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特開2024-119234到来波測定装置、到来波測定システム及び到来波測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119234
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】到来波測定装置、到来波測定システム及び到来波測定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/30 20150101AFI20240827BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20240827BHJP
   H01Q 3/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H04B17/30
G01R29/08 B
H01Q3/08
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025990
(22)【出願日】2023-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、「アクティブ空間無線リソース制御技術に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000232287
【氏名又は名称】日本電業工作株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149113
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 謹矢
(72)【発明者】
【氏名】大本 隆太郎
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021AB06
5J021DA04
5J021HA03
5J021JA10
(57)【要約】
【課題】到来波の到来方向と受信電力とが測定できる到来波測定装置などを提供する。
【解決手段】到来波測定装置は、指向する方向から特定の周波数帯域において到来する電波である到来波を受信する指向性アンテナと、指向する方向を可変に指向性アンテナを支える架台と、指向性アンテナの指向する方向を設定し、指向性アンテナで受信した電波の周波数スペクトルをスペクトルアナライザに出力する制御装置とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向する方向から特定の周波数帯域において到来する電波である到来波を受信する指向性アンテナと、
指向する方向を可変に前記指向性アンテナを支える架台と、
前記指向性アンテナの指向する方向を設定し、当該指向性アンテナで受信した電波の周波数スペクトルをスペクトルアナライザに出力する制御装置と
を備える到来波測定装置。
【請求項2】
前記架台は、軸を有し、前記指向性アンテナが当該軸を中心として向きを変えて指向方向を可変することを特徴とする請求項1に記載の到来波測定装置。
【請求項3】
前記架台は、前記指向性アンテナを前記軸の周りに回転させることを特徴とする請求項2に記載の到来波測定装置。
【請求項4】
前記架台は、前記指向性アンテナの指向する方向を前記軸に垂直な面に対して仰ぐ方向又は俯せる方向に設定可能であることを特徴とする請求項2に記載の到来波測定装置。
【請求項5】
前記制御装置が前記周波数スペクトルを出力する前記スペクトルアナライザは、リアルタイムスペクトルアナライザであることを特徴とする請求項1に記載の到来波測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の到来波測定装置と、
前記到来波測定装置から取得した前記指向性アンテナが受信した電波の周波数スペクトルを解析してスペクトルデータとするスペクトルアナライザと、
前記スペクトルアナライザから取得した前記スペクトルデータから、前記到来波測定装置が設置された測定地点における電波の到来方向を特定するデータ処理装置と
を備える到来波測定システム。
【請求項7】
測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、受信した電波の周波数スペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、
前記周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから前記測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップと
を含む到来波測定方法。
【請求項8】
測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、第1の周波数スペクトルを第1の分解能で測定する第1のスペクトル測定ステップと、
前記第1の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから受信電力が予め定められた閾値より大きい到来波がある場合に、前記指向性アンテナの指向する方向を変える範囲を当該到来波の到来方向が含まれる範囲に限定して、前記第1の分解能より分解能が高い第2の分解能で第2の周波数スペクトルを測定する第2のスペクトル測定ステップと、
前記第2の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから前記測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップと
を含む到来波測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来波測定装置、到来波測定システム及び到来波測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信によるネットワークでは、大容量且つ低遅延のトラフィックを効率的且つ安定的に行うことが求められる。無線通信では、電波が到達しない不感地帯に対する対策と干渉の抑制とを両立させた電波伝搬路のインテリジェントな制御技術が求められる。これにより、周波数利用の効率が向上し、大容量且つ低遅延のトラフィックが確保される。
