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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119176
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】積層型インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20240827BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240827BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01F17/00 C
H01F27/00 R
H01F27/00 160
H01F27/28 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025894
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 和寛
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AA08
5E043BA03
5E070AA01
5E070AA05
5E070AB06
5E070CB02
5E070CB13
5E070CB17
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】Q値を大きくし且つインダクタンスを小さくしながら、積層体にクラックが発生することを防止できるようにした積層型インダクタを実現する。
【解決手段】インダクタL12は、第1のインダクタ部分L12Aと、第1のインダクタ部分L12Aに対して並列に接続された第2のインダクタ部分L12Bとを含んでいる。第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々は、積層体50の積層方向Tに直交する方向に延びる軸を中心に巻回された導体構造体を含んでいる。第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体は、第1ないし第3の構造体L12Aa,L12Ab,L12Acを含んでいる。第1の構造体L12Aaは、3つの柱状導体T1aを含んでいる。第2の構造体L12Abは、3つの柱状導体T1bを含んでいる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインダクタ部分と、
前記第1のインダクタ部分に対して並列に接続された第2のインダクタ部分と、
前記第1のインダクタ部分および前記第2のインダクタ部分を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備え、
前記第1のインダクタ部分と前記第2のインダクタ部分の各々は、前記複数の誘電体層の積層方向に直交する方向に延びる軸を中心に巻回された導体構造体を含み、
前記導体構造体は、それぞれ前記積層方向に平行な方向に延在する第1の構造体および第2の構造体と、前記積層方向と交差する平面に沿って延在すると共に回路構成上前記第1の構造体と前記第2の構造体との間に設けられた第3の構造体とを含み、
前記第1の構造体と前記第2の構造体の各々は、前記積層方向に平行な方向に延在する少なくとも1つの柱状導体を含み、
前記第1のインダクタ部分の前記第1の構造体と前記第2の構造体の少なくとも一方の前記少なくとも1つの柱状導体は、前記積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含むことを特徴とする積層型インダクタ。
【請求項2】
前記第2のインダクタ部分の前記第1の構造体と前記第2の構造体の少なくとも一方の前記少なくとも1つの柱状導体は、前記積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項3】
前記第1のインダクタ部分における前記少なくとも1つの柱状導体の数は、前記第2のインダクタ部分における前記少なくとも1つの柱状導体の数よりも多いことを特徴とする請求項2記載の積層型インダクタ。
【請求項4】
前記第1のインダクタ部分における前記少なくとも1つの柱状導体の数は、前記第2のインダクタ部分における前記少なくとも1つの柱状導体の数と同じであることを特徴とする請求項2記載の積層型インダクタ。
【請求項5】
前記第2のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数は、2つであることを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項6】
前記第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体と前記第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体の少なくとも一方は、前記第3の構造体の短手方向に沿って並ぶ複数の柱状導体を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項7】
前記第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体と前記第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体の少なくとも一方は、前記第3の構造体の短手方向と交差する方向に沿って並ぶ複数の柱状導体を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項8】
前記第1のインダクタ部分の前記第1の構造体の前記少なくとも1つの柱状導体と、前記第2のインダクタ部分の前記第1の構造体の前記少なくとも1つの柱状導体は、前記積層方向に直交する方向に沿って並び、
前記第1のインダクタ部分の前記第2の構造体の前記少なくとも1つの柱状導体と、前記第2のインダクタ部分の前記第2の構造体の前記少なくとも1つの柱状導体は、前記積層方向に直交する方向に沿って並ぶことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項9】
前記第1のインダクタ部分の前記第3の構造体の短手方向の寸法は、前記第2のインダクタ部分の前記第3の構造体の短手方向の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項10】
前記第1のインダクタ部分の前記第3の構造体と、前記第2のインダクタ部分の前記第3の構造体は、前記積層方向において同じ位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項11】
前記第3の構造体は、前記積層方向に積層され且つ互いに電気的に接続された複数の導体層を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型インダクタ。
【請求項12】
積層された複数の誘電体層を含む積層体と、
前記積層体に一体化されたインダクタとを備えた積層型インダクタであって、
前記インダクタは、複数の柱状導体と、複数の導体層とを含み、
前記複数の導体層は、前記複数の誘電体層の積層方向から見て互いに所定の間隔を開けて配置された第1の導体層および第2の導体層を含み、
前記複数の柱状導体は、前記第1の導体層によって電気的に接続された2つの第1の柱状導体と、前記第2の導体層によって電気的に接続された2つの第2の柱状導体とを含むことを特徴とする積層型インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の誘電体層を含む積層体の内部に形成され且つ複数の誘電体層の積層方向と直交する方向に延びる軸を中心に巻回された積層型インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
小型移動体通信機器では、システムおよび使用周波数帯域が異なる複数のアプリケーションで共通に使用されるアンテナを設け、このアンテナが送受信する複数の信号を、分波器を用いて分離する構成が広く用いられている。
【0003】
一般的に、第1の周波数帯域内の周波数の第1の信号と、第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域内の周波数の第2の信号を分離する分波器は、共通ポートと、第1の信号ポートと、第2の信号ポートと、共通ポートから第1の信号ポートに至る第1の信号経路に設けられた第1のフィルタと、共通ポートから第2の信号ポートに至る第2の信号経路に設けられた第2のフィルタとを備えている。第1および第2のフィルタとしては、例えば、インダクタとキャパシタを用いて構成されたLCフィルタが用いられる。
【0004】
小型化に適した分波器としては、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体を用いたものが知られている。積層体を用いた分波器に用いられるインダクタとしては、導体構造体型のインダクタが知られている。導体構造体型のインダクタとは、導体層と複数のスルーホールとによって構成されたインダクタであって、複数の誘電体層の積層方向に直交する軸に巻回されたインダクタである。導体構造体型のインダクタは、直列に接続された複数のスルーホールよりなる複数の柱状導体と、複数の柱状導体に接続された少なくとも1つの導体層とを含んでいる。
【0005】
フィルタに用いられるインダクタには、Q値を大きくすることが求められる。導体構造体型のインダクタは、Q値を大きくするのに適した構造を有している。
【0006】
特許文献1には、導体構造体型のインダクタを備えた積層型LCフィルタが開示されている。インダクタは、線路状導体パターンと複数のビア導体によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/034103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、Q値を大きくしながら、導体構造体型のインダクタのインダクタンスを小さくすることを考える。例えば、インダクタの一端から他端までの距離を同じにしながら、インダクタの導体層の幅を大きくすることによって、インダクタンスを小さくすることが可能である。しかし、導体層の面積が大きくなると、積層体にクラックが生じやすくなるという問題が発生する。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、Q値を大きくし且つインダクタンスを小さくしながら、積層体にクラックが発生することを防止できるようにした積層型インダクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の積層型インダクタは、第1のインダクタ部分と、第1のインダクタ部分に対して並列に接続された第2のインダクタ部分と、第1のインダクタ部分および第2のインダクタ部分を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備えている。第1のインダクタ部分と第2のインダクタ部分の各々は、複数の誘電体層の積層方向に直交する方向に延びる軸を中心に巻回された導体構造体を含んでいる。導体構造体は、それぞれ積層方向に平行な方向に延在する第1の構造体および第2の構造体と、積層方向と交差する平面に沿って延在すると共に回路構成上第1の構造体と第2の構造体との間に設けられた第3の構造体とを含んでいる。
