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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119122
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/32 20060101AFI20240827BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20240827BHJP
   B41C 1/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G03F7/32
G03F7/00 502
B41C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025791
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊島 靖一朗
(72)【発明者】
【氏名】油 努
【テーマコード(参考)】
2H084
2H196
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084BB04
2H196AA03
2H196GA10
2H196GA21
2H196GA27
(57)【要約】
【課題】少ない現像液量でも泡付着を抑制することのできる印刷版の製造方法を提供すること。
【解決手段】支持体上に部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する感光性樹脂印刷版原版に、紫外線を照射して感光性樹脂層の露光部を光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を水性現像液により除去する現像工程を有する印刷版の製造方法であって、水性現像液が鉱油およびシリカ粒子を含有する印刷版の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する感光性樹脂印刷版原版に、紫外線を照射して感光性樹脂層の露光部を光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を水性現像液により除去する現像工程を有する印刷版の製造方法であって、水性現像液が鉱油およびシリカ粒子を含有する印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記水性現像液が鉱油およびシリカ粒子を含む消泡剤を0.05~0.3重量%含有する請求項1に記載の印刷版の製造方法。
【請求項3】
前記現像工程において、プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版に水性現像液を滴下し、ブラシを用いて現像する請求項1または2に記載の印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記現像工程において、前記プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版を自動搬送する請求項3に記載の印刷版の製造方法。
【請求項5】
前記現像工程において、ブラシの押し込み量を0.3~1.5mmとする請求項3に記載の印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂印刷版原版にレリーフを形成する方法として、画像マスクや原画フィルムを介して感光性樹脂層に紫外線を照射して画像部を選択的に硬化させ、硬化させなかった部分を、水性現像液を用いて除去する方法が、一般的に用いられている。水性現像液により現像可能な感光性樹脂版印刷原版としては、少なくとも一部がケン化されたポリビニルアルコールなどのイオン性を有する官能基を含む樹脂(A)、光重合開始剤(B)、光重合性モノマー(C)、および樹脂(A)と対イオンを形成しうるイオン性官能基を有するフッ素含有化合物(D)を含む感光性樹脂組成物を用いてなる感光性樹脂版原版などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、水性現像液としては、例えば、(A)成分:HLBが10以下であるノニオン系界面活性剤、(B)成分:HLBが10超過である、少なくとも一つのオキシアルキレン単位を有する化合物、及び水を含む、感光性樹脂用水性現像液組成物などが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/88336号
【特許文献2】特開2021-43401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
