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特開2024-119166インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
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  • 特開-インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119166
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20240827BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20240827BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240827BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025881
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC01
2H186BA10
2H186DA14
2H186FB10
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB52
2H186FB57
4J039AB07
4J039BA02
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC15
4J039BC32
4J039BC75
4J039BC77
4J039BC79
4J039BE01
4J039BE08
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA29
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】吐出安定性及び記録物の発色性に優れるインクジェットインク組成物等を提供することを目的とする。
【解決手段】非石油由来の水不溶性色材と、分散剤と、を含有し、前記分散剤が、リグニンスルホン酸塩と、アミノ酸型分散剤と、を含む、水系インクであるインクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非石油由来の水不溶性色材と、分散剤と、を含有し、
前記分散剤が、リグニンスルホン酸塩と、アミノ酸型分散剤と、を含む、
水系インクであるインクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸型分散剤が、ジェミニ型分散剤を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記水不溶性色材が、黒色色材を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記水不溶性色材が、植物炭末、イカ墨、又はヤシ殻炭の何れか1種以上を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記リグニンスルホン酸塩及び前記アミノ酸型分散剤の含有量の和Pに対する、前記水不溶性色材の含有量Cの質量比(C/P)が、2/3~1.00である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸型分散剤の含有量Aに対する、前記リグニンスルホン酸塩の含有量Bの質量比(B/A)が、2~10である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸型分散剤が、グルタミン酸構造を有する、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
25℃における粘度が、3~30mPa・sである、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
体積平均粒子径D50が、100~350nmである、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
グリコールエーテル類、ジオール類、又は界面活性剤の何れか1種以上をさらに含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を含む、
記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、環境問題に配慮しつつ、インクの性能を向上させることについて種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、植物由来の炭化色材と、リグニン樹脂と、を含む、インクジェットインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-167623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェットインク組成物は、吐出安定性及び記録物の発色性に改良の余地が残されていることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非石油由来の水不溶性色材と、分散剤と、を含有し、上記分散剤が、リグニンスルホン酸塩と、アミノ酸型分散剤と、を含む、水系インクであるインクジェットインク組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態で用いる記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、非石油由来の水不溶性色材と、分散剤と、を含有し、上記分散剤が、リグニンスルホン酸塩と、アミノ酸型分散剤と、を含む、水系インクである。
【0009】
非石油由来の水不溶性色材の分散剤としてリグニンスルホン酸塩を使用したところ、長期保管時の吐出安定性及び記録物の発色性において、改良の余地があることが分かってきた。
【0010】