【0011】
第1の構造体と第2の構造体の各々は、積層方向に平行な方向に延在する少なくとも1つの柱状導体を含んでいる。第1のインダクタ部分の第1の構造体と第2の構造体の少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層型インダクタは、第1のインダクタ部分と、第1のインダクタ部分に対して並列に接続された第2のインダクタ部分とを備えている。第1のインダクタ部分の第1の構造体と第2の構造体の少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいる。これにより、本発明によれば、Q値を大きくし且つインダクタンスを小さくしながら、積層体にクラックが発生することを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型インダクタを含む分波器の回路構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型インダクタを含む分波器の外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図5】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における10層目ないし15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における16層目ないし21層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における22層目および23層目のパターン形成面を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部を示す斜視図である。
図10】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部の一部を示す平面図である。
図11】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部の一部を示す斜視図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタを示す斜視図である。
図13】本発明の一実施の形態に係る第2の積層型インダクタを示す斜視図である。
図14】本発明の一実施の形態における分波器の通過減衰特性を示す特性図である。
図15】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第1の変形例を示す斜視図である。
図16】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第2の変形例を示す斜視図である。
図17】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第3の変形例を示す斜視図である。
図18】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第4の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る積層型インダクタを含む分波器1の構成の概略について説明する。図1は、分波器1の回路構成を示す回路図である。本実施の形態における分波器1は、ダイプレクサである。分波器1は、共通端子2と、第1の信号端子3と、第2の信号端子4と、第1のフィルタ10と、第2のフィルタ20とを備えている。
【0015】
第1のフィルタ10は、回路構成上、共通端子2と第1の信号端子3との間に設けられている。第2のフィルタ20は、回路構成上、共通端子2と第2の信号端子4との間に設けられている。なお、本出願において、「回路構成上」という表現は、物理的な構成における配置ではなく、回路図上での配置を指すために用いている。
【0016】
第1のフィルタ10は、第1の通過帯域内の周波数の信号を選択的に通過させるフィルタであって、少なくとも1つのインダクタと少なくとも1つのキャパシタとを用いて構成されたLCフィルタである。第2のフィルタ20は、第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の信号を選択的に通過させるフィルタであって、少なくとも1つのインダクタと少なくとも1つのキャパシタとを用いて構成されたLCフィルタである。
【0017】
分波器1は、更に、共通端子2と第1の信号端子3とを接続する第1の経路5と、共通端子2と第2の信号端子4とを接続する第2の経路6とを備えている。第1の経路5は、共通端子2から第1のフィルタ10を経由して第1の信号端子3に至る経路である。第2の経路6は、共通端子2から第2のフィルタ20を経由して第2の信号端子4に至る経路である。第1の経路5と第2の経路6は、共通端子2と第1および第2のフィルタ10,20との間において分岐する。
【0018】
分波器1は、更に、回路構成上、共通端子2と第2のフィルタ20との間に設けられたインダクタL10を備えている。インダクタL10の一端は、共通端子2に接続されている。
【0019】
次に、図1を参照して、第1および第2のフィルタ10,20の構成の一例について説明する。始めに、第1のフィルタ10の構成について説明する。第1のフィルタ10は、インダクタL11,L12,L13と、キャパシタC11,C12,C13,C14とを含んでいる。インダクタL11の一端は、共通端子2に接続されている。インダクタL12の一端は、インダクタL11の他端に接続されている。インダクタL12の他端は、第1の信号端子3に接続されている。
【0020】
キャパシタC11は、インダクタL11に対して並列に接続されている。キャパシタC12は、インダクタL12に対して並列に接続されている。
【0021】
キャパシタC13の一端は、インダクタL11とインダクタL12の接続点に接続されている。キャパシタC14の一端は、インダクタL12の他端に接続されている。インダクタL13の一端は、キャパシタC13,C14の各他端に接続されている。インダクタL13の他端は、グランドに接続されている。
【0022】
インダクタL12は、第1の経路5にその両端が接続されている。インダクタL12は、第1の経路5の一部を構成してもよい。後述するように、インダクタL12は、本発明の「積層型インダクタ」に対応する。
【0023】
次に、第2のフィルタ20の構成について説明する。第2のフィルタ20は、インダクタL21,L22,L23と、キャパシタC21,C22,C23とを含んでいる。キャパシタC21の一端は、インダクタL10の他端に接続されている。キャパシタC22の一端は、キャパシタC21の他端に接続されている。インダクタL21の一端は、キャパシタC22の他端に接続されている。インダクタL21の他端は、グランドに接続されている。
【0024】
インダクタL22の一端は、キャパシタC21の他端に接続されている。インダクタL23の一端は、インダクタL22の他端に接続されている。インダクタL23の他端は、第2の信号端子4に接続されている。キャパシタC23は、インダクタL22に対して並列に接続されている。
【0025】
インダクタL22は、第2の経路6にその両端が接続されている。インダクタL22は、第2の経路6の一部を構成してもよい。後述するように、インダクタL22は、本発明の「積層型インダクタ」に対応する。
【0026】
次に、図2を参照して、分波器1のその他の構成について説明する。図2は、分波器1の外観を示す斜視図である。
【0027】
分波器1は、更に、積層体50を備えている。積層体50は、積層された複数の誘電体層と、複数の導体(複数の導体層および複数のスルーホール)とを含んでいる。積層体50は、共通端子2、第1の信号端子3、第2の信号端子4、第1のフィルタ10および第2のフィルタ20を一体化するためものである。
【0028】
積層体50は、複数の誘電体層の積層方向Tの両端に位置する底面50Aおよび上面50Bと、底面50Aと上面50Bを接続する4つの側面50C~50Fとを有している。側面50C,50Dは互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C~50Fは、上面50Bおよび底面50Aに対して垂直になっている。
【0029】
ここで、図2に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では、積層方向Tに平行な一方向を、Z方向とする。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。また、「積層方向Tから見たとき」という表現は、Z方向または-Z方向に離れた位置から対象物を見ることを意味する。
【0030】
図2に示したように、底面50Aは、積層体50における-Z方向の端に位置する。上面50Bは、積層体50におけるZ方向の端に位置する。側面50Cは、積層体50における-X方向の端に位置する。側面50Dは、積層体50におけるX方向の端に位置する。側面50Eは、積層体50における-Y方向の端に位置する。側面50Fは、積層体50におけるY方向の端に位置する。
【0031】
側面50E,50Fは、それぞれ、側面50Cと側面50Dとを接続している。積層体50は、更に、側面50Dと側面50Fとが交差する位置に存在する第1の端部E1と、側面50Cと側面50Eとが交差する位置に存在する第2の端部E2と、側面50Dと側面50Eとが交差する位置に存在する第3の端部E3と、側面50Cと側面50Fとが交差する位置に存在する第4の端部E4とを有している。
【0032】
分波器1は、更に、積層体50の底面50Aに設けられた電極111,112,113,114,115,116,117,118,119を備えている。電極111,112,113は、側面50Fよりも側面50Eにより近い位置において、X方向にこの順に並んでいる。電極115,116,117は、側面50Eよりも側面50Fにより近い位置において、-X方向にこの順に並んでいる。
