IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ HOYA株式会社の特許一覧

特開2024-119143反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法
<>
  • 特開-反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法 図1
  • 特開-反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119143
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240827BHJP
   G03F 1/26 20120101ALI20240827BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025832
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BB03
2H195BC05
2H195CA01
2H195CA22
(57)【要約】
【課題】薄膜が有する光学特性の膜厚依存性や密度依存性を極力抑えた反射型マスクブランクを提供する。
【解決手段】反射型マスクブランクは、基板と、前記基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された薄膜とを有し、光の波長13.525nmから13.550nmにおける前記薄膜の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ4%/nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に形成された薄膜と
を有する反射型マスクブランクであって、
光の波長13.525nmから13.550nmにおける、前記薄膜の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ4%/nm以下であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記薄膜が、Ru、Cr、Pt及びTaから選ばれる少なくとも1つを含む材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜が、入射した光の位相をシフトさせる位相シフト膜であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
EUV光に対する前記薄膜の反射率が2%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記反射率の変化率が-10%/nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記薄膜の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量又は前記薄膜の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記薄膜の反射率スペクトルの波長13nmから14nmにおいて、最大反射率となる波長をλmaxとし、前記反射率が前記最大反射率の1/2となる波長のうち最も13.53nmに近い2つの波長の平均値をCWとしたとき、λmaxとCWとの差が0.05nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
基板と、
前記基板上に形成された多層反射膜と、
前記多層反射膜上に設けられ、転写パターンが形成された薄膜と
を有する反射型マスクであって、
光の波長13.525nmから13.550nmにおける、前記薄膜の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ4%/nm以下であることを特徴とする反射型マスク。
【請求項9】
前記薄膜が、Ru、Cr、Pt及びTaから選ばれる少なくとも1つを含む材料からなることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項10】
前記薄膜が、入射した光の位相をシフトさせる位相シフト膜であることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項11】
EUV光に対する前記薄膜の反射率が2%以上であることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項12】
前記反射率の変化率が-10%/nm以上であることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項13】
前記薄膜の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量又は前記薄膜の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項14】
前記薄膜の反射率スペクトルの波長13nmから14nmにおいて、最大反射率となる波長をλmaxとし、前記反射率が前記最大反射率の1/2となる波長のうち最も13.53nmに近い2つの波長の平均値をCWとしたとき、λmaxとCWとの差が0.05nm以下であることを特徴とする、請求項8に記載の反射型マスク。
【請求項15】
請求項1から7のいずれかに記載の反射型マスクブランクを用いて製造された、転写パターンを有する反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記転写パターンを露光転写することを含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項16】
請求項8から14のいずれかに記載の反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記転写パターンを露光転写することを含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造等に使用される反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに前記反射型マスクを用いる半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造における露光装置の光源の種類は、波長436nmのg線、波長365nmのi線、波長248nmのKrFレーザ、及び波長193nmのArFレーザと、波長を徐々に短くしながら進化してきている。より微細なパターン転写を実現するため、波長13.5nm近傍の極端紫外線であるEUV(Extreme Ultra Violet)光を用いたEUVリソグラフィが提案されている。EUVリソグラフィでは、EUV光に対する材料間の吸収率の差が小さいことなどから、反射型のマスクが用いられる。反射型マスクとしては、例えば、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、当該多層反射膜の上に露光光を吸収する薄膜(吸収体膜又は位相シフト膜)がパターン状に形成されたものが提案されている。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光は、薄膜パターンのある部分では吸収され、薄膜パターンのない部分では多層反射膜により反射されることにより、光像が反射光学系を通して半導体基板上に転写されるものである。薄膜が位相シフト膜である場合、位相シフト膜パターンに入射する露光光の一部が、多層反射膜により反射される光との位相差を有して反射され(位相シフト)、これにより所望のコントラスト(解像度)を得ることができる。
【0003】
このようなEUVリソグラフィ用の反射型マスク及びこれを作製するための原版であるマスクブランクに関連する技術が、例えば特許文献1、2などによって開示されている。
【0004】
特許文献1には、ハーフトーンマスクの原理をEUV露光に適用して転写解像性を向上させるために、単層膜からなるハーフトーン膜(位相シフト膜)の材料を、屈折率及び消衰係数を座標軸とする平面座標で示す図において所定の領域から選択することが記載されている。具体的な単層膜の材料としては、TaMo(組成比1:1)が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ハーフトーン型EUVマスクにおいて、反射率の選択性の自由度及び洗浄耐性の高さを持ち、射影効果(シャドーイング効果)を低減させるために、ハーフトーン膜の材料をTaとRuとの化合物とし、その組成範囲を規定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-228766号公報
【特許文献2】特許第5233321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反射型マスクブランク、及び反射型マスクブランクに転写パターンを形成して得られる反射型マスクは、基板上への多層薄膜の蒸着、レジスト膜の形成、パターンエッチング及び洗浄など、様々な多数の工程を経て製造される。このようなマスクブランク及びマスクの製造ラインにおいては、通常、ロット間での製造条件の変動を極力抑えるために高度の品質管理がなされている。しかし、如何に品質管理が徹底されていたとしても、製造条件の僅かな変動や、その製造過程において生じる不測のダメージなどに由来して、薄膜(位相シフト膜)の膜厚や密度などの実際の値と設計値との間にずれが生じ、その結果、マスクブランク若しくはマスクの面内又は個体間において、位相シフト量などの光学特性に誤差やばらつきが生じることがある。
