(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011913
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】外用アンチエイジング剤、及びその有効成分を含む外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/60 20060101AFI20240118BHJP
A61K 8/00 20060101ALI20240118BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/7034 20060101ALI20240118BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240118BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240118BHJP
A61K 36/898 20060101ALI20240118BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20240118BHJP
A61K 135/00 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
A61K8/60
A61K8/00
A61Q19/08
A61K31/7034
A61P43/00 111
A61P43/00
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K36/898
A61K127:00
A61K135:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114254
(22)【出願日】2022-07-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】508280036
【氏名又は名称】内外香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真由
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB51
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC02
4C086ZC20
4C086ZC52
4C088AB89
4C088AC05
4C088BA10
4C088BA32
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC02
4C088ZC20
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】バニラ由来化合物を含む外用アンチエイジング剤、及び外用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(1)で示されるバニラ由来化合物を外用アンチエイジング剤及び外用組成物の有効成分として用いる。
(式中、R
1は水素原子または水酸基である。)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物を含有する、外用アンチエイジング剤:
【化1】
(式中、R
1は水素原子または水酸基である。)。
【請求項2】
前記外用アンチエイジング剤が、エラスターゼ阻害剤、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進剤、及び皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載する外用アンチエイジング剤。
【請求項3】
一般式(1)で示される化合物を含有する、外用組成物:
【化2】
(式中、R
1は水素原子または水酸基である。)。
【請求項4】
前記外用組成物が、一般式(1)で示される化合物を含むバニラ属植物(Vanilla pompona)の葉及び/又は茎の抽出物を含有するものである、請求項3に記載する外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バニラの地上部(葉、茎)から単離された化合物(以下、本明細書では、「バニラ由来化合物」又は「本発明化合物」とも称する)の新たな用途に関する。より詳細には、皮膚のアンチエイジングに有用なバニラ由来化合物を含む外用アンチエイジング剤、及び外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下組織の順に層で形成されている。表皮の内側にある真皮は平均して2 mm の厚さがあり、主にコラーゲンとエラスチンによって構成される。コラーゲンとエラスチンは線維芽細胞によって生成され、肌の柔軟性と弾力性を保持する重要な役割を果たしている。エラスチン分解酵素であるエラスターゼは、加齢や紫外線、活性酸素、ストレスによる刺激によって誘導されることが知られ、エラスターゼによってエラスチンが分解されると、コラーゲンとエラスチンの架橋構造が脆くなり、肌の弾力が失われ、シワの原因となる。エラスターゼ活性を阻害することで、肌の弾力を回復または維持する効果が期待出来る。
【0003】
