(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119123
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】原着アクリル系繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06P 3/70 20060101AFI20240827BHJP
D01F 6/38 20060101ALI20240827BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20240827BHJP
D01D 10/00 20060101ALI20240827BHJP
D06P 5/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
D06P3/70 Z
D01F6/38
D01F6/18 Z
D01D10/00 B
D06P5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025793
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 久順
(72)【発明者】
【氏名】森 達哉
【テーマコード(参考)】
4H157
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157AA02
4H157DA19
4H157GA07
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB11
4L035BB17
4L035BB66
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC05
4L035FF08
4L035LB01
4L045AA02
4L045BA03
4L045BA57
4L045BA60
4L045DA32
4L045DA33
4L045DA34
4L045DA60
(57)【要約】
【課題】従来の原着アクリル系繊維では実現できなかった、黒色衣料用途等に好適に用いることができる濃色に着色された原着アクリル系繊維を提供する。
【解決手段】繊維の色を示すL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0であることを特徴とする原着アクリル系繊維、およびアクリル系重合体を湿式紡糸して得られた乾燥緻密化前のゲル状態にある繊維束を、絞り後の持ち込み水分率(WPU)が80~300%となるように、染料濃度0.5~3.0質量%の染料液に0.5~3.0秒間浸漬させることを特徴とする原着アクリル系繊維の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の色を表すL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0であることを特徴とする原着アクリル系繊維。
【請求項2】
洗濯堅ろう度(変退色、汚染)が4以上であることを特徴とする請求項1に記載の原着アクリル系繊維。
【請求項3】
摩擦堅ろう度(乾燥)が4以上であり、かつ、摩擦堅ろう度(湿潤)が2-3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の原着アクリル系繊維。
【請求項4】
昇華堅ろう度(変退色、汚染)が3-4以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の原着アクリル系繊維。
【請求項5】
結節強度が1.3~2.2cN/dtexであり、かつ、結節伸度が10~20%であることを特徴とする請求項1または2に記載の原着アクリル系繊維。
【請求項6】
アクリル系重合体を湿式紡糸して得られた乾燥緻密化前のゲル状態にある繊維束を、絞り後の持ち込み水分率(WPU)が80~300%となるように、染料濃度0.5~3.0質量%の染料液に0.5~3.0秒間浸漬させることを特徴とする原着アクリル系繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃色に着色された原着アクリル系繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は羊毛に似た風合いと発色性の良さから、セーターや靴下などの衣料製品、あるいは獣毛調の風合いや光沢を生かした獣毛調立毛製品のパイル素材に用いられてきた。アクリル系繊維の染色は、綿染め、紡績糸染め、生地染め等、繊維製造後の後加工で染められることがほとんどである。しかし、これらの染色法では、目的の色に染めるために長時間処理、複数工程の処理が必要となるため、染料費、光熱費、染料廃液処理費等がかかり高コストであること、及び、水使用量と廃液発生量が多いことで環境負荷が高いことから、代替手段が求められてきた。そこで、近年では、後工程での染色プロセスを削減可能な、繊維製造プロセス中に着色する原着アクリル系繊維が開発されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ゲル膨潤状態になるアクリル系繊維束に、塩基性染料とカチオン界面活性剤を含む処理液を付与することで連続染色された繊維を得る方法が示されている。また、特許文献2では、乾湿式紡糸の延伸、洗浄等の処理後にカチオン系染料を含有する染色浴中に繊維を浸漬させることで染色された高強度アクリル系繊維を製造する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-49175号公報