部分ケン化ポリビニルアルコールは、水への溶解性が良好で、強靭なレリーフを形成することができることから、特許文献1に記載されるように、水性現像液により現像可能な感光性樹脂印刷版原版に好ましく用いられている。一方、部分ケン化ポリビニルアルコールは、水中に分散されると界面活性剤として作用して泡立ちやすい。近年、環境影響などの観点から、現像液量を少なくするため、感光性樹脂印刷版原版に水性現像液を滴下し、ブラシを用いて現像する現像方法が好ましく用いられているが、かかる現像方法により、従来公知の水性現像液を用いて、部分ケン化ポリビニルアルコールを用いた感光性樹脂印刷版原版を現像すると、印刷版に泡が付着しやすい傾向にあった。微細なレリーフの間に付着した泡は除去しにくく、泡の跡が印刷不具合となることから、泡付着を抑制することが求められている。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、少ない現像液量でも泡付着を抑制することのできる印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、主として以下の構成を有する。
(1)支持体上に部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する感光性樹脂版印刷原版に、紫外線を照射して感光性樹脂層の露光部を光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を水性現像液により除去する現像工程を有する印刷版の製造方法であって、水性現像液が鉱油およびシリカ粒子を含有する印刷版の製造方法。
(2)前記水性現像液が、鉱油およびシリカ粒子を含む消泡剤を0.05~0.3重量%含有する(1)に記載の印刷版の製造方法。
(3)前記現像工程において、プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版に水性現像液を滴下し、ブラシを用いて現像する(1)または(2)に記載の印刷版の製造方法。
(4)前記現像工程において、前記プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版を自動搬送する(3)に記載の印刷版の製造方法。
(5)前記現像工程において、ブラシの押し込み量を0.3~1.5mmとする(3)または(4)に記載の印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の印刷版の製造方法によれば、少ない現像液量でも泡付着を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
本発明の印刷物の製造方法は、支持体上に部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する感光性樹脂印刷版原版(以下、「印刷版原版」と略記する場合がある)に、紫外線を照射して感光性樹脂層の露光部を光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を水性現像液により除去する現像工程を有する。前述のとおり、部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する印刷版原版は、従来の水性現像液を滴下してブラシを用いて現像すると、泡付着しやすい課題があった。本発明においては、かかる泡付着しやすい印刷版原版を、鉱油およびシリカ粒子を含有する水性現像液を用いて現像することにより、少ない現像液量でも泡付着を抑制することができる。
【0011】
まず、本発明に用いられる印刷版原版について説明する。本発明に用いられる印刷版原版は、支持体上に、部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する。水性現像液により現像可能な印刷版原版として、部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する感光性樹脂層を有する市販の印刷版原版を用いてもよい。
【0012】
支持体としては、例えば、ポリエステルなどのプラスチックシートやスチレン-ブタジエンゴムなどの合成ゴムシート、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属板などが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレートのシートが好ましい。
【0013】
支持体の厚さは、取扱性および柔軟性の観点から0.10~0.35mmが好ましい。
【0014】
支持体は、易接着処理されていることが好ましく、感光性樹脂層との接着性を向上させることができる。易接着処理方法としては、例えば、サンドブラストなどの機械的処理、コロナ放電などの物理的処理、コーティングなどによる化学的処理などが挙げられる。これらの中でも、コーティングにより易接着層を設けることが好ましい。
【0015】
本発明における感光性樹脂層は、部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する。さらに、エチレン性二重結合を有する化合物および光重合開始剤を含有することが好ましく、必要に応じて、相溶助剤、重合禁止剤、染料、顔料、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、香料などを含有してもよい。
【0016】
親水性ポリマーである部分ケン化ポリビニルアルコールは、水への溶解性が良好で、被膜性にも優れ、強靭なレリーフを形成することができることから、水性現像可能な印刷版原版に好ましく用いられている。部分ケン化ポリビニルアルコールは、側鎖にエチレン性二重結合を有してもよいし、主鎖および/または側鎖に所望の官能基を有してもよい。
