(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119222
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ、及び圧電アクチュエータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/05 20230101AFI20240827BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240827BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240827BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240827BHJP
H02N 2/04 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H10N30/05
H10N30/20
H10N30/87
H10N30/06
H02N2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025975
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】阿部 善幸
(72)【発明者】
【氏名】森山 慎也
(72)【発明者】
【氏名】勝野 超史
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA12
5H681DD23
5H681DD39
5H681DD95
(57)【要約】
【課題】温度変化に起因した分極特性の劣化を効果的に抑制可能な圧電アクチュエータを提供すること。
【解決手段】本開示の一態様にかかる圧電アクチュエータ1は、複数の圧電素子10が積層方向に積層されて構成されている。複数の圧電素子10はそれぞれ、第1内部電極層11と、圧電体層13と、第2内部電極層12とが積層方向に交互に積層されるとともに、第1側面に第1内部電極層11と接続された第1外部電極21が形成され、第2側面に第2内部電極層12と接続された第2外部電極22が形成されている。複数の圧電素子10はそれぞれ接着部材16を用いて互いに接着されて積層されており、各々の圧電素子10の積層方向と交差する主面には、第1外部電極21および第2外部電極22と接続された所定の抵抗値を有する導電部材15が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電素子が積層方向に積層されて構成された圧電アクチュエータであって、
前記複数の圧電素子はそれぞれ、第1内部電極層と、圧電体層と、第2内部電極層とが前記積層方向に交互に積層されるとともに、第1側面に前記第1内部電極層と接続された第1外部電極が形成され、第2側面に前記第2内部電極層と接続された第2外部電極が形成されており、
前記複数の圧電素子はそれぞれ接着部材を用いて互いに接着されて積層されており、
前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面には、前記第1外部電極および前記第2外部電極と接続された所定の抵抗値を有する導電部材が設けられている、
圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記導電部材は、前記圧電素子の前記主面の端部側の周囲に設けられている、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記接着部材は、前記圧電素子の前記主面の中央側に設けられており、
前記導電部材は、前記圧電素子の前記主面において前記接着部材を取り囲むように設けられている、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1外部電極および前記第2外部電極は互いに対向するように形成されており、
前記導電部材は、前記第1外部電極と前記第2外部電極との間において直線状に設けられており、
前記接着部材は、前記直線状の導電部材が伸びる方向と交差する両側に設けられている、
請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記接着部材の厚さが前記導電部材の厚さよりも厚い、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記各々の圧電素子の前記第1外部電極と接続される第1リードフレームと、
前記各々の圧電素子の前記第2外部電極と接続される第2リードフレームと、を更に備える、
請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面は、前記各々の圧電素子の上面および下面の少なくとも一方の面である、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
第1内部電極層と、圧電体層と、第2内部電極層とが積層方向に交互に積層されるとともに、第1側面に前記第1内部電極層と接続された第1外部電極が、第2側面に前記第2内部電極層と接続された第2外部電極がそれぞれ形成された複数の圧電素子を準備する工程と、
前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面に、前記第1外部電極および前記第2外部電極と接続された所定の抵抗値を有する導電部材を形成する工程と、
前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面に接着部材を設け、前記各々の圧電素子を前記接着部材を用いて互いに接着して積層する工程と、を備える、