また、皮膚真皮の線維芽細胞は、コラーゲン、及びヒアルロン酸といった肌を構成する上で重要な成分を産生する。コラーゲンは、動物の皮膚などの結合組織を形成する構造タンパク質である。コラーゲンは皮膚の強度を保ち、シワのない若々しい肌を保つために重要である。ヒアルロン酸は、細胞外マトリックスの主成分となっており、様々な細胞間相互作用に関与している。ヒアルロン酸は皮膚の水分を保つために必須の要素であり、皮膚はヒアルロン酸を産生し蓄積することで、体内の水分の喪失を防ぐと共に、物理的刺激を防御していると考えられている。このため、線維芽細胞のコラーゲン産生およびヒアルロン酸産生を促進することができれば、瑞々しく、ハリのある皮膚を維持することができると考えられる。
【0004】
従来、バニラ属植物を含むラン科植物の植物抽出物には、活性酸素消去作用及び過酸化脂質生成抑制作用があり、抗酸化剤として有用であること、また保湿作用があり、肌荒れや乾燥肌の改善に有用であることが知られている(特許文献1)。またバニラ抽出物には、PDGF成長因子に対して合成刺激活性があること、皮膚性の加齢の予防又は治療に有用であることが知られている(特許文献2)。しかし、特許文献1には、抗酸化作用及び保湿性の評価に使用されている植物抽出物がバニラ属植物のどの部位の抽出物であるかについての記載及び示唆はなく、不明である。特許文献2も同様である。また特許文献2には、「バニラ抽出物」との記載しかなく、使用した抽出溶媒も不明である。さらに、特許文献1及び2には、植物抽出物中のどの成分が抗酸化作用及び保湿作用、または加齢の予防・治療効果を発揮する有効成分であるかについての説明もない。
【0005】
また、バニラ属植物は、その果実(莢果、青莢、種子鞘、バニラビーズンズ等とも称される)の抽出物に多くの香気成分(バニリン、バニリン酸、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、4-ヒドロキイ安息香酸等)が含まれており、それらの香りが複雑に絡みあうことで甘い独特な芳香(バニラ香料)を有する。
当該バニラ果実の抽出物は、香料のほか、化粧料の保湿成分や活性成分として有用であることが知られている(特許文献3、非特許文献1)。具体的には、特許文献3には、バニラ・プラニフォリアPFA(バニラ・プラニフォリアの果実をシャネル社独自の分離抽出プロセス[ポリフラクショニング:PFA]に供して調製したバニラ果実油)、及びバニラ・プラニフォリア インテンスウォーター(バニラ果実水)等が、化粧料の活性成分として使用できることが記載されている。また非特許文献1には、シャネル社の美容液(オイルクリーム)には、前述するバニラ・プラニフォリアPFA(バニラ果実油)及びバニラ・プラニフォリア インテンスウォーター(バニラ果実水)が保湿成分として配合されていることが記載されている。
また、特許文献4には、バニラ・プラニフォリアの果実の脂溶性画分(油相に溶解し、水相には溶解しない画分)が、老化、老化に関連する生理学的機序、又は該生理学的機序に関連する表皮及び/又は真皮レベルの異常が原因の症状に対して効果を示すこと、具体的には老化を原因とする皮膚劣化に対して予防改善効果を発揮することが記載されている。
このように、バニラ属植物は、その果実抽出が多用されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-205933号公報
【特許文献2】特表2009-539925号公報、段落[0011]
【特許文献3】特表2014-517029号公報、請求項14、段落[0047]
【特許文献4】特表2009-508914号公報、請求項1、段落[0006]、[0008]、及び[0015]
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】シャネル社「サブリマージュ ラ クレーム エモリエントクリーム(美容液/オイル/クリーム) スキンケア エモリエントクリーム」(P144290 1)の紹介サイトhttps://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:Loj-Lp6w7T8J:https://www.duniabangla.com/scrutinyproofeec1907816.htm+&cd=18&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
【非特許文献2】Han, S.W.; Wang, X.J.; Cui, B.S.; Sun, H.; Chen, H.; Ferreira, D.; Li, S.; Hamann, M.T. Hepatoprotective Glucosyloxybenzyl 2-Hydroxy-2-Isobutylsuccinates from Pleione Yunnanensis. Journal of Natural Products 2021, 84, doi:10.1021/acs.jnatprod.0c01117.
【非特許文献3】Li, Y.M.; Zhou, Z.L.; Hong, Y.F. New Phenolic Derivatives from Galeola Faberi. Planta Medica 1993, 59, doi:10.1055/s-2006-959702.
【非特許文献4】Leyva, V.E.; Lopez, J.M.; Zevallos-Ventura, A.; Cabrera, R.; Canari-Chumpitaz, C.; Toubiana, D.; Maruenda, H. NMR-Based Leaf Metabolic Profiling of V. Planifolia and Three Endemic Vanilla Species from the Peruvian Amazon. Food Chemistry 2021, 358, doi:10.1016/j.foodchem.2021.129365.