【0033】
電極114は、電極113と電極115との間に配置されている。電極118は、電極111と電極117との間に配置されている。電極119は、電極112と電極116との間に配置されている。また、電極119は、底面50Aのほぼ中央に配置されている。
【0034】
電極112は共通端子2に対応し、電極115は第1の信号端子3に対応し、電極117は第2の信号端子4に対応している。従って、共通端子2ならびに第1および第2の信号端子3,4は、積層体50の底面50Aに設けられている。電極111,113,114,116,118,119の各々は、グランドに接続される。
【0035】
次に、図3(a)ないし図8(b)を参照して、積層体50を構成する複数の誘電体層、複数の導体層および複数のスルーホールの一例について説明する。この例では、積層体50は、積層された23層の誘電体層を有している。以下、この23層の誘電体層を、下から順に1層目ないし23層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし23層目の誘電体層を符号51~73で表す。
【0036】
図3(a)ないし図8(a)において、複数の円は複数のスルーホールを表している。誘電体層51~72の各々には、複数のスルーホールが形成されている。複数のスルーホールは、それぞれ、スルーホール用の孔に導体ペーストを充填することによって形成される。複数のスルーホールの各々は、電極、導体層または他のスルーホールに接続されている。
【0037】
図4(a)ないし図7(c)では、複数のスルーホールのうち、後述する複数の柱状導体を構成する複数の特定のスルーホールに、符号を付している。複数の特定のスルーホールの各々と、導体層または他のスルーホールとの接続関係については、1層目ないし23層目の誘電体層51~73が積層された状態における接続関係について説明している。複数の特定のスルーホールの各々には、対応する柱状導体の符号を付している。
【0038】
図3(a)は、1層目の誘電体層51のパターン形成面を示している。誘電体層51のパターン形成面には、電極111~119が形成されている。図3(b)は、2層目の誘電体層52のパターン形成面を示している。誘電体層52のパターン形成面には、導体層521,523,524と、インダクタ用の導体層522が形成されている。図3(c)は、3層目の誘電体層53のパターン形成面を示している。誘電体層53のパターン形成面には、インダクタ用の導体層531,532と、導体層533,534が形成されている。
【0039】
図4(a)は、4層目の誘電体層54のパターン形成面を示している。誘電体層54のパターン形成面には、インダクタ用の導体層541と、導体層542,543,544が形成されている。また、誘電体層54には、符号T1aを付した3つのスルーホールと、符号T1bを付した3つのスルーホールと、符号T2aを付した2つのスルーホールと、符号T2bを付した2つのスルーホールと、符号T3aを付した3つのスルーホールと、符号T4aを付した2つのスルーホールが形成されている。
【0040】
符号T1aを付した3つのスルーホールは、3つの柱状導体T1aを構成するためのスルーホールである。なお、以下の説明では、符号T1aを付したスルーホールを、便宜上、スルーホールT1aと記す。また、スルーホールT1a以外の符号を付したスルーホールについても、スルーホールT1aと同様に記す。スルーホールT1a以外の符号を付したスルーホールは、その符号を付した柱状導体を構成するためのスルーホールである。
【0041】
誘電体層54に形成された3つのスルーホールT1aと、誘電体層54に形成された3つのスルーホールT2aは、導体層542に接続されている。誘電体層54に形成された3つのスルーホールT1bと、誘電体層54に形成された2つのスルーホールT2bは、導体層543に接続されている。誘電体層54に形成された3つのスルーホールT3aと、誘電体層54に形成された2つのスルーホールT4aは、導体層544に接続されている。
【0042】
図4(b)は、5層目の誘電体層55のパターン形成面を示している。誘電体層55のパターン形成面には、導体層551,552,553,554が形成されている。また、誘電体層55には、3つのスルーホールT1aと、3つのスルーホールT1bと、2つのスルーホールT2aと、2つのスルーホールT2bと、3つのスルーホールT3aと、2つのスルーホールT4aが形成されている。
【0043】
図4(c)は、6層目の誘電体層56のパターン形成面を示している。誘電体層56のパターン形成面には、導体層561,562が形成されている。また、誘電体層56には、3つのスルーホールT1aと、3つのスルーホールT1bと、2つのスルーホールT2aと、2つのスルーホールT2bと、3つのスルーホールT3aと、3つのスルーホールT3bと、2つのスルーホールT4aと、2つのスルーホールT4bが形成されている。誘電体層56に形成された3つのスルーホールT3bと、誘電体層56に形成された2つのスルーホールT4bは、導体層562に接続されている。
【0044】
図5(a)は、7層目の誘電体層57のパターン形成面を示している。誘電体層57のパターン形成面には、インダクタ用の導体層571が形成されている。図5(b)は、8層目の誘電体層58のパターン形成面を示している。誘電体層58のパターン形成面には、インダクタ用の導体層581,582が形成されている。図5(c)は、9層目の誘電体層59のパターン形成面を示している。誘電体層59のパターン形成面には、インダクタ用の導体層591が形成されている。
【0045】
図6(a)は、10層目ないし13層目の誘電体層60~63の各々のパターン形成面を示している。誘電体層60~63の各々のパターン形成面には、導体層は形成されていない。図6(b)は、14層目の誘電体層64のパターン形成面を示している。誘電体層64のパターン形成面には、インダクタ用の導体層641が形成されている。図6(c)は、15層目の誘電体層65のパターン形成面を示している。誘電体層65のパターン形成面には、インダクタ用の導体層651が形成されている。
【0046】
図7(a)は、16層目の誘電体層66のパターン形成面を示している。誘電体層66のパターン形成面には、インダクタ用の導体層661,662が形成されている。図7(b)は、17層目の誘電体層67のパターン形成面を示している。誘電体層67のパターン形成面には、インダクタ用の導体層671,672が形成されている。図7(c)は、18層目ないし21層目の誘電体層68~71の各々のパターン形成面を示している。誘電体層68~71の各々のパターン形成面には、導体層は形成されていない。
【0047】
また、誘電体層57~71の各々には、3つのスルーホールT1aと、3つのスルーホールT1bと、2つのスルーホールT2aと、2つのスルーホールT2bと、3つのスルーホールT3aと、3つのスルーホールT3bと、2つのスルーホールT4aと、2つのスルーホールT4bが形成されている。
【0048】
図8(a)は、22層目の誘電体層72のパターン形成面を示している。誘電体層72のパターン形成面には、インダクタ用の導体層721,722,723,724,725,726,727が形成されている。導体層723,724,726,727の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。
【0049】
誘電体層71に形成された3つのスルーホールT1aは、導体層723の第1端の近傍部分に接続されている。誘電体層71に形成された3つのスルーホールT1bは、導体層723の第2端の近傍部分に接続されている。
【0050】
誘電体層71に形成された2つのスルーホールT2aは、導体層724の第1端の近傍部分に接続されている。誘電体層71に形成された2つのスルーホールT2bは、導体層724の第2端の近傍部分に接続されている。
【0051】
誘電体層71に形成された3つのスルーホールT3aは、導体層726の第1端の近傍部分に接続されている。誘電体層71に形成された3つのスルーホールT3bは、導体層726の第2端の近傍部分に接続されている。
【0052】
誘電体層71に形成された2つのスルーホールT4aは、導体層727の第1端の近傍部分に接続されている。誘電体層71に形成された2つのスルーホールT4bは、導体層727の第2端の近傍部分に接続されている。
【0053】
図8(b)は、23層目の誘電体層73のパターン形成面を示している。誘電体層73のパターン形成面には、インダクタ用の導体層731,732,733,734,735,736,737が形成されている。
【0054】
図2に示した積層体50は、1層目の誘電体層51のパターン形成面が積層体50の底面50Aになり、23層目の誘電体層73のパターン形成面とは反対側の面が積層体50の上面50Bになるように、1層目ないし23層目の誘電体層51~73が積層されて構成される。
【0055】
図3(a)ないし図8(a)に示した複数のスルーホールの各々は、1層目ないし23層目の誘電体層51~73を積層したときに、積層方向Tにおいて重なる導体層または積層方向Tにおいて重なる他のスルーホールに接続されている。また、図3(a)ないし図8(a)に示した複数のスルーホールのうち、電極内または導体層内に位置するスルーホールは、その電極またはその導体層に接続されている。
【0056】
図9は、1層目ないし23層目の誘電体層51~73が積層されて構成された積層体50の内部を示している。図9に示したように、積層体50の内部では、図3(a)ないし図8(b)に示した複数の導体層と複数のスルーホールが積層されている。
【0057】
以下、図1に示した分波器1の回路の構成要素と、図3(a)ないし図8(b)に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。始めに、インダクタL10について説明する。インダクタL10は、インダクタ用の導体層571,581,661,662,671,672と、導体層571,581の組、導体層661,671の組および導体層662,672の組のそれぞれを接続する複数のスルーホールと、導体層581と導体層661とを接続する複数のスルーホールと、導体層581と導体層662とを接続する複数のスルーホールと、導体層661と導体層521とを接続する複数のスルーホールと、導体層662と導体層561とを接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0058】