【0008】
そのような薄膜(位相シフト膜)の膜厚や密度の変動に起因するマスクの光学特性のばらつきは、その露光特性にも影響を及ぼすことから、特に微細で高い精度が求められるEUVリソグラフィにおいては、そのような誤差やばらつきは極力少ないほうが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、例えば位相シフト量などの薄膜が有する光学特性の膜厚依存性や密度依存性を極力抑えたことで、高品質で安定的な製造が確保できる反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに前記反射型マスクを用いる半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)
本発明の構成1は、基板と、前記基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に形成された薄膜とを有する反射型マスクブランクであって、光の波長13.525nmから13.550nmにおける、前記薄膜の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ4%/nm以下であることを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0012】
(構成2)
本発明の構成2は、前記薄膜が、Ru、Cr、Pt及びTaから選ばれる少なくとも1つを含む材料からなることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0013】
(構成3)
本発明の構成3は、前記薄膜が、入射した光の位相をシフトさせる位相シフト膜であることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0014】
(構成4)
本発明の構成4は、EUV光に対する前記薄膜の反射率が2%以上であることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0015】
(構成5)
本発明の構成5は、前記反射率の変化率が-10%/nm以上であることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0016】
(構成6)
本発明の構成6は、前記薄膜の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量又は前記薄膜の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0017】
(構成7)
本発明の構成7は、前記薄膜の反射率スペクトルの波長13nmから14nmにおいて、最大反射率となる波長をλmaxとし、前記反射率が前記最大反射率の1/2となる波長のうち最も13.53nmに近い2つの波長の平均値をCWとしたとき、λmaxとCWとの差が0.05nm以下であることを特徴とする、構成1に記載の反射型マスクブランクである。
【0018】
(構成8)
本発明の構成8は、基板と、前記基板上に形成された多層反射膜と、前記多層反射膜上に設けられ、転写パターンが形成された薄膜とを有する反射型マスクであって、光の波長13.525nmから13.550nmにおける、前記薄膜の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ4%/nm以下であることを特徴とする反射型マスクである。
【0019】
(構成9)
本発明の構成9は、前記薄膜が、Ru、Cr、Pt及びTaから選ばれる少なくとも1つを含む材料からなることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0020】
(構成10)
本発明の構成10は、前記薄膜が、入射した光の位相をシフトさせる位相シフト膜であることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0021】
(構成11)
本発明の構成11は、EUV光に対する前記薄膜の反射率が2%以上であることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0022】
(構成12)
本発明の構成12は、前記反射率の変化率が-10%/nm以上であることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0023】
(構成13)
本発明の構成13は、前記薄膜の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量又は前記薄膜の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0024】
(構成14)
本発明の構成14は、前記薄膜の反射率スペクトルの波長13nmから14nmにおいて、最大反射率となる波長をλmaxとし、前記反射率が前記最大反射率の1/2となる波長のうち最も13.53nmに近い2つの波長の平均値をCWとしたとき、λmaxとCWとの差が0.05nm以下であることを特徴とする、構成8に記載の反射型マスクである。
【0025】
(構成15)
本発明の構成15は、構成1から7のいずれかに記載の反射型マスクブランクを用いて製造された、転写パターンを有する反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記転写パターンを露光転写することを含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。
【0026】
(構成16)
本発明の構成16は、構成8から14のいずれかに記載の反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記転写パターンを露光転写することを含むことを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、反射型マスクブランクに形成される薄膜、特に位相シフト膜における光学特性(例えば位相シフト量)の膜厚依存性又は密度依存性を低減することができる。これにより、反射型マスクブランク及び/又は反射型マスクの製造工程において、位相シフト膜の膜厚や密度に設計値からの若干の変動が生じたとしても、所望の光学特性(位相シフト量)を有する高品質の反射型マスクブランク及び反射型マスクを安定的に製造することができる。
【0028】
また、本発明の半導体デバイスの製造方法によれば、所望の光学特性を有する高品質の反射型マスクをEUV露光に用いることができるので、微細かつ高精度の転写パターンを有する半導体デバイスの品質を安定的に保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】反射型マスクブランクの概略構成を説明するための要部断面模式図である。
図2】反射型マスクブランクから反射型マスクを作製する工程を要部断面模式図にて示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0031】
<反射型マスクブランク100の構成及びその製造方法>
図1は、本実施形態の反射型マスクブランク100の構成を説明するための要部断面模式図である。図1に示されるように、反射型マスクブランク100は、マスクブランク用基板1(以下、単に「基板1」という。)と、第1主面(表面)側に形成された露光光であるEUV光を反射する多層反射膜2と、当該多層反射膜2を保護するために設けられ、後述する薄膜(位相シフト膜4)をパターニングする際に使用するエッチャントや、洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される保護膜3と、薄膜として、EUV光を吸収する位相シフト膜(「吸収膜」という場合がある。)4とを有し、これらがこの順で積層されるものである。また、基板1の第2主面(裏面)側には、静電チャック用の裏面導電膜5が形成される。本明細書において、薄膜を位相シフト膜としている場合があるが、薄膜はいわゆるバイナリ膜であってもよい。また、EUV光は、波長13.5nmの光を含み、例えば波長13nmから14nmの光である。本明細書において、光とは可視光だけでなく電磁波も含む。
【0032】
本明細書において、薄膜の反射率(絶対反射率)とは、基板上に形成した多層反射膜上に薄膜が形成された状態での薄膜の表面からの絶対反射率を意味し、薄膜の相対反射率も同様である。また、本明細書において、多層反射膜の反射率とは、基板上に多層反射膜を形成した状態での多層反射膜の表面からの反射率を意味する。本明細書における反射率(絶対反射率および相対反射率)は、薄膜あるいは多層反射膜に対するEUV光の入射角が、反射型マスクあるいは反射型マスクブランクから製造された反射型マスクを用いてパターン転写する際の露光で用いられるEUV光の照射対象に対する入射角と同じである場合の値を意味する。パターン転写する際のEUV光源の光は、照明光学系を介して反射型マスク200の主表面に垂直な面に対して、例えば6°から8°傾けた角度で反射型マスク200に照射される。薄膜あるいは多層反射膜に対するEUV光の入射角は、特に限定されないが、例えば6度とすることができる。
【0033】