圧電アクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は圧電アクチュエータ、及び圧電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電アクチュエータは様々な機器に搭載されており、これにより圧電アクチュエータは様々な環境で使用されるようになってきている。圧電アクチュエータを構成する圧電素子は、電気的なエネルギーを機械的なエネルギーに変換したり、機械的なエネルギーを電気的なエネルギーに変換したりする素子である。例えば、圧電素子に電圧を印加した場合は圧電素子が変位する。
【0003】
ところで圧電素子は焦電性を備えるため、周囲の温度変化に起因して圧電素子の分極特性が劣化する場合がある。具体的には、圧電素子の周囲の温度が変化すると、圧電素子の正極には負の電荷によって負の電圧が発生し、圧電素子の負極には正の電荷によって正の電圧が発生する。つまり、圧電素子の正極および負極には極性と逆方向の起電力(逆起電力)が発生するため、圧電素子の特性が劣化するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、焦電効果に起因する特性劣化の抑制を実現可能な積層型圧電素子を提供するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、圧電アクチュエータは様々な環境で使用されることが多くなってきており、温度変化が大きい環境で圧電アクチュエータが使用される機会も増加している。このように、温度変化が大きい環境で圧電アクチュエータが使用されると、圧電アクチュエータを構成する圧電素子の分極特性が劣化するという問題がある。このため、温度変化に起因した圧電素子の分極特性の劣化を効果的に抑制する技術が重要となってきている。
【0007】
上記課題に鑑み本開示の目的は、温度変化に起因した分極特性の劣化を効果的に抑制可能な圧電アクチュエータ、及び圧電アクチュエータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様にかかる圧電アクチュエータは、複数の圧電素子が積層方向に積層されて構成されている。前記複数の圧電素子はそれぞれ、第1内部電極層と、圧電体層と、第2内部電極層とが前記積層方向に交互に積層されるとともに、第1側面に前記第1内部電極層と接続された第1外部電極が形成され、第2側面に前記第2内部電極層と接続された第2外部電極が形成されている。前記複数の圧電素子はそれぞれ接着部材を用いて互いに接着されて積層されており、前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面には、前記第1外部電極および前記第2外部電極と接続された所定の抵抗値を有する導電部材が設けられている。
【0009】
本開示の一態様にかかる圧電アクチュエータの製造方法は、第1内部電極層と、圧電体層と、第2内部電極層とが積層方向に交互に積層されるとともに、第1側面に前記第1内部電極層と接続された第1外部電極が、第2側面に前記第2内部電極層と接続された第2外部電極がそれぞれ形成された複数の圧電素子を準備する工程と、前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面に、前記第1外部電極および前記第2外部電極と接続された所定の抵抗値を有する導電部材を形成する工程と、前記各々の圧電素子の前記積層方向と交差する主面に接着部材を設け、前記各々の圧電素子を前記接着部材を用いて互いに接着して積層する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、温度変化に起因した分極特性の劣化を効果的に抑制可能な圧電アクチュエータ、及び圧電アクチュエータの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態にかかる圧電アクチュエータの構成例を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の構成例を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す圧電素子の切断線III-IIIにおける断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる圧電アクチュエータの製造方法を説明するための斜視図である。
【
図6】本開示の効果を説明するための斜視図である。
【
図7】本開示の効果を説明するためのグラフである。
【
図8】実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の変形例を説明するための斜視図である。
【
図9】実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の変形例を説明するための斜視図である。
【
図10】端子間抵抗値Rdcと陽極発生電圧との関係を示すグラフである。
【
図11】端子間抵抗値Rdcと圧電アクチュエータの変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示について説明する。
図1は、実施の形態にかかる圧電アクチュエータの構成例を示す斜視図である。
図2は、実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の構成例を示す斜視図である。
図3は、
図2に示す圧電素子の切断線III-IIIにおける断面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータ1は、複数の圧電素子10が積層方向に積層されて構成されている。圧電アクチュエータ1の側面には、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32(