次に、第1のフィルタ10の構成要素について説明する。インダクタL11は、インダクタ用の導体層582,591,721,722,731,732と、導体層582,591の組、導体層721,731の組および導体層722,732の組のそれぞれを接続する複数のスルーホールと、導体層591と導体層721とを接続する複数のスルーホールと、導体層591と導体層722とを接続する複数のスルーホールと、導体層721と導体層541とを接続する複数のスルーホールと、導体層722と導体層542とを接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0059】
インダクタL12は、インダクタ用の導体層723,724,733,734と、導体層723,733の組および導体層724,734の組のそれぞれを接続する複数のスルーホールと、符号T1a,T1b,T2a,T2bを付した複数のスルーホールとによって構成されている。
【0060】
インダクタL13は、電極116と導体層523とを接続するスルーホールと、電極119と導体層523とを接続するスルーホールとによって構成されている。
【0061】
キャパシタC11は、導体層721と導体層722との間に生じる浮遊容量と、導体層731と導体層732との間に生じる浮遊容量とを合わせたものである。キャパシタC12は、導体層542,551と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC13は、導体層523,533と、これらの導体層の間の誘電体層52とによって構成されている。キャパシタC14は、電極114と、電極115、導体層534または導体層543との間に生じる浮遊容量である。
【0062】
次に、第2のフィルタ20の構成要素について説明する。インダクタL21は、インダクタ用の導体層725,735と、導体層725と導体層735とを接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0063】
インダクタL22は、インダクタ用の導体層726,727,736,737と、導体層726,736の組および導体層727,737の組のそれぞれを接続する複数のスルーホールと、符号T3a,T3b,T4a,T4bを付した複数のスルーホールとによって構成されている。
【0064】
インダクタL23は、インダクタ用の導体層522,532,641,651と、導体層522,532の組および導体層641,651の組のそれぞれを接続する複数のスルーホールと、導体層532と導体層641とを接続する複数のスルーホールと、導体層641と導体層562とを接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0065】
キャパシタC21は、導体層552,561と、これらの導体層の間の誘電体層55とによって構成されている。キャパシタC22は、導体層544,553と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC23は、導体層544,554と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。
【0066】
次に、本実施の形態に係る積層型インダクタについて説明する。図1ないし図9に示した例では、インダクタL12とインダクタL22がそれぞれ本発明の「積層型インダクタ」に対応する。以下、インダクタL12を第1の積層型インダクタとも言い、インダクタL22を第1の積層型インダクタとも言う。インダクタL12,L22は、積層体50に一体化されている。
【0067】
以下、図2ないし図13を参照して、インダクタL12,L22の構造上の特徴について説明する。図10は、図9に示した積層体50の内部の一部を示す平面図である。図11は、図9に示した積層体50の内部の一部を示す斜視図である。図12は、第1の積層型インダクタすなわちインダクタL12を示す斜視図である。図13は、第2の積層型インダクタすなわちインダクタL22を示す斜視図である。
【0068】
図10ないし図13に示したように、インダクタL12,L22の各々は、積層方向Tに直交する方向に延びる軸を中心に巻回されている。本実施の形態では特に、インダクタL12は、第1の軸A1を中心に巻回された導体構造体型のインダクタである。また、インダクタL22は、第2の軸A2を中心に巻回された導体構造体型のインダクタである。第1の軸A1と第2の軸A2は、互いに平行であってもよい。図10ないし図13に示した例では、第1の軸A1と第2の軸A2は、それぞれ、Y方向に平行な方向に延在している。
【0069】
図9ないし図11に示したように、インダクタL12は、積層体50の第2の端部E2よりも積層体50の第1の端部E1により近い位置に配置されている。インダクタL12は、更に、積層体50の第3および第4の端部E3,E4よりも積層体50の第1の端部E1により近い位置に配置されていることが好ましい。インダクタL22は、積層体50の第1の端部E1よりも積層体50の第2の端部E2により近い位置に配置されている。インダクタL22は、更に、積層体50の第3および第4の端部E3,E4よりも積層体50の第2の端部E2により近い位置に配置されていることが好ましい。
【0070】
本実施の形態では特に、インダクタL12,L22は、積層方向Tから見たときに、第1の端部E1と第2の端部E2とを結ぶ仮想の直線(対角線)と交差するように配置されている。また、本実施の形態では特に、インダクタL12,L22は、Y方向から見たときに、互いに重ならないように配置されている。インダクタL12,L22は、更に、X方向から見たときに、互いに重ならないように配置されていてもよい。
【0071】
図9および図10に示した例では、インダクタL12と側面50Dとの間、およびインダクタL12と側面50Fとの間には、他の素子が配置されていない。しかし、インダクタL12の配置に関する上記の要件を満たす限り、インダクタL12と側面50Dまたは側面50Fとの間には、他の素子が配置されていてもよい。同様に、図9および図10に示した例では、インダクタL22と側面50Cとの間、およびインダクタL22と側面50Eとの間には、他の素子が配置されていない。しかし、インダクタL22の配置に関する上記の要件を満たす限り、インダクタL22と側面50Cまたは側面50Eとの間には、他の素子が配置されていてもよい。
【0072】
インダクタL12,L22の各々は、それぞれ積層方向Tに平行な方向に延在する第1の構造体および第2の構造体と、積層方向Tと交差する平面に沿って延在すると共に回路構成上第1の構造体と第2の構造体との間に設けられた第3の構造体とを含んでいる。以下、第1ないし第3の構造体について詳しく説明する。
【0073】
始めに、インダクタL12の第1ないし第3の構造体について説明する。図9ないし図12に示したように、インダクタL12は、第1のインダクタ部分L12Aと、第1のインダクタ部分L12Aに対して並列に接続された第2のインダクタ部分L12Bとを含んでいる。第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々は、第1の軸A1を中心に巻回された導体構造体を含んでいる。
【0074】
第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体は、矩形状またはほぼ矩形状の巻線でもある。矩形状またはほぼ矩形状の巻線では、巻回数について、巻線を矩形とみなしたときに、矩形の1辺につき1/4回と数えてもよい。第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体の巻回数は、3/4回である。
【0075】
第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体は、それぞれ積層方向Tに平行な方向に延在する第1の構造体L12Aaおよび第2の構造体L12Abと、積層方向Tと交差する平面に沿って延在する第3の構造体L12Acとを含んでいる。第3の構造体L12Acは、回路構成上、第1の構造体L12Aaと第2の構造体L12Abとの間に設けられている。本実施の形態では、第3の構造体L12Acは、第1の構造体L12Aaと第2の構造体L12Abとを接続している。
【0076】
第1および第2の構造体L12Aa,L12Abの各々は、積層方向Tに平行な方向に延在する少なくとも1つの柱状導体を含んでいる。柱状導体は、複数のスルーホールが直列に接続されることによって構成された構造物である。第1および第2の構造体L12Aa,L12Abの少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいる。
【0077】
図12に示したように、本実施の形態では、第1の構造体L12Aaは、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された3つの柱状導体T1aを含んでいる。3つの柱状導体T1aは、誘電体層54~71に形成された、符号T1aを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0078】
図12に示したように、本実施の形態では、第2の構造体L12Abは、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された3つの柱状導体T1bを含んでいる。3つの柱状導体T1bは、誘電体層54~71に形成された、符号T1bを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0079】
図12に示したように、第3の構造体L12Acは、積層方向Tに積層され且つ互いに電気的に接続された導体層723,733を含んでいる。導体層723の面積は、導体層733の面積よりも大きい。導体層733は、積層方向Tから見たときに、導体層723の外縁の内側に配置されている。積層方向Tから見たときの導体層733の形状は、積層方向Tから見たときの導体層723の形状と相似形である。
【0080】
第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体は、矩形状またはほぼ矩形状の巻線でもある。第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体の巻回数は、3/4回である。第2のインダクタ部分L12Bは第1のインダクタ部分L12Aに対して並列に接続されていることから、インダクタL12の実質的な巻回数は、3/4回である。
【0081】
第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体は、それぞれ積層方向Tに平行な方向に延在する第1の構造体L12Baおよび第2の構造体L12Bbと、積層方向Tと交差する平面に沿って延在する第3の構造体L12Bcとを含んでいる。第3の構造体L12Bcは、回路構成上、第1の構造体L12Baと第2の構造体L12Bbとの間に設けられている。本実施の形態では、第3の構造体L12Bcは、第1の構造体L12Baと第2の構造体L12Bbとを接続している。