このように吐出安定性に改良の余地がある要因は、リグニンスルホン酸塩の嵩高さにあると考えられる。例えば、リグニンスルホン酸塩は嵩高い化合物であるため、上記色材の表面に吸着又は結合する際に、リグニンスルホン酸塩間に隙間が生じやすい。この隙間に、インク組成物中の界面活性剤が取り込まれてしまい、結果として、インク組成物の表面張力が上昇することが想定される。但し、吐出安定性に改良の余地がある要因はこれに限定されない。
【0011】
また、記録物の発色性に改良の余地がある要因は、上述のように、リグニンスルホン酸塩を分散剤として用いたときに、非石油由来の水不溶性色材の分散性が不安定となり、上記色材の粒子の粒径が大きくなりすぎるため、記録媒体にインク組成物が印刷された際に、上記色材の粒子同士の隙間が大きくなりすぎ、結果として記録物の発色性が低下するためと考えられる。但し、記録物の発色性に改良の余地がある要因はこれに限定されない。
【0012】
そこで、本実施形態においては、分散剤として、リグニンスルホン酸塩に加え、アミノ酸型分散剤を用いる。アミノ酸型分散剤は、界面活性剤よりも優先して、水不溶性色材におけるリグニンスルホン酸塩の隙間を埋めるように入り込み、リグニンスルホン酸塩の隙間に界面活性剤が取り込まれることを防ぐと考えられる。但し、吐出安定性に優れる要因はこれに限定されない。
【0013】
また、記録物の発色性に優れる要因は、上記リグニンスルホン酸塩の隙間にアミノ酸型分散剤が入り込み、色材の表面が露出しにくくなるため非石油由来の水不溶性色材の分散性が向上し、上記色材の粒子の粒径が適度な大きさとなるためと考えられる。但し、記録物の発色性に優れる要因はこれに限定されない。
【0014】
インク組成物の25℃における粘度は、好ましくは、3~30mPa・sであり、3~25mPa・sであり、5~20mPa・sであり、5~15mPa・sである。インク組成物の粘度が、上記範囲内であることにより、インクジェット法に適したインク組成物となり、また吐出安定性に優れる傾向にある。
【0015】
インク組成物の25℃における粘度は、JIS Z 8803に準拠した方法により、測定できる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。また、インク組成物の粘度は、非石油由来の水不溶性色材や分散剤の種類を変更すること、上記色材の濃度を変更すること、後述する水溶性有機溶剤の添加量を変更すること、後述するその他の成分としての粘度調整剤を添加すること、等によって調整できる。
【0016】
インク組成物の体積平均粒子径D50は、好ましくは、100~350nmであり、150~300nmであり、190~260nmであり、190~240nmである。インク組成物のD50が、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0017】
インク組成物の体積平均粒子径D50は、公知の粒度分布測定装置により測定できる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。また、インク組成物の体積平均粒子径D50は、非石油由来の水不溶性色材や分散剤の種類を変更すること、後述する色材分散液を調製するときの分散条件を適宜変更すること、等によって調整できる。例えば、分散処理時間を長くすることによって、体積平均粒子径D50を小さくし、分散処理時間を短くすることによって、体積平均粒子径D50を大きくできる。
【0018】
以下、本実施形態のインク組成物の各成分についてそれぞれ詳説する。
【0019】
1.1.非石油由来の水不溶性色材
非石油由来の水不溶性色材としては、特に限定されないが、例えば、黒色色材、黄色色材、マゼンタ色材、シアン色材、白色色材が挙げられる。より具体的には、例えば、赤土、黄土、緑土、孔雀石、胡粉、黒鉛等の天然鉱物顔料、紺青、亜鉛華、コバルト青、エメラルド緑、ビリジャン、チタン白、酸化鉄等の合成無機顔料、竹炭、木炭等の植物炭末、ヤシ殻炭、もみ殻炭、そば殻炭等の殻炭末、イカスミ、タコスミ等を原料とした動物由来顔料が挙げられる。この中でも、植物炭末、ヤシ殻炭、イカスミが好適に用いられる。非石油由来の水不溶性色材は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
非石油由来の水不溶性色材の含有量Cは、インク組成物の総量に対して、好ましくは、1.0~15.0質量%であり、2.5~12.5質量%であり、5.0~10.0質量%である。非石油由来の水不溶性色材の含有量Cが、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0021】
また、後述するように、インク組成物の調製においては、非石油由来の水不溶性色材と分散剤とを水に分散させた色材分散液を用いてもよい。この場合、非石油由来の水不溶性色材の含有量は、色材分散液の総量に対して、好ましくは、1~20質量%であり、3~17質量%であり、5~15質量%であり、7~13質量%である。非石油由来の水不溶性色材の含有量が、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0022】
1.2.分散剤
本実施形態のインク組成物に含まれる分散剤は、リグニンスルホン酸塩と、アミノ酸型分散剤と、を含む。分散剤の総含有量Pは、インク組成物の総量に対して、好ましくは、3.5~12.0質量%であり、5.0~10.0質量%であり、6.5~8.5質量%である。分散剤の総含有量Pが、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0023】
また、後述するように、インク組成物の調製においては色材分散液を用いてもよい。この場合、分散剤の総含有量は、色材分散液の総量に対して、好ましくは、1~20質量%であり、5~17質量%であり、7~15質量%である。分散剤の含有量が、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0024】
1.2.1.リグニンスルホン酸塩