【非特許文献5】Palama, T.L.; Fock, I.; Choi, Y.H.; Verpoorte, R.; Kodja, H. Biological Variation of Vanilla Planifolia Leaf Metabolome. Phytochemistry 2010, 71, doi:10.1016/j.phytochem.2009.12.011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、皮膚のアンチエイジングに有用なバニラ由来化合物を提供するとともに、当該バニラ由来化合物を含む外用アンチエイジング剤、及び外用組成物を提供することを目的とする。なお、本発明が対象とする外用アンチエイジング剤には、エラスターゼ阻害剤、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進剤、及び皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進剤が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねていたところ、日本国の久留米産のラン科バニラ属植物(Vanilla pompona)の果実部以外の地上部(葉、茎)の含水アルコール抽出物から単離された化合物に、皮膚のアンチエイジングに有用な、エラスターゼ阻害作用、並びに皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進作用、及びヒアルロン酸産生促進作用があることを見出した。またこれらの化合物は、高濃度でもヒト皮膚線維芽細胞の生存率に影響しないことから、皮膚への安全性が高いことが示唆された。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0011】
(I)外用アンチエイジング剤
(I-1)一般式(1)で示される化合物を含有する、外用アンチエイジング剤:
【化1】
(式中、R
1は水素原子または水酸基である。)。
(I-2)前記外用アンチエイジング剤が、エラスターゼ阻害剤、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進剤、及び皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、(I-1)に記載する外用アンチエイジング剤。
(I-3)前記外用アンチエイジング剤が、一般式(1)で示される化合物を含む、バニラ属植物(Vanilla pompona)の葉及び/又は茎の抽出物を含有するものである、(I-1)又は(I-2)に記載する外用アンチエイジング剤。
【0012】
(II)外用組成物
(II-1)一般式(1)で示される化合物を含有する、外用組成物:
【化2】
(式中、R
1は水素原子または水酸基である。)。
(II-2)化粧品、外用医薬部外品または外用医薬品である、(II-1)に記載する外用組成物。
(II-3)前記外用組成物が、一般式(1)で示される化合物を含む、バニラ属植物(Vanilla pompona)の葉及び/又は茎の抽出物を含有するものである、(II-1)又は(II-2)に記載する外用組成物。
(II-4)前記バニラ属植物(Vanilla pompona)が、日本国福岡県久留米市を産地とするものである、(II-3)記載の外用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮膚のアンチエイジングに有用な、エラスターゼ阻害作用、並びに皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進作用、及びヒアルロン酸産生促進作用を有するバニラ由来化合物、及びそれを含むバニラの地上部(但し、果実を除く)の抽出物(以下、これを「バニラ抽出物」と略称する場合がある)を提供することができる。
【0014】
本発明が提供するバニラ由来化合物は、エステラーゼ阻害剤の有効成分として有用であり、当該バニラ由来化合物又はそれを含むバニラ抽出物を含有する外用組成物によれば、そのエステラーゼ阻害作用により、肌弾力性維持、肌弾力性低下抑制、又は肌弾力性回復効果を期待することができる。
【0015】
また本発明が提供するバニラ由来化合物は、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進剤の有効成分として有用であり、当該バニラ由来化合物又はそれを含む又はバニラ抽出物を含有する外用組成物によれば、そのコラーゲン産生促進作用により、シワを防止し、張りのある肌への改善効果を期待することができる。
【0016】
さらに本発明が提供するバニラ由来化合物は、皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進剤の有効成分として有用であり、当該バニラ由来化合物又はそれを含むバニラ抽出物を含有する外用組成物によれば、そのヒアルロン酸産生促進作用により、肌の水分を保持し(保湿)、瑞々しい肌への改善効果を期待することができる。
【0017】
加えて、本発明のバニラ由来化合物は、高濃度でもヒト皮膚線維芽細胞の生存性に影響を与えないことから、外用組成物への配合成分として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実験例1の「本発明化合物の単離」で実施した「画分C10-15のMPLCクロマトグラム」を示す。