【0082】
第1および第2の構造体L12Ba,L12Bbの各々は、積層方向Tに平行な方向に延在する少なくとも1つの柱状導体を含んでいる。第1および第2の構造体L12Ba,L12Bbの少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいる。
【0083】
図12に示したように、本実施の形態では、第1の構造体L12Baは、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された2つの柱状導体T2aを含んでいる。2つの柱状導体T2aは、誘電体層54~71に形成された、符号T2aを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0084】
図12に示したように、本実施の形態では、第2の構造体L12Bbは、積層方向Tと直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された2つの柱状導体T2bを含んでいる。2つの柱状導体T2bは、誘電体層54~71に形成された、符号T2bを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0085】
図12に示したように、第3の構造体L12Bcは、積層方向Tに積層され且つ互いに電気的に接続された導体層724,734を含んでいる。導体層724の面積は、導体層734の面積よりも大きい。導体層734は、積層方向Tから見たときに、導体層724の外縁の内側に配置されている。積層方向Tから見たときの導体層734の形状は、積層方向Tから見たときの導体層724の形状と相似形である。
【0086】
次に、インダクタL22の第1ないし第3の構造体について説明する。図9ないし図11および図13に示したように、インダクタL22は、第1のインダクタ部分L22Aと、第1のインダクタ部分L22Aに対して並列に接続された第2のインダクタ部分L22Bとを含んでいる。第1および第2のインダクタ部分L22A,L22Bの各々は、第2の軸A2を中心に巻回された導体構造体を含んでいる。
【0087】
第1のインダクタ部分L22Aの導体構造体の構成は、基本的には、第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体の構成と同じである。第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体の構成の説明中の、第1のインダクタ部分L12A、第1の構造体L12Aa、第2の構造体L12Ab、第3の構造体L12Ac、導体層723,733、符号T1a,T1bおよび図12を、それぞれ、第1のインダクタ部分L22A、第1の構造体L22Aa、第2の構造体L22Ab、第3の構造体L22Ac、導体層726,736、符号T3a,T3bおよび図13に置き換えれば、以下の点を除いて、第1のインダクタ部分L22Aの導体構造体の構成の説明になる。第1のインダクタ部分L22Aの導体構造体では、3つの柱状導体T3bは、誘電体層56~71に形成された、符号T3bを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0088】
第2のインダクタ部分L22Bの導体構造体の構成は、基本的には、第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体の構成と同じである。第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体の構成の説明中の、第2のインダクタ部分L12B、第1の構造体L12Ba、第2の構造体L12Bb、第3の構造体L12Bc、導体層724,734、符号T2a,T2bおよび図12を、それぞれ、第2のインダクタ部分L22B、第1の構造体L22Ba、第2の構造体L22Bb、第3の構造体L22Bc、導体層727,737、符号T4a,T4bおよび図13に置き換えれば、以下の点を除いて、第2のインダクタ部分L22Bの導体構造体の構成の説明になる。第2のインダクタ部分L22Bの導体構造体では、2つの柱状導体T4bは、誘電体層56~71に形成された、符号T4bを付した複数のスルーホールによって構成されている。
【0089】
次に、インダクタL12,L22に含まれる柱状導体に関する構造上の特徴について説明する。本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aの柱状導体の数は6つであり、第2のインダクタ部分L12Bの柱状導体の数は4つである。このように、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aの柱状導体の数は、第2のインダクタ部分L12Bの柱状導体の数よりも多い。しかし、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々に含まれる柱状導体の数は、上記の例に限られない。例えば、後で変形例を参照して説明するように、第1のインダクタ部分L12Aの柱状導体と第2のインダクタ部分L12Bの柱状導体の数は同じであってもよい。また、後で変形例を参照して説明するように第2のインダクタ部分L12Bの柱状導体の数は2つであってもよい。すなわち、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baは1つの柱状導体T2aによって構成され、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbは1つの柱状導体T2bによって構成されていてもよい。
【0090】
また、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaの3つの柱状導体T1aは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。同様に、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abの3つの柱状導体T1bは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。本実施の形態では特に、上記の方向は、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acの短手方向すなわちY方向に平行な方向である。なお、第1の構造体L12Aaと第2の構造体L12Abの少なくとも一方は、上記の柱状導体の代わりに、または上記の柱状導体に加えて、第3の構造体L12Acの短手方向(Y方向に平行な方向)と交差する方向に並ぶ複数の柱状導体を含んでいてもよい。第1の構造体L12Aaと第2の構造体L12Abの各々が第3の構造体L12Acの短手方向と交差する方向に並ぶ複数の柱状導体を含む例については、後で変形例として説明する。
【0091】
また、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baの2つの柱状導体T2aは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。同様に、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbの2つの柱状導体T2bは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。本実施の形態では特に、上記の方向は、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcの短手方向すなわちY方向に平行な方向である。なお、第1の構造体L12Baと第2の構造体L12Bbの少なくとも一方は、上記の柱状導体の代わりに、または上記の柱状導体に加えて、第3の構造体L12Bcの短手方向(Y方向に平行な方向)と交差する方向に並ぶ複数の柱状導体を含んでいてもよい。
【0092】
また、本実施の形態では、3つの柱状導体T1aと2つの柱状導体T2aは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。同様に、3つの柱状導体T1bと2つの柱状導体T2bは、積層方向Tに直交する方向に沿って並んでいる。本実施の形態では特に、上記の方向は、Y方向に平行な方向である。
【0093】
ここで、柱状導体T1a,T1b,T2a,T2bと導体層723,724に注目して、インダクタL12の構成について説明する。導体層723,724は、積層方向Tから見て互いに所定の間隔を開けて配置されている。3つの柱状導体T1aと3つの柱状導体T1bは、導体層723によって電気的に接続されている。2つの柱状導体T2aと2つの柱状導体T2bは、導体層724によって電気的に接続されている。
【0094】
上記の第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの柱状導体についての説明は、第1および第2のインダクタ部分L22A,L22Bの柱状導体についても当てはまる。
【0095】
次に、第3の構造体L12Ac,L12Bc,L22Ac,L22Bcに関する構造上の特徴について説明する。第3の構造体L12Ac,L12Bc,L22Ac,L22Bcは、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。すなわち、第3の構造体L12Acの導体層723、第3の構造体L12Bcの導体層724、第3の構造体L22Acの導体層726および第3の構造体L22Bcの導体層727は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されていると共に、第3の構造体L12Acの導体層733、第3の構造体L12Bcの導体層734、第3の構造体L22Acの導体層736および第3の構造体L22Bcの導体層737は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。
【0096】
第3の構造体L12Acの短手方向の寸法は、導体層723の短手方向の寸法と同じであり、第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法は、導体層724の短手方向の寸法と同じである。本実施の形態では、導体層723の短手方向の寸法は、導体層724の短手方向の寸法よりも大きい。従って、第3の構造体L12Acの短手方向の寸法は、第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法よりも大きい。