【0017】
部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、水性現像液に対する現像性を向上させる観点から、60モル%以上が好ましい。一方、部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、吸水性を抑え、印刷版の反りを抑制する観点から、90モル%以下が好ましい。部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は、赤外分光法により求めることができる。
【0018】
部分ケン化ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、耐刷性を向上させる観点から、10,000以上が好ましい。一方、部分ケン化ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、感光性樹脂層の加工性の観点から、200,000以下が好ましい。部分ケン化ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、GPC測定により求めることができる。
【0019】
エチレン性二重結合を有する化合物としては、例えば、国際公開第2017/038970号に記載される(メタ)アクリレートや、グリセロールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。かかる化合物の分子量は、2,000以下が好ましい。感光性樹脂層中におけるエチレン性二重結合を有する化合物の含有量は、部分ケン化ポリビニルアルコール100重量部に対して10~70重量部が好ましい。
【0020】
光重合開始剤としては、光吸収によって、自己分解や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく用いられる。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。感光性樹脂層中における光重合開始剤の含有量は、部分ケン化ポリビニルアルコール100質量部に対して0.1~20質量部が好ましい。
【0021】
相溶助剤として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールやこれらの誘導体などの多価アルコール類が挙げられる。感光性樹脂層中における相溶助剤の含有量は、30重量%以下が好ましい。
【0022】
重合禁止剤としては、例えば、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類、ヒドロキシアミン誘導体などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。感光性樹脂層中における重合禁止剤の含有量は、0.001~5重量%が好ましい。
【0023】
感光性樹脂層の厚さは、100μm以上が好ましく、印刷版のレリーフの高さを確保して、印刷時に支持体表面にインキが付着するいわゆる底付き現象を抑制することができる。一方、感光性樹脂層の厚さは、2.0mm以下が好ましく、印刷再現性を向上させることができる。
【0024】
印刷版原版は、必要に応じて、感光性樹脂層上にカバーフィルムや感赤外線層、粘着防止層などを有してもよい。
【0025】
次に、露光工程について説明する。露光工程において、印刷版原版に紫外線を照射し、感光性樹脂層の露光部を光硬化させる。光硬化部は印刷版においてレリーフとなる。例えば、印刷版原版が感赤外線層を有しない、いわゆるアナログ版である場合、感光性樹脂層上にカバーフィルムを有する場合はこれを剥離し、感光性樹脂層上にネガティブまたはポジティブの原画フィルムを密着させ、紫外線照射することによって、感光性樹脂層の露光部を光硬化させる。また、印刷版原版が感赤外線層を有するいわゆるCTP(コンピュータ・トゥ・プレート)版である場合、感赤外線層上のカバーフィルムを剥離した後、レーザー描画機を用いて感赤外線層を描画して画像マスクを形成した後、画像マスクを介して紫外線照射することによって、感光性樹脂層の露光部を光硬化させる。紫外線照射には、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯、UV-LEDランプなどを用いることが好ましい。
【0026】
次に、現像工程について説明する。現像工程において、感光性樹脂層の未硬化部を水性現像液により除去することにより、露光部に対応するレリーフを形成することができる。
【0027】
水性現像液とは、水を90重量%以上含有するものを指す。さらに、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤などを含有することが好ましい。
【0028】
