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特開2024-119151高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
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  • 特開-高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119151
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240827BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240827BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240827BHJP
   D04H 1/4326 20120101ALI20240827BHJP
   D01F 6/74 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
D04H1/728
D04H1/4326
D01F6/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025852
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4L035DD20
4L035FF05
4L035HH01
4L047AA26
4L047AB02
4L047AB08
4L047CC14
4L047DA00
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE17
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
5H126EE03
5H126EE22
(57)【要約】
【課題】電極触媒層中の物質輸送性およびプロトン伝導性を向上し、高い発電性能を発揮することが可能な高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】ポリベンゾイミダゾールを含有し、ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量が60,000~230,000である、電極触媒層用の高分子繊維が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンゾイミダゾールを含有する、電極触媒層用の高分子繊維であって、
前記ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量が60,000~230,000である、高分子繊維。
【請求項2】
平均繊維径が100~500nmである、請求項1に記載の高分子繊維。
【請求項3】
繊維径分布のピークが100~500nmである、請求項1または2に記載の高分子繊維。
【請求項4】
繊維長分布のピークが1~100μmである、請求項1又は2に記載の高分子繊維。
【請求項5】
アスペクト比が20~400である、請求項1又は2に記載の高分子繊維。
【請求項6】
静電紡糸により得られた不織布を粉砕する工程を含む、請求項1又は2に記載の高分子繊維の製造方法。
【請求項7】
触媒物質と、前記触媒物質を担持する導電性担体と、高分子電解質と、請求項1又は2に記載の高分子繊維と、を含む電極触媒層。
【請求項8】
高分子電解質膜と、請求項7に記載の電極触媒層とを備え、前記電極触媒層が、前記高分子電解質膜の少なくとも一方の面に備えられている、膜電極接合体。
【請求項9】
請求項8に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の化学反応から電気を生み出す発電システムである。燃料電池は、従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの使用が有望視されており、近年、固体高分子形燃料電池に関する様々な研究開発が行われている。その実用化に向けての課題には、発電特性や耐久性などの電池性能向上、インフラ整備、製造コストの低減などが挙げられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、高分子電解質膜の両面に、燃料ガスを供給する燃料極(アノード)と酸化剤を供給する酸素極(カソード)とが接合された膜電極接合体を、ガス流路及び冷却水流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。燃料極(アノード)及び酸素極(カソード)は、白金系の貴金属などの触媒物質、導電性担体及び高分子電解質を少なくとも含む電極触媒層と、ガス通気性と導電性とを兼ね備えたガス拡散層とで主に構成されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池では、以下のような電気化学反応を経て電気を取り出すことができる。まず、燃料極側電極触媒層において、燃料ガスに含まれる水素が触媒物質により酸化され、プロトン及び電子となる。生成したプロトンは、電極触媒層内の高分子電解質及び電極触媒層に接している高分子電解質膜を通り、酸素極側電極触媒層に達する。また、同時に生成した電子は、燃料極側電極触媒層内の導電性担体、燃料極側電極触媒層に接しているガス拡散層、セパレーター及び外部回路を通って酸素極側電極触媒層に達する。そして、酸素極側電極触媒層において、プロトン及び電子が空気などの酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し、水を生成する。これら一連の反応において、電子伝導抵抗に比べてプロトン伝導抵抗が大きいため、反応性を向上させ、燃料電池としての性能向上を図るためにはプロトンを効率よく伝導することが重要である。
【0005】
ガス拡散層はセパレーターから供給されるガスを拡散して電極触媒層中に供給する役割をもつ。そして、電極触媒層中の細孔は、セパレーターからガス拡散層を通じた先に位置し、複数の物質を輸送する通路の役割を果たす。燃料極の細孔は、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスに含まれる水素を円滑に供給する機能が求められる。また、酸素極の細孔は、酸化剤ガスに含まれる酸素を円滑に供給する機能が求められる。さらに、酸素極の細孔は、反応によって生じた生成水を円滑に排出する機能が求められる。ここで、ガスを円滑に供給し、生成水を円滑に排出するためには、電極触媒層中に生成水を円滑に排出可能な十分な隙間があり、密な構造となっていないことが重要である。
【0006】
電極触媒層の構造が密とならないようコントロールし、発電性能を向上する手段として、例えば、異なる粒子径のカーボンまたはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
特許文献1では、互いに適度に異なる粒径を有するカーボン粒子を組み合わせることで、電極触媒層中においてカーボン粒子が密に詰まることを抑えている。また、特許文献2では、互いに異なる繊維長を有するカーボン繊維を含み、その比率を一定範囲とすることで、電極触媒層中において適切細孔が多くを占めるようにしている。一方で、粒子径の大きな大粒子と粒子径の小さな小粒子を混合すると大粒子間の隙間に小粒子が入り込んでむしろ密に充填することがある。また、カーボン繊維を用いた場合では、密に充填されることは防げても、触媒層における電子伝導体の比率が増加してプロトン伝導体の比率が低下するため、プロトン移動抵抗は大きくなり発電性能の低下要因となってしまう。燃料電池における発電性能は、物質輸送性・電子伝導性・プロトン伝導性によって大きく変わるものであるから、結局のところ、カーボン粒子の組み合わせやカーボン繊維の組み合わせを用いるという電子伝導性のみを高める方法では、発電性能を高める事には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3617237号公報
