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  • 特開-粉末消火薬剤 図1
  • 特開-粉末消火薬剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119256
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】粉末消火薬剤
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/00 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A62D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026026
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】藤田 諭
(72)【発明者】
【氏名】大矢 淳之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠登
【テーマコード(参考)】
2E191
【Fターム(参考)】
2E191AA02
2E191AB52
(57)【要約】
【課題】ひとたび金属火災が発生してしまうと鎮火までに相当の時間を要することが多いため、より短時間で金属火災を鎮火させることのできる粉末消火薬剤を提供する。
【解決手段】粉末消火薬剤は、成分中にアルミニウム化合物を二種類以上含む。アルミニウム化合物の例としては、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、及び硫酸アンモニウムアルミニウム等が挙げられる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分中にアルミニウム化合物を二種類以上含むことを特徴とする粉末消火薬剤。
【請求項2】
前記アルミニウム化合物は、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、及び硫酸アンモニウムアルミニウムのうちの二種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の粉末消火薬剤。
【請求項3】
前記アルミニウム化合物は水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムであり、前記水酸化アルミニウムと前記硫酸アルミニウムを各2.0~5.0重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の粉末消火薬剤。
【請求項4】
前記水酸化アルミニウムと前記硫酸アルミニウムの含有量が等しいことを特徴とする請求項3に記載の粉末消火薬剤。
【請求項5】
塩化ナトリウムを84.0~90.0重量%含有することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の粉末消火薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火器、消火装置又は消火設備等に用いる粉末消火薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム、リチウム、マグネシウム等いった可燃性固体が燃焼する金属火災に対しての消火活動においては、カリウム塩やナトリウム塩、黒鉛を主成分とする消火薬剤を用いることが主流である。
また、特許文献1には、酸化ホウ素を主成分とし、主成分の固化防止及び流動性促進剤として疎水性シリカを添加してなる金属火災用消火薬剤が開示されている。
また、特許文献2には、粉末消火剤の主剤及び/または助剤を、5~20個の炭素原子を有するフッ素化脂肪族基を有し水不溶性で主要転移温度が20℃以上の有機フッ素化合物で処理した粉末消火剤が開示され、粉末消火剤の主剤としては、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等、またはそれらと硫酸アルミニウム及び/またはアルミニウムクロロヒドラートとの混合物を用いる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-093537号公報
【特許文献2】特公昭57-11670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひとたび金属火災が発生してしまうと、鎮火までに相当の時間を要することが多い。そこで、本発明は、より短時間で金属火災を鎮火させることのできる粉末消火薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の粉末消火薬剤は、成分中にアルミニウム化合物を二種類以上含むことを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の粉末消火薬剤において、アルミニウム化合物は、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、及び硫酸アンモニウムアルミニウムのうちの二種類以上であることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の粉末消火薬剤において、アルミニウム化合物は水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムであり、水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムを各2.0~5.0重量%含有することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の粉末消火薬剤において、水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムの含有量が等しいことを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項3又は請求項4に記載の粉末消火薬剤において、 塩化ナトリウムを84.0~90.0重量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粉末消火薬剤によれば、より短時間で金属火災を鎮火させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例による粉末消火薬剤を用いた消火実験における消火後の状態を示す外観図
