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特開2024-119238炭素鋼鋳片、および炭素鋼鋳片の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119238
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】炭素鋼鋳片、および炭素鋼鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240827BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240827BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240827BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20240827BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20240827BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/14
C22C38/58
C21C7/06
C21C7/04 E
C21C7/04 D
C22C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026000
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】藤城 泰志
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA14
4K013EA18
4K013EA19
4K013EA26
(57)【要約】
【課題】NbとTiのうち少なくとも1種を含有し、粗大炭窒化物の生成を抑制した炭素鋼鋳片、および炭素鋼鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】Zr:0.0015%以上0.065%以下、REM:0.0005%以上0.0250%以下を含有し、
[Zr]/[Al]≧0.5 ・・・(1)
であり、Ti:0.001%以上0.050%以下、Nb:0.001%以上0.070%以下、の一方又は両方を含有し、
REM含有介在物の酸化物、酸硫化物部分について、平均組成が下記式(2)(3)を満たし、円相当径が1μm以上10μm以下のものが、鋳片の1/2厚に10個/mm以上分布していることを特徴とする炭素鋼鋳片。
-25≦((REM)+(REMS))-328{(ZrO)/246+(Al)/102}≦100 ・・・(2)
(CaO)≦25 ・・・(3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼成分が、質量%で、
C:0.02%以上0.20%以下、
Si:0.02%以上0.50%以下、
Mn:0.50%以上2.0%以下、
Al:0.003%以上0.080%以下、
Zr:0.0015%以上0.065%以下、
REM:0.0005%以上0.0250%以下
を含有し、
[Zr]/[Al]≧0.5 ・・・(1)
であり、
Ti:0.001%以上0.050%以下、Nb:0.001%以上0.070%以下、の一方又は両方を含有し、
Ca:0%以上(0%を含む)0.0050%以下であり、
残部がFe及び不純物からなり、前記不純物のうちP,S,O,Nを、
P:0.020%以下、
S:0.0034%以下、
O:0.0040%以下、
N:0.0075%以下、
に制限し、
鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とし、観察される前記REM含有介在物の断面において、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を評価対象部分とし、
(a)前記評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下である前記REM含有介在物が、鋳片の1/2厚において、10個/mm以上分布していること、かつ、
(b)(a)において抽出された内の任意の10個の前記REM含有介在物断面の前記評価対象部分に対して、REM、Al、Zr、Ca、Sの含有量を分析し、前記REM含有介在物各々の元素含有量平均値に基づいて、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの換算含有量を算出し、前記REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有量の合計を100質量%として算出する、前記10個のREM含有介在物の平均組成が、以下の式(2)、式(3)を満足すること、
を特徴とする炭素鋼鋳片。
-25≦((REM)+(REMS))-328{(ZrO)/246+(Al)/102}≦100 ・・・(2)
(CaO)≦25 ・・・(3)
ここで、化学式を( )で囲んだ項は、介在物中の各組成の含有率を質量%で表示した値である。また、[Zr]、[Al]はそれぞれ鋼中Zr、Al含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
さらに、前記Feの一部に代えて質量%で、
Cr:0.070%以下、
Ni:0.20%以下、
Mo:0.15%以下、
V:0.05%以下、
Cu:0.05%以下、
B:0.0050%以下
からなる群から選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素鋼鋳片。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の炭素鋼鋳片を製造する炭素鋼鋳片の製造方法であって、
溶鋼にAlを添加して脱酸を行うAl脱酸工程の後にZrを添加して、
下記式(4)を満たすAl-ZrO系複相介在物を生成した後に、
REMを添加することを特徴とする炭素鋼鋳片の製造方法。
1≦(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100≦99 ・・・(4)
ここで、化学式を( )で囲んだ項は、介在物中の各組成の含有率を質量%で表示した値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbとTiのうち少なくとも1種を含有する炭素鋼鋳片、および炭素鋼鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
NbやTiは鋼材の強化元素として広く使われている。連続鋳造で鋳片を鋳造し、鋳造した鋳片に熱間圧延を施して鋼板・鋼材とする。しかし、特にNbは鋳片中心部に偏析し易く、鋳片の中心偏析部に、NbやTiを含有する粗大な炭窒化物が生成することがある。炭窒化物は母材に比べて非常に硬いうえに形状が角張っているので加工・変形時に水素誘起割れ(HIC)の破壊起点になり易い。そのため、鋼板、鋼材の靭性や耐HIC特性が劣化する。対策として、NbやTiの添加上限を規制するほか、連続鋳造時に凝固末期軽圧下を行なって中心偏析を防止したり、鋳片を圧延前に均熱処理して中心偏析を拡散させたりすることが行なわれている。しかし、凝固末期軽圧下は、軽圧下設備位置が固定されているため鋳造速度など最適鋳造条件が限定されることになり、鋳造条件が変動すると最適条件から外れてしまう。均熱拡散処理は長時間、高コストである。そのため粗大炭窒化物を防止するための更なる対策が必要とされている。
【0003】
REMを含有する介在物を利用する先行技術では、まず、圧延時に容易に延伸して破壊起点となるために有害となるMnSを無害化することを目的とするものが多い。
【0004】
例えば、特許文献1では、REM酸化物やREMオキシサルファイド(酸硫化物)上に、特許文献2~4では、REM酸化物やREMオキシサルファイドを主体とする複数の介在物相が複合した複合介在物上に、それぞれMnSを含有するMnS系介在物が析出固溶することによって、MnSを無害化する技術が開示されている。REMオキシサルファイド、あるいはREMオキシサルファイドを主体とする介在物相にはSが含有されるので、MnSの生成が抑制される効果と、さらに、上記のMnS系介在物が、微細で硬質なREM酸化物やREMオキシサルファイド上、あるいは、それらを主体とする複合介在物上に析出しているので、圧延時に変形しにくくなる効果とが得られる。このMnSの生成抑制と変形抑制によって、MnSは無害化される。
【0005】
特許文献1~4では、さらにZrを添加することもできる。そのZr添加の目的も、延伸し難く圧延後も球状を保つZr硫化物を形成して鋼中Sを固定しMnS生成抑制効果を高めることである。
【0006】
REM含有介在物の利用技術例として、MnS無害化以外に、水素滞積(水素トラップ)サイト低減による耐水素誘起割れ性の向上や、粒内変態を促進する変態核として利用する例が開示されている。
【0007】
特許文献5では、介在物中のZr、REM、Al、Sの量を規定している。REM、Zr、Alは介在物の熱膨張率を小さくし、水素が滞積する鋼母相とのボイドを低減することができるので、鋼板の耐水素誘起割れ性に代表される耐サワー性を確保できるとされている。また、REM、Zr、Alは介在物の融点を低下させて粒内針状α(フェライト)生成率を高めて溶接熱影響部(HAZ)靭性を確保できるとされている。
【0008】
特許文献6では、介在物中のZr、REM、Al、Ca、Sの量を規定している。特許文献5と同様、介在物中のREM、Zr、Alは介在物の熱膨張率を小さくし、鋼板の耐水素誘起割れ性を確保する効果、そして、介在物中の適量のREM、Zr、Al、さらにCaを含有すると、粒内ベイナイトの生成を促進して、Tクロス溶接部の耐硫化物応力腐食割れ性を良好にする効果があることが開示されている。特許文献5、6では、REM含有介在物は、介在物の熱膨張率低減による水素トラップサイト低減、および粒内針状α、あるいは粒内ベイナイトの生成核として利用されている。
【0009】