【特許文献2】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたものであり、電極触媒層中の物質輸送性およびプロトン伝導性を向上し、高い発電性能を発揮することが可能な高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]ポリベンゾイミダゾールを含有する電極触媒層用の高分子繊維であって、
前記ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量が60,000~230,000である、高分子繊維。
【0011】
[2]平均繊維径が100~500nmである、[1]に記載の高分子繊維。
【0012】
[3]繊維径分布のピークが100~500nmである、[1]または[2]に記載の高分子繊維。
【0013】
[4]繊維長分布のピークが1~100μmである、[1]~[3]の何れか一項に記載の高分子繊維。
【0014】
[5]アスペクト比が20~400である、[1]~[4]の何れか一項に記載の高分子繊維。
【0015】
[6]静電紡糸により得られた不織布を粉砕する工程を含む、[1]~[5]の何れか一項に記載の高分子繊維の製造方法。
【0016】
[7]触媒物質と、前記触媒物質を担持する導電性担体と、高分子電解質と、[1]~[5]の何れか一項に記載の高分子繊維と、を含む電極触媒層。
【0017】
[8]高分子電解質膜と、[7]に記載の電極触媒層とを備え、前記電極触媒層が、前記高分子電解質膜の少なくとも一方の面に備えられている、膜電極接合体。
【0018】
[9] [8]に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電極触媒層中の物質輸送性およびプロトン伝導性を向上し、高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒用の高分子繊維、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】高分子繊維の繊維径分布の説明図である。
図2】高分子繊維の繊維長分布の説明図である。
図3】本実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式断面図である。
図4】本実施形態に係る膜電極接合体の構成例を示し、図4(a)は膜電極接合体を電極触媒層の酸素極側から見た平面図、図4(b)は図4(a)のX-X´線で破断した断面図である。
図5】本実施形態に係る固体高分子形燃料電池の構成例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も、本発明の範囲に含まれるものである。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0022】
本発明の発明者は、固体高分子形燃料電池の初期発電性能と耐久発電性能について鋭意検討を行った結果、これらの性能には電極触媒層におけるガス拡散性とプロトン伝導性が大きく影響していることを見出した。そして、特定のポリベンゾイミダゾールを含有する高分子繊維を電極触媒層中に含有させると、導電性を損なうことなくプロトン伝導抵抗が低下するとともに、ガスの拡散性が向上することを突き止めた。その結果、出力の低下及び当該電極触媒層の劣化を抑制し、高い発電性能を発揮する固体高分子形燃料電池を得ることに成功した。
【0023】
[高分子繊維の構成]
本実施形態に係る高分子繊維を構成するポリベンゾイミダゾールは、下記式(I)または(II)で表される繰り返し単位の化学構造を骨格内に有する高分子(有機樹脂)である。ポリベンゾイミダゾールは、下記式(I)または(II)に示す化学式のように、その分子構造中に窒素原子(N)を含む塩基性官能基を有していることで、電極触媒層中に含有させると、導電性を損なうことなくプロトン伝導抵抗を低下させることが可能となる。さらに、繊維形状であることにより、電極触媒層内のガスの拡散性を向上させることができる。
【0024】
【化1】
【0025】
【化2】
【0026】
式(II)において、YはO及びSから選択される置換元素、又は炭素間結合(例えば、-O-、-CO-、-SO2-などの二価の基)である。また、Y部分は上述した式(I)で表される繰り返し単位同士を結合する共有結合(たとえば単結合)であってもよい。また、Zは二価C1~C10アルカンジイル、二価C2~C10アルケンジイル、二価C6~C15アリール、二価C5~C15ヘテロアリール、二価C5~C15ヘテロシクリル、二価C6~C19アリールスルホン、及び二価C6~C19アリールエーテルからなる群より選択され、少なくとも1つの芳香環を有する2価の基が好ましい。例えば、下記式で表される基を持つ官能基が好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
(分子量)
ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量は、60,000~230,000である。重量平均分子量をこの範囲にすることにより、電極触媒層中に含有させるのに好適な繊維径の高分子繊維を容易に得ることができる。さらに、繊維形状とした際の強度に優れ、十分な溶剤耐性を得ることが可能となる。ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量が60,000よりも小さい場合には、分子鎖の絡まり合いが少なくなり、粘度が低くなる為、繊維形状にならない場合がある。また、ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量が230,000よりも大きい場合は、分子鎖の絡まり合いが増え、粘度が増加する為、期待する繊維径より太くなる場合がある。
【0029】
ポリベンゾイミダゾールの固有粘度は、適宜選択できるものであり、0.1~1.5であることができ、0.4~1.1であることができる。
【0030】
<GPCによる重量平均分子量の測定方法>
ポリベンゾイミダゾールの重量平均分子量は、以下の方法でGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定及び、算出することができ、ポリスチレン換算値である。 微量の塩化リチウム(10mM)を添加したジメチルアセトアミド(以下「DMAc」という。)を用い、ポリベンゾイミダゾールの分子量をポリスチレン換算で測定する。サンプル溶液は1mg/mlの濃度でポリベンゾイミダゾールを塩化リチウム添加DMAcに溶解させて作製する。
【0031】
高分子繊維を構成するポリベンゾイミダゾールの種類は、一種類であっても複数種類であってもよい。また、高分子繊維を構成する物質量に占めるポリベンゾイミダゾールの質量の百分率は、その質量百分率が多いほど耐熱性及び耐薬品性に優れ、さらに、電極触媒層に用いた際にガスの拡散性を向上させると共にプロトン伝導抵抗を低下させ易くなる。たとえば、高分子繊維中のポリベンゾイミダゾールの質量割合は、90質量%以上でもよく、95質量%以上でもよく、99質量%以上でもよい。
【0032】