図4参照)が設けられている。第1リードフレーム31および第2リードフレーム32はそれぞれ、各々の圧電素子10の第1外部電極21および第2外部電極22(
図3参照)とそれぞれ接続されている。本実施の形態にかかる圧電アクチュエータ1は、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32に電圧が印加されることで駆動するように構成されている。
【0014】
図3に示すように、圧電素子10は、第1内部電極層11と、圧電体層13と、第2内部電極層12とが積層方向に交互に積層されている。圧電素子10の一方の側面には第1外部電極21が形成されている。圧電素子10の他方の側面には第2外部電極22が形成されている。典型的には、第1外部電極21および第2外部電極22は互いに対向するように形成されている。第1外部電極21は複数の第1内部電極層11と電気的に接続されている。第2外部電極22は複数の第2内部電極層12と電気的に接続されている。
図3に示すように、第1内部電極層11と第2外部電極22、第2内部電極層12と第1外部電極21は、それぞれ間隔をあけて形成されており、断面視した際に、櫛歯状の第1内部電極層11と櫛歯状の第2内部電極層12とが互いに対向し、櫛歯の部分が互い違いになるように配置されている。
【0015】
第1外部電極21は複数の第1内部電極層11と電気的に接続されているので、第1外部電極21に電圧が印加されると、複数の第1内部電極層11に電圧が印加される。同様に、第2外部電極22は複数の第2内部電極層12と電気的に接続されているので、第2外部電極22に電圧が印加されると、複数の第2内部電極層12に電圧が印加される。よて、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32を介して第1外部電極21および第2外部電極22に電圧が印加されることで各々の圧電素子10が変位し、圧電アクチュエータ1が駆動する。なお、
図3に示す断面図では一例として、2つの圧電素子10を積層した状態を図示している。
【0016】
本実施の形態において圧電体層13には、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、チタン酸バリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電セラミックス材料を用いることができる。また、第1内部電極層11、第2内部電極層12、第1外部電極21、及び第2外部電極22には、例えばAg、Pd、Ni、Cu、Pt、Auなどを主成分とする金属または合金を用いることができる。また、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32には、例えばCu合金等を用いることができる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態では圧電アクチュエータ1を構成する材料として上記以外の材料を用いてもよい。
【0017】
本実施の形態にかかる圧電アクチュエータ1は、接着部材16を用いて複数の圧電素子10を互いに接着して積層することで構成している。具体的には、
図2、
図3に示すように、各々の圧電素子10の積層方向と交差する主面に接着部材16を設けて、複数の圧電素子10を互いに接着して積層している。接着部材16には、例えばエポキシ接着剤を用いることができる。
【0018】
また、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータ1は、
図2、
図3に示すように、各々の圧電素子10の積層方向と交差する主面に、第1外部電極21および第2外部電極22と接続された所定の抵抗値を有する導電部材15を設けている。
図2に示すように、例えば、導電部材15は、圧電素子10の主面の端部側の周囲に設けている。換言すると、圧電素子10の主面の中央側に接着部材16を設け、当該接着部材16を取り囲むように導電部材15を設けている。このように、圧電素子10の主面の中央側に接着部材16を設けることで、各々の圧電素子10を互いに強固に接着できる。このとき、接着部材16の厚さは導電部材15の厚さよりも厚くなるようにしてもよい。このように、接着部材16の厚さを導電部材15の厚さよりも厚くすることで、各々の圧電素子10を互いに強固に接着できる。
【0019】
導電部材15は、例えば導電ペーストを塗布することで形成できる。導電ペーストには、例えばカーボンペースト、銅ペースト等を用いることができる。導電部材15の抵抗値、つまり、第1外部電極21と第2外部電極22との間における導電部材15の抵抗値(以下、端子間抵抗値とも記載する)は、導電ペーストを塗布する面積や厚さを変更することで調整することができる。また、使用する導電ペーストを変更することで調整してもよい。端子間抵抗値は、100kΩ以上5MΩ以下、好ましくは1MΩ以上4MΩ以下とする。
【0020】
導電部材15は、各々の圧電素子10の上面および下面の少なくとも一方の面に設けることができる。具体的には、圧電素子10の上面のみに導電部材15を設けてもよく、圧電素子10の下面のみに導電部材15を設けてもよく、圧電素子10の上面および下面の両面に導電部材15を設けてもよい。また、圧電アクチュエータ1を構成する複数の圧電素子10のうち、一部の圧電素子10に導電部材15を設けていない圧電素子10を用いてもよい。例えば、圧電アクチュエータ1を構成する複数の圧電素子10うち、温度変化が小さい位置に配置された圧電素子10については、導電部材15を設けていないものを用いてもよい。温度変化が小さい位置は、圧電アクチュエータ1が搭載される機器に応じて決定することができる。