特許文献7では、介在物を形態別に分類したA系、B系、C系の介在物を低減するとともに、Tiおよび選択元素のNbを含有する場合を含むTi含有炭窒化物を、REM含有介在物上に複合析出させて、単独で存在する、長辺が5μm以上のTi含有炭窒化物の個数密度を5個/mm以下に制限したことを特徴とする、加工性に優れたC:0.25%超0.50%未満の鋼板が開示されている。CaとREMの両元素を、S含有量に応じて規定した量を含有して、「Al、Ca、O、S、及びREMを含むREM含有複合介在物」(特許文献7の段落0053)を生成させており、このREM含有介在物上にTi含有炭窒化物が複合析出するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-299137号公報
【特許文献2】特開2012-188745号公報
【特許文献3】特開2012-197506号公報
【特許文献4】特開2014-109056号公報
【特許文献5】特開2014-214371号公報
【特許文献6】特開2016-216819号公報
【特許文献7】国際公開WO2014/175381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、NbやTiを含有する炭窒化物(以後、NbTi炭窒化物と記載する)の新たな粗大化防止策として、NbTi炭窒化物の個数密度を増やすことによって、個々の大きさを低減することを着想した。すなわち、個数密度増加手段として、NbTi炭窒化物が優先的に核生成する介在物を、多数、鋼中に分散させる。具体的には、NbTi炭窒化物と結晶構造の格子整合性が良好である、希土類元素(REM)酸化物:REM、あるいはREM酸硫化物:REMSを鋼中に微細分散させ、これを、NbTi炭窒化物が優先的に核生成する「接種核」として利用する。
【0012】
前述のとおり、特許文献1~6は、REM含有介在物を、NbTi炭窒化物が優先的に核生成するための「接種核」として利用する技術とは無関係であり、関連する記載もない。
【0013】
また、特許文献7の規定は、Ti含有炭窒化物の核生成促進、および個数増加によるサイズ低減に最適な条件を特定して開示したものではない。特許文献7の(式1)がMnSを形成するS含有量に応じて規定されていることから明らかなように、(式1)~(式3)は、A系、B系、C系の介在物を低減する効果を基に規定されたものである。これらの式以外の記載を見ても、Ti含有炭窒化物の低減効果に基づいて設定された条件は記載されていない。Ti含有炭窒化物の核生成促進に最適な介在物の条件に関する記載もない。
【0014】
このように、特許文献7において、Ti含有炭窒化物の低減に対して、必ずしも最適ではない条件であっても、加工性に支障がない程度にTi含有炭窒化物を低減できている理由は、特許文献7が、実施例が5mm厚の鋼板で示されているように、数mm厚の鋼板を対象としているためである。厚みが通常200mmを超える鋳片を数mmまで圧延するので、圧延率が十分に高く、鋳片の中心偏析部に粗大炭窒化物が生成した場合でも十分に破砕するので無害化できる。
【0015】
一方、本発明の対象は、船舶や海洋構造物等の構造物や、ラインパイプ等鋼管用途を想定した、厚み10mm以上の厚鋼板においても良好な品質を実現することのできる、当該厚鋼板の素材となる炭素鋼鋳片である。数mm厚の鋼板に比べて圧延率が低いうえ、低温靭性や耐HIC性が要求される用途に使用される。そのため、中心偏析部の粗大炭窒化物の有害度が大きく、中心偏析部の炭窒化物のサイズを十分に、かつ安定して低減することが重要である。さらに、本発明は対象を炭素鋼鋳片としているので、圧延による破砕を受ける前のサイズ低減を目的としている。鋳片段階でサイズを低減しているので、圧延後のサイズをさらに低減できるからである。したがって、NbTi炭窒化物の核生成促進とサイズ低減に最適な「接種核」としての条件を実現することが極めて重大な課題である。
【0016】
さらに、特許文献7を含めて、REM添加後の最終的な介在物組成を規定している一方で、目的とするREM含有介在物の個数を増やすための積極的な具体的条件や手段は記載されていない。例えば、REM添加前の介在物組成や個数が影響する可能性が考えられるが、REM添加前の好ましい介在物組成や、そのような介在物組成に制御するための鋼成分やその他条件、あるいは、REM添加前の介在物個数を増やす条件に関する記載はない。
【0017】
本発明は、個々のNbTi炭窒化物の大きさを低減する手段を提供することにより、NbとTiのうち少なくとも1種を含有しながら、粗大炭窒化物の生成を抑制した炭素鋼鋳片、および炭素鋼鋳片の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
NbTi炭窒化物が優先的に核生成する「接種核」としての介在物を鋳片内に多数分散させ、当該多数の接種核にNbTi炭窒化物を析出させることによって、NbTi炭窒化物の個数密度を増やし、その結果として個々のNbTi炭窒化物の大きさを低減する手段を提供することが可能となる。具体的には、NbTi炭窒化物と結晶構造の格子整合性が良好である、希土類元素(REM)酸化物:REM、あるいはREM酸硫化物:REMSを、NbTi炭窒化物が優先的に核生成する「接種核」として利用することができる。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
[1]鋼成分が、質量%で、C:0.02%以上0.20%以下、Si:0.02%以上0.50%以下、Mn:0.50%以上2.0%以下、Al:0.003%以上0.080%以下、Zr:0.0015%以上0.065%以下、REM:0.0005%以上0.0250%以下を含有し、
[Zr]/[Al]≧0.5 ・・・(1)
であり、
Ti:0.001%以上0.050%以下、Nb:0.001%以上0.070%以下、の一方又は両方を含有し、
Ca:0%以上(0%を含む)0.0050%以下であり、
残部がFe及び不純物からなり、前記不純物のうちP,S,O,Nを、P:0.020%以下、S:0.0034%以下、O:0.0040%以下、N:0.0075%以下に制限し、
鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とし、観察される前記REM含有介在物の断面において、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を評価対象部分とし、
(a)前記評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下である前記REM含有介在物が、鋳片の1/2厚において、10個/mm以上分布していること、かつ、
(b)(a)において抽出された内の任意の10個の前記REM含有介在物断面の前記評価対象部分に対して、REM、Al、Zr、Ca、Sの含有量を分析し、前記REM含有介在物各々の元素含有量平均値に基づいて、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの換算含有量を算出し、前記REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有量の合計を100質量%として算出する、前記10個のREM含有介在物の平均組成が、以下の式(2)、式(3)を満足すること、
を特徴とする炭素鋼鋳片。
-25≦((REM)+(REMS))-328{(ZrO)/246+(Al)/102}≦100 ・・・(2)
(CaO)≦25 ・・・(3)
ここで、化学式を( )で囲んだ項は、介在物中の各組成の含有率を質量%で表示した値である。また、[Zr]、[Al]はそれぞれ鋼中Zr、Al含有量(質量%)を意味する。
[2]さらに、前記Feの一部に代えて質量%で、
Cr:0.070%以下、Ni:0.20%以下、Mo:0.15%以下、V:0.05%以下、Cu:0.05%以下、B:0.0050%以下からなる群から選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする[1]に記載の炭素鋼鋳片。
[3][1]又は[2]に記載の炭素鋼鋳片を製造する炭素鋼鋳片の製造方法であって、
溶鋼にAlを添加して脱酸を行うAl脱酸工程の後にZrを添加して、
下記式(4)を満たすAl-ZrO系複相介在物を生成した後に、
REMを添加することを特徴とする炭素鋼鋳片の製造方法。
1≦(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100≦99 ・・・(4)
ここで、化学式を( )で囲んだ項は、介在物中の各組成の含有率を質量%で表示した値である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により製造した炭素鋼鋳片は、NbTi炭窒化物が優先的に核生成するREM含有介在物が、鋳片厚み中心に多数分散しているので、NbTi炭窒化物の個数密度が多く、その結果、鋳片の中心偏析部に生成する個々のNbTi炭窒化物の最大長さは50μm以下に低減されている。
【0021】
そのため、本発明の炭素鋼鋳片を素材に用いれば、低温靭性や水素誘起割れ特性等が優れた厚鋼板、および鋼管用途鋼板を製造することができる。また、中心偏析を均熱拡散するための圧延前の長時間熱処理を簡省略することができるので、工程を短縮でき、コスト低減のメリットが得られる。
【0022】
また、本発明は、溶鋼中の介在物を制御する内容であり、例えば、鋳造時の溶鋼温度、鋳造速度変動、鋳片冷却むらなどの鋳造条件の影響を受けない。したがって、等軸晶率増加や凝固末期軽圧下技術など、鋳片の中心偏析防止技術と異なり、例え鋳造条件の変動があっても、NbTi炭窒化物の粗大化を安定して抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[技術思想、考え方]
本発明の技術思想は、鋳片の中心偏析部に生成する、NbやTiの少なくともいずれかを含有する炭窒化物(以降、NbTi炭窒化物と記載する)の個数密度を増やすことによって、個々のNbTi炭窒化物の大きさを低減することである。具体的手段として、溶鋼中にREM酸化物・REM酸硫化物を含有する多数のREM含有介在物を形成し、多数分散したREM含有介在物をNbTi炭窒化物の優先核生成サイト(接種核)として利用し、NbTi炭窒化物を微細分散させることを特徴とする。主要構成技術は以下の3点である。
【0024】
(1)NbTi炭窒化物が優先的に核生成する「接種核」として、NbTi炭窒化物と結晶構造の格子整合性が良好なREM、あるいはREMSを適用すること。
【0025】
