス転移温度は、特開2022-080270号公報の段落0056の記載に従って測定される。
本実施形態における熱可塑性樹脂層が、2種以上のポリカーボネートを含む場合、ポリカーボネートのガラス転移温度は、各ポリカーボネートのガラス転移温度に質量分率をかけた値の和とする。
【0025】
その他、ポリカーボネートの詳細は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0026】
ポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドおよび半芳香族ポリアミドならびにこれらの共重合体が例示され、脂環式ポリアミドが好ましい。ポリアミドの例として、GLILAMID TR FE5577、XE 3805(EMS製)、NOVAMID X21(DSM)、東洋紡ナイロンT-714E(東洋紡製)、G850(アルケマ製)、G850LV(アルケマ製)などが例示される。
【0027】
ポリエステルとしては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸で代表されるジカルボン酸成分と1,4-シクロヘキサンジメタノールで代表されるジオール成分と、必要に応じて他の少量の成分とを、エステル化またはエステル交換反応させ、次いで、適宜、重合触媒を添加し徐々に反応槽内を減圧にし、重縮合反応させる公知方法により得られるものが挙げられる。
【0028】
熱可塑性樹脂層において、熱可塑性樹脂は、85質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましく、97質量%以上を占めることが一層好ましく、99質量%以上を占めることがより一層好ましい。
また、熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂以外の成分を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂以外の成分としては、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂層が熱可塑性樹脂以外の成分を含有する場合、その含有量は、合計で熱可塑性樹脂層の0.001~3質量%であることが好ましい。
【0029】
熱可塑性樹脂層の厚みは、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、偏光シート等の成形体の剛性が担保される傾向にある。また、熱可塑性樹脂層の厚みは、3000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることがさらに好ましく、800μm以下であることが一層好ましく、600μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ加工性が向上する傾向にある。
【0030】
<融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層(ポリオレフィン層)>
本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層(ポリオレフィン層)を含む。融点が150℃以上のポリオレフィンを用いることにより、保護フィルムへの吸盤痕の抑制効果がより向上する傾向にある。また、ポリオレフィンを用いることにより、熱成形時の追従性がより向上する傾向にある。
本実施形態で用いるポリオレフィンの融点は、152℃以上であることが好ましく、154℃以上であることがより好ましく、157℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることが一層好ましく、163℃以上であることがより一層好ましい。ポリオレフィンの融点は、後述する実施例の記載に従って測定される。また、本実施形態で用いるポリオレフィンの融点は、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、175℃以下であることがさらに好ましく、170℃以下であることが一層好ましく、168℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ加工時の成形品への追従性がより向上する傾向にある。
また、本実施形態で用いるポリオレフィンの融点は、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高いことが好ましく、熱可塑性樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも5℃以上(好ましくは50℃以下)高いことがより好ましい。
また、本実施形態で用いるポリオレフィンの融点は、熱曲げ温度より5℃以上(好ましくは10℃以上、また、好ましくは50℃以下)高いことが好ましい。
本実施形態におけるポリオレフィン層が、2種以上のポリオレフィンを含む場合、2種以上のポリオレフィンが混在している場合、最も高い融点をポリオレフィンの融点とする
【0031】
