(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119219
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 123
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025970
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】小林 昭仁
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EB31
2C056EC06
2C056EC30
2C056FA10
2C056HA60
2C056KD10
(57)【要約】
【課題】ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのを抑制しつつ、筐体の内部において結露が生じるのを抑制する。
【解決手段】印刷装置1は、インクを吐出するノズルを有する4つのヘッドと、ヘッドが内部に配置される筐体8と、インクと反応する揮発成分を含む前処理液が塗布された印刷媒体を支持可能なプラテン12と、筐体8の内部に加湿空気を供給する2つの加湿空気供給管61、62を有する加湿機構と、筐体8の内部から筐体8の外部に向けて送風する送風機構95と、制御部とを含む。制御部は、加湿機構を駆動した後に送風機構95を駆動する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有するヘッドと、
前記ヘッドが内部に配置される筐体と、
インクと反応する揮発成分を含む前処理液が塗布された印刷媒体を支持可能なプラテンと、
前記筐体の内部に加湿空気を供給する加湿機構と、
前記筐体の内部から前記筐体の外部に向けて送風する送風機構と、
前記加湿機構及び前記送風機構を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、
少なくとも前記加湿機構を駆動した後に前記送風機構を駆動することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記加湿機構の駆動を停止した後に前記送風機構の駆動を開始することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記ヘッドは、前記ノズルからカラーインクを吐出可能であり、
前記制御部は、
前記ノズルから印刷媒体にカラーインクを吐出して印刷処理を実行する吐出期間における前記送風機構による送風量よりも、当該吐出期間後の前記送風機構による送風量が大きくなるように前記送風機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記吐出期間中は、前記送風機構の駆動を停止し前記加湿機構を駆動することを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記筐体の内部の湿度を検出する湿度センサをさらに備えており、
前記制御部は、
前記湿度センサによって検出された湿度が第1閾値以上の場合は前記送風機構を駆動し、前記湿度センサによって検出された湿度が前記第1閾値未満の場合は前記送風機構を駆動しないことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記湿度センサによって検出された湿度が前記第1閾値以上である第2閾値以上の場合は前記送風機構を駆動し、前記加湿機構の駆動を停止することを特徴とする請求項5に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記プラテンは、前記筐体に設けられた開口を介して前記筐体の内部と外部とを移動可能に配置されており、
前記送風機構は、前記開口を介して前記筐体の内部から前記筐体の外部に向けて送風することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記ノズルと対向する印刷位置に配置された前記プラテンは、前記送風機構から前記開口に向かう方向において、前記送風機構と前記開口との間にあることを特徴とする請求項7に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクと反応する揮発成分を含む前処理液が塗布された印刷媒体にインクを吐出して印刷可能な印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液状の前処理剤が塗布された印刷媒体にカラーインクを吐出する前に、前処理剤を蒸発させ、その後、カラーインクを吐出するインクジェットヘッドを含む印刷装置について記載されている。これにより、カラーインクを吐出する前に、前処理剤の乾燥を適切に促進することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の印刷装置において、印刷媒体に塗布された前処理剤が印刷中において揮発すると、その揮発成分がインクジェットヘッドのノズル内のインクと反応することがある。インクと前処理剤の揮発成分とが反応することで、ノズル内のインクが凝集して吐出不良が生じたり、インクに色変化が生じるなどの不具合が生じる問題がある。
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決するために、インクジェットヘッドが配置された筐体の内部に、加湿空気を供給することを検討した。この結果、プラテンに載置された印刷媒体に塗布された前処理剤の揮発成分が、ノズル内のインクに到達しづらくなり、インクと揮発成分の反応を低減することができた。
【0006】
しかしながら、筐体の内部に供給された加湿空気によって、筐体の内部の湿度が上昇する。筐体の内部が高湿度環境にあると、筐体の内部に設けられた電装品に結露することがある。この結果、印刷装置に動作不良が生じる問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのを抑制しつつ、筐体の内部において結露が生じるのを抑制することが可能な印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の印刷装置は、インクを吐出するノズルを有するヘッドと、前記ヘッドが内部に配置される筐体と、インクと反応する揮発成分を含む前処理液が塗布された印刷媒体を支持可能なプラテンと、前記筐体の内部に加湿空気を供給する加湿機構と、前記筐体の内部から前記筐体の外部に向けて送風する送風機構と、前記加湿機構及び前記送風機構を制御する制御部とを備えており、前記制御部は、少なくとも前記加湿機構を駆動した後に前記送風機構を駆動する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の印刷装置によると、筐体の内部に加湿空気が供給可能であるため、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分が揮発しにくくなり、前処理液の揮発成分自体がノズルに到達しにくくなる。したがって、ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのを抑制することが可能となる。また、送風機構を駆動させることで、加湿機構によって供給された筐体の内部の加湿空気を筐体の外部へと排出することが可能となる。このため、筐体の内部において結露が生じるのを抑制することができる。この結果、印刷装置に動作不良が生じるのを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置の概略斜視図である。