図1の枠上に示す数値は分取した画分を示す。図中、「AB」と記載する実線は溶離液のグラジエントカーブ(メタノール濃度)を示す。クロマトグラムで検出された大きなピークのうち、1番目のピークに含まれる画分5-9には本発明が対象とする化合物2が、また3番目のピークに含まれる画分20-23には本発明が対象とする化合物1が各々単一の成分として含まれている。
【
図2】実験例2で行った本バニラ由来化合物(化合物1、化合物2)のエラスターゼ阻害活性評価の結果を示す。
【
図3】(A)は実験例3で行った本バニラ由来化合物(化合物1、化合物2)のコラーゲン産生促進作用評価の結果、(B)は同実験例で行った本バニラ由来化合物(化合物1、化合物2)のヒアルロン酸産生促進作用評価の結果を、それぞれ示す。
【
図4】実験例3で行った本バニラ由来化合物(化合物1、化合物2)の安全性評価の結果を示す。具体的には、本バニラ由来化合物添加によるヒト線維芽細胞の生存率(%)をコントロールとの対比で示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(I)バニラ由来化合物
本発明が対象とするバニラ由来化合物は、下記一般式(1)に示すように、2つのグルコース残基がそれぞれベンジル基を介して、2-イソプロピルリンゴ酸(R
1が水素原子である場合)、若しくはイソプロピル酒石酸(R
1が水酸基である場合)に結合してなる構造を有する。
【化3】
【0020】
前記式(1)中、R1が水素原子である化合物を本明細書では化合物1と称する。化合物1には、bis [4-(β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropyl malateが含まれる。
また、前記式(1)中、R1が水酸基である化合物を本明細書では化合物2と称する。化合物2には、bis [4-(β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropyl tartrateが含まれる。当該化合物は、バニラグルコシドAとしても知られている。
【0021】
これらの化合物は、ラン科バニラ属植物のうち、日本国福岡県久留米産のバニラ(Vanilla pompona)の地上部のうち、葉及び茎に含まれており、その含水アルコールの抽出物から単離することができる。単離方法の詳細は、後述する実験例1に記載する。
【0022】
化合物1及び2(本明細書では、両者を区別することなく「本バニラ由来化合物」と称する)は、後述する実験例2に示すように、ヒト皮膚線維芽細胞由来のエラスターゼ活性を阻害する作用を有する。このため、肌の弾力性維持、肌の弾力性低下抑制、及び/又は肌の弾力性回復に寄与することが期待される。また、本バニラ由来化合物は、後述する実験例2に示すように、ヒト皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生及びヒアルロン酸産生を促進する作用を有する。このため、肌に張りと瑞々しさを与え、シワ防止に寄与することが期待される。
【0023】
(II)外用アンチエイジング剤
本発明の外用アンチエイジング剤は、前述する化合物1及び2の少なくとも1つ(本バニラ由来化合物)を有効成分として含有することを特徴とする。 本発明の外用アンチエイジング剤は、有効成分である本バニラ由来化合物の作用に基づいて、エラスターゼ阻害作用、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進作用、及び皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進作用の中から選択される少なくとも1つの作用を有し、それにより、加齢によって生じる皮膚の弾力性の低下及び/又は瑞々しさの低下を抑制するように作用する。
【0024】
本発明でいう「外用アンチエイジング剤」という用語には、エラスターゼ阻害剤、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進剤、及び皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生促進剤が含まれる。つまり、本発明の外用アンチエイジング剤は、本バニラ由来化合物が有するエラスターゼ阻害作用に基づいてエラスターゼ阻害剤として使用することができる。また、本発明の外用アンチエイジング剤は、本バニラ由来化合物が有する皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用に基づいて、それぞれコラーゲン産生促進剤及びヒアルロン酸産生促進剤として使用することができる。
【0025】
本発明の外用アンチエイジング剤は、後述する外用組成物、好ましくは肌弾力性や保水性を保持し、シワを防止することで、加齢に伴う皮膚の老化を抑制または改善する作用を有するアンチエイジング用の外用組成物を調製するための原料(有効成分含有原料)として用いることができる。
【0026】
本発明の外用アンチエイジング剤は、本バニラ由来化合物を精製された状態で含むものであってもよい。しかし、本バニラ由来化合物は、前述するように、久留米産バニラ(Vanilla pompona)の地上部である葉及び茎に含まれている成分であるため、前述する作用が損なわれないことを限度として、その葉及び/又は茎の抽出物またはその粗精製物を含むものであってもよい。但し、植物抽出物またはその粗精製物は、本バニラ由来化合物を含み、前述する作用を有するとともに、安全性の点から外用に適したものであればよく、原料と使用する植物は必ずしもバニラ(Vanilla pompona)である必要はない。
