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特開2024-119124スチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119124
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/32 20060101AFI20240827BHJP
   C07C 309/30 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C07C303/32
C07C309/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025795
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC90
4H006AD15
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC31
4H006BC51
4H006BE14
(57)【要約】
【課題】簡便且つ環境に配慮したそのスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法を提供する。
【解決手段】スチレンスルホン酸リチウムの量に対して5モル%以下の重合禁止剤の存在下、水中でスチレンスルホン酸リチウム塩と無機アンモニウム塩とを混合、溶解させた後、冷却により析出したスチレンスルホン酸アンモニウムの結晶を濾別するスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法であって、
スチレンスルホン酸リチウムの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比が1.00当量~3.00当量であり、
反応系内の総固形分が25.00重量%~40.00重量%であり、
反応温度が30℃~70℃であり、及び
濾別温度が5℃~30℃である、
スチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンスルホン酸リチウムの量に対して5モル%以下の重合禁止剤の存在下、水中でスチレンスルホン酸リチウム塩と無機アンモニウム塩とを混合、溶解させた後、冷却により析出したスチレンスルホン酸アンモニウムの結晶を濾別するスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法であって、
スチレンスルホン酸リチウムの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比が1.00当量~3.00当量であり、
反応系内の総固形分が25.00重量%~40.00重量%であり、
反応温度が30℃~70℃であり、及び
濾別温度が5℃~30℃である、
スチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
スチレンスルホン酸リチウムの量に対して2モル%以下の重合禁止剤の存在下、水中でスチレンスルホン酸リチウムと無機アンモニウム塩とを混合、溶解させた後、冷却により析出したスチレンスルホン酸アンモニウムの結晶を濾別するスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法であって、
スチレンスルホン酸リチウムの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比が1.00当量~2.00当量であり、
反応系内の総固形分が30.00重量%~40.00重量%であり、
反応温度が30℃~60℃であり、及び
濾別温度が5℃~25℃である、
スチレンスルホン酸アンモニウム組成物の製造方法。
【請求項3】
重合禁止剤が亜硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸リチウムである、請求項1又は請求項2に記載のスチレンスルホン酸リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ環境に配慮したスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンスルホン酸ナトリウムは、界面活性を有する強電解質型の水溶性モノマーであり、耐熱性とラジカル重合性が優れることから、産業上の幅広い分野で使用されている。
【0003】