【
図2】
図1に示す印刷装置の内部構造を示す平面図である。
【
図3】
図1に示す印刷装置の内部構造を示す正面図である。
【
図4】
図3に示すIV-IV線に沿った断面図である。
【
図5】キャリッジを下方から見たときの模式図である。
【
図6】(a)は吸引機構の正面図であり、(b)は吸引機構の側面図である。
【
図7】
図4に示すVII-VII線に沿った要部断面図である。
【
図8】
図1に示す印刷装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図9】
図1に示す印刷装置に印刷開始指令が入力されたときに実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】(a)はプラテンがセット位置から印刷前待機位置に搬送されたときの状況を示す図であり、(b)はプラテンが印刷前待機位置からセット位置に搬送されたときの状況を示す図である。
【
図11】本発明の変形例に係る印刷装置に印刷開始指令が入力されたときに実行される処理手順の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の印刷装置1を、図面を参照しつつ説明する。以下の説明においては、印刷装置1が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向及び前後方向が定義され、印刷装置1を前方から見て左右方向が定義される。以下の説明では、左右方向を主走査方向、前後方向を副走査方向と称することもある。
【0012】
図1に示す印刷装置1はインクジェットプリンタであり、印刷媒体にインクを吐出して印刷を行う。印刷装置1は、白、黒、イエロー、シアン、およびマゼンタの5色のインクを用いて、印刷媒体にカラー画像を印刷できる。印刷媒体は、インクを吐出して画像を形成することが可能であれば特に限定するものではなく、例えば、布帛、紙等である。本実施形態においては、印刷媒体として、例えば、ポリエステル繊維を含むTシャツをいう。印刷装置1が印刷媒体(Tシャツ)に印刷を実行する際は、予め前処理液が塗布された印刷媒体がプラテン12に配置される。前処理液は、前処理液上に吐出されたインクと反応することでインクの成分を凝集させ、滲みの発生を防ぐ。前処理液の揮発成分には、ギ酸などの有機酸が含まれている。
【0013】
以下では、5色のインクのうち白色のインクを「白インク」という。5色のインクのうち黒、シアン、イエロー、およびマゼンタの4色のインクを総称する場合、またはいずれかを特定しない場合「カラーインク」という。白インクとカラーインクとを総称する場合、またはいずれかを特定しない場合、単に「インク」という。白インクは画像の白色を表す部分として、またはカラーインクの下地として印刷に用いられる。カラーインクは、白インクによる下地の上に吐出され、カラー画像の印刷に用いられる。
【0014】
図1~
図3を参照し、印刷装置1の外観構成を説明する。印刷装置1は、
図1に示すように、筐体8、プラテン12、搬送機構14、操作部15、及び、表示画面16を含む。筐体8は、略直方体形状を有し、前面の左右及び上下方向の略中央に矩形状のプラテン開口13が形成されている。筐体8内には、5色のインクが収容された5つのカートリッジ(不図示)が収納されている。プラテン12は、
図2に示すように、略矩形平面形状を有する板状部材からなる。プラテン12の上面は、印刷媒体を支持する支持面12aである。支持面12aは、四角形状を有している。
【0015】
操作部15は、プラテン開口13から前方に突出したプラテン支持部37(後述する)の左右両端部にそれぞれ設けられている。操作部15は、ユーザによる操作に応じた情報を後述の制御部80に出力する。ユーザは操作部15を操作することで、印刷装置1による印刷を開始するための印刷開始指令(印刷データ含む)等を制御部80に入力できる。表示画面16は、筐体8の前面のうち、プラテン開口13よりも右側上部に設けられている。表示画面16は各種情報を表示する。
【0016】
搬送機構14は、印刷媒体が配置されるプラテン12を、プラテン開口13を通して筐体8の内部と外部との間において搬送する。プラテン12が
図2に示す筐体8内部の印刷搬送領域P3(
図2中二点鎖線で示す位置:本発明の「印刷位置」)に配置された際に、後述するヘッド30からインクが吐出されて印刷が行われる。
図2に示すように、搬送機構14は、プラテン支持部37、左右一対のレール38、伝達部材39、及び副走査モータ26(
図8参照)を有する。
【0017】
プラテン支持部37は、
図2及び
図3に示すように、プラテン12を下方から支持する。左右一対のレール38は、前後方向に延び、プラテン支持部37を前後方向に移動可能に支持する。伝達部材39は、プラテン支持部37と、副走査モータ26とに連結し、副走査モータ26の駆動に応じて、プラテン支持部37を前後方向、すなわち、副走査方向に移動させる。
【0018】
作業者は、プラテン12が筐体8の前面よりも前側に配置された状態、即ち筐体8の外部で、プラテン12の支持面12aに印刷媒体を配置する。
図2に示すプラテン12の位置は、プラテン12に印刷媒体を支持させるセット位置P1である。また、プラテン12は、印刷媒体に印刷する前に、セット位置P1から印刷前待機位置P2(
図2中二点鎖線で示す位置)に移動する。印刷前待機位置P2は、印刷搬送領域P3よりも後方であってプラテン12の搬送経路の後端部にある。印刷搬送領域P3は、プラテン12の搬送経路において、後述のヘッド30の主走査方向(左右方向)の移動経路と上下方向に重なる領域である。ヘッド30の主走査方向の移動経路は、最も後方のヘッド30(白ヘッド31)の後端と最も前方のヘッド30(カラーヘッド34)の前端との間の経路である。
【0019】
図2~
図7を参照し、印刷装置1の内部構造を説明する。