本発明の外用アンチエイジング剤は、好ましくは精製された本バニラ由来化合物を含むか、または本バニラ由来化合物を植物抽出物から分画し濃縮した状態で含む本バニラ由来化合物含有画分を含有するものである。
【0027】
外用アンチエイジング剤中に含まれる本バニラ由来化合物の量は、エラスターゼ阻害剤、コラーゲン産生促進剤、及びヒアルロン酸産生促進剤の各用途に応じて、外用組成物に添加配合した場合に、これらの各作用を発揮する割合であればよく、1~100質量%の範囲から適宜設定することができる。
【0028】
(III)外用組成物
本発明の外用組成物は、前述する化合物1及び2の少なくとも1つ(本バニラ由来化合物)を有効成分として含有することを特徴とする。本バニラ由来化合物を含む原料として、前述する外用アンチエイジング剤(エラスターゼ阻害剤、コラーゲン産生促進剤、又はヒアルロン酸産生促進剤)を用いることもできる。
本発明の外用組成物は、本バニラ由来化合物が有するアンチエイジング作用(エラスターゼ阻害作用、コラーゲン産生促進作用、又はヒアルロン酸産生促進作用)に基づいて、肌弾力性や保水性を保持し、シワを防止することで、皮膚老化を抑制または改善する作用を有するアンチエイジング用の外用組成物として調製することができる。
【0029】
本発明の外用組成物中に含まれる本バニラ由来化合物の割合は、外用組成物をヒト皮膚線維芽細胞に適用することで、当該細胞におけるエラスターゼ活性を抑制する作用を発揮するか、または、当該細胞でのコラーゲン産生及び/又はヒアルロン酸産生が促進され、コラーゲン量及び/又はヒアルロン酸量を増加させる作用が発揮される割合であればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。通常0.00001~80重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.0001~30重量%、より好ましくは0.001~20重量%である。皮膚線維芽細胞におけるエラスターゼ阻害活性、コラーゲン産生量、ヒアルロン酸産生量の測定及び評価方法は、後述する実験例2及び3に記載の通りであり、この記載に従って実施することができる。好ましくは、本バニラ由来化合物が有する前記作用に基づいて、加齢による肌劣化症状(皮膚老化症状)が抑制または/および改善できる量である。
【0030】
本発明の外用組成物には、外用の医薬品、医薬部外品または化粧品が含まれる。好ましくは化粧料である。
【0031】
本発明の外用組成物は、種類や用途に応じて、固形剤、半固形剤(クリーム剤を含む)、液剤、及び乳液剤等の各種剤形の組成物に調製することが可能である。
【0032】
外用の医薬品または医薬部外品としての形態としては、例えば、硬膏剤、軟膏剤、クリーム剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、乳液剤、液剤、エアゾール剤を挙げることができる。
【0033】
化粧品としての形態は特に限定されるものではないが、例えばスキンケア化粧品として化粧水、美容液、パック、マッサージクリーム、乳液、モイスチャークリーム、リップクリーム等;メーキャップ化粧品としてファンデーション、白粉、口紅、ほほ紅、アイシャドウ等とすることができる。上記化粧品には、一般に化粧品に用いられている各種化粧品成分を適宜配合することができる。好ましくは、制限されないものの、上記の理由から乳液やクリーム等の乳化物の形態を有する組成物である。
【0034】
本発明の外用組成物には、所望の効果を損なわない範囲で、通常の外用組成物に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、アミノ酸類、ビタミン類、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、抗炎症剤、肌荒れ改善剤、ニキビ用薬剤、アルカリ類、キレート剤の成分を配合することもできる。また、皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)を配合することもできる。皮膚吸収促進剤(皮膚浸透促進剤)としては、本発明化合物の経皮浸透性を高め、皮膚線維芽細胞への吸収を促進する作用を有するものを使用することができる。かかるものとして、例えば、各種の界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性界面活性剤)、脂肪酸・脂肪酸エステル(オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、中鎖脂肪酸トリグリセライド等)、生分解性促進剤(アルキルエステル、アミノカプロン酸)、その他、アミノ酸、テルペン類、ピロリドン類、尿素、リン脂質、各種の溶媒(ポリオール、低級アルコール、高級アルコール、ジメチルスルホキシド等)を制限なく例示することができる。
【0035】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0036】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0037】