(2)REM添加前にZrを添加しAl-ZrO系複相酸化物を生成すること、この後にREMを添加しREM含有介在物を形成すること。
ZrOを含有したAl-ZrO系複相酸化物同士はAlよりも凝集合体し難いので、REM添加前の溶鋼中介在物の個数密度を多く維持できる。そのため、この後にREMを添加すれば、接種核としてのREM含有介在物の個数密度を多くできる。
REM添加前にAl-ZrO系複相酸化物を生成するために、鋼成分で式(1):[Zr]/[Al]≧0.5とする。
【0026】
(3)REM添加時に、ZrOの少なくとも一部が還元されること。
REM添加によってZrOの還元を起こすことにより、REM含有介在物の接種効果が大きく向上することを新たに見出した。
【0027】
それぞれについて詳細を説明する。
(1)NbTi炭窒化物の「接種核」としてのREM含有介在物の選択・適用
NbTi炭窒化物は、凝固段階以降で析出する。晶析出物が核生成する場合、結晶構造の格子整合性が良好な物質(接種核)上に優先的に核生成する「不均質核生成」が知られている。本発明は、鋳片中心偏析部に生成する、粗大化し易いNbTi炭窒化物のサイズを低減する新たな手段として、この不均質核生成の活用に着目したものである。
【0028】
本発明では、サイズを低減したいNbTi炭窒化物として、NbC、NbN、TiC、TiNそれぞれの単相、およびこれらのうちの複数の炭化物・窒化物が複合した複合化合物をも対象とする。実際のNbTi炭窒化物はこれら炭窒化物の複合組成であることが多い。NbC、NbN、TiC、TiNの結晶構造がいずれもNaCl型であり、かつ、結晶構造の格子定数も近いため、NaCl型を維持したまま、容易に相互に固溶するからである。上記4種の炭窒化物の格子定数が近いので、複合化合物の格子定数も、4種の単相の格子定数の値に近い。
【0029】
不均質核生成を活用するためには、NbTi炭窒化物の核生成に有効な接種核を見出すことが最も重要である。しかし、これまでに、NbTi炭窒化物に効果的な接種核は知られていなかった。そこで発明者らが、NbTi炭窒化物と各種介在物との間の格子整合性をBramfittが提案した式に基づいて計算して評価し、格子整合性が良好な物質を鋭意探索した結果、希土類元素の酸化物:REM、そして酸硫化物:REMSを見出した。
【0030】
REMとREMSは結晶構造が同じhcp型であり、かつ、格子定数も近い。したがって、REMとREMSは、NbC、NbN、TiC、TiNの4種の単相炭窒化物、および、これらの4種の炭窒化物の複合化合物との格子整合性が同程度に良好であり、いずれも、これらの複合化合物の核生成サイトとして有効である。
【0031】
NbTi炭窒化物とREM、あるいはNbTi炭窒化物とREMSとの間の良好な格子整合性に着目して、発明者らはラボ実験等を通じて鋭意検討を重ねた。その結果、REM含有介在物をNbTi炭窒化物の接種核として有効に機能させるためには、単にREM含有介在物を形成するだけでなく、以下の条件が必要であることを見出した。
【0032】
ここで、鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とする。介在物中に一部でもREMを含有する部分があれば、当該介在物を「REM含有介在物」とする。なお、鋳片で観察されるREM含有介在物は、REM含有部分を核としてその外側にNbTi炭窒化物やMnSが形成されるものが多く、その全体がREM含有介在物となる。ここでは、前記REM含有介在物のうち、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を「評価対象部分」とする。REM含有介在物のうち、外側に形成されたNbTi炭窒化物やMnSはREM、Al、Zr、Caを含有していないので、前記「評価対象部分」は、REM含有介在物のうち、NbTi炭窒化物やMnSが除外された部分を意味する。REM含有介在物の評価対象部分が、NbTi炭窒化物の接種核となってNbTi炭窒化物の微細化に寄与する要件について、鋳片におけるREM含有介在物の評価対象部分の大きさと個数密度、及び鋳片におけるREM含有介在物の平均組成として、REM含有介在物が具備すべき条件について検討した。
【0033】
(本発明で対象とする介在物の定義)
本発明で規定する介在物は、NbTi炭窒化物の接種核として作用する、REMを含有する介在物部分である。鋳片で観察される介在物は、核としてのREM含有部分の外側にNbTi炭窒化物やMnSが生成している。これら全体を「REM含有介在物」と呼ぶ。REM含有介在物を接種核として生成したNbTi炭窒化物部分は評価対象から除く。MnSがREM含有介在物の周囲に生成している場合があるが、REM含有介在物の内部に分布しているのではなくNbTi炭窒化物の接種効果と直接関係しないと考えられるので、本発明の介在物組成の評価対象からはMnS部分も除外する。
【0034】
以上より、本発明では、(i)少なくともREM、REMSのいずれかを含有する介在物であり、さらに、(ii)Al、ZrO、CaO、CaSのいずれかを含有しても良いこととする。
【0035】
そこで、本発明で評価対象とする介在物全体の組成を、(REM、REMS)―(Al、ZrO)―(CaO、CaS)系と想定する。これら6種の化合物の質量合計を100%として、各化合物の化学式を( )で括って、質量%を表すこととする。
【0036】
(REM含有介在物の評価対象部分のサイズ)
本発明では、円相当径が1μm以上10μm以下のREM含有介在物の評価対象部分を個数密度評価の対象とする。REM含有介在物の、(a)評価対象部分と、(b)NbTi炭窒化物、(c)MnSとの区別は、SEM付属のEDS(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて分析し、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を「評価対象部分」と特定することにより区別可能である。したがって、REM含有介在物の評価対象部分を核として(付着して)NbTi炭窒化物、MnSが生成している場合でも、(a)REM含有介在物の評価対象部分のサイズを測定することは可能である。具体的には前述のとおり、鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とし、そのうちの「評価対象部分」について円相当径を評価する。
【0037】
円相当径が1μm未満では、介在物組成の分析精度や、個数測定の精度が低いので、発明の条件として規定しても不十分であるためである。一方、円相当径が10μmを超えるものは個数密度が少ないため、NbTi炭窒化物の個数密度に与える影響が小さい。また、加工時の破壊起点となり易く有害である。このため円相当径が10μmを超えるものについて、組成等を規定して積極的に活用したり増やす必要性は小さい。以上の理由から、本発明では、円相当径が1μm以上10μm以下のREM含有介在物を対象として測定する。円相当径が1μm以上10μm以下であり、かつ、組成等その他の条件が本発明の規定を満たす介在物は、NbTi炭窒化物の優先核生成サイトとして十分に機能する。
【0038】
(REM含有介在物の分布位置、個数密度)
REM含有介在物のうち、評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下であるものが、鋳片の1/2厚に、10個/mm以上分布している断面を有すること。
本発明は、鋳片の中心偏析部のNbTi炭窒化物の粗大化を防止することが目的である。中心偏析は鋳片厚みの1/2厚部を中心に厚み方向にも分布する。そこで、本発明では、NbTi炭窒化物の優先核生成サイトであるREM含有介在物の個数密度を規定する範囲を、鋳片の1/2厚部を中心に、許容範囲を±5mmの範囲とする。個数密度を測定する断面は、鋳片の上下の広面に平行な断面(通称、Z断面)が好ましい。鋳片の1/2厚位置を正確に特定することを容易にするため、鋳片上下の広面に垂直、かつ、鋳造方向に平行な厚み断面(通称、鋳造長手方向縦断面、またはL断面)、あるいは、鋳片上下の広面に垂直、かつ、鋳造方向に垂直な厚み断面(通称、横断面、またはC断面)でも良い。鋳造長手方向縦断面や横断面で測定する場合は、1/2厚を中心に±5mm以内を測定範囲とする。また、上記3断面のいずれの場合も、鋳片幅方向で1/4幅、1/2幅、3/4幅の3ヶ所を測定し平均値を求めることが好ましい。ただし、1/4幅あるいは3/4幅で代表させても良い。
【0039】
NbTi炭窒化物の個数密度を増やして、個々の炭窒化物のサイズを低減するために、鋳片の1/2厚±5mmのどの断面においても、REM含有介在物のうち、評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下であるものが、10個/mm以上分布していること。10個/mm未満では、NbTi炭窒化物の個数が十分に増えず、したがって炭窒化物サイズを十分に低減できないためである。15個/mm以上分布していることが好ましい。
【0040】
REM含有介在物の評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下であると認められたもののうち、任意の10個を抽出する。以下、抽出した任意の10個のREM含有介在物の評価対象部分について、具備すべき条件を説明する。
【0041】
[条件(1a)]介在物にREM単相、あるいはREMS単相が存在すること。
介在物組成としてREMあるいはREMSが含まれていても、複合介在物、例えばREM・Al(REMとAlのモル比が1:1)や、2(ZrO)・REM(ZrOとREMのモル比が2:1)を形成している場合、複合介在物の格子定数は、REM単相、あるいはREMS単相の格子定数と異なるため、NbTi炭窒化物との格子整合性を満たさない。したがって、NbTi炭窒化物の接種核として有効ではない。
【0042】
そこで、抽出した10個のREM含有介在物内に、NbTi炭窒化物の核生成サイトとして有効なREM単相あるいはREMS単相が存在する必要がある。そのための条件を、観察断面における抽出した各REM含有介在物の評価対象部分における各元素の含有量評価結果(含有量評価値)を用いてさらに各々の「REM含有介在物」中の元素含有量の平均値を算出し、各々の「REM含有介在物」の元素平均組成に基づいて、下記式(2)中辺に記載の化合物の含有量を算出した上で、前記REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有量の合計を100質量%として規格化し、さらに前記10個のREM含有介在物の平均組成について以下の式で規定する。
