(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119237
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】シェル形針状ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240827BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20240827BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240827BHJP
【FI】
F16C33/78 A
F16C19/46
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025999
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】寺田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大旺
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE15
3J006AE38
3J006AE41
3J006CA01
3J216AA03
3J216AA12
3J216AB02
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB19
3J216CC01
3J216CC14
3J216CC33
3J216DA01
3J216DA03
3J216FA09
3J216GA03
3J701AA14
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701GA01
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】シール部材の緊迫力を確保することで、密封性の低下を防止するとともに圧入時におけるシール部材のずれを抑制することができるシェル形針状ころ軸受を提供する。
【解決手段】軸方向の両端を径方向内向きに縁曲げ加工されたシェル形外輪2と、シェル形外輪2の内径面に沿うように配置される複数のころ3と、複数のころ3を保持する保持器4と、シェル形外輪2の内径面の軸方向両端に設けられる心金のないシール部材5と、を有し、シェル形外輪2の軸方向一端側の端部の縁曲げ加工された部分の肉厚t1がシェル形外輪2の転走面7の肉厚t2よりも薄肉化されており、シール部材5と径方向に対向するシェル形外輪2の内径面に、径方向内向きに突出した突出部8が形成されている構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の両端を径方向内向きに縁曲げ加工されたシェル形外輪(2)と、
前記シェル形外輪(2)の内径面に沿うように配置される複数のころ(3)と、
前記複数のころ(3)を保持する保持器(4)と、
前記シェル形外輪(2)の内径面の軸方向両端に設けられる心金のないシール部材(5)と、
を有し、前記シェル形外輪(2)の軸方向一端側の端部の縁曲げ加工された部分の肉厚(t1)が前記シェル形外輪(2)の転走面(7)の肉厚(t2)よりも薄肉化されており、前記シール部材(5)と径方向に対向する前記シェル形外輪(2)の内径面に、径方向内向きに突出した突出部(8)が形成されているシェル形針状ころ軸受。
【請求項2】
前記突出部(8)が、前記シェル形外輪(2)の内径面の全周に亘って形成されている請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項3】
前記突出部(8)の前記転走面(7)からの径方向内向きの突出量(h)が、0.002mm以上0.010mm以下の範囲内である請求項1または2に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項4】
前記シール部材(5)の材質が、フッ素系ゴムである請求項1または2に記載のシェル形針状ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シェル形針状ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンのスロットルバルブなどに使用されるシェル形針状ころ軸受として、例えば下記特許文献1に示すように、シェル形外輪の内径面の軸方向両端にシール部材を組み込むことで軸受内部の密封性を高めて、空気漏れを防止する構成が提案されている。
