(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119199
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 27/10 20060101AFI20240827BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20240827BHJP
A41B 1/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A41D27/10 C
A41D13/12 190
A41B1/08 E
A41B1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025930
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】723000338
【氏名又は名称】株式会社KUTO
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】福田 圭祐
【テーマコード(参考)】
3B011
3B035
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AA09
3B011AB08
3B011AC17
3B011AC22
3B035AA02
3B035AA03
3B035AA04
3B035AA09
3B035AB05
3B035AB07
3B035AC01
3B035AC08
3B211AA01
3B211AA09
3B211AB08
3B211AC17
3B211AC22
(57)【要約】
【課題】袖を有する衣服であって、腕をスムーズに動かせないような者でも、自力で着用することが容易な衣服を提供することを課題とする。
【解決手段】前身頃と、後身頃と、長袖又は七分袖等の袖と、を備え、前身頃、後身頃及び袖の少なくとも3箇所に跨る範囲に形成され且つ着用時に着用者の脇側が位置する脇側部位から袖の内袖部側に延設された袖側範囲と、下方に延設された身頃側範囲とを一体で有する伸縮部を設け、伸縮部は、それ以外の部分と比較して伸縮性が高く、袖側範囲は、袖における肘側が位置する部位である肘側部位よりも先端側まで延設され、袖側範囲及び身頃側範囲は、その前後幅が脇側部位から遠ざかる側に向かって次第に減少する形状に形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
袖を有する衣服であって、
前身頃と、
後身頃と、
着用者の腕の肘よりも先端寄りまで達する長さを有する前記袖と、を備え、
前記前身頃、前記後身頃及び前記袖の少なくとも3箇所に跨る範囲に形成され、且つ、着用時に着用者の脇側が位置する部位である脇側部位から前記袖の内袖部側に延設された袖側範囲と、該脇側部位から下方に延設された身頃側範囲とを一体で有する伸縮部を設け、
前記伸縮部は、衣服の該伸縮部以外の部分と比較して、その伸縮性が高くなるように構成され、
前記袖側範囲は、前記袖における肘側が位置する部位である肘側部位よりも先端側まで延設され、
前記袖側範囲及び前記身頃側範囲は、その前後幅が脇側部位から遠ざかる側に向かって次第に減少する形状に形成された
ことを特徴とする衣服。
【請求項2】
前記脇側部位を境にして連続する前記袖側範囲及び前記身頃側範囲における該脇側部位側の箇所は、前記袖の基端の周方向における10~30%の範囲を占めてなる
請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
前記袖側範囲及び前記身頃側範囲の夫々は、その前後幅が脇側部位に向かって次第に減少する楔状に形成された
請求項1に記載の衣服。
【請求項4】
前記伸縮部は、左右の前記袖毎に個別に設けられた
請求項1に記載の衣服。
【請求項5】
前記衣服は上衣であり、
前記袖側範囲は、その先端が前記袖の先端部には達しない範囲にまで延設され、
前記身頃側範囲は、その下端が前記前身頃及び前記後身頃の裾にまで達しない範囲にまで延設された
請求項1に記載の衣服。
【請求項6】
前記伸縮範囲は、前記衣服における前記伸縮範囲以外の範囲を構成する生地とは別体形成され且つ該生地よりも伸縮性が高い生地であるストレッチ生地から構成された
請求項1に記載の衣服。
【請求項7】
前記伸縮部は、前記ストレッチ生地を複数重ねて構成された
請求項6に記載の衣服。
【請求項8】
前記伸縮部における前記脇側部位の少なくとも一部を含む範囲を、縫合がされていない非縫合部分とした