-25≦{(REM)+(REMS)}-328{(ZrO)/246+(Al)/102}≦100 ・・・(2)
ここで、化合物の化学式を( )で囲んだ項は、介在物中のそれぞれの化合物の含有率(10個のREM含有介在物の平均組成)を質量%で表示した値である。REM含有介在物がREM単相のみやREMS単相のみ、あるいはREM単相+REMS単相から成る場合に上限の100となる。
【0043】
観察される各REM含有介在物において、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)(評価対象部分)における含有量を評価(分析)し、当該含有量評価結果から算出するREM含有介在物の平均値に基づいて、REM含有介在物における、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有量を算出する具体的な手段については後述する。
【0044】
前述の通り、REMがAlやZrOと一定のモル比で結合した複合酸化物、(REM・Al)O相や、ZrREM相は、NbTi炭窒化物の核生成サイトとしては有効性が低い。上記式(2)の中辺は、(REMあるいはREMS)全量から、これら複合酸化物を形成するREMの含有率を差し引いた差分の計算式であり、NbTi炭窒化物の優先核生成サイトとして有効なREMの含有率、(REM)effを示す。
(REM)eff={(REM)+(REMS)}-328{(ZrO)/246+(Al)/102} ・・・(2a)
式(2a)中の328、246、102はそれぞれ、1モルのREM、2モルのZrO(ZrOの分子量123×2)、1モルのAlの分子量である。したがって、(328/246)・(ZrO)はZrREM相を、(328/102)・(Al)は(REM・Al)O相を、それぞれ形成するREMの含有率を表している。介在物全体のREMの含有率(REM)から、ZrREM相や(REM・Al)O相を形成しているREMの含有率を差し引いて、REM単相部(REMS単相部を含む)としてのREM含有率(REMS単相部を含む)を算出している。なお、本発明では、REMの分子量を計算する際、REMの原子量として140を用いている。最も入手しやすいREM合金の形態である、希土類元素の混合物の「ミッシュメタル」に含まれるREMの平均原子量である。
【0045】
NbTi炭窒化物の優先核生成サイトとしてREM単相(REMS単相部を含む)が必要なので、式(2a)、すなわち式(2)の中辺((REM)eff)の下限は、本来は0を超えた正の値であることが必要と考えられる。しかし、発明者らの実験では、-25以上であれば、REM含有介在物を核生成サイトとしてNbTi炭窒化物が生成していることが分かった。この理由は、REM添加後の介在物組成が実際には必ずしも平衡状態に達しておらず、REMと未反応のAlやZrOが残留しているためと考えられる。そこで、式(2)の下限を-25とした。
【0046】
一方、鋼中REM濃度を増やせば、上記の複合介在物はREMに還元されてREM含有率が増加し、全体がREM単相に至る。さらに鋼中REMを増やすと酸硫化物REMSが生成する。前述した通り、REMSもREMと同様に核生成サイトとして有効である。したがって、REM含有介在物がREM単相のみやREMS単相のみ、あるいはREM単相+REMS単相から成る場合に上限の100となる。
【0047】
以上の通り、任意の10個のREM含有介在物の評価対象部分の平均組成において、式(2)中辺((REM)eff)の範囲を、下限:-25、上限:100とする。さらに、半分以上がREM単相(REMS単相部を含む)であると優先核生成サイトとしての作用が有意に高まるため、式(2)中辺((REM)eff)が、50以上100以下であることが好ましい。
【0048】
[条件(1b)]任意の10個のREM含有介在物の評価対象部分の平均組成に占めるCaOの含有率(質量%)が25%以下であること。
上述の通り、本発明は単相のREM(REMS単相部を含む)をNbTi炭窒化物の接種核として利用する技術であるから、REM単相(REMS単相部を含む)は鉄母相に接していることが必要である。
【0049】
ところが、REM含有介在物中のCaO含有率が高くなると、酸化物の融点が急激に低下する。その結果、鋼の凝固温度においても液相酸化物が存在し、介在物表面の一部、あるいは全体が液相酸化物に覆われてしまう。すると、REM単相(REMS単相部を含む)は鉄母相と接することができず、接種効果が損なわれてしまう。したがって、REM含有介在物の評価対象部分の平均組成に占める(CaO)(質量%)を低減することが必要である。具体的には、本発明では(CaO)≦25に制御する。
(CaO)≦25 ・・・(3)
【0050】
前述のとおり、本発明の「REM含有介在物」は、(i)少なくともREM、REMSのいずれかを含有する介在物であり、さらに、(ii)Al、ZrO、CaO、CaSのいずれかを含有しても良い。そこで、本発明で対象とする介在物全体の組成を、(REM、REMS)―(Al、ZrO)―(CaO、CaS)系と呼ぶことができる。以下、Al、ZrO、CaO、CaSのいずれかを含有する好適な介在物の条件について説明する。
【0051】
REM含有介在物中の評価対象部分のAl、ZrO、CaO、CaS含有量(質量%)が、観察した断面平均において、Al≧0.2%、ZrO≧0.2%のいずれか又は両方、及び、CaO≧0.5%、CaS≧0.5%のいずれか又は両方を満たすものであると好ましい。
【0052】
(REM含有介在物の評価対象部分のサイズ、組成、個数密度の測定方法)
REM含有介在物の評価対象部分のサイズ、組成、個数密度はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて評価できる。
【0053】
なお、前述の通り、SEM像や光学顕微鏡像の濃淡から、REM含有介在物の(a):(REM、REMS)-(Al、ZrO)―(CaO、CaS)系介在物部分と、(b)NbTi炭窒化物、および(c)MnSを区別することができるが、具体的には、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてREM含有介在物を特定して上記を求めることができる。
【0054】
(介在物の組成の算出方法)
本発明では、NbTi炭窒化物の接種核として作用する、「REM含有介在物」を規定する。
【0055】
1)介在物
ここで、介在物とは、溶鋼中および凝固完了までに生成する鉄母相と異なる相であり、溶鋼試料(鉄製、耐火物製の容器で採取した溶鋼を冷却して得る試料)や鋳片で観察される酸化物、硫化物が代表的なものである。例えば、Al、ZrO、CaO、CaS、REM、REMSであり、これらは溶鋼中で生成する。MnSは凝固時に生じる。通常、介在物のサイズはミクロン(≒1μm)オーダーであり、小さいものでもサブミクロン(<1μm)である。そこで、凝固完了後の固相内反応で生成する、それ故に主に数十nm以下である析出物と区別するために、本発明では、SEMで容易に観察できる0.1μm以上の物に限定する。
【0056】
2)本発明が対象とするREM含有介在物の評価対象部分の平均組成の範囲
本発明は、NbTi炭窒化物の接種核として作用する、REMを含有する介在物を規定する。したがって、REM含有介在物その物はNbTi炭窒化物を含む一方、REM含有介在物の評価対象部分はNbTi炭窒化物を含まない。
【0057】
なお、NbTi炭窒化物のサイズを測定し、本発明の効果を評価する際は、REM含有介在物を接種核としてその周囲に生成したNbTi炭窒化物と、REM含有介在物を核とせず単独で生成したNbTi炭窒化物の両者を区別せずに同一に扱う。
【0058】
REM含有介在物の周囲に、MnSが付着し生成している場合があるが、NbTi炭窒化物の核生成には直接関係しないと考えられる。したがって、MnSも、本発明のREM含有介在物の評価対象部分の規定から除外する。
【0059】
以上から、本発明はサイズ、組成、個数密度を評価する対象のREM含有介在物として、鋳片断面で観察される介在物のうち、1質量%以上のREMを含有する相を含むものを「REM含有介在物」として対象とする。ここで「相(phase)」とは、化学的組成および物理状態が一定均質な領域を指す。異なる相が接していれば境界が存在し区別することができる。介在物の相は、組成や結晶構造(特定の結晶構造を取る場合だけでなく、スラグのように結晶構造を取らない場合を含む。結晶構造を取らない、という物理状態が一様なためである。)などで特徴づけられる。「相」が異なれば、何らかの特徴(を指し示す指標)が異なるので、SEMなどの観察手段でそれぞれの「相」の境界を判別することができて、異なる「相」を区別することができる。そして、区別したそれぞれの「相」がREMを1質量%以上含有するか否かを、例えば、SEMに付属するEDSで組成分析すれば良い。「相」の境界の観察手段として、例えば、元素マッピングやSEM像、あるいはそれら複数手段の組み合わせを例示できる。通常、SEM観察は二次電子像観察を行なえば「相」の境界を観察できるが、反射電子像観察と組み合わせて、組成差を強調して観察し「相」を一層正確に区別することもできる。
【0060】
このように定義した「REM含有介在物」は、
(1)単独あるいは結合した複数の(a)REMを含有する相から成る場合、
(2)(a)REMを含有する相と、(b)REMを含有しない、酸化物や硫化物、炭窒化物を含有したとから成る場合、
がある。
しかし、(b)だけから成る介在物は、REMを含有しないので「REM含有介在物」ではない。
【0061】
そして、例え、「REM含有介在物の評価対象部分」に接していても、上記の通り、NbTi炭窒化物相やMnS相は「REM含有介在物の評価対象部分」には含まない。「REM含有介在物の評価対象部分」のサイズを測定する際は、NbTi炭窒化物相やMnS相は除く。
【0062】
(a)の具体例として、REM単相やREMS単相、REM-Al相、REM-Al相にCaOが固溶した相、REM-ZrO相、などが挙げられる。(b)の具体例として、Al、CaO、CaS、ZrOのそれぞれの単相のほか、Al-CaO相、Al-CaO-CaS相、Al-ZrO相、など種々の相が組み合わさったものが挙げられる。
【0063】