ポリオレフィン層に含まれるポリオレフィンは、その種類について特に定めるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレン/プロピレン)、ポリ(4-メチル/1-ペンテン)、および、ポリ1-ブテンの少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、ポリ(エチレン/プロピレン)の少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリプロピレンを含むことがさらに好ましい。
なお、ポリエチレン、ポリプロピレン等には、その一部(例えば、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下)が他のオレフィンまたは他のモノマーで変性されているものも含む。
【0032】
ポリオレフィン層におけるポリオレフィンの含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。
また、ポリオレフィン層は、ポリオレフィン以外の成分を含んでいてもよい。ポリオレフィン以外の成分としては、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。ポリオレフィン層がポリオレフィン以外の成分を含有する場合、その含有量は、合計でポリオレフィン層の0.001~3質量%であることが好ましい。
【0033】
ポリオレフィン層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが一層好ましく、30μm以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、保護フィルムへの吸盤痕の抑制効果がより傾向にある。また、ポリオレフィン層の厚みは、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることがさらに好ましく、80μm以下であることが一層好ましく、75μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ加工時の成形品への追従性がより向上する傾向にある。
【0034】
<アクリル系粘着層>
本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、アクリル系粘着層を含む。アクリル系粘着層はアクリル系粘着剤を含む層である。アクリル系粘着剤は、熱可塑性樹脂層と程よく密着し、また、剥離性に優れる。
【0035】
アクリル系粘着剤の重量平均分子量は、100,000以上であることが好ましく、150,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることがさらに好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましい。
【0036】
アクリル系粘着層に含まれるアクリル系粘着剤の一例は、主成分としてのCH2=CH(COOR)(Rは置換基である)、ならびに、必要に応じ配合される、官能基含有モノマー、および、他のモノマーの重合体(アクリル樹脂)である。前記重合体の合成に際しては、重合開始剤や溶剤も用いられる。
前記CH2=CH(COOR)におけるRとしては、炭素数1~15の直鎖または分岐のアルキル基が好ましく、炭素数1~10の直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、エチル基、ブチル基、および、2-エチルヘキシル基がさらに好ましい。
【0037】
前記官能基含有モノマーが有する官能基としては、-COOH、-OH、アミノ基、グリシジル基が例示され、-COOH、-OH、-NH2、モノアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は1~5である)、ジアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数はそれぞれ1~5である)、グリシジル基が好ましく、-COOH、-OH、-NH2、ジメチルアミノ基、グリシジル基がより好ましい。官能基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イコタン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリレートが例示される。官能基含有モノマーの分子量は70以上であることが好ましく、また、200以下であることが好ましい。
【0038】
前記他のモノマーとしては、主に、凝集力を補うために用いられるモノマーであり、ビニル化合物が挙げられる。具体的には、酢酸ビニル、アクリルニトリル、アクリルアミド、スチレン、メチル(メタ)アクリレートが例示される。他のモノマーの分子量は、70以上であることが好ましく、また、200以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましい。
【0039】