本発明においては、水性現像液が、鉱油およびシリカ粒子を含有することを特徴とする。シリカ粒子は疎水性を有し、水性現像液中において粒子形状を維持するため、現像中に発生した泡の界面に粒子として吸着する。鉱油は表面張力が低く、シリカ粒子とともに存在することにより、シリカ粒子が吸着した泡の膜面に侵入し、貫通することにより泡を破壊する消泡作用を奏する。また、鉱油は、水性現像液中においてシリカ粒子の分散性を高める作用を奏する。このため、鉱油およびシリカ粒子を含有することにより、少ない現像液量でも泡付着を抑制することができる。本発明においては、水性現像液に、鉱油およびシリカ粒子を含有する消泡剤を含有することが好ましい。
【0029】
鉱油としては、スピンドル油、マシン油、冷凍機油などが挙げられる。鉱物油としては、例えば、商品名コスモSC22(21mm/s)、コスモSP10(10mm/s)、コスモRCスピンドル油(10mm/s)、コスモRBスピンドル油(15mm/s)、コスモニュートラル150(32mm/s)、コスモ“ピュアスピン”(登録商標)G(21mm/s)および”コスモ“ピュアスピン”E(5mm/s)(コスモ石油ルブリカンツ(株));日石スーパーオイルC(93mm/s)、日石スーパーオイルD(141mm/s)および日石スーパーオイルB(54mm/s)(新日本石油(株));スタノール43N(27mm/s)、スタノール52(56mm/s)、スタノール69(145mm/s)、スタノール35(9mm/s)およびスタノールLP35(11mm/s)(エッソ石油(株));“フッコール”(登録商標)SHスピン(9mm/s)、“フッコール”NT100(21mm/s)、“フッコール”NT150(28mm/s)、“フッコール”NT200(39mm/s)、“フッコール”NT60(10mm/s)および“フッコール”STマシン(9mm/s)(富士興産(株))(かっこ内の数字は「動粘度(40℃)」を表す。)等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0030】
シリカ粒子としては、例えば、石英、疎水性シリカ、溶融シリカなどの粒子が挙げられる。これらの中でも、疎水性シリカ粒子が好ましい。疎水性シリカ粒子としては、例えば、“Nipsil”(登録商標)SSシリーズ(SS-10、SS-40、SS-50およびSS-115等)(東ソー・シリカ(株)製)、“Sipernat”(登録商標)DおよびCシリーズ(D10、D17、C600およびC630等)(デグサジャパン(株)製)、“SYLOPHOBIC”(登録商標)シリーズ(100、702、505および603等)(富士シリシア化学(株)製)、“Aerosil”(登録商標)シリーズ(R972、RX200、RY200、R202、R805及びR812等)(日本アエロジル(株)およびエボニック デグサ社製)、“Reolosil”(登録商標)MTおよびDMシリーズ(MT-10、DM-10およびDM-20等)((株)トクヤマ)、TS-530およびTS-610TS-720等)(キャボットカーボン社)などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0031】
シリカ粒子の大きさは、現像工程において発生する泡によって形成される泡膜の厚さと近しいことが好ましく、消泡効果をより向上させることができる。
【0032】
このような鉱油とシリカを含有する消泡剤としては、例えば、“ノプタム”(登録商標)777F(サンノプコ(株)製)などが挙げられる。
【0033】
水性現像液中における、鉱油およびシリカ粒子を含有する消泡剤の含有量は、0.05~0.3重量%が好ましい。消泡剤の含有量を0.05重量%以上とすることにより、現像液中の泡立ちをより抑制し、少ない現像液量でも泡付着をより抑制することができる。一方、消泡剤の含有量を0.3重量%以下とすることにより、消泡剤の成分を水性現像液中に均一分散された状態を維持することができる。
【0034】
現像方法としては、例えば、スプレー式現像装置やブラシ式洗い出し機により、感光性樹脂層の未硬化部を溶出させ、除去する方法などが挙げられる。プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版に水性現像液を滴下し、ブラシを用いて現像する方法は、現像に要する水性現像液をより少なくすることができる一方、泡立ちやすい傾向にあることから、本発明の効果をより奏することができる。プレート上に装着された感光性樹脂印刷版原版を自動搬送することがより好ましく、このような現像方法に用いられる現像機としては、例えば、富士トレリーフプロセサーFTP640IID(富士フィルムグローバルグラフィックシステムズ(株)製)などの搬送式の現像装置が挙げられる。なお、プレートには、ステンレスなどの金属板上に、印刷版原版を固定することができる粘着層を有するものを好ましく用いることができる。
【0035】
水性現像液の液温は、20℃~50℃が好ましい。
【0036】
ブラシの素材としては、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、塩化ビニル、アクリルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、画像再現性と現像性の観点から、ナイロンが好ましい。
【0037】