サイズと個数密度は、上記検出したREM含有介在物を対象として評価を行う。SEM付属のEDS(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて試料面のREM含有領域を評価し、REMを含有する相を特定し、上記に基づいてREM含有介在物とする。
【0064】
3)介在物の組成の算出方法
観察される抽出した10個それぞれのREM含有介在物において、評価対象部分でのREM、Al、Zr、Ca、Sの含有量を、REM含有介在物ごとに平均値を評価する。次いで、当該含有量の評価結果に基づいて、各々のREM含有介在物における、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの平均含有量を算出し、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有率の合計を100質量%として平均組成を算出する。SEM付属EDSによる元素分析値、および、検出元素の原子量と酸化物等化合物の分子量との比を用いて、化合物の量を算出できる。さらに前記10個のREM含有介在物の平均組成を求める。
なお、介在物毎の元素含有量の平均組成算出に際し、REM含有介在物の全体における平均組成を用いても良い。この場合、評価対象部分での平均組成に比較して全体に含有量が低くなるが、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有率の合計を100%とする演算を行う結果、前記評価対象部分のみでの平均組成と同じ結果が得られる。
【0065】
本発明では、以下の考え方に基づき、介在物の組成を算出する。
(1)本発明では、Alを0.003%以上含有しているので、SiO、MnO、Ti(およびTi)は、Al添加後の溶鋼および鋳片では熱力学的に生成しない。したがって、Al添加後の溶鋼や鋳片で観察される酸化物は、Al、ZrO、REM、CaOである。
【0066】
(2)上記の酸化物を形成する4種の脱酸元素のうち、REMは酸硫化物:REMSを、Caは硫化物:CaSを形成する可能性がある。そこで、REMとCaについては、それぞれの脱酸元素とSのマスバランスを満たすように、酸化物と酸硫化物または硫化物の形態別に生成量を算出する必要がある。
その際、S量とCa量の関係に応じて、(i)CaSだけが生成しREMSは生成しない場合と、(ii)CaSおよびREMSが共に生成する場合に分けて算出する。
【0067】
(3)介在物からMnが検出される場合、Mnは全て、MnSを形成していると考えられる。
【0068】
(4)Nb、Tiは炭窒化物を形成していると考えられる。
【0069】
なお、軽元素であるC、N、Oは、SEM付属EDS(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:エネルギー分散型X線分析装置、または測定方法を指してエネルギー分散型X線分光法)による分析精度が低く定量評価は困難である。したがって、炭化物と窒化物のそれぞれの生成量は計算せず、炭化物や窒化物の有無を判断する目安に留める。
【0070】
酸化物を形成するOの量も精度が低いため、上記の各種酸化物についてOのマスバランスの定量評価はせず、酸素の有無により、酸化物であるか否かの目安に留める。
【0071】
4)具体的な算出方法
具体的には以下の手順で組成を算出する。
【0072】
鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とし、観察されるそれぞれのREM含有介在物において、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を評価対象部分とし、サイズ条件を満たした「REM含有介在物」から任意に10個を選択し、其々の評価対象部分におけるREM、Al、Zr、Ca、Sの含有量を評価する。次いで、「REM含有介在物」毎に、下記に従ってREM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの換算含有量を算出する。
【0073】
下式中の( )で括った元素や化学式は、SEM付属EDSによる元素分析値や、その元素分析値を基に算出した酸化物等の量(質量%)を示す。下式で求めた各種量は、介在物分析時に検出された全元素の合計が100%であるので、当該発明が対象とする元素に限定して規格化した比率ではない。当該発明が規定する元素や酸化物等の化合物に限定した含有率を求める場合は、対象とする元素や化合物の合計値で規格化する必要がある。
【0074】
下式中の数値が、各元素の原子量、または化合物の分子量である。例えば、式(5)の54はAlの原子量、102はAlの分子量である。酸化物等の化合物の分子量を列記すると、Al:102、ZrO:123、MnS:87、CaS:72、CaO:56、REM:328、REMS:344を用いている。
【0075】
(A)酸化物のみを形成する元素:Al、Zr
(Al)=102/54(Al)・・・(5)
(ZrO)=123/91(Zr)・・・(6)
熱力学的に、溶鋼中で、まずCaSが、次にREMSが生成する。最後に凝固中にMnSが生成する。
【0076】
(B)硫化物のみを形成する元素:Mn
(MnS)=87/55(Mn)・・・(7)
CaSやREMSを形成するSの量:S1とする。
(S1)=(S)-32/55(Mn)・・・(8)
(32/55(Mn)=(S) as (MnS))
【0077】
(C)酸化物のほか、硫化物や酸硫化物を形成する元素:Ca、REM
(C-1)(S1)<32/55(Ca) の場合。(S1)は全てCaSである。CaS、CaO、REMが生成する。
(CaS)=72/32((S)-32/55(Mn))・・・(9)
(CaO)=56/40[(Ca)-40/32{(S)-32/55(Mn)}]・・・(10)
(40/32{(S)-32/55(Mn)}=(Ca) as (CaS))
(REM)=328/280(REM)・・・(11)
(C-2)(S1)≧32/55(Ca) の場合。(S1)はCaSとREMSを生成する。CaS、REMS、REMが生成する。(S1)のマスバランス上、CaOは生成しない。
(CaS)=72/40(Ca)・・・(12)
(REMS)=344/32[{(S)-32/55(Mn)}-32/40(Ca)]・・・(13)
(32/40(Ca)=(S) as (CaS))
(REM)=328/280[(REM)-280/32{(S)-32/55(Mn)-32/40(Ca)}]・・・(14)
({(S)-32/55(Mn)-32/40(Ca)}=(S) as (REMS))
(280/32{(S)-32/55(Mn)-32/40(Ca)}=(REM) as (REMS))
【0078】
以上から、鋳片断面で観察されるREM含有介在物の評価対象部分における化合物の平均組成を算出することができる。
次に、発明が規定する元素や酸化物等の化合物に限定した含有率を求めるため、対象とする元素や化合物の合計値で規格化する。具体的には、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有率の合計を100質量%として平均組成を算出する。
上記によって各々の「REM含有介在物」の評価対象部分における化合物を限定した平均組成が得られたら、更に10個の「REM含有介在物」の平均組成を算出し、その上で、算出された化合物の平均組成に基づいて式(2)、式(3)を評価する。
【0079】
本発明では評価対象部分の円相当径が1μm以上のREM含有介在物を規定しているので倍率は400倍以上で観察する。通常は1000倍以上であり、数千倍で観察することが多い。
【0080】
測定面積は少なくとも0.1mmとする。本発明では、NbTi炭窒化物の接種核として有効なREM含有介在物の個数密度を10個/mm以上としているためである。1mm以上であることが好ましい。
【0081】
円相当径は、SEM像の画像処理、または楕円近似から求めることができる。まず、最大長さが1μm以上の介在物を観察し、そのSEM像を画像処理して円相当径を算出できる。1μm以上のものについて測定データを整理、評価すれば良い。または、介在物形状を楕円近似し、介在物の最大長さと、最大長さ方向とは垂直の方向の長さを測定して√(最大長さ×垂直方向長さ)を求めても良い。
【0082】
REM含有介在物の組成は、観察断面における評価対象部分、あるいはREM含有介在物全体の断面平均組成を用いる。上述の通り、NbTi炭窒化物やMnSと区別してREM含有介在物の評価対象部分を識別できるので、REM含有介在物の断面全体を含むように、EDS分析範囲を設定し、その範囲内で評価対象部分の平均組成を分析すれば良い。前述のとおり、REM含有介在物全体の平均組成を分析したとしても、最終的に対象とする元素や化合物の合計値で規格化処理を行うので、評価対象部分の平均組成を分析した場合と同様の結果を得ることができる。
【0083】
上記の方法で個々のREM含有介在物の評価対象部分の断面平均組成を求める。また、本発明の評価対象部分の大きさ要件を満たすREM含有介在物の個数を測定し、個数測定時の総観察面積で除して、REM含有個数密度を算出する。
【0084】
(NbTi炭窒化物の最大サイズの測定方法)
SEM、あるいは光学顕微鏡で観察できる。内部に接種核であるREM含有介在物を含むもの、あるいは含まないものの両方を含めて、最大長さを評価する。最大長さはNbTi炭窒化物の外周の境界で測定する。内部、例えばREM含有介在物にMnSが付着している場合は、REM含有介在物やMnSを含めて良い。一方、NbTi炭窒化物の外周にMnSが付着している場合は、MnSを除くNbTi炭窒化物の外周の境界で区切る。最大長さが50μm以下であることが好ましい。
【0085】
(各鋼成分の規定理由)
以下に、本実施形態である鋼板において、各成分を上述のように規定した理由について説明する。%は質量%を意味する。
【0086】
(C:0.02%以上0.20%以下)
C(炭素)は、鋼板の強度(硬度)を確保するうえで重要な元素である。C含有量を0.02%以上とすることにより、用途や加工方法に適した鋼板の強度を確保する。一方、C含有量が0.20%超になると、強度が高くなり過ぎ、加工性を確保する熱処理に長時間を要するので、熱処理を長時間化しなければ鋼板の加工性が悪化するおそれがある。よって、C含有量を0.02%以上0.20%以下の範囲に制御する。
C含有量の下限は0.04%であることが好ましく、上限は0.06%であることが好ましい。
