IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

特開2024-119244樹脂フィルム製造装置及びその制御方法
<>
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図1
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図2
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図3
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図4
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図5
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図6
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図7
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図8
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図9
  • 特開-樹脂フィルム製造装置及びその制御方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119244
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】樹脂フィルム製造装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20240827BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20240827BHJP
   B29C 48/31 20190101ALI20240827BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240827BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/88
B29C48/31
B29C48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026009
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】前西 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 文武
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AG01
4F207AJ08
4F207AR12
4F207AR20
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL76
4F207KL79
4F207KL84
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】優れた樹脂フィルムの製造装置を提供すること。
【解決手段】一実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、樹脂フィルムの製造を開始した際、厚み分布の測定と、当該厚み分布を均一化するための複数のヒータのフィードバック制御を所定サイクル繰り返し、樹脂フィルムの幅方向中央部において、複数のヒートボルトにおける中央ヒートボルトの加熱履歴と最も相関率が高い厚み分布の測定点を、厚み分布において中央ヒートボルトに割り当てる割当範囲の中央位置とし、リップギャップ全体に対する中央ヒートボルトに割り当てられたギャップ領域の面積比と、樹脂フィルムの総断面積に対する割当範囲での樹脂フィルムの断面積の比とが等しくなるように、中央ヒートボルトの中央位置から割当範囲を決定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のリップの長手方向に沿って並べられた複数のヒートボルトと、当該複数のヒートボルトのそれぞれを加熱する複数のヒータとを有し、前記複数のヒートボルトのそれぞれによってリップギャップを調整可能なダイと、
前記リップギャップから押し出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却しつつ、前記溶融樹脂が固化した樹脂フィルムを搬出する冷却ロールと、
前記冷却ロールから搬出された前記樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を測定する厚みセンサと、
前記厚みセンサによって測定された前記厚み分布が均一化するように、前記複数のヒータのそれぞれをフィードバック制御する制御部と、を備え、
前記樹脂フィルムの製造を開始した際、前記制御部は、
前記厚み分布の測定と、当該厚み分布を均一化するための前記複数のヒータのフィードバック制御を所定サイクル繰り返し、
前記樹脂フィルムの幅方向中央部において、前記複数のヒートボルトにおける中央ヒートボルトの加熱履歴と最も相関率が高い前記厚み分布の測定点を、前記厚み分布において前記中央ヒートボルトに割り当てる割当範囲の中央位置とし、
前記リップギャップ全体に対する前記中央ヒートボルトに割り当てられたギャップ領域の面積比と、前記樹脂フィルムの総断面積に対する前記割当範囲での前記樹脂フィルムの断面積の比とが等しくなるように、前記中央位置から前記割当範囲を決定する、
樹脂フィルム製造装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記中央ヒートボルトの前記割当範囲を決定した後、
前記中央ヒートボルトから両端に位置するヒートボルトに向かって順番に、各ヒートボルトの割当範囲が互いに隣接するように、当該割当範囲を決定する、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記樹脂フィルムの製造を開始する前に前記複数のヒータの全てを同一出力とした状態において測定された前記リップギャップを取得し、
取得した当該リップギャップを初期値として、前記割当範囲を決定する際の前記リップギャップを予測する、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記樹脂フィルムの製造を開始する前に前記複数のヒータの全てを同一出力とした状態において測定された前記樹脂フィルムの厚み分布を取得し、
取得した当該樹脂フィルムの厚み分布に基づいて決定した前記リップギャップを初期値として、前記割当範囲を決定する際の前記リップギャップを予測する、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項5】