【0097】
第3の構造体L22Acの短手方向の寸法は、導体層726の短手方向の寸法と同じであり、第3の構造体L22Bcの短手方向の寸法は、導体層727の短手方向の寸法と同じである。本実施の形態では、導体層726の短手方向の寸法は、導体層727の短手方向の寸法よりも大きい。従って、第3の構造体L22Acの短手方向の寸法は、第3の構造体L22Bcの短手方向の寸法よりも大きい。
【0098】
次に、本実施の形態における分波器1のその他の構造上の特徴について説明する。始めに、インダクタL12に対して並列に接続されたキャパシタC12とインダクタL22に対して並列に接続されたキャパシタC24の構造上の特徴について説明する。前述のように、キャパシタC12は、導体層542,551と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。また、キャパシタC24は、導体層544,554と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC12の導体層542とキャパシタC24の導体層544は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。また、キャパシタC12の導体層551とキャパシタC24の導体層554は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。
【0099】
次に、インダクタL10に関する構造上の特徴について説明する。インダクタL10は、積層方向Tに直交する方向に延びる軸を中心に巻回されている。本実施の形態では特に、インダクタL10は、X方向に平行な軸を中心に巻回された導体構造体型のインダクタである。インダクタL10の巻回数は、7/4回である。
【0100】
図10に示したように、インダクタL10は、インダクタL12と側面50Eとの間に配置されていると共に、インダクタL22と側面50Dとの間に配置されている。
【0101】
次に、本実施の形態における分波器1の特性の一例について説明する。図14は、分波器1の通過減衰特性を示す特性図である。図14において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。図14において、符号91は、共通端子2と第1の信号端子3との間の通過減衰特性を示している。符号92は、共通端子2と第2の信号端子4との間の通過減衰特性を示している。
【0102】
符号91を付した通過減衰特性は、実質的に、第1のフィルタ10の通過減衰特性を示している。符号91を付した通過減衰特性において、減衰量の絶対値が0に近い値となる周波数領域は、第1のフィルタ10の第1の通過帯域を表している。また、符号92を付した通過減衰特性は、実質的に、第2のフィルタ20の通過減衰特性を示している。符号92を付した通過減衰特性において、減衰量の絶対値が0に近い値となる周波数領域は、第2のフィルタ20の第2の通過帯域を表している。図14には、第1のフィルタ10の第1の通過帯域が3800MHz~4200MHzの周波数帯域を含み、第2のフィルタ20の第2の通過帯域が4400MHz~7125MHzの周波数帯域を含むように設計したときの、分波器1の特性を示している。
【0103】
また、図14において符号91aを付した矢印は、インダクタL12とキャパシタC12によって形成される減衰極を示している。図14に示したように、減衰極91aと第1の通過帯域との間の周波数領域には、他の減衰極は形成されていない。すなわち、第1のフィルタ10の通過減衰特性において、減衰極91aは、第1の通過帯域よりも高い周波数領域において第1の通過帯域に最も近い減衰極である。
【0104】
また、図14において符号92aを付した矢印は、インダクタL22とキャパシタC24によって形成される減衰極を示している。図14に示したように、減衰極92aと第2の通過帯域との間の周波数領域には、他の減衰極は形成されていない。すなわち、第2のフィルタ20の通過減衰特性において、減衰極92aは、第2の通過帯域よりも低い周波数領域において第2の通過帯域に最も近い減衰極である。
【0105】
次に、本実施の形態に係る第1および第2の積層型インダクタすなわちインダクタL12,L22の作用および効果について説明する。本実施の形態では、インダクタL12は、第1のインダクタ部分L12Aと、第1のインダクタ部分L12Aに対して並列に接続された第2のインダクタ部分L12Bとを含んでいる。これにより、本実施の形態によれば、インダクタL12全体のインダクタンスを小さくすることができる。
【0106】
また、本実施の形態では、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々は、導体構造体を含んでいる。すなわち、本実施の形態では、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々が、導体構造体型のインダクタとなっている。これにより、本実施の形態によれば、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12Bの各々のQ値ならびにインダクタL12全体のQ値を大きくすることができる。
【0107】
また、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aの導体構造体は、導体層723,733によって構成された第3の構造体L12Acを含み、第2のインダクタ部分L12Bの導体構造体は、導体層723,733とは別体の導体層724,734によって構成された第3の構造体L12Bcを含んでいる。ここで、第1のインダクタ部分L12Aと同様の構成のインダクタ部分のみからなる比較例のインダクタについて考える。比較例のインダクタは、第1ないし第3の構造体L12Aa~L12Acと同様の構成の第1ないし第3の構造体を含んでいる。比較例のインダクタの第3の構造体は、互いに接続された2つの導体層を含んでいる。インダクタL12のインダクタンスと比較例のインダクタのインダクタンスを同じにして比較すると、導体層723,724,733,734の各々の面積は、比較例のインダクタの2つの導体層の各々の面積よりも小さくなる。これにより、本実施の形態によれば、積層体50にクラックが発生することを防止することができる。
【0108】
以上のことから、本実施の形態によれば、インダクタL12のQ値を大きくし且つインダクタL12のインダクタンスを小さくしながら、積層体50にクラックが発生することを防止することができる。
【0109】
また、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数は、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数よりも多い。また、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acの短手方向の寸法は、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法よりも大きい。これらのことから、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aのインダクタンスは、第2のインダクタ部分L12Bのインダクタンスよりも小さくなると共に、第1のインダクタ部分L12Aを流れる電流の量は、第2のインダクタ部分L12Bを流れる電流の量よりも多くなる。
【0110】
第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数が少なく且つ第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法すなわち導体層の幅が小さいため、信号が第2のインダクタ部分12Bを通過した場合にはその信号の損失は大きくなるが、第2のインダクタ部分L12Bを流れる電流の量は少ない。一方、第1のインダクタ部分L12Aを流れる電流の量は多くなるが、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数が多く且つ第3の構造体L12Acの短手方向の寸法すなわち導体層の幅が大きいため、信号が第1のインダクタ部分L12Aを通過した場合にはその信号の損失は比較的小さくなる。これらのことから、本実施の形態によれば、インダクタL12を通過する信号の損失を小さくすることができる。
【0111】
また、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acは、積層方向Tに積層され且つ互いに電気的に接続された導体層723,733を含み、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcは、積層方向Tに積層され且つ互いに電気的に接続された導体層724,734を含んでいる。これにより、本実施の形態によれば、第3の構造体L12Ac,L12Bcの各々が1つの導体層のみを含む場合に比べて、第3の構造体L12Ac,L12Bcの各々を通過する信号の損失を小さくすることができる。
【0112】
また、本実施の形態では、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数と、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数とを互いに異ならせることにより、インダクタL12のQ値を大きくしたまま、インダクタL12のインダクタンスの微調整をすることが容易になる。
【0113】
上記のインダクタL12についての説明は、インダクタL22にも当てはまる。すなわち、本実施の形態によれば、インダクタL22のQ値を大きくし且つインダクタL22のインダクタンスを小さくしながら、積層体50にクラックが発生することを防止することができる。また、本実施の形態によれば、インダクタL22を通過する信号の損失を小さくすることができると共に、インダクタL22のQ値を大きくしたまま、インダクタL22のインダクタンスの微調整をすることが容易になる。
【0114】
[変形例]
次に、インダクタL12を例にとって、本実施の形態に係る積層型インダクタの第1ないし第4の変形例について説明する。始めに、図15を参照して、インダクタL12の第1の変形例について説明する。第1の変形例では、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baは、1つの柱状導体T2aによって構成され、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbは、1つの柱状導体T2bによって構成されている。すなわち、第1の変形例では、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数は、2つである。