【0087】
(Si:0.02%以上0.50%以下)
Si(ケイ素)は、脱酸剤として作用し、また、焼入れ性を高めて鋼板の強度(硬度)を向上させるのに有効な元素である一方で、熱間圧延時のスケール疵に起因する鋼板の表面性状の劣化を招くおそれがある。上記効果を得るために0.02%以上添加することが多い。ただし、通常の使用でも、0.50%を超えると、熱間圧延時のスケール疵に起因する鋼板の表面性状の劣化が顕著になる。よって、Si含有量を0.02%以上0.50%以下の範囲に制御する。
Si含有量の下限は0.17%であることが好ましく、上限は0.23%であることが好ましい。
【0088】
(Mn:0.50%以上2.0%以下)
Mn(マンガン)は、脱酸剤として作用する元素であるとともに、焼入れ性を高めて鋼板の強度(硬度)を向上させるのに有効な元素である。Mn含有量が0.50%未満では、その効果が十分得られない。一方、Mn含有量が2.0%を超えると、鋼板の加工性が劣化するおそれがある。よって、Mn含有量を0.50%以上2.0%以下の範囲に制御する。
Mn含有量の下限は0.90%であることが好ましく、Mn含有量の上限は1.20%であることが好ましい。
【0089】
(Al:0.003%以上0.080%以下)
Al(アルミニウム)は、脱酸剤として作用する元素であるとともに、Nを固定することで鋼板の加工性を高めるのに有効な元素である。Al含有量が0.003%未満では、上記含有効果が十分に得られないので、0.003%以上を含有させる必要がある。一方、Al含有量が0.080%を超えると、上記含有効果は飽和し、さらに、粗大な介在物が増加する。この粗大な介在物によって、加工性が劣化する、または表面疵が発生し易くなるおそれがある。よって、Al含有量を0.003%以上0.080%以下の範囲に制御する。Alはtotal.Alである。
Al含有量の下限は0.010%とすることが好ましく、Al含有量の上限は0.030%であることが好ましい。
【0090】
(Zr:0.0015%以上0.065%以下)
Zrは本発明で最も重要な元素の一つであり、以下の二つの効果がある。第一に、REM添加前にZrを添加すると、溶鋼中で凝集合体し難いAl-ZrO系複相酸化物を形成するので、REM添加前の溶鋼中介在物の個数密度の低減が抑制される。その後にREMを添加すれば、NbTi炭窒化物の接種核としてのREM含有介在物がより多数生成できる。第二に、REM添加時に、ZrOの少なくとも一部が還元されることで、NbTi炭窒化物に対するREM含有介在物の接種効果が大幅に向上する。このように、REM含有介在物の個数増加効果、およびNbTi炭窒化物に対する接種効果向上効果の二点の効果が得られる。この二点の効果を得るために下記式(1)を満たす必要があるので、Al含有量の下限、0.003%に対応して、Zrは0.0015%以上添加することが必要である。一方、Al含有量の上限、0.080%において、Zrを0.065%を超えて添加すると、Alを全て還元してZrOが100%に変わるため、凝集合体抑制効果が飽和する。このため、Zr含有量を0.0015%以上0.065%以下に制御する。Zrは鋼中の溶存Zr濃度:sol.Zrと、ZrOを形成しているZr濃度:insol.Zrの合計濃度:total.Zrである。
[Zr]/[Al]≧0.5 ・・・(1)
ここで、[Zr]、[Al]はそれぞれ鋼中Zr、Al含有量(質量%)を意味する。
Zr含有量の下限は、Al含有量の好ましい下限、0.010%に対応して、式(1)を満たす0.005%とすることが好ましい。一方、Zr含有量の上限は、Al含有量の好ましい上限、0.030%時に、Alを全て還元してZrOが100%に変わるZr量である0.026%とすることが好ましい。
【0091】
(REM:0.0005%以上0.0250%以下)
REM(Rare Earth Metal)は希土類元素を意味し、スカンジウムSc(原子番号21)、イットリウムY(原子番号39)およびランタノイド(原子番号57のランタンから原子番号71のルテシウムまでの15元素)の17元素の総称である。本実施形態に係る鋳片は、これらのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含有する。一般的に、REMとして、入手のし易さから、Ce(セリウム)、La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)などのほか、これらの元素の混合物であるミッシュメタルとして添加することが広く行われている。ミッシュメタルの主成分はCe、La、Nd、およびPrであり、Ceを40~50%程度、Laを20~40%程度含有するものが多い。本実施形態に係る鋳片では、これら希土類元素の合計量を、REM含有量とする。
【0092】
REMは本発明で最も重要な元素の一つである。REMあるいはREMSを形成し、それぞれの単相は、NbTi炭窒化物の優先核生成サイト、すなわち接種核として作用する。この効果を得るために0.0005%以上を添加することが必要である。一方、0.0250%超を添加すると、他の酸化物組成である、Al、ZrO、CaOを全量還元し、REMあるいはREMSになるため、接種効果が飽和する。さらに、REM含有介在物が粗大化してノズル閉塞を引き起こす。このため、REM含有量の上限を0.0250%とする。
含有量の下限は0.0040%であることが好ましく、上限は0.0100%であることが好ましい。
【0093】
(Ti:0.001%以上0.050%以下、Nb:0.001%以上0.070%以下、の一方又は両方を含有)
Ti(チタン)は、炭窒化物を形成することにより強度を高める効果がある。またNb(ニオブ)は、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止および鋼板の加工性の改善に有効な選択元素である。そのため、Ti:0.001%以上、Nb:0.001%以上の一方又は両方を含有する。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、粗大な角状の炭窒化物が形成されやすくなり、加工性の劣化が顕在化する。よって、Ti含有量を0.050%以下に制限する。また、Nb含有量が0.070%を超えると、粗大なNb炭窒化物が析出して鋼板の加工性の低下を招くおそれがある。
上記の効果を得るためには、Ti含有量の下限は0.009%であることが好ましく、上限は0.020%であることが好ましい。また、Nb含有量の下限は0.03%であることが好ましく、上限は0.045%であることが好ましい。
【0094】
(Ca:0%以上(0%を含む)0.0050%以下)
Ca(カルシウム)は、MnSを低減して介在物の形態を制御し、これにより鋼板の加工性を向上させるために有効な元素である。また、Caを添加し、CaO-Al系の低融点酸化物を生成することによってノズル閉塞を防止することもできる。これらの理由から意図的に添加する場合がある。意図的に添加しない場合でも、スラグ中CaOから不純物として混入する場合もある。鋼中Caは、CaOを形成して酸化物の融点を低下させ、CaO量が増えると液相酸化物が生成する。
一方、本発明では、REM含有介在物をNbTi炭窒化物の接種核として利用しているので、両REM含有介在物が鉄母相に接している必要がある。
酸化物組成に占めるCaO含有率が高くなると、酸化物の融点は急激に低下する。その結果、鋼の凝固温度においても液相酸化物が存在し、介在物表面の一部、あるいは全体が液相酸化物に覆われてしまうと、REM含有介在物は鉄母相と接することができず、接種効果は損なわれてしまう。
具体的には、鋼中Ca濃度が0.0050%を超えると、REM含有介在物に含有されるCaO含有率が25%を超えて、液相化するため、鋼中Ca濃度を0.0050%以下に制御する。そして、0.0020%以下とすることが好ましく、0.0010%以下とするとさらに好ましい。
【0095】
(P:0.020%以下)
P(リン)は、固溶強化の機能を有する。しかし、過剰な量のPの含有は、鋼板の加工性を阻害する。よって、P含有量を0.020%以下に制限する。P含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、P含有量の下限は0.005%以上であってもよい。
【0096】
(S:0.0034%以下)
S(硫黄)は、MnSを主とする非金属介在物を形成することにより、鋼板の加工性を阻害する不純物元素である。よって、S含有量を0.0034%以下に制限し、好ましくは、0.0020%以下に制限する。S含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、S含有量の下限は0.0003%以上であってもよい。
【0097】
(O:0.0040%以下)
O(酸素)は、酸化物(非金属介在物)を形成し、この酸化物が凝集および粗大化することにより、鋳造中のノズル閉塞を引き起こしたり、また、酸化物の組成によっては圧延時に延伸することにより鋼板の加工性を低下させたりする不純物元素である。よって、O含有量を0.0040%以下に制限する。O含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、O含有量の下限は0.0005%以上であってもよい。本実施形態に係る鋼板のO含有量は、鋼中に固溶する溶存Oや、介在物中に存在するOなどの、全てのO含有量を合計したトータルO含有量(T.O含有量)を示す。
T.Oの含有量は、酸化物の組成、および酸化物の総量に大きく影響するので、制御することは非常に重要である。一般には、酸化物総量を低減するためにT.Oを低減することが好ましい。そのために、例えば、二次精錬の撹拌時間を十分長くして、介在物の浮上除去を促進することが行われている。
【0098】
(N:0.0075%以下)
N(窒素)は、窒化物(非金属介在物)を形成し、鋼板の加工性を低下させる不純物元素である。よって、N含有量を0.0075%以下に制限する。N含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、N含有量の下限は0.0010%であってもよい。
【0099】
(選択的な成分の規定)
本実施形態に係る鋼板は、上記の基本成分が制御され、残部がFe及び上記の不純物よりなる。しかし、本実施形態に係る鋼板は、この基本成分に加えて、残部のFeの一部の代わりに、さらに必要に応じて以下の選択成分を鋼中に含有させてもよい。