上記アクリル系粘着剤において、原料である、CH2=CH(COOR)(Rは置換基である)と、必要に応じ配合される、官能基含有モノマーおよび他のモノマーの質量比率としては、100:0~90:0~90であることが好ましく、100:10~70:0~50であることがより好ましい。
【0040】
アクリル系粘着層のガラス転移温度は、-80℃以上であることが好ましく、また、0℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。このように室温において、ガラス転移温度よりも高いアクリル系粘着層を用いることにより、アクリル系粘着層が柔らかくなり、粘着性に優れた層となる。ガラス転移温度を調整する方法としては、分子量を制御すること、上記アクリル系粘着剤の原料モノマーの種類を調整すること、アクリル系粘着剤に架橋剤を含めることなどが挙げられる。架橋剤を用いることにより、ガラス転移温度が高くなり、粘着性を低くすることができ、熱可塑性樹脂層との剥離性を向上させることができる。
【0041】
アクリル系粘着層におけるアクリル系粘着剤の含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。
また、アクリル系粘着層は、アクリル系粘着剤以外の成分を含んでいてもよい。アクリル系粘着剤以外の成分としては、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。アクリル系粘着層がアクリル系粘着剤以外の成分を含有する場合、その含有量は、合計でアクリル系粘着層の0.001~3質量%であることが好ましい。
【0042】
アクリル系粘着層の厚みは、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましく、2.0μm以上であることが一層好ましく、3.0μm以上であることがより一層好ましい。また、アクリル系粘着層の厚みは、10.0μm以下であることが好ましく、8.0μm以下であることがより好ましく、7.0μm以下であることがさらに好ましく、6.0μm以下であることが一層好ましく、5.0μm以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂への粘着剤の転写が抑制される傾向にある。
【0043】
<偏光シート>
本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、好ましくは偏光シートの製造、特に、保護フィルム付偏光シートの製造に用いられる。
本実施形態において、偏光シートとは、熱可塑性樹脂層、偏光膜、熱可塑性樹脂層の順に積層されたシートである。熱可塑性樹脂層は、偏光シートの偏光膜基材の役割を果たすものであり、通常は、接着剤を介して偏光膜に貼り合わされている。本実施形態においては、偏光シートの一方の熱可塑性樹脂層は、本実施形態の曲げ加工用多層体に含まれる熱可塑性樹脂層である。偏光シートの他方の熱可塑性樹脂層は、公知の偏光シートの偏光膜基材を用いることができ、本実施形態の熱曲げ加工用多層体の所で述べた熱可塑性樹脂層と同じものが好ましい。偏光膜は、公知のものを採用でき、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素または二色性有機染料を吸着もしくは含浸させたものが例示される。
熱可塑性樹脂層と偏光膜を貼り合わせる接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤等が挙げられる。中でも、ウレタン系接着剤が好ましい。
接着剤の厚みは、通常1μm以上であり、また、通常30μm以下である。
【0044】
また、本実施形態において、保護フィルム付偏光シートとは、本実施形態の熱曲げ加工用多層体を含むシートであり、偏光膜の少なくとも一方の表面に本実施形態の熱曲げ加工用多層体が設けられているシートであることが好ましい。さらに具体的には、本実施形態の熱曲げ加工用多層体、偏光膜、他の層(例えば、偏光膜基材と保護フィルムを含む多層体)の順に積層されたシートであることが好ましい。本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、通常、熱可塑性樹脂層が偏光膜と貼り合わされており、熱可塑性樹脂層が偏光膜基材の役割を果たしており、本実施形態の熱曲げ加工用多層体の保護フィルムが偏光シートの保護フィルムの役割を果たしている。偏光シートの使用時には、前記保護フィルムを剥がして用いる。偏光シートの他の層は、本実施形態の熱曲げ加工用多層体であってもよいし、公知の偏光膜基材や保護フィルムであってもよい。
【0045】
すなわち、本実施形態の熱曲げ加工用多層体は、熱可塑性樹脂を含む層と、熱可塑性樹脂を含む層の表面に設けられた保護フィルムとを有する熱曲げ加工用多層体であって、保護フィルムは、融点が150℃以上のポリオレフィンを含む層とアクリル系粘着層を有しており、アクリル系粘着層が前記熱可塑性樹脂を含む層に接しており、熱曲げ加工用多層体を140℃で15分加熱後に、保護フィルムを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度が、0.50N/10mm以下であり、熱曲げ加工用多層体が偏光シートの製造に用いられるものであり、偏光シートを、金型を用いて熱曲げ加工する際に、保護フィルムが偏光膜よりも金型に近い側に設けられるものであることが好ましい。