例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムは、水性塗料や水性接着剤用のアクリルポリマーエマルションを製造する際の反応性乳化剤として古くから使用されている。アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルなどのラジカル重合性モノマーを乳化重合する際に、従来型乳化剤の添加量を減量し、その代わりに少量のスチレンスルホン酸ナトリウムを添加、共重合することにより、ポリマーエマルションのコロイド安定性やエマルション塗膜の耐水性が向上するためである。しかし、コロイド安定性をさらに高めるため、スチレンスルホン酸ナトリウムの添加量を増やすと、エマルション塗膜の耐水性低下や、木造建築で使用される鉄釘の腐食など、ナトリウム塩に起因する不具合が生じることがある(例えば非特許文献1)。従って、アクリルエマルションの製造で使用されるアニオン性乳化剤の殆どは非金属性で吸湿性が低いアンモニウム塩である(例えば特許文献1及び2)。
また、スチレンスルホン酸ナトリウムの重合物であるポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、カーボンナノチューブの分散剤、半導体基板の化学的機械研磨(CMP)スラリーや研磨後の洗浄剤など、電子材料用途で使用されている(例えば特許文献3~5)。しかし、特に半導体用途では金属分やハロゲン分が基板の欠陥や腐食の原因となるため、これらを極力含まないことが求められる(例えば特許文献6)。従って、金属分やハロゲン分を極力含まないポリスチレンスルホン酸のアンモニウム塩がより好まれる。
【0004】
上記背景から、スチレンスルホン酸アンモニウムに対する強い市場ニーズがあり、これに応えるべくその製造法が提案されている(例えば特許文献7及び8、非特許文献2)。
【0005】
特許文献7では、例えば、メタノール中、60℃でスチレンスルホン酸ナトリウムと硫酸アンモニウムを溶解、混合してカチオン交換反応した後、30℃まで冷却することにより、カチオン交換によって生成した硫酸ナトリウムを析出させる。その後、析出した硫酸ナトリウムを濾別してスチレンスルホン酸アンモニウムのメタノール溶液を回収し、さらに該メタノール溶液を濃縮乾固することにより、スチレンスルホン酸アンモニウム固体が得られる旨記載されている。当該方法は、カチオン交換によって生成するスチレンスルホン酸アンモニウムと硫酸ナトリウムのメタノールに対する溶解度差を利用したものと説明されている。しかしながら、総反応基質濃度が約9重量%と低く、濃縮乾固に時間を要するため、この間にポリマーが生成し易く、また、反応溶媒として毒性と引火性を有するメタノールを使用する課題があった。
【0006】
特許文献8では、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムの水溶液にパラトルイジン塩酸塩を添加し、塩交換によって析出したスチレンスルホン酸トルイジン塩を回収した後、該トルイジン塩をアンモニア水溶液に投入することにより再度塩交換し、スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液を得るものである。しかしながら有害性があり、且つ着色し易いトルイジンを使用すること、さらにスチレンスルホン酸トルイジン塩がスチレンスルホン酸アンモニウムによって水に可溶化されることから、スチレンスルホン酸アンモニウムへのトルイジンの混入が避けられなかった。また、特許文献7と同様、約10重量%と低濃度のスチレンスルホン酸アンモニウムを含む水溶液から水を留去してスチレンスルホン酸アンモニウム結晶を析出させる際に、ポリマーが生成し易い課題があった。
【0007】
非特許文献2には、例えば、アセトンに分散させたスチレンスルホン酸ナトリウムに塩化水素ガスを吹込むことによって、スチレンスルホン酸ナトリウムをアセトンに可溶なスチレンスルホン酸とアセトンに不溶な塩化ナトリウムへ変換した後、塩化ナトリウムを濾別してスチレンスルホン酸のアセトン溶液を回収し、さらにアンモニアで中和してスチレンスルホン酸アンモニウムを得るものである。しかしながら引火性の高い有機溶媒、及び有毒な塩化水素ガスやアンモニアガスを使用すること、さらにスチレンスルホン酸のアセトン溶液に残留した塩化水素によってスチレンスルホン酸アンモニウムへの塩化アンモニウムの混入が避けられない課題があった。
さらに大きな課題として、反応中間体であるスチレンスルホン酸が極めて自然重合し易いため、ポリマーの混入が避けられないという課題があった(例えば非特許文献3)。
【0008】