図2に示すように、印刷装置1は、筐体8の内部に枠体2、一対の内壁71、72、仕切り板28、29(
図3参照)、ヘッド31~34、移動機構77、吸引機構73、74(
図3参照)、加湿機構60(
図3参照)、湿度センサ90、及び、送風機構95(
図3参照)を含む。
【0020】
枠体2は、
図2~
図4に示すように、シャフト57、58を含む前後方向に延びる複数のシャフト、左右方向に延びる複数のシャフト、シャフト55、56を含む上下方向に延びる複数のシャフトによって格子状に構成される。移動機構77は、枠体2に固定されたガイドシャフト20及びキャリッジ6を含む。ガイドシャフト20は、
図2に示すように、前シャフト21、後シャフト22、左シャフト23、及び右シャフト24で構成される。搬送機構14は枠体2に固定される。
【0021】
一対の内壁71、72は、
図2~
図4に示すように、左右方向に沿って対向しつつ互いに離隔して配置されている。例えば、一対の内壁71、72は、
図2に示すように、平面視において、プラテン12の搬送経路を左右方向に挟んで配置されている。内壁71、72は、ガイドシャフト20よりも下方において上下方向及び前後方向に延び、枠体2に固定される。内壁71は、印刷搬送領域P3にその全体が配置されたプラテン12の左方に設けられ、シャフト57に固定される。内壁72は、印刷搬送領域P3にその全体が配置されたプラテン12の右方に設けられ、シャフト58に固定される。
【0022】
仕切り板28は、
図3及び
図4に示すように、ガイドシャフト20の下方、且つ、内壁71の左方において、枠体2に固定されている。仕切り板28は、前後方向及び左右方向に沿って延びている。仕切り板28の右端部は、内壁71の下端部と連結している。
【0023】
仕切り板29は、
図3及び
図4に示すように、ガイドシャフト20の下方、且つ、内壁72の右方において、枠体2に固定されている。仕切り板29は、前後方向及び左右方向に沿って延びている。仕切り板29の左端部は、内壁72の下端部と連結している。
【0024】
図4に示すように、仕切り板28の右前部には仕切り板28を上下方向に貫通する平面視円状の供給口75が形成されている。仕切り板29の左前部には仕切り板29を上下方向に貫通する平面視円状の供給口76が形成されている。供給口75と供給口76との位置関係は、特に制限されないが、本実施形態においては、前後方向において、供給口75は、供給口76よりも前方に形成される。これら供給口75、76には、図示しない配管が接続され、後述の加湿空気供給管61、62と接続される。
【0025】
図2に示すように、キャリッジ6は主走査方向に移動可能に前シャフト21と後シャフト22とに支持される。キャリッジ6は板状であり、前後左右方向に延びる。キャリッジ6は前シャフト21から後シャフト22まで延びる。
【0026】
キャリッジ6には、
図2及び
図5に示すように、白ヘッド31、32、カラーヘッド33、34が設けられる。これら白ヘッド31、32及びカラーヘッド33、34により、本発明の「ヘッド」が構成されている。
【0027】
白ヘッド31、32、カラーヘッド33、34はそれぞれ同じ構造を有し、本実施形態では直方体状を有する。以下では、白ヘッド31、32、カラーヘッド33、34を総称する場合、またはいずれかを特定しない場合、「ヘッド30」という。白ヘッド31、32は、
図5に示すように、キャリッジ6の後部に位置する。白ヘッド31はキャリッジ6の右後部に位置する。白ヘッド32は白ヘッド31よりも左側に位置し、白ヘッド31に対して前側にずれて配置されている。
【0028】
カラーヘッド33、34は、
図2及び
図5に示すように、白ヘッド31、32に対して副走査方向に沿って前側に位置する。カラーヘッド33、34は、それぞれ、左右方向において白ヘッド31、32と同じ位置に位置する。つまり、カラーヘッド34はカラーヘッド33よりも左側に位置し、カラーヘッド33に対して前側にずれて配置されている。
【0029】
図5に示すように、白ヘッド31の下面にはノズル面311が設けられる。ノズル面311は前後左右方向に延びる。ノズル面311には複数のノズル列312が形成される。複数のノズル列312は左右方向に並ぶ。各ノズル列312は複数のノズル313が前後方向に一列に等間隔に並んで構成される。複数のノズル313は開口であり、白インクを下方に吐出する。
【0030】
白ヘッド31の構成と同様に、白ヘッド32、カラーヘッド33、34の下面にはそれぞれノズル面321、331、341が設けられる。ノズル面321、331、341は前後左右方向に延びる。ノズル面321、331、341にはそれぞれ複数のノズル列322、332、342が形成される。複数のノズル列322、332、342はそれぞれ左右方向に並ぶ。複数のノズル列322、332、342は、それぞれ複数のノズル323、333、343が前後方向に一列に等間隔に並んで構成される。
【0031】
複数のノズル323は、白インクを下方に吐出する。複数のノズル列332にはそれぞれ異なる色のカラーインクが対応する。つまり、複数のノズル333は複数のノズル列332のそれぞれに対応する色のカラーインクを下方に吐出する。複数のノズル列342にはそれぞれ異なる色のカラーインクが対応する。複数のノズル343は複数のノズル列342のそれぞれに対応する色のカラーインクを下方に吐出する。
【0032】
移動機構77は、駆動ベルト98及び主走査モータ99を有する。キャリッジ6の後端部には、駆動ベルト98が連結する。駆動ベルト98は後シャフト22上に設けられ、左右方向に延びる。駆動ベルト98の左端部は主走査モータ99に連結する。主走査モータ99が駆動することで、駆動ベルト98は、キャリッジ6を前シャフト21及び後シャフト22に沿って左右方向に移動させる。つまり、移動機構77は、ヘッド30が搭載されたキャリッジ6を主走査方向に移動させる。
図2及び
図3は、キャリッジ6が移動範囲Rの右端に位置する状態を示す。
【0033】
図2及び
図3では、ヘッド30の移動範囲Rを、キャリッジ6が主走査方向に移動できる最大の範囲で示す。
図3に示すように、ヘッド30は、移動機構77により、主に、メンテナンス位置B1、吐出領域B2、及び、ヘッド待機位置B3の何れかに配置される。メンテナンス位置B1は、ヘッド30の移動範囲Rの左端部にあり、ヘッド30が図示しないワイパやキャップなどのメンテナンスユニットによりメンテナンスされる位置である。印刷装置1は、非印刷時にヘッド30をメンテナンス位置B1に移動し、メンテナンスユニットによるメンテナンスを行う。吐出領域B2は、主走査方向において、メンテナンス位置B1とヘッド待機位置B3との間、且つヘッド30の移動経路において、プラテン12の搬送経路(印刷搬送領域P3)と上下方向に重なる領域である。また、吐出領域B2は、ヘッド30がキャリッジ6によって通過する際に、印刷データに従ってヘッド30がインクを吐出し、プラテン12上の印刷媒体に印刷が行われる。ヘッド待機位置B3は、ヘッド30の移動範囲Rの右端にあり、作業者がヘッド30に対する清掃等の操作を行う場合に配置される位置である。印刷装置1は、例えば、ユーザの操作によって操作部15から入力された指示に基づき、ヘッド30をヘッド待機位置B3に移動させ、待機させる。