本実施形態に係る高分子繊維を構成するポリベンゾイミダゾール以外の成分としては、電極触媒層中および電極触媒層の製造工程において侵されずに繊維形状を維持可能なものであればどのようなものでも構わないが、電極触媒層中のプロトン伝導性を向上できる点で、プロトン伝導性を有するものが好ましい。例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、AGC(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などが挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質が挙げられる。また、酸をドープすることでプロトン伝導性を発現する酸ドープ型ポリベンゾアゾール類も好適に用いることができる。
【0033】
また、本実施形態に係る高分子繊維を構成する物質としては、ポリベンゾイミダゾール以外に、塩基性を有する物質を好適に用いることができる。例えば、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール等のアゾール構造やピロール環、ピリジン環などを有する物質が挙げられる。上記物質に含まれる塩基性官能基と電極触媒層中のスルホニル基などの酸性のプロトン伝導部位とが酸塩基結合することで、高分子繊維が高分子電解質の被膜で覆われ、電極触媒層中のプロトン伝導性およびガス拡散性を同時に向上させることが可能となる。
実施形態に係る高分子繊維を構成する物質としては、上述した物質のうちポリベンゾイミダゾールのみを単独で使用してもよいし、ポリベンゾイミダゾール以外の他の材料を1種または二種以上を併せて用いてもよい。
【0034】
高分子繊維の繊維径としては、平均繊維径及び/又は繊維径分布のピークが100~500nmであるのが好ましく、150~250nmであるのがより好ましく、180~220nmとすることがより好ましい。平均繊維径の下限は150nmでもよく、180nmでもよく、200nmでもよい。平均繊維径の上限は400nmでもよく、350nmでもよく、300nmでもよく、250nmでも、220nmでもよい。繊維径分布のピークの下限は、150nmでもよく、180nmでもよく、200nmでもよい。繊維径分布のピークの上限は、400nm以下でもよく、350nm以下でもよく、300nm以下でもよく、250nm以下でもよく、220nm以下でもよい。繊維径をこれらの範囲にすることにより、電極触媒層に含有させた際に電極触媒層内の空隙を増加させるとともにプロトン伝導性の低下を抑制することができ、高出力化が可能になる。
高分子繊維の繊維径及び/又は繊維径分布のピークが上記範囲よりも小さい場合には、空隙が狭くなり十分な排水性及びガス拡散性が確保できない場合がある。この場合、電極触媒層10中に水が滞留して、出力の低下及び当該電極触媒層の劣化を促進することがある。高分子繊維の繊維径及び/又は繊維径分布のピークが上記範囲よりも大きい場合には、高分子電解質14によるプロトン伝導の経路や導電性担体13による電子伝導の経路が遮断され、抵抗が増大する場合がある。
【0035】
また、高分子繊維の繊維長としては、繊維長分布のピークが1~100μmであるのが好ましく、10~50μmであるのがより好ましく、10~40μmであることも好ましい。繊維長分布のピークをこの範囲にすることにより、電極触媒層に含有させた際に電極触媒層を形成するときにクラックが生じることを抑制でき、ひいては、電極触媒層および膜電極接合体の耐久性を高めることができる。加えて、電極触媒層内の空隙を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0036】
ここで、上記の高分子繊維の繊維径分布のピークについて説明する。図1は、高分子繊維の繊維径分布の説明図である。図1のグラフは高分子繊維の繊維径ごとの頻度を表すヒストグラムであり、繊維径の分布を表している。一般的に、ヒストグラムは量的データの分布の様子を見るのに用いられる。データをいくつかの階級に分け、度数分布表を作成してから、横軸にデータの階級を、縦軸にその階級に含まれるデータの数をとって作成されたグラフがヒストグラムである。
【0037】
本実施形態においては、ヒストグラムの階級幅を10nmとして作成する。例えば、得られた繊維径の最大値が298nm、最小値が102nmである場合、ヒストグラムの階級幅を10nmとした時、最も小さい階級は「100nm以上110nm未満」となり、最も大きい階級は「290nm以上300nm未満」となる。階級の数(ヒストグラムの柱の本数)は20となる。この場合、ヒストグラムの各階級は、「100+(n-1)×10nm以上100+n×10nm未満」(n=1~20)で表される。このように階級を決定し、計測された繊維径の度数分布表を作成することで、繊維径分布を表すヒストグラムが得られる。また、繊維径分布のピークとは、度数分布表およびヒストグラムにおいて度数が最も大きい階級の中央値を指す。例えば、電極触媒層10に含有されている高分子繊維の繊維径のヒストグラムにおいて、200nm以上210nm未満の階級の度数が最も大きい場合、高分子繊維の繊維径分布のピークは、205nmである。
【0038】
高分子繊維の繊維径は、例えば、高分子繊維を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し測長することで得ることができ、無作為に抽出した複数の高分子繊維の繊維径を測長することで繊維径ごとの頻度を表すヒストグラムを得ることができる。繊維径の測定箇所は多い程、繊維径のピークを明確に把握することが可能であるため、少なくとも50カ所以上、より好ましくは100カ所以上の観察点において同様に計測することが好ましい。走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)での観察倍率は、高分子繊維の輪郭を明瞭に確認し正確に繊維径を測長できる点で、10000倍以上とすることが好ましい。得られた少なくとも50カ所以上、より好ましくは100カ所以上の繊維径を算術平均することで、平均繊維径が得られる。
【0039】
また、上記の高分子繊維の繊維長分布のピークについて説明する。図2は、高分子繊維の繊維長分布の説明図である。高分子繊維の繊維長分布は、高分子繊維の分散液を湿式のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて実測した粒度分布から得ることができる。高分子繊維の分散液は、例えば、超音波ホモジナイザー等を使用して、1重量%以下の濃度で水に高分子繊維を分散したものである。図2のグラフは高分子繊維を粒子と見なした場合の粒径ごとの頻度を表すヒストグラムである。高分子繊維の分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて実測すると、繊維径に由来する回折散乱光と繊維長に由来する回折散乱光が検出される。粒度分布のヒストグラムにおいて小粒径側に見られる第一ピークは繊維径由来のため除外したうえで、最も頻度の高い粒径が繊維長分布のピークを表す。
【0040】
高分子繊維の比表面積は、1~15m/gが好ましい。アスペクト比は20~400が好ましい。本明細書において高分子繊維のアスペクト比とは、繊維長分布のピーク/繊維径分布のピークにより計算される値である。比表面積及び/又はアスペクト比をこの範囲にすることにより、高分子繊維を含有する電極触媒層を形成するときにクラックが生じることを抑制でき、ひいては、電極触媒層の耐久性を高めることができる。加えて、電極触媒層内の空隙を増加させるとともにプロトン伝導性の低下を抑制することができ、高出力化が可能になる。高分子繊維の比表面積及びアスペクト比は、繊維径および繊維長を調整することで好適な範囲とすることができる。
【0041】
[高分子繊維の製造方法]