上記課題から、スチレンスルホン酸アンモニウムは未だ工業化に至っておらず、簡便且つ環境に配慮したスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3585588号公報
【特許文献2】特許第3460246号公報
【特許文献3】特許第5482194号公報
【特許文献4】特許第6618355号公報
【特許文献5】特開2021-44537号公報
【特許文献6】国際公開第2020/184306号
【特許文献7】特開昭50-149642号公報
【特許文献8】特開昭51-26842号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jose M.Asua;European Polymer Journal,2017年,93巻,480~494頁
【非特許文献2】東洋曹達研究報告、第24巻、第1号、1980年、3~11頁
【非特許文献3】J.C.Salamone;Polymer Letters Edition,15巻,1977年,487~491頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記背景と課題に鑑みてなされたものであり、簡便且つ環境に配慮したスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、スチレンスルホン酸リチウムと無機アンモニウム塩を水中で特定条件下、溶解、混合した後、冷却晶析することによって、有害で危険な有機溶媒やガスを使用することなく、且つポリマーが生成し易い強酸性条件を経ることなく、スチレンスルホン酸アンモニウムを製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。尚、以下で言うスチレンスルホン酸リチウムは通常パラ体であるが、一般に知られているようにメタ体及びオルソ体などの位置異性体を含む。
【0013】
すなわち本発明は以下に係る。
[1]スチレンスルホン酸リチウムの量に対して5モル%以下の重合禁止剤の存在下、水中でスチレンスルホン酸リチウム塩と無機アンモニウム塩とを混合、溶解させた後、冷却により析出したスチレンスルホン酸アンモニウムの結晶を濾別するスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法であって、
スチレンスルホン酸リチウムの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比が1.00当量~3.00当量であり、
反応系内の総固形分が25.00重量%~40.00重量%であり、
反応温度が30℃~70℃であり、及び
濾別温度が5℃~30℃である、
スチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法。
[2]スチレンスルホン酸リチウムの量に対して2モル%以下の重合禁止剤の存在下、水中でスチレンスルホン酸リチウムと無機アンモニウム塩とを混合、溶解させた後、冷却により析出したスチレンスルホン酸アンモニウムの結晶を濾別するスチレンスルホン酸アンモニウムの製造方法であって、
スチレンスルホン酸リチウムの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比が1.00当量~2.00当量であり、
反応系内の総固形分が30.00重量%~40.00重量%であり、
反応温度が30℃~60℃であり、及び
濾別温度が5℃~25℃である、
スチレンスルホン酸アンモニウム組成物の製造方法。
[3]重合禁止剤が亜硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸リチウムである、項[1]又は項[2]に記載のスチレンスルホン酸リチウムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法は、危険で有害な原料の使用や不安定な中間体を経ることなくスチレンスルホン酸アンモニウムを製造することができるため、アクリルエマルションの製造や電子材料向けスチレンスルホン酸アンモニウム重合物の製造に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0016】
本発明者らは、スチレンスルホン酸リチウム(以下、「LiSS」と略称することがある。)とスチレンスルホン酸アンモニウムの水に対する溶解度差に着目し、本発明に至った。
【0017】