請求項6又は7の何れかに記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袖を有する衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
前身頃と、後身頃と、着用者の腕の肘よりも先端寄りまで達する長さを有する袖と、を備え、前身頃と後身頃と袖との少なくとも3箇所に跨る範囲に形成され、且つ、着用時に着用者の脇側が位置する部位である脇側部位から前記袖の内袖部側に延設された袖側範囲と、該脇側部位から下方に延設された身頃側範囲とを一体で有する伸縮部を設け、該伸縮部は、衣服の該伸縮部以外の部分と比較して、その伸縮性が高くなるように構成された袖側範囲は袖の先端側まで延設され、身頃側範囲は前身頃及び後身頃の裾まで延設された衣服が公知になっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
上記文献の衣服は、着用時、伸縮部の伸縮によって腕の上げ下げがスムーズになり、窮屈に感じ難く、着心地が良好になる。
【0004】
ところで、怪我や脳卒中などの病気に起因した麻痺等により、腕を上手く動かせない着用者にとっては、着心地もさることながら、着用し易いことも非常に重要であり、特に、腕を上手く伸ばせないような者にとっては、袖を備えた衣服を人の手を借りずに自力で着用する作業は難易度が高く、上記文献のような所定部分の伸縮性に優れた衣服でも、この問題を改善することが難しい場合がある。また、健常者でも急いで着替える必要があるときや、狭い場所で着替える必要があるときには、同様の問題が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、袖を有する衣服であって、腕をスムーズに動かせないような者でも、自力で着用することが容易で且つ健常者にとっても着やすい衣服を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、袖を有する衣服であって、前身頃と、後身頃と、着用者の腕の肘よりも先端寄りまで達する長さを有する前記袖と、を備え、前記前身頃、前記後身頃及び前記袖の少なくとも3箇所に跨る範囲に形成され、且つ、着用時に着用者の脇側が位置する部位である脇側部位から前記袖の内袖部側に延設された袖側範囲と、該脇側部位から下方に延設された身頃側範囲とを一体で有する伸縮部を設け、前記伸縮部は、衣服の該伸縮部以外の部分と比較して、その伸縮性が高くなるように構成され、前記袖側範囲は、前記袖における肘側が位置する部位である肘側部位よりも先端側まで延設され、前記袖側範囲及び前記身頃側範囲は、その前後幅が脇側部位から遠ざかる側に向かって次第に減少する形状に形成されたことを特徴とする。
【0008】
前記脇側部位を境にして連続する前記袖側範囲及び前記身頃側範囲における該脇側部位側の箇所は、前記袖の基端の周方向における10~30%の範囲を占めてなるものとしてもよい。
【0009】
前記袖側範囲及び前記身頃側範囲の夫々は、その前後幅が脇側部位に向かって次第に減少する楔状に形成されたものとしてもよい。
【0010】
前記伸縮部は、左右の前記袖毎に個別に設けられたものとしてもよい。
【0011】
前記衣服は上衣であり、前記袖側範囲は、その先端が前記袖の先端部には達しない範囲にまで延設され、前記身頃側範囲は、その下端が前記前身頃及び前記後身頃の裾にまで達しない範囲にまで延設されたものとしてもよい。
【0012】
前記伸縮範囲は、前記衣服における前記伸縮範囲以外の範囲を構成する生地とは別体形成され且つ該生地よりも伸縮性が高い生地であるストレッチ生地から構成されたものとしてもよい。
【0013】
前記伸縮部は、前記ストレッチ生地を複数重ねて構成されたものとしてもよい。
【0014】
前記伸縮部における前記脇側部位の少なくとも一部を含む範囲を、縫合がされていない非縫合部分としたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の衣服によれば、所定の範囲に、所定のサイズ及び形状で形成された伸縮部を伸長させることによって、上手く動かせない腕の肘を、その手先よりも前に、袖内に入れることが容易になり、その結果、自力での着用が容易になる他、健常者が急いで着用する必要がある場合や狭い場所で着用する場合でも、その動作を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した衣服の構成を示す正面図である。
【
図2】本発明を適用した衣服の構成を示す背面図である。
【
図3】(A)上前立及び下前立の構成を示す断面図であり、(B)は(A)に示す雌ボタンの正面図であり、(C)は(A)に示す雄ボタンの背面図である。
【
図4】袖の先端寄りの部分の構成を示す斜視図である。