本実施形態に係る高分子繊維の製造方法としては、例えば、溶融状態または溶液状態としたポリベンゾイミダゾールを含む樹脂を静電紡糸して不織布を得る工程と、得られた不織布を粉砕する工程を含む方法が挙げられる。静電紡糸の際の紡糸液濃度、吐出量等を調整することにより、高分子繊維の繊維径を好適な範囲とすることができる。静電紡糸により得られた不織布を粉砕する方法としては、石臼やピンミルなどの方法が挙げられる。粉砕する際の回転数や、クリアランスを調整することにより、高分子繊維の繊維長を好適な範囲とすることができる。
【0042】
具体的には、本発明の高分子繊維は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0043】
まず、高分子繊維を構成するポリベンゾイミダゾール含有樹脂と、当該ポリベンゾイミダゾールを溶解できる溶媒を用意する。この溶媒はポリベンゾイミダゾールの種類によって異なるため特に限定するものではなく、適宜選択できる。
【0044】
次いで、溶媒にポリベンゾイミダゾール含有樹脂を溶解することで紡糸液を作製する。紡糸液における固形分濃度は、ポリベンゾイミダゾール含有樹脂が溶解できる濃度であればよく、また、使用するポリベンゾイミダゾールによって最適な値が異なるため特に限定するものではなく、適宜調整できる。また、紡糸液の粘度についても使用する有機樹脂によって最適な値が異なるため、適宜調整できる。本発明における「粘度」とは、粘度測定装置(Thermo Scientific製)を用い、シェアレート100s-1の時の値をいう。
【0045】
次に、前記紡糸液を紡糸して繊維を形成し、この繊維を集積することで繊維集合体を形成する。この紡糸方法として、従来公知の紡糸方法を採用することができる。例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法、フラッシュ紡糸法、遠心紡糸法、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているような、ガスの剪断作用により紡糸する方法、あるいは特開2011-32593号公報に開示されているような、電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法などによって紡糸し、紡糸した繊維を直接ドラムやネット上に集積して、繊維集合体を形成することが出来る。これらの中でも静電紡糸法によれば、繊維径の小さい繊維を紡糸しやすいため好適である。
【0046】
なお、静電紡糸法により紡糸する場合、紡糸液の導電性が不十分であると、紡糸性に劣り、繊維化するのが困難な場合があるため、このような場合には、紡糸液に塩を適量添加して、導電性を調節することもできる。
【0047】
その後、必要に応じて形成した繊維集合体を不溶化処理へ供する。不溶化処理の方法については、熱処理、電子線照射、ガンマ線照射、架橋剤添加などを挙げることができ、製造上簡便である熱処理が好適である。
【0048】
さらに、繊維集合体を粉砕することで高分子繊維を得ることができる。粉砕方法としては、特に限定するものではないが、例えば石臼やピンミルを使用する方法が挙げられる。また、不溶化処理前の繊維集合体を粉砕してから不溶化処理へ供し、本発明に係る高分子繊維を製造してもよい。
【0049】
[電極触媒層の構成]
図3は、本実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式断面図である。図3に示す模式図のように、本実施形態に係る電極触媒層10は、高分子電解質膜11の表面に接合されており、触媒物質12、導電性担体13、高分子電解質14及び高分子繊維15から構成されている。そして、上記のいずれの構成要素も存在しない部分が空隙4となっている。
【0050】
本実施形態に係る電極触媒層10に含まれる高分子繊維15は、特定のポリベンゾイミダゾールを含有している上述した高分子繊維である。
高分子繊維の平均繊維径および繊維径分布のピークは100nm以上500nm以下が好ましく、更に好ましくは、150~250nm程度がよい。高分子繊維の繊維径が上記範囲よりも小さい場合には、空隙が狭くなり十分な排水性及びガス拡散性が確保できない場合がある。この場合、電極触媒層10中に水が滞留して、出力の低下及び当該電極触媒層の劣化を促進することがある。高分子繊維の繊維径が上記範囲よりも大きい場合には、高分子電解質14によるプロトン伝導の経路や導電性担体13による電子伝導の経路が遮断され、抵抗が増大する場合がある。
【0051】
ここで、上記の電極触媒層10に含まれる高分子繊維15の繊維径分布のピークについて説明する。繊維径分布については、図1を用いて上述したのと同様に、電極触媒層10に含有されている高分子繊維15の繊維径ごとの頻度を表す度数分布表およびヒストグラムにおいて度数が最も大きい階級の中央値を指す。
【0052】
電極触媒層10に含まれる高分子繊維15の繊維径は、例えば、電極触媒層10の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した際に、露出している高分子繊維の直径を測長することで得ることができる。繊維が斜めに切断された場合には露出する断面の形状は楕円形となることがある。その場合には、短軸に沿ってフィッティングした真円の直径を測定することで繊維径を得ることができる。また、繊維の断面ではなく繊維の表面が露出することがある。その場合には、露出した繊維の長軸と直行する繊維の幅を計測することで繊維径を得ることが出来る。複数の高分子繊維15の繊維径を測長することで、繊維径ごとの頻度を表すヒストグラムを得ることができる。繊維径の測定箇所は多い程、繊維径のピークを明確に把握することが可能である。電極触媒層10内で偏りなく高分子繊維15の繊維径分布を把握するために、少なくとも20カ所以上の観察点において50本以上の繊維径を同様に計測することが好ましい。走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)での観察倍率は、高分子繊維の輪郭を明瞭に確認し正確に繊維径を測長できる点で、20000倍程度以上とすることが好ましい。得られた少なくとも50カ所以上、より好ましくは100カ所以上の繊維径を算術平均することで、平均繊維径が得られる。
【0053】
電極触媒層10の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の方法を用いることができる。断面を露出させる加工を行う際には、高分子電解質膜11や電極触媒層10を構成する高分子電解質14へのダメージを軽減するため、膜電極接合体1を冷却しながら加工を行うことが好ましく、特に高分子電解質膜11や電極触媒層10を構成する高分子電解質14へのダメージを軽減し、明瞭な断面が得られる点で、クライオイオンミリングを用いることが好ましい。
【0054】
高分子繊維15の平均繊維長は1~100μmが好ましく、10~50μmであるのがより好ましく、10~40μmであることも好ましい。平均繊維長をこの範囲にすることにより、電極触媒層10を形成するときにクラックが生じることを抑制でき、ひいては、電極触媒層10の耐久性を高めることができる。加えて、電極触媒層10内の空隙を増加させることができ、高出力化が可能になる。
【0055】
電極触媒層10の厚さは、2μm以上20μm以下が好ましい。厚さが20μmよりも厚い場合には、クラックが生じやすいうえに、燃料電池に用いた際にガスや生成する水の拡散性及び導電性が低下して、出力が低下してしまう。また、厚さが2μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒物質12や高分子電解質14が不均一となりやすい。電極触媒層10の表面のひび割れや、厚さの不均一性は、燃料電池として使用し、長期に渡り運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高いため、好ましくない。
【0056】