【0003】
特許文献1には、電波を受信して無線環境を表す情報を送信する電波プローブであって、電波を検出する電波センサと、前記電波プローブの静止状態及び移動状態を検出する状態センサと、通信手段と、前記電波センサが検出した電波の受信信号強度を含む一次情報を生成し、前記通信手段を介して送信する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記状態センサが検出した状態が変化すると、前記電波プローブの識別情報と、前記状態センサが検出した移動状態及び静止状態とを含むセンサデータを前記通信手段を介して送信することを特徴とする、電波プローブが記載されている。
【0004】
特許文献2には、複数の電波センサーがそれぞれに測定した電波の受信情報に基づいて前記電波を送信する無線局の位置を推定する位置推定装置において、選択候補の各電波センサーの配置を示す電波センサー配置情報を記憶する電波センサー配置情報記憶部と、前記無線局が移動する移動先の位置の予測結果の予測位置に基づいて選択候補の電波センサーの中からデータ取得対象の電波センサーを選択し、選択されたデータ取得対象の電波センサーが測定する前記電波の受信情報を取得する電波センサーデータ取得部と、を備える位置推定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-191593号公報
【特許文献2】特開2022-143019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インテリジェントな電波伝搬路制御には、通信に用いる電波(以下では、希望波と表記する。)を送信する電波源の位置と、通信に用いず干渉を生じさせるおそれのある電波(以下では、不要波と表記する。)を送信する電波源の位置とを特定することが不可欠になる。これには、特定の場所(以下では、測定地点と表記する。)に到来する電波の到来する方向(以下では、到来方向と表記する。)と到来する電波(以下では、到来波と表記する。)の受信電力とを測定することが必要となる。
本発明は、到来波の到来方向と受信電力とが測定できる到来波測定装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が適用される到来波測定装置は、指向する方向から特定の周波数帯域において到来する電波である到来波を受信する指向性アンテナと、指向する方向を可変に指向性アンテナを支える架台と、指向性アンテナの指向する方向を設定し、指向性アンテナで受信した電波の周波数スペクトルをスペクトルアナライザに出力する制御装置とを備える。
【0008】
このような到来波測定装置において、架台は、軸を有し、指向性アンテナが軸を中心として向きを変えて指向方向を可変することを特徴とする。
また、このような到来波測定装置において、架台は、指向性アンテナを軸の周りに回転させることを特徴とする。
【0009】
そして、このような到来波測定装置において、架台は、指向性アンテナの指向する方向を軸に垂直な面に対して仰ぐ方向又は俯せる方向に設定可能であることを特徴とする。
【0010】
さらに、このような到来波測定装置において、制御装置が周波数スペクトルを出力するスペクトルアナライザは、リアルタイムスペクトルアナライザであることを特徴とする。
【0011】
他の観点から捉えると、本発明が適用される到来波測定システムは、上記の到来波測定装置と、到来波測定装置から取得した指向性アンテナが受信した電波の周波数スペクトルを解析してスペクトルデータとするスペクトルアナライザと、スペクトルアナライザから取得したスペクトルデータから、到来波測定装置が設置された測定地点における電波の到来方向を特定するデータ処理装置とを備える。
【0012】
さらに、他の観点から捉えると、本発明が適用される到来波測定方法は、測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、受信した電波の周波数スペクトルを測定するスペクトル測定ステップと、周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップとを含む。
【0013】
また、本発明が適用される到来波測定方法は、測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、第1の周波数スペクトルを第1の分解能で測定する第1のスペクトル測定ステップと、第1の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから受信電力が予め定められた閾値より大きい到来波がある場合に、指向性アンテナの指向する方向を変える範囲を到来波の到来方向が含まれる範囲に限定して、第1の分解能より分解能が高い第2の分解能で第2の周波数スペクトルを測定する第2のスペクトル測定ステップと、第2の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、到来波の到来方向と受信電力とが測定できる到来波測定装置などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態が適用される到来波測定システムの構成の一例を説明するブロック図である。
図2】到来波測定装置おける制御装置の構成とデータ処理装置の構成を説明する図である。(a)は、制御装置、(b)は、データ処理装置である。
図3】到来波測定システムの一例を示す斜視図である。
図4】平面アンテナの指向性の一例を示す図である。(a)は、水平面内指向性、(b)は、垂直面内指向性である。
図5】到来波測定システムにより到来方向を測定した部屋のレイアウト図である。
図6】一つの測定地点におけるリアルタイムアナライザの出力の時間変動(スペクトログラム)例である。
図7】データ処理装置がデータ処理した結果を示す図である。
図8】部屋内の複数の測定地点において特定された到来波の到来方向を示す図である。(a)は、最も受信電力が大きいピーク1に対する到来方向、(b)は、次に受信電力が大きいピーク2に対する到来方向である。