【0046】
図2は、本実施形態の熱曲げ加工用多層体を偏光シートの製造に用いる場合の一例を示す概略図であり、1は本実施形態の熱曲げ加工用多層体を、6は偏光膜を、7は他の層(例えば、偏光膜基材と保護フィルムを含む多層体)を、8は金型を示している。
図2では、熱曲げ加工用多層体1と偏光膜6と他の層7が分離して示されているが、通常は、これらを多層シートとした後、金型8に配置される。
本実施形態においては、本実施形態の熱曲げ加工用多層体1は、保護フィルム側が凸部(
図2の矢印の側)となるように、配置されることが好ましい。
また、保護フィルム付偏光シート(例えば、本実施形態の熱曲げ加工用多層体1/偏光膜6/他の層7)を、金型8を用いて熱曲げ加工する際に、本実施形態の熱曲げ加工用多層体1の保護フィルムが偏光膜6よりも金型8に近い側に設けられることが好ましい。
【0047】
より具体的には、金型(例えば、金属製雌型)8に本実施形態の熱曲げ加工用多層体1のポリオレフィン層4が接触するように、保護フィルム付偏光シート(例えば、
図2の符号1、6、7からなる多層シート)を配置し、減圧して、金型8に密着させ、吸着された打ち抜き片を得ることができる。保護フィルム付偏光シートの金型8への吸着および金型8からの取り出しは、雄型を用いて吸着させながら行うことが好ましい。なお、金型への吸着・取り出しに用いる雄型も金型と称することがあるが、本実施形態における金型とは、所望の熱曲げ形状の鋳型を有する金型である。
【0048】
本実施形態において、偏光シートないし保護フィルム付偏光シートは、液晶表示装置に使用される偏光シート、偏光レンズ(サングラスレンズ、スキーゴーグル、ミリタリー用レンズ、保護メガネ、度付き眼鏡レンズ、カメラ用ファインダーレンズ)、様々な計器のカバー、自動車のガラス、電車のガラス、車載用表示パネルや電子機器筐体等の偏光シート、車載用インナーミラー、ヘルメットなどのシルバーミラーとして好ましく用いられる。
【実施例0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0050】
以下の実施例において、金型に接するように設けられる保護フィルムを保護フィルムaと称し、金型から遠い側に設けられる保護フィルムを保護フィルムbと称する。また、各保護フィルムの両面のうち、粘着性が高い側の層を粘着層と称し、反対側の層を背面層と称する。また、保護フィルムが粘着層と背面層の間に存在する層は、中間層と称する。
【0051】
<金型に接する側の保護フィルムa>
(a1)大王加工紙工業社製、FM-503、2層構成(背面層:ポリプロピレン(PP)、粘着層:アクリル)、総厚み:43μm(背面層:40μm、粘着層:3μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.12N/10mm、背面層融点:164℃
(a2)三井化学東セロ社製、T485J、2層構成(背面層:ポリプロピレン、粘着層:アクリル)、総厚み:45μm(背面層:40μm、粘着層:5μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.13N/10mm、背面層融点:165℃
(a3)大王加工紙工業社製、FM-313D、2層構成(背面層:ポリプロピレン、粘着層:アクリル)、総厚み:73μm(背面層:70μm、粘着層:3μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.18N/10mm、背面層融点:164℃
(a4)大王加工紙工業社製、FM-315D、2層構成(背面層:ポリプロピレン、粘着層:アクリル)、総厚み:75μm(背面層:70μm、粘着層:5μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.20N/10mm、背面層融点:164℃
(a5)三井化学東セロ社製、T465J、2層構成(背面層:ポリプロピレン、粘着層:アクリル)、総厚み:45μm(背面層:40μm、粘着層:5μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.43N/10mm、背面層融点:165℃
(a6)日本マタイ社製、MX-318N、3層構成(背面層:ポリプロピレン、中間層:ポリオレフィン、粘着層:ポリエチレン)、総厚み:35μm(背面層:4μm、中間層:25μm、粘着層:6μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.27N/10mm、背面層融点:161℃
(a7)日本マタイ社製、MX308G50、3層構成(背面層:ポリプロピレン、中間層:ポリオレフィン、粘着層:ポリエチレン)、総厚み:69μm(背面層:11μm、中間層:46μm、粘着層:12μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.11N/10mm、背面層融点:168℃