前記複数のヒートボルトが等間隔に配置されている、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項6】
前記一対のリップの一方のみが、前記複数のヒートボルトに連結されている、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項7】
前記厚みセンサは、前記樹脂フィルムの幅方向に走査されつつ、前記樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を測定する非接触式センサである、
請求項1に記載の樹脂フィルム製造装置。
【請求項8】
一対のリップの長手方向に沿って並べられた複数のヒートボルトと、当該複数のヒートボルトのそれぞれを加熱する複数のヒータとを有し、前記複数のヒートボルトのそれぞれによってリップギャップを調整可能なダイと、
前記リップギャップから押し出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却しつつ、前記溶融樹脂が固化した樹脂フィルムを搬出する冷却ロールと、
前記冷却ロールから搬出された前記樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を測定する厚みセンサと、を備え、
前記厚みセンサによって測定された前記厚み分布が均一化するように、前記複数のヒータのそれぞれをフィードバック制御する樹脂フィルム製造装置の制御方法であって、
前記樹脂フィルムの製造を開始した際、コンピュータが、
(a)前記厚み分布の測定と、当該厚み分布を均一化するための前記複数のヒータのフィードバック制御を所定サイクル繰り返す工程と、
(b)前記樹脂フィルムの幅方向中央部において、前記複数のヒートボルトにおける中央ヒートボルトの加熱履歴と最も相関率が高い前記厚み分布の測定点を、前記厚み分布において前記中央ヒートボルトに割り当てる割当範囲の中央位置とする工程と、
(c)前記リップギャップ全体に対する前記中央ヒートボルトに割り当てられたギャップ領域の面積比と、前記樹脂フィルムの総断面積に対する前記割当範囲での前記樹脂フィルムの断面積の比とが等しくなるように、前記中央位置から前記割当範囲を決定する工程と、を備える、
樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項9】
工程(c)の後、
(d)前記中央ヒートボルトから両端に位置するヒートボルトに向かって順番に、各ヒートボルトの割当範囲が互いに隣接するように、当該割当範囲を決定する工程をさらに備える、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項10】
前記樹脂フィルムの製造を開始する前に前記複数のヒータの全てを同一出力とした状態において測定された前記リップギャップを取得し、
取得した当該リップギャップを初期値として、工程(c)において前記割当範囲を決定する際の前記リップギャップを予測する、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項11】
前記樹脂フィルムの製造を開始する前に前記複数のヒータの全てを同一出力とした状態において測定された前記樹脂フィルムの厚み分布を取得し、
取得した当該樹脂フィルムの厚み分布に基づいて決定した前記リップギャップを初期値として、工程(c)において前記割当範囲を決定する際の前記リップギャップを予測する、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項12】
工程(a)から工程(d)までを複数回繰り返す、
請求項9に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項13】
前記複数のヒートボルトが等間隔に配置されている、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項14】
前記一対のリップの一方のみが、前記複数のヒートボルトに連結されている、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【請求項15】
前記厚みセンサは、前記樹脂フィルムの幅方向に走査されつつ、前記樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を測定する非接触式センサである、
請求項8に記載の樹脂フィルム製造装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂フィルム製造装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、発明者らは、押出機に連結されたダイのリップの隙間(リップギャップ)からフィルム状の溶融樹脂を押し出す樹脂フィルム製造装置及びその制御方法を開発してきた。このような樹脂フィルム製造装置では、製造される樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を均一化することが求められている。
【0003】
そのため、特許文献1に開示されているように、このような樹脂フィルム製造装置のダイには、リップの長手方向(すなわち樹脂フィルムの幅方向に対応)に沿って並んだ複数のヒートボルトが設けられている。樹脂フィルムの幅方向の厚み分布を測定し、厚み分布が均一化するように、各ヒートボルトのヒータによる熱膨張量を個別にフィードバック制御する。すなわち、厚み分布が均一化するように、ダイのリップギャップを局所的にフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-152097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、複数のヒートボルトを有するダイを備え、各ヒートボルトのヒータによる熱膨張量を個別にフィードバック制御可能な樹脂フィルム製造装置の開発に際し、以下の課題を見出した。
【0006】
各ヒートボルトのヒータを個別にフィードバック制御するには、測定する樹脂フィルムの厚み分布において各ヒートボルトに割り当てる範囲(各ヒートボルトが支配的に影響を及ぼす範囲)を決定する必要がある。当該範囲は、樹脂フィルムの種類や製造条件等によって変化するため、樹脂フィルムの製造を開始する度に当該範囲を決定する必要がある。発明者らがこれまで行ってきた決定手法では、長時間を要すると共に多量の樹脂材料を浪費していた。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、樹脂フィルムの製造を開始した際、
厚み分布の測定と、当該厚み分布を均一化するための複数のヒータのフィードバック制御を所定サイクル繰り返し、
樹脂フィルムの幅方向中央部において、複数のヒートボルトにおける中央ヒートボルトの加熱履歴と最も相関率が高い厚み分布の測定点を、厚み分布において中央ヒートボルトに割り当てる割当範囲の中央位置とし、