現像工程において、ブラシの押し込み量は、0.3~1.5mmが好ましい。ここで、ブラシの押し込み量とは、印刷版原版表面とブラシ毛先がちょうど接する位置に対する、ブラシの印刷版原版側への相対的な移動量を指す。ブラシの押し込み量を0.3mm以上とすることにより、感光性樹脂層の未硬化部を効果的に除去することができる。一方、ブラシの押し込み量を1.5mm以下とすることにより、微細なレリーフ形状を形成することができる。
【0038】
現像工程の後、形成されたレリーフを乾燥する乾燥工程を有することが好ましく、水性現像液を除去することができる。乾燥温度は、30~70℃が好ましく、乾燥時間は、8~12分間が好ましい。
【0039】
さらに、必要に応じて、形成されたレリーフに紫外線を照射する後露光工程を設けてもよい。後露光工程により、未反応のエチレン性二重結合を有する化合物の反応によって、レリーフをより強固にすることができる。
【0040】
本発明の製造方法により得られる印刷版は、ラベル印刷用輪転印刷機や間欠式輪転印刷機などを用いた凸版印刷用途、ドライオフセット印刷用途、フレキソ印刷用途などに用いることできる。これらの中でも、凸版印刷用途、ドライオフセット印刷用途により好適に用いることができる。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
【0042】
(1)画像再現性
各実施例および比較例により得られた画像再現性評価用印刷版について、倍率20倍の拡大鏡を用いて、1cm×1cmの領域に形成された150線3%の網点を観察し、網点の再現性を下記基準により評価した。4点以上であれば合格とした。
5:欠けが認められない
4:最外周部エリアの網点に欠けが認められる
3:最外周部および最外周から2列目のエリアに欠けが認められる
2:最外周から3列目を含む内部のエリアに欠けが認められる
1:全網点エリアの20%以上の面積に欠けが認められる。
【0043】
(2)現像液中の泡量
各実施例および比較例において、画像再現性評価用印刷版を作製した後の現像液を採取し、ロータリーシェイカー(EYELA MULTISHAKERMMS)を用いて、回転数245rpmの条件で30秒間撹拌した。その後、メスシリンダー(最大500mL)に300mLの現像液を投入し、泡の体積を計測し、現像液中の泡量を算出した。
【0044】
(3)泡付着数
各実施例および比較例により得られた泡付着数評価用印刷版から無作為に選択した5cm×5cmの領域を、倍率10倍の拡大鏡を用いて観察し、泡痕の個数を計数して泡付着数を算出した。
【0045】
(4)現像液量
各実施例および比較例において現像工程、乾燥工程および後露光工程に要した時間と、搬送速度と、ポンプ流量から、要した現像液量を算出した。
【0046】
(5)撹拌状態
各実施例および比較例において、画像再現性評価用印刷版を作製した後の現像液を採取し、目視により消泡剤の溶け残りの有無を観察した。
【0047】
次に、各実施例および比較例に用いた印刷版原版の作製方法について説明する。
【0048】
[易接着層を有する支持体の作製]
“バイロン”(登録商標)31SS(不飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液、東洋紡(株)製)260質量部およびPS-8A(ベンゾインエチルエーテル、和光純薬工業(株)製)2質量部の混合物を70℃で2時間加熱した後、30℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート7質量部を加えて2時間混合した。さらに、“コロネート”(登録商標)3015E(多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液、東ソー(株)製)25質量部およびEC-1368(工業用接着剤、住友スリーエム(株)製)14質量部を添加して混合し、易接着層用塗工液1を得た。
【0049】
次に、“ゴーセノール”(登録商標)KH-17(ケン化度78.5~81.5モル%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)50質量部を、“ソルミックス”(登録商標)H-11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)200質量部および水200質量部の混合溶媒中、70℃で2時間混合した後、“ブレンマー”(登録商標)G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)1.5質量部を添加して1時間混合した。ここに、さらに(ジメチルアミノエチルメタクリレート)/(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)重量比2/1の共重合体(共栄社化学(株)製)2質量部、“イルガキュア”(登録商標)651(ベンジルメチルケタール、BASF社製)5質量部、エポキシエステル70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)18質量部およびエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート10質量部を添加して90分間混合し、50℃に冷却した後、“メガファック”(登録商標)F-556(DIC(株)製)を0.1質量部添加して30分間混合して易接着層用塗工液2を得た。