(a8)パナック社製、CT50、2層構成(背面層:ポリエチレンテレフタレート(PET)、粘着層:アクリル)、総厚み:51μm(背面層:50μm、粘着層:1μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.08N/10mm、背面層融点:255℃
(a9)大王加工紙工業社製、FM-115、2層構成(背面層:ポリエチレン、粘着層:アクリル)、総厚み:65μm(背面層:60μm、粘着層:5μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:0.30N/10mm、背面層融点:109℃
【0052】
<金型から遠い側の保護フィルムb>
MX318N:(日本マタイ社製保護フィルム)、保護フィルム 3層構成(背面層:ポリプロピレン、中間層:ポリプロピレン、粘着層:ポリエチレン)、総厚み:35μm(背面層:4μm、中間層:25μm、粘着層:6μm)、ポリカーボネートへの初期密着力:N/10mm、背面層融点:161℃
【0053】
<融点の測定>
各保護フィルムaの背面層の融点(Tm)は、下記の示差走査熱量測定(DSC測定)条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時の温度を測定し、吸熱ピークのピークトップを融点とした。単位は℃で示した。
測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:200℃(ポリエチレンテレフタレート系保護フィルムのみ300℃)、降温速度:10℃/分とした。単位は、℃で示した。
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0054】
<偏光膜の作製>
ポリビニルアルコールフィルム(クラレ株式会社製)を35℃の水中で膨潤させ、その後、二色性色素カヤラスブルーG(C.I. Blue 78)、スミライトレッド4B(C.I. Red 81)、クリソフェニン(C.I. Yellow 12)および10g/Lの無水硫酸ナトリウムを含む35℃の水溶液中で染色し、酢酸ニッケル2.5g/L、ホウ酸5g/Lを含む35℃の水溶液中に浸漬して最終的に4倍の倍率になるように延伸した。そのフィルムを緊張状態が保持された状態で、110℃で3分間加熱処理し、厚さ30μmの偏光膜を得た。得られた偏光膜は低湿度保管庫にて次工程までの間保管した。
【0055】
<偏光シートの作製>
偏光シートの偏光膜基材として、厚さ300μmのポリカーボネートシート(三菱ガス化学株式会社製、ポリカーボネートはE-2000、リタデーション(Re)値:4,800)の片面に熱硬化性ポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製、品番:BHS―6020A)を塗布して、上記で取得した偏光膜を、延伸軸をそろえて積層し、偏光膜の残りの片面についても同様にして、上記のポリカーボネートシートを、延伸軸をそろえて積層した。積層後、70℃の恒温槽に放置して接着剤を硬化させ、偏光シートを得た。接着剤の厚みは10μmとした。
【0056】
実施例1~4、比較例1~5
<多層シートの作製>
次に、保護フィルムaについて、ラミネーター(MP-630A:エム・シー・ケー社製)を用いて、背面層が最表面になるように偏光シートの片面に貼り付けた。同様にラミネーターを用いて、偏光シートの反対面に保護フィルムb(MX318N、日本マタイ社製保護フィルム)をさせ、多層シートを得た。
ラミネート条件として、上下のラミネーターロールを60℃、ラミネーターロールの回転速度を1.5m/min、ラミネーターロールのニップ圧を0.5MPaとした。
【0057】
<初期密着力(初期平均剥離速度)の測定>
上記で得られた多層シートを横50mm×縦100mmの大きさにカットし、保護フィルムaが上面、保護フィルムbが下面になるように乾燥機に入れ、70℃、24時間乾燥した。次に、多層シート中の保護フィルムaについて、横幅50mmにおける中央10mm幅だけを残し、両側面20mm幅の部分を剥がし、保護フィルムaが横10mm、縦100mmの大きさで偏光シートに張っている状態とした。次に、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製)を用いて、多層シートから保護フィルムaを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度を測定した。平均剥離速度は50mmまで剥がした際の20~40mmの範囲の剥離強度の平均値とした。単位は、N/10mmで示した。
【0058】
<高温密着力(140℃で15分加熱した後の平均剥離速度)の測定>
上記で得られた多層シートについて、保護フィルムaが上面、保護フィルムbが下面になるように乾燥機に入れ、70℃、24時間乾燥した。次に、多層シートの保護フィルムaについて、横幅50mmにおける中央10mm幅だけを残し、両側面20mm幅の部分を剥がし、保護フィルムaが横10mm、縦100mmの大きさで偏光シートに張っている状態とした。次に、保護フィルムaが上面、保護フィルムbが下面になるように乾燥機に入れ、140℃、15分加熱した。次に、保護フィルムaについて、テンシロン万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製)を用いて、保護フィルムaを移動速度300mm/分で90°剥離する際の平均剥離強度を測定した。平均剥離速度は50mmまで剥がした際の20~40mmの範囲の剥離強度の平均値とした。単位は、N/10mmで示した。