リップギャップ全体に対する中央ヒートボルトに割り当てられたギャップ領域の面積比と、樹脂フィルムの総断面積に対する割当範囲での樹脂フィルムの断面積の比とが等しくなるように、中央ヒートボルトの中央位置から割当範囲を決定する。
【発明の効果】
【0008】
前記一実施形態によれば、優れた樹脂フィルムの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置及び樹脂フィルム製造方法の全体構成を示す模式的断面図である。
図2】Tダイ20の断面図である。
図3】Tダイ20の下側(リップ側)の部分斜視図である。
図4】第1の実施形態に係る制御部70の構成を示すブロック図である。
図5】第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置の制御方法を示すフローチャートである。
図6】比較例に係る樹脂フィルムの厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法を示す模式的なフローチャートである。
図7】第1の実施形態に係る樹脂フィルムの厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法を示すフローチャートである。
図8図7に示すステップS13を説明するための概念図である。
図9】第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置が奏する効果を模式的に示すグラフである。
図10】第2の実施形態に係る制御部70の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0011】
(第1の実施形態)
<樹脂フィルム製造装置及び樹脂フィルム製造方法の全体構成>
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置及び樹脂フィルム製造方法の全体構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置及び樹脂フィルム製造方法の全体構成を示す模式的断面図である。
【0012】
なお、当然のことながら、図1及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
また、本明細書において、樹脂フィルムは樹脂シートを含む。
【0013】
図1に示すように、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置は、押出機10、Tダイ20、冷却ロール30、搬送ロール群40、巻取機50、厚みセンサ60、制御部70を備えている。第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置は、押出機10に連結されたTダイ20のリップギャップからフィルム状溶融樹脂82aを押し出す押出成形タイプの樹脂フィルム製造装置である。
【0014】
押出機10は、例えばスクリュー式押出機である。図1に例示した押出機10では、x軸方向に延設されたシリンダ11の内部にx軸方向に延設されたスクリュー12が収容されている。シリンダ11のx軸負方向側端部の上側に、樹脂フィルム83の原料である樹脂ペレット81を投入するためのホッパ13が設けられている。
【0015】
ホッパ13から供給された樹脂ペレット81は、回転するスクリュー12の根元から先端に向かって、すなわちx軸正方向に押し出される。樹脂ペレット81は、シリンダ11の内部において回転するスクリュー12によって圧縮され、溶融樹脂82に変化する。
なお、図示しないが、スクリュー12には、例えば、減速機を介してモータが駆動源として連結される。
【0016】
図1に示すように、Tダイ20は、押出機10の先端部(x軸正方向側端部)の下側に連結されている。Tダイ20の下端に位置するリップギャップからフィルム状溶融樹脂82aが下向き(z軸負方向)に押し出される。ここで、Tダイ20のリップギャップは調整可能である。詳細には後述するように、製造される樹脂フィルム83の幅方向(y軸方向)における厚みが均一になるように、リップの長手方向(y軸方向)に沿った複数箇所において、Tダイ20のリップギャップが調整可能である。
【0017】
冷却ロール30は、Tダイ20から押し出されたフィルム状溶融樹脂82aを冷却しつつ、フィルム状溶融樹脂82aが固化した樹脂フィルム83を搬出する。冷却ロール30から搬出された樹脂フィルム83は、搬送ロール群40を介して搬送され、巻取機50によって巻き取られる。図1の例では、搬送ロール群40は、8個の搬送ロール41~48を備えている。搬送ロールの個数、配置は適宜決定される。
【0018】
厚みセンサ60は、例えば非接触式の厚みセンサであって、冷却ロール30から搬出された搬送中の樹脂フィルム83の幅方向の厚み分布を測定する。図1の例では、厚みセンサ60は、搬送ロール44、45の間において水平に搬送される樹脂フィルム83を上下から挟むように配置されている。厚みセンサ60は、非接触式センサであるため、樹脂フィルム83の幅方向(y軸方向)に走査させることができる。そのため、コンパクトな厚みセンサ60によって、樹脂フィルム83の幅方向の厚み分布を測定することができる。また、樹脂フィルム83が水平に搬送されているため、厚みセンサ60を走査させても精度良く厚み分布を測定することができる。
【0019】
図1に示すように、制御部70は、樹脂フィルム83を製造する際、厚みセンサ60から取得した樹脂フィルム83の厚み分布に基づいて、Tダイ20のリップギャップをフィードバック制御する。
より詳細には、制御部70は、樹脂フィルム83の厚み分布が均一化するように、後述する図2図3に示すTダイ20における各ヒートボルトHBのヒータ24を個別にフィードバック制御する。その際、制御部70は、ヒータ24の制御条件を学習する。
【0020】
ここで、後述する図2図3に示す各ヒートボルトHBのヒータ24を個別にフィードバック制御するには、厚みセンサ60によって測定する樹脂フィルム83の厚み分布において各ヒートボルトHBに割り当てる範囲(以下、割当範囲という)を決定する必要がある。
【0021】
そのため、制御部70は、樹脂フィルム83の製造を開始した際、厚み分布を測定し、当該厚み分布を均一化するための各ヒートボルトHB(すなわち各ヒータ24)のフィードバック制御を所定サイクル繰り返す。その後、樹脂フィルム83を製造しつつ、樹脂フィルム83の厚み分布における各ヒートボルトHBの割当範囲を決定する。
なお、制御部70のより詳細な構成及び動作(学習を伴うフィードバック制御及び厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定)については、後述する。
【0022】
<Tダイ20の構成>
ここで、図2図3を参照して、Tダイ20の構成についてより詳細に説明する。図2は、Tダイ20の断面図である。また、図3は、Tダイ20の下側(リップ側)の部分斜視図である。
【0023】