【0050】
厚さ250μmの“ルミラー”(登録商標)T60(PETフィルム、東レ(株)製)上に、前記易接着層用塗工液1を、バーコーターを用いて、乾燥後膜厚が40μmになるように塗布し、180℃のオーブンを用いて3分間加熱して溶媒を除去した。その上に、前記易接着層用塗工液2を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が30μmとなるように塗布し、160℃のオーブンを用いて3分間加熱して、易接着層を有する支持体を得た。
【0051】
[粘着防止層を有するカバーフィルムの作製]
“ゴーセノール”AL-06R(ケン化度91.0~94.0モル%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)10重量部を、エタノール30重量部および純水70重量部の混合溶媒中、75℃で2時間混合し、粘着防止層用塗工液を得た。
【0052】
厚さ100μmnの“ルミラー”(登録商標)T60(PETフィルム、東レ(株)製)上に、前記粘着防止層用塗工液を、バーコーターを用いて、乾燥後膜厚が1.0μmとなるように塗布し、120℃のオーブンを用いて30秒間加熱して溶媒を除去し、粘着防止層を有する保護フィルムを得た。
【0053】
[感光性樹脂層の形成]
撹拌用ヘラおよび冷却管を取り付けた3つ口フラスコ中に、“ゴーセノール”KL-05(ケン化度78.5~82.0モル%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)50重量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1.3重量部、相溶助剤としてトリメチロールプロパン25重量部を添加し、“ソルミックス”(登録商標)H-11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)50重量部/水50重量部の混合溶媒を添加して混合した後、撹拌しながら80℃で2時間加熱し、溶解させた。得られた混合物を70℃に冷却した後、エチレン性二重結合を有する化合物としてグリシジルメタクリレート8.0重量部、“ブレンマー”(登録商標)AE400(ポリエチレングリコールモノメタクリレート、日油(株)製)10重量部、“ブレンマー”(登録商標)AD400(ポリエチレングリコールジメタクリレート、日油(株)製)10重量部を添加し、30分間撹拌し、感光性樹脂組成物用塗工液を得た。
【0054】
得られた感光性樹脂組成物用塗工液を、前述の易接着層を有する支持体の易接着層側に流延し、60℃で2.5時間乾燥して感光性樹脂層を形成した。このとき、乾燥後の版厚(易接着層を有する支持体+感光性樹脂層)が0.95mmとなるよう調節した。このようにして得られた感光性樹脂層上に、水/エタノール=50/50(重量比)の混合溶媒を塗布し、前記粘着防止層を有するカバーフィルムを圧着し、印刷版原版を得た。
【0055】
[実施例1]
印刷版原版を297mm×420mmに裁断し、カバーフィルムを剥離した。感光性樹脂層上に、150線3%の網点画像を含む画像再現性評価用ネガフィルムおよび感度測定用グレースケールネガフィルムを真空密着させ、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワットを用いて、グレースケール感度16±1段となる条件で露光した(主露光)。
【0056】
水に、鉱油およびシリカ粒子を含有する消泡剤“ノプタム”(登録商標)777F(サンノプコ(株))を0.1重量%添加した液を水性系現像液として、トレリーフプロセサーFTP640IID(富士フィルムグローバルグラフィックシステムズ(株))を用いて、搬送速度175mm/分、ブラシ押し込み量1.0mmの条件で現像し、画像再現性評価用印刷版を得た。ここで、(2)現像液中の泡量と(5)撹拌状態の評価に用いる現像液を採取した。
【0057】
また、150線3%の網点画像を含む画像再現性フィルムにかえて、10ポイントのアルファベットA~Zを含む泡付着数評価用ネガフィルムを用いたこと以外は上記と同様にして、泡付着数評価用印刷版を得た。
【0058】
前記(1)~(5)の方法で評価した結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2~5]
消泡剤“ノプタム”777Fの添加量を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例1と同様に印刷版を作製した。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1~4]
消泡剤“ノプタム”777Fを表1に示す添加剤に変更したこと以外は実施例1と同様に印刷版を作製した。評価結果を表2に示す。
【0061】
[比較例5]
消泡剤を用いないこと、富士トレリーフプロセサーFTP640IIDの搬送速度を110mm/分に変更したこと以外は実施例1と同様に印刷版を得た。評価結果を表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】