本発明のAmSSの製造フローは下記スキームの通りである。先ず反応器に水、LiSS、無機アンモニウム塩及び重合禁止剤を特定組成で仕込み、撹拌しながら特定温度で特定時間混合、溶解する。その後、特定速度で所定温度まで冷却熟成すると、水への溶解度が低いAmSS結晶が優先的に析出してスラリー化し、溶解度が高いLiSSと無機塩が母液に留まることを見出した。すなわち、当該スラリーを濾過することにより、危険で有害な原料の使用、不安定な中間体の経由、濃縮乾固及び加熱乾燥プロセスを経ることなく、高濃度で簡便にAmSSを製造できるものであり、本発明はLiSSとAmSSの溶解度差を利用してカチオン交換を行うものである。
【0018】
【化1】
【0019】
無機アンモニウム塩としては、例えば塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが挙げられる.これらの内でも、高い塩析効果による高収率を考慮すると塩化アンモニウム、臭化アンモニウムがより好ましく、AmSS中のハロゲン残留及び経済性を考慮すると硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムがより好ましい。
【0020】
重合禁止剤としては、水又は反応溶液に可溶であり、AmSSの重合を抑制するものであれば特に制限はないが、例えば、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸リチウムなど、スチレンスルホン酸ナトリウムやLiSSの製造で使用されている重合禁止剤が挙げられる。重合禁止剤の添加量は、仕込んだLiSSの量に対して5モル%以下が好ましく、AmSSの重合性を考慮すると2モル%以下がより好ましい。一方、添加量が少なすぎると反応時にモノマーが重合することがあるため、重合抑制の観点から0.1モル%以上、さらに0.2モル%以上が好ましい。
【0021】
次に製造条件についてより詳細に説明する。
【0022】
本発明において、LiSSの量に対するアンモニウムカチオンの仕込み比は1.00当量~3.00当量が好ましい。この仕込み比が1.00当量未満ではカチオン交換率が不足し、且つ系内の塩濃度が低下して、脱液性の良い良質な結晶が生成し難くなることがある。一方、当量比が3.00当量を超えても脱液性の向上は見られず、寧ろ付着濾液中の無機塩濃度が増加してAmSSの純度が低下することがある。濾液中の無機塩濃度と脱液性のバランスの観点から、1.00当量~2.00当量がより好ましい。
【0023】
本発明において、反応系内の総固形分は25.00重量%~40.00重量%が好ましい。総固形分が25.00重量%未満では収率が低下するだけでなく、脱液性が低下することがある。一方、総固形分が40.00重量%を超えると濾液中の無機塩濃度が増加してAmSSの純度が低下することがある。さらに濾液中の無機塩濃度と脱液性のバランスの観点から、より好ましくは30.00重量%~40.00重量%であり、さらに好ましくは35.00重量%~40.00重量%である。ここで、総固形分とは、反応系内に存在する常温で固体の原料、原料に含まれる常温で固体の不純物及び常温で固体の副生物の総和を意味する。
【0024】
本発明において、反応温度は25℃~75℃が好ましい。上記仕込み組成において、反応温度が25℃未満ではカチオン交換率が不十分となることがあり、75℃を超えてもカチオン交換率は向上するがポリマー分が増加する危険性が高まることがある。さらに、30℃~60℃がより好ましい。
反応時間は0.5時間~20時間が好ましい。さらに、基質濃度と反応温度に応じて調整することが出来るが、反応中の自然重合を防ぐため0.5時間~10時間がより好ましい。
冷却温度は5℃~30℃が好ましい。さらに、所定の冷却温度に達した後、さらに0.5時間~5時間熟成する。冷却温度が5℃より低いとAmSS中の無機塩や水分などの不純物が増加することがあり、30℃を超えると収率が大きく低下することがあるため、より好ましくは5℃~25℃である。
冷却速度は加熱温度と総固形分に応じて調整することが出来るが、毎時5℃~毎時30℃が好ましい。冷却速度が速過ぎると結晶サイズが小さくなり、脱液性が低下する結果、AmSS中の水分や無機塩が増加することがある。一方、冷却速度が極端に遅い場合、結晶が崩壊し、脱液性が低下することがあるため、より好ましくは毎時5℃~毎時20℃である。
【0025】
本発明において、AmSSの結晶サイズを大きくし、脱液性を向上させるため、ある温度まで冷却して結晶を析出させた後、全ての結晶が溶解しない温度まで再加熱し、再び冷却する所謂温度スイング晶析がより好ましい。
各原料を反応器へ仕込む際、粉末で仕込んでも良いが、各原料の飽和水溶液として仕込んでも良い。また、仕込む方法としては、一括仕込み、もしくは逐次仕込みの何れでも良い。LiSSの水溶液に対して、無機アンモニウム塩の飽和水溶液を滴下する方が、析出するAmSS結晶への無機塩の噛み込み(インクルージョン)が少なくなり、高品質なAmSSが得られる。