図2】本発明の実施例による粉末消火薬剤を用いた別の消火実験の実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の実施の形態による粉末消火薬剤は、成分中にアルミニウム化合物を二種類以上含むものである。
本実施の形態によれば、従来よりも金属火災の消火完了までの時間を短縮させることができる。
【0009】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による粉末消火薬剤において、アルミニウム化合物は、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、及び硫酸アンモニウムアルミニウムのうちの二種類以上であるものである。
本実施の形態によれば、消火薬剤の毒性が高まること等を防止しつつ、従来よりも金属火災の消火完了までの時間を短縮させることができる。
【0010】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による粉末消火薬剤において、アルミニウム化合物は水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムであり、水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムを各2.0~5.0重量%含有するものである。
本実施の形態によれば、燃焼面を完全に覆って確実に金属火災を消火することができる。
【0011】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による粉末消火薬剤において、水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムの含有量が等しいものである。
本実施の形態によれば、燃焼面を完全に覆ってより確実に金属火災を消火することができる。
【0012】
本発明の第5の実施の形態は、第3又は第4の実施の形態による粉末消火薬剤において、塩化ナトリウムを84.0~90.0重量%含有するものである。
本実施の形態によれば、より確実に金属火災を消火することができる。
【実施例0013】
以下、本発明の一実施例による粉末消火薬剤について説明する。
粉末消火薬剤は、成分中にアルミニウム化合物を二種類以上含む。これにより、従来の粉末消火薬剤よりも金属火災の消火完了までの時間を短縮させることが可能となる。
このアルミニウム化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、又は硫酸アンモニウムアルミニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムが挙げられる。
但し、臭化アルミニウムは湿気と反応して毒性を持つこと、フッ化アルミニウムは毒性を持つこと、硝酸アルミニウムは酸化性固体であること、炭酸アルミニウムは常温にて不安定であること、リン酸アルミニウム及びケイ酸アルミニウムは融点が水酸化アルミニウム等に比べて高いことから、アルミニウム化合物は、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、又は硫酸アンモニウムアルミニウムの中から選択することが好ましい。これにより、粉末消火薬剤の毒性が高まること等を防止しつつ、従来よりも金属火災の消火完了までの時間を短縮させることができる。
【0014】
また、塩化アルミニウムは空気中で発煙すること、ヨウ化アルミニウムは一般工業向けでないこと、モノステアリン酸アルミニウムは価格が水酸化アルミニウム等に比べて高いこと、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、及び硫酸アンモニウムアルミニウムは加熱により硫酸アルミニウムになることから、アルミニウム化合物は、無機化合物である硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムであることが最も好ましい。硫酸アルミニウム及び水酸化アルミニウムは、毒性がなく、融点が基準を満たし、かつ一般工業的に使用されているという特長を有する。
下表1は、アルミニウム化合物として硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを用いる場合の粉末消火薬剤の成分例を示したものである。なお、粉末消火薬剤の製造方法は従来の方法をそのまま適用可能である。
【表1】
【0015】
硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを含有する粉末消火薬剤を用いて実施した消火実験の結果について説明する。
本消火実験においては、下表2に示すように、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムの添加量を各例で変えると共に塩化ナトリウムの量を調節した。なお、表1の成分を有する粉末消火薬剤が表2における第二実施例の粉末消火薬剤に対応する。下表2においては、二酸化ケイ素、シリコーン樹脂、及び着色料を「その他添加剤」として纏めている。
【表2】
【0016】
金属火災は、消火薬剤で燃焼面を覆うこと、すなわち窒息消火させることで消火に至らせることができる。また、火を消すことと、金属の温度を下げて燃焼させなくすることが重要である。そこで、本消火実験における消火のポイントは、「粉末消火薬剤が燃焼面を確実に覆えること、燃焼面が露出しないこと。」、及び「粉末消火薬剤と燃焼している金属が反応せずに爆燃しないこと。」とし、以下を判定項目とした。