【0003】
このシェル形針状ころ軸受の製造においては、まず、
図8に示すように、シェル形外輪100の素材である平板状の帯鋼を深絞り加工によってカップ状に成型した後に、カップの底部分を打ち抜いて鍔部(先曲げ鍔部101a)を形成する。このとき、カップの開口側に、後に形成する鍔部(後曲げ鍔部101b)の加工を容易とするための薄肉部102が形成される。次に、カップの開口側から軸受の構成部品であるころと保持器(いずれも図示せず)を組み込み、その開口部を径方向内向きに曲げて後曲げ鍔部101bを形成する。さらに、その全体を浸炭焼入れによる熱処理を行い、その熱処理後に、軸方向の両端から心金のないシール部材103をそれぞれ組み込んでシェル形針状ころ軸受を完成させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係るシェル形針状ころ軸受は、シェル形外輪100の後曲げ鍔部101b側の端部に薄肉部102を形成しているため、
図9に示すように、薄肉部102の内径面と転走面104との間の段差によってシール部材103の締め代が減少してその緊迫力が低下し、密封性が低下するおそれがある。また、このシェル形針状ころ軸受は、軸方向両端の鍔部101a、101bが高硬度であるため、相手方の軸箱(ハウジング)にいずれの軸方向からも圧入することができるが、後曲げ鍔部101bは先曲げ鍔部101aよりも薄肉であることから圧入時に後曲げ鍔部101bの弾性変形量が大きくなりやすく、この圧入時にシール部材103のずれが生じるおそれがある。このため、シール部材103による高い密封性が要求されるスロットルバルブ用の軸受として改善の余地が残されている。
【0006】
そこで、この発明は、シール部材の緊迫力を確保することで、密封性の低下を防止するとともに圧入時におけるシール部材のずれを抑制することができるシェル形針状ころ軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
軸方向の両端を径方向内向きに縁曲げ加工されたシェル形外輪と、
前記シェル形外輪の内径面に沿うように配置される複数のころと、
前記複数のころを保持する保持器と、
前記シェル形外輪の内径面の軸方向両端に設けられる心金のないシール部材と、
を有し、前記シェル形外輪の軸方向一端側の端部の縁曲げ加工された部分の肉厚が前記シェル形外輪の転走面の肉厚よりも薄肉化されており、前記シール部材と径方向に対向する前記シェル形外輪の内径面に、径方向内向きに突出した突出部が形成されているシェル形針状ころ軸受を構成した。
【0008】
このようにすると、径方向内向きに突出した突出部によってシール部材の締め代が大きくなるため、所定の緊迫力が確保され、密封性の低下を防止することができる。また、軸方向一端側の肉厚が薄肉化されたシェル形針状ころ軸受をその一端側から相手方の軸箱(ハウジング)に圧入したときに鍔部が弾性変形しても、突出部がシール部材の外周に押し付けられることによってストッパとしての役割を果たすため、この圧入時におけるシール部材のずれを抑制することができる。
【0009】
前記の構成においては、前記突出部が、前記シェル形外輪の内径面の全周に亘って形成されているのが好ましい。このようにすると、突出部がシール部材をその全周に亘って均等に押圧するため、シール部材による密封性が向上するとともに、突出部からの均等な押圧力によって、圧入時におけるシール部材のずれをより確実に抑制することができる。
【0010】
前記のすべての構成においては、前記突出部の前記転走面からの径方向内向きの突出量が、0.002mm以上0.010mm以下の範囲内であるのが好ましい。このようにすると、シール部材による高い緊迫性が得られ、十分な密封性とずれ防止性を確保することができる。
【0011】
前記のすべての構成においては、前記シール部材の材質が、フッ素系ゴムである構成とするのが好ましい。このようにすると、ゴム弾性による十分な締め代が得られるとともに耐熱性や耐油性などに優れたシェル形針状ころ軸受を構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、シェル形針状ころ軸受において、シェル形外輪の軸方向一端側の端部の縁曲げ加工された部分の肉厚をこのシェル形外輪の転走面の肉厚よりも薄肉化しつつ、シール部材と径方向に対向するシェル形外輪の内径面に、径方向内向きに突出した突出部を形成したので、この突出部によってシール部材の締め代が大きくなる。このため、所定の緊迫力を確保して密封性の低下を防止することができるとともに、相手方の軸箱(ハウジング)への圧入時におけるシール部材のずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明に係るシェル形針状ころ軸受の一実施形態を示す断面図