【特許文献2】特開昭61-167025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維製造プロセス中での着色は従来の染色法と比較して短時間、低コストで着色できるメリットがある一方、短時間での処理であるがゆえに濃色を発現するのが難しいという課題があった。特に黒色等の濃色に着色された原着アクリル系繊維を得ることは難しく、黒色衣料用途に原着アクリル系繊維を適用することは困難であった。
【0006】
すなわち、特許文献1では、濃色発現に重要な繊維内部への染料の浸透に関する記載が無く、本方法では濃色を発現させることが困難であった。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、濃色発現に重要な繊維内部への染料の浸透に関する記載が無く、本方法では濃色を発現させることが困難であった。
【0008】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、従来の原着アクリル系繊維では実現できなかった濃色に着色された原着アクリル系繊維とその製造方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。すなわち、本発明は、繊維の色を表すL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0であることを特徴とする原着アクリル系繊維である。より好ましい形態として、洗濯堅ろう度(変退色、汚染)が4以上であること、摩擦堅ろう度(乾燥)が4以上であり、かつ、摩擦堅ろう度(湿潤)が2-3以上であること、昇華堅ろう度(変退色、汚染)が3-4以上であることがあげられる。また、アクリル系重合体を湿式紡糸し、乾燥緻密化前のゲル状態にある繊維束を、絞り後の持ち込み水分率(WPU)が80~300%となるように、染料濃度0.5~3.0質量%の染料液に0.5~3.0秒間浸漬させることを特徴とする原着アクリル系繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の原着アクリル系繊維では実現できなかった濃色に着色された原着アクリル系繊維を得ることができ、特に黒色衣料用途等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の原着アクリル系繊維及びその製造方法を詳細に説明する。
【0012】
なお、本発明の原着アクリル系繊維の製造方法は、繊維の色を表すL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0である原着アクリル系繊維が得られる限り、何ら限定されないが、好ましい形態を以下に述べる。
【0013】
本発明のアクリル系繊維の形態は、フィラメント、ステープル、トウ等、いずれの態様であってもよい。
【0014】
本発明のアクリル系繊維は、原料ポリマーから繊維を製造するまでの繊維製造プロセス中で着色処理が施された原着アクリル系繊維である。
【0015】
本発明のアクリル系繊維を構成するアクリル系重合体は繊維形成が可能であれば特に限定はないが、好ましくはアクリロニトリルを85質量%以上含むものが好適に用いられる。アクリロニトリルを85質量%以上含むことで、繊維としての耐熱性が向上し、高次加工工程における蒸気熱処理等において寸法安定性に優れる繊維が得られる。
【0016】
また、アクリロニトリル単体からなる重合体のほか、エチレン性ビニルモノマーを含むことが好ましい。エチレン性ビニルモノマーの共重合率は、延伸性を向上させるため3.0質量%以上が好ましい。また、抗ピル性を向上させるため8.0質量%以下が好ましい。エチレン性ビニルモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのオレフィン系モノマーなどを用いることができる。
【0017】
更に、アクリロニトリル単体からなる重合体のほか、スルホン酸含有ビニルモノマーを含むことが好ましい。スルホン酸含有ビニルモノマーの共重合率は、工程内での染色性を向上させるため1.0質量%以上が好ましく、紡糸工程での繊維同士の接着を防止するため6.0質量%以下が好ましい。スルホン酸含有ビニルモノマーとしては、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタリルスルホン酸及びP-スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはこれらの塩類などを用いることができ、特にアクリル酸メチルやメタリルスルホン酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0018】
また、本発明で用いられる重合体には、必要に応じ、添加剤として、重合開始剤、pH調整剤及び分子量調整剤等を配合することができる。
【0019】
本発明で用いることができるアクリル系重合体は前述のとおりであるが、その重合方法は特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、界面重合法、溶液重合法等、一般的な重合方法を用いることが可能である。