反応系内は脱酸素する必要はなく、空気雰囲気で良い。
【0026】
本発明において、AmSSの収率を高めるため、水溶性の有機溶媒を添加することが出来る。例えば、メタノール、エタノール、2‐プロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられるが、環境負荷及び防爆対応の観点から、工業的手法としては水単独溶媒が好ましい。
【0027】
本発明において、濾過は遠心濾過、加圧濾過、減圧濾過などの方法が適用できるが、処理能力が大きく、比較的短時間で処理出来る遠心濾過がより好ましい。また、得られたAmSS組成物を水で再結晶精製することにより、さらに不純物を低減することが出来る。この際、系内の総固形分は40.00重量%~55.00重量%、加熱温度は40℃~60℃、冷却及び濾過温度は15℃~25℃が好ましい。
【実施例0028】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0029】
<使用薬剤>
スチレンスルホン酸リチウム(LiSS):東ソー・ファインケム株式会社製、純度85.3%、臭化リチウム2.5重量%、水酸化リチウム0.45重量%、硫酸リチウム0.50重量%、水分7.1重量%、ポリマー分0.04重量%、亜硝酸ナトリウム60ppm
亜硝酸リチウム:本荘ケミカル株式会社製、40重量%水溶液
ジメチルスルホン:富士フィルム和光純薬株式会社製、特級試薬
【0030】
<AmSSの水分の定量>
赤外水分計を用い、下記の条件で測定した。
装置:株式会社ケツト科学研究所製FD-720
条件:サンプルを約5g採取し、120℃×20分加熱した。
【0031】
<AmSSの純度分析>
酸化還元滴定法により、活性二重結合を定量し、AmSS純度とした(即ち、パラ体の他、オルソ、メタ体も含む)。
(1)器具及び装置
1)秤量瓶:直径50mm、深さ70mm
2)500ml、1000mlメスフラスコ
3)500ml共栓付三角フラスコ
3)電子化学天秤
(2)試薬
1)臭素液:臭化カリウム(KBr)22.00g、臭素酸カリウム(KBrO)3.00gを純水に溶解し、全体を1000mlとした。
2)硫酸水溶液(濃硫酸/純水体積比=1/1)
3)ヨウ化カリウム水溶液(200g/L)
4)0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液
5)でんぷん水溶液:6.00gのでんぷんを純水に溶解し、全体を1000mlとした。
(3)操作
1)試料20gを0.1mgの桁まで秤量瓶に秤取る。
2)500mlメスフラスコに純水で洗い移し、液量を約400mlとする。
3)磁気回転子を入れて撹拌し、試料を溶解する。
4)回転子を取り出し、純水で標線を合わせて振り混ぜ、検液とする。
5)純水200mlを入れた500ml共栓付三角フラスコに臭素液25mlを加える。
6)検液5mlを加えた後、硫酸水溶液10mlを加えて密栓し、20分間放置する。
7)ヨウ化カリウム水溶液10mlを素早く加えて10分間放置する。
8)チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定し、溶液の黄色が薄くなってから、指示薬として、でんぷん溶液1mlを加え、生じたヨウ素でんぷんの青色が消えるまで滴定する。
9)別に空試験として、純水200mlを加えて共栓付三角フラスコに臭素液25mlを加え、ヨウ化カリウム水溶液10ml、硫酸水溶液10mlを素早く加え、8)の操作を行う。
(4)計算
次式によってAmSS含量を算出する。
A=100×[0.01006×(a-b)×f]/(S×5/500)
A:AmSS含量(%)
a:空試験に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液(ml)
b:本試験に要したチオ硫酸ナトリウム水溶液(ml)
f:チオ硫酸ナトリウム水溶液の力価
S:試料量(g)
【0032】
<AmSSの元素分析>
元素分析計を用いて炭素、水素、窒素分を定量した
装置:パーキンエルマー社製2400II
【0033】
<AmSSのイオウ分の定量>
酸素フラスコ燃焼法で燃焼させたAmSSの燃焼ガスを、過酸化水素吸収液に吸収させて吸収液を調製した。次に該吸収中の硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフ法で定量し(測定条件は次項目参照)、イオウ分に換算した。
【0034】
<AmSS中の臭素、塩素及び硫酸イオンの定量>