【
図2】
図1に示すシェル形針状ころ軸受の要部の断面図
【
図3】
図1に示すシェル形針状ころ軸受のシェル形外輪の要部の断面図
【
図4】
図2に示すシェル形針状ころ軸受の要部の変形例を示す断面図
【
図5】
図1に示すシェル形針状ころ軸受のシェル形外輪の加工途中段階を示す断面図
【
図8】従来技術に係るシェル形針状ころ軸受のシェル形外輪の加工途中段階を示す断面図
【
図9】従来技術に係るシェル形針状ころ軸受の要部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係るシェル形針状ころ軸受1の一実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明においては、シェル形針状ころ軸受1の回転軸に沿う方向を軸方向、前記回転軸に対し直交する方向を径方向、前記回転軸を中心とする円弧に沿う方向を周方向という。
【0015】
このシェル形針状ころ軸受1は、主に自動車用エンジンのスロットルバルブに使用される。スロットルバルブは、エンジンの吸気系に設けられ空気の吸入量を調節するための装置であって、シェル形針状ころ軸受1によって、スロットルバルブを構成するスロットルブレードを回動させるためのスロットルシャフトが支持される。
【0016】
このシェル形針状ころ軸受1は、
図1に示すように、軸方向の両端を径方向内向きに縁曲げ加工されたシェル形外輪2と、シェル形外輪2の内径面に沿うように配置される複数のころ3と、複数のころ3を保持する保持器4と、シェル形外輪2の内径面の軸方向両端に設けられる心金のないシール部材5と、を主要な構成要素としている。
【0017】
シェル形外輪2は、
図1から
図3に示すように、シェル形外輪2の軸方向一端側(前記各図において右側)の縁曲げ加工された鍔部(以下、後曲げ鍔部6aと称する。)の肉厚t1が、シェル形外輪2の転走面7の肉厚t2よりも薄肉化されている。シェル形外輪2の軸方向他端側(前記各図において左側)の縁曲げ加工された鍔部(以下、先曲げ鍔部6bと称する。)は、転走面7の肉厚t2と同じである。なお、肉厚t1は0.3mm以上0.75mm以下、肉厚t2は0.45mm以上1.0mm以下の範囲内とされる。
【0018】
後曲げ鍔部6a側においてシール部材5と径方向に対向するシェル形外輪2の内径面(
図3中に矢印Bで示した範囲内。以下、シール領域Bと称する。)には、径方向内向きに突出した突出部8が、内径面の周方向の全周に亘って形成されている。
【0019】
突出部8の転走面7からの径方向内向きの突出量h(ピーク位置の突出高さ)は、0.002mm以上0.010mm以下の範囲内とされる。突出量hが0.002mmよりも小さいときは、シール部材5による十分な緊迫力が得られないため、突出量hが0.010mmよりも大きいときは、シェル形外輪2の深絞り加工の際の離型性に影響を与える可能性があるため、上記の範囲内とするのが好ましい。なお、本願の各図においては、突出部8を見やすくするために、その突出を誇張して描いている。
【0020】
この実施形態においては、突出部8のピークの位置をシール領域B内としたが、
図4に示すように、そのピークの位置がシール領域B内から外れていたとしても、突出部8によってシール部材5に対し十分な緊迫力を与えることができるのであれば、そのような構成を採用できる可能性がある。
図4に係る構成においても、シール領域Bの少なくとも一部において、突出部8の転走面7からの径方向内向きの突出量hを0.002mm以上0.010mm以下の範囲内とするのが好ましい。
【0021】
ころ3は、保持器4によって内径側に脱落しないように保持された状態で、シェル形外輪2の内面の転走面7を転走する。突出部8は、その裾野の部分を含め、ころ3の軸方向端部(転走面7)から軸方向に離れた位置に形成されており、突出部8がころ3の転走に影響しないように構成されている。
【0022】
保持器4は、冷間圧延鋼板に、ころ3を収容するポケットを打ち抜き加工した後に所定の長さに切断し、円環状に曲げた状態で端部を溶接することで形成されている。保持器4は、冷間圧延鋼板をプレス絞り加工することで円環を成形し、ポケットを打ち抜き加工することで形成することもできる。また、旋削加工によって円環を形成してポケットを打ち抜き加工することで形成することもできる。