【0034】
印刷装置1は、印刷搬送領域P3において副走査モータ26の駆動によってプラテン12を副走査方向に移動させ、吐出領域B2において主走査モータ99の駆動によってキャリッジ6を主走査方向に移動させることで、印刷媒体がヘッド30に対して副走査方向及び主走査方向に相対的に移動する。
【0035】
ヘッド30を主走査方向へ移動させ、ヘッド30が印刷媒体と対向しているときに印刷媒体にインクを吐出させる動作を「吐出走査」という。印刷装置1は、吐出走査と、副走査方向へのプラテン12の移動を繰り返すことで、印刷媒体への印刷を行う。例えば、印刷装置1は吐出走査において白ヘッド31、32から白インクを吐出して印刷媒体に下地を形成する。印刷装置1は吐出走査において印刷媒体に形成された下地の上に、カラーヘッド33、34からカラーインクを吐出してカラー画像を印刷する。
【0036】
図3に示すように、吸引機構73、74は、主に印刷搬送領域P3、吐出領域B2及びこれら領域の近傍空間の空気を吸引する。主走査方向において、吸引機構73は、筐体8(
図1参照)の内部において搬送機構14の左側に設けられ、吸引機構74は、筐体8の内部において搬送機構14の右側に設けられる。吸引機構73、74は互いに左右対称の構成を有する。
【0037】
吸引機構73は、
図6に示すように、内壁71、3つのファン94、及び、フィルタユニット48を有する。内壁71の上面には、前後方向に長いスリット状の吸引口713が形成されている。
【0038】
内壁71は、
図6(a)に示すように、固定板70及び収容部49を有する。固定板70は、内壁71の上端において左右方向に延びる板状の部分である。固定板70は、
図4に示すように、前後方向に延びるシャフト57に固定される。収容部49は、箱状であり、前後方向に長い直方体状のフィルタユニット48を取外し可能に内壁71の内部に収容する。フィルタユニット48は、フィルタと、フィルタを支持する支持体とを有する。フィルタは、例えば、複数の微小な孔が形成された樹脂製フィルタであり、空気中のミストや埃などの異物を吸着して回収する。
【0039】
3つのファン94は、
図6(b)に示すように、内壁71の左面の下部に設けられる。3つのファン94は各々前後方向に略等間隔で配置される。
図4に示すように、吸引機構73において、各ファン94が駆動された場合、内壁71の吸引口713から内壁71内に吸い込まれた空気は、フィルタユニット48のフィルタを通過し、異物が回収された空気は、ファン94の吸入口945から排気口946を介して、内壁71の内部の空間から排出される。即ち、ファン94が駆動された場合、
図6(a)に示すように、内壁71の内部の空間を矢印Kで示すように空気が流れる。
【0040】
吸引機構74は、
図4に示すように、吸引機構73の内壁71、3つのファン94、及びフィルタユニット48に各々対応する内壁72、3つのファン(不図示)、及びフィルタユニット(不図示)を有する。吸引機構74の上面には、吸引口713に対応する、前後方向に長いスリット状の吸引口723が形成される。吸引機構74の各ファンが駆動された場合、吸引口723から内壁72の内部の空間へと空気が流れる。その後、空気は当該空間の上方から下方へと流れる際にフィルタユニットのフィルタを通過する。そして、空間の下部からファンのある右方へと空気が流れ、空間から排出される。
【0041】
なお、吸引機構73、74は、内壁71、72及びファン94をそれぞれ有しておればよく、フィルタユニット48が設けられていなくてもよい。
【0042】
加湿機構60は、
図3に示すように、2つの加湿空気供給管61、62、加湿器66を有する。加湿器66は、吸引機構73の左側に配置された供給口75、及び、吸引機構74の右側に配置された供給口76に加湿された空気を供給する。加湿器66は、筐体8の内部、且つ、仕切り板29の下方に設けられる。また、加湿器66は、貯留部(不図示)、加湿駆動部661(
図8参照)、加湿器66内に空気を取り込むための吸入口69、2本のチューブ67、68及びファン662、663(
図8参照)を有する。貯留部は、加湿に用いられる液体(例えば、水)を貯留する。貯留部には、給水管が接続されてもよく、例えば水道、及び図示しない給水タンク等の外部装置から貯留部に水が供給されてもよい。
【0043】
加湿駆動部661は、吸入口69を介して加湿器66内に取り込まれた空気を、貯留部に貯留された液体を使用して加湿する。加湿駆動部661は、蒸気式、気化式、超音波式、及び電気分解式等の任意の方式で空気を加湿してよい。チューブ67の一端は、加湿器66に接続され、他端は供給口75に接続される。チューブ68の一端は、加湿器66に接続され、他端は供給口76に接続される。
【0044】
ファン662は、加湿駆動部661により加湿された空気を、
図3に示すチューブ67を介して供給口75に供給する。ファン663は、加湿駆動部661により加湿された空気を、
図3に示すチューブ68を介して供給口76に供給する。供給口75に供給された加湿空気は、後述の加湿空気供給管61を介してプラテン12の支持面12a側に送られる。また、供給口76に供給された加湿空気も、後述の加湿空気供給管62を介してプラテン12の支持面12a側に送られる。つまり、加湿器66から供給された加湿空気は、プラテン12に支持された印刷媒体に向けて送られる。
【0045】
2つの加湿空気供給管61、62は、
図4に示すように、枠体2に固定されている。これら加湿空気供給管61、62は直管から構成されている。2つの加湿空気供給管61、62は、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12の周囲であって当該プラテン12の後方に配置されている。
【0046】
2つの加湿空気供給管61、62は、一方の端部に加湿空気供給口61a、62aを有しており、他方の端部には、供給口75、76に接続された図示しない配管がそれぞれ接続されている。より詳細には、供給口75に接続された配管は、加湿空気供給管61に接続されている。供給口76に接続された配管は、加湿空気供給管62に接続されている。
【0047】
また、2つの加湿空気供給管61、62は、加湿空気供給口61a、62aが印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12の支持面12a側を向くように、前後方向及び左右方向に対して傾いて配置されている。2つの加湿空気供給口61a、62aは前方を向いている。