【0020】
アクリル系繊維には主に乾式紡糸法、湿式紡糸法、及び乾湿式紡糸法が採用されるが、中でも凝固工程にて繊維にボイドが形成されやすい湿式紡糸法が本発明のアクリル系繊維の紡糸方法として好適である。このボイドの形成により、後述する染料付与工程において染料が表層よりさらに繊維内部まで浸透しやすくなり、濃色発現および染色堅ろう度に優れた繊維が得られる。
【0021】
重合体を溶剤に溶解した紡糸原液において、アクリル系重合体の濃度は17~22質量%、溶剤の割合(溶剤比率)を78~83質量%にすることが好ましく、より好ましくはアクリル系重合体の割合が18~21質量%、溶剤の割合は79~82質量%である。重合体の濃度が22質量%以下とすることで紡糸原液が速やかに凝固し、繊維にボイドが形成されやすくなる。また、重合体の濃度を17%以上とすることで糸条に適度な延伸性が付与され、良好な紡糸性が得られる。
【0022】
また、湿式紡糸において、繊維を凝固させるための凝固浴に用いる紡糸浴液としては、溶剤/貧溶媒の混合液が用いられるのが通常であるが、溶剤の分離、回収が比較的容易であるという点から溶剤/水混合溶液が好ましい。溶剤/水の混合溶液を用いる場合、紡糸浴液の溶剤濃度は43~58質量%が好ましく、48~53質量%がより好ましい。溶剤濃度を58質量%以下とすることで紡糸原液が速やかに凝固し、繊維にボイドが形成されやすくなる。また、43質量%以上とすることで糸条に適度な延伸性が付与され、良好な紡糸性が得られる。
【0023】
重合体を溶解するために使用する溶剤は、紡糸浴液に使用する貧溶媒に対する拡散係数が大きいものが好ましい。拡散係数が大きい程、凝固工程において吐出糸条の凝固が迅速に進み、繊維にボイドが形成されやすくなる。紡糸浴液の貧溶媒として水を用いる場合、重合体を溶解させる溶剤としては、一般的にジメチルスルホキシド(以下、DMSOという。)、ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)、ジメチルアセトアミド、ロダン酸水溶液、硝酸水溶液等が用いられるが、本発明においてはボイド発生しやすいという観点から考えて、水に対する拡散係数の高いDMSOが好ましい。
【0024】
紡糸浴液の温度は40~50℃が好ましく、より好ましくは42~47℃である。温度を40℃以上とすることで紡糸原液が速やかに凝固し、繊維にボイドが発生しやすくなる。また、50℃以下とすることで糸条に適度な延伸性が付与され、良好な紡糸性が得られる。
【0025】
紡糸工程以降、延伸、水洗、乾燥緻密化と油剤付与とを行い、さらに捲縮付与工程に続いて熱緩和処理を施すことができる。
【0026】
アクリル系繊維の着色方法には主に紡糸原液に顔料、染料等を添加する原液添加法、紡糸工程後のゲル状態の繊維を染色するゲル染色法等があるが、中でも少量の染料で濃色発現が可能で、着色後の堅ろう度、特に摩擦堅ろう度に優れる原着繊維が得られるゲル染色法が、本発明のアクリル系繊維の着色方法として好ましい。乾燥緻密化前のボイドを有するゲル状態の繊維に染料を付与することで、表層から内部まで染料が固着し、濃色発現および染料の脱落防止性に優れたゲル染色繊維を得ることができる。
【0027】
染料を付与する方法としては、繊維に色ムラなく均一に濃色を発現させるため、染料を溶解させた水溶液に乾燥緻密化前の繊維束を浸漬させるDIP方式が好ましい。染料液には染料の他、工程通過性を向上させるための工程油剤等を添加することができる。
【0028】
染料液中の染料濃度は、目的とする濃色を発現するため0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上が更に好ましい。一方、後工程での染料脱落を抑制するため5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。
【0029】
染料液中を繊維束が通過する時間(浸漬時間)は、浸漬時間が短すぎることによる繊維束内の色ムラ、淡色部が発生するのを抑制するため0.5秒以上が好ましく、0.7秒以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、色ムラ抑制効果は浸漬時間と共に飽和し、生産性を高めるためには短時間が好ましいことから、3.0秒以下が好ましい。
【0030】
繊維束を染料液に浸漬させた後、繊維束中の染色液の持ち込み水分率(WPU)を制御するためにニップローラーによる絞りを設けることが好ましい。絞り後のWPUは、染料液を繊維に多量に含ませることで、繊維内部まで色ムラなく均一に濃色を発現させるため80%以上が好ましく、120%以上が更に好ましい。一方、過剰の染料液が後工程で脱落することを抑制するため300%以下が好ましく、250%以下が更に好ましい。WPUはニップローラーのニップ圧力を適宜調整することで制御が可能である。WPUは実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0031】
本発明で使用する染料としては、特別の制限はなく、アクリル系繊維の染色に使用される通常のカチオン黒染料を使用することができる。
【0032】