【
図5】袖の先端寄りの部分の構成を示す断面図である。
【
図8】本上衣の着用途中の状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1,
図2は本発明を適用し上衣の構成を示す正面図及び背面図である。図示された上衣1は、衣服の一種であり、前身頃2と、後身頃3と、左右一対の袖4,4と、ヨーク6と、襟7とを備えている。また、前身頃2と後身頃3と袖4とに跨る範囲には、その他の部分と比較して伸縮性に優れた伸縮部8が設けられている。ちなみに、以下の説明では、上衣1を着用した着用者Wを基準として方向を定める。
【0018】
図3(A)上前立及び下前立の構成を示す断面図であり、(B)は(A)に示す雄ボタンの正面図であり、(C)は(A)に示す雌ボタンの背面図である。
【0019】
上記前身頃2は、
図1乃至
図3に示す通り、左右一方側(左側)の上前身頃9と、他方側(右側)の下前身頃11と、を別体で有している。その左右内側の縁部である前立12,13同士を前後に重ね合わせて(打ち合わせて)互いを係止させることによって、前側と閉じる一方で、係止を解除することよって前側を開ける。
【0020】
上前身頃9の前立12は、少なくともその部分を構成する生地(通常生地)Aを、前側に折り重ねてなる上前立であり、下前身頃11の前立13は、少なくともその部分を構成する生地Aを、後側に折り重ねてなる下前立である。この2つの前立12,13の折り重ねた部分の縁部12a,13aを、その上下方向の全体又は略全体に亘って、前立12,13の折り重ねられる部分の一部の部位である係止部12b、13bに縫合して係止される。
【0021】
この前後の前立12,13における互いの対向面12c,13cの一方(図示する例では、上前立12の背面)には複数の雄ボタン14が縫合されて固定され、他方(図示する例では、下前立13)には複数の雌ボタン16が縫合されて固定されている。複数の雄ボタン14は上下方向に所定間隔毎に配置されている。雌ボタン16は、雄ボタン14と同数設けられ、前立12,13同士を打ち合わせた際、対応する雄ボタン14が位置する箇所に配置されている。
【0022】
そして、前身頃2は、前後の前立12,13を打ち合わせ、複数の雄ボタン14を、対応する雌ボタン16に凹凸嵌合させて係脱可能に係合させることによって、その前方が閉じられる一方で、雄ボタン14と雌ボタン16との係合を、各組で解除することによって、その前方を開く。
【0023】
ちなみに、各ボタン14,16の周縁部にその周方向に所定間隔毎に満遍なく複数の通し孔14a,16aが形成されている。この通し孔14a,16aに通した糸によって、ボタン14,16の前立12,13への縫合を行う。雄ボタン14の中心部には凸部14bが形成される一方で、雌ボタン16の中心部には凹部16bが形成される。
【0024】
凹部16bに嵌合して挿入された凸部14bを、該凹部16bに底部に接着等により固定された磁石15の磁力によって、該凹部16b内に係止することにより、雄ボタン14と雌ボタン16とを係合させる一方で、その磁力に抗して、凸部14bを凹部16bから抜き取ることにより、雄ボタン14と雌ボタン16との係合を解除する。
【0025】
上記後身頃3は、
図2に示す通り、その左右一方側(図示する例では、左側)の縁部が上前身頃9の左右における前立12と反対側の縁部(具体的には左縁部)に縫合されて接続され、その左右他方側(図示する例では、右側)の縁部が下前身頃11の左右における前立13と反対側の縁部(具体的には右縁部)に縫合されて接続されている。ちなみに、この前身頃2と後身頃3との上下方向の縫合部分は脇線17(
図6参照)を形成している。
【0026】
上記ヨーク6は、
図1及び
図2に示す通り、着用時、側面視で下方が開放されたU字状をなして着用者Wの肩W1の上に載せられ、その前側の下縁部における襟7を縫合させる部分(左右方向の中央部)以外の部分が、前身頃2の上縁部における襟7を縫合させる部分(左右方向の中央部)以外の部分に縫合されて接続される一方で、その後側の下縁部が左右方向の全体に亘って後身頃3の上縁部に縫合されて接続されている。ちなみに、後身頃3とヨーク7との縫合部分には、左右一対のタック18,18が形成されている。
【0027】
上記襟7は、
図1及び
図2に示す通り、立襟であるが、その他の様々な種類の襟を縫合させて接続させることが可能である。例えば、立襟と同様に立ち上がった襟台と、該襟台から下方に折られた襟羽とから構成された襟7等が想定される。この襟7は、前身頃2の上縁部における左右方向の中央部からヨーク6の上縁部における左右方向の中央部に跨る範囲に形成された環状の襟ぐり26に縫合されて接続されている。