本明細書において、例えば「マスクブランク用基板1の主表面の上に多層反射膜2を有する」とは、多層反射膜2が、マスクブランク用基板1の表面に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板1と、多層反射膜2との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。例えば「膜Aの上に膜Bを有する」とは、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する他、膜Aと膜Bとの間に他の膜を有する場合も含む。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0034】
以下、反射型マスクブランクの構成を各層ごとに説明する。
【0035】
<<基板1>>
基板1は、EUV光による露光時の熱による転写パターン(位相シフトパターン4a)の歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO-TiO系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0036】
基板1の転写パターン(位相シフトパターン4a)が形成される側の第1主面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板1の第1主面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の第2主面は、露光装置にセットするときに静電チャックされる面である。基板1の第2主面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク100における第2主面側の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。なお、本明細書において、平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。この値は、基板1の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板1の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板1の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0037】
また、基板1の表面平滑度も高いことが好ましい。転写パターンである位相シフトパターン4aが形成される基板1の第1主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0038】
更に、基板1は、その上に形成される膜(多層反射膜2など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0039】
<<多層反射膜2>>
多層反射膜2は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を有するものであり、屈折率の異なる物質を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜の構成となっている。
【0040】
一般的には、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に30から60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜2として用いられる。多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよいし、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜2の最表面の層、即ち多層反射膜2の基板1と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上記の多層膜において、基板1から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜2の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい反射型マスク200の反射率が減少することがある。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層を更に形成して多層反射膜2とすることが好ましい。一方、上記の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となるので、そのままでよい。
【0041】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)を含むSi化合物でもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィ用反射型マスク200が得られる。また、本実施形態において基板1としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光に対する多層反射膜2としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に30から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜2の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成してもよい。
【0042】
このような多層反射膜2の反射率は、波長13nmから14nmのEUV光に対して、例えば65%以上であり、上限は73%であることが好ましい。なお、多層反射膜2の各構成層の膜厚、周期は、露光波長により適宜選択すればよく、ブラッグ反射の法則を満たすように選択される。多層反射膜2において高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士、そして低屈折率層同士の膜厚が同じでなくてもよい。また、多層反射膜2の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0043】
多層反射膜2は、当該技術分野において公知の方法によって形成することができる。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜2の各層を成膜することで形成できる。Mo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、先ずSiターゲットを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板1上に成膜し、その後Moターゲットを用いて厚さ3nm程度のMo膜を成膜し、これを1周期として、30から60周期積層して、多層反射膜2を形成する(最表面の層はSi層とする)。また、多層反射膜2の成膜の際に、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜2を形成することが好ましい。
【0044】
<<保護膜3>>
後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜2を保護するために、多層反射膜2の上に、又は多層反射膜2の表面に接して保護膜3を形成することができる。また、電子線(EB)を用いた位相シフトパターン4aの黒欠陥修正の際の多層反射膜2の保護も兼ね備える。ここで、図1では保護膜3が1層の場合を示しているが、2層あるいは3層以上の積層構造とすることもできる。保護膜3は、位相シフト膜4をパターニングする際に使用するエッチャント、及び洗浄液に対して耐性を有する材料で形成される。多層反射膜2上に保護膜3が形成されていることにより、多層反射膜付き基板を用いて反射型マスク200(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜2の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、多層反射膜2のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0045】
以下では、保護膜3が、1層の場合を例に説明する。なお、保護膜3が複数層含む場合には、位相シフト膜4との関係において、保護膜3の最上層(位相シフト膜4に接する層)の材料の性質が重要になる。また、位相シフト膜4が複数層含む場合には、保護膜3(の最上層)との関係において、位相シフト膜4の最下層(保護膜3に接する層)の材料の性質が重要になる。
【0046】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、保護膜3の材料として、保護膜3の上に形成される位相シフト膜4をパターニングするためのドライエッチングに用いられるエッチングガスに対して、耐性のある材料を選択することができる。
【0047】
保護膜3は、例えば、Ru(ルテニウム)を主成分として含む材料(主成分:50原子%以上)により構成されることができる。Ruを主成分として含む材料は、Ru金属単体、RuとNb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co、Cr、Rh及び/又はReなどから選ばれる1以上の金属とを含有したRu合金、又はそれらの材料に窒素(N)、酸素(O)が含まれる材料であることができる。また、保護膜14を3層以上の積層構造とし、最下層と最上層を、上記Ruを主成分として含む材料からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものとすることができる。