実験例1 本発明化合物の単離と同定
(1)本発明化合物の単離
日本国福岡県久留米市産のバニラ(Vanilla pompona)の葉を、凍結乾燥(-50℃、40 pa)した後、ミルミキサーにて粉砕した。粉砕したサンプルに90%メタノール水溶液を加え、ソックスレー抽出を行った。ロータリーエバポレーターにて抽出後の溶媒を留去し、メタノール抽出物を得た。
【0038】
メタノール抽出物の分画には、順相シリカゲルまたは逆相C18フラッシュカラムクロマトグラフィーを備えた超高速フラッシュ自動精製システム(Biotage[登録商標] selekt:バイオタージ・ジャパン株式会社製)を使用した。化合物の精製は、分取クロマトグラフィーシステム(MPLC)Pure C-850 Flash prep[登録商標](BUCHI社製)を用い、UVおよびELSD検出器で行った。分析用TLCは、プレコートシリカゲル60 GF254(20×20 cm、膜厚0.2 mm) またはアルミニウムシート上のプレコートRP-C18 F254プレート(5×7.5 cm、膜厚0.2 mm)で実施した。分析用TLCプレートを適切な溶媒で展開し、254 nmと366 nmの紫外吸光下で検出されるスポットを観察した。さらに、バニリン/硫酸試薬をスプレーして可視化した後、110℃に予熱したオーブンで5分間温め、硫酸発色で検出されるスポットを観察した。
【0039】
得られた画分について、ロータリーエバポレーターにて溶媒を留去し、各分画物の収量を測定した。その結果、最も収量が多かった画分について、再度、MPLCを用いて異なる溶媒条件により粗分画を行い、85画分(A1-15、B1-15、C1-9、C10-15、D1-15、E1-15、F1-10)を得た。
順相TLCにおいてUV(254nm)スポットが確認された画分C10-15について、再度、逆相条件でのMPLCにより分画を行った。溶離液には水とメタノールを用いてグラジエント条件にて含有成分を溶出させた。MPLC 検出器として、UV 検出器(検出波長:220、254、280、365 nm)及びELSD 検出器を用いた。
【0040】
画分C10-15のMPLCクロマトグラムを
図1に示す。
図1の枠上に示す間隔で59つの画分を分取し、各画分を逆相TLCに供して、その プロファイル(UV波長:254nm)を確認した。その結果、MPLCクロマトグラム(
図1)で検出された大きなピークのうち、1番目のピークに含まれる画分5-9、及び3番目のピークに含まれる画分20-23について検出されたUVスポットは、いずれも単一であり、これらの画分には各々単一の成分が含まれていることが確認された。
【0041】
(2)単離成分の同定
前記で単離された成分(画分5-9、画分20-23)について、その旋光をJasco P-2200 偏光計(日本分光株式会社製)で測定した。また、1次元NMRスペクトルを、Bruker DRX 600 NMR spectrometer(Bruker社製)で取得した(内部標準:テトラメチルシラン)。さらに高分解能MS データをLC-MS-IT-TOFを用いて取得した。
次いで、1次元NMRデータ、質量分析結果、及び先行文献で報告されているNMRスペクトルと比較することにより同定を行った。
その結果、後述するように、画分20-23の成分は、下記式(a)に示す構造を有するbis [4-(β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropylmalate(化合物1)であると同定した。また、画分5-9の成分は、下記式(b)に示す構造を有するbis [4-(β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropyl tartrate(化合物2)であると同定した。
【0042】
【0043】
化合物1および2の1Hおよび13C NMR データ(DMSO-d6、δ in ppm)を表1に示す。
【0044】
【0045】
(a)化合物1の同定
化合物1は非晶質の白色粉末として得られ、旋光度は[α]20D -42.3 (c 0.48、 メタノール溶媒)であった。高分解能MS分析では、分子式C33H44O17に対応するm/z: 711.2509に脱プロトン化分子イオンピーク[M-H]-が観察された。
1H 及び13C- NMR データにより、δH 2.61(J=15.6) 及び2.85(J=15.6) に2つのメチレンダブレット、δc173.9及び170.0に2つのエステルカルボニル、δc 41.8及び77.3に2つの炭素が観測された。さらに、0.73 (6.9) と0.82 (6.9) に2つのメチルダブレット、δH1.83にメチンが観測された。これまでのデータから2-イソプルピル-リンゴ酸部位の存在が示唆されている(非特許文献2)。1H-NMRでは、2組のAA'BB' シグナルがδH 7.27、2H (J=8.8) 7.28、2H (J=8.8), 7.01、4H (J=8.7) で重なり、4つのメチレンプロトンがδH 4.94 (J=12.4) で示された。94(J=12.4)、4.95 (J=12.4)、4.9(J=12.0)、5.05, H, d, (J=12.0) であり、2つの1,4-二置換ベンジルユニットの存在が示唆された。また、δH4.85 (J=7.2) 及び4.86 ppm (J=7.6) に2つのアノマー原子を示した。δc 100.28、100.30、73.2、76.6、69.7、77.0及び60.7のシグナルは、糖部分としてグルコースが示唆された(非特許文献2)。