図9】到来波測定方法のフローチャートである。
図10】異なる分解能を用いた到来波測定方法の他のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態では、無線通信を用いて構築されたローカルネットワーク(LAN)において、電波の到来方向を測定するとする。このようなローカルネットワークを無線LANと表記し、無線LANが構成された環境を無線LAN環境と表記する。また、到来する電波を到来波と表記することがある。なお、本実施の形態で説明する技術は、無線LAN環境以外の無線通信によりネットワークを構成する環境に適用できる。
【0017】
以下では、無線LAN環境として、サブ6GHz帯を用いたWi-Fi(登録商標)環境を例に説明する。なお、他の周波数帯であってもよい。このような無線LAN環境においては、電波の送信源(以下では、電波源と表記する。)となるアクセスポイント(以下では、APと表記する。)と、APからの電波を受信又は/及びAPに電波を送信する装置(以下では、端末装置と表記する。)とが存在する。端末装置は、無線LAN環境において、移動可能であるとする。このような無線LAN環境は、屋外又は建物内に構築される。建物内の部屋に無線LAN環境が構築される場合、無線LAN環境は、壁、天井、床、窓など電波を遮蔽したり、反射したりする部材の影響を受ける。
【0018】
APと端末装置との間で送受信される電波が、端末装置が送受信対象の電波、つまり希望波である。希望波であっても、壁、天井、床、窓などで反射した電波が存在する。さらに、APと端末間との間で希望波の送受信が望まれる無線LAN環境内であっても壁などの電波の通過を妨げる障害物により、電波が遮断される領域(以下では、不感地帯と表記する。)が存在する。
【0019】
さらに、無線LAN環境には、電波源となる他のAPが存在したり、無線LAN環境以外の電波源から無線LAN環境に到来する電波が存在したりする。他のAPからの電波や無線LAN環境以外の電波源からの電波は、端末装置が受信対象とする電波でなく、いわゆる不要波である。不要波が存在すると、端末装置が希望波を受信しづらくなったり、希望波と不要波とが干渉して希望波の受信品質を劣化させたりするおそれがある。
【0020】
このような無線LAN環境において、電波が到達しない不感地帯に対する対策と干渉の抑圧とを両立させるには、電波伝搬路を制御することが必要となる。つまり、無線LAN環境において、希望波の電波源の位置と不要波の電波源の位置とを特定し、端末装置が希望波を受信しやすくしたり、不要波を避けて端末装置に希望波を送信したりすることが不可欠である。これには、電波の到来方向と受信電力とを測定し、電波源の位置を推定することが必要となる。
以下において、電波の到来方向を測定する到来波測定システムと、到来波測定システムを用いて到来方向を特定する方法(以下では、到来波測定方法と表記する。)とについて説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態が適用される到来波測定システム1の構成の一例を説明するブロック図である。到来波測定システム1は、到来波測定装置10と、スペクトルアナライザ20と、データ処理装置30とを備える。到来波測定装置10は、測定地点(後述する図5参照)に設置される。なお、スペクトルアナライザ20、及び/又はデータ処理装置30は、測定地点に設置してもよく、測定地点以外の場所に設置されていてもよい。
【0022】
到来波測定装置10は、指向性アンテナ11と、架台12と、制御装置13とを備える。指向性アンテナ11は、予め定められた方向において、特定の周波数帯域の電波の受信が可能な指向性を有するアンテナである。予め定められた方向を指向方向と表記する。指向性アンテナ11は、例えば、複数のアンテナ素子が平面上に配列されたアレイアンテナである。アンテナ素子は、パッチアンテナである。なお、指向性アンテナ11は、指向性を有すればよく、アレイアンテナでなくてもよい。架台12は、指向性アンテナ11の指向性を可変に支える。制御装置13は、架台12を制御して、架台12に支えられた指向性アンテナ11の指向方向を制御する。なお、本実施の形態では、特定の周波数帯域は、サブ6GHz帯である。
【0023】
スペクトルアナライザ20は、到来波測定装置10の制御装置13を介して指向性アンテナ11に接続され、指向性アンテナ11の受信した電波の周波数スペクトルを取得する。スペクトルアナライザには、周波数を掃引しながら信号の大きさを観測する掃引式と、短い時間窓で切り取った時系列信号をFFT(高速フーリェ変換)することで時系列信号から直接的に周波数スペクトルを得るリアルタイム式とがある。後述するように、ここでのスペクトルアナライザ20は、リアルタイムスペクトルアナライザである。リアルタイムスペクトルアナライザであるスペクトルアナライザ20は、電波の周波数と受信電力との関係(以下では、受信電力の周波数特性スペクトルデータと表記する。)を連続的に解析する。スペクトルデータの測定時間を到来角に読み換えたグラフは、いわゆるスペクトログラムである。つまり、周波数と到来角の2軸で受信電力強度を表示したものがスペクトログラムである。なお、スペクトルアナライザは、スペクトラムアナライザと呼ばれることがある。
【0024】
データ処理装置30は、指向性アンテナ11の指向方向に関する情報と、スペクトルアナライザ20が得たスペクトルデータとを取得する。そして、データ処理装置30は、指向性アンテナ11の指向方向とスペクトルデータとから、到来波測定装置10が設置された測定地点における電波の到来方向を特定する。なお、到来方向を、方位角(ここでは、到来角と表記する。)で表してもよい。
【0025】
図2は、到来波測定装置10における制御装置13の構成とデータ処理装置30の構成を説明する図である。図2(a)は、制御装置13、図2(b)は、データ処理装置30である。制御装置13及びデータ処理装置30は、共にコンピュータとして構成されている。
【0026】