電極触媒層10の厚さは、例えば、膜電極接合体1の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで計測することができる。例えば、観察倍率1000倍から10000倍程度の電極触媒層全体が収まる視野内で、電極触媒層の厚みを測長することで計測することができる。触媒層内で偏りなく厚さを把握するため、少なくとも20カ所以上の観察点において同様に計測することが好ましい。膜電極接合体1の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング、ウルトラミクロトーム等の公知の方法を用いることができる。
【0057】
本実施形態に係る触媒物質12としては、例えば、白金族元素、金属及びこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることができる。白金族元素としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがある。金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等が例示できる。
【0058】
導電性担体13としては、導電性を有し、触媒物質12及び高分子電解質14に侵されずに触媒物質12を担持可能なものであれば、どのようなものでも構わないが、導電性担体13としては、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンを用いることができる。
【0059】
カーボン粒子の粒径は、10~1000nm程度が好ましく、更に好ましくは、10~100nm程度がよい。小さすぎると電極触媒層10において密に詰まり過ぎて電極触媒層10のガス拡散性を低下させる恐れがあり、また、大きすぎると電極触媒層10にクラックを生じさせたり触媒の利用率が低下したりするので、好ましくない。なお、カーボン粒子の粒径は、レーザー回折/散乱法による体積平均径である。
【0060】
また、高分子電解質膜11や電極触媒層10に含まれる高分子電解質14としては、プロトン伝導性を有するものであれば、どのようなものでもよく、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質、例えば、デュポン社製の「Nafion(登録商標)」等を用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることができる。高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質14と、電極触媒層10に含まれる高分子電解質14とは、互いに同じものを用いてもよいし、互いに異なるものを用いてもよい。ただし、高分子電解質膜11と電極触媒層10との界面抵抗や、湿度変化時の高分子電解質膜11と電極触媒層10とにおける寸法変化を考慮すると、高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質14と、電極触媒層10に含まれる高分子電解質14とは、互いに同じものであるか類似の成分のものであることが好適である。
【0061】
電極触媒層10は、上述した高分子繊維15以外に、繊維状物質16を有することができる。
繊維状物質16は、触媒物質12及び高分子電解質14に侵されずに繊維形状を維持可能なものであればどのようなものでも構わないが、例えば、ポリベンゾイミダゾール以外の高分子化合物、カーボン、及び、導電性酸化物を繊維状に加工したナノファイバーを挙げることができる。繊維状物質16は、以下に示す繊維のうち一種のみを単独で使用してもよいが、二種以上を併せて用いてもよい。電極触媒層10中の物質輸送性およびプロトン伝導性を同時に向上できる点で、繊維状物質16は、プロトン伝導性または塩基性を有する高分子繊維を少なくとも含むのが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る繊維状物質16としては、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工したナノファイバーを挙げることができ、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、AGC(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などが挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質が挙げられる。また、酸をドープすることでプロトン伝導性を発現する酸ドープ型ポリベンゾアゾール類も好適に用いることができる。
また、本実施形態に係る繊維状物質16としては、塩基性を有する高分子化合物を繊維状に加工したナノファイバーを挙げることができ、例えば、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール等のアゾール構造やピロール環、ピリジン環などを有する高分子繊維が挙げられる。繊維状物質16中に含まれる塩基性官能基と高分子電解質14に含まれるスルホニル基などの酸性のプロトン伝導部位とが酸塩基で結合することで、繊維状物質16を高分子電解質の被膜で覆うことが可能となる。特にその分子構造中に窒素(N)原子を含む塩基性官能基を有していることで、高分子電解質14が繊維状物質16に均一に被覆し、電極触媒層10中の物質輸送性およびプロトン伝導性を同時に向上することが可能となる。
【0063】
繊維状物質16に用いられる電子伝導性繊維としては、例えば、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバーが好ましい。また、触媒能のある電子伝導性繊維を用いることで、貴金属からなる触媒の使用量を低減できるのでより好ましい。固体高分子形燃料電池の空気極として用いられる場合には、例えば、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒が例示できる。また、酸素還元電極用の電極活物質を繊維状に加工したものであってもよく、例えば、Ta、Nb、Ti、Zrから選択される、少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を使用してもよい。これらの遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、これらの遷移金属元素の導電性酸化物や導電性酸窒化物が例示できる。
【0064】
[膜電極接合体の構成]
次に、図4を参照しつつ、本実施形態に係る電極触媒層10を備えた膜電極接合体1の具体的な構成を説明する。図4は、本実施形態に係る膜電極接合体の構成例を示し、(a)は膜電極接合体を電極触媒層10の酸素極側から見た平面図、(b)は(a)のX-X´線で破断した断面図である。
図4に示すように、膜電極接合体1は、高分子電解質膜11と、高分子電解質膜11のそれぞれの面に接合された電極触媒層10C、10Aとを備えている。電極触媒層10Cにおける高分子電解質膜11の表面に接合する面が10Ca、電極触媒層10Aにおける高分子電解質膜11の表面に接合する面が10Aaである。本実施形態では、高分子電解質膜11の上面に形成される電極触媒層10Cは、酸素極を構成するカソード側電極触媒層であり、高分子電解質膜11の下面に形成される電極触媒層10Aは、燃料極を構成するアノード側電極触媒層である。以下、一対の電極触媒層10C、10Aは、区別する必要がない場合には、「電極触媒層10」と略記する場合がある。なお、電極触媒層10の外周部は、ガスケット等(図示せず)によりシールされていてもよい。
【0065】
[電極触媒層および膜電極接合体の製造方法]