【0048】
EUVリソグラフィでは、EUV露光によってマスクにカーボン膜が堆積したり、酸化膜が成長するといったコンタミネーションが起こることがある。そのため、反射型マスクを半導体デバイスの製造に使用している段階で、度々洗浄を行って反射型マスク上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このため、反射型マスクでは、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いの洗浄耐性が要求されている。反射型マスク200が保護膜3を有することにより、洗浄液に対する洗浄耐性を高くすることができる。
【0049】
保護膜3の膜厚は、多層反射膜2を保護するという機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜3の膜厚は、好ましくは1.0nmから8.0nm、より好ましくは1.5nmから6.0nmである。
【0050】
保護膜3の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0051】
<<位相シフト膜4>>
本実施形態において、保護膜3の上には、薄膜として、EUV光の位相をシフトする位相シフト膜4が形成される。位相シフト膜4は、単層膜でもよく、複数の層を含む積層膜であってもよい。該積層膜は、下層および下層上に形成された上層を含むことができる。下層は、例えばバッファ層とすることができる。下層は、さらに複数の層を含んでもよい。上層も同様である。位相シフト膜4(位相シフトパターン4a)が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。一方、開口部(位相シフト膜4がない部分)では、EUV光が、保護膜3を介して多層反射膜2から反射する。位相シフト膜4は、多層反射膜2の表面からの反射光と位相シフト膜4の表面からの反射光とが、所定の位相差(これを「位相シフト量」ともいう。)となるように形成される。例えば互いに100~300°の範囲内の位相差を有する光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上にともなって解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度が拡がる。
【0052】
反射型マスクブランク100または反射型マスク200にEUV光を照射したとき、多層反射膜2からの反射光に対する位相シフト膜4の反射光の位相差の下限は、100度以上であり、好ましくは150度以上、より好ましくは180度以上、更に好ましくは200度以上である。また、多層反射膜2からの反射光に対する位相シフト膜4の反射光の位相差の上限は、310度以下であればよく、好ましくは300度以下、より好ましくは280度以下、更に好ましくは250度以下である。
【0053】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、EUV光に対する位相シフト膜4(位相シフトパターン4a)の表面からの絶対反射率は2%以上であることが好ましい。ここで、絶対反射率とは、入射光強度に対する反射光強度を意味する。すなわち、位相シフト膜4の絶対反射率は、「絶対反射率=位相シフト膜の表面からの反射光の光量/位相シフト膜の表面への入射光の光量」の式で計算され、単位を%とする場合にはさらに100を乗じる。なお、本明細書において単に位相シフト膜4(薄膜)の反射率という場合には、特に断りのない限り絶対反射率を意味する。
【0054】
ここで、本実施形態の反射型マスクブランク100においては、基板1上に、少なくとも、多層反射膜2と、位相シフト膜4とがこの順で形成されている。本実施形態において、本発明の課題を解決し、かつ、所望のコントラスト性能を得るための位相シフト膜4の表面からの相対反射率は3%以上であることが好ましく、4%以上がより好ましい。また、位相シフト膜4の表面からの相対反射率は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0055】
ここで、位相シフト膜4の表面からの相対反射率とは、EUV光を照射したときに多層反射膜2(保護膜3を含む)から反射される光の反射率を100%とした場合において、この多層反射膜2(保護膜3を含む)から反射される光の反射率に対する位相シフト膜4の表面から反射される光の反射率(%)を指す。すなわち、位相シフト膜の相対反射率(%)は、位相シフト膜4の絶対反射率を多層反射膜2(保護膜3を含む)の反射率で除した値に100を乗じた値である。
【0056】
本実施形態による反射型マスクブランク100の多層反射膜2上に形成される位相シフト膜4は、その反射率スペクトルにおいて、EUV光の波長13.525nmから13.550nmにおける(絶対)反射率の変化率が-12%/nm以上かつ+4%/nm以下となるように形成されている。
【0057】
「反射率の変化率」とは、EUV光の中心波長13.53nm近傍の波長であるλ:13.525nmにおける反射率およびλ:13.550nmにおける反射率から得られる絶対反射率の変化量(R-R)の比率を意味する(数式(1))。すなわち、反射率の変化率は、λ:13.550nmにおける反射率Rからλ:13.525nmにおける反射率Rを引いて得られる差を、λ:13.550nmからλ:13.525nmを引いて得られる差(0.025nm)で除した値である。
【数1】
【0058】
発明者らは、様々な条件下で、位相シフト膜4の反射率スペクトルと光学特性の解析を行った。その結果、上記のとおり、少なくとも波長13.525nmから13.550nmにおける、位相シフト膜4の反射率の変化率が-12%/nm以上かつ+4%/nm以下であれば、位相シフト膜4における位相シフト量の膜厚依存性や密度依存性を所望値以下に十分低く抑えることができるとの知見を得た。また、13.525nmと13.550nmとは非常に近い値である。よって、位相シフト膜4の反射率スペクトルにおいて、波長13.53nmにおける接線の傾きが12%/nm以上かつ+4%/nm以下であってもよい。なお、上記の波長13.53nmは、半導体デバイスの転写パターンの形成に用いるEUV露光光の中心波長λcに相当する。
【0059】
ここで、反射型マスクブランク100、及び後述する反射型マスク200の高品質な製造を保証するための位相シフト膜4の膜厚依存性は、位相シフト膜4の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることが望ましい。また、位相シフト膜4の密度依存性は、位相シフト膜4の材料の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量が2度以下であることが望ましい。
【0060】
位相シフト膜4の膜厚又は密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量(位相シフト量分布)は、薄膜の屈折率n、消衰係数k、膜厚及び密度などのデータからシミュレーションにより求めることができる。
【0061】
特に位相シフト膜4の光学特性における密度依存性を低減するためには、例えばEUV光に対する位相シフト膜4の反射率スペクトルの波長13nmから14nmにおいて、最大反射率となる波長λmaxと、最大反射率の半値幅の中央値の波長CWとの差が0.05nm以下であることが更に好ましい。より具体的には、波長13nmから14nmにおいて絶対反射率が最大反射率Rmaxの1/2となる波長のうち、最大反射率となる波長λmaxに最も近い2つの波長λ 1/2、λ 1/2の平均値をCW(半値幅中央値波長)としたとき、波長λmaxとCWとの差(距離)が0.05nm以下であることが好ましい。なお、反射率スペクトルとは、薄膜(位相シフト膜)4の表面からの絶対反射率を縦軸とし、横軸を照射した光(電磁波)の波長としたものを指す。
【0062】
多層反射膜2の上に形成される薄膜である位相シフト膜4の材料は、EUV光を吸収及び位相をシフトさせる機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)系ガス及び/又はフッ素(F)系ガスでドライエッチングが可能)であり、かつ、反射率の変化率又はその接線の傾きが上記の規定を満足するものであれば特に限定されない。位相シフト膜4の材料として、例えば、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ケイ素(Si)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、錫(Sn)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む材料が挙げられる。また、位相シフト膜4の材料は、これらの元素に加えて、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)から選ばれる少なくとも1種以上の元素を更に含む材料であってもよい。
【0063】
位相シフト膜4は、Ru、Cr、Pt及びTaから選ばれる少なくとも1つの元素を含む材料からなることがより好ましい。例えば、Ru系材料、RuCr系材料、RuPt系材料、RuTa系材料、TaNb系材料、IrTa系材料、Cr系材料、Pt系材料、PtTa系材料、PtCr系材料、PtTi系材料、PtNb系材料、PtMo系材料が挙げられる。これらの材料に加えて、O、N、C、Bから選ばれる少なくとも1種以上を更に含む材料であってもよい。
【0064】