【0021】
このように、各々の圧電素子10の主面に導電部材15を設けた場合は、圧電素子10の周囲の温度変化に起因して第1外部電極21および第2外部電極22に発生した電荷を消費することできる。よって、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を低減することができる。したがって、温度変化に起因した圧電素子10の分極特性の劣化を効果的に抑制できる。
【0022】
次に、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータの製造方法について説明する。本実施の形態にかかる圧電アクチュエータを作製する際は、まず、
図2に示した圧電素子10を複数準備する。例えば、各々の圧電素子10は、次の方法で形成できる。まず、第1内部電極層11および第2内部電極層12の電極パターンが形成された圧電体グリーンシート(圧電体層13)を積層して熱圧着して積層体を形成する。圧電体グリーンシートの熱圧着には、例えば一軸加圧や静水圧加圧などを用いることができる。その後、形成した積層体に導電性ペーストを塗布することで、第1外部電極21および第2外部電極22の電極パターンを形成する。そして、電極パターンを形成した積層体を焼結して、圧電素子10を形成する。
【0023】
その後、各々の圧電素子10の主面に、第1外部電極21および第2外部電極22と接続された所定の抵抗値を有する導電部材15を形成する。導電部材15は、例えば導電ペーストを塗布することで形成できる。導電ペーストには、例えばカーボンペースト、銅ペースト等を用いることができる。導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値)は、導電ペーストを塗布する面積や厚さを変更することで調整することができる。また、使用する導電ペーストを変更することで調整してもよい。端子間抵抗値は、100kΩ以上5MΩ以下、好ましくは1MΩ以上4MΩ以下とする。
【0024】
導電部材15は、各々の圧電素子10の上面および下面の少なくとも一方の面に設ける。また、圧電アクチュエータ1を構成する複数の圧電素子10のうち、一部の圧電素子10に導電部材15を設けていない圧電素子10を用いてもよい。
【0025】
次に、各々の圧電素子10の主面に接着部材16を設け、各々の圧電素子10を接着部材16を用いて互いに接着して積層する。具体的には、
図4に示すように、圧電素子10と圧電素子10との間に接着部材16を設け、圧電素子10を順番に積層することで圧電アクチュエータ1を形成できる。接着部材16には例えば、エポキシ接着剤等を用いることができる。なお、本実施の形態では、接着部材16は圧電素子10の主面に予め塗布しておいてもよく、また、積層時にシート状の接着部材16(
図4参照)を圧電素子10の主面に配置するようにしてもよい。
【0026】
その後、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32のそれぞれにリード線(不図示)を接続する。このような方法を用いることで、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータ1を製造することができる。
【0027】
図5は、従来技術を説明するための図である。
図5に示す従来技術にかかる圧電素子110は、
図2に示す圧電素子10と対応しており、各構成要素を100番台の符号で示している。また、従来技術にかかる圧電素子110は、導電部材15を備えない構成となっている。
【0028】
圧電素子110は焦電性を備えるため、周囲の温度変化に起因して圧電素子110の分極特性が劣化する場合があった。例えば、圧電素子110の周囲の温度が高くなると、圧電素子110の第1外部電極121(正極)には負の電荷によって負の電圧が発生し、圧電素子110の第2外部電極122(負極)には正の電荷によって正の電圧が発生する。つまり、圧電素子110の第1外部電極121(正極)および第2外部電極122(負極)には極性と逆方向の起電力(逆起電力)が発生するため、圧電素子110の特性が劣化する場合があった。特に、1kHz以上の高周波数で駆動させる圧電アクチュエータに使用する圧電素子は、焦電性が高くなる傾向があり、特性劣化への対応がより必要となる。
【0029】
すなわち、
図5のグラフに示すように、圧電素子110の表面温度が経時的に変化すると、圧電素子110の正極における発生電圧と、負極における発生電圧とが経時的に変化する。具体的には、圧電素子110の表面温度が高くなると、圧電素子110の第1外部電極121(正極)には負の電荷によって負の電圧が発生し、正極発生電圧がマイナスとなる。また、圧電素子110の第2外部電極122(負極)には正の電荷によって正の電圧が発生し、負極発生電圧がプラスとなる。このため、圧電素子110の第1外部電極121(正極)および第2外部電極122(負極)には極性と逆方向の起電力(逆起電力)が発生するため、圧電素子110の特性が劣化する場合があった。
【0030】
図6、
図7はそれぞれ、本開示の効果を説明するための斜視図およびグラフである。本実施の形態では、このような課題を解決するために、各々の圧電素子10の主面に導電部材15を設けている。このように、各々の圧電素子10の主面に導電部材15を設けた場合は、圧電素子10の周囲の温度変化に起因して第1外部電極21および第2外部電極22に発生した電荷を消費することできる。
【0031】
すなわち、