分散剤としてリグニンスルホン酸塩を含むことにより、非石油由来の水不溶性色材を水中で分散できる。特に、上記色材として、植物炭末、殻炭末等を使用するとき、これらには、リグニンが成分として含まれているため、リグニンスルホン酸塩との親和性が高く、より高い分散性を示す。
【0025】
また、他の比較的小さい化合物のみを分散剤として使用した場合と比較すると、リグニンスルホン酸塩は比較的に嵩高い化合物であるといえる。このようなリグニンスルホン酸塩を分散剤として使用すると、立体反発による分散性が向上したり、分散剤が吸着又は結合した状態の非石油由来の水不溶性色材が嵩高くなったりする。その結果、上記状態の非石油由来の水不溶性色材が紙中に浸透しすぎず、紙面上付近に残りやすいため、記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0026】
リグニンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リグニンスルホン酸カリウム塩、リグニンスルホン酸カルシウム塩、リグニンスルホン酸マグネシウム塩、リグニンスルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。また、リグニンスルホン酸塩は、部分的に脱スルホン化されたものであってもよい。リグニンスルホン酸塩としては、公知の方法により調製した調製品であってもよく、市販品を用いてもよい。リグニンスルホン酸塩は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
リグニンスルホン酸塩の含有量Bは、インク組成物の総量に対して、好ましくは、1~15質量%であり、3~13質量%であり、4~11質量%である。リグニンスルホン酸塩の含有量Bが、上記範囲内であることにより、保存安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0028】
1.2.2.アミノ酸型分散剤
上述のとおり、リグニンスルホン酸塩のみを分散剤として用いると、インク組成物の吐出安定性及び記録物の発色性には改良の余地がある。しかしながら、このようなリグニンスルホン酸塩とアミノ酸型分散剤とを、分散剤として併用することにより、インク組成物の吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。ここで、アミノ酸型分散剤とは、アミノ酸構造を有する分散剤である。
【0029】
アミノ酸型分散剤としては、特に限定されないが、例えば、プロピオン酸構造を有するもの、グルタミン酸構造を有するものが挙げられる。プロピオン酸構造を有するアミノ酸型分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウラミノプロピオン酸塩、ラウリミノジプロピオン酸塩、ココアンホプロピオン酸が挙げられる。
【0030】
グルタミン酸構造を有するアミノ酸型分散剤としては、特に限定されないが、例えば、N-アシル化アミノ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、塩基性アミノ酸塩が挙げられ、N-アシル化アミノ酸の塩基性アミノ酸塩が好ましく、N-アシル化アミノ酸のリシン塩がより好ましい。グルタミン酸構造を有するアミノ酸型分散剤の中で、N-アシル化アミノ酸のリシン塩としては、例えば、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムが挙げられる。アミノ酸型分散剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
アミノ酸型分散剤としては、ジェミニ型構造を有するジェミニ型分散剤であることが好ましい。ジェミニ型分散剤は、表面張力低下能が特に高いため、ジェミニ型分散剤を用いることにより、インク組成物の吐出安定性に優れる傾向にある。ここで、ジェミニ型分散剤とは、一般的なイオン性界面活性剤が連結基により複数連結した、多量体構造を持つものであり、その構造中に、少なくとも2つの疎水性鎖、少なくとも2つのイオン性基、及び連結基としてのスペーサー部分を含んでいる。
【0032】
ジェミニ型分散剤としては、特に限定されないが、例えば、N-アシル化アミノ酸のリシン塩が挙げられる。より具体的には、特に限定されないが、例えば、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムが挙げられる。
【0033】
アミノ酸型分散剤の含有量Aは、インク組成物の総量に対して、好ましくは、0.5~7.0質量%であり、0.75~5.0質量%であり、1.0~3.0質量%である。アミノ酸型分散剤の含有量Aが、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0034】
上述のリグニンスルホン酸塩及びアミノ酸型分散剤の含有量の和Pに対する、非石油由来の水不溶性色材の含有量Cの質量比(C/P)は、好ましくは、0.40~1.25であり、2/3~1.00であり、0.70~0.95であり、0.75~0.90である。C/Pが、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0035】
アミノ酸型分散剤の含有量Aに対する、リグニンスルホン酸塩の含有量Bの質量比(B/A)は、好ましくは、2~10であり、3~8であり、4~6である。B/Aが、上記範囲内であることにより、吐出安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0036】
1.3.水溶性有機溶剤
本実施形態のインク組成物は水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、一価アルコール類、ポリオール類、及びグリコールエーテル類等が挙げられる。その中でも、ポリオール類及びグリコールエーテル類の何れか1種以上を含むことが好ましく、ジオール類及びグリコールエーテル類の何れか1種以上を含むことがより好ましい。これにより、インク組成物の粘度を好適な範囲とすることができる傾向にある。有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