【0048】
また、2つの加湿空気供給口61a、62aは、
図7に示すように、上下方向において同じ位置に配置されている。より詳細には、2つの加湿空気供給口61a、62aは、上下方向において、その中心軸(開口の中心を通る中心軸)からプラテン12の支持面12aまでの距離が所定距離Tとなるように、プラテン12の上方に配置されている。そして、2つの加湿空気供給口61a、62aは、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12の支持面12a上の空間領域(上下方向において、ヘッド30と支持面12aとの間の領域)に向かって開口している。
【0049】
これら2つの加湿空気供給口61a、62aから供給される加湿空気は、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12の後方の2つの角部近傍から、プラテン12の前方に向かって供給される。これにより、プラテン12とヘッド30の上下間の空間領域において、多くの加湿空気が供給される。
【0050】
湿度センサ90は、
図2に示すように、筐体8の内部に配置されている。より詳細には、湿度センサ90は、プラテン開口13よりも左側に配置され、筐体8の前面の裏側に固定されている。また、湿度センサ90は、ヘッド30よりも上方に配置されている。そして、湿度センサ90は、筐体8の内部の湿度を検出し、制御部80に当該湿度を示す信号を出力する。
【0051】
送風機構95は、
図3に示すように、2つのファン96、97を有する。2つのファン96、97は、左右方向において、一対のレール38よりも外側に配置され、且つ、一対の内壁71、72の内側に配置されている。また、2つのファン96、97は、上下方向において、その中心が一対のレール38よりもやや下方に位置するように配置されている。
【0052】
また、2つのファン96、97は、
図4に示すように、筐体8の後面の裏側に固定されており、ファン96、97が駆動された場合、後方から前方に向かって空気が流れる。つまり、送風機構95は、筐体8の内部の空気を後方から前方に向かって送風し、外部に排出する。また、送風機構95は、前後方向において、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12がプラテン開口13と送風機構95との間に存在するように、配置されている。
【0053】
また、2つのファン96、97は、前後方向において、プラテン開口13と対向する位置に配置されている。このため、送風機構95によって送られた空気は、筐体8の内部からプラテン開口13を通って外部に効果的に排出される。
【0054】
図8を参照し、印刷装置1の電気的構成を説明する。印刷装置1は制御部80を有する。制御部80にはCPU80a、ROM80b、RAM80c、およびフラッシュメモリ80dが設けられる。CPU80aは印刷装置1の制御を司り、ROM80b、RAM80c、およびフラッシュメモリ80dと電気的に接続する。ROM80bは、CPU80aが印刷装置1の動作を制御するための制御プログラム、各種プログラムの実行時にCPU80aが必要な情報等を記憶する。ROM80bは、例えば主走査モータ99の回転角度に基づいてキャリッジ6(ヘッド30)の各位置を記憶し、副走査モータ26の回転角度に基づいてプラテン12の各位置を記憶する。RAM80cは、制御プログラムで用いられる各種データ等を一時的に記憶する。フラッシュメモリ80dは、不揮発性であり、印刷を行うための印刷データ等を記憶する。
【0055】
制御部80には、
図8に示すように、主走査モータ99、副走査モータ26、4つのヘッド駆動部301~304、加湿器66、湿度センサ90、3つのファン94、96、97及び操作部15が電気的に接続される。主走査モータ99、副走査モータ26、ヘッド駆動部301~304、加湿器66及び3つのファン94、96、97は、制御部80による制御によって駆動する。
【0056】
主走査モータ99と副走査モータ26には、それぞれエンコーダ991、261が設けられる。エンコーダ991は、主走査モータ99の回転角度を検出し、検出結果を制御部80に出力する。エンコーダ261は、副走査モータ26の回転角度を検出し、検出結果を制御部80に出力する。
【0057】
4つのヘッド駆動部301~304は、白ヘッド31、32及びカラーヘッド33、34に順に対応し、これらヘッド31~34に含まれている。各ヘッド駆動部301~304は、ヘッド30の複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路内のインクにエネルギーを選択的に付与可能な複数の駆動素子(圧電素子または発熱素子)によって構成される。これらヘッド駆動部301~304は、それぞれ、駆動することで白ヘッド31、32、カラーヘッド33、34内のインクにエネルギーを付与し、対応するノズル313、323、333、343から選択的にインクを吐出させる。
【0058】
<印刷時の制御>
図9を参照し、印刷媒体に画像を印刷する際の制御部80による制御を説明する。ユーザによって操作部15が操作され、印刷開始指令が印刷装置1に入力されると、制御部80がROM80bから制御プログラムを読み出して動作することで、
図9のフローを実行する。以下、
図9のフローについて説明する。
【0059】
制御部80は、まず、印刷開始指令が入力されたか否かを判定する(S1)。ユーザは、操作部15を操作し印刷指示を入力する前に、前処理液を印刷媒体に塗布する。なお、前処理液は、印刷装置1とは別体に設けられたスプレーやヘッドなどの塗布機構から、印刷開始指令が入力されたことを契機に塗布されてもよい。そして、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分が揮発し終わるまでに、印刷媒体(Tシャツ)をプラテン12の支持面12aに配置する。つまり、前処理液が塗布された印刷媒体を特に乾燥などの特別な処理をすることなく、印刷媒体をプラテン12にすぐに配置することができる。本実施形態においては、S1が処理されるときには、前処理液が塗布された直後の印刷媒体がプラテン12に支持された状態である。このため、後述の印刷処理中においては、印刷媒体に塗布された前処理液からは有機酸が揮発する。なお、プラテン12は、非印刷時においてはセット位置P1に配置されている。印刷装置1は、非印刷時においては、通常、ヘッド30がメンテナンス位置B1に配置され、図示しないメンテナンスユニットのキャップによりヘッド30の複数のノズルが覆われるキャッピングが行われている。
【0060】