図2図3に示すように、Tダイ20は、突き合わせられた一対のダイブロック21、22からなる。突き合わせられた一対のダイブロック21、22は、いずれも外側面から内側面(突き合わせ面)に向かって下方向に傾斜したテーパー部が設けられている。すなわち、ダイブロック21、22の突き合わせ面の下端部には、薄肉のリップ21a、22aが設けられている。
【0024】
図2に示すように、一対のダイブロック21、22の突き合わせ面には、導入口20a、マニホールド20b、及びスリット20cが形成されている。導入口20aは、Tダイ20の上面から下方向(z軸負方向)に延設されている。マニホールド20bは、導入口20aの下端からy軸正方向及びy軸負方向に延設されている。このように、Tダイ20では、導入口20aとマニホールド20bとがT字状に形成されている。
【0025】
さらに、図2に示すように、マニホールド20bの底面からTダイ20の下面に至るスリット20cがy軸方向に延設されている。溶融樹脂82は、導入口20a及びマニホールド20bを介してスリット20c(リップ21a、22aの隙間であるリップギャップ)から下方向に押し出される。
【0026】
図2に示すように、リップ21aは動かない固定リップであるのに対し、リップ22aはヒートボルトHBに連結された可動リップである。リップ22aには、外側面から突き合わせ面に向かって斜め上方向に切り欠き溝22bが形成されている。リップ22aは、ヒートボルトHBによって押し引きされ、切り欠き溝22bの底部を支点として動くことができる。このように、リップ22aのみが可動リップであるため、簡易な構成によって容易にリップギャップを調整することができる。
【0027】
図2に示すように、ヒートボルトHBは、ダイブロック22のテーパー部に沿って、斜め上方向に延設されている。ヒートボルトHBは、ダイブロック22に固定されたホルダー25a、25bによって支持されている。より詳細には、ヒートボルトHBは、ホルダー25aに形成されたねじ穴にねじ止めされている。ヒートボルトHBの締め込み量は適宜調整することができる。他方、ヒートボルトHBは、ホルダー25bに形成された貫通孔に挿通されているが、ホルダー25bには固定されてない。なお、ホルダー25a、25bは、ダイブロック22と別体でなく、一体に形成されていてもよい。
【0028】
ここで、図3に示すように、複数のヒートボルトHBが、リップ21a、22aの長手方向(y軸方向)に沿って1列に並べられている。リップ21a、22aの長手方向は、樹脂フィルムの幅方向に対応する。図3に示す例では、模式的に3本のヒートボルトHBが設けられているが、通常はより多くのヒートボルトHBが設けられている。
【0029】
ここで、中央に位置するヒートボルトCHは、便宜的に中央ヒートボルトCHBとして区別する。
なお、ヒートボルトHBの本数は、通常奇数であるが、偶数でもよい。その場合、中央ヒートボルトCHBは中央の2本のいずれかとすればよい。図3に示すヒートボルトHBは、等間隔に配置されているが、等間隔に配置されていなくてもよい。
【0030】
ヒータ24は、ヒートボルトHBを加熱するためにヒートボルトHB毎に設けられている。図2図3に示した例では、ホルダー25a、25bの間において、各ヒートボルトHBの外周面を覆うように、ヒータ24が設けられている。ヒートボルトHBを締め込むことによって、ヒートボルトHBの下端面によってリップ22aを押すことができる。さらに、ヒートボルトHBの下端部は、リップ22aに固定された断面U字状の連結部材26によってリップ22aに連結されている。そのため、ヒートボルトHBを緩めることによって、連結部材26を介してリップ22aを引くこともできる。
【0031】
ヒートボルトHBの締め込み量によってリップギャップを調整することができる。具体的には、ヒートボルトHBの締め込み量を増加させると、ヒートボルトHBがリップ22aを押し、リップギャップが狭くなる。反対に、ヒートボルトHBの締め込み量を減少させると、リップギャップが広くなる。ヒートボルトHBの締め込み量は、例えば手動により調整される。
【0032】
さらに、ヒータ24によるヒートボルトHBの熱膨張量によって、リップギャップを微調整することができる。具体的には、ヒータ24の加熱温度を上昇させると、ヒートボルトHBの熱膨張量が増加するため、ヒートボルトHBがリップ22aを押し、リップギャップが狭くなる。反対に、ヒータ24の加熱温度を低下させると、ヒートボルトHBの熱膨張量が減少するため、リップギャップが広くなる。各ヒートボルトHBの熱膨張量すなわち各ヒータ24の加熱は、制御部70によって制御される。
【0033】
<制御部70の構成>
次に、図4を参照して、第1の実施形態に係る制御部70の構成についてより詳細に説明する。図4は、第1の実施形態に係る制御部70の構成を示すブロック図である。図4に示すように、第1の実施形態に係る制御部70は、状態観測部71、制御条件学習部72、記憶部73、制御信号出力部74を備えている。
【0034】
なお、制御部70を構成する各機能ブロックは、ハードウェア的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現することができる。従って、各機能ブロックは、コンピュータのハードウェアやソフトウェアやそれらの組み合わせによって色々な形態で実現できる。
【0035】
状態観測部71は、厚みセンサ60から取得した樹脂フィルム83の厚み分布の測定値pvから、ヒートボルトHB毎の制御偏差を算出する。制御偏差は、目標値と測定値pvとの差分である。ここで、目標値は、全ヒートボルトHBにおいて、厚みセンサ60によって測定された樹脂フィルム83の厚み分布の測定値pvの平均値である。
なお、測定値pvの平均値を求める際、製品として利用しない樹脂フィルム83の両端部の測定値については除外してもよい。
【0036】
他方、各ヒートボルトHBの測定値pvは、各ヒートボルトHBに割り当てられた測定点における厚み測定値pvから定まる。例えば、各ヒートボルトHBの測定値pvは、各ヒートボルトHBに割り当てられた測定点における厚み測定値pvの平均値である。あるいは、各ヒートボルトHBに割り当てられた測定点において、目標値との差分が最大の厚み測定値pvを各ヒートボルトHBの測定値pvとしてもよい。
【0037】
そして、状態観測部71は、各ヒートボルトHBについて、算出した制御偏差に基づいて、現在の状態stと以前(例えば前回)に選択した行動acに対する報酬rwとを決定する。
状態stは、無限に取り得る制御偏差の値を有限個に区分するために予め設定されている。説明のための簡易な例としては、制御偏差errとした場合、-0.9μm≦err<-0.6μmを状態st1、-0.6μm≦err<-0.3μmを状態st2、-0.3μm≦err<0.3μmを状態st3、0.3μm≦err<0.6μmを状態st4、0.6μm≦err≦0.9μmを状態st5などと設定される。実際には、より細分化された多数の状態stが設定される場合が多い。
【0038】
報酬rwは、以前の状態stにおいて選択した行動acを評価するための指標である。