イオンクロマトグラフ法を用い、下記の条件で定量した。
装置:東ソー株式会社製、IC-2010
カラム:TSKgel(登録商標) guard column Super IC-AHS(4.6mmI.D.×1cm) +TSKgel(登録商標) SuperIC-Anion HS(4.6mmI.D.×10cm)
カラム温度:40℃、注入量:30μl、流量:1.5ml/min
溶離液:炭酸緩衝液(7.5mM-NaHCO3+0.8mM-Na2CO3
サンプル液の調製:AmSS組成物を超純水に溶かして10倍希釈し、前処理カートリッジ(TOYOPAK(登録商標) ODSM)に通液して測定試料とした。
検量線:標準液を用いた絶対検量線法
【0035】
<AmSSのリチウム分の分析>
周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置 OPTIMA 8300(パーキンエルマー製)を用いてリチウムを定量した(以下、ICP-AESと略称する)。対象サンプルを硫酸及び硝酸にて湿式分解後し、分解後のサンプルを加熱乾固させた。乾燥サンプルに硝酸を添加して加熱溶解し、所定の量を定容後、内標標準としてスカンジウムを1ppm添加し定量した。
【0036】
<AmSSのポリマー分の分析>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の条件で分析した。
装置:東ソー株式会社製HLC-8320
カラム:TSKgel(登録商標)ガードカラムAW-H/TSKgel(登録商標) Super AW-6000/TSKgel(登録商標) SuperAW-3000/TSKgel(登録商標)SuperAW-2500
溶離液:0.05M硫酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=65/35(体積比)溶液
サンプル:上記溶離液を用いてAmSS組成物の1重量%溶液(有姿)を調製した
流速・注入量・カラム温度:0.6ml/min、注入量:10μl、カラム温度:40℃
検出器:UV検出器(波長230nm)
検量線:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム株式会社製、PS-1)と上記溶離液を用い、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム濃度の異なる標準液を作製し、検量線を作成した。
【0037】
<実施例1>
還流冷却管、滴下ロートを備えた円筒型2Lガラス製セパラブルフラスコに、LiSS粉末541.54g、亜硝酸リチウム(40重量%水溶液)0.48g、イオン交換水745.03gを仕込み、攪拌機を用いて、内温35℃で15分攪拌した。内温を35℃に維持しながら、塩化アンモニウム150.18gをイオン交換水390.06gに溶解した水溶液を、滴下ロートを用いて5分掛けて滴下した(LiSSに対するアンモニウムカチオンの仕込み比は1.16当量、総固形分は35.78重量%)。滴下終了後、反応系内は白色スラリー液となったが、引き続き内温35℃で1時間撹拌を継続した。その後、3時間掛けて5℃まで冷却して1時間熟成を行い、AmSSを含む白色スラリー液を得た。
その後、スラリー液を遠心濾過(600G)することにより、AmSSの白色湿潤晶423.65gを得た。スラリーの脱液性は良好であり、赤外水分計で求めた水分は9.62重量%、酸化還元滴定で求めたAmSS分は89.2重量%だった。
【0038】
AmSS中にリチウム金属が残留した場合、LiSSとして存在する可能性があるが、AmSSとLiSSを識別することは極めて困難である。しかし、AmSS中のリチウム分は0.13重量%まで低減されたこと、及び微細な針状結晶を形成するLiSSに対して、大きな板状結晶になったことから、目的とするAmSSが得られたと判断した。上記反応処方と結果の詳細を表1に纏めた。AmSS中の水分、リチウム分、ハロゲン分、及びポリマー分は、比較例1~4と比べて少なく高純度であることが明らかである。
【0039】
【表1】
【0040】
<実施例2>
実施例1において、反応温度と冷却/濾過温度を変えてAmSSを調製した。処方の詳細と結果は表1に示した通りであり、AmSS中の水分、リチウム分、ハロゲン分、及びポリマー分は、比較例1~4と比べて少なく高純度であることが明らかである。
【0041】
<比較例1~4>
実施例1において、反応温度、冷却/濾過温度、又は総固形分を変えてAmSSを調製した。処方の詳細と結果は表1に示した通りであり、AmSS中の水分、リチウム分、ハロゲン分、及びポリマー分は、実施例と比べて多く低純度であることが明らかである。