【0115】
次に、図16を参照して、インダクタL12の第2の変形例について説明する。第2の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaは、2つの柱状導体T1aによって構成され、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abは、2つの柱状導体T1bによって構成されている。第2の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数は4つであり、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数と同じである。
【0116】
また、第2の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acの短手方向の寸法は、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法と同じか、ほぼ同じであってもよい。
【0117】
次に、図17を参照して、インダクタL12の第3の変形例について説明する。第3の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaは、1つの柱状導体T1aによって構成され、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abは、1つの柱状導体T1bによって構成されている。また、第3の変形例では、第1の変形例と同様に、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baは、1つの柱状導体T2aによって構成され、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbは、1つの柱状導体T2bによって構成されている。第2の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数と、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数は、いずれも2つである。
【0118】
また、第3の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acの短手方向の寸法は、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法と同じか、ほぼ同じであってもよい。
【0119】
次に、図18を参照して、インダクタL12の第4の変形例について説明する。第4の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第3の構造体L12Acを構成する導体層723,733の各々の平面形状(積層方向Tから見た形状)は、ほぼ楕円形である。また、第2のインダクタ部分L12Bの第3の構造体L12Bcを構成する導体層724,734の各々の平面形状は、ほぼ楕円形である。
【0120】
また、第4の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaを構成する3つの柱状導体T1aのうちの-Y方向側の2つの柱状導体T1aは、Y方向に平行な方向に対して交差する方向(X方向から-Y方向に向かって回転した方向に平行な方向)に並んでいる。また、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaを構成する3つの柱状導体T1aのうちのY方向側の2つの柱状導体T1aは、Y方向に平行な方向に対して交差する方向(X方向からY方向に向かって回転した方向に平行な方向)に並んでいる。すなわち、第4の変形例では、第1の構造体L12Aaは、第3の構造体L12Acの短手方向(Y方向に平行な方向)と交差する方向に沿って並ぶ柱状導体T1aの組を2つ含んでいる。
【0121】
上記の第1の構造体L12Aaについての説明は、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abにも当てはまる。第4の変形例では、第2の構造体L12Abは、第3の構造体L12Acの短手方向(Y方向に平行な方向)と交差する方向に沿って並ぶ柱状導体T1aの組を2つ含んでいる。
【0122】
また、第4の変形例では、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baは、1つの柱状導体T2aによって構成され、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbは、1つの柱状導体T2bによって構成されている。
【0123】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の積層型インダクタは、分波器に限らず、積層型ローパスフィルタおよび積層型バンドパスフィルタ等の他の積層型電子部品に適用することができる。また、本発明の積層型インダクタは、インダクタとして単品の製品であってもよい。
【0124】
また、請求の範囲の要件を満たす限り、インダクタL12,L22の各々の配置および姿勢は、実施の形態に示した例に限られず、任意である。例えば、第1および第2の軸A1,A2の少なくとも一方は、Y方向に平行な方向と交差する方向に延在していてもよい。
【0125】
また、インダクタL12(L22)の巻回数は、3/4回に限られず、1回以上の任意の巻回数であってもよい。すなわち、インダクタL12の第1および第2のインダクタ部分L12A,L12B(L22A,L22B)の各々の巻回数は、1回以上の任意の巻回数であってもよい。
【0126】
また、インダクタL12(L22)は、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12B(L22A,L22B)に加えて、1つ以上の第3のインダクタ部分を含んでいてもよい。第1および第2のインダクタ部分L12A,L12B(L22A,L22B)と1つ以上の第3のインダクタ部分は、互いに並列に接続されている。1つ以上の第3のインダクタ部分は、第1および第2のインダクタ部分L12A,L12B(L22A,L22B)と同様に、第1ないし第3の構造体を含む導体構造体を含んでいてもよい。
【0127】
以上説明したように、本発明の第1の態様の積層型インダクタは、第1のインダクタ部分と、第1のインダクタ部分に対して並列に接続された第2のインダクタ部分と、第1のインダクタ部分および第2のインダクタ部分を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備えている。第1のインダクタ部分と第2のインダクタ部分の各々は、複数の誘電体層の積層方向に直交する方向に延びる軸を中心に巻回された導体構造体を含んでいる。導体構造体は、それぞれ積層方向に平行な方向に延在する第1の構造体および第2の構造体と、積層方向と交差する平面に沿って延在すると共に回路構成上第1の構造体と第2の構造体との間に設けられた第3の構造体とを含んでいる。
【0128】
第1の構造体と第2の構造体の各々は、積層方向に平行な方向に延在する少なくとも1つの柱状導体を含んでいる。第1のインダクタ部分の第1の構造体と第2の構造体の少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいる。
【0129】
本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第2のインダクタ部分の第1の構造体と第2の構造体の少なくとも一方の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向と直交する方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数の柱状導体を含んでいてもよい。第1のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数は、第2のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数よりも多くてもよい。あるいは、第1のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数は、第2のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数と同じであってもよい。
【0130】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第2のインダクタ部分における少なくとも1つの柱状導体の数は、2つであってもよい。
【0131】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体と第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体の少なくとも一方は、第3の構造体の短手方向に沿って並ぶ複数の柱状導体を含んでいてもよい。
【0132】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体と第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体の少なくとも一方は、第3の構造体の短手方向と交差する方向に沿って並ぶ複数の柱状導体を含んでいてもよい。
【0133】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第1のインダクタ部分の第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体と、第2のインダクタ部分の第1の構造体の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向に直交する方向に沿って並んでいてもよい。第1のインダクタ部分の第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体と、第2のインダクタ部分の第2の構造体の少なくとも1つの柱状導体は、積層方向に直交する方向に沿って並んでいてもよい。
【0134】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第1のインダクタ部分の第3の構造体の短手方向の寸法は、第2のインダクタ部分の第3の構造体の短手方向の寸法よりも大きくてもよい。