位相シフト膜4は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法といった公知の成膜方法で形成することができる。スパッタリングのターゲットは、Ru、Ta、Cr、Rh、Mo、Nb、Ti、Zr、Y、Si、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Co、Mn、Sn、V、Ni、Fe、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge及びAlのうち少なくとも1以上の元素を含むものを用いることができる。
【0065】
<<裏面導電膜5>>
基板1の第2主面(裏面)側(多層反射膜2形成面の反対側)には、静電チャック用の裏面導電膜5が形成されてもよい。静電チャック用の裏面導電膜5の電気的特性(シート抵抗)は100Ω/□(Ω/Square)以下であることが好ましい。裏面導電膜5の形成方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法により、クロム及びタンタル等の金属及び合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0066】
裏面導電膜5の材料は、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含む材料であることが好ましい。例えば、裏面導電膜5の材料は、Crに、ホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択される少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。また、裏面導電膜5の材料は、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物であることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHO、TaHN、TaHON、TaHON、TaHCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiONCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0067】
裏面導電膜5の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜5はマスクブランク100の第2主面側の応力調整も兼ね備えていて、第1主面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整されている。
【0068】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、必要に応じて、位相シフト膜4上に、さらにエッチングマスク膜(図示せず)を形成することができる。エッチングマスク膜は、位相シフト膜4に対してエッチング選択性を有する材料で形成されることが好ましい。エッチングマスク膜の材料として、例えば、Cr、Ta、Siから選ばれる1種以上を含む材料、これらの材料にO、N、C、Bから選ばれる1種以上をさらに含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜は、単層膜であってもよく、複数の層を含む積層膜であってもよい。
【0069】
エッチングマスク膜の形成は、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法などの公知の方法により行うことができる。エッチングマスク膜の膜厚は、ハードマスクとしての機能確保という観点から5nm以上であることが好ましい。位相シフト膜15の膜厚を考慮すると、エッチングマスク膜の膜厚は、5nm以上20nm以下、好ましくは、5nm以上15nm以下が望ましい。
【0070】
薄膜が位相シフト膜であり、反射型マスク200が、転写パターンが形成された領域であるパターン領域と、そのパターン領域の周辺の領域である非パターン領域を有する場合、非パターン領域に対応する半導体基板上の転写対象(レジスト膜など)が不要な感光をしないように、非パターン領域を反射率の低い膜(バイナリ膜)によって被覆することができる。このバイナリ膜は、エッチングマスク膜と薄膜との間に別に設けてもよい。また、エッチングマスク膜のEUV光に対する反射率が十分に低い場合は、エッチングマスク膜をバイナリ膜として用いてもよい。
【0071】
本実施形態の反射型マスクブランク100によれば、位相シフト膜4における位相シフト量の膜厚依存性や密度依存性を従来よりも低減することができる。これにより、反射型マスクブランク100の製造工程において、位相シフト膜4の膜厚や密度に若干の変動が生じたとしても、所望の光学特性を有する高品質の反射型マスクブランク100を安定的に製造することができる。
【0072】
<反射型マスク200及びその製造方法>
本実施形態による反射型マスク200は、上記の反射型マスクブランク100の位相シフト膜4がパターニングされた位相シフトパターン4aを有する。位相シフトパターン4aは、反射型マスクブランク100の位相シフト膜4を、所定のドライエッチングガス(例えば、塩素系ガスと酸素ガスとを含むドライエッチングガスやフッ素を含むドライエッチングガス)によって、位相シフト膜4をパターニングすることにより形成することができる。
【0073】
図2は、反射型マスク200の製造方法の一例を示す模式図である。まず、基板1と、基板1の上に形成された多層反射膜2と、多層反射膜2の上に形成された保護膜3と、保護膜3の上に形成された位相シフト膜3とを有する反射型マスクブランク100を準備する。そして、反射型マスクブランク100の位相シフト膜4上にレジスト膜11を形成する(図2(a))。レジスト膜11の膜厚は例えば100nmである。
【0074】
次に、このレジスト膜11に、電子線描画装置によってパターンを露光により描画し、更に現像・リンス工程を経ることによって、レジストパターン11aを形成する(図2(b))。そして、レジストパターン11aをマスクとして、位相シフト膜4をドライエッチングする。これにより、位相シフト膜4のレジストパターン11aによって被覆されていない部分が除去され、位相シフトパターン4aが形成される(図2(c))。
【0075】
位相シフト膜4のエッチングガスは、位相シフト膜の材料に応じて適宜選定される。例えば、位相シフト膜4のエッチングガスとしては、位相シフト膜4の材料やその組成比に応じて、酸素を含む塩素系ガス、酸素ガスフッ素系ガスや、酸素ガスを含まない塩素系ガスを用いることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0076】
位相シフト膜4をパターニングするために、必要に応じて位相シフト膜4の上にエッチングマスク膜を設け、エッチングマスク膜パターンをマスクにして、位相シフト膜4をドライエッチングして位相シフトパターン4aを形成してもよい。
【0077】
最後に、レジストパターン11aをアッシングやレジスト剥離液などで除去し、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行う。
【0078】
以上の工程により、所望の転写パターンを有する反射型マスク200が製造される。
【0079】
本実施形態の反射型マスク200によれば、位相シフトパターン4aにおける位相シフト量の膜厚依存性や密度依存性を従来よりも低減することができる。これにより、反射型マスクブランク100又は反射型マスク200の製造工程において、位相シフト膜4の膜厚や密度に若干の変動が生じたとしても、所望の光学特性を有する高品質の反射型マスク200を安定的に製造することができる。
【0080】
<半導体デバイスの製造方法>
次に、上記の反射型マスク200を用いた半導体デバイスの製造方法を説明する。本実施形態によれば、反射型マスク200を、EUV光の露光光源を有する露光装置にセットし、被転写(半導体)基板上に形成されている転写対象(レジスト膜)に転写パターンを転写することにより、半導体デバイスを製造することができる。
【0081】
本実施形態の半導体デバイスの製造方法によれば、所望の光学特性を有する高品質の反射型マスク200を露光転写に用いることができるので、微細かつ高精度の転写パターンを有する半導体デバイスの品質を安定的に保証することができる。
【実施例0082】
以下、本発明に係る反射型マスクブランクの具体的な実施例及び比較例を、表1に基づいて説明する。
【0083】
【表1】
【0084】
表1において、位相シフト膜の反射率の変化率は、波長13.525nmから13.550nmにおける薄膜(位相シフト膜)4の絶対反射率の変化率を表している。これらの位相シフト膜の反射率の変化率は、上記のとおり、波長13.525nmにおける絶対反射率と波長13.550nmにおける絶対反射率とを測定し、得られたこれらの絶対反射率から算出した。実施例1~10の反射型マスクブランクは、波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率が-12/nm以上かつ+4%/nm以下であった。一方、比較例1~4は、いずれもこの規定を満たしていなかった。なお、上記の位相シフト膜(薄膜)の反射率の変化率は、中心波長13.5nm近傍のEUV光を入射させたときの、薄膜の反射率スペクトルから求めてもよく、この場合でも、実施例1~10の反射型マスクブランクは、波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率が-12/nm以上かつ+4%/nm以下であり、比較例1~4は、いずれもこの規定を満たしていなかった。