【0028】
上記袖4,4は、
図1及び
図2に示す通り、図示する例では、着用者Wの腕W2の手首W2aまで達する長さを有する長袖であるが、腕W2の肘W2bまで達する長さよりも長く設定されていればよい。例えば、長袖のみでなく、七分袖であってもよい。この袖4,4は、その付け根側の端部(基端部)が袖ぐり27,27に縫合して接続されている。
【0029】
袖ぐり27,27は、左右の袖4,4毎に個別に設けられている。左側の袖ぐり27は、前身頃2及び後身頃3の左縁部における上寄り部分(具体的には、上寄り半部)と、ヨーク6の左縁部等とに亘って形成されている。一方、右側の袖ぐり27も、左側の袖ぐり27と左右の反転させた同様の構成により、前身頃2、後身頃3及びヨーク6の右側に形成されている。
【0030】
図4,
図5は袖の先端寄りの部分の構成を示す斜視図及び断面図である。各袖4の先端部には生地Aを二重してなる筒状のカフス28が形成されている。袖4におけるカフス28の先端側に形成された袖口4aから基端に向かってスリット状に形成されたあき4bが形成されている。このあき4bは、袖4におけるカフス28よりも基端側まで延設されている。この他、袖4におけるカフス28の袖口4aと反対の縁から基端側に向かって延設され且つあき4bと幅方向で隣接する剣先29が設けられている。
【0031】
通常、カフスのあきを挟んだ両縁部の一方を他方に重ね合わせてボタン等により互いを係止させるが、この衣服1を着る際のボタンによる係止と、脱ぐ際のボタンのよる係止の解除は片手で行う必要があり、ハードルが高い。このような事情から、カフス28の周方向におけるあき4bを挟んだ2箇所の間には、帯状又は紐状の弾性部材である一種である平ゴム31が掛け渡されている。この平ゴム31を弾力的に伸縮させてカフス28の径を拡大・縮小させることによって、腕Wを袖4に通す動作や、袖4から抜き動作を行うことができる。
【0032】
ちなみに、平ゴム31における全長方向の両方の端部31a,31bを、カフス28のあき4bを挟んだ一方側の部分の内周面28aと、他方側の部分の外周面28bとに縫合等により係止することが通常考えられるが、この場合、平ゴム31がカフス28から外部に露出することを防止するため、前記外周面28bの平ゴム31の端部31bを係止する範囲が該外周面28bが前記内周面28aと対向する範囲Rに限定され、平ゴム31の全長を長く設定することが困難になる。
【0033】
この欠点を改善するため、上記外周面28bが形成され且つカフス28の一部を構成する生地Aである表生地と、該表生地Aと重ね合わされ且つ該カフス28の一部を構成する生地Aである裏生地との間に形成された空間(収容ポケット)28cに、前記平ゴム31を挿入させることを可能とするスリップ状の挿入孔28dを前記表生地Aに形成している。
【0034】
挿入孔28aを介して収容ポケット28cに挿入された平ゴム31の端部31bは、裏生地Aにおける収容ポケット28cに接している範囲に縫合されて係止される。このような構造によれば、平ゴム31において、カフス28における外周面28bが形成された側の部分に接する長さL1を、範囲Rに比べて長く設定することが可能になり、平ゴム31の弾性力を自由に設定可能になる。
【0035】
図6は伸縮部の構成を示す本上衣の側面図であり、
図7は伸縮部の構成を示す断面図であり、
図8は本上衣の着用途中の状態を示す正面図である。
【0036】
上記伸縮部8は、
図1及び
図2と、
図6乃至
図8とに示す通り、左右の袖4,4毎に個別に設けられている。各伸縮部8は、着用時に着用者Wの脇W3側が位置する部位である脇側部位8aから前記袖4の内袖部4c側に延設された袖側範囲8bと、該脇側部位8aから下方に延設された身頃側範囲8cとを一体で有している。ちなみに、内袖部4cは、着用者Wが腕W2を下した状態で、袖4が着用者の胴W4側を向いた半周側の部分であり、その反対側の半周部分は外袖部4dになる。
【0037】
伸縮部8の部分には、上衣1の前記伸縮部を構成する生地Bは、衣服1の該伸縮部以外の部分の生地Aと比較して、その伸縮性が高いストレッチ生地が用いられている。このストレッチ生地Bを二重に重ねることによって伸縮部8が構成されている。
【0038】
伸縮部8は、そのストレッチ生地Bの周縁部の全体を、前身頃2の一部を構成する生地Aの縁部と、後身頃3の一部を構成する生地Aの縁部と、袖4の一部を構成する生地Aの縁部と、に縫合して接続されることによって、上衣1の一部を構成している。
【0039】