以下、上述した電極触媒層10および膜電極接合体1の製造方法を説明する。まず、触媒インクを作製する。少なくとも上述した触媒物質12、導電性担体13、高分子電解質14、および、高分子繊維15を分散媒に混合し、その後、混合物に分散処理を施すことによって触媒インクを作製する。分散処理は、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、および、超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質12や導電性担体13、高分子電解質14及び高分子繊維15を浸食することがなく、流動性の高い状態で高分子電解質14を溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば、どのようなものでもよい。溶媒には、水が含まれていてもよい。触媒インク中には、揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高いため、このような溶媒を用いる際は水との混合溶媒にするのが好ましい。水の添加量は、高分子電解質14が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限はない。
【0066】
作製した触媒インクを基材に塗布した後に乾燥することによって、触媒インクの塗膜から溶媒成分が除去されて、基材上に電極触媒層10が形成される。基材には、高分子電解質膜11、または、転写用基材、ガス拡散層17などを用いることができる。高分子電解質膜11を基材として用いる場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層10Cを形成することができる。その後、高分子電解質膜11を挟んで電極触媒層10Cと対向するように、高分子電解質膜11の反対側の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層10Aを形成し、膜電極接合体1を得ることができる。
【0067】
転写用基材を用いる場合には、例えば、転写用基材の上に触媒インクを塗布した後に乾燥することによって、触媒層付き転写用基材を作製する。その後、触媒層付き転写用基材における電極触媒層10の表面と高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層10と高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層10を接合し、転写用基材を除去することによって、膜電極接合体1を製造することができる。
【0068】
また、基材としてガス拡散層17を用いる場合には、例えば、ガス拡散層17の表面に触媒インクを塗布した後に乾燥することによって、触媒層付きのガス拡散層17を作製する。その後、触媒層付きガス拡散層17における電極触媒層10の表面と高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層10と高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層10を接合することによって、膜電極接合体1を製造することができる。
【0069】
触媒インクを基材に塗布する方法には、様々な塗工方法を用いることができる。塗工方法には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、および、スキージーなどを挙げることができる。塗工方法には、ダイコートを用いることが好ましい。ダイコートは、塗布期間の中間における膜厚が安定し、かつ、間欠的な塗工を行うことが可能である点で好ましい。触媒インクの塗膜を乾燥させる方法には、例えば、温風オーブンを用いた乾燥、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレートを用いた乾燥、および、減圧乾燥などを用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下であり、40℃以上120℃以下程度であることが好ましい。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下であり、1分以上30分以下程度であることが好ましい。
【0070】
転写用基材またはガス拡散層17に電極触媒層10を形成する場合には、電極触媒層10の転写時に電極触媒層10に加わる圧力や温度が膜電極接合体1の発電性能に影響する。発電性能が高い膜電極接合体1を得る上では、電極触媒層10に加わる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。圧力が20MPa以下であることによって、電極触媒層10が過剰に圧縮されることが抑えられる。圧力が0.1MPa以上であることによって、電極触媒層10と高分子電解質膜11との接合性の低下により発電性能が低下することが抑えられる。接合時の温度は、高分子電解質膜11と電極触媒層10との界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜11、または、電極触媒層10が含む高分子電解質14のガラス転移点付近であることが好ましい。
【0071】
転写用基材には、例えば、高分子フィルム、および、フッ素系樹脂によって形成されたシート体を用いることができる。フッ素系樹脂は、転写性に優れている。フッ素系樹脂には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。高分子フィルムを形成する高分子には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、および、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。
【0072】
ここで、高分子繊維15の配合率、高分子電解質の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インク調整時の分散強度、塗布した触媒インクの加熱温度やその加熱速度などを調整する事により、電極触媒層10を、十分なガス拡散性およびプロトン伝導性を有するものとすることができる。
例えば、電極触媒層10中の高分子電解質14の配合率は、導電性担体13の質量に対して同一質量から半分が好ましい。また、電極触媒層10中の高分子繊維15の配合率は、1質量%以上10質量%以下が好ましい。電極触媒層10中の高分子繊維15の配合率が1質量%よりも少ないと、プロトン伝導抵抗の低減およびガス拡散性向上の効果が十分に得られない上、電極触媒層10を形成するときにクラックが生じて長期的に運転した際の耐久性が低下することがある。一方、電極触媒層10中の高分子繊維15の配合率が10質量%よりも多いと、触媒反応を阻害して電池性能が低下する可能性がある。触媒インクの固形分比率は、薄膜に塗工できる範囲で、高いほうが好ましい。
【0073】
[固体高分子形燃料電池の構成]
次に、図5を参照しつつ、本実施形態に係る膜電極接合体1を備えた固体高分子形燃料電池3の具体的な構成例を説明する。図5は、膜電極接合体1を装着した固体高分子形燃料電池3の構成例を示す分解斜視図である。なお、図5は、単セルの構成例であり、固体高分子形燃料電池3は、この構成に限られず、複数の単セルを積層した構成であってもよい。
【0074】
図5に示すように、固体高分子形燃料電池3は、膜電極接合体1と、ガス拡散層17Cと、ガス拡散層17Aとを備えている。ガス拡散層17Cは、膜電極接合体1の酸素極側のカソード側電極触媒層である電極触媒層10Cと対向して配置されている。また、ガス拡散層17Aは、膜電極接合体1の燃料極側のアノード側電極触媒層である電極触媒層10Aと対向して配置されている。そして、電極触媒層10C及びガス拡散層17Cから酸素極2Cが構成され、電極触媒層10A及びガス拡散層17Aから燃料極2Aが構成されている。また、高分子電解質膜11の電極触媒層10が接合されていない外周部分からのガスリークを防ぐため、酸素極側のガスケット16C及び燃料極側のガスケット16Aが配置されている。