到来波測定装置10における制御装置13は、CPU131と、記憶部132と、入力部133と、出力部134と、インターフェース135(図2及び以下では、I/F135と表記する。)とを備える。CPU131、記憶部132、入力部133、出力部134、及びI/F135は、例えばバス136で接続されている。そして、架台12は、I/F135に接続されている。指向性アンテナ11は、架台12を介して、I/F135に接続されている。また、スペクトルアナライザ20も、I/F135に接続されている。
【0027】
入力部133は、キーボードやマウスなどの入力デバイスであって、CPU131に指向性アンテナ11の指向方向を設定する指示が入力される。出力部134は、ディスプレイなどの表示デバイスであって、CPU131が設定する指向性アンテナ11の指向方向が表示される。記憶部132は、HDDやフラッシュメモリなどの記憶媒体であって、指向性アンテナ11の指向方向を制御するプログラム、又は/及び指向性アンテナ11の指向方向のデータを記憶する。CPU131は、記憶部132に記憶されたプログラムを実行し、I/F135を介して入力部133により指示された指向方向に指向性アンテナ11の指向方向を設定する信号を架台12に出力する。
【0028】
データ処理装置30は、CPU31と、記憶部32と、入力部33と、出力部34と、インターフェース35(図2及び以下では、I/F35と表記する。)とを備える。CPU31、記憶部32、入力部33、出力部34、I/F35は、バス36で接続されている。スペクトルアナライザ20は、I/F35に接続されている。
【0029】
入力部33は、入力部133と同様に、キーボードやマウスなどの入力デバイスであって、CPU31に対して実行する処理に関する指示が入力される。出力部34は、ディスプレイやプリンタなどであって、CPU31が実行したデータ処理の結果が出力される。記憶部32は、記憶部132と同様に、HDDやフラッシュメモリなどの記憶媒体であって、CPU31が実行するプログラムとともに、スペクトルアナライザ20が得たスペクトルデータを記憶する。なお、プログラムとスペクトルデータとは、互いに異なる記憶媒体に記憶されてもよい。CPU31は、記憶部32に記憶されたプログラムを実行し、記憶部32に記憶されたスペクトルデータを処理する。つまり、CPU31は、指向性アンテナ11の指向方向に関する情報と記憶部32に記憶されたスペクトルデータとから到来波測定装置10が設置された測定地点における電波の到来方向を特定する。
【0030】
到来波測定装置10の制御装置13とデータ処理装置30とは共にコンピュータとして構成されているので、一つのコンピュータで兼ねてもよい。
【0031】
図3は、到来波測定システム1の一例を示す斜視図である。
到来波測定システム1は、図1で示した到来波測定装置10、スペクトルアナライザ20、データ処理装置30に加え、台車40を備える。なお、制御装置13とデータ処理装置30とは、一つのコンピュータで構成されている。よって、制御装置13の出力部134と、データ処理装置30の出力部34とは、同じディスプレイである。図3では、30(13)、34(134)と表記する。
【0032】
台車40は、水平な床面に置かれている。台車40は、平面形状が長方形である二段の搭載板41、42と、4本の支柱43と、4個の車輪44とを備える。なお、紙面の後ろ側に位置する車輪44の記載を省略している。4本の支柱43の各々は、搭載板41、42の四隅に設けられ、搭載板41、42を支える。4個の車輪44の各々は、下段の搭載板42の四隅に設けられ、台車40を床面において移動を可能にする。車輪44により、測定地点が容易に変えられる。なお、台車40は、制御装置13、データ処理装置30などにより移動が制御されるように構成されてもよく、人力で移動させてもよい。
【0033】
台車40の上段の搭載板41上に到来波測定装置10が搭載されている。下段の搭載板42上には、スペクトルアナライザ20、及び電源装置50が搭載されている。電源装置50については、後述する。
【0034】
到来波測定装置10は、前述したように、指向性アンテナ11、架台12、及び制御装置13を備えている。指向性アンテナ11は、一例としてサブ6GHz帯である2.4GHz帯と5GHz帯の右旋円偏波を受信する平面マイクロストリップ形式のアンテナである。以下に示す測定例では、5GHz帯を用いた。
【0035】
架台12は、支持部121と、駆動部122とを備える。支持部121には、指向性アンテナ11が固定されて、指向性アンテナ11を支持する。測定地点において、電波がどの方向から到来するかが不明なため、測定地点の周囲に指向性アンテナ11の指向方向を向けて到来波を測定することが求められる。よって、支持部121は、指向性アンテナ11の指向方向が変えられるよう構成されている。例えば、支持部121は軸121Aを有し、軸121Aを中心として支持部121が回ることで指向性アンテナ11の向きが変えられる。なお、指向性アンテナ11の向きとは、軸121Aに垂直な面に投影した指向方向である。指向方向が軸121Aに垂直な面内にあれば、指向性アンテナ11の指向方向と指向性アンテナ11の向きとが一致する。なお、垂直な面は、水平面でなく、水平面にから傾いた面であってもよい。
【0036】
ここでは、軸121Aは鉛直に設けられていて、支持部121を回すことで、指向性アンテナ11は水平面内で、向きが変えられる。さらに、支持部121は、軸121Aを中心として水平面内で回転するように構成されている(図3では、水平面内回転と表記する。)。このようにすることで、指向性アンテナ11の指向方向が容易に変えられる。電波がどの方向から到来するか不明である場合、指向性アンテナ11を水平面内で回転させて軸121Aを中心とする全周(360度方向)に対して到来波を測定することで、到来方向が容易に特定される。
【0037】
また、支持部121は、指向性アンテナ11を軸121Aに沿った方向に移動可能に構成されている。例えば、軸が鉛直であれば、指向性アンテナ11は、床面などからの高さが変えられる(図3では、上下と表記する。)。電波源からの電波の受信対象である端末装置などの高さに指向性アンテナ11を設置することで、端末装置などの位置で到来波が測定される。
【0038】