本発明の原着アクリル系繊維の色を表すL値は11.0~15.0であることが必須であり、11.0~13.5が好ましい。L値を15.0以下とすることで、濃色を有する原着アクリル系繊維が得られる。15.0を超える場合は白味が強くなりすぎるため、本発明の原着アクリル系繊維は得られない。L値が低いほど黒色に近づくが、本発明で達しうるL値の下限は11.0程度である。L値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0033】
本発明の原着アクリル系繊維の色を表すa値は-0.5~1.5であることが必須であり、-0.5~1.0が好ましい。-0.5~1.5とすることで、濃色を有する原着アクリル系繊維が得られる。-0.5未満の場合は緑味が強くなりすぎ、1.5を超える場合には赤味が強くなりすぎるため、本発明の原着アクリル系繊維は得られない。a値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0034】
本発明の原着アクリル系繊維の色を表すb値は-3.0~1.0であることが必須であり、-2.5~0.5が好ましい。-3.0~1.0とすることで、濃色を有する原着アクリル系繊維が得られる。-3.0未満の場合は青味が強くなりすぎ、1.0を超える場合には黄味が強くなりすぎるため、本発明の本発明の原着アクリル系繊維は得られない。a値は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0035】
本発明の原着アクリル系繊維の洗濯堅ろう度(変退色、汚染)は4以上が好ましく、4-5以上が更に好ましい。洗濯堅ろう度(変退色、汚染)を4以上とすることで、衣料製品にした際の洗濯時の色落ちを抑制することができ、衣料製品に好適に用いられる。洗濯堅ろう度(変退色、汚染)は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0036】
本発明の原着アクリル系繊維の摩擦堅ろう度(乾燥)は4以上が好ましく、4-5以上が更に好ましい。摩擦堅ろう度(乾燥)を4以上とすることで、衣料製品にした際の重ね着等における色落ちを抑制することができ、衣料製品に好適に用いられる。また、本発明の原着アクリル系繊維の摩擦堅ろう度(湿潤)は2-3以上が好ましく、3以上が更に好ましい。摩擦堅ろう度(湿潤)を2-3以上とすることで、衣料製品にした際の濡れた際の重ね着や洗濯時の摩擦における色落ちを抑制することができ、衣料製品に好適に用いられる。摩擦堅ろう度(乾燥、湿潤)は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0037】
本発明の原着アクリル系繊維の昇華堅ろう度(変退色、汚染)は3-4以上が好ましく、4以上が更に好ましい。昇華堅ろう度(変退色、汚染)を3-4以上とすることで、衣料製品にした際の高温多湿状況下での色落ちを抑制することができ、衣料製品に好適に用いられる。昇華堅ろう度(変退色、汚染)は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0038】
本発明の原着アクリル系繊維の単繊維繊度は0.3~2.2dtexが好ましく、0.5~1.3dtexが更に好ましい。本範囲とすることでソフトな風合いと抗ピル性能を発現させた繊維を安定して製造することができる。単繊維繊度は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0039】
本発明の原着アクリル系繊維の結節強度は1.3~2.2cN/dtexが好ましく、1.4~2.1cN/dtexが更に好ましい。本範囲とすることで衣料製品にした際に優れた抗ピル性能を発現できる。結節強度は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0040】
本発明の原着アクリル系繊維の結節伸度は10~20%が好ましく、12~18%が更に好ましい。本範囲とすることで衣料製品にした際に優れた抗ピル性能を発現できる。結節伸度は実施例に記載した手法により求められる値を指す。
【0041】
かくして得られる本発明のアクリル系繊維は、従来の原着アクリル系繊維では実現できなかった濃色に着色されるため、黒色衣料用途に好適に用いることができる。
【0042】
本発明のアクリル系繊維は紡績糸として衣料等に用いられることが好ましく、本発明のアクリル系繊維を用いて製造される紡績糸は、本発明のアクリル系繊維のみからなるものでも、他の素材やアクリル系繊維を含んでいるものでもよい。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(1)持ち込み水分率(WPU)
繊維束を染料液に一定時間通過させた際、通過させた繊維束の質量(A)と染料液の減少質量(使用量)(B)より、以下の式
WPU(%)=B/A×100
を用いて算出した。
【0045】
(2)単繊維繊度
JIS L1015:2021化学繊維ステープル試験方法に記載のA法に準拠して測定した。
【0046】
(3)引張強度
JIS L1015:2021化学繊維ステープル試験方法に記載の標準時試験法に準拠して測定した。
【0047】
(4)結節強度、結節伸度
JIS L1015:2021化学繊維ステープル試験方法に記載の標準時試験法に準拠して結節強さを測定し、結節強さを単繊維繊度で除した値を結節強度とした。また、結節強さを測定した際の伸び率を結節伸度とした。
【0048】
(5)繊維のL値、a値、b値