【0023】
シール部材5は、その素材がフッ素系ゴムからなり、環状部9と、環状部9から内径側に向かって延びるリップ部10を有している。環状部9の外径面がシェル形外輪2の内径面と密接するとともに、リップ部10がシェル形針状ころ軸受1の軸心に挿入されたスロットルシャフトなどの軸体(図示せず)の外周面に接触することで、軸受内外の密封性が確保される。このシール部材5は心金がないため、心金入りのシール部材と異なり、自由に変形させることができる。
【0024】
図1に示すシェル形針状ころ軸受1の製造について説明する。まず、
図5に示すように、シェル形外輪2の素材である平板状の帯鋼を深絞り加工によってカップ状に成型した後に、カップの底部分を打ち抜いて鍔部(先曲げ鍔部6b)を形成する。このとき、カップの開口側に、後に形成する鍔部(後曲げ鍔部6a)の加工を容易とするための薄肉部11が形成される。
【0025】
金型を深絞りに伴うこの金型内での素材の変形を考慮した形状とすることにより、この深絞り加工に伴って突出部8が形成される。この突出部8は、従来技術において後曲げ鍔部101bを形成する際の曲げ加工(
図9を参照)における曲げ量よりも大きく曲げ加工を行うことによりスムーズに形成することができる。
【0026】
次に、カップの開口側から軸受の構成部品であるころ3と保持器4を組み込み、その開口部を径方向内向きに曲げて後曲げ鍔部6aを形成する。さらに、その状態で浸炭焼入れによる熱処理を行い、その熱処理後に、軸方向の両端からシール部材5をそれぞれ組み込んでシェル形針状ころ軸受1を完成させる。
【0027】
このシェル形針状ころ軸受1のサイズは、用途に合わせて適宜決定されるが、例えば、内接円径をΦ5mm~Φ12mm、外径をΦ9mm~Φ16mm、幅を8mm~14mmの範囲内とすることができる。
【0028】
この実施形態においては、
図5および
図6に示すように、シェル形外輪2の内径面の全周に亘って突出部8を形成したが、
図7に示すように、周方向において部分的(
図7では周方向に120度ピッチで3か所)に突出部8を形成する構成とすることができる可能性もある。
【0029】
上記のシェル形針状ころ軸受1は、シール部材5と径方向に対向するシェル形外輪2の内径面に、径方向内向きに突出した突出部8を形成したので、突出部8によってシール部材5の締め代が大きくなる。このため、所定の緊迫力が確保され、シェル形外輪2の軸方向一端側に薄肉部11を形成したことに起因する密封性の低下を防止することができる。また、軸方向一端側の肉厚が薄肉化されたシェル形針状ころ軸受1の一端側から相手方の軸箱(ハウジング)に圧入したときに後曲げ鍔部6aが弾性変形しても、突出部8がシール部材5の外周に押し付けられることによってストッパとしての役割を果たすため、この圧入時におけるシール部材5のずれを抑制することができる。これにより、密封性の高いシェル形針状ころ軸受1を提供することができる。
【0030】
特に、突出部8の突出ピークの軸方向位置をシール領域Bの範囲内としたので、突出部8からシール部材5への押圧力が効果的に作用し、十分な緊迫力を確保することができる。
【0031】
また、上記のシェル形針状ころ軸受1は、突出部8をシェル形外輪2の内径面の全周に亘って形成したので、突出部8がシール部材5をその全周に亘って均等に押圧し、シール部材5による密封性が向上するとともに、圧入時におけるシール部材5のずれをより確実に抑制することができる。
【0032】
また、上記のシェル形針状ころ軸受1は、突出部8の転走面7からの径方向内向きの突出量hを0.002mm以上0.010mm以下の範囲内としたので、シール部材5による高い緊迫性が得られ、十分な密封性とずれ防止性を確保することができる。
【0033】
また、上記のシェル形針状ころ軸受1は、心金のないシール部材5を採用することで、このシール部材5を後から軸受内に組み込むことを可能としたので、シェル形外輪2にころ3と保持器4を組み込んだ状態(シール部材5を組み込んでいない状態)で浸炭焼入れなどの熱処理によって素材の改質を行うことができる。
【0034】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0035】
2 シェル形外輪
3 ころ
4 保持器
5 シール部材
7 転走面
8 突出部
t1 (後曲げ鍔部の)肉厚
t2 (転走面の)肉厚
h 突出量