【0100】
すなわち、本実施形態に係る熱延鋼板は、上記した基本成分及び不純物の他に、更に、選択成分として、Cr、Ni、Mo、V、Cu、Bのうちの1種以上を含有してもよい。以下に、選択成分の数値限定範囲とその限定理由とを説明する。ここで、記載する%は、質量%である。
【0101】
(Cr:0.070%以下)
Cr(クロム)は、焼入れ性を高めて鋼板の強度(硬度)を向上させるのに有効な元素である。そのため、必要に応じて、Crを0.070%以下の範囲内で含有させても良い。Cr含有量が0.070%を超えると、コストが増える一方で、含有効果は飽和する。よって、Cr含有量を0.070%以下に制御する。
上記の効果を得るためのCr含有量の好ましい範囲は、0.010%以上0.030%以下である。
【0102】
(Ni:0.20%以下)
Ni(ニッケル)は、焼入れ性の向上による鋼板の強度(硬度)の向上や、加工性の向上に有効な選択元素である。また、Cu含有時の溶融金属脆化(Cu割れ)を防止する効果も有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Niを0.20%以下の範囲内で含有させても良い。一方、Ni含有量が0.20%を超えると、コストが増加する一方で、含有効果は飽和するので、Ni含有量の上限を0.20%とする。
上記の効果を得るためのNi含有量の好ましい範囲は、0.01%以上0.17%以下である。
【0103】
(Mo:0.15%以下)
Mo(モリブデン)は、焼入れ性の向上と焼戻し軟化抵抗性の向上とにより、鋼板の強度(硬度)を向上させる効果を有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Moを0.15%以下の範囲内で含有させても良い。また、Mo含有量の下限を0.05%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Mo含有量が0.15%を超えると、コストが増加し、且つ含有効果は飽和する。さらに、Mo含有量が0.15%を超えると、鋼板の加工性、特に冷間加工性が低下する。以上の理由により、Mo含有量の上限を0.15%とする。
上記の効果を得るためのMo含有量の好ましい範囲は、0.05%以上0.12%以下である。
【0104】
(V:0.05%以下)
V(バナジウム)は、Nbと同様に炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止や加工性の改善に有効な選択元素である。そのため、必要に応じて、Vを0.05%以下の範囲内で含有させても良い。また、V含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、V含有量が0.05%を超えると、粗大なV炭窒化物が生成して鋼板の加工性の低下を招くおそれがある。
上記の効果を得るためのV含有量の好ましい範囲は0.01%以上0.04%以下である。
【0105】
(Cu:0.05%以下)
Cu(銅)は、鋼板の強度(硬度)を向上させる効果を有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Cuを0.05%以下の範囲内で含有させても良い。また、Cu含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Cu含有量が0.05%を超えると、溶融金属脆化(Cu割れ)によって熱間圧延時に熱間加工割れが生じるおそれがある。
上記の効果を得るためCu含有量の好ましい範囲は0.01%以上0.04%以下である。
【0106】
(B:0.0050%以下)
B(ホウ素)は、焼入れ性を高めて鋼板の強度(硬度)を向上させる効果を有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Bを0.0050%以下の範囲内で含有させても良い。また、B含有量の下限を0.0008%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、B含有量が0.0050%を超えると、B系化合物が生成して鋼板の加工性が低下するので上限を0.0050%とする。
上記の効果を得るためB含有量の好ましい範囲は0.0008%以上0.0040%以下である。
【0107】
《炭素鋼鋳片の製造方法》
(1)REM添加前のAl-ZrO系複相酸化物生成による介在物個数維持、確保
本発明は、REM添加前の溶鋼中の介在物を凝集合体し難いAl-ZrO系複相酸化物に制御することで個数の低減を抑制するので、その後にREM添加すれば、REM含有介在物の個数密度を十分多く確保できる。その結果、REM含有介在物を優先核生成サイトとして核生成するNbTi炭窒化物の個数を増やし最大長さを一層低減できる。
【0108】
通常、脱酸はAlで行なうのでAlが生じる。Alは溶鋼中で非常に凝集合体し易いため、粗大化、ならびに個数低減が急速に進行し易い。
【0109】
その状態でREMを添加すると、既存のAlは、Al-REM系、またはREM量が多い場合はAl-REM-REMS系介在物に組成変化する。しかし、組成改質前のAl個数が少ないので、組成変化後のAl-REM系介在物も、個数密度は少なくなる。したがって、このAl-REM系介在物を核生成サイトとして、NbTi炭窒化物が優先的に核生成しても、NbTi炭窒化物の個数密度は少ない状態にとどまる。
【0110】
このように、NbTi炭窒化物の個数増加のためには、個々のREM含有介在物の接種効果を高めるだけでなく、核生成サイトとなるREM酸化物を多数分散させることも必要であり、そのために、REM添加前の酸化物個数をいかに増やすかも重要である。
【0111】
そこで発明者らは、Alと凝集合体しにくいZrOに着目した。AlとZrOとの界面エネルギーは高いので、溶鋼中で接触しても、流動等によって容易に分離してしまい凝集合体しにくいことが特徴である。
【0112】
Al生成後にZr添加すると、既存のAlを部分的にZrOに改質することができる。すなわち、一つの酸化物粒子内にAl部とZrO部を有するAl-ZrO系複相酸化物が生成する。この複相酸化物どうしが溶鋼中で接触して、Al部とZrO部が接触する場合には凝集合体しにくい。このため、Al単相酸化物よりもAl-ZrO系複相酸化物では凝集合体頻度が低減するので、REM添加前の溶鋼中介在物の個数密度の低減を抑制できる。
【0113】
Al、Zr添加後、REM添加前の溶鋼中の介在物組成の評価方法について説明する。
Al、Zr添加後、REM添加前の溶鋼サンプルを採取する。サンプル凝固後、採取時に巻き込んだスラグなど不純物が多いサンプル底部を切り落とし、切断面を研磨する。切り落とすサンプル底部長さは通常10数mm程度である。断面で観察される介在物の断面平均組成を、前記「3)介在物の組成の算出方法」で説明した鋳片断面で観察される介在物の断面平均組成の場合と同様に、SEM付属EDSで分析すれば良い。
なお、このREM添加前の溶鋼中介在物の組成分析は、操業中に行なう必要はなく、鋳造後に平均組成を確認すれば良い。このような分析結果と操業条件のデータを蓄積し解析していけば、本発明[3]の式(4)を満たすための操業条件を明らかにすることが可能である。そのような条件が明らかになった後は、その適正条件に基づいて本発明による製造方法を実施すれば良い。
【0114】
ただし、鋳片断面の介在物と異なり、REM添加前であるから、REM含有介在物は生成していないと考えられる。また、Caは、通常、二次精錬の最後の時期、すなわちREM添加後に添加する。そのため、Caを意図的に添加する溶鋼を溶製する場合であっても、REM添加前溶鋼にはCaも添加されていないことが一般的であり、そのため、CaOやCaSも生成していないと考えられる。しかし、何らかの理由で不純物成分として混入し、少量のREMやCaが検出される場合も想定される。その場合であっても、鋳片断面介在物と同様に、前記「3)介在物の組成の算出方法」に記載した式を用いて、REM添加前溶鋼サンプル中の介在物の断面平均組成を求めることができるので、サンプル中に存在する介在物の(ZrO)、(Al)、(REM)、(REMS)、(CaO)、(CaS)の含有量(いずれも質量%)とする。
このようにして求めたREM添加前溶鋼サンプル中の介在物組成のうち、(Al)と(ZrO)を用いて、本発明[3]の式(4)を算出すれば良い。
【0115】
凝集合体抑制に有効なAl-ZrO系複相酸化物は、AlとZrOの両相が存在することが必要であるので、(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100=1~99であることが条件である。好ましくは25~75であり、40~60であるとさらに好ましい。ZrO含有率(質量%)が50%前後でピークを示すからである。
1≦(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100≦99 (REM添加前のAl-ZrO系複相酸化物)・・・(4)
(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100=1~99であるAl-ZrO系複相酸化物は、溶鋼中で凝集合体を抑制できるので多数が分散して分布することになる。この後にREMを添加すれば、REM酸化物を含有するREM-ZrO-Al系介在物を多数生成することができる。
【0116】
REM添加前に、1≦(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100≦99であるAl-ZrO系複相酸化物を生成するための条件は式(1)(質量比)で規定される。
[Zr]/[Al]≧0.5 ・・・(1)
ここで、[Zr]、[Al]はそれぞれ鋼中Zr、Al含有量(質量%)を意味する。
【0117】
(2)REM添加時のZrO還元
ZrOの還元を起こすことによって、REM単相の接種効果が大きく向上することを新たに見出した。強脱酸元素であるREMの添加によりZrOが還元されると、溶鋼中の溶存Zrが増加するが、単に、REM添加後の溶鋼にZrを添加して、溶存Zrを増やすだけでは、接種効果はほとんど向上しない。少なくとも一部のZrOを還元することが重要であることが分かった。ZrOが全量還元された場合、鋳片の介在物中にはZrOが含有されないことになる。鋼中成分のtotal.[Zr]は変わらない。
【0118】