【0075】
更に、固体高分子形燃料電池3は、酸素極2Cに対向して配置されたセパレーター18Cと、燃料極2Aに対向して配置されたセパレーター18Aとを備えている。セパレーター18Cは、ガス拡散層17Cに対向する面に形成された反応ガス流通用のガス流路19Cと、ガス流路19Cが形成された面と反対側の面に形成された冷却水流通用の冷却水流路20Cとを備えている。また、セパレーター18Aは、セパレーター18Cと同様の構成を有しており、ガス拡散層17Aに対向する面に形成されたガス流路19Aと、ガス流路19Aが形成された面と反対側の面に形成された冷却水流路20Aとを備えている。セパレーター18C、18Aは、導電性でかつガス不透過性の材料からなる。
そして、固体高分子形燃料電池3は、セパレーター18Cのガス流路19Cを通って空気や酸素等の酸化剤が酸素極2Cに供給され、セパレーター18Aのガス流路19Aを通って水素を含む燃料ガス若しくは有機物燃料が燃料極2Aに供給されて、発電を行う。
【0076】
本実施形態に係る膜電極接合体1を採用することで、十分な排水性、ガス拡散性およびプロトン伝導性を有し、高い発電性能を発揮することが可能となる。
すなわち、本実施形態によれば、特定の分子量のポリベンゾイミダゾールを含有する高分子繊維を電極触媒層中に含有させることで、固体高分子形燃料電池の運転において十分な排水性、ガス拡散性およびプロトン伝導性を有し、高い発電性能を発揮することが可能な、高分子繊維、電極触媒層10、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。したがって、本発明は、固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等、更には、膜電極接合体を用いる水素製造用電解システム等に好適に用いることができ、産業上の利用価値が大きい。
【実施例0077】
以下、本発明に基づく実施例に係る高分子繊維Aから、高分子繊維Kおよび膜電極接合体1について説明する。
[高分子繊維A]
ポリベンゾイミダゾールα(重量平均分子量150,000)に静電紡糸法を適用して、ポリベンゾイミダゾール不織布を作製した。このポリベンゾイミダゾール不織布を、粉砕機で粉砕した。粉砕物を減圧ろ過後、200℃にて乾燥させ、高分子繊維Aとしてのポリベンゾイミダゾールナノファイバー(PBINF)粉体を作製した。
【0078】
[高分子繊維B]
ポリベンゾイミダゾール不織布を粉砕するときに、粉砕機のクリアランスの間隔を狭くした以外は、高分子繊維Aと同様の方法によって、高分子繊維Bを得た。
【0079】
[高分子繊維C]
ポリベンゾイミダゾール不織布を作製するときに、紡糸液の濃度と吐出量を下げた以外は、高分子繊維Aと同様の方法によって、高分子繊維Cを得た。
【0080】
[高分子繊維D]
ポリベンゾイミダゾール不織布を粉砕するときに、粉砕機のクリアランスの間隔を広くした以外は、高分子繊維Cと同様の方法によって、高分子繊維Dを得た。
【0081】
[高分子繊維E]
ポリベンゾイミダゾール不織布を粉砕するときに、粉砕機のクリアランスの間隔を狭くした以外は、高分子繊維Cと同様の方法によって、高分子繊維Eを得た。
【0082】
[高分子繊維F]
ポリベンゾイミダゾール不織布を粉砕後、乾燥するときに、スプレードライ装置を使用した以外は、高分子繊維Eと同様の方法によって、高分子繊維Fを得た。
【0083】
[高分子繊維G]
ポリベンゾイミダゾール不織布を粉砕するときに、PBINF分散液の投入量を増やした以外は、高分子繊維Cと同様の方法によって、高分子繊維Gを得た。
【0084】
[高分子繊維H]
ポリベンゾイミダゾールα(重量平均分子量150,000)のかわりに、ポリベンゾイミダゾールβ(重量平均分子量64,000)を用い、紡糸液濃度を変更したこと以外は、高分子繊維Cと同様の方法によって、実施例8の高分子繊維15を得た。
【0085】
[高分子繊維I]
ポリベンゾイミダゾールα(重量平均分子量150,000)のかわりに、ポリエーテルイミド(ULTEM1000P)を用い、静電紡糸法により、ポリエーテルイミド不織布を作製した。このポリエーテルイミド不織布を粉砕機により粉砕した。粉砕物を減圧ろ過後、100℃にて乾燥させ、ポリエーテルイミド粉体を作製した。これにより高分子繊維Iを得た。
【0086】
[高分子繊維J]
ポリベンゾイミダゾールα(重量平均分子量150,000)のかわりに、スルホン化ポリエーテルスルホン(S-PES、重量平均分子量138,000)とポリエーテルスルホン(スミカエクセル5200P)を用い,静電紡糸法により、S-PES/5200P混合不織布を作製した。このS-PES/5200P混合不織布を粉砕機により粉砕した。粉砕物を減圧ろ過後、100℃にて乾燥させ、S-PES/5200P混合不織布の繊維粉体を作製した。これにより高分子繊維Jを得た。
【0087】
[高分子繊維K]
高分子繊維Kとして、市販のカーボンナノファイバー(VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を準備した。
【0088】
[実施例1]
実施例1では、白金担持カーボン触媒(TEC10E50E、田中貴金属工業社製)と水と1-プロパノールと高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業社製)と高分子繊維Aとを混合した。この混合物に対し、遊星型ボールミル(フリッチュ社製P-7)を用いて60分間にわたって500rpmで分散処理を行った。その際、直径5mmのジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。なお、高分子電解質の質量は炭素粒子の質量に対して100質量%、固形分中の高分子繊維の質量は1質量%、分散媒中の水の割合は50質量%、固形分濃度は10質量%となるように調整して、触媒インクを作製した。
【0089】
触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)の片面にスリットダイコーターを用いて100μmの厚みとなるように塗布することによって塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80℃の温風オーブンにて、塗膜のタックがなくなるまで乾燥させ、カソード側電極触媒層を形成した。次に触媒インクを、高分子電解質膜の反対側の面にスリットダイコーターを用いて50μmの厚みとなるように塗布することによって塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80℃の温風オーブンにて、塗膜のタックがなくなるまで乾燥させ、アノード側電極触媒層を形成した。これにより、実施例1の膜電極接合体1を得た。
【0090】
[実施例2]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Bを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2の膜電極接合体1を得た。
【0091】
[実施例3]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Cを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3の膜電極接合体1を得た。
【0092】