1.消火判定:消火=温度降下し、消火する。 不消火=温度降下せず、又は燃焼面露出。
2.爆燃(薬剤反応性):粉末消火薬剤が燃焼物と反応し、一時的に炎が拡大する。
3.消火後の残炎:消火後の炎の有無。
4.燃焼面露出:燃焼面が粉末消火薬剤によって確実に覆われ、消火中に露出しないか。
5.再燃・延焼の恐れ:燃焼面露出又は残炎があることで、再燃又はその他延焼物への延焼懸念。
【0017】
下表3に本消火実験の結果を示す。
【表3】
また、図1は本消火実験における消火後の状態を示す外観図であり、図1(a)は第二実施例のもの、図1(b)は第二比較例のものである。
第一から第四実施例においては、消火判定は「消火」、爆燃(薬剤反応性)判定、消火後の残炎判定、燃焼面露出判定、及び再燃・延焼の恐れ判定は、いずれも「無」となり、図1(a)に示すように、規定量の粉末消火薬剤で問題なく消火できた。
一方、第一比較例においては、消火判定は「不消火」、爆燃(薬剤反応性)判定、及び消火後の残炎判定は「無」、燃焼面露出判定、及び再燃・延焼の恐れ判定は「有」となり、火は消えたものの、燃焼面が露出するという結果であった。
また、第二比較例においては、消火判定は「不消火」、消火後の残炎判定は「無」、爆燃(薬剤反応性)判定、燃焼面露出判定、及び再燃・延焼の恐れ判定は「有」となり、図1(b)に示すように、規定量の粉末消火薬剤では消火困難な結果であった。
【0018】
本消火実験より、粉末消火薬剤に含まれる硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムのそれぞれの割合が1.5重量%及び6.0%の場合(第一、第二比較例の場合)は、燃焼面の露出があり、再燃や延焼の懸念があるが、粉末消火薬剤に含まれる硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムのそれぞれの割合が2.0重量%、3.1重量%、4.0重量%、及び5.0重量%の場合(第一から第四実施例の場合)は、燃焼面を完全に覆って確実に金属火災を消火できることが分かる。よって、アルミニウム化合物として水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムを用いる場合は、それらを各2.0~5.0重量%ずつ配合することが好ましい。
また、水酸化アルミニウムと硫酸アルミニウムの含有量は、等しいことが好ましい。なお、ここでの「等しい」は厳密な意味ではなく、例えば一方が3.1重量%で他方が3.0重量%というように、多少の誤差はあってよい。
また、塩化ナトリウムを84.0~90.0重量%含有することで、より確実に金属火災を消火することができる。
【0019】
次に、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを含有する粉末消火薬剤を用いて実施した別の消火実験の結果について説明する。
本消火実験においては、ナトリウム火災、リチウム火災、及びマグネシウム火災のそれぞれに対し、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを添加した粉末消火薬剤(第二実施例)と、それらを添加していない粉末消火薬剤(第三から第五比較例)を用いた場合について、消火開始してから所定温度に下がるまでの時間等を観察した。
第三比較例の粉末消火薬剤は、本件出願人の製品であり、アルカリ金属塩類を80~90重量%、チオ尿素を3.1重量%、ホウ素化合物を3.1重量%、二酸化ケイ素を1~10重量%、シリコーン樹脂を1重量%未満、及び着色料を1重量%未満含有する。第四比較例及び第五比較例の粉末消火薬剤は、他社製品であり、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムは含有していない。また、第二実施例の粉末消火薬剤の成分は上記表1の通りである。
【0020】
下表4にナトリウム火災、下表5にリチウム火災、下表6にマグネシウム火災についての本消火実験の実験結果を示す。また、図2は本消火実験の実験結果を示す図であり、時間経過に伴う温度変化を示している。図2(a)はナトリウム火災、図2(b)はリチウム火災、図2(c)はマグネシウム火災に対するものである。
【表4】
【表5】
【表6】
【0021】
表5及び図2(b)に示すように、第二実施例の粉末消火薬剤は、リチウム火災に対して、第三から第五比較例の粉末消火薬剤よりも半分以下の時間で180℃まで温度降下させることができている。また、表4及び図2(a)に示すように、第二実施例の粉末消火薬剤は、ナトリウム火災に対しても、第三から第五比較例の粉末消火薬剤よりも早く100℃まで温度降下させることができている。また、表6及び図2(c)に示すように、第二実施例の粉末消火薬剤は、マグネシウム火災に対して、第四比較例の粉末消火薬剤よりも早く100℃まで温度降下させることができている。
よって、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを添加した粉末消火薬剤は、様々な金属種での火災に対して、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを添加していない粉末消火薬剤よりも消火時間を短縮できるといえる。特にリチウム火災に対しては顕著に消火時間短縮効果が得られる。
また、ナトリウム火災とマグネシウム火災に対しては、時間の差はあれどもどの例の粉末消火薬剤も消火できたが、リチウム火災に対しては、第三比較例の粉末消火薬剤は消火可能ではあるものの白煙の発生や温度上昇がみられ、第四及び第五比較例の粉末消火薬剤は燃焼面の露出がみられて消火合格とは言い難い結果であった。一方、第二実施例の粉末消火薬剤は、リチウム火災に対しても問題なく消火可能であった。
よって、硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウムを添加した粉末消火薬剤は、様々な金属種の火災に対応可能といえる。
図1
図2