さらに、支持部121の軸121Aと、指向性アンテナ11の指向方向とがなす角度が変えられるように構成されている。例えば、軸121Aが鉛直であれば、指向性アンテナ11の指向方向は、水平方向、水平方向より下方向(俯せる方向)、又は水平方向より上方向(仰ぐ方向)に設定される。ここでは、指向方向が水平方向である場合を0度とした場合に、指向方向を-30度(俯角)から90度(仰角)までの範囲で設定可能である。つまり、指向性アンテナ11の指向方向を、水平方向に垂直な方向、つまり鉛直方向において振る(スイングさせる)ことで、斜め下方向や斜め上方向、さらには真上方向に設定可能である。よって、無線LAN環境が建物の部屋内に設けられた場合に、部屋の斜め下方向、部屋の斜め上方向からの到来波に加え、上階からの到来波が測定できる。
【0039】
駆動部122は、制御装置13のI/F135(図2を参照)に接続され、制御装置13からの指示により支持部121を駆動する。例えば、駆動部122は、軸121Aを中心として支持部121を回転させる。回転速度は、例えば3rpm(20秒/周)~10rpm(6秒/周)である。駆動部122は、制御装置13からの指示により、指向性アンテナ11を支持部121の軸121Aに沿った方向に移動させるように構成されてもよい。また、駆動部122は、制御装置13からの指示により軸121Aと指向性アンテナ11の指向方向とのなす角を設定するように構成されてもよい。なお、手動により、支持部121の軸121Aに沿った方向に指向性アンテナ11を移動させてもよく、軸121Aと指向性アンテナ11の指向方向とのなす角を設定してもよい。駆動部122は、モータなどより構成され、制御装置13からの信号により、回転などが制御される。電源装置50は、駆動部122の電源である。以上説明したように、架台12は、回転台として構成されている。
【0040】
上述したように、到来波測定システム1では、到来波測定装置10における指向性アンテナ11の指向方向を変えながら、到来波を測定し、電波の到来方向を特定する。この場合、指向性アンテナ11の指向方向を連続的に変化させながら到来波を測定することがよい。スペクトルアナライザ20が周波数を掃引しながら信号の大きさを観測する掃引式であると、ある指向方向において掃引が完了するまで、指向性アンテナ11を他の指向方向に向けられない。よって、測定に時間がかかる。すなわち、スペクトルアナライザ20は、周波数帯域が広く(広帯域で)、連続的に信号を取得できるリアルタイム式のスペクトルアナライザ(リアルタイムスペクトルアナライザ)が有用である。指向性アンテナ11の指向方向を連続的に変化させながらリアルタイムスペクトルアナライザであるスペクトルアナライザ20で電波の周波数スペクトルを測定することで、簡易に短時間で到来波が測定できる。
【0041】
スペクトルアナライザ20がリアルタイムスペクトルアナライザである場合、時間窓ごとに信号が取得される。よって、架台12における支持部121の軸121Aの回転速度によって、スペクトルが得られる指向方向の間隔が変化する。なお、指向方向の間隔とは、指向性アンテナ11の指向方向を角度で表示した場合の指向角の間隔である。つまり、時間窓が一定の時間であるとした場合、支持部121の回転速度によって、得られたスペクトル間の指向角の間隔が変化する。すなわち、回転速度を大きくすると測定に要する時間が短くなるが、指向角の間隔が広くなり、特定される到来角の測定精度が低くなる。一方、回転速度を小さくすると測定に要する時間が長くなるが、指向角の間隔が狭くなり、特定される到来角の測定精度が高くなる。ここで、指向角の間隔が大きいことを低分解能、指向角の間隔が小さいことを高分解能と呼ぶ。よって、架台12の支持部121の回転速度は、到来角の測定精度によって設定することがよい。ここでは、分解能が二つの場合、低分解能側を第1の分解能、高分解能側を第2の分解能とする。そして、第1の分解能で測定された周波数スペクトルを第1の周波数スペクトル、第2の分解能で測定された周波数スペクトルを第2の周波数スペクトルと呼ぶ。
【0042】
ここでは、スペクトルアナライザ20は、周波数スペクトルなどを表示するディスプレイである出力部21を備える。
【0043】
なお、図3に示す到来波測定システム1は、到来波測定装置10とスペクトルアナライザ20とデータ処理装置30とが一体として構成されている。前述したように、スペクトルアナライザ20及びデータ処理装置30は、到来波測定装置10とは別の場所に設置され、ケーブルや無線で接続されるようになっていてもよい。よって、以下では、到来波測定装置10と到来波測定システム1とを分けて説明する。
【0044】
図4は、指向性アンテナ11の指向性の一例を示す図である。図4(a)は、水平面内指向性、図4(b)は、垂直面内指向性である。なお、垂直面とは、水平面に対して垂直な面であり、ここでは、鉛直な面である。指向性アンテナ11の水平面内指向性の半値角幅は、約15度である。水平面内の半値角幅が小さいほど、到来角の測定精度が高くなる。
【0045】
図5は、到来波測定システム1により到来方向を測定した部屋100のレイアウト図である。部屋100は、ガラス壁101(図5では、ガラス壁101A、101B)と、金属壁102(図5では、金属壁102A、102B、102C)と、石膏ボード壁103とで区切られた空間である。図5では、ガラス壁101は白抜き、金属壁102は黒塗り、及び石膏ボード壁103は、斜線付きで示している。
【0046】
電波源110は、部屋100の中央部において、床面から1mの位置に設置されている。電波は、電波源110から四方に放射されている。そして、部屋内の9カ所の測定地点(測定地点#1~#9(図5において、+で示す地点))に、到来波測定装置10を設置して、測定地点#1~#9毎に電波の到来方向を特定した。さらに、測定地点#1~#9において特定された電波の到来方向から電波源110の位置を推定した。なお、部屋100は、ガラス壁101、金属壁102、及び石膏ボード壁103で区切られているため、到来波測定装置10は、これらの壁で反射した反射波を測定することがある。なお、反射波は、1回反射波に限らず、多重反射波を含む。さらに、部屋100は電波が遮蔽されていないため、到来波測定装置10は、部屋100外の他の電波源からの電波を測定することがある。
【0047】