一価アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、及び2-メチル-2-プロパノール等が挙げられる。
【0038】
ポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ポリオキシプロピレントリオール、グリセリン等のトリオール類、ペンタエリスリトール等のテトラオール類が挙げられる。
【0039】
グリコールエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。
【0040】
水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、5~30質量%であり、10~20質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が、上記範囲内であることにより、インク組成物の粘度を好適な範囲とすることができる傾向にある。
【0041】
1.4.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びポリシロキサン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(日信化学工業株式会社製)、サーフィノール104やサーフィノール61(エボニック・インダストリー社製)などが挙げられる。
【0043】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)などが挙げられる。
【0044】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、0.1~5.0質量%であり、0.2~1.0質量%である。
【0046】
1.5.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等が挙げられる。本実施形態において「水系インク」とは、水を主要な溶剤成分として含むインク組成物をいう。
【0047】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、60~90質量%であり、65~80質量%である。
【0048】
1.6.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、及び上記以外の有機溶剤等が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
2.インク組成物の製造方法
本実施形態のインク組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記各成分を混合してもよい。また、本実施形態のインク組成物の製造方法においては、非石油由来の水不溶性色材と分散剤とを水に分散させた、色材分散液を調製し、得られた色材分散液とその他の上記各成分とを混合してもよい。
【0050】
色材分散液は、インク組成物を調製する前にあらかじめ調製されていてもよいし、インク組成物を調製する際に、他の成分と同時に混合、分散されて調製されてもよい。
【0051】
色材分散液は、特に限定されないが、例えば、非石油由来の水不溶性色材と分散剤と水とを、ビーズミルにより混合して得てもよい。ビーズは、例えば、直径0.5mmのジルコニアビーズであってもよく、直径及び材質は、所望の物性に基づいて適宜選択される。ビーズミルによる分散処理時間は、好ましくは、1.0~3.5時間であり、1.5~3.0時間である。
【0052】
色材分散液の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは、20~80質量%であり、30~70質量%であり、35~65質量%である。色材分散液の含有量が、上記範囲内であることにより、長期保管時の保存安定性及び記録物の発色性に優れる傾向にある。
【0053】
3.記録媒体
本実施形態のインク組成物の記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、及び非吸収性記録媒体が挙げられる。
【0054】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)、布帛が挙げられる。
【0055】
低吸収性記録媒体は、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0056】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0057】
4.インクジェット記録方法
本実施形態のインクジェット記録方法は、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を含み、また、必要に応じて、記録媒体を搬送する搬送工程等のその他の工程を含んでいてもよい。
【0058】
4.1.インク付着工程
インク付着工程では、本実施形態のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させる。
【0059】
インク付着工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0060】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0061】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0062】
4.2.搬送工程
本実施形態のインクジェット記録方法は搬送工程を含んでいてもよい。搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインク組成物が記録媒体に付着し、記録物が形成される。インク付着工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0063】
5.記録装置