具体的には、算出した現在の制御偏差の絶対値が、以前の制御偏差の絶対値よりも小さくなっていれば、状態観測部71は、以前に選択した行動acが適切であると判断し、例えば報酬rwを正の値とする。換言すると、以前と同じ状態stにおいて前回選択した行動acが再度選択され易くなるように、報酬rwが決定される。
【0039】
反対に、算出した現在の制御偏差の絶対値が、以前の制御偏差の絶対値よりも大きくなっていれば、状態観測部71は、以前に選択した行動acが不適切であると判断し、例えば報酬rwを負の値とする。換言すると、以前と同じ状態stにおいて前回選択した行動acが再度選択され難くなるように、報酬rwが決定される。
なお、報酬rwの具体例については後述する。また、報酬rwの値は適宜決定することができる。例えば、報酬rwの値が常に正の値であってもよく、報酬rwの値が常に負の値であってもよい。
【0040】
制御条件学習部72は、各ヒートボルトHBについて、強化学習を行う。具体的には、制御条件学習部72は、制御条件(学習結果)を報酬rwに基づいて更新すると共に、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する。制御条件は、状態stと行動acとの組み合わせである。上述の状態st1~st5に対応した簡易な制御条件(学習結果)を表1に示す。図4の例では、制御条件学習部72は、更新した制御条件ccを例えばメモリである記憶部73に格納すると共に、記憶部73から制御条件ccを読み出して更新する。
【0041】
【表1】
【0042】
表1は、強化学習の一例であるQ学習による制御条件(学習結果)を示している。表1の最上行には上述の5つの状態st1~st5が示されている。すなわち、2~6列目の各列が5つの状態st1~st5を示している。他方、表1の最左列には4つの行動ac1~ac4が示されている。すなわち、2~5列目の各行が、4つの行動ac1~ac4を示している。
【0043】
ここで、表1の例では、ヒータ24への出力(例えば電圧)を1%減らす行動を行動ac1(出力変化:-1%)と設定している。ヒータ24への出力を維持する行動を行動ac2(出力変化:0%)と設定している。ヒータ24への出力を1%増やす行動を行動ac3(出力変化:+1%)と設定している。ヒータ24への出力を1.5%増やす行動を行動ac4(出力変化:+1.5%)と設定している。表1の例は、あくまでも説明のための簡易な例であって、実際には、より細分化された多数の行動acが設定される場合が多い。
【0044】
表1において状態stと行動acとの組み合わせから定まる値は、価値Q(st、ac)と呼ばれる。価値Qは、初期値が与えられた後、公知の更新式を利用して報酬rwに基づいて順次更新される。価値Qの初期値は、例えば図4に示す学習条件に含まれる。学習条件は、例えば作業者によって入力される。価値Qの初期値は記憶部73に格納されていてもよく、例えば過去の学習結果を初期値として用いてもよい。また、図4に示す学習条件には、例えば表1に示した状態st1~st5及び行動ac1~ac4も含まれる。
【0045】
表1における状態st4を例に、価値Qについて説明する。状態st4では、制御偏差が0.3μm以上0.6μm未満であるため、対象ヒートボルトHBにおけるリップギャップが広過ぎる。そのため、対象ヒートボルトHBを加熱するヒータ24への出力を増やし、対象ヒートボルトHBの熱膨張量を増加させる必要がある。従って、制御条件学習部72による学習の結果、ヒータ24への出力を増加させる行動ac3、ac4の価値Qが大きくなっている。一方、ヒータ24への出力を維持する行動ac2及びヒータ24への出力を減少させる行動ac1の価値Qは小さくなっている。
【0046】
表1の例において、例えば制御偏差が0.4μmである場合、状態stは状態st4である。そのため、制御条件学習部72は、状態st4において価値Qが最大であって最適な行動ac4を選択し、制御信号出力部74へ出力する。
制御信号出力部74は、入力された行動ac4に基づいて、ヒータ24へ出力する制御信号ctrを1.5%増やす。制御信号ctrは例えば電圧信号である。
【0047】
そして、次回の制御偏差の絶対値が今回の制御偏差の絶対値0.4μmよりも小さければ、状態観測部71は、今回の状態st4における行動ac4の選択が適切であると判断し、正の値の報酬rwを出力する。そのため、制御条件学習部72は、状態st4における行動ac4の価値+5.6を報酬rwに応じて増やすように制御条件を更新する。その結果、状態st4の場合、制御条件学習部72は、引き続き行動ac4を選択する。
【0048】
一方、次回の制御偏差の絶対値が今回の制御偏差の絶対値0.4μmよりも大きければ、状態観測部71は、今回の状態st4における行動ac4の選択が不適切であると判断し、負の値の報酬rwを出力する。そのため、制御条件学習部72は、状態st4における行動ac4の価値+5.6を報酬rwに応じて減らすように制御条件を更新する。その結果、状態st4における行動ac4の価値が行動ac3の価値+5.4よりも小さくなると、状態st4の場合、制御条件学習部72は、行動ac4に代えて行動ac3を選択する。
【0049】
なお、制御条件を更新するタイミングは、次回に限らず、タイムラグなどを考慮して適宜決定すればよい。また、学習初期段階では、学習を促進するために、ランダムに行動acを選択してもよい。さらに、表1では、簡易なQ学習による強化学習について説明したが、学習アルゴリズムについては、Q学習、AC(Actor-Critic)法、TD学習、モンテカルロ法など様々あるが、何ら限定されるものではない。例えば、状態st及び行動acの数が増えて組み合わせ爆発が発生する場合は、AC法などを用いるなど状況によって選定すればよい。
【0050】
また、AC法では、方策関数として確率分布関数を用いる場合が多い。その確率分布関数は、正規分布関数に限らず、例えば、簡単化を目的としてシグモイド関数、ソフトマックス関数などを用いてもよい。シグモイド関数は、ニューラルネットワークで最も使用される関数である。強化学習は、ニューラルネットワークと同じ機械学習の1つであるため、シグモイド関数を採用できる。また、シグモイド関数は、関数自体も簡単であり、扱い易いという利点もある。
以上の通り、学習アルゴリズムや用いる関数は様々であるが、プロセスに対して最適なものを適宜選定すればよい。
【0051】
以上に説明した通り、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、PID制御を用いていないため、そもそもプロセス条件の変更に伴うパラメータ調整が不要である。また、制御部70が、強化学習によって、制御条件(学習結果)を報酬rwに基づいて更新すると共に、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する。そのため、プロセス条件を変更した場合でも、調整に要する時間及び樹脂材料を抑制することができる。
【0052】
<樹脂フィルム製造装置の制御方法>