ZrOの還元を起こすことによって、REM単相(REMS単相部を含む)の接種効果が顕著に向上する機構の詳細は不明であるが、ZrOの還元により、REM含有介在物の周囲に、溶存Zrの高濃度境界層が形成されることが寄与していると推定している。Zrは炭窒化物、ZrCやZrNの形成元素であるので、溶存Zrの高濃度境界層が、REM単相(REMS単相部を含む)が有するNbTi炭窒化物接種効果を促進すると推定している。
【0119】
上式(1)を満たすことで、REM添加前にAl-ZrO系介在物を形成できるので、この後にREM添加すれば、ZrOを還元することができる。このZrO還元による接種効果の向上に加えて、前述したAl-ZrO系介在物の凝集合体の抑制、ひいては、REM添加後の接種核の個数密度を確保する効果も併せて得られる。
【0120】
(REM添加前の介在物組成)
溶鋼にAlを添加して脱酸を行うAl脱酸工程の後にZrを添加して、生成するAl-ZrO系複相介在物の組成を(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100=1~99とする。
【0121】
AlとZrOの両相が存在することが凝集合体抑制に有効必要であるので、(ZrO)/{(Al)+(ZrO)}×100=1~99であることが条件である。好ましくは25~75であり、40~60であるとさらに好ましい。ZrO含有率が50%前後でピークを示すからである。
【0122】
(REM添加方法)
REMは、合金でないREM単体(金属REM)のほか、Fe-Si-REM合金やミッシュメタル等のREM含有合金の形で添加すればよい。ミッシュメタルとは希土類元素の混合物であり、主成分はCe、La、Nd、およびPrである。具体的には、Ceを40~50%程度、Laを20~40%程度含有するものが多い。例えば、Ce45%、La35%、Nd9%、Pr6%、他不純物からなるミッシュメタルが入手できる。本発明では、鋳片に含有されるこれら希土類元素の合計量をREM含有量とする。
【0123】
添加するREM合金の組成、粒状か塊状かなどの合金の形状やサイズは特に限定しない。Fe-Si-REM合金粉末等を細いパイプに封入したワイヤーも使用できる。
【0124】
以上説明したように、前述の本発明の鋳片の化学成分を含有し、さらに前述の脱酸順序を履行することにより、本発明のREM含有介在物の平均組成について前記式(2)、式(3)を具備するとともに、REM含有介在物の好適な個数密度を実現することが可能となる。鋳片のREM含有量を前記本発明範囲内で高めの値とすることにより、確実に式(2)を満たすことが可能となる。
【実施例0125】
高炉溶銑を原料とし、溶銑予備処理、転炉における脱炭処理の後、取鍋精錬で成分調整を行って溶鋼300トンを溶製した。
【0126】
取鍋精錬では、まずAlを添加して脱酸を行い、次にZrを添加した(Al、Zr、REMの添加順序を変えた一部の実施例を除く)。Ti、Nbを含むREM以外のその他の元素を添加し成分を調整した後、成分均一化のため、3分間以上保持した。この段階で溶鋼サンプルを採取した。取鍋精錬の最後に、REMを添加し、均一に混合するために3分間以上保持した。REMはミッシュメタルを用いた。このミッシュメタルに含まれるREM元素は、Ce50%、La25%、Nd10%、Pr5%(いずれも質量%)であり、残部が不純物であった。よって、得られた鋳片に含まれる各REM元素の比率は、上記した各REM元素の比率とほぼ同一となった。
【0127】
Caを添加する場合は、REM添加後に行った。Caは蒸気圧が高いため、歩留を上げるためにCa-Si合金を添加した。
【0128】
精錬後の上記溶鋼を連続鋳造により厚み250mm、幅1500mmの鋳片を製造した。本発明の効果を明確にするため、凝固末期軽圧下は行わなかった。
【0129】
(溶鋼サンプルの評価方法)
取鍋精錬中、REM添加前に採取した溶鋼サンプルについて、介在物の組成評価を行った。評価方法は前述のとおりであり、サンプルごとに、介在物の(ZrO)、(Al)、(REM)、(REMS)、(CaO)、(CaS)の含有量(いずれも質量%)を評価した。結果を表3、表4に示す。
【0130】
(鋳片の評価方法)
鋳片の上下の広面に平行な、1/2厚断面(Z断面)を観察面として評価した。一部試料では、鋳片上下の広面に垂直、かつ、鋳造方向に平行な厚み断面(L断面)、あるいは、鋳片上下の広面に垂直、かつ、鋳造方向に垂直な厚み断面(C断面)でも評価し、いずれの面でも同様の結果であることを確認した。
【0131】
REM含有介在物のサイズ、個数密度、組成は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて評価した。倍率は1000~10000倍で、1mmを観察した。介在物の組成は、SEM付属のEDS(エネルギー分散型X線分析装置)を用いて分析した。検出元素のうち、Ce、La、Nd、およびPrの合計値をREM分析値とした。鋳片断面で観察される介在物のうち、REMを含有する介在物を「REM含有介在物」とし、REM含有介在物のうち、REM、Al、Zr、Caの少なくとも一種以上を含む相のみから成る領域(部分)を評価対象部分とした。
【0132】
REM含有介在物の評価対象部分のサイズは、SEM像を画像解析して円相当径を算出した。REM含有介在物の個数密度は、評価対象部分の円相当径が1~10μmであるものが10個/mm以上分布している場合を合格とした。
【0133】
REM含有介在物の評価対象部分の円相当径が1μm以上10μm以下であると認められたもののうち、任意の10個を抽出した。抽出した各々のREM含有介在物の評価対象部分の元素断面平均組成を分析し、各々の元素含有量平均値に基づいて、REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの換算含有量を算出し、前記REM、REMS、Al、ZrO、CaO、CaSの含有量の合計を100質量%として、前記10個のREM含有介在物の平均組成を算出した。
【0134】
NbTi炭窒化物最大サイズは、同じ観察断面で、NbTi炭窒化物を観察し、長さが最大となる方向の長さを、個々の炭窒化物の長さとした。そして、観察断面に含まれる全NbTi炭窒化物のうちの最大値を求めた。最大値が50μm以下を合格基準とした。
【0135】
(実施例評価結果)
実施例の結果を表1~表4に示す。表1~表4において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
No.1~36は、本発明の実施例である。Al脱酸後にZrを添加して、Al-ZrO系複相酸化物を生成した後に、REMを添加した。Al、Zr、REM以外の合金成分は、主に、Zr添加後に添加した。Alの凝集合体を抑制するために、Al脱酸後は早期にZr添加して、凝集合体し難いAl-ZrO系複相酸化物を生成することが好ましいためである。REMは歩留り確保のため、二次精錬処理末期に添加することが好ましい。なお、成分を微調整するためにREM添加後に、調整成分元素を少量添加した例もある。TiとNbのうち、No.35はTiを添加し、Nbは添加しなかった例である。No.36は、Tiは添加せず、Nbを添加した例である。
【0141】
No.1~36は、本発明の要件を全て満たしているので、REM含有介在物がNbTi炭窒化物の優先核生成サイトとして十分に効果を発揮した。その結果、NbTi炭窒化物の個数密度が多く、個々のサイズが低減した結果、観察されたNbTi炭窒化物の最大サイズは50μm以下であった。
【0142】
No.51~56は、本発明の要件のいずれかを満たさなかった比較例である。
【0143】
No.51は、REM無添加材である。したがって、NbTi炭窒化物の優先核生成サイトとして働くREM酸化物を含有しないためNbTi炭窒化物の個数が少なく、個々の炭窒化物サイズが大きくなり、最大サイズは50μmを超えた。
【0144】
No.52は、鋼中REM濃度が低く、式(2)の中辺の値((REM)eff)が下限の-25を下回った比較例である。その結果、REM含有介在物のNbTi炭窒化物の優先核生成サイトとしての効果が不十分となったので、NbTi炭窒化物を多数分散させることができず、個々の炭窒化物サイズが大きくなり、最大サイズは50μmを超えた。
【0145】
No.53と54は、鋼中Zr量が鋼中Al量の1/2未満で式(1)を満たさなかった比較例である。Zr添加後も、Al-ZrO系複相酸化物が生成せずAlであったため、溶鋼中の介在物組成が式(4)を満たさず、Alの凝集合体が進行して個数が低減した。そのため、鋳片で観察されるREM含有介在物の個数密度が本発明範囲を下限に外れ、NbTi炭窒化物を多数分散させることができず、NbTi炭窒化物のサイズが大きくなり、最大サイズは50μmを超えた。
【0146】
No.55は、鋼中Ca濃度が上限の0.0050%を超えた比較例である。REM含有介在物の平均組成の(CaO)が25%を超えて式(3)を満たさず、液相酸化物が生成する条件となったため、REM含有介在物の周囲が液相酸化物に覆われて、鉄母相と接触しなかった。そのため、REM含有介在物はNbTi炭窒化物の優先核生成サイトとして作用しなかった。その結果、NbTi炭窒化物個数密度が少なくなったので、個々のNbTi炭窒化物サイズが大きくなり、最大サイズは50μmを超えた。
【0147】
No.56は、Al脱酸後にREMを添加して、その後にZrを添加した比較例である。REMを添加する前の溶鋼中介在物がAlであったため、Alの凝集合体が進行して個数が低減した。その結果、その後でREMを添加して生成したREM含有介在物の個数密度が本発明範囲を下限に外れ、No.1~36に比べて少なくなったのでNbTi炭窒化物を多数分散させることができず、個々のNbTi炭窒化物サイズが大きくなり、最大サイズは50μmを超えた。
【産業上の利用可能性】
【0148】
NbとTiのうち少なくとも1種を含有する鋼板では、鋼板中にNbやTiを含有する粗大な炭窒化物が生成すると、粗大炭窒化物が破壊起点となり、靭性や耐水素誘起割れ特性が劣化する。しかし、本発明による炭素鋼鋳片は、中心偏析部に生成するNbやTiを含有する炭窒化物の大きさが低減されているので、本発明の鋳片を素材とすれば、低温靭性や耐水素誘起割れ特性等が優れた鋼板を製造することができる。したがって、船舶、タンク容器、海洋構造物等の構造物に適用される鋼板、およびラインパイプ等の鋼管用途鋼板の素材として好適である。