印刷開始指令が入力されていない場合(S1:NO)、印刷開始指令が入力されるまでS1が繰り返される。一方、印刷開始指令が入力された場合(S1:YES)、制御部80は、2つの加湿空気供給口61a、62aから加湿空気の供給が開始されるように、加湿器66を制御する(S2)。つまり、制御部80は、加湿駆動部661を駆動し、加湿空気を生成する。そして、ファン662、663を駆動し、2つの加湿空気供給口61a、62aから加湿空気を供給する。2つの加湿空気供給口61a、62aから加湿空気が供給されることで、印刷搬送領域P3に加湿空気が供給される。
【0061】
次に、制御部80は、印刷媒体に画像を印刷する印刷処理を実行する(S3)。制御部80は、
図10(a)に示すように、エンコーダ261からの検出結果に基づいて副走査モータ26を制御し、プラテン12をセット位置P1から印刷搬送領域P3を通過させて印刷前待機位置P2に移動させる。この後、制御部80は、エンコーダ261からの検出結果に基づいて副走査モータ26を制御し、プラテン12を印刷前待機位置P2から印刷搬送領域P3に移動させる。
【0062】
そして、制御部80は、エンコーダ991からの検出結果に基づいて主走査モータ99を制御し、キャリッジ6をメンテナンス位置B1から吐出領域B2へと移動させて、ヘッド30をプラテン12に配置された印刷媒体と対向させる。
【0063】
制御部80は、プラテン12の少なくとも一部が印刷搬送領域P3に位置する状態で、且つキャリッジ6が吐出領域B2に位置する状態で、ヘッド駆動部301~304と主走査モータ99と副走査モータ26を制御し、吐出走査と、前方へのプラテン12の移動を交互に繰り返すことで、印刷媒体への印刷を行う。つまり、印刷媒体への印刷時においては、プラテン12が印刷前待機位置P2から印刷搬送領域P3へと前方に搬送されてくるため、まず、前処理液が塗布された印刷媒体上に白ヘッド31、32のノズルからインクが吐出され、下地が形成される。そして、白ヘッド31、32を通過し印刷媒体に形成された下地上にカラーヘッド33、34のノズルからインクが吐出され、画像が形成される。なお、画像の白色を表す部分については、白インクで形成された下地部分とする。このため、当該下地部分の上にはカラーインクが吐出されない。
【0064】
印刷処理が実行される前から2つの加湿空気供給口61a、62aから加湿空気が供給されるため、プラテン12がヘッド30の下を通過するときや印刷媒体への印刷が実行されるときには、印刷媒体上に加湿空気が供給された状態となる。つまり、印刷媒体上に加湿空気層が存在する。このため、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分が揮発しにくくなる。また、前処理液の揮発成分が揮発したとしても、当該揮発成分が印刷媒体と対向するヘッド30のノズル内に到達しにくくなる。
【0065】
次に、印刷データに基づく印刷媒体への印刷が終了(印刷処理の終了)すると、制御部80が、2つの加湿空気供給口61a、62aから加湿空気の供給を停止するように、加湿器66を制御する(S4)。つまり、制御部80は、加湿駆動部661の駆動を停止し、加湿空気の生成を停止する。そして、ファン662、663を駆動も停止し、2つの加湿空気供給口61a、62aからの加湿空気の供給を停止する。
【0066】
この後、制御部80は、
図10(b)に示すように、エンコーダ261からの検出結果に基づいて副走査モータ26を制御し、プラテン12をセット位置P1で停止させる。ユーザはセット位置P1に配置されたプラテン12から画像の形成された印刷媒体を取り外す。また、このとき、制御部80は、エンコーダ991からの検出結果に基づいて主走査モータ99を制御し、キャリッジ6を吐出領域B2から左方に移動させ、メンテナンス位置B1で停止させる。
【0067】
制御部80は、印刷データに基づく印刷媒体への印刷が終了した時点、すなわち、印刷媒体へカラーインクを吐出するカラーインク吐出期間が終了した時点で吸引機構73、74のファン94の駆動を開始する(S5)。これにより、印刷搬送領域P3、吐出領域B2及びこれら領域の近傍空間より吸引口713、723へ流れる空気の流れが形成される。これにより、空気中のインクミストや埃などの異物をフィルタユニット48で吸着して回収することができる。また、カラーインク吐出期間が終了してから吸引機構73、74が駆動されるので、吸引機構73、74の駆動により生じる気流によって印刷媒体に対するインクの着弾精度が乱れるのを抑制することができる。なお、制御部80は、所定時間経過したら、吸引機構73、74のファン94の駆動を停止させる。
【0068】
次に、制御部80は、湿度センサ90によって検出された湿度が第1閾値以上であるか否かを判定する(S6)。本実施形態においては、S5の後にS6が実行されているが、S6がS5よりも先に行われてもよい。つまり、制御部80は、印刷処理におけるカラーインク吐出期間が終了した時点でS6を実行してもよい。第1閾値は、フラッシュメモリ80dに記憶されている。第1閾値は、加湿機構60の駆動が停止された状態において、筐体8内において結露が生じやすくなる境界値の湿度である。本実施形態における第1閾値は、70%であるが、周囲の環境に応じて適宜変更してもよい。湿度が第1閾値未満の場合(S6:NO)、制御部80は、筐体8の内部の湿度が低いと判定し、送風機構95のファン96、97が駆動されず、当該印刷時のフローが終了する。
【0069】
一方、湿度が第1閾値以上の場合(S6:YES)、制御部80は、送風機構95のファン96、97の駆動を開始する(S7)。これにより、
図10(b)に示すように、2つのファン96、97によって、筐体8の内部において、後方から前方に向かう空気の流れ(図中白抜き矢印で示す)が生じる。このため、筐体8の内部の空気がプラテン開口13を通って外部へと排出され、筐体8の内部の湿度が低下する。また、本実施形態においては、印刷処理の吐出期間(白インク及びカラーインクの吐出期間)中は、送風機構95の駆動が停止されている。このため、吐出期間中における送風機構95による送風量は0となる。一方、S7で送風機構95が駆動されることで、送風量が所望の量(0よりも大きな値)となり、吐出期間における送風機構95による送風量よりも吐出期間後の送風機構95による送風量が大きくなる。
【0070】
制御部80は、ファン96、97の駆動を開始してから第1所定時間経過したか否かを判定する(S8)。第1所定時間が経過していない場合(S8:NO)、S8を繰り返す。第1所定時間は、送風機構95を駆動することで筐体8の内部の湿度が第1閾値以上であっても第1閾値未満となるまでの時間に設定されている。一方、第1所定時間が経過した場合(S8:YES)、制御部80は、送風機構95のファン96、97の駆動を停止する(S9)。こうして、印刷時のフローが終了する。