次に、図5を参照して、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置の制御方法の詳細について説明する。図5は、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置の制御方法を示すフローチャートである。図5の説明においては、図4も適宜参照する。
【0053】
まず、図5に示すように、図4に示した制御部70の状態観測部71は、ヒートボルトHB毎に、樹脂フィルム83の厚み分布から制御偏差を算出する。そして、算出した制御偏差に基づいて、現在の状態stと以前に選択した行動acに対する報酬rwとを決定する(ステップS1)。なお、制御開始時には、以前(例えば前回)に選択した行動acが存在せず、報酬rwを決定することができないため、現在すなわち制御開始時の状態stのみを決定する。
【0054】
次に、制御部70の制御条件学習部72は、状態stと行動acとの組み合わせである制御条件を報酬rwに基づいて更新する。そして、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する(ステップS2)。なお、制御開始時には、制御条件は初期値のまま更新されないが、制御開始時の状態stに対応した最適な行動acを選択する。
そして、制御部70の制御信号出力部74は、制御条件学習部72が選択した最適な行動acに基づいて、ヒータ24に制御信号ctrを出力する(ステップS3)。
【0055】
樹脂フィルム83の製造が終了していなければ(ステップS4NO)、ステップS1に戻って制御を継続する。一方、樹脂フィルム83の製造が終了したら(ステップS4YES)、制御を終了する。すなわち、樹脂フィルム83の製造が終了するまで、ステップS1~S3を繰り返す。
【0056】
以上に説明した通り、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、PID制御を用いていないため、そもそもプロセス条件の変更に伴うパラメータ調整が不要である。また、コンピュータを用いた強化学習によって、制御条件(学習結果)を報酬rwに基づいて更新すると共に、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する。そのため、プロセス条件を変更した場合でも、調整に要する時間及び樹脂材料を抑制することができる。
【0057】
なお、制御部70が行う強化学習は必須ではない。すなわち、図1に示すように、制御部70は、厚みセンサ60から取得した樹脂フィルム83の厚み分布が均一化するように、各ヒートボルトHBのヒータ24を個別にフィードバック制御すればよい。
【0058】
<比較例に係る厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法>
次に、図6を参照して、比較例に係る樹脂フィルム83の厚み分布における各ヒートボルトHBの割当範囲の決定方法について説明する。図6は、比較例に係る樹脂フィルムの厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法を示す模式的なフローチャートである。
【0059】
図6上段、中段、下段は、各ヒートボルトHBのヒータ24の出力と樹脂フィルム83のフィルム厚みとの関係を模式的に示すグラフである。各グラフの横軸はヒートボルト番号とそれに対応した樹脂フィルム83の幅方向位置である。
図6に示す比較例では、あくまでも一例として、図3に示すTダイ20が、リップギャップ調整用のヒートボルトHBを39本備えている。
【0060】
まず、図6上段に示すように、各ヒータ出力を同一(例えば50%)とする。
次に、図6中段に示すように、ヒートボルトHBのヒータ出力を8本おきに上げ下げするパターン出力を行う。図6中段に示す例では、1番目、17番目、33番目のヒートボルトHBのヒータ出力を上げ、9番目、25番目のヒートボルトHBのヒータ出力を下げる。
【0061】
ここで、隣接するヒートボルトHBの影響を受けないようにするため、8本おきでパターン出力を行う。8本は一例であるが、間隔を空ける本数が少なくなる程、隣接するヒートボルトHBの影響を受け易くなる。他方、間隔を空ける本数が多くなる程、割当範囲の決定に要する時間及び樹脂材料が増加する。
【0062】
次に、図6下段に示すように、樹脂フィルム83の厚みのデータを取得し、極小値を示した測定点を、1番目、17番目、33番目のヒートボルトHBの割当範囲の中央位置とする。他方、極大値を示した測定点を、9番目、25番目のヒートボルトHBの割当範囲の中央位置とする。
【0063】
次に、図6に示すように、図6中段に戻り、前回とは異なるヒートボルトHBのヒータ出力を8本おきに上げ下げする。具体的には、前回と1本ずつずれた2番目、18番目、34番目のヒートボルトHBのヒータ出力を上げ、10番目、26番目のヒートボルトHBのヒータ出力を下げる。
【0064】
次に、図6下段に示すように、フィルム厚みのデータを取得し、極小値を示した測定点を、2番目、18番目、34番目のヒートボルトHBの割当範囲の中央位置とする。他方、極大値を示した測定点を、10番目、26番目のヒートボルトHBの割当範囲の中央位置とする。
【0065】
このように、ヒートボルトHBのヒータ出力を8本おきに上げ下げするため、図6に示すように、図6中段、下段に示す処理を8回繰り返し、全てのヒートボルトHBの割当範囲の中央位置を決定する。そして、例えば、隣接するヒートボルトHBの割当範囲の中央位置同士の中央を割当範囲の境界線とする。
以上の処理によって、各ヒートボルトHBの割当範囲を決定する。
【0066】
比較例に係る各ヒートボルトHBの割当範囲の決定方法は、樹脂フィルム83を製造する前に実行する必要があり、樹脂フィルム83を製造するためのフィードバック制御と同時に実行できない。そのため、比較例に係る各ヒートボルトHBの割当範囲の決定方法は、長時間を要すると共に多量の樹脂材料を浪費する。
【0067】
<第1の実施形態に係る厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法>
次に、図7を参照して、本実施形態に係る樹脂フィルム83の厚み分布における各ヒートボルトHBの割当範囲の決定方法について説明する。図7は、第1の実施形態に係る樹脂フィルムの厚み分布における各ヒートボルトの割当範囲の決定方法を示すフローチャートである。
なお、図7では、ヒートボルトをHB、中央ヒートボルトをCHBと記載している。
【0068】
まず、図7に示すように、樹脂フィルム83の製造を開始した際、厚み分布を測定し、当該厚み分布を均一化するための各ヒートボルトHB(すなわち各ヒータ24)のフィードバック制御を所定サイクル繰り返す(ステップS11)。サイクル数は、何ら限定されないが、例えば数十回程度である。
なお、樹脂フィルム83の厚み分布における各ヒートボルトHBの割当範囲の初期値は、例えば樹脂フィルム83におけるネックインの影響を考慮した公知の幾何学的な手法等を用いて決定できる。