繊維試料2.5gを測色セル(16cm3の正方形セル)に充填し、スガ試験機株式会社製SMカラーコンピューターSM-3を用いて、試料台にセットし測色する。測定は、セット時と測色セルを90°回転させたときの2回行い、平均値をL値、a値、b値とした。
【0049】
(6)洗濯堅ろう度(変退色、汚染)
実施例、比較例で得られたアクリル系繊維をそれぞれ38mmにカットし、短紡によりAc100、2/53番手の紡績糸とした。この紡績糸を用いて目付150g/m2の筒編地を作製した。この編地を用いて、JIS L0844:2011洗濯に対する染色堅ろう度試験方法に記載のA-2号に準拠して測定した。
【0050】
(7)摩擦堅ろう度(乾燥、湿潤)
上記(6)と同様に作製した編地を用いて、JIS L0849:2013摩擦に対する染色堅ろう度試験方法に記載の摩擦試験機II形(学振形)法に準拠して測定した。
【0051】
(8)昇華堅ろう度(変退色、汚染)
上記(6)と同様に作製した編地を用いて、JIS L0854:2013昇華に対する染色堅ろう度試験方法に準拠し、添付白布は綿・ポリエステルを用いて測定した。
【0052】
(9)黒色衣料用途への適正
上記(6)と同様に編地を作製した。編地の濃色度合いを熟練者の目視にて判定し、黒色衣料用途に適用できる程度に濃色を発現していると判断できる場合、黒色衣料用途への適用は「良」、他方、目的の濃色を発現していないと判断できる場合は黒色衣料用途への適用は「不可」とした。
【0053】
[実施例1]
アクリロニトリル93.8質量%、アクリル酸メチル5.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ1.2質量%からなるアクリル系重合体をDMSO系溶液重合により得た重合体をDMSOに溶解し、アクリル系重合体溶液の濃度を18質量%に調整した紡糸原液とした。この紡糸原液を60℃に温調し、45℃、50質量%のDMSO水溶液の紡糸浴液に湿式紡糸し、延伸、水洗を行った。続いて、カチオン染料濃度1.0質量%の染料液槽内に繊維束を0.8sec浸漬させた後、WPUが150%となるようニップローラーで絞りを行った。その後、乾燥緻密化、油剤付与、捲縮付与、湿熱処理を行った後、乾燥、切断することによりアクリル系繊維を得た。
【0054】
これにより得られたアクリル系繊維の単繊維繊度は1.1dtex、単繊維引張強度は2.5cN/dtex、結節強度は1.7cN/dtex、結節伸度は13.6%、L値は11.0、a値は1.5、b値は1.0であった。
【0055】
得られた繊維の洗濯堅ろう度(変退色、汚染)は5、摩擦堅ろう度(乾燥)は5、摩擦堅ろう度(湿潤)は4、昇華堅ろう度(変退色、汚染)は5であり、黒色衣料用途への適正は良であった。
【0056】
[実施例2~10]
アクリル酸メチル共重合率、アクリル系重合体溶液の濃度、紡糸浴液の溶剤濃度、紡糸浴液の温度、染料液中の染料濃度、染料液槽内の繊維束の浸漬時間、WPUを表1の通り変更したこと以外は実施例1と同様の方法でアクリル系繊維を得た。
【0057】
[比較例1]
アクリル系重合体を溶解させる溶剤をDMFに、紡糸浴液を28質量%のDMF水溶液に変更し、アクリル系重合体溶液の濃度、紡糸浴液の温度、染料液中の染料濃度、染料液槽内の繊維束の浸漬時間、WPUを表2の通り変更したこと以外は実施例1と同様の方法でアクリル系繊維を得た。
【0058】
[比較例2]
紡糸方法を乾湿式紡糸に変更し、紡糸口金と凝固浴の距離を5mmに設定し、アクリル系重合体溶液の濃度、紡糸浴液の溶剤濃度、紡糸浴液の温度、染料液中の染料濃度、染料液槽内の繊維束の浸漬時間、WPUを表2の通り変更したこと以外は実施例1と同様の方法でアクリル系繊維を得た。
【0059】
[比較例3]
アクリル系重合体溶液の濃度、紡糸浴液の溶剤濃度、紡糸浴液の温度、染料液中の染料濃度、染料液槽内の繊維束の浸漬時間、WPUを表2の通り変更したこと以外は実施例1と同様の方法でアクリル系繊維を得た。
【0060】
[比較例4]
紡糸原液にカーボンブラック#40を添加し、繊維中のカーボンブラック添加率を2.5質量%としたこと、水洗後の染料濃度を0%(染料無し)としたこと以外は実施例1と同様の方法でアクリル系繊維を得た。
【0061】
実施例1~10の製糸条件・評価結果を表1、比較例1~4の製糸条件・評価結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
表1の実施例から明らかなように、原着アクリル系繊維を製造する際の重合体溶液や紡糸浴液、染料液等の製糸条件を適切に制御することで、繊維のL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0となり、従来技術では得られていない、黒色衣料用途に好適に用いることができる濃色を有する原着アクリル系繊維が安定的に得られた。
【0065】
一方、表2の比較例から明らかなように、原着アクリル系繊維を製造する際の重合体溶液や紡糸浴液、染料液等の製糸条件が適切でなく、染料の内部浸透のポイントとなるボイド生成が起こりにくい場合には、得られる原着アクリル系繊維のL値、a値、b値が本発明の範囲外となり、本発明の所望の濃色が得られず、黒色衣料用途には適さないものであった。
本発明の原着アクリル系繊維は、繊維の色を示すL値が11.0~15.0、a値が-0.5~1.5、b値が-3.0~1.0であるため、濃色を有し、黒色衣料用途等に好適に用いることができる。