図6は、一つの測定地点におけるスペクトルアナライザ20(リアルタイムスぺクトルアナライザ)の出力の時間変動(スペクトログラム)例である。この出力例は、スペクトルアナライザ20の出力部21(図3参照)に表示されたスペクトルデータの時間変動を図3のデータ処理装置30の出力部34(ディスプレイ)に表示させたものである。横軸は周波数であって、5500MHz~5700MHzの周波数帯域を示している。縦軸は到来角(度)で表した指向性アンテナ11の指向方向である。到来角は、指向性アンテナ11の回転時間から換算した。ここでは、指向性アンテナ11を水平面内において3rpmで回転させて指向性アンテナ11の指向方向を変化させた。
【0048】
図6では電波の受信電力を濃淡で示しており、黒い部分ほど受信電力が強く、白い部分ほど受信電力が弱い。図6において、黒い部分に当たる周波数が到来する電波の周波数であり、黒い部分に当たる角度が、電波が到来する到来角になる。図6は、「1」から「5」として示す受信電力が大きい部分(以下では、ピークと呼ぶ。)を示している。データ処理装置30は、スペクトルアナライザ20から、角度、周波数、及び受信電力をデータとして取得し、受信電力が大きい部分が到来波に対応するとして、到来波の周波数と到来角とを算出する処理を行う。ここでは、スペクトルアナライザ20から角度、周波数、及び受信電力のデータを取得し、到来波の周波数と到来角とを算出する処理をデータ処理と表記する。
【0049】
図7は、データ処理装置30がデータ処理した結果を示す図である。図7は、図6に示したピーク1からピーク5について周波数(MHz)と到来角(度)と受信電力(dBm)とを示す。なお、受信電力は、ピーク1が最も強く、ピーク2からピーク5の順に弱くなる。つまり、受信電力が大きい順にピーク番号が割り振られる。
【0050】
受信電力が最も大きいピーク1は、電波源110からの直接に測定地点に到来する電波と推定される。一方、ピーク1とピーク3とは、同じ周波数であるが、到来角が異なっている。そして、ピーク3は、ピーク1より受信電力が小さい。つまり、同じ周波数で受信電力の異なる二つの電波が異なる方向から到来していることになる。このことから、ピーク3は、電波源110から出射した電波が壁などで反射した反射波と考えられる。一方、ピーク2、4、5は、ピーク1、3と周波数が異なるため、部屋100外にある他の電波源から部屋100内に到来した電波によると考えられる。
【0051】
図8は、部屋100内の複数の測定地点#1~#9において特定された到来波の到来方向を示す図である。図8(a)は、最も受信電力が大きいピーク1に対する到来方向、図8(b)は、次に受信電力が大きいピーク2に対する到来方向である。ここでは、測定地点#1~#9において特定された到来方向を太線で示している。
【0052】
図8(a)に示すように、ピーク1の到来方向は、測定地点#3を除く測定地点#1、#2、#4~#9において、電波源110の方向に一致する。つまり、他のピークに比べ最も受信電力が大きいピーク1は、測定地点に最も近くに存在する、部屋100内に設けられた電波源110によるものと推定される。そして、複数の測定地点におけるピーク1の到来方向が交差する位置が電波源110の位置であると推定される。
【0053】
図8(b)に示されるピーク2は、測定地点#2では、電波源110の位置と特定された到来方向とから、電波源110からの電波が金属壁102Aで1回反射された反射波であると推定される。同様に、測定地点#4では、電波源110の位置と特定された到来方向とから、電波源110からの電波がガラス壁101Aで1回反射された反射波と推定される。一方、測定地点#1では、特定された到来方向から電波源110からの反射波とは考えにくく、部屋100外の電波源からの到来波であると考えられる。このように、ピーク2などピーク1より受信電力が小さい到来波は、電波源110からの電波の反射波、又は部屋100外の電波源からの電波によると推定される。なお、図7図8(a)、(b)で説明したように、ピーク1が必ずしも電波源110からの直接波であるわけでなく、ピーク2が必ずしも電波源110からの反射波であるわけでない。
【0054】
以上説明したように、到来波測定システム1により、指向性アンテナ11の指向方向を変化させて、電波の周波数スペクトルを取得することにより、電波の到来方向が特定される。さらに、複数の測定位置において、到来波測定装置10により電波の周波数スペクトルを測定することにより、電波源110の位置が推定される。逆に、到来波測定システム1により、電波源110の位置が推定できない場合には、電波源110と到来波測定装置10が設置された測定地点との間に電波を遮蔽する障害物が存在し、測定地点が不感地帯になっていると推定できる。
【0055】
上記において説明した到来波測定方法をフローチャートで説明する。
図9は、到来波測定方法のフローチャートである。ここでは、N個(Nは2以上の整数)の測定地点#1~#Nにおいて、電波の到来方向を測定する。図8に示した例では、Nは9である。なお、指向性アンテナ11の指向方向は、水平面内にあるとする。なお、指向性アンテナ11の指向方向は水平面内になくてもよい。
【0056】
ステップ1(図9では、S1と表記する。他についても同様とする。)において、変数nに「1」をセットする(変数の初期化)。
ステップ2において、測定地点#nに到来波測定装置10を設置する。
ステップ3において、指向性アンテナ11の指向方向を変えて、スペクトルアナライザ20により電波の周波数スペクトルを測定する。なお、指向性アンテナ11の指向方向は、指向性アンテナ11を支える架台12の支持部121を水平面内で360度回転させることで行えばよい。なお、支持部121の回転速度は、いずれの測定地点でも一定とする。つまり、到来角の分解能は一つである。ステップ3は、スペクトル測定ステップの一例である。
【0057】
ステップ4において、データ処理装置30が、スペクトルアナライザ20が周波数スペクトルを解析したスペクトルデータを取得する。
ステップ5において、データ処理装置30が取得したスペクトルデータから測定地点#nにおける電波の到来方向を特定する。ここでは、図7に示したように、受信電力が大きいピークから順に到来方向を特定すればよい。ステップ5は、到来方向特定ステップの一例である。