【0069】
次に、図7に示すように、樹脂フィルム83の幅方向中央部において、中央ヒートボルトCHBの加熱履歴と最も相関率が高い厚み分布の測定点を、厚み分布における中央ヒートボルトCHBの割当範囲の中央位置とする(ステップS12)。すなわち、ステップS11において得られた各サイクルにおける厚み分布及び中央ヒートボルトCHBの加熱履歴に基づいて、中央ヒートボルトCHBの割当範囲の中央位置を決定する。
なお、あくまでも一例として、厚み分布の測定点の間隔は、1mmである。
【0070】
次のステップS13については、図8を参照して説明する。図8は、図7に示すステップS13を模式的に示す概念図である。図8上段は、ヒートボルトHBとリップギャップの関係を示す模式的なグラフである。このグラフの横軸はリップギャップ長手方向位置(図3のx軸)を示し、縦軸はリップギャップ幅(図3のy軸)を示す。図8下段は、樹脂フィルム83の厚み分布を示すグラフである。当該グラフの横軸はフィルム幅方向位置を示し、縦軸はフィルム厚みを示している。
【0071】
ここで、各ヒートボルトHBに割り当てられる樹脂の体積は保持される。
そのため、図8下段に示す樹脂フィルム83の総断面積Sftに対する各ヒートボルトHBの割当範囲での樹脂フィルム83の断面積Sfp(i)の比は、図8上段に示すリップギャップ総面積Sgtに対する各ヒートボルトHBに割り当てられたギャップ領域の面積Sgp(i)の比と等しい。iは、ヒートボルトHBの番号を示し、中央ヒートボルトCHBの番号はi=cとする。
【0072】
そのため、図7のステップS13に示すように、中央ヒートボルトCHBについても、以下の等式が成立する。
CHBの割当範囲での樹脂フィルム断面積Sfp(c)/樹脂フィルム総断面積Sft
=CHBに割り当てられたギャップ領域面積Sgp(c)/リップギャップ総面積Sgt
この関係を利用して、ステップS12において求めた中央位置から中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する(ステップS13)。すなわち、ステップS12において中央ヒートボルトCHBの割当範囲における中央位置を定めた後、ステップS13において当該割当範囲を決定する。
【0073】
図8を参照して、ステップS13についてさらに詳細に説明する。
中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する際の樹脂フィルム83の総断面積Sftは、その際の厚み分布から得られる。具体的には、図8下段のグラフに示すように、樹脂フィルム83の総断面積Sftは、測定されたフィルム厚みのフィルム幅全体における積分値であり、ドット表示されている。
【0074】
また、中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する際のリップギャップ総面積Sgtは、図8上段のグラフに示すリップギャップ幅のリップギャップ長手方向全体における積分値であり、ドット表示されている。図8上段のグラフに示す中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する際のリップギャップは、測定し難いため、例えば、リップギャップの初期値と各ヒートボルトHBの加熱履歴(各ヒータ24の出力履歴)から予測する。
【0075】
ここで、リップギャップの初期値は、フィルム状溶融樹脂82aがリップギャップを通過する前、すなわち樹脂フィルム83の製造開始前に、各ヒータ24を同一出力(例えば50%)とした状態において、リップギャップを測定することによって取得できる。
あるいは、樹脂フィルム83の製造開始前に、各ヒータ24を同一出力(例えば50%)とした状態において、樹脂フィルム83の厚み分布を測定し、当該厚み分布からリップギャップの初期値を算出してもよい。
【0076】
図8上段のグラフに示すように、中央ヒートボルトCHBに割り当てられたギャップ領域(図8上段におけるCHBギャップ領域)は、リップギャップにおいて隣接するヒートボルトHBとの間の中央に位置する一点鎖線に挟まれた領域である。当該ギャップ領域は、図8上段のグラフにおいてハッチングされている。
【0077】
各ヒートボルトHBのギャップ領域の長さ(図8上段に示すグラフの横軸方向の長さ)は、幾何学的に割り当てられ、ヒートボルトHBの加熱よって変化しない。
なお、ヒートボルトHBが等間隔に配置されていれば、各ヒートボルトHBのギャップ領域の長さは、等しくなる。図8上段に示すグラフでは、あくまでも一例として、ヒートボルトHBの間隔すなわちギャップ領域の長さが30mmである。
他方、図8上段のグラフの縦軸に示す中央ヒートボルトCHBのギャップ領域の幅は、中央ヒートボルトCHB及びその近傍のヒートボルトHBの加熱よって変化し得る。
【0078】
中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する際の当該ギャップ領域の面積Sgp(c)は、図8上段のグラフに示すリップギャップ幅の当該ギャップ領域区間における積分値である。上述の通り、図8上段のグラフに示す中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定する際のリップギャップは、測定し難い。そのため、当該ギャップ領域の面積Sgp(c)は、リップギャップ総面積Sgtと同様に、例えば、リップギャップの初期値と各ヒータ24の出力履歴(ヒートボルトHBの加熱履歴)から予測する。
【0079】
以上の通り、樹脂フィルム総断面積Sft、リップギャップ総面積Sgt、及び中央ヒートボルトCHBのギャップ領域面積Sgp(c)は、既知である。そのため、ステップS13に示す等式から、中央ヒートボルトCHBの割当範囲での樹脂フィルム断面積Sfp(c)が得られる。中央ヒートボルトCHBの割当範囲は、得られた樹脂フィルム断面積Sfp(c)の積分区間である。そして、ステップS12において当該積分区間における中央値(割当範囲における中央位置)が既知であるため、中央ヒートボルトCHBの割当範囲が得られる。
【0080】
次に、図7に戻り、ステップS14について説明する。
図7に示すように、中央ヒートボルトCHBの割当範囲を決定したステップS13の後、その他の各ヒートボルトHBの割当範囲を決定する。具体的には、中央ヒートボルトCHBから両端に位置するヒートボルトHBに向かって順番に、各ヒートボルトHBの割当範囲が互いに隣接するように、各ヒートボルトHBの割当範囲を決定する(ステップS14)。
【0081】
ここで、ステップS13において示した中央ヒートボルトCHBと同様に、各ヒートボルトHBについても、以下の等式が成立する。
各HBの割当範囲での樹脂フィルム断面積Sfp(i)/樹脂フィルム総断面積Sft
=各HBに割り当てられたギャップ領域面積Sgp(i)/リップギャップ総面積Sgt
この関係を利用して、ステップS13において求めた中央ヒートボルトCHBの割当範囲から隣接するヒートボルトHBの割当範囲を順次決定できる。