【0085】
表1において、位相シフト量分布Aは、薄膜4(位相シフト膜)の膜厚が1%変動したときの位相シフト量の変化量[度]であり、すなわち位相シフト量の膜厚依存性を示す指標である。また、位相シフト量分布Bは、薄膜(位相シフト膜)4の密度が1%変動したときの位相シフト量の変化量[度]であり、位相シフト量の密度依存性を示す指標である。なお、薄膜(位相シフト膜)4が下層と上層とを含む場合は、位相シフト量の変化量[度]は、上層の膜厚または密度が1%変動したときの値を示している。
位相シフト量分布A及びBは、薄膜の屈折率n、消衰係数k、膜厚及び密度などからシミュレーションにより求めることができる。
【0086】
表1を参照すると、実施例1~10の反射型マスクブランクは、位相シフト量分布A及びBの少なくとも一方が2度以下であった。一方、比較例1~4は、位相シフト量分布A及びBの双方が2度よりも高かった。
【0087】
以下、表1に記載の実施例及び比較例を、それぞれ詳細に説明する。なお、以下において、位相シフト膜4を単に薄膜4と記載する。
【0088】
(実施例1)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuNb膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaBNからなる下層と、下層上にCrNからなる上層とを成膜することにより、位相シフト膜4としての薄膜4を形成した。この実施例1による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBN膜):TaB合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
上層(CrN膜):Crターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚37.1nm
【0089】
下層の組成(原子比)は、Ta:B:N=60:15:25であり、上層の組成(原子比)は、Cr:N=75:25であった。
【0090】
上記のように形成した実施例1のTaBN膜およびCrN膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaBN膜):n=0.9511、k=0.0325
上層(CrN膜):n=0.9279、k=0.0384
【0091】
上記の薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は2.9%であった。また、下層の密度は14.99g/cmであり、上層の密度は7.08g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は142度であった。
【0092】
実施例1の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-9.8%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.02度であり、位相シフト量分布Bは1.24度であり、共に既定の2度以下であった。
【0093】
(実施例2)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面に、TaNbからなる薄膜4を形成した。この実施例2による薄膜4の形成条件を下記に示す。
TaNb膜:TaNb合金ターゲット、Arガス雰囲気、膜厚39.8nm
【0094】
この薄膜4の組成(原子比)は、Ta:Nb=70:30であった。
【0095】
上記のように形成した実施例2のTaNb膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
TaNb膜:n=0.9522、k=0.0244
【0096】
上記のTaNb膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は9.1%であった。また、薄膜4の密度は13.54g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は103度であった。
【0097】
実施例2の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-0.6%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.24度であり、位相シフト量分布Bは1.09度であり、共に規定の2度以下であった。
【0098】
(実施例3)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面に、IrTaからなる薄膜4を形成した。この実施例3による薄膜4の形成条件を下記に示す。
IrTa膜:IrTa合金ターゲット、Arガス雰囲気、膜厚25.7nm
【0099】
この薄膜4の組成(原子比)は、Ir:Ta=81:19であった。
【0100】
上記のように形成した実施例3のIrTa膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
IrTa膜:n=0.9149、k=0.0430
【0101】
上記のIrTa膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は6.0%であった。また、薄膜4の密度は21.57g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は125度であった。
【0102】
実施例3の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は3.5%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.18度であり、位相シフト量分布Bは1.43度であり、共に規定の2度以下であった。
【0103】
(実施例4)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuRhCrN膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaONからなる下層と、下層上にRuCrONからなる上層を成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例4による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaON膜):Taターゲット、Ar、O及びNの混合ガス雰囲気、膜厚3nm
上層(RuCrON膜):RuCr合金ターゲット、Ar、O及びNの混合ガス雰囲気、膜厚38.9nm
【0104】
TaON膜の組成(原子比)は、Ta:O:N=33.5:28.3:38.2であり、RuCrON膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:O:N=61:16:8:15であった。
【0105】
上記のように形成した実施例4のTaON膜およびRuCrON膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaON膜):n=0.9550,k=0.0255
上層(RuCrON膜):n=0.9091、k=0.0196
【0106】
上記のTaON膜およびRuCrON膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は10.8%であった。また、下層の密度は9.28g/cmであり、上層の密度は9.44g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は195度であった。
【0107】
実施例4の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-10.1%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.07度であり、規定の2度以下であった。
【0108】
(実施例5)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuRhCrN膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、CrNからなる下層と、下層上にPtRuからなる上層を成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例5による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(CrN膜):Crターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
上層(PtRu膜):PtRu合金ターゲット、Arガス雰囲気、膜厚30.2nm
【0109】
CrN膜の組成(原子比)は、Cr:N=75:25であり、PtRu膜の組成(原子比)は、Pt:Ru=49:51であった。
【0110】
上記のように形成した実施例5のCrN膜およびPtRu膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(CrN膜):n=0.9279,k=0.0384
上層(PtRu膜):n=0.8908、k=0.0385
【0111】