[実施例4]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Dを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例4の膜電極接合体1を得た。
【0093】
[実施例5]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Eを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例5の膜電極接合体1を得た。
【0094】
[実施例6]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Fを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例6の膜電極接合体1を得た。
【0095】
[実施例7]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Gを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例7の膜電極接合体1を得た。
【0096】
[実施例8]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Hを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例8の膜電極接合体1を得た。
【0097】
[比較例1]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Iを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1の膜電極接合体1を得た。
【0098】
[比較例2]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維Jを添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2の膜電極接合体1を得た。
【0099】
[比較例3]
触媒インクを調製するときに、高分子繊維Aのかわりに高分子繊維K(カーボンナノファイバー:VGCF(登録商標)-H、昭和電工(株)製)を添加した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例3の膜電極接合体1を得た。
【0100】
以下、実施例1~8の膜電極接合体及び比較例1~3の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池のそれぞれの、高分子繊維の材質、平均繊維径、繊維径分布のピーク、繊維長分布のピークと発電性能とを比較した結果を説明する。
【0101】
[高分子繊維の平均繊維径の計測]
高分子繊維の繊維径分布ピークは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて高分子繊維を観察して計測した。具体的には、まず高分子繊維をSEM用試料台に貼付した導電性テープ上に設置し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製イオンスパッタ装置E-1030を使用して金を蒸着した。次いで、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 卓上顕微鏡Miniscope TM3030を使用して観察倍率10000倍で観察した。視野内の高分子繊維の幅を繊維径として測長し、50~150本の高分子繊維の繊維径のデータ群を得た。このデータ群を算術平均することで、高分子繊維の平均繊維径を得た。
【0102】
[高分子繊維の繊維径分布ピークの計測]
高分子繊維の繊維径分布ピークは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて高分子繊維を観察して計測した。具体的には、まず高分子繊維をSEM用試料台に貼付した導電性テープ上に設置し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製イオンスパッタ装置E-1030を使用して金を蒸着した。次いで、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製卓上顕微鏡MiniscopeTM3030を使用して観察倍率10000倍で観察し、視野内の高分子繊維の幅を繊維径として測長し、50~150本の高分子繊維の繊維径のデータ群を得た。このデータ群を用いて、階級幅を10nmとして度数分布表を作成し、繊維径分布を表すヒストグラムを得た。ヒストグラムにおいて度数が最も大きい階級の中央値を高分子繊維の繊維径分布のピークとして得た。
【0103】
[高分子繊維の繊維長分布ピークの計測]
高分子繊維の繊維長分布ピークは、高分子繊維の分散液を湿式のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて実測した粒度分布から得た。具体的には、まず超音波ホモジナイザーを使用して、1重量%以下の濃度で水に高分子繊維を分散した。次いで、この分散液を、水を循環させたマイクロトラックベル社製粒度分布測定装置MT3300EX2に適正濃度となるようにローディングし、粒度分布を測定した。得られた粒度分布のヒストグラムにおいて小粒径側に見られる第一ピークは繊維径由来のため除外したうえで、最も頻度の高い粒径を繊維長分布のピークとして得た。
【0104】
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行物である「セル評価解析プロトコル」に準拠し、膜電極接合体の両面にガス拡散層及びガスケット、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを評価用単セルとして用いた。そして、「セル評価解析プロトコル」に記載のIV測定(「標準」条件とする。)及びアノードの相対湿度とカソードの相対湿度を共にRH100%としてI-V測定(「高湿」条件とする。)を実施した。
【0105】
[比較結果]
実施例1~8の膜電極接合体及び比較例1~3の膜電極接合体1を備えた燃料電池の電極触媒層における高分子繊維の材質と、高分子繊維の平均繊維径と、繊維径分布のピークと、繊維長分布のピークと、発電性能とを表1に示す。なお、発電性能については、電圧が0.6Vのときの電流が30A以上である場合を「A」、25A以上である場合を「B」、20A以上である場合を「C」とし、20Aに満たない場合を「D」とした。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、実施例1~8のいずれも、所定の重量平均分子量のポリベンゾイミダゾールを含有する高分子繊維を含んでいた。そして、発電性能については、全て「A」「B」「C」となった。
【0108】
一方、比較例1、2は高分子繊維を含んでいるもののポリベンゾイミダゾールを含有する高分子繊維を含まず、比較例3は、カーボン繊維を含んでいるもののポリベンゾイミダゾールを含有する高分子繊維を含んでいなかった。そして、比較例1~3においては、発電性能については、「標準」と「高湿」の両方が「D」となった。すなわち、電極触媒層において、特定のポリベンゾイミダゾールを含む高分子繊維を含まない場合に、発電性能が低下した。
【符号の説明】
【0109】
1…膜電極接合体、2C…酸素極、2A…燃料極、3…固体高分子形燃料電池、4…空隙、10、10C、10A…電極触媒層、11…高分子電解質膜、12…触媒物質、13…導電性担体、14…高分子電解質、15…高分子繊維、16…繊維状物質、16C、16A…ガスケット、17C、17A…ガス拡散層、18C、18A…セパレーター、19C、19A…ガス流路、20C、20A…冷却水流路。
図1
図2
図3
図4
図5