【0059】
<多層シートの熱曲げ>
多層シートを二眼レンズ用の形状に切り出した。次いで多層シートを熱曲げ加工し、熱曲げ多層シートを得た。熱曲げは予熱器にて、保護フィルムaが上面、保護フィルムbが下面になるように多層シートを予備加熱したあと、吸盤アームにて、保護フィルムb側に吸盤を吸着させ、所定の温度、所定の局率の部分球面を有する金型(金属製雌型)に、多層シート中の保護フィルムaが金型(金属製雌型)に接触するように乗せ、シリコーンゴム製雄型にて押し付けると同時に減圧を開始して金型(金属製雌型)に吸着させ、シリコーンゴム製雄型を引き上げ、金型(金属製雌型)に吸着された打ち抜き片を所定の時間、所定の温度の熱風雰囲気中で保持した後、吸盤アームにて保護フィルムb側に吸盤を吸着させ、金型(金属製雌型)から取り出した。上記において、多層シートの予備加熱は138℃雰囲気温度とし、金型(金属製雌型)は9R相当(半径約58.3mm)の部分球面で表面温度138℃、シリコーンゴム製雄型による押し付け時間は2秒、金型(金属製雌型)への吸着は、吹き込み熱風温度が140℃である雰囲気下で9分間とした。
【0060】
<保護フィルムaの剥がしやすさ>
上記で得られた熱曲げ後の多層シートについて、保護フィルムaを手で剥がす際の剥がしやすさを確認した。保護フィルムaが剥がしづらい場合、後工程で保護フィルムaを剥がす際に、作業の支障となる。評価は、10人の専門家が行い、判断した。
A:10人全員が剥がしやすいと感じた。
B:10人中、7~9人が剥がしやすいと感じた。
C:10人中、5~6人が剥がしやすいと感じた。
D:10人中、剥がしやすいと感じた人が4人以下だった。
【0061】
<多層シート側面の固着>
上記で得られた熱曲げ後の多層シートについて、保護フィルムaを剥がした際に保護フィルムaが多層シートの側面に引っ掛かり(固着)があるかを確認した。固着はポリオレフィンの融点が低いものを使用すると、熱曲げ後の多層シートが収縮した隙間に保護フィルムaが折れて固着し、保護フィルムaを剥がした際に固着部分に引っ掛かり保護フィルムaが千切れることがある。評価は、10人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:保護フィルムを一度で剥がすことができた。
B:保護フィルムが一部固着しており、固着部分から保護フィルムが千切れた。
【0062】
<多層シート側面の残渣>
上記で得られた熱曲げ後の多層シートについて、多層シート側面を爪で引っ掻いた際に残渣(糸くず)が生じるかどうかを確認した。前記残渣は、偏光膜基材やアクリル系粘着層に融点の低いポリオレフィンが使用されている場合、熱曲げ時に残渣として、多層シート側面に残ることがある。残渣が多層シート側面に残っている場合、その後のインサート射出時の白スジ不良の原因となる。評価は、10人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:多層シート側面に残渣は見られなかった。
B:多層シート側面に残渣が見られた。
【0063】
<保護フィルムの剥がれ>
上記で得られた熱曲げ後の多層シートについて、目視で保護フィルムaが剥がれていないか、確認した。評価は、10人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:保護フィルムaが剥がれていなかった。
B:保護フィルムaが偏光シートの曲げに追従できず、一部剥がれていた。
【0064】
<総合評価>
上記評価結果に基づき、熱曲げ加工用多層体の偏光シート製造のための性能を総合的に評価した。評価は、熱曲げ加工用多層体の製造メーカー、偏光シートの製造メーカー、偏光シートを用いてさらに加工するメーカーの専門家各10人が行い、多数決で判断した。評価は、優れている方から順にS、A、B、C、Dとした。A以上が実用レベルである。
【0065】
【0066】
【0067】
上記結果から明らかなとおり、本発明の熱曲げ加工用多層体は各種性能に優れていた。特に、保護フィルム付偏光シートとして、貼り合わせ、適切に熱曲げ加工でき、使用時には剥がして用いることが可能であることが分かった(実施例1~4)。
これに対し、高温密着力が高い場合(比較例1)、保護フィルムaが適切に剥がれなかった。
粘着層として、ポリエチレン系粘着剤を用いた場合(比較例2、3)、保護フィルムaの剥がしやすさは向上したものの、保護フィルムaを剥がしたときに多層シートの側面に固着し、また、残渣も認められた。
保護フィルムaがポリオレフィン層を含まず、ポリエステル層を含む場合(比較例4)、熱曲げ時に保護フィルムaが曲げに追従できず、一部が剥がれてしまった。
また、保護フィルムaのポリオレフィン層の融点が低い場合(比較例5)、保護フィルムaが多層シートの側面に固着し、また、残渣も認められた。