【0135】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第1のインダクタ部分の第3の構造体と、第2のインダクタ部分の第3の構造体は、積層方向において同じ位置に配置されていてもよい。
【0136】
また、本発明の第1の態様の積層型インダクタにおいて、第3の構造体は、積層方向に積層され且つ互いに電気的に接続された複数の導体層を含んでいてもよい。
【0137】
本発明の第2の態様の積層型インダクタは、積層された複数の誘電体層を含む積層体と、積層体に一体化されたインダクタとを備えている。インダクタは、複数の柱状導体と、複数の導体層とを含んでいる。複数の導体層は、複数の誘電体層の積層方向から見て互いに所定の間隔を開けて配置された第1の導体層および第2の導体層を含んでいる。複数の柱状導体は、第1の導体層によって電気的に接続された2つの第1の柱状導体と、第2の導体層によって電気的に接続された2つの第2の柱状導体とを含んでいる。
【符号の説明】
【0138】
1…分波器、2…共通端子、3…第1の信号端子、4…第2の信号端子、5…第1の経路、6…第2の経路、10…第1のフィルタ、20…第2のフィルタ、50…積層体、50A…底面、50B…上面、50C~50F…側面、111~119…電極、E1…第1の端部、E2…第2の端部、E3…第3の端部、E4…第4の端部、C11~C14,C21~C23…キャパシタ、L10~L13,L21~L23…インダクタ、L12A,L22A…第1のインダクタ部分、L12B,L22B…第2のインダクタ部分、L12Aa,L22Aa…第1の構造体、L12Ab,L22Ab…第2の構造体、L12Ac,L22Ac…第3の構造体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2024-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型インダクタを含む分波器の回路構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型インダクタを含む分波器の外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図5】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における10層目ないし15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における16層目ないし21層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態における分波器の積層体における22層目および23層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部を示す斜視図である。
図10】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部の一部を示す平面図である。
図11】本発明の一実施の形態における分波器の積層体の内部の一部を示す斜視図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタを示す斜視図である。
図13】本発明の一実施の形態に係る第2の積層型インダクタを示す斜視図である。
図14】本発明の一実施の形態における分波器の通過減衰特性を示す特性図である。
図15】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第1の変形例を示す斜視図である。
図16】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第2の変形例を示す斜視図である。
図17】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第3の変形例を示す斜視図である。
図18】本発明の一実施の形態に係る第1の積層型インダクタの第4の変形例を示す斜視図である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
分波器1は、更に、積層体50を備えている。積層体50は、積層された複数の誘電体層と、複数の導体(複数の導体層および複数のスルーホール)とを含んでいる。積層体50は、共通端子2、第1の信号端子3、第2の信号端子4、第1のフィルタ10および第2のフィルタ20を一体化するためものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
図4(a)は、4層目の誘電体層54のパターン形成面を示している。誘電体層54のパターン形成面には、導体層541,542,543,544が形成されている。また、誘電体層54には、符号T1aを付した3つのスルーホールと、符号T1bを付した3つのスルーホールと、符号T2aを付した2つのスルーホールと、符号T2bを付した2つのスルーホールと、符号T3aを付した3つのスルーホールと、符号T4aを付した2つのスルーホールが形成されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
誘電体層54に形成された3つのスルーホールT1aと、誘電体層54に形成された2つのスルーホールT2aは、導体層542に接続されている。誘電体層54に形成された3つのスルーホールT1bと、誘電体層54に形成された2つのスルーホールT2bは、導体層543に接続されている。誘電体層54に形成された3つのスルーホールT3aと、誘電体層54に形成された2つのスルーホールT4aは、導体層544に接続されている。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
次に、本実施の形態に係る積層型インダクタについて説明する。図1ないし図9に示した例では、インダクタL12とインダクタL22がそれぞれ本発明の「積層型インダクタ」に対応する。以下、インダクタL12を第1の積層型インダクタとも言い、インダクタL22を第2の積層型インダクタとも言う。インダクタL12,L22は、積層体50に一体化されている。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0098
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0098】
次に、本実施の形態における分波器1のその他の構造上の特徴について説明する。始めに、インダクタL12に対して並列に接続されたキャパシタC12とインダクタL22に対して並列に接続されたキャパシタC23の構造上の特徴について説明する。前述のように、キャパシタC12は、導体層542,551と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。また、キャパシタC23は、導体層544,554と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC12の導体層542とキャパシタC23の導体層544は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。また、キャパシタC12の導体層551とキャパシタC23の導体層554は、積層方向Tにおいて同じ位置に配置されている。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0104】
また、図14において符号92aを付した矢印は、インダクタL22とキャパシタC23によって形成される減衰極を示している。図14に示したように、減衰極92aと第2の通過帯域との間の周波数領域には、他の減衰極は形成されていない。すなわち、第2のフィルタ20の通過減衰特性において、減衰極92aは、第2の通過帯域よりも低い周波数領域において第2の通過帯域に最も近い減衰極である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0110】
第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数が少なく且つ第3の構造体L12Bcの短手方向の寸法すなわち導体層の幅が小さいため、信号が第2のインダクタ部分L12Bを通過した場合にはその信号の損失は大きくなるが、第2のインダクタ部分L12Bを流れる電流の量は少ない。一方、第1のインダクタ部分L12Aを流れる電流の量は多くなるが、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数が多く且つ第3の構造体L12Acの短手方向の寸法すなわち導体層の幅が大きいため、信号が第1のインダクタ部分L12Aを通過した場合にはその信号の損失は比較的小さくなる。これらのことから、本実施の形態によれば、インダクタL12を通過する信号の損失を小さくすることができる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0117
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0117】
次に、図17を参照して、インダクタL12の第3の変形例について説明する。第3の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aの第1の構造体L12Aaは、1つの柱状導体T1aによって構成され、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abは、1つの柱状導体T1bによって構成されている。また、第3の変形例では、第1の変形例と同様に、第2のインダクタ部分L12Bの第1の構造体L12Baは、1つの柱状導体T2aによって構成され、第2のインダクタ部分L12Bの第2の構造体L12Bbは、1つの柱状導体T2bによって構成されている。第3の変形例では、第1のインダクタ部分L12Aにおける柱状導体の数と、第2のインダクタ部分L12Bにおける柱状導体の数は、いずれも2つである。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0121
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0121】
上記の第1の構造体L12Aaについての説明は、第1のインダクタ部分L12Aの第2の構造体L12Abにも当てはまる。第4の変形例では、第2の構造体L12Abは、第3の構造体L12Acの短手方向(Y方向に平行な方向)と交差する方向に沿って並ぶ柱状導体T1bの組を2つ含んでいる。