ステップ6において、nがNであるか否かを判断する。ステップ6において、nがNでないと判断された場合(Noの場合)には、ステップ7において、nを1繰り上げる。そして、ステップ2に戻り、測定地点#(n+1)に到来波測定装置10を設置する。その後、測定地点#(n+1)における電波の到来方向を特定する。
【0058】
ステップ6において、nがNであると判断された場合(Yesの場合)に、測定を終了する。なお、この後に、電波源110の位置を推定するステップを設けてもよい。前述したように、電波源110の位置は、ピーク1の到来方向が交差する位置として推定すればよい。このようにすることで、電波源110の位置が容易に推定される。
【0059】
図9に示したフローチャートでは、指向性アンテナ11を支える架台12の支持部121を水平面内で360度回転させて、指向方向を特定した。しかし、360度を高分解能で測定すると測定に時間がかかる。よって、低分解能で測定し、受信電力pが予め定められた閾値P以上の電波が到来すると特定された場合に、特定された到来方向が含まれる範囲に指向方向を変える範囲を限定して高分解能で測定することにより、測定に要する時間を短縮するとともに、到来角の測定精度が向上させられる。
【0060】
図10は、異なる分解能を用いた到来波測定方法のフローチャートである。ここでも、N個(Nは2以上の整数)の測定地点#1~#Nにおいて、電波の到来方向を測定し、到来方向から電波源110の位置を推定するとする。なお、指向性アンテナ11の指向方向は、水平面内にあるとする。
【0061】
ステップ11において、変数nに「1」をセットする(変数の初期化)。
ステップ12において、測定地点#nに到来波測定装置10を設置する。
ステップ13において、指向性アンテナ11の指向方向を変えて、スペクトルアナライザ20により低分解能(第1の分解能の一例)で電波の周波数スペクトル(第1の周波数スペクトルの一例)を測定する。この場合の指向性アンテナ11の指向方向は、指向性アンテナ11を支える架台12の支持部121を水平面内において360度回転させることで変えればよい。ステップ13は、第1のスペクトル測定ステップの一例である。
【0062】
ステップ14において、データ処理装置30が、スペクトルアナライザ20が周波数スペクトルを解析したスペクトルデータを取得する。
ステップ15において、データ処理装置30が取得したスペクトルデータにおいて、閾値P以上の受信電力pを有するピークがあるか否かを判断する。ステップ15において、受信電力pが閾値P以上のピークがないと判断された場合(Noの場合)には、ステップ16において、nを1繰り上げる。そして、ステップ12に戻り、測定地点#(n+1)に到来波測定装置10を設置する。その後、測定地点#(n+1)における周波数スペクトルを測定する。
【0063】
ステップ15において、受信電力pが閾値P以上のピークがあると判断された場合(Yesの場合)には、ステップ17において、指向性アンテナ11を閾値P以上の受信電力pのピークを含むように指向方向を変える範囲を限定して、スペクトルアナライザ20により高分解能(第2の分解能の一例)で周波数スペクトル(第2の周波数スペクトルの一例)を測定する。なお、受信電力pが閾値P以上のピークがある場合には、複数のピークについて周波数スペクトルを測定すればよい。なお、低分解能と高分解能とは、架台12における支持部121の回転速度で設定すればよい。あるいは指向性をアダプティブに変更可能なアレイアンテナを用いることで設定できる。ステップ17は、第2のスペクトル測定ステップの一例である。
【0064】
ステップ18において、データ処理装置30が、スペクトルアナライザ20が周波数スペクトルを解析したスペクトルデータを取得する。
ステップ19において、データ処理装置30が取得したスペクトルデータから測定地点#nにおける電波の到来方向を特定する。ここでは、図7に示したように、受信電力が大きいピークから順に到来方向を特定すればよい。ステップ19は、到来波測定ステップの他の一例である。
【0065】
ステップ20において、nがNであるか否かを判断する。ステップ20において、nがNでないと判断された場合(Noの場合)には、ステップ21において、nを1繰り上げる。そして、ステップ12に戻り、測定地点#(n+1)に到来波測定装置10を設置する。その後、測定地点#(n+1)において周波数スペクトルを測定する。
【0066】
ステップ20において、nがNであると判断された場合(Yesの場合)には、測定を終了する。なお、この後に、電波源110の位置を推定するステップを設けてもよい。前述したように、電波源110の位置は、ピーク1の到来方向が交差する位置として推定すればよい。このようにすることで、電波源110の位置が容易に推定される。
【0067】
このようにすることで、測定時間の短縮と、到来方向又は到来角の測定精度の向上が図れる。また、ステップ15において、受信電力pが閾値P未満であると判断された場合(Noの場合)とは、すべての指向方向(指向角)及び周波数において、受信電力pが閾値P未満である場合である。この場合、測定地点#nにおける高分解能での測定がスキップされる。よって、測定に要する時間が短縮される。このような場合とは、例えば、不感地帯である。
なお、ステップ15において、受信電力pが閾値Pを超える(p>P)としてもよい。
【0068】
ここでは、半値角幅が約15度である指向性アンテナ11を用いたが、半値角幅が小さいほど、到来方向を推定する測定精度が向上する。指向性アンテナ11では、波長が短いほど、つまり高周波数であるほどビームが狭くなり、半値角幅が小さくなる。よって、無線LAN環境などにおいて、高周波数化が進むほど、到来波測定システム1による到来方向の測定精度が向上する。
【0069】
さらに、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形を行っても構わない。
【符号の説明】
【0070】
1…到来波測定システム、10…到来波測定装置、11…指向性アンテナ、12…架台、13…制御装置、20…スペクトルアナライザ、30…データ処理装置、40…台車、50…電源装置、100…部屋、110…電波源、121…支持部、121A…軸、#1~#9…測定地点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向する方向から特定の周波数帯域において到来する電波である到来波を受信する指向性アンテナと、