ちなみに、伸縮部8における脇側部位8aの少なくとも一部(図示する例では大部分)を含む範囲(図示する例では、上述した周縁部以外の部分全体)は、縫合がされていない非縫合部分としているため、伸縮性がさらに向上する。ところで、伸縮性8の非縫合部分を本例のような広い範囲に設定することは必須ではないが、菱形状の伸縮部8における四隅を結ぶ対角線上の部分を非縫合部分とする必要性は高い。
【0040】
脇側部位8aを境にして連続する袖側範囲8b及び身頃側範囲8cにおける該脇側部位側の箇所は、袖4の基端4fの周方向における10~30%の範囲(さらに好ましくは、15~30%の範囲)を占めている。言い換えると、袖側範囲8b及び身頃側範囲8cは脇側部位8aを境界として連続し、この境界が袖4の基端4f(さらに具体的には、基端4fの内袖部4c)の一部を形成し、この境界部分(すなわち、脇川部位8a)は、袖4の基端4fの周方向における一部の範囲を占め、その占有率が10~30%の範囲(さらに好ましくは、15~30%の範囲)になるように、その長さ(前後幅)L2が設定されている。ちなみに、この範囲は、求められる縦方向及び横方向の伸縮の度合いを考慮することは勿論であるが、その他、衣服1の脇部分の縫合のし易さや布余り等を考慮して最適に設定されている。
【0041】
袖側範囲8bは、袖4における肘W2b側が位置する部位である肘側部位4gよりも先端側であって且つ該袖4の先端(さらに具体的にはカフス28)までは達しない位置まで延設されている。一方、身頃側範囲8cも、その下端が前身頃2の裾2aと、後身頃3の裾3aにまで達しない位置にまで延設されている。
【0042】
また、袖側範囲8b及び身頃側範囲8cは、その前後幅が脇側部位8aから遠ざかる側に向かって次第に減少する楔状に形成されている。これよって、左右に各伸縮部8は、着用者Wが腕W2を挙げた状態において、ダイヤモンド状をなす状態になる。
【0043】
袖側範囲8bにつき、さらに詳しく説明すると、該袖側範囲8bは、その前後幅方向の中心が、袖4の内袖部4cの前後の幅方向の中心と一致又は略一致している。そして、袖4における生地Aの部分には、内袖部4cの部分の先端寄り部分から基端に向かってその前後幅が拡大する楔状をなす切欠き状部32が形成されている。この生地Aにおける切欠き状部32側の縁部に、袖側範囲8bのV字状の縁部が縫合して接続されている。
【0044】
身頃側範囲8cにつき、さらに詳しく説明すると、該身頃側範囲8cは、その前後幅方向の中心の前後が、脇線17の延長線の前後位置と一致又は略一致している。前身頃2及び後身頃3における互い直接縫合されていない上側部分(具体的には上側半部)には、互いの距離が脇側部位8a(上方)に向かって次第に拡大する楔状をなす切欠き状部33が形成されている。この楔状の切欠き状部33には、身頃側範囲8cのV字状の縁部が縫合して接続されている。
【0045】
以上のように構成される伸縮部8によれば、着用者Wがその手W5の先を、袖4内の途中又は身頃の内部側に位置させた状態で、折り曲げた腕W2の肘W2bを袖4に入れる動作を、伸縮部8の脇W3から離間する側への伸長によって行い易くなる。言い換えると、伸縮部8は、その伸長によって、手W5を、袖4内の途中又は身頃の内部側に位置させた状態で、折り曲げた腕W2の肘W2bを袖4に入れることが可能に構成されている。
【0046】
そして、この状態から、腕W2を徐々に伸ばしていけば、袖4に腕W2を通すことができるため、腕Wに障害のある者であっても、この上衣1を自立で容易に着ることや、脱ぐことが容易になる。この他、急いでいる場合や狭い場所にいる場合、健常者でも、障害者と同様の問題が発生する場合があるが、この問題も解消できる。
【0047】
ちなみに、ストレッチ生地Bを複数枚重ねているため、擦れ等の摩耗に対して耐性が向上し、強度が向上する。
【0048】
また、伸縮部8の周縁部を除く部分を非縫合部分とし、腕W2を通す際の引っ掛かりを無くしているため、着用もさらに容易になる。
【0049】
なお、ヨーク6を省略し、前身頃2と後身頃3との上縁部同士を直接縫合して接続してもよい。
【0050】
また、ヨーク6が脇側部位8aよりも下方まで達する広い範囲を占める場合、伸縮部8は、前身頃2、後身頃3、袖4及びヨーク6の4箇所に跨る範囲、伸縮部8が形成されることになる他、この伸縮部8の身頃側範囲8cの上部の一部がヨーク6にも接する状態になる。
【0051】
さらに、本発明は上衣1だけでなく、上衣とズボンが一体になった繋ぎにも適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 上衣(衣服)
2 前身頃
2a 裾
3 後身頃
3a 裾
4 袖
4c 内袖部
4g 肘側部位
8 伸縮部
8a 脇側部位
8b 袖側範囲
8c 身頃側範囲
A 通常生地(生地)
B ストレッチ生地(生地)
W 着用者
W2 腕
W2b 肘