上記のCrN膜およびPtRu膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は3.6%であった。また、下層の密度は7.08g/cmであり、上層の密度は16.74g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は199度であった。
【0112】
実施例5の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は0.6%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.95度であり、規定の2度以下であった。
【0113】
(実施例6)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuNb膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaBOからなる下層と、下層上にRuCrNからなる上層を成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例6による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚6nm
上層(RuCrN膜):RuCr合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚44.5nm
【0114】
TaBO膜の組成(原子比)は、Ta:B:O=35:5:60であり、RuCrN膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:N=68:17:16であった。
【0115】
上記のように形成した実施例6のTaBO膜およびRuCrN膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaBO膜):n=0.9573,k=0.0261
上層(RuCrN膜):n=0.8803、k=0.0246
【0116】
上記のTaBO膜およびRuCrN膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は4.2%であった。また、下層の密度は9.00g/cmであり、上層の密度は12.65g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は298度であった。
【0117】
実施例6の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-11.1%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは0.76度であり、規定の2度以下であった。
【0118】
(実施例7)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuRhCrN膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaONからなる下層と、下層上にRuCrONからなる上層を成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例7による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaON膜):Taターゲット、Ar、O及びNの混合ガス雰囲気、膜厚3nm
上層(RuCrON膜):RuCr合金ターゲット、Ar、O及びNの混合ガス雰囲気、膜厚35.2nm
【0119】
TaON膜およびRuCrON膜の組成(原子比)は、それぞれTa:O:N=33.5:28.3:38.2、Ru:Cr:O:N=61:16:8:15であった。
【0120】
上記のように形成した実施例7のTaON膜およびRuCrON膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaON膜):n=0.9550,k=0.0255
上層(RuCrON膜):n=0.9182、k=0.0177
【0121】
上記のTaON膜およびRuCrON膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は18.0%であった。また、下層の密度は9.28g/cmであり、上層の密度は8.50g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は164度であった。
【0122】
実施例7の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は2.7%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Bは1.44度であり、規定の2度以下であった。
【0123】
(実施例8)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuRhCrN膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaBNと、TaBOとをこの順で積層してなる下層と、下層上にRuNからなる上層を成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例8による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBN膜):TaB合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚13.2nm
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚4.9nm
上層(RuN膜):Ruターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚26.5nm
【0124】
TaBN膜、TaBO膜およびRuN膜の組成(原子比)は、それぞれTa:B:N=60:15:25、Ta:B:O=35:5:60、Ru:N=94:6であった。
【0125】
上記のように形成した実施例8のTaBN膜、TaBO膜およびRuN膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaBN膜):n=0.9511、k=0.0325
下層(TaBO膜):n=0.9573、k=0.0261
上層(RuN膜):n=0.8891、k=0.0170
【0126】
上記のTaBN膜、TaBO膜およびRuN膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は11.9%であった。また、TaBN膜の密度は14.99g/cm、TaBO膜の密度は9.00g/cm、上層の密度は12.00g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は204度であった。
【0127】
実施例8の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-11.5%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Bは1.36度であり、規定の2度以下であった。
【0128】
(実施例9)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuNb膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaBOからなる下層と、下層上にRuCrN及びRuCrOをこの順で積層してなる上層とを成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例9による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚10.5nm
上層(RuCrN膜):RuCr合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚29.2nm
上層(RuCrO膜):RuCr合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
【0129】
TaBO膜の組成(原子比)は、Ta:B:O=35:5:60であった。RuCrN膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:N=68:17:16であった。RuCrO膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:O=27:27:46であった。
【0130】
上記のように形成した実施例9のTaBO膜、RuCrN膜およびRuCrO膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaBO膜):n=0.9573、k=0.0261
上層(RuCrN膜):n=0.9003、k=0.0205
上層(RuCrO膜):n=0.9213、k=0.0268
【0131】
上記のTaBO膜、RuCrN/RuCrO膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は12.5%であった。また、TaBO膜の密度は9.00g/cm、RuCrN膜の密度は10.54g/cmであり、RuCrO膜の密度は7.41g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は194度であった。
【0132】