指向する方向を可変に前記指向性アンテナを支える架台と、
前記指向性アンテナの指向する方向を設定し、当該指向性アンテナで受信した電波の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザに出力する制御装置と
を備える到来波測定装置。
【請求項2】
前記架台は、軸を有し、前記指向性アンテナが当該軸を中心として向きを変えて指向方向を可変することを特徴とする請求項1に記載の到来波測定装置。
【請求項3】
前記架台は、前記指向性アンテナを前記軸の周りに回転させることを特徴とする請求項2に記載の到来波測定装置。
【請求項4】
前記架台は、前記指向性アンテナの指向する方向を前記軸に垂直な面に対して仰ぐ方向又は俯せる方向に設定可能であることを特徴とする請求項2に記載の到来波測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の到来波測定装置と、
前記到来波測定装置から取得した前記指向性アンテナが受信した電波の周波数スペクトルを解析してスペクトルデータとするリアルタイムスペクトルアナライザと、
前記リアルタイムスペクトルアナライザから取得した前記スペクトルデータから、前記到来波測定装置が設置された測定地点における電波の到来方向を特定するデータ処理装置と
を備える到来波測定システム。
【請求項6】
測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、受信した電波の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザにより測定するスペクトル測定ステップと、
前記周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから前記測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップと
を含む到来波測定方法。
【請求項7】
測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、第1の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザにより第1の分解能となる指向角の間隔で測定する第1のスペクトル測定ステップと、
前記第1の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから受信電力が予め定められた閾値より大きい到来波がある場合に、前記指向性アンテナの指向する方向を変える範囲を当該到来波の到来方向が含まれる範囲に限定して、指向角の間隔が前記第1の分解能の指向角の間隔より小さく、当該第1の分解能より分解能が高い第2の分解能となる指向角の間隔、前記リアルタイムスペクトルアナライザにより、第2の周波数スペクトルを測定する第2のスペクトル測定ステップと、
前記第2の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから前記測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップと
を含む到来波測定方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明が適用される到来波測定装置は、指向する方向から特定の周波数帯域において到来する電波である到来波を受信する指向性アンテナと、指向する方向を可変に指向性アンテナを支える架台と、指向性アンテナの指向する方向を設定し、指向性アンテナで受信した電波の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザに出力する制御装置とを備える。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
他の観点から捉えると、本発明が適用される到来波測定システムは、上記の到来波測定装置と、到来波測定装置から取得した指向性アンテナが受信した電波の周波数スペクトルを解析してスペクトルデータとするリアルタイムスペクトルアナライザと、リアルタイムスペクトルアナライザから取得したスペクトルデータから、到来波測定装置が設置された測定地点における電波の到来方向を特定するデータ処理装置とを備える。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
さらに、他の観点から捉えると、本発明が適用される到来波測定方法は、測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、受信した電波の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザにより測定するスペクトル測定ステップと、周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップとを含む。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また、本発明が適用される到来波測定方法は、測定地点において、指向性アンテナの指向する方向を変えて、第1の周波数スペクトルをリアルタイムスペクトルアナライザにより第1の分解能となる指向角の間隔で測定する第1のスペクトル測定ステップと、第1の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから受信電力が予め定められた閾値より大きい到来波がある場合に、指向性アンテナの指向する方向を変える範囲を到来波の到来方向が含まれる範囲に限定して、指向角の間隔が第1の分解能の指向角の間隔より小さく、第1の分解能より分解能が高い第2の分解能となる指向角の間隔、リアルタイムスペクトルアナライザにより、第2の周波数スペクトルを測定する第2のスペクトル測定ステップと、第2の周波数スペクトルを解析したスペクトルデータから測定地点における電波の到来方向を特定する到来方向特定ステップとを含む。