これらのデータ及び先行文献(非特許文献3)に基づき、化合物1 は、前述するようにbis [4-(β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropylmalateと同定された。
【0046】
(b)化合物2の同定
化合物 2は、非晶質の白色粉末として得られ、旋光度は [α]20D -33.8 (c 0.48, メタノ ール溶媒 )であった。高分解能MS分析では、分子式C33H44O18に対応するm/z: 727.2458に脱プロトン化分子イオンピーク[M-H]- が観察された。
1H および13C- NMR データは、δH 2.61 (J=15.6) 及び2.85 (J=15.6) の2つのメチレンダブレットが、δH 4.47, H, d (J=7.7) の酸素含有メチンに置換されている以外は化合物1のNMRスペクトルと同様であった。このことから、化合物2は、前述するようにbis 4-[β-D-O-glucopyranosyloxy)-benzyl]-2-isopropyl tartrateと同定された。当該化合物2は、一般名バニラグルコシドAとしても知られている(非特許文献4及び5) 。
【0047】
実験例2 本バニラ由来化合物のエラスターゼ阻害活性の評価
本実験では、本バニラ由来化合物(化合物1、及び2)のエステラーゼ阻害活性を測定することで、本バニラ由来化合物が有する肌弾力保持作用(肌弾力低下抑制作用を含む)を評価した。本バニラ由来化合物のエステラーゼ阻害活性は、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad)由来エラスターゼを用い、本バニラ由来化合物の存在下、N-Succinyl- Ala-Ala-Ala-p-nitroanilideを基質として生成したニトロアニリン量を測定してエステラーゼ活性(測定値)を測定し、その測定値を、別途、本バニラ由来化合物に代えて、コントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)、及びポジティブコントロールとしてホスホラミドン(既知のエラスターゼ阻害剤)を用いてそれぞれ測定したエステラーゼ活性(コントロール値、ポジティブコントロール値)と比較することで評価した。
【0048】
(1)実験方法
(1-1)細胞溶解液の準備
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad)は、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(高グルコース)(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10 %ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10 cmディッシュにてCO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)内で培養した。
前培養した細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、細胞溶解液(0.2 M Tris-HCl (pH8.0) containing 1 mM PMSF and .5% Triton X-100)にて1.0×106 cells/mlに再懸濁した。その後、超音波処理を行い、遠心(13,000 rpm、4℃、15分間)した後、上清(cell lysate)を回収した。
【0049】
(1-2)エラスターゼ活性の測定
前記で回収した上清12.5 μlに、0.2 Mトリス塩酸緩衝液(pH 8.0)35.5 μl、及び各被験物質(化合物1、化合物2、ホスホラミドン、DMSO)を下記に示す濃度になるようにそれぞれ2 μl混合し、37℃で15分間インキュベートした(被験試料:被験試料1、被験試料2、ポジコン試料、コントロール試料)。
【0050】
[各被験物質の終濃度]
化合物1:4、40、200、400、800μM(各々3、28、142、285、570μg/mLに該当)
化合物2:4、40、200、400、800μM(各々3、29、145、291、582μg/mLに該当)
ホスホラミドン(既知のエステラーゼ阻害剤):10、25、50、100μM
【0051】
その後、各被験試料に、5 mM 基質(N-Succinyl-Ala-Ala-Ala-p-nitroanilide)を50 μl添加し、37℃、24時間インキュベートした。次いで、得られた各被験試料の405 nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し、各被験試料のエラスターゼ活性を算出した。
【0052】
(2)実験結果
図2に、ポジコン試料(ホスホラミドン)、被験試料1(化合物1)、及び被験試料2(化合物2)のエラスターゼ活性を示す(平均値±SD, n=3, *p<0.05, **p<0.01) 。
図2に示すエラスターゼ活性(%)は、コントロール試料のエラスターゼ活性(コントロール値)を100%とした場合の相対比である。
図2に示すように、化合物1及び2の添加により、コントロールと比較して有意にエラスターゼ活性の減少(エラスターゼ阻害活性)が認められた。化合物1及び2はいずれも濃度依存的にエラスターゼ阻害活性を示した。エラスターゼ阻害のIC