【0082】
以上に説明した通り、本実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、樹脂フィルムの製造を開始した際、厚みセンサによる厚み分布の測定と、当該厚み分布を均一化するための複数のヒータのフィードバック制御を所定サイクル繰り返す。次に、樹脂フィルムの幅方向中央部において、複数のヒートボルトにおける中央ヒートボルトの加熱履歴と最も相関率が高い厚み分布の測定点を、厚み分布において中央ヒートボルトに割り当てる割当範囲の中央位置とする。そして、リップギャップ全体に対する中央ヒートボルトに割り当てられたギャップ領域の面積比と、樹脂フィルムの総断面積に対する割当範囲での樹脂フィルムの断面積の比とが等しくなるように、中央ヒートボルトの中央位置から割当範囲を決定する。
【0083】
ここで、図9は、第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置が奏する効果を模式的に示すグラフである。図9の横軸は時間、縦軸は樹脂フィルム83の厚みバラツキを示す。
図9には、図6に示した割当範囲決定処理を行った比較例と図7に示した割当範囲決定処理を行った実施例が示されている。
【0084】
比較例では、樹脂フィルムを製造するためのフィードバック制御を行う前に、図6に示した割当範囲決定処理を実行する必要がある。すなわち、比較例では、割当範囲決定処理を行う間、樹脂フィルムを製造できない。そのため、図9に示すように、比較例では、割当範囲決定処理に長時間を要すると共に多量の樹脂材料を浪費していた。
【0085】
これに対し、実施例では、樹脂フィルムを製造するためのフィードバック制御を行いつつ(すなわち樹脂フィルムを製造しつつ)、割当範囲決定処理を実行できる。そのため、図9に示すように、実施例では、比較例に比べ、割当範囲決定処理に要する時間及び樹脂材料を劇的に抑制できる。図9に示す例では、割当範囲決定処理を実行する間に、厚みばらつきが許容範囲に収まっている。
【0086】
また、実施例では、樹脂フィルムを製造しつつ、割当範囲決定処理を実行できるため、樹脂フィルムを製造しつつ、割当範囲決定処理を複数回繰り返すこともできる。割当範囲決定処理を複数回繰り返すことによって、樹脂フィルムの製造途中に、より適切な割当範囲に変更できる。なお、比較例では、樹脂フィルムを製造しつつ、割当範囲決定処理を実行することはできないため、樹脂フィルムの製造途中に、より適切な割当範囲に変更できない。
【0087】
(第2の実施形態)
次に、図10を参照して、第2の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置について説明する。第2の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置の全体構成は、図1図3に示した第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置の全体構成と同様であるため、説明を省略する。第2の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置は、制御部70の構成が第1の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置と異なる。
【0088】
図10は、第2の実施形態に係る制御部70の構成を示すブロック図である。図10に示すように、第2の実施形態に係る制御部70は、状態観測部71、制御条件学習部72、記憶部73、PIDコントローラ74aを備えている。すなわち、第2の実施形態に係る制御部70は、図4に示した第1の実施形態に係る制御部70における制御信号出力部74として、PIDコントローラ74aを備えている。PIDコントローラ74aも制御信号出力部の一形態である。
【0089】
状態観測部71は、第1の実施形態と同様に、各ヒートボルトHBについて、算出した制御偏差errに基づいて、現在の状態stと以前に選択した行動acに対する報酬rwとを決定する。そして、状態観測部71は、現在の状態stと報酬rwとを制御条件学習部72に出力する。さらに、第2の実施形態に係る状態観測部71は、算出した制御偏差errをPIDコントローラ74aに出力する。
【0090】
制御条件学習部72も、第1の実施形態と同様に、各ヒートボルトHBについて、強化学習を行う。具体的には、制御条件学習部72は、制御条件(学習結果)を報酬rwに基づいて更新すると共に、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する。ここで、第1の実施形態では、制御条件学習部72が選択する行動acの内容が、ヒータ24への出力を直接変更することである。これに対し、第2の実施形態では、制御条件学習部72が選択する行動acの内容が、PIDコントローラ74aのパラメータを変更することである。
【0091】
図10に示すように、制御条件学習部72から出力された行動acに基づいて、PIDコントローラ74aのパラメータが逐次変更される。他方、PIDコントローラ74aは、入力された制御偏差errに基づいて、ヒータ24へ制御信号ctrを出力する。制御信号ctrは例えば電圧信号である。
その他の構成は、第1の実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0092】
以上に説明した通り、第2の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、PID制御を用いているため、プロセス条件の変更に伴うパラメータ調整が必要である。第2の実施形態に係る樹脂フィルム製造装置では、制御部70が、強化学習によって、制御条件(学習結果)を報酬rwに基づいて更新すると共に、更新された制御条件から現在の状態stに対応した最適な行動acを選択する。ここで、強化学習における行動acが、PIDコントローラ74aのパラメータの変更である。そのため、プロセス条件を変更した場合でも、パラメータ調整に要する時間及び樹脂材料を抑制することができる。
【0093】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0094】
10 押出機
11 シリンダ
12 スクリュー
13 ホッパ
20 Tダイ
20a 導入口
20b マニホールド
20c スリット
21、22 ダイブロック
21a、22a リップ
22b 切り欠き溝
24 ヒータ
25a、25b ホルダー
26 連結部材
30 冷却ロール
40 搬送ロール群
41~48 搬送ロール
50 巻取機
60 厚みセンサ
70 制御部
71 状態観測部
72 制御条件学習部
73 記憶部
74 制御信号出力部
74a PIDコントローラ
81 樹脂ペレット
82 溶融樹脂
82a フィルム状溶融樹脂
83 樹脂フィルム
CH ヒートボルト
CHB 中央ヒートボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10