インクジェット装置の一例として、図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。図1に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T2へ搬送する。
【0064】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド231を搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【0065】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パスで記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体F上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0066】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。ライン方式のプリンタは、記録媒体の記録幅以上の長さを有するインクジェットヘッドであるラインヘッドを用いて、記録媒体に、1回の走査で記録を行うプリンタである。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
1.色材分散液の調製
表1~2に記載の組成となるように、ビーズミルに各成分を入れ、直径0.5mmジルコニアビーズを用いて、表1~2に記載の分散条件で混合撹拌して、色材分散液1~18を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表1~2における非石油由来の水不溶性色材、リグニンスルホン酸塩、芳香環を有する長鎖アルキル分散剤、及びその他の分散剤の含有量(質量%)については、固形分濃度を表す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1~2に示す材料は以下のとおりである。
<非石油由来の水不溶性色材>
・竹炭(キリヤ化学株式会社製、竹炭)
・備長炭(キリヤ化学株式会社製、備長炭)
・ヤシ殻活性炭(株式会社クラレ製、クラレコール PK)
・イカスミ(キリヤ化学株式会社製、イカスミ)
<リグニンスルホン酸塩>
・バニレックスN(日本製紙株式会社製、高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム)
・サンエキスP252(日本製紙株式会社製、リグニンスルホン酸ナトリウム)
<アミノ酸型分散剤>
・ペリセアL30(旭化成ファインケム株式会社製、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム)
・ピウセリア(登録商標) AMC(三洋化成工業株式会社製、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム)
<その他の分散剤>
・MM750(阪本薬品工業株式会社製、ミスチリン酸デカモノグリセリル)
【0072】
表1~2中の質量比C/Pは、リグニンスルホン酸塩及びアミノ酸型分散剤の含有量の和Pに対する、非石油由来の水不溶性色材の含有量Cの質量比である。
【0073】
2.インクジェットインク組成物の調製
次に、表3~4に記載の組成となるように、得られた色材分散液1~18と、残りの成分とを混合物用タンクに入れて混合して、実施例及び比較例のインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表3~4に示す材料は以下のとおりである。
<水溶性有機溶剤>
・プロピレングリコール
・グリセリン
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル
<界面活性剤>
・オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
・サーフィノール104(エボニック・インダストリー社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
【0077】
インク組成物の25℃における粘度は、JIS Z 8803に準拠して、粘度計(Physica社製 製品名MCR-300)を用いて測定した。
【0078】
インク組成物の体積平均粒子径D50は、動的光散乱法によって測定した。測定装置としては、ELSZ-1000(大塚電子株式会社社製)を使用した。
【0079】
3.評価
3.1.ノズル抜け評価(吐出安定性)
セイコーエプソン社製のインクジェット記録装置PX-S840に対して、実施例及び比較例の各インク組成物を充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出できることを確認した。その後、50枚連続でA4紙に100%Dutyベタ印字を実施し、その後の、インク組成物が吐出できないノズルの本数(ノズル抜け本数)を数えた。
[評価基準]
A:ノズル抜け本数が10本未満である。
B:ノズル抜け本数が10本以上50本未満である。
C:ノズル抜け本数が50本以上である。
【0080】
3.2.発色性評価(記録物の発色性)
セイコーエプソン社製のインクジェット記録装置PX-S840に対して、実施例及び比較例の各インク組成物を充填し、25℃、相対湿度50%の環境下で、記録媒体である普通紙XeroxP(富士ゼロックス社製、A4紙)に100%Dutyベタ印字を実施し、i1Pro2(X-Rite社製)を用いて、OD値(光学濃度)を測定した。
[評価基準]
A:OD値が1.2以上である。
B:OD値が1.0以上1.2未満である。
C:OD値が1.0未満である。
【0081】
4.評価結果
表3~4の評価結果から、実施例1~16は何れも、リグニンスルホン酸塩を含まない比較例1、アミノ酸型分散剤を含まない比較例2及び3と比較して、吐出安定性及び記録物の発色性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0082】
20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T2…副走査方向
図1