50は、ホスホラミドンで0.04 ng/mL (64.4 nM)、化合物1で296.09μg/mL (415.7μM)、化合物2で426.10μg/mL (585.1μM)であった。
【0053】
以上の結果より、バニラ(Vanilla pompona)由来単離化合物である化合物1及び2には、エラスターゼ阻害活性があり、肌の弾力回復または維持に寄与し、また抗シワ効果を持つことが示唆された。
【0054】
実験例3 本バニラ由来化合物のコラーゲン及びヒアルロン酸産生促進作用の評価、並びに安全性評価
本実験では、ヒト線維芽細胞に本バニラ由来化合物(化合物1、及び2)を添加し、ヒト線維芽細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸の産生量の変化を測定することで、本バニラ由来化合物が有するコラーゲンおよびヒアルロン酸の産生促進作用、それに基づく抗シワ作用、及び肌の水分保持作用を評価した。
また、本バニラ由来化合物存在下で培養した後のヒト線維芽細胞の生存率を測定することで、本バニラ由来化合物の安全性を評価した
【0055】
(1)実験方法
(1-1)細胞の調製
成人ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad)をモデル細胞として用いた。NHDF-Ad細胞は、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(高グルコース)(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10 %ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10 cmディッシュにて前培養した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、96穴プレートに0.5×104 cells/wellの濃度で播種しCO2インキュベーター(37℃, 5% CO2)でオーバーナイト培養した。
【0056】
(1-2)被験物質の添加
前記オーバーナイト培養後、各被験物質を下記の濃度で含む無血清培地(含1 %ペニシリン-ストレプトマイシン)に交換し、CO2インキュベーターにて72時間培養した。
【0057】
[各被験物質の終濃度]
化合物1:50μM(35.6μg/mLに該当)
化合物2:50μM(36.4μg/mLに該当)
コントロール:DMSO
【0058】
(1-3)ヒアルロン酸産生促進評価試験およびコラーゲン産生促進評価試験
各被験物質添加72時間後の培養上清を回収し、培養上清中のコラーゲン量及びヒアルロン酸量をそれぞれ下記に記載する市販のELISAキットにて測定した。
コラーゲン量:Human Collagen Type I ELISA aasay, ACEL
ヒアルロン酸量:QnE Hyaluronic acid Quantitative ELISA assay, Biotech Trading Partner
【0059】
(1-4)安全性評価(細胞生存率の測定)
各被験物質添加72時間後の培地中の細胞生存率を、Cell Counting kit-8(同仁化学)を用いて測定した。
培養上清を除去した96ウェルプレートへDMEM(高グルコース、含1 %ペニシリン-ストレプトマイシン)を100 μL加えた。次いで、各ウェルにCCK-8液3 μL添加し、CO2インキュベーターにて1時間静置培養した。細胞上清を90 μlずつ96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーで450 nmにおける吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。
【0060】
(2)実験結果
(2-1)ヒアルロン酸産生促進およびコラーゲン産生促進評価
図3(A)及び(B)に、被験物質として本バニラ由来化合物(化合物1、化合物2)を添加した培養上清中のコラーゲン量(コラーゲン産生量)及びヒアルロン酸量(ヒアルロン酸産生量)をそれぞれ示す(平均値±SD, n=3, *p<0.1, **p<0.05)。
図3(A)及び(B)で示すコラーゲン産生量及びヒアルロン酸産生量は、本バニラ由来化合物に代えてDMSOを添加した培養上清中のコラーゲン量及びヒアルロン酸量(コントロール値)を100%とした場合の相対比である。
図3(A)及び(B)に示すように、本バニラ由来化合物はいずれも50 μMでコラーゲンおよびヒアルロン酸産生促進作用を示した。
【0061】
(2-2)安全性評価(細胞生存率)
図4に、本バニラ由来化合物(化合物1,化合物2)添加による成人ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF-Ad細胞)の生存率(%)を示す(n=3、平均値±SD)。
図4に示すように、本バニラ由来化合物をNHDF-Ad細胞を添加した場合、高濃度でも細胞生存率に影響がなく、本バニラ由来化合物の安全性が確認された。
【0062】
以上の結果より、バニラ(Vanilla pompona)由来単離化合物である化合物1及び2は、細胞毒性のない安全性の高い物質であるとともに、コラーゲンおよびヒアルロン酸産生促進効果があり、肌の抗シワ効果、及び水分保持効果(保湿効果)を持つことが示唆された。