図6に示すように、第1外部電極21(正極)に発生した負の電荷は、導電部材15を通り、第2外部電極22(負極)に発生した正の電荷と結合して消費される。同様に、第2外部電極22(負極)に発生した正の電荷は、導電部材15を通り、第1外部電極21(正極)に発生した負の電荷と結合して消費される。よって、
図7のグラフに示すように、本開示では従来技術と比べて、正極に発生する負極性の電圧を抑えることができる。また、負極に発生する正極性の電圧を抑えることができる。つまり、本開示では、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を低減することができる。したがって、温度変化に起因した圧電素子10の分極特性の劣化を効果的に抑制できる。
【0032】
なお、本実施の形態において導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値)は、100kΩ以上5MΩ以下、好ましくは1MΩ以上4MΩ以下とする。導電部材15の抵抗値が低すぎる場合は、圧電アクチュエータ1の正極および負極に印可される電圧が低下してしまい、圧電アクチュエータ1を適切に駆動できない場合がある。また、導電部材15の抵抗値が高すぎる場合は、第1外部電極21および第2外部電極22に発生した電荷を十分に消費することができず、温度変化に起因した圧電素子10の分極特性の劣化を効果的に抑制できない場合がある。本実施の形態では、導電部材15の抵抗値を上述の範囲とすることで、圧電アクチュエータ1の正極および負極に印可される電圧を維持しつつ、温度変化に起因した圧電素子の分極特性の劣化を効果的に抑制できる。
【0033】
また、本実施の形態では、各々の圧電素子10の内部に導電部材15を設けるのではなく、各々の圧電素子10の外部(主面)に導電部材15を設けている。よって、導電部材15を形成する際の材料の選択の幅を広くすることができる。すなわち、各々の圧電素子10の内部に導電部材15を設ける場合は、導電部材15のパターンを形成した後に圧電素子10を高温で焼結する必要がある。このため、導電部材15に用いる材料は高温に耐えられる材料である必要があるので、材料の選択の幅が狭くなる。一方、本実施の形態では、各々の圧電素子10の外部(主面)に導電部材15を設けている。よって、圧電素子10を高温処理する必要がないので、導電部材15を形成する際の材料の選択の幅を広くすることができる。また、圧電素子10の主面に設けられた導電部材15は、積層方向に隣り合う圧電素子10同士の間に挟まれている構成となっているため、例えば、圧電素子10の側面に導電部材15を形成した場合に比べ、外的環境から保護され、特性劣化や信頼性劣化を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態において、圧電素子10の主面の面積に対する導電部材15の面積の割合(%)は、50%以上90%以下、好ましくは50%以上70%以下としてもよい。圧電素子10の主面の面積に対する導電部材15の面積の割合をこの範囲とすることで、各々の圧電素子10の接合強度を維持しつつ、温度変化に起因した圧電素子の分極特性の劣化を効果的に抑制できる。
【0035】
図8は、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の変形例を説明するための斜視図である。本実施の形態では、
図8に示す圧電素子10aのように、第1外部電極21と第2外部電極22との間において導電部材15aが直線状になるように設けてもよい。この場合、接着部材16aは、直線状の導電部材15aが伸びる方向と交差する両側に設けてもよい。このように、導電部材15aを直線状にした場合は、圧電素子10aの主面に導電部材15aを形成する際の作業工程を簡略化することができる。
【0036】
図9は、本実施の形態にかかる圧電アクチュエータが備える圧電素子の変形例を説明するための斜視図である。本実施の形態では、
図9に示す圧電素子10bのように、第1外部電極21と第2外部電極22との間において導電部材15bが直線状になるように設けてもよい。この場合、接着部材16bは、直線状の導電部材15bが伸びる方向の両側に設けてもよい。
図9に示す圧電素子10bでは、
図8に示した圧電素子10aと比べて、導電部材15bを細くしている。よって、圧電素子10bの主面における接着部材16bの面積を大きくすることができ、各々の圧電素子10bの接合強度を強くすることができる。なお、導電部材15bを細くした場合はその分だけ導電部材15bの抵抗値が増加するが、このような抵抗値の増加については、例えば導電部材15bの厚さを厚くしたり、導電部材15bの材料として抵抗が小さい材料を使用したりすることで、導電部材15bの抵抗値を適切な値にすることができる。
【実施例0037】
以下、実施例について説明する。
実施例にかかるサンプルとして、
図1に示した構成を備える圧電アクチュエータを作製した。圧電アクチュエータが備える各々の圧電素子10は、以下の方法を用いて作製した。まず、第1内部電極層11および第2内部電極層12の電極パターンが形成された圧電体グリーンシート(圧電体層13)を積層して熱圧着して積層体を形成した。圧電体グリーンシートの熱圧着には、一軸加圧を用いた。その後、形成した積層体に導電性ペーストを塗布して、第1外部電極21および第2外部電極22の電極パターンを形成した。そして、電極パターンを形成した積層体を焼結して、圧電素子10を形成した。各々の圧電素子10のサイズは、縦×横×高さ=5mm×5mm×2mmとした。
【0038】
その後、各々の圧電素子10の主面に、カーボンペーストを塗布して導電部材15を形成した。導電部材15は、圧電素子10の主面の端部から内側に1mmの幅となるように、圧電素子10の端部に沿って形成した(
図2参照)。このときの導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)は100kΩとした。