【0071】
変形例として、制御部80は、S8において、湿度センサ90によって検出された湿度が第1閾値未満であるか否かを判定し、湿度が第1閾値以上の場合はS8を繰り返し、湿度が第1閾値未満の場合は、送風機構95のファン96、97の駆動を停止してもよい。
【0072】
別の変形例として、制御部80は、S9の処理が行われてからS5の処理を実行してもよい。つまり、S5が、湿度センサ90によって検出される湿度が第1閾値未満となってから実行されてもよい。
【0073】
以上に述べたように、本実施形態の印刷装置1によると、筐体8の内部に加湿空気が供給可能であるため、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分が揮発しにくくなり、前処理液の揮発成分自体がヘッド30のノズルに到達しにくくなる。したがって、ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのを抑制することが可能となる。また、送風機構95を駆動させることで、加湿機構60によって供給された筐体8の内部の加湿空気を筐体8の外部へと排出することが可能となる。このため、筐体8の内部において結露が生じるのを抑制することができる。例えば、筐体8の内部で、エンコーダ261、991などに結露が生じると、検出精度が低下し、印刷装置の動作不良が生じるが、本実施形態においては、筐体8内で結露が生じるのを抑制することができるため、印刷装置1に動作不良が生じるのを抑制することが可能となる。
【0074】
また、制御部80は、加湿機構60の駆動を停止した後に送風機構95の駆動を開始する。これにより、筐体8の内部の湿度を効果的に小さくすることが可能となる。
【0075】
また、制御部80は、S7において、印刷媒体にカラーインクを吐出して印刷処理を実行するカラーインク吐出期間における送風機構95による送風量よりも、当該吐出期間後の送風機構95による送風量が大きくなるように送風機構95を制御する。これにより、カラーインク吐出期間における送風機構95による送風量を小さくすることが可能となり、印刷処理中におけるカラーインクの印刷媒体への着弾精度の低下を抑制することが可能となる。
【0076】
また、制御部80は、S3において、印刷処理におけるカラーインク吐出期間中は、送風機構95の駆動を停止し加湿機構60を駆動する。これにより、カラーインク吐出期間において、筐体8の内部に供給された加湿空気が筐体8の外部に排出されなくなる。このため、当該吐出期間において、ヘッド30と印刷媒体との間に加湿空気が供給されやすくなり、ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのをより抑制することが可能となる。また、送風機構95の送風によって、インクの印刷媒体への着弾精度が低下するのを防ぐことができる。
【0077】
また、制御部80は、S6からS7に進むことで、送風機構95を駆動し、S6において第1閾値未満の場合、送風機構95を駆動しない。これにより、筐体8の内部が第1閾値以上の湿度となるのを効果的に抑制することが可能となる。つまり、第1閾値が例えば、70%の高湿度であると、筐体8の内部が高湿度環境に保たれるのを抑制することが可能となり、筐体8の内部において結露が生じにくくなる。
【0078】
また、送風機構95は、プラテン開口13を介して筐体8の内部から筐体8の外部に向けて送風する。これにより、プラテン12が筐体8の内部と外部とを移動するためのプラテン開口13を利用して筐体8の内部の加湿空気を筐体8の外部に排出することが可能となる。このため、加湿空気を排出するための別の開口を筐体8に設ける必要がなくなる。
【0079】
また、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12は、送風機構95とプラテン開口13との間にある。これにより、印刷搬送領域P3に配置されたプラテン12の周囲に存在する加湿空気をプラテン開口13から効果的に排出することが可能となる。
【0080】
上述の実施形態における制御部80は、S4において、加湿空気の供給を停止するように加湿機構60を制御していたが、
図11に示すような制御を行ってもよい。本変形例においては、制御部80が、S3の印刷処理の後に、湿度センサ90によって検出された湿度が第2閾値以上であるか否かを判定する(S20)。第2閾値は、フラッシュメモリ80dに記憶されている。第2閾値は、第1閾値以上であり、第1閾値と同様に、加湿機構60の駆動が停止された状態において、筐体8内において結露が生じやすくなる湿度である。本変形例における第2閾値は、75%であるが適宜変更してもよい。湿度が第2閾値未満の場合(S20:NO)、制御部80は、筐体8の内部の湿度が低いと判定し、送風機構95のファン96、97が駆動せずに、上述のS4と同様に、加湿器66を制御する(S21)。
【0081】
一方、湿度が第2閾値以上の場合(S20:YES)、制御部80は、上述のS4と同様に加湿器66を制御し、且つ、送風機構95のファン96、97の駆動を開始する(S22)。これにより、筐体8の内部が第2閾値以上の湿度となるのをより効果的に抑制することが可能となり、筐体8の内部において結露がより一層生じにくくなる。この後、上述のS8、S9と同様な処理が実行され、フローが終了する。このような変形例における印刷装置1においても、上述の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0082】
上述の変形例においては、S3からS20へと進み、S20がYESの場合、S22へと進むが、S3とS20との間にS6が実行されてもよい。そして、S6において、NOの場合、S21へと進み、YESの場合、S7へと進む。そして、S7からS20へと進んでもよい。これらにおいても、上述と同様に、筐体8の内部において結露が生じにくくなる。
【0083】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0084】
上述の実施形態及び各変形例においては、送風機構95が筐体8の後方に設けられていたが、筐体8の内部から外部に向けて送風することが可能であれば、筐体8のどの場所に送風機構が設けられていてもよい。また、送風機構が1又は3以上のファンから構成されていてもよい。また、送風機構95によって送られた空気を、筐体8の内部からプラテン開口13以外の開口から外部に排出してもよい。
【0085】