実施例9の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-10.0%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Bは1.47度であり、規定の2度以下であった。
【0133】
(実施例10)
Si0-TiO系ガラス基板1の主表面上に、多層反射膜2を形成し、多層反射膜2の表面にRuNb膜からなる保護膜3を成膜した。次に、保護膜3上に、TaBOからなる下層と、下層上にRuCrNからなる上層とを成膜することにより、薄膜4を形成した。この実施例10による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚6nm
上層(RuCrN膜):RuCr合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚38.8nm
【0134】
TaBO膜およびRuCrN膜の組成(原子比)は、それぞれTa:B:O=35:5:60、Ru:Cr:N=68:17:16であった。
【0135】
上記のように形成した実施例10のTaBO膜およびRuCrN膜の波長13.5nmにおける屈折率n、消衰係数kは、それぞれ以下の通りであった。
下層(TaBO膜):n=0.9573、k=0.0261
上層(RuCrN膜):n=0.9003、k=0.0205
【0136】
上記のTaBO膜およびRuCrN膜からなる薄膜4のEUV光波長13.5nmにおける絶対反射率は12.2%であった。また、TaBO膜の密度は9.00g/cmであり、RuCrN膜の密度は10.54g/cmであった。これらの条件で形成した薄膜4の波長13.5nmにおける位相シフト量は224度であった。
【0137】
実施例10の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-5.0%/nmであった。また、このときの薄膜4の位相シフト量分布Bは1.90度であり、規定の2度以下であった。
【0138】
実施例1~10で得られた反射型マスクブランクから反射型マスクを製造し、この反射型マスクを用いて、EUV光で半導体デバイス上のレジスト膜(転写対象)に露光転写したときの転写像をシミュレーションにより得た。実施例1~10では、この転写像における転写パターンは、CD面内均一性が高く、微細で高精度であった。この結果から、この実施例1~10の反射型マスクブランクから得られる反射型マスクを用いて、半導体デバイス上のレジスト膜に転写パターンを転写した場合、最終的に半導体デバイス上に形成される回路パターンは高精度で形成できることがわかった。
【0139】
(比較例1)
比較例1では、実施例と同一のSi0-TiO系ガラス基板の主表面上に、多層反射膜を形成し、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜上に、TaBOからなる下層と、下層上にRuCrN膜及びRuCrO膜からなる上層とをこの順に成膜することにより、薄膜を形成した。
比較例1による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚10.5nm
上層(RuCrN膜):RuCr合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚43.5nm
上層(RuCrO膜):RuCr合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
【0140】
TaBO膜の組成(原子比)は、Ta:B:O=35:5:60であった。RuCrN膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:N=68:17:16であった。RuCrO膜の組成(原子比)は、Ru:Cr:O=27:27:46であった。TaBO膜の密度は9.00g/cm、RuCrN膜の密度は12.65g/cmであり、RuCrO膜の密度は7.41g/cmであった。
【0141】
比較例1の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は-13.2%/nmであった。このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは2.88度(>2度)であり、膜厚依存性は高いことがわかった。また、薄膜4の位相シフト量分布Bは2.83度(>2度)であり、密度依存性も高くなっていた。
【0142】
(比較例2)
比較例2では、実施例と同一のSi0-TiO系ガラス基板の主表面上に、多層反射膜を形成し、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜3上に、TaBNからなる下層と、下層上にCrNからなる上層とを成膜することにより、薄膜を形成した。
比較例2による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBN膜):TaB合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
上層(CrN膜):Crターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚43.1nm
【0143】
TaBN膜の組成(原子比)は、Ta:B:N=60:15:25であった。CrN膜の組成(原子比)は、Cr:N=75:25である。TaBN膜の密度は、14.99g/cmであり、CrN膜の密度は8.50g/cmであった。
【0144】
比較例2の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は4.7%/nmであった。このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは4.47度(>2度)であり、膜厚依存性は高いことがわかった。また、薄膜4の位相シフト量分布Bは3.63度(>2度)であり、密度依存性も高くなっていた。
【0145】
(比較例3)
比較例3では、実施例と同一のSi0-TiO系ガラス基板の主表面上に、多層反射膜を形成し、多層反射膜の上に、RuRhCrN膜からなる保護膜を形成した。保護膜3上に、TaBN膜及びTaBN膜上に形成されたTaBO膜からなる下層と、下層上にRuN膜からなる上層とを成膜し、薄膜4を形成した。
比較例3による薄膜4の形成条件を下記に示す。
下層(TaBN膜):TaB合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚4nm
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚5.2nm
上層(RuN膜):Ruターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚39nm
【0146】
TaBN膜の組成(原子比)は、Ta:B:N=60:15:25であった。TaBO膜の組成(原子比)は、Ta:B:O=35:5:60であった。RuN膜の組成(原子比)は、Ru:N=98:2である。TaBN膜の密度は、14.99g/cm、TaBO膜の密度は、9.00g/cmであり、RuN膜の密度は13.05g/cmであった。
【0147】
比較例3の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は10.4%/nmであった。このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは3.01度(>2度)であり、膜厚依存性は高いことがわかった。また、薄膜4の位相シフト量分布Bは2.51度(>2度)であり、密度依存性も高くなっていた。
【0148】
(比較例4)
比較例4は、比較例3と同一の材料・組成からなる膜構成を有しており、比較例3とは下層を構成する各層の厚さ及び上層の密度が異なっている。
比較例4による薄膜の形成条件を下記に示す。
下層(TaBN膜):TaB合金ターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚12.7nm
下層(TaBO膜):TaB合金ターゲット、ArとOの混合ガス雰囲気、膜厚3.1nm
上層(RuN膜):Ruターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気、膜厚39nm
【0149】
RuN膜の組成(原子比)は、Ru:N=98:2である。TaBN膜の密度は、14.99g/cm、TaBO膜の密度は、9.00g/cmであり、RuN膜の密度は11.86g/cmであった。
【0150】
比較例4の薄膜4の波長13.525nmから13.550nmにおける反射率の変化率は10.6%/nmであった。このときの薄膜4の位相シフト量分布Aは3.15度(>2度)であり、膜厚依存性は高いことがわかった。また、薄膜4の位相シフト量分布Bは2.27度(>2度)であり、密度依存性も高くなっていた。
【0151】
比較例1~4で得られた反射型マスクブランクから反射型マスクを製造し、この反射型マスクを用いて、EUV光で半導体デバイス上のレジスト膜(転写対象)に露光転写したときの転写像をシミュレーションにより得た。比較例1~4では、転写像における転写パターンのCD面内均一性が実施例1~10に比べて低く、十分なCD面内均一性を有していなかった。
【符号の説明】
【0152】
1 基板
2 多層反射膜
3 保護膜
4 位相シフト膜(薄膜)
5 裏面導電膜
100 反射型マスクブランク
200 反射型マスク
図1
図2