【0039】
次に、各々の圧電素子10の主面に接着部材16を設け、各々の圧電素子10を接着部材16を用いて互いに接着して積層した。具体的には、
図4に示すように、圧電素子10と圧電素子10との間に接着部材16を設け、圧電素子10を順番に5個積層することで圧電アクチュエータ1を形成した。接着部材16にはエポキシ接着剤を用いた。その後、第1リードフレーム31および第2リードフレーム32のそれぞれにリード線(不図示)を接続した。このような方法を用いることで、実施例1にかかる圧電アクチュエータを作製した。
【0040】
実施例2にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)が1MΩのサンプルを作製した。なお、実施例2にかかるサンプルは、端子間抵抗値Rdcが1MΩであること以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0041】
実施例3にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)が4MΩのサンプルを作製した。なお、実施例3にかかるサンプルは、端子間抵抗値Rdcが4MΩであること以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0042】
実施例4にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)が5MΩのサンプルを作製した。なお、実施例4にかかるサンプルは、端子間抵抗値Rdcが5MΩであること以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0043】
比較例1にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)が100MΩのサンプルを作製した。なお、比較例1にかかるサンプルは、端子間抵抗値Rdcが100MΩであること以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0044】
比較例2にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15の抵抗値(端子間抵抗値Rdc)が10GΩのサンプルを作製した。なお、比較例2にかかるサンプルは、端子間抵抗値Rdcが10GΩであること以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0045】
比較例3にかかる圧電アクチュエータとして、導電部材15を設けないサンプルを作製した。なお、比較例3にかかるサンプルは、導電部材15を設けないこと以外、実施例1にかかるサンプルと同様である。
【0046】
上記サンプルにおいて、各々の導電部材15の抵抗値は、カーボンペーストの厚さを変更することで調整した。
【0047】
上述のようにして作製した実施例2、比較例1、比較例3にかかるサンプルの正極発生電圧を測定した。正極発生電圧は、以下のようにして測定した。まず、各サンプルを室温から100℃に30秒で加熱し、1分間100℃を維持し、その後、30秒で-40℃まで冷却し、1分間-40℃を維持し、その後、30秒で室温まで加熱した(温度プロファイルA)。そして、このときの正極発生電圧の変化をクーロンメータを用いて測定した。正極発生電圧の測定結果を
図10に示す。
【0048】
図10に示すように、比較例1にかかるサンプルでは導電部材15の抵抗値が高すぎたため、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を効果的に低減することができなかった。また、比較例3にかかるサンプルでは、導電部材15を設けなかったため、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を低減することができなかった。一方、実施例2にかかるサンプルでは導電部材15の抵抗値が適切な値であったため、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を低減することができた。特に、導電部材15の抵抗値が1MΩである実施例2にかかるサンプルでは、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を効果的に低減できた。
【0049】
また、上述のようにして作製した実施例1~4、比較例1~2にかかるサンプルの変位量を測定した。具体的には、実施例1~4、比較例1~2にかかるサンプルを上述の温度プロファイルAで温度変化させた後、各々のサンプルに定格120Vの直流電圧を印加し、そのときの圧電アクチュエータの変位量を測定した。
図11に各サンプルの端子間抵抗値Rdcと圧電アクチュエータの変位量(μm)との関係を示す。
【0050】
図11に示すように、比較例1、2にかかるサンプルでは実施例1~4にかかるサンプルと比較して、圧電アクチュエータの変位量が小さい値となった。これは、比較例1、2にかかるサンプルでは、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を効果的に低減できなかったためと考えられる。一方、実施例1~4にかかるサンプルでは、圧電アクチュエータの変位量が大きな値を示した。つまり、実施例1~4にかかるサンプルでは、第1外部電極21および第2外部電極22間に生じた逆起電力を効果的に低減できたため、圧電アクチュエータの変位量の低下を抑制できたと考えられる。
【0051】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。