上述の実施形態及び各変形例においては、S2が実行された後にS7が実行されているが、送風機構95は、少なくとも加湿機構60(加湿器66)を駆動した後に駆動してもよい。つまり、S2が実行される前からS7での送風機構95による送風量よりも小さい送風量で送風機構95が駆動されていてもよいし、S2の後であってS3の前からS7での送風機構95による送風量よりも小さい送風量で送風機構95が駆動されていてもよい。送風量が小さい場合、供給された加湿空気がプラテン12の後方から前方へと効果的に流れ、印刷媒体とヘッド30との間に加湿空気層を形成することができる。なお、当該送風機構95の駆動の停止は、S9で行えばよい。つまり、送風量が小さい場合は、ヘッド30から吐出されるインクの着弾精度に影響しないため、S3中において送風機構95を駆動していてもよい。
【0086】
上述の第2閾値は第1閾値よりも大きな値であったが第1閾値と同じであってもよい。
【0087】
キャリッジ6の白ヘッド31、32と、カラーヘッド33、34との間に、印刷媒体に形成された画像をオーバーコーティングする後処理液を吐出するオーバーコートヘッドを設けていてもよい。この場合、印刷媒体へのカラーインクの吐出が終了し画像が形成された後(印刷処理終了後)に、再度、プラテン12を印刷前待機位置P2へ戻す。そして、プラテン12を印刷搬送領域P3へと搬送し、オーバーコートヘッドから後処理液を印刷媒体へ吐出させる。こうして、印刷媒体の画像をオーバーコーティングすることが可能となる。このような印刷装置においても、上述の実施形態及び各変形例のときと同様に、カラーインクの吐出が終了した印刷処理後のS7において送風機構95が駆動されることで、筐体8の内部において結露が生じにくくなる。なお、印刷媒体へ後処理液が吐出される期間中にS7での送風量で送風機構95が駆動されていてもよい。また、送風量が小さい場合は、着弾精度に影響しないため、送風機構95を後処理液の吐出期間中に駆動してもよい。
【0088】
上述の実施形態においては、加湿器66から供給口75、76に送られた加湿空気が2つの加湿空気供給管61、62へと送られるが、これら供給口75,76に送られた加湿空気がそのまま供給口75、76から筐体8内に供給されてもよい。つまり、2つの加湿空気供給管61、62が設けられていなくてもよい。これにおいても、筐体8内が加湿されることで、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分が揮発しにくくなる。このため、ノズル内のインクと前処理液の揮発成分との反応による不具合が生じるのを抑制することが可能となる。この場合においても、上述のS7が実行されることで、筐体8の内部の加湿空気を筐体8の外部へと排出することが可能となる。このため、筐体8の内部において結露が生じるのを抑制することができる。なお、別経路において加湿器66と2つの加湿空気供給管61、62とを接続することで、2つの加湿空気供給管61、62から上述のように加湿空気が供給されてもよい。また、加湿器66とは別の加湿器を設け、当該別の加湿器と2つの加湿空気供給管61、62とをチューブなどの配管部材を介して接続することで、供給口75,76及び2つの加湿空気供給管61、62から加湿空気を供給してもよい。これにより、印刷媒体上に加湿空気層を効果的に形成しやすくなる。このため、印刷媒体に塗布された前処理液の揮発成分がより一層揮発しにくくなる。また、前処理液の揮発成分が揮発したとしても、当該揮発成分が印刷媒体と対向するヘッド30のノズル内により一層到達しにくくなる。このような変形例のいずれにおいても、上述及び各変形例と同様に加湿器66を制御してもよい。加湿機構60は、筐体8の内部に加湿空気を供給することが可能であれば、どのような構成であってもよい。
【0089】
上述のS7による送風機構95の駆動が開始されてから第1所定時間が経過するまで、又は、湿度センサ90により検出された湿度が第1閾値未満となるまでに、別の印刷開始指令が印刷装置1に入力されると、送風機構95の駆動を停止し、S2を実行してもよい。
【0090】
上述の実施形態おいては、湿度センサ90がプラテン開口13の左側に配置されているが、筐体8内において複数設けられていてもよい。この場合、いずれかの湿度センサ90が第1閾値以上の湿度を検出した場合、S7で駆動された送風機構95を継続して駆動していてもよい。また、湿度センサ90を設けず、上述のS6やS20の処理を実行しなくてもよい。この場合、S2が実行された以降に、S7やS22を実行すればよい。これにおいても、筐体8の内部の湿度を低下させることが可能となり、筐体8の内部において結露が生じにくくなる。
【0091】
また、上述の実施形態及び各変形例におけるヘッド30は、移動機構77によって主走査方向(左右方向)に沿って移動しながら複数のノズルからインクを吐出する、いわゆるシリアルヘッドを備えた印刷装置に本発明を適用した例について説明したが、これに限られない。例えば、主走査方向に印刷媒体(プラテン12)の全長にわたって延び、吐出領域B2に移動不可能に配置されたラインヘッドを備えた印刷装置に本発明を適用することも可能である。
【0092】
また、上述の実施形態及び各変形例における印刷装置は、印刷媒体に前処理液を塗布するための前処理液塗布機構を有していてもよい。この場合、印刷処理が実行される前に、前処理液塗布機構により印刷媒体に前処理液が塗布されればよい。また、上述のS1において、印刷開始指令が入力された後に、前処理液塗布機構により印刷媒体に前処理液を塗布してもよい。
【0093】
また、上述の実施形態及び各変形例における制御部80は、CPU80aの代わりに、マイクロコンピュータ、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が、プロセッサとして用いられてもよい。この場合、メイン処理は、複数のプロセッサによって分散処理されてもよい。ROM80b、フラッシュメモリ80d等の非一時的な記憶媒体は、情報を記憶する期間に関わらず、情報を留めておくことが可能な記憶媒体であればよい。非一時的な記憶媒体は、一時的な記憶媒体(例えば、伝送される信号)を含まなくてもよい。制御プログラムは、例えば、図示外のネットワークに接続されたサーバからダウンロードされて(すなわち、伝送信号として送信され)、ROM80bまたはフラッシュメモリ80dに記憶されてもよい。この場合、制御プログラムは、サーバに備えられたHDD等の非一時的な記憶媒体に保存されていればよい。上述の実施形態及び各変形例においては、前処理液の揮発成分には有機酸が含まれているがこれに限られない。すなわち、前処理液の揮発成分が、有機酸以外の成分であって、ノズル内のインクと反応して、凝集や変色を起こす成分を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 印刷装置
8 筐体
12 プラテン
13 プラテン開口(開口)
30(31~34) ヘッド
60 加湿機構
80 制御部
90 湿度センサ
95 送風機構
313,323,333,343 ノズル